(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】放射線計測装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20231128BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G01T1/17 D
G01T1/17 H
G01T1/36 D
(21)【出願番号】P 2020066530
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大二郎
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-142290(JP,A)
【文献】特開2002-243858(JP,A)
【文献】特開2014-169877(JP,A)
【文献】特表2014-511598(JP,A)
【文献】特表2014-534414(JP,A)
【文献】特開2015-075334(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0210255(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
G01T 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の検出によりパルス状の電気信号を出力する放射線検出器と、
前記放射線検出器の出力を積分して増幅する前置増幅器と、
所定の高速時定数を有して、前記前置増幅器の出力の立ち上がりを緩やかにしてその後のベース状態への復帰を早め、所定の利得を与える高速整形増幅器と、
前記高速整形増幅器の出力が所定のしきい値を超えているときにのみオン信号を出力する波高弁別器と、
前記波高弁別器がオン信号の出力を開始してから所定の第1の遅延時間の後に第1のトリガ信号を出力する第1の遅延器と、
前記波高弁別器がオン信号の出力を開始してから当該オン信号の出力が終了するまでのしきい値超過時間を測定するしきい値超過時間測定器と、
前記第1のトリガ信号の開始時刻から、ゼロより大きく1より小さな所定の追加遅延比率を前記しきい値超過時間に乗じて得た第2の遅延時間だけ遅延させて、第2のトリガ信号を出力する第2の遅延器と、
前記高速時定数よりも長い低速時定数を有して、前記前置増幅器の出力の立ち上がりを緩やかにしてその後のベース状態への復帰を早め、所定の利得を与える低速整形増幅器と、
前記第2のトリガ信号の出力があった時点での前記低速整形増幅器の出力を保持して出力するサンプルホールド装置と、
を有すること、を特徴とする放射線計測装置。
【請求項2】
前記所定の追加遅延比率は、0.3以上で0.7以下であること、を特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項3】
前記所定の追加遅延比率は、0.4以上で0.6以下であること、を特徴とする請求項2に記載の放射線計測装置。
【請求項4】
前記サンプルホールド装置の出力をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器をさらに有すること、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の放射線計測装置。
【請求項5】
所定の高利得高速時定数を有して、前記前置増幅器の出力の立ち上がりを緩やかにしてその後のベース状態への復帰を早め、前記高速整形増幅器の利得よりも大きな高利得を与える高利得高速整形増幅器と、
前記高利得高速整形増幅器の出力が所定のしきい値を超えているときにのみオン信号を出力する高利得波高弁別器と、
前記高利得波高弁別器がオン信号の出力を開始してから所定の第1の高利得遅延時間の後に第1の高利得トリガ信号を出力する第1の高利得遅延器別器と、
前記高利得波高弁別器がオン信号の出力を開始してから当該オン信号の出力が終了するまでの高利得しきい値超過時間を測定する高利得しきい値超過時間測定器と、
前記第1の高利得トリガ信号の開始時刻から、ゼロより大きく1より小さな所定の高利得追加遅延比率を前記高利得しきい値超過時間に乗じて得た第2の高利得遅延時間だけ遅延させて、第2の高利得トリガ信号を出力する第2の高利得遅延器別器と、
前記高利得高速時定数よりも長い高利得低速時定数を有して、前記前置増幅器の出力の立ち上がりを緩やかにしてその後のベース状態への復帰を早め、前記低速整形増幅器の利得よりも大きな利得を与える高利得低速整形増幅器と、
前記第2の高利得トリガ信号の出力があった時点での前記高利得低速整形増幅器の出力を保持して出力する高利得サンプルホールド装置と、
をさらに有すること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の放射線計測装置。
【請求項6】
前記高利得サンプルホールド装置の出力をデジタル信号に変換する高利得アナログデジタル変換器をさらに有すること、を特徴とする請求項5に記載の放射線計測装置。
【請求項7】
前記第2のトリガ信号の出力があった時点での前記低速整形増幅器の出力と、前記第2の高利得トリガ信号の出力があった時点での前記高利得低速整形増幅器の出力のうちの一方のみを選択して、前記第2のトリガ信号の出力があった時点での前記低速整形増幅器の出力が選択されたときはサンプリング指示信号を前記サンプルホールド装置に出力し、前記第2の高利得トリガ信号の出力があった時点での前記高利得低速整形増幅器の出力が選択されたときはサンプリング指示信号を前記高利得サンプルホールド装置に出力することができるサンプル信号選択器、
をさらに有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の放射線計測装置。
【請求項8】
前記サンプル信号選択器は、前記第2のトリガ信号の出力があった時点での前記低速整形増幅器の出力と、前記第2の高利得トリガ信号の出力があった時点での前記高利得低速整形増幅器の出力の両方があった場合に、前記高利得サンプルホールド装置にのみ前記サンプリング指示信号を出力すること、を特徴とする請求項7に記載の放射線計測装置。
【請求項9】
前記サンプルホールド装置の出力と前記高利得サンプルホールド装置の出力のうちの一方のみを選択して出力するサンプル信号選択器、
をさらに有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の放射線計測装置。
【請求項10】
前記サンプル信号選択器は、前記第2のトリガ信号の出力があった時点での前記低速整形増幅器の出力と、前記第2の高利得トリガ信号の出力があった時点での前記高利得低速整形増幅器の出力の両方があった場合に、前記サンプルホールド装置の出力を選択して出力すること、を特徴とする請求項9に記載の放射線計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、サンプルホールド式の放射線計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプルホールド式の放射線計測装置では、放射線検出器が放射線を検出した際に生じるパルス状の電気信号(パルス信号)から、放射線エネルギーを測定する。すなわち、放射線が放射線検出器の内部で損失したエネルギーをパルス信号に変換し、さらに波高がエネルギーに比例するよう処理を行い、波高を計測することでエネルギーを測定する。パルス信号の波高を計測する際に、1点の測定値をサンプリングする動作を行う。
【0003】
しかしながら、サンプルホールド方式の放射線エネルギー測定においては、信号が弁別しきい値を超える時刻が波高に依存してずれるため、サンプル値を得るタイミングが、信号のピーク値からわずかに外れてしまう。この事象はタイムウォークと呼ばれるもので、この時間的なずれを無くすためのトリガ生成手法として、コンスタントフラクション方式や外挿リーディングエッジ方式が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Glenn F.Knoll著、神野郁夫ら訳、放射線計測ハンドブック(第4版)、オーム社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンスタントフラクション方式や外挿リーディングエッジ方式は、いずれもタイムウォークを抑制することが可能な方式である。しかしながら、広いダイナミックレンジが求められる計測装置を作る際には不利になる場合があった。
【0006】
たとえば、コンスタントフラクション方式の場合には、減衰したパルス波形と反転遅延したパルス波形を合成するため、信号対雑音比が悪くなり、計測可能な最小値を小さくすることができず、広いダイナミックレンジの計測回路を作る際に不利になるという課題があった。
【0007】
また、外挿リーディングエッジ方式は、弁別しきい値が異なる2個のコンパレータを必要とするため、弁別しきい値が1個の場合と比較して、検出可能な信号の最小値を小さくすることができず、広いダイナミックレンジの計測回路を作る際には不利になるという課題があった。
【0008】
本発明の実施形態は上述した課題を解決するためになされたものであり、広いダイナミックレンジが求められる場合であっても、タイムウォークの影響を低減したパルス信号の検出が行えるサンプルホールド式の放射線計測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る放射線計測装置は、放射線の検出によりパルス状の電気信号を出力する放射線検出器と、前記放射線検出器の出力を積分して増幅する前置増幅器と、所定の高速時定数を有して、前記前置増幅器の出力の立ち上がりを緩やかにしてその後のベース状態への復帰を早め、所定の利得を与える高速整形増幅器と、前記高速整形増幅器の出力が所定のしきい値を超えているときにのみオン信号を出力する波高弁別器と、前記波高弁別器がオン信号の出力を開始してから所定の第1の遅延時間の後に第1のトリガ信号を出力する第1の遅延器と、前記波高弁別器がオン信号の出力を開始してから当該オン信号の出力が終了するまでのしきい値超過時間を測定するしきい値超過時間測定器と、前記第1のトリガ信号の開始時刻から、ゼロより大きく1より小さな所定の追加遅延比率を前記しきい値超過時間に乗じて得た第2の遅延時間だけ遅延させて、第2のトリガ信号を出力する第2の遅延器と、前記高速時定数よりも長い低速時定数を有して、前記前置増幅器の出力の立ち上がりを緩やかにしてその後のベース状態への復帰を早め、所定の利得を与える低速整形増幅器と、前記第2のトリガ信号の出力があった時点での前記低速整形増幅器の出力を保持して出力するサンプルホールド装置と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の実施形態によれば、サンプルホールド式の放射線計測装置において、広いダイナミックレンジが求められる場合であっても、タイムウォークの影響を低減したパルス信号の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図。
【
図2】第1の実施形態に係る放射線計測装置における各部の信号のタイムチャートの例を示す図。
【
図3】
図2の高速整形増幅器出力信号のタイムチャートにおいて、波高が異なる場合のTOTとピーク到達時刻との関係を示す説明図。
【
図4】第2の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図。
【
図5】第3の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図。
【
図6】第4の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る放射線計測装置の実施形態について、図面を参照して説明する。ここで互いに共通する部分には共通の符号を付して重複する説明は省略する。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。
図2は、第1の実施形態に係る放射線計測装置における各部の信号のタイムチャートの例を示す図である。
【0014】
第1の実施形態に係る放射線計測装置は、放射線検出器11と、前置増幅器12と、高速整形増幅器13と、波高弁別器14と、トリガ生成器(第1の遅延器)15と、TOT測定器(しきい値超過時間測定器)16と、TOT遅延器(第2の遅延器)17と、低速整形増幅器18と、サンプルホールド装置19と、アナログデジタル変換器(AD変換器)20とを有する。
【0015】
放射線検出器11は、放射線が有感領域内で損失したエネルギーを電荷量に変換し、パルス状の電流信号として出力する。この放射線検出器11の出力信号S1は、前置増幅器12に送られる。前置増幅器12は電荷有感増幅器であって、放射線検出器11の出力を積分して増幅し、疑似ステップ状の信号S2を出力する。前置増幅器12の出力信号S2のピーク値は、パルス状の放射線検出器11の出力信号S1の総電荷量に比例する。
【0016】
高速整形増幅器13は、前置増幅器12の出力信号S2を整形増幅してパルス信号S3を出力する。高速整形増幅器13は、前置増幅器12の出力信号S2の立ち上がりを緩やかにしてピーク値達成後にベース状態への復帰を早める整形を行う。この整形により、次に放射線検出器11に到達する放射線を検出可能とする。
【0017】
波高弁別器14は、高速整形増幅器13の出力信号S3が所定のしきい値(弁別しきい値)を超えているかどうかで変化する論理的レベルとしての信号S4を出力する。この信号S4は、信号S3が所定のしきい値を超えているときにオン(Hレベル)信号となり、その他の時はオフ(Lレベル)信号となる。
【0018】
トリガ生成器15は、波高弁別器14の出力信号S4がオフからオンに変化してから所定の第1の遅延時間Td1の後に、第1のトリガ信号S5を出力する。
【0019】
TOT測定器16は、波高弁別器14の出力信号S4がオフからオンに変化した時から、オンからオフに戻った時までのしきい値超過時間(TOT)を測定し、しきい値超過時間を表す信号St1を出力する。しきい値超過時間(TOT)の測定にあたっては、たとえば、波高弁別器14の出力信号S4がオフからオンに変化したことを検出した時から、TOT測定器16内で、内部クロックの数を数え上げるカウンタを起動し、波高弁別器14の出力信号S4がオンからオフに変化したことを検出した時にカウンタを停止して、その時のカウント値をしきい値超過時間(TOT)として出力することができる。
【0020】
TOT遅延器17は、トリガ生成器15からの第1のトリガ信号S5から第2の遅延時間Td2だけ遅延した第2のトリガ信号S7を出力する。ここで、第2の遅延時間Td2は、次の式で与えられる。
【0021】
(第2の遅延時間Td2)=(TOT)×(追加遅延比率rd) ・・・(1)
ただし、追加遅延比率rdはゼロより大きく1より小さい数である。この追加遅延比率rdについては後述する。
【0022】
低速整形増幅器18は、前置増幅器12の出力信号S2を整形増幅して信号S6を出力する。低速整形増幅器18は、高速整形増幅器13と同様の機能を有するものであって、前置増幅器12の出力信号S2の立ち上がりを緩やかにしてピーク値達成後にベース状態への復帰を早める整形を行う。ただし、低速整形増幅器18は、高速整形増幅器13よりも長い時定数を有する。
【0023】
サンプルホールド装置19は、TOT遅延器17からの第2のトリガ信号S7を受信した時点の低速整形増幅器18の出力信号S6を、サンプル値Sp1としてホールドしアナログデジタル変換器20に出力する。
【0024】
アナログデジタル変換器20は、放射線のエネルギーを表す測定値としてのデジタル信号を出力する。
【0025】
ここで、第2の遅延時間Td2を決定するための追加遅延比率rdについて、
図3を用いて説明する。
【0026】
図3は、
図2の高速整形増幅器13の出力信号S3のタイムチャートにおいて、波高が異なる場合のTOTとピーク到達時刻との関係を示す説明図である。
図3(a)は波高が比較的低い場合を示し、
図3(b)は波高が
図3(a)よりも高い場合、
図3(c)は波高が
図3(b)よりもさらに高い場合を示している。
【0027】
高速整形増幅器13の出力信号S3は、一般に、信号S3の波高が異なる場合に互いに相似形となる。したがって、第2の遅延時間Td2を、信号S3が閾値を超えたときからピーク値になるまでの時間に合わせるならば、追加遅延比率rd=(第2の遅延時間Td2)/(TOT)の値は、信号S3の波高によらずほぼ一定の値となる。すなわち、上記式(1)により第2の遅延時間Td2を決定することができる。
【0028】
信号S3の波形は、
図3に示すように、閾値を超えている部分(TOTの期間)において、ピーク値を取る時を中心としてその前後(
図3では左右)でほぼ対称である。したがって、追加遅延比率rdは、たとえば0.5とすればよい。ただし、必ずしも完全な対称ではないので、追加遅延比率rdは、たとえば、0.4~0.6の範囲または0.3~0.7の範囲で実際に最適な値を選択すればよい。
【0029】
上述したように、この実施形態によれば、放射線計測装置において、広いダイナミックレンジが求められる場合であっても、タイムウォークの影響を低減したパルス信号の検出を行うことができる。
【0030】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。この第2の実施形態に係る放射線計測装置は、第1の実施形態に係る放射線計測装置の構成要素に加えて、高利得高速整形増幅器113と、高利得波高弁別器(以下、単に「波高弁別器」とも呼ぶ)114と、高利得トリガ生成器(第1の高利得遅延器。以下、単に「トリガ生成器」とも呼ぶ)115と、高利得TOT測定器(高利得しきい値超過時間測定器。以下、単に「TOT測定器」とも呼ぶ)116と、高利得TOT遅延器(第2の高利得遅延器。以下、単に「TOT遅延器」とも呼ぶ)117と、高利得低速整形増幅器118と、高利得サンプルホールド装置(以下、単に「サンプルホールド装置」とも呼ぶ)119と、高利得アナログデジタル変換器(以下、単に「アナログデジタル変換器」とも呼ぶ)120と、サンプル信号選択器30とを有する。
【0031】
高利得高速整形増幅器113は、高速整形増幅器13と同様に、前置増幅器12の出力信号S2を整形増幅してパルス信号S103を出力する。高利得高速整形増幅器113は高速整形増幅器13と同様のものであるが、利得がより大きい。
【0032】
高利得波高弁別器114は波高弁別器14と同様のものであって、高利得高速整形増幅器113の出力信号S103が所定のしきい値を超えているかどうかで変化する論理的レベルとしての信号S104を出力する。
【0033】
高利得トリガ生成器115は、トリガ生成器15と同様のものであって、高利得波高弁別器114の出力信号S104がオフからオンに変化してから所定の第1の高利得遅延時間Td101の後に、第1の高利得トリガ信号S105を出力する。
【0034】
高利得TOT測定器116はTOT測定器16と同様のものであって、高利得波高弁別器114の出力信号S104がオフからオンに変化した時からオンからオフに戻った時までのしきい値超過時間(TOT)を測定し、しきい値超過時間を表す信号St101を出力する。
【0035】
高利得TOT遅延器117はTOT遅延器17と同様のものであって、高利得トリガ生成器115からの第1の高利得トリガ信号S105から第2の高利得遅延時間Td102だけ遅延した第2の高利得トリガ信号S107を出力する。
【0036】
高利得低速整形増幅器118は低速整形増幅器18と同様のものであって、前置増幅器12の出力信号S2を整形増幅して信号S106を出力する。ただし、高利得低速整形増幅器118は低速整形増幅器18よりも利得が大きい。また、高利得低速整形増幅器118は、高利得高速整形増幅器113よりも長い時定数を有する。
【0037】
高利得サンプルホールド装置119はサンプルホールド装置19と同様のものであって、高利得TOT遅延器117からの第2の高利得トリガ信号S107を受信した時点の高利得低速整形増幅器118の出力信号S106を、高利得サンプル値Sp101としてホールドして高利得アナログデジタル変換器120に出力する。
【0038】
高利得アナログデジタル変換器120は、放射線のエネルギーを表す測定値としてのデジタル信号を出力する。
【0039】
サンプル信号選択器30は、波高弁別器14の出力信号S4と、高利得波高弁別器114の出力信号S104と、TOT遅延器17の出力信号S7と、高利得TOT遅延器117の出力信号S107の入力を受ける。サンプル信号選択器30は、波高弁別器14の出力信号S4があったときは、TOT遅延器17の出力信号S7を、サンプリング指示信号としてサンプルホールド装置19に出力し、高利得波高弁別器114の出力信号S104があったときは高利得TOT遅延器117の出力信号S107を、サンプリング指示信号として高利得サンプルホールド装置119に出力する。
【0040】
サンプル信号選択器30は、波高弁別器14と高利得波高弁別器114の両方からON信号を受けたときは、高利得TOT遅延器117の出力信号S107を用いず、TOT遅延器17の出力信号S7をサンプルホールド装置19に出力するのが好ましい。これは、利得の大きな信号は、相対的に弁別しきい値が小さくなり、パルス信号が左右対称ではなく、しきい値を超え始める点としきい値以下に下がる点の中間が信号のピーク値位置からずれてくるので、相対的に利得が低い高速整形増幅器13側の信号を使う方が精度がよいからである。
【0041】
本実施形態によれば、前置増幅器12の出力S2が小さなときには高利得低速整形増幅器118の出力値がサンプリングされ、アナログデジタル変換器20により測定値が得られる。これに対し、前置増幅器12の出力S2が大きなときには低速整形増幅器18の出力値がサンプリングされ、高利得アナログデジタル変換器120により測定値が得られる。このため、計測範囲の広い測定を行うことができる。
【0042】
上述したように、この第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られるだけでなく、さらに計測範囲の広い測定を行うことができる。
【0043】
[第3の実施形態]
図5は、第3の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。この第3の実施形態に係る放射線計測装置は、第2の実施形態に係る放射線計測装置の変形であって、サンプル信号選択器31が接続される位置が第2の実施形態に係る放射線計測装置のサンプル信号選択器30と異なる。すなわち、この第3の実施形態では、サンプルホールド装置19の出力信号および高利得サンプルホールド装置119の出力信号がサンプル信号選択器31に入力され、その信号がアナログデジタル変換器20および高利得アナログデジタル変換器120に入力される。
【0044】
また、TOT遅延器17の出力信号S7はサンプルホールド装置19に入力され、高利得TOT遅延器117の出力信号S107は高利得サンプルホールド装置119に入力される。さらに、波高弁別器14の出力信号S4および高利得波高弁別器114の出力信号S104がサンプル信号選択器31に入力される。
【0045】
この第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様に、前置増幅器12の出力S2が小さなときには高利得低速整形増幅器118の出力値がサンプリングされ、アナログデジタル変換器20により測定値が得られる。これに対し、前置増幅器12の出力S2が大きなときには低速整形増幅器18の出力値がサンプリングされ、高利得アナログデジタル変換器120により測定値が得られる。このため、計測範囲の広い測定を行うことができる。
【0046】
[第4の実施形態]
図6は、第4の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示すブロック図である。この第4の実施形態に係る放射線計測装置は、第3の実施形態に係る放射線計測装置の変形であって、サンプル信号選択器32が接続される位置が第3の実施形態に係る放射線計測装置のサンプル信号選択器31と異なる。すなわち、この第4の実施形態では、アナログデジタル変換器20および高利得アナログデジタル変換器120の出力信号がサンプル信号選択器32に入力され、さらに、波高弁別器14の出力信号S4および高利得波高弁別器114の出力信号S104がサンプル信号選択器32に入力される。サンプル信号選択器32の出力信号は、この放射線計測装置による測定値として出力される。
【0047】
この第4の実施形態によれば、第2および第3の実施形態と同様に、前置増幅器12の出力S2が小さなときには高利得低速整形増幅器118の出力値がサンプリングされ、アナログデジタル変換器20により測定値が得られる。これに対し、前置増幅器12の出力S2が大きなときには低速整形増幅器18の出力値がサンプリングされ、高利得アナログデジタル変換器120により測定値が得られる。このため、計測範囲の広い測定を行うことができる。
【0048】
[他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
11…放射線検出器、 12…前置増幅器、 13…高速整形増幅器、 14…波高弁別器、 15…トリガ生成器(第1の遅延器)、 16…TOT測定器(しきい値超過時間測定器)、 17…TOT遅延器(第2の遅延器)、 18…低速整形増幅器、 19…サンプルホールド装置、 20…アナログデジタル変換器、 30,31,32…サンプル信号選択器、 113…高利得高速整形増幅器、 114…高利得波高弁別器(波高弁別器)、 115…高利得トリガ生成器(トリガ生成器、第1の高利得遅延器)、 116…高利得TOT測定器(TOT測定器、高利得しきい値超過時間測定器)、 117…高利得TOT遅延器(TOT遅延器、第2の高利得遅延器)、 118…高利得低速整形増幅器(低速整形増幅器)、 119…高利得サンプルホールド装置(サンプルホールド装置)、 120…高利得アナログデジタル変換器(アナログデジタル変換器)