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特許7391799二次電池、電池パック、車両及び定置用電源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】二次電池、電池パック、車両及び定置用電源
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20231128BHJP
   H01M 10/38 20060101ALI20231128BHJP
   H01M 50/474 20210101ALN20231128BHJP
   H01M 50/489 20210101ALN20231128BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/38
H01M50/474
H01M50/489
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020143667
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038932
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 隼人
(72)【発明者】
【氏名】堀田 康之
(72)【発明者】
【氏名】海野 航
(72)【発明者】
【氏名】松野 真輔
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-166353(JP,A)
【文献】特開2015-022817(JP,A)
【文献】特開2019-169245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M 4/00- 4/62
H01M 6/00- 6/22
H01G11/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極構造体と、外装部材とを含み、
前記電極構造体は、電極群と、
前記電極群の厚さ方向に沿って前記電極群を挟持する、押さえ部材とを具備し、
前記電極群は下記式(1)を満たし、
前記押さえ部材の厚さは3mm以上50mm以下の範囲内にある二次電池
m/L≦0.01 ・・・(1)
ここで、前記mは、前記電極群の前記厚さ方向に沿った複数の断面のうち、前記厚さ方向に沿った前記電極群の厚さが最小となる部分T1の厚さt1と、前記厚さ方向に沿った前記電極群の厚さが最大となる部分T2の厚さt2との差Δtが最も大きくなるように選択される断面における、前記Δtであり、
前記Lは、前記厚さ方向と直交する面内方向における前記電極群の最大長さである。
【請求項2】
前記電極群と前記押さえ部材との間に介在する歪み抑止材を備える請求項1に記載の二次電池
【請求項3】
前記電極群は、前記押さえ部材と対向する第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有し、
前記電極群の前記第1主面と、前記押さえ部材との間に介在する第1歪み抑止材、及び、前記電極群の前記第2主面と、前記押さえ部材との間に介在する第2歪み抑止材を更に具備する請求項1又は2に記載の二次電池
【請求項4】
複数の前記押さえ部材と、
前記複数の押さえ部材を互いに固定する固定手段とを更に具備し、
前記電極群は、前記複数の押さえ部材のうちの1つと、前記複数の押さえ部材のうちの他の1つとにより挟持されている請求項1~3の何れか1項に記載の二次電池
【請求項5】
前記電極群の厚さに対する前記mの割合は、0%~50%の範囲内にある請求項1~4の何れか1項に記載の二次電池
【請求項6】
前記押さえ部材のヤング率は、0.1GPa以上である請求項1~5の何れか1項に記載の二次電池
【請求項7】
前記歪み抑止材のヤング率は、10GPa以上である請求項2に記載の二次電池
【請求項8】
系電解質をさらに備え、
前記電極群は、正極及び負極を備える請求項1~7の何れか1項に記載の二次電池。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の二次電池を具備した電池パック。
【請求項10】
通電用の外部端子と、保護回路とを更に含む請求項9に記載の電池パック。
【請求項11】
複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が、直列、並列、又は、直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項9又は10に記載の電池パック。
【請求項12】
請求項9~11の何れか1項に記載の電池パックを具備する車両。
【請求項13】
請求項9~11の何れか1項に記載の電池パックを具備する定置用電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極構造体、二次電池、電池パック、車両及び定置用電源に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として炭素材料又はリチウムチタン酸化物を、正極活物質としてニッケル、コバルト及びマンガン等を含有する層状酸化物用いた非水電解質電池、特にリチウム二次電池が、幅広い分野における電源として既に実用化されている。このような非水電解質電池の形態は、各種電子機器用などの小型の物から、電気自動車用などの大型の物まで多岐にわたる。これらリチウム二次電池の電解液には、ニッケル水素電池又は鉛蓄電池と異なり、エチレンカーボネートやメチルエチルカーボネートなどが混合された非水系の有機溶媒が用いられている。これらの溶媒を用いた電解液は、水溶液電解液よりも耐酸化性および耐還元性が高く、溶媒の電気分解が起こりにくい。そのため、非水系のリチウム二次電池では、2V~4.5Vの高い起電力を実現することができる。
【0003】
一方で、有機溶媒の多くは可燃性物質であるため、有機溶媒を用いた二次電池の安全性は、水溶液を用いた二次電池に比べて原理的に劣りやすい。有機溶媒を含む電解液を用いたリチウム二次電池の安全性を向上させるために種々の対策がなされているものの、必ずしも十分とはいえない。また、非水系のリチウム二次電池は、製造工程において、ドライ環境が必要になるため、製造コストが必然的に高くなる。そのほか、有機溶媒を含む電解液は導電性が劣るので、非水系のリチウム二次電池の内部抵抗が高くなりやすい。このような課題は、電池安全性及び電池コストが重要視される電気自動車又はハイブリッド電気自動車、更には電力貯蔵向けの大型蓄電池用途においては、大きな欠点となっている。
【0004】
非水系二次電池の課題を解決させるために、水溶液電解質を用いた二次電池が提案されている。しかし、水溶液電解質の電気分解により、集電体から活物質が容易に剥離し得るため、二次電池の動作が安定せず、満足な充放電を行うには課題があった。満足な充放電を行うために、水溶液電解質を使用する場合、電池の充放電を実施する電位範囲を、溶媒として含まれている水の電気分解反応が起こらない電位範囲に留める必要がある。例えば、正極活物質としてリチウムマンガン酸化物を使用し、負極活物質としてリチウムバナジウム酸化物を用いることで、水溶媒の電気分解を回避できる。これらの組み合わせの場合、1~1.5V程度の起電力が得られるものの、電池として十分なエネルギー密度が得られにくい。
【0005】
他の組み合わせとして、正極活物質としてリチウムマンガン酸化物を使用し、負極活物質としてLiTi24、Li4Ti512などのリチウムチタン酸化物を用いると、理論的には2.6~2.7V程度の起電力が得られ、エネルギー密度の観点からも魅力的な電池になりうる。このような正負極材料の組み合わせを採用した非水系のリチウムイオン電池では優れた寿命性能が得られ、このような電池は既に実用化されている。
【0006】
しかしながら、水溶液電解質においては、リチウムチタン酸化物のリチウム挿入脱離の電位は、リチウム電位基準にて約1.5V(vs.Li/Li+)であるため、水溶液電解質の電気分解が起こりやすい。特に負極においては、負極集電体、又は、負極と電気的に接続されている金属製の外装缶の表面での電気分解による水素発生が激しく、その影響で集電体から活物質が容易に剥離し得る。そのため、このような電池では動作が安定せず、満足な充放電が不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-045931号公報
【文献】特開2019-057373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、優れた充放電効率を示す二次電池、当該二次電池を備えた電池パック、車両及び定置用電源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1実施形態によると、電極構造体が提供される。電極構造体は、電極群と、押さえ部材とを具備する。押さえ部材は、電極群の厚さ方向に沿って電極群を挟持している。電極群は下記式(1)を満たす。
m/L≦0.01 ・・・(1)
ここで、mは、電極群の厚さ方向に沿った複数の断面のうち、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最小となる部分T1の厚さt1と、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最大となる部分T2の厚さt2との差Δtが最も大きくなるように選択される断面における、Δtである。Lは、厚さ方向と直交する面内方向における電極群の最大長さである。
【0010】
第2実施形態によると、二次電池が提供される。二次電池は、第1実施形態に係る電極構造体を含む。
【0011】
第3の実施形態によると、電池パックが提供される。電池パックは、第2の実施形態に係る二次電池を含む。
【0012】
第4の実施形態によると、車両が提供される。車両は、第3の実施形態に係る電池パックを含む。
【0013】
第5の実施形態によると、定置用電源が提供される。定置用電源は、第3の実施形態に係る電池パックを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る電極構造体の一例を概略的に示す分解斜視図。
図2図1に示す電極構造体のY軸方向に垂直又は略垂直な方向に沿った断面を概略的に示す断面図。
図3】第1実施形態に係る電極構造体の他の例を概略的に示す分解斜視図。
図4図3に示す電極構造体のY軸方向に垂直又は略垂直な方向に沿った断面を概略的に示す断面図。
図5】第1実施形態に係る電極構造体の他の例を概略的に示す断面図。
図6】第2実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。
図7図6に示す二次電池のX軸方向に垂直又は略垂直な方向に沿った断面を概略的に示す断面図。
図8図6に示す二次電池のZ軸方向に垂直又は略垂直な方向に沿った断面を概略的に示す断面図。
図9図6に示す二次電池の一部を拡大して概略的に示す断面図。
図10】第2実施形態に係る二次電池の他の例を概略的に示す断面図である。
図11図10に示す二次電池のZ軸方向に垂直又は略垂直な方向に沿った断面を概略的に示す断面図。
図12】第3実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
図13図12に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
図14】第4実施形態に係る車両の一例を概略的に示す断面図。
図15】第5実施形態に係る定置用電源を含むシステムの一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0016】
正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータとを備えた電極群として、典型的には、捲回型電極群及び積層型電極群の2種類の形態が知られている。いずれの電極群を作製する際にも、例えば体積エネルギー密度を向上させる目的で電極群が圧縮される。積層型電極群の一例として、正極、セパレータ及び負極をこの順に積層したものが挙げられる。この電極群の両面上(正極上及び負極上)に2枚の押さえ板を配置して電極群を挟持し、その後、2枚の押さえ板を互いに接近させるようにして固定することにより、積層型電極群が挟持された電極構造体を得ることができる。ところが、2枚の押さえ板を固定する際、電極群の一方の面(例えば正極表面)及び/又は他方の面(例えば負極表面)に掛かる圧力を面内において均一とすることには、一定の困難性が存在する。
【0017】
本発明者らは、押さえ板により挟持された電極群に掛かる圧力(締め付け圧力とも呼ぶ)が、電極群の少なくとも一方の面内において均一でない場合、二次電池のクーロン効率が低下することを見出した。この傾向は、特に、水を溶媒として含む水系電解質を用いた二次電池において顕著である。
【0018】
水系電解質を含む二次電池の負極においては、水素過電圧が低いため、水の電気分解が副反応として生じ得る。水の電気分解により、負極においては下記式(A)に示す化学反応が起こり、正極においては下記式(B)に示す化学反応が起こる。
2HO + 2e → 2OH + H (A)
2HO → O + 4H + 4e (B)
水の電気分解が生じると、上記式(A)に示されるように、負極近傍で水素ガスが発生すると共にOHが生成される。そのため、負極表面のうち、水系電解質に接触しやすい部分においては、局所的に水系電解質のpHが高まる傾向がある。
【0019】
電極群の少なくとも一方の面に掛かる圧力が面内において均一でない場合、局所的なpHのムラが生じてしまい、そのような箇所に起因してクーロン効率が低下すると考えられる。また、水系電解質を含む二次電池の場合、集電体が水系電解質に溶解し得ることから、集電体上に設けられた負極活物質含有層が集電体から剥離しやすいという問題もある。活物質含有層の集電体からの剥離は、二次電池の容量を低下させる一因となる。以下に説明する実施形態に係る電極構造体によると、電極群の少なくとも一方の面に掛かる圧力を、面内において十分に均一とすることができるため、優れた充放電効率を達成することができる。
【0020】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る電極構造体は、電極群と、押さえ部材とを具備する。押さえ部材は、電極群の厚さ方向に沿って電極群を挟持している。電極群は下記式(1)を満たす。
m/L≦0.01 ・・・(1)
ここで、mは、電極群の厚さ方向に沿った複数の断面のうち、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最小となる部分T1の厚さt1と、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最大となる部分T2の厚さt2との差Δtが最も大きくなるように選択される断面における、Δtである。Lは、厚さ方向と直交する面内方向における電極群の最大長さである。
【0021】
図1及び図2は、実施形態に係る電極構造体の一例を示す。以下の説明において、X軸方向及びY軸方向は、電極群3の主面に対して平行であり且つ互いに直交する方向である。また、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に対して垂直な方向である。即ち、Z軸方向は、厚さ方向である。図1は、一例に係る電極構造体の分解斜視図である。図2は、図1に示す電極構造体のY軸方向に対して垂直又は略垂直な断面を示す。
【0022】
電極構造体50は、電極群3と、電極群3の両面上にそれぞれ積層された押さえ部材20とを備える。電極群3及び押さえ部材20は、Z軸方向(厚み方向)に沿って積層されている。
【0023】
電極群3は、正極7、負極6及びこれらの間に介在するセパレータ8を含む。ここでは、正極7、負極6及びセパレータ8は何れも矩形のシート形状を有している。正極7、負極6及びセパレータ8の形状は矩形に限られず、正方形、円形又は楕円形などでもよい。正極7、負極6及びセパレータ8の詳細については、後述する第2実施形態において説明する。本実施形態(第1実施形態)に係る電極構造体が含む正極、負極及びセパレータは、第2実施形態に係る二次電池が含む正極、負極及びセパレータと同一のものを使用することができる。後述するように、電極群は、1つ以上の負極と、1つ以上の正極と、1つ以上のセパレータとを備えることができ、負極及び正極は、セパレータを介して交互に配置され得る。実施形態に係る電極群は、積層型電極群でありうる。
【0024】
電極群3は、一方の押さえ部材20と対面する第1主面301と、他方の押さえ部材20と対面する第2主面302とを有し得る。第2主面302は、電極群3を基準として第1主面301の反対側に位置する。第1主面301の全面が、押さえ部材20と接触していてもよい。第2主面302の全面が、押さえ部材20と接触していてもよい。第1主面301は、図1に示すように正極7の主面でありうる。或いは、第1主面301は負極6の主面であってもよく、セパレータ8の主面であってもよい。第2主面302は、図1に示すように負極6の主面でありうる。或いは、第2主面302は、正極7の主面であってもよく、セパレータ8の主面であってもよい。正極7及び負極6は、それぞれ、図示しない正極集電タブ及び負極集電タブを備え得る。
【0025】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、「対面する」という用語は、ある部材と他の部材とが直接接して対面していることを意味する。本願明細書及び特許請求の範囲において、「対向する」という用語は、ある部材と他の部材とが直接接して対面していてもよく、更に別の部材がこれらの間に介在していてもよいことを意味する。
【0026】
電極構造体50は、2つの押さえ部材20が電極群3の両面をそれぞれ挟持した状態で、2つの押さえ部材20を互いに固定する固定手段11を具備する。電極群3の両面は、その厚み方向に沿って、複数(ここでは2つ)の押さえ部材のうちの1つと、複数の押さえ部材のうちの他の1つとにより挟持され得る。固定手段11は、2つの押さえ部材により電極群3を挟持して、一方の押さえ部材20、電極群3及び他方の押さえ部材20の積層構造を維持する機能を有している。例えば、固定手段11は、2つの押さえ部材により締め付けられた電極群3の位置が、所定の位置から変化しないように固定することができる。固定手段11の例は、被締結部を有するボルト、及び、被締結部と螺合する締結部を有するナットである。
【0027】
なお、図5を参照しながら後述するように、固定手段を用いることなしに、金属等の塑性変形を利用して、電極群3を押さえ部材20により固定することも可能である。この場合、押さえ部材20の数は1つでありうる。即ち、実施形態に係る電極構造体が備える押さえ部材の数は、1以上でありうる。押さえ部材の数は2又は3以上の複数でありうる。
【0028】
押さえ部材20は、例えば、樹脂又は金属を含む平板状の部材である。押さえ部材20は、1つ以上の貫通孔20aを備えることができる。1つ以上の貫通孔20aは、例えば、押さえ部材20の周縁部近傍に設けられている。押さえ部材20が略矩形又は略正方形を有する平板状である場合は、1つ以上の貫通孔20aは、例えば、当該矩形又は正方形の対角線上に位置している。貫通孔20aは、当該矩形又は正方形が有する一側面(主面ではない)からの距離、及び、これに隣接する他の側面からの距離が略同一となる位置に設けられることが好ましい。こうすると、2つの押さえ部材20により電極群3を締め付ける際に、電極群の少なくとも一方の面に掛かる圧力を面内において均一とするのが容易となるため好ましい。貫通孔20aの数は、典型的には4つ以上である。
【0029】
押さえ部材20は、U字型形状を有する挟持部材であってもよい。つまり、押さえ部材は電極群を挟持し得る形状であればよい。少なくとも板状の2つの押さえ部材で電極群を挟持する場合、U字型形状の押さえ部材で電極群を挟持する場合、及び、筒型形状の押さえ部材で電極群を挟持する場合などがあり得る。
【0030】
押さえ部材20のヤング率は、例えば0.1GPa以上である。押さえ部材20は、1種類の材料からなっていてもよく、2種類以上の材料を含んでいてもよい。図1及び図2に示すように、電極群3を2つの押さえ部材20により挟持する場合には、押さえ部材20には、一定の剛性が要求されうる。この観点から、押さえ部材のヤング率は、好ましくは1GPa以上であり、より好ましくは10GPa以上である。押さえ部材のヤング率は、高い方が望ましいが、一例によれば300GPa以下である。
【0031】
押さえ部材20に用いる材料として、例えば、ステンレス鋼(Fe-Ni-Cr)、銅、鉄、チタン、ニッケル、アルミニウム、鋼(Fe-C)、ケイ素鋼(Fe-Si)、合金、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)、PPS(Polyphenylenesulfide)、PP(Polypropylene)、PE(Polyethylene)、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene copolymer)、PS(Polystyrene)、PC(Polycarbonate)、PTFE(polytetrafluoroethylene)、オイレスアラミド、PVC(polyvinil choride)、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル及びポリアセタールからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。上記合金は、鉄、Cr、ニッケル、Cu及びAlからなる群より選択される2種以上を含みうる。
【0032】
押さえ部材20の厚さは、例えば3mm~50mmの範囲内にあり、好ましくは5mm~20mmの範囲内にある。押さえ部材20の厚さが大きくなるほど、押さえ部材20が湾曲しにくくなるため好ましいが、押さえ部材20の厚さが大きすぎると、例えば電池容量の低下を招くなどの不都合が生じるため、押さえ部材20は過度に厚くないことが好ましい。電極群の厚さに対する、押さえ部材1枚当たりの厚さの割合は、例えば、0.1%~50%の範囲内にあり、好ましくは1%~25%の範囲内にある。
【0033】
図5に示すように、1つの押さえ部材20により電極群3が固定されている場合には、押さえ部材20は、例えば、底付きの角筒形状を有する金属缶などであり得る。このように、押さえ部材は外装材を兼ねてもよい。
【0034】
図1及び図2に示す電極構造体50においては、複数の固定手段11のそれぞれが、2つの押さえ部材20が有する貫通孔20aを、貫通孔20a同士が互いに対応する位置で貫通して、2つの押さえ部材20を固定している。但し、固定手段11は、電極群3を貫通していない。電極構造体50においては、例えば、図1及び図2に示すように、X軸方向及びY軸方向に係る電極群3の寸法は、X軸方向及びY軸方向に係る押さえ部材20の寸法と比較して小さい。そのため、2つの押さえ部材20が互いに接近するように、固定手段11を用いてZ軸方向に沿って圧力を掛けることにより、押さえ部材20の周縁部が湾曲し得る。固定手段11は、押さえ部材20に対してトルクを掛けることができる部材でありうる。
【0035】
図2は、2つの押さえ部材20の周縁部が湾曲した状態を概略的に示す断面図である。2つの押さえ部材20が電極群3を締め付けることにより、電極群3のX軸方向に係る両端部3aが押し潰される場合がある。図2では、この場合を概略的に示している。
【0036】
電極群3が有する端部のうち、押さえ部材20の締め付けにより押し潰される部分は、X軸方向に沿った両端部であるとは限らない。例えば、押さえ部材20の締め付けにより電極群3において押し潰される部分は、Y軸方向に沿った両端部でありうる。また、例えば、押さえ部材20の締め付けにより電極群3において押し潰される部分は、押さえ部材20が備え得る2つの貫通孔20aを結ぶ仮想的な線分に沿った方向における、電極群3の両端部でありうる。或いは、電極群3の端部全体が押さえ部材20の締め付けにより押し潰されていてもよい。
【0037】
電極群3は、押さえ部材20による締め付け圧力を受けても押し潰されていないか、又は、電極群3の少なくとも一方の面内において、均一に圧力が掛けられていることが望ましい。この場合、電極群3の少なくとも一部が押し潰されている場合と比較して、優れた充放電効率を達成することができる。
【0038】
図2に示しているように、2つの押さえ部材20の周縁部20pが互いに接近するように湾曲すると、2つの押さえ部材20の中央部20cは、例えば、互いから離間するように湾曲し得る。
【0039】
実施形態に係る電極構造体50が備える電極群3は、式(1)を満たす。
m/L≦0.01 ・・・(1)
ここで、mは、電極群の厚さ方向に沿った複数の断面のうち、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最小となる部分T1の厚さt1と、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最大となる部分T2の厚さt2との差Δtが最も大きくなるように選択される断面における、Δtである。Lは、厚さ方向と直交する面内方向における電極群の最大長さである。
【0040】
m/Lは、電極群の潰れ具合を示す指標である。m/Lが小さいほど、電極群の少なくとも一方の面内に掛かる圧力の均一性が高いこと、及び、電極群が局所的に潰れていないことを示す。それ故、より小さなm/Lを示す電極群を備えた電極構造体によれば、より優れた充放電効率を示す傾向にある。仮に、電極群の大きさ(寸法)が変化したとしても、その大きさ変化はm及びLの数値の両方に反映される。そのため、比m/Lを測定することにより、電極群の寸法変化に依存することなしに、電極構造体の充放電効率を評価することができる。m及びLの決定方法については後述する。
【0041】
なお、固定手段による押さえ部材に掛かる締め付け圧力が過度に小さい場合には、電極群が潰れにくいため、mは小さな値をとる可能性がある。この場合、水系電解質を含む二次電池に電極構造体を組み込むと、平衡論的に気体発生が有利となるため、副反応が進行し易い傾向にある。その結果、二次電池の充放電効率及びサイクル寿命特性が低下する可能性がある。
【0042】
具体的には、負極における副反応であるH2発生に着目した場合の平衡反応は、下記式(C)の通りである。
2H+ + 2e- ⇔ H2・・・(C)
また、[H+]、[H2]、KをそれぞれH+濃度、H2濃度、平衡定数とすると、平衡定数Kは下記式(D1)により表される。
K=[H2]/([H+2)・・・(D1)
更に、R、T及びpを、それぞれ気体定数、H2の温度、H2の圧力とすると、平衡定数Kは、下記式(D2)により表される。
K=(p/RT)/([H+2)・・・(D2)
ここで、温度を一定とみなすため、平衡定数K、気体定数R及び温度Tは定数である。
【0043】
押さえ部材の締め付け圧力により負極に圧力を掛けると、pは大きくなる、即ち発生したH2の圧力が上昇する。Kは定数であるため、その分H+も大きくなる。つまり、負極に圧力を掛けると、式(C)で示す平衡反応が左向きに進行しやすくなるため、H2発生を抑制することができる。逆に言えば、押さえ部材の締め付け圧力によって電極群に掛かる圧力が弱いと、式(C)が右向きに進行し易くなるため、H2発生が優位になる傾向がある。
【0044】
電極群3の少なくとも一方の主面に掛かる圧力は、例えば、0.02MPa以上であり、好ましくは0.05MPa以上であり、より好ましくは0.1MPa以上でありうる。一例によると、当該圧力は、100MPa以下でありうる。
【0045】
電極群の少なくとも一方の主面に掛かる圧力は、以下のように測定することができる。まず、電極群を解体する前の電極群の厚さを予め測定する。次に、押さえ部材の締め付けを解放する。その後、改めて、1又は複数の押さえ部材により電極群を挟持して、外部から力(例えば、油圧のプレス機による)を加えて、解体前の電極群の厚さになるまで力を加える。解体前の電極群の厚さとなったときの力の値を、電極群の主面の面積で割ることで、当該圧力を求めることができる。
【0046】
固定手段1本当たりにかかる軸力は、例えば、1000N~10000Nの範囲内にある。電極構造体が、例えば4本の固定手段を備える場合には、上記軸力を4倍し、総軸力は4000N~40000Nの範囲内にありうる。
【0047】
図2では、電極群3の厚さが最小である部分T1は、押さえ部材20の締め付けにより押し潰されている部分3aである。また、電極群3の厚さが最大である部分T2を図2に示す。部分T2は、例えば、電極群3において、電極群3の一方の主面から他方の主面までの距離が最大となる位置における電極群3の一部である。電極群3が有する部分T2は、2つの押さえ部材20の双方と接触していることが望ましい。
【0048】
mは、部分T1における電極群の厚さt1と、部分T2における電極群の厚さt2との差Δt(t2-t1)である。mは「変位」とも呼ぶことができる。m/Lが0.01以下である限り、mの値は特に制限されないが、mは、例えば3000μm以下であり、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは100μm以下である。mは、0μmに近いことが望ましく、0μmであってもよい。mの値は、目的とする電極構造体の大きさにより変化し得る。
【0049】
Lは、電極群3の面内方向における最大長さである。Lは「最大長」とも呼ぶことができる。図1及び図2に示す電極構造体50におけるLは、例えば、矩形である正極7又は負極6の対角線の長さでありうる。ここで、Lを決定する際には、電極群に含まれるセパレータの寸法又は長さは考慮しない。これは、セパレータ自体が電極反応には寄与しないためであり、例えば、セパレータが大きく潰れていたとしても、正極又は負極がほぼ潰れていなければ優れた充放電効率を達成可能である。従って、電極群の最大長Lは、例えば、正極の面内方向における最大長であってもよく、負極の面内方向における最大長であってもよい。他方、変位mを決定する際には、電極群に含まれるセパレータの厚さも考慮して決定する。
【0050】
m/Lが0.01以下である限り、Lの値は特に制限されないが、Lは、例えば50mm~10000mmの範囲内にある。
【0051】
m/Lは、好ましくは0.001以下であり、より好ましくは0.0001以下である。目的とする電極構造体の寸法が変化したとしても、m/Lが0.01以下である限り、当該電極構造体は優れた充放電効率を達成可能な二次電池を実現することができる。
【0052】
電極群の厚さは特に制限されるものではないが、例えば、2mm~1000mmの範囲内にある。電極群の厚さに対して、変位mは小さいことが望ましい。電極群の厚さに対するmの割合は、例えば50%以下であり、好ましくは30%以下であり、より好ましくは10%以下である。この割合は0%であってもよい。この割合が小さければ、電極群の潰れが小さいため、水素発生が抑制されて優れた充放電効率を達成できる傾向がある。なお、電池に組み込まれている電極群の厚さを測定する場合には、電極群の厚さは、部分T1における厚さt1と、部分T2における厚さt2との合計を2で除した値とする。
【0053】
電極群の少なくとも一方の主面の面積は、例えば10cm2~100000cm2の範囲内にある。
【0054】
電極構造体の厚さは特に制限されるものではないが、例えば、5mm~1000mmの範囲内にある。
【0055】
他の態様として、m/Lを小さくする目的で、押さえ部材20が略凸形状を有していてもよい。具体的には、押さえ部材20が、当該押さえ部材20と電極群3とが接している面において、電極群3に向かう凸部を有していてもよい。押さえ部材が有する凸部は、当該押さえ部材の一部でありうる。押さえ部材と電極群とが接する面において、押さえ部材の当該面は、電極群側に突き出した円弧形状を有することができる。押さえ部材20の一部がこのような凸形状を有している場合、押さえ部材20の周縁部が湾曲した場合であっても、押さえ部材20の中央部20cが電極群3から離間するのを抑制することができる。
【0056】
<m及びLの決定方法(X線CT観察)>
電極構造体又は二次電池等に含まれる電極群について、m及びLを決定するには、X線を利用したコンピュータ断層撮影(CT:computed tomography)を用いる。X線CT観察装置としては、例えば島津製作所製のinspeXio SMX-225CT FPD Plus、又は、これと同等の機能を有する装置を使用することができる。
【0057】
電池がモジュール化されている場合は、モジュールを解体し、単セルまで分解する。ここで単セルとは、電池の分解を行わず、並列、直列繋ぎをできる限り行わない、電池の最小単位のことである。単セルの歪みは、モジュール化による拘束で抑えられている可能性があることから、単セルを1日静置した後、X線CT観察を行う。観察は大気圧下の25℃で行う。単セルそのものに、重りなどで力を加えた状態では測定を行わない。なお、単セルとは、例えば電極構造体に相当する。X線CT観察により、電極群の厚さ方向に沿った複数の断面のうち、電極群の厚さが最小となる部分T1の厚さt1と、電極群の厚さが最大となる部分T2の厚さt2との差Δtが最も大きくなるような断面を選択することができる。Δtは、t2からt1を差し引くことで算出可能である。変位mは、Δtである。また、得られる複数の断面のうち、電極群の面内方向における当該電極群の最大長を有する断面を選択する。この断面における最大長をLとする。
【0058】
なお、Δt算出のために選択された上記断面と、電極群の面内方向において最大長Lが存在する断面とは、一致していてもよく、異なっていてもよい。また、上述の通り、電極群に関してLを決定する際にはセパレータの面内方向についての長さは考慮しない。
【0059】
図3及び図4は、実施形態に係る電極構造体の他の例を示す。図3は、他の例に係る電極構造体の分解斜視図である。図4は、図3に示す電極構造体のY軸方向に対して垂直又は略垂直な断面を示す。
【0060】
図3及び図4に示す電極構造体50は、電極群3と押さえ部材20との間に歪み抑止材10を備えることを除いて、図1及び図2を参照しながら説明した電極構造体50と同様の構成を有している。即ち、図3及び図4に示す電極構造体50では、2つの押さえ部材20が、歪み抑止材10を介して電極群3を挟持している。電極群3は、一方の押さえ部材20と対向する第1主面301と、電極群3を基準として第1主面の反対側に位置し、他方の押さえ部材20と対向する第2主面302とを有する。歪み抑止材10は、電極群3の第1主面301と一方の押さえ部材20との間に、及び/又は、電極群3の第2主面302と他方の押さえ部材20との間に介在している。歪み抑止材10は、電極群3の両面上に配置されていることが好ましい。
【0061】
歪み抑止材10は、押さえ部材20の歪みを抑制することができるものであれば、その形状は制限されないが、例えば、樹脂又は金属を含む平板状の部材である。歪み抑止材10は、押さえ部材20と同様に、1つ以上の貫通孔10aを備えることができる。1つ以上の貫通孔10aは、例えば、歪み抑止材10の周縁部近傍に設けられている。歪み抑止材10が略矩形又は略正方形を有する平板状である場合は、1つ以上の貫通孔10aは、例えば、当該矩形又は正方形の対角線上に位置している。貫通孔10aは、当該矩形又は正方形が有する一側面からの距離、及び、これに隣接する他の側面からの距離が略同一となる位置に設けられることが好ましい。こうすると、2つの押さえ部材20及び2つの歪み抑止材10により電極群3を締め付ける際に、電極群の少なくとも一方の面に掛かる圧力を面内において均一とするのが容易となる。貫通孔10aの数は、典型的には4つ以上である。
【0062】
歪み抑止材10は、U字型形状を有する挟持部材であってもよい。
【0063】
歪み抑止材10は、押さえ部材20の歪みを抑制する観点から、押さえ部材20のヤング率と比較して高いヤング率を有することが好ましい。歪み抑止材10は、1種類の材料からなっていてもよく、2種類以上の材料を含んでいてもよい。歪み抑止材10のヤング率は、例えば10GPa以上であり、好ましくは100GPa以上である。歪み抑止材のヤング率は、高い方が望ましいが、一例によれば300GPa以下である。
【0064】
歪み抑止材10に用いる材料として、例えば、ステンレス鋼(Fe-Ni-Cr)、銅、鉄、チタン、ニッケル、アルミニウム、鋼(Fe-C)、ケイ素鋼(Fe-Si)、合金、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)、PPS(Polyphenylenesulfide)、PP(Polypropylene)、PE(Polyethylene)、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene copolymer)、PS(Polystyrene)、PC(Polycarbonate)、PTFE(polytetrafluoroethylene)、オイレスアラミド、PVC(polyvinil choride)、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル及びポリアセタールからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。上記合金は、鉄、Cr、ニッケル、Cu及びAlからなる群より選択される2種以上を含みうる。
【0065】
歪み抑止材に含まれる材料は、押さえ部材の歪みを抑制する観点から、金属であることが好ましく、例えばステンレス鋼、銅、鋼、アルミニウム及び合金からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0066】
歪み抑止材10の厚さは、例えば0.1mm~100mmの範囲内にあり、好ましくは1mm~50mmの範囲内にある。歪み抑止材10の厚さが大きくなるほど、歪み抑止材10及び押さえ部材20が湾曲しにくくなるため好ましいが、歪み抑止材10の厚さが大きすぎると、例えば電池容量の低下を招くなどの不都合が生じるため、歪み抑止材10は過度に厚くないことが好ましい。
【0067】
歪み抑止材は、押さえ部材と同様に略凸形状を有していてもよい。具体的には、歪み抑止材と電極群とが接している面において、歪み抑止材は電極群に向かう凸部を有していてもよい。歪み抑止材が有する凸部は、当該歪み抑止材の一部でありうる。歪み抑止材と電極群とが接する面において、歪み抑止材の当該面は、電極群側に突き出した円弧形状を有することができる。歪み抑止材の一部がこのような凸形状を有していると、仮に、押さえ部材の周縁部及び歪み抑止材の周縁部が湾曲した場合であっても、歪み抑止材の一部が電極群から離間するのを抑制することができる。
【0068】
図3及び図4に示す電極構造体50は、少なくとも1つの歪み抑止材10を備えているため、固定手段11により締め付け圧力を掛けたとしても、例えば図4に示すように、押さえ部材20が湾曲するのを抑制することができる。その結果、電極群3の少なくとも一部が潰れるのを抑制することができる。言い換えると、歪み抑止材10により、電極群3の少なくとも一方の主面に掛かる圧力を、面内において均一にすることができる。その結果、mが小さくなるため、電極群がm/L≦0.01を満たす電極構造体が得られやすくなる。即ち、少なくとも1つの歪み抑止材10を備える電極構造体は、局所的なpHのムラを低減することができるため、優れた充放電効率を達成することができる。
【0069】
図5は、実施形態に係る電極構造体の他の例を概略的に示す断面図である。図5は、電極構造体のY軸方向に対して垂直又は略垂直な断面を示す。図5に示す電極構造体50では、押さえ部材20の機能を外装部材2が兼ねている。ここでは一例として、外装部材2として底付きの角筒形状を有する金属缶を使用し、外装部材2の塑性変形を利用して電極群3を固定している場合を示している。図5に示す電極構造体50において、電極群3は、m/L≦0.01を満たす。
【0070】
外装部材2の内面が金属である場合、外装部材2と電極群3とが接触すると電圧が生じるため好ましくない。これを防ぐために、例えば、図5に示すように、電極群3と外装部材2との間に絶縁性シート19を積層させる。絶縁性シート19は、図5に示す態様に限らず、図1及び図2を参照しながら説明した電極構造体においても、図3及び図4を参照しながら説明した電極構造体においても用いることができる。何れの場合においても、電極構造体は、電極群の少なくとも一方の主面上に絶縁性シートを備えることができる。
【0071】
絶縁性シート19は、一例によれば、絶縁性の高分子材料を含む。絶縁性シート19は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セロハン、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)、PPS(Polyphenylenesulfide)、PP(Polypropylene)、PE(Polyethylene)、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene copolymer)、PS(Polystyrene)、PC(Polycarbonate)、PTFE(polytetrafluoroethylene)、オイレスアラミド、PVC(polyvinil choride)、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル及びポリアセタールからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0072】
絶縁性シートの厚さは問わないが、例えば、0.01mm~10mmの範囲内にある。
【0073】
外装部材2に締め付け圧力を掛ける手段は特に制限されるものではなく、例えば、熱収縮テープ等を利用して外装部材2に対して締め付け圧力を掛けることもできる。
【0074】
第1実施形態によると、電極構造体が提供される。電極構造体は、電極群と、押さえ部材とを具備する。押さえ部材は、電極群の厚さ方向に沿って電極群を挟持している。電極群は下記式(1)を満たす。
m/L≦0.01 ・・・(1)
ここで、mは、電極群の厚さ方向に沿った複数の断面のうち、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最小となる部分T1の厚さt1と、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最大となる部分T2の厚さt2との差Δtが最も大きくなるように選択される断面における、Δtである。Lは、厚さ方向と直交する面内方向における電極群の最大長さである。実施形態に係る電極構造体によると、電極群の少なくとも一方の面内に掛かる圧力の均一性が高いため、優れた充放電効率を達成することができる。
【0075】
(第2実施形態)
第2実施形態によると、実施形態に係る電極構造体を備える二次電池が提供される。二次電池は、水系電解質を更に具備することができる。水系電解質は、例えば、電極構造体が含む電極群に保持され得る。
【0076】
二次電池は、電極構造体及び水系電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。また、二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0077】
二次電池は、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池などのアルカリ金属イオン二次電池であり得る。
【0078】
以下、負極、正極、水系電解質、セパレータ、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。
【0079】
(1)負極
負極は、負極集電体と、負極集電体の片面又は両面に担持される負極活物質含有層とを含み得る。負極活物質含有層は、負極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0080】
負極集電体の材料には、アルカリ金属イオンが挿入又は脱離するときの負極電位範囲において、電気化学的に安定である物質が用いられる。負極集電体は、例えば、亜鉛(Zn)箔、アルミニウム箔、又は、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、亜鉛、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)及びケイ素(Si)から選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0081】
負極集電体は、多孔体又はメッシュなどの他の形態であってもよい。負極集電体の厚さは、5μm以上30μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0082】
また、負極集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
【0083】
負極活物質としては、リチウムイオン吸蔵放出電位が金属リチウムを基準とする電位で、1V(vs.Li/Li)以上3V以下(vs.Li/Li)である化合物を用いることができる。負極活物質としては、具体的には、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物、ナトリウムニオブチタン複合酸化物などのチタン含有酸化物を使用することができる。負極活物質は、チタン含有酸化物を1種、又は2種以上含むことができる。
【0084】
チタン酸化物は、例えば、単斜晶構造のチタン酸化物、ルチル構造のチタン酸化物、アナターゼ構造のチタン酸化物を含む。各結晶構造のチタン酸化物は、充電前の組成をTiO2、充電後の組成をLiTiO(xは0≦x≦1)で表すことができる。また、単斜晶構造のチタン酸化物の充電前構造をTiO(B)と表すことができる。
【0085】
リチウムチタン酸化物は、例えば、スピネル構造のリチウムチタン酸化物(例えば一般式Li4+xTi12(xは-1≦x≦3))、ラムスデライト構造のリチウムチタン酸化物(例えば、Li2+xTi(-1≦x≦3))、Li1+xTi(0≦x≦1)、Li1.1+xTi1.8(0≦x≦1)、Li1.07+xTi1.86(0≦x≦1)、LiTiO(0<x≦1)などを含む。また、リチウムチタン酸化物は、異種元素が導入されているリチウムチタン複合酸化物であってもよい。
【0086】
ニオブチタン複合酸化物は、例えば、単斜晶型の結晶構造を有している。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、例えば、一般式LixTi1-yM1yNb2-zM2z7+δで表される複合酸化物、及び、一般式LixTi1-yM3y+zNb2-z7-δで表される複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1つである。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、及び、-0.3≦δ≦0.3を満たす。
【0087】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体的な例として、例えば、Nb2TiO7、Nb2Ti29、Nb10Ti229、Nb14TiO37及びNb24TiO62を挙げることができる。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、Nb及び/又はTiの少なくとも一部が異種元素に置換された置換ニオブチタン複合酸化物であってもよい。置換元素の例は、Na、K、Ca、Co、Ni、Si、P、V、Cr、Mo、Ta、Zr、Mn、Fe、Mg、B、Pb及びAlなどである。置換ニオブチタン複合酸化物は、1種類の置換元素を含んでいてもよく、2種類以上の置換元素を含んでいてもよい。
【0088】
ナトリウムチタン複合酸化物は、例えば、一般式Li2+VNa2―WM1Ti6-y-zNbM214+δ(0≦v≦4、0≦w<2、0≦x<2、0≦y<6、0≦z<3、-0.5≦δ≦0.5、M1はCs,K,Sr,Ba,Caより選択される少なくとも1つを含み、M2はZr,Sn,V,Ta,Mo,W,Fe,Co,Mn,Alより選択される少なくとも1つを含む)で表される直方晶(orthorhombic)型Na含有ニオブチタン複合酸化物を含む。
【0089】
負極活物質としては、アナターゼ構造のチタン酸化物、単斜晶構造のチタン酸化物、スピネル構造のリチウムチタン酸化物、ニオブチタン複合酸化物又はこれらの混合物を用いることが好ましい。これらの酸化物を負極活物質として用いると、例えば正極活物質としてのリチウムマンガン複合酸化物と組み合わせることで、高い起電力を得ることができる。
【0090】
負極活物質は、例えば粒子の形態で負極活物質含有層に含まれている。負極活物質粒子は、一次粒子、一次粒子の凝集体である二次粒子、あるいは、単独の一次粒子及び二次粒子の混合物であり得る。粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円形状、扁平形状、及び繊維状などにすることができる。
【0091】
負極活物質の一次粒子の平均粒子径(直径)は3μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上1μm以下である。負極活物質の二次粒子の平均粒子径(直径)は30μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0092】
この一次粒子径及び二次粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求めた粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径を意味している。レーザー回折式の粒度分布測定装置としては、例えば、島津SALD-300を用いる。測定に際しては、2秒間隔で64回光度分布を測定する。この粒度分布測定を行う際の試料としては、負極活物質粒子の濃度が0.1重量%乃至1重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドンで希釈した分散液を用いる。あるいは、測定試料としては、0.1gの負極活物質を、界面活性剤を含む1~2mlの蒸留水に分散させたものを用いる。
【0093】
導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために、必要に応じて配合される。結着剤は、活物質、導電剤及び集電体を結着させる作用を有する。
【0094】
導電剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、黒鉛及びコークスなどの炭素質物が含まれる。導電剤は、1種類であってもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0095】
結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシルメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0096】
負極活物質含有層中の負極活物質、導電剤及び結着剤の配合割合は、負極活物質が70質量%以上95質量%以下、導電剤が3質量%以上20質量%以下、結着剤が2質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。導電剤の配合割合が3質量%以上であると、負極活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の配合割合が2質量%以上であると、十分な電極強度が得られ、10質量%以下であると電極の絶縁部を減少させることができる。
【0097】
負極は、例えば、以下の方法により得ることができる。まず、活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製する。次いで、このスラリーを集電体の片面又は両面に塗布する。集電体上の塗膜を乾燥することにより活物質含有層を形成する。その後、集電体及びその上に形成された活物質含有層にプレスを施す。活物質含有層としては、活物質、導電剤及び結着剤の混合物をペレット状に形成したものを用いてもよい。
【0098】
(2)正極
正極は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の主面上に担持された正極活物質含有層とを含み得る。
【0099】
正極集電体は、例えば、ステンレス、アルミニウム(Al)及びチタン(Ti)などの金属からなる。正極集電体は、例えば、箔、多孔体又はメッシュの形態である。正極集電体と水系電解質との反応による腐食を防止するため、正極集電体の表面は、異種元素で被覆されていてもよい。正極集電体は、例えばTi箔などの耐蝕性及び耐酸化性に優れたものであることが好ましい。なお、水系電解質がLi2SO4を含む場合は、腐食が進行しないことから、正極集電体としてAlを使用してもよい。
【0100】
正極集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
【0101】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0102】
正極活物質含有層は、正極活物質を含んでいる。正極活物質含有層は、正極集電体の両方の主面に担持されていてもよい。
【0103】
正極活物質としては、リチウムイオン吸蔵放出電位が金属リチウムを基準とする電位で、2.5V(vs.Li/Li)以上5.5V以下(vs.Li/Li)である化合物を用いることができる。正極は、1種類の正極活物質を含んでいてもよく、2種類以上の正極活物質を含んでいてもよい。
【0104】
正極活物質の例には、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルトアルミニウム複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物、リチウムマンガンコバルト複合酸化物、リチウム鉄酸化物、リチウムフッ素化硫酸鉄、オリビン結晶構造のリン酸化合物(例えば、LiFePO(0<x≦1)、LiMnPO(0<x≦1))などが含まれる。オリビン結晶構造のリン酸化合物は、熱安定性に優れている。
【0105】
高い正極電位の得られる正極活物質の例としては、例えばスピネル構造のLixMn(0<x≦1)、LiMnO(0<x≦1)などのリチウムマンガン複合酸化物、例えばLiNi1-yAl(0<x≦1、0<y<1)などのリチウムニッケルアルミニウム複合酸化物、例えばLiCoO(0<x≦1)などのリチウムコバルト複合酸化物、例えばLiNi1-y―zCoMn(0<x≦1、0<y<1、0≦z<1)などのリチウムニッケルコバルト複合酸化物、例えばLiMnCo1-y(0<x≦1、0<y<1)などのリチウムマンガンコバルト複合酸化物、例えばLiMn1-yNi(0<x≦1、0<y<2、0<1-y<1)などのスピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物、例えばLiFePO(0<x≦1)、LiFe1-yMnPO(0<x≦1、0≦y≦1)、LiCoPO(0<x≦1)などのオリビン構造を有するリチウムリン酸化物、フッ素化硫酸鉄(例えばLiFeSOF(0<x≦1))が挙げられる。
【0106】
正極活物質は、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物及びオリビン構造を有するリチウムリン酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。これら活物質の作動電位は、3.5V(vs.Li/Li)以上4.2V(vs.Li/Li)以下である。すなわち、これらの活物質の作動電位は比較的高い。これら正極活物質を、上述したスピネル型のチタン酸リチウム及びアナターゼ型酸化チタンなどの負極活物質と組み合わせて使用することにより、高い電池電圧が得られる。
【0107】
正極活物質は、例えば、粒子の形態で正極に含まれている。正極活物質粒子は、単独の一次粒子、一次粒子の凝集体である二次粒子、あるいは、一次粒子と二次粒子の混合物であり得る。粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円形状、扁平形状、又は繊維状等にすることができる。
【0108】
正極活物質の一次粒子の平均粒子径(直径)は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上5μm以下である。正極活物質の二次粒子の平均粒子径(直径)は100μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上50μm以下である。
【0109】
正極活物質の一次粒子径及び二次粒子径は、負極活物質粒子と同様の方法で測定することができる。
【0110】
正極活物質含有層は、正極活物質の他に、導電剤及び結着剤などを含んでいてもよい。導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために、必要に応じて配合される。結着剤は、活物質、導電剤及び集電体を結着させる作用を有する。
【0111】
導電剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、黒鉛及びコークスなどの炭素質物が含まれる。導電剤は、1種類であってもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0112】
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0113】
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0114】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0115】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0116】
正極は、例えば、以下の方法により得ることができる。まず、活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製する。次いで、このスラリーを集電体の片面又は両面に塗布する。集電体上の塗膜を乾燥することにより活物質含有層を形成する。その後、集電体及びその上に形成された活物質含有層にプレスを施す。活物質含有層としては、活物質、導電剤及び結着剤の混合物をペレット状に形成したものを用いてもよい。
【0117】
(3)セパレータ
正極と負極との間にはセパレータを配置することができる。セパレータを絶縁材料で構成することで、正極と負極とが電気的に接触することを防止することができる。セパレータの例に、不織布、フィルム、紙などが含まれる。セパレータの構成材料の例に、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、セルロースが含まれる。好ましいセパレータの例に、セルロース繊維を含む不織布、ポリオレフィン繊維を含む多孔質フィルムを挙げることができる。セパレータの気孔率は60%以上にすることが好ましい。また、繊維径は10μm以下が好ましい。繊維径を10μm以下にすることで、電解質に対するセパレータの親和性が向上するので電池抵抗を小さくすることができる。繊維径のより好ましい範囲は3μm以下である。気孔率が60%以上のセルロース繊維含有不織布は、電解質の含浸性が良く、低温から高温まで高い出力性能を出すことができる。また、長期充電保存、フロート充電、過充電においても負極と反応せず、リチウム金属のデンドライト析出による負極と正極の短絡が発生しない。より好ましい範囲は62%~80%である。
【0118】
セパレータは、厚さが20μm以上100μm以下、密度が0.2g/cm3以上0.9g/cm3以下であることが好ましい。この範囲であると、機械的強度と電池抵抗の軽減のバランスを取ることができ、高出力で内部短絡が抑制された二次電池を提供することができる。また、高温環境下でのセパレータの熱収縮が少なく、良好な高温貯蔵性能を出すことが出来る。
【0119】
また、セパレータとして、固体電解質粒子を含む固体電解質層を使用することもできる。固体電解質層は、1種類の固体電解質粒子を含んでいても良く、複数種類の固体電解質粒子を含んでいてもよい。固体電解質層は、固体電解質粒子を含む固体電解質複合膜であってもよい。固体電解質複合膜は、例えば、固体電解質粒子を高分子結着剤を用いて膜状に成形したものである。固体電解質層は、可塑剤及び電解質塩からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいても良い。固体電解質層が電解質塩を含んでいると、例えば、固体電解質層のアルカリ金属イオン伝導性をより高めることができる。
【0120】
高分子結着剤の例は、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリエチレン系、シリコーン系及びポリスルフィド系を含む。
【0121】
固体電解質粒子としては、無機固体電解質を用いることが好ましい。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を挙げることができる。酸化物系固体電解質としては、NASICON型構造を有し、一般式LiM2(PO43で表されるリチウムリン酸固体電解質を用いることが好ましい。上記一般式中のMは、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の元素であることが好ましい。元素Mは、Ge、Zr及びTiの何れか1つの元素と、Alとを含むことがより好ましい。
【0122】
NASICON型構造を有するリチウムリン酸固体電解質の具体例としては、LATP(Li1+xAlTi2-x(PO)、Li1+xAlGe2-x(PO、Li1+xAlZr2-x(POを挙げることができる。上記式におけるxは、0<x≦5の範囲内にあり、0.1≦x≦0.5の範囲内にあることが好ましい。固体電解質としては、LATPを用いることが好ましい。LATPは、耐水性に優れ、二次電池内で加水分解を生じにくい。
【0123】
また、酸化物系固体電解質としては、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.30.46)、又はガーネット型構造のLLZ(Li7La3Zr212)を用いてもよい。
【0124】
また、固体電解質としては、ナトリウム含有固体電解質を用いてもよい。ナトリウム含有固体電解質は、ナトリウムイオンのイオン伝導性に優れている。ナトリウム含有固体電解質としては、β-アルミナ、ナトリウムリン硫化物、及びナトリウムリン酸化物などを挙げることができる。ナトリウムイオン含有固体電解質は、ガラスセラミックスの形態にあることが好ましい。
【0125】
電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩又はこれらの混合物を用いることが好ましい。電解質塩は、1種類又は2種類以上のものを使用することができる。
【0126】
リチウム塩として、例えば、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硝酸リチウム(LiNO3)、酢酸リチウム(CH3COOLi)、シュウ酸リチウム(Li)、炭酸リチウム(LiCO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(LiTFSI;LiN(SO2CF32)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI;LiN(SO2F)2)、及びリチウムビスオキサレートボラート(LiBOB:LiB[(OCO)2]2)などを用いることができる。
【0127】
また、ナトリウム塩としては、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硝酸ナトリウム(NaNO3)及びナトリウムトリフルオロメタンスルホニルアミド(NaTFSA)などを用いることができる。
【0128】
(4)水系電解質
水系電解質は、水系溶媒と電解質塩とを含む。水系電解質は、例えば、液状である。液状水系電解質は、溶質としての電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される水溶液である。水溶液は、溶質となる塩1molに対し、水系溶媒量が1mol以上であることが好ましく、3.5mol以上であることがさらに好ましい。
【0129】
水系溶媒としては、水を含む溶液を用いることができる。水を含む溶液とは、純水であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水系溶媒は、例えば、水を50体積%以上の割合で含む。
【0130】
水系電解質に水が含まれていることは、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-重量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)測定により確認できる。また、水系電解質中の塩濃度および水含有量は、例えばICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分析などで測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる塩濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。また水系電解質の比重を測定することで、溶質と溶媒のモル数を算出できる。
【0131】
水系電解質は、ゲル状電解質であってもよい。ゲル状電解質は、上述した液状水系電解質と、高分子化合物とを混合して複合化することにより調製される。高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びポリエチレンオキシド(PEO)等を挙げることができる。
【0132】
電解質塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩又はこれらの混合物を用いることができる。リチウム塩及びナトリウム塩としては、固体電解質層において含まれ得るものと同様のものを用いることができる。リチウム塩としては、LiClを含むことが好ましい。LiClを用いると、水系電解質のリチウムイオン濃度を高めることができる。また、リチウム塩は、LiClに加えて、LiSO4及びLiOHの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。
【0133】
水系電解質におけるリチウムイオンのモル濃度は、3mol/L以上であってもよく、6mol/L以上であってもよく、12mol/L以上であってもよい。一例によれば、水系電解質におけるリチウムイオンのモル濃度は、14mol/L以下である。水系電解質中のリチウムイオンの濃度が高いと、負極における水系溶媒の電気分解が抑制されやすく、負極からの水素発生が少ない傾向にある。
【0134】
水系電解質は、アニオン種として、塩素イオン(Cl)、水酸化物イオン(OH)、硫酸イオン(SO 2-)、硝酸イオン(NO )から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0135】
水系電解質のpHは、3以上14以下であることが好ましく、4以上13以下であることがより好ましい。図10及び図11を参照しながら後述するように、負極側電解質と、正極側電解質とで別々の電解質を用いる場合には、負極側電解質のpHは、3以上14以下の範囲内にあることが好ましく、正極側電解質のpHは、1以上8以下の範囲内にあることが好ましい。
【0136】
負極側電解質のpHが上記範囲内にあることにより、負極での水素発生電位が低下するため、負極での水素発生が抑制される。これにより、電池の保存性能及びサイクル寿命性能が向上する。正極側電解質のpHが上記範囲内にあることにより、正極での酸素発生電位が高くなるため、正極での酸素発生が減少する。これにより、電池の保存性能及びサイクル寿命性能が向上する。正極側電解質のpHは、3以上7.5以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0137】
水系電解質は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、チオ尿素、3、3‘-ジチオビス(1-プロパンホス酸)2ナトリウム、ジメルカプトチアジアゾール、ホウ酸、シュウ酸、マロン酸、サッカリン、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ゼラチン、硝酸カリウム、芳香族アルデヒド、複素環アルデヒドなどの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0138】
(5)外装部材
電極構造体及び水系電解質が収容される外装部材には、金属製容器、ラミネートフィルム製容器、又は樹脂製容器を使用することができる。
【0139】
金属製容器としては、ニッケル、鉄、及びステンレスなどからなる金属缶で角形、円筒形の形状のものが使用できる。樹脂製容器としては、ポリエチレン又はポリプロピレンなどからなるものを用いることができる。
【0140】
樹脂製容器及び金属製容器のそれぞれの板厚は、0.05mm以上1mm以下の範囲内にあることが好ましい。板厚は、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは0.3mm以下である。
【0141】
ラミネートフィルムとしては、例えば、金属層を樹脂層で被覆した多層フィルムなどを挙げることができる。金属層の例に、ステンレス箔、アルミニウム箔、及びアルミニウム合金箔が含まれる。樹脂層には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子を用いることができる。ラミネートフィルムの厚さは、0.01mm以上0.5mm以下の範囲内にあることが好ましい。ラミネートフィルムの厚さは、より好ましくは0.2mm以下である。
【0142】
(6)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、亜鉛、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0143】
(7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し2.5V以上5.5V以下の電位範囲(vs.Li/Li)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0144】
(8)二次電池の形態
本実施形態に係る二次電池は、角形、円筒形、扁平型、薄型、コイン型等の様々な形態で使用され得る。また、バイポーラ構造を有する二次電池であってもよい。バイポーラ構造を有する二次電池には、複数直列のセルを1個のセルで作製できるという利点がある。
【0145】
実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0146】
図6~9は、実施形態に係る二次電池の一例を示す。図6は、二次電池について、Y軸方向に対して垂直又は略垂直な断面を示す。図7は、X軸方向に対して垂直又は略垂直な断面を示す。図8は、Z軸方向に対して垂直又は略垂直な断面を示す。本実施形態では、外装部材2は、底付きの筒状であり、外装部材2の収納空間5は、二次電池100のZ軸方向について一方側へ向かって開口している。
【0147】
収納空間5には、電極構造体50及び電解質31が収納されている。電解質31は、例えば、水系電解質である。図6~9に係る電極構造体50は、電極群3が備える正極7、負極6及びセパレータ8が、何れも複数であることを除いて、図1及び図2を参照しながら説明した電極構造体と同様の構成を有している。即ち、図6~9に示す電極群3は、複数の正極7、複数の負極6及び複数のセパレータ8を備える。電極群は、1つの正極、1つの負極及び1つのセパレータを備えていてもよい。電極群3において、負極6及び正極7は、これらの間にセパレータ8を介して交互に配置されている。負極6、正極7及びセパレータ8が積層されている方向が電極群3の厚さ方向である。押さえ部材20は、電極群3の厚さ方向に沿って電極群を挟持している。
【0148】
図9は、電極群3の一部を拡大して示している。図9では、電極群3は、X軸方向に垂直又は略垂直な断面で示される。図9等に示すように、負極6のそれぞれは、負極集電体12と、負極活物質含有層13とを備える。負極活物質含有層13は、負極活物質を含み、負極集電体12の両面又は片面に担持される。また、負極集電体12は、負極活物質含有層13が担持されていない部分(負極集電タブ部)を有する。同様に、正極7のそれぞれは、正極集電体15と、正極活物質含有層16とを備える。正極活物質含有層16は、正極活物質を含み、正極集電体15の両面又は片面に担持される。また、正極集電体15は、正極活物質含有層16が担持されていない部分(正極集電タブ部)を有する。
【0149】
一例によると、電極群3の厚さ方向についての両外端には、負極6が配置される。両外端に配置される負極6のそれぞれの負極集電体12には、片面にのみ、すなわち、厚さ方向について内側を向く面にのみ、負極活物質含有層13が担持される。両外端に配置される負極6以外の負極6のそれぞれでは、負極集電体12の両面に、負極活物質含有層13が担持される。また、全ての正極7のそれぞれでは、正極集電体15の両面に、正極活物質含有層16が担持される。
【0150】
図6図7及び図9に示すように、二次電池100は、負極リード14、正極リード17及び蓋18を備える。蓋18は、例えば、金属から形成される。蓋18は、収納空間5の開口部において溶接等によって外装部材2に取付けられ、収納空間5の開口部を塞ぐ。リード14、17のそれぞれは、例えば、金属等から形成され、導電性を有する。負極6のそれぞれでは、負極集電体12において、負極活物質含有層13が担持されていない負極集電タブ部に負極リード14が接続される。同様に、正極7のそれぞれでは、正極集電体15において、正極活物質含有層16が担持されていない正極集電タブ部に正極リード17が接続される。リード14,17は、X軸方向に対して互いに離れて配置されており、リード14,17の互いに対する接触が防止される。また、リード14,17のそれぞれの外装部材2及び蓋18への接触は、絶縁部材(図示しない)等によって防止される。このため、リード14,17の間の短絡は有効に防止される。
【0151】
蓋18の外表面には、負極端子21及び正極端子22が取付けられる。端子21,22のそれぞれは、例えば、金属等から形成され、導電性を有する。負極端子21には、負極リード14が接続され、正極端子22には、正極リード17が接続される。端子21,22は、X軸方向に対して互いに離れて配置されており、端子21,22の互いに対する接触が防止される。また、負極端子21の蓋18への接触は、絶縁部材23等によって防止され、正極端子22の蓋18への接触は、絶縁部材25等によって防止される。このため、端子21,22の間の短絡は有効に防止される。
【0152】
図10及び図11は、実施形態に係る二次電池の他の例を概略的に示している。図10及び図11に係る二次電池100は、電極群3が備えるセパレータ8が1つ以上のバッグ26を備えることを除いて、図6~9を参照しながら説明した二次電池100と同様の構成を有している。図10及び図11に係る二次電池100では、セパレータ8の全てがバッグ26を備えているが、バッグ26を備えるセパレータ8は1つでも良い。
【0153】
バッグ26を備えるセパレータ8の数は、例えば、負極6と同一の数である。バッグ26のそれぞれの内部には、複数の負極6のうちの1つが収納される。バッグ26のそれぞれは、複数の負極6のうちの1つを内部に収納した状態で、外装部材2の収納空間5に配置される。バッグ26のそれぞれは、バッグ開口27を有する。バッグ26のそれぞれの内部は、バッグ開口27において、二次電池100のZ軸方向について、蓋18が位置する側に向かって開口している。バッグ26のそれぞれは、バッグ開口27でのみ、外部に対して開口し、バッグ開口27以外の部位では、外部に対して開口していない。即ち、バッグ26のそれぞれでは、バッグ開口27以外の部位は、閉塞されている。
【0154】
外装部材2の収納空間5では、正極7のそれぞれは、全てのバッグ26の外部に配置されており、バッグ26のいずれにも収納されていない。本実施形態では、上述の通り、負極6及び正極7が交互に配置されている。従って、収納空間5では、バッグ26のそれぞれに、複数の負極6のうちの1つが収納された状態で、バッグ26及び正極7が、交互に配置されている。隣り合う負極6及び正極7の間には、セパレータ8(バッグ26)の少なくとも一部が介在する。
【0155】
図10及び図11では、複数の負極6のそれぞれがバッグ26に収納されており、且つ、複数の正極7がバッグ26の外部に配置されている場合を示しているが、複数の正極7のそれぞれがバッグ26に収納されており、且つ、複数の負極6のそれぞれがバッグ26の外部に配置されていてもよい。また、電極群3が備える負極6及び正極7が、それぞれ1つである場合には、バッグ26の数は1つでありうる。この場合、バッグ26に収納される負極6又は正極7は1つでありうる。
【0156】
図10及び図11に示すように、二次電池100は、第1電解質31及び第2電解質32を備える。一例によると、第1電解質31及び第2電解質32は、いずれも水系溶媒を含む水系電解質である。第1電解質31は、複数のバッグ26のそれぞれの内部に収容されている。バッグ26の内部に収容された第1電解質31は、当該バッグ26に収納された負極6に保持(含浸)されている。また、収納空間5における全てのバッグ26の外部には、第2電解質32が収容されている。そして、収納空間5における全てのバッグ26の外部において、第2電解質32は正極7に保持(含浸)されている。
【0157】
従って、本実施形態では、第1電解質(負極側電解質)31及び第2電解質(正極側電解質)32が用いられる。第1電解質31及び第2電解質32は、セパレータ8のバッグ26により、互いに対して隔離される。バッグ26の内部に配置される電極が負極であるため、バッグ26のそれぞれの内部に収容される第1電解質31が負極側電解質であり、全てのバッグ26の外部に配置される第2電解質32が正極側電解質である。
【0158】
二次電池100では、第1電解質31及び第2電解質32のそれぞれが有する液面又は界面は、バッグ26のそれぞれのバッグ開口27に対して、蓋18が位置する側とは反対側、すなわち、Z軸方向における鉛直下側の位置で維持される。これにより、バッグ26の外部へのバッグ開口27を通しての電解質31の流出が有効に防止されるとともに、バッグ26の内部へのバッグ開口27を通しての電解質32の流入が有効に防止される。
【0159】
図10及び11に示す二次電池100によると、第1電解質31及び第2電解質32として、互いに異なる性質を有するものを使用することができる。例えば、第1電解質31及び第2電解質32は、互いにpHが異なっていてもよく、互いに浸透圧が異なっていてもよく、互いに粘度が異なっていてもよい。また、例えば、第1電解質31及び第2電解質32のうちの少なくとも一方が液状水系電解質でありうる。第1電解質31及び第2電解質32のうちの一方が液状水系電解質である場合、他方はゲル状水系電解質であってもよい。
【0160】
実施形態に係る二次電池は、組電池を構成していてもよい。組電池は、実施形態に係る二次電池を複数個具備している。組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0161】
第2実施形態によると、二次電池が提供される。二次電池は、第1実施形態に係る電極構造体を含む。それ故、この二次電池は優れた充放電効率を示す。
【0162】
(第3実施形態)
第3実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第2実施形態に係る二次電池を具備している。この電池パックは、第2実施形態に係る二次電池を1つ具備していてもよく、複数個の二次電池で構成された組電池を具備していてもよい。
【0163】
第3実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0164】
また、第3実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0165】
次に、第3実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0166】
図12は、第3実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。図13は、図12に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0167】
図12及び図13に示す電池パック300は、収容容器310と、蓋320と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0168】
図12に示す収容容器310は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器310は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋320は、矩形型の形状を有する。蓋320は、収容容器310を覆うことにより、組電池200等を収容する。収容容器310及び蓋320には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0169】
組電池200は、複数の単電池100と、正極リード17と、負極リード14と、粘着テープ24とを備えている。
【0170】
複数の単電池100の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100は、外部に延出した負極端子21及び正極端子22が同じ向きになるように揃えて積層されている。複数の単電池100の各々は、図13に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0171】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0172】
正極リード17の一端は、単電池100の積層体において、最下層に位置する単電池100の正極端子22に接続されている。負極リード14の一端は、単電池100の積層体において、最上層に位置する単電池100の負極端子21に接続されている。
【0173】
プリント配線基板34は、収容容器310の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ341と、負極側コネクタ342と、サーミスタ343と、保護回路344と、配線345及び346と、通電用の外部端子347と、プラス側配線348aと、マイナス側配線348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200において負極端子21及び正極端子22が延出する面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0174】
正極側コネクタ341には、貫通孔が設けられている。この貫通孔に、正極リード17の他端が挿入されることにより、正極側コネクタ341と正極リード17とは電気的に接続される。負極側コネクタ342には、貫通孔が設けられている。この貫通孔に、負極リード14の他端が挿入されることにより、負極側コネクタ342と負極リード14とは電気的に接続される。
【0175】
サーミスタ343は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ343は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路344に送信する。
【0176】
通電用の外部端子347は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子347は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。
【0177】
保護回路344は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路344は、プラス側配線348aを介して通電用の外部端子347と接続されている。保護回路344は、マイナス側配線348bを介して通電用の外部端子347と接続されている。また、保護回路344は、配線345を介して正極側コネクタ341に電気的に接続されている。保護回路344は、配線346を介して負極側コネクタ342に電気的に接続されている。更に、保護回路344は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0178】
保護シート33は、収容容器310の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0179】
保護回路344は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路344は、サーミスタ343から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路344と通電用の外部端子347との電気的な接続を遮断する。
【0180】
サーミスタ343から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0181】
なお、保護回路344としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0182】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子347を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子347を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子347を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子347を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0183】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極リード17及び負極リード14を通電用の外部端子として用いてもよい。
【0184】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、電子機器の電源、定置用電池、及び各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0185】
第3実施形態に係る電池パックは、第2実施形態に係る二次電池を備えている。従って、第3実施形態に係る電池パックは充放電効率に優れている。
【0186】
(第4実施形態)
第4実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第3実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0187】
第4実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含み得る。
【0188】
車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0189】
車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0190】
車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、電池パックは、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0191】
次に、第4実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0192】
図13は、第4実施形態に係る車両の一例を概略的に示す断面図である。
【0193】
図14に示す車両400は、車両本体40と、第3実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。図14に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0194】
車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0195】
図14では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0196】
第4実施形態に係る車両は、第3実施形態に係る電池パックを搭載している。それ故、本実施形態によれば、充放電効率に優れた電池パックを具備した車両を提供することができる。
【0197】
(第5実施形態)
第5実施形態によると、定置用電源が提供される。この定置用電源は、第3実施形態に係る電池パックを搭載している。なお、この定置用電源は、第3実施形態に係る電池パックの代わりに、第2実施形態に係る二次電池又は組電池を搭載していてもよい。
【0198】
図15は、第5実施形態に係る定置用電源を含むシステムの一例を示すブロック図である。図15は、第3実施形態に係る電池パック300A、300Bの使用例として、定置用電源112、123への適用例を示す図である。図15に示す一例では、定置用電源112,123が用いられるシステム110が示される。システム110は、発電所111、定置用電源112、需要家側電力系統113及びエネルギー管理システム(EMS)115を備える。また、システム110には、電力網116及び通信網117が形成され、発電所111、定置用電源112、需要家側電力系統113及びEMS115は、電力網116及び通信網117を介して、接続される。EMS115は、電力網116及び通信網117を活用して、システム110全体を安定化させる制御を行う。
【0199】
発電所111は、火力及び原子力等の燃料源によって、大容量の電力を生成する。発電所111からは、電力網116等を通して電力が供給される。また、定置用電源112には、電池パック300Aが搭載される。電池パック300Aは、発電所111から供給される電力等を蓄電できる。また、定置用電源112は、電池パック300Aに蓄電された電力を、電力網116等を通して供給できる。システム110には、電力変換装置118が設けられる。電力変換装置118は、コンバータ、インバータ及び変圧器等を含む。したがって、電力変換装置118は、直流と交流との間の変換、互いに対して周波数が異なる交流の間の変換、及び、変圧(昇圧及び降圧)等を行うことができる。このため、電力変換装置118は、発電所111からの電力を、電池パック300Aへ蓄電可能な電力に変換できる。
【0200】
需要家側電力系統113には、工場用の電力系統、ビル用の電力系統、及び、家庭用の電力系統等が、含まれる。需要家側電力系統113は、需要家側EMS121、電力変換装置122及び定置用電源123を備える。定置用電源123には、電池パック300Bが搭載される。需要家側EMS121は、需要家側電力系統113を安定化させる制御を行う。
【0201】
需要家側電力系統113には、発電所111からの電力、及び、電池パック300Aからの電力が、電力網116を通して供給される。電池パック300Bは、需要家側電力系統113に供給された電力を蓄電できる。また、電力変換装置121は、電力変換装置118と同様に、コンバータ、インバータ及び変圧器等を含む。したがって、電力変換装置121は、直流と交流との間の変換、互いに対して周波数が異なる交流の間の変換、及び、変圧(昇圧及び降圧)等を行うことができる。このため、電力変換装置121は、需要家側電力系統113に供給された電力を、電池パック300Bへ蓄電可能な電力に変換できる。
【0202】
なお、電池パック300Bに蓄電された電力は、例えば、電気自動車等の車両の充電等に用いることができる。また、システム110には、自然エネルギー源が設けられてもよい。この場合、自然エネルギー源は、風力及び太陽光等の自然エネルギーによって、電力を生成する。そして、発電所111に加えて自然エネルギー源からも、電力網116を通して、電力が供給される。
【0203】
第5実施形態に係る定置用電源は、第3実施形態に係る電池パックを具備している。それ故、本実施形態によれば、充放電効率に優れた電池パックを具備した定置用電源を提供することができる。
【実施例
【0204】
以下に実施例を記載する。実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0205】
(実施例1)
以下の手順で電池を作製した。
<正極の作製>
以下のようにして正極を作製した。
【0206】
正極活物質としてLiMn(5g)、導電剤としてアセチレンブラック(0.25g)、及び、結着剤としてPVDF分散液(固形分率8%のNMP溶液, 6.25g)を、混練機を用いて3分間混合して粘稠性スラリーを得た。このスラリーを、Ti箔の片面上に塗布した。その後、120℃で溶媒を留去して積層体を得た。次いで、この積層体を、ロールプレスを用いて圧延した。得られた積層体を乾燥させた後、集電タブ部を除いた寸法が90mm×80mmとなるように打ち抜いた。得られた正極の目付は、200g/mであった。
【0207】
<負極の作製>
負極活物質としてLiTi12(10g)、導電剤としてグラファイト(1g)、結着剤としてPTFE分散液(固形分40重量%, 1g)、及び、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)8gを混練機を用いて3分間混合してスラリーを得た。このスラリーを、Zn箔の片面上に塗布した。その後、120℃で溶媒を留去して積層体を得た。次いで、この積層体を、ロールプレスを用いて圧延した。得られた積層体を乾燥させた後、集電タブ部を除く寸法が90mm×80mmとなるように打ち抜いた。得られた負極の目付は、100g/mであった。
【0208】
<水系電解質の調製>
水に、LiClを12mol/Lの濃度で溶解させた水系電解質を調製した。
【0209】
<電極構造体の作製>
押さえ部材として、ステンレス鋼からなる平板を2枚用意した。この平板は、縦108mm、横96mm、厚さ10mmの寸法を有した矩形の平板であった。この平板は、周縁部に6個の貫通孔を有していた。貫通孔のうちの4つは、矩形の平板の四隅にそれぞれ設けられていた。具体的には、これら4つの貫通孔は、それぞれ、平板の主面についての対角線上であって、或る側面からの距離、及び、これに隣接する他の側面からの距離が略同一である位置に設けられていた。また、残り2つの貫通孔のうちの一方は、矩形平板の長辺側において設けられた2つの貫通孔の中点の位置に設けられていた。また、残り2つの貫通孔のうちの他方は、上記長辺側とは反対側に位置する長辺側において設けられた2つの貫通孔の中点の位置に設けられていた。
【0210】
先に作製した正極と、セパレータと、先に作製した負極とをこの順に積層して、10mmの厚さを有する積層型電極群を作製した。なお、セパレータとしては、リチウムイオン伝導性を有しており、メディアン径D50が1μmのLATP(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43)粉末と、PVB(Polyvinyl butyral)とを9:1の質量比で含む固体電解質複合膜を使用した。
【0211】
2枚の押さえ部材により、作製した電極群を厚さ方向に沿って挟持した。電極群と押さえ部材との間には、絶縁性シートとして、厚さ0.05mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを挟み、絶縁性を確保した。その後、一方の押さえ部材が有する複数の貫通孔のそれぞれに、固定手段としてのボルトを通し、当該ボルトを、他方の押さえ部材が有する、対応する位置に設けられた貫通孔のそれぞれに貫通させた。そして、貫通させたボルトの先端にナットを締結させて、2つの押さえ部材を、これらの間に電極群を挟持した状態で固定した。ボルト及びナットの1組当たりの軸力は3000Nであったため、電極群に掛かる総軸力は18000Nであった。こうして、電極群及び押さえ部材を備えた電極構造体を作製した。
【0212】
<二次電池の作製>
ステンレス鋼からなる底付きの角筒形状を有する外装部材を準備し、外装部材の収納空間内に、先に作製した電極構造体を収納した。外装部材の肉厚は0.25mmであった。また、外装部材の収納空間内に、先に調製した水系電解質を注液した。その後、蓋を用いて外装部材の開口部を塞ぎ、二次電池を作製した。なお、当該二次電池について、図6等を参照しながら説明した通り、正負極がそれぞれ備える集電体と電気的に接続された正極リード及び負極リードが外装部材の外部に露出している。
【0213】
(実施例2~9)
押さえ部材の材質及び寸法を、表1に示す通り変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。表中、「PEEK」はポリエーテルエーテルケトンを示し、「PPS」はポリフェニレンサルファイドを示し、「PP」はポリプロピレンを示す。
【0214】
(実施例10)
電極構造体が2枚の歪み抑止材を更に備えることを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。歪み抑止材は、いずれも、表2に示す寸法を有するステンレス鋼板であった。2枚の歪み抑止材は、それぞれ、電極群3と押さえ部材との間に介在していた。また、一方の歪み抑止材と電極群3との間、及び、他方の歪み抑止材と電極群3との間には、それぞれ、絶縁性シートとして厚さ0.05mmのPTFEシートを介在させた。なお、これら歪み抑止材は、押さえ部材と同様の位置に6個の貫通孔を有していた。
【0215】
(実施例11~16)
押さえ部材の材質及び寸法を表1に示す通り変更し、歪み抑止材の材質、寸法及び形状を表2に示す通り変更したことを除いて、実施例10と同様の方法で二次電池を作製した。
【0216】
(実施例17~19)
押さえ部材の材質、寸法及び形状を表1に示す通り変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0217】
(実施例20~26)
押さえ部材の材質及び寸法を表1に示す通り変更し、歪み抑止材の材質、寸法及び形状を表2に示す通り変更したことを除いて、実施例10と同様の方法で二次電池を作製した。
【0218】
(実施例27~29)
押さえ部材の寸法を表に示す通りに変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0219】
(実施例30~32)
押さえ部材の寸法を表に示す通りに変更し、歪み抑止材の材質を表に示す通りに変更したことを除いて、実施例10と同様の方法で二次電池を作製した。
【0220】
(実施例33~35)
正極及び負極の寸法を変更することにより、表に示す通りに電極群の寸法を変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0221】
(実施例36~38)
正極及び負極の寸法を変更することにより、表に示す通りに電極群の寸法を変更し、歪み抑止材の材質を表に示す通りに変更したことを除いて、実施例13と同様の方法で二次電池を作製した。
【0222】
(実施例39~41)
電極群の厚さを表に示す通りに変更したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0223】
(実施例42~44)
押さえ部材の厚さを表に示す通りに変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0224】
(比較例1~3)
比較例1~3では、2つの押さえ部材として、厚さが5mmのものを使用したことを除いて、それぞれ、実施例7~9と同様の方法で二次電池を作製した。
【0225】
(比較例4)
それぞれのボルトをより強く締めたことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。ボルト1本により押さえ部材に掛かる軸力は30000Nであった。
【0226】
(比較例5)
押さえ部材の周縁部に設ける貫通孔の数を10個に増やすと共に、各貫通孔に設けるボルトの数を10個に増やし、更に、それぞれのボルトにより押さえ部材に掛かる軸力を5000Nに変更したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0227】
(比較例6及び7)
押さえ部材の厚さを表3に示す通りに変更したことを除いて、実施例2と同様の方法で二次電池を作製した。
【0228】
<m及びLの測定>
各実施例及び各比較例にて得られた二次電池について、第1実施形態において説明した方法に従ってX線CT観察を実施し、電極群の変位m及び最大長Lを測定した。これらの結果を表2及び表4に示す。
【0229】
<定電流充放電試験>
各実施例および各比較例について、二次電池作製後、定電流(CC:Constant Current)充放電試験を行った。充電及び放電のいずれも1Cレートで行った。また、充電時は、電流値が0.5Cになるまで、充電時間が130分間になるまで、充電容量が170mAh/gになるまで、のいずれか早いものを終止条件とした。放電時は130分後を終止条件とした。充電を1回行い、放電を1回行うことを充放電の1サイクルとし、50サイクル目の充電容量と放電容量とから以下の計算式に従ってクーロン効率を百分率で算出した。クーロン効率は、充放電効率を評価する指標である。定電流充放電試験の結果を表2及び4にまとめる。
クーロン効率(%)=100×(放電容量/充電容量)
【0230】
【表1】
【0231】
【表2】
【0232】
【表3】
【0233】
【表4】
【0234】
表1及び3において、固定手段の列には、使用したボルト(及びナット)の1本当たりの軸力と、各例に係る電極構造体が具備するボルトの本数と、押さえ部材に掛かる総軸力を示している。表2及び表4において、「歪み抑止材」の「材質」の列に「-」が示されている例は、「歪み抑止材」を備えていない例であることを示している。
【0235】
表1~4から以下のことが分かる。
比m/Lが0.01以下である実施例1~44では、優れたクーロン効率を達成することができた。
【0236】
実施例1~9、17~19、27~29、33~35及び39~44に係る電極構造体は、歪み抑止材を備えていなかったが、いずれもm/Lが0.01以下であった。これら例のうち、押さえ部材として、ヤング率の高い金属板を使用した例においては、押さえ部材の周縁部に対して所定のトルクを掛けても押さえ部材が湾曲しにくかったと考えられる。また、金属板と比較してヤング率の低い樹脂板を使用した例においても、樹脂板として一定の厚さを有する押さえ部材を使用することにより、比m/Lを0.01以下とすることができた。
【0237】
また、押さえ部材について、電極群と対向している主面が、電極群側に突き出した円弧形状(凸形状)を有するものを使用した実施例17~19においては、押さえ部材の厚さが比較的薄くても、m/Lを有意に小さくすることができた。
【0238】
実施例10~16、20~26、30~32及び36~38に係る電極構造体は、電極群と、2枚の押さえ板との間に2枚の歪み抑止材を備えていたため、より小さなm/Lを達成できる傾向にあった。例えば、ヤング率が相対的に低いPEEKからなる平板を押さえ部材として使用し、ヤング率が相対的に高いステンレス鋼からなる平板を歪み抑止材として使用した実施例10では、歪み抑止材によって押さえ部材及び歪み抑止材の湾曲を抑制できたと考えられる。その結果、m/Lは、0.00005という小さな値であった。また、実施例20~26に示すように、歪み抑止材を構成する材質を種々変更した場合であっても、m/Lを小さな値に抑えることができた。
【0239】
実施例27~44に示すように電極群のサイズ及び厚さ、並びに、押さえ部材のサイズ及び厚さを変更した場合にも、m/Lが0.01以下であるため、これら例のクーロン効率は優れていた。
【0240】
比較例1~3では、ステンレス鋼などと比較して大幅にヤング率の低い樹脂からなる平板を押さえ部材として使用し、且つ、当該押さえ部材の厚さが小さかった。また、比較例1~3に係る電極構造体は歪み抑止材を備えていなかった。そのため、これら例に係るm/Lは0.01を超えており、クーロン効率も劣っていた。
【0241】
比較例4及び5では、押さえ部材の周縁部において、過度な締め付け圧力が掛かっていた。それ故、電極群の端部が潰れてしまい、m/Lが0.01を超えていた。
【0242】
比較例6及び7に示すように、固定手段による押さえ部材への締め付け圧力が実施例と同様であっても、押さえ部材自体の厚さが十分でない場合には、m/Lは0.01を超える場合がある。この場合、クーロン効率は低下する。
【0243】
以上述べた少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、電極構造体が提供される。電極構造体は、電極群と、押さえ部材とを具備する。押さえ部材は、電極群の厚さ方向に沿って電極群を挟持している。電極群は下記式(1)を満たす。
m/L≦0.01 ・・・(1)
ここで、mは、電極群の厚さ方向に沿った複数の断面のうち、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最小となる部分T1の厚さt1と、厚さ方向に沿った電極群の厚さが最大となる部分T2の厚さt2との差Δtが最も大きくなるように選択される断面における、Δtである。Lは、厚さ方向と直交する面内方向における電極群の最大長さである。電極構造体によると、電極群の少なくとも一方の面内に掛かる圧力の均一性が高いため、優れた充放電効率を達成することができる。
【0244】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 電極群と、
前記電極群の厚さ方向に沿って前記電極群を挟持する、押さえ部材とを具備し、
前記電極群は下記式(1)を満たす電極構造体。
m/L≦0.01 ・・・(1)
ここで、前記mは、前記電極群の前記厚さ方向に沿った複数の断面のうち、前記厚さ方向に沿った前記電極群の厚さが最小となる部分T1の厚さt1と、前記厚さ方向に沿った前記電極群の厚さが最大となる部分T2の厚さt2との差Δtが最も大きくなるように選択される断面における、前記Δtであり、
前記Lは、前記厚さ方向と直交する面内方向における前記電極群の最大長さである。
[2] 前記電極群と前記押さえ部材との間に介在する歪み抑止材を備える[1]に記載の電極構造体。
[3] 前記電極群は、前記押さえ部材と対向する第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有し、
前記電極群の前記第1主面と、前記押さえ部材との間に介在する第1歪み抑止材、及び、前記電極群の前記第2主面と、前記押さえ部材との間に介在する第2歪み抑止材を更に具備する[1]又は[2]に記載の電極構造体。
[4] 複数の前記押さえ部材と、
前記複数の押さえ部材を互いに固定する固定手段とを更に具備し、
前記電極群は、前記複数の押さえ部材のうちの1つと、前記複数の押さえ部材のうちの他の1つとにより挟持されている[1]~[3]の何れか1項に記載の電極構造体。
[5] 前記電極群の厚さに対する前記mの割合は、0%~50%の範囲内にある[1]~[4]の何れか1項に記載の電極構造体。
[6] 前記押さえ部材のヤング率は、0.1GPa以上である[1]~[5]の何れか1項に記載の電極構造体。
[7] 前記歪み抑止材のヤング率は、10GPa以上である[2]~[6]の何れか1項に記載の電極構造体。
[8] [1]~[7]の何れか1項に記載の電極構造体と、水系電解質とを備え、
前記電極群は、正極及び負極を備える二次電池。
[9] [8]に記載の二次電池を具備した電池パック。
[10] 通電用の外部端子と、保護回路とを更に含む[9]に記載の電池パック。
[11] 複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が、直列、並列、又は、直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている[9]又は[10]に記載の電池パック。
[12] [9]~[11]の何れか1項に記載の電池パックを具備する車両。
[13] [9]~[11]の何れか1項に記載の電池パックを具備する定置用電源。
【符号の説明】
【0245】
1…電極群、2…外装部材(容器)、6…負極、7…正極、10…歪み抑止材、11…固定手段、12…負極集電体、13…負極活物質含有層、14…負極リード、15…正極集電体、16…正極活物質含有層、17…正極リード、18…蓋、19…絶縁性シート、20…押さえ部材、21…負極端子、22…正極端子、23…絶縁部材、24…粘着テープ、25…絶縁部材、26…バッグ、27…バッグ開口、31…第1電解質、32…第2電解質、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、50…電極構造体、100…二次電池、110…システム、111…発電所、112…定置用電源、113…需要家側電力系統、115…エネルギー管理システム(EMS)、116…電力網、117…通信網、118…電力変換装置、121…電力変換装置、122…電力変換装置、123…定置用電源、200…組電池、300…電池パック、300A…電池パック、300B…電池パック、310…収容容器、320…蓋、341…正極側コネクタ、342…負極側コネクタ、343…サーミスタ、344…保護回路、345…配線、346…配線、347…通電用の外部端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、400…車両。
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