(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】車両用シート芯材
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20231128BHJP
A47C 27/14 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C27/14 Z
(21)【出願番号】P 2020046251
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 圭一
(72)【発明者】
【氏名】久松 功昇
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 匠吾
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-034547(JP,A)
【文献】実開昭59-164541(JP,U)
【文献】特開2019-000310(JP,A)
【文献】特開2018-27747(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042759(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-2/90
A47C 27/00-27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、車体への取り付けに用いる取付フックと、フレーム部材とが一体に成形されている車両用シート芯材であって、
前記フレーム部材は、
前記車両用シート芯材の前方側に前記車両用シート芯材の幅方向に亘って埋設されている前方側幅方向フレームと、
前記車両用シート芯材に前記車両用シート芯材の前後方向に亘って埋設されている前後方向フレームと
を備え、
前記車両用シート芯材の前方両端側に前記車両用シート芯材の下方外側に向けて、前記発泡粒子成形体から突出する前方側取付フックが設けられており、
前記車両用シート芯材の後方側に前記車両用シート芯材の後方外側及び/又は上方外側に向けて、前記発泡粒子成形体から突出する後方側取付フックが設けられており、
前記フレーム部材は、前記車両用シート芯材の輪郭に沿って環状に埋設されずに、前記前後方向フレームが、前記車両用シート芯材の前方側中央部分で前記前方側幅方向フレームに連結されているとともに、
前記後方側取付フックと前記前方側取付フックとが前記フレーム部材を介して繋がっており、
前記後方側取付フックが前記前方側取付フックに対して前記車両用シート芯材の幅方向内方側に位置していることを特徴とする車両用シート芯材。
【請求項2】
前記車両用シート芯材の前記前後方向フレームが埋設されている位置に対して、前記車両用シート芯材の幅方向の一方側を占める前記発泡粒子成形体の容積と、他方側を占める前記発泡粒子成形体の容積との比が、3/5~5/3である請求項1に記載の車両用シート芯材。
【請求項3】
前記フレーム部材は、
前記車両用シート芯材の後方側の幅方向に亘って前記車両用シート芯材に埋設される後方側幅方向フレームをさらに備え、
前記後方側幅方向フレームと前記前後方向フレームとが連結されており、
前記前方側幅方向フレームの長さが前記後方側幅方向フレームの長さよりも長い請求項1又は2に記載の車両用シート芯材。
【請求項4】
前記後方側幅方向フレームの両端側に前記後方側取付フックが設けられており、前記後方側幅方向フレームと前記前後方向フレームとが前記車両用シート芯材の後方側の略中央部分で連結されている請求項3に記載の車両用シート芯材。
【請求項5】
前記車両用シート芯材の後方側部分における前記発泡粒子成形体の厚みが前方側部分における前記発泡粒子成形体の厚みに比べて薄く、前記車両用シート芯材の後方側部分が前記車両用シート芯材の前方側部分に対して上方に立ち上がるように湾曲しており、前記車両用シート芯材の後方側部分における前記前後方向フレームの厚み方向の埋設位置が、前記車両用シート芯材の下面側の位置にある請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用シート芯材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、車体への取り付けに用いる取付フックと、フレーム部材とが、インサート成形により一体に成形された車両用シート芯材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用シートに用いる芯材として、車両用シートの軽量化を図るべく、熱可塑性樹脂発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体が用いられるようになってきている。
例えば、特許文献1には、環状に組まれた金属製のフレーム部材に、車体への取り付けに用いる取付フックを設け、これらのフレーム部材をインサート成形により発泡粒子成形体内に埋設されるように一体に成形してなる芯材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2017/094659号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発泡粒子成形体を型内成形するに際しては、一般に、成形後の収縮を考慮して寸法などを適宜設計するが、発泡粒子成形体内に環状のフレーム部材が埋設されていると、当該フレーム部材が、発泡粒子成形体の収縮を妨げるように作用し、成形後の発泡粒子成形体に反りが生じるなどして、寸法精度を損ねてしまう虞がある。
また、発泡粒子成形体の収縮による応力によって、環状のフレーム部材が変形して発泡粒子成形体の形状を歪めたり、車体への取り付けに用いる取付フックの位置にズレが生じたりする虞もある。
成形後の発泡粒子成形体に反りなどの好ましからざる変形が生じてしまったり、取付フックの位置にズレが生じてしまったりすると、車体への取り付け精度が低下し、車体への取り付け作業に労力を要するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明者らは、フレーム部材を必要最小限の構成として、近年益々厳しくなる軽量化の要求に応えつつ、上記の如き不具合を解消すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用シート芯材は、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、車体への取り付けに用いる取付フックと、フレーム部材とが一体に成形されている車両用シート芯材であって、前記フレーム部材は、前記車両用シート芯材の前方側に前記車両用シート芯材の幅方向に亘って埋設されている前方側幅方向フレームと、前記車両用シート芯材に前記車両用シート芯材の前後方向に亘って埋設されている前後方向フレームとを備え、前記車両用シート芯材の前方両端側に前記車両用シート芯材の下方外側に向けて、前記発泡粒子成形体から突出する前方側取付フックが設けられており、前記車両用シート芯材の後方側に前記車両用シート芯材の後方外側及び/又は上方外側に向けて、前記発泡粒子成形体から突出する後方側取付フックが設けられており、前記フレーム部材は、前記車両用シート芯材の輪郭に沿って環状に埋設されずに、前記前後方向フレームが、前記車両用シート芯材の前方側中央部分で前記前方側幅方向フレームに連結されているとともに、前記後方側取付フックと前記前方側取付フックとが前記フレーム部材を介して繋がっており、前記後方側取付フックが前記前方側取付フックに対して前記車両用シート芯材の幅方向内方側に位置している構成としてある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フレーム部材の構成を必要最小限として、車両用シート芯材の強度を維持しつつ、さらなる軽量化を図ることができるとともに、当該フレーム部材と一体に成形されながらも、寸法精度に優れ、車体への取り付けも容易な、発泡粒子成形体からなる車両用シート芯材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用シート芯材の概略を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す車両用シート芯材を模式的に示す説明図である。
【
図3】車両用シート芯材の厚みに関する説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る車両用シート芯材の変形例を模式的に示す説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両用シート芯材の他の変形例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る車両用シート芯材の概略を示す斜視図であり、自動車の後部座席用の座席シートに適用した一例を示している。
また、
図2は、
図1に示す車両用シート芯材1を模式的に示す説明図である。
【0011】
これらの図に示す車両用シート芯材1は、発泡粒子成形体2と、車体への取り付けに用いる取付フック4,5を設けたフレーム部材3とが、発泡粒子成形体2内に当該フレーム部材3が埋設されるように一体に成形されている。
なお、フレーム部材3は、その全長を100%としたとき、その50%以上にわたる範囲が発泡粒子成形体2内に埋設されていることが好ましく、70%以上にわたる範囲で埋設されていることがより好ましく、90%以上にわたる範囲で埋設されていることがさらに好ましい。
なお、上記埋設とは、フレーム部材3がフレーム部材3の軸方向に直交する方向から発泡粒子成形2によりその周囲を囲われている状態を意味する。この場合、発泡粒子成形体2とフレーム部材3との間に、わずかな隙間があってもよい。また、露出とは、フレーム部材3の少なくとも一部が外方から視認できる状態を意味する。
なお、フレーム部材3の形状は、線状、管状又は棒状であることが好ましい。
【0012】
特に図示しないが、車両用シート芯材1は、通常、座面側となる上方にウレタンフォームなどのクッション材が積層され、織編物、ビニールレザー、皮革などの表皮材で被覆することによって車両用シートとされてから、車体に取り付けられる。
【0013】
なお、車両用シート芯材1について規定される前後左右及び上下の方向は、車体に取り付けた状態を基準とし、車両の進行方向を前方として、前後左右及び上下の方向を規定するものとする。
また、車両用シート芯材1の前方側とは、車両用シート芯材1の前後方向中心部分から前方部分をいい、好ましくは、前方端から前後方向長さの30%部分までの前方部分をいう。一方、車両用シート芯材1の後方側とは、車両用シート芯材1の前後方向中心部分から後方部分をいい、好ましくは、後方端から前後方向長さの30%部分までの後方部分をいう。
【0014】
このような車両用シート芯材1は、例えば、次のようにして製造することができる。
先ず、所定の形状、大きさに造粒された熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子を用意する。そして、オートクレーブなどの加圧可能な密閉容器内で、必要に応じて分散剤、界面活性剤などが添加された分散媒(通常は水)中に樹脂粒子を分散させ、さらに分散媒に発泡剤を圧入して加熱下に攪拌して、発泡剤を樹脂粒子に含侵させる。その後、高温高圧条件下の容器内から、分散媒とともに、発泡剤を含侵した樹脂粒子を低圧域(通常は大気圧下)に放出して発泡させることによって発泡粒子を製造することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂発泡粒子としては、熱可塑性樹脂の樹脂粒子を上記のようにして発泡させて発泡粒子を得たものの他、発泡ストランド、発泡成形体及び押出発泡体の粉砕物等が挙げられる。さらに、該発泡粒子としては、発泡粒子内に貫通孔からなる空隙を有する、特開平08-108441号公報等に記載の、筒状形状の発泡粒子を使用することもできる。
なお、樹脂粒子の形状は、円柱状、球状、角柱状、楕円球状、円筒状等を採用することができる。かかる樹脂粒子を発泡して得られる発泡粒子は、発泡前の樹脂粒子形状に略対応した形状、上記の円柱状、球状、角柱状、楕円球状、円筒状等に対応した発泡粒子となる。
【0016】
上記発泡粒子を構成する熱可塑性樹脂は、適宜選択可能であるが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などの熱可塑性樹脂や、ポリオレフィン系樹脂とポリスチレン系樹脂とを含む複合樹脂を用いることができる。
なお、一般に、非結晶性樹脂の成形収縮率は0.001~0.009であるのに対して、結晶性樹脂は0.003~0.04である。特に、収縮が生じ易いポリオレフィン系樹脂のような結晶性樹脂を用いた場合であっても、本発明における変形防止の効果が発揮される。
【0017】
上記樹脂の中でも、強度や耐衝撃性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、又はポリオレフィン系樹脂とポリスチレン系樹脂との複合樹脂を用いることが好ましい。さらに、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0018】
次に、このようにして製造された発泡粒子を金型内に充填し、加熱スチームを金型内に導入して発泡粒子を加熱して二次発泡させるとともに、発泡粒子を相互に融着させて発泡粒子成形体2を型内成形する。その際、金型内の所定の位置にフレーム部材3を配置しておくことによって、インサート成形により発泡粒子成形体2とフレーム部材3とが一体に成形された車両用シート芯材1を製造することができる。
【0019】
このようにして車両用シート芯材1を製造するにあたり、発泡粒子成形体2の成形体密度は、0.015~0.3g/cm3であるのが好ましく、0.025~0.1g/cm3であるのがより好ましい。特に、ポリオレフィン系樹脂を用いる場合には、0.02~0.2g/cm3であるのが好ましい。ポリオレフィン系樹脂からなる発泡粒子成形体2は、成形体密度が上記範囲であれば、強度や耐衝撃性に優れるとともに、適度な弾性を有するので、フレーム部材3の保持性にも優れたものとなる。
なお、成形体密度は、発泡粒子成形体2を水没させた際の体積増加分から算出する水没法、又は外形寸法から求めることができる。
【0020】
本実施形態において、フレーム部材3は、車両用シート芯材1の前方側の幅方向に亘って埋設される前方側幅方向フレーム6と、車両用シート芯材1の前後方向に亘って埋設される前後方向フレーム7とを備えている。
【0021】
フレーム部材3には、車体への取り付けに用いる取付フック4,5が設けられているが、より具体的には、前方側幅方向フレーム6の両端側に、車両用シート芯材1の下方外側に向けて、発泡粒子成形体2から突出する前方側取付フック4が設けられている。さらに、前後方向フレーム7の後方側に、車両用シート芯材1の後方外側及び/又は上方外側(
図1に示す例では後方外側)に向けて、発泡粒子成形体2から突出する後方側取付フック5が設けられている。
【0022】
図1では、前方側取付フック4として、前方側幅方向フレーム6の両端側に、平板状の部材8を介してU字状のフック9を繋げた例を示している。後方側取付フック5としては、前後方向フレーム7の後方側に、U字状のフック10を直接連結した例を示している。これらの取付フック4,5の具体的な構成は、取り付ける車体に応じて、前方側取付フック4で規定される前方側の取付位置の範囲内及び後方側取付フック5で規定される後方側の取付位置の範囲内で、適宜変更することができ、
図1に示す例には限定されない。
【0023】
取り付けフック4,5を含むフレーム部材3の材質としては、例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属、又は繊維強化樹脂などを用いることができる。これらは適宜組み合わせて用いてもよい。車両用シート芯材1の強度を向上させる観点からは、金属を用いるのが好ましく、特に、鋼材を用いるのが好ましい。
【0024】
フレーム部材3が備える前方側幅方向フレーム6、前後方向フレーム7には、ワイヤー材などが好適に使用できる。車両用シート芯材1の形状、寸法などに応じて、曲げ加工をするなどして、発泡粒子成形体2内の適切な位置に、前方側幅方向フレーム6、前後方向フレーム7が埋設されるようにすることができれば、線状、管状、棒状など、任意の形状のものを用いることができる。
【0025】
ワイヤー材としては、直径2~8mmの棒状又は線状のものを用いるのが好ましく、ワイヤー材の直径は、3~7mmであるのがより好ましい。さらに、ワイヤー材は、引張強さが200N/mm2以上であるのが好ましく、車両用シート芯材1の強度を向上させる観点から、250~1300N/mm2であるのがより好ましい。ワイヤー材の降伏点は、400N/mm2以上であるのが好ましく、440N/mm2以上であるのがより好ましい。
なお、ワイヤー材の物性は、JIS G3532に基づいて測定することができる。
【0026】
本実施形態において、フレーム部材3は、車両用シート芯材1の前方側の幅方向に亘って埋設されている前方側幅方向フレーム6を備えており、前方側幅方向フレーム6の両端側に、車両用シート芯材1の下方外側に向けて、発泡粒子成形体2の下面側から突出する前方側取付フック4が設けられている。上記の構成によって、車両用シート芯材1は、車体に安定して固定することが可能となる。また、片方の前方側取付フック4に応力がかかった場合であっても、発泡粒子成形体2内に埋設された前方側幅方向フレーム6全体で荷重を受けることができるので、車両用シート芯材1の強度が向上する。
【0027】
一方で、車両用シート芯材1の後方側においては、前後方向フレーム7の後方側に、車両用シート芯材1の後方外側又は上方外側に向けて、発泡粒子成形体2から突出する後方側取付フック5が設けられている。このような構成により、車両用シート芯材1の後方側においても、後方側取付フック5により車両用シート芯材1が車体に固定される。
【0028】
さらに、前後方向フレーム7が、車両用シート芯材1の前方側中央部分で、前方側幅方向フレーム6に連結され、後方側取付フック5と前方側取付フック4とが、フレーム部材3を介して繋がっている。そして、後方側取付フック5が、前方側取付フック4に対して、車両用シート芯材1の幅方向内方側に位置していることによって、後方側取付フック5にかかる応力が効果的に前方側幅方向フレーム6に伝搬されるので、後方側取付フック5にかかる応力が分散され、後方側取付フック5付近の発泡粒子成形体が局所的に破壊されてしまうことが防止される。
【0029】
さらに、前後方向フレーム7が、車両用シート芯材1の前方中央部側で、前方側幅方向フレーム6に連結されている。前後方向フレーム7がこのように配設され、発泡粒子成形体2が前後方向フレーム7によって幅方向左右の一方側に大きく偏って分断されないようにすることで、前後方向フレーム7が存在することによる寸法精度への影響を小さくすることができる。
【0030】
前述したようにして車両用シート芯材1をインサート成形するに際し、フレーム部材3の近傍では、発泡粒子成形体2の収縮による寸法変化が小さく、フレーム部材3が存在しない部位では、発泡粒子成形体2の収縮による寸法変化が大きくなる傾向にある。このような部位毎の寸法変化の相違が、発泡粒子成形体の反りとなって現れ、車両用シート芯材1の寸法精度に影響すると考えられる。本発明においては、車両用シート芯材1の寸法精度を高めるために、寸法変化に異方性が生じないように、部位毎の寸法変化のバランスをとることが重要となる。
【0031】
前後方向フレーム7が存在することによる寸法精度への影響が、より小さくなるようにするという観点から、発泡粒子成形体2内に埋設された前後方向フレーム7の延在方向(
図2に一点鎖線で示す)に沿って、発泡粒子成形体2を二つに分割したときに、車両用シート芯材1の前後方向フレーム7が埋設されている位置に対して、車両用シート芯材1の幅方向の一方側を占める発泡粒子成形体2の容積と、他方側を占める発泡粒子成形体2の容積との比が、3/5~5/3となるように、前後方向フレーム7を配設するのが好ましい。
上記観点から、車両用シート芯材1の幅方向の一方側を占める発泡粒子成形体2の容積と、他方側を占める発泡粒子成形体2の容積との比が、4/5~5/4であることがより好ましい。
【0032】
同様の観点から、前後方向フレーム7は、車両用シート芯材1を平面視したときの前方側幅方向フレーム6に対する角度θ1が、70~110度の角度を以て、前方側幅方向フレーム6に連結されているのが好ましい。上記観点から、上記角度θ1は80~100度がより好ましく、85~95度がさらに好ましい。
なお、前後方向フレーム7が存在することによる寸法精度への影響を小さくする観点から、前後方向フレーム7が前方側幅方向フレーム6に連結される位置は、前方側幅方向フレーム6を長手方向に二等分した中央であることが好ましい。
なお、前後方向フレーム7は、1本のワイヤー材から形成されていてもよく、また、並行した2本のワイヤー材から形成されていてもよい。
【0033】
車両用シート芯材1が取り付けられる車両側の敷設部位の形状に合致するようにしたり、車両用シート芯材1のさらなる軽量化のために、発泡粒子成形体2には、発泡粒子成形体2を厚み方向に貫通する穴が形成されていてもよい。このような穴が、車両用シート芯材1の幅方向中央部に位置する場合であっても、前後方向フレーム7は、当該穴を避けることなく配設することができるが、前後方向フレーム7が存在することによる寸法精度への影響を小さくする上で、当該穴が形成さている部位では、前後方向フレーム7の厚み方向の埋設位置が、発泡粒子成形体2の下面側寄りの位置となるように、前後方向フレーム7を配設するのが好ましい。
【0034】
特に、本実施形態では、前方側幅方向フレーム6の両端側に設けられた前方側取付フック4が、車両用シート芯材1の下方外側に突出して車体に取り付けられるのに対して、後方側取付フック5は、車両用シート芯材1の後方外側及び/又は上方外側に突出するように設けられている。したがって、後方側取付フック5を引き抜こうとする方向と、前後方向フレーム7との方向が同方向となるのに対して、後方側取付フック5からの衝撃を受け止める前方側幅方向フレーム6が前後方向フレーム7とが対向するような角度で連結されることとなり、車体に取り付けた状態で衝撃を受けた際に、後方側取付フック5を引き抜こうとする力を有効に分散させることができる。
【0035】
このような本実施形態によれば、前方側幅方向フレーム6と前後方向フレーム7とを備え、前方側幅方向フレーム6の両端側に前方側取付フック4を設け、前後方向フレーム7の後方側に後方側取付フック5を設けるという構成を以て、フレーム部材3の構成を必要最小限として、車両用シート芯材1の強度を維持しつつ、さらなる軽量化を図ることができるとともに、当該フレーム部材3と一体に成形されながらも、寸法精度に優れ、車体への取り付けも容易な、発泡粒子成形体2からなる車両用シート芯材1を提供することができる。
【0036】
車両用シート芯材1は、
図1に示す例のように、車両用シート芯材1の後方側部分における発泡粒子成形体2の厚みが、前方側部分における発泡粒子成形体2の厚みに比べて薄く、車両用シート芯材1の後方側部分が前方側部分に対して上方に立ち上がるように湾曲していることが好ましい。このような場合には、前後方向フレーム7が存在することによる寸法精度への影響を小さくする観点から、車両用シート芯材1の後方側部分における、前後方向フレーム7の厚み方向の埋設位置が、車両用シート芯材1の下面側の位置にあることが好ましい。好ましくは、前後方向フレーム7の厚み方向の埋設位置が、車両用シート芯材1の下面側から、車両用シート芯材1の後方側部分における発泡粒子成形体2の厚みの20~50%の位置にあるように、換言すれば、車両用シート芯材1の下面側から前後方向フレーム7までの厚みが、車両用シート芯材1の厚みの20~50%となるように、前後方向フレーム7を配設するのが好ましい。前後方向フレーム7が、発泡成形体2内で上記のように位置することにより、発泡粒子成形体2の後方側部分において、寸法変化を低減させることができる。
また、具体的には、車両用シート芯材1の下面側から10~20mmの位置に前後方向フレーム7が存在することが好ましい。
なお、車両用シート芯材1の厚みは、
図3に示すように、車両用シート芯材1の厚み方向の中心線(図中、一点鎖線で示す)に垂直な方向(図中、両矢印で示す方向)の長さをいう。
【0037】
以上のような本実施形態の最も好ましい一例として、
図1には、後方側取付フック5が、車両用シート芯材1の幅方向中央に位置して、前後方向フレーム7が、発泡粒子成形体2を幅方向左右に均等に分断するように配設されている例を示している。前後方向フレーム7をこのように配設したときに、前後方向フレーム7が存在することによる寸法精度への影響を最も小さくすることができるが、後方側取付フック5を設ける位置や、その数は、対象となる車両によって異なり、実際には、車両に応じた設計が要求される。
【0038】
例えば、後方側取付フック5が、車両用シート芯材1の幅方向中央から比較的離れた位置に設けることが要求される場合、このような要求に応えるために、フレーム部材3は、前方側幅方向フレーム6と前後方向フレーム7に加え、車両用シート芯材の後方側の幅方向に亘って埋設される後方側幅方向フレーム11をさらに備えるように構成することができる。そして、
図4に模式的に示すように、後方側幅方向フレーム11に後方側取付フック5を設けて、後方側幅方向フレーム11を前後方向フレーム7に連結することにより、後方側幅方向フレーム11を介して、後方側取付フック5を前後方向フレーム7の後方側に設けるようにすることができる。
【0039】
このような態様において、後方側幅方向フレーム11が存在することによる寸法精度への影響を小さくするという観点から、前方側幅方向フレーム6の長さに対して、後方側幅方向フレーム11の長さが短いことが好ましい。また、前方側幅方向フレーム6の長さに対する、後方側幅方向フレーム11の長さの比は、0.1~0.8であるのが好ましく、0.2~0.6であるのがより好ましい。同様の観点から、後方側幅方向フレーム11を前後方向フレーム7に連結するには、後方側幅方向フレーム11は、車両用シート芯材1を平面視したときの前後方向フレーム7に対する角度θ2が、70~110度の角度を以て、前後方向フレーム7に連結されているのが好ましく、後方側幅方向フレーム11と前後方向フレーム7とを垂直に連結するのが特に好ましい。
【0040】
また、複数の後方側取付フック5を設けることが要求される場合にも、
図5に模式的に示すように、後方側幅方向フレーム11を介して、複数の後方側取付フック5を前後方向フレーム7の後方側に設けるようにすることができる。
図5は、二つの後方側取付フック5を設ける場合の最も好ましい一例を示している。
図5に示す例では、後方側幅方向フレーム11の両端側に、後方側取付フック5が設けられており、後方側幅方向フレーム11と前後方向フレーム7とが、車両用シート芯材1の後方中央部側で連結されている。
【0041】
このような態様によっても、前方側幅方向フレーム6と前後方向フレーム7と後方側幅方向フレーム11とを備え、前方側幅方向フレーム6の両端側に前方側取付フック4を設け、前後方向フレーム7の後方側に後方側幅方向フレーム11を介して後方側取付フック5を設けるという構成を以て、フレーム部材3の構成を必要最小限として、車両用シート芯材1の強度を維持しつつ、さらなる軽量化を図ることができるとともに、当該フレーム部材3と一体に成形されながらも、寸法精度に優れ、車体への取り付けも容易な、発泡粒子成形体2からなる車両用シート芯材1を提供することができる。
【0042】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1 車両用シート芯材
2 発泡粒子成形体
3 フレーム部材
4 前方側取付フック
5 後方側取付フック
6 前方側幅方向フレーム
7 前後方向フレーム
11 後方側幅方向フレーム