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特許7391655裏込め注入装置及びそれを用いた裏込め注入方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】裏込め注入装置及びそれを用いた裏込め注入方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20231128BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20231128BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20231128BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20231128BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20231128BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20231128BHJP
【FI】
E21D11/00 A
C08G18/00 F
C08G18/32 003
C08G18/42
C08G18/48
C08G101:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019231699
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021098991
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】松下 安克
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123555(JP,A)
【文献】特開2016-216098(JP,A)
【文献】特表2005-507964(JP,A)
【文献】特開平10-060410(JP,A)
【文献】特開平06-033697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
C08G 18/00
C08G 18/32
C08G 18/42
C08G 18/48
C08G 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール化合物及び発泡剤を含むA液とイソシアネート化合物を含むB液との混合物である硬化性薬液を空洞部に注入する裏込め注入装置であって、
前記空洞部に挿し込まれる注入管と、前記注入管に接続し前記A液と前記B液とを混合する薬液誘導複合管と、前記薬液誘導複合管に接続しているA液輸送管及びB液輸送管と、前記A液及び前記B液を夫々溜めているA液タンク及びB液タンクと、前記A液及び前記B液を前記A液タンク及び前記B液タンクから前記A液輸送管及び前記B液輸送管へ夫々加圧して送るA液圧送ポンプ及びB液圧送ポンプと、前記A液圧送ポンプ及び前記B液圧送ポンプによって送られる前記A液の量及び前記B液の量を夫々独立して調整するポンプコントローラとを、備え、
前記A液タンクが、前記A液を投入するために天面が開放された開口部と前記開口部を覆っている蓋とを有し、
前記蓋と前記開口部の周縁とが少なくとも一箇所で接触せず隙間が形成され、前記蓋の一部に空気導入孔が開けられ、前記蓋が前記開口部に螺合又は嵌合し、及び/又は前記蓋が伸長するラップフィルムであり開口部周縁に密着しており、
前記ポンプコントローラによって、前記硬化性薬液に含まれる前記A液の量と前記B液の量との体積比が1:2.4~2.7に調整されていることを特徴とする裏込め注入装置。
【請求項2】
前記蓋が、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、及びポリエチレンから選ばれるポリオレフィンで形成された前記ラップフィルム、又は前記開口部に螺合又は嵌合するプラスチック製のキャップであることを特徴とする請求項1に記載の裏込め注入装置。
【請求項3】
前記ポリオール化合物が、多価アルコール、ポリエーテルポリオール、及びポリエステルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記発泡剤が、水、ハイドロフルオロオレフィン、及びハイドロクロロフルオロカーボン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記イソシアネート化合物が、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、クルードトリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、及びトリメチレンキシリレンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の裏込め注入装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の注入装置を用いて、前記空洞部に前記硬化性薬剤を注入することを特徴とする裏込め注入方法。
【請求項5】
前記硬化性薬液の硬化物が、少なくとも1.5N/mmの圧縮強さを有し、前記硬化性薬液に対して3~10倍の体積を有している発泡ポリウレタンであることを特徴とする請求項4に記載の裏込め注入方法。
【請求項6】
前記空洞部が、トンネル覆工背面の空洞、建造物基礎下の空洞、建造物構造内の空洞、及び/又は横坑であることを特徴とする請求項4又は5に記載の裏込め注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工背面や建造物基礎下に生じた空洞を充填する硬化性薬液を注入するための裏込め注入装置、及びそれを用いた裏込め注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存のトンネル、特に矢板工法で施工されたトンネルにおいて、支保工や矢板と地山との間に残存した隙間の所為で、トンネル覆工コンクリートと地山との間に空洞が生じている場合がある。また建造物の基礎の下において、地下水の減少に伴う地盤沈下によってこの基礎と地盤との間に空洞が生じる場合がある。
【0003】
この空洞を放置すると、地山が崩落してトンネル覆工コンクリートにひび割れを生じたり、基礎によって建造物を支えきれなくなってそれの傾きを生じたりして、トンネルや建造物の安全な供用を妨げる恐れがある。そのため、このような空洞に硬化性薬液を注入して空洞を満たすことによりトンネルや建造物を安定化し、安全を確保する工事が行われている。このような工事の方法は、裏込め注入工と呼ばれている。
【0004】
この裏込め注入工に用いられる硬化性薬液として、モルタルやセメントのような無機材料や、発泡ポリウレタンのような有機材料が挙げられている。なかでも発泡ポリウレタンは、裏込め注入工の施工現場で簡便に調製できて施工性に優れている点、高い圧縮強さを有する点、無機材料に比べて軽量であることから特にトンネル覆工コンクリートへの荷重を軽減できる点で好適に用いられている。
【0005】
発泡ポリウレタンは、ポリオール化合物含有液及び発泡剤を含むA液とイソシアネート化合物を含むB液とを混合して調製された硬化性薬液が、A液とB液との反応によって発泡を伴い数倍~数十倍の体積に膨張して硬化するという過程を経て生成する。例えば特許文献1によれば、A液とB液とを、A液:B液=1:1.1±0.1の体積比で混合させている。一方、硬化性薬液に対する発泡ポリウレタンの体積比は、発泡倍率と呼ばれている。裏込め注入工において、この硬化性薬液を空洞に注入すると、空洞内で発泡ポリウレタンが生成することによって、この空洞が充填される。
【0006】
非特許文献1に、発泡倍率を10~30倍とし、0.2~1.3N/mmの圧縮強さを有する発泡ポリウレタンで、トンネル覆工コンクリートの背面に存在する空洞(覆工背面空洞)を充填する方法が記載されている。また非特許文献2にもこれと同様に、地山に形成された空洞を、1N/mm程度の圧縮強さを有する材料で空洞を充填する方法が記載されている。発泡ポリウレタンの圧縮強さは、JIS K7220(2006)に準拠して測定し、求めることができる。
【0007】
A液に含まれるポリオール化合物は、吸湿性を有しているので、裏込め注入工の施工中に空気中の水蒸気を吸収して変質することがある。吸湿したポリオール化合物を含むA液をB液と混合して生成した発泡ポリウレタンは、所期の発泡倍率より高くなる。発泡ポリウレタンの発泡倍率が高いほど、それの密度が低下する。発泡ポリウレタンの密度低下は、それの圧縮強度低下を招来する。ポリオール化合物の吸湿によって所期の値よりも高い倍率で発泡した発泡ポリウレタンは低密度となり、空洞を形成している地山等を支えるのに十分な圧縮強度を有する発泡ポリウレタンを生成させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-154764号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】独立行政法人土木研究所 基礎道路技術研究グループ(トンネルチーム)、「道路トンネル変状対策工マニュアル(案)」、平成15年2月、土木研究所資料第3877号、p.106-118
【文献】東日本高速道路株式会社ら編、「矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工要領」、平成18年10月初版、株式会社高速道路総合技術研究所、p.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、裏込め注入工において、発泡ポリウレタンが常に予め設定された倍率で発泡することにより、所期の圧縮強さを有する発泡ポリウレタンを常に安定して生成できる裏込め注入装置及びそれを用いた裏込め注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた本発明の裏込め注入装置は、ポリオール化合物及び発泡剤を含むA液とイソシアネート化合物を含むB液との混合物である硬化性薬液を空洞部に注入する裏込め注入装置であって、前記空洞部に挿し込まれる注入管と、前記注入管に接続し前記A液と前記B液とを混合する薬液誘導複合管と、前記薬液誘導複合管に接続しているA液輸送管及びB液輸送管と、前記A液及び前記B液を夫々溜めているA液タンク及びB液タンクと、前記A液及び前記B液を前記A液タンク及び前記B液タンクから前記A液輸送管及び前記B液輸送管へ夫々加圧して送るA液圧送ポンプ及びB液圧送ポンプと、前記A液圧送ポンプ及び前記B液圧送ポンプによって送られる前記A液の量及び前記B液の量を夫々独立して調整するポンプコントローラとを、備え、前記A液タンクが、前記A液を投入するために天面が開放された開口部と前記開口部を覆っている蓋とを有し、前記蓋と前記開口部の周縁とが少なくとも一箇所で接触せず隙間が形成され、前記蓋の一部に空気導入孔が開けられ、前記蓋が前記開口部に螺合又は嵌合し、及び/又は前記蓋が伸長するラップフィルムであり開口部周縁に密着しており、前記ポンプコントローラによって、前記硬化性薬液に含まれる前記A液の量と前記B液の量との体積比が1:2.4~2.7に調整されているものである。
【0012】
裏込め注入装置は、前記蓋が、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、及びポリエチレンから選ばれるポリオレフィンで形成された前記ラップフィルム、又は前記開口部に螺合又は嵌合するプラスチック製のキャップであることが好ましい。
【0013】
裏込め注入装置は、前記ポリオール化合物が、多価アルコール、ポリエーテルポリオール、及びポリエステルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、前記発泡剤が、水、ハイドロフルオロオレフィン、及びハイドロクロロフルオロカーボン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、前記イソシアネート化合物が、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、クルードトリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、及びトリメチレンキシリレンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0014】
本発明の裏込め注入方法は、前記注入装置を用いて、前記空洞部に前記硬化性薬剤を注入するというものである。
【0015】
裏込め注入方法において、前記硬化性薬液の硬化物が、少なくとも1.5N/mmの圧縮強さを有し、前記硬化性薬液に対して3~10倍の体積を有している発泡ポリウレタンであってもよい。
【0016】
裏込め注入方法において、前記空洞部が、トンネル覆工背面の空洞、建造物基礎下の空洞、建造物構造内の空洞、及び横坑から選ばれる何れかであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の裏込め注入装置によれば、ポリオール化合物及び発泡剤を含むA液を溜めるA液タンクが蓋を有しているため、高い吸湿性を示すポリオール化合物をタンク内で、空気中に存在する水蒸気の吸収量を抑えながら貯留することができる。それによればポリオール化合物の経時的な吸湿による発泡倍率の上昇及びそれに伴う圧縮強さの低下を防ぎ、所期の圧縮強さを有する発泡ポリウレタンを安定して生成することができる。
【0018】
この裏込め注入装置は、A液に対して体積比で約2.5倍量のB液を混合するものであるので、イソシアネート化合物量に対してポリオール化合物量が相対的に過少であることから、A液:B液=1:1.1±0.1の混合とする従来の混合比に比べ、発泡ポリウレタンの発泡倍率を低く抑えて発泡ポリウレタンを高密度化し、1.5N/mm以上という高い圧縮強さを発現する発泡ポリウレタンを空洞内で生成させることができる。それにより、覆工背面空洞を形成している地山の崩落を確実に防ぐことができる。
【0019】
さらにこの裏込め注入装置によれば、イソシアネート化合物量に対してポリオール化合物量が過少であるから、覆工背面空洞内に発泡剤となり得る湧水や滞留水が少量存在していても、発泡ポリウレタンの発泡倍率が過度に増大することを防止して、高密度で高い圧縮強さを常に安定して発現する発泡ポリウレタンを空洞内で生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を適用する裏込め注入装置及びそれを用いた裏込め注入方法を説明する模式部分断面側面図である。
図2】本発明を適用する裏込め注入装置を用いて得られた実施例1の発泡ポリウレタン及び本発明の適用外の裏込め注入装置を用いて得られた比較例1の発泡ポリウレタンにおける静置時間と発泡倍率との相関関係を示すグラフである。
図3】本発明を適用する裏込め注入装置を用いて得られた実施例2-1及び実施例2-2の発泡ポリウレタン及び本発明の適用外の裏込め注入装置を用いて得られた比較例2の発泡ポリウレタンにおける静置時間と発泡倍率との相関関係を示すグラフである。
図4】本発明を適用する裏込め注入装置を用いて得られた実施例2-1及び実施例2-2の発泡ポリウレタン及び本発明の適用外の裏込め注入装置を用いて得られた比較例2の発泡ポリウレタンにおける静置時間と圧縮強さとの相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明の裏込め注入装置の一形態の模式正面図を図1に示す。図1に示す裏込め注入装置1は、B液輸送管12、並びにこれから枝分かれするように夫々接続したA液輸送管11及び空気導入管13を有する薬液誘導複合管10と、A液圧送ポンプ21及びB液圧送ポンプ22を有するポンプユニット20と、エアコンプレッサ30と、A液を注入する開口部で蓋53を有しA液を溜めているA液タンク51と、B液を溜めいているB液タンク52を、有している。ポンプユニット20は、機器積載車72に積載されている。エアコンプレッサ30は、道路トンネル60の坑外に仮設置されている。
【0023】
A液は高い吸湿性を有するポリオール化合物と発泡剤とを含んでいる。B液はイソシアネート化合物を含んでいる。A液とB液を特定の体積比で混合して硬化性薬液が調製されている。硬化性薬液は、施工対象である空洞部63に注入され、空洞部63内で発泡ポリウレタンが生成する。
【0024】
A液輸送管11は、第1A液チューブ41aを介してA液圧送ポンプ21に繋がっている。A液圧送ポンプ21は、第2A液チューブ41bを介してA液タンク51に繋がっている。B液輸送管12は、第1B液チューブ42aを介してB液圧送ポンプ22に繋がっている。B液圧送ポンプ22は、第2B液チューブ42bを介してB液タンク52に繋がっている。空気導入管13は、エアチューブ43を介してエアコンプレッサ30に繋がっている。
【0025】
B液輸送管12の先端に、覆工コンクリート61に開けられた削孔64aに挿し込まれて空洞部63に硬化性薬液を吐出する注入管14が接続している。空気導入管13にそれの内空の空気圧を表示するブルドン管13bが、取り付けられている。ブルドン管13bは、空気導入管13内の圧力を、注入作業者73が目視によって確認するために設けられている。
【0026】
A液輸送管11、B液輸送管12、及び空気導入管13は、管内を開通又は閉塞するボールバルブ11a,12a,13aを夫々有している。
【0027】
両圧送ポンプ21,22はモーターを有しており、それの回転によってA液及びB液を、夫々A液タンク51及びB液タンク52から吸い込んで、A液輸送管11及びB液輸送管12へ送る。ポンプユニット20は、両圧送ポンプ21,22の動作を制御するポンプコントローラ23を有している。ポンプコントローラ23はインバータを備えており、両圧送ポンプ21,22のモーターを夫々独立して動作させたり停止させたり、またそれの回転数を無段階で変更したりする。それにより、両圧送ポンプ21,22によって送られるA液及びB液の量は、夫々独立して所望の値に調整される。ポンプコントローラ23に、両圧送ポンプ21,22を制御するための電気信号を発生させるスイッチ及びその動作状況を示す計器が取り付けられている。ポンプ操作者74はこの手動スイッチを操作することにより、両圧送ポンプ21,22を、ポンプコントローラ23を介して操作できる。両圧送ポンプ21,22の動作を操作することによって両タンク51,52に夫々注入されたA液及びB液を、A液輸送管11及びB液輸送管12に、夫々送ることができる。
【0028】
両タンク51,52は、略円筒形の胴部とこの胴部から下方へ向かって窄まった狭窄部とを有している。両タンク51,52はそれの天面に開口部を有している。この開口部から、A液及びB液を夫々両タンク51,52に投入することにより、それらを溜めることができる。両タンク51,52の狭窄部の先端は、第2A液チューブ41b及び第2B液チューブ42bに、夫々液密に接続している。A液タンク51は、それの開口部に蓋53を有している。
【0029】
蓋53は、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、及びポリエチレンに例示されるポリオレフィンのような樹脂で形成されたラップフィルムである。蓋53は、A液タンク51の開口部の周縁に接触して、それの全面を覆っている。蓋53とA液タンク51の開口部周縁とは、少なくとも一箇所で接触しておらず、両者の間に僅かの隙間が形成されている。それにより、裏込め注入工の進行とともにA液が消費されて、それの液面が下降しても、消費されたA液の体積に相当する体積の空気が、この隙間からA液タンク51の内空に導入される。A液は、A液タンク51内の空気に含まれる水蒸気を吸収するものの、その吸収量はA液タンク51内に存在するごく僅かの量に限られる。そのためこの裏込め注入装置1によれば、A液中のポリオール化合物が大気中の水蒸気を絶えず継続的に吸収して変質してしまう従来の裏込め注入装置に比して、A液の吸湿を従来よりも大幅に抑えてそれの変質を防止できる。その結果この裏込め注入装置1は、A液とB液との混合物である硬化性薬液の発泡によって生成する発泡ポリウレタンの発泡倍率を不意に増大させず、かつそれの圧縮強さを不意に低下させない。なお、A液タンク51にA液を補充する際、蓋53は捲られることによりA液タンク51の開口部が露出する。この開口部からA液が注入された後、速やかに蓋53で開口部が覆われる。
【0030】
蓋53のラップフィルムとして、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)製の、所謂ストレッチフィルムを用いてもよい。このようなストレッチフィルムは、互いに離反する平面方向の張力の作用によって、元の長さの2~3倍に伸長する。このような蓋53を用いた場合、蓋53はA液タンク51の開口部周縁に密着していることにより、それとの間に隙間が形成されていなくてもよい。この場合、A液の消費に伴って下降するA液に液面に追従するように、蓋53がA液タンク51の内空へ凹むように伸長する。それによれば、A液が消費されてその液面が下降しても、A液タンク51内に空気が導入されないので、より一層A液の吸湿を抑制することができる。
【0031】
蓋53はA液タンク51の開口部を覆うことができるものであればラップフィルムに限られず、金属製や樹脂製の硬質なものや、開口部に螺合又は嵌合するキャップであってもよい。蓋53として、A液タンク51とは別体でありそれの開口部に着脱可能なものや、A液タンク51にヒンジを介して設けられていることにより開閉可能なものが挙げられる。この場合、蓋53とA液タンク開口部周縁との間又は蓋53の一部に、少なくとも一箇所の空気導入孔が開いていることが好ましい。A液の消費に伴ってこの空気導入孔からA液タンク51内に空気が導入される。
【0032】
キャップがA液タンク51の開口部に螺合するものである場合、A液タンク51の開口部の外周面に雄型螺子が形成され、かつキャップはそれに螺合する雌型螺子を内側面壁面に有しているものが挙げられる。またキャップがA液タンク51の開口部に嵌合するものである場合、キャップはA液タンク51の開口部の径よりもやや大きい内径を有しており、さらにキャップの内壁面とA液タンク51の開口部の外周面とが、互いに係合しあう爪を有していることにより、両者が嵌合するとともにキャップが容易に外れないように構成されていてもよい。キャップとして、上記に例示した樹脂の他にポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、並びにフェノール樹脂のような樹脂で形成されたプラスチックキャップが挙げられる。
【0033】
A液タンク51に、それの内壁面及び/又は蓋53のA液に面した側にシート状、フィルム状、棒状の吸湿材が貼り付けられていてもよい。吸湿材として、例えば、酸化カルシウム、塩化カルシウム、シリカゲル、活性炭、及びゼオライトが挙げられる。
【0034】
裏込め注入装置1を用いた本発明の裏込め注入方法について説明する。まず、覆工コンクリトート61において、その背面に空洞部63が存在する箇所で、公知の空洞調査技術(例えば、高密度二次元電気探査法及び電磁波レーダ探査法)を用い、空洞部63の体積を計測する。この計測値に基づいて、硬化性薬液の注入量を計算して決定する。さらに、この注入量の硬化性薬液を調製するのに要するA液及びB液の量を夫々計算し、決定する。次いで覆工コンクリート61の天面に、道路トンネル60の坑内から空洞部63に向かって、ドリルで複数の削孔64a,64bを形成する。
【0035】
注入作業者73は、薬液誘導複合管10のボールバルブ11a,12a,13aをすべて閉じて、薬液誘導複合管10とともに高所作業車71のバケット71aに乗り込む。バケット71aを覆工コンクリート61の天面付近にまで上昇させる。次いで注入作業者73は、薬液誘導複合管10の注入管14を、削孔64aに挿し込む。さらに注入管14が削孔64aから抜けないように、注入管14に取り付けられてこれとともに空洞部63に挿入されて覆工コンクリート61背面の削孔64aの開口部に掛かる落下防止リングや、接着剤によって薬液誘導複合管10を固定し、注入管14と削孔64aとの隙間にウエスやコーキング材のようなシール材65を詰めて、空洞部63に注入された硬化性薬液が漏れないようにこの隙間を塞ぐ。なお、シール材65としてウエスを用い、このウエスを詰めながら注入管14を削孔64aに挿し込んでもよい。
【0036】
その後注入作業者73は、空気導入管13のボールバルブ13aを開き、ブルドン管13bの指示値を目視し、確実に圧縮空気が送られていることを確認する。次いでB液輸送管12のボールバルブ12a、及びA液輸送管のボールバルブ11aを開き、ポンプ操作者74に発泡ポリウレタン原料液の注入開始を、口頭にて指示する。ポンプ操作者74は、ポンプコントローラ23の手動スイッチを操作して両圧送ポンプ21,22を動作させる。このときポンプ操作者74は、B液の単位時間当たりの送液量(体積)を、A液のそれに対して2.4~2.7倍となるように、両圧送ポンプ21,22のモーターに回転数差を設ける。
【0037】
A液及びB液を、薬液誘導複合管10に送る。それによりA液及びB液は、空気導入管13によって導入された圧縮空気とともに薬液誘導複合管10内で、体積比でA液:B液=1:2.4~2.7となるように混合・撹拌され、硬化性薬液が調製される。
【0038】
この硬化性薬液が注入管14から吐出されて空洞部63へ注入される。硬化性薬液は、空洞部63内の覆工コンクリート61上で、削孔64aを中心として放射状に流れて広がり、すぐさま発泡・膨張しながら硬化し、発泡ポリウレタンを生成する。この発泡ポリウレタンによって空洞部63が徐々に充填される。
【0039】
注入作業者73は、注入管14を挿し込んだ削孔64aとは別な削孔64bから、発泡ポリウレタンが僅かに漏れ出たことを視認した時点で、空洞部63が発泡ポリウレタンで充填されたことを判断する。注入作業者73は、すぐさまポンプ操作者74に両圧送ポンプ21,22の動作を止めるように指示する。ポンプ操作者74がポンプコントローラのスイッチをOFFにすると、両圧送ポンプ21,22の動作が停止して、硬化性薬液の注入が終了する。
【0040】
注入作業者73は、空気導入管13のボールバルブ13aを開けたまま、A液輸送管11のボールバルブ11a及びB液輸送管12のボールバルブ12aを閉める。それにより、薬液誘導複合管10内に少量残存した硬化性薬液、A液、及びB液を、空気の圧力によって薬液誘導複合管10から排出し、これらの液の残存や逆流によって薬液誘導複合管10が詰まったり、薬液誘導複合管10内で発泡ポリウレタンが生成して薬液誘導複合管10が破裂したりすることを防止する。その後ポンプ操作者74はエアコンプレッサ30の動作を止め、注入作業者73はボールバルブ13aを閉める。
【0041】
注入作業者73は、B液輸送管12から注入管14を取り外し、注入済みで未だ流動性を有する硬化性薬液が遺漏しないように、注入管14を折り曲げたりそれの開口部を塞いだりして、発泡ポリウレタンを養生する。このようにして道路トンネル60の覆工コンクリート61の背面と地山62との間に形成された空洞部63を発泡ポリウレタンで充填する裏込め注入工が完了する。
【0042】
この裏込め注入装置1に用いる硬化性薬液は、A液とB液との混合比を体積比で、A液:B液=1:2.4~2.7としていることが好ましく、1:2.4~2.6としていることがより好ましく、1:2.6としていることがより一層好ましい。
【0043】
このように硬化性薬液中、B液はA液よりも多い。そのため、ポリオール化合物及び発泡剤のすべてがイソシアネート化合物との反応に消費されて、発泡ポリウレタンが生成する。一方、ポリオール化合物及び発泡剤との反応に消費されないイソシアネート化合物は、それのイソシアネート基同士が反応し、イソシアネート化合物の多量体、例えば二量体及び/又は三量体を形成する。イソシアネート化合物多量体は、発泡ポリウレタン中に取り込まれる。
【0044】
この発泡ポリウレタンは、従来知られている空洞充填用発泡ポリウレタンよりも低い発泡倍率を有している。本発明によって生成する発泡ポリウレタンは、発泡倍率の下限値を3倍、4倍、5倍、及び6倍のいずれかとし、それの上限値を、6倍、7倍、8倍、9倍、及び10倍のいずれかとしている。発泡倍率の下限値と上限値との組み合わせは、上記の上下限値から、任意に選択される。発泡倍率が過度に低いと、発泡ポリウレタンの密度が高過ぎてトンネル覆工コンクリートのような構造物への荷重が高負荷となってしまう。一方発泡倍率が過度に高いと、発泡ポリウレタンの密度が低過ぎて1.5N/mmという圧縮強さを満たすことが困難である。
【0045】
発泡倍率は、A液及びB液の混合により得られる硬化性薬液の密度を、JIS K7222(2005)に準拠して求めた発泡ポリウレタンの見掛け密度(bulk density)で除することにより求めることができる。
【0046】
発泡倍率を求めるために調製する発泡ポリウレタンは、生成の過程で何ら障害物の干渉を受けることなしに調製される。具体的に、A液とB液との混合により調製された硬化性薬液を、ポンプを通じて蓋を有しない非密閉容器であるビーカー内に吐出して、そのまま放置してこれを発泡させることにより、発泡倍率測定用の発泡ポリウレタンを生成させる。このような条件で硬化性薬液を発泡させることを、フリー発泡と呼ぶ。発泡ポリウレタンの発泡倍率、圧縮強さ、及び密度は、このフリー発泡によって調製された発泡ポリウレタンから切り出された試験片に基づいて求められる。
【0047】
硬化性薬液が発泡して硬化することにより生成する発泡ポリウレタンは、上記のように比較的低い発泡倍率としている。そのため硬化性薬液の硬化物である発泡ポリウレタンは、空隙が少なく、高密度で高い圧縮強さを発現する。発泡ポリウレタンの密度は、100~250kg/mであることが好ましく、110~240kg/mであることがより好ましく、120~130kg/mであることがより一層好ましい。この密度は、JIS K7222(2005)の見掛けコア密度(apparent core density)に準拠して求められる。具体的に、縦50mm×横50mm×高さ50mm程度に切り出した発泡ポリウレタンの直方体試験片の各辺を正確に測定し、体積を算出する。次いで、試験片の重量を測定し、重量を体積で除する。また、圧縮強さは具体的に、少なくとも1.5N/mmであり、好ましくは2.0N/mm以上であり、より好ましくは2.5N/mm以上である。この圧縮強さはJIS K7220(2006)に準拠し、圧縮の試験速度を1分間当たり試験前試験片厚さの10%、具体的に4.9~5.1mm/分、より具体的に5.0mm/分として測定される値である。
【0048】
本発明において、水のような発泡剤を含むA液に比してB液が過多である硬化性薬液を調製する。そのため硬化性薬液中において、A液に含まれるポリオール化合物に由来する水酸基の1モルに対し、B液に含まれるイソシアネート化合物に由来するイソシアネート基のモル数が2.5~3.5倍、好ましくは2.8~3.2倍、より好ましくは2.9~3.1倍である。
【0049】
空洞内に注入された硬化性薬液が空洞内の湧水や滞留水に接触することにより、発泡ポリウレタン中に高い圧縮強さを発現し難いウレア化された部分が生成したとしても、硬化性薬液中に含まれる過剰のイソシアネート化合物が発泡ポリウレタンに高い圧縮強さを付与する三量体を生成する。そのため、空洞内に水が存在していても、1.5N/mm以上という高い圧縮強さを有する発泡ポリウレタンを生成させることができる。
【0050】
A液及びB液の各液温は、それぞれ各タンク内に溜められた状態において5℃~40℃で静置されていると好ましく、10℃~35℃であるとより好ましく、15℃~25℃であると更に好ましい。それらは特定の体積比によりその液温で混合され硬化性薬液が調製される。またA液及びB液は、同じ温度であると好ましい。
【0051】
本発明の裏込め注入装置1によれば、清浄条件下ではもちろん、空洞内に岩や石、及びトンネル掘削に用いられた角材やコンクリートブロックのような障害物、並びに湧水や滞留水が存在している場合であっても、1.5N/mm以上という高い圧縮強さを常に安定して発現する発泡ポリウレタンを空洞内で生成させることができる。その結果、地山に押しつぶされることなく確実に地山の崩落を防止することができる。
【0052】
しかも、本発明の裏込め注入装置1によれば、発泡ポリウレタンの生成時における発熱を従来に比して低く抑えることができる。そのため発泡ポリウレタンの生成時、例えば枯葉や枯枝のような可燃物に不意に接触したとしても、それらが発泡ポリウレタンの熱によって発火することを確実に防止できる。このようにこの裏込め注入装置1によれば、高い安全性を確保しつつ空洞充填作業を行うことができる。本発明の裏込め注入装置1により生成する発泡ポリウレタンの生成時の内部温度は最高で190℃、好ましくは180℃に抑えられている。硬化性薬液におけるB液のイソシアネート化合物が過多であるため、A液中のポリオール化合物及び発泡剤との反応頻度が抑えられ、発泡ポリウレタン生成に起因する発熱が従来よりも抑えられていることによるものと考えられる。
【0053】
A液に含まれるポリオール化合物は多価アルコールであってもよく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチルペンタンジオール、2,2,3-トリメチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、及び1,18-オクタデカンジオール、1,20-エイコサンジオールのような脂肪族多価アルコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、及び水添ビスフェノールAのような脂環式多価アルコール;カテコール、4-t-ブチルカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、2-t-ブチルヒドロキノン、2,5-ジヒドロキシトルエン、2,6-ジヒドロキシトルエン、3,4-ジヒドロキシトルエン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2’-ジヒドロキシジフェニル、2,3-ジヒドロキシジフェニル、4,4'-ジヒドロキシジフェニル、ビスフェノールA、及びフロログリシノールのような芳香族多価アルコール;グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ヒマシ油、ソルビトール、及びスクロースが挙げられる。これらは単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ポリオール化合物は、ポリエーテルポリオールであってもよい。ポリエーテルポリオールとして、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのようなポリアルキレングリコール;プロピレングリコールにプロピレンオキサイドを付加したポリエーテルジオール、ビスフェノールAにプロピレンオキサイドを付加したポリエーテルジオール、グリセリンにプロピレンオキサイドを付加したポリエーテルトリオール、エチレンジアミンの活性水素にプロピレンオキサイドを付加したポリエーテルテトラオール、及びソルビトール系及びスクロース系にプロピレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0055】
ポリオール化合物は、ポリエステルポリオールであってもよい。ポリエステルポリオールは、多価カルボン酸と上記のポリオール化合物との縮合反応によって得られる。
【0056】
ポリエステルポリオールを形成する多価カルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、イソプロピルマロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルマロン酸、エチルコハク酸、グルタル酸、β-メチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、エイコサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びメサコン酸のような炭素数2~24の脂肪族多価カルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、テレフタル酸ジメチル、トリメリット酸、ピロメリット酸、α-ナフタレンジカルボン酸、β-ナフタレンジカルボン酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルのような芳香族多価カルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、及びヘキサヒドロ無水フタル酸のような脂環式多価カルボン酸が挙げられる。これらの多価カルボン酸は、一種又は複数種を上記のポリオール化合物の少なくとも一種と縮合反応してポリエステルポリオールを生成する。
【0057】
ポリオール化合物として、平均官能基数が2~6であり、水酸基価から求めた数平均分子量が1000以下であるものが好ましい。具体的に、三洋化成工業株式会社製のニューポールやサンニックスが市販されている(「ニューポール」及び「サンニックス」は登録商標)。さらに具体的には、ポリプロピレングリコールであるニューポールPP-200(水酸基価から求めた数平均分子量200)、同PP-400(同400)、同PP-600(同600)、及び同PP-950(同950);ポリオキシプロピレングリセリルエーテルであるニューポールGP-250(水酸基価から求めた数平均分子量250)、同GP-300(同300)、同GP-400(同420)、及び同PP-600(同600);ポリオキシプロピレングリコールであるサンニックスPP-200(水酸基価から求めた数平均分子量200)、同PP-400(同400)、同PP-600(同600)、及び同PP-950(同950);ポリオキシプロピレングリセリルエーテルであるサンニックスGP-250(水酸基価から求めた数平均分子量250)、同GP-400(同400)、及び同GP-600(同600)が挙げられる。
【0058】
A液中におけるポリオール化合物の含有率は、10~90質量%であることが好ましく、15~85質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることが一層好ましい。
【0059】
A液は、発泡剤を含んでいる。この発泡剤として、例えば、水;トリクロルモノフルオロメタン、トリクロルトリフルオロエタン、CHF、CH、CHF、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのようなハイドロフルオロオレフィン;ジクロロモノフルオロエタン、クロロジフルオロメタン、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンのようなハイドロクロロフルオロカーボン化合物が挙げられる。
【0060】
A液は、ポリオール化合物及び発泡剤に加えて、必要に応じ、アミン触媒、三量化触媒、難燃剤、整泡剤、及び可塑剤を含んでいてもよい。
【0061】
アミン触媒は、発泡ポリウレタンの生成を促進する作用を有しており、B液中に含まれるイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応してウレアを生成する。このようなアミン触媒として、例えば、トリエチレンジアミン、2-メチルトリエチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N',N',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン、トリメチルアミノエチルピペラジン、ビス-(ジメチルアミノエチル)エーテル、ヘキサヒドロ-S-トリアジン、N,N-ジメチルアミノエチルモルホリン、ジメチルアミノプロピルイミダゾール、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ヘキサメチルトリプロピレンテトラミン、N,N,N-トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン等の三級アミンが挙げられる。これらは単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。好ましいアミン触媒はトリエチレンジアミンである。トリエチレンジアミンは常温で固体であるため、ジプロピレングリコールに例示される上記のポリオールに溶解して用いることが好ましい。アミン触媒は、A液100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましい。
【0062】
三量化触媒は、B液に含まれるイソシアネート化合物を三量化させるためにA液に含有されている。このような三量化触媒として、例えば、アルカリ性脂肪酸塩、第4級アンモニウムが挙げられ、具体的に、オクチル酸カリウムのようなオクチル酸のアルカリ金属塩が好ましい。オクチル酸カリウムは常温で固体であるため、トリエチレングリコールに例示される上記のポリオールに溶解して用いることが好ましい。三量化触媒は、A液100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましい。
【0063】
発泡ポリウレタンは、トンネル覆工背面のような閉塞した空洞内で発熱しながら生成する。そのため過熱による燃焼を防止するのに、A液に難燃剤を含ませることが好ましい。この難燃剤として、ハロゲン系化合物、リン酸エステル系化合物、リン系化合物、窒素系化合物、ホウ素系化合物、及び硫黄系化合物が挙げられる。これらは単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。難燃剤は、A液100質量部に対して1~30質量部であることが好ましい。
【0064】
難燃剤であるハロゲン系化合物として、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、1,1,2,2-テトラブロモエタン、1,2,3,4-テトラブロモエタン、1,4,5,6-テトラブロモ無水フタル酸、及びテトラブロモビスフェノールAが挙げられる。
【0065】
難燃剤であるリン酸エステル系化合物として、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-2-エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、及び2-エチルヘキシルジフェニルホスフェートのようなノンハロゲンリン酸エステル類;トリス(β-クロロエチル)ホスフェート、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(1,3-ジクロソプロピル)ホスフェート、トリス(2-クロロエチル)ホスフェート、トリス(2,4,6-トリブロモフェニル)ホスフェート、ビス(β-クロロエチル)ビニルホスホン酸エステル、トリアリルホスフェートのような含ハロゲン縮合リン酸エステル類が挙げられる。
【0066】
難燃剤であるリン系化合物として、例えば、オルソリン酸、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸尿素、リン酸グアニル尿素、ポリホスホリルアミド、リン酸メラミン、ポリホスホリルアミドアンモニウム、ホスホリルトリアニライド、ホスホニトリル、トリス(2-カルバモイルエチル)ホスフィン、トリス(2-カルバモイルエチル)ホスフィンオキシド、ホスホリルアミド、ホスフィンアミド、及びビニルホスホン酸が挙げられる。
【0067】
難燃剤である窒素系化合物として、例えば、トリメチロールメラミン、及びN-メチロールアクリルアミドが挙げられる。難燃剤であるホウ素系化合物として、例えば、ホウ酸、リン酸ホウ素、及びホウ酸アンモニウムが挙げられる。難燃剤である硫黄系化合物として、例えば、チオ尿素、硫酸アンモニウム、及びスルファミン酸アンモニウムが挙げられる。
【0068】
上記以外の難燃剤用化合物として、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、三塩化アンチモン、塩化亜鉛、塩化スズ、二酸化錫、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムのような無機化合物が挙げられる。臭素系難燃剤を用いた場合、アンチモン化合物、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、及びアンチモン酸ナトリウムのようなアンチモン含有無機化合物を難燃助剤として用いた場合、難燃効果が向上する。難燃剤として、特に、常温で液体であり、比較的低比重のリン酸エステル系難燃剤が好ましい。難燃剤は、A液100質量部に対して1~30質量部であることが好ましい。
【0069】
整泡剤は、均一に分散した空隙を発泡ポリウレタンに付与することができる。このような整泡剤として、シリコーン系整泡剤が挙げられ、具体的に、ポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサンコポリマーが挙げられる。このポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサンコポリマーは、硬質発泡ポリウレタンに用いられることが多い。整泡剤は、A液100質量部に対して1~30質量部であることが好ましい。
【0070】
可塑剤は、発泡ポリウレタンに柔軟性を付与して、空洞をなしている地山の複雑な表面に沿わせながら発泡ポリウレタンを生成させることができる。このような可塑剤として、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジイソノニルのようなフタル酸エステル;アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、及びアジピン酸ビス(2-(2-ブトキシエトキシ)エチル)のようなアジピン酸エステル;トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)のようなトリメリット酸エステル;ポリオキシアルキレンジアルキルエーテルが挙げられる。なかでも、人体及び環境への悪影響が少ないことから、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテルが好ましい。
【0071】
B液に含まれるイソシアネート化合物は、イソシアネート基を複数有している。イソシアネート化合物は、芳香族系ポリイソシアネート、脂環族系ポリイソシアネート、及び脂肪族系ポリイソシアネート、並びにそれらのウレタン変性体、アロファネート変性体、ウレトジオン変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体、ウレトンイミン変性体、ウレア変性体、及びビウレット変性体のような変性ポリイソシアネートが挙げられる。
【0072】
芳香族系ポリイソシアネートとして、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリレンジイソシアネート、クルードトリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、及びトリメチレンキシリレンジイソシアネートが挙げられる。脂環族系ポリイソシアネートとして、水素添加MDI、水素添加XDI、水素添加TMXDI、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びシクロヘキサンジイソシアネートが挙げられる。脂肪族系ポリイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネート及び[1-(メトキシカルボニル)ペンタン-1,5-ジイル]ジイソシアネートが挙げられる。これらは異性体を含んでいてもよく、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、これらは触媒によって二量体又は三量体となっていてもよい。さらにポリメリックMDIは難燃剤や可塑剤を含んでいてもよく、その例としてハロゲン化リン酸エステルが挙げられる。
【0073】
本発明の裏込め注入方法は、図1に示すようなトンネル覆工背面の空洞の他、建造物基礎下の空洞、及び建造物構造内の一部欠損により形成された空洞、並びに廃坑、水路、防空壕、及びライフライン埋設坑のような横坑を塞ぐのに好適に用いることができる。ライフライン埋設坑とは、上下水道管、送電線、ガス管、並びに電話回線及び光回線に例示される通信回線のようなライフラインを収容し、地中に埋設されている横坑をいう。
【実施例
【0074】
本発明の裏込め注入装置を用いて空洞を発泡ポリウレタンで充填した実施例、及び本発明を適用外の裏込め注入装置を用いた比較例を示す。
【0075】
(実施例1)
本発明の裏込め注入装置に用いる硬化性薬液を調製するためのA液及びB液を、下記のように調製した。
<A液>
・ポリオール化合物:ポリエーテルポリオール(三洋化成工業株式会社製、商品名:サンニックスGP-600)、15質量%
・ポリオール化合物:ポリエーテルポリオール(三洋化成工業株式会社製、商品名:サンニックスGP-300)、24質量%
・ポリオール化合物:ポリエーテルポリオール(三洋化成工業株式会社製、商品名:サンニックスPP-600)、10質量%
・発泡剤:水道水、1質量%
・難燃剤:トリスクロロプロピルホスフェート(大八化学工業株式会社製、商品名:TMCPP)、29質量%
・可塑剤:ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル(三洋化成工業株式会社製、商品名:DM-200)、19質量%
・アミン触媒:第4級アンモニウム塩(サンアプロ株式会社製、商品名:U-CAT18X)、1.8質量%
・アミン触媒:ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル(東ソー株式会社製、商品名:TOYOCAT-ETS)、0.2質量%
<B液>
・イソシアネート化合物:ポリメリックMDI(東ソー株式会社製、商品名:MR-200、100質量%
【0076】
天面が開放された直方体形状の容器(縦、横、及び高さいずれも250mm)を用意した。20℃で湿度60%の室内で、上部にA液を注入する開口部を有する1L容器のA液タンク51にA液を入れ、その開口部を蓋53である2重にしたラップフィルム(株式会社クレハ社製、商品名:NEWクレラップ)で覆い、輪ゴムで固定して、A液タンク51を密閉した。その直後、A液及びB液(ともに液温20℃)を、図1に示す裏込め注入装置を用いて、A液:B液=1:2.4(体積比)となるように混合して硬化性薬液を調製しながら(硬化性薬液の密度(D):1.18g/cm)、硬化性薬液の200mLを、容器に吐出した。それにより、容器内で硬化性薬液を発泡させて発泡ポリウレタンを生成させ、発泡ポリウレタンを得た。この発泡ポリウレタンから縦×横×高さ=50mm×50mm×50mmの試験片を切り出した。これを静置時間0時間の試験片とした。A液を、20℃で湿度60%の室内で1時間、3時間、5時間、及び23時間静置したこと以外は、静置時間0時間の試験片の作製操作と同様に操作して、静置時間1時間、3時間、5時間、23時間の各試験片を作製した。
【0077】
(発泡倍率の算出)
実施例1の発泡ポリウレタンについて、試験片の質量を測定して密度を求めた。上記の硬化性薬液の密度(D)の逆数からそれの単位質量当たり体積(V)を、各サンプルの密度(D)の逆数からそれの単位質量当たり体積(V)をそれぞれ求め、V/Vにより、実施例1の発泡ポリウレタンの発泡倍率を算出した。その結果を下記表1及び図2に示した。
【0078】
(比較例1)
A液タンク51に替えて、上部が開放されている1L容器にA液を入れ、その直後、上部が開放されたままの状態でA液とB液とを混合したこと以外は実施例1と同様の条件及び操作にて発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。これを静置時間0時間の試験片とした。A液を入れた1L容器が密閉されておらず上部が開放された状態で1時間、3時間、5時間、及び23時間静置したこと以外は、実施例1と同様の条件及び操作にて、静置時間1時間、3時間、5時間、23時間の各試験片を作製した。各発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例1と同様にして得られた結果を下記表1に示した。また、得られた発泡倍率の結果を図2に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1、図2及び図3より、実施例1は経時的な吸湿を抑制し低い発泡倍率と高い圧縮強さを示すことが明らかとなった。一方、比較例1は経時的に発泡倍率が増加し、それに伴い圧縮強さが低下することが明らかとなった。図2中、実線は実施例1の近似直線y=0.036x+8.78であり、破線は比較例1の近似直線y=0.281x+8.57である。
【0081】
(実施例2-1)
40℃で湿度80%の恒温槽で、実施例1と同様に調製されたA液を、上部にA液を注入する開口部を有する2L容器のA液タンク51に入れ、その開口部を蓋53であるラップフィルム(株式会社クレハ社製、商品名:NEWクレラップ)で覆い、輪ゴムで固定して、A液タンク51を密閉した。その直後、A液及びB液(ともに液温40℃)を、A液:B液=1:2.6(体積比)となるように硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.18g/cm)を調製したこと以外は実施例1と同様の条件及び操作にて発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。これを静置時間0時間の試験片とした。A液を、40℃で湿度80%の恒温槽で3時間及び5時間静置したこと以外は、静置時間0時間の試験片の作製操作と同様に操作して、静置時間3時間及び5時間の各試験片を作製した。各発泡ポリウレタンの発泡倍率について、実施例1と同様にして得られた結果を下記表2及び図3に示した。
【0082】
(圧縮強さ測定)
実施例2-1の発泡ポリウレタンの試験片について、JIS K7220(2006)に準拠し、圧縮の試験速度を1分間当たり5.0mm/分として夫々の圧縮強さを求めた。その結果を下記表2及び図4に示した。
【0083】
(実施例2-2)
除湿シート(テクナード株式会社製、商品名:シリカクリン激取りMAX大判シート)を用い、この除湿シートをラップフィルムの内側にテープで固定したこと以外は実施例2-1と同様に操作して各発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。各発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表2、図3及び図4に示した。
【0084】
(比較例2)
40℃で湿度80%の恒温槽で、A液タンク51に替えて、上部が開放されている2L容器に実施例2-1と同様に調製されたA液を入れ、その直後、上部が開放されたままの状態でA液とB液とを混合したこと以外は実施例2-1と同様の条件及び操作にて発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。これを静置時間0時間の試験片とした。A液を入れた2L容器が密閉されておらず上部が開放された状態で3時間、5時間、及び23時間静置したこと以外は、実施例2-1と同様の条件及び操作にて、静置時間3時間、5時間、23時間の各試験片を作製した。各発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表2、図3及び図4に示した。
【0085】
【表2】
【0086】
表2、図3及び図4より、実施例2-1及び実施例2-2では40℃で湿度80%の比較的高い湿度環境においても経時的に発泡倍率を抑え高い圧縮強度を維持し安定して発泡ポリウレタンを生成できることが明らかとなった。一方、比較例2では実施例と比べて0時間から5時間において2倍程度の発泡倍率となり、一定した発泡倍率と圧縮強度とを得ることができないことが明らかとなった。図3中、実線は実施例2-1の近似直線y=-0.0268x+8.83であり、一点鎖線は実施例1-2の近似直線y=0.1134x+8.81であり、破線は比較例2の近似直線y=1.4026x+8.73である。図4中、実線は実施例2-1の近似直線y=0.0147x+1.91であり、一点鎖線は実施例2-2の近似直線y=-0.0513x+1.91であり、破線は比較例2の近似直線y=-0.2324x+1.82である。
【0087】
(実施例3-1)
A液及びB液の液温を20℃として、A液:B液=1:2.4(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.17g/cm)を調製したこと以外は、実施例1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表3に示した。
【0088】
(実施例3-2)
A液:B液=1:2.6(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.18g/cm)を調製したこと以外は、実施例3-1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表3に示した。
【0089】
(比較例3-1)
A液:B液=1:2.8(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.18g/cm)を調製したこと以外は、実施例3-1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表3に示した。
【0090】
(比較例3-2)
A液:B液=1:3.0(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.18g/cm)を調製したこと以外は、実施例3-1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表3に示した。
【0091】
(比較例3-3)
A液:B液=1:2.0(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.17g/cm)を調製したこと以外は、実施例3-1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表3に示した。
【0092】
【表3】
【0093】
表3は、実施例3-1及び実施例3-2についてそれぞれn=3で得られた結果の平均値を示した。表3より、各実施例の発泡ポリウレタンは、比較例のそれよりも高い圧縮強さ及び低い発泡倍率を示した。
【0094】
(実施例4)
容器としてアクリルボックス(縦、横、及び高さいずれも250mm)を準備した。このアクリルボックスの中心部にK型熱電対を設置し、データロガーに接続した。実施例1で調製されたA液及びB液を40℃に保った後、図1に示す裏込め注入装置を用いて、A液:B液=1:2.4(体積比)となるように混合して1000mLの硬化性薬液を調製し、アクリルボックスに吐出した。硬化性薬液から生成した発泡ポリウレタンに熱電対が埋もれた時点から発泡ポリウレタン内部の温度を10秒毎に測定し、このときの最高内部温度を記録した。結果を表4に示す。
【0095】
(比較例4)
A液及びB液をA液:B液=1:2.0(体積比)となるようにしたこと以外は、実施例4を同様に操作・測定して発泡ポリウレタンの最高内部温度を記録した。結果を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
表4より、実施例4で得られた発泡ポリウレタンの最高内部温度は190℃以内に抑えられており、安全性を確保しつつ発泡ポリウレタンを生成できることが明らかとなった。
【0098】
(実施例5-1)
A液及びB液の液温を20℃として、A液:B液=1:2.4(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.17g/cm)を調製したこと以外は、実施例1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得た。この発泡ポリウレタンについて、キュア速度を測定した。これの測定を次のように行った。A液及びB液の混合を開始した時点を測定の始点とした。発泡ポリウレタンを生成させた後、それの表面に樹脂製の板を接触させてすぐさま離反させることにより、生成直後の発泡ポリウレタンに含まれる水分等が付着するという粘着(べたつき)を観察した。この粘着が見られなくなった時点を測定の終点とした。始点から終点までの時間をキュア速度とした。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表5に示した。
【0099】
(実施例5-2)
A液及びB液の液温を20℃として、A液:B液=1:2.6(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.18g/cm)を調製したこと以外は、実施例1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。また、キュア速度を実施例5-1と同様に測定した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表5に示した。
【0100】
(比較例5-1)
A液及びB液の液温を20℃として、A液:B液=1:2.2(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.17g/cm)を調製したこと以外は、実施例1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。また、キュア速度を実施例5-1と同様に測定した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表5に示した。
【0101】
(比較例5-2)
A液及びB液の液温を20℃として、A液:B液=1:2.8(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.18g/cm)を調製したこと以外は、実施例1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。また、キュア速度を実施例5-1と同様に測定した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表5に示した。
【0102】
(比較例5-3)
A液及びB液の液温を20℃として、A液:B液=1:3.0(体積比)となるように混合して硬化性薬液(硬化性薬液の密度(D):1.19g/cm)を調製したこと以外は、実施例1と同様に操作して発泡ポリウレタンを得て、試験片を切り出した。また、キュア速度を実施例5-1と同様に測定した。発泡ポリウレタンの圧縮強さ及び発泡倍率について、実施例2-1と同様にして得られた結果を下記表5に示した。
【0103】
【表5】
【0104】
表5に示されるように、実施例5-1は、キュア速度が速く、特に頂点部分の乾きが速かった。実施例5-2は、269秒で乾き、圧縮強さも1.5N/mm以上であった。比較例5-1は、キュア速度は速いが、発泡倍率が11.26倍になり、圧縮強度が1.5N/mmを下回った。比較例5-2は、頂点部分及び壁面部分の乾きが遅かった。比較例5-3は、各実施例と比較してキュア速度が遅く、硬化後の表面がもろい状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の裏込め注入装置及び裏込め注入方法は、建造物基礎下の空洞、及び建造物構造内の一部欠損により形成された空洞、並びに廃坑、水路、防空壕、及びライフライン埋設坑のような横坑を塞ぐのに用いられる。
【符号の説明】
【0106】
1は裏込め注入装置、10は薬液誘導複合管、11はA液輸送管、11aはボールバルブ、12はB液輸送管、12aはボールバルブ、13は空気導入管、13aはボールバルブ、13bはブルドン管、14は注入管、20はポンプユニット、21はA液圧送ポンプ、22はB液圧送ポンプ、23はポンプコントローラ、30はエアコンプレッサ、41aは第1A液チューブ、41bは第2A液チューブ、42aは第1B液チューブ、42bは第2B液チューブ、43はエアチューブ、51はA液タンク、52はB液タンク、53は蓋、60は道路トンネル、61は覆工コンクリート、62は地山、63は空洞部、64a,64bは削孔、65はシール材、71は高所作業車、71aはバケット、72は機器積載車、73は注入作業者、74はポンプ操作者である。
図1
図2
図3
図4