(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】導電性ペースト、および、セラミック配線基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20231128BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H05K3/12 610G
H05K3/12 610M
(21)【出願番号】P 2020088143
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】奈須 孝有
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋右
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-075039(JP,A)
【文献】特開2006-193795(JP,A)
【文献】特開2001-107101(JP,A)
【文献】特開平07-320533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H05K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板上または前記セラミック基板内部に配線層を形成可能な導電性ペーストであって、
モリブデン粉末
である金属粉末と、
前記金属粉末と混合される感光性樹脂と、を含み、
前記金属粉末は、
体積基準累積粒度分布における10%粒子径、50%粒子径をそれぞれD10、D50としたとき、
1<D50/D10≦1.56
かつ 2.3μm≦D10
の粒度分布を有することを特徴とする、
導電性ペースト。
【請求項2】
セラミック配線基板の製造方法であって、
モリブデン粉末である金属粉末と感光性樹脂とを含む導電性ペーストを、シート状の被塗布体上に塗布し、塗布された導電性ペーストを露光および現像することにより、配線層パターンをセラミックグリーンシート上に形成するパターン形成工程と、
前記パターン形成工程の後、前記セラミックグリーンシートを焼成し、配線層を形成する焼成工程と、を備え、
前記金属粉末は、
体積基準累積粒度分布における10%粒子径、50%粒子径をそれぞれD10、D50としたとき、
1<D50/D10≦1.56 かつ 2.3μm≦D10
の粒度分布を有することを特徴とする、
セラミック配線基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、および、セラミック配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セラミックグリーンシート上に塗布可能な流動性を有し、焼成することでセラミック配線基板の配線層となる導電性ペーストが知られている。例えば、特許文献1には、フォトリソグラフィによって、セラミックグリーンシート上の導電性ペーストから配線層パターンを形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の導電性ペーストは、フォトリソグラフィの露光工程で用いられる光を吸収しやすい金属の粉末を含んでいるため、露光工程での光が導電性ペーストの奥まで到達しにくい。このため、導電性ペーストの奥の感光性樹脂が光硬化しにくくなり配線層にアンダーカットが形成されやすくなる。このように、特許文献1に記載の導電性ペーストでは、セラミックグリーンシート上に、導電性ペーストを厚く塗布することが難しく、配線層の導通抵抗を低下させることは容易ではない。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、セラミック基板上またはセラミック基板内部に配線層を形成可能な導電性ペーストにおいて、導電性ペーストから形成される配線層の導通抵抗を低下させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、セラミック基板上または前記セラミック基板内部に配線層を形成可能な導電性ペーストが提供される。この導電性ペーストは、タングステン粉末およびモリブデン粉末の少なくともいずれか一方の金属粉末と、前記金属粉末と混合される感光性樹脂と、を含み、前記金属粉末は、体積基準累積粒度分布における10%粒子径、50%粒子径をそれぞれD10、D50としたとき、1<D50/D10≦1.56の粒度分布を有する。
【0008】
この構成によれば、導電性ペーストに含まれる金属粉末において、微粉が除去されて、粒度分布がシャープにされている。導電性ペーストに含まれる金属粉末に微粉が入っていると光が散乱され、感光性樹脂が硬化しにくいのに対し、この構成では、金属粉末の微粉が含まれないため、配線層パターンを形成するときの露光工程において導電性ペーストの内部に入射する光の散乱(吸収)が抑制され、導電性ペーストにおいて光が入射した側と反対側まで到達しやすくなる。これにより、導電性ペーストにおいて光が入射した側と反対側の感光性樹脂も、露光で用いられる光によって光硬化しやすくなるため、導電性ペーストを厚く塗布してもアンダーカットが形成されにくくなり、感光部分の形状が安定する。したがって、導電性ペーストから露光および現像によって形成される配線層パターンを厚くすることができるため、配線層の導通抵抗を低下させることができる。
【0009】
(2)上記形態の導電性ペーストにおいて、前記金属粉末は、モリブデン粉末でもよい。モリブデンの焼成開始温度は、タングステンより低い。そのため、配線層が形成されるセラミック基板のセラミック材料の焼成温度より低い場合には、配線層内へのセラミック材料の混入を抑制することができ、配線層のタップ性(空隙が少ないこと)を向上させることができる。その結果、配線層の導通抵抗を、さらに低下させることができる。
【0010】
(3)本発明の別の形態によれば、セラミック配線基板の製造方法が提供される。このセラミック配線基板の製造方法は、タングステン粉末およびモリブデン粉末の少なくともいずれか一方の金属粉末と感光性樹脂とを含む導電性ペーストを、シート状の被塗布体上に塗布し、塗布された導電性ペーストを露光および現像することにより、配線層パターンをセラミックグリーンシート上に形成するパターン形成工程と、前記パターン形成工程の後、前記セラミックグリーンシートを焼成し、配線層を形成する焼成工程と、を備え、前記金属粉末は、体積基準累積粒度分布における10%粒子径、50%粒子径をそれぞれD10、D50としたとき、1<D50/D10≦1.56の粒度分布を有する。
【0011】
このセラミック配線基板の製造方法によれば、パターン形成工程での露光工程において導電性ペーストに入射する光の散乱が抑制され、導電性ペーストにおいて光が入射した側と反対側まで到達しやすくなる。そのため、導電性ペーストにおいて光が入射した側と反対側の感光性樹脂が光硬化しやすくなる。これにより、導電性ペーストを厚く塗布しても、パターン形成工程での現像においてアンダーカットが形成されにくくなるため、パターン形成工程での露光および現像によって形成される配線層パターンを厚くすることができる。したがって、配線層の導通抵抗を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の導電性ペーストの断面構成を示す模式図である。
【
図2】本実施形態のセラミック配線基板の製造方法のフローチャートである。
【
図3】本実施形態のセラミック配線基板の製造方法における露光工程と現像工程を説明する図である。
【
図4】導電性ペーストに含まれる金属粉末の粒度分布を示す図である。
【
図5】金属粉末の粒子径と配線パターンの評価結果を示す図である。
【
図7】比較例の導電性ペーストを用いた場合の露光工程と現像工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の導電性ペースト10の断面構成を示す模式図である。
図1では、キャリアフィルム5上に塗布された導電性ペースト10が図示されている。キャリアフィルム5上に形成された導電性ペースト10から成る配線層パターンは、セラミックグリーンシートに転写され、焼成工程を経て、例えば、電子部品検査用の基板、ウェアテスタ用の基板、スペーストランスフォーマ(STF)等となる。また、導電性ペースト10を用いて配線層が形成されたセラミック配線基板は、例えば、静電チャック用ヒータ回路や、セラミックヒータとして用いられてもよく、積層することで、セラミック多層回路基板としても利用される。本実施形態におけるキャリアフィルム5を、「被塗布体」とも呼ぶ。
【0014】
導電性ペースト10は、金属粉末11と、感光性樹脂12を含む。金属粉末11は、モリブデン粉末であり、微粉が除去されており、体積基準累積粒度分布における10%粒子径、50%粒子径をそれぞれD10、D50としたとき、下記の粒度分布を有する。
1<D50/D10≦1.56
金属粉末11としては、例えば、日本新金属株式会社 単粒子モリブデン Mo-3KDを、ふるい分けすることにより、サブミクロンの微粉を除去したものを用いることができる。金属粉末11は、微粒子が除去されているため、後述するように、導電性ペースト10を用いて、配線層を形成する際の露光工程において、微粒子による光散乱(吸収)を抑制することができる。
【0015】
金属粉末11の粒度分布において、体積基準累積粒度分布における10%粒子径、90%粒子径をそれぞれD10、D90としたとき、下記の粒度分布を有することが好ましい。
1<D90/D10≦2.61
このようにすると、よりタップ性(空隙が少ないこと)を良くし、焼結性を良くすることができる。
【0016】
金属粉末11の平均粒径は、体積基準累積粒度分布における50%粒子径をD50としたとき、2μm<D50≦5μmが好ましい。このようにすると、例えば、10um程度の配線も形成することができるため、ファインな回路を形成することができる。本実施形態において、金属粉末11の粒度分布、粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定されたものである。
【0017】
感光性樹脂12は、紫外光が照射されると光硬化するネガ型感光材であって、本実施形態では、例えば、ビスアジド化合物を用いている。導電性ペースト10は、金属粉末11と感光性樹脂12とを、例えば、感光性樹脂12の重量%が20%となるように混合することで作製される。導電性ペースト10は、フォトリソグラフィによって配線層パターン7を形成することができるため、セラミック基板上の配線層のファイン化に適している。
【0018】
キャリアフィルム5としては、例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等、種々のフィルムを用いることができる。PENはPETよりもTg(ガラス転移点)が高いため、例えば、キャリアフィルム5として透明なPENを用いると、熱による変形が少なく、裏面からのパターン検査が可能になるため、好ましい。
【0019】
図2は、本実施形態のセラミック配線基板の製造方法のフローチャートである。
図3は、本実施形態のセラミック配線基板の製造方法における露光工程と現像工程を説明する図である。ここでは、キャリアフィルム上に配線パターンを形成し、セラミックグリーンシートに転写する、セラミック配線基板の製造方法を説明する。本実施形態のセラミック配線基板の製造方法は、
図2に示すように、パターン形成工程(ステップS1)と、焼成工程(ステップS2)を含む。
【0020】
パターン形成工程S1は、準備工程(ステップS11)と、塗布工程(ステップS12)と、露光工程(ステップS13)と、現像工程(ステップS14)と、転写工程(ステップS15)を含む。パターン形成工程では、最初に、準備工程として、キャリアフィルム5と、導電性ペースト10を準備する。次に、塗布工程として、キャリアフィルム5上に導電性ペースト10を塗布する。
【0021】
次に、露光工程として、キャリアフィルム5上に塗布された導電性ペースト10に光を照射する。具体的には、ガラスマスク20を用いてキャリアフィルム5上の導電性ペースト10に光を照射し、セラミック配線基板の配線層パターン7の形状にあわせて感光性樹脂12を光硬化させる。光照射方法はダイレクト露光(マスクレス露光)でも可能である。
【0022】
露光工程では、
図3(a)に示すように、導電性ペースト10の上方に、ガラスマスク20が配置される。ガラスマスク20には、平板状のガラス21に、配線層パターン7の形状にあわせて遮光膜22が設けられている。露光工程では、キャリアフィルム5上の導電性ペースト10に対して、ガラスマスク20を介して、導電性ペースト10に含まれる感光性樹脂12が光硬化する紫外光L1が照射される。
【0023】
ガラスマスク20を介して導電性ペースト10に照射された紫外光L1の一部は、
図3(a)に示すように、ガラスマスク20の遮光膜22が配置されていない部分を透過し、導電性ペースト10の一部10aに照射される。ここで、金属粉末11は、上述の通り、微粉が除去されているため、紫外線の散乱(吸収)が抑制される。そのため、導電性ペースト10の内部に入射する紫外光の多くは、金属粉末11によって反射され、導電性ペースト10の内部で散乱を繰り返しつつ、導電性ペースト10のキャリアフィルム5側に進む。導電性ペースト10の内部では、比較的多くの紫外光が導電性ペースト10のキャリアフィルム5側まで到達するため、導電性ペースト10の一部10aに含まれる感光性樹脂12の多くが光硬化する。これにより、光硬化した感光性樹脂12aを含む導電性ペースト10の感光部分15(
図3(b)参照)の側面15a、15bには、アンダーカットが形成されにくくなる。一方、遮光膜22によって紫外光が遮られ感光しなかった導電性ペースト10の未感光部分16、17は、感光性樹脂12が光硬化することなくキャリアフィルム5上に残る。
【0024】
露光工程の次に、現像工程として、キャリアフィルム5上に、配線層パターン7を形成する。具体的には、導電性ペースト10の未感光部分16、17が現像液によって除去される。これにより、
図3(c)に示すように、光硬化した感光性樹脂12aを含む導電性ペースト10の感光部分15が残り、配線層パターン7が形成される。このように、パターン形成工程では、フォトリソグラフィを用いて、キャリアフィルム5上に、配線層パターン7を形成する。
【0025】
次に、転写工程として、キャリアフィルム5上に形成された配線層パターン7を、グリーンシート上に転写する。具体的には、ビア付きのグリーンシートの表面に接着溶剤を塗布し、配線層パターン7が形成された面をグリーンシート側にして、キャリアフィルムを載せて、加圧し、加熱した後、キャリアフィルム5を剥がすことにより、配線層パターン7がグリーンシート上に形成される。
【0026】
転写工程の次に、焼成工程として、グリーンシートを焼成する。具体的には、
図3(c)に示す配線層パターン7が形成されたグリーンシートをコファイヤ焼成(同時焼成)することで、グリーンシートは、セラミック配線基板となる。
【0027】
次に、本実施形態の導電性ペースト10の効果について、比較例の導電性ペーストと比較して説明する。
図4は、導電性ペーストに含まれる金属粉末の粒度分布を示す図である。
図4は、横を対数スケールとした、片対数グラフであり、体積基準粒度分布を示す。
図5は、金属粉末の粒子径と配線パターンの評価結果を示す図である。
図4、
図5では、レーザー回折式粒度分布計(日機装マイクロトラック MT3300EX2)を用いて測定した結果を示している。
図6は、評価方法の説明図である。
【0028】
比較例の導電性ペースト50(
図7)は、金属粉末51と、感光性樹脂12とを備える。比較例の金属粉末51は、タングステン粉末であり、サブミクロンの微粉を含んでいる。
【0029】
図4に示すように、本実施形態の導電性ペースト10に含まれる金属粉末11と、比較例の導電性ペースト50に含まれる金属粉末51と、の粒度分布を比較すると、金属粉末11は、サブミクロンの微粉が除去されており、金属粉末51よりも粒度分布がシャープである。詳しくは、体積基準累積粒度分布における10%粒子径、50%粒子径をそれぞれD10、D50としたとき、
図5に示すように、本実施形態における金属粉末11は、D50/D10=1.56であり、比較例における金属粉末11は、D50/D10=2.22である。ここで、D50/D10は、粒度分布の幅に関する指標であり、D50/D10の値が1に近いほど、粒度分布がシャープである。
【0030】
また、体積基準累積粒度分布における90%粒子径をD90としたとき、
図5に示すように、本実施形態における金属粉末11は、D90/D10=2.61であり、比較例における金属粉末11は、D90/D10=4.33である。金属粉末11は金属粉末51と比較して、D90/D10が小さいため、配線パターンのタップ性(空隙が少ないこと)を良くすることができ、焼結性を良くすることができる。
【0031】
ここでは、上記したセラミック配線基板の製造方法により、セラミック配線基板70の内部に配線層72を形成し、
図6に示すように、アンダーカットの有無を確認した。詳しくは、
図6(A)に示すように、配線層72に対し垂直に切断し、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)にて、倍率X2000で観察した。
図6(B)に示すように、配線層72の底面と、配線層72の側面の角度をアンダーカット角θとし、アンダーカット角θが80°以上になれば、アンダーカットなしとした。
図6(B)では、配線層72の底面の延長線L1と、配線層72の側面の延長線L2を図示している。
図5に示すように、実施形態の導電性ペースト10を用いた配線層72では、アンダーカットが形成されておらず(評価〇)、比較例の導電性ペースト50を用いた配線層72では、アンダーカットが形成されていた(評価×)。
【0032】
図7は、比較例の導電性ペースト50を用いた場合の露光工程と現像工程を説明する図である。上述の通り、比較例の導電性ペースト50は、金属粉末51と、感光性樹脂12とを備える。比較例の金属粉末51は、タングステン粉末であり、
図4、
図5に示した通り、サブミクロンの微粉を含む。比較例の導電性ペースト50を用いて、上記の製造方法と同様の製造方法にて、セラミック配線基板を製造した場合の露光工程と現像工程について、以下に説明する。
【0033】
図7(a)に示すように、露光工程において、ガラスマスク20を用いてキャリアフィルム5上に塗布された比較例の導電性ペースト50に紫外光L1を照射し、配線層パターン7の形状にあわせて感光性樹脂12を光硬化させる。比較例の導電性ペースト50に含まれる金属粉末51は、サブミクロンの微粉を含み、微粉により紫外光が散乱されるため、照射された紫外光L1の一部は、導電性ペースト50のキャリアフィルム5側まで到達しない(
図7(a))。そのため、導電性ペースト50の紫外光L1が照射される一部50a(
図7(b))に含まれる感光性樹脂12の多くが光硬化しない。すなわち、導電性ペースト50の一部50aにおいて、キャリアフィルム5側の感光性樹脂12は、光硬化が阻害されるため、光硬化した感光性樹脂12aを含む導電性ペースト50の部分55は、
図4(b)に示すように、紫外光L1が入射する側からキャリアフィルム5に向かって細くなる形状となる。したがって、露光工程後の現像工程において、未感光部分56、57が除去されると、配線層パターン7には、
図4(c)に示すように、アンダーカットU1、U2が形成される。アンダーカットU1、U2は、配線層の厚みを厚くするほど大きくなるため、配線層とセラミック基板との接続が不安定となる。このため、比較例の導電性ペースト50を用いた場合、配線層の厚みを厚くすることが困難であり、厚くすることによって配線層の導通抵抗を低下させることは容易ではない。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の導電性ペースト10によれば、導電性ペースト10に含まれる金属粉末11において、微粉が除去されて、粒度分布がシャープにされている。導電性ペーストに含まれる金属粉末に微粉が入っていると光が散乱され、感光性樹脂が硬化しにくいのに対して、本実施形態の導電性ペースト10では、金属粉末の微粉が含まれないため、配線層パターン7を形成するときの露光工程において導電性ペースト10の内部に入射する光の散乱(吸収)が抑制され、導電性ペースト10において光が入射した側と反対側まで到達しやすくなる。これにより、導電性ペースト10において光が入射した側と反対側の感光性樹脂も、露光で用いられる光によって光硬化しやすくなるため、導電性ペースト10を厚く塗布してもアンダーカットが形成されにくくなり、感光部分の形状が安定する。換言すると、配線層パターンの断面形状が矩形に近くなる。したがって、導電性ペースト10から露光および現像によって形成される配線層パターン7を厚くすることができるため、配線層72の導通抵抗を低下させることができる。
【0035】
また、本実施形態の導電性ペースト10では、金属粉末11としてモリブデン粉末を用いている。モリブデンの焼成開始温度は、タングステンより低い。例えば、配線層が形成されるセラミック基板のセラミック材料として、アルミナ(Al2O3)を用いる場合、タングステンの焼成開始温度がアルミナの焼成開始温度より高いため、アルミナの焼成が始まり、焼結が進んだ辺からタングステンの焼成が始まるため、タングステン金属粒子の間にアルミナが入り込む。その結果、焼成後のタングステン金属のタップ性(空隙が少ないこと)が上がらず、抵抗値を下げることができない。これに対し、モリブデンの焼成開始温度は、アルミナより低く、アルミナの焼成が進む前であるため、モリブデン金属粒子の間にアルミナが入り込む量が抑えられ、タップ性が上がる。このため、本実施形態の導電性ペースト10を用いて配線層を形成すると、配線層の抵抗値が下げることができる。
【0036】
また、本実施形態のセラミック配線基板の製造方法によれば、露光工程において、導電性ペースト10に入射する紫外光L1は、金属粉末11による散乱が抑制されるため、導電性ペースト10のキャリアフィルム5側の感光性樹脂12に到達しやすく、光硬化しやすくなる。これにより、導電性ペースト10を厚く塗布しても、現像工程においてアンダーカットが形成されにくくなるため、露光工程と現像工程で形成される配線層パターン7を厚くすることができる。したがって、導通抵抗を低下させた配線層を備えるセラミック配線基板を製造することができる。
【0037】
また、本実施形態のセラミック配線基板の製造方法によれば、スクリーン印刷により配線層を形成する場合と比較して、断面形状を安定化させて略矩形に形成することができ、さらに、配線層の厚みを厚くしても、アッパーカットが形成されにくいため、デラミネーションの発生を抑制することができる。そのため、低抵抗の回路を形成することができる。また、ファインな回路を形成することができる。
【0038】
また、本実施形態のセラミック配線基板の製造方法によれば、キャリアフィルム5上の配線層パターン7を形成して、セラミックグリーンシート上に転写している。グリーンシート上に、直接、導電性ペースト10を塗布して、露光現像する場合と比較して、パターン加工中のペースト乾燥の熱、現像時の液圧、エアーブロー等によるグリーンシートの変形を抑制することができる。
【0039】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0040】
・上記実施形態において、金属粉末11としてモリブデン粉末を例示したが、タングステン粉末を用いてもよい。また、モリブデン粉末とタングステン粉末を両方用いてもよい。このようにしても、微粉を除去して、1<D50/D10≦1.56にすることにより、配線層パターンを厚くすることができるため、配線層72の導通抵抗を低下させることができる。
【0041】
・上述の実施形態では、キャリアフィルム5上の導電性ペースト10は、露光工程で照射される光によって、感光性樹脂12が光硬化するとした。しかしながら、感光性樹脂12の光に対する反応性は、これに限定されない。感光によって現像液に対する溶解度が異なるように、感光部分15と、未感光部分16、17とが変質すれば、現像工程において、感光部分15と、未感光部分16、17との一方を選択的に除去することができるため、配線層パターン7を形成することができる。
【0042】
・セラミック基板の製造方法として、キャリアフィルム5上の配線層パターン7を形成して、セラミックグリーンシート上に転写する例を示したが、セラミックグリーンシート上に直接、配線層パターン7を形成してもよい。
【0043】
・上述のセラミック基板の製造方法において、セラミック基板上に配線層が形成される例を示したが、配線層は、セラミック基板の内部に配置されてもよい。
【0044】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0045】
5…キャリアフィルム
7…配線層パターン
10…導電性ペースト
10a…導電性ペーストの一部
11…モリブデン粉末
12…感光性樹脂
12a…光硬化した感光性樹脂
15…感光部分
15a、15b…側面
16、17…未感光部分
20…ガラスマスク
21…ガラス
22…遮光膜
L1…紫外光
U1、U2…アンダーカット