(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】交流エッチング方法
(51)【国際特許分類】
C25F 3/04 20060101AFI20231128BHJP
C25F 7/00 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
C25F3/04 D
C25F7/00 S
(21)【出願番号】P 2019238123
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】小尾 勇
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-277799(JP,A)
【文献】特開2007-103798(JP,A)
【文献】特開昭48-001955(JP,A)
【文献】特開平01-233720(JP,A)
【文献】特開2002-266100(JP,A)
【文献】特開平02-015198(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101225539(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108000795(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 1/00-7/02
H01G 9/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液に被処理物および対向電極を浸漬し、交流またはパルス交番電流により前記被処理物にエッチングを行う
アルミニウム電解コンデンサ用電解エッチング箔の製造に用いる交流エッチング方法であって、
前記対向電極としてルテニウム、イリジウムまたはロジウムの酸化物を用いて被覆した電極を用い、
前記電解液として塩化物イオンおよび硫酸イオンを含有し硫酸イオン濃度を10mM以下に制限した溶液を用い
、
前記交流またはパルス交番電流の電解周波数を7Hz以上、かつ、20Hz未満とすることを特徴とする交流エッチング方法。
【請求項2】
前記交流またはパルス交番電流の電流密度の上限値を0.5A-rms/cm
2とすることを特徴とする請求項
1に記載の交流エッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に交流でエッチングを行う交流エッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交流またはパルス交番電流により、被処理物にエッチングを行う交流エッチング方法が知られている。従来から、アルミニウム等の金属の交流エッチングには、被処理物と対向する対向電極としてカーボン(グラファイト)が広く用いられてきた(例えば、特許文献1)。カーボン電極は、耐酸性、耐腐食性に優れている一方、金属電極に比べて導電率が低いため電極を厚くする必要があり、装置が大型化するという問題点がある。また、カーボン電極は、金属電極に比べて強度が低いため、脆く、形状の自由度が低いという問題点もある。
【0003】
そこで、特許文献2には、元々は直流エッチングを行う際のアノード電極として開発された白金族酸化物の被覆を設けた電極を、交流エッチングに転用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-252115号公報
【文献】特許第2514032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法では、交流またはパルス交番電流の周波数(電解周波数)が20Hz以上に限られており、電解周波数が20Hz未満の場合には適用できない。したがって、アルミニウム電解コンデンサ用電解エッチング箔の製造においては、電解周波数7~20Hzの範囲が特に重要であるが、この重要な範囲で特許文献2の方法は適用できない。
【0006】
本発明の目的は、装置の大型化および電極の損傷を抑制しつつ、従来よりも低い電解周波数で交流エッチングを行うことが可能な交流エッチング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の交流エッチング方法は、電解液に被処理物および対向電極を浸漬し、交流またはパルス交番電流により前記被処理物にエッチングを行う交流エッチング方法であって、前記対向電極としてルテニウム、イリジウムまたはロジウムの酸化物を用いて被覆した電極を用い、前記電解液として塩化物イオンを含有し硫酸イオン濃度を10mM以下に制限した溶液を用いる。
【0008】
この構成によると、対向電極としてルテニウム、イリジウムまたはロジウムなどの貴金属酸化物を用いて被覆した電極を用いているので、装置の大型化および電極の損傷を抑制することができる。また、電解液として塩化物イオンを含有し硫酸イオン濃度を10mM以下に制限した溶液を用いることで、従来よりも低い20Hz未満の電解周波数で交流エッチングを行うことが可能である。
【0009】
また、上述の交流エッチング方法においては、電解周波数の下限値を7Hzとする。
【0010】
この構成によると、電極を被覆する貴金属酸化物の消耗を抑制することができる。
【0011】
また、上述の交流エッチング方法においては、電流密度の上限値を0.5A-rms/cm2とする。
【0012】
この構成によると、電極を被覆する貴金属酸化物の消耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置の大型化および電極の損傷を抑制しつつ、従来よりも低い電解周波数で交流エッチングを行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試料電極に対して長期の交流電解を行う信頼性試験を実施した際の槽電圧の経時変化を示すグラフである。
【
図2】信頼性試験後の試料電極の表面状態を撮影した写真であり、(a)は比較例、(b)は実施例である。
【
図3】正弦波交流電解時の電位-電流挙動の解析結果である電位-電流曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な一実施の形態について説明する。
【0016】
本実施形態に係る交流エッチング方法は、電解液に被処理物および対向電極を浸漬し、交流またはパルス交番電流により被処理物にエッチングを行うものである。対向電極としては、金属基体上に貴金属酸化物を用いて被覆した電極を用いる。貴金属酸化物としては、具体的には、白金族酸化物である酸化ルテニウム、酸化イリジウムまたは酸化ロジウムの中から選択する。金属基体の被覆は、貴金属酸化物のみで構成されていてもよいし、添加物を含有した複合酸化物であってもよい。金属基体としては、チタン、タングステン、タンタル、ニオブなどのバルブ金属またはこれらの合金を用いることができ、コスト、加工性においてチタンまたはチタン合金が好ましい。
【0017】
電解液としては、塩化物イオンを含有し硫酸イオン濃度を10mM以下に制限した溶液を用いる。具体的には、塩酸を主体とした電解液であり硫酸イオン濃度を10mM以下に制限した溶液を用いる。また、食塩水を主体とした電解液であり硫酸イオン濃度を10mM以下に制限した溶液を用いることもできる。さらに、硫酸イオン濃度を6mM以下にすることで対向電極のより一層の長寿命化を図ることができる。電解周波数の下限値は、7Hzとすることが好ましい。電解周波数が7Hz未満である場合は、金属基体を被覆する貴金属酸化物の消耗により対向電極の寿命が短くなる。電流密度の上限値は、0.5A-rms/cm2とすることが好ましい。
【0018】
<効果>
以上のように、本実施形態の交流エッチング方法は、対向電極としてルテニウム、イリジウムまたはロジウムなどの貴金属酸化物を用いて被覆した電極を用いているので、装置の大型化および電極の損傷を抑制することができる。また、電解液として塩化物イオンを含有し硫酸イオン濃度を10mM以下に制限した溶液を用いることで、従来よりも低い20Hz以下の電解周波数で交流エッチングを行うことが可能である。つまり、アルミニウム電解コンデンサ用電解エッチング箔の製造においては重要な、電解周波数7~20Hzの範囲で交流エッチングを行うことが可能である。
【0019】
また、本実施形態の交流エッチング方法は、電解周波数の下限値を7Hzとする。したがって、電極を被覆する貴金属酸化物の消耗を抑制することができる。
【0020】
さらに、本実施形態の交流エッチング方法は、電流密度の上限値を0.5A-rms/cm2とする。したがって、電極を被覆する貴金属酸化物の消耗を抑制することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【0022】
<信頼性試験>
金属基体としてチタンを用いて酸化イリジウムで被覆した試料電極に対して、信頼性試験を実施した。試験においては、塩酸を主体とした電解液中で2枚の試料電極間に電流を流した。電流は、周波数7Hzの正弦波交流電流であり、電流密度(実効値:root mean square value)0.5A-rms/cm2である。比較例の電解液は、硫酸イオン濃度0.4M(=0.4mol/L)とする。実施例の電解液は、硫酸イオン濃度6mM(=0.006mol/L)と10mM(=0.01mol/L)とする。
【0023】
図1に、長期の交流電解を行った際の電解槽電圧(槽電圧)の経時変化を示す。
図1において、比較例は三角印のマーカーの折れ線グラフで示し、実施例は丸印および四角印のマーカーの折れ線グラフで示す。具体的には丸印が硫酸イオン濃度6mMの場合、四角印が硫酸イオン濃度10mMの場合を示す。
図1に示すように、比較例では試験開始後150~200時間で槽電圧が急激に上昇する不具合が発生する。実施例の硫酸イオン濃度が6mMの場合と10mMの場合は、試験開始後2000時間経過しても槽電圧が安定しており、実用に支障ないことが示された。
【0024】
図2(a)、(b)に、比較例および実施例(硫酸イオン濃度が6mMの場合)における信頼性試験後の試料電極の表面状態を撮影した写真を示す。
図2(a)、(b)の破線で囲まれた部分が電解試験を実施した領域である。
図2(a)に示すように、比較例では酸化イリジウムの黒色被覆の剥離とチタン基材の露出、溶解、削れ、が発生している。
図2(b)に示すように、実施例では酸化イリジウムの消耗は確認されず、実用に支障ないことを確認した。
【0025】
<電位-電流挙動の解析>
次に、上述の比較例よりも実施例の方が信頼性が高くなる要因について、つまり硫酸イオン濃度を10mM以下に制限した電解液を用いることの効果を確認するため、正弦波交流電解時の電位-電流挙動の解析を実施した。
【0026】
解析においては、チタン基材上に酸化イリジウムで被覆した電極を、塩酸を主体とした電解液中で電解した。比較例の電解液は、硫酸イオン濃度0.4M(=0.4mol/L)とする。実施例の電解液は、硫酸イオン濃度6mM(=0.006mol/L)とする。電解電流の周波数は、3Hz、7Hzおよび20Hzの3パターンで解析を行った。また、電流密度は、0.1A-rms/cm2、0.2A-rms/cm2、0.5A-rms/cm2、1A-rms/cm2、2A-rms/cm2の5パターンで解析を行った。
【0027】
解析の結果を、横軸を電位(V vs Ag/AgCl)、縦軸を電流(A/cm
2)とする
図3の各グラフに示す。
図3には、比較例の電解液で電解電流の周波数が、3Hz、7Hzおよび20Hzの3パターンにそれぞれ対応する3つのグラフと、実施例の電解液で電解電流の周波数が、3Hz、7Hzおよび20Hzの3パターンにそれぞれ対応する3つのグラフとの合計6つのグラフが示されている。そして、各グラフには、電流密度が、0.1A-rms/cm
2、0.2A-rms/cm
2、0.5A-rms/cm
2、1A-rms/cm
2、2A-rms/cm
2の5パターンの解析結果(電位-電流曲線)がそれぞれ示されている。
【0028】
電位-電流曲線がきれいな楕円リサージュを描く場合は、電極表面の電気二重層容量の充放電により電流が流れていると考えられる。
図3に示す解析結果では、電流密度0.5A-rms/cm
2以下、かつ周波数7Hz以上がこれに該当する。すなわち、この条件下では電極の消耗は少ないと予想される。
【0029】
電流密度が大きく、また周波数が小さくなるにつれて、分極(電位の振れ幅)が大きくなり、泡発生(水素、酸素)が急激に増加する。このとき電位-電流曲線の楕円は崩れ、歪みが生ずる。この場合、カソード分極時(電位負方向)に酸化イリジウムの還元反応に伴う体積収縮が 起こることで、電極を被覆している酸化イリジウムの消耗が発生すると考えられる。
【0030】
電流密度が大きい場合、電位-電流曲線が8の字を描く様子が確認された。これはアノード分極時(電位正方向)の金属表面での酸化皮膜の形成と破壊、金属溶解に特徴的な現象であり、電極消耗の兆候であると考えられる。
図3に示す解析結果では、比較例では全ての周波数、実施例では3Hzの場合がこれに該当する。すなわち、硫酸イオンがアノード酸化皮膜の形成と破壊に関与しており、電極寿命を縮める要因の1つであることを確認した。
【0031】
なお、上述の特許文献2においては、周波数は20Hz以上、電流密度は10~200A/dm2(=0.1~2A/cm2)に限定されている。比較例(周波数20Hz、電流密度2A-rms/cm2)の電位-電流曲線が8の字を描く解析結果より、特許文献2に開示されている範囲内であっても、硫酸イオン濃度に依存して電極寿命が短くなる可能性が示された。
【0032】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0033】
すなわち、上述の実施形態においては、電解周波数の下限値を7Hzとする場合について説明したが、電解周波数は7Hz未満であってもよい。また、上述の実施形態においては、電流密度の上限値を0.5A-rms/cm2とする場合について説明したが、電流密度は0.5A-rms/cm2よりも大きくてもよい。
【0034】
また、上述の実施形態に係る交流エッチング方法は、アルミニウム電解コンデンサ用電解エッチング箔の製造に用いることが好適であるが、用途はこれに限定されるものではない。