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特許7391810荷電粒子線装置及びそれを用いる試料観察方法
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  • 特許-荷電粒子線装置及びそれを用いる試料観察方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置及びそれを用いる試料観察方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20231128BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20231128BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20231128BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20231128BHJP
   G01N 23/2204 20180101ALI20231128BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 D
H01J37/28 B
H01J37/22 502H
G01N23/2251
G01N23/2204
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020162904
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055463
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 駿也
(72)【発明者】
【氏名】大森 健史
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/073592(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179138(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/183573(WO,A1)
【文献】特開2013-196972(JP,A)
【文献】特開2012-068138(JP,A)
【文献】特開2005-183369(JP,A)
【文献】特開2020-043266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01N 23/2251
G01N 23/2204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を試料に照射することによって前記試料の観察像を取得する荷電粒子線装置であって、
交差する二つの傾斜軸のそれぞれを中心として傾斜するとともに前記試料を保持する試料台と、
前記試料台の傾斜角度を変えながら取得される観察像のそれぞれから、前記試料の上面と割断面との境界を検出し、前記荷電粒子線の走査方向に対する前記境界の傾きを求める境界検出部と、
傾斜角度毎の観察像から前記上面を検出し、観察像から前記上面が消失するときの前記試料台の傾斜角度である上面消失角度を算出する上面検出部と、
傾斜角度毎の前記境界の傾きと前記上面消失角度に基づいて、前記傾斜角度がゼロのときの前記割断面の向きである初期試料向きを算出する計算処理部を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記上面検出部は、傾斜角度毎の観察像に対して前記境界で分けられる二つの領域を設定し、一方の領域の輝度平均値を用いて前記上面消失角度を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記上面検出部は、前記傾斜角度に対する前記輝度平均値の変化をシグモイド曲線でフィッティングすることによって前記上面消失角度を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記境界検出部は、少なくとも五つの異なる傾斜角度に対して、前記境界の傾きを算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線の照射方向と走査方向とに係る角度を示す観察窓を、前記荷電粒子線の照射方向に係る角度である座標軸を有する極座標に表示する入力表示部をさらに備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
荷電粒子線を試料に照射することによって前記試料の観察像を取得する荷電粒子線装置を用いる試料観察方法であって、
交差する二つの傾斜軸のそれぞれを中心として傾斜するとともに前記試料を保持する試料台の傾斜角度を変えながら取得される観察像のそれぞれから、前記試料の上面と割断面との境界を検出し、前記境界の前記荷電粒子線の走査方向に対する傾きを求める境界検出ステップと、
傾斜角度毎の観察像から前記上面を検出し、観察像から前記上面が消失するときの前記試料台の傾斜角度である上面消失角度を算出する上面検出ステップと、
傾斜角度毎の前記境界の傾きと前記上面消失角度に基づいて、前記傾斜角度がゼロのときの前記割断面の向きである初期試料向きを算出する計算処理ステップを備えることを特徴とする試料観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を試料に照射することによって試料の観察像を形成する荷電粒子線装置及び荷電粒子線装置を用いて試料を観察する試料観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置は、電子線等の荷電粒子線を試料に照射することによって、試料の微細な構造を観察するための観察像を形成する装置であり、半導体の製造工程等に用いられる。半導体の製造工程では、デバイス性能に大きく寄与するパターン形状の幅を高精度に測定するために、パターン形状の長手方向と直交する面を観察面とする画像が形成されることが望ましい。照射される荷電粒子線に対して適切な観察面を配置するには、試料が載せられる試料台の傾斜角度が調整される。
【0003】
特許文献1には、荷電粒子線の照射方向に対し垂直に観察面を効率よく正確に配置するために、試料が載せられた試料台の傾斜角度を変えながら観察面の画像を取得し、観察面の面積がより大きい画像を取得した傾斜角度に試料台を傾斜させることが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-196972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、観察面が荷電粒子線装置の視野よりも大きい場合に対する配慮がなされていない。すなわち観察面が視野よりも大きければ、試料台の傾斜角度を変えながら取得される画像では観察面の面積を比較できず、試料台の傾斜角度が決められない。
【0006】
そこで本発明は、観察面が視野よりも大きい場合であっても試料台の傾斜角度を適切に設定可能な荷電粒子線装置及びそれを用いる試料観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、荷電粒子線を試料に照射することによって前記試料の観察像を取得する荷電粒子線装置であって、交差する二つの傾斜軸のそれぞれを中心として傾斜するとともに前記試料を保持する試料台と、前記試料台の傾斜角度を変えながら取得される観察像のそれぞれから、前記試料の上面と割断面との境界を検出し、前記境界の前記荷電粒子線の走査方向に対する傾きを求める境界検出部と、傾斜角度毎の観察像から前記上面を検出し、観察像から前記上面が消失するときの前記試料台の傾斜角度である上面消失角度を算出する上面検出部と、傾斜角度毎の前記境界の傾きと前記上面消失角度に基づいて、前記傾斜角度がゼロのときの前記割断面の向きである初期試料向きを算出する計算処理部を備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、荷電粒子線を試料に照射することによって前記試料の観察像を取得する荷電粒子線装置を用いる試料観察方法であって、交差する二つの傾斜軸のそれぞれを中心として傾斜するとともに前記試料を保持する試料台の傾斜角度を変えながら取得される観察像のそれぞれから、前記試料の上面と割断面との境界を検出し、前記境界の前記荷電粒子線の走査方向に対する傾きを求める境界検出ステップと、傾斜角度毎の観察像から前記上面を検出し、観察像から前記上面が消失するときの前記試料台の傾斜角度である上面消失角度を算出する上面検出ステップと、傾斜角度毎の前記境界の傾きと前記上面消失角度に基づいて、前記傾斜角度がゼロのときの前記割断面の向きである初期試料向きを算出する計算処理ステップを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、観察面が視野よりも大きい場合であっても試料台の傾斜角度を適切に設定可能な荷電粒子線装置及びそれを用いる試料観察方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係わる荷電粒子線装置の構成図である。
図2A】本発明に係わる試料について説明する図である。
図2B】本発明に係わる試料台について説明する図である。
図3】本発明に係わる操作画面について説明する図である。
図4】本発明に係わる処理の流れの一例を示す図である。
図5】初期試料向きを算出する処理の流れの一例を示す図である。
図6】境界の検出と傾きの算出に関する処理の流れの一例を示す図である。
図7A】試料の上面が消失していない観察像を示す図である。
図7B】試料の上面が消失した観察像を示す図である。
図8】上面消失角度の算出について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の荷電粒子線装置の実施例について説明する。荷電粒子線装置は、荷電粒子線を試料に照射することによって、試料を観察するための観察像を形成する装置である。以下では、荷電粒子線装置の一例として、電子線で試料を走査することにより試料の観察像を形成する走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)について説明する。
【0012】
図1を用いて走査電子顕微鏡の構成について説明する。走査電子顕微鏡は、電子銃101、集束レンズ102、絞り103、偏向コイル104、対物レンズ105、試料台107、二次電子検出器108、画像形成部111、検出部112、計算処理部115、制御部116、入力表示部117を備える。以下、各部について説明する。
【0013】
電子銃101は、所定の加速電圧によって加速された電子線109を試料106に照射する線源である。集束レンズ102及び対物レンズ105は、電子線109を集束させるレンズである。絞り103は、電子線109の一部が通過する開口を有する板であり、電子線109の開き角を調整する。偏向コイル104は、電子線109を偏向させる磁界や電界を発生するコイルや電極であり、偏向される電子線109によって試料106の表面が走査される。
【0014】
試料台107は試料106を保持するとともに、水平方向に試料106を移動させたり、水平面に対して試料106を傾斜させたりする。
【0015】
図2Aを用いて試料106について説明する。図2Aには、半導体の製造工程に用いられる試料106の斜視図が示される。試料106は、半導体パターン150が形成される上面118と、割断面119、側面121を有する。半導体パターン150を測長する場合には、測長精度を向上させるために、半導体パターン150の長手方向と直交する断面である理想断面120にて観察像を形成することが望ましい。しかし、手動で割断された割断面119は上面118や側面121と直交しない場合が多い。なお側面121は上面118と直交する。
【0016】
図2Bを用いて試料106を保持する試料台107について説明する。試料台107は、互いに直交する第一傾斜軸123と第二傾斜軸124を有し、第一傾斜軸123と第二傾斜軸124のそれぞれを中心として傾斜する。第一傾斜軸123と第二傾斜軸124は、電子線109の照射方向と略直交することが望ましい。試料台107の傾斜状態は、第一傾斜軸123と第二傾斜軸124との傾斜順序と傾斜角度とが指定されることにより再現される。また第一傾斜軸123と第二傾斜軸124は顕になっている必要はなく、例えば三点で支持される試料台107の各支持点の高さを調整することによって試料台107を傾斜させても良い。なお試料106は、割断面119や理想断面120が電子銃101の側を向くように試料台107に保持され、上面118と割断面119との境界122の近傍が観察される。
【0017】
図1の説明に戻る。二次電子検出器108は、シンチレータ・ライトガイド・光電子増倍管で構成されるE-T検出器や半導体検出器等であり、電子線109が照射される試料106から放出される二次電子110を検出する。二次電子検出器108から出力される検出信号は画像形成部111へ送信される。なお二次電子検出器108とともに、反射電子を検出する反射電子検出器や透過電子を検出する透過電子検出器が備えられても良い。
【0018】
画像形成部111は二次電子検出器108から送信される検出信号に基づいて試料106の観察像を形成する演算器であり、例えば、MPU(Micro Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等である。画像形成部111によって形成された観察像は、入力表示部117に送信されて表示されたり、検出部112や計算処理部115に送信されて様々な処理が施されたりする。
【0019】
検出部112は、観察像から試料106の特徴部を検出する演算器であり、例えばMPUやGPUである。検出部112は、観察像から境界122を検出する境界検出部113と、観察像から上面118を検出する上面検出部114を含む。
【0020】
境界検出部113は、観察像から境界122を検出するとともに、電子線109の走査方向に対する境界122の傾きを算出する。なお、境界122の傾きは、試料台107の傾斜角度を変えながら取得される観察像のそれぞれにおいて算出される。
【0021】
上面検出部114は、観察像から上面118を検出するとともに、観察像から上面118が消失するときの試料台107の傾斜角度である上面消失角度を算出する。
【0022】
計算処理部115は、境界122の傾きと上面消失角度に基づいて、試料台107が水平状態にあるとき、つまり試料台107の傾斜角度がゼロのときの試料106の割断面119の向きである初期試料向きを算出する演算器である。また計算処理部115は、初期試料向きを用いて、操作者によって指定される観察向きとなる試料台107の傾斜角度を算出しても良い。
【0023】
制御部116は、各部を制御するとともに、各部で形成されるデータを処理したり送信したりする演算器であり、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU等である。制御部116は、各部で生成されるデータを記憶する記憶部に接続されても良い。記憶部は、各種データやプログラムが記憶される装置であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等である。
【0024】
入力表示部117は、試料106を観察するための条件である観察条件が入力されたり、画像形成部111によって形成される観察像が表示されたりする装置であり、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、液晶ディスプレイ等である。入力表示部117には、操作者が操作する画面である操作画面が表示される。
【0025】
図3を用いて、GUI(Graphical User Interface)としての操作画面の一例について説明する。図3に例示される操作画面は、初期試料向き算出ボタン125、第一観察向き指定部126、第二観察向き指定部127、走査方向指定部128、傾斜角調整ボタン129、観察向き表示部130を有する。
【0026】
初期試料向き算出ボタン125は、計算処理部115に初期試料向きを算出させるボタンである。第一観察向き指定部126、第二観察向き指定部127、走査方向指定部128は、操作者が観察したい方向を入力するためのボックスである。第一観察向き指定部126と第二観察向き指定部127には電子線109の照射方向に係る角度が、走査方向指定部128には電子線109の走査方向に係る角度がそれぞれ入力される。傾斜角調整ボタン129は、指定された観察向きとなるように試料台107の傾斜角度を制御部116に調整させるボタンである。
【0027】
観察向き表示部130は、観察向きを表す極座標であり、横軸は第一観察向き指定部126に係る成分、縦軸は第二観察向き指定部127に係る成分であり、座標中心は電子線109の照射方向が観察面に直交することに対応する。観察向き表示部130には、観察向きと走査方向を示す観察窓131が重畳される。観察窓131は長方形であり、観察窓131の中心の座標が電子線109の照射方向に係る角度を示し、観察窓131の長辺と平行な方向が電子線109の走査方向を示す。観察向き表示部130が表示されることにより、観察向きが明確になる。
【0028】
図4を用いて、走査電子顕微鏡によって実行される処理の流れの一例についてステップ毎に説明する。
【0029】
(S401)
計算処理部115は、初期試料向きを算出する。
【0030】
図5を用いて、S401の処理の流れの一例について説明する。
【0031】
(S501)
計算処理部115は、S501からS506までの処理を指定回数繰り返す。指定回数は、予め記憶部に記憶された回数が読み出されても良いし、入力表示部117を介して操作者によって入力されても良い。なお、後述されるように指定回数は五回以上であることが望ましい。
【0032】
(S502)
制御部116は、試料台107の傾斜角度を設定する。設定される傾斜角度は繰り返し処理の度に記憶部から読み出されても良いし、記憶部に記憶されるパラメータに基づいて繰り返し処理の度に算出されても良い。例えば、初回の傾斜角度はゼロに設定され、二回目以降の傾斜角度は記憶部に記憶される傾斜角度のステップ量が前回の傾斜角度に順次加算されて設定されても良い。なお、試料台107は第一傾斜軸123と第二傾斜軸124を有するので、それぞれに関する傾斜角度が設定される。すなわち、第一傾斜軸123に関する傾斜角度をT、第二傾斜軸124に関する傾斜角度をAとするとき、(T、A)の組み合わせが設定される。
【0033】
(S503)
検出部112は、S502で設定された傾斜角度のときの観察像を取得する。取得される観察像は、二次電子検出器108から送信される検出信号に基づいて、画像形成部111によって形成された画像である。
【0034】
(S504)
境界検出部113は、S503で取得された観察像から境界122を検出するとともに、電子線109の走査方向に対する境界122の傾きを算出する。
【0035】
図6を用いて、S504の処理の流れの一例について説明する。
【0036】
(S601)
境界検出部113は、S503で取得された観察像に対してエッジ強調処理を施し、エッジ強調画像を生成する。エッジ強調処理には、SobelフィルタやPrewittフィルタ等が用いられる。なおフィルタの種類やフィルタサイズは観察倍率や観察像のピクセル数に応じて選択されることが好ましく、例えば3×3の縦方向のPrewittフィルタが選択される。
【0037】
(S602)
境界検出部113は、S601で生成されたエッジ強調画像に対して二値化処理を施し、二値化画像を生成する。二値化処理に用いられる閾値は、モード法等によって設定されても良いし、記憶部に予め記憶された値が読み出されても良い。
【0038】
(S603)
境界検出部113は、S602で生成された二値化画像から境界122を検出する。例えば、二値化画像に対してHough変換が行われ、投票数が最多の直線が境界122として検出される。
【0039】
(S604)
境界検出部113は、S603で検出された境界122が適切か否かを判定する。適切であれば処理の流れは終了となり、適切でなければS605とS606を介してS601に処理が戻される。境界122の判定には、例えばHough変換の投票数が用いられ、投票数が観察像のピクセル数の半分以上であれば、検出された境界122が適切であると判定される。
【0040】
(S605)
制御部116は、観察条件を調整する。観察条件の調整は、入力表示部117を介して操作者が入力するパラメータに基づいて行われても良いし、制御部116が自動的に行っても良い。
【0041】
(S606)
境界検出部113は、S605で調整された観察条件に基づいて形成された観察像を再取得する。
【0042】
図6を用いて説明した処理の流れにより、S502で設定された傾斜角度で取得された観察像から境界122が検出されるとともに、電子線109の走査方向に対する境界122の傾きが算出される。図5の説明に戻る。
【0043】
(S505)
上面検出部114は、S503で取得された観察像に対して、境界122で分けられる二領域を設定するとともに、設定された各領域の輝度平均値を算出する。
【0044】
図7Aを用いて、境界122で分けられる二領域の設定について説明する。図7Aには、上面118と割断面119が含まれる観察像が示される。なお図7Aの観察像には、試料台107の領域である試料台領域158と、境界検出部113によって検出された境界122も含まれる。図2Bに例示されるように試料台107に保持された試料106では、電子線109の照射方向に対して割断面119が略垂直であるのに対して上面118は略平行であるため、エッジ効果によって上面118は割断面119よりも高い輝度値になる。
【0045】
上面検出部114は図7Aに例示される観察像に対して、境界122で分けられる二領域である非割断面領域159と割断面領域160を設定する。非割断面領域159は、境界122から上側に所定の距離、例えば10ピクセル離れて設定される点線と境界122とで挟まれる領域であって、割断面119を含まない領域である。割断面領域160は、境界122から下側に所定の距離、例えば10ピクセル離れて設定される点線と境界122とで挟まれる領域であって、割断面119を含む領域である。上面検出部114は、設定された二領域、すなわち非割断面領域159と割断面領域160の各領域の輝度平均値を算出する。
【0046】
(S506)
S501からS506までの処理が指定回数繰り返されることにより、境界検出部113は、試料台107の傾斜角度、すなわち(T、A)の組み合わせ毎に取得される観察像のそれぞれから境界122を検出し、走査方向に対する境界122の傾きを算出する。
【0047】
また上面検出部114は、試料台107の傾斜角度毎の観察像に対して、境界122で分けられる二領域である非割断面領域159と割断面領域160の輝度平均値を算出する。すなわち非割断面領域159と割断面領域160の輝度平均値が試料台107の傾斜角度毎に算出される。
【0048】
(S507)
上面検出部114は、観察像から上面118が消失するときの試料台107の傾斜角度である上面消失角度を算出する。上面消失角度の算出には、S501からS506までの処理が繰り返される間に、S505にて算出された試料台107の傾斜角度毎の非割断面領域159と割断面領域160の輝度平均値が用いられる。
【0049】
図7A図7B図8を用いて、上面消失角度の算出について説明する。図7Aには上面118と割断面119、試料台領域158が含まれる観察像が、図7Bには上面118が含まれない観察像が示される。また図8には試料台107の傾斜角度に対する非割断面領域159と割断面領域160の輝度平均値のグラフ162が示される。
【0050】
割断面領域160の輝度値は傾斜角度に依らず略一定であるのに対し、非割断面領域159の輝度値は、傾斜角度の変化にともない観察像に含まれる上面118の面積が小さくなるにつれて低下し、上面118が含まれない観察像において最小値となる。そこで図8に例示されるグラフ162の非割断面領域159の輝度平均値を次式に示すシグモイド曲線でフィッティングすることによって上面消失角度を算出する。
【0051】
E=a/(1+exp(-b(T-c)))+d …(1)
ここで、Eは平均輝度値、Tは傾斜角度である。またa、b、c、dはフィッティングパラメータであり、非線形の最小二乗法等を用いることにより求められる。
【0052】
求められたフィッティングパラメータa、b、c、dを用いることにより、上面消失角度θcは、例えば次式によって算出される。
【0053】
θc=c-ln(α-1-1)/b …(2)
ここでαは上面消失角度を求めるための閾値であり、dとEとの差分のaに対する割合がα以下になるとき、すなわち(d-E)/a≦αとなるとき、上面118が観察像から消失したとみなされる。αは例えば0.01に設定される。
【0054】
なお、二次電子検出器108の種類などによって、上面118と割断面119の輝度値の高低が入れ替わる場合は、(2)式の代わりに次式が用いられても良い。
【0055】
θc=c+ln(α-1-1)/b …(3)
(S508)
計算処理部115は、試料台107の傾斜角度と、傾斜角度毎に算出された境界122の走査方向に対する傾きと、上面消失角度に基づいて、試料台107の傾斜角度がゼロのときの割断面119の向きである初期試料向きを算出する。初期試料向きの算出について、初期試料向きに係る原理等とともに、以下で説明する。
【0056】
[試料向き]
試料106を直方体と仮定し、直方体の面の中から互いに直交する二面を選ぶと、各面の法線方向ベクトルを指定することにより、試料向きを一意に決定できる。しかし、多くの場合、割断面119は上面118に対して垂直でないので、ここでは上面118と側面121の法線方向ベクトルに注目する。
【0057】
[平行投影]
SEMなどの荷電粒子線顕微鏡では高倍率にて試料を観察することが多く、ワーキングディスタンスに対して試料の走査範囲が小さいため、基本的に観察像は試料を平行投影したものとして良い。すなわち、平行な直線群は観察像において平行に投影される。
【0058】
[方向ベクトルの回転]
三次元の直交座標系において、座標内の任意の位置に配置されるベクトルVを、任意の回転軸、例えば原点を通過し方向ベクトルがnである回転軸を中心にθ回転させる操作は、ロドリゲスの回転公式によれば回転行列R(θ)として表される。ベクトルVの始点を表す位置ベクトルをV1、終点を表す位置ベクトルをV2とするとき、回転後の始点はR(θ)V1、終点はR(θ)V2になるので、ベクトルVの回転後の方向ベクトルは、R(θ)V2-R(θ)V1=R(θ)(V2-V1)となる。なお、V2-V1は回転前のベクトルVの方向ベクトルであり、回転後の方向ベクトルはベクトルVの位置に依らない。
【0059】
[観察方向および座標系]
試料向きが同じ状態であったとしても、電子線109の照射方向、走査方向によって観察向きが異なるため、試料の見え方も変化する。特に、境界122の傾きの値は観察向きの影響が大きい。そこで、基準となるワールド座標系と観察像におけるビュー座標系を、右手直交座標系により設定する。なお、ワールド座標系のx軸とy軸は、試料台107の第一傾斜軸123と第二傾斜軸124と平行になるように設定され、z軸は第一傾斜軸123及び第二傾斜軸124に直交するように設定される。試料台107の傾斜軸が直交していない場合、一方の傾斜軸はx軸に、他方の傾斜軸はxy平面と平行になるように設定される。また、ビュー座標系は、観察像の横向きがX軸 、縦向きがY軸として設定される。すなわち、走査方向がX軸、電子線109の照射方向がZ軸となる。よって、観察方向はxyzからXYZに変換する回転行列として表現される。この回転行列RxyzはR(θx)、R(θy)、R(θz)を掛け合わせることで表現される。ただし、掛け合わせる順序は統一される。
【0060】
[試料台の傾斜による方向ベクトルの回転行列]
ワールド座標系において、試料台107の傾斜により方向ベクトルを回転させる回転行列RTA(T、A)はロドリゲスの公式によって求められる。なおTは試料台107の第一傾斜軸123の傾斜角度であり、Aは第二傾斜軸124の傾斜角度である。回転行列の要素は試料台107の傾斜機構によって異なる。また傾斜順序によって試料台107の傾斜状態が異なる場合は、観察中の傾斜順序を統一させる。
【0061】
[法線方向ベクトルの回転]
上面118と側面121の法線方向ベクトルを試料台107の傾斜角度として表現するにあたり、(T、A)=(0、0)のときのワールド座標系での側面121の法線方向ベクトルをN、上面118の法線方向ベクトルをNとする。また二つの法線方向ベクトルN、Nを初期試料向きとして定義する。
【0062】
回転後の方向ベクトルは回転前のベクトルの位置に依らず回転行列の積のみで求められる。すなわち、試料台107の傾斜角度が(T、A)であるとき、ビュー座標系における側面121の法線方向ベクトルはN’=RxyzTAとなり、上面118の法線方向ベクトルはN’=RxyzTAとなる。
【0063】
[初期試料向き算出方法]
初期試料向きの算出はN、Nを求めることである。まず、Nの算出方法を説明する。Nを側面121の法線ベクトル、すなわち、割断面119と上面118との境界122に平行な単位ベクトルと仮定する。Nを求めるには、観察向きを同時に求める必要があるので、Nを表す二変数とともに観察向きを表す三変数を求めることになる。N’は観察像に含まれる境界122と平行であるので、(N’のY成分)/(N’のX成分)が境界122の傾きになる。境界122の傾きには、Nの二変数と観察向きの三変数に係る情報が含まれる。そこで、S501からS506の処理が五回以上繰り返され、異なる五点以上の(T、A)のそれぞれに対して、境界122の傾きが算出されれば、Nを表す二変数と観察向きを表す三変数との五変数が求められる。つまり、S501の指定回数は五回以上であることが望ましい。なお、五変数を解析解として求めることが困難な場合は、非線形の最小二乗法等を用いたフィッティングにより五変数が求められても良い。
【0064】
次に、Nの算出方法を説明する。Nは上面118の法線方向ベクトルであるので、上面消失角度に試料台107が設定されたときの観察像において、N’のZ成分が0になる。さらに、N’とN’が直交する束縛条件と、Nとともに求められる観察向きに係る三変数を用いることで、N’は求められる。N’を求める際は、残りの一変数を求める形になるため、ニュートン法等を用いて算出しても良い。以上により、初期試料向きが算出される。図5の説明に戻る。
【0065】
(S509)
計算処理部115は、S508で算出された初期試料向きに基づいて、理想断面120が電子線109の照射方向と直交するとき、すなわち試料106の法線ベクトルがN=(0、0、1)、N=(0、1、0)となるときの試料台107の傾斜角度を算出する。傾斜角度の算出には、N’=RxyzTAとN’=RxyzTAが用いられる。またニュートン法等が用いられても良い。試料台107は、算出された傾斜角度に設定される。
【0066】
(S510)
境界検出部113は、S509で設定された傾斜角度における観察像を取得し、取得された観察像から境界122を検出するとともに、走査方向に対する境界122の傾きを算出する。
【0067】
(S511)
制御部116は、S510で算出された境界122の傾きが計算値と一致するか否かを判定する。一致すれば図5の処理の流れは終了となり、一致しなければS501へ処理が戻され、初期試料向きの算出をやり直す。一致するか否かは、S510で算出された傾きと計算値との差異の絶対値が予め定められた閾値以下であるか否かによって判定される。このような判定により、初期試料向きの算出精度を向上できる。
【0068】
図5を用いて説明した処理の流れにより、初期試料向きが算出される。なお、S509からS511の処理は必須ではなく、S508で初期試料向きが算出されることにより終了となって良い。図4の説明に戻る。
【0069】
(S402)
制御部116は、S401で算出された初期試料向きに基づいて、操作画面を更新する。具体的には、試料台107が傾斜可能な角度範囲と初期試料向きとに基づいて、観察向き表示部130の極座標の表示範囲が更新される。
【0070】
(S403)
制御部116は、S402で更新された操作画面を介して、観察向きを取得する。すなわち、操作者が操作画面の第一観察向き指定部126、第二観察向き指定部127、走査方向指定部128のそれぞれに入力する値が取得される。制御部116は、取得した観察向きに基づいて、観察窓131の極座標での位置と傾きを更新する。なお入力された値が極座標の表示範囲外である場合は、第一観察向き指定部126等にエラーが表示される。
【0071】
(S404)
制御部116は、傾斜角調整ボタン129の押下をトリガとして、S403で取得された観察向きに基づいて、試料台107の傾斜角度と走査方向を設定する。
【0072】
(S405)
制御部116は、S404で設定された傾斜角度と走査方向に基づいて、試料台107に保持される試料106に向かって電子線109を照射させることにより観察像を取得する。電子線109の照射に係る条件は、操作者が入力表示部117を用いて設定しても良いし、記憶部に予め記憶された条件が読み出されても良い。
【0073】
以上説明した処理の流れによって、試料台107の傾斜角度がゼロのときの割断面119の向きである初期試料向きが算出される。初期試料向きは、観察面の面積を用いることなく算出されるので、観察面は視野よりも大きくても良い。また算出された初期試料向きと、操作者が設定した観察向きとに基づいて設定された試料台107の傾斜角度において、観察像が取得される。すなわち観察面が視野よりも大きい場合であっても試料台の傾斜角度を適切に設定可能な荷電粒子線装置及びそれを用いる試料観察方法を提供できる。
【0074】
以上、本発明の実施例について説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0075】
101:電子銃、102:集束レンズ、103:絞り、104:偏向コイル、105:対物レンズ、106:試料、107:試料台、108:二次電子検出器、109:電子線、110:二次電子、111:画像形成部、112:検出部、113:境界検出部、114:上面検出部、115:計算処理部、116:制御部、117:入力表示部、118:上面、119:割断面、120:理想断面、121:側面、122:境界、123:第一傾斜軸、124:第二傾斜軸、125:初期試料向き算出ボタン、126:第一観察向き指定部、127:第二観察向き指定部、128:走査方向指定部、129:傾斜角調整ボタン、130:観察向き表示部、131:観察窓、150:半導体パターン、158:試料台領域、159:非割断面領域、160:割断面領域、162:グラフ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8