(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】トルクコンバータのロックアップ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 45/02 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
F16H45/02 X
(21)【出願番号】P 2020014867
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】300034334
【氏名又は名称】ヴァレオカペックジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】水田 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】井上 敦
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163770(WO,A1)
【文献】特開2018-080729(JP,A)
【文献】特開2011-117517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-駆動側からの動力を伝達するフロントカバーに固定された入力側クラッチ保持部と、
-前記入力側クラッチ保持部に保持される複数のクラッチプレートと、
-前記クラッチプレートを押圧してクラッチを連結状態とするためのロックアップピストンと、
-前記ロックアップピストンの端部を保持するピストンガイドと、
-前記ロックアップピストンに固定され、前記ロックアップピストンと前記入力側クラッチ保持部との間に設けられ、前記ロックアップピストンをクラッチを解除する方向に押圧する弾性体を内蔵するスプリングパックと、
-前記ロックアップピストン及び前記ピストンガイドを保持するカバーハブと、
-前記ロックアップピストンと前記入力側クラッチ保持部との相互回転を防止する相互回転防止機構と、
を有し、
前記相互回転防止機構が、前記スプリングパックの第1のリテーナプレートの外周に設けられる外歯と、前記第1のリテーナプレートの外周に近接する前記入力側クラッチ保持部の内周に設けられ、前記第1のリテーナプレートの外周に設けられる外歯と噛み合うことができる内歯とによるスプライン嵌合であり、
スプリングバック、前記ロックアップピストンと、前記ピストンガイドと、前記カバーハブとを組み付けたピストン組立体を
、前記入力側クラッチ保持部
と、ロックアップクラッチと、前記フロントカバーとを組み付けたロックアップクラッチ組立体に組み付ける際に、前記第1のリテーナプレートと前記入力側クラッチ保持部とのスプライン嵌合の部分の嵌合が、
前記ピストン組立体と前記ロックアップクラッチ組立体とにおける他の部分の結合よりも先行することを特徴とするトルクコンバータのロックアップ装置。
【請求項2】
前記第1のリテーナプレートの、前記スプライン嵌合のための外周部が、
前記ピストン組立体を前記ロックアップクラッチ組立体に組み付ける際に、スプライン嵌合の部分の嵌合が先行するように前記入力側クラッチ保持部の側に折り曲げられていることを特徴とする請求項1に記載のトルクコンバータのロックアップ装置。
【請求項3】
前記第1のリテーナプレートの、前記スプライン嵌合のための外周部が、
前記ピストン組立体を前記ロックアップクラッチ組立体に組み付ける際に、スプライン嵌合の部分の嵌合が先行するように、前記フロントカバーと
前記カバーハブとの嵌合位置を定めたことを特徴とする請求項1に記載のトルクコンバータのロックアップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のエンジンのクランクシャフトと変速機の入力軸との間に介在する流体伝動装置(いわゆるトルクコンバータ)のロックアップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速機に組み込まれるトルクコンバータは、コンバータハウジングの前面部を構成するフロントカバーがクランクシャフトで回転駆動され、さらにコンバータハウジングのポンプインペイラ側の羽と、タービンランナ側の羽との間でトルクが伝達されて、タービンランナで駆動される出力軸から、変速機の入力軸へとトルクが伝達されるようになっている。
【0003】
また、トルクコンバータは、燃費向上を図るために、ロックアップピストンを用いて、ロックアップクラッチを作動させ、エンジンのクランクシャフトのトルクを、衝撃(捩り振動)吸収用のトーションスプリング(弾性体)を介して、変速機に伝達するロックアップ装置を有している。
【0004】
ここで、ロックアップクラッチの作動停止時のロックアップピストンの応答(離反)速度を速めるため、クラッチ保持部とロックアップピストンとの間に、スプリングを内蔵したスプリングパックを用いることがある。
【0005】
例えば、特許文献1には、ピストン部材と、対向するフランジ部材との間にコイルばねを設ける技術思想が開示されている。これによれば、コイルばねによってフランジ部材及びピストン部材が互いに離間する方向に常時付勢されている。
【0006】
しかしながら、この文献によると、複数のコイルばねを、それぞれ、ピストン部材とフランジ部材とで挟み込むように構成され、スプリングパックという独立した単位になっておらず、組立調整が困難であるなどの不具合を有している。
【0007】
また、入力側の急激な加速などがあると、ロックアップピストンと入力側クラッチ保持部との間で相互回転が生じる恐れがあるため、その防止手段も必要である。
【0008】
この点に関し、特許文献1では、ピストン部材とフランジ部材との間をスプライン嵌合することで、相互回転を防止している。
【0009】
しかしながら、先に述べたようにスプリングパックの構成になっていないため、組立が極めて複雑であり、かつ、スプライン嵌合の部分を正確に組み付けることが困難であるという問題点も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこうした従来技術上の問題点を解決することを企図したものであり、ロックアップクラッチ、ロックアップピストン、入力側クラッチ保持部、スプリングパックなどからなるロックアップ装置において、ロックアップピストンと入力側クラッチ保持部との相互回転を少なくするためのスプライン嵌合を、容易に、かつ、確実に組み立てられるロックアップ装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本発明の第1の態様に係るトルクコンバータのロックアップ装置は、
-駆動側からの動力を伝達するフロントカバーに固定された入力側クラッチ保持部と、
-前記入力側クラッチ保持部に保持される複数のクラッチプレートと、
-前記クラッチプレートを押圧してクラッチを連結状態とするためのロックアップピストンと、
-前記ロックアップピストンの端部を保持するピストンガイドと、
-前記ロックアップピストンに固定され、前記ロックアップピストンと前記入力側クラッチ保持部との間に設けられ、前記ロックアップピストンをクラッチを解除する方向に押圧する弾性体を内蔵するスプリングパックと
-前記ロックアップピストンと前記入力側クラッチ保持部との相互回転を防止する相互回転防止機構と
を有し、前記相互回転防止機構が、前記スプリングパックの第1のリテーナプレートの外周に設けられる外歯と、前記第1のリテーナプレートの外周に近接する前記入力側クラッチ保持部の内周に設けられ、前記第1のリテーナプレートの外周に設けられる外歯と噛み合うことができる内歯とによるスプライン嵌合であり、前記スプリングパックと一体となった前記ロックアップピストンを前記入力側クラッチ保持部に組み付ける際に、前記第1のリテーナプレートと前記入力側クラッチ保持部とのスプライン嵌合の部分の嵌合が、他の部分の結合よりも先行することを特徴とする。
【0013】
このようにすると、弾性体を保持する部分がスプリングパックという独立したユニット構成であることから、外部で組立調整を行った後でトルクコンバータに組み付けることが可能であり、かつ、その際に、スプリングパックに固定されたロックアップピストンと、入力側クラッチ保持部との相互回転がスプライン嵌合によって防止される上に、その嵌合部が他の部分の結合よりも先行するため、十分に嵌合したことを確認した上で、それ以降の組立を進行できるため、組立調整工数の削減や、確実で安全な組付けが実現できる。
【0014】
また、本発明の第2の態様に係るトルクコンバータのロックアップ装置は、第1の態様におけるロックアップ装置であって、前記第1のリテーナプレートの、前記スプライン嵌合のための外周部が、前記スプリングパックと一体となった前記ロックアップピストンを前記入力側クラッチ保持部に組み付ける際に、スプライン嵌合の部分の嵌合が先行するように前記入力側クラッチ保持部の側に折り曲げられていることを特徴としてもよい。
【0015】
このようにすると、ロックアップピストンと一体化している第1のリテーナプレートのスプライン嵌合のための外周部、すなわち外歯の部分が、入力側クラッチ保持部の方に曲げられているため、組付け時にこの部分が最初に接触するように構成することが容易であり、スプライン嵌合を確実にした後で、次の組付けの工程に進むことができるため、追加の部材や機構などを用いることなく、確実な組立が実現できる。
【0016】
なお、この嵌合部分は、目視での観察は困難で、従来は確認しづらかったが、本発明においては、嵌合部分がまず最初に接触するために、作業者が組み付ける場合は手の感覚で回らないこと、また、自動のラインで組み付ける場合には所定のトルクを与えても回らないことで、いずれの場合でも、嵌合されたことが確認でき、確実に組み付けができる。
【0017】
また、このような構成であると、嵌合が不十分なことが、容易にかつ確実に検出できるため、組立不具合の発生を防止することができる。
【0018】
また、本発明の第3の態様に係るトルクコンバータのロックアップ装置は、第1の態様におけるロックアップ装置であって、前記第1のリテーナプレートの、前記スプライン嵌合のための外周部が、前記スプリングパックと一体となった前記ロックアップピストンを前記入力側クラッチ保持部に組み付ける際に、スプライン嵌合の部分の嵌合が先行するように、前記フロントカバーと、前記ロックアップピストン及び前記ピストンガイドを保持するカバーハブとの嵌合位置を定めたことを特徴としてもよい。
【0019】
このようにすると、第1のリテーナプレート自体は外周を折り曲げることなく、フロントカバーとカバーハブとの形状を適切に設定することにより、フロントカバーとカバーハブとの嵌合よりも先に、第1のリテーナプレートと入力側クラッチ保持部との嵌合を先行させることができ、スプライン嵌合を確実にした後で、次の組付けの工程に進むことができるため、追加の部材や機構などを用いることなく、確実な組立が実現できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ロックアップクラッチ、ロックアップピストン、入力側クラッチ保持部、スプリングパックなどからなるロックアップ装置において、ロックアップピストンと入力側クラッチ保持部との相互回転を少なくするためのスプライン嵌合を、容易に、かつ、確実に組み立てられるロックアップ装置を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るロックアップ装置を含むトルクコンバータの縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るロックアップ装置の縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る装置のスプリングパックの斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る装置のスプリングパックの部分断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る装置の第1のリテーナプレートの平面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る装置の入力側クラッチ保持部の平面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る装置の入力側クラッチ保持部の縦断面図である。
【
図8A】本発明の一実施形態に係る装置の組立手順を示した説明図である。
【
図8B】本発明の一実施形態に係る装置の組立手順を示した説明図である。
【
図8C】本発明の一実施形態に係る装置の組立手順を示した説明図である。
【
図9A】本発明の一実施形態のロックアップ装置の組立状況を示した説明図である。
【
図9B】本発明の一実施形態のロックアップ装置の組立状況を示した説明図である。
【
図10】本発明の別の実施形態のロックアップ装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係るロックアップ装置を含むトルクコンバータの縦断面図で、上部のみを示し、下部を省略して示したものであり、
図2は
図1の一部である本発明の一実施形態に係るロックアップ装置の縦断面図である。
【0024】
トルクコンバータ1は、エンジンのクランクシャフトからトランスミッションの入力シャフトにトルクを伝達するための装置である。図の右側に図示しないエンジンが配置され、図の左側に図示しないトランスミッションが配置されている。図に示すA-A’がトルクコンバータ1の回転軸である。
【0025】
なお、この後、特別に説明しない限り、入力側とは
図1の右側(フロントカバー側)を指し、出力側とは入力側と反対の
図1の左側を指すものとする。また、内側あるいは内周とは回転軸に近い方を指し、外側あるいは外周とは回転軸から遠い方を指すものとする。更に、軸方向とは回転軸の延伸する方向を指すものとする。
【0026】
図1に示すように、トルクコンバータ1は、主に、フロントカバー11と、3種の羽根車(ポンプインペイラ12、タービンランナ13、ステータブレード14)と、ロックアップ装置2と、リテーナプレート31、外側弾性体32、内側弾性体33、遠心振子42などの部材を含む振動吸収装置3と、フロントカバー11からの動力の伝達を受けるタービンハブ51などを備えている。
【0027】
ここで、ロックアップ装置2が作動していない状態では、フロントカバー11からの動力は、羽根車を介して流体的にタービンハブ51へと伝達される。
【0028】
一方、ロックアップ装置2が作動している場合は、フロントカバー11からの動力は、タービンハブ51に機械的に伝達される。
【0029】
ロックアップ装置2は、
図2に示すように、フロントカバー11とタービンハブ51との間に配置される、多層板のロックアッププレートからなるロックアップクラッチ17、ロックアップクラッチ17を保持する入力側クラッチ保持部20と出力側クラッチ保持部21、ロックアップピストン15、ピストンガイド16、ロックアップピストン15と入力側クラッチ保持部20との間に設けられるスプリングパック60、出力側クラッチ保持部21と固定結合されるドライブプレート18などを備えている。
【0030】
ロックアップピストン15は、フロントカバー11と振動吸収装置3との間で、出力側クラッチ保持部21の内側に配置される。ロックアップピストン15は、環状に形成されており、入力側に突出した押圧部22を有している。
【0031】
また円盤状の内周部はカバーハブ23に固定され、円盤状外周部は軸方向で出力側に開口する筒状の淵部24を有する。
【0032】
このように、ロックアップピストン15の外周部が軸方向の出力側へ曲げられ、その部分でピストンガイド16に保持されると、ロックアップピストン15の外周を小さくすることができ、トルクコンバータ1の全体の寸法を維持したままで、ロックアップピストン15の外側に、より大きな捩りダンパー、ペンデュラムなどの機構を設けることができ、あるいは、捩りダンパーなどを従来のままとするとトルクコンバータ1の全体寸法をコンパクトにすることができる。
【0033】
また、ロックアップピストン15は、外周部が曲げ構造の上、その曲げ面でピストンガイド16に保持されることから、ロックアップピストン15の意図しない変形が避けられ、また、センタリングも良好に維持されるなどの、多大な効果を生じる。
【0034】
更に、ロックアップピストン15の中央付近には、円周上に均等に6個所のリベット固定用の穴151が設けられている。
【0035】
ピストンガイド16は、ロックアップピストン15の出力側に同様の環状に形成されており、円盤状の内周側はカバーハブ23と強固に接合され、円盤状の外周部は凹部161に配置されたシール部材であるO-リング162を介してロックアップピストン15の淵部24の内面側に接している。
【0036】
ロックアップピストン15及びピストンガイド16は、トルクコンバータ1の内部の油による圧力によって、軸方向入力側に移動する。この移動によって押圧部22が多層板クラッチ17を押圧しロックアップ状態を形成する。
【0037】
図3は本発明の一実施形態に係るロックアップ装置のスプリングパックの斜視図、
図4は本発明の一実施形態に係るロックアップ装置のスプリングパックの部分断面図であり、
図5は本発明の一実施形態に係る装置の第1のリテーナプレートの平面図、
図6は本発明の一実施形態に係る装置の入力側クラッチ保持部の平面図、
図7は本発明の一実施形態に係る装置の入力側クラッチ保持部の縦断面図である。
【0038】
スプリングパック60は、ロックアップピストン15と入力側クラッチ保持部20との間に設けられ、ロックアップピストン15と固定される第1のリテーナプレート61と、入力側クラッチ保持部20の側に設けられる第2のリテーナプレート62と、第1のリテーナプレート61の第2のリテーナプレート62に対向する面に設けられる複数の第1のスプリング保持部611と、第2のリテーナプレート62の第1のリテーナプレート61に対向する面に設けられる複数の第2のスプリング保持部621と、第1のスプリング保持部611と第2のスプリング保持部621との間に挟持されるコイルスプリング63とを有する。
【0039】
第1のリテーナプレート61は、略円環、薄板状で、最外周は、多数の凸部、すなわち外歯612を有しており、かつ、外歯612の近傍は、Z字状に折り曲げられている。すなわち、第2のリテーナプレート62の方向に向けて折り曲げられた軸方向曲げ部613と、更に外周方向へと折り曲げられた外周方向折り曲げ部614とを有する。
【0040】
これによって、後述する組立時に、この軸方向折り曲げ部613の長さ(高さ)によって、この外歯部分がまず最初に入力側クラッチ保持部20の内歯部分と嵌合することとなる。
【0041】
第1のリテーナプレート61の、外歯612よりも内側には、バーリング加工などで形成され、第2のリテーナプレート62側に突出し、コイルスプリングの内径と嵌合しうる第1のスプリング保持部611を多数(本実施例では18個)有している。
【0042】
また、更に内周部には、内側に突出する舌部613を6個所有しており、その中央部には、リベットリベット固定用の穴614を有している。
【0043】
なお、ここで、第1のスプリング保持部611は、円周上で均等に設けられているが、舌部613のある場所には設けられていない。このため、本来、24個所設けられるべきスプリング保持部611が18個となっている。
【0044】
この理由は、舌部613のある場所にも第1のスプリング保持部611を設けると、舌部613のリベット用の穴614を、更に内側に設けなければならず、第1のリテーナプレート61の寸法が大きくなることのほか、第1のリテーナプレート61がリベットでロックアップピストン15と固定されると、ロックアップ動作時または解除時に不要な回転モーメントや曲げ応力を発生させる恐れがあるなどの理由からである。
【0045】
第2のリテーナプレート62は、略円環、薄板状で、バーリング加工などで形成され、第1のリテーナプレート61の側に突出し、コイルスプリング63の内径と嵌合しうる第2のスプリング保持部621を多数(本実施例では18個)有している。
【0046】
また、第2のリテーナプレート62の最外周は、軸方向で入力側にL字状に曲げられた淵部622が形成されており、その淵部622の先端面で入力側クラッチ保持部20の円筒底面に接触している。
【0047】
なお、第2のリテーナプレート62は、その外周部に形成したL字状の淵部622ではなく、内周部に形成したL字状部分であってもよく、いずれの場合も、入力側クラッチ保持部20ではなく、フロントカバー11と接触していてもよい。
【0048】
あるいは、第2のリテーナプレート62は、L字状の曲げでなくとも、Z字状の曲げでもよく、短い平面部分で入力側クラッチ保持部20あるいはフロントカバー11に接触していてもよい。
【0049】
なお、これまでの、スプリング保持部、舌部などの数は例示であって、これより多くても少なくてもよく、その程度により効果を発揮するものである。
【0050】
入力側クラッチ保持部20は、略円筒形で、その片方の底面が内周側に曲げられ、その部分でフロントカバー11に固定されている。
【0051】
また、入力側クラッチ保持部20の外周面は、ロックアップクラッチ17の多層板のクラッチプレートを保持できるように外歯201が形成され、一方、入力側クラッチ保持部20の内周面は、その外歯201と共用する形で、内歯202が形成されており、この内歯202が第1のリテーナプレート61の外歯612と噛み合うことができるようになっている。
【0052】
次に、本発明の一実施形態のロックアップ装置の組立手順について説明する。
図8A~
図8Cは本発明の一実施形態の組立手順を示した説明図であり、
図9A、
図9Bは本発明の一実施形態のロックアップ装置の組立状況を示した説明図である。
【0053】
まず、第1のリテーナプレート61を、第1のスプリング保持部611が上方を向くように水平に置き、その上に、コイルスプリング63の内径を嵌合する。
【0054】
次に、第2のリテーナプレート62を、コイルスプリング63の内径に第2のスプリング保持部621が嵌合されるように載置する。
【0055】
更に、コイルスプリング63を組み付け後に、第1のリテーナプレート61及び第2のリテーナプレート62のバーリング部分をかしめることによって、上下を逆にしても脱落しないようになる。
【0056】
このようにしてスプリングパック60の部分組立が完了する。なお、スプリングパック60の組立手順は、これまで述べた手順に限定されず、第1のリテーナプレート61、第2のリテーナプレート62、及び、コイルスプリング63が一体となって容易に分解できない状態となっていればよい。
【0057】
その次に、ロックアップピストン15を略水平に載置し、部分組立したスプリングパック60を第1のリテーナプレート61が下側になる状態で、ロックアップピストン15に上方より組み付ける。
【0058】
その後、スプリングパック60の第1のリテーナプレート61のリベット用の穴614と、ロックアップピストン15のリベット用の穴151との間をリベットにて固定する。
なお、この部分は後述する
図9Aに示されている。これで、スプリングパック60とロックアップピストン15との一体化が完了する。ここまでを
図8Aに示す。
【0059】
一方、カバーハブ23を、軸が鉛直方向で、エンジン側になる部分が上向きになるように略水平に置き、その上にピストンガイド16を組み付ける。
【0060】
更に、ピストンガイド16に、上方から、先に述べたスプリングパック60とロックアップピストン15とが一体化したものを組み付ける。ここでロックアップピストン15には、内周側と外周側にO-リング162を嵌め込むことができるようになっており、ロックアップピストン15とカバーハブ23との間でO-リング162を介してピストンガイド16が挟持される形になるため、軸方向及び直径方向への移動は規制される。ここまでで、ピストン側の組立(ピストン組立)が完了する。ここまでを
図8Bに示す。
【0061】
次に、フロントカバー11との全体組立をおこなう。フロントカバー11を内側部分(トランスミッション側)が上方を向くように略水平に置き、その上に入力側クラッチ保持部20及びロックアップクラッチ17を組み付けておく。これをロックアップクラッチ組立と呼ぶ。
【0062】
最後に、ピストン組立を上下を逆(裏返した状態)にして、上方よりロックアップクラッチ組立に近接させる。
【0063】
この際に、ピストン組立の一部である第1のリテーナプレート61の外周部分の外歯612が、他の結合よりも先に、入力側クラッチ保持部20の内歯202に接するようになる。
【0064】
このようにすると、嵌合(外歯と内歯の噛み合い)の複雑な組付け部分を、他の結合部分より先に、噛み合いを確認しながら組み付けることができ、確実な嵌合が実現できる。ここまでを
図8Cに示す。
【0065】
なお、改めて、嵌合状況を
図9A及び
図9Bを用いて詳細に説明する。
図9Aにおいて、図中Aを付した部分において、第1のリテーナプレート61の外周先端の外歯612と入力側クラッチ保持部20の内歯201とが接しているが、この状態で、図中Bを付した部分においてフロントカバー11とカバーハブ23との結合部は、未だ近接していない。
【0066】
このような他に拘束のない状態で、第1のリテーナプレート61の外歯612と、入力側クラッチ保持部20の内歯202との嵌合を慎重に確実に行う。
【0067】
なお、この嵌合部分は、目視での観察は困難で、従来は確認しづらかったが、本発明においては、嵌合部分がまず最初に接触するために、作業者が組み付ける場合は手の感覚で回らないこと、また、自動のラインで組み付ける場合には所定のトルクを与えても回らないことで、いずれの場合でも、嵌合されたことが確認でき、確実に組み付けができる。
【0068】
また、このような構成であると、嵌合の不十分なことが、容易にかつ確実に検出できるため、組立不具合の発生を防止することができる。
【0069】
嵌合が十分に行われたら、更に、ピストン組立をフロントカバー11の方へ押圧すると、
図9Bに示すようにフロントカバー11とカバーハブ23とも、十分に結合がなされる。
【0070】
次に、本発明の一実施形態のロックアップ装置の動作について説明する。
【0071】
ロックアップピストン15が、油圧によってロックアップクラッチ17の方向に押圧されると、押圧部22がロックアップクラッチ17を連結状態とする。これによって、フロントカバー11からの動力が、入力側クラッチ保持部20、ロックアップクラッチ17、出力側クラッチ保持部21、ドライブプレート18と伝達され、更に、中間部材を介して出力側であるタービンハブ51へと伝達される。
【0072】
この際に、入力側の急激な加速などがあると、ロックアップピストン15と、入力側クラッチ保持部20及びそれと固定されているフロントカバー11との間で、相互回転が生じる恐れがある。
【0073】
そのような事態となった場合でも、ロックアップピストン15と固定結合されているスプリングパック60の第1のリテーナプレート61の外周面の外歯612と、入力側クラッチ保持部20の内周側の内歯202とが、先に述べた組立手順のように、確実に嵌合して(噛み合って)いるため、相互回転を防止することができる。
【0074】
また、ロックアップクラッチ17との連結が解除されると、スプリングパック60に内蔵されたコイルスプリング63の弾性力によりロックアップピストン15が離反され、ロックアップ状態が速やかに解除される。
【0075】
なお、スプリングパック60の第1のリテーナプレート61とロックアップピストン15との固定はリベットにて行われるが、リベット位置が放射方向でコイルスプリング63の位置と近接しているため、ロックアップピストン15のロックアップ動作あるいは解除動作の際に、回転モーメントや曲げ応力の発生を少なくすることができ、安定した動作が可能となる。
【0076】
次に、本発明の別の実施形態のロックアップ装置について説明する。
【0077】
図10は本発明の別の実施形態のロックアップ装置の縦断面図であり、先の実施形態の一部を変更したものであって、先の実施形態と共通する部分は同一の番号で示してあり、詳細な説明は省略する。
【0078】
本実施形態においては、第1のリテーナプレート61は、外周部に曲げ部を有せず、平面状のままである。
【0079】
この状態であっても、図示するように先の実施形態の場合と比べてクラッチ部分においてフロントカバー11とロックアップピストン15の間隔が狭まっており、一方、フロントカバー11とカバーハブ23との結合位置は、先の実施形態と略同一の位置になっているため、第1のリテーナプレート61の外歯612と、入力側クラッチ保持部20の内歯202とが、他の結合より先に嵌合されるため、先の実施形態と同様の効果を奏する。
【0080】
なお、第1のリテーナプレート61を平面状としたままで、第1のリテーナプレート61の外周面の外歯612と、入力側クラッチ保持部20の内周側の内歯202とが、他の結合より先に嵌合されるようにする手段としては、フロントカバー11とロックアップピストン15との間隔を狭める手段だけではなく、フロントカバー11とカバーハブ23との結合位置をずらす手段などが考えられるが、第1のリテーナプレート61の外歯612と入力側クラッチ保持部20の内歯202とが他の結合より先に嵌合される手段であればどのようなものであってもよい。
【0081】
このようにすると、第1のリテーナプレート自体は外周を折り曲げることなく、フロントカバーとカバーハブとの形状・位置を適切に設定することにより、フロントカバーとカバーハブとの嵌合よりも先に、第1のリテーナプレートと入力側クラッチ保持部との嵌合を先行させることができ、スプライン嵌合を確実にした後で、次の組付けの工程に進むことができるため、第1のリテーナプレート61の加工が容易になる上に、追加の部材や機構などを用いることなく、確実な組立が実現できる。
【0082】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。これらはすべて、本技術思想の一部である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
上述したように、本発明は、自動車などの車両のトルクコンバータの性能を向上させるため、広く産業に用いられ、高い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0084】
1 トルクコンバータ
2 ロックアップ装置
11 フロントカバー
15 ロックアップピストン
16 ピストンガイド
17 ロックアップクラッチ
20 入力側クラッチ保持部
21 出力側クラッチ保持部
23 カバーハブ
51 タービンハブ
60 スプリングパック
61 第1のリテーナプレート