(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】眼科システム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
A61B3/10
(21)【出願番号】P 2019176438
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 浩樹
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-079495(JP,A)
【文献】特開2018-206239(JP,A)
【文献】特開2014-083095(JP,A)
【文献】特表2004-534569(JP,A)
【文献】特開2004-261515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科装置とサーバとを備える眼科システムにおいて、
前記眼科装置が、
被検眼のカラーの前眼部像を取得する前眼部像取得部と、
前記前眼部像内の前記被検眼の虹彩に対応する領域を虹彩領域とした場合に、前記虹彩領域内において前記虹彩の色を識別不能な識別不能領域を検出する領域検出部と、
前記前眼部像及び前記領域検出部の検出結果を、前記虹彩領域の色に基づき被検者の人種を推定する推定部へ出力する出力部と、
前記前眼部像を前記サーバへ出力する前眼部像出力部と、
を備え、
前記領域検出部の検出結果に基づき、前記虹彩領域の中で前記識別不能領域とは異なる識別可能領域を用いて前記識別不能領域を補間処理する補間部が、前記眼科装置又は前記サーバに設けられており、
前記推定部が、前記眼科装置又は前記サーバに設けられており、前記補間部により前記補間処理された前記虹彩領域に基づき、前記被検者の人種を推定し、
前記前眼部像取得部が、前記被検眼を互いに異なる方向から撮影する複数のカメラから前記前眼部像を取得し、
前記補間部が、前記複数のカメラの中の第1カメラにより撮影された前記前眼部像内の前記識別可能領域に基づき、前記複数のカメラの中の前記第1カメラとは異なる第2カメラにより撮影された前記前眼部像の前記識別不能領域を補間処理する眼科システム。
【請求項2】
眼科装置とサーバとを備える眼科システムにおいて、
前記眼科装置が、
被検眼のカラーの前眼部像を取得する前眼部像取得部と、
前記前眼部像内の前記被検眼の虹彩に対応する領域を虹彩領域とした場合に、前記虹彩領域内において前記虹彩の色を識別不能な識別不能領域を検出する領域検出部と、
前記前眼部像及び前記領域検出部の検出結果を、前記虹彩領域の色に基づき被検者の人種を推定する推定部へ出力する出力部と、
前記前眼部像を前記サーバへ出力する前眼部像出力部と、
を備え、
前記前眼部像内の前記被検眼の瞳孔に対応する領域を瞳孔領域とした場合に、前眼部像取得部により取得された前記前眼部像内の前記虹彩領域及び前記瞳孔領域を画像処理して、前記瞳孔領域の瞳孔径を予め定められた大きさに補正する瞳孔径補正部が、前記眼科装置又は前記サーバに設けられている眼科システム。
【請求項3】
前記推定部が、前記サーバに設けられており、前記領域検出部の検出結果に基づき、前記虹彩領域内の前記識別不能領域とは異なる識別可能領域から、前記被検者の人種を推定する請求項
2に記載の眼科システム。
【請求項4】
前記領域検出部の検出結果に基づき、前記虹彩領域の中で前記識別不能領域とは異なる識別可能領域を用いて前記識別不能領域を補間処理する補間部が、前記眼科装置又は前記サーバに設けられており、
前記推定部が、前記眼科装置又は前記サーバに設けられており、前記補間部により前記補間処理された前記虹彩領域に基づき、前記被検者の人種を推定する請求項
2に記載の眼科システム。
【請求項5】
前記前眼部像取得部が、前記被検眼を互いに異なる方向から撮影する複数のカメラから前記前眼部像を取得し、
前記補間部が、前記複数のカメラの中の第1カメラにより撮影された前記前眼部像内の前記識別可能領域に基づき、前記複数のカメラの中の前記第1カメラとは異なる第2カメラにより撮影された前記前眼部像の前記識別不能領域を補間処理する請求項
4に記載の眼科システム。
【請求項6】
前記サーバが、前記前眼部像と前記推定部の推定結果とを関連付けてデータベースに記憶させる請求項1、
3から
5のいずれか1項に記載の眼科システム。
【請求項7】
前記眼科装置に、前記被検眼の眼特性を取得する眼特性取得部と、前記眼特性取得部が取得した前記眼特性をサーバへ出力する眼特性出力部と、が設けられており、
前記サーバが、前記前眼部像及び前記眼特性と、前記推定部の推定結果とを関連付けてデータベースに記憶させる請求項
6に記載の眼科システム。
【請求項8】
前眼部像取得部により取得された前記前眼部像の色を、予め定められた標準光源による前記被検眼の照明下で前眼部像取得部により取得される前記前眼部像の色に色補正する色補正部が、前記眼科装置又は前記サーバに設けられている請求項
1から
7のいずれか1項に記載の眼科システム。
【請求項9】
対物レンズと、
前記対物レンズの光軸に沿って前記被検眼の眼底に対して可視光を照射して前記被検眼の瞳孔を縮小させる可視光照射部を備え、
前記前眼部像取得部が、前記可視光照射部により前記可視光が照射されている前記被検眼の前記前眼部像を取得する
請求項1から8のいずれか1項に記載の眼科システム。
【請求項10】
前記領域検出部が、前記虹彩領域の中で前記虹彩とは異なる像が映っている領域を前記識別不能領域として検出する請求項1
から7のいずれか1項に記載の
眼科システム。
【請求項11】
前記領域検出部が、前記虹彩領域の中で睫毛又は外乱光が映っている領域を前記識別不能領域として検出する請求項
10に記載の
眼科システム。
【請求項12】
前記被検眼の眼特性を取得する眼特性取得部と、
前記眼特性取得部が取得した前記眼特性を
前記サーバへ出力する眼特性出力部と、
を備える請求項1から
11のいずれか1項に記載の
眼科システム。
【請求項13】
前記推定部を備え、
前記推定部が、前記領域検出部の検出結果に基づき、前記虹彩領域内の前記識別不能領域とは異なる識別可能領域から、前記被検者の人種を推定する請求項1から
12のいずれか1項に記載の
眼科システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の前眼部像を取得する眼科装置、眼科システム、及び眼科装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼の各部の状態(形状、厚み、血流量、及び色素量など)は人種ごとに異なっており、眼の各部における疾患の発生確率についても人種ごとに異なることが知られている(特許文献1から特許文献4参照)。このため、眼科等で取得される被検眼の前眼部像及び被検眼の眼特性(例えば眼底撮影像及び眼底断層像など)と、被検者の人種に関する情報とを関連付けてデータベースに蓄積しておくことで、人種ごとの前眼部像及び眼特性の傾向分析を行ったり、人種ごとに眼の疾患を予測したりすることができる。
【0003】
被検者の人種に関する情報は、作業効率性の観点から自動的に推定することが好ましい。ここで、人種ごとに眼の虹彩に含まれるメラニン色素の量が異なるため、人種に応じて眼の虹彩の色(色分布)も様々であり、人種と虹彩の色との間にはある程度の関係が存在する(特許文献5参照)。このため、眼科において、被検眼の前眼部像を取得してこの前眼部像に映っている虹彩の色(色分布)から被検者の人種を推定することで、上述のデータベースの作成が容易になり、その結果、上述の傾向分析及び疾患の予測が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5559570号公報
【文献】特許4426032号公報
【文献】特許6062793号公報
【文献】平6-125876号公報
【文献】特開2017-38162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前眼部像を撮影する際に虹彩が睫毛によりケラレたり或いは虹彩に外乱光が照射されていたりすると、前眼部像の虹彩に対応する虹彩領域内に睫毛又は外乱光の像が映り込んだ領域、すなわち虹彩の色を識別不能な領域が発生してしまう。この場合には、前眼部像の虹彩領域から虹彩の色(色分布)を精度良く検出することができないので、被検者の人種の推定精度が低下してしまう。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、被検者の人種の推定に適した前眼部像が得られる眼科装置、眼科システム、及び眼科装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するための眼科装置は、被検眼のカラーの前眼部像を取得する前眼部像取得部と、前眼部像内の被検眼の虹彩に対応する領域を虹彩領域とした場合に、虹彩領域内において虹彩の色を識別不能な識別不能領域を検出する領域検出部と、前眼部像及び領域検出部の検出結果を、虹彩領域の色に基づき被検者の人種を推定する推定部へ出力する出力部と、を備える。
【0008】
この眼科装置によれば、推定部が虹彩領域内の識別不能領域以外の領域に基づき、被検者の人種を推定することができる。
【0009】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、被検眼に対して可視光を照射して被検眼の瞳孔を縮小させる可視光照射部を備え、前眼部像取得部が、可視光照射部により可視光が照射されている被検眼の前眼部像を取得する。これにより、推定部による被検者の人種の推定に用いられる前眼部像の内の虹彩領域を拡大させることができるので、推定部による人種の推定処理の精度を高めることができる。
【0010】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、領域検出部が、虹彩領域の中で虹彩とは異なる像が映っている領域を識別不能領域として検出する。これにより、推定部が虹彩領域内の識別不能領域以外の領域に基づき、被検者の人種を推定することができる。
【0011】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、領域検出部が、虹彩領域の中で睫毛又は外乱光が映っている領域を識別不能領域として検出する。これにより、推定部が虹彩領域内の識別不能領域以外の領域に基づき、被検者の人種を推定することができる。
【0012】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、被検眼の眼特性を取得する眼特性取得部と、眼特性取得部が取得した眼特性をサーバへ出力する眼特性出力部と、を備える。これにより、被検者の人種推定用の前眼部像の他に、被検眼の眼特性を取得することができる。
【0013】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、推定部を備え、推定部が、領域検出部の検出結果に基づき、虹彩領域内の識別不能領域とは異なる識別可能領域から、被検者の人種を推定する。これにより、眼科装置単体で被検者の人種を推定することができる。
【0014】
本発明の目的を達成するための眼科システムは、上述の眼科装置と、眼科装置に設けられ、前眼部像をサーバへ出力する前眼部像出力部と、サーバと、を備える。この眼科システムによれば、推定部が虹彩領域内の識別不能領域以外の領域に基づき、被検者の人種を推定することができる。
【0015】
本発明の他の態様に係る眼科システムにおいて、推定部が、サーバに設けられており、領域検出部の検出結果に基づき、虹彩領域内の識別不能領域とは異なる識別可能領域から、被検者の人種を推定する。これにより、サーバにおいて被検者の人種を推定することができる。
【0016】
本発明の他の態様に係る眼科システムにおいて、領域検出部の検出結果に基づき、虹彩領域の中で識別不能領域とは異なる識別可能領域を用いて識別不能領域を補間処理する補間部が、眼科装置又はサーバに設けられており、推定部が、眼科装置又はサーバに設けられており、補間部により補間処理された虹彩領域に基づき、被検者の人種を推定する。これにより、推定部が虹彩領域の全領域に基づき被検者の人種の推定を行うことができるので、推定部による人種の推定処理の精度を高めることができる。
【0017】
本発明の他の態様に係る眼科システムにおいて、前眼部像取得部が、被検眼を互いに異なる方向から撮影する複数のカメラから前眼部像を取得し、補間部が、複数のカメラの中の第1カメラにより撮影された前眼部像内の識別可能領域に基づき、複数のカメラの中の第1カメラとは異なる第2カメラにより撮影された前眼部像の識別不能領域を補間処理する。これにより、推定部が虹彩領域の全領域に基づき被検者の人種の推定を行うことができる。
【0018】
本発明の他の態様に係る眼科システムにおいて、サーバが、前眼部像と推定部の推定結果とを関連付けてデータベースに記憶させる。これにより、データベースを人種ごとの眼の各種研究に利用することができる。
【0019】
本発明の他の態様に係る眼科システムにおいて、眼科装置に、被検眼の眼特性を取得する眼特性取得部と、眼特性取得部が取得した眼特性をサーバへ出力する眼特性出力部と、が設けられており、サーバが、前眼部像及び眼特性と、推定部の推定結果とを関連付けてデータベースに記憶させる。これにより、データベースを人種ごとの眼の各種研究に利用することができる。
【0020】
本発明の他の態様に係る眼科システムにおいて、前眼部像取得部により取得された前眼部像の色を、予め定められた標準光源による被検眼の照明下で前眼部像取得部により取得される前眼部像の色に色補正する色補正部が、眼科装置又はサーバに設けられている。これにより、前眼部像を、あたかも同一光源(標準光源)による照明下で撮影されたかのように色補正することができる。
【0021】
本発明の他の態様に係る眼科システムにおいて、前眼部像内の被検眼の瞳孔に対応する領域を瞳孔領域とした場合に、前眼部像取得部により取得された前眼部像内の虹彩領域及び瞳孔領域を画像処理して、瞳孔領域の瞳孔径を予め定められた大きさに補正する瞳孔径補正部が、眼科装置又はサーバに設けられている。これにより、前眼部像内の瞳孔領域の瞳孔径を予め定められた大きさに補正することができる。
【0022】
本発明の目的を達成するための眼科装置の制御方法は、被検眼のカラーの前眼部像を取得する前眼部像取得ステップと、前眼部像内の被検眼の虹彩に対応する領域を虹彩領域とした場合に、虹彩領域内において虹彩の色を識別不能な識別不能領域を検出する領域検出ステップと、前眼部像及び領域検出ステップの検出結果を、虹彩領域の色に基づき被検者の人種を推定する推定部へ出力する出力ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、被検者の人種の推定に適した前眼部像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】第1実施形態の眼科装置の演算制御ユニット及びサーバの制御部の機能ブロック図である。
【
図4】視標表示部による被検眼への白色光の照射前及び照射中にそれぞれステレオカメラにより取得される前眼部像を示した説明図である。
【
図5】虹彩領域解析部による虹彩領域内のNG領域の検出を説明するための説明図である。
【
図6】虹彩領域解析部による虹彩領域内のNG領域の検出を説明するための説明図である。
【
図7】色補正部による色補正処理を説明するための説明図である。
【
図8】瞳孔径補正部による補正処理を説明するための説明図である。
【
図9】第1実施形態の眼科システムによる被検眼の眼特性取得処理の流れ、特に本発明の眼科装置の制御方法に係る人種推定用の前眼部像の取得及びデータベースへの蓄積の流れを示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態の眼科システムを構成する眼科装置及びサーバのブロック図である。
【
図11】補間部によるNG領域の補間処理の第1例を説明するための説明図である。
【
図12】補間部によるNG領域の補間処理の第2例を説明するための説明図である。
【
図13】第2実施形態の眼科システムによる被検眼の眼特性取得処理の流れ、特に本発明の眼科装置の制御方法に係る人種推定用の前眼部像の取得及びデータベースへの蓄積の流れを示すフローチャートである。
【
図14】第2実施形態の眼科システムの変形例のブロック図である。
【
図15】第3実施形態の眼科システムを構成する眼科装置及びサーバのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態の眼科システム]
図1は、第1実施形態の眼科システム9の概略図である。
図1に示すように、眼科システム9は、複数(単数でも可)の眼科装置10と、サーバ11と、データベース12と、を備える。
【0026】
眼科装置10は、被検眼E(
図2参照)の眼特性を取得(測定、撮影、及び観察等)する。本実施形態の眼科装置10は、眼底カメラと、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:OCT)を用いて断層像であるOCT画像16を得る光干渉断層計と、を組み合わせた複合機である。
【0027】
眼科装置10は、被検眼Eの前眼部Ea(
図2参照)をステレオ撮影して前眼部像14(前眼部観察像ともいう)を取得すると共に、被検眼Eの眼特性としてその眼底Ef(
図2参照)の眼底撮影像15及びOCT画像16を取得する。そして、眼科装置10は、前眼部像14と、被検眼Eの眼特性の取得結果である眼底撮影像15及びOCT画像16と、をサーバ11へ出力する。また、眼科装置10は、被検者の固有識別情報である患者ID(identification)等のID情報17を各画像14~16と共にサーバ11へ出力する。
【0028】
サーバ11は、眼科装置10から入力された各画像14~16及びID情報17をデータベース12に記憶させる。また、サーバ11は、眼科装置10から入力された前眼部像14に基づき被検者の人種を推定する推定処理を行い、その推定処理の結果を示す人種情報18を各画像14~16及びID情報17に関連付けてデータベース12に記憶させる。なお、ここでいう「人種」とは、現生人類を骨格、皮膚、及び毛髪などの形質的特徴により区分したものである。また、本明細書における「人種」には、人種的又は地域的起源が同一(略同一を含む)である人の集団を示す「民族」も含まれるものとする。
【0029】
データベース12は、サーバ11から入力される各画像14~16及び人種情報18を蓄積する。なお、データベース12がサーバ11の内部に構築されていてもよい。
【0030】
[眼科装置の構成]
図2は、眼科装置10の構成の一例を示す概略図である。なお、図中のX方向は被検者を基準とした左右方向(被検眼Eの眼幅方向)であり、Y方向は上下方向であり、Z方向は被検者(被検眼E)に近づく前方向と被検者から遠ざかる後方向とに平行な前後方向(作動距離方向ともいう)である。
【0031】
図2に示すように、眼科装置10は、眼底カメラユニット10a、OCTユニット10b、ステレオカメラ20、及び演算制御ユニット22等を備える。なお、図中の符号OAは対物レンズ43の光軸である。
【0032】
眼底カメラユニット10aは、従来の眼底カメラとほぼ同様の光学系を有しており、対物レンズ43を通して、被検眼Eの前眼部Ea及び眼底Efの各種観察像を取得(撮影)すると共に、被検眼Eの眼特性として眼底Efの眼底撮影像15を取得する。また、OCTユニット10bは、対物レンズ43及び眼底カメラユニット10aの一部の光学系を通して、被検眼Eの眼特性として眼底EfのOCT画像16を取得する。このため、眼底カメラユニット10a及びOCTユニット10bは、本発明の眼特性取得部として機能する。
【0033】
演算制御ユニット22は、眼科装置10の筐体内に収容されており、各種の演算処理及び制御処理等を実行するパーソナルコンピュータ等の演算処理装置である。
【0034】
<眼底カメラユニット>
眼底カメラユニット10aは、照明光学系30及び撮像光学系50を備える。
【0035】
照明光学系30は、眼底Efに対して照明光を照射する。撮像光学系50は、眼底Efで反射された照明光の眼底反射光を、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型又はCCD(Charge Coupled Device)型の撮像素子57,60に導く。また、撮像光学系50は、OCT光学系80(OCTユニット10b)から出力された信号光を眼底Efに導くと共に、眼底Efを経由した信号光をOCT光学系80に導く。
【0036】
照明光学系30は、観察光源31、反射ミラー32、集光レンズ33、可視カットフィルタ34、撮影光源35、ミラー36、リレーレンズ37,38、絞り39、リレーレンズ40、孔開きミラー41、ダイクロイックミラー42、及び対物レンズ43等を備える。
【0037】
撮像光学系50は、既述の対物レンズ43、ダイクロイックミラー42、及び孔開きミラー41の他に、合焦レンズ51、ミラー52、ハーフミラー53、視標表示部54、ダイクロイックミラー55、集光レンズ56、撮像素子57、ミラー58、集光レンズ59、及び撮像素子60等を備える。
【0038】
観察光源31は、例えばハロゲンランプ又はLED(light emitting diode)等が用いられ、観察照明光を出射する。観察光源31から出射された観察照明光は、反射ミラー32により反射され、集光レンズ33を経由して可視カットフィルタ34を透過することにより近赤外光となる。可視カットフィルタ34を透過した観察照明光は、撮影光源35の近傍にて一旦集束し、ミラー36により反射され、リレーレンズ37,38、絞り39、及びリレーレンズ40を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー41の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射された後、ダイクロイックミラー42を透過し、さらに対物レンズ43により屈折されて眼底Efを照明する。
【0039】
観察照明光の眼底反射光は、対物レンズ43により屈折され、ダイクロイックミラー42、孔開きミラー41の中心領域に形成された孔部、及び合焦レンズ51を経由した後、ミラー52により反射される。さらに、この眼底反射光は、ハーフミラー53を透過した後、ダイクロイックミラー55により反射されることで、集光レンズ56により撮像素子57の受光面に結像される。撮像素子57は、眼底反射光を撮像(受光)して撮像信号を後述の演算制御ユニット22へ出力する。演算制御ユニット22は、撮像素子57から出力された撮像信号に基づく観察像をモニタ23に表示させる。なお、撮像光学系50のピントが被検眼Eの前眼部Eaに調整されている場合には前眼部Eaの観察画像がモニタ23に表示され、撮像光学系50のピントが眼底Efに調整されている場合には眼底Efの観察像がモニタ23に表示される。
【0040】
撮影光源35は、例えばキセノンランプ又はLED光源等が用いられ、撮影照明光を出射する。撮影光源35から出射された撮影照明光は、既述の観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。撮影照明光の眼底反射光は、観察照明光の眼底反射光と同様の経路を通ってダイクロイックミラー55まで導かれ、このダイクロイックミラー55を透過した後、ミラー58により反射されることで、集光レンズ59により撮像素子60の受光面に結像される。
【0041】
撮像素子60は、眼底反射光を撮像(受光)して眼底撮影像15(画像データ)を後述の演算制御ユニット22へ出力する。演算制御ユニット22は、撮像素子60から出力された眼底撮影像15をモニタ23に表示させる。なお、撮像素子57により撮像された各種観察像を表示するモニタ23と、撮像素子60により撮像された眼底撮影像15を表示するモニタ23とは、同一のものであってもよいし、互いに異なるものであってもよい。
【0042】
視標表示部54は、対物レンズ43を通して被検眼Eに固視標(輝点像)の固視光を投射する内部固視に用いられるものであり、例えばドットマトリクス液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)及びマトリクス発光ダイオード(LED)などが用いられる。この視標表示部54は固視標を表示する。また、視標表示部54は、固視標の表示態様(形状等)及び表示位置を任意に設定可能である。
【0043】
視標表示部54に表示された固視標の固視光は、その一部がハーフミラー53にて反射された後、ミラー52、合焦レンズ51、ダイクロイックミラー55、孔開きミラー41の孔部、ダイクロイックミラー42、及び対物レンズ43を経て被検眼Eに投射される。これにより、対物レンズ43を通して、被検眼Eに対して固視標及び視力測定用視標などが提示される。
【0044】
また、視標表示部54は、データベース12に蓄積される被検者の人種の推定用(以下、単に「人種推定用」と略す)の前眼部像14の撮影をステレオカメラ20で実行する場合に、可視光である白色光を被検眼Eに照射する光源として機能する。すなわち、視標表示部54は、本発明の可視光照射部として機能する。なお、詳しくは後述するが、被検眼Eの瞳孔を縮小可能であれば、視標表示部54から白色光以外の各種可視光を被検眼Eに照射してもよい。
【0045】
眼底カメラユニット10aは、フォーカス光学系70を備える。フォーカス光学系70は、眼底Efに対してフォーカス(ピント)を合わせるためのスプリット指標を生成する。フォーカス光学系70は、既述の対物レンズ43、ダイクロイックミラー42、及び孔開きミラー41の他に、LED71、リレーレンズ72、スプリット指標板73、二孔絞り74、ミラー75、集光レンズ76、及び反射棒77を備える。
【0046】
反射棒77の反射面は、フォーカス光学系70によるフォーカス調整が行われる場合に照明光学系30の光路上にセットされる。LED71から出射されたフォーカス光は、リレーレンズ72を通過し、スプリット指標板73により2つの光束に分離された後、二孔絞り74、ミラー75、及び集光レンズ76を経て反射棒77の反射面に一旦結像され、この反射面にてリレーレンズ40に向けて反射される。さらにフォーカス光は、リレーレンズ40、孔開きミラー41、ダイクロイックミラー42、及び対物レンズ43を経て眼底Efに投射される。
【0047】
フォーカス光の眼底反射光は、対物レンズ43、ダイクロイックミラー42、及び孔開きミラー41の孔部を経由し、その一部がダイクロイックミラー55を透過した後、合焦レンズ51、ミラー52、ハーフミラー53、ダイクロイックミラー55、及び集光レンズ56を経て撮像素子57により撮像される。撮像素子57は、フォーカス光の眼底反射光を撮像して撮像信号を出力する。これにより、モニタ23に観察画像と共にスプリット指標が表示される。後述の演算制御ユニット22は、従来と同様に、スプリット指標の位置を解析して合焦レンズ51等を移動させてピント合わせを自動で行う。また、モニタ23に表示されるスプリット指標に基づき検者が手動でピント合わせを行ってもよい。
【0048】
ダイクロイックミラー42は、眼底撮影用の光路からOCT光学系80の光路を分岐させている。ダイクロイックミラー42は、OCT計測に用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。このOCT光学系80の光路には、OCTユニット10b側から順に、コリメータレンズユニット81と、光路長変更部82と、ガルバノスキャナ83と、合焦レンズ84と、ミラー85と、リレーレンズ86と、が設けられている。
【0049】
光路長変更部82は、例えばコーナーキューブと、これを移動する機構と、を含む。光路長変更部82は、図中に示す矢印の方向に移動可能とされ、OCT光学系80の光路長を変更する。この光路長の変更は、被検眼Eの眼軸長に応じた光路長の補正、及び干渉状態の調整などに利用される。
【0050】
ガルバノスキャナ83は、OCT光学系80の光路を通過する信号光の進行方向を変更する。これにより、眼底Efを信号光で走査することができる。ガルバノスキャナ83は、たとえば、信号光をX方向に走査するガルバノミラーと、Y方向に走査するガルバノミラーと、これらを独立に駆動する機構とを含む。これにより、信号光をXY平面上の任意の方向に走査することができる。
【0051】
<OCTユニット>
OCTユニット10bは、OCT画像16の取得に用いられる干渉光学系を備える。このOCTユニット10bは、公知のOCT装置と同様に、低コヒーレンス光を参照光と信号光に分割し、眼底Efを経由した信号光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル成分を検出する。OCTユニット10bによる検出結果(検出信号)は、演算制御ユニット22へ出力される。なお、OCTユニット10bの具体的な構成については公知技術(例えば特開2013-248376号公報参照)であるので、ここでは具体的な説明は省略する。
【0052】
<ステレオカメラ>
ステレオカメラ20は、一対のカメラ20a及びカメラ20bを備える。カメラ20a及びカメラ20bは、対物レンズ43をその左右から挟み込むように配置されており、前眼部Eaを互いに異なる方向、本実施形態では左右方向から同時(略同時を含む)に撮影する。なお、図中の符号OBは、カメラ20a及びカメラ20bの光軸である。
【0053】
カメラ20a,20bは左右方向から前眼部Eaをそれぞれカラー撮影して、前眼部Eaの観察像であるカラーの前眼部像14を演算制御ユニット22に出力する。以下、カメラ20aにより撮影された前眼部像14を「前眼部像14a」といい、カメラ20bにより撮影された前眼部像14を「前眼部像14b」という。これら前眼部像14a,14bは、被検眼Eに対する眼科装置10のオートアライメントと、後述のサーバ11で実行される被検者の人種の推定処理と、に用いられる。
【0054】
[演算制御ユニット]
図3は、第1実施形態の眼科装置10の演算制御ユニット22及びサーバ11の制御部140の機能ブロック図である。
図3に示すように、演算制御ユニット22は、眼科装置10の各部の動作を統括制御する。この演算制御ユニット22の機能は、各種のプロセッサ(Processor)を用いて実現される。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、演算制御ユニット22の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0055】
また、演算制御ユニット22には、既述の眼底カメラユニット10a、OCTユニット10b、ステレオカメラ20、及びモニタ23の他に、操作部24と、後述のサーバ11と、が接続されている。操作部24は、検者による各種の入力操作、例えば測定開始操作、手動アライメント操作、及び各種設定操作等を受け付ける。
【0056】
演算制御ユニット22は、不図示の記憶部内の制御プログラムを実行することで、光学系制御部100、前眼部像取得部102、虹彩領域解析部104、色補正部106、瞳孔径補正部108、OCT画像形成部110、眼特性取得制御部112、及び画像出力部114として機能する。なお、演算制御ユニット22の「~部」として説明するものは「~回路」、「~装置」、又は「~機器」であってもよい(後述の制御部140も同様)。すなわち、「~部」として説明するものは、ファームウェア、ソフトウェア、及びハードウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで構成されていてもよい。
【0057】
光学系制御部100は、照明光学系30、撮像光学系50、フォーカス光学系70、及びOCT光学系80を制御する。光学系制御部100は、眼底撮影像15の撮影時には、後述の眼特性取得制御部112の制御の下、照明光学系30、撮像光学系50、及びフォーカス光学系70を作動させて、撮影光源35による眼底Efの照明、ピント合わせ、及び撮像素子60による眼底反射光の撮像(眼底撮影像15の取得)を実行させる。また、光学系制御部100は、OCT画像16の取得時には、後述の眼特性取得制御部112の制御の下、OCT光学系80を作動させて、光路長変更部82による光路長の変更、及びガルバノスキャナ83による信号光の走査などを実行させる。
【0058】
さらに、光学系制御部100は、ステレオカメラ20により人種推定用の前眼部像14a,14bを撮影する場合に、視標表示部54を作動させて、この視標表示部54による被検眼Eへの白色光の照射を実行させる。
【0059】
図4は、視標表示部54による被検眼Eへの白色光の照射前(符号4A参照)及び照射中(符号4B参照)にそれぞれステレオカメラ20により取得される前眼部像14a,14bを示した説明図である。なお、
図4(後述の
図5、
図6、
図8等も同様)では図面の煩雑化を防止するため、前眼部像14aのみを図示し、前眼部像14bについては図示を省略している。
【0060】
図4の符号4A及び符号4Bに示すように、視標表示部54から被検眼Eに対して白色光を照射することで、被検眼Eの瞳孔を縮小させることができる。これにより、前眼部像14a,14b内において、被検眼Eの虹彩に対応する虹彩領域A1の面積を拡大し且つ被検眼Eの瞳孔に対応する瞳孔領域A2の面積を縮小することができる。虹彩領域A1は、後述のサーバ11の推定部144による被検者の人種の推定処理に用いられる。
【0061】
図3に戻って、前眼部像取得部102は、カメラ20a,20bを制御して前眼部Eaの撮影(動画撮影等)をそれぞれ実行させると共に、カメラ20a,20bから前眼部像14a,14bを繰り返し取得する。これにより、前眼部像取得部102は、人種推定用のカラーの前眼部像14a,14bを取得する。また、前眼部像取得部102により取得された前眼部像14a,14bは、不図示のアライメント制御部による眼科装置10のアライメント検出及びオートアライメントにも用いられる。
【0062】
図5は、虹彩領域解析部104による虹彩領域A1内のNG領域120(睫毛に起因するNG領域120)の検出を説明するための説明図である。
図6は、虹彩領域解析部104による虹彩領域A1内のNG領域120(外乱光に起因するNG領域120)の検出を説明するための説明図である。
【0063】
図5、
図6、及び既述の
図3に示すように、虹彩領域解析部104は、本発明の領域検出部に相当する。この虹彩領域解析部104は、前眼部像取得部102により取得された人種推定用の前眼部像14a,14bに基づき、前眼部像14a,14bの虹彩領域A1内から虹彩の色(色分布)を識別不能な識別不能領域であるNG領域120を検出し、前眼部像14a,14bに対してNG領域120を設定する。なお、図中の符号122は、虹彩領域A1内で虹彩の色(色分布)を識別可能な識別可能領域であるOK領域である。
【0064】
最初に虹彩領域解析部104は、虹彩領域A1の中で虹彩とは異なる像が映っている領域、例えば
図5の符号5Aに示すような睫毛が映っている(睫毛によりケラレている)領域、及び
図6の符号6Aに示すような外乱光が映っている領域などをNG領域120として検出する。
【0065】
例えば虹彩領域解析部104は、前眼部像14a,14bから公知の手法で虹彩領域A1を検出する(例えば特開2018-45437号参照)。そして、虹彩領域解析部104は、虹彩領域A1内の各画素の色及び輝度に基づき色及び輝度が類似している画素同士をクラスタリングして画素集合を形成することで、前眼部像14a,14bの虹彩領域A1内からNG領域120を検出する(例えば特開2018-206239号参照)。また、虹彩領域解析部104は、公知の独立成分分析処理を用いたり、或いは「“The Measurement of Highlights in Color Images”, GUDRUN J. KLINKER, STEVEN A. SHAFER, AND TAKEO KANADE」に開示されている映り込み除去手法を用いたりすることで、虹彩領域A1内からNG領域120を検出してもよい。さらに他の公知の画像解析法(映り込み除去手法)を用いてNG領域120を検出してもよい。
【0066】
次いで、
図5の符号5B及び
図6の符号6Bに示すように、虹彩領域解析部104は、虹彩領域A1内からNG領域120が検出された場合にはその検出元の前眼部像14a,14bに対してNG領域120の設定を行う。このNG領域120の設定とは、例えば、NG領域120の位置及び形状に関する情報を前眼部像14a,14bの付帯情報に付加したり、前眼部像14a,14b内のNG領域120をマスク処理或いは除去処理したりすることである。これにより、後述のサーバ11の推定部144が前眼部像14a,14b内の虹彩領域A1に基づき被検者の人種の推定処理を行う場合に、NG領域120を除外してOK領域122のみに基づき推定処理を行うことができる。
【0067】
図7は、色補正部106による色補正処理を説明するための説明図である。眼科装置10で用いられる観察光源31(ハロゲンランプ又はLED)としては様々な波長分布の光源がある。このため、各種の眼科装置10により取得(撮影)された前眼部像14a,14bをデータベース12に蓄積する場合には、各種の眼科装置10で取得される前眼部像14a,14bを、あたかも同一光源による照明下で撮影されたかのように色補正した上でデータベース12に蓄積することが好ましい。
【0068】
そこで、
図7及び既述の
図3に示すように、色補正部106は、前眼部像取得部102により取得された前眼部像14a,14bの色を、予め定められた標準光源による被検眼Eの照明下でステレオカメラ20により撮影される(前眼部像取得部102により取得される)前眼部像14a,14bの色に色補正(色変換)する。
【0069】
例えば、色補正部106には、公知の標準光源(ハロゲン電球光源或いはD65光源)のスペクトルである標準光源スペクトル情報130と、公知の観察光源31(ハロゲンランプ又はLED)のスペクトルである光源スペクトル情報132と、が入力されている。また、光のスペクトルから画像(画素)のRGB値を演算する方法も公知である。このため、色補正部106は、光源スペクトル情報132が示す補正元の観察光源31のスペクトルと、標準光源スペクトル情報130が示す補正先の標準光源のスペクトルと、に基づき、前眼部像14a,14bの各画素のRGB値を変換することで、前眼部像14a,14bの色補正を実行する。この色補正を実行することで、後述のサーバ11の推定部144で被検者の人種の推定処理の精度をより高めることができる。
【0070】
図8は、瞳孔径補正部108による補正処理を説明するための説明図である。なお、
図8の符号8Aは瞳孔径補正部108による補正処理前の前眼部像14a,14bであり、
図8の符号8Bは瞳孔径補正部108による補正処理後の前眼部像14a,14bである。
【0071】
眼科装置10による前眼部像14a,14bの取得タイミングに応じて、前眼部像14a,14b内の虹彩領域A1及び瞳孔領域A2の大きさ(すなわち被検眼Eの瞳孔径)が、標準としている大きさから変わる場合がある。また、例えば同一の被検者であっても、前眼部像14a,14bの取得タイミングに応じて虹彩領域A1及び瞳孔領域A2の大きさが変わる場合がある。ここで、人種推定用の前眼部像14a,14bは各種研究用にデータベース12に蓄積されるので、虹彩領域A1及び瞳孔領域A2の大きさが異なるものが混在していると、統計処理が難しくなる。また、後述のサーバ11の推定部144で被検者の人種の推定を行う場合にも、虹彩領域A1の大きさが標準から大きく異なっていると、人種の推定の精度が低下するおそれがある。
【0072】
そこで、
図8及び既述の
図3に示すように、瞳孔径補正部108は、前眼部像取得部102により取得された前眼部像14a,14b内の虹彩領域A1及び瞳孔領域A2を画像処理して、瞳孔領域A2の瞳孔径を予め定められた大きさに補正する。
【0073】
例えば瞳孔径補正部108は、前眼部像取得部102により取得された前眼部像14a,14bに対して公知のアフィン変換処理を施すことにより、前眼部像14a,14b内の瞳孔領域A2の瞳孔径を予め定められた大きさに補正する。また、眼の瞳孔散大筋及び瞳孔括約筋の一般的な動き解析した解析結果に基づき、瞳孔径補正部108が前眼部像14a,14b内の虹彩領域A1の各画素に対して座標変換処理を施すことにより、瞳孔領域A2の瞳孔径を予め定められた大きさに補正してもよい。
【0074】
さらに、被検眼Eの瞳孔が開きすぎている場合には、瞳孔径補正部108は、瞳孔領域A2の一部を欠落部分として、前眼部像取得部102により取得された前眼部像14a,14bに対し外挿処理を施して虹彩領域A1を内側に拡大させることで、瞳孔領域A2の瞳孔径を予め定められた大きさに補正する。さらにまた、被検者が高齢者である場合には瞳孔が開き難くなる縮瞳が発生する。この場合には、瞳孔径補正部108は、前眼部像取得部102により取得された前眼部像14a,14bに対して、瞳孔領域A2の瞳孔径を一般的なφ3~4mmに拡大する拡大処理を施す。
【0075】
図3に戻って、虹彩領域解析部104によるNG領域120の検出及び設定と、色補正部106による色補正処理と、瞳孔径補正部108による補正処理と、を実行する順番は特に限定されず、任意の順番で実行してもよい。ただし、既述の虹彩領域解析部104によるNG領域120の検出及び設定後に瞳孔径補正部108による補正処理を行う場合には、虹彩領域A1の拡大或いは縮小に応じてNG領域120の補正を実行、或いは虹彩領域解析部104によるNG領域120の検出及び設定を再度実行させる。
【0076】
OCT画像形成部110は、OCTユニット10bと共に本発明の眼特性取得部を構成するものであり、OCTユニット10bから入力される検出信号を解析して眼底EfのOCT画像16を形成する。なお、OCT画像16の具体的な形成方法は、従来のOCT装置と同様であるのでここでは説明は省略する。
【0077】
眼特性取得制御部112は、眼科装置10の各部を制御して、被検眼Eの眼特性(眼底撮影像15及びOCT画像16)の取得を実行する。具体的には眼特性取得制御部112は、光学系制御部100を介して眼底カメラユニット10aの照明光学系30、撮像光学系50、及びフォーカス光学系70を制御して、眼底撮影像15を取得する。
【0078】
また、眼特性取得制御部112は、光学系制御部100を介して眼底カメラユニット10aのOCT光学系80を制御すると共に、OCTユニット10b及びOCT画像形成部110を制御して、OCT画像16を取得する。なお、図示は省略するが、眼特性取得制御部112は、眼底EfのOCT画像16を解析して眼底Efの層厚分布データを作成し、この層厚分布データと、予め作成された正常眼の層厚分布データであるノーマティブデータとを比較して比較マップ(特開2019-58491号参照)を作成する解析部としても機能する。
【0079】
さらに、眼特性取得制御部112は、後述のサーバ11の条件決定部148の決定に従って、眼科装置10の各部による被検眼Eの眼特性の取得条件(動作条件)を変更する。この取得条件とは、例えば撮影光源35の撮影光量と、既述のノーマティブデータの種類とが例として挙げられる。眼特性取得制御部112は、条件決定部148が決定した撮影光量の光を撮影光源35から出射させる。また、眼特性取得制御部112は、上述の比較マップを作成する際に、条件決定部148が決定したノーマティブデータを用いる。
【0080】
画像出力部114は、本発明の出力部、前眼部像出力部、及び眼特性出力部として機能する。画像出力部114は、前眼部像取得部102により取得された人種推定用の前眼部像14a,14bであって且つ既述の虹彩領域解析部104によりNG領域120(本発明の領域検出部の検出結果に相当)が設定された前眼部像14a,14bをサーバ11(推定部144)へ出力する。また、画像出力部114は、眼特性取得制御部112の制御の下で取得された被検眼Eの眼特性取得結果(眼底撮影像15及びOCT画像16)をサーバ11(記憶制御部146)へ出力する。
【0081】
さらに、画像出力部114は、操作部24等で入力された被検者のID情報17を、前眼部像14a,14b及び眼特性取得結果に関連付けてサーバ11へ出力する。
【0082】
[サーバ]
サーバ11は制御部140を備える。制御部140は、被検眼Eの前眼部像14a,14b及び眼特性取得結果のデータベース12への記憶、被検者の人種の推定処理、及び眼科装置10による眼特性の取得条件の変更等の各種制御を実行する。この制御部140の機能は、既述の演算制御ユニット22と同様に1又は複数の各種プロセッサを用いて実現される。
【0083】
制御部140は、不図示の記憶部内の制御プログラムを実行することで、画像取得部142、推定部144、記憶制御部146、及び条件決定部148として機能する。
【0084】
画像取得部142は、眼科装置10の画像出力部114から出力される被検眼Eの前眼部像14a,14b及び眼特性取得結果(眼底撮影像15及びOCT画像16)と、被検者のID情報17と、を取得するインターフェースとして機能する。画像取得部142は、取得した前眼部像14a,14bを推定部144へ出力する。また、画像取得部142は、取得した前眼部像14a,14b、眼底撮影像15、OCT画像16、及びID情報17を記憶制御部146へ出力する。
【0085】
推定部144は、画像取得部142から入力された前眼部像14a,14bに基づき、被検者の人種の推定処理を行う。この推定部144は、既述の虹彩領域解析部104と同様に前眼部像14a,14bから虹彩領域A1を検出し、さらに虹彩領域解析部104により設定されたNG領域120に基づき虹彩領域A1内のOK領域122を検出する。そして、推定部144は、前眼部像14a,14b内のOK領域122に基づき、被検眼Eの虹彩の色(色分布)を検出し、この検出結果に基づき被検者の人種の推定処理を行う。
【0086】
例えば推定部144は、OK領域122における虹彩の色(色分布)の検出結果に基づき、虹彩の色と人種とを関連付けたデータテーブルまたはメタデータを参照して、被検者の人種を推定する。或いは推定部144は、OK領域122に対して人工知能(artificial intelligence:AI)を用いた画像解析処理、例えば公知の機械学習アルゴリズム又は深層学習アルゴリズムに基づき機械学習又は深層学習(ディープラーニング)を用いた画像解析処理を行うことで、被検者の人種を推定する。なお、推定部144による人種の推定処理に用いる方法は、虹彩の色(色分布)から人種を推定する方法であれば特に限定はされない。
【0087】
そして、推定部144は、被検者の人種の推定結果である人種情報18を、記憶制御部146と条件決定部148とに出力する。なお、推定部144は、前眼部像14a,14bに関連付けられているID情報17に基づき、データベース12を参照して、既に被検者の人種情報18が既知である場合には、上述の人種の推定処理を省略する。
【0088】
記憶制御部146は、画像取得部142から入力された前眼部像14a,14b、眼底撮影像15、OCT画像16、及びID情報17と、推定部144から入力された人種情報18と、を関連付けてデータベース12に記憶させる。これにより、被検者の人種情報18を、被検者の前眼部像14a,14b、眼底撮影像15、及びOCT画像16に関連付けてデータベース12に記憶させることができる。
【0089】
データベース12は、既述の
図1に示したように、被検者ごとに(すなわちID情報17ごとに)、サーバ11から入力される前眼部像14a,14b、眼底撮影像15、OCT画像16、及び人種情報18を蓄積する。
【0090】
このように前眼部像14a,14b、眼底撮影像15、及びOCT画像16と、被検者の人種情報18とを関連付けてデータベース12に蓄積することで、データベース12を用いて人種ごとの前眼部像14a,14b及び眼特性(眼底撮影像15とOCT画像16)の傾向分析及び経過観察を行うことができる。また、人種ごとの前眼部像14a,14bと眼特性との関連性を分析することができる。
【0091】
さらに、人種ごとの眼の疾患の予測の研究にデータベース12を用いることができる。例えば欧州及び米国では、虹彩学(Iridology、イリドロジー)の研究が昔から行われている(例えば特開2019-103079号参照)。この虹彩学は、被検眼の前眼部像を取得し、この前眼部像内の虹彩の像に表れる様々な情報に基づき、人の健康情報または病歴を診断する分析方法である。データベース12には、人種ごとの前眼部像14a,14b及び眼特性(眼底撮影像15とOCT画像16)が蓄積されているため、データベース12内の情報を虹彩から人種ごとの眼の疾患を診断又は予測する研究に利用することができる。
【0092】
条件決定部148は、推定部144から入力された人種情報18に基づき、眼科装置10による被検眼Eの眼特性の取得条件、すなわち既述の撮影光源35の撮影光量及び既述のノーマティブデータを決定する。例えば、条件決定部148は、人種と、人種に適した撮影光源35の撮影光量及びノーマティブデータとの対応関係を示す取得条件情報(データテーブル等)を有しており、人種情報18に基づき取得条件情報を参照することで、人種に適した撮影光源35の撮影光量及びノーマティブデータを決定する。
【0093】
そして、条件決定部148は、被検者の人種に適した眼底特性の取得条件(撮影光源35の撮影光量及びノーマティブデータ)を眼科装置10の眼特性取得制御部112へ出力する。これにより、眼特性取得制御部112が、条件決定部148が決定した撮影光量の光を撮影光源35から出射させると共に、条件決定部148が決定したノーマティブデータを用いて比較マップの生成を行う。
【0094】
[第1実施形態の眼科システムの作用]
図9は、上記構成の第1実施形態の眼科システム9による被検眼Eの眼特性取得処理の流れ、特に本発明の眼科装置の制御方法に係る人種推定用の前眼部像14a,14bの取得及びデータベース12への蓄積の流れを示すフローチャートである。
【0095】
操作部24に対して被検眼Eの眼特性の取得開始操作が入力されると、或いは被検眼Eの眼特性の取得準備が完了すると、眼科装置10が作動する。最初に、光学系制御部100は、視標表示部54を作動させて、視標表示部54による被検眼Eへの白色光の照射を開始させる(ステップSA1)。これにより、被検眼Eの瞳孔が縮小され且つ虹彩が拡大されるので、既述の
図4に示したように推定部144による被検者の人種の推定に用いられる前眼部像14a,14b内の虹彩領域A1が拡大する。その結果、推定部144による人種の推定処理の精度を高めることができる、すなわち推定部144による人種の推定処理に適した前眼部像14a,14bが得られる。
【0096】
被検眼Eへの白色光の照射が開始されると、前眼部像取得部102が、ステレオカメラ20のカメラ20a,20bを制御して前眼部Eaのカラー撮影を実行させると共に、カメラ20a,20bから人種推定用のカラーの前眼部像14a,14bを取得する(ステップSA2、本発明の前眼部像取得ステップに相当)。
【0097】
前眼部像取得部102により人種推定用のカラーの前眼部像14a,14bが取得されると、既述の
図5及び
図6に示したように、虹彩領域解析部104が前眼部像14a,14bの虹彩領域A1内からのNG領域120の検出と、虹彩領域A1に対するNG領域120の設定と、を実行する(ステップSA3、本発明の領域検出ステップに相当)。これにより、推定部144が虹彩領域A1内のOK領域122のみに基づき被検者の人種を推定することができるので、推定部144による人種の推定の精度を高めることができる。従って、推定部144による人種の推定に適した前眼部像14a,14bが得られる。
【0098】
また、既述の
図7に示したように色補正部106が前眼部像14a,14bに対して色補正を施すと共に、既述の
図8に示したように瞳孔径補正部108が前眼部像14a,14bに対して瞳孔領域A2の瞳孔径の補正処理を施す(ステップSA4)。この色補正によって、観察光源31の種類に関係なく、前眼部像14a,14bの色があたかも同一光源(標準光源)による照明下で撮影されたかのように補正される。また、瞳孔領域A2の瞳孔径の補正処理により、前眼部像14a,14b内の瞳孔領域A2の瞳孔径を予め定められた大きさにすることができる。その結果、推定部144による人種の推定の精度を高めることができると共に、既述の分析又は研究等(傾向分析、経過観察、疾患の診断又は予測等)が行い易くなる。
【0099】
なお、ステップSA3とステップSA4の順番は特に限定はされないが、ステップSA3の後に瞳孔径補正部108による瞳孔径の補正処理を実行した場合には、ステップSA3の処理を再度実行することが好ましい。
【0100】
次いで、画像出力部114が、NG領域120が設定され且つ色補正処理及び瞳孔径の補正処理が施された前眼部像14a,14bに対して、予め操作部24等で入力された被検者のID情報17を関連付けた後、この前眼部像14a,14bをサーバ11へ出力する(ステップSA5、本発明の出力ステップに相当)。
【0101】
サーバ11の画像取得部142は、画像出力部114から前眼部像14a,14b(ID情報17)を取得して、この前眼部像14a,14bを推定部144と記憶制御部146とに出力する(ステップSB1)。
【0102】
画像取得部142から前眼部像14a,14bが入力された推定部144は、前眼部像14a,14bと、先に虹彩領域解析部104により設定されたNG領域120とに基づき、前眼部像14a,14bの虹彩領域A1内のOK領域122を検出する。そして、推定部144は、OK領域122に基づき被検眼Eの虹彩の色(色分布)を検出し、この検出結果に基づき被検者の人種を推定処理して、人種情報18を記憶制御部146と条件決定部148とに出力する(ステップSB2)。
【0103】
なお、推定部144は、前眼部像14a,14bに関連付けられているID情報17に基づき、被検者(ID情報17)に対応する人種情報18がデータベース12に記憶されている場合には人種の推定処理(ステップSB2)を省略する。
【0104】
人種の推定処理が完了すると、記憶制御部146が、画像取得部142から入力された前眼部像14a,14b及びID情報17と、推定部144から入力された人種情報18と、を関連付けてデータベース12に記憶させる(ステップSB3)。
【0105】
また、条件決定部148が、推定部144から入力された人種情報18に基づき、眼科装置10による被検眼Eの眼特性の取得条件(撮影光源35の撮影光量及びノーマティブデータ)を決定する(ステップSB4)。そして、条件決定部148は、決定した取得条件を眼科装置10の眼特性取得制御部112へ出力する(ステップSB5)。
【0106】
眼特性取得制御部112は、条件決定部148から眼特性の取得条件の入力を受けると、現在の取得条件と条件決定部148から入力された取得条件とを比較する(ステップSA6)。そして、眼特性取得制御部112は、現在の取得条件が条件決定部148から入力された取得条件と相違している場合には、現在の取得条件を新たな取得条件に合わせて変更する(ステップSA7,SA8)。これにより、被検者の人種に適した被検眼Eの眼特性の取得(測定等)を実行することができる。
【0107】
次いで、眼特性取得制御部112は、眼底カメラユニット10a、OCTユニット10b、及びOCT画像形成部110を制御して、被検眼Eの眼特性(眼底撮影像15及びOCT画像16)の取得を実行する(ステップSA9)。既述のステップSA8で眼特性の取得条件を被検者の人種に合せて調整しているので、より正確な被検眼Eの眼特性が得られる。
【0108】
被検眼Eの眼特性の取得が完了すると、画像出力部114が、被検眼Eの眼特性取得結果である眼底撮影像15及びOCT画像16に既述のID情報17を関連付けた後、これら眼底撮影像15及びOCT画像16をサーバ11へ出力する(ステップSA10)。
【0109】
サーバ11の画像取得部142は、画像出力部114から眼底撮影像15及びOCT画像16(ID情報17)を取得して、これら眼底撮影像15及びOCT画像16を記憶制御部146へ出力する(ステップSB6)。
【0110】
記憶制御部146は、眼底撮影像15及びOCT画像16に関連付けられているID情報17に基づき、眼底撮影像15及びOCT画像16をデータベース12内のID情報17に関連付けて記憶させる(ステップSB7)。これにより、被検者(ID情報17)の前眼部像14a,14b、眼底撮影像15、OCT画像16、及び人種情報18のデータベース12への記憶が完了する。
【0111】
以下、眼科装置10にて被検者の眼特性の取得が行われるごとに、被検者ごとの(ID情報17ごとの)前眼部像14a,14b、眼底撮影像15、OCT画像16、及び人種情報18がデータベース12に蓄積される。これにより、データベース12を人種ごとの眼の各種研究に利用することができる。
【0112】
[第1実施形態の効果]
以上のように第1実施形態の眼科システム9では、人種推定用のカラーの前眼部像14a,14bを取得し、この前眼部像14a,14bの虹彩領域A1内からNG領域120を検出することで、推定部144が虹彩領域A1内のOK領域122に基づき被検者の人種を推定することができる。これにより、推定部144による人種の推定精度を向上させることができる。その結果、眼科システム9(眼科装置10)では、被検者の人種の推定に適した前眼部像14が得られる。
【0113】
[第2実施形態の眼科システム]
図10は、第2実施形態の眼科システム9を構成する眼科装置10及びサーバ11のブロック図(演算制御ユニット22及び制御部140の機能ブロック図)である。上記第1実施形態では、推定部144が前眼部像14a,14bの虹彩領域A1内のOK領域122に基づき被検者の人種を推定処理しているが、第2実施形態では推定部144が前眼部像14a,14bの虹彩領域A1の全領域(ほぼ全領域を含む)に基づき被検者の人種の推定処理を行う。
【0114】
図10に示すように、第2実施形態の眼科システム9は、眼科装置10の演算制御ユニット22が補間部105として機能する点を除けば第1実施形態の眼科システム9と基本的に同じ構成である。このため、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0115】
補間部105は、虹彩領域解析部104によるNG領域120の検出結果に基づき、前眼部像14a,14bの少なくとも一方の虹彩領域A1内にNG領域120が含まれている場合に作動する。この補間部105は、虹彩領域解析部104によるNG領域120の検出結果に基づき、虹彩領域A1内のOK領域122(すなわちNG領域120とは異なる領域)を用いてNG領域120を補間処理する。
【0116】
図11は、補間部105によるNG領域120の補間処理の第1例を説明するための説明図である。
図11の符号XIA,XIBに示すように、補間部105は、前眼部像14a,14bの虹彩領域A1内にNG領域120が含まれる場合には、同一の虹彩領域A1内のOK領域122に基づき例えば線形補間法等を用いてNG領域120の補間処理を行う。
【0117】
図12は、補間部105によるNG領域120の補間処理の第2例を説明するための説明図である。
【0118】
図12の符号XIIAに示すように、補間部105は、カメラ20aにより撮影された前眼部像14aの虹彩領域A1内にNG領域120が含まれる場合には、別のカメラ20bにより撮影された前眼部像14bの虹彩領域A1内からNG領域120に対応する対応領域を検出する。そして、
図12の符号XIIBに示すように、補間部105は、対応領域がOK領域122である場合には、この対応領域の各画素の色及び輝度に基づき前眼部像14a内のNG領域120の各画素の色及び輝度を類推することで、NG領域120の補間処理を行う。この場合には、カメラ20aが本発明の第1カメラに相当し且つカメラ20bが本発明の第2カメラに相当する。
【0119】
また逆に、補間部105は、カメラ20bにより撮影された前眼部像14bの虹彩領域A1内にNG領域120が含まれる場合には、カメラ20aにより撮影された前眼部像14aの虹彩領域A1内から対応領域を検出する。そして、補間部105は、対応領域がOK領域122である場合には、この対応領域の各画素の色及び輝度に基づき、前眼部像14b内のNG領域120の各画素の色及び輝度を類推することで、NG領域120の補間処理を行う。この場合には、カメラ20aが本発明の第2カメラに相当し且つカメラ20bが本発明の第1カメラに相当する。
【0120】
図10に戻って、第2実施形態の色補正部106による色補正処理と瞳孔径補正部108による補正処理とは、上述のNG領域120の検出処理及び補間処理の前又は後に実行される。そして、第2実施形態の画像出力部114は、補間処理等が施された前眼部像14a,14bをサーバ11の画像取得部142へ出力する。
【0121】
第2実施形態のサーバ11の推定部144は、補間部105により補間処理された前眼部像14a,14b内の虹彩領域A1に基づき被検眼Eの虹彩の色(色分布)を検出し、この検出結果に基づき被検者の人種の推定処理を行う。
【0122】
図13は、上記構成の第2実施形態の眼科システム9による被検眼Eの眼特性取得処理の流れ、特に本発明の眼科装置の制御方法に係る人種推定用の前眼部像14a,14bの取得及びデータベース12への蓄積の流れを示すフローチャートである。
【0123】
図13に示すように、第2実施形態ではステップSA3の処理が一部異なり且つステップSA3-1の処理を新たに実行する点を除けば、
図9に示した第1実施形態の眼特性取得処理と基本的に同じである。
【0124】
ステップSA3では、虹彩領域解析部104が前眼部像14a,14bの虹彩領域A1内からのNG領域120の検出のみを実行し、NG領域120の検出結果を補間部105へ出力する。そして、ステップSA3-1では、補間部105が、虹彩領域解析部104によるNG領域120の検出結果に基づき、既述の
図11又は
図12に示したようにNG領域120を補間処理する。
【0125】
以上のように第2実施形態では、補間部105によるNG領域120の補間処理を行うことにより、虹彩領域A1の全領域で被検眼Eの虹彩の色を検出した結果に基づき被検者の人種の推定処理を行うことができる。その結果、虹彩領域A1の一部の領域(NG領域120以外の領域)に基づき被検者の人種の推定処理を行う上記第1実施形態よりも、被検者の人種の推定の精度を高めることができる。
【0126】
図14は、第2実施形態の眼科システム9の変形例のブロック図である。上記第2実施形態では眼科装置10の演算制御ユニット22が補間部105として機能しているが、
図14に示すようにサーバ11の制御部140が補間部105として機能してもよい。この場合においても推定部144は、前眼部像14a,14b内の虹彩領域A1の全領域に基づき被検者の人種の推定処理を行うことができる。
【0127】
[第3実施形態の眼科システム]
図15は、第3実施形態の眼科システム9を構成する眼科装置10及びサーバ11のブロック図(演算制御ユニット22及び制御部140の機能ブロック図)である。なお、第3実施形態の眼科システム9は、演算制御ユニット22及び制御部140の機能の一部が上記各実施形態とは異なる点を除いて、上記各実施形態と基本的に同じ構成である。このため、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0128】
上記各実施形態では眼科装置10の演算制御ユニット22が色補正部106及び瞳孔径補正部108として機能し、且つサーバ11の制御部140が推定部144及び条件決定部148として機能しているが、演算制御ユニット22及び制御部140の機能を一部入れ替えてもよい。
【0129】
例えば
図15に示すように、演算制御ユニット22を推定部144及び条件決定部148としても機能させてもよい。この場合には、前眼部像取得部102が前眼部像14a,14bを推定部144へ出力すると共に、虹彩領域解析部104がNG領域120の検出結果を推定部144へ出力する。従って、第3実施形態の前眼部像取得部102及び虹彩領域解析部104は本発明の出力部として機能する。そして、上記各実施形態と同様に、推定部144による被検者の人種の推定処理が行われ、さらにこの人種の推定処理の結果に基づき条件決定部148により被検眼Eの眼特性の取得条件が決定され、この取得条件に従って被検眼Eの眼特性の取得が実行される。
【0130】
また、制御部140を色補正部106及び瞳孔径補正部108として機能させてもよい。これにより、画像取得部142により取得された前眼部像14a,14bに対して色補正部106による色補正処理と瞳孔径補正部108による瞳孔径の補正処理とが施される。そして、色補正処理及び瞳孔径の補正処理が施された前眼部像14a,14bが、記憶制御部146によってデータベース12に記憶される。
【0131】
第3実施形態の眼科システム9は、第1実施形態の演算制御ユニット22及び制御部140の機能の一部が入れ替わっているだけであるので、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0132】
[その他]
上記各実施形態では、ステレオカメラ20(カメラ20a,20b)により被検眼Eの前眼部Eaを撮影して前眼部像14a,14bを取得しているが、3以上の複数のカメラで前眼部Eaの撮影を行ってもよい。この場合に、例えば第2実施形態の補間部105は、1又は複数の第2カメラにより撮影された前眼部像14の虹彩領域A1内の対応領域(OK領域122)を用いて、第1カメラにより撮影された前眼部像14の虹彩領域A1内のNG領域120の補間処理を行う。
【0133】
上記各実施形態では、ステレオカメラ20のカメラ20a,20bにより前眼部Eaを撮影して前眼部像14a,14bを取得し、NG領域120が設定或いは補間処理された前眼部像14a,14bに基づき推定部144が被検者の人種の推定処理を行っているが、前眼部像14a,14bの一方に基づき上記推定処理を行ってもよい。すなわち、被検者の人種の推定処理に用いられるカメラは1つであってもよい。また、この場合には、撮像光学系50が対物レンズ43を通して取得した前眼部像14に対して、NG領域120の設定又は補間処理を行った後、この前眼部像14に基づき推定部144による被検者の人種の推定処理を行うと共にこの前眼部像14をデータベース12に記憶させてもよい。
【0134】
上記各実施形態では、ステレオカメラ20による人種推定用の前眼部像14a,14bの取得時に視標表示部54を用いて被検眼Eに白色光を照射しているが、被検眼Eの瞳孔を縮小可能であれば、視標表示部54の代わりに被検眼Eに対して各種の可視光を照射する可視光照射部を用いてもよい。
【0135】
上記各実施形態では、眼科装置10として被検眼Eの眼底Efの眼底撮影像及びOCT画像を取得する複合機を例に挙げて説明を行ったが、被検眼Eの前眼部Eaのカラー撮影が撮影可能な各種の眼科装置、例えば、眼底カメラ、OCT装置、細隙灯顕微鏡、及び蛍光眼底造影検査装置等に本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0136】
9…眼科システム
10…眼科装置
10a…眼底カメラユニット
10b…OCTユニット
11…サーバ
12…データベース
14,14a,14b…前眼部像
15…眼底撮影像
16…OCT画像
17…ID情報
18…人種情報
20…ステレオカメラ
20a,20b…カメラ
22…演算制御ユニット
23…モニタ
30…照明光学系
50…撮像光学系
54…視標表示部
70…フォーカス光学系
80…OCT光学系
100…光学系制御部
102…前眼部像取得部
104…虹彩領域解析部
105…補間部
106…色補正部
108…瞳孔径補正部
110…OCT画像形成部
112…眼特性取得制御部
114…画像出力部
120…NG領域
122…OK領域
130…標準光源スペクトル情報
132…光源スペクトル情報
140…制御部
142…画像取得部
144…推定部
146…記憶制御部
148…条件決定部
A1…虹彩領域
A2…瞳孔領域
E…被検眼
Ea…前眼部
Ef…眼底