(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】トンネル内巻工
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/00 A
(21)【出願番号】P 2020011541
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593171673
【氏名又は名称】広成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511080638
【氏名又は名称】株式会社日本コンポジット工業
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 政弘
(72)【発明者】
【氏名】濱田 吉貞
(72)【発明者】
【氏名】松本 敬司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】北谷 正俊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏広
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】栗▲崎▼ 智之
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-132867(JP,A)
【文献】特開2006-291652(JP,A)
【文献】特開2012-207431(JP,A)
【文献】特開2001-227297(JP,A)
【文献】特開2001-164892(JP,A)
【文献】特開2003-321999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内壁を覆うためのトンネル内巻工であって、
前記トンネルの底面より高い位置の前記内壁に延設されるトンネル軸方向に長尺状の敷桁と、
前記内壁の周方向に沿って設けられ、下端部が前記敷桁によって支持され、トンネル軸方向に所定の間隔で複数配置される支保工と、
前記周方向に沿って曲がる可撓性を有し、前記敷桁より上側の前記内壁を覆う複数のパネルとを備え、
前記各支保工は、前記周方向に接合可能な複数の支保工部材から成り、トンネル軸方向から見て左右の一方のみに設置した状態が可能であり、
前記複数のパネルは、隣り合う前記支保工間において前記周方向に連なる1列に設けられ、トンネル軸方向の端部が前記支保工に支持され、最も下にあるパネルの下端部が前記敷桁に支持され、
前記各パネルの前記周方向の長さ、及び前記1列のパネルの数は、前記左右の一方のみに前記パネルを設けた状態が可能となるように設定され
、
前記パネルと前記内壁との間にグラウトを注入するための注入口が、左右の両方の前記パネルに設けられ、
前記パネルのトンネル軸方向の端部を前記支保工に挿入するための挿入口が、前記支保工に少なくとも左右各1つ形成されることを特徴とするトンネル内巻工。
【請求項2】
前記支保工は、前記周方向に直交する断面がH形であり、前記内壁に当接する外フランジと、トンネルの内空を臨む内フランジと、前記外フランジと内フランジを接続するウェブとを有し、
前記パネルは、前記ウェブによってトンネル軸方向に対して保持され、前記内フランジによってトンネル径方向に対して支持され、
前記支保工は、前記内フランジと前記外フランジとの間に前記パネルを挿入するため
前記挿入口が前記内フランジに形成さ
れることを特徴とする請求項1に記載のトンネル内巻工。
【請求項3】
前記各支保工部材は、FRP製であり、接合のための継手を有し、
前記継手は、接合される一方の支保工部材の前記ウェブの端部から突出する凸部と、接合される他方の支保工部材の前記ウェブの端部に設けられた凹部とを有し、前記凸部が凹部と嵌合することによって前記支保工部材を周方向に接合することを特徴とする請求項2に記載のトンネル内巻工。
【請求項4】
前記各パネルは、FRP製であり、面状のスキンプレートと、トンネル軸方向に延在する複数のリブとを有し、
前記スキンプレートは、可撓性を有する矩形であり、
前記各リブは、前記スキンプレートから前記内壁の方向に突出し、先端に向かって次第にトンネル周方向に曲がっており、貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のトンネル内巻工。
【請求項5】
前記トンネルの覆工コンクリートに埋め込み固定された複数の受台を有し、
前記各受台は、前記内壁から突出し、
前記敷桁は、前記受台によって支持され、最も下にある前記パネルの下端部と前記内壁との間隙を塞ぎ、
前記パネルと前記内壁の間は、グラウトが注入されて硬化されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のトンネル内巻工。
【請求項6】
前記敷桁は、施工時に、仮止め用ボルトで前記受台及び覆工コンクリートの少なくとも一方に仮止めされ、
前記仮止め用ボルトは、前記グラウトが硬化された後に撤去されることを特徴とする請求項5に記載のトンネル内巻工。
【請求項7】
前記支保工は、ボルトを用いて前記覆工コンクリートに固定され、
前記ボルトは、硬化された前記グラウト内に埋められることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のトンネル内巻工。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの内壁を覆うためのトンネル内巻工に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの経年劣化に伴う覆工コンクリートの剥落を防止するため、従来から、トンネルの内壁に対する補強を含む劣化対策工としてトンネル内巻工がある。FRPを用いたトンネル内巻工として、FRP製アーチ支持構造体(アーチ支保工)と、内壁を覆うFRP製連続帯状構造体とを有するトンネル覆工構造体が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。このようなトンネル覆工構造体では、先ず、複数のFRP製支持構造体がトンネル内に配置される。そして、隣り合うFRP製支持構造体間に、FRP製連続帯状構造体が、トンネルの一方の側壁側から、トンネルの頂部を経由して、反対の側壁側まで連続して設置される(特許文献1の
図18、特許文献2の明細書[0037]参照)。そして、FRP製連続帯状構造体とトンネルの内壁との間にグラウト(裏込め材)が注入される。グラウトは、トンネル底部の根固め工によって漏れが防止される(特許文献1の
図22参照)。
【0003】
しかしながら、
図14に示すように、鉄道のトンネル2では、通信用や配電用のケーブル24等が内壁21の側壁に設けられており、FRP製支持構造体及びFRP製連続帯状構造体を設けることが困難である。同様の問題は、鉄道以外のトンネルでも、トンネルの側壁に移設困難な支障物がある箇所で生じる。
【0004】
複線トンネルでトンネル覆工構造体を施工する場合、FRP製連続帯状構造体をトンネルの一方の側壁側から反対の側壁側まで連続して設置するためには、施工箇所が上下線の両方になるので、その施工箇所を他の保守作業に用いられる保守用車が通過できない。また、FRP製連続帯状構造体をトンネルの一方の側壁側から反対の側壁側まで連続して設置するために、長く連続した工事時間が必要になる。そのような工事時間の確保が難しい場合、トンネル覆工構造体の施工が容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-207431号公報
【文献】特開2016-132867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、トンネルの側壁に移設困難な支障物がある箇所に対応でき、複線トンネルで施工箇所を上下線に分けて施工でき、連続した工事時間を短くできるトンネル内巻工を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のトンネル内巻工は、トンネルの内壁を覆うためのものであって、前記トンネルの底面より高い位置の前記内壁に延設されるトンネル軸方向に長尺状の敷桁と、前記内壁の周方向に沿って設けられ、下端部が前記敷桁によって支持され、トンネル軸方向に所定の間隔で複数配置される支保工と、前記周方向に沿って曲がる可撓性を有し、前記敷桁より上側の前記内壁を覆う複数のパネルとを備え、前記各支保工は、前記周方向に接合可能な複数の支保工部材から成り、トンネル軸方向から見て左右の一方のみに設置した状態が可能であり、前記複数のパネルは、隣り合う前記支保工間において前記周方向に連なる1列に設けられ、トンネル軸方向の端部が前記支保工に支持され、最も下にあるパネルの下端部が前記敷桁に支持され、前記各パネルの前記周方向の長さ、及び前記1列のパネルの数は、前記左右の一方のみに前記パネルを設けた状態が可能となるように設定されることを特徴とする。
【0008】
このトンネル内巻工において、前記支保工は、前記周方向に直交する断面がH形であり、前記内壁に当接する外フランジと、トンネルの内空を臨む内フランジと、前記外フランジと内フランジを接続するウェブとを有し、前記パネルは、前記ウェブによってトンネル軸方向に対して保持され、前記内フランジによってトンネル径方向に対して支持され、前記支保工は、前記内フランジと前記外フランジとの間に前記パネルを挿入するため挿入口が前記内フランジに形成され、前記挿入口は、前記支保工に少なくとも左右各1つ形成されることが好ましい。
【0009】
このトンネル内巻工において、前記各支保工部材は、FRP製であり、接合のための継手を有し、前記継手は、接合される一方の支保工部材の前記ウェブの端部から突出する凸部と、接合される他方の支保工部材の前記ウェブの端部に設けられた凹部とを有し、前記凸部が凹部と嵌合することによって前記支保工部材を周方向に接合することが好ましい。
【0010】
このトンネル内巻工において、前記各パネルは、FRP製であり、面状のスキンプレートと、トンネル軸方向に延在する複数のリブとを有し、前記スキンプレートは、可撓性を有する矩形であり、前記各リブは、前記スキンプレートから前記内壁の方向に突出し、先端に向かって次第にトンネル周方向に曲がっており、貫通孔が形成されていることが好ましい。
【0011】
このトンネル内巻工において、前記トンネルの覆工コンクリートに埋め込み固定された複数の受台を有し、前記各受台は、前記内壁から突出し、前記敷桁は、前記受台によって支持され、最も下にある前記パネルの下端部と前記内壁との間隙を塞ぎ、前記パネルと前記内壁の間は、グラウトが注入されて硬化されることが好ましい。
【0012】
このトンネル内巻工において、前記敷桁は、施工時に、仮止め用ボルトで前記受台及び覆工コンクリートの少なくとも一方に仮止めされ、前記仮止め用ボルトは、前記グラウトが硬化された後に撤去されることが好ましい。
【0013】
このトンネル内巻工において、前記支保工は、ボルトを用いて前記覆工コンクリートに固定され、前記ボルトは、硬化された前記グラウト内に埋められることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトンネル内巻工によれば、パネルは、敷桁より上側の内壁を覆うので、トンネルの側壁にあるケーブル等の支障物より敷桁の位置を高く設定することにより、その支障物との干渉を避けることができる。また、支保工は、トンネル軸方向から見て左右の一方のみに設置した状態が可能であり、パネルは、左右の一方のみに設けた状態が可能となるように周方向の長さ及び数が設定されるので、複線トンネルで施工箇所を上下線に分けて施工でき、連続した工事時間を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るトンネル内巻工の斜視図。
【
図4】同トンネル内巻工の支保工の下端部の側面図。
【
図5】同トンネル内巻工のパネルを左右の一方のみに設けた状態の断面図。
【
図7】同トンネル内巻工の支保工及びパネルの断面図。
【
図9】同トンネル内巻工の支保工の挿入口の位置を示す図。
【
図10】(a)は同トンネル内巻工の支保工の継手の正面図、(b)は同継手の側面図。
【
図12】同トンネル内巻工のパネルの下端部の側面図。
【
図13】同トンネル内巻工のパネルの注入口及び空気抜き孔の位置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係るトンネル内巻工を
図1乃至
図13を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、トンネル内巻工1は、トンネル2の内壁21(覆工面)を覆う物であり、トンネル2の覆工を内空側から巻くように覆う工作物であるので、トンネル内巻工と呼ばれる。トンネル内巻工1は、敷桁3と、支保工4と、複数のパネル5とを備える。
【0017】
図3に示すように、敷桁3は、トンネル軸方向Xに長尺状である。敷桁3は、トンネル2の底面22より高い位置の内壁21に延設される(
図2参照)。
【0018】
支保工4は、トンネル2の内壁21の周方向Cに沿って設けられる。
図4に示すように、支保工4の下端部43は、敷桁3によって支持される。支保工4は、トンネル軸方向Xに所定の間隔で複数配置される(
図1参照)。パネル5は、トンネル2の周方向Cに沿って曲がる可撓性を有する。パネル5は、複数であり、敷桁3より上側の内壁21を覆う。なお、
図1において、後述するパネル5のリブは図示を省略している。
【0019】
各支保工4は、複数の支保工部材41から成る。支保工部材41は、周方向Cに接合可能である。この支保工4は、トンネル軸方向Xから見て左右の一方のみに設置した状態が可能である。すなわち、少なくともトンネル2の頂部付近に支保工4の継目42がある。なお、トンネルにおける左と右とは、通常、起点側から見た左と右である。
【0020】
複数のパネル5は、隣り合う支保工4間において周方向Cに連なる1列に設けられ、トンネル軸方向Xの端部が支保工4に支持され、最も下にあるパネル5の下端部が敷桁3に支持される。
【0021】
各パネル5の周方向Cの長さ、及び1列のパネル5の数は、左右の一方のみにパネル5を設けた状態が可能となるように設定される。本実施形態では、1列のパネル5の数は、トンネルの右側がパネル5a、5bの2枚、左側がパネル5c、5dの2枚である(
図2参照)。なお、1列のパネル5の数は、このような1列4枚に限定されない。
【0022】
これにより、
図5に示すように、左右の一方のみにパネル5(5a、5b)を設けた状態が可能である。
【0023】
支保工4は、トンネル軸方向Xから見て左右の一方のみに設置した状態が可能であり、パネル5は、左右の一方のみに設けた状態が可能であるので、トンネル内巻工1は、左右の一方のみに設置した状態が可能となる。
【0024】
後述するグラウト(裏込め材)をパネル5と内壁21との間に注入する際に、グラウトがパネル5間から漏れないように、パネル5は、互いに接合される。本実施形態では、パネル5a、5bが周方向Cに接合され、パネル5b、5cが周方向Cに接合され(
図2参照)、パネル5c、5dが周方向Cに接合される。このような、パネル5同士を突き合わせる接合は、例えば、嵌合接合である。パネル5同士を突き合わせる接合は、接着であってもよい。
【0025】
例えば、新幹線鉄道(全国新幹線整備法第二条に定義された新幹線鉄道)では、線路での保守作業は、列車が運転されていない夜間の限られた時間帯(作業時間帯)に行われる。先ず、トンネル2の左右の一方のみに支保工4及びパネル5を設け、別の日の夜間に残りの支保工4及びパネル5を設ける分割施工により、施工箇所を上下線に分けて施工でき、連続した工事時間を短くできる。
【0026】
図6に示すように、支保工4は、FRP製であり、H形鋼と同様の断面形状を有する。すなわち、支保工4は、周方向に直交する断面がH形であり、外フランジ44と、内フランジ45と、ウェブ46とを有する。外フランジ44は、トンネル2の内壁21に当接する。内フランジ45は、トンネル2の内空を臨む。ウェブ46は、外フランジ44と内フランジ45を接続する。
【0027】
図7に示すように、パネル5は、ウェブ46によってトンネル軸方向Xに対して保持され、内フランジ45によってトンネル径方向R(内壁21の法線方向)に対して支持される。
【0028】
図8に示すように、支保工4は、内フランジ45と外フランジ44との間にパネル5を挿入するため挿入口8が内フランジ45に形成される。本実施形態では、支保工4は、内フランジ45を設けないことにより、挿入口8が形成される。白抜き矢印で図示するように、パネル5は、一対の支保工4間に挿入され、周方向Cにスライドされて配置される。
【0029】
図9に示すように、挿入口8は、支保工4に少なくとも左右各1つ形成される。挿入口8の位置は、例えば、
図9において楕円で示す箇所である。
【0030】
図10(a)(b)に示すように、各支保工部材41は、FRP製であり、接合のための継手47を有する。継手47は、ソケット式継手である。この継手47は、凸部47aと凹部47bとを有する。凸部47aは、接合される一方の支保工部材41のウェブ46の端部から突出する。凹部47bは、接合される他方の支保工部材41のウェブ46の端部に設けられる。継手47は、凸部47aが凹部47bと嵌合することによって支保工部材41を周方向Cに接合する。すなわち、支保工部材41は、互いに嵌合接合される。この継手47は、軸力とせん断力を伝達する。支保工4は、多ヒンジアーチとして挙動する。
【0031】
図11に示すように、各パネル5は、FRP製であり、面状のスキンプレート51と、スキンプレート51上のリブ52とを有する。本実施形態では、パネル5は、ガラスクロスを有するポリエステル樹脂のFRP製である。スキンプレート51は、可撓性を有し、矩形である。リブ52は、トンネル軸方向Xに延在し、周方向Cに複数配置される。各リブ52は、スキンプレート51から内壁21の方向に突出し、リブ52の先端に向かって次第にトンネル周方向に曲がっている。すなわち、リブ52は、断面視で直角等に折れ曲がってなく、滑らかに曲がっている。リブ52は、貫通孔521が形成されている。貫通孔521は、周方向Cにリブ52を貫通し、トンネル軸方向Xにおいて複数形成される。
【0032】
パネル5は、トンネル軸方向Xの端部に、リブ52を有しないスキンプレート51のみの部分がある。支保工4は、ウェブ46から内フランジ45と平行にパネルガイド461が突出している(
図6参照)。パネル5を支保工4に取り付ける際、パネル5の端部のスキンプレート51が、パネルガイド461と内フランジ45に挟まれて周方向Cに案内される。
【0033】
トンネル内巻工1は、複数の受台9を有する(
図3参照)。敷桁3は、これら複数の受台9によって支持される(両端支持)。本実施形態では、受台9は、H形鋼である。トンネル内巻工1の施工時、トンネル2の覆工コンクリート25を水平方向に削孔して受台用削孔が形成される。受台用削孔は、左右の内面が目荒らしされる。そして、受台用削孔に受台9が入れられ、穴受台用削孔に充填材26が充填される(
図4参照)。その充填材26が硬化し、受台9は、トンネル2の覆工コンクリート25に埋め込み固定される。各受台9は、内壁21から突出する。
【0034】
図12に示すように、敷桁3は、最も下にあるパネル5の下端部を支持し、そのパネル5の下端部と内壁21との間隙を塞ぐ。本実施形態では、敷桁3は、FRP製であり、下半分が横向きの溝形鋼と同様の断面形状、上半分が横向きのハット形鋼と同様の断面形状を有する。すなわち、敷桁3は、下フランジ31、上フランジ32、ウェブ33、アーム部34を有する。アーム部34は、上フランジ32の端部から上に延出する部分である。支保工4及びパネル5は、上フランジ32上に設けられ、アーム部34と内壁21によって挟まれる(
図4、
図12参照)。
【0035】
敷桁3は、施工時に、仮止め用ボルト91で受台9に仮止めされる(
図3参照)。また、敷桁3は、仮止め用ボルト92で覆工コンクリート25に仮止めされる。仮止め用ボルト91、92は、トンネル内巻工1と内壁21間に注入されたグラウトが硬化した後に撤去される。なお、仮止め用ボルト91、92のいずれかを省略してもよい。
【0036】
支保工4は、ボルト48を用いて覆工コンクリート25に固定される(
図6参照)。本実施形態では、支保工4は、トンネル2の覆工コンクリート25にボルト48で固定されたクランプ部材49を介して、覆工コンクリート25に固定される。ボルト48が覆工コンクリート25から露出する部分は、パネル5と内壁21間に位置する。パネル5と内壁21の間は、グラウトが注入されて硬化される。したがって、トンネル内巻工1において、ボルト48は、硬化されたグラウト内に埋められる。
【0037】
上述のように構成されたトンネル内巻工1は、専用足場を有する台車を用いて施工される。施工時にパネル5とトンネル2の内壁21との間にグラウトが注入される。グラウトには、充填性が良い、液圧がパネル5の耐荷力以内、短時間で硬化、漏出時の対処が容易、早期強度が発現する等の条件を満たすセメントミルクが用いられる。グラウトを注入するため、注入口がパネル5のスキンプレート51に設けられる。注入口の位置の例を
図13に丸印53で示す。パネル5には、注入口以外に、トンネル2の頂部付近に空気抜き孔が設けられる。空気抜き孔の位置の例を
図13に丸印54で示す。
【0038】
以上、本実施形態に係るトンネル内巻工1によれば、パネル5は、敷桁3より上側の内壁21を覆うので、トンネル2の側壁にあるケーブル24等の支障物より敷桁3の位置を高く設定することにより、その支障物との干渉を避けることができる(
図2参照)。また、支保工4は、トンネル軸方向Xから見て左右の一方のみに設置した状態が可能であり、パネル5は、左右の一方のみに設けた状態が可能となるように周方向Cの長さ及び数が設定されるので、複線トンネルで施工箇所を上下線に分けて施工でき、連続した工事時間を短くできる。また、隣り合う支保工4間において複数のパネル5を周方向Cに連なる1列に設けられるので、切れ目なく内壁21を覆うことができる。
【0039】
パネル5を支保工4に挿入するための挿入口8が、支保工4に少なくとも左右各1つ形成されるので、パネル5をトンネル軸方向Xから見て左右の一方のみに設置した状態にすることができる(
図9参照)。
【0040】
支保工4は複数の支保工部材41から成り、各支保工部材41はFRP製であるので、軽量化され、現場施工において大型重機が不要となる(
図1参照)。支保工部材41は、端部が嵌合することによって周方向Cに接合するので、作業が効率化される(
図10(a)(b)参照)。このため、トンネル内巻工1の施工工程が簡略化及び迅速化され、トンネル内の工事時間を短くできる。
【0041】
複数のパネル5がトンネル2の内壁21を覆い、各パネル5はFRP製であるので、各パネル5が軽量化される(
図1参照)。また、パネル5は、トンネル軸方向Xに延在するリブ52を有するので、トンネル軸方向Xの剛性が高くなり、グラウト液圧に耐える(
図11参照)。また、リブ52は、貫通孔521が形成されているので、パネル5と内壁21との間にグラウトを注入する際、グラウト及び空気が貫通孔521を通る。ところで、リブが直角に折れ曲がった断面形状を有する場合、折れ曲がった内側の角にグラウトが入り込み難い。これに対して、このパネル5のリブ52は、先端に向かって次第にトンネル周方向に曲がっているので、曲がった内側にグラウトが入り込み易い。
【0042】
敷桁3は、覆工コンクリート25に埋め込み固定された受台9に支持されるので、支保工4、パネル5及びグラウトからの荷重に耐えることができる(
図3参照)。敷桁3は、パネル5の下端部と内壁21との間隙を塞ぐので、パネル5と内壁21との間に注入されたグラウトの漏れが防がれる(
図12参照)。パネル5と内壁21の間は、グラウトが注入されて硬化されることにより、支保工4、パネル5及びグラウトが一体構造の自立構造となり、トンネル内巻工1は、耐荷力に優れた冗長性の高い構造となる(
図1参照)。
【0043】
敷桁3を仮止めする仮止め用ボルト91、92は、パネル5と内壁21間に注入されたグラウトが硬化した後に撤去されるので、敷桁3の取り付けがボルトレス化され、敷桁3のボルトの点検が不要になり、トンネル内巻工1の維持管理が容易になる(
図3参照)。
【0044】
支保工4を覆工コンクリート25に固定するボルト48は、パネル5と内壁21間にグラウトが注入されて硬化されたグラウト内に埋められるので、ボルト48の点検が不要になり、トンネル内巻工1の維持管理が容易になる(
図6参照)。
【0045】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、トンネル内巻工1は、鉄道以外のトンネルに設けてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 トンネル内巻工
3 敷桁
4 支保工
41 支保工部材
44 外フランジ
45 内フランジ
46 ウェブ
47 継手
47a 凸部
47b 凹部
48 ボルト
5 パネル
51 スキンプレート
52 リブ
521 貫通孔
53 注入口の位置
8 挿入口
9 受台
91、92 仮止め用ボルト