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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】波長変換部材、および、波長変換装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20231128BHJP
   F21V 9/32 20180101ALI20231128BHJP
   F21V 29/502 20150101ALI20231128BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G02B5/20
F21V9/32
F21V29/502 100
G02B5/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020008377
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021117247
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】八谷 洋介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 利之
(72)【発明者】
【氏名】高久 翔平
(72)【発明者】
【氏名】田中 智雄
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕貴
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0154237(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104713035(CN,A)
【文献】特開2018-157045(JP,A)
【文献】特開2019-174512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
H01L 33/50
G03B 21/14
G02F 1/13357
H01S 5/00-5/50
C09K 11/08
F21S 2/00
F21V 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変換部材であって、
光が入射する入射面と、前記入射面の反対側に位置する裏面とを有し、前記入射面から入射する光の波長を変換するセラミック蛍光体と、
前記セラミック蛍光体の前記裏面に配置され、前記セラミック蛍光体に入射した光を反射する反射膜と、
前記セラミック蛍光体の前記裏面に接触し、前記反射膜に対向して配置され、前記反射膜を封止する封止膜と、を備え、
前記反射膜の周側面の少なくとも一部と、前記封止膜との間には空間部が形成される、
ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換部材であって、
前記反射膜の前記周側面と、前記セラミック蛍光体の前記裏面と、前記封止膜との間に、前記空間部が形成される、
ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長変換部材であって、
前記セラミック蛍光体と前記反射膜との積層方向において、前記空間部の前記周側面から前記封止膜までの距離は、前記セラミック蛍光体の前記裏面側が最も長い、
波長変換部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の波長変換部材であって、
前記セラミック蛍光体と前記反射膜との積層方向において、前記空間部の前記周側面から前記封止膜までの距離は、前記セラミック蛍光体の前記裏面側に近づくほど長くなる、
ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の波長変換部材であって、
前記反射膜は、銀またはアルミニウムを主成分として形成されており、
前記封止膜は、チタン、クロム、ニッケル、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、鉄、銅、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、金の少なくとも1つを含む化合物から形成される、
ことを特徴とする波長変換部材。
【請求項6】
波長変換装置であって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の波長変換部材と、
前記波長変換部材の熱を外部に放熱する放熱部材と、
前記波長変換部材と前記放熱部材とを接合する接合層と、を備える、
波長変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換部材、および、波長変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光源が発した光の波長を変換する波長変換部材が知られている。波長変換部材は、一般的に、入射する光の波長を変換する蛍光体と、蛍光体を通る光を入射方向に反射する反射層と、反射層を封止する封止膜を備える。例えば、特許文献1には、蛍光体の入射面とは反対側の裏面に設けられる反射層と、蛍光体の裏面のうち反射層の周囲の裏面と反射層を覆う封止膜を備える波長変換部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6094617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の波長変換部材では、封止膜は、熱膨張率が反射層の熱膨張率より小さい材料により形成されるため、反射層と封止膜との熱膨張差によって反射層に内部応力が生じ、反射層が剥離するおそれがある。反射層が剥離すると、反射層が所定の方向に光を反射できなくなるため、波長変換部材の発光強度が低下する。
【0005】
本発明は、波長変換部材において、発光強度の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、波長変換部材が提供される。この波長変換部材では、光が入射する入射面と、前記入射面の反対側に位置する裏面とを有し、前記入射面から入射する光の波長を変換するセラミック蛍光体と、前記セラミック蛍光体の前記裏面に配置され、前記セラミック蛍光体に入射した光を反射する反射膜と、前記セラミック蛍光体の前記裏面に接触し、前記反射膜に対向して配置され、前記反射膜を封止する封止膜と、を備え、前記反射膜の外周の端面のうちの少なくとも一部と、前記封止膜との間には空間部が形成される。
【0008】
この構成によれば、反射膜がセラミック蛍光体の熱によって膨張するとき、反射膜は、空間部で伸びることができるため、熱膨張差によって反射膜と封止膜とが衝突することを抑制することができる。これにより、熱膨張差に起因する内部応力を抑制することができるため、反射膜のセラミック蛍光体からの剥離による発光強度の低下を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の波長変換部材において、前記反射膜の周側面と、前記セラミック蛍光体の前記裏面と、前記封止膜との間に、前記空間部が形成されてもよい。この構成によれば、空間部は、反射膜の周側面と、セラミック蛍光体の裏面と、封止膜との間に形成される。反射膜において、対向する周側面の間の幅に対する反射膜の厚みの比が小さい場合、反射膜は、熱膨張によって幅方向が大きく伸びる。このとき、空間部は、反射膜の周側面と、セラミック蛍光体の裏面と、封止膜との間に形成されているため、膨張する反射膜の周側面と封止膜との衝突を抑制することができる。これにより、反射膜と封止膜との熱膨張差に起因する内部応力をさらに抑制することができるため、反射膜のセラミック蛍光体からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の波長変換部材において、前記セラミック蛍光体と前記反射膜との積層方向において、前記空間部の周側面から前記封止膜までの距離は、前記セラミック蛍光体の前記裏面側が最も長くてもよい。この構成によれば、反射膜の周側面から封止膜までの距離は、セラミック蛍光体と反射膜との積層方向において、セラミック蛍光体の裏面側のセラミック蛍光体と接触している部分が最も長い。これにより、反射膜のうち、セラミック蛍光体からの熱を受けて最も膨張しやすいセラミック蛍光体の裏面側の部分は、最も長く形成されている空間部で伸びることができる。したがって、膨張する反射膜の周側面と封止膜との衝突を抑制することができるため、反射膜と封止膜との熱膨張差に起因する内部応力がさらに抑制され、反射膜のセラミック蛍光体からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0011】
(4)上記形態の波長変換部材において、前記セラミック蛍光体と前記反射膜との積層方向において、前記空間部の周側面から前記封止膜までの距離は、前記セラミック蛍光体の前記裏面側に近づくほど長くなってもよい。この構成によれば、空間部は、周側面から封止膜までの距離がセラミック蛍光体の裏面側に近づくほど長くなっている。これにより、セラミック蛍光体の熱を受けやすいためにセラミック蛍光体に近い部分ほど幅方向が伸びやすい反射膜は、セラミック蛍光体との間の距離によって距離が異なる空間部で伸びることができる。したがって、膨張する反射膜の周側面と封止膜との衝突を抑制することができるため、反射膜と封止膜との熱膨張差に起因する内部応力がさらに抑制され、反射膜のセラミック蛍光体からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0012】
(5)上記形態の波長変換部材において、前記反射膜は、銀またはアルミニウムを主成分として形成されており、前記封止膜は、チタン、クロム、ニッケル、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、鉄、銅、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、金の少なくとも1つを含む化合物から形成されていてもよい。この構成によれば、反射率が高く、熱膨張率が封止膜に比べ高い反射膜を備えていても、空間部で伸びることができるため、膨張する反射膜と封止膜との衝突を抑制することができる。これにより、反射膜と封止膜との熱膨張差に起因する内部応力がさらに抑制されるため、反射膜のセラミック蛍光体からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0013】
(6)本発明の一形態によれば、波長変換装置が提供される。この波長変換装置は、上記波長変換部材と、前記波長変換部材の熱を外部に放熱する放熱部材と、前記波長変換部材と前記放熱部材とを接合する接合層と、を備える。この構成によれば、反射膜は、セラミック蛍光体の熱によって膨張するときの封止膜との衝突が抑制されるため、反射膜と封止膜との熱膨張差に起因する内部応力が抑制される。これにより、反射膜のセラミック蛍光体からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。また、セラミック蛍光体で発生する熱は、放熱部材によって外部に放熱されるため、セラミック蛍光体が高温になることが抑制されるとともに、反射膜と封止膜との熱膨張差を小さくすることができる。これらにより、反射膜の剥離による発光強度の低下を抑制しつつ、熱による波長変換装置の発光強度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態の波長変換部材の断面図である。
図2】第1実施形態の波長変換装置の断面図である。
図3図1のA-A線断面図である。
図4図1のB部拡大図である。
図5】第2実施形態の波長変換部材の断面図である。
図6】変形例1の波長変換部材が備える空間部の拡大図である。
図7】変形例2の波長変換部材が備える空間部の拡大図である。
図8】変形例4の波長変換部材が備える空間部の拡大図である。
図9】変形例5の波長変換部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の波長変換部材1の断面図である。図2は、第1実施形態の波長変換装置80の断面図である。図3は、図1のA-A線断面図である。図4は、図1のB部拡大図である。図1に示す本実施形態の波長変換部材1は、外部の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)や半導体レーザー(LD:Laser Diode)などの光源が発した光L1が照射されると、光L1とは異なる波長の光L2を発生する。この波長変換部材1は、例えば、ヘッドランプ、照明、プロジェクタなどの各種光学機器において使用される。波長変換部材1は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、空間部40を備える。図2に示す波長変換装置80は、上述の波長変換部材1のほか、放熱部材81と、接合層82を備える。なお、説明の便宜上、図1から図4における各部材のそれぞれの大きさの関係は、実際の関係とは異なるように図示されている。
【0016】
セラミック蛍光体10は、セラミック焼結体から形成されている円柱形状の部材である。セラミック蛍光体10には、光L1が入射する入射面11と、入射面11の反対側に位置する裏面12とが形成されている。セラミック蛍光体10は、入射面11から入射する光L1の波長を変換する。セラミック蛍光体10は、光L1の波長を変換するとき、発熱する。本実施形態では、セラミック蛍光体10の外径は、2mmである。
【0017】
セラミック蛍光体10は、蛍光性を有する結晶粒子を主体とする蛍光相と、透光性を有する結晶粒子を主体とする透光相を有する。透光相の結晶粒子は、化学式Al23で表される組成を有し、蛍光相の結晶粒子は、化学式A3512:Ceで表される組成(いわゆる、ガーネット構造)を有することが好ましい。「A3512:Ce」とは、A3512の中にCeが固溶し、元素Aの一部がCeに置換されていることを示す。化学式A3512:Ce中の元素Aおよび元素Bは、それぞれ下記の元素群から選択される少なくとも1種類の元素から構成されている。
元素A:Sc、Y、Ceを除くランタノイド(ただし、元素AとしてさらにGdを含んでいてもよい)
元素B:Al(ただし、元素BとしてさらにGdを含んでいてもよい)
セラミック蛍光体10として、セラミック焼結体を使用することで、蛍光相と透光相との界面で光が散乱し、光の色の角度依存性を減らすことができる。これにより、色の均質性を向上することができる。なお、セラミック蛍光体10の材料は、上述の材料に限定されない。
【0018】
反射膜20は、銀(Ag)を主成分とする円形形状(図3参照)の薄膜であって、セラミック蛍光体10の裏面12のうちの中央部分の面(図1に示す配置面12a)に配置されている。反射膜20には、セラミック蛍光体10に入射した光を反射する反射面21と、反射面21とは反対側の裏面22と、周側面23が形成されている。周側面23は、セラミック蛍光体10と反射膜20との積層方向(図1に示す実線矢印S1)に略平行な面であって、反射面21と裏面22とを接続する。本実施形態では、反射膜20は、厚みが80~200nmとなるように形成されており、外径がセラミック蛍光体10の外径より小さい1.7mmとなっている。すなわち、本実施形態では、反射膜20は、対向する周側面23の間の幅に対する反射膜20の厚みの比が小さい。なお、反射膜20は、銀合金やアルミニウム(Al)など反射率が高い材料から形成されていてもよい。裏面22および周側面23は、特許請求の範囲の「反射膜の外周の端面」に相当する。
【0019】
封止膜30は、ニッケル(Ni)から形成される薄膜である。封止膜30は、セラミック蛍光体10の裏面12のうちの外周側の面の一部(図1に示す接触面12b)と、反射膜20の裏面22とに接触している。すなわち、封止膜30は、セラミック蛍光体10の裏面12に接触しつつ、反射膜20に対向して配置される。封止膜30は、厚みが、50~500nmとなるように形成されており、反射膜20を封止する。なお、封止膜30を形成する材料は、ニッケルに限定されない。封止膜30を形成する材料は、反射膜20の大気中のガスとの接触を抑制することができる材料であればよく、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、鉄(Fe)、銅(Cu)、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、金(Au)の少なくとも1つを含む化合物から形成されてもよい。
【0020】
空間部40は、反射膜20の外周の端面の一部と、封止膜30の間に形成される空洞である。具体的には、空間部40は、図4に示すように、反射膜20の周側面23と、セラミック蛍光体10の裏面12のうちの裏面12cと、封止膜30の内表面31とによって、断面形状が略三角形状となるように形成されている。セラミック蛍光体10の裏面12cは、裏面12のうちの反射膜20が配置される配置面12aと封止膜30が接触する接触面12bとの間に形成されている。封止膜30の内表面31は、封止膜30が反射膜20の裏面22に接触する接触面32と、封止膜30がセラミック蛍光体10の接触面12bに接触する接触面33との間の面である。本実施形態では、空間部40は、図3に示すように、反射膜20の全周を囲むように、周側面23と封止膜30との間に形成されている。
【0021】
空間部40は、セラミック蛍光体10と反射膜20との積層方向S1において、空間部40の周側面23から封止膜30までの距離は、セラミック蛍光体10の裏面12側が最も長い。具体的には、図4の積層方向S1に対して垂直な方向における反射膜20の周側面23から封止膜30までの距離を空間部40の距離Dとすると、距離Dは、図4に示すように、セラミック蛍光体10の裏面12側の距離D1が最も長い。本実施形態では、距離D1は、10~100nmとなっており、積層方向S1の厚みは、反射膜20の厚みとほぼ同じ80~200nmとなっている。
【0022】
また、空間部40は、積層方向S1において、空間部40の周側面23から封止膜30までの距離Dは、セラミック蛍光体10の裏面12側に近づくほど大きくなる。具体的には、図4に示すように、セラミック蛍光体10の裏面12側から順に距離D1、D2、D3を設定した場合、距離D1は、距離D2より長く、距離D2は、距離D3より長い。
【0023】
放熱部材81は、例えば、銅、銅モリブデン合金、銅タングステン合金、アルミニウム、窒化アルミニウムなど、セラミック蛍光体10よりも高い熱伝導性を有する材料から形成されている平板部材である。放熱部材81は、接合層82を通して伝わるセラミック蛍光体10の熱を外部に放熱する。なお、放熱部材81は、上述した材料からなる単層構造の部材であってもよいし、同種または異なる材料から形成されている多層構造の部材であってもよい。また、放熱部材81のセラミック蛍光体10側の面には、接合層82との密着性を高める金属膜が配置されていてもよい。
【0024】
接合層82は、波長変換部材1の封止膜30と放熱部材81の間に配置され、金(Au)と錫(Sn)から形成されている。具体的には、接合層82は、図2に示すように、封止膜30のセラミック蛍光体10および反射膜20と接触する側とは反対側の接合面34と、放熱部材81の接合面81aとの間に配置されている。接合層82は、波長変換部材1と放熱部材81とを接合するとともに、波長変換部材1と放熱部材81との間で熱のやり取りを行う。なお、接合層82は、金と錫から形成されるほかに、他の材料から形成される半田であってもよい。また、接合層82は、銀や銅(Cu)などの微細粉末を焼結したものであってもよい。
【0025】
次に、波長変換部材1の製造方法について説明する。最初に、裏面12の中央部分を除く部分がマスクされたセラミック蛍光体10に対して、銀を蒸着またはスパッタリングし、反射膜20を成膜する。その後、マスクを除去し、スパッタによって、セラミック蛍光体10の反射膜20の外側で露出している裏面12と、反射膜20の裏面22上と、に封止膜30を成膜する。このとき、例えば、成膜速度を速くすることによって、狭い領域へのスパッタ粒子の入り込みを抑制することでブリッジが形成され、反射膜20の周側面23とセラミック蛍光体10の裏面12cとには封止膜30が形成されなくなる。これにより、空間部40が形成されている波長変換部材1が製造される。なお、反射膜20の周側面23とセラミック蛍光体10の裏面12cとに封止膜30を形成しない方法は、これに限定されない。
【0026】
さらに、波長変換部材1を用いて波長変換装置80を製造する場合、波長変換部材1と放熱部材81の間に金錫半田箔を挟みこんだ状態で、窒素雰囲気中または水素雰囲気中のリフロー炉において加熱する。これにより、波長変換部材1と放熱部材81とが接合し、波長変換装置80が完成する。また、金錫半田箔を使用する代わりに、金錫半田ペーストを塗布して波長変換部材1と放熱部材81とを接合してもよい。
【0027】
以上説明した、本実施形態の波長変換部材1によれば、反射膜20と封止膜30との間に、空洞である空間部40が形成される。反射膜20がセラミック蛍光体10の熱によって膨張するとき、反射膜20は、空間部40で伸びることができるため、熱膨張差によって反射膜20と封止膜30とが衝突することを抑制することができる。これにより、熱膨張差に起因する内部応力を抑制することができるため、反射膜20のセラミック蛍光体10からの剥離による発光強度の低下を抑制することができる。
【0028】
また、本実施形態の波長変換部材1によれば、空間部40は、反射膜20の周側面23と、セラミック蛍光体10の裏面12cと、封止膜30の内表面31との間に形成されている。これにより、対向する周側面23の間の幅に対する反射膜の厚みの比が小さい反射膜20において、反射膜20は、熱膨張によって幅方向が大きく伸びる。このとき、空間部40は、反射膜20の周側面23と、セラミック蛍光体10の裏面12cと、封止膜30の内表面31との間に形成されているため、膨張する反射膜20の周側面23と封止膜30との衝突を抑制することができる。これにより、反射膜20と封止膜30との熱膨張差に起因する内部応力をさらに抑制することができるため、反射膜20のセラミック蛍光体10からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態の波長変換部材1によれば、反射膜20の周側面23から封止膜30までの距離Dは、セラミック蛍光体10と反射膜20との積層方向S1においてセラミック蛍光体10の裏面12c側の距離D1が最も長い。これにより、反射膜20のうち、セラミック蛍光体10からの熱を受けて最も膨張しやすいセラミック蛍光体10の裏面12側の部分は、最も長く形成されている空間部40で伸びることができる。したがって、膨張する反射膜20の周側面23と封止膜30との衝突を抑制することができるため、反射膜20と封止膜30との熱膨張差に起因する内部応力がさらに抑制され、反射膜20のセラミック蛍光体10からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態の波長変換部材1によれば、セラミック蛍光体10と反射膜20との積層方向S1において、空間部40の周側面23から封止膜30までの距離Dは、セラミック蛍光体10の裏面12c側に近づくほど長くなっている。これにより、セラミック蛍光体10の熱を受けやすいためにセラミック蛍光体10に近い部分ほど幅方向が伸びやすい反射膜20は、セラミック蛍光体10との間の距離によって距離Dが異なる空間部40で伸びることができる。したがって、膨張する反射膜20の周側面23と封止膜30との衝突を抑制することができるため、反射膜20と封止膜30との熱膨張差に起因する内部応力がさらに抑制され、反射膜20のセラミック蛍光体10からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態の波長変換部材1によれば、反射膜20は、銀を主成分として形成されており、封止膜30は、ニッケルから形成されている。これにより、反射率が高く、熱膨張率が封止膜30に比べ高い反射膜20を備えていても、空間部40で伸びることができるため、膨張する反射膜20と封止膜30との衝突を抑制することができる。これにより、反射膜20と封止膜30との熱膨張差に起因する内部応力がさらに抑制されるため、反射膜20のセラミック蛍光体10からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態の波長変換装置80によれば、波長変換部材1と、波長変換部材1の熱を外部に放熱する放熱部材81と、波長変換部材1と放熱部材81とを接合する接合層82と、を備える。これにより、反射膜20は、セラミック蛍光体10の熱によって膨張するときの封止膜30との衝突が抑制されるため、反射膜20と封止膜30との熱膨張差に起因する内部応力が抑制される。これにより、反射膜20のセラミック蛍光体10からの剥離による発光強度の低下をさらに抑制することができる。また、セラミック蛍光体10で発生する熱は、放熱部材81によって外部に放熱されるため、セラミック蛍光体10が高温になることが抑制されるとともに、反射膜20と封止膜30との熱膨張差を小さくすることができる。これらにより、反射膜20の剥離による発光強度の低下を抑制しつつ、熱による波長変換装置80の発光強度の低下を抑制することができる。
【0033】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態の波長変換部材2の断面図である。図5に示す断面図は、セラミック蛍光体10と、反射膜20との積層方向に対して垂直な断面を示しており、第1実施形態の図3に対応する。第2実施形態の波長変換部材2は、第1実施形態の波長変換部材1(図1)と比較すると、空間部が反射膜を囲む範囲が異なる。
【0034】
波長変換部材2は、セラミック蛍光体10と、反射膜20と、封止膜30と、空間部50を備える。波長変換部材2は、ヘッドランプ、照明、プロジェクタなどの各種光学機器において使用され、光源が発した光が照射されると、異なる波長の光を発生する。
【0035】
空間部50は、図5に示すように、反射膜20の周側面23の一部と、封止膜30との間に形成される空洞である。具体的には、空間部50は、反射膜20の周側面23のうちの周側面23aと封止膜30との間に形成されている。一方、周側面23のうちの周側面23aを除く周側面23bには、封止膜30が接触している。本実施形態では、周側面23における周側面23aの比率は、30%以上となっているが、周側面23における周側面23aの比率はこれに限定されない。
【0036】
次に、波長変換部材2の製造方法について説明する。波長変換部材2の製造方法は、第1実施形態の波長変換部材1の製造方法とほぼ同じであるが、封止膜30を形成する工程が異なる。具体的には、セラミック蛍光体10の接触面12bおよび反射膜20の裏面22上に封止膜30を成膜するとき、スパッタにおいて封止膜30を形成するニッケルの金属粒子を飛散させる方向に対して、セラミック蛍光体10の裏面12を傾斜させて配置する。これにより、図5に示すような、反射膜20において、一方(周側面23a)の側に空間部50を形成し、他方(周側面23b)の側に周側面23bと接触する封止膜30が形成される。
【0037】
以上説明した、本実施形態の波長変換部材2によれば、反射膜20と封止膜30との間に、空洞である空間部50が形成される。これにより、反射膜20と封止膜30との熱膨張差に起因する内部応力を抑制することができるため、反射膜20のセラミック蛍光体10からの剥離による発光強度の低下を抑制することができる。
【0038】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0039】
[変形例1]
上述の実施形態では、空間部40、50は、反射膜20の周側面23と、封止膜30との間に形成されるとした。しかしながら、空間部が形成される位置は、これに限定されない。空間部は、反射膜の外周の端面のうちの少なくとも一部と、封止膜との間には空間部が形成されていればよい。
【0040】
図6は、変形例の波長変換部材1が備える空間部40の拡大図である。波長変換部材1が備える反射膜70は、上述した実施形態の反射膜20のように、反射面の反対側の裏面と周側面とがはっきりと区別できるように形成されていない。具体的には、反射膜70は、図6に示すように、反射面71を除く外周の端面72が曲面形状となるように形成されている。このように、反射膜70には、セラミック蛍光体10に接触する反射面71と、反射面71を除く外周の端面72とが形成されているとすると、外周の端面72には、空洞である空間部40を形成する表面72aと、封止膜30の接触面32に接触する接触面72bを有する。このような構成であっても、反射膜70がセラミック蛍光体10の熱によって膨張するとき、反射膜70は、空間部40で伸びることができるため、膨張する反射膜70と封止膜30との衝突を抑制することができる。これにより、反射膜70と封止膜30との熱膨張差に起因する内部応力を抑制することができるため、反射膜70のセラミック蛍光体10からの剥離による発光強度の低下を抑制することができる。
【0041】
[変形例2]
上述の実施形態では、空間部は、反射膜20の周側面23と、セラミック蛍光体10の裏面12cと、封止膜30との間に形成されるとした。しかしながら、図7に示すように、反射膜20の裏面22の一部および周側面23と、セラミック蛍光体10の裏面12cと、封止膜30との間に形成されてもよい。
【0042】
[変形例3]
上述の実施形態では、セラミック蛍光体10と反射膜20との積層方向において、空間部40の周側面23から封止膜30までの距離は、セラミック蛍光体10の裏面12側が最も長いとした。また、空間部40は、積層方向S1において、空間部40の周側面23から封止膜30までの距離Dは、セラミック蛍光体10の裏面12側に近づくほど大きくなるとした。しかしながら、これらの距離の関係は、これに限定されない。
【0043】
[変形例4]
上述の実施形態では、図4に示すように、空間部の断面形状は、略三角形状であるとした。しかしながら、空間部の形状はこれに限定されない。例えば、図8に示すように、空間部40の断面形状は、台形形状であってもよい。また、図8に示すように、空間部40は、反射膜20の周側面23の一部と、セラミック蛍光体10の裏面12のうちの裏面12cと、封止膜30の内表面31とによって形成されていてもよい。
【0044】
[変形例5]
上述の実施形態では、セラミック蛍光体10は、円柱形状の部材であるとした。また、反射膜20は、円形形状の薄膜であるとした。しかしながら、セラミック蛍光体10や反射膜20の形状は、これに限定されない。セラミック蛍光体10は、図9に示すように、直方体形状の部材であって、反射膜20との積層方向に略垂直な断面が、例えば、四角形状であってもよい。また、反射膜20は、図9に示すように、四角形状の薄膜であってもよい。
【0045】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0046】
1,2…波長変換部材
10…セラミック蛍光体
11…入射面
12…裏面
12a…配置面
12b…接触面
12c…裏面
20,70…反射膜
21,71…反射面
22…裏面
23…周側面
23a…周側面
23b…周側面
30…封止膜
31…内表面
32,33…接触面
34…接合面
40,50…空間部
72…端面
72a…表面
72b…(反射膜の)接触面
80…波長変換装置
81…放熱部材
81a…接合面
82…接合層
D1,D2,D3…距離
L1,L2…光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9