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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】モータ駆動装置及びモータ駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/40 20160101AFI20231128BHJP
   G01R 15/20 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
H02P29/40
G01R15/20 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019140460
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021027593
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】平山 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-222083(JP,A)
【文献】特開2003-291839(JP,A)
【文献】特開平11-83909(JP,A)
【文献】特開平5-227782(JP,A)
【文献】特開2003-289688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/40
G01R 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータへの駆動電流が指令電流になるようにフィードバック制御する電流制御部と、
磁性体のコアと磁気センサを有して前記駆動電流を検出する電流センサと、
前記電流センサの出力に基づく検出電流に対する推定駆動電流を、前記コアのヒステリシス特性の逆関数の特性であって、前記コアのヒステリシスループ及び該ヒステリシスループの複数のマイナーループに基づき構成される前記コアのヒステリシス特性上で連続的に推定し出力する駆動電流推定部
を備えるモータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動装置であって、
前記電流制御部は、
前記モータの前記駆動電流を交流で徐々に減少させて前記コアを消磁した後、前記フィードバック制御を開始する、モータ駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動装置であって、
さらに、前記コアを消磁したときの前記電流センサの出力に基づく前記検出電流を、初期オフセット電流として記憶する初期オフセット電流記憶部と、
前記推定駆動電流から前記初期オフセット電流を差し引いた信号をフィードバック信号として前記電流制御部へ出力するオフセット電流補正部を備える、モータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、
さらに、前記モータの駆動終了時に、前記電流センサの出力に基づく最後の前記検出電流を、終了時オフセット電流として記憶する終了時オフセット電流記憶部を備え、
前記駆動電流推定部は、
前記モータの駆動再開時に、前記終了時オフセット電流を、前記駆動電流を推定する前記コアのヒステリシス特性上の開始点とする、モータ駆動装置。
【請求項5】
モータへの駆動電流が指令電流となるようにフィードバック信号を生成して前記モータを駆動するモータ駆動方法であって、
磁性体のコアと磁気センサを有する電流センサにより前記駆動電流を検出する検出電流取得ステップと、
前記電流センサの出力に基づく検出電流に対する推定駆動電流を、前記コアのヒステリシス特性の逆関数の特性であって、前記コアのヒステリシスループ及び該ヒステリシスループの複数のマイナーループに基づき構成される前記コアのヒステリシス特性上で連続的に推定し出力する駆動電流推定ステップ
を備えるモータ駆動方法。
【請求項6】
モータへの駆動電流が指令電流となるようにフィードバック信号を生成して前記モータを駆動するモータ駆動方法であって、
磁性体のコアと磁気センサを有する電流センサにより前記駆動電流を検出する検出電流取得ステップと、
前記電流センサの出力に基づく検出電流に対する推定駆動電流を、前記コアのヒステリシス特性の逆関数の特性であって、前記コアのヒステリシスループ及び該ヒステリシスループの複数のマイナーループに基づき構成される前記コアのヒステリシス特性上で連続的に推定し出力する駆動電流推定ステップを備え、
前記フィードバック信号を生成するにあたり、前記モータへの前記駆動電流を交流で徐々に減少させて前記コアを消磁し、前記コアを消磁したときの前記電流センサの出力に基づく前記検出電流を、初期オフセット電流として記憶し、前記推定駆動電流から前記初期オフセット電流を差し引いた信号を前記フィードバック信号とする一方、
前記モータの駆動終了時に、前記電流センサの出力に基づく最後の前記検出電流を、終了時オフセット電流として記憶し、前記モータの駆動再開時に、前記終了時オフセット電流を、前記駆動電流を推定する前記コアの前記ヒステリシスループ上又は前記ヒステリシスループの複数の前記マイナーループ上の開始点とする、
モータ駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータに駆動電流を供給することで前記モータを駆動するモータ駆動装置及びモータ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、産業用ロボット内のモータを駆動するモータ駆動装置においては、駆動軸毎に設けられたモータの速度、トルク又は位置を指令して前記産業用ロボットを制御する(特許文献1の[0002])。
【0003】
このようなモータ駆動装置では、電力変換部(例えば、インバータ)からモータに供給される駆動電流を電流センサにより精度よく検出することが重要である。電流センサにより検出されたモータの駆動電流(検出電流)は、フィードバックされてモータ電流制御に用いられる。
【0004】
電流センサとして、例えば、環状の磁性体のコアを貫通させた導体に流れる駆動電流により発生する磁束を前記コアで集め、該コアに設けられたギャップ部分に配置されたホール素子等の磁気センサによって磁束を電圧に変換し測定する磁気センサ方式の電流センサがある。
【0005】
実際上、磁気センサ方式の電流センサでは、ホール素子等の磁気センサにより変換された小さな電圧を増幅器により、処理に適した電圧まで増幅して使用に供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-97264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記電流センサに用いられる磁性体としてのコアは、ヒステリシス特性を有する。このため、モータへ駆動電流を流してコアが磁化された状態から前記駆動電流を遮断してもコアの磁化が消えない。この残留磁気の影響及び前記増幅器のオフセット等の影響により、磁気センサ方式の電流センサでは、実際には駆動電流が流れていないときにも電圧が発生し、電流センサによる検出結果としていくらかの電流(オフセット電流)が流れているように見えてしまう。
【0008】
すなわち、磁気ヒステリシス等の影響で検出電流にオフセット電流(誤差)が現れてしまい、電流の検出精度を悪化させてしまう。
【0009】
この発明は、このような課題を考慮してなされたものであって、モータへ供給される駆動電流の検出精度を向上させ、正確な駆動電流によりモータを駆動制御することの可能なモータ駆動装置及びモータ駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の一態様に係るモータ駆動装置は、モータへの駆動電流が指令電流になるようにフィードバック制御する電流制御部と、磁性体のコアと磁気センサを有して前記駆動電流を検出する電流センサと、前記電流センサの出力に基づき、前記コアのヒステリシス特性上で前記駆動電流を連続的に推定し、推定駆動電流を出力する駆動電流推定部を備える。
【0011】
この発明の他の態様は、モータへの駆動電流が指令電流となるようにフィードバック信号を生成して前記モータを駆動するモータ駆動方法であって、磁性体のコアと磁気センサを有する電流センサにより前記駆動電流を検出する検出電流取得ステップと、前記電流センサの出力に基づき、前記コアのヒステリシス特性上で前記駆動電流を連続的に推定し、推定駆動電流を出力する駆動電流推定ステップを備える。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、モータへの駆動電流を、磁性体のコアと磁気センサを有する電流センサにより検出した出力に基づき、前記コアのヒステリシス特性上で、モータへの駆動電流を連続的に推定するようにしたので、前記駆動電流の検出精度が向上し、正確な駆動電流でモータを駆動制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係るモータ駆動装置を備えるモータ駆動システムの構成例を示す回路ブロック図である。
図2図2は、前記モータ駆動装置を構成する電流センサ説明用の回路ブロック図である。
図3図3は、ヒステリシス特性記憶部に予め記憶されている、コアのヒステリシス特性図である。
図4図4は、実施形態に係るモータ駆動装置及びモータ駆動方法の動作説明に供されるフローチャートである。
図5図5は、図4中、フィードバック制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
図6図6は、変形例に係るモータ駆動装置を備えるモータ駆動システムの構成を示す回路ブロック図である。
図7図7は、変形例に係るモータ駆動装置及びモータ駆動方法の動作説明に供されるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係るモータ駆動装置及びモータ駆動方法について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【0015】
[構成及び基本的な動作]
図1は、実施形態に係るモータ駆動方法を実施すると共に、実施形態に係るモータ駆動装置10を備えるモータ駆動システム12の構成例を示す回路ブロック図である。
【0016】
このモータ駆動システム12は、基本的には、ACサーボモータ等のモータ14を駆動するモータ駆動装置10と、このモータ駆動装置10に電力を供給する電源部16と、モータ駆動装置10を指揮・命令する指令部20とから構成される。
【0017】
指令部20は、電源部16をON・OFFして、電源部16からモータ駆動装置10への電力の供給・遮断を切り替えると共に、モータ駆動装置10に指令電流(デジタル信号)Icomを供給する。
【0018】
モータ駆動装置10は、電力変換部としてのインバータ部22と、一端がインバータ部22に接続され他端がモータ14に接続される導体24と、導体24に流れる駆動電流(アナログ電流)Idを検出し、検出電圧(アナログ電圧)Vtとして出力する電流センサ26と、電圧・電流変換部27と、初期オフセット電流記憶部30を有する。
【0019】
電流センサ26による検出電圧Vtは、電圧・電流変換部27により検出電流(デジタル信号)Itに変換される。電圧・電流変換部27は、電流センサ26が消磁されたとき、該消磁されたときの検出電流Itを初期オフセット電流Ioffとして初期オフセット電流記憶部30に記憶する。
【0020】
インバータ部22は、電源部16から供給される電力の直流電圧(アナログ電圧)を交流の駆動電流(アナログ電流)Idに変換し、導体24を通じてモータ14に供給する。
【0021】
モータ駆動装置10は、さらに、ヒステリシス特性記憶部28mを有する駆動電流推定部28を備える。
【0022】
駆動電流推定部28は、ヒステリシス特性記憶部28mに記憶されているヒステリシス特性150を参照して、導体24に流れている駆動電流Idを前記検出電流Itから「連続的に」推定し、推定駆動電流Id*(デジタル信号)として出力する。なお、「連続的に」とは、モータ駆動装置10を構成する複数のCPUが同期してフィードバック制御を繰り返し実行する際の例えばms(ミリ秒)オーダーの所定周期毎にという意味である。
【0023】
モータ駆動装置10は、さらに、オフセット電流補正部32と電流制御部34を備える。
【0024】
オフセット電流補正部32は、駆動電流推定部28から入力される推定駆動電流Id*を初期オフセット電流記憶部30から読み出した初期オフセット電流Ioffにより補正してフィードバック信号(デジタル信号)Ifを生成し電流制御部34に出力する。
【0025】
電流制御部34は、フィードバック信号Ifと指令部20から供給されている指令電流Icomとに基づき、インバータ部22からモータ14に供給される駆動電流Idが指令電流Icomとなるような駆動信号(PWM信号等のスイッチング信号)をインバータ部22のスイッチング素子のドライブ回路に供給してフィードバック制御を行う。フィードバック制御中、電流制御部34は、指令電流Icomに応じて電源部16からインバータ部22に印加される直流電圧を必要に応じて設定(可変)する。
【0026】
インバータ部22は、前記スイッチング素子が、例えばHブリッジ型に接続された3相のフルブリッジ回路と、該フルブリッジ回路の各スイッチング素子のゲート電圧信号あるいはベース駆動信号を生成するための前記ドライブ回路とから構成される。なお、スイッチング素子としては、FET、IGBT、トランジスタの他、サイリスタ等を利用することができる。
【0027】
[電流センサ26の説明]
図2は、電流センサ26の模式的な詳細構成を示すと共に動作を説明するための回路ブロック図である。
【0028】
電流センサ26は、磁性体からなる環状のコア(磁気コア)40、コア40のギャップに挿入配置されたホール素子等の磁気センサ42、及び入力側が磁気センサ42に接続され、出力側が電圧・電流変換部27に接続されるオペアンプ44とから構成される。
【0029】
コア40は、導体24に流れる駆動電流Idに応じて発生した磁束をコア40内の一方向に及びこの一方向と逆方向に交互に環流させる。この場合、磁束の大きさ(磁束密度)Bは、磁界の大きさHに比例する駆動電流Idの大きさに応じて、コア40の材料及び形状で決定されるHB(磁界の強さ、磁束密度)軸上のヒステリシス特性(非線形である磁気ヒステリシス特性)50に基づき決定される。
【0030】
そして、コア40を環流している磁束が、ホール素子等の磁気センサ42を通過することで、磁気センサ42の出力側に特性(線形の特性)52で示す磁束の大きさ(磁束密度)Bに比例する微小のホール電圧Vhが現れ、オペアンプ44に供給される。
【0031】
オペアンプ44は、特性(線形の特性)54、54´に応じてホール電圧Vhを増幅した検出電圧Vtを出力として電圧・電流変換部27に供給する。オペアンプ44の特性54は、誤差電圧であるオフセット電圧Voffを持つ線形の特性を示し、特性54´は、オフセット電圧Voffがゼロ値のときの特性を示す。
【0032】
実際上、図2に示すオペアンプ44(電流センサ26)の出力端子に現れる特性54で示しているオフセット電圧Voffには、オペアンプ44自身のオフセット電圧の他に、特性52で示すホール電圧Vhに含まれるオフセット等、コア40の磁気ヒステリシス特性に基づくオフセット以外の電流センサ26が発生する全てのオフセットが含まれる。
【0033】
電圧・電流変換部27は、A/D変換器と、線形の電圧・電流変換特性56を備える。A/D変換器は、アナログ信号の検出電圧Vtをデジタル信号の検出電圧Vtに変換する。電圧・電流変換部27は、デジタル信号の検出電圧Vtを電圧・電流変換特性56に基づきホール電圧Vhに比例した検出電流(デジタル信号)Itに変換する。
【0034】
図2のコア40のヒステリシス特性50に示すように、コア40に環流する磁束の密度B(駆動電流Idとコア40のヒステリシス特性50で定まる物理量)から、該磁束密度Bに比例して発生する磁気センサ42の出力電圧であるホール電圧Vhを経由してオペアンプ44の出力電圧である検出電圧Vtまでの信号伝達特性は既知の線形特性になる。よって、電圧・電流変換部27に設定される電圧・電流変換特性56は、検出電流Itからホール電圧Vhまで逆に戻る既知の線形の特性になる。
【0035】
したがって、変数値としての検出電流Itは、駆動電流Idを、コア40の非線形の関数である磁気ヒステリシス特性50を通じて変換した関数値に比例することが分かる。
【0036】
[駆動電流推定部28の説明]
駆動電流推定部28は、コア40を貫通する導体24を流れる駆動電流Idの変化に応じて時々刻々と連続的に変化している検出電流Itから次に説明するヒステリシス特性150を用いて駆動電流Idの値を連続的に(リアルタイムに)推定し、推定駆動電流Id*として出力する。
【0037】
図3は、駆動電流推定部28のヒステリシス特性記憶部28mに予め記憶されているコア40のヒステリシス特性150を示す。
【0038】
該ヒステリシス特性150の横軸は、ホール電圧Vh(磁束密度B)に比例する検出電流Itである。縦軸は、コア40内部を通じる磁束による磁界の大きさHに比例する(換言すれば、コア40を貫通して流れる駆動電流Idに比例する)推定駆動電流Id*である。
【0039】
ヒステリシス特性150は、図2に示したコア40のヒステリシス特性50の逆関数の特性であり、図2に示したヒステリシス特性50から直線B=Hの線対称の特性として求められる。逆関数の特性であるという意味からヒステリシス特性150は、ヒステリシス特性50の逆ヒステリシス特性といってもよい。
【0040】
この場合、ヒステリシス特性150は、飽和磁気(飽和磁束密度)Bsと残留磁気Brと保持力Hc(図2のヒステリシス特性50も参照)とを含んで規定されるループ(ヒステリシスループ又はメジャーループという。)JLと、ヒステリシスループ(メジャーループ)JL内に囲繞される2以上の多数のループ(飽和磁束密度Bsが無いマイナーループ)NLと、から構成される。ヒステリシス特性150は、コア40に対してBH曲線を測定する要領で予め測定し、予めヒステリシス特性記憶部28mに記憶しておく。
【0041】
駆動電流推定部28は、ヒステリシス特性150を参照して、電流センサ26の検出電流Itから連続的(リアルタイム)に推定駆動電流Id*を生成して出力する。
【0042】
[初期オフセット電流記憶部30の説明]
初期オフセット電流Ioffは、電流制御部34でモータ14へ供給される駆動電流Idを、交流の大きな電流値から徐々にゼロ値まで減少(減衰振動)させてコア40を消磁させたときの検出電流Itである。
【0043】
すなわち、初期オフセット電流Ioffは、コア40の消磁時(消磁直後)の検出電流It(指令電流Icomがゼロ値となったときの駆動電流Idの検出電流It)の値であり、初期オフセット電流記憶部30に記憶(更新記憶、上書き記憶)される。初期オフセット電流Ioffは、コア40の磁気ヒステリシスによるオフセット誤差を消磁により除去して残った電流センサ26の誤差分に相当する。
【0044】
[動作]
基本的には以上のように構成される実施形態に係るモータ駆動装置10を備えるモータ駆動システム12の動作について、図4図5のフローチャートを参照して以下に説明する。なお、フローチャートに係るプログラムの実行主体は、指令部20のCPU又はモータ駆動装置10を構成する電流制御部34のCPU等である。
【0045】
ステップS1にて、指令部20は、モータ駆動装置10に対する駆動制御指令がOFF状態からON状態に遷移したか否かを検出する。
【0046】
遷移したことを検出する(ステップS1:YES)と、ステップS2にて、指令部20は、電源部16からモータ駆動装置10に対して電力の供給を開始させる。
【0047】
次いで、ステップS3にて、次のステップS4で説明するフィードバック制御の開始前の始動時に、初期オフセット電流Ioffを取得し、初期オフセット電流記憶部30に記憶する。
【0048】
この場合、電流制御部34は、インバータ部22を通じて、指令電流Icomに対応する減衰振動電流(初期値は大きな値、終了値はゼロ値を採る交流電流)の駆動電流Idがコア40を貫通する導体24中を流れるように制御する。
【0049】
そして、電圧・電流変換部27は、駆動電流Idが減衰振動してId=0値となった時点(コア40が消磁された時点)の検出電流Itを初期オフセット電流Ioffとして取得し、取得した初期オフセット電流Ioffを初期オフセット電流記憶部30に記憶する。この初期オフセット電流Ioffは、オペアンプ44を含む電流センサ26のオフセット電圧Voffを相殺するための補償電流である。
【0050】
[電流フィードバック制御の説明]
次いで、ステップS4にて、指令部20は、予め自身の記憶部あるいは他の連携装置(不図示)の記憶部に記憶されているモータ14の速度指令、トルク指令及び/又は位置指令に応じたプロファイルを担持した指令電流Icomを読み出して電流制御部34に供給する(図5の指令電流供給ステップS4a)。
【0051】
図5は、ステップS4のフィードバック制御を詳細に説明するサブルーチンである。この場合、電流制御部34は、前記した所定周期毎に、指令電流Icomに応じたモータ14への駆動電流Idをインバータ部22から導体24を通じてモータ14に供給する(指令電流Icomに基づく駆動電流Idの供給ステップS4a)。次いで、電圧・電流変換部27は、電流センサ26が駆動電流Idから連続的に検出している出力である検出電圧Vtを検出電流Itに変換して駆動電流推定部28に出力する(検出電流取得ステップS4b)。
【0052】
次に、駆動電流推定部28は、入力されている検出電流Itから、図3に示すコア40のヒステリシス特性150上で駆動電流Idを連続的に推定し、推定駆動電流Id*としてオフセット電流補正部32に出力する(駆動電流推定ステップS4c)。
【0053】
この場合、オフセット電流補正部32は、入力された推定駆動電流Id*から初期オフセット電流記憶部30から読み出した初期オフセット電流Ioff(図3の横軸上の値)を差し引いた(相殺した)次の(1)式に示すフィードバック電流としてのフィードバック信号Ifを連続的に生成して電流制御部34に供給する(オフセット補正ステップS4d)。
If=Id*-Ioff …(1)
【0054】
最後に、電流制御部34は、指令電流Icomとフィードバック信号(フィードバック電流)Ifとの偏差(Icom-If)がゼロ値となるようにインバータ部22及び/又は電源部16を連続的に制御する(フィードバック制御ステップS4e)。
【0055】
以上のようにしてステップS4(S4a~S4e)のフィードバック制御が、ステップS5にて指令電流Icomによる制御が終了する(ステップS5:YES)まで継続実行される。
【0056】
制御終了時に、指令部20は待機状態に入り、ステップS6にて、モータ駆動装置10に対する駆動制御指令のON状態からOFF状態への遷移を検出した(ステップS6:YES)とき、ステップS7にて、指令部20は、電源部16からモータ駆動装置10への電力の供給を遮断し、処理を終了する。
【0057】
[変形例]
上記実施形態は、以下のような変形も可能である。
【0058】
なお、以下に参照する図面において、上記図1図4に示したものと対応する部分には同一の符号を付け、重複した説明を省略する。
【0059】
図6は、変形例に係るモータ駆動方法を実施する変形例に係るモータ駆動装置10Aを備えるモータ駆動システム12Aの構成を示す回路ブロック図である。
【0060】
図7は、変形例に係るモータ駆動装置10Aを備えるモータ駆動システム12Aの動作説明に供されるフローチャートである。
【0061】
図6に示す変形例に係るモータ駆動装置10Aでは、図1に示した実施形態に係るモータ駆動装置10に対し、駆動電流推定部28により読み書き制御される終了時オフセット電流記憶部36を余分に設けている。
【0062】
終了時オフセット電流記憶部36には、終了時オフセット電流Ieoffが記憶される。
【0063】
終了時オフセット電流Ieoffは、図7に示すように、ステップS5Aにて、ステップS4のフィードバック制御の終了時であるモータ14への駆動電流Idの供給の終了時における電流センサ26の出力(検出電圧Vt)に基づき電圧・電流変換部27により変換された最後の検出電流Itが記憶される。
【0064】
この場合、ステップS3にて処理をした場合の終了時オフセット電流Ieoffの座標点(It,0)は、図3に示したヒステリシス特性150において、次の(2)式に示すように表すことができる。
(It,Id*)=(It,0)=(最後の検出電流It,0)
=(Ieoff,0) …(2)
【0065】
ステップS5Aにて終了時オフセット電流Ieoffを取得している場合には、次のステップS4でのフィードバック制御処理時、詳しくは、ステップS6でOFF状態に遷移していない(ステップS6:NO)ときのモータ14の駆動再開時あるいはステップS1からのモータ14の駆動再開時には、仮に、ステップS3での消磁処理で、初期オフセット電流Ioffの取得処理が実行されていなかったときでも、駆動電流推定部28は、終了時オフセット電流記憶部36から終了時オフセット電流Ieoffを読み出して、図3に示すコア40のヒステリシス特性150上の推定駆動電流Id*の開始点{初期位置:(Ieoff,0)}とする。この場合、オフセット電流補正部32は、次の(3)式に示す、終了時オフセット電流Ieoffが開始点とされた推定駆動電流Id*をフィードバック信号(フィードバック電流)Ifとして連続的に生成して電流制御部34に供給する。
If=Id* …(3)
【0066】
これにより、電流制御部34は、指令電流Icomとフィードバック信号(フィードバック電流)Ifとの偏差がゼロ値となるようにインバータ部22及び/又は電源部16を連続的に制御するフィードバック制御を継続することができる。
【0067】
[実施形態及び変形例から把握し得る発明]
ここで、上記実施形態及び変形例から把握し得る発明について、以下に記載する。なお、理解の便宜のために構成要素には上記実施形態及び変形例で用いた符号をかっこ書きで付けているが、該構成要素は、その符号を付けたものに限定されない。
【0068】
この発明に係るモータ駆動装置10、10Aは、モータ14への駆動電流Idが指令電流Icomになるようにフィードバック制御する電流制御部34と、磁性体のコア40と磁気センサ42を有して前記駆動電流Idを検出する電流センサ26と、前記電流センサ26の出力に基づき、前記コア40のヒステリシス特性150上で前記駆動電流Idを連続的に推定し、推定駆動電流Id*を出力する駆動電流推定部28を備える。
【0069】
これによれば、モータ14への駆動電流Idを、磁性体のコア40と磁気センサ42を有する電流センサ26により検出した出力に基づき、コア40のヒステリシス特性150上で、モータ14への駆動電流Idを連続的に推定するようにしたので、駆動電流Idの検出精度が向上し、正確な駆動電流Idでモータ14を駆動制御することができる。この結果、モータ14を、指令部20からの例えば、速度指令、トルク指令及び/又は位置指令に従うように精度よく駆動制御することができる。
【0070】
この場合、前記ヒステリシス特性150は、前記電流センサ26の出力に基づく検出電流It(変数)に対する前記推定駆動電流Id*(関数)の特性であって、前記コア40のヒステリシスループJL及び該ヒステリシスループJLの複数のマイナーループNLに基づき構成されている。
【0071】
これによれば、コア40のヒステリシス特性50に応じたヒステリシス特性150を予め測定して取得し、ヒステリシス特性記憶部28mに記憶しておくことで、以降、該コア40を備える電流センサ26の検出電流Itに基づき、正確な駆動電流Idでモータ14を駆動制御することができる。
【0072】
また、前記電流制御部34は、前記モータ14の前記駆動電流Idを交流で徐々に減少させて前記コア40を消磁した後、前記フィードバック制御を開始することが好ましい。
【0073】
これによれば、コア40の残留磁気を原因とする誤差のない正確な駆動電流Idによりモータ14を駆動制御(フィードバック制御)することが可能になる。
【0074】
さらに、前記コア40を消磁したときの前記電流センサ26の出力に基づく前記検出電流Itを、初期オフセット電流Ioffとして記憶する初期オフセット電流記憶部30と、前記推定駆動電流Id*から前記初期オフセット電流Ioffを差し引いた信号をフィードバック信号Ifとして前記電流制御部34へ出力するオフセット電流補正部32を備えるようにすることがより好ましい。
【0075】
これによれば、電流センサ26の残留磁気を原因とする誤差以外の誤差(オペアンプ44のオフセット電圧Voff等)を駆動電流Idから除去(相殺)することができ、一層正確な駆動電流Idでモータ14を駆動制御することができる。
【0076】
さらに、前記モータ14の駆動終了時に、前記電流センサ26の出力に基づく最後の検出電流Itを、終了時オフセット電流Ieoffとして記憶する終了時オフセット電流記憶部36を備え、前記駆動電流推定部28は、前記モータ14の駆動再開時に、前記終了時オフセット電流Ieoffを、前記駆動電流Idを推定するための前記コア40のヒステリシス特性150上の開始点とするようにしてもよい。
【0077】
これによれば、初期オフセット電流記憶部30を備えない場合、コア40を消磁しなかった場合であっても、コア40の残留磁気による検出電流Itの誤差及びコア40の残留磁気による前記誤差以外の電流センサ26の誤差を相殺した正確な駆動電流Idによりモータ14を駆動制御することができる。なお、この場合においても、初期オフセット電流記憶部30を備えてコア40を消磁した後、モータ14を駆動制御することで、コア40の磁気飽和を原因とする漏洩磁束が少なくなりより好ましい。
【0078】
この発明に係るモータ駆動方法は、モータ14への駆動電流Idが指令電流Icomとなるようにフィードバック信号Ifを生成して前記モータ14を駆動するモータ駆動方法であって、磁性体のコア40と磁気センサ42を有する電流センサ26により前記駆動電流Idを検出する検出電流取得ステップS4bと、前記電流センサ26の出力に基づき、前記コア40のヒステリシス特性150上で前記駆動電流Idを連続的に推定し、推定駆動電流Id*を出力する駆動電流推定ステップS4cを備える。
【0079】
これによれば、モータ14への駆動電流Idを、磁性体のコア40と磁気センサ42を有する電流センサ26により検出した出力に基づき、コア40のヒステリシス特性150上で、モータ14への駆動電流Idを連続的に推定するようにしたので、駆動電流Idの検出精度が向上し、正確な駆動電流Idでモータ14を駆動制御することができる。この結果、モータ14を、指令部20からの例えば、速度指令、トルク指令及び/又は位置指令に従うように精度よく駆動制御することができる。
【0080】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0081】
10、10A…モータ駆動装置 12、12A…モータ駆動システム
14…モータ 16…電源部
20…指令部 22…インバータ部
24…導体 26…電流センサ
27…電圧・電流変換部 28…駆動電流推定部
28m…ヒステリシス特性記憶部 30…初期オフセット電流記憶部
32…オフセット電流補正部 34…電流制御部
36…終了時オフセット電流記憶部 40…コア
42…磁気センサ 44…オペアンプ
50、150…ヒステリシス特性 Icom…指令電流
Id…駆動電流 Id*…推定駆動電流
Ioff…初期オフセット電流 Ieoff…終了時オフセット電流
If…フィードバック信号 It…検出電流
JL…メジャーループ(ヒステリシスループ)
NL…マイナーループ Vh…ホール電圧
Voff…オフセット電圧 Vt…検出電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7