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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】異常分析装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20231128BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20231128BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020053153
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152792
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】金内 健
(72)【発明者】
【氏名】河村 洋佑
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101124(JP,A)
【文献】特開2011-257154(JP,A)
【文献】特許第6076571(JP,B1)
【文献】特開2015-161506(JP,A)
【文献】特開2019-168412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
G01M 99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に動作する機器が発する原時間領域信号を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出される原時間領域信号に基づいて機器の異常を分析する異常分析手段とを備え、
前記検出手段により検出されるとともに、正常な機器が発する原時間領域信号から抽出される特定時間間隔及び特定位相の時間領域信号を正常時時間領域信号として記憶する記憶部を備え、
当該記憶部に順次記憶される前記正常時時間領域信号に基づいて診断基準とする基準時間領域信号を、機器の周波数に基づき当該周波数に対応して生成する基準時間領域信号生成手段を備え、
前記基準時間領域信号が、機器が動作する周波数に基づいて分類され、
前記検出手段が機器の周波数に基づき当該周波数に対応して検出する診断対象の原時間領域信号について、前記異常分析手段が周波数に対応する前記特定時間間隔及び前記特定位相を同じくする前記基準時間領域信号に基づいて異常判定して機器の異常を分析する構成で、
前記異常分析手段が、稼働頻度が異なる前記機器の周波数間に関し、前記稼働頻度に従った異なる基準で機器の異常を分析する異常分析装置。
【請求項2】
周期的に動作する機器が発する原時間領域信号を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出される原時間領域信号に基づいて機器の異常を分析する異常分析手段とを備え、
前記検出手段により検出されるとともに、正常な機器が発する原時間領域信号から抽出される特定時間間隔及び特定位相の時間領域信号を正常時時間領域信号として記憶する記憶部を備え、
当該記憶部に順次記憶される前記正常時時間領域信号に基づいて診断基準とする基準時間領域信号を、機器の周波数に基づき当該周波数に対応して生成する基準時間領域信号生成手段を備え、
前記基準時間領域信号が、機器が動作する周波数に基づいて分類され、
前記検出手段が機器の周波数に基づき当該周波数に対応して検出する診断対象の原時間領域信号について、前記異常分析手段が周波数に対応する前記特定時間間隔及び前記特定位相を同じくする前記基準時間領域信号に基づいて異常判定して機器の異常を分析する構成で、
前記異常分析手段が、稼働頻度が異なる前記機器の周波数間に関し、前記機器の稼働頻度が高い領域程、細かく分類された前記基準時間領域信号に基づいて異常判定する異常分析装置。
【請求項3】
前記原時間領域信号の自己相関を求める自己相関導出手段と、
前記自己相関導出手段により導出される自己相関に基づいて、前記特定位相の時間領域信号を抽出する抽出手段とを備え、
前記異常分析手段が、前記特定時間間隔及び前記特定位相を同じくする前記基準時間領域信号に基づいて機器の異常を分析する請求項1又は2記載の異常分析装置。
【請求項4】
前記抽出手段が、前記自己相関が最大となる抽出第1タイミングと、続いて自己相関が最大となる抽出第2タイミングとの間における時間領域信号を、前記原時間領域信号から前記特定時間間隔及び特定位相の時間領域信号として抽出する請求項記載の異常分析装置。
【請求項5】
前記原時間領域信号から、異常分析の対象とする周波数帯域を外れる信号成分を排除する帯域外信号排除手段を備えた請求項1~のいずれか一項記載の異常分析装置。
【請求項6】
前記異常分析手段が、前記基準時間領域信号に基づいて構築されたオートエンコーダにより診断対象の時間領域信号の異常度を算出して、前記機器の異常を分析する請求項1~5の何れか一項記載の異常分析装置。
【請求項7】
前記異常分析手段が、周波数毎に分類された前記基準時間領域信号に基づいて構築されたオートエンコーダにより診断対象の時間領域信号の異常度を算出して、前記機器の異常を分析する請求項1~6の何れか一項記載の異常分析装置。
【請求項8】
前記原時間領域信号が前記検出手段により逐次検出されるとともに、逐次検出される原時間領域信号に基づいて前記オートエンコーダが逐次前記異常度を算出する構成で、
前記逐次算出される異常度の変化傾向に基づいて機器の異常を分析する請求項6または7記載の異常分析装置。
【請求項9】
前記異常度の変化傾向に基づいて機器の異常を分析するに、
前記異常度の算出間隔より長い時間間隔において、異常度が増加傾向を示す、大きく変わらない、減少傾向を示すとの異常度の変化傾向を判別し、異常度が増加傾向を示す場合に異常があると分析する請求項8記載の異常分析装置。
【請求項10】
前記機器が動作する周波数を検出する周波数検出手段と、前記周波数検出手段により検出される周波数を記憶する記憶部を備えるとともに、
前記周波数検出手段により検出される周波数に基づいて算出された特定時間間隔の時間領域信号であって、特定位相を同じくする時間領域信号間において、前記異常分析手段が機器の異常を分析する請求項1~の何れか一項記載の異常分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期的に動作する機器が発する原時間領域信号を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出される原時間領域信号に基づいて、学習を伴って機器の異常を分析する異常分析手段とを備えた異常分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の異常分析装置が特許文献1、特許文献2に開示されている。
特許文献1に開示の技術では、ポンプやブロア等のモーター等(本発明の機器に相当)の回転機械の異常を検知するため、音・振動信号(本発明の原時間領域信号)から、スペクトル、歪み度、尖り度、波高率、極小値率、極大値率、最大値率、安定指数、周波数波高率、透過帯域、周波数高低比等の特徴量を抽出し、正常時に対する逸脱に対して閾値を設けて、機器の異常を判定する。
【0003】
特許文献2に開示の技術では、回転数に応じて取得した周波数特性を基にクラスタ分析を実行し、異常を監視する。
【0004】
これら技術は、基本的には、機械学習手法を用いる回転機器を備えた装置の異常分析技術といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4369321号公報
【文献】特開2018-138909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えばエンジン等、燃焼を伴って動作する回転機器では、モーター等の定常的な回転動作をする機器と異なり、異常燃焼に伴う部分的な波形の乱れが生じることがある。この様な信号を対象とする場合、FFT分析等によって周波数領域で特徴量を抽出して異常分析を行うと、特徴量の抽出過程で時間情報を喪失してしまい、部分的或いは瞬時的な事象の変化を見逃し、異常分析が良好に行えない場合が生じる。
【0007】
この課題をここで簡単に説明しておく。
異常分析装置としてオートエンコーダを使用して異常度を求めた場合の結果を、図14図4に示した。
【0008】
オートエンコーダを使用する場合の異常分析では、機器が正常な状態で観察されるn個の波形データ(領域信号を量子化したもの)と、診断対象となる時点で観察されるn個の波形データとの差に基づいて、異常か否かを診断する。
【0009】
具体的には、オートエンコーダは、入力層、中間層及び出力層からなり、入力層に入力された信号を出力層で再現する。入力層と出力層のノード数は同一とされる。一方、中間層は入力層よりも少ないノード数とされる。中間層へは次元圧縮が行われ、入力信号の特徴を最もよく表した特徴点が抽出される。出力層はその抽出された特徴点を基に次元復元を行う。次元圧縮、次元復元方法は、正常状態で、機器が動作しているときのn個の波形データを使って学習を繰り返すことにより構築できる。
【0010】
このようにして学習済のオートエンコーダに、正常な状態の波形データを入力した場合、特徴点と復元方法が適合するため、復元が適正に行われる。一方、正常な波形データと異なる異常な波形データを入力した場合、本来抽出すべき特徴点も復元方法も異なるため復元をうまく行うことができない。
【0011】
オートエンコーダの中間層の式は、例えば式1とすることができる。式1において、Wは重み係数、bはバイアスを示す。f(x)は活性化関数であり、Rele関数を用いることができる。f(x)=max(0,x)であり、入力した値が0以下のとき0になり、1より大きいとき入力をそのまま出力する。
【0012】
=f(ΣWij+b) Σはj=1~Nの合算 式1
【0013】
オートエンコーダの学習は、n個の波形データを対象として入力及び出力とする教師データを用いて入力と出力との差が最小になるように重み係数Wとバイアスbを変動させることで、その学習を完了することができる。
【0014】
このように、正常な波形データを用いて構築されるオートエンコーダを用いて、次元圧縮及び次元復元を伴った復元のずれ量を監視することで、機器の異常を診断することができる。例えば、下記する式2の異常度Eを求めて復元のずれ量から異常を診断できる。異常度Eが所定の閾値を超えたときに異常とする。入力値と出力値との差が大きいと、異常度Eは大きな値となる。式2において、xは入力値、x’は出力値を示す。
【0015】
E=SQRT(Σ(x’―x) Σはi=1~nの合算 式2
【0016】
以下に示す本例では、オートエンコーダとしての解析ツールはpythonで実施した。このオートエンコーダのライブラリは、Googleが開発した機械学習ライブラリTensorFlowに組み込まれているニューラルネットワークライブラリKerasを使用している。
【0017】
図14に示した結果は、分析対象とする原時間領域信号を周波数変換して、得られた周波数領域の波形データに基づいて異常分析を行い、異常度(絶対平均誤差)を求めたものである。図において、横軸は時刻である。
【0018】
この図からも判明するように、異常度は、そのほぼ全時刻において0.01~0.02に分布し、「起動時評価点」と記載している時刻15.00過ぎに0.10より高い値となっている。この図において、「学習妥当性確認」と記載しているのは、機器が正常な状態でオートエンコーダを構築した時点を示しており、このオートエンコーダでは、良好な入出力関係(異常度が0.015)を確保できた。
【0019】
一方、図4は、後に示す本発明の手法に従って、オートエンコーダを使用して分析した結果である。図面の表記は同様である。結果、異常度のベースレベルが上昇するとともに、図14において、異常度の上昇が認められなかった時刻においても、異常度の変化が認められる(例えば、1日目の8;00以降、2日目の11;00前)。
このような状況から周波数領域での異常分析には改善の余地がある。
【0020】
以上、本発明の主たる課題は、異常分析を高感度で行うことができる異常分析装置を得ることことにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の第1特徴構成は、
周期的に動作する機器が発する原時間領域信号を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出される原時間領域信号に基づいて機器の異常を分析する異常分析手段とを備え、
前記検出手段により検出されるとともに、正常な機器が発する原時間領域信号から抽出される特定時間間隔及び特定位相の時間領域信号を正常時時間領域信号として記憶する記憶部を備え、
当該記憶部に順次記憶される前記正常時時間領域信号に基づいて診断基準とする基準時間領域信号を生成する基準時間領域信号生成手段を備え、
前記基準時間領域信号が、機器が動作する周波数に基づいて分類され、
前記検出手段が検出する診断対象の原時間領域信号について、
前記異常分析手段が、前記特定時間間隔及び前記特定位相を同じくする前記基準時間領域信号に基づいて機器の異常を分析する点にある。
【0022】
異常分析装置には、検出手段、異常分析手段、記憶部、及び基準時間領域信号生成手段を備える。
【0023】
検出手段は、原時間領域信号を検出して取り込む手段である。そして、このようにして取り込まれた原時間領域信号は異常分析手段による異常分析に使用する。
また、機器が正常な状態から得られる時間領域信号が正常時時間領域信号であり、診断を行おうとする時点で取り込まれる原時間領域信号から得られる信号が診断対象の時間領域信号となる。
【0024】
さて、上記の正常時時間領域信号は、原時間領域信号に対して、特定時間間隔、特定位相のものとされる。ここで、特定時間間隔は、その時間間隔を機器が動作している周波数を代表するものとする。さらに、位相は、時間領域信号間で特定位相に合致したものとすることで、時間領域信号間での特徴量の抽出において、動作に周期性を有する機器の合理的な異常分析を行える。
【0025】
基準時間領域信号生成手段は、順次記憶される正常時時間領域信号に基づいて診断基準とする基準時間領域信号を生成するが、この生成に当たって、信号間では、その時間間隔が特定時間間隔に、その位相が特定位相とされているため、機器が動作する周波数で発生する信号であって、ノイズの少ない信号から異常分析で診断基準とする好ましい信号と得ることができる。
【0026】
そして、診断を行おうとする時点で取り込まれた原時間領域信号から診断対象の時間領域信号を得て、上記診断基準となっている正常時時間領域信号を使用して異常分析を行うことにより、時間情報を生かして分析の確度が高く、例えば、異常分析手段として、オートエンコーダを使用する場合、感度の高い異常値を得て診断を行える。
【0027】
結果、異常分析が高感度で行え、例えば、エンジン等、燃焼を伴った動作において異常の程度を良好に分析することが可能となる。
【0028】
本発明の第2特徴構成は、
前記原時間領域信号の自己相関を求める自己相関導出手段と、
前記自己相関導出手段により導出される自己相関に基づいて、前記特定位相の時間領域信号を抽出する抽出手段とを備え、
前記異常分析手段が、前記特定時間間隔及び前記特定位相を同じくする前記基準時間領域信号に基づいて機器の異常を分析する点にある。
【0029】
この構成では、自己相関導出手段により時間領域信号の自己相関を求める。このようにして時間領域で求められる自己相関から、例えば、自己相関が強いタイミング間の情報として、信号間において特定位相を同じくする時間領域信号を抽出手段が抽出する。結果、異常分析手段は、このようにして抽出された特定位相を同じくする信号を対象として、異常分析を適格に実行できる。
【0030】
本発明の第3特徴構成は、
前記抽出手段が、前記自己相関が最大となる抽出第1タイミングと、続いて自己相関が最大となる抽出第2タイミングとの間における時間領域信号を、前記原時間領域信号から前記特定時間間隔及び特定位相の時間領域信号として抽出する点にある。
【0031】
原時間領域信号が周期性を有している場合、信号の自己相関を取ると、その周期(例えば、時間領域信号がエンジンが発する音や振動である場合、そのエンジンの回転数(回転速度)がこの周期に対応する)に依存した自己相関の強弱が現れる。そこで、自己相関が最大となるタイミングと、そのタイミングから引き続くタイミングまでの時間領域信号を順に抽出することにより、周期性を有する時間領域信号から、特定位相が合った信号を、簡便に抽出することができる。ここで、次のタイミングは厳密に1周期で引き続いている必要はなく、例えば数周期分のタイミング間隔となっていてもよい。
【0032】
さらに、ここでは信号間での特定位相に関して述べているが、抽出される時間領域信号の時間間隔(上記の抽出第1タイミングから抽出第2タイミングまでの時間間隔)は、周期に対応した情報となっており、この時間間隔が特定時間間隔となることで時間間隔は統一される。
【0033】
本発明の第4特徴構成は、
前記原時間領域信号から、異常分析の対象とする周波数帯域を外れる信号成分を排除する帯域外信号排除手段を備えた点にある。
【0034】
特定の機器にあっては、経験的に、どの周波数帯域で異常が発生しやすい等が知られているのが通常である。
そこで、この周波数帯域に注目して、異常分析を行うことが合理的且つ無駄がない。結果、診断の迅速性、信頼性が向上する。
即ち、帯域外信号排除手段を備えて、周波数帯域を外れる信号成分を排除することで、高性能な異常分析装置を得ることができる。
診断の基準とする基準時間領域信号に関してもノイズ除去して、合理的な診断を行える。
【0035】
本発明の第5特徴構成は、
前記基準時間領域信号の分類項目に、前記機器の稼働頻度が含まれ、
前記異常分析手段が、前記稼働頻度に従った異なる基準で機器の異常を分析する点にある。
【0036】
本発明が対象とする機器では、運転される周波数によって、その稼働頻度が異なる。
例えば、定格運転周波数での稼働頻度は高く、起動時、停止時に、一時的に通過する周波数の稼働頻度は低い。さらに、起動時、停止時にあっても、例えば、起動時にあっては、比較的低周波数の領域で暫く動作された後、一気に定格運転周波数まで上昇される(停止時は逆となる)。従って、この上昇過程において通過する中間周波数領域の稼働頻度は極めて低い。
【0037】
このように稼働頻度の異なる信号間では、稼働頻度の高い周波数で得られる正常時の時間領域信号は、その度数が極めて高いためその信頼性が高く、稼働頻度の低い周波数で得られる正常時の時間領域振動は信頼性が低い。
【0038】
そこで、異常分析において、信頼性の高い側の正常時の時間領域信号に基づいた分析を行う場合の異常分析は、閾値を診断評価が厳しくなる側に、低い側のそれは緩い側にする等、基準を異ならせることで、合理的な異常分析を行える。
【0039】
本発明の第6特徴構成は、
前記異常分析手段が、前記基準時間領域信号に基づいて構築されたオートエンコーダにより前記診断対象の時間領域信号の異常度を算出して、前記機器の異常を分析する点にある。
【0040】
この構成を採用しておくと、オートエンコーダに於ける処理を経て得られる異常度を利用して、容易且つ簡便に適切な診断を行うことができる。
【0041】
本発明の第7特徴構成は、
前記異常分析手段が、周波数毎に分類された前記基準時間領域信号に基づいて構築されたオートエンコーダにより診断対象の時間領域信号の異常度を算出して、前記機器の異常を分析する点にある。
【0042】
この構成を採用しておくと、周波数毎にオートエンコーダを構築して、異常分析を行うことで、各周波数において信頼性の高い異常分析を行える。
【0043】
本発明の第8特徴構成は、
前記原時間領域信号が前記検出手段により逐次検出されるとともに、逐次検出される原時間領域信号に基づいて前記オートエンコーダが逐次前記異常度を算出する構成で、
前記逐次算出される異常度の変化傾向に基づいて機器の異常を分析する点にある。
【0044】
この構成を採用しておくと、異常度の変化傾向に従った適格な異常分析を行える。
【0045】
本発明の第9特徴構成は、
前記異常度の変化傾向に基づいて機器の異常を分析するに、
前記機器のログデータである運転履歴を参照して前記機器の異常を分析する点にある。
【0046】
この構成を採用しておくと、機器の運転履歴と異常度との関係に基づいて適格な異常分析を行える。
【0047】
本発明の第10特徴構成は、
前記基準時間領域信号の分類項目に、前記機器の稼働頻度が含まれ、
前記機器の稼働頻度が高い領域程、細かく前記基準時間領域信号が分類されている点にある。
【0048】
この構成を採用すると、稼働頻度が高い領域に関して、上記の区切りを細かく取り、稼働頻度が低い領域において、区切りを荒く取ることで、各区切り間での異常分析の均一化を稼働頻度に適合したものとできる。
【0049】
本発明の第11特徴構成は、
前記機器が動作する周波数を検出する周波数検出手段と、前記周波数検出手段により検出される周波数を記憶する記憶部を備えるとともに、
前記周波数検出手段により検出される周波数に基づいて算出された特定時間間隔の時間領域信号であって、特定位相を同じくする時間領域信号間において、前記異常分析手段が機器の異常を分析する点ある。
【0050】
この構成を採用すると、周波数検出手段により検出される周波数に基づいて特定時間間隔を特定するとともに、その特定時間間隔の時間領域信号間で位相が特定位相に合致した信号を使用して異常を分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明に係る異常分析装置の機能ブロック図
図2】原時間領域信号の例を示す図
図3図2に示す原時間領域信号の自己相関及び時間領域信号の取り込み形態例を示す図
図4】本発明に係るオートエンコーダによる異常分析結果を示す図
図5】稼働頻度の収集例を示す図
図6】異常度の低い時刻のエンコード-デコード関係を示す図
図7】異常度の低い時刻のエンコード-デコード関係を示す図
図8】異常度の高い時刻のエンコード-デコード関係を示す図
図9】エンジン起動時の状態を示す図
図10】主成分分析で2次元に変換した図
図11図10に示すエンジン起動時のカーネル密度推定図
図12】別実施形態に係る異常分析装置の機能ブロック図
図13】異常分析部におけるオートエンコーダの構築例を示す説明図
図14】周波数領域で実行したオートエンコーダによる異常分析結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、図面に基づいて本発明に係る異常分析装置100を説明する。
図1は、本発明に係る異常分析装置100の機能ブロック図であり、機能ブロック内に、主な機能手段を記載している。
【0053】
異常分析装置100は、周期的に動作する機器1が発する原時間領域信号Sに基づいて当該機器1を、学習を伴って診断する異常分析装置として構成されており、図1、左上に診断対象となる機器1の例として、機器がエンジンである例を示している。これまでも説明してきたように、エンジンは周期的な動作を行うとともに、その起動・停止・運転条件負荷等に発する信号(音・振動等)の周波数が変わる。さらに、エンジンは内部に燃焼系を備えるため、極めて短時間しか発生しない異常燃焼等の事象を伴う。この種の信号は時間領域の信号であり、検出手段としてのセンサ2により検出される。
従って、本異常分析装置100では、この機器1から発する音響、振動等を検出して、その原時間領域信号Sに基づいて異常分析を行う。
【0054】
異常分析装置100の主要構成であるが、学習を伴って診断を行う機能として、原時間領域信号Sの前処理を行う前処理部10、前処理部10により処理された時間領域信号sを記憶する記憶部20、機器1の診断時に前処理部10を経て送られてくる時間領域信号s(診断対象となる第1時間領域信号s1)を受けとって異常分析を行う異常分析部30を備えて構成されている。
【0055】
図示するように、前処理部10は、原時間領域信号Sをフィルター処理するとともに、フィルター処理後の原時間領域信号Sを本発明独特の手法に従って処理する部位であり、その機能は、原時間領域信号Sから、少なくともその位相(本発明における特定位相)を同じくする時間領域信号sを抽出する部位である。
【0056】
このようにして抽出された時間領域信号sは、記憶部20及び異常分析部30へ送られる。
【0057】
ここで、診断対象とする時点で、異常分析部30の送られてくる時間領域信号sが診断の対象とする第1時間領域信号s1となる。一方、記憶部20に送られた時間領域信号sは、ログデータに関連つけられてログ対応データ記憶部21に記憶されるとともに、ログデータに付随した一の分類基準とされる稼働頻度別データにも関連づけられて稼働頻度別データ記憶部22に記憶される。
【0058】
記憶部20に記憶される時間領域信号sは診断においてその基準となり、予め正常と判明している時点での時間領域信号sが第2時間領域信号s2とされる。この第2時間領域信号s2は本発明における正常時時間領域信号である。
【0059】
下記する例では、異常分析部30において、異常度の算出を、一定時間間隔で逐次連続して入力される第1時間領域信号s1(s)を対象として実行する。
【0060】
以下、前処理部10(第1前処理部11、第2前処理部12)、記憶部20(ログ対応データ記憶部21、稼働頻度別データ記憶部22)、異常分析部30(異常度算出部30a、異常判定部30b)の順に説明する。
【0061】
図1に示すように、前処理部10は第1前処理部11、第2前処理部12を備えて構成されている。
〔第1前処理部〕
第1前処理部11は原時間領域信号Sをフィルター処理する部位であり、フィルターとしては、ローパスフィルター(LPF),ハイパスフィルター(HPF),バンドパスフィルター(BPF)或いはバンドエリミネーションフィルター(BEF)等を適宜組み合わせて使用する。図1には、これらフィルターを纏めて帯域外信号排除手段と表現した。
【0062】
このようなフィルター処理が合理的な理由は、通常、異常分析の対象とする機器1にあっては、異常の発生する周波数(異常が起こりやすい周波数帯域)は予め判明している場合が多く、異常分析の対象とする周波数帯域を外れる信号成分を適宜排除することで、無駄なノイズを除外した分析が行うためである。
【0063】
〔第2前処理部〕
第2前処理部12には、信号処理用のソフトとして構築されている自己相関導出手段12aと、この自己相関導出手段12aにより導出される時間領域信号の自己相関から、位相を同じくする信号を抽出する抽出手段12bが備えられている。
【0064】
図2には、特定日時の取り込み時間が0、01秒間隔で異なる原時間領域信号S(S1,S2,S3)の3例を示した。
図3は、図2に示した取り込み時刻が異なる原時間領域信号S(S1,S2,S3)の自己相関をそれぞれ線種を変えて示した。自己相関R(Δt)は、以下の式3で求められる。
【0065】
R(Δt)=Σ{S(t)・S(t+Δt)}/{S(t)・S(t)}
Σはt=1~Nの合算 式3
ここで、Δtは時間幅、Nはサンプル数
【0066】
抽出手段12bは、自己相関が最大となる抽出第1タイミングt11、t21、t31と、引き続いて自己相関が最大となる抽出第2タイミングt12、t22、t32との間における原時間領域信号Sを、時間領域信号sとして抽出する。図3の左上に示す、タイミング間隔T1(t11-t12)の時間領域信号s、T2(t21-t22)の時間領域信号s、T3(t31-t32)の時間領域信号sが、抽出された時間領域信号sとなる。このタイミング間隔を本発明では特定時間間隔と呼んでおり、この特定時間間隔は、機器1の運転において、その周波数に対応した情報となっている。
【0067】
このような抽出形態を採る場合、抽出第1タイミングt11、t21、t31と抽出第2タイミングt12、t22、t32との間の時間間隔が例えば0.067secと同一であることから、時間領域信号s間でその周波数は変化していない。また、自己相関が最大となるタイミングを抽出の始点及び終点とすることから、信号相互間(例えばT1とT2)で位相が一致する。従って、この場合は、これら時間領域信号s、s間でも異常判定が可能となる。即ち、特定時間間隔及び特定位相を同じくする時間領域信号sが抽出されている。
【0068】
ただし基本的には、診断対象とする時間領域信号(第1時間領域信号s1)の取り込み時点と、基準とする正常時の時間領域信号(第2時間領域信号s2であり本発明における正常時時間領域信号)の取り込み時点とが離れているため、周波数に対応する特定時間間隔及び特定位相を同じくする時間領域信号s1、s2間で異常判定を行う。
【0069】
図1に示す実施形態の場合、ログデータ側に周波数データが記憶され、診断時の時間領域信号s1に対する周波数及び位相同一の条件の満たす時間領域信号sを使用して、両者で異常判定を行うことができる。
【0070】
〔記憶部〕
以下、このような正常時の時間領域信号(第2時間領域信号s2)を主に記憶する記憶部20の構成に関して説明する。
【0071】
図1に示すように、記憶部20には、ログ対応データ記憶部21と、稼働頻度別データ記憶部22とを備えて構成されている。
【0072】
ここでデータと呼んでいる情報は、逐次収集される原時間領域信号Sを前処理して、所定の情報(ログデータ及びこのログデータに対応する稼働頻度)に関連づけして分類平均化した時間領域信号sである。この信号が診断基準とする基準時間領域信号であり、この信号は基準時間領域信号生成手段により生成する。
【0073】
図1からも判明するように、記憶部20には、逐次、機器1の動作に従って検出されるログデータLD、第2前処理部12で処理された時間領域信号s、及び異常判定部30bでの判定結果が入力される。
【0074】
ログデータLDは具体的には、対象日時、当該日時でのエンジン回転数(時間領域信号sの周波数に相当)、吸気温度、機関負荷率、燃料ガス圧等である。
時間領域信号sは、先に図1で説明した原時間領域信号Sから前処理を経て得られる信号である。
【0075】
記憶部20には、逐次求められる異常度と、その異常度に基づいた異常判定結果も入力されることから、記憶対象とする過去のデータが正常時のものか、異常時のものかの属性に従って分類可能となっている。結果、少なくとも正常時の時間領域信号s(第2時間領域信号s2)に関して、過去データの蓄積・平均化が可能となっている。
【0076】
〔ログ対応データ記憶部〕
ログ対応データ記憶部21では、上記のようにして蓄積される時間領域信号sが、各種ログデータLD(エンジン回転数、吸気温度、機関負荷率、燃料ガス圧等)に関連づけられて記憶されており、各種ログデータLDを特定することで、そのログデータLDに関連付けられた時間領域信号s(平均化された信号)を第2時間領域信号s2として引き出すことができる。当然、周波数が特定されれば、対応するエンジン回転数に基づいて、その周波数の第2時間領域信号s2を引き出せる。
結果、このログ対応データ記憶部21に記憶されている情報(診断対象とする第1時間領域信号s1に対して周波数に対応する特定時間間隔及び特定位相を同じくする正常時の第2時間領域信号s2)を、異常判定部30bでの異常判定に使用することができる。
【0077】
〔稼働頻度別データ記憶部〕
異常分析装置100では、上記の様々な分類項目について、別途、その稼働頻度を収集している。従って、ログ対応データ記憶部21に分類蓄積されるデータは、その分類の稼働頻度に関連づけられる。図5に、横軸を出力、縦軸を回転数(回転速度;これまで説明してきた周波数に相当)として、その稼働頻度を高さ方向に取った例を示した。この例では出力と回転数とが一定の線形関係を満たす範囲で稼働頻度が高いことが分かる。従って、この記憶部20は、正常時の時間領域信号であって、機器1が異なった稼働頻度で運転される周波数で分類した正常時・稼働頻度別の時間領域信号sを備えている。
【0078】
〔異常分析部〕
異常分析部30は、異常度算出部30aと異常判定部30bとを備えて構成されている。この異常分析部30は、本発明における異常分析手段となる。
【0079】
図1に示す例は、異常分析を所謂オートエンコーダを使用して、逐次、異常度を算出しながら異常分析を行う例である。
【0080】
〔オートエンコーダの構築〕
オートエンコーダの構築は、例えば、工場出荷時といった機器1が正常な状態で、実行される。即ち、正常状態でセンサ2から出力信号を取り込み、第1前処理部11、第2前処理部12を経て、位相を同じくする時間領域信号sを取得しておく。この時、周波数を変更しないことで、位相を同じくする時間領域信号sを順次自動的に取り込むことができる。そして、このような時間領域信号sを利用して、先に説明した手法に従って、オートエンコーダが初期的に構築される。診断時には、このオートエンコーダの入力として、診断対象の時間領域信号sを入力することで、次元圧縮(エンコード)・復元(デコード)による処理を経て得られる出力から、診断対象の時間領域信号sの異常度を得ることができる。
【0081】
オートエンコーダの構築は、少なくとも周波数毎(特定時間間隔毎)に分類して記憶される正常時の時間領域信号sに基づいて行うため、この周波数毎(例えば1Hz毎)に別個のオートエンコーダが構築され、周波数毎に個別のオートエンコーダを使用して以下に示す異常度を算出して異常を分析できる。この構成を図14に示した。
【0082】
この周波数毎の区切りに関して、さらに機器の稼働頻度を応じた区切りを採用してもよい。これまでも説明してきたように、記憶部20での記憶形態は、周波数及び周波数に対応し稼働頻度に関連づけられた第2時間領域信号s2を記憶するため、稼働頻度が高い領域に関して、上記の区切りを細かく取り、稼働頻度が低い領域において、区切りを荒く取り、異常分析手段としてのオートエンコーダをこの区切り毎に構築しておくと異常分析の確度を向上するとともに、分析結果を均一化できる。
【0083】
また、このオートエンコーダの構築は、前記のように工場出荷時に行える他、本発明に係る異常分析装置100は異常判定を逐次実行するため、この判定結果を利用して、正常と判定した時間領域信号sを使用して、例えば、周波数及び位相を同じくする時間領域信号sの複数を平均化した平均化信号に基づいて、逐次、オートエンコーダを更新して、信頼性の高い異常判定を行う構成とする。
【0084】
〔異常度算出部〕
異常度算出部30aは、上記のようにして構築されたオートエンコーダと、その入出力の関係から異常度を算出する部位である。
【0085】
図4に、特定5日間に渡って、上記手法に従って算出した異常度算出の結果を示した。
この結果からわかる様に、図14に示す異常度算出結果に対して、異常度のレベルは上昇しており感度が上昇している。
【0086】
〔異常判定部〕
異常判定部30bの判定手法としては、異常度を逐次求めてゆき、この異常度が過大に大きくなった場合を異常と判定する。
【0087】
以下、異常度の導出、異常判定の例を、図6~8に示す具体例を使用して説明する。
これらの図面には、予め得られているオートエンコーダを使用して、時間領域信号sを入出力処理した場合の入力(図上 inputと記載)と出力(図上outputと記載)の関係を示している。図上側に、得られた取得日時及び異常度を示した。さらに図右上は、図4を縮小した図であり、太丸で異常判定の対象とした時刻を示している。
【0088】
図6、7は、異常度の低い時刻の時間領域信号の入出力関係を示す図であり、図8は異常度の高い時刻の入出力関係を示す図である。
【0089】
簡単に整理して記載すると、
図6 ;異常度 0.0432
図7 ;異常度 0.0504
図8 ;異常度 0.104
となっている。
図4及びこれらの図から、例えば、異常度0.1を閾値として異常判定を行えることが分かる。
【0090】
上記は、一定の閾値に基づく判定であるが、この異常度の算出を0.01sec間隔で逐次実行して、異常度が過度に上昇傾向を示した場合に異常と判定することもできる。
【0091】
例えば、異常度の算出間隔0.01secに対してそれより長い時間間隔、例えば5sec程度を設定しておき、この時間間隔の間に、異常度が増加傾向を示す、大きく変わらない、減少傾向を示す等の異常度の変化傾向に基づいて、異常度が増加傾向を示す場合のみ異常があると判断することもできる。この場合、機器1の運転履歴と異常度の変化傾向を比較して異常の分析を行うことが好ましい。
【0092】
〔稼働頻度による異常度判定の重みづけ〕
異常度算出部30a、異常判定部30bにおいては、正常時・稼働頻度別の時間領域信号sに基づいて、異常度の算出基準を稼働頻度に従って変更することで異なる基準で異常分析を実行するように構成されている。
【0093】
図4図8に示した例の場合、時間領域信号sの検出時点は、機器1の動作が継続されており、その稼働頻度が高い状態で運転される時間帯に当たっている。従って、この状態における診断の確度は高いため、異常度の閾値を、先に示した様に1.00として判定することができる。
【0094】
一方、稼働頻度の低い状態での運転では、サンプリング数が少ない等との理由により、診断の確度が低くなり、誤って異常と判定する確率が高くなる。従って、このようなケースにあっては、異常度の閾値を低い側(例えば、0.75)として判定するのが好ましい。
【0095】
この様な稼働頻度に関わる判定の重みづけ手法に関して、オートエンコーダで説明した次元圧縮の概念を行って重みづけを行う例を、以下、具体的に説明する。説明に当たっては、エンジンの起動時の状況を例にとって説明する。
図9に、この様なエンジンの起動時の状態を示した。
同図、実線で「出力」を、一点鎖線で「燃料弁開度」を、さらに破線で「回転数(回転速度)」を示している。横軸は起動開始からの経過時間である。この図は、起動開始(0sec)~出力が所定の値に到達するまでの時間(340sec)までの状態を示した。エンジンの動作にあっては、排ガス流量、排ガス温度、その他の要素も関与するが(影響要素となるが)、それらの要素に関しては省力して説明する。
【0096】
次元圧縮においては、主成分分析の固有ベクトルを求めて圧縮を行う。
主成分である第1主成分PCA1及び第2主成分PCA2は、各影響要素xi,jの寄与度Wi、Wjを使用して、以下のように記載される。ここで、bi,cjは多変量分析の手法に従って適宜決定される。
【0097】
第1主成分PCA1;x=ΣW+b 式4
第2主成分PCA2;y=ΣW+c 式5
【0098】
このようにして求められる固有ベクトル(PCA1,PCA2)での関係を示したのが図10であり、この図において、エンジン起動時の事象は時間経過とともにZ1→Z2→Z3の軌跡を辿る。
【0099】
図11は、このエンジン起動から5時間後まで稼働状態時の要素を主成分分析によって次元圧縮した上で、カーネル密度推定値を主成分分析によって算出したものであり、その出現確率を求めたものである。同図において濃い側が、密度が高い側となる。参考に、同図の右側及び上側に、密度分布を高さに写像して表示している。従って、この図からも分かるように先に説明した重みづけは、カーネル密度推定値×α、その区切り間隔はβ/カーネル密度推定値とできる。ここで、α、βは対象毎に設定する。
【0100】
先にも説明したように、出現確率の高い領域については、この領域に関して求められる異常度をほぼそのまま使用するようにし、出現確率の低い領域については、この領域に関して求められる異常度が低くなるように重み付けすることができる。
【0101】
以上説明したように、本発明に係る異常分析装置100では、予め求められている正常時の時間領域信号(正常時時間領域信号)である第2時間領域信号s2と、診断時の時間領域信号である第1時間領域信号s1との比較において異常分析を行うこととなっている。
【0102】
この構成を採る場合、診断時の時間領域信号と周波数及び位相を、特定時間間隔及び特定位相において同じくする正常時の時間領域信号を基準として分析を行うこととなる。正常時の時間領域信号を使用する場合は、複数の時間領域信号s2の平均化信号を得ておき、これを基準時間領域信号として使用することで、ノイズ除去された正常時時間信号を基準として異常分析を行える。
【0103】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、機器が動作している周波数はログデータLD側から取り込み、自己相関導出手段12a及び抽出手段12bを使用して、時間領域信号sの位相を合すように構成しているが、先にも図3で示したように、本発明に係る時間領域信号sは、その信号長(時間幅)が特定されるため、この時間幅を利用して、その信号の取り込み時の周波数を求めることができる。信号時長をTsecとして、周波数は60/Tとなる。そこで、図12に示す別実施形態では、第2前処理部に備える周波数検出手段としての周波数算出手段12cで行うようにしている。
このようにすることで、原時間領域信号Sから周波数及び位相に関する両情報を得て、時間領域信号sにおける周波数及び位相に対応した、特定時間間隔及び特定位相の同一性を確保して信頼性の高い異常分析を行うことができる。
【0104】
(2)上記の実施形態では、学習を伴った異常分析において、その異常分析手段が実行する分析手法として、オートエンコーダを構築し異常度を算出して異常分析を行う方法を採用したが、本発明の主眼は、時間領域信号において、周波数及び位相に対応した、特定時間間隔及び特定位相の合致した信号間での異常分析を行うことにあり、異常分析手法としては、オートエンコーダによる手法の他、one-class SWN等の手法を採用することも可能である。
【0105】
(3)上記の実施形態では、時間領域信号間における位相を合わせるのに、順次、自己相関が最大となるタイミングを利用したが、例えば、時間領域信号を平滑化した信号を対象として、その信号の微分値の増加側ゼロ切点が特定の位相を抽出の起点とする、その他、様々な手法を採用することができる。
【0106】
(4)上記の実施形態では、機器1としてエンジンの例を挙げたが、ガスタービン等の異常分析も行うことができる。
【符号の説明】
【0107】
1 エンジン(機器)
10 前処理部(前処理手段)
11 第1前処理部(帯域外信号排除手段)
12 第2前処理部
12a 自己相関導出手段
12b 抽出手段
12c 周波数算出手段(周波数検出手段)
20 記憶部
21 ログ対応データ記憶部
22 稼働頻度別データ記憶部
30 異常分析部(異常分析手段)
30a 異常度算出部(異常度算出手段)
30b 異常判定部(異常判定手段)
S 原時間領域信号
s 時間領域信号
s1 第1時間領域信号(時間領域信号)
s2 第2時間領域信号(時間領域信号・正常時時間領域信号)
LD ログデータ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14