(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】ダンパー装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/26 20060101AFI20231128BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20231128BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20231128BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
F16F9/26
F16F9/32 Q
F16F15/023 A
E04H9/02 351
(21)【出願番号】P 2020106387
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小槻 祥江
(72)【発明者】
【氏名】近本 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 義仁
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-60238(JP,A)
【文献】特開2014-80997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/26
F16F 9/32
F16F 15/023
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対変位可能な第1構造体と第2構造体との間に設けられるダンパー装置であって、
一端が前記第1構造体側に連結された2本以上の第1ダンパーと、
一端が前記第2構造体側に連結された2本以上の第2ダンパーと、
各前記第1ダンパーの他端と各前記第2ダンパーの他端とに連結され、前記第2構造体に対して各前記第1ダンパーと各前記第2ダンパーとを支持すると共に、各前記第1ダンパーの変位と各前記第2ダンパーの変位とが等長となるように前記変位に応じて前記第2構造体に対して移動する移動部と、
各前記第1ダンパーの前記一端側と連動して移動する軌道部材及び前記移動部に設けられ前記軌道部材に対して移動する移動部材により各前記第1ダンパー間の相対変位を規制する相対変位規制装置と、を備えることを特徴とする、
ダンパー装置。
【請求項2】
各前記第1ダンパーの前記一端側に設けられた本体部を収容する収容部を備え、
前記軌道部材は前記収容部に固定され、前記移動部材は前記移動部に固定されている、
請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項3】
水平方向に平行に配置された各前記第1ダンパーと、
各前記第1ダンパーの間において鉛直方向に平行に配置された各前記第2ダンパーと、を備える、
請求項1または2に記載のダンパー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の免震層が大変位となる場合に対応可能なダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大地震に対応する免震装置を備えた免震建物が増えつつある。免震建物の免震層には、変位が生じた場合に建物の揺れを減衰させるオイルダンパーが設けられている。近年、長周期地震動の問題がクローズアップされている。従来のオイルダンパーでは、長周期地震動が発生した場合にストローク量が不足する虞がある。そこで、免震層変位が1m以上となる場合にも対応可能なオイルダンパーが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このオイルダンパーによれば、各オイルダンパーの変位を同一にして直列することによりオイルダンパー単体の2倍の変位と2倍の速度に対応可能な装置となっており、大きなクリアランスを有す建物を設計する際に用いることが可能となるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術によれば、オイルダンパーの減衰力の製造誤差(軸力の±15%)から生じる曲げモーメントにより、平面上に並列されたオイルダンパーに変位差が生じる虞がある。そのため、水平面方向において並置された一対のオイルダンパーに変位差が生じた場合、一対のオイルダンパーが相対的に変位して他の部材に接触し、伸縮の妨げとなる虞がある。
【0006】
本発明は、複数のオイルダンパーに減衰力の差が生じていても複数のオイルダンパーの間の相対的な変位を規制するダンパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、本発明は、相対変位可能な第1構造体と第2構造体との間に設けられるダンパー装置であって、一端が前記第1構造体側に連結された2本以上の第1ダンパーと、一端が前記第2構造体側に連結された2本以上の第2ダンパーと、各前記第1ダンパーの他端と各前記第2ダンパーの他端とに連結され、前記第2構造体に対して各前記第1ダンパーと各前記第2ダンパーとを支持すると共に、各前記第1ダンパーの変位と各前記第2ダンパーの変位とが等長となるように前記変位に応じて前記第2構造体に対して移動する移動部と、前記一対の第1ダンパーの前記一端側と連動して移動する軌道部材及び前記移動部に設けられ前記軌道部材に対して移動する移動部材により各前記第1ダンパー間の相対変位を規制する相対変位規制装置と、を備えることを特徴とするダンパー装置である。
【0008】
本発明によれば、相対変位規制装置が各第1ダンパー間の相対変位を規制するため、第1ダンパーの製造誤差から生じる曲げモーメントに対抗して、並列に接続されている各第1ダンパーの変位差を規制することができる。
【0009】
また、本発明は、各前記第1ダンパーの前記一端側に設けられた本体部を収容する収容部を備え、前記軌道部材は前記収容部に固定され、前記移動部材は前記移動部に固定されていてもよい。
【0010】
本発明によれば、相対変位規制装置が第1ダンパーのストローク方向に移動部を移動させるように案内することで、各第1ダンパーの相対変位を規制することができる。
【0011】
また、本発明は、水平方向に平行に配置された各前記第1ダンパーと、各前記第1ダンパーの間において鉛直方向に平行に配置された各前記第2ダンパーと、を備えていてもよい。
【0012】
本発明によれば、水平方向に平行に配置された各第1ダンパーの間において第2ダンパーが鉛直方向に平行に配置されているため、装置構成を小型化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数のオイルダンパーに減衰力の差が生じていても複数のオイルダンパーの間の相対的な変位を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るダンパー装置の構成を示す平面図である。
【
図2】ダンパー装置の構成を示す側面方向の断面図である。
【
図3】ダンパー装置の構成を示す正面方向の断面図である。
【
図4】ダンパー装置に生じる力を示す側面方向の断面図である。
【
図5】ダンパー装置に生じる力の計算結果を示す図である。
【
図6】ダンパー装置に生じる力を示す平面方向の断面図である。
【
図7】ダンパー装置に生じる力の計算結果を示す図である。
【
図8】比較例に係るダンパー装置の構成を示す平面図である。
【
図9】比較例に係るダンパー装置の構成を示す側面図である。
【
図10】比較例に係るダンパー装置に生じる力の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るダンパー装置の実施形態について説明する。
【0016】
図1から
図3に示されるように、ダンパー装置1は、相対的に変位可能な第1構造体Tと第2構造体Gとの間に設けられる。第1構造体Tは、例えば、建物側に設けられ、建物と連動して移動する構造体である。第2構造体Gは、地盤側に設けられ、地盤と連動して移動する構造体である。第1構造体Tと、第2構造体Gとの間には免震装置(不図示)が設けられている。ダンパー装置1は、地震時に免震装置により移動する建物の揺れを減衰させる。
【0017】
ダンパー装置1は、例えば、第2構造体Gに対して移動自在な移動部Mと、水平方向に平行に配置された2本以上の第1ダンパーAと、一対の第1ダンパーAの間において鉛直方向に重ねられて平行に配置された2本以上の第2ダンパーBとを備える。第1ダンパーAと、第2ダンパーBとは、移動部Mを介して連結されている。
【0018】
第1ダンパーAは、例えば一般的なオイルダンパーである。第1ダンパーAは、例えば、オイルが封入された円筒形の本体部A1と、本体部A1に対して伸縮自在なピストンロッドA2とを備える。以下、ピストンロッドA2の端部を第1ダンパーAの一端A5と呼び、本体部A1の端部を他端A6と呼ぶ。第1ダンパーAの一端A5及び他端A6には、それぞれ屈折自在な継手構造を有するクレビスA3,A4が設けられている。第1ダンパーAには、一般的なクレビスを有する既製品のダンパーをそのまま採用できるので、ダンパーを安価に調達できる。
【0019】
第1ダンパーAの一端A5側は、連結部Cを介して第1構造体T側に連結されている。第1ダンパーAの他端A6側は、移動部M側に連結されている。連結部Cは、第1構造体Tに対して一対の第1ダンパーAの一端A5側を支持している。連結部Cは、第1構造体T側に連結されたクレビスC1と、クレビスC1に回転自在に支持された連結板C2とを備える。クレビスC1は、ヒンジ構造を備え、軸ピンに対応して鉛直方向にルーズホールが形成されている。ルーズホールには、例えば、テフロン(登録商標)等の滑り材が設けられている。
【0020】
これにより、第1構造体Tに長期的な免震層のクリープ歪により鉛直方向に変位が生じても、第1ダンパーAや第2ダンパーBの軸力が作用せず、接合部に作用する常時面圧はわずかであるため、変位に追従させることができる。
【0021】
連結板C2は、例えば、H形鋼により形成されている。連結板C2は、一対の第1ダンパーAの一端A5側を連結している。連結板C2は、水平面方向において、クレビスC1を回転中心として第1構造体Tに対して回転する。連結板C2には、一対の第1ダンパーAの一端A5側を収容する一対の収容部C4を備える。
【0022】
収容部C4は、例えば矩形の筒状に形成されている。収容部C4は、例えば、鋼管により形成されている。収容部C4は、一端側が連結板C2に固定され、他端側に開口が形成されている。収容部C4の内部において、ピストンロッドA2が収容され、本体部A1がピストンロッドA2に対して移動する。収容部C4の開口から本体部A1が相対的に出入りする。一対の収容部C4の間には、一対の第2ダンパーBが配置されている。
【0023】
第2ダンパーBは、第1ダンパーAと同じ構成を備える一般的なオイルダンパーである。第2ダンパーBは、第1ダンパーAと反対の向きに配置されている。一対の第2ダンパーBは、一対の第1ダンパーAの間において上下に並置されている。第2ダンパーBは、例えば、オイルが封入された円筒形の本体部B1と、本体部B1に対して伸縮自在なピストンロッドB2とを備える。
【0024】
以下、ピストンロッドB2の端部を第2ダンパーBの一端B5と呼び、本体部B1の端部を他端B6と呼ぶ。第2ダンパーBの一端B5及び他端B6には、それぞれ屈折自在な継手構造を有するクレビスB3,B4が設けられている。第2ダンパーBには、一般的なクレビスを有する既製品のダンパーをそのまま採用できるので、ダンパーを安価に調達できる。
【0025】
第2ダンパーBの一端B5側は、第2構造体G側に連結されている。第2ダンパーBの他端B6側は、移動部M側に連結されている。移動部Mは、第2構造体に対して第1ダンパーAの他端A6側と第2ダンパーBの他端B6側とが連結され、支持している。
【0026】
移動部Mは、例えば、円筒状に形成された本体部M1を備える。本体部M1は、一端M1A側が第2構造体G側に配置され、他端M1B側が第1構造体T側に配置されている。本体部M1の一端M1A側は、第1脚部M2により支持されている。本体部M1の他端M1B側は、第2脚部M3により支持されている。
【0027】
第1脚部M2は、門型に形成された部材である。第1脚部M2は、水平方向に配置された水平部材M2Aと、水平部材M2Aの両端を支持する一対の脚部材M2Bを備える。脚部材M2Bは、第2構造体Gと一体に形成された床面Eに対してボールキャスタM2Cにより水平方向に移動自在に支持されている。ボールキャスタM2Cは、上下方向に移動自在なサスペンション機構を備えている。
【0028】
水平部材M2Aを水平方向から見て長手方向の中央部には、円形の第1貫通孔が形成されている。第1貫通孔には、本体部M1の一端M1A側が貫通して固定されている。
【0029】
第2脚部M3は、鉛直方向に起立した部材である。第2脚部M3は、底面に一対のボールキャスタM3Bを備え、床面Eに対して水平方向に移動自在に支持されている。ボールキャスタM3Bは、上下方向に移動自在なサスペンション機構を備えている。第2脚部M3は、水平方向から見て長手方向の中央部には、円形の第2貫通孔が形成されている。第2貫通孔は、第1貫通孔と同じ高さに形成されている。第2貫通孔には、本体部M1の他端M1B側が貫通して固定されている。
【0030】
本体部M1の一端M1A側には、第1ボールねじLが設けられている。第1ボールねじLは、棒状のねじ軸L1と、ねじ軸L1が螺入されるナットL2とを備える。ねじ軸L1のねじ溝とナットL2のねじ溝との間には、複数のボール(不図示)が配置されている。ナットL2は、本体部M1の一端M1Aにおいて開口を塞ぐように固定されている。ねじ軸L1は、ナットL2に螺入されることにより、ねじ軸L1を軸線方向に本体部M1に対して引張又は押圧すると、本体部M1に対して回転を伴って伸縮する。ねじ軸L1の端部L1Aは、第2構造体G側に回転自在に固定されている。
【0031】
本体部M1の他端M1B側には、第2ボールねじKが設けられている。第2ボールねじKは、棒状のねじ軸K1と、ねじ軸K1が螺入されるナットK2とを備える。第2ボールねじKは、第1ボールねじLと逆ねじに形成されている。ねじ軸K1のねじ溝とナットK2のねじ溝との間には、複数のボール(不図示)が配置されている。
【0032】
ナットK2は、本体部M1の他端M1Bにおいて開口を塞ぐように固定されている。ねじ軸K1は、ナットK2に螺入されることにより、ねじ軸K1を軸線方向に本体部M1に対して引張又は押圧すると、本体部M1に対して回転を伴って伸縮する。ねじ軸K1の伸縮時の回転方向は、ねじ軸L1の伸縮時の回転方向と逆方向である。ねじ軸K1の端部K1Aは、第1構造体T側に回転自在に固定されている。
【0033】
上記構成により移動部Mは、第1ダンパーAと第2ダンパーBとを直列に連結することができ、XY平面内2方向に対応した大振幅のストロークを実現できる。移動部Mは、複数のダンパーを直列に連結すると共に、連結箇所において複数のタンパーの自重を支持し、ダンパー装置1の全長が長くなっても大きなたわみが生じることを防止できる。
【0034】
移動部Mにおいて、一対の第1ダンパーA及び一対の第2ダンパーBが2列×2段に配置されるため、平面方向及び高さ方向においても装置構成が小型化され、免震層内への配置の自由度を向上できる。移動部Mにおいて、第1ダンパーAと第2ダンパーBとを単に直列するのではなく平面方向において本体部A1,B1を重ねるように配置することにより、装置構成の全長を短縮できる。
【0035】
一対の第1ダンパーAと一対の第2ダンパーBとは、移動部Mにおいてサスペンションを有する複数のボールキャスタM2C,M3Bに支持されているため、地面の平滑度を要さずとも水平方向における2方向への稼働が可能となる。一般的なころがり免震では支承下部にステンレス板等を設けているが、移動部Mは、床面Eに多少の凹凸が生じていても移動時に床面Eに追従して移動できるのでステンレス板を省略しコストを低減できる。
【0036】
移動部Mは、第1構造体Tと第2構造体Gとの間に相対変位が生じた場合において、第1ダンパーAの変位と第2ダンパーBの変位とが等長となるように変位に応じて第2構造体Gに対して移動する。第1構造体Tと第2構造体Gとの間に変位が生じた場合、第1ダンパーAと第2ダンパーBとが伸縮し、連動して移動部Mと連結部Cとが相対的にダンパーの伸縮方向に移動する。第2ダンパーBと一対の収容部C4との間には、一対の第1ダンパーA間の相対変位を規制する一対の相対変位規制装置Pが設けられている。
【0037】
相対変位規制装置Pは、例えば、直動の移動を案内するリニアガイドである。相対変位規制装置Pは、例えば、レールP1(軌道部材)と、レールP1に案内されて移動する複数の移動部材P2とを備える。レールP1は、例えば、矩形断面の棒状に形成されている。レールP1の一端は、連結板C2に配置されている。レールP1は、例えば、一対の収容部C4の対向する側面C5に設けられた一対の支持板P3に支持されている。支持板P3は、帯状の板状体に形成されている。側面C5において水平方向に沿って延在して設けられている。
【0038】
移動部材P2は、例えば、レールP1の軸線方向に沿って2個以上設けられている。移動部材P2は、例えば、レールP1に沿って摺動する。移動部材P2は、ベアリング等を介してレールP1に対して転動するものであってもよい。移動部材P2は、レールP1に沿って脱落せずに移動するものであればどのような部材が用いられてもよい。移動部材P2は、例えば、レールP1の断面方向から見てレールP1を上方から覆う門型に形成されている。相対変位規制装置Pは、レールP1に対して複数の移動部材P2が移動するものを例示したが、回転を規制するように形成されているのであれば移動部材P2は1個であってもよい。相対変位規制装置Pは、レールP1と移動部材P2を備えるリニアガイドを例示したが、レールP1以外の軌道部材に対して移動部材P2が脱落せずに相対的に移動する機構を備えるものであれば他の装置が用いられてもよい。相対変位規制装置Pにおいて、レールP1(軌道部材)と移動部材P2は入れ替えられてもよい。
【0039】
レールP1上の2個の移動部材P2は、例えば、移動部M側にプレートP4に固定されている。プレートP4は、側面C5に対向する第2脚部M3の側面M4に設けられている。プレートP4は、帯状の板状体に形成されている。プレートP4は、側面M4において水平方向に沿って延在して設けられている。
【0040】
レールP1上の2個の移動部材P2は、移動部Mが連結部Cに対して移動した場合に、レールP1に沿って移動する。上記構成により、相対変位規制装置Pは、一対の第1ダンパーAが有する減衰力にばらつきがある場合、それぞれの第1ダンパーAに生じる変位の差を規制する。
【0041】
移動部Mと連結部Cとの間に相対変位が生じた場合に、一対の第1ダンパーAが有する減衰力にばらつきがあると、水平面方向及び鉛直面方向において移動部Mと連結部Cとの間に曲げモーメントが生じる。このとき、相対変位規制装置Pにおいて複数の移動部材P2がレールP1に案内され、移動部Mと連結部Cとの間に回転する方向の変位を規制する。その結果、相対変位規制装置Pは、移動部Mと連結部Cとを第1ダンパーAの伸縮方向に沿った方向に案内して移動させる。
【0042】
これに比して、複数のオイルダンパーを鉛直方向に並べた装置構成では、第1構造体Tと第2構造体GとがY方向に変位した場合、複数のオイルダンパーがクレビスを回転軸として同一回転することで移動に追従できる。しかしながら、この装置構成は、高さを要し、免震層に収容できなくなる虞がある。
【0043】
また、複数のオイルダンパーを水平方向に並置した装置構成では、第1構造体Tと第2構造体GとがY方向に変位した場合、ダンパーの相対間隔が縮小してしまう問題がある。そして、ダンパー同士を剛接続しても、端部にクレビスがあると、クレビスの可動角度範囲内で変位差が生じたり、各ダンパーの反力差による偶力が生じたりしてしまう虞がある。
【0044】
ダンパー装置1によれば、複数のダンパーがクレビスにおいてZ軸回りに回転を許容しつつも、移動部材P2により一対の第1ダンパーA同士を平行な状態に保持させて変位差を防止し、偶力を相殺させることができる。
【0045】
ダンパー装置1によれば、複数のクレビスを鉛直方向に並べてもこの剛体回転できる特性は変わらないので、オイルダンパーに元々あったクレビスを鉛直方向に台数分だけ並列配置すればよい。従って、ダンパー装置1によれば、高価な高耐力のクレビスを用いなくても、一般的なクレビスを有する既製品のダンパーをそのまま採用できる。
【0046】
ダンパー装置1によれば、一対の第1ダンパーA、連結部C、及び移動部Mが剛体として稼働するため一対の第1ダンパーAの間の距離が変化することなく2方向に稼働させつつ、装置構成を小型化できる。
【0047】
以下、各オイルダンパーの性能差から生じるモーメントを一対の相対変位規制装置Pを用いて負担した場合の荷重計算を示す。
【0048】
図4に示されるように、鉛直面において発生する曲げモーメントに対して相対変位規制装置Pに抗力が生じる。
図5には、計算結果が示されている。上側の第2ダンパーBの荷重が850kNであり、下側の第2ダンパーBの荷重が1150kNであった場合、荷重差は300kNである。上下の第2ダンパーBの間の距離が900mmである場合、発生するy軸廻りのモーメントは270,000kN・mmである。相対変位規制装置Pにおいて、レールP1に配置された2個の移動部材P2の間の距離が865mmに設定された場合、それぞれの移動部材P2が負担する荷重は156kNである。
【0049】
図6に示されるように、水平面において発生する曲げモーメントに対して相対変位規制装置Pに抗力が生じる。
図7には、計算結果が示されている。一対の第1ダンパーAの間の距離は1340mmである。発生するz軸廻りのモーメントは402,000kN・mmである。相対変位規制装置Pにおいて、レールP1に配置された2個の移動部材P2の間の距離が865mmに設定された場合、それぞれの移動部材P2が負担する荷重は232kNである。
【0050】
相対変位規制装置Pの短期許容荷重は388kNである。ダンパー装置1によれば、上記計算結果に基づいて一対の相対変位規制装置Pを用いることで、±15%の性能差があるオイルダンパーから生じるモーメントに十分耐えることができる。
【0051】
以下比較例に係る計算結果について説明する。比較例におけるダンパー装置には、相対変位規制装置Pの代わりに平面上に並列された一対のオイルダンパーの変位差を規制するために、直動方向の移動を案内するリニアブッシュ(LT100:商品名)が用いられている。
【0052】
図8及び
図9に示されるように、比較例に係るダンパー装置100には、リニアブッシュWが、左右方向に4本ずつ合計8本設けられている。即ち、リニアブッシュWは、水平面方向に4本設けられたものが上下に2セット設けられている。リニアブッシュWは、棒状に形成されたレールW1と、レールW1に沿って移動するブッシュW2とを備える。ブッシュW2は、レールW1の径方向から断面視して円筒状に形成されている。ブッシュW2は、弾性部材により形成されている。
【0053】
図10には、リニアブッシュWにおいて曲げモーメントにより生じる抗力が示されている。1000kN/本の免震用オイルダンパーで、製造の公差±15%を考慮すると、並列するダンパーには300kNの荷重差が生じる。オイルダンパーを1m離して設置した場合の8本のリニアブッシュに掛かるモーメントは300kN・mである。リニアブッシュWに掛かるモーメントは、1本あたり37.5kN・mである。
【0054】
計算に用いたリニアブッシュWの許容モーメントは24kN・mであるので、耐荷重が超過する虞がある。そのため、リニアブッシュWの1本あたりに加わるモーメントを低減するために、リニアブッシュの本数を増やしたり、より高耐力なリニアブッシュを使用したりすると、装置構成が複雑化すると共にコストが増大する。
【0055】
上述したようにダンパー装置1によれば、相対変位規制装置Pにリニアガイドを用いることで、第1ダンパーAの製造誤差から生じる曲げモーメントに対抗して、並列に接続されている第1ダンパーAの変位差を規制することができる。ダンパー装置1によれば、収容部C4に第1ダンパーAを収容することで、一対の第1ダンパーA間の距離を小さくすることができ、装置全体を小型化することができる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、実施形態では、相対変位規制装置Pにリニアガイドを例示しているが、直動運動を案内できるものであれば他の装置が用いられてもよい。第1ダンパーA及び第2ダンパーBは、2本ずつ設けられているダンパー装置を例示しているが、第1ダンパーA及び第2ダンパーBは、3本以上設けられていてもよい。実施形態では、ダンパー装置1が水平面方向に相対変位可能な構造体間に設けられるものを記載したが、ダンパー装置1は、例えば、壁に設置するものに適用して鉛直方向に相対変位可能な構造体間に設けられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 ダンパー装置、A 第1ダンパー、A1 本体部、A2 ピストンロッド、A3 クレビス、A4 クレビス、B 第2ダンパー、B1 本体部、B2 ピストンロッド、B3 クレビス、B4 クレビス、C 連結部、C1 クレビス、C2 連結板、C4 収容部、C5 側面、E 床面、G 第2構造体、K 第2ボールねじ、K1 ねじ軸、K1A 端部、K2 ナット、L 第1ボールねじ、L1 ねじ軸、L1A 端部、L2 ナット、M 移動部、M1 本体部、M2 第1脚部、M2A 水平部材、M2B 脚部材、M2C ボールキャスタ、M3 第2脚部、M3B ボールキャスタ、M4 側面、P 相対変位規制装置、P1 レール、P2 移動部材、P3 支持板、P4 プレート、T 第1構造体