(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】食器洗浄機
(51)【国際特許分類】
A47L 15/24 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
A47L15/24
(21)【出願番号】P 2020024360
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592193535
【氏名又は名称】タニコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122563
【氏名又は名称】越柴 絵里
(72)【発明者】
【氏名】河邑 貴広
(72)【発明者】
【氏名】市川 惠
(72)【発明者】
【氏名】西 教安
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 裕樹
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-254023(JP,A)
【文献】実開平02-063776(JP,U)
【文献】特開2013-023342(JP,A)
【文献】特開2011-050669(JP,A)
【文献】特開平08-324784(JP,A)
【文献】実開平06-061838(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 15/00~21/06
B65G 25/10
B65G 47/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予洗い手段及び本洗い手段を備えた食器洗浄機であって、
被洗浄物を収容する収容器と、
前記収容器を、予洗い槽がある予洗い手段を通って、前記予洗い槽とは分離された本洗い槽がある本洗い手段に自動で搬送するため
、前記収容器が前記予洗い槽又は前記本洗い槽の位置に到達するまでの間中、水平方向にピストン運動するシリンダ機構の伸縮動作に沿った間欠的な進行が行われるよう制御された収容器搬送手段と、
前記シリンダ機構に連結された支持部材と連動する可動部材であって、前記シリンダ機構の伸縮動作に合わせて前進と後退を繰り返す前記可動部材と、
前記可動部材に配置される係合部材であって、前記シリンダ機構のピストン運動の一方向で前記収容器と係合状態を生じさせ、前記一方向と反対方向で前記収容器と非係合状態を生じさせる前記係合部材と、
前記支持部材と前記可動部材との間に置かれる位置調整部材であって、前記位置調整部材に取り付ける前記可動部材の位置を調整することで、前記支持部材に対する前記係合部材の位置を可変にする前記位置調整部材と、
を備え、
前記係合状態及び前記非係合状態は前記係合部材の回転動作によって形成され、前記係合部材の一部が前記収容器の底面又は前記可動部材の底面に接触することで回転規制が働き、回転阻止部材を要することなく回り止めが実現される形状の前記係合部材である、ことを特徴とする、食器洗浄機。
【請求項2】
前記位置調整部材は前記可動部材の取り付け位置を変更するための取り付け穴を有し、前記取り付け穴の選択に応じて前記係合部材の位置が調整される、請求項1に記載の食器洗浄機。
【請求項3】
前記収容器が前記予洗い槽又は前記本洗い槽に向かって前進するとき、前記係合部材の一部が前記可動部材の底面に接触することで回転規制が働き、前記収容器が前記予洗い槽又は前記本洗い槽から後退するとき、前記係合部材の一部が前記収容器の底面に接触することで回転規制が働く、請求項1又は2に記載の食器洗浄機。
【請求項4】
前記係合部材への負荷力がない状況で、前記係合状態を生じるよう前記係合部材の重心が偏って設定されている、請求項1又は2に記載の食器洗浄機。
【請求項5】
前記係合状態を生じるときは、前記係合部材の一部が前記収容器の底面から突出して前記収容器に接触し、同時に前記係合部材の他の一部が前記収容器の底面で面接触するように前記係合部材の重心の偏り及び形状が決定されている、請求項4に記載の食器洗浄機。
【請求項6】
前記シリンダ機構の可動範囲は、可動方向に関する前記収容器及び前記予洗い手段の幅よりも小さい、請求項
5に記載の食器洗浄機。
【請求項7】
前記係合部材はバネ機構を含み、バネの力を用いて前記収容器との前記係合状態又は前記非係合状態を切り替える、請求項
1又は
2に記載の食器洗浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予洗い手段を備えた食器洗浄機に関し、特に、予洗い手段で洗浄された被洗浄物を、本洗い槽のある洗浄庫内へ間欠的に移動させる搬送手段を備えた食器洗浄機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食器洗浄機には、予洗いを行った後に本洗いを行うもの、又は、本洗いのみを行うものがある。前者は、被洗浄物に付着する残滓や調味料を大まかに洗い流すことから、通常は、予洗いを行った後に本洗いを行う予洗い手段がある食器洗浄機の方が洗浄効果の点では優れている。この予洗い手段付きの食器洗浄機は、予洗い用の予洗い槽を、本洗い用の本洗い槽と共通にするか或いは各々の洗い槽にするかの2つのタイプがある。
【0003】
予洗い槽と本洗い槽を共通にした洗浄槽にする場合、食器洗浄機の小型化を図れるが、予洗いにおいて洗い流された残滓が槽下部の残滓受け部に貯まり、本洗いでの洗浄水及びすすぎ水の流れを阻害してしまう。残滓が大きいと、残滓受け部のフィルターに目詰まりを生じてしまうのである。
【0004】
一方、予洗い槽が本洗い槽と異なる構成の場合、予洗い槽で大きな残滓が除去されていることから、本洗い槽の残滓受け部フィルターが極端に目詰まる状態を回避できるものの、それぞれ独立の洗い槽を備える必要がある。その結果、食器洗浄機がどうしても大型になってしまう傾向がある。別個の洗い槽の例として、例えば下記特許文献1の食器洗浄機や特許文献2(第3の実施形態)に記載の食器洗浄機がある。
【0005】
ところで、予洗い槽と本洗い槽が独立して組み込まれた既存の食器洗浄機は、予洗い槽での予洗いが終了した被洗浄物を、ユーザ自身が本洗い槽内に移動させる必要がある。例えば、特許文献1の場合、洗浄機本体部の前段に設けられたシンク槽22で予洗いが行われた後、ユーザは被洗浄物を収容したラック4(つまり、収容器)を洗浄室2内へセットする。引用文献2の段落[0081]や
図8及び
図9は、予洗い槽31で予洗いが終了すると、ユーザが被洗浄物を洗浄槽10(つまり、本洗い槽)へ移すことを記載する。
【0006】
また、下記引用文献3に記載の食器洗い機は、前洗い槽部3(つまり、予洗い槽)と本洗い槽部4の間にガイド13を設け、被洗浄物を収容したラック12がガイド13上を移動する構成である。しかし、ラックの本洗い槽部への移動は、ユーザ自身がラックを送りこんでいることに変わりはない。なお、下記引用文献4のように、アーム型ロボットが洗浄用ラック800(つまり、収容器)を移動する食器洗浄システムもあるが、大がかりな構成であって本願発明と根本的に相違することは明白である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-279356号公報
【文献】特開2018-183359号公報
【文献】実開昭51-149164号公報
【文献】特願2018-534391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
家庭用の食器洗浄機であれば、被洗浄物の数もさほど多くなく、洗浄回数も少ないことから、ユーザが被洗浄物を予洗い槽から本洗い槽に移動させることは、特に問題とならないであろう。しかしながら、例えば、学校給食や来店者が多いレストランなどの業務用の食器洗浄機の場合は、膨大な量の被洗浄物を処理しなければならず、本洗い槽への移動は動力を利用することが要望されている。しかも、洗浄後の被洗浄物には残滓が付着していない清潔な状態でいるという洗浄効率が求められていることは勿論のこと、動力機構を含む食器洗浄機全体の大きさ、つまり洗浄手段のために必要となる設置面積をなるべく増やさないというコンパクト化が課題となっていた。なお、業務用の食器洗浄機では、大量の被洗浄物やラックをベルトコンベア上に載せ、被洗浄物やラックの洗い槽への移動を自動で行うものもあるが、やはり大がかりな構成になってしまうことは避けられない。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、洗浄効率が良く且つ予洗い槽から本洗い槽への移動を自動で行う小型の食器洗浄機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る予洗い手段及び本洗い手段を備えた食器洗浄機は、被洗浄物を収容する収容器と、前記収容器を、予洗い槽がある予洗い手段を通って、前記予洗い槽とは分離された本洗い槽がある本洗い手段に自動で搬送するための収容器搬送手段とを備え、前記本洗い手段は前記収容器の停止状態で洗浄及びすすぎを実行することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る食器洗浄機は、前記収容器搬送手段が、水平方向にピストン運動するシリンダ機構を制御することによって、前記収容器を間欠的に前記予洗い手段及び前記本洗い手段に搬送することを特徴とする。また、前記シリンダ機構の可動範囲は、可動方向に関する前記収容器及び前記予洗い手段の幅よりも小さい。また、本発明に係る食器洗浄機は、前記シリンダ機構に結合した1又は2以上の係合部材を更に備え、前記係合部材は、前記収容器搬送手段による前記シリンダ機構のピストン運動の一方向で前記収容器と係合状態を生じさせ、前記一方向と反対方向で前記収容器と非係合状態を生じさせる。
【0012】
さらに、前記係合状態及び前記非係合状態は、前記係合部材の回転動作によって形成され、前記係合部材への負荷力がない状況で、前記係合状態を生じるよう前記係合部材の重心が設定されている。さらにまた、前記係合部材はバネ機構を含み、バネの力を用いて前記収容器との前記係合状態又は前記非係合状態を切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の食器洗浄機は、予洗い槽と本洗い槽が別個であるため、予洗い槽の残滓受け部に残った残滓や調味料などが本洗い工程で循環する洗浄液に混ざり合うことはない。このため、本洗い工程の洗浄液の汚れ度を抑えることができ、食器洗浄機の洗浄効果を向上させることが可能である。本洗い工程に搬入された被洗浄物には大きな食べ残し食材が付着されていないので、本洗い槽の残滓受け部フィルターに目詰まりが生じなく、スムーズな流路の確保も可能である。
【0014】
また、本発明の食器洗浄機は、予洗い槽から本洗い槽への被洗浄物を収容するラックの搬入を水平方向の動力を用いて行う構成である。特に、ラックを搬送する駆動部がピストン運動する機構であるため、ラックの幅に相当する長さの駆動部にしなくてもラックを本洗い槽へ搬入することができる。また、ラックの幅よりも狭い予洗い槽にすることも可能である。
つまり、ピストン運動による駆動機構により、小さな予洗い手段を実現でき、本発明の食器洗浄機全体の小型化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態である食器洗浄機全体の概略を示した全体構成図である。
【
図2】食器洗浄機に搬入されるラック、及び洗浄中のラックの状態を示す図である。
【
図3】予洗い槽におけるシリンダ伸延前及び伸延後の可動ユニット位置を示した図である。
【
図4】引っ掛け爪とラックの係合状態を説明するための図である。
【
図6】引っ掛け爪が立ち上がっている状態の可動ユニットがラック格子に係合した様子を示した図である。
【
図8】ラックと係合した引っ掛け爪の回転動作を説明するための図である。
【
図9】バネ機構を用いた引っ掛け爪の一例を示す図である。
【
図10】バネ機構を用いた引っ掛け爪の他の例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態である食器洗浄機100の概略図である。食器洗浄機100の内部構造は、予洗い槽がある予洗部1及び本洗い槽がある本洗部2に区分けされ、それぞれが設置台5に積置される。本実施形態の食器洗浄機100の場合、予洗部1及び本洗部2が接触し、接触面7の開口部を、被洗浄物(以下、「食器」と称する。)を収容した収容器4(以下、「ラック4」と称する。)が通過する。なお、他の実施形態では、予洗部1及び本洗部2を接触させずに離間させる構成でもよいが、離間距離が小さいほど食器洗浄機100の小型化を図れる点で有利なことは言うまでもない。
【0017】
本実施形態の食器洗浄機100は、本洗部2の上方から、食器洗浄用の水又は湯を噴射するための多数の孔を有するノズル8、及びすすぎ用の水又は湯を噴射するための多数の孔を有するノズル16が配置される。洗浄用のノズル8及びすすぎ用のノズル16は本洗部2内で回転し、食器に満遍なく洗浄水又はすすぎ水を吹き付ける。予洗部1には、水又は温湯が複数の箇所から落下させる水管9が配設されている。水管9は、一本のまっすぐな管形状にかぎらず曲部を含む任意の形状でもよい。ノズル8は給水管10および循環管(不図示)に接続される。循環管は、食器洗浄機100内で一度使用した水又は湯をポンプ(不図示)によって循環させて再度噴射されるよう、本洗い槽12とノズル8との間を繋ぐための部材である。本実施形態では、すすぎ用のノズル16は給水管17に接続される。なお、噴射されたすすぎ水は洗浄水タンク(不図示)に入れられ、溢れた水は排出される。
【0018】
なお、本実施形態では、貯水タンク(不図示)内の洗浄用の水又は湯を使用する構成であるが、他の実施形態では貯水タンクを用いず、給水管10が水道管と直結する構成としてもよい。ノズル8,16や水管9は必ずしも上方に配置する必要はなく、側面又は底面から噴射されるよう配置されることもあるし、2以上を使用してもよい。さらに、2以上のノズルや水管にする場合、上方と底面、或いは上方と側面などの異なる側面から噴射可能にする配置であってもよい。なお、予洗部1は、水管9に代わり、ノズル8,16のような回転ノズル式洗浄であってもよい。
【0019】
ノズル8,16及び水管9から噴射された洗浄水及びすすぎ水は、設置台5の下方にある洗い槽11、12にそれぞれ流れ込む。予洗い槽11及び本洗い槽12には各々の残滓受け部がある。食器から取り除かれた残滓は、残滓受け部に設けたフィルターに集まり、洗浄処理後に廃棄される。なお、予洗い槽11と本洗い槽12が完全に独立していることを必ずしも要求しない。例えば、洗い槽の形状が1つであるが、洗い槽内に隆起した仕切壁を設けて実質的には2つの槽を形成し、片方の槽の汚水や残滓が他方の槽へ流れ込まない構成にしてもよい。
【0020】
食器洗浄機100におけるラック4の動きを示したのが
図2である。なお、実際の使用では、ラック4に複数の食器が収容されることになるが、
図2及び他の図では食器の表示を省略する。
図2の右図が示すように、ラック搬送部3(請求項の「収容器搬送手段」に相当)の上方に設置台5と連結した積載台14があり、ユーザはラック4を積載台14に載せる。ラック4が収容器搬送手段によって開口6から予洗部1へ押し込められると、予洗部1の水管9から洗浄水が噴出する。噴出のタイミングは手動でも自動でもよい。
なお、
図2の右図において、本洗部2の外枠13が上方に持ち上がった状態になっているが、予洗いの終了に合わせて自動又は手動で外枠13は設置台5まで下がる。
【0021】
また、
図2は、予洗部1の開口6を開放状態にして示しているが、水しぶきが外部に飛散することを防止するため、開口6にカーテン部材等を取り付けるようにしてもよい。また、本実施形態では、予洗部1はラック4の幅よりも狭いため、予洗部1内にラック4が完全に収容されることはないが、ラック4が完全に予洗部1の内部に収まる他の実施形態では開口6に扉を設けることもある。この場合、水しぶきが外部に飛散することはなくなる。
【0022】
図2の中央図は、ラック4が予洗部1を通過して(予洗いを終了して)本洗部2に到達した状態を示す。積載台14から本洗部2への移動はラック搬送部3が制御するが、これについては後述する。ラック4が本洗部2に到達して停止し、外枠13が下がったことを検知すると、ノズル8が回転しながら水又は湯が噴出され、食器の洗浄が行われる。
洗浄後、ノズル16が回転しながら水又は湯が噴出され、食器のすすぎが行われる。所定時間が経過して食器の洗浄が終了すると、乾燥機能を備えた食器洗浄機100であれば乾燥工程を実行する。本願発明は乾燥工程に関する記載は省略する。
【0023】
図2の左図は、本洗い工程が終了し、外枠13が上方に移動してラック4を取り出し可能になった状態を示す。なお、外枠13の前面又は側面に開口又は扉が設けられ、扉を開けてからラック4を取り出す構成にしてもよい。
【0024】
次に、積載台14と本洗部2との間でラック4を移動させるアクチュエーターであるラック搬送部3の構造及び制御について説明する。ラック搬送部3の電動モータはシリンダ22を予洗い槽11内で伸縮運動させる。
図3等に示すように、ラック搬送部3はシリンダ22に直結して予洗部1の横に設置される。ラック搬送部搬送部3の筐体内部にモータや回路などの部品が収容されるので、防水が図れている。なお、予洗部1の予洗い槽11内部にラック搬送部3が存在する構成であってもよい。
【0025】
図3(a)は、シリンダ22が予洗部1の予洗い槽11内で伸延する前の可動ユニット20の位置、
図3(b)は、シリンダ22が本洗い槽12に向けて伸延したときの可動ユニット20の位置の位置を示す。
シリンダ22の上部には、ガイドシャフト24が通る孔のある支持部材23が結合し、支持部材23には可動ユニット20が取り付けられている。このため、シリンダ22の伸縮が、予洗部1内における可動ユニット20の往復運動を可能にする。
図3(a)に示す距離Dは、可動ユニット20が往復運動するときの可動範囲である。
【0026】
図3(a),(b)に示すように、可動ユニット20は、係合部材である引っ掛け爪21-1,21-2をもつ構造である。したがって、可動ユニット20の引っ掛け爪21-1が載置台14に搬入されたラック4に係合した状態で(
図4(a)参照)、シリンダ22が伸延して可動ユニット20が本洗い槽12側に移動すると、ラック4が本洗部2に向かって進行する(
図4(b)参照)。引っ掛け爪21とラック4の係合が解除されると、可動ユニット20とラック4は独立となり、
図4(c)に示すようにラック4の位置はそのままで、可動ユニット20のみがシリンダ22の逆進行に伴い元位置(
図4(a)の状態)へ戻る。なお、少なくとも1つの引っ掛け爪21が係合していればよい。
なお、シリンダ22が元位置に向かって逆進行する復路移動中は、水管9からの水等は電磁弁などを用いて止める設定にする他に、出っ放しの設定にしてもよい。
【0027】
次に、上述した引っ掛け爪21の構造と、ラック4との係合関係について詳しく説明する。
図5(a),(b)は、引っ掛け爪21の拡大図である。実際には引っ掛け爪21の孔211には丸棒が貫通するが本図では省略している。本実施形態の可動ユニット20は、引っ掛け爪21の重量バランスが偏るように構成しており、その結果、引っ掛け爪21は孔211を貫通する丸棒を回転軸として回転し得るという特徴がある。具体的には、重心位置を図中に示すB側寄りにすることで重量バランスがA側<B側となり、引っ掛け爪21に何も負荷がかかってない状態では、
図5に示すようにA側の先端部が可動ユニット20の上端面より上に存在する。すなわち、爪が立ち上がった状態である。
【0028】
このような引っ掛け爪21が立ち上がっている状態の可動ユニット20が、ラック4の底面の格子に係合した様子を示したのが
図6である。ラック4の底面は格子構造であるため、各格子間の空間に引っ掛け爪21を入り込ませることができる。
可動ユニット20の引っ掛け爪21は2個に限定される必要はなく、1個であっても、3個以上であってもよい。さらに、係合する引っ掛け爪21は1箇所である必要はない。複数の引っ掛け爪21がと係合するようにラック4を設置してよい。複数の引っ掛け爪21がある場合、最初に載置台14に一番近い引っ掛け爪21-1が本洗い槽12に一番近いラック格子空間に係合すると、最終的に可動範囲Dで最長のラック移動を行うことができることになる。
なお、
図6のラック4は底面のみが水等を逃がせるよう格子構造であるが、底面のみならず4つのラック側面も格子であってもよいことは言うまでもない。
【0029】
可動ユニット20での引っ掛け爪21の位置は、ラック4の形状にあわせて調整することができることを示したのが
図7である。支持部材23と可動ユニット20の間に、可動ユニット20に位置を変更できる取り付け穴26を設けたラック位置調整部材25を介在させる。可動ユニット20の長さは任意にすることができる。これにより、ラック4の格子の幅の大小に応じて適宜取り付け穴26を選んで可動ユニット20の取り付け位置を変えることができる。
【0030】
図8(a)~(g)は、ラック4と係合した引っ掛け爪21の回転動作を説明するための図である。なお、可動ユニット20下方の支持部材23やシリンダ22等については省略して示している。
図8(a)は、ラック4がシリンダ22のピストン往路移動により可動範囲一杯まで移動した状態をあらわす(つまり、
図4(b)に対応する)。この後、シリンダ22の復路移動に伴い、矢印の方向に可動ユニット20が逆進行(元の位置に戻る移動)を開始すると、ラック4の位置Pと引っ掛け爪21の位置Qが接近し始める。そして、位置Pと位置Qが一致したときを示したが
図8(b)である。このとき、引っ掛け爪21はラック4の位置Pで下方向の力を受けるので、
図8(c)の矢印が示すような回転をし始める。
【0031】
図8(d)に示すように、さらに可動ユニット20が逆進行を続けると、位置Pが位置Q’と接近するにつれて引っ掛け爪21の回転量が大きくなっていく(すなわち、位置A1がより下方になる回転が生じる)。位置Pが位置A1付近に接近した状態が
図8(e)である。使用されるラック4の格子幅に応じて可動ユニット20上における引っ掛け爪21の位置関係を調整することが必要である。具体的には、上述したラック位置調整部材25によって、使用されるラック4の形状にあわせて可動ユニット20の取り付け位置を決定すればよい。
【0032】
さらに可動ユニット20が元の位置に向かう逆進行を続けると、位置A1がラック4の格子底面に接触しながら、位置Pとは反対側の端に到達するまで引っ掛け爪21の回転が維持される(
図8(f)参照)。なお、進行の加速度の関係で一時的には、非接触になることもあるが、基本的には引っ掛け爪21はラック4と接触しながら回転を維持する。その後、位置A1がラック格子空間に入ると、引っ掛け爪21とラック4の係合が復元される(
図8(g)参照)。このとき、
図8(g)に示すように、引っ掛け爪21が立ち上がった状態である。可動ユニット20が逆進行の終端である移動開始位置(往路スタート位置)に戻るまで、ラック格子空間毎に
図8(a)~(g)の引っ掛け爪21の回転動作が繰り返される。可動ユニット20の復路移動においては、ラック4との係合が外れる状態になるよう引っ掛け爪21が回転するので、ラック4が可動ユニット20と一緒に往路スタート位置に戻ることはなく、移動したラック4位置は引っ掛け爪21による次の押し出しがあるまで保持されることになる。
【0033】
そして、可動ユニット20が往路スタート位置に戻ったとき、可動ユニット20に設けられた少なくとも1つの引っ掛け爪21がラック格子幅の空間に入るよう可動ユニット20の取り付け位置が設定されている限り、シリンダ22が再び本洗部2に向かって進行する往路移動を行えば、この引っ掛け爪21によってラック4は進行方向に押し出される。シリンダ22のピストン往復運動に伴う可動ユニット20の複数回のラック4の押し出しの結果、ラック4は本洗部2に搬入することができる。
【0034】
さらに、シリンダ22の可動範囲(
図3(a)の距離D)と、複数回の押し出し動作をしても、ラック4のサイズとの関係でラック4の全体が本洗い槽12内にきちんと収容しないこともある。このような場合は、ラック4の端部側面に係合した引っ掛け爪21(複数の引っ掛け爪21がある場合は、最も本洗い槽12に近い引っ掛け爪)が、
図8(g)状態でラック4に対して最後の一押しをする。また、本洗部2にはラック4の終点位置にリミッタ(不図示)を取り付けておく。最後の一押し動作において、ラック4がリミッタ位置まで到達したことを知らせる信号を受信したラック搬送部3の制御回路は、ラック4の搬送を停止する。
【0035】
以上をまとめると、食器洗浄機100のラック搬送の方法は、(i)引っ掛け爪21の重心バランスに偏りがあることで、引っ掛け爪21に何も負荷力がかかっていなければ、特段の機構及び制御がなくとも、引っ掛け爪21が自然と立ち上がってラック4と係合できること、(ii)シリンダ22が伸延する(往路)移動にあわせて可動ユニット20がラック4を常に本洗部2方向に押し出すこと、(iii)シリンダ22が元の位置に戻る(復路)移動時では、引っ掛け爪21がラック4との係合を外す方向にのみ回転することから、ラック4はシリンダ22の動きに随伴せず一時停止していること、(iv)シリンダの往復移動が繰り返されることを通じて、ラック4は間欠的に本洗部2内へ搬入されること、を特徴とする。
【0036】
シリンダ22及び可動ユニット20の往復運動に基づく間欠的な押し出し制御によるラック搬送は、食器洗浄機100の装置全体のサイズを小さくできるという効果を奏する。シリンダ22を往復運動させずにラック4を本洗部2内へ搬入しようとすれば、ラックの外枠幅に相当する可動範囲のシリンダが必要となり、その結果、シリンダを収容する予洗部1やラック搬送部3が大きくなってしまう。本実施形態の食器洗浄機100は、ラック4のサイズが大きくても、シリンダの往復運動を増やすことで対応でき、シリンダ長を増大させる必要はない。予洗部1自体は、ラック4の幅よりも狭くて済むのである。このため、大きな幅の予洗い槽を備えなくても済み、コンパクトな食器洗浄機100を実現できる。
【0037】
(他の実施形態)
食器洗浄機100に用いる引っ掛け爪21の応用例を以下に示す。
上述した実施形態は、ラックの底面の格子に引っ掛け爪が係合するものとして説明したが、係合箇所は必ずしも底面でなければならないというものではない。例えば、可動ユニット20が予洗部1の側面に沿って移動するようシリンダ22を配置した場合、引っ掛け爪の側面移動時の重量バランスを調整すれば、底面と同様に、側面の格子空間に引っ掛け爪が引っ掛かるようにする変形も可能である。
【0038】
また、上述した実施形態の可動ユニットにおける引っ掛け爪21は、偏った重心によって、負荷力を何ら受けていない状態では自然に爪が立ち上がる構造であった。他の実施形態では、本構造に代わり、
図9(a),(b)及び
図10(a),(b)に示すようなバネを持つ引っ掛け爪によって爪の向きを決定する。
【0039】
図9(a),(b)は、回転棒33にトーションバネ32を取り付けた引っ掛け爪31を示す。引っ掛け爪31の孔に貫通された回転棒33を回転軸として引っ掛け爪31は回転するが、ストッパ34で支持されるので引っ掛け爪31に負荷力が作用すれば、
図9(a)内の矢印に示すような範囲の回転をする。引っ掛け爪31がラックと接触しない状態になれば、引っ掛け爪31は負荷力を受けなくなるので、
図9(b)に示すようにバネの反力で立ち上がることになる。
【0040】
図10(a),(b)は、引張バネ41を用いた引っ掛け爪を示す。
図9(a)と同様に、
図10(a)に示す引っ掛け爪は、負荷力が作用すれば、回転棒40を回転軸として矢印に示すような範囲の回転をする。引張バネ41は引っ掛け爪を
図10(b)に示す矢印の方向に引っ張っているため、引っ掛け爪がラックからの負荷力を受けなくなると、回転棒40を回転軸として
図10(b)に示す爪が立ち上がる状態を保持する。
【0041】
図9及び
図10に示すようなバネ機構を用いた引っ掛け爪の場合、引っ掛け爪21の構造のような重量バランスを考慮する必要が無くなるため、引っ掛け爪の形状及び重量バランスに対する制約がなくなり自由な形状にすることができる。また、付属部品をラックに取付け、当該付属部品に爪を係合させながらラックの押し出し移動を行うこともできる。
【0042】
(異なるタイプの食器洗浄機への適用可能性)
本願発明に係る食器洗浄機を説明するため、上述した実施形態は予洗い機能付きの食器洗浄機を前提としていた。一方で、シリンダのピストン往復運動及びその時の引っ掛け爪とラックの係合関係は、予洗い機能が無い食器洗浄機におけるラック搬送にも適用可能である。具体的には、予洗い槽11の無い状態で、
図3に示す可動ユニット20、引っ掛け爪21、シリンダ22等及びラック搬送部を本洗部に隣接して設ければ、本洗い機能のみの食器洗浄機に関する本洗い槽内へのラック自動搬送を実現できる。
【符号の説明】
【0043】
1 予洗部
2 本洗部
3 ラック搬送部
4 ラック
5 設置台
6 開口
7 開口
8、16 ノズル
9 水管
10 給水管
11 予洗い槽
12 本洗い槽
13 本洗部の外枠
14 積載台
15 ガイド機構
17 給水管
20 可動ユニット
21 引っ掛け爪
22 シリンダ
23 支持部材
24 ガイドシャフト
32 トーションバネ
41 引張バネ
100 食器洗浄機