(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】建設機械のエンジンフード
(51)【国際特許分類】
B62D 25/10 20060101AFI20231128BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
B62D25/10 B
E02F9/00 N
(21)【出願番号】P 2020122311
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】有地 毅成
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-12446(JP,A)
【文献】特開2018-167665(JP,A)
【文献】実開昭54-8217(JP,U)
【文献】米国特許第9174682(US,B2)
【文献】特開2009-84842(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102013003433(DE,A1)
【文献】特開2012-144204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10- 25/13
E02F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のエンジンルームの開口に開閉自在に取り付けられるエンジンフードであって、
エンジンフードの外殻を成すカバー部材と、該カバー部材の内側に配設された構造部材とから成り、
前記構造部材は、前記エンジンルームの開口に合わせて枠状に形成されたベースフレームと、該ベースフレームに取り付けられた複数のコ字状屈曲材から成るスペースフレームとを有し、
前記カバー部材は、前記エンジンルームの開口を覆うように断面コ字状に形成されたカバーと、該カバーの縁部に周方向に沿って形成されたフランジとを有し、
前記カバー部材のカバーが、マスチック接着剤によって前記構造部材のスペースフレームに接着され、
前記カバー部材のフランジが、構造用接着剤によって前記構造部材のベースフレームに接着されている、ことを特徴とする建設機械のエンジンフード。
【請求項2】
前記構造部材のベースフレームに、前記カバー部材をエンジンルームの開口に対して開閉自在とするためのヒンジと、閉じられた前記カバー部材を閉状態にロックするためのロック部材とが取り付けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の建設機械のエンジンフード。
【請求項3】
前記カバー部材のカバーは、複数の平坦パネルおよび折曲パネルが接合されて構成され、これら平坦パネルおよび折曲パネルは、前記カバーの内方に突出するフランジ部を有し、これらフランジ部同士が拝み合わせられた状態でスポット溶接されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の建設機械のエンジンフード。
【請求項4】
前記カバー部材のフランジが、前記構造部材のベースフレームに、構造用接着剤によって接合されていることに加えて、溶接、ヘミング結合およびリベットの少なくとも何れか一つによって接合されている、ことを特徴とする請求項1から3に記載の建設機械のエンジンフード。
【請求項5】
前記カバー部材の材質が、前記構造部材よりも比重の小さい前記構造部材とは異なった材質であり、前記カバー部材のフランジが、前記構造部材のベースフレームに、構造用接着剤によって接合されていることに加えて、ヘミング結合およびリベットの少なくとも一方によって接合されている、ことを特徴とする請求項1から3に記載の建設機械のエンジンフード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械のエンジンフードに係り、特に、剛性を低下させることなく溶接ボリュームを削減でき、外観品質に優れた建設機械のエンジンフードに関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械のエンジンフードは、従来、エンジンルームの開口を覆うように形成された薄板成形パネル(フード本体)に複数の補強材をCO2溶接やスポット溶接で直接組み付け、フード本体となる薄板成形パネル自体の剛性を補強材によって高める構造であった。このため、溶接ボリュームが多く工数が増え、溶接ワイヤやCO2ガス等の補助材料費も嵩んでいた。
【0003】
溶接ボリュームが多いため、溶接焼け、溶接歪み、スポット溶接圧痕が顕著となり、それらを修正するために多大な仕上げ工数が必要となる上、歪み、圧痕は完全には取り切れず、外観品質の低下を招いていた。また、エンジンフードとして開閉に必要な剛性を確保するため、薄板成形パネルに多数の補強材を取り付けていたため、重量が増大してしまい、フードの開閉操作性の低下を招いていた。
【0004】
なお、建設機械のエンジンフードとして、特許文献1には、エンジンフード本体が第1の開放位置から第2の開放位置へと不意に開くことを防止したものが開示されているが、フード開閉機構に特徴を有するものであり、本発明のようにエンジンフード自体の構造については、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、剛性を低下させることなく溶接ボリュームを削減でき、外観品質に優れた建設機械のエンジンフードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく創案された本発明によれば、建設機械のエンジンルームの開口に開閉自在に取り付けられるエンジンフードであって、エンジンフードの外殻を成すカバー部材と、カバー部材の内側に配設された構造部材とから成り、構造部材は、エンジンルームの開口に合わせて枠状に形成されたベースフレームと、ベースフレームに取り付けられた複数のコ字状屈曲材から成るスペースフレームとを有し、カバー部材は、エンジンルームの開口を覆うように断面コ字状に形成されたカバーと、カバーの縁部に周方向に沿って形成されたフランジとを有し、カバー部材のカバーが、マスチック接着剤によって構造部材のスペースフレームに接着され、カバー部材のフランジが、構造用接着剤によって構造部材のベースフレームに接着されている、ことを特徴とする建設機械のエンジンフードが提供される。
【0008】
本発明に係る建設機械のエンジンフードにおいては、構造部材のベースフレームに、カバー部材をエンジンルームの開口に対して開閉自在とするためのヒンジと、閉じられたカバー部材を閉状態にロックするためのロック部材とが取り付けられていてもよい。
【0009】
本発明に係る建設機械のエンジンフードにおいては、カバー部材のカバーは、複数の平坦パネルおよび折曲パネルが接合されて構成され、これら平坦パネルおよび折曲パネルは、カバーの内方に突出するフランジ部を有し、これらフランジ部同士が拝み合わせられた状態でスポット溶接されていてもよい。
【0010】
本発明に係る建設機械のエンジンフードにおいては、カバー部材のフランジが、構造部材のベースフレームに、構造用接着剤によって接合されていることに加えて、溶接、ヘミング結合およびリベットの少なくとも何れか一つによって接合されていてもよい。
【0011】
本発明に係る建設機械のエンジンフードにおいては、カバー部材の材質が、構造部材よりも比重の小さい構造部材とは異なった材質であり、カバー部材のフランジが、構造部材のベースフレームに、構造用接着剤によって接合されていることに加えて、ヘミング結合およびリベットの少なくとも一方によって接合されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る建設機械のエンジンフードによれば、剛性を低下させることなく溶接ボリュームを削減でき、外観品質に優れた建設機械のエンジンフードを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る建設機械のエンジンフードの外殻を成すカバー部材を斜め下方から見た斜視図である。
【
図2】
図1のカバー部材の内側に配設される構造部材を斜め下方から見た斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る建設機械のエンジンフードを斜め下方から見た斜視図である。
【
図7】(a)は
図3のVII-VII線断面図、(b)は
図7(a)のb-b線断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る建設機械のエンジンフードを斜め上方から見た斜視図である。
【
図10】(a)は
図8のXの部分の拡大図、(b)はその分解斜視図である。
【
図11】
図4のXIの部分の断面図であり、(a)はスペースフレームに丸パイプを用いた場合、(b)はスペースフレームに角パイプを用いた場合、(c)はスペースフレームにチャンネル断面材を用いた場合を示す。
【
図12】
図5のXII部分の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
(建設機械のエンジンフード1の概要)
図1~
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る建設機械のエンジンフード1は、油圧ショベルやホイールローダー等の建設機械のエンジンルームの開口に開閉自在に取り付けられるエンジンフード1であって、エンジンフード1の外殻を成すカバー部材2(
図1参照)と、カバー部材2の内側に配設された構造部材3(
図2参照)とから構成されている。
【0016】
図2に示す構造部材3は、エンジンフード1としての強度・剛性を担当するものであり、エンジンルームの開口に合わせて枠状に形成されたベースフレーム4と、ベースフレーム4に取り付けられた複数のコ字状屈曲材5から成るスペースフレーム6とを有する。他方、
図1に示すカバー部材2は、エンジンフード1の外観意匠を担当するものであり、構造部材3を覆うと共にエンジンルームの開口を覆うように断面コ字状に形成されたカバー7と、カバー7の縁部に周方向に沿って形成されたフランジ8とを有する。
【0017】
図4に示すように、カバー部材5のカバー7は、マスチック接着剤Mによって構造部材3のスペースフレーム6に接着され、カバー部材5のフランジ8は、構造用接着剤Sによって構造部材3のベースフレーム4に接着されている。以下、各構成要素について説明する。
【0018】
(カバー部材2)
図1に示すカバー部材2は、エンジンフード1の外殻を成し、エンジンフード1の外観意匠を担当するものである。カバー部材2は、建設機械のエンジンルームの開口を覆うように断面コ字状に形成されたカバー7と、カバー7の縁部に周方向に沿って形成されたフランジ8とを有する。カバー7は、エンジンルームの開口を覆うように矩形状に形成された天板部7aと、天板部7aの四辺からエンジンルームの開口に向けて延出された縦板部7bとを有し、断面コ字状(ハット断面形状)に形成されている。縦板部7bの先端には、フランジ8が周方向に沿って形成されている。
【0019】
図8、
図9に示すように、カバー部材2のカバー7は、複数の平坦パネル(天板部7a)および折曲パネル(縦板部7b)が接合されて構成されている。これら平坦パネル(天板部7a)および折曲パネル(縦板部7b)は、カバー7の内方に突出するフランジ部7cを夫々有し、これらフランジ部7c同士が拝み合わせられた状態でスポット溶接されている。SWはスポット溶接部である。これにより、スポット溶接部SWの圧痕がカバー7の外観に表れなくなり、建設機械のエンジンフード1の外観品質が向上すると共に、外観品質を確保すべく圧痕を修正するための工数を削減できる。
【0020】
(構造部材3)
図2に示す構造部材3は、
図1に示すカバー部材2の内側に配設され、エンジンフード1としての強度・剛性を担当するものである。構造部材3は、エンジンルームの開口に合わせて枠状に形成されたベースフレーム4と、ベースフレーム4に取り付けられた複数のコ字状屈曲材5から成るスペースフレーム6とを有する。
【0021】
(ベースフレーム4)
図3、
図4に示すように、ベースフレーム4は、鋼管等から成る角パイプがエンジンルームの開口に合わせて矩形の枠状に曲げられた構造、或いは複数の折板等によって四角閉断面の矩形枠状の構造となっており、
図5~
図7に示すように、べースフレーム4を成す角パイプの底面または四角閉断面の底面に取り付けられた平板4aを備えている。ベースフレーム4の平板4aは、カバー部材2のフランジ8に重ね合わされ、構造用接着剤Sによって接着されている。また、平板4aとフランジ8とは、後述するように、構造用接着剤Sに加えて、部分的にはスポット溶接(
図5~
図7のスポット溶接部SWを参照)によっても接合されている。構造用接着剤Sは加熱硬化型のものが用いられ、スポット溶接部SWは構造用接着剤Sが硬化するまでの仮止めとしても機能する。すなわち、仮止め機能+強度機能が、スポット溶接部SWの役割となる。
【0022】
図2に示すように、ベースフレーム4には、エンジンフード1(カバー部材2)をエンジンルームの開口に対して開閉自在とするためのヒンジ9、閉じられたエンジンフード1を閉状態にロックするためのロック部材10、閉じられたエンジンフード1の振れを抑える振れ止めブラケット11、エンジンフード1を開いたとき開き角度を所定角度に固定するためのステーブラケット12等、強度・剛性・耐久性が必要な部品が組み付けられている。
【0023】
図5に示すように、ヒンジ9は、ベースフレーム4の平板4aの底面に溶接や構造用接着剤によって取り付けられており、エンジンフード1を開閉する毎に負荷が加わる。
図6に示すように、振れ止めブラケット11は、ベースフレーム14平板4aの底面に溶接や構造用接着剤によって取り付けられており、建設機械の運転中にエンジンフード1が揺すられることで負荷が加わる。
【0024】
図10(a)、
図10(b)に示すように、ロック部材10は、ロックストライカ10aとストライカ支持ブラケット10bとを有し、支持ブラケット10bがベースフレーム4に溶接や構造用接着剤によって取り付けられ、その支持ブラケット10bに溶接で取り付けられたナット10cに、ストライカ10aがカバー7の孔7dを挿通したボルト10dによって締結されている。ロック部材10のストライカ10aには、エンジンフード1を閉じてロックする毎に相手方部品によって負荷が加わり、その負荷は支持ブラケット10bを介してベースフレーム4に支持される。
【0025】
図2に示すステーブラケット12は、エンジンフード1の開いたとき支えとなるステー(図示せず)の先端折曲げ部が係合する窪み部12aを備えており、エンジンフード1を開いて所定角度で固定する度に負荷が加わる。なお、
図3では作図の都合上、ステーブラケット12を省略している。このように強度・剛性・耐久性が必要な部品(ヒンジ9、ロック部材10、振れ止めブラケット11、ステーブラケット12)は、剛性および強度が高い構造部材3のベースフレーム4に取り付けられている。
【0026】
(スペースフレーム6)
図2に示すように、ベースフレーム4には、複数のコ字状屈曲材5から成るスペースフレーム6が取り付けられている。コ字状屈曲材5は、ベースフレーム4を構成する角パイプまたは四角閉断面の側面に、溶接や構造用接着剤によって取り付けられている。
図3、
図4に示すように、コ字状屈曲材5は、その屈曲形状がカバー部材2の内面に合わせられており、カバー部材2の内方において、枠状のベースフレーム4と共同して立体骨組構造を構成する。
【0027】
図3、
図4に示すように、本実施形態においては、スペースフレーム6を構成するコ字状屈曲材5は、カバー部材2の長手方向に1本、短手方向に間隔を隔てて3本配設されているが、これらの本数に限られない。コ字状屈曲材5は、
図11(a)に示すように丸パイプでもよく、
図11(b)に示すように角パイプでもよく、
図11(c)に示すように断面コ字のチャンネル材(溝型鋼)でもよい。
【0028】
(マスチック接着剤M)
図3、
図4に示すように、構造部材3のスペースフレーム6とカバー部材2のカバー7とは、マスチック接着剤Mによって接合されている。マスチック接着剤Mは、合成ゴムを主成分とした発泡性を有する弾性接着剤であり、カバー7とスペースフレーム6との間に充填され、これらを接着する。スペースフレーム6とカバー7との間に弾性を有するマスチック接着剤が介在されているので、製造上不可避なカバー7とスペースフレーム6との隙間のばらつきを吸収して、スペースフレーム6の形状(骨組形状)がカバー7の外面に出ることを回避でき、建設機械のエンジンフード1の外観品質が向上する。また、建設機械の運転中、振動によりカバー7がスペースフレーム6に直接接触することによる騒音を防止できる。また、カバー7の複数箇所が間隔を隔ててマスチック接着剤Mによってスペースフレーム6に支持されるので、カバー7の張り剛性を維持でき、カバー7の低周波振動による所謂ドラミング(ドラミングノイズ)が防止される。
【0029】
図11(a)に示すように、スペースフレーム6を構成するコ字状屈曲材5が丸パイプである場合、マスチック接着剤Mの塗布代が小さいため、その丸パイプ5に円板状の塗布代部材5aを溶接し、その塗布代部材5aにマスチック接着剤Mを塗布してもよい(
図2、
図3、
図4参照)。他方、
図11(b)、
図11(c)に示すように、コ字状屈曲材5が角パイプ、チャンネル材の場合、その平面部分がマスチック接着剤Mの塗布代となるため、基本的には塗布代部材5aは不要であるが、接着面積を稼ぐため丸パイプと同様に塗布代部材5aを設けてもよい。また、コ字状屈曲材5が丸パイプの場合、カバー7に対するパイプ接着部を潰して接着代を確保してもよい。
【0030】
(構造用接着剤S)
図5~
図7に示すように、ベースフレーム4の平板4aとカバー部材2のフランジ8とは、構造用接着剤Sによって接合されている。構造用接着剤Sは、一液硬化型エポキシ樹脂を主成分とした接着剤であり、マスチック接着剤Mよりも接着強度および耐衝撃性が高い。構造用接着剤Sは、カバー部材2のフランジ8とベースフレーム4の平板4aとを強固に接着固定する。
【0031】
本実施形態においては、カバー部材2のフランジ8とベースフレーム4の平板4aとは、構造用接着剤Sで接合されていることに加えて、スポット溶接よっても接合されている。
図5~
図7においてSWはスポット溶接部である。詳しくは、
図3において、大きな負荷が加わるヒンジ9およびロック部材10が取り付けられるカバー部材2の短手部分のフランジ8と平板4aとは、構造用接着剤Sおよびスポット溶接によって接合され(
図5、
図6のスポット溶接部SW参照)、それほど大きな負荷が加わらないカバー部材2の長手部分のフランジ8とベースフレーム4の平板4aとは、スポット溶接のみで接合されている(
図7のスポット溶接部SW参照)。フランジ8と平板4aとの接合強度の一部を構造用接着剤Sに担わせることで、応力集中を回避して応力分散が図られ、スポット溶接の数を減らすことができ、溶接ボリュームを削減できる。
【0032】
また、
図3において、フランジ8と平板4aとを周方向に沿って全周に亘って構造用接着剤Sで接合し、構造用接着剤Sのみでは接合強度が足りない部分をスポット溶接で接合してもよい。例えば、大きな負荷が加わるヒンジ9およびロック部材10が取り付けられるカバー部材2の短手部分のフランジ8と平板4aとを、構造用接着剤Sおよびスポット溶接によって接合し、それほど大きな負荷が加わらないカバー部材2の長手部分のフランジ8と平板4aとを、構造用接着剤Sのみで接合してもよい。これにより、スポット溶接箇所(スポット溶接部SW)が強度上必要最低限の箇所となり、溶接ボリュームが大幅に削減される。
【0033】
ここで、スポット溶接の代わりにシーム溶接やヘミング結合やリベットを用いてもよい。すなわち、
図3に示すカバー部材2のフランジ8とベースフレーム4の平板4aとは、構造用接着剤Sによって接合されていることに加えて、スポット溶接、シーム溶接、ヘミング結合およびリベットの少なくとも何れか一つによって接合されていてもよい。フランジ8と平板4aとは溶接面がフラットなのでシーム溶接に向いている。シーム溶接することで溶着面積および範囲がスポット溶接よりも増え、構造用接着剤Sの接着ボリュームをスポット溶接と比べて減らすことができる。また、スポット溶接はピンポイントで保持するのに対しシーム溶接はラインで持たせることができる。
【0034】
また、カバー部材2の材質を、軽量化のため、構造部材3(ベースフレーム4)の材質(例えば鉄、鋼等)よりも比重の小さい構造部材3とは異なった材質(アルミ、樹脂等)としてもよい。この場合、溶接できないため、カバー部材2のフランジ8は、ベースフレーム4の平板4aに、構造用接着剤Sによって接合されていることに加えて、ヘミング結合およびリベットの少なくとも一方によって接合される。
【0035】
図7(b)に示すように、カバー部材2のカバー7の内面と構造部材3のベースフレーム4の側面との間には、所定の隙間Gが周方向に沿って形成されている。カバー7およびベースフレーム4の製造上のばらつきを吸収し、これらが接触して干渉する事態を回避するためである。仮に、カバー7の内面にベースフレーム4の側面の角部が接触すると、カバー7の外面にベースフレーム4の角部の稜線が出てしまい、外観品質が悪化するが、これを隙間Gによって回避している。
【0036】
図7(b)に示すように、カバー部材2のフランジ8とベースフレーム4の平板4aとの重合部には、建設機械のエンジンルームの開口を止水するため、ウエザーストリップ13が周方向に沿って装着されている。ウエザーストリップ13は、
図5~
図7に示すスポット溶接部SWの圧痕を覆うように装着され、圧痕を隠して外観品質を向上させる機能も有する。
【0037】
(作用・効果)
以上の構成から成る本実施形態に係る建設機械のエンジンフード1によれば、
図1~
図3に示すように、建設機械のエンジンフード1を、外観の意匠を担うカバー部材2と、その内方に配設されて強度剛性を担う構造部材3とに分け、カバー部材2のフランジ8と構造部材3のベースフレーム4とを構造用接着剤Sで強固に接合し、カバー部材2のカバー7と構造部材3のスペースフレーム6とをマスチック接着剤Mで弾性的に接合したので、フード1全体の剛性を低下させることなく溶接ボリュームを削減でき、外観品質に優れた建設機械のエンジンフード1を実現できる。
【0038】
従来の建設機械のエンジンフードは、外観品質に影響を及ぼす薄板成形パネル(フード本体)に補強材(強度部材)を複数溶接して補強した構造であり、溶接部の応力を分散するためにスポット溶接の箇所が増え、溶接ボリュームが多くならざるを得なかったが、本実施形態に係る建設機械のエンジンフード1においては、外観品質を担うカバー部材2と、強度剛性を担う構造部材3とに機能を分割したため、カバー部材2と構造部材3とを接合する溶接ボリュームを大幅に削減できる。加えて、接合に要求される機能に応じて構造用接着剤Sとマスチック接着剤Mとを場所によって使い分けているため、スポット溶接部SWへの応力集中を緩和でき、溶接箇所を必要最低限にできる。
【0039】
このように、溶接ボリュームを削減できるため、溶接の入熱量が大幅に減少し、溶接歪み、溶接焼け、スポット溶接の圧痕を低減でき、外観品質が向上する。また、溶接歪み・溶接焼け・スポット溶接の圧痕、を修正するための仕上げ工数を低減でき、製造コストを削減できる。また、エンジンフード1を、意匠を担うカバー部材2とその内方に配設された構造部材3とに分けてこれらを構造用接着剤Sおよびマスチック接着剤Mによって接合しているため、薄板成形パネル(フード本体)に複数の補強材を溶接して剛性を確保していた従来品と比べると、要求される剛性を確保しつつエンジンフード1の重量を大幅に削減でき、フード1を開閉する操作性が向上する。
【0040】
図2に示すように、構造部材3のベースフレーム4に、エンジンフード1(カバー部材2)をエンジンルームの開口に対して開閉自在とするためのヒンジ、閉じられたエンジンフード1を閉状態にロックするためのロック部材10、閉じられたエンジンフード1の振れを抑える振れ止めブラケット11、エンジンフード1を開いたとき開き角度を所定角度に固定するためのステーブラケット12が取り付けられている。このように、強度・剛性・耐久性が必要な部品が構造部材3のベースフレーム4に支持されているので、ヒンジ9、ロック部材10、振れ止めブラケット11、ステーブラケット12の支持剛性が向上し、耐久性が高まる。
【0041】
図8、
図9に示すように、カバー部材2のカバー7が、複数の平坦パネル(天板部7a)および折曲パネル(縦板部7b)が接合されて構成され、これら平坦パネル(天板部7a)および折曲パネル(縦板部7b)が、カバー7の内方に突出するフランジ部7cを夫々有し、これらフランジ部7c同士が拝み合わせられた状態でスポット溶接されていている。これにより、スポット溶接部SWの圧痕がカバー7の外観に表れなくなり、建設機械のエンジンフード1の外観品質が向上すると共に、圧痕を修正するための工数を削減できる。
【0042】
(変形例)
図12は、
図5のXII部分の変形例を示す断面図である。この変形例におけるベースフレーム4は、一対の折曲板を組み合わせることで、四角閉断面の矩形枠状の構造となっている。ベースフレーム4を構成する各折曲板には、上部接合部4bおよび下部接合部4cが夫々形成されており、上部接合部4b同士がスポット溶接(スポット溶接部SW)によって接合され、下部接合部4c同士がスポット溶接によって接合されている。また、下部接合部4cには、カバー部材2のフランジ8が重ねられ、これらが合わせてスポット溶接されている。なお、スポット溶接の代わりに、シーム溶接、ヘミング結合、リベットなどを用いて接合してもよい。この変形例は、その他の構成が前実施形態と同様であり、前実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0043】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、剛性を低下させることなく溶接ボリュームを削減でき、外観品質に優れた建設機械のエンジンフードに利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 エンジンフード
2 カバー部材
3 構造部材
4 ベースフレーム
5 コ字状屈曲材
6 スペースフレーム
7 カバー
7a 平板パネル(カバーの天板部)
7b 折曲パネル(カバーの縦板部)
8 フランジ
9 ヒンジ
10 ロック部材
M マスチック接着剤
S 構造用接着剤
SW スポット溶接部