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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】センサ素子及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20231128BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/419 327H
G01N27/419 327G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019219276
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2020180961
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019081474
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】古田 斉
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小島 章敬
(72)【発明者】
【氏名】山原 諭
(72)【発明者】
【氏名】原 晃大
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-159620(JP,A)
【文献】特開平10-253585(JP,A)
【文献】特開2014-122878(JP,A)
【文献】特開2011-058834(JP,A)
【文献】特開2002-005883(JP,A)
【文献】特開2013-040922(JP,A)
【文献】特開2007-147383(JP,A)
【文献】特開2017-201305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/27 - 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定室と、
固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成されて前記測定室に曝される内側電極と、前記固体電解質体の表面に形成されて前記測定室の外部に配置される外側電極と、を有し、前記測定室内に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し及び汲み入れを行うことで前記測定室内の酸素濃度を調整するポンプセルと、
外部と前記測定室との間に配置され、前記測定室に導入される前記被測定ガスの拡散速度を調整する拡散抵抗部と、
前記酸素濃度の調整後の前記被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定する検知セルと、を有し、軸線方向に延びる積層型のセンサ素子であって、
前記外側電極は、多孔質層で覆われると共に前記被測定ガスとの接触を防止するガス非透過性の緻密層で囲まれた空隙内に配置され、
前記空隙は、前記拡散抵抗部よりも後端側に開口する大気導入口に連通し、前記外側電極が前記多孔質層を介して前記大気導入口から導入される大気に曝されることを特徴とするセンサ素子。
【請求項2】
積層方向にみて前記緻密層の反対側に、ヒータが積層されてなることを特徴とする請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記軸線方向に垂直であっ積層方向に沿った断面でみたとき、前記空隙の断面積をW1とし、前記大気導入口の断面積をW2としたとき、
(1.5×W1)≧W2≧(0.3×W1)
の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記大気導入口は、前記センサ素子の後端よりも先端側で前記緻密層を貫通して開口することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記外側電極は、貴金属と前記固体電解質体の成分とを含有してなり、
かつ断面を観察した場合に、前記貴金属からなる貴金属領域と、前記固体電解質体の成分からなる固体電解質体領域と、前記貴金属と前記固体電解質体の成分とが共存する共存領域とを有し、
前記共存領域は、前記貴金属領域と前記固体電解質体領域との境界部に沿って存在することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のセンサ素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセンサ素子と、前記センサ素子を保持する主体金具と、を備えてなるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するのに好適に用いられ、ポンプセルを有するセンサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気ガス中の特定成分(酸素、NOx等)の濃度を検出するガスセンサが広く用いられている(特許文献1、2)。例えば一般的なNOxセンサは、図9に示すような酸素ポンプセル1400を備えたセンサ素子を有している。酸素ポンプセル1400は、固体電解質層1090の両面に形成された一対の内側電極1080、1100を有し、内側電極1080は固体電解質層1090と積層方向に隣接する測定室1070内に露出している。一方、外側電極1100は外部に臨み、外部との間で排気ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う。そして、測定室1070内の排気ガス中の酸素濃度に応じた出力電圧(起電力)が一定となるように酸素ポンプセル1400に電圧(Vp電圧)を印加し、測定室1070内の酸素濃度をNOxが分解しない程度に管理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-173146号公報
【文献】特許第4966266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図9に示すようなセンサ素子の場合、被測定ガス中の酸素雰囲気が変化したときに過渡的なノイズ電流が酸素ポンプセル1400に流れ、測定室1070内の酸素濃度の管理が困難になるという問題がある。
つまり、被測定ガス中の酸素雰囲気がリッチ側に変化した場合、測定室1070内の酸素濃度もリッチになり、図10の実線C1に示すように、酸素ポンプセル1400に流れるポンプ電流Ipも減少するのが通常である。
ところが、図9に示すように、被測定ガスは拡散抵抗部1200を介して測定室1070に流入するため、測定室1070内の内側電極1080に被測定ガスが接触するまで時間を要し、しばらくはリーン雰囲気のままである。一方、外側電極1100は外部に臨んでいるため、内側電極1080に被測定ガスが接触するより前に外側電極1100にリッチな被測定ガスが接触してしまうので、相対的に、外側電極1100側に比べて測定室1070内の内側電極1080側の方がリーンになる。
その結果、図9の矢印のような起電力Efが酸素ポンプセル1400に発生して過渡的にノイズ電流が流れ、図10の破線C2に示すようなノイズピークが発生する。
【0005】
そこで、本発明は、被測定ガス中の酸素雰囲気が変化したときのポンプセルのノイズ電流を抑制し、酸素濃度の管理精度の低下を抑制したセンサ素子及びガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のセンサ素子は、測定室と、固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成されて前記測定室に曝される内側電極と、前記固体電解質体の表面に形成されて前記測定室の外部に配置される外側電極と、を有し、前記測定室内に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し及び汲み入れを行うことで前記測定室内の酸素濃度を調整するポンプセルと、外部と前記測定室との間に配置され、前記測定室に導入される前記被測定ガスの拡散速度を調整する拡散抵抗部と、前記酸素濃度の調整後の前記被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定する検知セルと、を有し、軸線方向に延びる積層型のセンサ素子であって、前記外側電極は、多孔質層で覆われると共に前記被測定ガスとの接触を防止するガス非透過性の緻密層で囲まれた空隙内に配置され、前記空隙は、前記拡散抵抗部よりも後端側に開口する大気導入口に連通し、前記外側電極が前記多孔質層を介して前記大気導入口から導入される大気に曝されることを特徴とする。
【0007】
このセンサ素子によれば、外側電極は緻密層で囲まれた空隙内に配置されて被測定ガスとの接触を防止されつつ、拡散抵抗部よりも後端側の大気導入口から導入される大気に曝される。
これにより、外側電極は常に大気を基準雰囲気とするので、被測定ガス中の酸素雰囲気が変化しても外側電極の雰囲気が一定に保たれ、被測定ガス中の酸素雰囲気の変動によるポンプセルのノイズ電流を抑制し、拡散抵抗部から測定室に導入される被測定ガス中の酸素雰囲気に応じた正常なポンプ電流が流れる。従って、ポンプセルにおける酸素濃度の管理精度の低下を抑制することができる。
また、外側電極が多孔質層で覆われているので、センサ駆動時に外側電極の貴金属(Pt等)を主体とする電極材料が昇華することを抑制できる。
【0008】
本発明のセンサ素子において、積層方向にみて前記緻密層の反対側に、ヒータが積層されていてもよい。
このセンサ素子によれば、空隙よりも緻密層側に(例えば緻密層に埋設して)ヒータが積層される場合のように、ヒータの熱が空隙で断熱されることが無いので、ヒータの熱をより有効に利用でき、急速加熱にも有利である。
【0009】
本発明のセンサ素子は、前記軸線方向に垂直であっ積層方向に沿った断面でみたとき、前記空隙の断面積をW1とし、前記大気導入口の断面積をW2としたとき、(1.5×W1)≧W2≧(0.3×W1)の関係を満たしてもよい。
このセンサ素子によれば、大気導入口の断面積を広くし過ぎてセンサ素子の強度が低下することを抑制すると共に、大気導入口の断面積を狭くし過ぎて空隙への大気の導入を妨げることを抑制できる。
【0010】
本発明のセンサ素子において、前記大気導入口は、前記センサ素子の後端よりも先端側で前記緻密層を貫通して開口してもよい。
このセンサ素子によれば、空隙から大気導入口に至る長さを短くし、大気導入口から導入された大気を外側電極に迅速に接触させることができる。
【0011】
本発明のセンサ素子において、前記外側電極は、貴金属と前記固体電解質体の成分とを含有してなり、かつ断面を観察した場合に、前記貴金属からなる貴金属領域と、前記固体電解質体の成分からなる固体電解質体領域と、前記貴金属と前記固体電解質体の成分とが共存する共存領域とを有し、前記共存領域は、前記貴金属領域と前記固体電解質体領域との境界部に沿って存在してもよい。
このセンサ素子によれば、外側電極の電極抵抗のバラツキを抑制し、ポンプセルにおける酸素濃度の管理精度の低下をさらに抑制することができる。
【0012】
本発明のガスセンサは、前記センサ素子と、前記センサ素子を保持する主体金具と、を備えてなる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、被測定ガス中の酸素雰囲気が変化したときのポンプセルのノイズ電流を抑制し、酸素濃度の管理精度の低下を抑制したセンサ素子及びガスセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ)の長手方向に沿う断面図である。
図2】第1の実施形態に係るセンサ素子の斜視図である。
図3図2のB-B線に沿う断面図である。
図4】第1の実施形態に係るセンサ素子のIp1セル(ポンプセル)近傍の分解斜視図である。
図5図2のC-C線に沿う断面図である。
図6】第2の実施形態に係るセンサ素子の軸線に沿う断面図である。
図7】第2の実施形態に係るセンサ素子のIp1セル(ポンプセル)近傍の分解斜視図である。
図8】第3の実施形態に係るセンサ素子の軸線に沿う断面図である。
図9】従来の酸素ポンプセルを備えたセンサ素子の断面図である。
図10】被測定ガス中の酸素雰囲気がリッチ側に変化した場合に、酸素ポンプセルに生じるノイズピークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ)1の縦断面図(軸線AXに沿った長手方向に切断した断面図)、図2は第1の実施形態に係るセンサ素子10の斜視図、図3図2のB-B線(軸線AX)に沿う断面図、図4はセンサ素子10のIp1セル(ポンプセル)110近傍の分解斜視図、図5図2のC-C線(軸線AXの直交する線)に沿う断面図である。
なお、センサ素子の「幅方向」と区別するために、軸線AXに沿う方向(軸線方向)を適宜「長手方向」と称する。センサ素子の「幅方向」は、「長手方向(軸線方向)」と垂直な方向である。
【0016】
ガスセンサ1は、測定対象ガスである排ガス中の特定ガス(NOx)の濃度を検出可能なセンサ素子10を備え、内燃機関の排気管(図示なし)に装着されて使用されるNOxセンサである。このガスセンサ1は、排気管に固定するためのネジ部21が外表面の所定位置に形成された筒状の主体金具20を備える。センサ素子10は、軸線AX方向に延びる細長板状をなし、主体金具20の内側に保持されている。
さらに詳しくは、ガスセンサ1は、センサ素子10の後端部10k(図1において上端の部位)が挿入される挿入孔62を有する保持部材60と、この保持部材60の内側に保持された6個の端子部材とを備える。なお、図1では、6個の端子部材のうち2個の端子部材(具体的には、端子部材75,76)のみを図示している。
【0017】
センサ素子10の後端部10kには、平面視矩形状の電極端子部13~18(図1では、電極端子部14、17のみ図示)が合計6個形成されている。電極端子部13~18には、それぞれ、前述の端子部材が弾性的に当接して電気的に接続している。例えば、電極端子部14には、端子部材75の素子当接部75bが弾性的に当接して電気的に接続している。また、電極端子部17には、端子部材76の素子当接部76bが弾性的に当接して電気的に接続している。
さらに、6個の端子部材(端子部材75,76など)には、それぞれ、異なるリード線71が電気的に接続されている。例えば、図1に示すように、端子部材75のリード線把持部77によって、リード線71の芯線が加締められて把持される。また、端子部材76のリード線把持部78によって、他のリード線71の芯線が加締められて把持される。
【0018】
また、センサ素子10の後端部10kの主面の一方には、電極端子部13~15よりも先端側で、後述するセラミックスリーブ45よりも後端側に大気導入口10hが開口しており(図2参照)、大気導入口10hは保持部材60の挿入孔62内に配置されている。
これにより、後述する外筒51の内部に閉じ込められた基準大気が大気導入口10hからセンサ素子10の内部に導入される。
【0019】
主体金具20は、軸線AX方向に貫通する貫通孔23を有する筒状部材である。この主体金具20は、径方向内側に突出する形態で貫通孔23の一部を構成する棚部25を有している。主体金具20は、センサ素子10の先端部10sを自身の先端側外部(図1において下方)に突出させると共に、センサ素子10の後端部10kを自身の後端側外部(図1において上方)に突出させた状態で、センサ素子10を貫通孔23内に保持している。
また、主体金具20の貫通孔23の内部には、環状のセラミックホルダ42、滑石粉末を環状に充填してなる2つの滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が配置されている。詳細には、センサ素子10の径方向周囲を取り囲む状態で、セラミックホルダ42、滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が、この順に、主体金具20の軸線方向先端側(図1において下端側)から軸線方向後端側(図1において上端側)にわたって重ねて配置されている。
【0020】
また、セラミックホルダ42と主体金具20の棚部25との間には、金属カップ41が配置されている。また、セラミックスリーブ45と主体金具20のカシメ部22との間には、加締リング46が配置されている。なお、主体金具20のカシメ部22が、加締リング46を介してセラミックスリーブ45を先端側に押し付けるように、加締められている。
主体金具20の先端部20bには、センサ素子10の先端部10sを覆うように、複数の孔を有する金属製(具体的にはステンレス)の外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32が、溶接によって取り付けられている。一方、主体金具20の後端部には、外筒51が溶接によって取り付けられている。外筒51は、軸線AX方向に延びる筒状をなし、センサ素子10を包囲している。
【0021】
保持部材60は、絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、軸線AX方向に貫通する挿入孔62を有する筒状部材である。挿入孔62内には、前述した6個の端子部材(端子部材75,76など)が配置されている(図1参照)。保持部材60の後端部には、径方向外側に突出する鍔部65が形成されている。保持部材60は、鍔部65が内部支持部材53に当接する態様で、内部支持部材53に保持されている。なお、内部支持部材53は、外筒51のうち径方向内側に向けて加締められた加締部51gにより、外筒51に保持されている。
保持部材60の後端面61上には、絶縁部材90が配置されている。絶縁部材90は、電気絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、円筒状をなす。この絶縁部材90には、軸線AX方向に貫通する貫通孔91が合計6個形成されている。この貫通孔91には、前述した端子部材のリード線把持部(リード線把持部77,78など)が配置されている。
【0022】
また、外筒51のうち軸線方向後端部(図1において上端部)に位置する後端開口部51cの径方向内側には、フッ素ゴムからなる弾性シール部材73が配置されている。この弾性シール部材73には、軸線AX方向に延びる円筒状の挿通孔73cが、合計6個形成されている。各々の挿通孔73cは、弾性シール部材73の挿通孔面73b(円筒状の内壁面)によって構成されている。各々の挿通孔73cには、リード線71が1本ずつ挿通されている。各々のリード線71は、弾性シール部材73の挿通孔73cを通じて、ガスセンサ1の外部に延出している。弾性シール部材73は、外筒51の後端開口部51cを径方向内側に加締めることで径方向に弾性圧縮変形し、これにより、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとを密着させて、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとの間を水密に封止している。
【0023】
一方、図3に示すように、センサ素子10は、板状の固体電解質体111、121、131と、これらの間に配置された絶縁体140、145とを備え、これらが積層方向に積層された構造を有する。さらに、センサ素子10には、固体電解質体131の裏面側に、ヒータ161が積層されている。このヒータ161は、アルミナを主体とする板状の絶縁体162、163と、その間に埋設されたヒータパターン164(Ptを主体としている)とを備えている。
【0024】
固体電解質体111、121、131は、固体電解質であるジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。固体電解質体111の表面側には、多孔質のIp1+電極112が設けられている。また、固体電解質体111の裏面側には、多孔質のIp1-電極113が設けられている。さらに、Ip1+電極112の表面は、多孔質層114で覆われている。
又、Ip1+電極112にはIp1+リード116が接続されている(図2図4参照)。又、Ip1-電極113にはIp1-リード117(図4)が接続されている。
【0025】
また、図4に示すように、Ip1+電極112及びIp1+リード116の表面には、空隙10Gを有し、アルミナ等からなるガス非透過性の第1緻密層118が積層され、空隙10Gから多孔質層114が露出すると共に、Ip1+リード116が第1緻密層118の外周側の枠部で覆われている。
空隙10Gは、多孔質層114近傍から大気導入口10hに連通する部位までまっすぐに延びている。そして、空隙10Gの後端側の第1緻密層118には、電極端子部13~15と導通するためのスルーホールが設けられている。
【0026】
さらに、第1緻密層118の表面には、アルミナ等からなるガス非透過性の第2緻密層115が積層され、空隙10Gを閉塞している。これにより、多孔質層114で覆われたIp1+電極112が、緻密層115,118で囲まれた空隙10G内に配置されて被測定ガスとの接触を防止するようになっている。
そして、第2緻密層115のうち、空隙10Gの後端と重なる位置が矩形状に開口して大気導入口10hを形成し、空隙10Gは大気導入口10hに連通している。大気導入口10hは、後述する第1多孔質体151よりも後端側に開口しており、排ガスでなく、大気を導入することができる。これにより、Ip1+電極112は、多孔質層114を介して大気導入口10hから導入される大気に曝されるようになっている。
【0027】
ここで、固体電解質体111、Ip1-電極113、Ip1+電極112がそれぞれ特許請求の範囲の「固体電解質体」、「内側電極」、「外側電極」に相当する。又、後述する第1測定室150が特許請求の範囲の「測定室」に相当する。
固体電解質体111及び電極112、113は、Ip1セル110(ポンプセル)を構成する。このIp1セル110は、電極112、113間に流すポンプ電流Ip1に応じて、電極112の接する雰囲気(センサ素子10の外部の被測定ガスとは異なる、空隙10G内の大気)と、電極113の接する雰囲気(後述する第1測定室150内の雰囲気、つまりセンサ素子10の外部の被測定ガス)との間で酸素の汲み出し及び汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う。
【0028】
固体電解質体121は、絶縁体140を挟んで、固体電解質体111と積層方向に対向するように配置されている。固体電解質体121の表面側(図2において上面側)には、多孔質のVs-電極122が設けられている。また、固体電解質体121の裏面側(図2において下面側)には、多孔質のVs+電極123が設けられている。
【0029】
固体電解質体111と固体電解質体121との間には、センサ素子の内部空間としての第1測定室150が形成されている。この第1測定室150は、排気通路内を流通する被測定ガス(排ガス)が、センサ素子10内に最初に導入される内部空間であり、ガス透過性及び透水性を有する第1多孔質体(拡散抵抗部)151(図2図4参照)を通じてセンサ素子10の外部と連通している。第1多孔質体151は、センサ素子10の外部との仕切りとして、第1測定室150の側方に設けられており、第1測定室150内への排ガスの単位時間あたりの流通量(拡散速度)を制限する。
第1測定室150の後端側(図2において右側)には、第1測定室150と後述する第2測定室160との間の仕切りとして、排ガスの単位時間あたりの流通量を制限する第2多孔質体152が設けられている。
【0030】
固体電解質体121及び電極122、123は、Vsセル(検知セル)120を構成する。このVsセル120は、主として、固体電解質体121により隔てられた雰囲気(電極122の接する第1測定室150内の雰囲気と、電極123の接する基準酸素室170内の雰囲気)間の酸素分圧差に応じて起電力を発生する。
【0031】
固体電解質体131は、絶縁体145を挟んで、固体電解質体121と積層方向に対向するように配置されている。固体電解質体131の表面側(図2において上面側)には、多孔質のIp2+電極132と多孔質のIp2-電極133が設けられている。
【0032】
Ip2+電極132とVs+電極123との間には、孤立した小空間としての基準酸素室170が形成されている。この基準酸素室170は、絶縁体145に形成されている開口部145bにより構成されている。なお、基準酸素室170内のうちIp2+電極132側には、セラミックス製の多孔質体が配置されている。
また、Ip2-電極133と積層方向に対向する位置には、センサ素子の内部空間としての第2測定室160が形成されている。この第2測定室160は、絶縁体145を積層方向に貫通する開口部145cと、固体電解質体121を積層方向に貫通する開口部125と、絶縁体140を積層方向に貫通する開口部141とにより構成されている。
第1測定室150と第2測定室160とは、ガス透過性及び透水性を有する第2多孔質体152を通じて連通している。従って、第2測定室160は、第1多孔質体151、第1測定室150、及び第2多孔質体152を通じて、センサ素子10の外部と連通している。
【0033】
固体電解質体131及び電極132、133は、NOx濃度を検知するためのIp2セル130(第2ポンプセル)を構成する。このIp2セル130は、第2測定室160内で分解されたNOx由来の酸素(酸素イオン)を、固体電解質体131を通じて、基準酸素室170に移動させる。このとき、電極132及び電極133の間には、第2測定室160内に導入された排ガス(測定対象ガス)に含まれるNOxの濃度に応じた電流が流れる。
【0034】
又、本実施形態では、固体電解質体111の裏面上のIp1-電極113を除く部位には、アルミナ絶縁層119が形成され、Ip1-電極113はアルミナ絶縁層119を積層方向に貫通する貫通孔119b(図4参照)を通じて、固体電解質体111と接触する。
【0035】
さらに、本実施形態では、固体電解質体121の表面上のVs-電極122を除く部位に、アルミナ絶縁層128が形成され、Vs-電極122はアルミナ絶縁層128を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体121と接触する。
さらに、固体電解質体121の裏面上のVs+電極123を除く部位に、アルミナ絶縁層129が形成され、Vs+電極123はアルミナ絶縁層129を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体121と接触する。
【0036】
さらに、本実施形態では、固体電解質体131の表面上のIp2+電極132を除く部位に、アルミナ絶縁層138が形成され、Ip2+電極132はアルミナ絶縁層138を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体131と接触する。さらに、固体電解質体131の表面上のIp2-電極133を除く部位にも、アルミナ絶縁層138が形成され、電極133はアルミナ絶縁層138を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体131と接触する。
【0037】
ここで、本実施形態のガスセンサ1によるNOx濃度検知について、簡単に説明する。
センサ素子10の固体電解質体111、121、131は、ヒータパターン164の昇温に伴い加熱され、活性化する。これにより、Ip1セル110、Vsセル120、及びIp2セル130が動作するようになる。
排気通路(図示なし)内を流通する排ガスは、第1多孔質体151による流通量の制限を受けつつ第1測定室150内に導入される。このとき、Vsセル120には、電極123側から電極122側へ微弱な電流Icpが流されている。このため、排ガス中の酸素は、負極側となる第1測定室150内の電極122から電子を受け取ることができ、酸素イオンとなって固体電解質体121内を流れ、基準酸素室170内に移動する。つまり、電極122、123間で電流Icpが流されることによって、第1測定室150内の酸素が基準酸素室170内に送り込まれる。
【0038】
第1測定室150内に導入された排ガスの酸素濃度が所定値より薄い場合、電極112側が負極となるようにIp1セル110に電流Ip1を流し、センサ素子10の外部から第1測定室150内へ酸素の汲み入れを行う。一方、第1測定室150内に導入された排ガスの酸素濃度が所定値より濃い場合、電極113側が負極となるようにIp1セル110に電流Ip1を流し、第1測定室150内からセンサ素子10外部へ酸素の汲み出しを行う。
【0039】
このように、第1測定室150において酸素濃度が調整された排ガスは、第2多孔質体152を通じて、第2測定室160内に導入される。第2測定室160内で電極133と接触した排ガス中のNOxは、電極132、133間に電圧Vp2を印加されることで、電極133上で窒素と酸素に分解(還元)され、分解された酸素は、酸素イオンとなって固体電解質体131内を流れ、基準酸素室170内に移動する。このとき、第1測定室150で汲み残された残留酸素も同様に、Ip2セル130によって基準酸素室170内に移動する。これにより、Ip2セル130には、NOx由来の電流及び残留酸素由来の電流が流れる。なお、基準酸素室170内に移動した酸素は、基準酸素室170内に接するVs+電極123とVsリード及びIp2+電極132とIp2+リードを介して外部(大気)に放出される、このため、Vs+リード及びIp2+リードは多孔質となっている。
【0040】
ここで、第1測定室150で汲み残された残留酸素の濃度は、上記のように所定値に調整されているため、その残留酸素由来の電流は略一定とみなすことができ、NOx由来の電流の変動に対し影響は小さく、Ip2セル130を流れる電流は、NOx濃度に比例することとなる。従って、Ip2セル130を流れる電流Ip2を検出し、その電流値に基づいて、排ガス中のNOx濃度を検知することができる。
【0041】
そして、本実施形態では、Ip1+電極112は緻密層115,118で囲まれた空隙10G内に配置されて被測定ガスとの接触を防止されつつ、大気導入口10hから導入される大気に曝される。
これにより、Ip1+電極112は常に大気を基準雰囲気とするので、被測定ガス中の酸素雰囲気が変化してもIp1+電極112の雰囲気が一定に保たれ、被測定ガス中の酸素雰囲気の変動によるポンプセルのノイズ電流(図10の破線C2)を抑制し、第1多孔質体151から第1測定室150に導入される被測定ガス中の酸素雰囲気に応じた正常なポンプ電流(図10の実線C1)が流れる。従って、ポンプセルにおける酸素濃度の管理精度の低下を抑制することができる。
また、Ip1+電極112が多孔質層114で覆われているので、センサ駆動時のIp1+電極112の貴金属(Pt等)を主体とする電極材料が昇華することを抑制できる。
【0042】
また、本実施形態では、積層方向にみて緻密層115,118の反対側(空隙10Gよりもポンプセル110側)に、ヒータ161が積層されている。
これにより、空隙10Gよりも緻密層115,118側に(例えば緻密層115に埋設して)ヒータ161が積層される場合のように、ヒータ161の熱が空隙10Gで断熱されることが無いので、ヒータ161の熱をより有効に利用でき、急速加熱にも有利である。
【0043】
また、本実施形態では、大気導入口10hは、センサ素子10の後端よりも先端側で緻密層115,118を貫通して開口する。
これにより、空隙10Gから大気導入口10hに至る長さを短くし、大気導入口10hから導入された大気をIp1+電極112に迅速に接触させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、Ip1+電極112は貴金属と固体電解質体111の成分とを含有してなり、かつ断面を観察した場合に、貴金属からなる貴金属領域と、固体電解質体111の成分からなる固体電解質体領域と、貴金属と固体電解質体111の成分とが共存する共存領域とを有し、共存領域は、貴金属領域と固体電解質体領域との境界部に沿って存在する。
これにより、Ip1+電極112の電極抵抗のバラツキを抑制し、ポンプセルにおける酸素濃度の管理精度の低下をさらに抑制することができる。
【0045】
また、大気導入口10hを投影した図5に示すように、本実施形態では、空隙10Gの断面積をW1とし、大気導入口10hの断面積をW2としたとき、(1.5×W1)≧W2≧(0.3×W1)の関係を満たす。
これにより、大気導入口10hの断面積を広くし過ぎてセンサ素子10の強度が低下することを抑制すると共に、大気導入口10hの断面積を狭くし過ぎて空隙10Gへの大気の導入を妨げることを抑制できる。
【0046】
次に、図6図7を参照し、本発明の第2の実施形態に係るセンサ素子10Bについて説明する。なお、第2の実施形態に係るセンサ素子10Bは、第1緻密層118と、固体電解質体111eを含む複合層(具体的には後述する固体電解質体111eと絶縁層111s)との間に、第3緻密層118Bが介装されていること、並びに固体電解質体111e、121e、131eがそれぞれ絶縁層111s、121s、131s内に埋め込まれていること以外は、第1の実施形態に係るセンサ素子10と同一であるので、同一部分の構成については説明を省略する。
図6は第2の実施形態に係るセンサ素子10Bの軸線AXに沿う断面図、図7はセンサ素子10BのIp1セル(ポンプセル)110近傍の分解斜視図を示す。
【0047】
図6図7に示すように、第2の実施形態においては、第1緻密層118と上記複合層との間に、第3緻密層118Bが介装され、第3緻密層118Bの先端側には矩形の開口118Bhが設けられている。
そして、この開口118Bhに多孔質層114Bが充填され、多孔質層114Bの下面(Ip1+電極112側)にIp1+電極112が形成され、Ip1+電極112は第3緻密層118Bの下面よりも下側に突出している。そして、Ip1+電極112の上記した突出部位は固体電解質体111eに覆われている。
このように、第2の実施形態においては、Ip1+電極112の側面は固体電解質体111eで囲まれることになる。
なお、固体電解質体111e、121e、131eはそれぞれ略矩形をなし、絶縁層111s、121s、131sの先端側には矩形の開口が設けられている。そして、この開口にそれぞれ固体電解質体111e、121e、131eが埋め込まれている。
【0048】
第2の実施形態においても、Ip1+電極112は固体電解質体111eで囲まれた空隙10G内に配置されて被測定ガスとの接触を防止されつつ、大気導入口10hから導入される大気に曝される。
これにより、Ip1+電極112は常に大気を基準雰囲気とするので、被測定ガス中の酸素雰囲気が変化してもIp1+電極112の雰囲気が一定にその保たれ、ポンプセルのノイズ電流を抑制し、ポンプセルにおける酸素濃度の管理精度の低下を抑制することができる。
また、Ip1+電極112が多孔質層114Bで覆われているので、Ip1+電極112の昇華を抑制できる。
【0049】
次に、図8を参照し、本発明の第3の実施形態に係るセンサ素子10Cについて説明する。なお、第3の実施形態に係るセンサ素子10Cは、第1緻密層118と同じ厚みまで多孔質層114Cが形成されていること以外は、第1の実施形態に係るセンサ素子10と同一であるので、同一部分の構成については説明を省略する。
図8は第3の実施形態に係るセンサ素子10Cの軸線AXに沿う断面図を示す。
【0050】
図8に示すように、第3の実施形態においては、第1緻密層118と同じ厚みまで多孔質層114Cが形成されている。
このように、第3の実施形態においては、Ip1+電極112を覆う多孔質層114Cは、自身の後端側の側面のみが空隙10Gに臨み、大気に曝される(図8の矢印)。
【0051】
第3の実施形態においても、Ip1+電極112は緻密層115,118で囲まれた空隙10G内に配置されて被測定ガスとの接触を防止されつつ、大気導入口10hから導入される大気に曝される。
これにより、Ip1+電極112は常に大気を基準雰囲気とするので、被測定ガス中の酸素雰囲気が変化してもIp1+電極112の雰囲気が一定にその保たれ、ポンプセルのノイズ電流を抑制し、ポンプセルにおける酸素濃度の管理精度の低下を抑制することができる。
また、Ip1+電極112が多孔質層114Cで覆われているので、Ip1+電極112の昇華を抑制できる。
【0052】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
空隙10Gがセンサ素子の後端まで貫通し、大気導入口がセンサ素子の後端向き面にて開口するようにしてもよい。
拡散抵抗部(第1多孔質体151)の位置も、素子側面に限らず、素子の先端向き面に配置されてもよい。
固体電解質体111、121、131は、絶縁層内に埋め込まれる態様であってもよい。
【0053】
又、本発明は、酸素ポンプセルと検知セルを有する(2セル以上の)センサ素子(ガスセンサ)に適用可能であり、本実施の形態のNOxセンサ素子(NOxセンサ)に適用することができるが、これらの用途に限られず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、被測定ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサ(酸素センサ素子)や、HC濃度を検出するHCセンサ(HCセンサ素子)等に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 ガスセンサ
10、10B、10C センサ素子
10h 大気導入口
10G 空隙
20 主体金具
110 ポンプセル
111、111e 固体電解質体
112 外側電極
113 内側電極
114、114B,114C 多孔質層
115、118、118B 緻密層
120 検知セル(Vsセル)
150 測定室
151 拡散抵抗部(第1多孔質体)
161 ヒータ
AX 長手方向(軸線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10