(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】光学機器
(51)【国際特許分類】
G02B 7/04 20210101AFI20231128BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20231128BHJP
H02N 2/04 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G02B7/04 E
G02B7/04 D
G02B7/02 D
G02B7/02 H
H02N2/04
(21)【出願番号】P 2019153359
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】塩野 雅人
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-209492(JP,A)
【文献】特開2002-107601(JP,A)
【文献】特開2007-127926(JP,A)
【文献】国際公開第2010/047182(WO,A1)
【文献】特開2012-063543(JP,A)
【文献】特開2017-049308(JP,A)
【文献】特開2006-187114(JP,A)
【文献】中国実用新案第206282018(CN,U)
【文献】韓国登録特許第10-1048047(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/04
G02B 7/02
H02N 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波モータを保持する保持部材と、
前記超音波モータの駆動により光軸方向に進退可能な第1の鏡筒と、
前記第1の鏡筒に対して被写体側に配置される第2の鏡筒と、
前記第1の鏡筒に対して像側に配置される第3の鏡筒と、
前記保持部材に設けられた開口形状を介して、前記超音波モータと前記第1の鏡筒を連結する連結部材と、を有し、
前記第1の鏡筒の前記光軸方向における一端側には、溝形状が形成され、
前記光軸に直交する方向から見て、前記第1の鏡筒の前記光軸方向における他端側は、前記第1の鏡筒の駆動範囲において、前記第
2の鏡
筒と常に重なり合い、前記一端側の前記溝形状の少なくとも一部は、前記開口形状の端部よりも常に外側に存在することを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記第1の鏡筒の前記一端側は、前記第3の鏡筒の側であり、
前記第
1の鏡筒の前記他端側は、前記第2の鏡筒の側であることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記第1の鏡筒の前記駆動範囲において、前記光軸に直交する方向から見て、前記他端側は前記開口形状の範囲内にあり、
前記一端側の前記溝形状は、
前記第1の鏡筒が前記第2の鏡筒の側に繰り出されているときには、前記開口形状の範囲内にあり、
前記第1の鏡筒が前記第3の鏡筒の側に繰り込まれているときには、前記開口形状の範囲内にないことを特徴とする請求項2に記載の光学機器。
【請求項4】
前記第1の鏡筒が保持する光学素子の外径は、前記第3の鏡筒が保持する光学素子の外径より小さいことを特徴とする請求項2または3に記載の光学機器。
【請求項5】
前記第1の鏡筒は、前記溝形状に向かってすり鉢状の外径形状を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光学機器。
【請求項6】
シート部材を更に有し、
前記溝形状は、前記第1の鏡筒と前記シート部材によって形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の光学機器。
【請求項7】
前記シート部材は、内径で光線の有効径を決めるマスクであることを特徴とする請求項6に記載の光学機器。
【請求項8】
前記超音波モータは、超音波振動する振動子と、前記振動子と摩擦接触する摩擦部材とを備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の光学機器。
【請求項9】
前記第2の鏡筒および前記第3の鏡筒は、前記保持部材に対して固定されていることを特徴とす
る請求項1から8のいずれか一項に記載の光学機器。
【請求項10】
前記第1の鏡筒を前記光軸方向における直進駆動をガイドするためのガイド部材を更に有し、
前記ガイド部材の一端および他端は、前記第2の鏡筒および前記第3の鏡筒にそれぞれ挿入されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の光学機器。
【請求項11】
前記光学機器は、レンズ鏡筒であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラ、ビデオカメラおよび交換レンズ等の光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ、ビデオカメラおよび交換レンズ等の光学機器には、オートフォーカスするためのアクチュエータとして超音波モータが搭載されることがある。超音波モータは可動部と固定部から構成される。超音波モータは、可動部の構成要素である振動子と固定部の構成要素である摩擦部材との間で摩擦接触させながら駆動するため、駆動に際して摩耗粉が発生する。この摩耗粉が光学素子に付着すると、撮影画像に悪影響を与える可能性があった。
【0003】
特許文献1には、摩耗粉対策を講じた交換レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のレンズ鏡筒では、摩耗粉対策のために専用の部品を配置している。しかしながら、摩耗粉対策のために専用の部品を配置することは部品追加によるレンズ鏡筒の大型化やコストアップなど新たな課題が生じる。
【0006】
本発明は、摩耗粉対策専用の部品を追加することなく、超音波モータによって生じる摩耗粉が光学素子に到達することを防止する摩耗粉対策を実現する光学機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光学機器は、超音波モータを保持する保持部材と、前記超音波モータの駆動により光軸方向に進退可能な第1の鏡筒と、前記第1の鏡筒に対して被写体側に配置される第2の鏡筒と、前記第1の鏡筒に対して像側に配置される第3の鏡筒と、前記保持部材に設けられた開口形状を介して、前記超音波モータと前記第1の鏡筒を連結する連結部材と、を有し、前記第1の鏡筒の前記光軸方向における一端側には、溝形状が形成され、前記光軸に直交する方向から見て、前記第1の鏡筒の前記光軸方向における他端側は、前記第1の鏡筒の駆動範囲において、前記第2の鏡筒と常に重なり合い、前記一端側の前記溝形状の少なくとも一部は、前記開口形状の端部よりも常に外側に存在することを特徴とする。
【0008】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施形態において説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、専用の部品を追加することなく、超音波モータから生じる摩耗粉の光学素子への到達を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の実施例1における超音波モータの側面断面図
【
図3】本発明の実施例1におけるレンズ鏡筒の要部分解斜視図
【
図4】本発明の実施例1におけるレンズ鏡筒の要部断面図(繰り出し状態)
【
図5】本発明の実施例1におけるレンズ鏡筒の要部断面図(繰り込み状態)
【
図6】本発明の実施例2におけるレンズ鏡筒の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。各図面を通して同一符号は、同一または対応部分を示すものである。尚、本発明は本実施例の構成のみに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の実施例である交換レンズ(光学機器)10が装着されたデジタルカメラ20(以下、カメラ本体という)の光軸10aを含むXY平面上の断面図である。交換レンズ10はカメラ本体20に着脱可能である。
【0013】
交換レンズ10は、レンズマウントを介して、カメラ本体20に設けられたカメラマウントに機械的および電気的に接続される。交換レンズ10内には、被写体からの光を結像させて被写体像を形成する撮像光学系が収容されている。カメラ本体20内に設けられる撮像素子21は交換レンズ10内の撮像光学系によって形成された被写体像を光電変換して撮像信号を出力する。
【0014】
図2は、本発明の実施例における超音波モータ200の機構を表す側面断面図である。振動体101は、基材102に対して溶接や公知の接着剤などにより固定される。
【0015】
振動体101には圧電素子103が公知の接着剤などにより固着されており、振動体101、基材102、および圧電素子103で振動子100を形成する。圧電素子103は高周波電圧が印加されると、振動体101が共振を起こすように設定されている。すなわち振動子100は、高周波駆動電圧が印加されることで超音波振動を起こすように構成されている。その結果、振動子100に形成された突起部100aの先端が楕円振動を起こす。
【0016】
圧電素子103に印加する高周波電圧の周波数や位相を変えることで、振動子100の突起部100aに生じる楕円振動の回転方向や楕円比が適宜変化する。これにより、所望の動きを発生させることができる。よって、振動子100を相手部品である摩擦部材104の摩擦接触面に圧接させることにより、相対的に移動させる駆動力を発生させ、振動子100自身を摩擦部材104に対して、振動子100と摩擦部材104の相対移動方向(以下、X軸方向という)に進退させることが可能となる。
【0017】
本実施例において、振動子100は可動部105を構成する構成要素の一部である。また、摩擦部材104は固定部106を構成する構成要素の一部である。このように、超音波モータ200は、振動子100を含む可動部105と摩擦部材104を含む固定部106とで構成される。
【0018】
超音波モータ200は、振動子100と摩擦部材104との間で摩擦接触しながら駆動するため、微小に摩耗粉が発生する。ここで生じる摩耗粉が、後述する光学素子に到達すると撮影画像に悪影響を与える可能性がある。そこで、摩耗粉を光学素子に到達させないための機構が必要となる。
【0019】
図3は、本発明の実施例における交換レンズ10の一部を構成する要部分解斜視図である。第1の鏡筒201は、第1の光学素子211を熱カシメや接着など公知の技術によって保持している。第2の鏡筒202は、第2の光学素子212を熱カシメや接着など公知の技術によって保持している。第2の鏡筒202は、X軸方向において第1の鏡筒201よりも被写体側に配置される。第3の鏡筒203は、第3の光学素子213を熱カシメや接着など公知の技術によって保持している。第3の鏡筒203は、X軸方向において第1の鏡筒201よりも撮像素子21側(像側)に配置される。超音波モータ200は、保持部材204によって保持される。
【0020】
連結部材205は、保持部材204に設けられた開口形状204aを通過して、超音波モータ200の可動部205と第1の鏡筒201を連結する。これによって、超音波モータ200の可動部205が光軸方向に駆動する際に、連結部材205を介して第1の鏡筒201に駆動力が伝達し、第1の鏡筒201は、光軸方向に進退可能に駆動することができる。ガイド部材206は、第1の鏡筒201を光軸方向に駆動する際の直進駆動をガイドし、光軸10aと略平行に配置される。
【0021】
第2の鏡筒202、第3の鏡筒203は、それぞれ保持部材204にねじ止めなどの公知の技術によって固定される。このとき、第1の鏡筒201が保持したガイド部材206の一端を第2の鏡筒202に挿入し、他端を第3の鏡筒203に挿入するようにしながら、第2の鏡筒202、第3の鏡筒203をそれぞれ保持部材204にねじ止めする。このような構成を取れば、第1の鏡筒201は、第2の鏡筒202と第3の鏡筒203と保持部材204によって閉じられた空間内を、ガイド部材206に沿って直進ガイドされることになる。すなわち、連結部材205によって超音波モータ200と連結された第1の鏡筒201は、超音波モータ200の駆動によって、連結部材205を介して駆動力を伝達される。第1の鏡筒201は駆動の際にガイド部材206によって直進ガイドされるため、X軸方向に安定して第1の鏡筒201を駆動することが可能となる。
【0022】
前述した超音波モータ200の駆動の際に振動子100の先端突起部100aと摩擦部材104とが摩擦接触するため、振動子100と摩擦部材104との間で摩耗粉が発生する。保持部材204には連結部材205を配置するための開口形状204aが設けられているため、超音波モータ200で生じた摩耗粉は開口形状204aを通過して光学素子211~213に到達する可能性がある。
【0023】
図4は、本発明の実施例における第1の鏡筒201が光軸方向に駆動する際の繰り出し状態を表す要部側面断面図である。
図5は、本発明の実施例における第1の鏡筒201が光軸方向に駆動する際の繰り込み状態を表す要部側面断面図である。ここでいう繰り出し状態とは、第1の鏡筒201が最も被写体側に動いた状態である。すなわち、第1の鏡筒201が、第1の鏡筒201よりも被写体側にある第2の鏡筒202に最も近づいた状態を示している。繰り込み状態とは、第1の鏡筒201が最も撮像素子21側に動いた状態である。すなわち、第1の鏡筒201が、第1の鏡筒201よりも撮像素子21側にある第3の鏡筒203側に最も近づいた状態を示している。
【0024】
第1の鏡筒201の外周部には溝形状201aが形成される。また、第1の鏡筒201の外周形状は、溝形状201aに向かってすり鉢状にすぼまる形状を備えている。溝形状201aはX軸方向において第3の鏡筒203側の一端側に形成される。また、第1の鏡筒201は第1の鏡筒201の他端側(第2の鏡筒202側)において、光軸10aに直交する方向から見て第2の鏡筒202と重なり合うように配置される。本実施例において、第1の鏡筒201は、その他端側において、第1の鏡筒201の繰り出し状態、繰り込み状態のいずれにおいても、第2の鏡筒202と光軸10aに直交する方向から見て重なり合うように配置される。つまり、第1の鏡筒201の他端側は、第1の鏡筒201の駆動範囲において、光軸10aに直交する方向から見て第2の鏡筒202と常に重なりあう。
【0025】
第1の鏡筒201の繰り出し状態においては、第1の鏡筒201と第2の鏡筒202が光軸10aに直交する方向から見て重なり合うとともに、溝形状201aが開口形状204aの範囲内に配置される。このとき、溝形状201aの少なくとも一部は必ず開口形状204aの端部よりも外側(撮像素子21側)に配置されるようにする。こうすることで、第1の鏡筒201が最大限被写体側へ動いた際にも開口形状204aから光学素子211~213までの経路上に第1の鏡筒201の外周部、または溝形状201aが存在することになる。ここで、第1の鏡筒201の外周部に設けたすり鉢形状によって、第1の鏡筒201の外周部に落ちてきた摩耗粉は溝形状201aに導かれやすくなる。これによって超音波モータ200で発生した摩耗粉が光学素子211~213に到達することを防止できる。
【0026】
本実施例において溝形状201aは、第1の鏡筒201よりも撮像素子21側に配置される第3の鏡筒203側に配置され、光軸10aに直交する方向から見て重なる領域を第1の鏡筒201よりも被写体側に配置される第2の鏡筒202との間で実現する構成として説明した。本実施例において説明した構成は、レンズ鏡筒10におけるフォーカスユニットを担うレンズユニットであって、リアフォーカスタイプの光学系として配置されている。そのため、第3の鏡筒が保持する第3の光学素子213が、第1の鏡筒が保持するフォーカスレンズ211よりも外径が大きくなることが多い。したがって、溝形状201aを第3の鏡筒203側に配置し、光軸10aに直交する方向から見て重なり合う構成を第2の鏡筒202側に配置した。
【0027】
なお、溝形状201aを第1の鏡筒201よりも被写体側に配置される第2の鏡筒202側に配置し、光軸10aに直交する方向から見て重なる領域を第1の鏡筒201よりも撮像素子21側に配置される第2の鏡筒203との間で実現する構成としてもよい。
【実施例2】
【0028】
図6は、実施例2におけるレンズ鏡筒の要部側面断面図である。実施例2における第1の鏡筒501は、実施例1で説明した第1の鏡筒201の形状を変更したものである。内径で光線の有効径を決めるシート部材(マスク)507は、接着剤などの公知の技術によって第1の鏡筒501に接着固定されている。第1の鏡筒501の外径形状とシート部材507の外径形状とで溝形状501aが形成される。すなわち、実施例1において第1の鏡筒201に備えた溝形状201aと同様の役割の溝形状が形成されている。このように、光学素子211を保持する第1の鏡筒501と、光線の有効径を決めるシート部材507という、それぞれ別の役割を担う複数の必須部品によって、摩耗粉対策を担う溝形状501aを形成しても良い。実施例2は、超音波モータ200で発生した摩耗粉の光学素子211~213への到達を防ぐ溝形状を第1の鏡筒501とシート部材507とで構成した変形例である。
【0029】
以上、説明したとおり、上記各実施例は、摩耗粉対策専用の部品を追加することなく、超音波モータ200で発生した摩耗粉の光学素子211~213への到達を防止する構成を実現することができる。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0031】
201 第1の鏡筒
202 第2の鏡筒
203 第3の鏡筒
204 保持部材