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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】軌道回路におけるデジタル信号伝送方式
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/16 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
B61L23/16 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019135508
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021017198
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-08-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516327044
【氏名又は名称】奥谷 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100077539
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 義仁
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 民雄
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064565(JP,A)
【文献】特開平07-274517(JP,A)
【文献】特開平07-039005(JP,A)
【文献】特開平09-019161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/16
B60L 9/18
B60L 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上装置の側から軌道回路に制御用のデジタル符号信号を送信し、該軌道回路に送信された前記デジタル符号信号を車上装置の側で受信するデジタル信号伝送方式において、
前記デジタル符号信号を送信するために使用する伝送周波数帯域を、車両のモータ用PWM搬送周波数の偶数倍波成分を回避した周波数帯域から選択した周波数帯域に設定することを特徴とするデジタル信号伝送方式。
【請求項2】
前記デジタル符号信号を送信するための前記伝送周波数帯域を、車両の前記モータ用PWM搬送周波数の2倍波成分未満の周波数帯域から選択した周波数帯域に設定する、請求項1のデジタル信号伝送方式。
【請求項3】
前記デジタル符号信号を送信するための前記伝送周波数帯域を、車両の前記モータ用PWM搬送周波数の隣接する2つの偶数倍波成分の中間の周波数帯域から選択した周波数帯域に設定する、請求項1のデジタル信号伝送方式。
【請求項4】
前記デジタル符号信号の前記伝送周波数帯域は、前記車両に供給される電源交流周波数の3倍以上の帯域幅を持つ、請求項1乃至3のいずれかのデジタル信号伝送方式。
【請求項5】
前記デジタル符号信号の前記伝送周波数帯域は、10kHz未満の周波数領域に属する、請求項1乃至4のいずれかのデジタル信号伝送方式。
【請求項6】
前記デジタル符号信号の前記伝送周波数帯域は、車両の前記モータ用PWM搬送周波数の2倍波成分と4倍波成分の中間の周波数帯域から選択した周波数帯域、又は車両の前記モータ用PWM搬送周波数の4倍波成分と6倍波成分の中間の周波数帯域から選択した周波数帯域である、請求項2のデジタル信号伝送方式。
【請求項7】
隣接する2つの閉そく区間の軌道回路において、前記デジタル符号信号を送信するための前記伝送周波数帯域を、少なくとも部分的に異なる周波数帯域に設定することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかのデジタル信号伝送方式。
【請求項8】
少なくとも2つの軌道回路が平行して設けられている複線区間において、隣接して平行する2つの軌道回路に流す前記デジタル符号信号の前記伝送周波数帯域を、少なくとも部分的に異なる周波数帯域に設定することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかのデジタル信号伝送方式。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上と車上間の情報伝送を軌道回路を介してデジタル符号信号で行うデジタル信号伝送方式に関する。
【背景技術】
【0002】
列車に進路開通状況および先行列車の位置を考慮した停止限界位置の情報を与え、列車が現在の速度と停止限界位置までの距離をもとに速度制御を行う車上主体型の自動列車制御装置(ATC装置)が実用化されている(たとえば、下記特許文献1)。そのような車上主体型のシステムにおいては、各列車において車上データベースが設けられ、車上データベースには線区内の各区間における固定的な恒久速度制限情報や勾配情報などの素材情報を予め記憶・保持しておき、車上データベースに記憶された素材情報と、自己列車の走行位置、速度、加速度などの検出情報と、地上制御装置から送信される停止限界位置及び臨時速度制限などの保安制御情報とに基づき、車上制御装置が自己列車の保安速度パターンを算出し、実際の走行速度を保安速度パターンと比較し、走行速度が保安速度を超過しないように制御している。
【0003】
地上と車上間の情報伝送は符号化されたデジタル信号伝送により行われるようになっており、例えば軌道回路を用いたデジタル信号伝送方式が知られている。一般に、軌道回路を用いたデジタル信号伝送方式は、レールに流れる帰線雑音や電車が発する直達雑音等のノイズ問題により、大きな伝送データ容量を確保することが困難であった。特に帰線雑音については車両に供給される電源交流の奇数次高調波成分の影響が大きく、それを避けるために伝送周波数帯域を広げることができず、60bps程度の伝送データ容量しか確保することができなかった(ただし、具体的なbps数値はその伝送システムで採用するMSK,PSK等の変調方式に従う)。例えば、1000HZ未満の帯域は電源交流(例えば50Hz)のノイズレベルが大きいため、それを避けるためにデジタル符号信号の伝送周波数(信号搬送周波数)を1000Hz以上の電源交流の偶数次高調波周波数(例えば1500Hz)に設定し、かつ、電源交流の奇数次高調波を避けるために、伝送周波数帯域幅を該搬送周波数の±50Hz未満に設定するしかなかった。そうすると、デジタル符号信号の伝送周波数(信号搬送周波数)の変調幅は100Hz未満(例えば80Hz程度)となり、60bps程度の伝送データ容量しか確保することができない。従来は、地上制御装置から送信される保安速度パターン算出に関連する情報は、停止限界位置及び臨時速度制限などの保安制御情報のみであったため、60bps程度であっても足り、伝送データ容量の不足が問題とされることはなかった。しかし、より多くの制御情報を伝送し得るようにするためには、軌道回路を用いたデジタル信号伝送方式において伝送可能なデータ容量を増すことが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平7-29606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、軌道回路を用いたデジタル信号伝送技術において、伝送可能なデータ容量を増すことができるデジタル信号伝送方式を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、地上装置の側から軌道回路に制御用のデジタル符号信号を送信し、該軌道回路に送信された前記デジタル符号信号を車上装置の側で受信するデジタル信号伝送方式において、前記デジタル符号信号を送信するために使用する伝送周波数帯域を、車両のモータ用PWM搬送周波数の偶数倍波成分を回避した周波数帯域から選択した周波数帯域に設定することを特徴とする。
【0007】
伝送データ容量を増すためには、伝送周波数を上げ、かつ、伝送周波数帯域幅を広げればよい。しかし、本発明者の考察によると、交流電気車にあっては、1000Hz以上の周波数帯域では、車両のモータ用PWM搬送周波数の高調波成分が帰線雑音に含まれることが判り、この対策を講じなければ、従来技術以上に伝送周波数を上げることが困難であることが判明した。モータ用PWM搬送周波数には、電源交流電圧(例えば50Hz)を直流電圧に変換する回路で使用されるコンバータ用搬送周波数と、該直流電圧を利用してモータのPWM制御波形を生成する回路で使用されるインバータ用搬送周波数の2種類があり、前者の搬送周波数は500乃至1500Hz程度の比較的高い周波数であり、後者の搬送周波数は10乃至200Hz程度の比較的低い周波数である。低い方のPWM搬送周波数の高調波成分による帰線雑音は数百Hz乃至1000Hz以上の周波数帯域ではかなり減衰するので、数百Hz乃至1000Hz以上の周波数を伝送周波数(信号搬送周波数)として使用する場合は、無視できるものである。しかし、高い方のPWM搬送周波数の高調波成分による帰線雑音は1000Hz以上の周波数帯域で発生するので、1000Hz以上の周波数を伝送周波数(信号搬送周波数)として使用する場合は、無視できないものとなり、対策を講ずる必要がある。
【0008】
本発明者の更なる考察によると、コンバータ用搬送周波数の特に偶数倍波成分(偶数次高調波成分)が帰線雑音に大きく関与することが確かめられた。詳しくは、コンバータ用搬送周波数の偶数次高調波周波数の前後に電源交流周波数(例えば50Hz)の幅で複数の側帯波が発生することが確かめられた。以上を考慮して、本発明は、デジタル符号信号を送信するための伝送周波数帯域を、車両のモータ用PWM搬送周波数の偶数倍波成分を回避した周波数帯域から選択した周波数帯域に設定することを特徴としている。例えば、高い方のモータ用PWM搬送周波数(すなわちコンバータ用搬送周波数)を1450Hzとした場合、その2倍波成分の周波数(2次高調波周波数)は2900Hzであり、2900Hz未満の周波数帯域を候補周波数帯域として、該候補周波数帯域から選択した周波数帯域に伝送周波数帯域を設定する。そして、前記偶数次高調波周波数の前後の側帯波の部分を除外するために、該側帯波部分をマージンとして考慮して2600Hz未満の周波数帯域、を伝送周波数帯域として設定することが考えられる。例えば、この2600Hz未満の伝送周波数帯域を1000Hz乃至2600Hz程度の帯域とした場合、該伝送周波数帯域の帯域幅は略1600Hzとなり、960bps程度の伝送データ容量(従来の16倍)を実現することができる。あるいは、隣接する2つの偶数倍波成分(例えば2次高調波周波数2900Hz及び4次高調波周波数5800Hz)の間を候補周波数帯域として、該候補周波数帯域の中間の略2300Hzの帯域幅、例えば略3200Hz乃至5500Hzの周波数帯域、を伝送周波数帯域として設定することが考えられる。その場合、伝送周波数帯域の帯域幅は略2300Hzとなり、1300bps程度の伝送データ容量(従来の約22倍)を実現することができる。このように、本発明によれば、軌道回路を用いたデジタル信号伝送技術において、伝送可能なデータ容量を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例に係るデジタル信号伝送方式を実施する列車制御システムのブロック図。
図2】モータ用PWM搬送周波数が1450Hzの場合の帰線電流の周波数特性を例示する図。
図3】伝送周波数帯域の設定例を示す図。
図4】進行方向で隣接する若しくは並行して隣接する軌道回路の伝送周波数帯域を少なくとも部分的に異ならせるようにした設定例を示す図。
図5】個々の列車に搭載される車上装置の構成例を示すブロック図。
図6】地上装置の側から車上装置に対して伝送される情報(デジタル符号信号のデータセット)のデータ構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明の一実施例に係るデジタル信号伝送方式を実施する列車制御システムのブロック図である。図1において、列車1側の車上装置2と地上側の地上装置3との間の情報伝送が軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・を介して行われる。この列車制御システムが適用される鉄道線区の全域にわたって、列車1が走行するレール4a,4bを利用して複数の公知の軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・が連続的に形成される。図1は、一例として、軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・が複軌条式軌道回路からなる例を示しており、レール4a,4bにおいて各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の境界にレール絶縁5が設けられている。なお、列車1は交流電気車である。
【0011】
地上装置3は、中央制御装置31と、各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の両端に設けられた送信器32及び受信器33と、送信コントローラ34及び受信コントローラ35と、中央制御装置31と送信コントローラ34及び受信コントローラ35との間で情報を伝送するための伝送ライン36とを含む。当該鉄道線区の中央管理所に設置された中央制御装置31は、デジタル符号化された情報(デジタル符号信号)のパケットを、伝送ライン36を介して、遠隔の各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の送信コントローラ34に伝送する。各軌道回路RC1,RC2,・・・の送信コントローラ34は、伝送ライン36上の情報のパケットに付属する区間ID(軌道回路ID)に基づき、対応する軌道回路に対して与えられた情報を取り込み、該取り込んだ情報に応じたデジタル符号信号のパケットを所定の伝送周波数で変調して生成する。デジタル符号信号のパケットを所定の伝送周波数で変調した信号を、以下、デジタル伝送信号という。送信コントローラ34から生成されたデジタル伝送信号は、対応する送信器32に与えられる。送信器32は、該デジタル伝送信号を、前記対応する軌道回路(たとえばRC1)の一端にてレール4a,4bに供給する。軌道回路(たとえばRC1)に伝送されたデジタル伝送信号は、列車1が該軌道回路(たとえばRC1)を通過するとき、車上装置2によって受信される。受信されたデジタル伝送信号は、車上装置2によってデコードされ、該列車1の運転制御(速度及び/停止制御)に利用される。
【0012】
受信器33は、該対応する軌道回路(たとえばRC1)の他端にてレール4a,4b間に接続される。列車1が該軌道回路(たとえばRC1)の区間に在線していない場合は前記デジタル伝送信号が受信器33まで到達するが、在線している場合は、該列車1によって該軌道回路(たとえばRC1)が短絡されるので、該デジタル伝送信号は受信器33まで到達しない。受信コントローラ35は、受信器33を流れる信号電流の有無を検知し、該軌道回路(たとえばRC1)の区間における列車1の在線又は不在線を示す列車検出信号を生成する。各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の受信コントローラ35から出力される列車検出信号は伝送ライン36を介して中央制御装置31にフィードバックされる。なお、上記に限らず、在線検知専用の信号を送信器32から出力し、受信器33で該在線検知専用の信号を受信するように構成し、該該在線検知専用の信号が受信器33で受信しているか否かに応じて列車1の在線又は不在線を示す列車検出信号を生成するようにしてもよい。
【0013】
本実施例は、上記のように、地上装置3の側から軌道回路(たとえばRC1)に制御用のデジタル符号信号を送信し、該軌道回路(たとえばRC1)に送信された前記デジタル符号信号を車上装置2の側で受信するデジタル信号伝送方式に関連している。具体的には、前記デジタル符号信号を送信するための伝送周波数帯域を、列車1の車両のモータ用PWM搬送周波数の偶数倍波成分を回避した周波数帯域から選択した周波数帯域に設定することを特徴としている。さらに具体的には、送信コントローラ34において、前記デジタル符号信号のパケットを所定の伝送周波数で変調して生成する動作を行うときに、そのように設定された周波数帯域を伝送周波数帯域として用いて該デジタル符号信号のパケットを変調する。なお、このための変調方式は、MSK,FSK,PSK等適宜の変調方式を用いればよい。そして、車上装置2においては、受信した該伝送周波数帯域の信号を復調し、デジタル符号信号をデコードし、必要な列車制御情報を取得する。
【0014】
伝送周波数帯域の設定の仕方について、さらに具体的に述べる。伝送周波数帯域は、レール4a,4bに流れる帰線雑音を回避した周波数帯域である必要がある。第1の条件として、従来から知られているように、車両に供給される電源交流(例えば50Hz又は60Hzの商用周波数)に起因する帰線雑音は、奇数次高調波成分に現れるので、電源交流の奇数次高調波を回避した周波数帯域である必要がある。なお、電源交流の奇数次高調波成分は、略1000Hz以上の周波数領域では実害の無いレベルまで減衰するので、略1000Hz以上の周波数領域では該電源交流の奇数次高調波を回避することを考慮する必要はない。
【0015】
次に、第2の条件として、車両のモータ用PWM搬送周波数に起因する帰線雑音の周波数成分を回避した周波数帯域である必要がある。モータ用PWM搬送周波数には、電源交流電圧(例えば50Hz又は60Hz)を直流電圧に変換する回路で使用されるコンバータ用搬送周波数と、該直流電圧を利用してモータのPWM制御波形を生成する回路で使用されるインバータ用搬送周波数の2種類があり、前者の搬送周波数は500乃至1500Hz程度の比較的高い周波数であり、後者の搬送周波数は10乃至200Hz程度の比較的低い周波数である。一般に、これらのモータ用PWM搬送周波数は、PWM用のコンバータ及びインバータで使用する電子的スイッチング素子のタイプに応じて規定される。低い方のPWM搬送周波数の高調波成分による帰線雑音は数百Hz乃至1000Hz以上の周波数帯域ではかなり減衰するので、数百Hz乃至1000Hz以上の周波数を伝送周波数(信号搬送周波数)として使用する場合は、無視できるものである。しかし、高い方のPWM搬送周波数の高調波成分による帰線雑音は1000Hz以上の周波数帯域で発生するので、1000Hz以上の周波数を伝送周波数(信号搬送周波数)として使用する場合は、無視できないものとなり、対策を講ずる必要がある。
【0016】
本発明者の考察によると、前記コンバータ用搬送周波数の偶数倍波成分(偶数次高調波成分)が帰線雑音に大きく関与することが確かめられた。一例として、電源交流周波数を50Hzとして、高い方のモータ用PWM搬送周波数(すなわちコンバータ用搬送周波数)が1450Hzの場合の帰線電流の周波数特性をシミュレートした図を図2に示す。なお、図2においては、図示の簡略化のために、周波数特性を概略的なエンベロープによって示している。詳しくは、コンバータ用搬送周波数1450Hzの各偶数次高調波周波数2900Hz、5800Hz、8700Hz、・・・の前後に電源交流周波数50Hzの間隔で複数の側帯波が発生することが確かめられた。所定電流値(例えば略0.3アンペア程度)以上のこれらの周波数成分は帰線雑音をもたらすので、そのような帰線雑音をもたらす周波数帯域を回避して伝送周波数帯域を選定することにより、可及的に広い伝送周波数帯域を設定して、伝送データ量を増すことができる。なお、一般に、モータ用PWMコンバータ/インバータ(C/I)は1列車編成においては複数個設けられていることに鑑み、各C/Iにおける搬送周波数の位相をずらすことにより、合成された周波数特性における所定高次(例えば16次)未満の高調波成分を減衰させることで、モータ用PWM制御に起因する帰線雑音の影響が出ないようにする工夫がなされる。しかし、複数C/I中の一部のC/Iが故障した場合は、搬送周波数の位相バランスがくずれるので、合成された周波数特性においても図2に示すような偶数次高調波周波数2900Hz、5800Hz、8700Hz、・・・の前後の側帯波成分が発生し、帰線雑音の原因となる。したがって、保安・安全対策の完璧化のために、コンバータ用搬送周波数の偶数倍波成分に基づく帰線雑音を本質的に回避し得るような伝送方式を考案することが望まれる。
【0017】
以上を考慮して、本実施例においては、デジタル符号信号を送信するための伝送周波数帯域を、車両のモータ用PWM搬送周波数の偶数倍波成分を回避した周波数帯域から選択した周波数帯域に設定することを特徴としている。なお、本実施例において、「偶数倍波成分」とは、モータ用PWM搬送周波数の偶数次高調波周波数それ自体のみならず、該偶数次高調波周波数の前後に発生する複数の側帯波(電源交流周波数(例えば50Hz)間隔で発生する側帯波)をも含むものとする。次に、具体的な伝送周波数帯域の設定例について、図3及び図4を参照して説明する。
【0018】
図3(a)は、前記伝送周波数帯域を、車両のモータ用PWM搬送周波数(1450Hz)の2倍波成分未満の周波数帯域から選択した周波数帯域に設定する例を示す。モータ用PWM搬送周波数(すなわちコンバータ用搬送周波数)1450Hzの2倍波成分の周波数(2次高調波周波数)は2900Hzであり、略1000Hzよりも高く且つ2900Hz未満の周波数帯域を候補周波数帯域として、該候補周波数帯域から選択した周波数帯域に伝送周波数帯域を設定する。偶数次高調波周波数の前後の側帯波の部分を除外するために、一例として、片側の側帯波を回避するためのマージンを略300Hz程度に設定する。そうすると、略1000Hzよりも高く且つ2900Hz未満の候補周波数帯域の中間の略1000乃至2600Hz程度の周波数帯域、を伝送周波数帯域として設定することができる。その場合、伝送周波数帯域の帯域幅は略1600Hzとなり、略100Hz程度の伝送周波数帯域幅で60bps程度の伝送データ容量を実現していた従来例に比べて、略16倍の伝送データ容量(例えば960bps程度)を実現することができる。勿論、具体的な伝送データ容量は、伝送システムで採用するMSK,PSK等の変調方式に従って適宜増減する。なお、モータ用PWM搬送周波数(例えば1450Hz)の2倍波成分周波数(この例では2900Hz)未満の周波数帯域の下限値は、上記のような略1000Hzに限らず、略モータ用PWM搬送周波数(例えば1450Hz)であってもよいし、あるいは、略その下の電源交流偶数倍高調波周波数(例えば1400HZ)等であってもよい。
【0019】
図3(b)は、前記伝送周波数帯域を、車両のモータ用PWM搬送周波数(1450Hz)の隣接する2つの偶数倍波成分の中間の周波数帯域から選択した周波数帯域に設定する例を示し、具体的には2倍波(2900Hz)と4倍波(5800Hz)の中間に伝送周波数帯域を設定する例を示している。すなわち、側帯波回避マージンを略300Hz程度にそれぞれ設定したとすると、2次高調波周波数2900Hzよりも高く且つ4次高調波周波数5800Hz未満の候補周波数帯域の中間の略3200Hz乃至5500Hzの周波数帯域、を伝送周波数帯域として設定することができる。その場合、伝送周波数帯域の帯域幅は略2300Hzとなり、略100Hz程度の伝送周波数帯域幅で60bps程度の伝送データ容量を実現していた従来例に比べて、略22倍の伝送データ容量(例えば1300bps程度)を実現することができる。勿論、具体的な伝送データ容量は、伝送システムで採用するMSK,PSK等の変調方式に従って適宜増減する。
【0020】
図3(c)は、前記伝送周波数帯域を、車両のモータ用PWM搬送周波数(1450Hz)の隣接する2つの偶数倍波成分の中間の周波数帯域から選択した周波数帯域に設定する例を示し、具体的には4倍波(5800Hz)と6倍波(8700Hz)の中間に伝送周波数帯域を設定する例を示している。この場合も、上記と同様に、側帯波回避マージンを略300Hz程度にそれぞれ設定したとすると、4次高調波周波数5800Hzよりも高く且つ6次高調波周波数8700Hz未満の候補周波数帯域の中間の略6100Hz乃至8400Hzの周波数帯域、を伝送周波数帯域として設定することができる。その場合、伝送周波数帯域の帯域幅は略2300Hzとなり、略100Hz程度の伝送周波数帯域幅で60bps程度の伝送データ容量を実現していた従来例に比べて、略22倍の伝送データ容量(例えば1300bps程度)を実現することができる。勿論、具体的な伝送データ容量は、伝送システムで採用するMSK,PSK等の変調方式に従って適宜増減する。
【0021】
なお、信号伝送のために実際に使用する伝送周波数帯域は、図3を参照して説明した広い伝送周波数帯域のすべてを使用する必要がなく、要求される伝送データ容量に応じて適宜の限定された帯域を選定してよい。前述したように、従来技術によれば、伝送周波数帯域は、電源交流周波数(例えば50Hz)の2倍未満の帯域幅(例えば100Hz未満)しか持っていなかった。これに対して、本実施例によれば、伝送周波数帯域が電源交流周波数(例えば50Hz)の少なくとも3倍以上の帯域幅(例えば150Hz以上)を持つように改善することができる。なお、10kHz以上の周波数帯域は、軌道回路を構成するレールのインピーダンスが上がるので、伝送周波数帯域として使用するには適していない。したがって、伝送周波数帯域は、10kHz未満の周波数領域に属するものとされる。
【0022】
図4(a)は、進行方向において互いに隣接する2つの閉そく区間の軌道回路(例えば図1のRC1とRC2)において、前記伝送周波数帯域を異なる周波数帯域A,Bに設定する例を示す。この例では、実線で示すように、一方の軌道回路(例えばRC1)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域Aを略3200Hz乃至4200Hzの帯域に設定し、他方の軌道回路(例えばRC2)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域Bを略4500Hz乃至5500Hzの帯域に設定している。この設定例によれば、各伝送周波数帯域A,Bの帯域幅は略1000Hzとなり、略100Hz程度の伝送周波数帯域幅で60bps程度の伝送データ容量を実現していた従来例に比べて、略10倍の伝送データ容量(例えば600bps程度)を実現することができる。このように隣接する軌道回路においてそれぞれの伝送周波数帯域を異なる周波数帯域A,Bに設定することにより、絶縁不良あるいは誘導等に起因するクロストークが生じる可能性を確実に除去できる。
【0023】
なお、図4(a)において破線で示すように、隣接する軌道回路の各伝送周波数帯域A,Bをそれぞれ適宜に拡張し、部分的に重複する(逆に言えば、部分的に異なる)ようにしてもよい。図示例では、拡張された伝送周波数帯域Aは略3200Hz乃至5000Hzの帯域からなり、他方の拡張された伝送周波数帯域Bは略3700Hz乃至5500Hzの帯域からなる。この例によれば、各拡張された伝送周波数帯域A,Bの帯域幅はそれぞれ略1800Hzとなり、略100Hz程度の伝送周波数帯域幅で60bps程度の伝送データ容量を実現していた従来例に比べて、略18倍の伝送データ容量(例えば1000bps程度)を実現することができる。
【0024】
図4(b)は、少なくとも2つの軌道回路が平行して設けられている複線区間において、隣接して平行する2つの軌道回路に流す前記デジタル符号信号の前記伝送周波数帯域を互いに異ならせる例を示す。図4(b)において、伝送周波数帯域Uは、複線の一方の線路(例えば、上り)の軌道回路に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域を示し、伝送周波数帯域Dは、複線の他方の線路(例えば、下り)の軌道回路に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域を示す。各伝送周波数帯域U、Dの具体的な周波数設定例は、図4(a)に示した伝送周波数帯域A,Bの場合と同様である。また、破線で示すように、各伝送周波数帯域U,Dの帯域を拡張して互いに部分的に重複するように設定し得ることも、図4(a)の場合と同様である。このように隣接する線路(例えば、上りと下り)の軌道回路においてそれぞれの伝送周波数帯域を異なる周波数帯域U,Dに設定することにより、隣接する線路間の誘導等に起因するクロストークが生じる可能性を確実に除去でき、かつ、伝送周波数帯域幅を拡張して伝送データ量を増すことができる。
【0025】
図4(c)及び(d)は、2つの軌道回路が平行して設けられている複線区間において隣接して平行する2つの軌道回路に流す前記デジタル符号信号の伝送周波数帯域を少なくとも部分的に互いに異ならせると共に、進行方向において互いに隣接する2つの閉そく区間の軌道回路の伝送周波数帯域を少なくとも部分的に互いに異ならせるようにした例を示す。
【0026】
図4(c)においては、一方の線路(例えば上り)の1つの軌道回路(例えばRC1)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域UAを略3200Hz乃至3700Hzの帯域に設定し、他方の線路(例えば下り)の1つの軌道回路(例えばRC2)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域DBを略3800Hz乃至4300Hzの帯域に設定し、前記一方の線路(例えば上り)における隣接する軌道回路(例えばRC2)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域UBを略4400Hz乃至4900Hzの帯域に設定し、前記他方の線路(例えば下り)における隣接する軌道回路(例えばRC1)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域DAを略5000Hz乃至5500Hzの帯域に設定している。この設定例によれば、各伝送周波数帯域UA,UB,DA,DBの帯域幅は略500Hzとなり、略100Hz程度の伝送周波数帯域幅で60bps程度の伝送データ容量を実現していた従来例に比べて、略5倍の伝送データ容量(例えば300bps程度)を実現することができる。このように2つの軌道回路が平行して設けられている複線区間において隣接して平行する2つの軌道回路に流す前記デジタル符号信号の伝送周波数帯域を互いに異ならせると共に、進行方向において互いに隣接する2つの閉そく区間の軌道回路の伝送周波数帯域を互いに異ならせることにより、絶縁不良あるいは誘導等に起因するクロストークが生じる可能性を確実に除去できる。
【0027】
図4(d)においては、図4(c)に示した各伝送周波数帯域UA,DB,UB,DAをそれぞれ適宜に拡張し、部分的に重複する(逆に言えば、部分的に異なる)ように設定した例を示す。図示例では、一方の線路(例えば上り)の1つの軌道回路(例えばRC1)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域UAを略3200Hz乃至4000Hzの帯域に設定し、他方の線路(例えば下り)の1つの軌道回路(例えばRC2)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域DBを略3500Hz乃至4300Hzの帯域に設定し、前記一方の線路(例えば上り)における隣接する軌道回路(例えばRC2)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域UBを略4400Hz乃至5200Hzの帯域に設定し、前記他方の線路(例えば下り)における隣接する軌道回路(例えばRC1)に流すデジタル符号信号の伝送周波数帯域DAを略4700Hz乃至5500Hzの帯域に設定している。この設定例によれば、各伝送周波数帯域UA,UB,DA,DBの帯域幅は略800Hzとなり、略100Hz程度の伝送周波数帯域幅で60bps程度の伝送データ容量を実現していた従来例に比べて、略8倍の伝送データ容量(例えば480bps程度)を実現することができる。この場合も、絶縁不良あるいは誘導等に起因するクロストークが生じる可能性を確実に除去でき、かつ、伝送周波数帯域幅を拡張して伝送データ量を増すことができる。
【0028】
次に、図1に戻り、地上装置3側の中央制御装置31において生成する制御用のデジタル符号信号のコンテンツ例について説明する。例えば、中央制御装置31は、各制御対象に対応づけて、該制御対象を特定するID情報と、該ID情報により特定される制御対象に対応する固定的な恒久速度制限情報及び勾配情報と、該ID情報により特定される制御対象に対応する停止限界情報及び臨時速度制限情報等を内容とするデジタル符号信号のデータセットを生成し、伝送ライン36に送出する。原則的には、地上装置3による制御対象は、当該鉄道線区上で運行している個々の列車1であるが、図1に示すような軌道回路を利用したデジタル信号伝送方式を採用する場合、1軌道回路には1列車しか在線しないので、地上装置3による制御対象は各軌道回路を1単位とするものであり、前記ID情報は各軌道回路区間の区間IDであってよい。
【0029】
地上装置3の側において、各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の送信コントローラ34は、伝送ライン36を介して中央制御装置31から与えられる前記デジタル符号信号のデータセットを受信し、該デジタル符号信号のデータセット中の前記ID情報が自己の軌道回路区間IDを示すならば該データセットを取り込む。そして、送信コントローラ34は、該取り込んだデータセットのビット内容を含むデジタル符号化された伝送信号を、上述した本実施例に従って設定される広帯域幅を持つ伝送周波数帯域を使用して、MSK,FSK,PSK等適宜の変調方式にしたがって変調し、出力する。このように変調されたデジタル符号信号のデータセットは、送信器32を介して対応する軌道回路(レール4a,4b)に流される。
【0030】
図5は、個々の列車1に搭載される車上装置2の構成例を示すブロック図である。車上装置2は、レール4a,4bを流れる前記所定搬送周波数の伝送信号を受電器21により受信/検出し、該受信した伝送信号に含まれるデジタル符号をデコーダ22によりデコードし、こうして、前記中央制御装置31から当該IDを持つ制御対象(つまり当該軌道回路上の列車)に対して送られたデジタル符号信号のデータセット(以下、デジタルデータセットという)を取得する。さらに、車上装置2は走行速度パターン生成手段23を備える。走行速度パターン生成手段23は、デコーダ22から出力される前記デジタルデータセットに含まれる前記恒久速度制限情報、臨時速度制限情報、停止限界情報等に基づき、当該軌道回路の区間における列車1の安全な走行速度パターンを生成する。
【0031】
図6は、地上装置3の側から車上装置2に対して伝送される情報(デジタルデータセット)のデータ構成例を示す。項目の欄には、該デジタルデータセットに含まれる情報の項目を示し、データ内容の欄には、各項目に係る情報のデータ内容を示す。ID情報のデータ内容は、具体的なID値からなる。恒久速度制限情報のデータ内容は、任意数i(iは1以上の序数)の恒久速度制限情報を特定するデータからなる。すなわち、[(Vxi,Sxi),Lxi]と表記されたデータは、1つの(i番目の)恒久速度制限情報を特定するデータであり、Vxiは具体的な速度を示すデータ、Sxiは該速度Vxiの開始位置を示すデータ(線区軌道上の絶対位置で示す)、Lxiは該速度Vxiを持続する距離を示すデータ、である。序数iの最大値はたとえば10程度であり、その場合、1軌道回路の区間に関して、最大で10個の恒久速度制限情報を設定することができることになる。
【0032】
同様に、臨時速度制限情報のデータ内容は、任意数j(jは1以上の序数)の臨時速度制限情報を特定するデータからなる。すなわち、[(Vyj,Syj),Lyj]と表記されたデータは、1つの(j番目の)臨時速度制限情報を特定するデータであり、Vyjは具体的な速度を示すデータ、Syjは該速度Vyjの開始位置を示すデータ(線区軌道上の絶対位置で示す)、Lyjは該速度Vyjを持続する距離を示すデータ、である。序数jの最大値もたとえば10程度であり、その場合、1軌道回路の区間に関して、最大で10個の臨時速度制限情報を設定することができることになる。
【0033】
勾配情報のデータ内容は、任意数k(kは1以上の序数)の勾配情報を特定するデータからなる。すなわち、[(Gk,Sk),Lk]と表記されたデータは、1つの(k番目の)勾配情報を特定するデータであり、Gkは軌道の勾配の具体的な値を示すデータ、Skは該勾配Gkの開始位置を示すデータ(線区軌道上の絶対位置で示す)、Lkは該勾配Gkを持続する距離を示すデータ、である。序数kの最大値は、当該軌道回路の区間に存在する勾配の数に依存する。なお、公知のように、勾配情報は、車上装置2において列車1の走行位置(距離)を算出するときの換算変数として使用される。
【0034】
停止限界情報のデータ内容は、自己の列車1の直前を走行する他の列車に接近してよい線区軌道上の絶対位置を示すデータSaからなる。このデータSaの値は、当該鉄道線区における列車運行状況に応じて随時変動し得る。
【0035】
図6に例示したような制御用のデジタルデータセットのデータ容量はかなり大きなものとなるが、本実施例によれば、伝送データ容量をかなり大きくすることができるので、走行中の列車1の車上装置2に対して地上装置3の側から伝送することができる。
【0036】
図5に戻ると、列車1の車上装置2は、該列車1が或る軌道回路(例えばRC1)の始端を通過することに応じて該軌道回路(例えばRC1)のID情報を含む前記デジタルデータセットの受信を開始すると、該受信したデジタルデータセットに含まれる各種情報に基づき該軌道回路(例えばRC1)がカバーする1軌道区間における安全な走行速度パターンの作成を行うよう走行速度パターン生成手段23に対して指示する。走行速度パターン生成手段23は、この指示に応じて、該軌道回路(例えばRC1)がカバーする1軌道区間全体おける安全な走行速度パターンの作成を一気に行い、作成した安全な走行速度パターンを内部メモリ(図示せず)に一時記憶する。
【0037】
位置及び速度の判定手段24は、列車1の走行位置及び速度を判定するもので、例えば、列車1に設置した速度検出器により現在の走行速度を検出し、該検出した走行速度を積分することに基づき現在の走行位置を算出する。一例として、現在の走行位置を示す情報は、当該鉄道線区の軌道上の絶対位置(距離)を特定するものとする。その場合、各軌道回路のIDから当該軌道回路の始端の絶対位置(距離)が判明するので、走行速度の積分演算は1軌道回路内の相対位置を算出するものであればよく、該算出した相対位置を当該軌道回路の始端の絶対位置に加算することにより、自己の列車1の走行位置を当該鉄道線区の軌道上の絶対位置(距離)として特定する情報が得られる。
【0038】
走行速度(ブレーキ)制御手段25は、前記判定手段24により判定された走行位置及び速度と、前記走行速度パターン生成手段23により作成され前記内部メモリに一時記憶された前記安全な走行速度パターンとを比較照合して、安全な走行速度パターンを超過しないように該列車1の走行速度(及び/又はブレーキ)を制御する。この走行速度(ブレーキ)制御手段25の具体的構成は、公知の任意のものを採用してよい。例えば、列車1の走行速度を自動制御する又は自動停止させるやり方(すなわちATS)は勿論のこと、これに限らず、列車1の運転席パネルに安全な速度を指示/表示することで運転者に対して該安全速度で運転するよう手動操作を促すやり方等、任意のやり方を採用し得る。
【0039】
なお、軌道回路は、図1に示したような1軌道区間の全域にわたって軌道回路を設定する形態に限らず、特願2017-195349 号(発明の名称「列車制御システム」)出願に示されたような「短小軌道回路」を用いてもよい。「短小軌道回路」についての詳細説明は、この特願2017-195349 号(発明の名称「列車制御システム」)出願の明細書及び図面の記載を参照によって本出願に組み込むことで援用する。したがって、本発明のさらに別の実施例として、地上装置3と車上装置2との間の情報伝送を「短小軌道回路」を介して行う方式を採用してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 列車
2 車上装置
21 受電器
22 デコーダ
23 走行速度パターン生成手段
24 位置及び速度判定手段
25 走行速度(ブレーキ)制御手段
4a,4b レール
RC0,RC1,RC2,・・・ 軌道回路
3 地上装置
31 中央制御装置
32 送信器
33 受信器
34 送信コントローラ
35 受信コントローラ
36 伝送ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6