(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20231128BHJP
B23Q 15/00 20060101ALI20231128BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20231128BHJP
B23G 3/00 20060101ALI20231128BHJP
B23G 1/02 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G05B19/4093 M
B23Q15/00 J
B23B1/00 A
B23G3/00 B
B23G1/02 A
(21)【出願番号】P 2019183314
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】堀川 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】安田 将司
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-124793(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056526(WO,A1)
【文献】特開平1-321138(JP,A)
【文献】特開2001-150201(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067372(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4093
B23Q 15/00
B23B 1/00
B23G 3/00
B23G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具とワークを相対的に回転させる少なくとも一つの主軸と、前記切削工具を前記ワークに対して相対移動させる少なくとも一つの送り軸と、を協調動作させて、前記切削工具により前記ワークを径方向に複数回切り込みながらねじ切り加工する工作機械の制御装置であって、
外部から供給される加工プログラムに基づいて、前記切削工具を前記ワークの径方向に揺動させる揺動動作を実行するか否かを判定し、かつ、
今回の切り込み動作において、前回の切り込み動作における揺動切削加工済部分と異なる位置で揺動切削加工するように、揺動動作の実行を判定する揺動動作実行判定部と、
前記揺動動作実行判定部による判定結果に基づいて前記揺動動作の揺動指令を生成する揺動指令生成部と、
前記送り軸の位置指令に前記揺動指令を重畳して前記送り軸の駆動指令を生成する制御部と、を備え、
前記揺動動作実行判定部は、前記揺動動作を断続的に実行するよう判定し、
前記揺動指令生成部は、今回の切り込み動作における非揺動切削加工部分が前回の切り込み動作における揺動切削加工済部分を含むように、又は、今回の切り込み動作における揺動切削加工部分が前回の切り込み動作における非揺動切削加工済部分を含むように、揺動指令を生成する、工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記揺動指令生成部に出力する揺動動作の条件を、加工プログラム、加工パラメータ、及び前記工作機械からのフィードバック値のうちの少なくとも一つに基づいて算出する揺動条件算出部をさらに備え、
前記揺動条件算出部は、前記揺動動作の間隔を変更する、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記揺動条件算出部は、異なる加工パス間で前記揺動動作の間隔を変更する、請求項
2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記揺動条件算出部は、同一の加工パス内で前記揺動動作の間隔を変更する、請求項
2又は3に記載の工作機械の制御装置。
【請求項5】
前記揺動条件算出部は、前記ワークの径に応じて前記揺動動作の間隔を変更する、請求項
2から4いずれかに記載の工作機械の制御装置。
【請求項6】
切削工具とワークを相対的に回転させる少なくとも一つの主軸と、前記切削工具を前記ワークに対して相対移動させる少なくとも一つの送り軸と、を協調動作させて、前記切削工具により前記ワークを径方向に複数回切り込みながらねじ切り加工する工作機械の制御装置であって、
前記切削工具を前記ワークの径方向に揺動させる揺動動作を実行するか否かを判定する揺動動作実行判定部を備え、
前記揺動動作実行判定部は、揺動動作による切り込みを断続的に実行した後に、次回パスにおいて揺動動作の無い切り込みを実行するよう判定
し、断続的な揺動動作による非揺動切削加工部において、位置偏差が所定の閾値以下になるまで非揺動切削加工を実行するよう判定する、工作機械の制御装置。
【請求項7】
前記揺動動作実行判定部は、断続的な揺動動作による非揺動切削加工部において、位置偏差が所定の閾値以下になるまで非揺動切削加工を実行するよう判定する、請求項1から
5いずれかに記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切屑を細断しながらねじ切り加工を実現する技術が知られている。例えば、所定の複数回の切り込み加工に際して、ワークと切削工具とを往復振動させるとともに、往復振動を伴う各切り込み加工時の振動のパターンを、所定の切り込み加工時の切削加工部分に、他の切り込み加工による切削済みの部分が部分的に含まれるように設定する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、ねじ切り加工中においてワークと切削工具の往復振動(以下、揺動動作ともいう)が常に行われるため、往復振動による工作機械への負担が大きい。そのため、工作機械による加工において重要なサイクルタイムを延長することなく、揺動動作による工作機械への負担を軽減しながらねじ切り加工が可能な工作機械の制御装置が望まれている。
【0005】
また特許文献1の技術では、揺動動作時において、応答遅れ等の理由により位置指令と実位置との偏差である位置偏差が大きく、これにより削り残しが発生する(後述の
図7参照)。そのため、最終パスでの仕上げ加工における切屑の細断の実現が難しいのが現状であり、ねじ切り加工の最終パスでの仕上げ加工のように、前回パスの揺動動作後に今回パスの揺動無し動作を実行する場合に、確実に切屑を細断可能な工作機械の制御装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、切削工具とワークを相対的に回転させる少なくとも一つの主軸と、前記切削工具を前記ワークに対して相対移動させる少なくとも一つの送り軸と、を協調動作させて、前記切削工具により前記ワークを径方向に複数回切り込みながらねじ切り加工する工作機械の制御装置であって、前記切削工具を前記ワークの径方向に揺動させる揺動動作を実行するか否かを判定する揺動動作実行判定部と、前記揺動動作実行判定部による判定結果に基づいて前記揺動動作の揺動指令を生成する揺動指令生成部と、前記送り軸の位置指令に前記揺動指令を重畳して前記送り軸の駆動指令を生成する制御部と、を備え、前記揺動動作実行判定部は、前記揺動動作を断続的に実行するよう判定し、前記揺動指令生成部は、今回の切り込み動作における非揺動切削加工部分が前回の切り込み動作における揺動切削加工済部分を含むように、又は、今回の切り込み動作における揺動切削加工部分が前回の切り込み動作における非揺動切削加工済部分を含むように、揺動指令を生成する、工作機械の制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、サイクルタイムを延長することなく、揺動動作による工作機械への負担を軽減しながらねじ切り加工が可能な工作機械の制御装置を提供できる。また、ねじ切り加工の最終パスでの仕上げ加工のように、前回パスの揺動有り動作後に今回パスの揺動無し動作を実行する場合に、確実に切屑を細断可能な工作機械の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一態様に係る工作機械の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】ねじ切り加工により作成されたねじを示す図である。
【
図4】本開示の一態様に係る工作機械の制御装置によるねじ切り加工の動作を説明するための図である。
【
図5】本開示の一態様に係る工作機械の制御装置によるねじ切り加工の動作を説明するための図である。
【
図6】本開示の一態様に係る工作機械の制御装置によるねじ切り加工の動作を説明するための図である。
【
図7】従来のねじ切り加工の最終パスでの仕上げ加工を示す図である。
【
図8】本開示の一態様に係る工作機械の制御装置によるねじ切り加工の最終パスでの仕上げ加工を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一態様について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
本開示の一態様に係る工作機械の制御装置は、切削工具とワークを相対的に回転させる少なくとも一つの主軸と、切削工具をワークに対して相対移動させる少なくとも一つの送り軸と、を協調動作させて、切削工具によりワークを径方向に複数回切り込みながらねじ切り加工するものである。
【0011】
図1は、本開示の一態様に係る工作機械の制御装置100の構成を示す機能ブロック図である。
図1に示されるように、制御装置100は、切削工具とワークを相対的に回転させる少なくとも一つの主軸、及び、切削工具をワークに対して相対移動させる少なくとも一つの送り軸を駆動するモータ120に対して、これらの軸を協調動作させるための駆動指令を出力する。
【0012】
制御装置100の構成について説明する前に、
図2及び
図3を参照しながら、ねじ切り加工について説明する。ここで、
図2は、ねじ切り加工により作成されたねじ12を示す図である。
図3は、ねじ切り加工中のワーク14を示す図である。
【0013】
図2に示されるように、ねじ切り加工により作成されたねじ12は、その外周面に螺旋状に形成された十分な深さのねじ溝10を有する。本開示の一態様に係る工作機械の制御装置100は、切削工具とワークを相対的に回転させるとともに、切削工具をワークに対して相対移動させて切削加工することにより、このねじ溝10を形成する。
【0014】
図3中の矢印Pで示されるように、ワーク14に対するねじ溝10の切削加工は、ワーク14上の所定の軌跡10a(即ち、ねじ溝10の位置)上を切削工具16により複数回行われる。軌跡10aは、ワーク14の外周面の全周に亘って螺旋状に存在する。
図3は、切削加工を開始したばかりの状態であり、ねじ溝10の深さはまだ浅い状態である。複数回、切削加工を繰り返すことによって、
図2に示されるような深いねじ溝10が形成され、最終的なねじ12が完成する。
【0015】
図3において、ワーク14は、主軸18に取り付けられ、矢印Cで示される回転方向に回転制御される。矢印Cで示される回転座標軸をC軸と呼ぶ。即ち、C軸は主軸18周りの角度を表す角度座標である。
【0016】
切削工具16は、回転しているワーク14の表面の軌跡10a上を移動し、ねじ溝10を切削加工する。そのため、切削工具16は、ワーク14のC軸方向の回転と同期して、ワーク14の長手方向の座標軸であるZ軸に沿って移動するよう制御される。
【0017】
また、切削工具16は、切削加工の回数毎に徐々に、ワーク14の表面に対して垂直方向、即ち径方向の座標軸であるX軸方向に移動する。そのため、切削工具16は、ワーク14に対して徐々に深い位置で切削加工を行うよう制御される。
【0018】
次に、本開示の一態様に係る工作機械の制御装置100の構成について説明する。
図1に示されるように、制御装置100は、揺動動作実行判定部102と、揺動条件算出部104と、揺動指令生成部106と、加算器108と、制御部110と、を備える。
【0019】
制御装置100としては、例えば数値制御装置が用いられる。この制御装置100は、例えばCPU、メモリ等を有するコンピュータに本実施形態に係るプログラムを読み込ませることによって実現される。
【0020】
揺動動作実行判定部102は、切削工具16をワーク14の径方向(X軸方向)に揺動させる揺動動作を実行するか否かを判定する。この判定は、外部から入力される加工プログラムに基づいて行われる。本開示の一態様に係る揺動動作実行判定部102は、この揺動動作を断続的に実行するよう判定することに特徴がある。即ち、揺動動作実行判定部102は、切削工具16とワーク14とを相対的に往復振動させる揺動動作と、該往復振動をさせない非揺動動作とが交互に繰り返されるように、断続的な揺動動作の実行を判定する。これにより、同一の加工パス内において、揺動動作と非揺動動作とが交互に繰り返し実行されるようになる。
【0021】
好ましくは、揺動動作実行判定部102は、今回の切り込み動作において前回の切り込み動作における揺動切削加工済部分と異なる位置で揺動切削加工するように、揺動動作の実行を判定する。これにより、今回の切削加工において、前回の切削加工済部分をより確実に含ませることが可能となるため、いわゆる空振りをより確実に発生させ、切屑の細断がより確実となる。
【0022】
また好ましくは、揺動動作実行判定部102は、揺動動作による切り込みを断続的に実行した後に、次回パスにおいて揺動動作の無い切り込みを実行するよう判定する。これにより、例えば揺動切削を実行した後の最終パスにおいて非揺動切削加工を実行した場合等に、切屑を確実に細断可能となる。これについては、後段で詳述する。
【0023】
また好ましくは、揺動動作実行判定部102は、断続的な揺動動作による非揺動切削加工部において、位置指令と実位置との偏差である位置偏差が、所定の閾値以下になるまで非揺動切削加工を実行するよう判定する。これにより、断続的な揺動動作による非揺動切削加工部において、切屑を確実に細断可能となる。これについては、後段で詳述する。
【0024】
揺動条件算出部104は、揺動指令生成部106に出力する揺動動作の条件を、加工プログラム、加工パラメータ、及び工作機械からのフィードバック値のうちの少なくとも一つに基づいて算出する。例えば
図1に示されるように、揺動条件算出部104は、外部から入力される加工プログラムに基づいて、揺動動作の間隔(後述の
図4に示されるような揺動波形において隣接する頂点間の距離)、振幅、周期等の条件を算出する。
【0025】
好ましくは、揺動条件算出部104は、上記揺動動作の間隔を変更する。より詳しくは、揺動条件算出部104は、異なる加工パス間で揺動動作の間隔を変更してもよい。また、揺動条件算出部104は、同一の加工パス内で揺動動作の間隔を変更してもよい。あるいは、揺動条件算出部104は、異なる加工パス間で揺動動作の間隔を変更するとともに、同一の加工パス内で揺動動作の間隔を変更してもよい。
【0026】
また、揺動条件算出部104は、ワーク14の径に応じて揺動動作の間隔を変更してもよい。例えば、ワーク14の径が小さくなるほど、即ち切削加工の回数が進むほど、揺動動作の間隔を長くする。あるいはその逆で、ワーク14の径が小さくなるほど、即ち切削加工の回数が進むほど、揺動動作の間隔を短くしてもよい。この揺動動作の間隔の設定については、後段で詳述する。
【0027】
揺動指令生成部106は、揺動動作実行判定部102による判定結果に基づいて、揺動動作の揺動指令を生成する。また、揺動指令生成部106は、揺動条件算出部104で算出された揺動条件に従って、揺動動作の揺動指令を生成する。本開示の一態様に係る揺動指令生成部106は、今回の切り込み動作における非揺動切削加工部分が前回の切り込み動作における揺動切削加工済部分を含むように、揺動指令を生成する。あるいは、揺動指令生成部106は、今回の切り込み動作における揺動切削加工部分が前回の切り込み動作における非揺動切削加工済部分を含むように、揺動指令を生成する。これにより、いわゆる空振りをより確実に発生させ、より確実に切屑の細断が可能となっている。
【0028】
加算器108は、モータ120に設けられるエンコーダ(不図示)による位置検出に基づいた位置フィードバックと、送り軸の位置指令と、の差分である位置偏差を算出する。送り軸の位置指令及び位置偏差は、後述の制御部110に入力される。
【0029】
制御部110は、送り軸の位置指令及び位置偏差に対して、揺動指令生成部106で生成された揺動指令を重畳することにより、送り軸を駆動するモータ120に対する駆動指令を生成する。なお、本開示の一態様では、送り軸の位置指令を一旦生成し、生成した位置指令に対して揺動指令を重畳したが、これに限定されない。予め揺動指令を重畳して送り軸の位置指令を生成してもよい。
【0030】
次に、本開示の一態様に係る工作機械の制御装置100によるねじ切り加工の動作について、
図4~
図6を参照しながら詳しく説明する。ここで、
図4~
図6は、本開示の一態様に係る工作機械の制御装置100によるねじ切り加工の動作を説明するための図である。これらの図は、
図3中のAの部分を、切削加工開始側からZ軸方向に視た図に相当する。より詳しくは、
図4は、各加工パス(以下、単にパスという)の揺動動作の間隔を一定とした場合の一例を示す図である。
図5は、ワーク14の径が小さくなるほど揺動動作の間隔を長くした場合の一例を示す図である。
図6は、各パスの揺動動作をワーク14に対して切り込む方向ではなく離隔する方向とした場合の一例を示す図である。
【0031】
なお、
図4~
図6におけるC軸、Z軸及びX軸は、上述の
図3におけるC軸、Z軸及びX軸と同様の定義で用いられる。また、
図4~
図6において、破線で丸く囲まれた部分は、今回の切削加工において前回の切削加工済部分を含む部分であり、いわゆる空振りが発生して切屑が細断される部分を示している。
【0032】
図4に示される動作例では、1パス目~4パス目いずれのパスも、断続的な揺動動作を行うものであり、直線状の非揺動切削加工と、曲線状に深く切り込む揺動切削加工とが交互に繰り返し行われる。また、1パス目~4パス目いずれのパスにおいても、
図4に示される揺動動作の間隔Lを、一定としたものである。最終パスについては、仕上げ加工であるため、揺動させない非揺動切削加工のみであり、全て直線状の切削加工となっている。
【0033】
ここで、揺動動作の間隔L、即ち
図4に示されるような揺動波形において隣接する頂点間の距離は、許容される切屑の長さに対応して設定可能である。許容される切屑の長さは、切削加工中に切削工具16に切屑が絡まる等して切削加工を阻害しない長さに設定される。これにより、切削加工を阻害しない範囲で切屑を細断可能となる。許容される切屑の長さは、Gコードやパラメータ等で指定できるようにすることで、断続的な揺動動作の間隔Lを指定できる。
【0034】
図5に示される動作例では、
図4に示される動作例と同様に、1パス目~4パス目いずれのパスも、断続的な揺動動作を行うものであり、直線状の非揺動切削加工と、曲線状に深く切り込む揺動切削加工とが交互に繰り返し行われる。ただし、1パス目~4パス目の各パス間で、
図5に示されるように揺動動作の間隔を異なるものとしている。最終パスについては、仕上げ加工であるため、揺動させない非揺動切削加工のみであり、全て直線状の切削加工となっている。
【0035】
具体的には、ワーク14の径が小さくなるほど、即ち切削加工が進むほど、揺動動作の間隔を長く設定している。そのため、
図5に示されるように、4パス目の揺動動作の間隔L2は、1パス目の揺動動作の間隔L1よりも長く設定されている。これにより、切削加工の回数が進むほどワーク14の周長が短くなるところ、揺動動作の間隔を長くすることにより、切屑の長さを一定に保つことが可能となる。
【0036】
図6に示される動作例では、
図4に示される動作例と同様に、1パス目~4パス目いずれのパスも、断続的な揺動動作を行うものであり、直線状の非揺動切削加工と、曲線状の揺動切削加工とが交互に繰り返し行われる。また、1パス目~4パス目いずれのパスにおいても、
図4に示される動作例と同様に、揺動動作の間隔Lを一定としたものである。ただし、1パス目~4パス目いずれのパスも、揺動動作がワーク14に対して切り込む方向ではなく離隔する方向となっている。即ち、
図4や
図5の動作例と比べて、揺動の方向を逆にしたものである。
【0037】
ここで、
図4や
図5に示されるようにワーク14に対して切り込む方向の揺動動作を行う場合には、次回パスの切削加工において今回パスの切削加工済部分を含むように揺動振幅を決定するためには、次回パスの切り込み深さが今回パスの揺動振幅に依存することから、数値制御装置等の制御装置100により加工プログラムを先読みする必要がある。これに対して、
図6に示される動作例のように揺動の向きを逆にすることにより、次回パスの揺動振幅が今回パスの揺動振幅に依存しないため、数値制御装置等の制御装置100により加工プログラムを先読みする必要がない。
【0038】
次に、本開示の一態様に係る工作機械の制御装置100によるねじ切り加工の最終パスでの仕上げ加工について、
図7及び
図8を参照しながら詳しく説明する。ここで、
図7は、従来のねじ切り加工の最終パスでの仕上げ加工を示す図である。
図8は、本開示の一態様に係る工作機械の制御装置100によるねじ切り加工の最終パスでの仕上げ加工を示す図である。なお、
図7及び
図8におけるC軸、Z軸及びX軸は、上述の
図3におけるC軸、Z軸及びX軸と同様の定義で用いられる。また、
図8中の破線で丸く囲まれた部分は、今回の切削加工において前回の切削加工済部分を含む部分であり、いわゆる空振りが発生して切屑が細断される部分を示している。
【0039】
従来のねじ切り加工では、最終の1回前のパスにおける揺動有りの切り込み動作後に、最終パスにおける揺動無しの切り込み動作を実行する場合において、本来であれば
図7中の破線72で示されるように、最終パスにおける加工部分が最終の1回前のパスにおける加工済部分を含む箇所(即ち、破線72と最終パスの直線が重なる箇所。破線72の谷部分であり、いわゆる空振り部分。)が存在することにより切屑が細断されるはずである。しかしながら、実際には
図7中の実線71で示されるように、最終パスにおける加工部分が最終の1回前のパスにおける加工済部分を含む箇所(即ち、実線71と最終パスの直線が重なる箇所。)が無いことにより、切屑が細断できない場合がある。これは、揺動動作時における位置指令と実位置との偏差である位置偏差に起因する。
【0040】
これに対して本開示の一態様では、理想的には
図8中の破線82で示されるように、最終パスにおける加工部分が最終の1回前のパスにおける加工済部分を含む箇所が生じ、実際にも
図8中の実線81及び丸で囲まれた破線で示されるように、最終パスにおける加工部分が最終の1回前のパスにおける加工済部分を含む箇所が生じて切屑が細断される。これは、同一パス内で揺動動作と非揺動動作とを設けることにより、非揺動動作時において位置偏差が収束するためである。これにより、最終パスにおいて切屑の確実な細断が可能となっている。
【0041】
なお、非揺動動作の期間は、単に時間や距離で予め決められた値で決定することも可能であり、上記位置偏差が所定の閾値以下であるか否かで決定することも可能である。また、上記の説明では、ねじ切り加工の最終パスでの仕上げ加工を例に出して説明したが、これに限定されるものではなく、揺動有りの切り込み動作後に次回パスで揺動無しの切り込み動作を実行する場合の全てについて同様のことが言える。
【0042】
以上を纏めると、本開示の一態様によれば、以下の効果が奏される。
(1) 切削工具16とワーク14を相対的に回転させる少なくとも一つの主軸18と、切削工具16をワーク14に対して相対移動させる少なくとも一つの送り軸と、を協調動作させて、切削工具16によりワーク14を径方向(X方向)に複数回切り込みながらねじ切り加工する工作機械の制御装置100において、切削工具16をワーク14の径方向(X方向)に揺動させる揺動動作を実行するか否かを判定する揺動動作実行判定部102と、揺動動作実行判定部102による判定結果に基づいて揺動動作の揺動指令を生成する揺動指令生成部106と、送り軸の位置指令に揺動指令を重畳して送り軸の駆動指令を生成する制御部110と、を設けた。そして、揺動動作実行判定部102は、揺動動作を断続的に実行するよう判定し、揺動指令生成部106は、今回の切り込み動作における非揺動切削加工部分が前回の切り込み動作における揺動切削加工済部分を含むように、又は、今回の切り込み動作における揺動切削加工部分が前回の切り込み動作における非揺動切削加工済部分を含むように、揺動指令を生成する構成とした。
これにより、揺動動作を断続的に行うことで従来に比してサイクルタイムを延長することなく、確実に切屑を細断できる。加えて、揺動動作の回数を低減できるため、揺動動作による工作機械への負担を軽減できる。
また、従来であれば揺動動作時に応答遅れ等により生じる大きな位置偏差によって、削り残しが発生して切屑を細断できない場合があったところ、本開示によれば、非揺動動作時において位置偏差が収束するため、前回パスの揺動動作後に今回パスの揺動無し動作を実行した場合に確実に切屑を細断できる。
【0043】
(2) 揺動動作実行判定部102は、今回の切り込み動作において、前回の切り込み動作における揺動切削加工済部分と異なる位置で揺動切削加工するように、揺動動作の実行を判定するように構成した。
これにより、今回の切削加工において、前回の切削加工済部分をより確実に含ませることができるため、いわゆる空振りをより確実に発生させ、より確実に切屑を細断できる。
【0044】
(3) 揺動指令生成部106に出力する揺動動作の条件を、加工プログラム、加工パラメータ、及び前記工作機械からのフィードバック値のうちの少なくとも一つに基づいて算出する揺動条件算出部104をさらに設け、揺動条件算出部104は、揺動動作の間隔を変更するよう構成した。
これにより、揺動動作の間隔、振幅、周期等の条件を算出可能となり、より確実に切屑を細断できる。特に、揺動動作の間隔を変更することにより、切屑の長さを調整できる。
【0045】
(4) 揺動条件算出部104は、異なる加工パス間で揺動動作の間隔を変更する構成とした。これにより、より確実に切屑を細断でき、また、切屑の長さを調整できる。
【0046】
(5) 揺動条件算出部104は、同一の加工パス内で揺動動作の間隔を変更する構成とした。これにより、より確実に切屑を細断でき、また、切屑の長さを調整できる。
【0047】
(6) 揺動条件算出部104は、ワーク14の径に応じて揺動動作の間隔を変更する構成とした。
これにより、切削加工の回数が進むほどワーク14の周長が短くなるところ、ワーク14の径が小さくなるほど揺動動作の間隔を長くすることにより、切屑の長さを一定に保つことができるため、より効率的でスムーズなねじ切り加工ができる。
【0048】
(7) 揺動動作実行判定部102は、揺動動作による切り込みを断続的に実行した後に、次回パスにおいて揺動動作の無い切り込みを実行するよう判定する構成とした。
これにより、揺動切削を実行した後の次回パスにおいて非揺動切削加工を実行した場合に、切屑を確実に細断できる。例えば最終パスの仕上げ加工においても、切屑を確実に細断できる。
【0049】
(8) 揺動動作実行判定部102は、断続的な揺動動作による非揺動切削加工部において、位置偏差が所定の閾値以下になるまで非揺動切削加工を実行するよう判定する構成とした。
これにより、断続的な揺動動作による非揺動切削加工部において、切屑をより確実に細断できる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10 ねじ溝
12 ねじ
14 ワーク
16 切削工具
18 主軸
100 制御装置
1z02 揺動動作実行判定部
104 揺動条件算出部
106 揺動指令生成部
108 加算器
110 制御部
120 モータ
X X軸
Z Z軸
C C軸
L,L1,L2 揺動動作の間隔