(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0258 20160101AFI20231128BHJP
H01M 8/023 20160101ALI20231128BHJP
H01M 8/026 20160101ALI20231128BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20231128BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20231128BHJP
【FI】
H01M8/0258
H01M8/023
H01M8/026
H01M8/10 101
H01M8/1004
(21)【出願番号】P 2020144055
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】霜鳥 宗一郎
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-109417(JP,A)
【文献】特開2007-087860(JP,A)
【文献】特開2013-191433(JP,A)
【文献】特開2014-225424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の一方の面に水素酸化性能を有するアノード触媒を含むアノード触媒層を配置し、前記固体高分子電解質膜の他方の面に酸化還元性能を有するカソード触媒を含むカソード触媒層を配置し、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層にそれぞれ接してガス拡散層を配置して構成した単位電池と、
前記ガス拡散層にそれぞれ接して配置され、燃料ガス流通路又は酸化剤ガス流通路が設けられた、電気伝導性材料からなるセパレータと、
を具備した基本構成要素を複数個積層して積層体を構成する燃料電池スタックであって、
前記固体高分子電解質膜と、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層を、一定の周期で厚み方向に凹凸形状を繰り返す台形波状又は矩形波状に構成し
、
前記台形波状又は前記矩形波状の前記周期を、
前記燃料ガス流通路又は前記酸化剤ガス流通路の溝形状の周期と同一とし、かつ、前記燃料ガス流通路又は前記酸化剤ガス流通路の溝の開口部と、前記固体高分子電解質膜とアノード触媒層及びカソード触媒層が近接するようにした
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックであって、
前記台形波状又は前記矩形波状の形状は、前記周期をP、厚み方向の高低差をH、としたときに
H>P/2
であることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の燃料電池スタックであって、
前記セパレータが導電性多孔質材料で構成されていることを特徴とする燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固体高分子形燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
電解質としてプロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜を用いた燃料電池スタックは、電解質膜をアノード電極とカソード電極で狭持した膜電極複合体(MEA)の両面に、ガス流通路を設けた電気伝導性のセパレータを配置して単セル電池(単位電池)を構成し、単セル電池を複数積層して構成される。
【0003】
一般的に、膜電極複合体(MEA)を構成する固体高分子電解質膜、アノード電極、カソード電極は全て平板状すなわちシート状で積層されており、その有効面積はアノード電極及びカソード電極の面積で規定される。有効面積の単位面積当りの特性、すなわちセル電圧と電流は同一構成の材料では一定であり、燃料電池出力を大きくするために、より活性が高く、電気的抵抗が低く、ガス拡散性に優れる電池材料を選定し、単位面積当りの特性を改善する試みがなされてきた。
【0004】
単位面積当りの特性を改善する方法に関して、特許文献1では、電解質膜表面及び反応膜に波形形状の凹凸を設けて、実質的な有効面積を増加させる構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の技術では、電解質膜表面及び反応膜に波形形状の凹凸を設けることで、接触面積すなわち実質的な有効面積を増やして特性を改善することに成功している。しかし、その改善の度合いは平滑面と比較して限界電流密度が50%増加するに留まっており、大幅な特性改善とはならないという課題があった。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、単位投影面積当りの特性を大幅に改善することができるとともに、簡素で安価な固体高分子形燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の固体高分子形燃料電池スタックは、固体高分子電解質膜の一方の面に水素酸化性能を有するアノード触媒を含むアノード触媒層を配置し、前記固体高分子電解質膜の他方の面に酸化還元性能を有するカソード触媒を含むカソード触媒層を配置し、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層にそれぞれ接してガス拡散層を配置して構成した単位電池と、前記ガス拡散層にそれぞれ接して配置され、燃料ガス流通路又は酸化剤ガス流通路が設けられた、電気伝導性材料からなるセパレータと、を具備した基本構成要素を複数個積層して積層体を構成する燃料電池スタックであって、前記固体高分子電解質膜と、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層を、一定の周期で厚み方向に凹凸形状を繰り返す台形波状又は矩形波状に構成し、前記台形波状又は前記矩形波状の前記周期を、前記燃料ガス流通路又は前記酸化剤ガス流通路の溝形状の周期と同一とし、かつ、前記燃料ガス流通路又は前記酸化剤ガス流通路の溝の開口部と、前記固体高分子電解質膜とアノード触媒層及びカソード触媒層が近接するようにしたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の固体高分子形燃料電池スタックの概略構成を模式的に示す図。
【
図2】
図1の固体高分子形燃料電池スタックのA-A´断面の構成を示す図。
【
図3】
図1の固体高分子形燃料電池スタックのA-A´断面の構成を示す拡大図。
【
図4】実施例2の固体高分子形燃料電池スタックのA-A´断面の構成を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係る固体高分子形燃料電池スタックについて、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、実施形態の固体高分子形燃料電池スタック100の概略構成を模式的に示す図であり、
図2は、
図1の固体高分子形燃料電池スタック100のA-A´断面の構成を示す図、
図3は
図1のA-A´断面の構成を拡大して示す図である。
【0012】
図2に示すように、単位電池(単セル電池)101は、高分子電解質膜102、アノード電極103、カソード電極104からなる膜・電極複合体(MEA)と、燃料ガス流路付セパレータ105と、酸化剤ガス流路付セパレータ106とで構成されている。
【0013】
燃料ガス流路付セパレータ105の一方の表面には、燃料ガス流通路103cが設けられており、その端部は燃料ガス流路付セパレータ105の側面に開口している。酸化剤ガス流路付セパレータ106の一方の表面には、酸化剤ガス流通路104cが設けられ、他方の表面には冷却水流通路107cが設けられており、それらの端部は、酸化剤ガス流路付セパレータ106の側面に開口している。
【0014】
単位電池(単セル電池)101は、複数積層されて積層体を構成する。積層体の側面には、
図1に示すように、空気(酸化剤ガス)入口マニホールド110と冷却水出口マニホールド111とを有する空気(酸化剤ガス)入口・冷却水出口マニホールド、空気(酸化剤ガス)出口マニホールド112と冷却水入口マニホールド113とを有する空気(酸化剤ガス)出口・冷却水入口マニホールド、燃料入口マニホールド114、燃料出口マニホールド115が配置されている。そして、これらは空気(酸化剤ガス)流通路、燃料ガス流通路、冷却水流通路と連通していて、反応に必要な燃料・空気(酸化剤ガス)を膜・電極複合体(MEA)に供給・排出し、所定の流量の冷却水を供給し、反応に伴う発熱の冷却を行う。
【0015】
図2、
図3に示すように、膜・電極複合体(MEA)は、高分子電解質膜102の両側に、アノード触媒層103a及びカソード触媒層104aを配置し、さらに外側にはアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を配置して構成される。高分子電解質膜102は、イオン伝導性とともにガスバリア性が必要であり、反応ガスの混合を防ぐため、燃料ガス流路付セパレータ105及び酸化剤ガス流路付セパレータ106と同じ大きさまで延長されている。
【0016】
ガス拡散層は、燃料ガス流路付セパレータ105及び酸化剤ガス流路付セパレータ106や、高分子電解質膜102よりも一回り小さく、その周囲には反応ガスをシールするエッジシール材109が配置される。エッジシール材109はガス流通路の端部の溝よりも外側に配置されている。
【0017】
本実施形態では、高分子電解質膜102とアノード触媒層103a及びカソード触媒層104aとに、セル厚み方向に高低差を設けている。すなわち、
図3に示すように、燃料電池スタックの膜・電極複合体(MEA)の断面を見た時に、これらが一定の周期Pで凹凸形状となっており、高低差Hを設けた構成となっている。また、凹凸の切替え部分には、垂直方向に対して斜面の角度θ(例えば、15°程度)が設けられている。したがって、高分子電解質膜102とアノード触媒層103a及びカソード触媒層104aの断面は、厚み方向に台形波状に構成されている。
【0018】
しかしながら、上記の角度θは、必ずしも設ける必要はなく、角度θを0°としてもよい。この場合、
図4に示すように、高分子電解質膜102とアノード触媒層103a及びカソード触媒層104aの断面は、その凹凸の切替え部分の角度が90°となり、厚み方向に矩形波状に構成される。上記のように、台形波状とした場合及び矩形波状とした場合のいずれの場合も、高低差Hが、周期Pの1/2(
図4の場合高さが一定の部分の幅)より大きくなるようにする、すなわち、
H>P/2
とすることが好ましい。これによって後述する有効面積を広げることが可能になる。
【0019】
ここで、本実施形態では、
図2に示すように、膜・電極複合体(MEA)における高分子電解質膜102とアノード触媒層103a及びカソード触媒層104aからなる凹凸形状の周期と、酸化剤ガス流通路104c及び燃料ガス流通路103cの溝形状の周期を同一とし、燃料ガス流通路103cの溝部と、アノード触媒層103aが近接し、かつ酸化剤ガス流通路104cの土手部とカソード触媒層104aが近接するように構成している。
【0020】
また、本実施形態では、燃料ガス流路付セパレータ105、酸化剤ガス流路付セパレータ106を、導電性多孔質材料で構成している。この場合、冷却水流通路107cの冷却水圧力を、燃料ガス流通路103cの燃料ガス及び酸化剤ガス流通路104cの酸化剤ガスの圧力よりも低く設定することにより、燃料電池反応で生じた生成水を、セパレータを介して冷却水流通路107cを流通する冷却水に排出することが可能になる。さらに、酸化剤ガス流通路104cの土手部とカソード触媒層104aが近接するように構成することにより、土手部に接するカソード拡散層に堆積する水分を速やかに排水することが可能となり、溝部の反応が促進され、全体として出力が向上する効果が得られる。なお、燃料ガス流通路103cの土手部と、アノード触媒層103aが近接し、かつ酸化剤ガス流通路104cの溝部とカソード触媒層104aが近接するようにしてもよい。
【0021】
(実施例1)
表1は、従来の燃料電池スタックと、実施例1a、実施例1bの燃料電池スタックの触媒層寸法の比較を示している。なお、実施例1a、実施例1bでは、高分子電解質膜102とアノード触媒層103a及びカソード触媒層104aの形状は
図3に示した台形波状である。
【0022】
【0023】
従来の燃料電池スタックでは、電解質膜及び触媒層を平板状に構成し、触媒有効面積は216cm2となった。実施例1aの燃料電池スタックでは、周期P=0.5mm、高低差H=0.2mm、角度θ=15度で凹凸を設けることで、触媒層の幅を拡大し、有効面積は132cm2(60%)増加した。
【0024】
さらに、実施例1bでは周期P=0.15mm、高低差H=0.1mm、角度θ=15度で凹凸を設けることで、触媒層の幅を拡大し、有効面積は220cm2(100%)増加した(この場合、H>P/2となる。)。以上の構成により、電解質膜及びアノード・カソード触媒層を周期的にセル厚み方向に高低差を設ける、つまり反応有効部分を広げることが可能となり、単位体積当りの燃料電池の出力が向上する。
【0025】
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。
図4は、
図3と同様な、燃料電池スタックの膜・電極複合体(MEA)の断面の構成を拡大して示す図である。
図4に示すように、実施例2では、実施例1と同様に、膜・電極複合体(MEA)における高分子電解質膜102とアノード触媒層103a及びカソード触媒層104aについて、セル厚み方向に高低差を設けている。この場合、一定の周期Pで凹凸形状とし、高低差Hを設けている。これは、前述した凹凸の切替え部分における、垂直方向に対して斜面の角度θを0度とした場合に相当する。すなわち、この場合矩形波状となっている。
【0026】
表2は、従来の燃料電池スタックと、実施例2に係る燃料電池スタックの触媒層寸法の比較を示している。
【0027】
【0028】
従来の燃料電池スタックでは、電解質膜及び触媒層を平板状に構成し、触媒有効面積は216cm2となった。実施例2aでは周期P=0.5mm、高低差H=0.2mmで凹凸を設けることで、触媒層の幅を拡大し、有効面積は172cm2(80%)増加した。
【0029】
さらに、実施例2bでは、周期P=0.15mm、高低差H=0.1mmで凹凸を設けることで、触媒層の幅を拡大し、有効面積は288cm2(130%)増加した(この場合、H>P/2となる。)。以上のように、実施例2においても、実施例1の場合と同様に、電解質膜及びアノード・カソード触媒層を周期的にセル厚み方向に高低差を設けることによって、反応有効部分を広げることが可能となり、単位体積当りの燃料電池の出力が向上する。
【0030】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
100……燃料電池スタック、101……単位電池、102……高分子電解質膜、103……アノード電極、103a……アノード触媒層、103c……燃料ガス流通路、104……カソード電極、104a……カソード触媒層、104c……酸化剤ガス流通路、105……燃料ガス流通路付セパレータ、106……酸化剤ガス流通路付セパレータ、107c……冷却水流通路、109……エッジシール材、110……空気入口マニホールド、111……冷却水出口マニホールド、112……空気出口マニホールド、113……冷却水入口マニホールド、114……燃料入口マニホールド、115……燃料出口マニホールド。