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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】セメント組成物及びコンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20231128BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20231128BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20231128BHJP
   C04B 103/14 20060101ALN20231128BHJP
   C04B 103/60 20060101ALN20231128BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 Z
C04B103:14
C04B103:60
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020041523
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143086
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹下 永造
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-176255(JP,A)
【文献】特開2005-104826(JP,A)
【文献】特開2018-095516(JP,A)
【文献】特表2016-513144(JP,A)
【文献】特開2009-298645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/02-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、膨張材及びスルファミン酸カルシウムを含有し、前記スルファミン酸カルシウムの添加量が、前記セメントと前記膨張材を合わせた結合材100質量部に対して、固形分(無水物)換算で0.2~1.5質量部であるセメント組成物。
【請求項2】
前記セメントが混合セメントである請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセメント組成物及び骨材を含むコンクリート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期強度発現性を有するセメント組成物及びコンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物の強度を早期に高めるためには、従来から凝結促進剤が用いられている。凝結促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウムなどの可溶性カルシウム塩、硫酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等が用いられている。例えば、特許文献1では、普通ポルトランドセメント及び早強セメントを使用し、これに可溶性カルシウム塩として塩化カルシウム、亜硝酸カルシウ及び硝酸カルシウムを用いた実施例が開示されている。但し、特許文献1には、可溶性カルシウム塩の1種としてスルファミン酸カルシウムの記載があるものの、試験例の記載はなく、凝結促進剤としての実際の効果のほどは不明である。
【0003】
一方、近年コンクリート材料への環境負荷低減の動きが高まりつつあり、環境負荷低減材料である「高炉スラグ微粉末」や「フライアッシュ」を含む混合セメントを使用したコンクリートが注目されているが、混合セメントを用いたコンクリートは、長期強度は高くなるものの、初期強度発現性が小さいという課題があり、期待されるほど実用に供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-241058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
凝結促進剤として使用される塩化カルシウムは、塩化物イオンを含むことから、鉄筋コンクリートに使用する場合は、鉄筋の錆の発生を助長する虞がある。また、硫酸ナトリウム、アルミンさナトリウム等のアルカリ金属含有の凝結促進剤をコンクリートに用いた場合、アルカリ骨材反応を生じる虞がある。亜硝酸カルシウムは有効な凝結促進剤であるが、コンクリートの流動性を損ねやすく、またスランプロスを起こし易い傾向がある。
さらに、凝結促進剤を使用したコンクリートでは、硬化促進による硬化収縮の影響、中性化抵抗性の低下が懸念される。
【0006】
一方、混合セメントを使用したコンクリートでは、初期強度発現性が小さいという課題の他に、普通セメントに比べCa(OH)2生成量が小さく、かつ、ポゾラン反応や潜在水硬性によりCa(OH)2を多量に消費しやすいため、中性化速度が大きいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来ほとんど使用されていなかった可溶性カルシウム塩であるスルファミン酸カルシウムに着目し、スルファミン酸カルシウムを使用したセメント組成物について検討を行った。上記課題を考慮の上、種々検討を行った結果、スルファミン酸カルシウムを膨張材と併用して使用した場合、良好な性能が得られることが分かった。さらに、混合セメントを用いた場合に優れた性能が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕を提供するものである。
〔1〕セメント、膨張材及びスルファミン酸カルシウムを含有し、前記スルファミン酸カルシウムの添加量が、前記セメントと前記膨張材を合わせた結合材100質量部に対して、固形分(無水物)換算で0.2~1.5質量部であるセメント組成物。
〔2〕前記セメントが混合セメントである〔1〕のセメント組成物。
〔3〕〔1〕又は〔2〕のセメント組成物及び骨材を含むコンクリート組成物。
【発明の効果】
【0008】
混合セメントを使用した場合であっても、初期強度発現性が良好であり、また、中性化抵抗性も向上が期待できるコンクリートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
本発明のセメント組成物は、セメント、膨張材及びスルファミン酸カルシウムを含有する。また、本発明のコンクリート組成物は、当該セメント組成物及び骨材を含むコンクリート組成物である。本発明のコンクリート組成物にはモルタル組成物も含まれる。
【0010】
<セメント組成物>
本発明で用いられるセメントとしては、工業的に製造されるポルトランドセメントが使用できる。例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。また、前記ポルトランドセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム又は石灰石微粉末等が混合された各種の混合セメントが挙げられる。これらセメントの一種であっても、二種以上のものであっても良い。本発明における膨張材とスルファミン酸カルシウムの併用は、特に混合セメントを用いる場合に有効である。セメントの配合量は、280~500kg/m3が好ましく、300~400kg/m3がより好ましい。
【0011】
本発明において使用される膨張材は、水和により膨張性能を発現し、収縮ひび割れを抑制するために有効な成分であり、一般にコンクリートに使用されている膨張材を用いることができる。具体的には、生石灰系膨張材、CSA(カルシウムサルホアルミネート)系膨張材、あるいはこれらを併用した複合系膨張材などが挙げられる。混合セメントを使用する場合は、混合セメント中の環境負荷低減材料との相性の観点から、生石灰系膨張材が好ましい。膨張材のブレーン比表面積は、2000~7000cm2/gが好ましい。膨張材の配合量としては、ひび割れ抑制や強度発現の観点から、15~25kg/m3が好ましい。
【0012】
ここで本発明において、セメントと膨張材を合せて結合材という。結合材とは、粉体のうち、水と反応してコンクリートの強度発現に寄与する物質を生成するものの総称をいう。セメントと膨張材の他に、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰石微粉末、メタカオリン等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いるスルファミン酸は、硫酸のヒドロキシ基がアミノ基に置換したもので、そのカルシウム塩がスルファミン酸カルシウムである。アミド硫酸カルシウムともいう。可溶性のカルシウム塩であり、セメントの水和を促進する作用を有し、モルタル・コンクリートの硬化促進剤として作用する。アルカリフリーであり、鉄筋への腐食性も小さい。粉末状で、あるいは水溶液の形態で添加することができる。
スルファミン酸カルシウムの添加量は、結合材100質量部に対して、固形分(無水物)換算で0.2~2.5質量部が好ましく、0.3~2.0質量部がより好ましく、0.5~1.5質量部がさらに好ましい。
【0014】
<コンクリート組成物>
本発明におけるコンクリート組成物は前記セメント組成物及び骨材を含む。
【0015】
本発明のコンクリート組成物に使用される骨材としては、特に限定されるものではなく、通常のモルタル・コンクリートの製造に使用される細骨材及び粗骨材を何れも使用することができる。そのような細骨材及び粗骨材として、例えば川砂、海砂、山砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材、再生粗骨材等が挙げられる。骨材の配合量は、1500~2200kg/m3が好ましく、1600~2000kg/m3がより好ましい。
【0016】
本発明のコンクリート組成物に使用される水は、特に限定されるものではなく、水道水などを使用することができる。水の配合量(単位水量)は、150~180kg/mとすることが、材料分離抵抗性を高めることから好ましい。また、水の配合量は、結合材100質量部に対し、35~65質量部とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明のコンクリート組成物においては一般にモルタル・コンクリート用に使用される減水剤を使用できる。減水剤には、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等があり、また減水剤の成分としては、メラミンスルフォン酸系、ナフタレンスルフォン酸系、ポリカルボン酸系等が挙げられるが、本発明のコンクリート組成物においては、スランプ保持性の点から、ポリカルボン酸系が好ましい。減水剤の配合量は、所定のフレッシュ性状を確保する観点から、結合材100質量部に対して、固形分換算で0.1~3質量部が好ましく、0.2~2質量部がより好ましい。
【0018】
本発明のコンクリート組成物には、前記成分の他にも、必要に応じて、本発明の特長が損なわない程度において、さらに各種混和剤(材)を添加することを妨げない。例えば、増粘剤、収縮低減剤、セメント用ポリマー、防水材、防錆剤、凍結防止剤、保水剤、顔料、白華防止剤、発泡剤、消泡剤、撥水剤等が挙げられる。
【0019】
このように、本発明のセメント組成物を用いることによって、初期強度発現性が良好であり、中性化抵抗性に優れたモルタル、コンクリート組成物を得ることができる。そして、収縮補償コンクリート、環境負荷低減コンクリートなどに好適に用いられる。
【実施例
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
表1に使用材料を示す。また、表2にコンクリート配合を示す。スルファミン酸カルシウム(CS)の[ ]内の数値は結合材(セメント+膨張材)100質量部に対する添加量(無水物換算)を示す。使用したセメントは、一般コンクリート用として普通ポルトランドセメントに加え、環境負荷低減コンクリート用として、高炉セメントB種、フライアッシュセメントB種とした。また、使用した膨張材は汎用品の石灰系膨張材を使用した。スルファミン酸カルシウムについては結合材100質量部に対し、0.7、1.1質量部添加した。コンクリートのフレッシュ性状については、AE減水剤で適宜調整し、一般的なコンクリートとなるスランプ15±2.5cm、空気量4.5±1.5%を満足するようにした。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
コンクリートによる試験項目を表3に示す。
【0024】
【表3】
【0025】
圧縮強度試験結果を表4に示す。PLは、スルファミン酸カルシウム及び膨張材を添加してないプレーンコンクリートを意味する。初期強度発現性の評価は、1日PL強度比(比較強度/PL強度×100;プレーンコンクリートとの強度比(%))として評価した。100%以上となる場合において初期強度発現性が大きくなることを示している。材齢28日強度については、設計基準強度である30N/mm2を全ての水準で満足していた。
いずれのセメントを使用した場合でも、スルファミン酸カルシウムの添加により、1日強度が増加するが、膨張材との併用によってさらに1日強度の発現性が高くなることが分かった。特に混合セメントを用いた場合、膨張材の添加によって1日強度の低下がみられたが、スルファミン酸カルシウムと併用することによって、初期強度発現性は大幅に向上することが分かった。混合セメントの初期強度発現性に関し、スルファミン酸カルシウムと膨張材の併用が極めて有効であることが分かった。さらに、材齢28日においても材齢1日と同様に、膨張材とスルファミン酸カルシウムを併用した場合、圧縮強度が高い値を示した。
【0026】
【表4】
【0027】
拘束膨張率の試験結果を表5に示す。収縮補償コンクリートは材齢7日における拘束膨張率が150~250×10-6となる範囲とされており、この基準にて評価した。
スルファミン酸カルシウムを添加した場合、硬化収縮が認められるが、膨張材と併用した場合は、スルファミン酸カルシウムの添加による硬化収縮率は抑制される傾向が認められる。これより、スルファミン酸カルシウムと膨張材とを併用した場合でも、良好な収縮補償コンクリートが得られることが分かった。
【0028】
【表5】
【0029】
中性化抵抗性の試験結果を表6に示す。中性化抵抗性については、182日経過後の中性化深さで評価される。その評価については、中性化深さ比(比較中性化深さ/PL中性化深さ×100)が100%より小さくなることで、中性化抵抗性が向上したことを確認した。
いずれのセメントを使用した場合でも、膨張材を使用した場合、PLに比べ中性化抵抗性は向上する。一方、スルファミン酸カルシウムを添加すると、中性化深さは大きくなり、中性化抵抗性が低下することが分かる。然るに、膨張材とスルファミン酸カルシウムを併用した場合、膨張材単独添加より、さらに中性化抵抗性が向上するという驚くべき相乗効果を有することが判明した。中性化抵抗性に課題のある混合セメントを使用した場合でも、同様の相乗効果が認められることから、環境負荷低減コンクリートにおいて、本発明における膨張材とスルファミン酸カルシウムとの併用が非常に有効であることが分かった。
【0030】
【表6】