(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20231128BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20231128BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20231128BHJP
C03B 23/203 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
B23K26/53
H01S3/00 B
H01S3/10 Z
C03B23/203
(21)【出願番号】P 2019222194
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】武田 昂
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大岳
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-062263(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0344302(US,A1)
【文献】特表2012-527356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H01S 3/00
H01S 3/10
C03B 23/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光透過性部材と第2の光透過性部材とをレーザ光の照射によって接合するレーザ加工装置であって、
前記第2の光透過性部材を透過し且つ前記第1の光透過性部材の内部に集光点が位置するようにパルスレーザ光を照射する光照射部と、
前記パルスレーザ光を前記第1の光透過性部材及び前記第2の光透過性部材の接合予定線に沿って走査する光走査部と、を備え、
前記第1の光透過性部材への前記パルスレーザ光の入射方向から見た場合に、前記第1の光透過性部材における前記パルスレーザ光の入射側表面から前記集光点に至る領域の少なくとも一部において、前記パルスレーザ光のビーム形状が前記接合予定線に沿った長尺状をな
し、
前記光走査部は、前記第2の光透過性部材を透過し且つ前記第1の光透過性部材の内部に集光点が位置した状態で、前記パルスレーザ光を前記接合予定線に沿って走査するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記第1の光透過性部材への前記パルスレーザ光の入射方向から見た場合に、少なくとも前記第1の光透過性部材における前記パルスレーザ光の入射側表面において、前記パルスレーザ光のビーム形状が前記接合予定線に沿った長尺状をなしている請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
第1の光透過性部材と第2の光透過性部材とをレーザ光の照射によって接合するレーザ加工方法であって、
前記第2の光透過性部材を透過し且つ前記第1の光透過性部材の内部に集光点が位置するようにパルスレーザ光を照射する光照射ステップと、
前記パルスレーザ光を前記第1の光透過性部材及び前記第2の光透過性部材の接合予定線に沿って走査する光走査ステップと、を備え、
前記光照射ステップでは、前記第1の光透過性部材への前記パルスレーザ光の入射方向から見た場合に、前記第1の光透過性部材における前記パルスレーザ光の入射側表面から前記集光点に至る領域の少なくとも一部において、前記パルスレーザ光のビーム形状を前記接合予定線に沿った長尺状と
し、
前記光走査ステップでは、前記第2の光透過性部材を透過し且つ前記第1の光透過性部材の内部に集光点を位置させた状態で、前記パルスレーザ光を前記接合予定線に沿って走査するレーザ加工方法。
【請求項4】
前記光照射ステップでは、前記第1の光透過性部材への前記パルスレーザ光の入射方向から見た場合に、少なくとも前記第1の光透過性部材における前記パルスレーザ光の入射側表面において、前記パルスレーザ光のビーム形状を前記接合予定線に沿った長尺状とする請求項3記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の分野の技術として、例えば特許文献1に記載のレーザ加工方法がある。このレーザ加工方法は、光透過性を有する第1の光透過性部材と第2の光透過性部材とを接合する方法である。この方法では、第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材同士の接触面近傍において、これらの部材の一方の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、集光点付近で多光子吸収を発生させる。この多光子吸収により、第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材に渡る改質領域を形成し、第1の光透過性部材と第2の光透過性部材とを接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなレーザ加工方法では、第1の光透過性部材と第2の光透過性部材との間のギャップ管理が重要となっている。第1の光透過性部材と第2の光透過性部材との間のギャップが大きくなると、レーザ光による入熱が不足し、接触面付近でパーティクルが生じて改質領域の形成が不十分となるおそれがある。
【0005】
レーザ光を用いて加工を行う場合、第1の光透過性部材と第2の光透過性部材との間のギャップは、使用するレーザ光の波長の1/4以下に抑えることが好ましいとされている。しかしながら、第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材のサイズが大型化すると、接合予定線の全体に渡って第1の光透過性部材と第2の光透過性部材との間のギャップをレーザ光の波長の1/4以下に抑えることが困難となり、加工の歩留まりが低下することが考えられる。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、部材間のギャップ管理を緩和でき、加工の歩留まりを向上できるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置は、第1の光透過性部材と第2の光透過性部材とをレーザ光の照射によって接合するレーザ加工装置であって、第2の光透過性部材を透過し且つ第1の光透過性部材の内部に集光点が位置するようにパルスレーザ光を照射する光照射部と、パルスレーザ光を第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材の接合予定線に沿って走査する光走査部と、を備え、第1の光透過性部材へのパルスレーザ光の入射方向から見た場合に、第1の光透過性部材におけるパルスレーザ光の入射側表面から集光点に至る領域の少なくとも一部において、パルスレーザ光のビーム形状が接合予定線に沿った長尺状をなしている。
【0008】
このレーザ加工装置では、第2の光透過性部材を透過し且つ第1の光透過性部材の内部に集光点が位置するようにパルスレーザ光を照射する。パルスレーザ光が第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材に対して時間的・空間的に狭ピッチで且つ同一箇所に複数回照射され、部材の温度が局所的に融解温度に達することで、第1の光透過性部材側から第2の光透過性部材側に向かって隆起する改質領域を形成できる。また、このレーザ加工装置では、第1の光透過性部材へのパルスレーザ光の入射方向から見た場合に、第1の光透過性部材におけるパルスレーザ光の入射側表面から集光点に至る領域の少なくとも一部において、パルスレーザ光のビーム形状が接合予定線に沿った長尺状をなしている。これにより、レーザ光による入熱が接合予定線に沿った方向に拡がり、改質領域を接合予定線に沿って連続的に隆起させることができる。したがって、このレーザ加工装置では、部材間にレーザ光の波長の1/4を超えるギャップが生じていたとしても、改質領域によって第1の光透過性部材と第2の透過性部材とを安定的に接合することができ、部材間のギャップ管理を緩和しつつ、加工の歩留まりの向上が図られる。
【0009】
また、第1の光透過性部材へのパルスレーザ光の入射方向から見た場合に、少なくとも第1の光透過性部材におけるパルスレーザ光の入射側表面において、パルスレーザ光のビーム形状が接合予定線に沿った長尺状をなしていてもよい。これにより、接合予定線に沿って連続的に隆起する改質領域をより安定して形成できる。したがって、部材間のギャップ管理が更に緩和され、加工の歩留まりの一層の向上が図られる。
【0010】
本開示の一側面に係るレーザ加工方法は、第1の光透過性部材と第2の光透過性部材とをレーザ光の照射によって接合するレーザ加工方法であって、第2の光透過性部材を透過し且つ第1の光透過性部材の内部に集光点が位置するようにパルスレーザ光を照射する光照射ステップと、パルスレーザ光を第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材の接合予定線に沿って走査する光走査ステップと、を備え、光照射ステップでは、第1の光透過性部材へのパルスレーザ光の入射方向から見た場合に、第1の光透過性部材におけるパルスレーザ光の入射側表面から集光点に至る領域の少なくとも一部において、パルスレーザ光のビーム形状を接合予定線に沿った長尺状とする。
【0011】
このレーザ加工方法では、第2の光透過性部材を透過し且つ第1の光透過性部材の内部に集光点が位置するようにパルスレーザ光を照射する。パルスレーザ光が第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材に対して時間的・空間的に狭ピッチで且つ同一箇所に複数回照射され、部材の温度が局所的に融解温度に達することで、第1の光透過性部材側から第2の光透過性部材側に向かって隆起する改質領域を形成できる。また、このレーザ加工方法では、第1の光透過性部材へのパルスレーザ光の入射方向から見た場合に、第1の光透過性部材におけるパルスレーザ光の入射側表面から集光点に至る領域の少なくとも一部において、パルスレーザ光のビーム形状を接合予定線に沿った長尺状としている。これにより、レーザ光による入熱が接合予定線に沿った方向に拡がり、改質領域を接合予定線に沿って連続的に隆起させることができる。したがって、このレーザ加工方法では、部材間にレーザ光の波長の1/4を超えるギャップが生じていたとしても、改質領域によって第1の光透過性部材と第2の透過性部材とを安定的に接合することができ、部材間のギャップ管理を緩和しつつ、加工の歩留まりの向上が図られる。
【0012】
また、光照射ステップでは、第1の光透過性部材へのパルスレーザ光の入射方向から見た場合に、少なくとも第1の光透過性部材におけるパルスレーザ光の入射側表面において、パルスレーザ光のビーム形状を接合予定線に沿った長尺状としてもよい。これにより、接合予定線に沿って連続的に隆起する改質領域をより安定して形成できる。したがって、部材間のギャップ管理が更に緩和され、加工の歩留まりの一層の向上が図られる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、部材間のギャップ管理を緩和でき、加工の歩留まりを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】レーザ加工装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】パルスレーザ光の照射中の第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材の状態を示す模式的な断面図である。
【
図3】パルスレーザ光の走査によって第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材に形成される改質領域を示す模式的な断面図である。
【
図4】
図1に示したレーザ加工装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】第1の光透過性部材と第2の光透過性部材との間に過剰なギャップが生じている場合のレーザ光による加工状態を示す概略的な断面図である。
【
図6】第1の光透過性部材及び第2の光透過性部材に対するパルスレーザ光の集光状態を示す図である。
【
図8】パルスレーザ光の位置とビーム形状との関係を示す図である。
【
図9】部材の内部温度と接合予定線上の位置との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、レーザ加工装置の一実施形態を示す概略図である。
図1に示すレーザ加工装置1は、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2とをパルスレーザ光L1の照射によって接合する装置である。レーザ加工装置1は、加工対象物である第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2を載置するステージ2と、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2にパルスレーザ光L1を照射する光照射部3と、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2の接合予定線W(
図3参照)に沿ってパルスレーザ光L1を走査する光走査部4と、これらの構成要素を制御する制御部5とを含んで構成されている。
【0017】
第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2は、例えばソーダライムガラス、クリスタルガラス、ホウケイ酸ガラスなどによって構成された板状の部材である。第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2は、透明ポリエチレンテレフタレート、透明アクリル、透明ポリカーボネイトなどによって構成された板状の部材であってもよい。
【0018】
ステージ2は、例えば3軸方向に移動可能なステージであり、光走査部4を構成している。ステージ2上には、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2を載置するサンプル台6が設置されていてもよい。
図1の例では、サンプル台6上で第1の光透過性部材S1に第2の光透過性部材S2が重ね合わされており、パルスレーザ光L1は、第2の光透過性部材S2側から照射されるようになっている。ステージ2上には、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2をサンプル台6に対して押さえる押圧板がエアシリンダ等を介して設けられていてもよい。第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2を押圧することで、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2との間のギャップを抑えることができる。
【0019】
光照射部3は、パルスレーザ光L1を出射する光源11と、光源11から出射したパルスレーザ光L1を整形する整形光学系12と、整形光学系12で整形されたパルスレーザ光L1を集光する集光光学系13とを有している。光源11は、例えばモードロック再生増幅YAGレーザである。この場合、光源11から出射するパルスレーザ光L1は、例えば繰り返し周波数50kHz/波長1030nm/パルス幅10psのパルス光である。レーザ光L1のスポット径は、例えば直径3μm程度である。当該スポット径は、使用するレンズと当該レンズに入力するビーム径とによって算出され得る。
【0020】
整形光学系12は、パルスレーザ光L1のビーム形状を整形する光学系である。整形光学系12は、例えばシリンドリカルレンズ、回折光学素子、空間光変調器などによって構成されている。整形光学系12は、所定の領域におけるビーム形状が接合予定線に沿った長尺状をなすようにパルスレーザ光L1を整形する(詳細は後述する)。集光光学系13は、パルスレーザ光L1を第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2に向けて集光する光学系である。集光光学系13は、例えば対物レンズによって構成されている。
【0021】
制御部5は、プロセッサ、メモリ等を含んで構成されるコンピュータシステムである。制御部5は、各種の制御機能をプロセッサによって実行する。コンピュータシステムとしては、例えばパーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。制御部5は、PLC(programmable logic controller)によって構成されていてもよく、FPGA(Field-programmable gate array)等の集積回路によって構成されていてもよい。制御部5は、所定の入力操作を受け付け、光源11からのパルスレーザ光L1の出力、整形光学系12を構成する光学素子の位置、ステージ2の駆動などを制御する。
【0022】
図2は、パルスレーザ光の照射中の第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2の状態を示す模式的な断面図である。同図に示すように、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2の内部にパルスレーザ光L1が照射されると、パルスレーザ光L1の集光点P及びその近傍において多光子吸収(或いは多光子吸収と同等の光吸収)が発生する。この多光子吸収により、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2に渡る改質領域Saが形成される。改質領域Saは、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2の構成材料が溶融及び凝固した溶融凝固領域と、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2の構成材料が炭化した変質領域とを含み得る。
【0023】
図2の例では、パルスレーザ光L1の集光点Pは、パルスレーザ光L1の照射側とは反対側となる第1の光透過性部材S1の内部において、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2との接触面Cの近傍に位置している。パルスレーザ光L1による多光子吸収は、集光点Pを起点にして発生し、改質領域Saは、第1の光透過性部材S1側の集光点Pから接触面Cを超えて第2の光透過性部材S2の内部まで達するように形成される。
【0024】
図3に示すように、パルスレーザ光L1に対してステージ2を走査し、パルスレーザ光L1の集光点Pを接合予定線Wに沿って接合開始点Waから接合終了点Wbまで移動させることにより、接合予定線Wに沿って改質領域Saが連続した状態で形成される。第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2とは、主に改質領域Saにおける溶融凝固領域によって融着し、接着剤のような中間材料を用いることなく互いに強固に接合される。パルスレーザ光L1に対するステージ2の走査速度は、レーザ光L1の繰り返し周波数が50kHzの場合に、例えば10mm/s~30mm/sである。
【0025】
図4は、レーザ加工装置の動作を示すフローチャートである。同図に示すように、レーザ加工装置1では、まず、ステージ2上に第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2が重ね合わされた状態でセットされる。次に、接合開始点Waにパルスレーザ光L1の照射位置が一致し、かつパルスレーザ光L1の集光点Pが第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2の内部に位置するように光照射部3が制御される(ステップS01)。
【0026】
パルスレーザ光L1の照射位置を接合開始点Waに一致させた後、パルスレーザ光L1の出射、整形、及び走査が開始される(ステップS02)。パルスレーザ光L1の照射期間中は、パルスレーザ光L1の照射位置が接合終了点Wbに到達したか否かが判断される(ステップS03)。パルスレーザ光L1が接合終了点Wbに到達したと判断された場合には、パルスレーザ光L1の照射、整形、及び走査が終了し、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2の加工が終了する。
【0027】
レーザ加工においては、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2との間のギャップ管理が重要となっている。第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2との間のギャップが過剰になると、レーザ光による入熱が不足し、
図5に示すように、接触面付近でパーティクルFが生じて改質領域Saの形成が不十分となるおそれがある。この場合、ギャップが過剰となっている箇所では、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2とが改質領域Saによって接合されず、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2の接合強度が不十分となることが考えられる。
【0028】
レーザ光を用いて加工を行う場合、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2との間のギャップは、使用するレーザ光の波長の1/4以下に抑えることが好ましいとされている。しかしながら、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2のサイズが大型化すると、接合予定線Wの全体に渡って第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2との間のギャップをレーザ光の波長の1/4以下に抑えることが困難となり、加工の歩留まりが低下することが考えられる。
【0029】
これに対し、上述したレーザ加工装置1では、レーザ光としてパルスレーザ光L1が用いられるため、スポット径、繰り返し周波数、及び走査速度の調整により、部材の同一箇所にパルスを複数回照射することができる。このため、前パルスによる加熱が緩和される前に次パルスによる加熱がなされ、部材の温度を効率的に融解温度まで高めることが可能となる。
【0030】
部材の加熱領域では、熱膨張による力が作用する。レーザ加工装置1では、パルスレーザ光L1の集光点Pが第1の光透過性部材S1の表面近傍に位置している。これにより、溶融温度に達した部材が熱膨張によって機械的な拘束の小さい(熱容量の小さい)部材表面に飛び出し、
図6に示すように、改質領域Saによる隆起Sbが第1の光透過性部材S1の表面(パルスレーザ光L1の入射側表面Sc)に形成される。この隆起Sbの高さが第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2との間のギャップを超える場合、隆起Sbが第1の光透過性部材S1の表面から第2の光透過性部材S2の表面まで到達する。この場合、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2との間のギャップがパルスレーザ光L1の波長の1/4を超えている場合であっても、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2とが改質領域Saによって接合することが可能となる。
【0031】
ここで、レーザ加工装置1では、第1の光透過性部材S1へのパルスレーザ光L1の入射方向から見た場合に、第1の光透過性部材S1におけるパルスレーザ光L2の入射側表面Scから集光点Pに至る領域の少なくとも一部において、パルスレーザ光L1のビーム形状が接合予定線Wに沿った長尺状をなすように、整形光学系12によるパルスレーザ光L1の整形がなされている。
【0032】
図7は、パルスレーザ光の位置を示す図である。また、
図8は、パルスレーザ光の位置とビーム形状との関係を示す図である。
図7及び
図8に示すように、本実施形態では、集光光学系13の瞳位置におけるパルスレーザ光L1のビーム形状Laは、接合予定線Wに沿う方向を長軸とし、接合予定線Wに直交する方向を短軸とする楕円形状をなしている(
図8(a)参照)。第1の光透過性部材S1への入射位置に対するパルスレーザ光L1のビーム形状Lbは、
図8(a)に比べて一回り小さい楕円形状をなしている(
図8(b)参照)。入射位置から集光点Pの近傍に至るまでのパルスレーザ光L1のビーム形状は、長軸方向の径及び短軸方向の径を徐々に縮小しつつ、
図8(a)と同様の楕円形状を維持する。
【0033】
集光位置及びその近傍におけるパルスレーザ光L1のビーム形状Lcは、ビーム形状La,Lbに対して長軸及び短軸が反転したものとなっている。すなわち、集光位置におけるパルスレーザ光L1のビーム形状Lcは、接合予定線Wに沿う方向を短軸とし、接合予定線Wに直交する方向を長軸とする楕円形状となっている(
図8(c)参照)。集光位置を過ぎた後位置におけるパルスレーザ光L1のビーム形状Ldは、ビーム形状Lcに対して長軸及び短軸が再反転したものとなっている。すなわち、後位置におけるパルスレーザ光L1のビーム形状Ldは、接合予定線Wに沿う方向を長軸とし、接合予定線Wに直交する方向を長軸とする楕円形状となっている(
図8(d)参照)。
【0034】
ビーム形状の整形を行わないパルスレーザ光では、一般に円形のビーム形状となる。この場合、パルスレーザ光による入熱は、接合予定線に沿う方向及び接合予定線に交差する方向にそれぞれ拡がる。このため、
図9(a)に示すように、改質領域の隆起が生じた際の部材の表面積の増加に伴って部材の内部温度が隆起形成温度以下まで減少し易く、改質領域の隆起が接合予定線に沿って断続的に形成される。
【0035】
これに対し、上述のように整形されたパルスレーザ光L1では、パルスレーザ光L1による入熱が接合予定線Wに沿った方向に拡がる一方、接合予定線Wに交差する方向への入熱は制限される。このため、
図9(b)に示すように、改質領域の隆起が生じた際に部材の表面積が増加したとしても部材の内部温度が隆起形成温度以上に維持され、
図6に示したように、改質領域Saの隆起Sbが接合予定線Wに沿って連続的に形成される。
【0036】
以上のことから、このレーザ加工装置1では、第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2間にパルスレーザ光L1の波長の1/4を超えるギャップが生じていたとしても、改質領域Saによって第1の光透過性部材S1と第2の光透過性部材S2とを安定的に接合することができ、部材間のギャップ管理を緩和しつつ、加工の歩留まりの向上が図られる。
【0037】
また、レーザ加工装置1では、第1の光透過性部材S1へのパルスレーザ光L1の入射方向から見た場合に、少なくとも第1の光透過性部材S1におけるパルスレーザ光L1の入射側表面Scにおいて、パルスレーザ光L1のビーム形状が接合予定線Wに沿った長尺状をなしている。これにより、接合予定線Wに沿って連続的に隆起する改質領域Saをより安定して形成できる。したがって、部材間のギャップ管理が更に緩和され、加工の歩留まりの一層の向上が図られる。
【0038】
図10は、改質領域の形成試験結果を示す図である。この試験は、パルスレーザ光のビーム形状を変化させた場合の改質領域の隆起の様子をSEMによって撮像し、ビーム形状と改質領域の隆起形状の関係性を調べたものである。
図10(a)及び
図10(b)において、画像上は瞳位置におけるビーム径、画像中央は第1の光透過性部材の入射側表面、画像下は改質領域の隆起を拡大したものである。ここでは、接合予定線に沿う方向をY軸、接合予定線に直交する方向をX軸とする。
【0039】
図10(a)は、集光光学系13の瞳位置におけるY軸方向の径が3.1mm、X軸方向の径が3.3mmの略円形状をなすパルスレーザ光を用いた場合の結果である。この略円形状のパルスレーザ光を用いた場合、改質領域の隆起の形状が略球形状となっており、当該隆起が接合予定線に沿って断続的に形成されている。
【0040】
図10(b)は、集光光学系13の瞳位置におけるY軸方向の径が3.2mm、X軸方向の径が1.7mmの略楕円形状をなすパルスレーザ光を用いた場合の結果である。この略楕円形状のパルスレーザ光を用いた場合、改質領域の隆起の形状が接合予定線方向を長軸とする楕円体形状となり、当該隆起が接合予定線に沿って連続的に形成されている。以上の結果から、パルスレーザ光L1のビーム形状を接合予定線Wに沿った長尺状とすることで、改質領域の隆起を接合予定線に沿って連続的に形成できることが分かる。なお、上記結果から、楕円率が低いパルスレーザ光を用いた場合に比べて、楕円率が高いパルスレーザ光を用いた場合の方が改質領域の隆起の連続性が高まる傾向がみられるが、楕円率が高すぎると集光径を絞りにくくなることが考えられる。したがって、パルスレーザ光の整形は、集光径を十分に小さくできる範囲で行うことが好ましい。
【0041】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、集光点Pにおけるパルスレーザ光L1のビーム形状が、接合予定線Wに沿う方向を短軸とし、接合予定線Wに直交する方向を長軸とする楕円形状となっているが、集光点Pにおけるパルスレーザ光L1のビーム形状が、接合予定線Wに沿う方向を長軸とし、接合予定線Wに直交する方向を短軸とする楕円形状となっていてもよい。この場合、第1の光透過性部材S1及び第2の光透過性部材S2を透過する領域の全体において、パルスレーザ光L1のビーム形状が、接合予定線Wに沿う方向を長軸とし、接合予定線Wに直交する方向を短軸とする楕円形状となっていてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…レーザ加工装置、2…ステージ(光走査部)、3…光照射部、5…制御部、S1…第1の光透過性部材、S2…第2の光透過性部材、W…接合予定線、P…集光点、Sc…入射側表面。