IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成エンジニアリング株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社 商船三井の特許一覧

特許7391693回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置
<>
  • 特許-回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置 図1
  • 特許-回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置 図2
  • 特許-回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置 図3
  • 特許-回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置 図4
  • 特許-回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置 図5
  • 特許-回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置 図6
  • 特許-回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置 図7
  • 特許-回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】回転設備の回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20231128BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20231128BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20231128BHJP
   G01M 15/12 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01N19/00 B
G01H17/00 A
G01M15/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020018876
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021124427
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000116736
【氏名又は名称】旭化成エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000205535
【氏名又は名称】株式会社 商船三井
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩太
(72)【発明者】
【氏名】迫 孝司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 雅
(72)【発明者】
【氏名】藤井 仁
(72)【発明者】
【氏名】鳴瀧 勝久
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健
(72)【発明者】
【氏名】小見 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸久
(72)【発明者】
【氏名】宋 玉中
(72)【発明者】
【氏名】山田 智章
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-150316(JP,A)
【文献】実開昭62-168432(JP,U)
【文献】特開2008-157921(JP,A)
【文献】特開2017-214862(JP,A)
【文献】特開2018-159623(JP,A)
【文献】特開2002-131188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01N 19/00
G01H 17/00
G01M 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転設備に含まれる回転軸の接触試験装置であって、
前記回転軸の周囲に配置され、前記回転軸が摺動する内面を有するメタルケーシングと、
該メタルケーシングに設けられ、前記回転軸の周面と交差する交差軸を有するねじ孔と、
該ねじ孔に螺合し、回転することによって前記回転軸に接近し、または、該回転軸から離反するねじ軸と、
該ねじ軸の先端に取り付けられ、該ねじ軸の回転量に応じて前記回転軸に接近し該回転軸の表面に接触する接触用金属部と、
該接触用金属部が前記回転軸の表面に接触したときの振動に関する情報を計測するセンサと、
を備える、回転軸の接触試験装置。
【請求項2】
前記接触用金属部は、前記回転軸の表面よりも硬度の低い材料により構成されている、請求項1に記載の接触試験装置。
【請求項3】
前記ねじ孔とねじ軸のねじ部は並目ねじである、請求項2に記載の接触試験装置。
【請求項4】
前記ねじ孔と前記ねじ軸との間に所定の稠度を有するグリースが塗布されている、請求項3に記載の接触試験装置。
【請求項5】
前記接触用金属部は、前記ねじ軸の先端への取付位置を規定するフランジ付きの形状である、請求項1から4のいずれか一項に記載の接触試験装置。
【請求項6】
前記接触用金属部は、その外径が、前記ねじ軸の外径よりも小さい、請求項5に記載の接触試験装置。
【請求項7】
前記接触用金属部が前記ねじ軸の先端から抜けるのを防止する抜け防止部材が設けられている、請求項6に記載の接触試験装置。
【請求項8】
前記ねじ軸にロックナットが取り付けられている、請求項7に記載の接触試験装置。
【請求項9】
前記接触用金属部に温度センサが設けられている、請求項1から8のいずれか一項に記載の接触試験装置。
【請求項10】
前記接触用金属部と前記ねじ軸に、前記温度センサ用の設置孔が形成されている、請求項9に記載の接触試験装置。
【請求項11】
前記ねじ軸を回転させる回転部材をさらに備える、請求項7または10に記載の接触試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ディーゼルエンジンのような回転設備に含まれる回転軸の接触異常状態を再現して試験する接触試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
すべり軸受は、タービンや送風機をはじめとする大型の重要回転設備や、圧縮機をはじめとする高速の回転設備や重要設備などの一般産業用途の他に、船舶や発電用のディーゼルエンジンの軸受にも用いられている。すべり軸受は油膜で囲まれて非接触で回転するため通常は損傷しないが、施工不良、羽根のアンバランス、カップリングのミスアライメント、オイルウィップなどに起因する異常振動により回転軸とすべり軸受が接触し(「ラビング」とも呼ばれる)、損傷する。該すべり軸受に何らかの異常が生じると、常時とは異なる振動や音が発生し、このような状態で駆動を継続すると場合によっては破損に至ることがある。また、ラビング異常が進行すると焼き付きが発生し、設備停止に至ることもある。
【0003】
このような背景の下、回転設備、例えばディーゼル機関における回転軸とすべり軸受(「主メタル」と呼ばれることがある)における接触状態を、振動加速度を使って計測できるか否か、ディーゼル機関の実機にて確かめるための試験が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-214862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、接触異常を再現してその時の振動の変化を計測する試験を、例えばディーゼル機関のような実機にて実施する場合、爆発燃焼による動荷重が大きいといったことから、接触によって回転軸(主軸)や周辺の部材に損傷が生じる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、実機を用いることなく、回転設備に含まれる回転軸における接触異常状態を再現して試験する接触試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、回転設備に含まれる回転軸(回転体)の接触試験装置であって、
回転軸の周囲に配置され、回転軸が摺動する内面を有するメタルケーシングと、
該メタルケーシングに設けられ、回転軸の周面と交差する交差軸を有するねじ孔と、
該ねじ孔に螺合し、回転することによって回転軸に接近し、または、該回転軸から離反するねじ軸と、
該ねじ軸の先端に取り付けられ、該ねじ軸の回転量に応じて回転軸に接近し該回転軸の表面に接触する接触用金属部と、
該接触用金属部が回転軸の表面に接触したときの振動に関する情報を計測するセンサと、
を備える、回転軸の接触試験装置である。
【0008】
上記のごとき態様の接触試験装置によれば、実機を用いずとも、回転設備に含まれる回転軸における接触異常状態を再現して試験することができる。
【0009】
上記のごとき態様の接触試験装置において、接触用金属部は、回転軸の表面よりも硬度の低い材料により構成されていてもよい。
【0010】
上記のごとき態様の接触試験装置において、ねじ孔とねじ軸のねじ部は並目ねじであってもよい。
【0011】
上記のごとき態様の接触試験装置において、ねじ孔とねじ軸との間に所定の稠度を有するグリースが塗布されていてもよい。
【0012】
上記のごとき態様の接触試験装置において、接触用金属部は、ねじ軸の先端への取付位置を規定するフランジ付きの形状であってもよい。
【0013】
上記のごとき態様の接触試験装置において、接触用金属部は、その外径が、ねじ軸の外径よりも小さいものであってもよい。
【0014】
上記のごとき態様の接触試験装置に、接触用金属部がねじ軸の先端から抜けるのを防止する抜け防止部材が設けられていてもよい。
【0015】
上記のごとき態様の接触試験装置において、ねじ軸にロックナットが取り付けられていてもよい。
【0016】
上記のごとき態様の接触試験装置において、接触用金属部の温度を検出する温度センサが設けられていてもよい。
【0017】
上記のごとき態様の接触試験装置において、接触用金属部とねじ軸に、温度センサ用の設置孔が形成されていてもよい。
【0018】
上記のごとき態様の接触試験装置は、ねじ軸を回転させる回転部材をさらに備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態におけるディーゼルエンジンの接触試験装置の構成を示す図である。
図2】接触試験装置の接触用チップとその周辺を拡大して示す図である。
図3】接触用チップとその周辺をさらに拡大して示す図である。
図4】接触用チップとねじ軸の縦断面図である。
図5】本発明の実施例における計測状況について説明する図である。
図6図5に示したセンサAで捉えた加速度スペクトルを示すグラフである。
図7】グリースを塗布した状態で接触異常試験をしたときのねじ長さLと振動の伝搬率との関係を示すグラフである。
図8】潤滑油を塗布した状態で接触異常試験をしたときのねじ長さLと振動の伝搬率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0021】
本発明にかかる接触試験装置1は、回転設備に含まれる回転軸(回転体)の接触試験を実施するための装置である。以下では、回転設備がディーゼルエンジンである場合を想定し、該ディーゼルエンジンにおける回転軸200とその軸受であるメタルケーシング300との接触を模擬して試験する装置について説明する。本実施形態の接触試験装置1は、ねじ孔310、ねじ軸20、接触用チップ30、振動センサ40,42、抜け防止ピン50、ロックナット60、熱電対70、ユニバーサルジョイント80、回転シャフト82、モニタリング装置500などを備える(図1等参照)。
【0022】
回転設備の一例たるディーゼルエンジン(図1等において回転軸、ケーシング等のみ示す)(を模擬する実験装置)は、ディーゼルケーシング400および回転軸200を有する。本実施形態のディーゼルエンジンにおいて、ディーゼルケーシング400の内部には、メタルケーシング300が設けられている。ディーゼルケーシング400は、回転軸200の表面の上面(周面のうち上側略半分の面)を受ける上(第1)メタルケーシングを構成する。ディーゼルケーシング400の内面は、その横断面が円弧状であり、回転中心200Aを中心軸として回転する回転軸の周面が摺動するように形成されている。また、メタルケーシング300は、回転軸200の下面を受ける下(第2)メタルケーシング(主メタル、メタルキャップなどと称される場合もある)である。メタルケーシング300の内面はその横断面が円弧状であり、回転中心200Aを中心軸として回転する回転軸200の周面が摺動するように形成されている。本開示では、第1メタルケーシング(ディーゼルケーシング400)の内面の少なくとも一部と、第2メタルケーシング(メタルケーシング300)の内面の少なくとも一部とによって、回転軸200の摺動面が形成されている。ここで、図1に示すように、第2メタルケーシング(メタルケーシング300)の4つの側面のうち、上面、右側面、左側面の3つの側面が、第1メタルケーシング(ディーゼルケーシング400)と接触している。すなわち、本実施形態では、第1メタルケーシングと第2メタルケーシングとによって、回転軸200を保持するケーシングが構成されている。このように、一方のメタルケーシングが他方のメタルケーシングの少なくとも3つの面と面接触することにより支持することで一方のメタルケーシング(ディーゼルケーシング400)が他方のメタルケーシング(メタルケーシング300)を、安定して保持することができる。その結果、回転軸200が回転して振動等が発生した場合でも、ケーシングの位置ずれが抑制され、これによって当該回転軸200を安定的に保持することできる。以上のように、本開示では、接触試験装置1は、ディーゼルケーシング400及びメタルケーシング300により構成されるケーシング(軸受)と、ケーシングの内部で、回転中心200Aを中心軸として回転する回転軸(回転体)200と、を有するすべり軸受を備えている。
【0023】
ねじ孔310は、ねじ軸20を取り付けることができるようにメタルケーシング300に設けられている(図1図2等参照)。ねじ軸20は、外周面の少なくとも一部におねじが切られたねじ部を有する回転体である。ねじ孔310の内周面には、ねじ軸20のねじ部(おねじ)が螺合するねじ部(めねじ)が切られている。本実施形態ではこれらねじ部を並目ねじとしているがこれは一例にすぎず、よりピッチの細かな細目ねじとしてももちろん構わない。ねじ孔310は、その中心軸310A(の延長線)が、回転体200と交差するように構成されている。すなわち、ねじ孔310は、中心軸310Aに沿ってねじ軸20を回転させることで、ねじ軸20と回転体200とが接触する位置及び角度で構成されている。ここで、ねじ孔310は、その中心軸310Aが回転軸200の回転中心200Aと交差するように設けられていることが好ましい。一例として、本実施形態のねじ孔310はその中心軸310Aが鉛直となり、該中心軸310Aの延長線が、水平に配置される回転軸200の回転中心200Aと垂直に交差する交差軸となるように設けられている(図2等参照)。
【0024】
ねじ軸20は、ねじ孔310に螺合し、回転することによって回転軸200に接近し、または、該回転軸200から離反するように設けられる(図2等参照)。ねじ軸20の一端であって、回転体200と接触する側の先端(上端)には取付凹部20Aが形成されている。取付凹部20Aは、ねじ軸20の上端から所定の深さで形成された座ぐりであって、当該取付凹部20Aには、後述する接触用チップ30が取り付けられる。また、ねじ軸20の一端であって、上端とは反対側の基端(下端)にはユニバーサルジョイント80が接続される(図1等参照)。
【0025】
ねじ孔310とねじ軸20の間には、潤滑剤が塗布されている。潤滑剤としては、所定の稠度(例えば、稠度265~295(番手2:中))を有するグリース(潤滑油)が塗布されていることが好ましい。グリースは、ねじ軸20からねじ孔310へと伝わる振動伝搬の効率を向上させうる。グリース以外にも、適度な稠度を有する流動体たとえばグリセリンなどを用いることができる。
【0026】
接触用チップ30は、回転軸200の表面に接触する金属片であり、ねじ軸20の先端(回転軸200寄りの端部)に取り付けられている。ねじ孔310の中でねじ軸20を適宜回転させることで、該接触用チップ30を回転軸200の表面に接近させ、あるいは回転軸200の表面から離反させることができる。接触用チップ30は、回転軸200の表面よりも硬度の低い(例えば、ビッカース硬さが15~30)材料(例えばホワイトメタル)によって構成されている。
【0027】
接触用チップ30の外周形状は好適には円形である。本実施形態では、取付凹部20Aの内径より大きな外径のフランジ部30Fを有する段付き形状の接触用チップ30を採用している(図2等参照)。ねじ軸20の先端の取付凹部20Aにこの接触用チップ30を差し込んで取り付ける際、フランジ部30Fがストッパーとして機能するため、該接触用チップ30の取付位置が所定の位置に規定される。また、回転軸200の表面に接触した際、接触用チップ30がめり込むことをフランジ部30Fが抑止する(図2等参照)。
【0028】
また、本実施形態における接触用チップ30は、フランジ部30Fの外径D30がねじ軸20の外径D20よりも小さい形状であり(図2図4等参照)、当該フランジ部30Fの径方向外側には、ねじ軸20の外径との差分に相当する環状のスペースが形成される。要は、接触用チップ30は、ねじ軸20の外径よりも小さく、当該接触用チップ30の周囲にスペースが形成される。試験の際、接触用チップ30が回転軸200の表面に接触して潰れ変形することがあるが、このようにスペースが形成されている場合、変形した当該接触用チップ30がねじ軸20の先端から取り外し難いという事態が生じるのを回避することができる。すなわち、例えばホワイトメタルからなる接触用チップ30はディーゼルエンジンで発生する過大な動荷重の影響で塑性変形し、試験後に抜けなくなることがあるので、そうした場合、上記のごときスペースを活用することで対応することが可能である。なお、このようなスペースは、あらかじめフランジ30Fの周囲を削っておくことで形成してもよい。
【0029】
また、本実施形態の接触試験装置1においては、メタルケーシング300のねじ孔310の回転軸200側の開口部に、接触用チップ30をメタルケーシング300の内周面よりも内側(中心寄り)に突出させるための環状の凹部(座ぐり)312が設けられている(図3等参照)。
【0030】
振動センサ40、42は、接触用チップ30が回転軸200の表面に接触したときの振動に関する情報を計測するセンサである。これらのうち、一方の振動センサ40は、ディーゼルエンジンの内部であって回転軸200に比較的近接した位置、例えばメタルケーシング300の底面に設けられている(図1参照)。また、もう一方の振動センサ42は、ディーゼルエンジンの外部、例えばディーゼルケーシング400の側面に設けられている。なお、振動センサ40,42は、メタルケーシング300あるいはディーゼルケーシング400に形成された補強リブ(図示省略)に取り付けられていてもよい。強度を確保するべくある程度の剛性を備えた構造の補強リブは、振動を伝えやすい部材でもある。補強リブは、例えば、回転軸200から放射状に延びるように形成される。
【0031】
抜け防止ピン50は、接触用チップ30がねじ軸20の先端から抜けるのを防止する部材の一例として設けられている。ねじ軸20と接触用チップ30には、それぞれ、接触用チップ30がねじ軸20の先端の所定位置に規定された状態で直線状に連なるピン設置孔20P,30Pが設けられている(図4等参照)。
【0032】
ロックナット60は、ねじ軸20の下端付近に設けられている(図1等参照)。ねじ軸20の周囲で回転させることにより軸方向位置を変えることができる。ロックナット60の外径はねじ孔310よりも大きい。ロックナット60にて締め付けることで、ねじ軸20のねじ山ねじが図5中下方(ロックナット60があるが側)に押さえ付けられる。ねじ山が下方に押さえ付けられた状態にすることで、実機において荷重が掛かった状態を再現することが可能となっている。このような状態でないと、加振した振動がねじ軸20からメタルケーシング300へ伝搬しづらい場合がある。
【0033】
熱電対70は、接触用チップ30の温度を計測するために設けられている。一般に、ディーゼルエンジン20の内部は視認することが難しく、接触用チップ30と回転軸200との接触状態を把握しづらいが、熱電対70などの温度センサを用いて接触用チップ30の温度を計測することで、視認せずとも回転軸200との接触状態を把握することが可能となる。接触用チップ30とねじ軸20には、それぞれ、熱電対70を設置するためのセンサ設置孔30H,20Hが設けられている。センサ設置孔30H,20Hはねじ軸20の中心軸に沿うように設けられていることが好ましい(図4等参照)。具体的な一例として、本実施形態では、接触用チップ30の表面(回転軸200と接触する面)から0.5mmの位置に熱電対70を設置する。なお、詳しい図示はしていないが、抜け防止ピン50にもこれらセンサ設置孔30H,20Hと連通するように透孔が設けられている。
【0034】
ユニバーサルジョイント80と回転シャフト82は、接触試験装置1の外部からねじ軸20を回転させることを可能としている。ユニバーサルジョイント80はねじ軸20と回転シャフト82との間に設けられており、回転シャフト82の動き(回転)をねじ軸20に伝達する(図1参照)。回転シャフト82を回転させることで、接触用チップ30を上昇させて回転軸200に近づけ、あるいは下降させて回転軸200から遠ざけることができる。
【0035】
接触式変位計90は、回転シャフト82を回転させて接触用チップ30を上昇させたときのねじ軸20の上昇量を把握するためのセンサである。本実施形態では、ロックナット60の裏面(底面)に設けた接触式変位計90を上昇量計測センサとして利用している(図1参照)。接触式の変位計の代わりに渦電流式の非接触変位計を用いてもよく、要は、ねじ軸20の上昇(下降)量を計測する変位計であれば、接触式/非接触式を問わない。
【0036】
モニタリング装置500は、上述の振動センサ40、42、熱電対70、接触式変位計90からの送信データに基づき回転軸200の接触異常診断を行い、尚かつ異常が発生していると判断した際にはその結果を通報装置(図示省略)に送信する装置である。通報装置は、例えば光を点滅させたり、警報音を鳴動させたりすることによって外部に通報するものでもよいし、モニタリング装置500の画面を利用して関係者らに通報するもの等であってもよい。
【0037】
上記のごとく構成された本実施形態の接触試験装置1は、以下に説明する種々の特徴を有する。
【0038】
第1に、回転軸200に損傷を発生させないような接触状態を再現することができる。これは、特に、回転軸200の周面に接触する接触用チップ30に、当該回転軸200への摺動痕を発生させにくいホワイトメタルのような柔らかい金属を使用するによる。また、本実施形態の接触試験装置1においては、上記のごときユニバーサルジョイント80、回転シャフト82を用いて接触用チップ30を回転軸200の表面に徐々に接触させることで、接触状態を確認しながら、軽微な接触状態から再現させることができる。
【0039】
第2に、振動の伝搬効率を考慮して(別言すれば、できるだけ減衰量を抑えて)試験することができる。すなわち、接触用チップ30の小型化が図られるとその断面積が小さくなる結果、振動加速度の伝搬量が小さくなることが一般的であり、また、伝搬振動の減衰に与えるねじ軸20とねじ孔310との間の隙間の影響が対称的に大きくなる。この点、本実施形態の接触試験装置1においては、これらねじ軸20とねじ孔310との間の隙間にグリースを塗布して充填しておくことにより、ねじ軸20からねじ孔310へと伝わる振動伝搬の効率を向上させ、減衰量を抑えている。
【0040】
第3に、動荷重による塑性変形を考慮した構造が実現されている。すなわち、ディーゼルエンジンで発生する過大な動荷重の影響で、ホワイトメタルなどからなる接触用チップ30が塑性変形してねじ軸20の先端から抜けなくなる場合があることを考慮し、フランジ部30Fを適宜小径化し、あるいはねじ孔310に環状の凹部(座ぐり)312を設けることで、このような場合にも対応しやすい構造が実現されている。
【0041】
第4に、接触状態が定量的に把握できる構造が実現されている。すなわち、本実施形態の接触試験装置1においては、熱電対70により計測した接触用チップ30の温度、および/または接触式変位計90により計測した接触用チップ30の上昇量を利用して、接触用チップ30と回転軸200との接触状態を視認せずとも把握することを可能としており、いわば、これらの接触状態を定量的に把握することができる。
【0042】
第5に、接触用チップ30が多大な動荷重を受けるため、接触用チップ30がユニバーサルジョイント軸から抜けるおそれがある(回転している回転軸200と接触する際、回転軸200と摺動する接触チップ30には大きな力が作用するので、それにより接触用チップ30が変形してねじ軸20との間に隙間が生じ、抜ける可能性がある)のに対し、本実施形態の接触試験装置1では、接触用チップ30をねじ軸20の取付凹部20Aに圧入した後、抜け防止ピン50で固定することにより、抜けが生じるのを十分に回避することができる。
【0043】
上記のごとく構成された本実施形態の接触試験装置1が奏しうる作用効果としては以下に説明するものを挙げることができる。
・回転軸200や周辺の機器の損傷が発生しない状態で試験ができる。押付け距離や表面温度による油膜形成状態の定量的なデータが取れるので、振動計測データとの相関が見やすい。すなわち、接触式変位計90でねじ軸20の移動量を検出すること、別言すれば接触用チップ30の内部に装着された熱電対70により温度上昇値を検出することがわかり、これによって、回転軸200と接触用チップ30とがどの程度接触しているか否かがわかり、振動値の変化との相関が評価できる。また、接触状況と振動データとの相関が評価しやすい。つまり、接触したときやそれ以降の接触式変位計90、熱電対70の値と振動の変化量との相関が評価しやすい。
・接触用チップ30を交換するだけで、何度も試験を再現することができる。
・振動試験の対象機器(ディーゼルエンジンなど)を故障させず試験を行うことができるので、他の運転や試験スケジュールに影響を及ぼすことなく試験ができる。
【0044】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の実施形態で示したディーゼルエンジンは、その回転軸の接触異常診断をする場合の対象たる回転設備の一例にすぎず、このほか、タービン、風力発電器などといった各種機器や設備も適用の対象に含まれることはいうまでもない。
【実施例1】
【0045】
以下、実施例として説明する。
【0046】
ここでは、メタルケーシング300のねじ孔310とねじ軸20との間に(A)グリース(高温用モリブデン配合使用温度範囲:-15℃~150℃、ちょう度:265~295(番手2:中)を塗布した場合と(B)潤滑油(ENEOS ファインモーターオイル5W-40、使用温度範囲:零下30度~、100℃における粘度4)を塗布した場合とで、振動伝搬率にどの程度の差が生じるか、ねじ軸20のねじ長さLを変えて試験をした(図5参照)。ねじ軸20には図示しない加振器(電動スクレイパー)から周波数約13kHzの加振信号を入力した。ロックナット60の締め付けトルクは13Nmとした。ねじ軸20の下端に設けた振動センサを「センサA」、メタルケーシング300の底面のうちロックナット60の近傍位置に設けた振動センサを「センサB」とし、以下の数式によって伝導率(振動伝達率)を算出して比較検討した。なお、センサAで捉えた加速度スペクトルは図6のグラフに示すとおりであった。
【数1】
【0047】
試験の結果は図7図8に示すとおりとなった。グリース塗布状態においては、ねじ長さL=140mmのときの伝搬率が高いことがわかる(図7参照)。また、ねじ軸20が並目であるほうが、細目であるときよりも伝搬率が高めであることがわかる。
【0048】
比較例として行った潤滑油塗布状態においては(図8参照)、グリース塗布状態(図7)よりも伝搬率が低いことがわかる(図7図8参照)。また、潤滑油塗布状態においては、ねじ長さ伝搬率との間に相関は見られなかった。これは、潤滑油が下方に流れることに起因していると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、ディーゼルエンジンにおけるすべり軸受の診断に適用して好適である。
【符号の説明】
【0050】
1…接触試験装置、20…ねじ軸、20A…取付凹部、20H…センサ設置孔、20P…ピン設置孔、30…接触用チップ(接触用金属部)、30F…フランジ部、30H…センサ設置孔、30P…ピン設置孔、40…振動センサ(センサ)、42…振動センサ(センサ)、50…抜け防止ピン(抜け防止部材)、60…ロックナット、70…熱電対(温度センサ)、80…ユニバーサルジョイント、82…回転シャフト(回転部材)、90…接触式変位計、100…ディーゼルエンジン(回転設備)、200…回転軸(回転体)、200A…(回転軸の)回転中心、300…メタルケーシング、310…ねじ孔、310A…中心軸(交差軸)、312…環状の凹部(座ぐり)、400…ディーゼルケーシング、500…コンピュータ(制御装置)、D20…ねじ軸の外径、D30…接触用チップのフランジ部の外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8