(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】バランサおよびバランサシステム
(51)【国際特許分類】
B60M 1/26 20060101AFI20231128BHJP
H02G 7/02 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
B60M1/26 L
H02G7/02
(21)【出願番号】P 2020063175
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮 実
(72)【発明者】
【氏名】種子田 大幸
(72)【発明者】
【氏名】田見 憲一朗
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 啓修
(72)【発明者】
【氏名】茄子田 真也
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-328025(JP,A)
【文献】特開平07-156699(JP,A)
【文献】特開2009-179309(JP,A)
【文献】特開平08-278215(JP,A)
【文献】特開平08-216739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/26
H02G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車のパンタグラフと接触するトロリー線を含む線材の張力を調整するアクチュエータと、
前記線材および前記アクチュエータの間に設けられ、前記線材の張力を検出する張力センサと、
前記張力センサが検出した前記線材の張力に基づいて、前記アクチュエータを制御する駆動制御部と、
を備え
、
前記駆動制御部は、前記電車が制御対象の前記トロリー線を通過する時刻よりも所定の時間だけ前の時刻に、前記張力センサに前記線材の張力を検出させ、検出した張力に基づいて前記アクチュエータを制御する、
ことを特徴とするバランサ。
【請求項2】
前記アクチュエータは、
油圧シリンダと、
前記油圧シリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧シリンダに対して進退自在に設けられ、前記油圧シリンダに供給される前記作動油によって移動するピストンロッドと、
を有することを特徴とする請求項1に記載のバランサ。
【請求項3】
前記駆動制御部は、設定された張力に調整した後の前記ピストンロッドの位置をもとに、前記線材の伸びを検出する、
ことを特徴とする請求項2に記載のバランサ。
【請求項4】
前記駆動制御部は、前記線材を経由して、組をなす他のバランサに伝送した信号の伝送時間をもとに、前記線材の摩耗を検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のバランサ。
【請求項5】
前記駆動制御部は、組をなす他のバランサの張力に関する情報を取得し、当該駆動制御部を有する自バランサと、前記他のバランサとにおける各アクチュエータの駆動量を算出する、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のバランサ。
【請求項6】
前記ピストンロッドを防錆する防錆機構、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のバランサ。
【請求項7】
前記防錆機構は、前記ピストンロッドを不活性ガス雰囲気下で密封する、
ことを特徴とする請求項6に記載のバランサ。
【請求項8】
前記防錆機構は、前記ピストンロッドに防錆油を塗布する、
ことを特徴とする請求項6に記載のバランサ。
【請求項9】
電車のパンタグラフと接触するトロリー線を含む線材の一端に接続し、該線材の張力を調整する第1のバランサと、
前記第1のバランサと同一の線材の他端に接続し、該線材の張力を調整する第2のバランサと、
を備え、
前記第1のバランサは、
前記線材の張力を調整する第1のアクチュエータと、
前記線材および前記第1のアクチュエータの間に設けられ、前記線材の張力を検出する第1の張力センサと、
前記第1の張力センサが検出した前記線材の張力に基づいて、前記第1のアクチュエータを制御する第1の駆動制御部と、
前記第2のバランサと通信する第1の通信部と、
を有し、
前記第
2のバランサは、
前記線材の張力を調整する第2のアクチュエータと、
前記線材および前記第2のアクチュエータの間に設けられ、前記線材の張力を検出する第2の張力センサと、
前記第2の張力センサが検出した前記線材の張力に基づいて、前記第2のアクチュエータを制御する第2の駆動制御部と、
前記第1のバランサと通信する第2の通信部と、
を有
し、
前記第1および/または第2の駆動制御部は、前記電車が制御対象の前記トロリー線を通過する時刻よりも所定の時間だけ前の時刻に、前記第1および第2の張力センサに前記線材の張力を検出させ、検出した張力に基づいて前記第1および第2のアクチュエータを制御する
、
ことを特徴とするバランサシステム。
【請求項10】
前記第1の駆動制御部は、前記線材を経由して前記第2のバランサに伝送した信号の伝送時間をもとに、前記線材の摩耗を検出する、
ことを特徴とする請求項
9に記載のバランサシステム。
【請求項11】
前記第1の駆動制御部は、前記第2のバランサの張力に関する情報を取得し、当該第1のバランサと、前記第2のバランサとにおける各アクチュエータの駆動量を算出する、
ことを特徴とする請求項
9または
10に記載のバランサシステム。
【請求項12】
前記第1のアクチュエータは、
第1の油圧シリンダと、
前記第1の油圧シリンダに第1の作動油を供給する第1の油圧ポンプと、
前記第1の油圧シリンダに対して進退自在に設けられ、前記第1の油圧シリンダに供給される前記第1の作動油によって移動する第1のピストンロッドと、
を有し、
前記第2のアクチュエータは、
第2の油圧シリンダと、
前記第2の油圧シリンダに第2の作動油を供給する第2の油圧ポンプと、
前記第2の油圧シリンダに対して進退自在に設けられ、前記第2の油圧シリンダに供給される前記第2の作動油によって移動する第2のピストンロッドと、
を有することを特徴とする請求項
9~
11のいずれか一つに記載のバランサシステム。
【請求項13】
前記第1の駆動制御部は、前記第1のアクチュエータの制御情報と、前記第1の張力センサによる検出結果とに基づいて、設定張力を変更し、
前記第2の駆動制御部は、前記第2のアクチュエータの制御情報と、前記第2の張力センサによる検出結果とに基づいて、設定張力を変更する、
ことを特徴とする請求項
9に記載のバランサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランサおよびバランサシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電車には、屋根上にある集電装置(パンタグラフ)が架線のトロリー線と接し、このトロリー線から電気エネルギーが供給される。電車への給電を安定させるためには、架線の張力が一定であることが望まれる。そのため、温度や摩耗によって変化する張力を一定になるように調整するバランサが用いられる(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1が開示するバランサは、張力を調整する方向に伸縮するコイルばねを複数設けることによって、架線の張力を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電車の高速化に伴って、バランサに要求される性能も高度化する。具体的には、電車の高速化に対応させるため、架線の張力変化率を小さくすることが求められる。しかしながら、特許文献1が開示するバランサは、張力変化率を小さくしようとすると、コイルばねを長くするか、コイルばねの数を増やすことになり、バランサ自体が大型化してしまう。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができるバランサおよびバランサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るバランサは、線材の張力を調整するアクチュエータと、前記線材および前記アクチュエータの間に設けられ、前記線材の張力を検出する張力センサと、前記張力センサが検出した前記線材の張力に基づいて、前記アクチュエータを制御する駆動制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るバランサは、上記の発明において、前記アクチュエータは、油圧シリンダと、前記油圧シリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、前記油圧シリンダに対して進退自在に設けられ、前記油圧シリンダに供給される前記作動油によって移動するピストンロッドと、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るバランサは、上記の発明において、前記駆動制御部は、設定された張力に調整した後の前記ピストンロッドの位置をもとに、前記線材の伸びを検出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るバランサは、上記の発明において、前記駆動制御部は、前記線材を経由して、組をなす他のバランサに伝送した信号の伝送時間をもとに、前記線材の摩耗を検出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るバランサは、上記の発明において、前記駆動制御部は、組をなす他のバランサの張力に関する情報を取得し、当該駆動制御部を有する自バランサと、前記他のバランサとにおける各アクチュエータの駆動量を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るバランサは、上記の発明において、前記ピストンロッドを防錆する防錆機構をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るバランサは、上記の発明において、前記防錆機構は、前記ピストンロッドを不活性ガス雰囲気下で密封することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るバランサは、上記の発明において、前記防錆機構は、前記ピストンロッドに防錆油を塗布することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るバランサは、上記の発明において、前記線材は、電車のパンタグラフと接触するトロリー線を含み、前記駆動制御部は、前記電車が制御対象の前記トロリー線を通過する時刻よりも所定の時間だけ前の時刻に、前記張力センサに前記線材の張力を検出させ、検出した張力に基づいて前記アクチュエータを制御する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るバランサシステムは、線材の一端に接続し、該線材の張力を調整する第1のバランサと、前記第1のバランサと同一の線材の他端に接続し、該線材の張力を調整する第2のバランサと、を備え、前記第1のバランサは、前記線材の張力を調整する第1のアクチュエータと、前記線材および前記第1のアクチュエータの間に設けられ、前記線材の張力を検出する第1の張力センサと、前記第1の張力センサが検出した前記線材の張力に基づいて、前記第1のアクチュエータを制御する第1の駆動制御部と、前記第2のバランサと通信する第1の通信部と、を有し、前記第1のバランサは、前記線材の張力を調整する第2のアクチュエータと、前記線材および前記第2のアクチュエータの間に設けられ、前記線材の張力を検出する第2の張力センサと、前記第2の張力センサが検出した前記線材の張力に基づいて、前記第2のアクチュエータを制御する第2の駆動制御部と、前記第1のバランサと通信する第2の通信部と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るバランサシステムは、上記の発明において、前記第1の駆動制御部は、前記線材を経由して前記第2のバランサに伝送した信号の伝送時間をもとに、前記線材の摩耗を検出することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るバランサシステムは、上記の発明において、前記第1の駆動制御部は、前記第2のバランサの張力に関する情報を取得し、当該第1のバランサと、前記第2のバランサとにおける各アクチュエータの駆動量を算出することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るバランサシステムは、上記の発明において、前記第1のアクチュエータは、第1の油圧シリンダと、前記第1の油圧シリンダに第1の作動油を供給する第1の油圧ポンプと、前記第1の油圧シリンダに対して進退自在に設けられ、前記第1の油圧シリンダに供給される前記第1の作動油によって移動する第1のピストンロッドと、を有し、前記第2のアクチュエータは、第2の油圧シリンダと、前記第2の油圧シリンダに第2の作動油を供給する第2の油圧ポンプと、前記第2の油圧シリンダに対して進退自在に設けられ、前記第2の油圧シリンダに供給される前記第2の作動油によって移動する第2のピストンロッドと、を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るバランサシステムは、上記の発明において、前記第1の駆動制御部は、前記第1のアクチュエータの制御情報と、前記第1の張力センサによる検出結果とに基づいて、設定張力を変更し、前記第2の駆動制御部は、前記第2のアクチュエータの制御情報と、前記第2の張力センサによる検出結果とに基づいて、設定張力を変更する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係るバランサの使用態様の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態1に係るバランサの構成を示す部分断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態1に係るバランサにおける駆動制御部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態1の変形例1に係るバランサにおける駆動制御部の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態1の変形例2に係るバランサの構成を示す部分断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態1の変形例3に係るバランサの構成を示す部分断面図(その1)である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態1の変形例3に係るバランサの構成を示す部分断面図(その2)である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態1の変形例4に係るバランサの構成を示す部分断面図(その1)である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態1の変形例4に係るバランサの構成を示す部分断面図(その2)である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態2に係るバランサの使用態様の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態2の変形例1に係るバランサにおける駆動制御部の構成を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施の形態2の変形例2に係るバランサにおける駆動制御部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るバランサの使用態様の一例を示す図である。電車20には、当該電車20の屋根上にある集電装置(パンタグラフ)21が架線10と接し、この架線10から電気エネルギーが供給される。架線10は、ちょう架線11と、パンタグラフ21と接触して電車20に給電するトロリー線12と、ハンガー13とを有する。トロリー線12は、ちょう架線11に取り付けられるハンガー13に支持される。架線10は、一端が支柱30に固定され、他端がバランサ14に接続される。バランサ14は、支柱30に固定される。架線10は、バランサ14によって、ちょう架線11およびトロリー線12の張力が調整される。電車20への安定した電力供給は、トロリー線12の張力を安定させることが重要である。このため、バランサ14による架線10の張力制御を安定して行うことが求められる。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態1に係るバランサの構成を示す部分断面図である。バランサ14は、筐体141と、油圧シリンダ142と、ピストンロッド143と、張力センサ144と、ロッド145と、油圧ポンプ146と、油圧ホース147と、モータ148と、作動油タンク149と、駆動制御部150とを有する。本実施の形態1では、油圧シリンダ142、ピストンロッド143、油圧ポンプ146、油圧ホース147およびモータ148によってアクチュエータを構成する。
【0025】
筐体141は、油圧シリンダ142、ピストンロッド143、張力センサ144、ロッド145、油圧ポンプ146、油圧ホース147、モータ148、作動油タンク149および駆動制御部150を収容する。筐体141は、ロッド145の一部を外部に延出するとともに、ロッド145の長手方向に進退自在に収容している。
【0026】
油圧シリンダ142は、油圧ポンプ146から油圧ホース147を介して供給される作動油によって、ピストンロッド143を移動させる。油圧シリンダ142では、作動油の供給量に応じて陽圧または陰圧となり、その圧力に応じてピストンロッド143が移動する。
【0027】
張力センサ144は、ピストンロッド143とロッド145との間に介在し、ロッド145の引張力を検出する。この引張力は、架線10の張力に相当する。このため、張力センサ144は、ロッド145を介して架線10の張力を検出する。張力センサ144は、検出値を駆動制御部150に出力する。
【0028】
ロッド145は、一端が張力センサに接続し、他端が架線10に接続する。ロッド145には、筐体141に対する延出量を調整するストッパー145aが設けられる。ストッパー145aは、筐体141の内部に設けられ、ロッド145の移動方向(長手方向)からみた大きさが、筐体141に形成される、ロッド145が貫通する孔部(図示略)の開口の大きさよりも大きい。
【0029】
油圧ポンプ146は、モータ148の駆動にしたがって作動油タンク149内の作動油を油圧ホース147に送り込むか、または、油圧ホース147を介して油圧シリンダ142内の作動油を吸引する。
モータ148は、例えばステッピングモータを用いて構成され、制御部154からのパルス信号にしたがって駆動(回転)し、その回転量が制御される。制御部154は、モータ148の回転量を制御することによって、油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置を把握することができる。
【0030】
続いて、駆動制御部150の構成について、
図3を参照して説明する。
図3は、本発明の実施の形態1に係るバランサにおける駆動制御部の構成を示すブロック図である。駆動制御部150は、張力算出部151と、張力判定部152と、駆動量算出部153と、制御部154と、記憶部155とを有する。駆動制御部150は、基板に回路を実装させることによって実現される。
【0031】
張力算出部151は、張力センサ144と通信可能に接続される。張力算出部151は、張力センサ144から取得した検出値に基づいて、ロッド145に加わる張力を算出する。張力算出部151は、算出した張力を、制御部154に出力する。
【0032】
張力判定部152は、張力算出部151によって算出された張力が、架線10に設定される張力に対して適切か否かを判定する。張力判定部152は、張力算出部151が算出した張力が、閾値を満たすか否かを判定する。なお、閾値としては、上限値と下限値とが設定され、この上限値と下限値との間が、適切な張力であると判定される許容範囲となる。なお、張力判定部152は、予め設定されている張力(基準張力)と、張力算出部151が算出した張力との差を算出し、この差を閾値と比較して、適切な張力であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0033】
駆動量算出部153は、張力が閾値を満たさなかった場合に、ロッド145を移動させるための駆動量を算出する。駆動量算出部153は、張力算出部151が算出した張力に基づいてロッド145の移動方向および移動量を算出し、この移動方向および移動量に応じたモータの駆動量を算出する。駆動量は、例えば出力値である。
駆動量算出部153は、算出された張力が許容範囲よりも小さい場合、ピストンロッド143を油圧シリンダ142内に引き込むことによって架線10の張力を大きくする。これに対し、駆動量算出部153は、算出された張力が許容範囲よりも大きい場合、ピストンロッド143を油圧シリンダ142から排出することによって架線10の張力を小さくする。駆動量算出部153は、例えば、所定の方向への移動量をプラス(+)の値で出力し、その反対方向への移動量をマイナス(-)の値で出力する。
【0034】
制御部154は、バランサ14の各構成部品の動作処理を制御する。制御部154は、例えば、張力センサ144から検出値を取得した際に、架線10の張力調整処理を実施させる。制御部154は、駆動量算出部153が算出した駆動量にしたがって、モータ148を駆動させる。
【0035】
ここで、油圧式では、油圧ポンプ146によってピストンロッド143の位置を維持させても、ピストンロッド143の油圧シリンダ142からの突出量が経時的に変化する。このため、制御部154は、予め設定された間隔でモータ148を制御して、ピストンロッド143の突出量を維持する必要がある。この際、電車20が通過しない間は張力調整を実施せずに、電車20が通過する時刻よりも所定時間前に張力調整処理を実施するようにしてもよい。ここでいう「電車20が通過する時刻」とは、架線10の張力制御によって張力が調整されるトロリー線の区間に、電車20が差し掛かる時刻をさす。
電車の高速走行時の集電性能を高めるためには、トロリー線等において波が伝わる速度である「波動伝搬速度」を高める必要がある。波動伝搬速度(m/s)をc、トロリー線の張力をT、トロリー線の単位長質量(kg/m)をρとすると、波動伝搬速度cは、下式(1)のように表される。
c=√(T/ρ) ・・・(1)
上式(1)より、波動伝搬速度を高めるためには、トロリー線の高張力化等が必要であることが分かる。例えば、事前に電車の近接情報等を取得する等して、通常よりも張力を高めておく等の制御を行ってもよい。また、電車の高速化が年々進んでいるが、上述したように、電車が近付いてきた際に一時的に張力を高めることによって、高速化に対応することが可能である。
従来のばね式バランサでは、高張力化に対応するためには、ばねを大型化する等の必要があるが、本実施の形態の方式を採用するバランサでは、アクチュエータの制動量等によって高張力化が可能であり、バランサを変更せずに、高張力化が可能になる。
【0036】
また、電車20が通過する前後の期間では、数秒単位で張力制御を実施してもよい。電車20が通過すると、トロリー線12とパンタグラフ21との接触によってトロリー線12が揺れ、この揺れの影響によってトロリー線12の張力が変化する。数秒単位で架線10の張力制御を実施することによって、電車20通過時のトロリー線12の揺れに起因する張力変化が生じた場合でも適切な張力を維持することができる。
【0037】
記憶部155は、制御部154が各種動作を実行するためのプログラム(例えば油圧ポンプを駆動するためのプログラム)や、張力の判定処理に関する閾値(許容範囲)等を記憶する。記憶部155は、揮発性メモリや不揮発性メモリを用いて構成されるか、またはそれらを組み合わせて構成される。例えば、記憶部155は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を用いて構成される。
【0038】
張力算出部151、張力判定部152、駆動量算出部153および制御部154は、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の機能を実行する各種演算回路等のプロセッサを用いて構成される。
【0039】
上述した実施の形態1では、油圧ポンプ146を用いてピストンロッド143を制御することによって、ピストンロッド143に接続する架線10の張力を調整するようにした。実施の形態1によれば、油圧ポンプ146等の油圧による張力調整機構を用いることによって、部材(例えばコイルばね)を増やさずに張力変化率を小さくすることができるため、バランサの大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができる。
【0040】
また、ちょう架線11やトロリー線12は、材料が変更されると、温度に対する伸縮性が変化する場合がある。この際、材料によっては、変更前の材料よりも温度による伸縮量が大きくなることがあるが、実施の形態1に係るバランサは、この変化に対し、大型化や重量化することを抑制しつつ、架線10の張力調整を実施することができる。
【0041】
なお、実施の形態1では、油圧式のアクチュエータによって架線10の張力を調整する例について説明したが、チェーンを用いたアクチュエータや、ボールねじを用いたアクチュエータ等、油圧式とは異なるアクチュエータによって架線10の張力を調整することができる。
【0042】
(実施の形態1の変形例1)
次に、上述した実施の形態1の変形例1について、
図4を参照して説明する。
図4は、本発明の実施の形態1の変形例1に係るバランサにおける駆動制御部の構成を示すブロック図である。変形例1は、上述したバランサ14において、駆動制御部150に代えて駆動制御部150Aを備える。以下、駆動制御部150Aについて説明する。なお、上述した実施の形態1と同じ構成には、同じ符号を付す。
【0043】
駆動制御部150Aは、張力算出部151と、張力判定部152と、駆動量算出部153と、制御部154と、記憶部155と、架線摩耗検出部156とを有する。
【0044】
架線摩耗検出部156は、油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の相対的な位置と、その際に検出される張力とに基づいて架線10の伸びを検出することによって、架線10の摩耗を検出する。例えば、トロリー線12は、摩耗等によって断面積が変化すると、ロッド145の引張りに対して発生する張力が変化する。このため、摩耗のないトロリー線12と、摩耗したトロリー線12とでは、同じ張力とする場合に、油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置が変わる。例えば、トロリー線12の伸び量Yは、トロリー線12の長さをL、張力変化量をx、トロリー線12の縦弾性係数をE、トロリー線12の断面積をSとすると、下式(2)のように表すことができる。
Y=L×x/(E×S) ・・・(2)
仮に、未摩耗の断面積が120mm2、架線長が800m、縦弾性係数が10500kgf/mm2のトロリー線12の張力を275kgfだけ変化させた場合、上式(2)より、摩耗のないトロリー線12の伸び量は173mmとなり、トロリー線12の断面積が3/4(90mm2)となった場合のトロリー線12の伸び量は232mとなる。この場合、同じ張力に調整したとしても、トロリー線12の伸びとして約60mmの差が生じる。この差は、油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置の変化として検出することができる。
【0045】
架線摩耗検出部156は、このピストンロッド143の位置の変化から、架線10の伸びを検出する。ここでは、トロリー線12の摩耗等による架線10全体としての伸びが検出される。油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置は、モータ148の回転量に基づいて求めることができる。架線摩耗検出部156は、基準張力に調整した際の油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置と、基準位置との差に基づいて、架線10の伸びを検出する。基準位置は、例えば記憶部155に予め記憶される、摩耗がない架線10の張力を設定張力とした際の、油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置、または、架線10を設置した直後の、摩耗のない架線10の張力を設定張力とした際の、油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置である。ここでいう設定張力は、例えば、架線10に対して調整するように設定されている張力である。
架線摩耗検出部156は、例えば、算出した差が、予め設定されている閾値よりも大きい場合、架線10に伸びが生じ、摩耗していると判断する。閾値は、例えば、摩耗によって減少する断面積の架線10の強度と、架線10に求められる強度との関係に基づいて設定される。架線摩耗検出部156は、判断結果を制御部154に出力する。
【0046】
制御部154は、架線摩耗検出部156から判断結果を取得すると、該判断結果を記憶部155に記憶させたり、複数のバランサ14を集中管理するセンターに判断結果を送信したりする。センターに判断結果を送信する際、制御部154は、自身(バランサ14)や、張力調整対象の架線10を特定するための情報(例えば、ID等)を判断結果とともに送信する。
【0047】
上述した変形例1では、実施の形態1と同様に、油圧ポンプ146を用いてピストンロッド143を制御することによって、ピストンロッド143に接続する架線10の張力を調整するようにした。変形例1によれば、油圧ポンプ146等の油圧による張力調整機構を用いることによって、部材(例えばコイルばね)を増やさずに張力変化率を小さくすることができるため、バランサの大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができる。
【0048】
さらに、変形例1によれば、架線摩耗検出部156が、ピストンロッド143の位置に基づいて架線10の摩耗を検出するようにしたので、管理者に、架線10の交換時期等を把握させることが可能となる。これにより、架線10を適切なタイミングで交換することができる。
【0049】
(実施の形態1の変形例2)
次に、上述した実施の形態1の変形例2について、
図5を参照して説明する。
図5図6は、本発明の実施の形態1の変形例2に係るバランサの構成を示す部分断面図である。変形例2に係るバランサ14Aは、上述したバランサ14に対し、レーザー距離センサ200および反射板201をさらに備える。以下、レーザー距離センサ200および反射板201の構成について説明する。なお、上述した実施の形態1と同じ構成には、同じ符号を付す。
【0050】
レーザー距離センサ200は、油圧シリンダ142の外表面に設けられる。
反射板201は、ピストンロッド143において、レーザー距離センサ200が出射するレーザーを反射可能な位置に立設される。
【0051】
レーザー距離センサ200は、反射板201に向けてレーザーを出射し、反射板201が反射したレーザーを受光する。レーザー距離センサ200は、例えば自身がレーザーを出射してから反射板201で反射して受光するまでの時間に関する情報、または、出射光と戻り光との位相差に関する情報を制御部154に出力する。
【0052】
制御部154は、レーザー距離センサ200から取得した情報に基づいて、レーザー距離センサ200と反射板201との間の距離を測定する。制御部154は、測定した距離と、油圧シリンダ142におけるレーザー距離センサ200の位置と、ピストンロッド143における反射板201の位置とをもとに、油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置を決定する。
このほかの張力制御に係る処理は、実施の形態1と同様である。
【0053】
上述した変形例2では、実施の形態1と同様に、油圧ポンプ146を用いてピストンロッド143を制御することによって、ピストンロッド143に接続する架線10の張力を調整するようにした。変形例2によれば、油圧ポンプ146等の油圧による張力調整機構を用いることによって、部材(例えばコイルばね)を増やさずに張力変化率を小さくすることができるため、バランサの大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができる。
【0054】
また、変形例2では、反射板201が反射したレーザーに基づいてピストンロッド143の位置が検出されるため、検出結果が、実際にピストンロッド143の移動位置に応じた反射板201の位置によるものとなる。このため、レーザー距離センサ200および反射板201を用いた位置検出では、一層正確にピストンロッド143の位置を検出することができる。
【0055】
なお、油圧シリンダ142におけるピストンロッド143の位置の検出方法については、上述したモータ制御およびレーザーによる距離測定に限らず、公知の手法を用いることができる。
【0056】
(実施の形態1の変形例3)
次に、上述した実施の形態1の変形例3について、
図6および
図7を参照して説明する。
図6および
図7は、本発明の実施の形態1の変形例3に係るバランサの構成を示す部分断面図である。変形例3に係るバランサ14Bは、上述したバランサ14に対し、防錆機構161をさらに備える。以下、防錆機構161について説明する。なお、上述した実施の形態1と同じ構成には、同じ符号を付す。
【0057】
防錆機構161は、密封ケース162と、伸縮部材163と、オイルパン164とを有する。
【0058】
密封ケース162は、一端が油圧シリンダ142に連なる筒状をなし、ピストンロッド143を挿通する。
【0059】
伸縮部材163は、密封ケース162内に設けられ、一端が密封ケース162の内壁に固着され、他端が張力センサ144に固着される。伸縮部材163は、当該伸縮部材163と密封ケース162の内壁とによって、ピストンロッド143の張力センサ144側の端部を密封する密封空間を形成する。この密封空間には、不活性ガスが充填される。不活性ガスとしては、窒素や、希ガス類元素が挙げられる。
オイルパン164は、油圧シリンダ142等から漏れ落ちる作動油を受け留める。
【0060】
伸縮部材163は、ピストンロッド143の移動に連動して伸縮する。例えば、張力センサ144が密封ケース162の外部に位置する状態(
図6参照)から、ピストンロッド143が油圧シリンダ142に引き込まれた場合(
図7参照)、伸縮部材163はピストンロッド143の移動に連動して収縮する。この際、伸縮部材163と密封ケース162との間の密封状態は維持されているため、ピストンロッド143は、不活性ガス雰囲気下での密封状態が維持される。
【0061】
上述した変形例3では、実施の形態1と同様に、油圧ポンプ146を用いてピストンロッド143を制御することによって、ピストンロッド143に接続する架線10の張力を調整するようにした。変形例3によれば、油圧ポンプ146等の油圧による張力調整機構を用いることによって、部材(例えばコイルばね)を増やさずに張力変化率を小さくすることができるため、バランサの大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができる。
【0062】
さらに、変形例3によれば、防錆機構161によって、ピストンロッド143を、該ピストンロッド143の移動によらず不活性ガス雰囲気下での密封状態を維持するようにしたので、ピストンロッド143の錆の発生を抑制することができる。
【0063】
(実施の形態1の変形例4)
次に、上述した実施の形態1の変形例4について、
図8および
図9を参照して説明する。
図8および
図9は、本発明の実施の形態1の変形例4に係るバランサの構成を示す部分断面図である。変形例4に係るバランサ14Cは、上述したバランサ14に対し、防錆機構171をさらに備える。以下、防錆機構171について説明する。なお、上述した実施の形態1と同じ構成には、同じ符号を付す。
【0064】
防錆機構171は、ワイパー172と、支持部材173と、ワイパー用油圧シリンダ174と、オイルパン175とを有する。
【0065】
ワイパー172は、ワイパー用油圧シリンダ174を経由して、防錆油が供給される。このため、ワイパー172は、防錆油を含んだ状態となっている。防錆油は、上述した作動油であってもよいし、ピストンロッド143の材質に応じて選択される油であってもよい。なお、ワイパー172に作動油を供給する場合は作動油タンク149を共通に用いてもよいし、作動油タンク149とは別のタンクを設けてもよい。また、ワイパー172に作動油とは異なる防錆用の油を供給する場合は作動油タンク149とは別のタンクが設けられる。
【0066】
支持部材173は、一端でワイパー172を支持するとともに、他端側がワイパー用油圧シリンダ174に収容される。支持部材173は、制御部154の制御のもと、ワイパー用油圧シリンダ174に対して進退自在に設けられる。
オイルパン175は、ワイパー172等から漏れ落ちる作動油を受け留める。
【0067】
制御部154は、支持部材173を移動させることよって、ワイパー172を、ピストンロッド143の油圧シリンダ142側の端部と、張力センサ144との間を往復動させる。ワイパー172の往復動によって、ピストンロッド143の表面に作動用または防錆油が塗布される。制御部154は、予め設定された間隔でワイパー172を往復動させてもよいし、管理者の指示によってワイパー172を往復動させてもよい。
【0068】
上述した変形例4では、実施の形態1と同様に、油圧ポンプ146を用いてピストンロッド143を制御することによって、ピストンロッド143に接続する架線10の張力を調整するようにした。変形例4によれば、油圧ポンプ146等の油圧による張力調整機構を用いることによって、部材(例えばコイルばね)を増やさずに張力変化率を小さくすることができるため、バランサの大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができる。
【0069】
さらに、変形例4によれば、防錆機構171によって、ピストンロッド143が作動油または防錆油に覆われた状態を維持するようにしたので、ピストンロッド143の錆の発生を抑制することができる。特に、バランサは屋外で使用され、外気に晒されるため、定期的な防錆処理が有効である。ピストンロッド143は、例えば1年かけてストロークの最小移動位置から最大移動位置までを移動することがあるため、外気に晒される期間も長く、定期的に防錆処理を実施することが好ましい。
【0070】
なお、変形例4では、油圧式でワイパー172を移動させる例について説明したが、ラックアンドピニオンをモータによって駆動してワイパー172を移動させる構成としてもよい。
【0071】
(実施の形態2)
次に、上述した実施の形態2について、
図10を参照して説明する。
図10は、本発明の実施の形態2に係るバランサの使用態様の一例を示す図である。上述した実施の形態1では、架線10の一端が支柱30に固定され、他端にバランサ14が設けられる例について説明したが、実施の形態2では、架線10の両端にバランサを設ける。なお、上述した実施の形態1と同じ構成には、同じ符号を付す。
【0072】
実施の形態2において、架線10は、一端がバランサ14Dを介して支柱30に接続され、他端がバランサ14Eを介して支柱30に接続される。架線10は、二つのバランサ14D、14Eによって張力が調整される。張力調整対象が同一の架線10に設けられるバランサ14D、14E、対をなす一組のバランサとして機能する。
【0073】
バランサ14D、14Eは、それぞれ、上述したバランサ14と同じ構成を有する。すなわち、バランサ14D、14Eは、筐体141と、油圧シリンダ142と、ピストンロッド143と、張力センサ144と、ロッド145と、油圧ポンプ146と、油圧ホース147と、モータ148と、作動油タンク149と、駆動制御部150とをそれぞれ有する。
【0074】
バランサ14D、14Eの各制御部154は、算出した張力に基づいて、ピストンロッド143を制御する。この際、バランサ14Dとバランサ14Eとのピストンロッド143の制御タイミングは、個別であってもよいし、同期をとって実施してもよい。同期をとって実施する場合、同時にピストンロッド143の制御を実施してもよいし、互いに異なる時刻に実施してもよい。
【0075】
また、各バランサの駆動制御部150は、ピストンロッド143の位置と、張力センサ144による検出結果とに基づいて、設定張力を変更してもよい。例えば、駆動制御部150は、ばねの伸びと、弾性限界以下の荷重とが比例するフックの法則を模した制御を実施して設定張力を変更する。ばね式のバランサでは、トロリー線が短くなると、その分バランサを引っ張る力が大きくなり、バランサのストローク量を大きくして適切な張力に制御する。本実施の形態2では、バランサがばね部材(例えばコイルばね)を有しないため、例えば張力が適切な値に制御されていたとしても、双方のバランサにおけるピストンロッド143のストローク量を同程度に制御しなければ、一方のバランサのストローク量だけ大きくなる場合がある。上述したように、フックの法則を模した制御を行うこと、すなわち、トロリー線12の伸縮態様の変化に伴う、張力の変化を適切なストローク量に換算する制御を行うことによって、バランサ間で互いの情報を通信して制御せずとも、二つのバランサ間の張力が釣り合うように調整されるとともに、対をなすバランサ(ここではバランサ14D、14E)におけるピストンロッド143の、油圧シリンダ142における位置(ストローク量)を相対的に同等程度に制御することができる。このように、不測の事態によってバランサ間の通信ができなくなったり、そもそもバランサ間で通信ができない仕様であったりした場合でも、ストローク量を同等程度に制御することが可能である。なお、上述した油圧式では、アクチュエータの制御情報としてピストンロッドの位置を用いる例について説明したが、チェーンを用いたアクチュエータや、ボールねじを用いたアクチュエータ等、油圧式以外の構成の場合は、例えば、モータの回転位置を制御情報として用いることができる。
【0076】
上述した実施の形態2では、実施の形態1と同様に、油圧ポンプ146を用いてピストンロッド143を制御することによって、ピストンロッド143に接続する架線10の張力を調整するようにした。実施の形態2によれば、油圧ポンプ146等の油圧による張力調整機構を用いることによって、部材(例えばコイルばね)を増やさずに張力変化率を小さくすることができるため、バランサの大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができる。
【0077】
さらに、実施の形態2によれば、架線10の両端にバランサ(バランサ14D、14E)を設けて架線10の両端において張力が調整されるため、張力の調整幅(各ピストンロッド143による総移動量)を大きくとることができる。
【0078】
なお、実施の形態2において、実施の形態1の変形例1、2に係るバランサ14A~14Cを用いてもよい。
【0079】
(実施の形態2の変形例1)
次に、上述した実施の形態2の変形例1について、
図11を参照して説明する。
図11は、本発明の実施の形態2の変形例1に係るバランサにおける駆動制御部の構成を示すブロック図である。変形例1は、上述したバランサ14D、14Eにおいて、駆動制御部150に代えて駆動制御部150Bを備える。以下、駆動制御部150Bについて説明する。なお、上述した実施の形態1、2と同じ構成には、同じ符号を付す。
【0080】
駆動制御部150Bは、張力算出部151と、張力判定部152と、駆動量算出部153と、制御部154と、記憶部155と、通信部157とを有する。
【0081】
通信部157は、対をなす他方のバランサとの間で制御信号を送受信する。例えば、バランサ14Dの通信部157は、対をなすバランサ14Eの通信部157との間で制御信号を送受信する。通信部157は、架線10を伝送経路として信号を送受信してもよいし、無線通信によって信号を送受信してもよい。
【0082】
変形例1に係るバランサ14D、14Eは、互いに連携してピストンロッド143の移動を制御する。例えば、一方を主のバランサ、他方を副のバランサに設定し、主のバランサが対をなすバランサを統括的に制御する。ここで、バランサ14Dを主、バランサ14Eを副とした場合、バランサ14Dの制御部154は、バランサ14Eの張力算出部151および張力判定部152に、張力判定処理を実施させる。この際、制御部154は、張力が適切であると判定された場合、張力調整処理は実施しない。これに対し、バランサ14Eの制御部154は、張力が適切ではないと判定された場合、バランサ14Eの張力算出部151および張力判定部152に、張力判定処理を実施させ、バランサ14Eの張力と、張力の判定結果と、ピストンロッド143の位置情報とを取得する。バランサ14Dの駆動量算出部153は、各バランサの張力と、判定結果と、ピストンロッド143の位置とに基づいて、各バランサのピストンロッド143の移動方向および移動量を設定する。バランサ14Dの制御部154は、バランサ14Dのピストンロッド143を制御するとともに、通信部157を介して、バランサ14Eにピストンロッド143の制御情報を送信する。この際、バランサ14Dとバランサ14Eとのピストンロッド143の移動は、個別に実施してもよいし、同期をとって実施してもよい。
【0083】
上述した変形例1では、実施の形態2と同様に、油圧ポンプ146を用いてピストンロッド143を制御することによって、ピストンロッド143に接続する架線10の張力を調整するようにした。変形例1によれば、油圧ポンプ146等の油圧による張力調整機構を用いることによって、部材(例えばコイルばね)を増やさずに張力変化率を小さくすることができるため、バランサの大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができる。
【0084】
さらに、変形例1によれば、通信部157を介してバランサ間で通信し、張力に応じたピストンロッド143の制御を統括的に実施するようにしたので、一つのバランサにかかる負荷を低減することができる。
【0085】
なお、変形例1において、主とするバランサ(ここではバランサ14D)が駆動量算出部153を備えていれば、他方のバランサ(ここではバランサ14E)は駆動量算出部153を有しない構成としてもよい。この場合、バランサ14Eの駆動制御部は、張力算出部151、張力判定部152、制御部154、記憶部155および通信部157を有する。さらに、バランサ14Dの張力判定部152が、バランサ14Eから取得した張力によってバランサ14Eの張力の適否を判定する場合、バランサ14Eは張力判定部152を有しない構成としてもよい。この場合、バランサ14Eの駆動制御部は、張力算出部151、制御部154、記憶部155および通信部157を有する。
【0086】
(実施の形態2の変形例2)
次に、上述した実施の形態2の変形例2について、
図11を参照して説明する。
図11は、本発明の実施の形態2の変形例2に係るバランサにおける駆動制御部の構成を示すブロック図である。変形例2は、上述したバランサ14D、14Eにおいて、駆動制御部150に代えて駆動制御部150Cを備える。以下、駆動制御部150Dについて説明する。なお、上述した実施の形態1、2と同じ構成には、同じ符号を付す。
【0087】
駆動制御部150Cは、張力算出部151と、張力判定部152と、駆動量算出部153と、制御部154と、記憶部155と、架線摩耗検出部156と、通信部157と、GPS(Global Positioning System)部158とを有する。なお、本変形例2では、少なくともバランサ14Dには、摩耗検出用の振動を発生させる発生器が設けられる。振動発生器はアクチュエータを用いてもよい。
【0088】
GPS部158は、GPS衛星から電波を受信する受信機を用いて構成される。GPS部158は、受信した電波に基づいて、時刻情報を取得し、該取得した時刻情報を制御部154に出力する。なお、GPSに限らず、全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)の他の方式を採用することができる。
GPS部158は、予め設定された間隔、または設定された時刻に時刻情報を取得する。制御部154は、取得した時刻情報をもとに、時刻を再設定する。各バランサの制御部154が、GPSに基づく時刻設定を行うことによって、バランサ間の時刻の同期をとることができる。
【0089】
変形例2では、バランサ14D、14E間における信号の伝送速度を検出することによってトロリー架線12の摩耗を検出する。変形例2において、バランサ14Dを主、バランサ14Eを副とした場合、バランサ14Dの制御部154は、架線摩耗検出用の振動を発生して架線10(ちょう架線11またはトロリー線12)を介してバランサ14Eに送り、架線摩耗検出処理を開始させる。
【0090】
バランサ14Dの架線摩耗検出部156は、バランサ14Eへ摩耗検出用の振動を発生させる。この際に発生する振動は、バランサ14Eに、架線10の摩耗を検出するための振動であることを認識させることができればよい。
バランサ14Eは、摩耗検出用の振動を受信すると、該振動を受信した時刻を含む信号をバランサ14Dに送信する。
バランサ14Dの架線摩耗検出部156は、バランサ14Eから振動受信時刻を取得すると、自身が振動を発生した時刻との差を算出する。この差は、バランサ14Dとバランサ14Eとの間における、架線10を流れる振動の伝送に要した伝送時間に相当する。バランサ14Dの架線摩耗検出部156は、算出した伝送時間と、閾値とを比較して、架線10の摩耗を検出する。ここでの閾値は、摩耗のない架線10(トロリー線12)の伝送時間に対応する値であって、例えば、予め設定される値や、架線10を交換した直後に算出された伝送時間である。バランサ14Dの架線摩耗検出部156は、算出した伝送時間が閾値よりも小さい場合、架線10に摩耗が生じていると判断する。バランサ14Dの架線摩耗検出部156は、判断結果を制御部154に出力する。
【0091】
制御部154は、架線摩耗検出部156から判断結果を取得すると、該判断結果を記憶部155に記憶させたり、複数のバランサを集中管理するセンターに判断結果を送信したりする。センターに判断結果を送信する際、制御部154は、自身のバランサ14Dや、張力調整対象の架線10を特定するための情報(例えば、ID等)を判断結果とともに送信する。
【0092】
上述した変形例2では、実施の形態2と同様に、油圧ポンプ146を用いてピストンロッド143を制御することによって、ピストンロッド143に接続する架線10の張力を調整するようにした。変形例2によれば、油圧ポンプ146等の油圧による張力調整機構を用いることによって、部材(例えばコイルばね)を増やさずに張力変化率を小さくすることができるため、バランサの大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減することができる。
【0093】
さらに、変形例2によれば、架線摩耗検出部156が、バランサ14D、14E間の振動の伝送速度に基づいて架線10の摩耗を検出するようにしたので、管理者に、架線10の交換時期等を把握させることが可能となる。
【0094】
なお、変形例2において、主とするバランサ(ここではバランサ14D)が架線摩耗検出部156を備えていれば、他方のバランサ(ここではバランサ14E)は架線伸び検出部を有しない構成としてもよい。この場合、バランサ14Eの駆動制御部は、張力算出部151、張力判定部152、駆動量算出部153、制御部154、記憶部155、通信部157およびGPS部158を有する。
【0095】
また、変形例2において、バランサ14Dおよびバランサ14Eの間で生じる時刻の差が、架線10の伸びの検出に影響しない程度であれば、GPS部158を有しない構成としてもよい。
【0096】
また、変形例2では、振動の伝送速度(伝送時間)を測定して架線10の摩耗を検出する例について説明したが、摩耗を検出するための信号は、振動に限らず、例えば、音波の伝搬速度を測定して架線10の伸びを検出するようにしてもよい。この場合、一方のバランサには、音を発生する発生器が設けられ、他方のバランサには、発生器が発生した音を受信する受信機が設けられる。
【0097】
また、変形例2では、二つのバランサのうち一方を主、他方を副とし、主のバランサによって各バランサの駆動を制御する例について説明したが、二つのバランサを制御する制御装置を設けて、該制御装置が二つのバランサを統括的に制御する構成としてもよい。この場合、各バランサの駆動制御部は、少なくとも制御部154と、記憶部155と、通信部157とを有する。制御装置は、各バランサから張力センサの検出値を取得し、張力の適否を判定し、ピストンロッド143の駆動量を算出して、各バランサに駆動量を送信する。このように、制御装置は、上述したバランサの機能の一部を実行して各バランサを制御する。
【0098】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。上述した実施の形態では、電車線の張力を調整する例を説明したが、その他、線材の張力を調整する対象に対して上述したバランサを採用できる。
【0099】
以上説明したように、本発明に係るバランサおよびバランサシステムは、大型化を抑制しつつ、張力変化率を低減するのに好適である。
【符号の説明】
【0100】
10 架線
11 ちょう架線
12 トロリー線
13 ハンガー
14、14A~14E バランサ
20 電車
21 パンタグラフ
30 支柱
141 筐体
142 油圧シリンダ
143 ピストンロッド
144 張力センサ
145 ロッド
146 油圧ポンプ
147 油圧ホース
148 モータ
149 作動油タンク
150、150A~150C 駆動制御部
151 張力算出部
152 張力判定部
153 駆動量算出部
154 制御部
155 記憶部
156 架線摩耗検出部
157 通信部
158 GPS部
161、171 防錆機構
200 レーザー距離センサ
201 反射板