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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】X線撮影装置、およびX線発生装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20231128BHJP
   H05G 1/52 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
A61B6/03 373
A61B6/03 320C
H05G1/52 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019212313
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021083472
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 英稔
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-238614(JP,A)
【文献】特開2019-118699(JP,A)
【文献】特開2010-103111(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0104062(US,A1)
【文献】特開2011-167465(JP,A)
【文献】特開2012-100913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
H05G 1/00-2/00
H01J 35/00-35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、複数の陰極と、印加されたグリッド電圧に応じて、複数の前記陰極のうち少なくとも一つの陰極により放出された熱電子の前記陽極への到達量を変化させるグリッド電極と、を備えるX線管と、
前記陽極と前記複数の陰極のそれぞれとの間に印加されるそれぞれの管電圧を周期的に切り替える管電圧制御部と、
前記管電圧制御部によるそれぞれの前記管電圧の切り替えに応じて、前記グリッド電圧を制御するグリッド電圧制御部と、
前記管電圧を切り替えるタイミングに同期して、複数の前記陰極の加熱量を制御する加熱量制御部と、
を備え
複数の前記陰極は、前記グリッド電極が設けられていない第1の陰極と、前記グリッド電極が設けられている第2の陰極とを含み、
前記管電圧制御部は、前記複数の陰極のそれぞれに印加する第1の管電圧と前記第1の管電圧よりも低い第2の管電圧とを周期的に切り替え、
前記グリッド電圧制御部は、前記管電圧制御部が前記第2の管電圧を印加するタイミングに同期して前記グリッド電極に印加する前記グリッド電圧を制御し、
前記加熱量制御部は、前記第1の陰極と前記第2の陰極との加熱量を個別に制御する、
X線撮影装置。
【請求項2】
前記加熱量制御部は、前記管電圧制御部が前記第1の管電圧と前記第2の管電圧とを切り替えた場合でも前記X線管に流れる管電流が一定になるように前記加熱量を制御する、
請求項に記載のX線撮影装置。
【請求項3】
前記加熱量制御部は、前記管電圧制御部が前記第1の管電圧と前記第2の管電圧とを切り替えた場合でも前記X線管により発生させるX線の線量の変化を低減させるように前記加熱量を制御する、
請求項に記載のX線撮影装置。
【請求項4】
前記第1の陰極と前記第2の陰極とは同じ形状を有する、
請求項から請求項のうちいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【請求項5】
前記第1の陰極と前記第2の陰極とは異なる形状を有する、
請求項から請求項のうちいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【請求項6】
前記第2の陰極のサイズは、前記第1の陰極のサイズよりも小さい、
請求項に記載のX線撮影装置。
【請求項7】
前記加熱量制御部は、前記第1の陰極のサイズと前記第2の陰極のサイズとに応じて前記加熱量を制御する、
請求項に記載のX線撮影装置。
【請求項8】
前記X線管は、印加された第2のグリッド電圧に応じて、それぞれの前記陰極により放出された熱電子の前記陽極への到達量を変化させる第2のグリッド電極、をさらに備え、
前記グリッド電圧制御部は、それぞれの前記陰極により放出された熱電子によって前記X線管により発生させるX線の焦点のサイズに応じて、前記第2のグリッド電圧を制御する、
請求項1から請求項のうちいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【請求項9】
陽極と、複数の陰極と、印加されたグリッド電圧に応じて、複数の前記陰極のうち少なくとも一つの陰極により放出された熱電子の前記陽極への到達量を変化させるグリッド電極と、を備えるX線管と、
前記陽極と前記複数の陰極のそれぞれとの間に印加されるそれぞれの管電圧を周期的に切り替える管電圧制御部と、
を備え
複数の前記陰極は、前記グリッド電極が設けられていない第1の陰極と、前記グリッド電極が設けられている第2の陰極とを含み、
前記管電圧制御部は、前記複数の陰極のそれぞれに印加する第1の管電圧と前記第1の管電圧よりも低い第2の管電圧とを周期的に切り替える、
X線発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線撮影装置、およびX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)装置などのX線撮影装置において、2つのX線発生源(X線管)を備え、デュアルエナジースキャン(Dual Energy Scan)という方式を用いるものがある。デュアルエナジースキャン方式のX線CT装置では、被検体に対して低エネルギーのX線を照射したときのCT値と、高エネルギーのX線を照射したときのCT値との変化に基づいて、検査用の画像データを生成する。被検体に対して異なるエネルギーのX線を照射したときのそれぞれのCT値を取得する方法としては、通常の検出(スキャン)をX線管に印加する管電圧を変えて複数回行う方法や、複数のX線管に異なる管電圧を印加し、それぞれのX線管により発生させたX線を対応する異なる検出器でスキャンする方法などがある。また、被検体に対して異なるエネルギーのX線を照射したときのそれぞれのCT値を取得する方法としては、X線管に印加する管電圧を高速に切り替えてそれぞれのスキャンを時分割に行う方法などもある。
【0003】
ところで、X線管に印加する管電圧を高速に切り替える方法では、X線を連続して出力しているときに高速で管電圧を切り替えると、X線管を構成する熱陰極のエミッション特性により、高い管電圧を印加したときと低い管電圧を印加したときとで管電流が異なる値となってしまう。より具体的には、低い管電圧を印加したときの管電流は、高い管電圧を印加したときの管電流より低くなってしまう。つまり、X線管に印加する管電圧を高速に切り替えるデュアルエナジースキャン方式では、高い管電圧を印加したときと低い管電圧を印加したときとで、X線管における管電流が変動してしまう。しかしながら、X線管の熱陰極は大きな熱抵抗を持つため、低いエミッションに対する補正を高速な管電圧の切り替えに追従させることは容易ではない。そして、この管電流が管電圧に依存する特性は、X線管の個体差の影響をより多く含むことになる。
【0004】
さらに、管電圧が低いときのX線のエネルギーは、管電流も低いため、管電圧が高いときのX線のエネルギーよりも低くなってしまう。つまり、X線管に印加する管電圧を高速に切り替えるデュアルエナジースキャン方式では、高い管電圧を印加したときと低い管電圧を印加したときとで、X線管が発生するX線の線量(X線量)に差が生じてしまう。このことから、X線管に印加する管電圧を高速に切り替えるデュアルエナジースキャン方式のX線CT装置では、低い管電圧を印加したときのX線を検出することができるように、X線の検出器側にもより広いダイナミックレンジが要求される。或いは、管電圧が低いときでも十分なX線量を得られるようにするため、管電圧が高いときのX線量を必要以上に高くするようなX線の条件(X線条件)を設定しなければならなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-103111号公報
【文献】特開2011-167465号公報
【文献】特開2018-126506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、デュアルエナジースキャン方式において、X線管の管電圧が低いときのX線の放出特性の改善を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のX線撮影装置は、陽極と、複数の陰極と、印加されたグリッド電圧に応じて、複数の前記陰極のうち少なくとも一つの陰極により放出された熱電子の前記陽極への到達量を変化させるグリッド電極と、を備えるX線管と、前記陽極と前記複数の陰極のそれぞれとの間に印加されるそれぞれの管電圧を周期的に切り替える管電圧制御部と、前記管電圧制御部によるそれぞれの前記管電圧の切り替えに応じて、前記グリッド電圧を制御するグリッド電圧制御部と、前記管電圧を切り替えるタイミングに同期して、複数の前記陰極の加熱量を制御する加熱量制御部と、を備え、複数の前記陰極は、前記グリッド電極が設けられていない第1の陰極と、前記グリッド電極が設けられている第2の陰極とを含み、前記管電圧制御部は、前記複数の陰極のそれぞれに印加する第1の管電圧と前記第1の管電圧よりも低い第2の管電圧とを周期的に切り替え、前記グリッド電圧制御部は、前記管電圧制御部が前記第2の管電圧を印加するタイミングに同期して前記グリッド電極に印加する前記グリッド電圧を制御し、加熱量制御部は、前記第1の陰極と、前記第2の陰極との加熱量を個別に制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るX線撮影装置の構成図。
図2】実施形態に係るX線撮影装置が備えるX線管装置の構成の一例を模式的に示す図。
図3】実施形態に係るX線撮影装置が備えるX線管装置がX線を発生させる様子の一例を模式的に示す図。
図4】実施形態に係るX線撮影装置が備えるX線高電圧装置の概略構成図。
図5】実施形態に係るX線撮影装置が備えるX線高電圧装置における動作のタイミングの一例を示すタイミングチャート。
図6】実施形態に係るX線撮影装置が備えるX線高電圧装置における別の動作のタイミングの一例を示すタイミングチャート。
図7】実施形態に係るX線撮影装置が備えるX線管装置の別の構成の一例を模式的に示す図。
図8】実施形態に係るX線撮影装置が備える別の構成のX線管装置がX線を発生させる様子の一例を模式的に示す図。
図9】実施形態に係るX線撮影装置が備えるX線管装置のさらに別の構成の一例を模式的に示す図。
図10】実施形態に係るX線撮影装置が備えるさらに別の構成のX線管装置がX線を発生させる様子の一例を模式的に示す図。
図11】実施形態に係るX線撮影装置が備えるX線管装置のさらに別の構成の一例を模式的に示す図。
図12】実施形態に係るX線撮影装置が備えるさらに別の構成のX線管装置がX線を発生させる様子の一例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のX線撮影装置、およびX線発生装置を、図面を参照して説明する。X線撮影装置は、例えば、X線CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)装置など、寝台装置に載置した状態の被検体の医用画像を取得して診断をする医用診断装置である。以下の説明においては、X線撮影装置が、CT検査をするためのX線CT装置である場合を例に挙げて説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置)の構成図である。X線CT装置1は、被検体にX線を照射し、被検体を通過したX線を検出する医用診断装置である。X線CT装置1では、検出したX線に応じた画像を生成して表示する。これにより、CT検査の実施者(医師や技師など)は、被検体に病変があるか否かなどを目視で確認することができる。
【0011】
X線CT装置1は、デュアルエナジースキャン(Dual Energy Scan)方式のX線スキャンを実行する。X線CT装置1におけるデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンでは、X線管に印加する管電圧を周期的に(高速に)切り替えながら、被検体に高エネルギーのX線と低エネルギーのX線とをほぼ同時に照射する。また、X線CT装置1は、デュアルエナジースキャン後の画像処理において、検出したX線に基づく再構成画像(CT画像)など画像を生成する。
【0012】
X線CT装置1は、例えば、架台装置10と、寝台装置30と、コンソール装置40とを備える。なお、図1では、説明の都合上、架台装置10をZ軸方向から見た図とX軸方向から見た図との両方に図を示しているが、実際には、X線CT装置1が備える架台装置10は一つである。本実施形態では、非チルト状態での回転フレーム17の中心軸または寝台装置30の天板33の長手方向をZ軸方向、Z軸方向に直交し、床面に対して水平である軸をX軸方向、Z軸方向に直交し、床面に対して垂直である方向をY軸方向とそれぞれ定義する。X線CT装置1は、特許請求の範囲における「X線撮影装置」や「X線発生装置」の一例である。
【0013】
架台装置10は、例えば、X線管を内蔵するX線管装置11と、ウェッジ12と、コリメータ13と、X線高電圧装置14と、X線検出器15と、データ収集システム(以下、DAS:Data Acquisition System)16と、回転フレーム17と、制御装置18とを備える。
【0014】
X線管装置11は、内蔵するX線管が、X線高電圧装置14により印加された高電圧の管電圧に応じて、陰極(フィラメント)から陽極(ターゲット)に向けて熱電子を放出させることでX線を発生させる。X線管装置11は、X線管として、例えば、真空管を含む。以下の説明においては、説明を容易にするため、X線管装置11がX線管であるものとして説明する。X線管装置11は、例えば、陰極から回転する陽極に熱電子を放出させることによりX線を発生させる回転陽極型のX線管である。X線管装置11が備える陰極は、加熱された状態で管電圧が印加されることにより、陽極に向けて熱電子を放出させる。X線管装置11は、陰極の加熱量と印加された管電圧とに応じた量の熱電子を陽極に向けて放出させる。X線管装置11に印加された管電圧は、その電位差によって、陰極により放出された熱電子を加速して陽極に到達させる。そして、X線管装置11は、放出させた熱電子により陰極と陽極との間に流れた管電流に応じた線量のX線を発生させる。つまり、X線管装置11が発生させるX線の線量(X線量)は、陰極の加熱量と印加する管電圧とを変化させて陰極と陽極との間に流れる管電流を制御することによって、X線量を変えることができる。
【0015】
X線管装置11は、1つの陽極と複数の陰極とを備える。X線管装置11は、X線高電圧装置14により印加された管電圧の電圧値に応じて高エネルギーのX線と低エネルギーのX線とを発生させる。これにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する。X線管装置11が備えるそれぞれの陰極の加熱量が一定である場合において、X線管装置11に高エネルギーのX線を発生させる場合には、高い電圧値の管電圧を印加し、X線管装置11に低エネルギーのX線を発生させる場合には、X線管装置11に高エネルギーのX線を発生させる場合よりも低い電圧値の管電圧を印加する。
【0016】
また、X線管装置11は、複数の陰極のうち少なくとも一つの陰極にグリッド電極が設けられ、X線高電圧装置14により印加されたグリッド電圧に応じて陰極により放出された熱電子の陽極への到達量を変化させる構成となっている。グリッド電圧は、その電圧値によって、グリッド電極が設けられている陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)するか否かを切り替える。つまり、X線管装置11は、X線高電圧装置14により印加されたグリッド電圧の電圧値によって、グリッド電極が設けられている陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)するか否かを切り替えることができる構成となっている。なお、グリッド電極は、陰極により放出された熱電子を遮蔽(カットオフ)する機能に加えて、例えば、X線管装置11が発生させるX線の焦点の位置を調整する機能を持つものであってもよい。
【0017】
X線管装置11は、特許請求の範囲における「X線管」の一例である。また、グリッド電極が設けられていない陰極は、特許請求の範囲における「第1の陰極」の一例であり、グリッド電極が設けられている陰極は、特許請求の範囲における「第2の陰極」の一例である。
【0018】
なお、上述したように、X線管装置11がX線を発生させる管電圧以外の要素として、陰極の加熱量もある。ただし、陰極の加熱量の変化、つまり、熱の変化は、応答性は低いため、X線CT装置1におけるデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンのタイミングに同期させることが難しい。このため、X線CT装置1では、X線管装置11が備えるそれぞれの陰極の加熱量を一定にし、X線管装置11に印加する管電圧を周期的に切り替えることにより、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実現している。
【0019】
[X線管装置11の構成の一例]
ここで、X線管装置11の構成の一例について説明する。図2は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるX線管装置11の構成の一例を模式的に示す図である。また、図3は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるX線管装置11がX線を発生させる様子の一例を模式的に示す図である。図2には、X線管装置11が内蔵するX線管における陰極部を熱電子が放出される側から見た場合の構成の一例を示している。また、図3には、X線管装置11が内蔵するX線管においてX線を発生させる様子を模式的に示している。
【0020】
図2に示した陰極部11Cの構成は、X線管装置11(より具体的には、X線管装置11が内蔵するX線管)が二つの陰極を備える場合の一例である。陰極部11Cは、例えば、陰極FAと、陰極FBと、グリッド電極Gとを備える。陰極FAと陰極FBとのそれぞれは、同じ大きさ(サイズ)の陰極(フィラメント)である。陰極FAと陰極FBとのそれぞれは、例えば、細線形状のタングステンやニッケルなどの金属により形成されている。このため、陰極FAと陰極FBとのそれぞれは、X線高電圧装置14により流されるフィラメント電流に応じて発熱し、熱電子を放出する。陰極部11Cでは、陰極FBにグリッド電極Gが設けられている。グリッド電極Gは、例えば、網目状の電極であり、陰極FBを覆うように形成されている。
【0021】
このような構成のX線管装置11において、陽極と、陰極部11Cが備えるそれぞれの陰極との間に管電圧を印加することにより、それぞれの陰極から陽極に向けて熱電子が放出される。図3には、X線管装置11が内蔵するX線管において、陰極FAから陽極Aに向けて熱電子TeAが放出される様子と、陰極FBから陽極Aに向けて熱電子TeBが放出される様子とを示している。X線管装置11は、内蔵するX線管の陽極Aに到達した熱電子に応じたエネルギーのX線を発生させる。図3には、陽極Aに到達した熱電子TeAおよび熱電子TeBに応じたエネルギーのX線を発生させている様子を示している。
【0022】
なお、図2に示したX線管装置11の構成の一例では、内蔵するX線管の陰極FBにのみグリッド電極Gが設けられている。このため、図3に示した一例では破線で示した、陰極FBにより放出された熱電子TeBの陽極Aへの到達を遮蔽(カットオフ)するか否かが切り替えられる。より具体的には、カットオフしないことを表す電圧値のグリッド電圧がX線高電圧装置14によりグリッド電極Gに印加された場合には、陰極FBにより放出された熱電子TeBはグリッド電極Gにより妨げられずに陽極Aに到達するように切り替えられる。一方、カットオフすることを表す電圧値のグリッド電圧がX線高電圧装置14によりグリッド電極Gに印加された場合には、陰極FBにより放出された熱電子TeBはグリッド電極Gにより妨げられて陽極Aに到達しないように切り替えられる。
【0023】
図1に戻り、ウェッジ12は、X線管装置11により発生されたX線を被検体Pに照射する際の線量(X線量)を調節するためのフィルタである。ウェッジ12は、被検体Pに照射するX線量の分布が予め定められた分布になるように、自身を透過するX線を減衰させる。ウェッジ12は、ウェッジフィルタ(wedge filter)、ボウタイフィルタ(bow-tie filter)とも呼ばれる。ウェッジ12は、例えば、所定のターゲット角度や所定の厚みとなるようにアルミニウムを加工したものである。
【0024】
コリメータ13は、ウェッジ12を透過したX線の照射範囲を絞り込むための機構である。コリメータ13は、例えば、複数の鉛板を組み合わせてスリットを形成することにより、X線の照射範囲を絞り込む。コリメータ13は、X線絞りと呼ばれる場合もある。
【0025】
X線高電圧装置14は、X線管装置11が備える陽極と複数の陰極のそれぞれとの間に印加されるそれぞれの管電圧を周期的に切り替える。また、X線高電圧装置14は、それぞれの管電圧の切り替えに応じて、X線管装置11が備えるグリッド電極に印加するグリッド電圧を制御する。また、X線高電圧装置14は、それぞれの管電圧の切り替えに応じて、X線管装置11が備える陰極の加熱量を制御する。X線高電圧装置14は、例えば、高電圧発生装置と、X線制御装置とを備える。X線高電圧装置14は、回転フレーム17に設けられてもよいし、架台装置10に設けられた不図示の固定フレーム(後述)の側に設けられてもよい。X線高電圧装置14は、特許請求の範囲における「管電圧制御部」、「グリッド電圧制御部」、および「加熱量制御部」の一例である。また、X線管装置11とX線高電圧装置14(コンソール装置40を含んでもよい)との構成は、特許請求の範囲における「X線撮影装置」や「X線発生装置」の一例でもある。
【0026】
高電圧発生装置は、電源や、変圧器(トランス)および整流器などを含む電気回路を備える。高電圧発生装置は、X線管装置11に印加する高電圧を発生させる。高電圧発生装置は、電源が出力する電圧を上述した変圧器によって昇圧を行うものであってもよいし、インバータによって昇圧を行うものであってもよい。高電圧発生装置は、X線管装置11が備える陽極と複数の陰極のそれぞれとの間に印加するそれぞれの管電圧を発生させる。例えば、高電圧発生装置は、X線管装置11に高エネルギーのX線を発生させるために印加する高い電圧値(以下、「高電圧High-kV」という)の管電圧と、X線管装置11に低エネルギーのX線を発生させるために印加する、高電圧High-kVよりも低い電圧値(以下、「低電圧Low-kV」という)の管電圧とのそれぞれを発生させる。高電圧High-kVの管電圧は、特許請求の範囲における「第1の管電圧」の一例であり、低電圧Low-kVの管電圧は、特許請求の範囲における「第2の管電圧」の一例である。
【0027】
また、高電圧発生装置は、X線管装置11が備えるグリッド電極に印加するグリッド電圧を発生させる。また、高電圧発生装置は、X線管装置11が備える陰極の加熱量を個別に制御する(少なくとも一つの陰極の加熱量を制御する)ためのフィラメント電流を発生させる。
【0028】
X線制御装置は、コンソール装置40からの管電圧制御信号に従って、X線管装置11に発生させるべきX線の線量に応じて高電圧発生装置によるそれぞれの管電圧の出力を制御する。管電圧制御信号は、X線管装置11に印加する管電圧の電圧値を高電圧High-kVまたは低電圧Low-kVに切り替えるための同期信号である。管電圧制御信号は、例えば、後述するビュー期間に同期した信号である。X線制御装置は、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行するために必要な管電圧がX線管装置11に印加されるように、高電圧発生装置に、高電圧High-kVと低電圧Low-kVとのいずれの電圧値の管電圧を出力させるかを、管電圧制御信号に応じて周期的に切り替える制御をする。
【0029】
また、X線制御装置は、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際の管電圧の出力の切り替え(電圧値の高電圧High-kVと低電圧Low-kVとの切り替え)に応じて、高電圧発生装置によるグリッド電圧の出力を制御する。より具体的には、X線制御装置は、高電圧発生装置に低電圧Low-kVの管電圧を出力させるタイミングに同期してグリッド電圧の出力を制御する。例えば、X線制御装置は、X線管装置11に低電圧Low-kVの管電圧を印加するタイミングのときには、グリッド電極が設けられている陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)しないことを表す電圧値のグリッド電圧を出力させるように制御する。一方、X線制御装置は、X線管装置11に高電圧High-kVの管電圧を印加するタイミングのときには、グリッド電極が設けられている陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)することを表す電圧値のグリッド電圧を出力させるように制御する。つまり、X線制御装置は、X線管装置11に高電圧High-kVの管電圧を印加するタイミングのときのみ、グリッド電極が設けられている陰極により放出された熱電子をカットオフさせるように制御する。
【0030】
さらに、X線制御装置は、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際の管電圧の高電圧High-kVと低電圧Low-kVとの切り替え制御、およびグリッド電圧の出力制御に応じて、X線管装置11が備えるそれぞれの陰極に流しているフィラメント電流をフィードバック制御する。つまり、X線制御装置は、X線管装置11が備えるそれぞれの陰極の加熱量が安定するようにフィードバック制御する。例えば、X線制御装置は、グリッド電極が設けられていない陰極に対して高電圧High-kVの管電圧を印加させているときには、検出したX線管装置11の管電流に基づいてフィラメント電流をフィードバック制御することにより陰極の加熱量の安定化を図り、低電圧Low-kVの管電圧を印加させているときには、高電圧High-kVの管電圧を印加させているときの加熱量を維持するようにフィラメント電流を一定に制御する。一方、X線制御装置は、グリッド電極が設けられている陰極に対して低電圧Low-kVの管電圧を印加させているときには、検出したX線管装置11の管電流に基づいてフィラメント電流をフィードバック制御することにより陰極の加熱量の安定化を図り、高電圧High-kVの管電圧を印加させているときには、低電圧Low-kVの管電圧を印加させているときの加熱量を維持するようにフィラメント電流を一定に制御する。このように、X線制御装置は、X線管装置11が備えるそれぞれの陰極の加熱量が安定するように、フィラメント電流を個別に制御する。
【0031】
X線検出器15は、X線管装置11が発生させ、被検体Pを通過して入射したX線の強度を検出する。X線検出器15は、検出したX線の強度に応じた電気信号(光信号などでもよい)をDAS16に出力する。X線検出器15は、例えば、複数のX線検出素子列を有する。複数のX線検出素子列のそれぞれは、X線管装置11の焦点を中心とした円弧に沿ってチャネル方向に複数のX線検出素子が配列されたものである。複数のX線検出素子列は、スライス方向(列方向、row方向)に配列される。
【0032】
X線検出器15は、例えば、グリッドと、シンチレータアレイと、光センサアレイとを有する間接型の検出器である。シンチレータアレイは、複数のシンチレータを有する。それぞれのシンチレータは、シンチレータ結晶を有する。シンチレータ結晶は、入射するX線の強度に応じた光量の光を発する。グリッドは、シンチレータアレイのX線が入射する面に配置され、散乱X線を吸収する機能を有するX線遮蔽板を有する。なお、グリッドは、コリメータ(一次元コリメータまたは二次元コリメータ)と呼ばれる場合もある。光センサアレイは、例えば、光電子増倍管(フォトマルチプライヤー:PMT)などの光センサを有する。光センサアレイは、シンチレータにより発せられる光の光量に応じた電気信号を出力する。X線検出器15は、入射したX線を電気信号に変換する半導体素子を有する直接変換型の検出器であってもよい。
【0033】
DAS16は、例えば、増幅器と、積分器と、A/D変換器とを有する。増幅器は、X線検出器15の各X線検出素子により出力される電気信号に対して増幅処理を行う。積分器は、増幅器により増幅処理が行われた電気信号をビュー期間(後述)に亘って積分する。A/D変換器は、積分器による積分結果を示す電気信号をデジタル信号に変換する。DAS16は、デジタル信号に基づく検出データをコンソール装置40に出力する。検出データは、生成元のX線検出素子のチャンネル番号、列番号、および収集されたビューを示すビュー番号により識別されたX線強度のデジタル値である。ビュー番号は、回転フレーム17の回転に応じて変化する番号であり、例えば、回転フレーム17の回転に応じてインクリメントされる番号である。従って、ビュー番号は、X線管装置11の回転角度を示す情報である。ビュー期間とは、あるビュー番号に対応する回転角度から、次のビュー番号に対応する回転角度に到達するまでの間に収まる期間である。DAS16は、ビューの切り替わりを、制御装置18から入力されるタイミング信号によって検知してもよいし、内部のタイマーによって検知してもよいし、図示しないセンサから取得される信号によって検知してもよい。X線CT装置1がフルスキャンを行う場合においてX線管装置11によりX線が連続曝射されている場合、DAS16は、全周囲分(360度分)の検出データ群を収集する。X線CT装置1がハーフスキャンを行う場合においてX線管装置11によりX線が連続曝射されている場合、DAS16は、半周囲分(180度分)の検出データを収集する。
【0034】
回転フレーム17は、X線管装置11、ウェッジ12、およびコリメータ13と、X線検出器15とを対向支持する円環状の部材である。回転フレーム17は、固定フレームによって、内部に導入された被検体Pを中心として回転自在に支持される。回転フレーム17は、さらにDAS16を支持する。DAS16が出力する検出データは、回転フレーム17に設けられた発光ダイオード(LED)を有する送信機から、光通信によって、架台装置10の非回転部分(例えば、不図示の固定フレーム)に設けられたフォトダイオードを有する受信機に送信され、受信機によってコンソール装置40に転送される。なお、回転フレーム17から非回転部分への検出データの送信方法として、前述の光通信を用いた方法に限らず、非接触型の任意の送信方法を採用してよい。回転フレーム17は、X線管装置11などを支持して回転させることができるものであれば、円環状の部材に限らず、アームのような部材であってもよい。
【0035】
X線CT装置1は、例えば、X線管装置11とX線検出器15の双方が回転フレーム17によって支持されて被検体Pの周囲を回転するRotate/Rotate-TypeのX線CT装置(第3世代CT)であるが、これに限らず、円環状に配列された複数のX線検出素子が固定フレームに固定され、X線管装置11が被検体Pの周囲を回転するStationary/Rotate-TypeのX線CT装置(第4世代CT)であってもよい。
【0036】
制御装置18は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを有する処理回路と、モータやアクチュエータなどを含む駆動機構とを有する。制御装置18は、コンソール装置40または架台装置10に取り付けられた入力インターフェース43からの入力信号を受け付けて、架台装置10および寝台装置30の動作を制御する。
【0037】
制御装置18は、例えば、回転フレーム17を回転させたり、架台装置10をチルトさせたり、寝台装置30の天板33を移動させたりする。架台装置10をチルトさせる場合、制御装置18は、入力インターフェース43に入力された傾斜角度(チルト角度)に基づいて、Z軸方向に平行な軸を中心に回転フレーム17を回転させる。制御装置18は、不図示のセンサの出力などによって回転フレーム17の回転角度を把握している。また、制御装置18は、回転フレーム17の回転角度を随時、処理回路50に提供する。制御装置18は、架台装置10に設けられてもよいし、コンソール装置40に設けられてもよい。
【0038】
寝台装置30は、スキャン対象の被検体Pを載置して移動させ、架台装置10の回転フレーム17の内部に導入する装置である。寝台装置30は、例えば、基台31と、寝台駆動装置32と、天板33と、支持フレーム34とを備える。基台31は、支持フレーム34を鉛直方向(Y軸方向)に移動可能に支持する筐体を含む。寝台駆動装置32は、モータやアクチュエータを含む。寝台駆動装置32は、被検体Pが載置された天板33を、支持フレーム34に沿って、天板33の長手方向(Z軸方向)に移動させる。天板33は、被検体Pが載置される板状の部材である。
【0039】
寝台駆動装置32は、天板33だけでなく、支持フレーム34を天板33の長手方向に移動させてもよい。また、上記とは逆に、架台装置10がZ軸方向に移動可能であり、架台装置10の移動によって回転フレーム17が被検体Pの周囲に来るように制御されてもよい。また、架台装置10と天板33の双方が移動可能な構成であってもよい。また、X線CT装置1は、被検体Pが立位または座位でスキャンされる方式の装置であってもよい。この場合、X線CT装置1は、寝台装置30に代えて被検体支持機構を有し、架台装置10は、回転フレーム17を、床面に垂直な軸方向を中心に回転させる。
【0040】
コンソール装置40は、例えば、メモリ41と、ディスプレイ42と、入力インターフェース43と、ネットワーク接続回路44と、処理回路50とを備える。本実施形態では、コンソール装置40は架台装置10とは別体であるものとして説明するが、架台装置10にコンソール装置40の各構成要素の一部または全部が含まれてもよい。
【0041】
メモリ41は、例えば、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)、光ディスクなどにより実現される。メモリ41は、例えば、DAS16により出力された検出データ、検出データに基づいて生成される投影データや再構成画像(CT画像)などのデータを記憶する。これらのデータは、メモリ41ではなく(或いはメモリ41に加えて)、X線CT装置1が通信可能な外部メモリに記憶されてもよい。外部メモリは、例えば、外部メモリを管理するクラウドサーバが読み書きの要求を受け付けることで、クラウドサーバによって制御されるものである。外部メモリは、例えば、PACS(Picture Archiving and Communication Systems)と称されるシステムにより実現される。PACSとは、各種画像診断装置によって撮影された画像などを体系的に記憶する医用画像管理システムである。
【0042】
ディスプレイ42は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ42は、処理回路50によって生成された画像や、X線CT装置1の操作者(医師や技師など)による各種操作を受け付けるGUI(Graphical User Interface)画像などを表示する。ディスプレイ42は、例えば、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)やCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどである。ディスプレイ42は、架台装置10に設けられてもよい。ディスプレイ42は、デスクトップ型でもよいし、コンソール装置40の本体部と無線通信可能な表示装置(例えば、タブレット端末)であってもよい。
【0043】
入力インターフェース43は、X線CT装置1の操作者による各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作の内容を示す電気信号を処理回路50に出力する。例えば、入力インターフェース43は、検出データを収集する際の収集条件、投影データを生成する際の生成条件、再構成画像を再構成する際の再構成条件、再構成画像から後処理画像を生成する際の画像処理条件などの入力操作を受け付ける。例えば、入力インターフェース43は、マウスやキーボード、タッチパネル、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、カメラ、赤外線センサ、マイクなどにより実現される。入力インターフェース43は、架台装置10に設けられてもよい。また、入力インターフェース43は、コンソール装置40の本体部と無線通信可能な表示装置(例えば、タブレット端末)により実現されてもよい。
【0044】
ネットワーク接続回路44は、例えば、プリント回路基板を有するネットワークカード、或いは無線通信モジュールなどを含む。ネットワーク接続回路44は、接続する対象のネットワークの形態に応じた情報通信用プロトコルを実装する。ネットワークは、例えば、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)、インターネット、セルラー網、専用回線などを含む。
【0045】
処理回路50は、X線CT装置1の全体の動作を制御する。処理回路50は、例えば、システム制御機能51、前処理機能52、再構成処理機能53、画像処理機能54、スキャン制御機能55、表示制御機能56などを実行する。処理回路50は、例えば、ハードウェアプロセッサがメモリ41に記憶されたプログラム(ソフトウェア)を実行することにより、これらの機能を実現するものである。
【0046】
ハードウェアプロセッサとは、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)または複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路(circuitry)を意味する。メモリ41にプログラムを記憶させる代わりに、ハードウェアプロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合、ハードウェアプロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。ハードウェアプロセッサは、単一の回路として構成されるものに限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのハードウェアプロセッサとして構成され、各機能を実現するようにしてもよい。また、複数の構成要素を1つのハードウェアプロセッサに統合して各機能を実現するようにしてもよい。また、複数の構成要素を1つの専用のLSIに組み込んで各機能を実現するようにしてもよい。ここで、プログラム(ソフトウェア)は、予めROMやRAM、HDD、フラッシュメモリなどのメモリ41を構成する記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がコンソール装置40に備えるドライブ装置に装着されることで、コンソール装置40に備える記憶装置にインストールされてもよい。また、プログラム(ソフトウェア)は、他のコンピュータ装置からネットワーク接続回路44が接続するネットワークを介して予めダウンロードされて、コンソール装置40に備える記憶装置にインストールされてもよい。
【0047】
コンソール装置40または処理回路50が備える各構成要素は、分散化されて複数のハードウェアにより実現されてもよい。処理回路50は、コンソール装置40が備える構成ではなく、コンソール装置40と通信可能な処理装置によって実現されてもよい。処理装置は、例えば、一つのX線CT装置と接続されたワークステーション、あるいは複数のX線CT装置に接続され、以下に説明する処理回路50と同等の処理を一括して実行する装置(例えば、クラウドサーバ)である。すわなち、本実施形態の構成を、X線CT装置と、他の処理装置とがネットワークを介して接続されたX線CT検査システム(医用診断システム)として実現することも可能である。
【0048】
システム制御機能51は、例えば、入力インターフェース43により受け付けられた入力操作に基づいて、処理回路50の各種機能を制御する。
【0049】
前処理機能52は、DAS16により出力された検出データに対して対数変換処理やオフセット補正処理、チャネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正などの前処理を行って投影データを生成し、生成した投影データをメモリ41に記憶させる。
【0050】
再構成処理機能53は、前処理機能52により生成された投影データに対して、フィルタ補正逆投影法や逐次近似再構成法などによる所定の再構成処理を行って再構成画像を生成し、生成した再構成画像をメモリ41に記憶させる。
【0051】
画像処理機能54は、入力インターフェース43により受け付けられた入力操作に基づいて、再構成画像を公知の方法により、三次元画像や任意断面の断面像データに変換する。三次元画像への変換は、前処理機能52によって行われてもよい。
【0052】
スキャン制御機能55は、X線高電圧装置14、DAS16、制御装置18、および寝台駆動装置32に指示することで、架台装置10における検出データの収集処理を制御する。スキャン制御機能55は、位置合わせ画像、本撮影画像、および診断に用いる画像を撮影する際の各部の動作をそれぞれ制御する。例えば、スキャン制御機能55は、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行するために、X線管装置11に印加する管電圧の電圧値を高電圧High-kVまたは低電圧Low-kVに切り替える管電圧制御信号をX線高電圧装置14に出力する。
【0053】
表示制御機能56は、ディスプレイ42の表示態様を制御する。例えば、表示制御機能56は、ディスプレイ42を制御して、処理回路50によって生成された再構成画像や、X線CT装置1の操作者による各種操作を受け付けるGUI画像などを表示させる。
【0054】
上記説明したように、X線撮影装置はX線CT装置1(X線管装置11とX線高電圧装置14(コンソール装置40を含んでもよい)との構成であってもよい)であり、X線CT装置1は、陽極Aと、複数の陰極(例えば、陰極FAおよび陰極FB)と、印加されたグリッド電圧に応じて、複数の陰極のうち少なくとも一つの陰極(ここでは、陰極FB)により放出された熱電子(ここでは、熱電子TeB)の陽極Aへの到達量を変化させるグリッド電極Gと、を備えるX線管装置11(X線管装置11が内蔵するX線管)と、陽極Aと複数の陰極(ここでは、陰極FAおよび陰極FB)のそれぞれとの間に印加されるそれぞれの管電圧を周期的(高速に)に切り替える管電圧制御部(ここでは、X線高電圧装置14またはX線制御装置142)と、管電圧制御部によるそれぞれの管電圧の切り替えに応じて、グリッド電圧を制御するグリッド電圧制御部(ここでは、X線高電圧装置14またはX線制御装置142)と、を備える。
【0055】
また、上記説明したように、X線CT装置1において、管電圧制御部は、複数の陰極のそれぞれに印加する高電圧High-kVの管電圧と高電圧High-kVの管電圧よりも低い低電圧Low-kVの管電圧とを周期的に(高速に)切り替え、グリッド電圧制御部は、管電圧制御部が低電圧Low-kVの管電圧を印加するタイミングに同期してグリッド電極Gに印加するグリッド電圧を制御してもよい。
【0056】
また、上記説明したように、X線CT装置1は、高電圧High-kVの管電圧と低電圧Low-kVの管電圧とを切り替えるタイミングに同期して、グリッド電極Gが設けられていない陰極である第1の陰極(ここでは、陰極FA)と、グリッド電極Gが設けられている陰極である第2の陰極(ここでは、陰極FB)との少なくとも一方の加熱量を制御する加熱量制御部(ここでは、X線高電圧装置14またはX線制御装置142)、をさらに備えてもよい。
【0057】
また、上記説明したように、X線CT装置1において、X線管装置11が備える陰極FAと陰極FBとは同じ形状を有してもよい。
【0058】
また、上記説明したように、X線発生装置はX線CT装置1(X線管装置11とX線高電圧装置14(コンソール装置40を含んでもよい)との構成であってもよい)であり、X線CT装置1は、陽極Aと、複数の陰極(例えば、陰極FAおよび陰極FB)と、印加されたグリッド電圧に応じて、複数の陰極のうち少なくとも一つの陰極(ここでは、陰極FB)により放出された熱電子(ここでは、熱電子TeB)の陽極Aへの到達量を変化させるグリッド電極Gと、を備えるX線管装置11と、陽極Aと複数の陰極(ここでは、陰極FAおよび陰極FB)のそれぞれとの間に印加されるそれぞれの管電圧(高電圧High-kVの管電圧と、高電圧High-kVの管電圧よりも低い低電圧Low-kVの管電圧)を周期的に(高速に)切り替える管電圧制御部(ここでは、X線高電圧装置14またはX線制御装置142)と、を備える。
【0059】
このような構成によってX線CT装置1では、X線管装置11に印加する管電圧の電圧値を高電圧High-kVまたは低電圧Low-kVのいずれかに周期的に(高速に)切り替えながら、高エネルギーのX線と低エネルギーのX線とをほぼ同時に照射して、被検体Pのスキャンを行う。X線CT装置1における被検体Pのスキャンの態様としては、ヘリカルスキャン、コンベンショナルスキャン、ステップアンドシュートなどの態様がある。ヘリカルスキャンとは、天板33を移動させながら回転フレーム17を回転させて被検体Pをらせん状にスキャンする態様である。コンベンショナルスキャンとは、天板33を静止させた状態で回転フレーム17を回転させて被検体Pを円軌道でスキャンする態様である。ステップアンドシュートとは、天板33の位置を一定間隔で移動させてコンベンショナルスキャンを複数のスキャンエリアで行う態様である。
【0060】
次に、X線CT装置1においてデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行するための構成および動作について説明する。図4は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるX線高電圧装置14の概略構成図である。X線高電圧装置14は、例えば、高電圧発生装置141と、X線制御装置142とを備える。なお、図4には、二つの陰極を備えるX線管装置11の構成の一例も併せて示している。より具体的には、図4には、図2に示したX線管装置11の構成の一例と同様に、陽極Aと、グリッド電極Gが設けられていない陰極FAと、グリッド電極Gが設けられている陰極FBとを備えるX線管装置11の構成の一例も併せて示している。
【0061】
高電圧発生装置141は、例えば、管電圧電源Voと、管電流検出端子Tと、グリッド電圧電源Vgと、二つトランスTR(トランスTRAおよびトランスTRB)と、フィラメント加熱制御回路HCとを含む。
【0062】
管電圧電源Voは、X線管装置11が備える陽極Aとそれぞれの陰極(陰極FAおよび陰極FB)との間に印加する管電圧を出力する電源である。管電圧電源Voは、例えば、数十~百数十[kV]の高電圧を出力する直流電源である。管電圧電源Voの-端子(管電圧の出力端子)は、陰極FAと陰極FBとのそれぞれの第1端子に接続されている。また、管電圧電源Voの-端子は、トランスTRAとトランスTRBとのそれぞれの二次側のコイルの第1端子に接続されている。管電圧電源Voの+端子は、管電流検出端子Tを介して、陽極Aの第1端子とともに接地されている。管電圧電源Voの制御端子は、X線制御装置142に接続されている。管電圧電源Voは、高電圧High-kVと低電圧Low-kVとのそれぞれの電圧値の管電圧を出力する。管電圧電源Voが出力する高電圧High-kVの電圧値は、例えば、-140[kV]であり、管電圧電源Voが出力する低電圧Low-kVの電圧値は、例えば、-80[kV]である。管電圧電源Voは、X線制御装置142により制御端子に入力された管電圧制御信号に応じて、高電圧High-kVまたは低電圧Low-kVの管電圧を出力する。
【0063】
管電流検出端子Tは、X線制御装置142が、上述した管電圧の切り替え制御や、グリッド電圧の出力制御、フィラメント電流のフィードバック制御をするために、陽極Aの第1端子の管電流を検出するための端子である。管電流検出端子Tは、X線制御装置142に接続されている。
【0064】
グリッド電圧電源Vgは、X線管装置11が備えるグリッド電極Gと、グリッド電極Gが設けられている陰極FBとの間に印加するグリッド電圧を出力する電源である。グリッド電圧電源Vgは、例えば、数千[V]の高電圧を出力する直流電源である。グリッド電圧電源Vgの-端子(グリッド電圧の出力端子)は、グリッド電極Gの第1端子に接続されている。グリッド電圧電源Vgの+端子は、管電圧電源Voの-端子と接続されている。つまり、グリッド電圧電源Vgの+端子は、陰極FAと陰極FBとのそれぞれの第1端子に接続されている。これにより、グリッド電圧電源Vgは、管電圧電源Voがそれぞれの陰極(ここでは、陰極FB)に印加する管電圧の電圧値よりもさらに高い電圧値のグリッド電圧を、グリッド電極Gと陰極FBとの間に印加する。グリッド電圧電源Vgの制御端子は、X線制御装置142に接続されている。グリッド電圧電源Vgは、X線制御装置142により制御端子に入力されたグリッド電圧出力制御信号に応じて、陰極FBにより放出された熱電子の陽極Aへの到達を妨げない(カットオフしない)、或いは妨げる(カットオフする)ことを表す電圧値のグリッド電圧を出力する。グリッド電圧電源Vgが出力するカットオフしないことを表すグリッド電圧の電圧値は、例えば、0[V]、つまり、管電圧と同じ電圧値である。グリッド電圧電源Vgが出力するカットオフすることを表すグリッド電圧の電圧値は、例えば、-1000[V]、つまり、管電圧の電圧値よりもさらに高い電圧値である。例えば、管電圧電源Voが高電圧High-kV=-140[kV]の管電圧を出力している場合、グリッド電圧電源Vgが出力するグリッド電圧の電圧値は、さらに-1000[V]だけ高い、-140[kV]-1[kV]=-141[kV]である。
【0065】
それぞれのトランスTRは、対応する陰極を加熱させるためのフィラメント電流を発生させるトランスである。トランスTRAは、対応する陰極FAを加熱させるためのフィラメント電流を発生させ、トランスTRBは、対応する陰極FBを加熱させるためのフィラメント電流を発生させる。トランスTRAおよびトランスTRBの一次側のコイルの第1端子および第2端子は、フィラメント加熱制御回路HCに接続されている。トランスTRAの二次側のコイルの第2端子は、陰極FAの第2端子に接続されている。トランスTRBの二次側のコイルの第2端子は、陰極FBの第2端子に接続されている。トランスTRAは、フィラメント加熱制御回路HCにより一次側のコイルの第1端子と第2端子との間に流された電流(交流電流)に応じたフィラメント電流(交流電流)を二次側のコイルに発生させ、陰極FAの第1端子と第2端子との間に発生させたフィラメント電流を流すことにより、陰極FAを加熱させる。トランスTRBは、フィラメント加熱制御回路HCにより一次側のコイルの第1端子と第2端子との間に流された電流(交流電流)に応じたフィラメント電流(交流電流)を二次側のコイルに発生させ、陰極FBの第1端子と第2端子との間に発生させたフィラメント電流を流すことにより、陰極FBを加熱させる。
【0066】
フィラメント加熱制御回路HCは、X線制御装置142からの制御に応じて、トランスTRにフィラメント電流を発生させるための電流(交流電流)を一次側のコイルに流すための回路である。フィラメント加熱制御回路HCは、トランスTRAの一次側のコイルとトランスTRBの一次側のコイルとに個別の電流を流す。これにより、トランスTRAとトランスTRBとのそれぞれは、一次側のコイルに流された電流に応じたフィラメント電流を、二次側のコイルに発生させる。つまり、トランスTRAとトランスTRBとのそれぞれは、個別に対応する陰極を加熱させる。
【0067】
[X線管装置11に対する制御の一例]
X線制御装置142は、高電圧発生装置141がX線管装置11に印加する管電圧(高電圧High-kVおよび低電圧Low-kV)の切り替え制御や、グリッド電圧の出力制御、フィラメント電流のフィードバック制御をするためのタイミング生成回路を含む。ここで、X線制御装置142によるタイミング制御の一例について説明する。
【0068】
図5は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるX線高電圧装置14(より具体的には、X線制御装置142)における動作のタイミングの一例を示すタイミングチャートである。図5に示したタイミングチャートは、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際にX線管装置11の全体に流れる管電流が一定になるように制御する場合の一例である。
【0069】
図5には、高電圧発生装置141がX線管装置11に印加する管電圧およびグリッド電圧と、高電圧発生装置141により印加された管電圧に応じてX線管装置11が備える陽極と陰極との間に流れる管電流とのそれぞれを示している。より具体的には、図5には、高電圧発生装置141が陰極FAおよび陰極FAの第1端子側に印加する負の電位の管電圧-Voの大きさの時間的な変化と、高電圧発生装置141がグリッド電極Gの第1端子側に印加する負の電位のグリッド電圧-Vgの大きさの時間的な変化とを示している。また、図5には、高電圧発生装置141により印加された管電圧に応じて、陰極FA側から陽極A側に流れる管電流成分Iaの大きさの時間的な変化と、陰極FB側から陽極A側に流れる管電流成分Ibの大きさの時間的な変化とを示している。また、図5には、陰極FA側、または陰極FA側および陰極FB側から陽極A側に流れるX線管装置11における全体の管電流Ianodeの大きさの時間的な変化を示している。なお、図5に示した管電圧-Vo、グリッド電圧-Vg、管電流成分Ia、管電流成分Ib、および管電流Ianodeの大きさ(波形の高さ)は、電圧値や電流値を相対的に表したものではなく、それぞれの値の変化を絶対的に表したものである。
【0070】
なお、X線制御装置142におけるフィラメント電流のフィードバック制御は、X線管装置11が備えるそれぞれの陰極の加熱量が安定するように、つまり、それぞれの陰極の温度が一定の温度になるようにする制御である。従って、X線制御装置142は、X線管装置11に印加する管電圧の切り替え制御や、グリッド電圧の出力制御のタイミングとは関係せずに、フィラメント電流のフィードバック制御(フィラメント加熱制御回路HCに対する制御)を行う。このため、図5に示したタイミングチャートに表されるトランスTRAが陰極FAを加熱するために流すフィラメント電流と、トランスTRBが陰極FBを加熱するために流すフィラメント電流とのそれぞれの実効値は、一定の値である。従って、以下の説明においては、説明を容易にするため、図5におけるそれぞれのフィラメント電流の明示は省略し、それぞれの陰極の温度は一定の温度であるものとして説明する。
【0071】
以下の説明においては、図2を適宜参照する。CT検査の実施者(医師や技師など)が、X線CT装置1によるCT検査を開始すると、X線高電圧装置14(つまり、X線制御装置142)は、コンソール装置40からの制御(コンソール装置40により入力された管電圧制御信号のタイミング)制御に従って、高電圧発生装置141に出力させる管電圧の切り替えの制御や、グリッド電圧の出力制御、フィラメント電流のフィードバック制御を開始する。
【0072】
まず、タイミングt1の前において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141(より具体的には、フィラメント加熱制御回路HC)に、陰極FAに高電圧High-kVの管電圧-Voを出力したときに電流値Ia_Highの大きさの管電流成分Iaが得られるように陰極FAを加熱させておく。また、X線制御装置142は、高電圧発生装置141(より具体的には、フィラメント加熱制御回路HC)に、陰極FBに低電圧Low-kVの管電圧-Voを出力したときに電流値Ia_Highと電流値Ia_Lowとの差分の大きさの管電流成分Ib(Ib=Ia_High-Ia_Low)が得られるように陰極FBを加熱させておく。また、タイミングt1の前において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、カットオフすることを表す電圧値(図5では、高いレベル)のグリッド電圧-Vgをグリッド電極Gに印加させる。これにより、陰極FBに管電圧が印加された場合でも、陰極FBにより放出された熱電子(例えば、図3では、熱電子TeB)は、グリッド電極Gにより妨げられて陽極Aに到達しないようになる。
【0073】
そして、タイミングt1において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、高電圧High-kVの管電圧-Voを陰極FAと陰極FBとのそれぞれに印加させる。これにより、陰極FAから陽極Aに向けて熱電子(例えば、図3では、熱電子TeA)が放出され、管電流成分Iaは、高電圧High-kVの管電圧-Voに応じた高い電流値Ia_Highになる。一方、高電圧High-kVの管電圧-Voに応じて陰極FBから陽極Aに向けて放出された熱電子は、グリッド電極Gによりカットオフされ、管電流成分Ibはなくなる(例えば、0[mA]となる)。このことにより、管電流Ianodeは、陰極FAにより放出された熱電子TeAのみに基づいた高い電流値になる。この管電流Ianodeの電流値は、管電流成分Iaの電流値Ia_Highに相当する電流値である。
【0074】
その後、タイミングt2において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、カットオフしないことを表す電圧値(図5では、低いレベル)のグリッド電圧-Vgをグリッド電極Gに印加させる。また、タイミングt2において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、低電圧Low-kVの管電圧-Voを陰極FAと陰極FBとのそれぞれに印加させる。これにより、陰極FAから陽極Aに向けて放出される熱電子TeAの量が少なくなり、管電流成分Iaは、低電圧Low-kVの管電圧-Voに応じた低い電流値Ia_Lowになる。一方、陰極FBから陽極Bに向けても熱電子TeBが放出され、管電流成分Ibは、低電圧Low-kVの管電圧-Voに加わる電流値になる。このことにより、管電流Ianodeは、陰極FAにより放出された熱電子TeAに基づいた電流値と、陰極FBにより放出された熱電子TeBに基づいた電流値とが合計され、管電圧-Voが高電圧High-kVであったときと同様の電流値になる。
【0075】
より具体的には、管電圧-Voが低電圧Low-kVになったことにより陰極FAが放出した熱電子TeAに基づく電流値は下がるため、図5において破線で示したように、管電流Ianodeの電流値も下がる。しかし、この下がった分の管電流Ianodeの電流値は、陰極FBが放出した熱電子TeBに基づく電流値により補われて、図5において実線で示したようになる。つまり、図5において破線で示したように管電流成分Iaの電流値Ia_Lowに相当する電流値が、管電流成分Ibに相当する電流値により補われて、X線管装置11における全体の管電流Ianodeは、管電圧-Voが高電圧High-kVであったときと変わらない(遜色のない)電流値(管電流成分Ia+管電流成分Ibに相当する電流値)になる。
【0076】
その後、タイミングt3において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、カットオフすることを表す電圧値のグリッド電圧-Vgをグリッド電極Gに印加させる。これにより、陰極FBにより放出された熱電子TeBは、再びグリッド電極Gにより妨げられて陽極Aに到達しないようになる。また、タイミングt3において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、高電圧High-kVの管電圧-Voを陰極FAと陰極FBとのそれぞれに印加させる。これにより、陰極FAから陽極Aに向けて放出される熱電子TeAの量が再び多くなり、管電流成分Iaは、再び高電圧High-kVの管電圧-Voに応じた高い電流値Ia_Highになる。このことにより、管電流Ianodeは、再び前回(タイミングt1のとき)管電圧-Voが高電圧High-kVであったときの電流値になる。
【0077】
以降同様に、X線制御装置142は、管電圧-Voを低電圧Low-kVと高電圧High-kVとに周期的に切り替えるが、上述したように、X線管装置11の全体に流れる管電流Ianodeは、一定の電流値になる。つまり、X線制御装置142が管電圧-Voの電圧値を切り替えても、管電流Ianodeは、管電圧-Voが高電圧High-kVであったときと変わらない(遜色のない)一定の電流値が維持される。
【0078】
上記説明したように、X線CT装置1において、加熱量制御部は、管電圧制御部が高電圧High-kVの管電圧と低電圧Low-kVの管電圧とを切り替えた場合でもX線管装置11に流れる管電流が一定になるように加熱量を制御してもよい。
【0079】
このように、X線CT装置1では、X線高電圧装置14が、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際に管電圧を周期的に(高速に)切り替える。そして、X線CT装置1では、X線高電圧装置14が、高電圧High-kVの管電圧をX線管装置11に印加させるときと、低電圧Low-kVの管電圧をX線管装置11に印加させるときとで、X線管装置11が備えるグリッド電極Gに印加するグリッド電圧を異なる状態に制御することにより、X線管装置11が備える陰極により放出された熱電子の陽極への到達を制御する。より具体的には、X線高電圧装置14が、X線管装置11に印加させる管電圧を低電圧Low-kVにしたときに、高電圧High-kVの管電圧を印加させるときにはグリッド電極Gによりカットオフしていた陰極(ここでは、陰極FB)により放出された熱電子も陽極に到達するように制御する。
【0080】
これにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて、管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11の管電流を、管電圧が高電圧High-kVのときにカットオフしていた熱電子に基づく管電流で補うことができる。このことにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際にX線管装置11に流れる全体の管電流の電流値を、管電圧の電圧値が高電圧High-kVであるか低電圧Low-kVであるかに関わらず、一定の電流値にすることができる。
【0081】
これにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて低電圧Low-kVの管電圧を印加した場合でも、流れる管電流に対するX線管装置11の個体差の影響を低減させることができる。このことにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンをより高精度に行うことができる。
【0082】
また、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて、管電流を低電圧Low-kVにしたときにX線管装置11が発生するX線の線量も十分に得ることができるため、管電圧を高電圧High-kVにしたときにX線管装置11が発生するX線の線量を必要以上に高くするようなX線の条件(X線条件)を設定する必要がなくなる。これにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を高電圧High-kVにしたときに被検体Pに対して多くのX線を照射してしまうような事態、いわゆる、被ばくの可能性を低減させることができる。
【0083】
なお、図5に示したX線高電圧装置14(より具体的には、X線制御装置142)における動作のタイミングの一例では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際にX線管装置11の全体に流れる管電流Ianodeが一定になるように制御する場合を示した。しかし、管電圧が高電圧High-kVであるときと低電圧Low-kVであるときとで管電流Ianodeが一定の電流値であったとしても、X線管装置11が発生させるX線の線量に差が生じる場合もある。より具体的には、管電圧が低電圧Low-kVであるときにX線管装置11が発生するX線の線量が、管電圧が高電圧High-kVであるときとX線管装置11が発生するX線の線量よりも低く(少なく)なる場合もある。これは、一般的なX線管が発生するX線の線量は、管電流に比例し、管電圧の二乗に比例するためである。そして、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンでは、被検体Pに照射するX線の線量を一定にした方が(X線の線量の変化を少なくした方が)、X線スキャンを実行した後に行う、例えば、前処理機能52や再構成処理機能53による再構成画像(CT画像)の生成処理、画像処理機能54による再構成画像の変換処理などの処理においてはより好適であることも考えられる。
【0084】
[X線管装置11に対する別の制御の一例]
ここで、X線CT装置1においてデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際に、X線管装置11に発生させるX線の線量(X線量)の変化を少なくさせる(低減させる)ように制御する場合の一例について説明する。図6は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるX線高電圧装置14(より具体的には、X線制御装置142)における別の動作のタイミングの一例を示すタイミングチャートである。図6に示したタイミングチャートは、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際にX線管装置11に発生させるX線量の変化を低減させるように、低電圧Low-kVの管電圧をX線管装置11に印加させたときにX線管装置11の全体に流れる管電流が、高電圧High-kVの管電圧をX線管装置11に印加させたときにX線管装置11の全体に流れる管電流よりも多くなるように制御する場合の一例である。
【0085】
図6に示したタイミングチャートにも、図5に示したタイミングチャートと同様に、高電圧発生装置141がX線管装置11に印加する管電圧-Voおよびグリッド電圧-Vgと、印加された管電圧-Voに応じてX線管装置11に流れる管電流成分Ia、管電流成分Ib、および管電流Ianodeとの大きさの時間的な変化を示している。なお、図6に示したタイミングチャートにおいても、図5に示したタイミングチャートと同様に、管電圧-Vo、グリッド電圧-Vg、管電流成分Ia、管電流成分Ib、および管電流Ianodeの大きさ(波形の高さ)は、電圧値や電流値を相対的に表したものではなく、それぞれの値の変化を絶対的に表したものである。なお、以下の説明においても、図2を適宜参照する。
【0086】
上述したように、X線管装置11が発生させるX線量は、X線管装置11が備える陰極の加熱量と印加する管電圧とを変化させて陰極と陽極との間に流れる管電流を制御することによって変えることができる。このため、X線CT装置1では、X線高電圧装置14(より具体的には、X線制御装置142)が、X線管装置11が備えるそれぞれの陰極の加熱量を個別に制御する、つまり、フィラメント電流を個別に制御することにより、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいてX線管装置11に発生させるX線のX線量の変化が少なくなるように制御する。
【0087】
なお、上述したように、X線管装置11が備える陰極に対する加熱量の制御は、熱の変化を制御することになるため、X線管装置11に印加する管電圧を周期的に切り替える制御に比べて応答性は低い。このため、X線制御装置142は、X線管装置11に発生させるX線のX線量の変化が少なくなるように制御する場合でも、X線管装置11が備えるそれぞれの陰極の加熱量が安定するように(それぞれの陰極の温度が一定の温度になるように)制御する。ただし、X線制御装置142は、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11の管電流を補うために用いた陰極FBの加熱量を多くする、つまり、陰極FBの温度がより高い一定の温度で安定するように制御する。しかし、この場合においても、X線制御装置142におけるフィラメント電流のフィードバック制御は、図5を用いて説明したX線管装置11の管電流が一定になるように制御する場合と同様である。つまり、図6に示したタイミングチャートにおいても、表されるトランスTRAが陰極FAを加熱するために流すフィラメント電流と、トランスTRBが陰極FBを加熱するために流すフィラメント電流とのそれぞれの実効値は、一定の値である。従って、図6に示したタイミングチャートにおいても、それぞれのフィラメント電流の明示は省略している。
【0088】
そして、X線管装置11に発生させるX線量の変化が少なくなるよう制御する場合においても、X線制御装置142における高電圧発生装置141に対して行う、管電圧(高電圧High-kVおよび低電圧Low-kV)の切り替え制御やグリッド電圧の出力制御は、図5に示したタイミングチャートを説明したときの制御と同様である。従って、高電圧発生装置141における管電圧の切り替え制御やグリッド電圧の出力制御に関する再度の説明は省略する。
【0089】
CT検査の実施者(医師や技師など)が、X線CT装置1によるCT検査を開始すると、X線制御装置142は、X線管装置11の管電流が一定になるように制御する場合と同様に、コンソール装置40からの制御(コンソール装置40により入力された管電圧制御信号のタイミング)制御に従って、高電圧発生装置141に出力させる管電圧の切り替えの制御や、グリッド電圧の出力制御、フィラメント電流のフィードバック制御を開始する。
【0090】
まず、タイミングt1において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、カットオフすることを表す電圧値(図6では、高いレベル)のグリッド電圧-Vgをグリッド電極Gに印加させ、高電圧High-kVの管電圧-Voを陰極FAと陰極FBとのそれぞれに印加させる。これにより、管電流Ianodeは、陰極FAにより放出された熱電子TeAのみに基づいた、例えば、管電流成分Iaの電流値Ia_Highと同様の高い電流値になる。
【0091】
その後、タイミングt2において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、カットオフしないことを表す電圧値(図6では、低いレベル)のグリッド電圧-Vgをグリッド電極Gに印加させ、低電圧Low-kVの管電圧-Voを陰極FAと陰極FBとのそれぞれに印加させる。これにより、管電流成分Iaは低電圧Low-kVの管電圧-Voに応じた低い電流値Ia_Lowになり、管電流成分Ibは低電圧Low-kVの管電圧-Voに加わる電流値になる。そして、X線管装置11における全体の管電流Ianodeは、管電流成分Iaの電流値と管電流成分Ibの電流値とが合計され、管電圧-Voが高電圧High-kVであったときよりも高い電流値になる。
【0092】
より具体的には、管電流成分Ibは、陰極FBが高い温度に加熱されているため、図5を用いて説明したX線管装置11の管電流が一定になるように制御する場合よりも高い電流値である。このため、図6において破線で示したように、管電流Ianodeの電流値は、管電流成分Iaの電流値に応じてX線管装置11の管電流が一定になるように制御する場合と同様に低い電流値になるものの、より高い電流値の管電流成分Ibにより補われて、図6において実線で示したように、X線管装置11の管電流が一定になるように制御する場合よりも高い電流値になる。より具体的には、管電流成分Iaの電流値Ia_Lowに相当する電流値が、より高い電流値となる図6に示した管電流成分Ib(ここでは、仮に「管電流成分Ib2」とする)に相当する電流値により補われて、X線管装置11における全体の管電流Ianodeは、図5を用いて説明した管電流Ianodeよりも高い電流値(管電流成分Ia+管電流成分Ib2に相当する電流値)になる。これにより、X線管装置11が発生するX線の線量は、低電圧Low-kVの管電圧-Voであるにもかかわらず、管電圧-Voが高電圧High-kVであったときと変わらない(遜色のない)X線量になる。
【0093】
その後、タイミングt3において、X線制御装置142は、高電圧発生装置141に、カットオフすることを表す電圧値のグリッド電圧-Vgをグリッド電極Gに印加させ、高電圧High-kVの管電圧-Voを陰極FAと陰極FBとのそれぞれに印加させる。これにより、管電流Ianodeは、再び前回(タイミングt1のとき)管電圧-Voが高電圧High-kVであったときの電流値になる。
【0094】
以降同様に、X線制御装置142は、陰極FBの温度がより高い一定の温度で安定するように制御した状態で、高電圧発生装置141によりX線管装置11に印加させるグリッド電圧-Vgおよび管電圧-Voを周期的に切り替える。これにより、X線管装置11に低電圧Low-kVの管電圧-Voを印加しているときの管電流Ianodeの電流値が、高電圧High-kVの管電圧-Voを印加しているときの管電流Ianodeの電流値よりも高い電流値になる。これにより、X線管装置11が発生するX線の線量は、X線制御装置142が管電圧-Voの電圧値を切り替えても、低電圧Low-kVの管電圧-Voを印加しているときに発生するX線量は、高電圧High-kVの管電圧-Voが印加されているときに発生するX線量に対して変化量が少ない(遜色のない)X線量になる。
【0095】
上記説明したように、X線CT装置1において、加熱量制御部は、管電圧制御部が高電圧High-kVの管電圧と低電圧Low-kVの管電圧とを切り替えた場合でもX線管装置11により発生させるX線の線量(X線量)の変化を少なくさせる(低減させる)ように加熱量を制御してもよい。
【0096】
このように、X線CT装置1では、X線高電圧装置14が、X線管装置11が備えるそれぞれの陰極の加熱量を個別に制御した状態で、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際に管電圧を周期的に(高速に)切り替える。そして、X線CT装置1では、X線高電圧装置14が、高電圧High-kVの管電圧をX線管装置11に印加させるときと、低電圧Low-kVの管電圧をX線管装置11に印加させるときとで、X線管装置11が備えるグリッド電極Gに印加するグリッド電圧を異なる状態に制御することにより、X線管装置11が備える陰極により放出された熱電子の陽極への到達を制御する。
【0097】
より具体的には、X線高電圧装置14が、X線管装置11が備える陰極のうち、管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11の管電流を補うために用いた陰極の加熱量を多くした状態(陰極の温度をより高い温度にした状態)で、X線管装置11に印加する管電圧を高電圧High-kVまたは低電圧Low-kVのいずれかに周期的に(高速に)切り替える。そして、X線高電圧装置14が、X線管装置11に印加させる管電圧を低電圧Low-kVにしたときに、高電圧High-kVの管電圧を印加させるときにはグリッド電極Gによりカットオフしていた陰極(ここでは、陰極FB)により放出された熱電子も陽極に到達するように制御する。
【0098】
これにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて、管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11の管電流を、管電圧が高電圧High-kVのときにカットオフしていた高い温度に制御した陰極により放出された熱電子に基づく管電流で補うことができる。このことにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際に低電圧Low-kVの管電圧ときにX線管装置11に流れる全体の管電流の電流値を、管電圧の電圧値が高電圧High-kVである場合よりも高くすることができる。これにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際に、管電圧の電圧値が高電圧High-kVである場合と低電圧Low-kVである場合とで、X線管装置11に発生させるX線の線量の変化量を少なくさせることができる。このことにより、X線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンをより高精度に行うことができる。
【0099】
なお、図6に示したX線高電圧装置14(より具体的には、X線制御装置142)における動作のタイミングの一例では、陰極FBの加熱量を陰極FAの加熱量よりも多くすることによって、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際にX線管装置11に発生させるX線量の変化を少なくさせる場合を示した。しかし、このように陰極FAの加熱量と陰極FBの加熱量を異なる値に制御する考え方は、上述したX線管装置11に発生させるX線量の変化を少なくさせる場合に限定されるものではなく、図5に示したX線制御装置142における動作のタイミングの一例のように、X線管装置11の全体に流れる管電流が一定になるように制御するときにも、陰極FAの加熱量と陰極FBの加熱量とを異なる値に制御してもよい。より具体的には、仮に、図5に示したX線制御装置142における動作のタイミングの一例において、管電圧が高電圧High-kVのときと低電圧Low-kVのときとで管電流Ianodeの電流値に差があるような場合(段差があるような場合)に、この管電流Ianodeにおける電流値の差を補正する(段差を埋める)ために、陰極FAの加熱量と陰極FBの加熱量とを異なる値に制御してもよい。
【0100】
なお、上記の説明においてX線管装置11は、陰極部の構成が、図2に示したような同じ大きさの二つの陰極を備え、一方の陰極(図2では、陰極FB)にグリッド電極Gが設けられている構成である場合を示した。しかし、X線管装置11における陰極部の構成は、図2に示したような構成に限定されない。
【0101】
[X線管装置11の別の構成の一例]
ここで、X線CT装置1が備えることができるX線管装置11の別の構成の一例についていくつか説明する。なお、以下の説明においては、X線管装置11の別の構成において、図2に示したX線管装置11の構成の一例と同様の構成要素には同一の符号を付与し、それぞれの構成要素に関する詳細な説明を省略する。
【0102】
図7は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるX線管装置11の別の構成の一例を模式的に示す図である。以下の説明においては、図7に示した構成のX線管装置11を、「X線管装置11-2」という。また、図8は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備える別の構成のX線管装置11(X線管装置11-2)がX線を発生させる様子の一例を模式的に示す図である。図7には、図2に示したX線管装置11の構成の一例と同様に、X線管装置11-2が内蔵するX線管における陰極部を熱電子が放出される側から見た場合の構成の一例を示している。また、図8には、図3に示したX線管装置11におけるX線の発生の様子と同様に、X線管装置11-2が内蔵するX線管においてX線を発生させる様子を模式的に示している。
【0103】
図7に示した陰極部11C-2の構成は、図2に示したX線管装置11の陰極部11Cの構成の一例と同様に、X線管装置11-2(より具体的には、X線管装置11-2が内蔵するX線管)が二つの陰極を備える場合の一例である。陰極部11C-2は、例えば、陰極FAと、陰極FB-2と、グリッド電極G-2とを備える。陰極FAと陰極FB-2とのそれぞれは、図2に示したX線管装置11の構成における陰極FAおよび陰極FBと同様に形成されている。陰極部11C-2では、陰極FB-2にグリッド電極G-2が設けられている。グリッド電極G-2は、図2に示したX線管装置11の構成におけるグリッド電極Gと同様に形成されている。
【0104】
このような構成のX線管装置11-2において、陽極と、陰極部11C-2が備えるそれぞれの陰極との間に管電圧を印加することにより、それぞれの陰極から陽極に向けて熱電子が放出される。図8には、X線管装置11-2において、陰極FAから陽極Aに向けて熱電子TeAが放出される様子と、陰極FB-2から陽極Aに向けて熱電子TeB-2が放出される様子とを示している。X線管装置11-2も、陽極Aに到達した熱電子に応じたエネルギーのX線を発生させる。図8には、陽極Aに到達した熱電子TeAおよび熱電子TeB-2に応じたエネルギーのX線を発生させている様子を示している。
【0105】
なお、図7に示したように、陰極部11C-2では、陰極FAと陰極FB-2との大きさが異なっている。より具体的には、陰極FB-2は、陰極FAよりも長さが短くなることにより、小さくなっている。言い換えれば、陰極FB-2は、図2に示した陰極部11Cにおける陰極FBよりも小さくなっている。このため、陰極部が陰極部11C-2の構成であるX線管装置11-2では、陰極FB-2により放出された熱電子に応じて発生させるX線の焦点のサイズが、陰極部が図2に示した陰極部11Cの構成であるX線管装置11において陰極FBにより放出された熱電子に応じて発生させるX線の焦点のサイズに比べて小さくなる。つまり、X線管装置11-2では、陰極FAによる大きな焦点サイズのX線と、陰極FB-2による小さな焦点サイズのX線とを発生させることができる。これにより、X線管装置11-2を備えるX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式とは異なる方式のX線スキャンにおいて、例えば、大きな焦点サイズと小さな焦点サイズとを切り替えてX線スキャンを行うことができる。
【0106】
さらに、X線管装置11-2を備えるX線CT装置1でも、上述したX線管装置11を備える場合と同様に、X線管装置11-2の全体に流れる管電流が一定になるように、またはX線管装置11-2に発生させるX線のX線量の変化が少なくなるようにして、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行することができる。つまり、上述したX線管装置11を備えるX線CT装置1においてデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する場合と同様に、X線制御装置142が、高電圧発生装置141により陰極FB-2に設けられたグリッド電極G-2に印加させるグリッド電圧の電圧値や、陰極FB-2に対する加熱量を制御することができる。これにより、図8に示した一例において破線で示した、陰極FB-2により放出された熱電子TeB-2に基づく管電流を、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11-2の管電流を補うために用いることができる。このことにより、X線管装置11-2を備えるX線CT装置1でも、X線管装置11を備えるX線CT装置1と同様に、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンをより高精度に行うことができる。
【0107】
なお、陰極部11C-2では、上述したように、陰極FB-2が陰極FAよりも小さくなっている。このため、X線制御装置142は、陰極FAと陰極FB-2との大きさ(サイズ)に応じて加熱量を個別に制御してもよい。つまり、X線制御装置142は、陰極FAに流すフィラメント電流と陰極FB-2に流すフィラメント電流とを、陰極FAのサイズと陰極FB-2のサイズに応じて異ならせてもよい。
【0108】
上記説明したように、X線CT装置1において、X線管装置11-2が備えるグリッド電極G-2が設けられていない陰極である第1の陰極(ここでは、陰極FA)とグリッド電極G-2が設けられている陰極である第2の陰極(ここでは、陰極FB-2)とは異なる形状を有してもよい。
【0109】
また、上記説明したように、X線CT装置1において、陰極FB-2のサイズは、陰極FAのサイズよりも小さくてもよい。
【0110】
また、上記説明したように、X線CT装置1において、加熱量制御部(ここでは、X線高電圧装置14またはX線制御装置142)は、陰極FAのサイズと陰極FB-2のサイズとに応じて加熱量を制御してもよい。
【0111】
図9は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるX線管装置11のさらに別の構成の一例を模式的に示す図である。以下の説明においては、図9に示した構成のX線管装置11を、「X線管装置11-3」という。また、図10は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるさらに別の構成のX線管装置11(X線管装置11-3)がX線を発生させる様子の一例を模式的に示す図である。図9には、図2に示したX線管装置11の構成の一例と同様に、X線管装置11-3が内蔵するX線管における陰極部を熱電子が放出される側から見た場合の構成の一例を示している。また、図10には、図3に示したX線管装置11におけるX線の発生の様子と同様に、X線管装置11-3が内蔵するX線管においてX線を発生させる様子を模式的に示している。
【0112】
図9に示した陰極部11C-3の構成も、図2に示したX線管装置11の陰極部11Cの構成の一例と同様に、X線管装置11-3(より具体的には、X線管装置11-3が内蔵するX線管)が二つの陰極を備える場合の一例である。陰極部11C-3は、例えば、陰極FAと、陰極FBと、グリッド電極Gと、グリッド電極GA-3と、グリッド電極GB-3とを備える。陰極FAと陰極FBとのそれぞれは、図2に示したX線管装置11の構成における陰極FAおよび陰極FBと同様の陰極である。グリッド電極Gは、図2に示したX線管装置11の構成におけるグリッド電極Gと同様のグリッド電極である。陰極部11C-3では、陰極FAにグリッド電極GA-3が設けられ、陰極FBにグリッド電極GB-3が設けられている。グリッド電極GA-3およびグリッド電極GB-3は、対応する陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)することにより、X線管装置11-3により発生させるX線の焦点のサイズを変更するためのグリッド電極である。グリッド電極GA-3とグリッド電極GB-3とのそれぞれは、グリッド電極Gと同様に、例えば、網目状の電極であるが、グリッド電極Gとは異なり、対応する陰極の一部を覆うように形成されている。
【0113】
このような構成のX線管装置11-3において、陽極と、陰極部11C-3が備えるそれぞれの陰極との間に管電圧を印加することにより、それぞれの陰極から陽極に向けて熱電子が放出される。図10には、X線管装置11-3において、陰極FAから陽極Aに向けて熱電子TeAが放出される様子と、陰極FBから陽極Aに向けて熱電子TeBが放出される様子とを示している。X線管装置11-3も、陽極Aに到達した熱電子に応じたエネルギーのX線を発生させる。図10には、陽極Aに到達した熱電子TeAおよび熱電子TeBに応じたエネルギーのX線を発生させている様子を示している。
【0114】
図9に示したように、陰極部11C-3では、陰極FAと陰極FBとのそれぞれは同じ大きさ(サイズ)の陰極であるが、一部にグリッド電極GA-3またはグリッド電極GB-3が設けられているため、それぞれの陰極の大きさを小さくする(長さを短くする)ことにより、大きな焦点サイズのX線と小さな焦点サイズのX線とを発生させることができる。つまり、図7に示した陰極部11C-2では、陰極FAにより大きな焦点サイズのX線を発生させ、陰極FB-2により小さな焦点サイズのX線を発生させていたが、陰極部11C-3では、陰極FAと陰極FBとのいずれからも、大きな焦点サイズのX線と小さな焦点サイズのX線とを発生させることができる。これにより、X線管装置11-3を備えるX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式とは異なる方式のX線スキャンにおいて、例えば、いずれか一方または両方の陰極を用いて、大きな焦点サイズと小さな焦点サイズとを切り替えたX線スキャンを行うことができる。
【0115】
さらに、X線管装置11-3を備えるX線CT装置1でも、上述したX線管装置11を備える場合と同様に、X線管装置11-3の全体に流れる管電流が一定になるように、またはX線管装置11-3に発生させるX線のX線量の変化が少なくなるようにして、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行することができる。つまり、上述したX線管装置11を備えるX線CT装置1においてデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する場合と同様に、X線制御装置142が、高電圧発生装置141により陰極FBに設けられたグリッド電極Gに印加させるグリッド電圧の電圧値や、陰極FBに対する加熱量を制御することができる。これにより、上述したX線管装置11を備える場合と同様に、図10に示した一例において破線で示した、陰極FBにより放出された熱電子TeBに基づく管電流を、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11-3の管電流を補うために用いることができる。このことにより、X線管装置11-3を備えるX線CT装置1でも、X線管装置11を備えるX線CT装置1と同様に、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンをより高精度に行うことができる。
【0116】
しかも、X線管装置11-3では、陰極FAにグリッド電極GA-3が設けられ、陰極FBにグリッド電極GB-3が設けられている。このため、X線制御装置142が、高電圧発生装置141によりグリッド電極GA-3およびグリッド電極GB-3に印加させるグリッド電圧の電圧値を制御することにより、X線管装置11-3を備えるX線CT装置1では、大きな焦点サイズと小さな焦点サイズとのそれぞれの焦点サイズで、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行することができる。
【0117】
上記説明したように、X線CT装置1において、X線管装置11(ここでは、X線管装置11-3)は、印加された第2のグリッド電圧に応じて、それぞれの陰極(ここでは、陰極FAおよび陰極FB)により放出された熱電子(ここでは、熱電子TeAおよび熱電子TeB)の陽極Aへの到達量を変化させる第2のグリッド電極(ここでは、グリッド電極GA-3およびグリッド電極GB-3)、をさらに備え、グリッド電圧制御部(ここでは、X線高電圧装置14またはX線制御装置142)は、それぞれの陰極により放出された熱電子によってX線管装置11-3により発生させるX線の焦点のサイズに応じて、第2のグリッド電圧を制御してもよい。
【0118】
図11は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるX線管装置11のさらに別の構成の一例を模式的に示す図である。以下の説明においては、図11に示した構成のX線管装置11を、「X線管装置11-4」という。また、図12は、実施形態に係るX線撮影装置(X線CT装置1)が備えるさらに別の構成のX線管装置11(X線管装置11-4)がX線を発生させる様子の一例を模式的に示す図である。図11には、図2に示したX線管装置11の構成の一例と同様に、X線管装置11-4が内蔵するX線管における陰極部を熱電子が放出される側から見た場合の構成の一例を示している。また、図12には、図3に示したX線管装置11におけるX線の発生の様子と同様に、X線管装置11-4が内蔵するX線管においてX線を発生させる様子を模式的に示している。
【0119】
図11に示した陰極部11C-4の構成は、X線管装置11-4(より具体的には、X線管装置11-4が内蔵するX線管)が三つの陰極を備える場合の一例である。陰極部11C-4は、例えば、陰極FAと、陰極FB-2と、陰極FCと、グリッド電極G-2とを備える。陰極FAと、陰極FB-2と、陰極FCとのそれぞれは、図2に示したX線管装置11の構成における陰極FAや陰極FBと同様に形成されている。陰極部11C-4では、陰極FB-2にグリッド電極G-2が設けられている。グリッド電極G-2は、図2に示したX線管装置11の構成におけるグリッド電極Gと同様に形成されている。なお、陰極部11C-4では、陰極FBと陰極FCとが、陰極FAよりも小さく(長さが短く)なっている。このため、陰極部11C-4の構成は、図7に示した陰極部11C-2に陰極FCが追加された構成であるということもできる。
【0120】
このような構成のX線管装置11-4において、陽極と、陰極部11C-4が備えるそれぞれの陰極との間に管電圧を印加することにより、それぞれの陰極から陽極に向けて熱電子が放出される。図12には、X線管装置11-4において、陰極FAから陽極Aに向けて熱電子TeAが放出される様子と、陰極FB-2から陽極Aに向けて熱電子TeB-2が放出される様子と、陰極FCから陽極Aに向けて熱電子TeCが放出される様子とを示している。X線管装置11-4も、陽極Aに到達した熱電子に応じたエネルギーのX線を発生させる。図12には、陽極Aに到達した熱電子TeA、熱電子TeB-2、および熱電子TeCに応じたエネルギーのX線を発生させている様子を示している。
【0121】
なお、図11に示したように、陰極部11C-4では、陰極FAと、陰極FAよりも小さい陰極FB-2および陰極FCを備えている。このため、陰極部が陰極部11C-4の構成であるX線管装置11-4では、陰極FAにより大きな焦点サイズのX線を発生させ、陰極FB-2および陰極FCにより小さな焦点サイズのX線を発生させることができる。そして、X線管装置11-4を備えるX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式とは異なる方式のX線スキャンにおいて、例えば、陰極FAによる大きな焦点サイズと、陰極FCによる小さな焦点サイズとを切り替えたX線スキャンを行うことができる。
【0122】
さらに、X線管装置11-4を備えるX線CT装置1でも、上述したX線管装置11を備える場合と同様に、X線管装置11-4の全体に流れる管電流が一定になるように、またはX線管装置11-4に発生させるX線のX線量の変化が少なくなるようにして、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行することができる。X線管装置11-4を備えるX線CT装置1では、陰極FAまたは陰極FCと、陰極FB-2とを用いて、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する。より具体的には、X線管装置11-4を備えるX線CT装置1では、陰極FAと陰極FB-2とを用いて、大きな焦点サイズでデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行し、陰極FCと陰極FB-2とを用いて、小さな焦点サイズでデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する。このとき、X線管装置11-4を備えるX線CT装置1でも、上述したX線管装置11を備えるX線CT装置1においてデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する場合と同様に、X線制御装置142が、高電圧発生装置141により陰極FB-2に設けられたグリッド電極G-2に印加させるグリッド電圧の電圧値や、陰極FB-2に対する加熱量を制御する。つまり、上述したX線管装置11を備える場合と同様に、図12に示した一例において破線で示した、陰極FB-2により放出された熱電子TeB-2に基づく管電流を、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11-4の管電流を補うために用いる。このことにより、X線管装置11-4を備えるX線CT装置1でも、X線管装置11を備えるX線CT装置1と同様に、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンをより高精度に行うことができる。
【0123】
なお、陰極部11C-4では、上述したように、陰極FB-2および陰極FCが陰極FAよりも小さくなっている。このため、X線制御装置142は、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて用いる陰極の大きさ(サイズ)に応じて加熱量を個別に制御してもよい。つまり、X線制御装置142は、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて用いる陰極の組(陰極FAと陰極FB-2の組、または陰極FCと陰極FB-2の組)におけるそれぞれの陰極のサイズに応じて、それぞれの陰極に流すフィラメント電流を異ならせてもよい。
【0124】
上記に述べたとおり、実施形態のX線撮影装置であるX線CT装置1では、X線高電圧装置14が、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際に、X線管装置11に印加する管電圧の電圧値を高電圧High-kVまたは低電圧Low-kVのいずれかに周期的に(高速に)切り替えながら、高エネルギーのX線と低エネルギーのX線とをほぼ同時に照射して、被検体Pのスキャンを行う。このとき、実施形態のX線CT装置1では、X線高電圧装置14が、高電圧High-kVの管電圧をX線管装置11に印加させるときと、低電圧Low-kVの管電圧をX線管装置11に印加させるときとで、X線管装置11が備えるグリッド電極Gに印加するグリッド電圧を制御することにより、X線管装置11が備える陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)するか否かを切り替える。言い換えれば、実施形態のX線CT装置1では、高電圧発生装置141が、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11の管電流を、管電圧を高電圧High-kVにしていたときにカットオフしていた管電流で補わせるか否かを制御する。これにより、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する際にX線管装置11に流れる全体の管電流の電流値を、管電圧の電圧値が高電圧High-kVであるか低電圧Low-kVであるかに関わらず、一定の電流値にすることができる。言い換えれば、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を低電圧Low-kVにしたことにより低くなったX線管装置11の管電流を、管電圧を高電圧High-kVにしていたときと変わらない(遜色のない)管電流に改善することができる。これにより、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて、X線管装置11の管電圧が低いときのX線の放出特性の改善を図ることができる。このことにより、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンをより高精度に行うことができる。
【0125】
さらに、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて低電圧Low-kVの管電圧を印加した場合でも、流れる管電流に対するX線管装置11の個体差の影響を低減させることができる。また、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて、管電圧が高電圧High-kVであるときと低電圧Low-kVであるときとで個別にX線条件を設定することができる。これにより、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて、管電流を低電圧Low-kVにしたときにX線管装置11が発生するX線の線量も十分に得ることができる。このことにより、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を高電圧High-kVにしたときにX線管装置11が発生するX線の線量を必要以上に高くするようなX線の条件(X線条件)を設定する必要がなくなる。このため、実施形態のX線CT装置1では、デュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおいて管電圧を高電圧High-kVにしたときに被検体Pに対して多くのX線を照射してしまうような事態、いわゆる、被ばくの可能性を低減させることができる。
【0126】
なお、上述した実施形態では、X線CT装置1がデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを実行する場合について説明した。このため、X線CT装置1が備えるX線管装置11には、二つの陰極を備えている場合を主に説明した。しかしながら、図11図12に示したように、X線管装置11は、三つの陰極を備える構成もあり得る。このため、上述したデュアルエナジースキャン方式と同様の考え方に基づいて、例えば、X線管装置が内蔵するX線管に印加する管電圧の電圧値を三つの段階に分け、三つの管電圧を周期的(高速に)に切り替えながら、被検体に三状態のエネルギーのX線をほぼ同時に照射して行うX線スキャンも考えることができる。
【0127】
この場合におけるX線管装置が内蔵するX線管の構成としては、例えば、三つの陰極のうち二つの陰極にグリッド電極を設けることが考えられる。そして、この場合における制御としては、グリッド電極が設けられた二つの陰極により放出された熱電子の陽極への到達を個別に遮蔽(カットオフ)するように制御することが考えられる。より具体的には、X線管に最も高いエネルギーのX線を発生させるときには、グリッド電極が設けられた二つの陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)する。また、X線管に真ん中のエネルギーのX線を発生させるときには、グリッド電極が設けられた二つの陰極のうちいずれか一方により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)する。また、X線管に最も低いエネルギーのX線を発生させるときには、グリッド電極が設けられた両方の陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)しない。このように、グリッド電極が設けられた二つの陰極により放出された熱電子の陽極への到達を遮蔽(カットオフ)するか否かを切り替えることにより、実施形態において説明したX線CT装置1におけるデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンと同様に、管電圧を低くしたことにより低くなったX線管の管電流を、管電圧を高くしていたときにカットオフしていた熱電子に基づく管電流で補うことができる。つまり、三つの管電圧を周期的(高速に)に切り替えながら行うX線スキャンにおいても、実施形態において説明したX線CT装置1におけるデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンと同様に、X線管の全体に流れる管電流が一定になるように、またはX線管に発生させるX線のX線量の変化が少なくなるようにすることができる。これにより、三つの管電圧を周期的(高速に)に切り替えながら行うX線スキャンにおいても、実施形態において説明したX線CT装置1におけるデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンと同様に、X線スキャンをより高精度に行うことができる。
【0128】
なお、上述した三つの管電圧を周期的(高速に)に切り替えながら行うX線スキャンのような考え方は、X線管が備える陰極が三つ以上である場合、つまり、X線管に印加する管電圧の電圧値を三つ以上の段階に分け、それぞれの管電圧を周期的(高速に)に切り替えながら行うX線スキャンにおいても同様である。そして、X線管に印加する管電圧の電圧値を三つおよび三つ以上の段階に分けて行うX線スキャンにおけるそれぞれの構成要素の動作や制御は、上述したX線CT装置1におけるデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンにおけるそれぞれの構成要素(X線管装置11とX線高電圧装置14(コンソール装置40を含んでもよい))の動作や制御に基づいて容易に考えることができる。従って、X線管に印加する管電圧の電圧値を三つおよび三つ以上の段階に分けて行うX線スキャンにおけるそれぞれの構成要素の動作や制御に関する詳細な説明は省略する。
【0129】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
陽極と、複数の陰極と、印加されたグリッド電圧に応じて、複数の前記陰極のうち少なくとも一つの陰極により放出された熱電子の前記陽極への到達量を変化させるグリッド電極と、を備えるX線管と、
プログラムを格納するメモリと、プロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、前記プログラムを実行することにより、
前記陽極と前記複数の陰極のそれぞれとの間に印加されるそれぞれの管電圧を周期的に切り替え、
前記管電圧の切り替えに応じて、前記グリッド電圧を制御する、
X線撮影装置。
【0130】
以上説明した実施形態によれば、陽極(A)と、複数の陰極(例えば、FAおよびFB)と、印加されたグリッド電圧に応じて、複数の陰極のうち少なくとも一つの陰極(例えば、FB)により放出された熱電子の陽極(A)への到達量を変化させるグリッド電極(G)と、を備えるX線管(11)と、陽極(A)と複数の陰極のそれぞれとの間に印加されるそれぞれの管電圧を周期的に切り替える管電圧制御部(例えば、14または142)と、管電圧制御部(例えば、14または142)によるそれぞれの管電圧の切り替えに応じて、グリッド電圧を制御するグリッド電圧制御部(例えば、14または142)と、を持つことにより、X線管(11)に印加する管電圧を周期的に(高速に)切り替えるデュアルエナジースキャン方式のX線スキャンを行うX線撮影装置(1)において、X線管(11)の管電圧が低いときのX線の放出特性の改善を図ることができる。
【0131】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0132】
1・・・X線CT装置、10・・・架台装置、11,11-2,11-3,11-4・・・X線管装置、11C,11C-2,11C-3,11C-4・・・陰極部、FA・・・陰極、FB,FB-2・・・陰極、FC・・・陰極、A・・・陽極、G,G-2・・・グリッド電極、GA-3,GB-3・・・グリッド電極、12・・・ウェッジ、13・・・コリメータ、14・・・X線高電圧装置、141・・・高電圧発生装置、Vo・・・管電圧電源、T・・・管電流検出端子、Vg・・・グリッド電圧電源、TR,TRA,TRB・・・トランス、HC・・・フィラメント加熱制御回路、142・・・X線制御装置、15・・・X線検出器、16・・・データ収集システム(DAS)、17・・・回転フレーム、18・・・制御装置、30・・・寝台装置、31・・・基台、32・・・寝台駆動装置、33・・・天板、34・・・支持フレーム、40・・・コンソール装置、41・・・メモリ、42・・・ディスプレイ、43・・・入力インターフェース、44・・・ネットワーク接続回路、50・・・処理回路、51・・・システム制御機能、52・・・前処理機能、53・・・再構成処理機能、54・・・画像処理機能、55・・・スキャン制御機能、56・・・表示制御機能
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12