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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20231128BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20231128BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20231128BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/028 G
H01G9/145
H01G9/15 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020174124
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065501
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】波多 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】峯村 英利
(72)【発明者】
【氏名】多田 勝
(72)【発明者】
【氏名】森石 亮治
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-004800(JP,A)
【文献】特開2008-060556(JP,A)
【文献】特開2018-053021(JP,A)
【文献】特開2016-171257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/028
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータと、前記誘電体酸化皮膜上に形成された導電性高分子層とを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収容された外装体とを備えた電解コンデンサであり、
前記外装体に、前記コンデンサ素子とともに、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体の少なくとも1種と、酸化防止剤とを含む液が収容され、
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤を含み、
前記フェノール系酸化防止剤は、2以上のフェノール構造を有する化合物であることを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記フェノール系酸化防止剤は、2以上4以下のフェノール構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記酸化防止剤は、硫黄系酸化防止剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記硫黄系酸化防止剤は、メルカプトチアゾールおよびその誘導体、メルカプトベンゾチアゾールおよびその誘導体、メルカプトベンゾイミダゾールおよびその誘導体、メルカプトチアゾリンおよびその誘導体、ならびに、3,3’-チオジプロピオン酸ジエステルから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記2以上のフェノール構造を有する化合物は、硫黄原子を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記2以上のフェノール構造を有する化合物は、チオエーテル結合またはチオール結合を有することを特徴とする請求項5に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記2以上のフェノール構造を有する化合物において、フェノール構造が硫黄原子に結合されていることを特徴とする請求項5または6に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記2以上のフェノール構造を有する化合物において、フェノール構造が炭化水素基を介して硫黄原子に結合していることを特徴とする請求項5または6に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサとして、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、陽極および陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納された外装体とを備えた電解コンデンサが知られている(特許文献1参照)。特許文献1には、陽極と陰極との間に導電性高分子および液剤が存在する電解コンデンサが記載されている。
【0003】
特許文献1の[発明が解決しようとする課題]には、電解コンデンサの本体ケース(外装体)内には封口時に空気が閉じ込められること、また、本体ケースと封口体との間やリード端子と封口体との間から空気等の酸化性物質が経時的に本体ケース内に侵入すること、このため、電解コンデンサを長期使用すると導電性高分子が酸化して電解コンデンサのESRが高くなる問題があったことが記載されている。この課題を解決するため、特許文献1の電解コンデンサには、本体ケースの天面とコンデンサ素子との間に、酸化抑制剤を保持した絶縁シートが配置されている。絶縁シートに保持された酸化抑制剤により、本体ケース内の酸化性物質を捕捉または酸化性の低い化合物に化学変化させることによって、導電性高分子の酸化が抑制される。また、本体ケース内の液剤(コンデンサ素子に含浸される液剤)にも酸化性物質が含まれることがあるが、絶縁シートに保持された酸化抑制剤により、液剤の酸化性物質を捕捉または酸化性の低い化合物に化学変化させることにより、導電性高分子の酸化が抑制されることが記載されている(特許文献1の[0036]、[0037]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-4800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した電解コンデンサにおいて、酸化抑制剤を保持した絶縁シートは、本体ケース(外装体)の天面側(上面側)に存在する。コンデンサの使用初期は、液剤が、本体ケース内全体に存在するため、天面側の絶縁シートに接している。しかし、時間の経過とともに、液剤が蒸散することにより、コンデンサ本体内から液剤がなくなる。液剤は、コンデンサ本体内の天面側(上面側)からなくなっていき、時間の経過とともに、液剤が天面側にある絶縁シートに接触しなくなる。液剤が絶縁シートに接触しなくなると、絶縁シートによる液剤の酸化抑制効果が得られない。
そのため、上述した構成では、コンデンサの使用初期に、絶縁シートによる液剤の酸化抑制効果が得られるが、この効果は長期的に得られないと予測される。
【0006】
また、本体ケースの底面側は封口体によって封止されているが、封口体と本体ケースとの間から空気等の酸化性物質が経時的に侵入する。本体ケースの底面側から侵入した酸化性物質は、天面側の絶縁シートより先に本体ケース内の液剤に接触する。そのため、液剤は、常に、酸化性物質が取り込まれる雰囲気または酸化性物質に接する雰囲気にある。
【0007】
従来、コンデンサ本体(外装体)に収容する液剤として、ポリアルキレングリコールを含む液剤を利用した電解コンデンサが知られている。ポリアルキレングリコールを含む液剤を使用することにより、陽極の誘電体酸化皮膜の修復性能が高められるため、漏れ電流を低下させることができるという効果を期待できる。また、陽極において導電性高分子層によって被覆できなかった部分(エッチングピット等)が上記液剤に被覆されることにより、導電性高分子層だけが形成される場合に比べて高容量化および耐電圧の向上といった効果を期待できる。
【0008】
しかし、ポリアルキレングリコールは、熱酸化劣化により分解および/または低分子化することが知られている(S. Han et al, Polymer, 1997, Vol.38, p.317-323)。ポリアルキレングリコールが熱酸化劣化することにより、意図しないポリアルキレングリコールの蒸散が生じることによって、液剤が本来予期していた時間より短時間でコンデンサ本体(外装体)内からなくなってしまう。
【0009】
特許文献1に記載の電解コンデンサでは、上述したように、絶縁シートによる液剤の酸化抑制効果を長期的に得られないという問題がある。
さらに、コンデンサ本体の底面側で、液剤が常に酸化性物質を取り込む雰囲気または酸化性物質と接する雰囲気にある。この雰囲気でポリアルキレングリコールを含む液剤を使用した場合、ポリアルキレングリコールの熱酸化劣化が進むことにより、ポリアルキレングリコールの蒸散速度が増す。これにより、ポリアルキレングリコールを含む液剤が予想以上に早くコンデンサ本体内からなくなる。
【0010】
また、ポリアルキレングリコールの熱酸化劣化は自動酸化反応であり、ラジカル連鎖機構で次々と繰り返し起こる。そのため、ポリアルキレングリコールの熱酸化劣化が一旦起こると、ポリアルキレングリコールの蒸散が止まらない。また、ラジカル連鎖機構で生じた酸化性物質は、導電性高分子を酸化させる。
【0011】
これらの問題は、コンデンサの特性低下を引き起こす要因となる。そのため、ポリアルキレングリコールの熱酸化劣化を効果的に抑制することが望まれる。そして、ポリアルキレングリコールを含む液剤を長期に亘ってコンデンサ本体内に保持することにより、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制することが望まれる。
【0012】
本発明の目的は、電解コンデンサの外装体に導電性高分子層を有するコンデンサ素子とともに液剤を収容する電解コンデンサにおいて、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータと、前記誘電体酸化皮膜上に形成された導電性高分子層とを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収容された外装体とを備えた固体電解コンデンサであり、前記外装体に、前記コンデンサ素子とともに、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体の少なくとも1種と、酸化防止剤とを含む液が収容され、前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤を含み、前記フェノール系酸化防止剤は、2以上のフェノール構造を有する化合物である。ここで、「2以上のフェノール構造を有する化合物」とは、1つの分子中に2以上のフェノール構造を有する化合物である。
【0014】
本願発明者らの知見から、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリンおよびそれらの誘導体の少なくとも1種(以下、ポリアルキレングリコール等という)を含む液に上記酸化防止剤が含まれることにより、ポリアルキレングリコール等の蒸散が抑制されることがわかった。また、電解コンデンサの外装体内にポリアルキレングリコール等を含む液を長期間保持できることがわかった。これにより、電解コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制できる。
【0015】
前記フェノール系酸化防止剤は、2以上4以下のフェノール構造を有する化合物であってもよい。
【0016】
前記酸化防止剤は、上記フェノール系酸化防止剤に加え、硫黄系酸化防止剤を含んでいてもよい。硫黄系酸化防止剤は、硫黄原子を有する化合物である。
【0017】
前記硫黄系酸化防止剤は、メルカプトチアゾールおよびその誘導体、メルカプトベンゾチアゾールおよびその誘導体、メルカプトベンゾイミダゾールおよびその誘導体、メルカプトチアゾリンおよびその誘導体、ならびに、3,3’-チオジプロピオン酸ジエステルから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
上記フェノール系酸化防止剤に含まれる「2以上のフェノール構造を有する化合物」は、硫黄原子を含んでいてもよい。言い換えると、上記フェノール系酸化防止剤は、1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物を含むものでもよい。2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物を含む酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤でもあり、硫黄系酸化防止剤でもある。
【0019】
上述した「2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、チオエーテル結合またはチオール結合を有してもよい。
【0020】
上述した「2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」において、フェノール構造が硫黄原子に結合されていてもよい。
【0021】
上述した「2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」において、フェノール構造が炭化水素基を介して硫黄原子に結合していてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、電解コンデンサの外装体に導電性高分子層を有するコンデンサ素子とともにポリアルキレングリコール等を含む液を収容する電解コンデンサにおいて、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る電解コンデンサの要部切断正面図である。
図2図1に示すコンデンサ素子の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
電解コンデンサ1は、図1に示すように、外装ケース2および外装ケース2の開口を封止した封口体3を有する外装体4と、外装体4に収容されたコンデンサ素子5とを備えている。外装体4には、コンデンサ素子5と、図示しない液とが収容されている。
【0026】
コンデンサ素子5は、図2に示すように、陽極11と陰極12とをセパレータ13を介して円筒形に巻回して形成され、外周面に貼り付けられたテープ14により巻止めされている。
【0027】
陽極11および陰極12にはそれぞれ図示しないリードタブが接続されている。陽極11は、リードタブを介して、リード端子21に接続されている。陰極12は、リードタブを介して、リード端子22に接続されている。リード端子21およびリード端子22は、それぞれ、図1に示すように、封口体3に形成された孔31および孔32を通って外部に引き出されている。
【0028】
陽極11は、表面に誘電体である誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属である。弁作用金属として、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブおよびチタンから構成される群より選択される少なくとも1つが挙げられる。誘電体酸化皮膜は、例えば、弁作用金属の箔の表面をエッチング処理により粗面化した後、化成処理を施すことによって形成される。
【0029】
陽極11の誘電体酸化皮膜の上に、導電性を有する導電性高分子層が形成されている。導電性高分子は、特に限定されない。導電性高分子には、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンまたはそれらの誘導体が用いられ、一般的には、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が用いられる。ドーパントには、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等が一般的に用いられる。また、導電性高分子層の形成方法は、特に限定されない。導電性高分子層の形成方法には、例えば、導電性高分子を溶媒に分散させたポリマ分散液や導電性高分子を溶媒に溶解させた導電性高分子溶液に浸漬または含浸した後、溶媒を除去して形成する方法や、誘電体酸化皮膜上に化学重合や電解重合によって形成する方法が用いられる。
【0030】
陰極12は、弁作用金属を用いて形成されている。陰極12として、例えば、弁作用金属箔の表面をエッチング処理により粗面化した箔、または、粗面化後、化成処理を施した箔が使用される。陰極12として、エッチング処理を施さないプレーン箔を使用してもよい。さらに、陰極12として、前記粗面化箔もしくはプレーン箔の表面に、チタン、ニッケル、チタン炭化物、ニッケル炭化物、チタン窒化物、ニッケル窒化物、チタン炭窒化物およびニッケル炭窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む金属薄膜が形成されたコーティング箔を使用してもよい。また、陰極12として、粗面化箔もしくはプレーン箔の表面にカーボン薄膜が形成されたコーティング箔を使用してもよい。
【0031】
セパレータ13の材質は特に限定されない。セパレータ13として、例えば、セルロースを主体とするものを使用してもよい。
【0032】
図1に示す外装体4内には、上記コンデンサ素子5と、図示しない液とが収容されている。この液は、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種と、酸化防止剤とを含む。以下、この液を「ポリアルキレングリコールを含む液」と称することがある。
【0033】
ポリアルキレングリコールを含む液は、導電性高分子層を被覆する層のように存在する。ポリアルキレングリコールを含む液は、セパレータ13を被覆する層のように存在してもよい。ポリアルキレングリコールを含む液は、セパレータ13に含浸されていてもよい。
【0034】
ポリアルキレングリコールは、アルコールにアルキレンオキサイドが付加重合したものである。また、上記ポリアルキレングリコールとして、多価アルコールを共重合または重合したものを使用してもよい。さらに、上記ポリアルキレングリコールとして、多価アルコールを共重合または重合したものに、多価アルコールを重合したものを使用してもよい。ここでの多価アルコールは、2つ以上のヒドロキシ基を有し、かつ、2つ以上のヒドロキシ基がそれぞれ異なる炭素に結合したものである。多価アルコールを共重合または重合したものとして、例えば、2価アルコールを共重合または重合したもの、3価アルコールを共重合または重合したもの、2価アルコールおよび3価アルコールを共重合したものが挙げられる。
ポリアルキレングリコールは、アルコールに2種以上のアルキレンオキサイドが付加重合したものでもよい。アルキレンオキサイドの水素は、ヒドロキシ基等の置換基に置換されていてもよい。ポリアルキレングリコールとして、2種以上の多価アルコールが共重合したものを使用してもよい。ポリアルキレングリコールとして、1種の多価アルコールが重合したものを使用してもよい。ポリアルキレングリコールとして、2種以上の多価アルコールが共重合したものまたは1種の多価アルコールが重合したものに、1種または2種以上の多価アルコールが重合したものを使用してもよい。
ポリアルキレングリコールのアルキレン基の炭素数は、特に限定されない。ポリアルキレングリコールに、1種または2種以上のオキシアルキレンが含まれていてもよい。このオキシアルキレン基の水素は、ヒドロキシ基等の置換基に置換されていてもよい。ポリアルキレングリコールに、アルキレン基が含まれていてもよい。このアルキレン基の水素は、ヒドロキシ基等の置換基に置換されていてもよい。
ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、300以上でもよく、400~4000が好ましい。ポリアルキレングリコールは、特定の化合物に限定されない。
【0035】
ポリアルキレングリコールの誘導体とは、例えば、ポリアルキレングリコールの2つの末端の水酸基の一方または両方が、エーテル化、エステル化、ハロゲン化、アミノ化、カルボニル化したものである。ポリアルキレングリコールの誘導体とは、例えば、ポリアルキレングリコールの2つの末端の一方または両方に、アミノ基、カルボキシル基などの官能基を有する化合物である。
【0036】
ポリアルキレングリコールおよび/またはポリアルキレングリコールの誘導体は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体、グリセリンないしはポリグリセリンとエチレングリコールとの共重合体、グリセリンないしはポリグリセリンとプロピレングリコールとの共重合体、および、これらの誘導体から選択される少なくとも1種である。
【0037】
ポリグリセリンは、グリコールが重合したものである。ポリグリセリンの炭素数は、特に限定されない。ポリグリセリンの数平均分子量は400~4000が好ましい。ポリグリセリンは、特定の化合物に限定されない。
【0038】
ポリグリセリンの誘導体とは、例えば、ポリグリセリンの3つの末端の水酸基の2つの末端の水酸基の一方または両方が、エーテル化、エステル化、ハロゲン化、アミノ化、カルボニル化したものである。ポリグリセリンの誘導体とは、例えば、ポリグリセリンの2つの末端の一方または両方に、アミノ基、カルボキシル基などの官能基を有する化合物である。
【0039】
ポリアルキレングリコールを含む液は、1種または2種以上のポリアルキレングリコールおよび/またはポリグリセリンを含んでいてもよい。ポリアルキレングリコールを含む液は、1種または2種以上のポリアルキレングリコールの誘導体および/またはポリグリセリンの誘導体を含んでいてもよい。ポリアルキレングリコールを含む液は、1種または2種以上のポリアルキレングリコールおよび/またはポリグリセリンと、1種または2種以上のポリアルキレングリコールの誘導体および/またはポリグリセリンの誘導体とを含んでいてもよい。ポリアルキレングリコールを含む液は、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、ポリアルキレングリコールの誘導体およびポリグリセリンの誘導体以外の溶媒を含んでいてもよい。
【0040】
ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の含有量は特に限定されない。「ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の含有量」とは、ポリアルキレングリコールを含む液の溶媒100wt%に対する、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の総含有量(合計含有量)である。ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体の含有量は、例えば、40wt%以上でもよい。
【0041】
ポリアルキレングリコールを含む液に、下記の酸化防止剤が含まれる。
【0042】
(1)酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤を含む。フェノール系酸化防止剤は、2以上のフェノール構造を有する化合物である。言い換えると、フェノール系酸化防止剤は、1つの分子内に2以上のフェノール構造を有する化合物である。
【0043】
本発明において、フェノール構造とは、ベンゼン環の1以上の水素原子がヒドロキシ基で置換された構造である。フェノール構造に含まれるヒドロキシ基の数は、1以上である。フェノール構造に含まれるヒドロキシ基の数は、1以上であれば、特に限定されない。ベンゼン環が有する水素原子のうち少なくとも1の水素原子がヒドロキシ基に置換されていれば、他の水素原子が、ヒドロキシ基に置換されていても、ヒドロキシ基以外の置換基に置換されていても本発明のフェノール構造である。ベンゼン環が有する水素原子のうち少なくとも1の水素原子がヒドロキシ基に置換されていれば、他の水素原子が置換されていなくても、つまり水素原子のままであっても、本発明のフェノール構造である。
【0044】
1つの分子内に2以上のフェノール構造を有する化合物にフェノール構造が2以上存在すれば、フェノール構造の数は限定されない。1つの分子内に2以上のフェノール構造を有する化合物は、例えば、1つの分子内に2以上4以下のフェノール構造を有する化合物でもよい。1つの分子内に2以上4以下のフェノール構造を有する化合物は、例えば、ビスフェノール、トリスフェノールおよびテトラキスフェノールである。フェノール系酸化防止剤は、例えば、ビスフェノール、トリスフェノールおよびテトラキスフェノールからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0045】
1つの分子内に2以上のフェノール構造を有する化合物は、1つの分子内に1種または2種以上のフェノール構造を有してもよい。
フェノール系酸化防止剤は、1種または2種以上の上記化合物を含んでいてもよい。
【0046】
(2)酸化防止剤は、上述した(1)のフェノール系酸化防止剤に加え、硫黄系酸化防止剤を含んでいてもよい。硫黄系酸化防止剤は、硫黄原子を有する化合物である。硫黄原子を有する化合物に含まれる硫黄原子の数は、特に限定されない。硫黄系酸化防止剤は、1種または2種以上の「硫黄原子を有する化合物」を含んでいてもよい。
【0047】
硫黄系酸化防止剤に含まれる硫黄原子を有する化合物は、特に限定されない。硫黄原子を有する化合物は、例えば、チオエーテル結合および/またはチオール結合を有してもよい。硫黄原子を有する化合物は、例えば、メルカプトチアゾールおよびその誘導体、メルカプトベンゾチアゾールおよびその誘導体、メルカプトベンゾイミダゾールおよびその誘導体、3,3’-チオジプロピオン酸ジエステル、ならびに、メルカプトチアゾリンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種でもよい。メルカプトチアゾールの誘導体として、例えば、メルカプトチアゾールに含まれる水素基がアルキル基に置換されたものが挙げられる。その他の化合物の誘導体も、上記メルカプトチアゾールの誘導体の例と同様に、例えば、化合物に含まれる水素基がアルキル基に置換されたものが挙げられる。3,3’-チオジプロピオン酸ジエステルとして、例えば、3,3’-チオジプロピオン酸のヒドロキシ基が炭化水素基に置換されたものが挙げられる。この炭化水素基の水素が、他の置換基に置換されていてもよい。3,3’-チオジプロピオン酸ジエステルとして、例えば、3,3’-チオジプロピオン酸のヒドロキシ基がアルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基等に置換されたものが挙げられる。3,3’-チオジプロピオン酸ジエステルとして、例えば、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシルを使用してもよい。
【0048】
(3)上記フェノール系酸化防止剤に含まれる2以上のフェノール構造を有する化合物は、硫黄原子をさらに含んでもよい。言い換えると、上記フェノール系酸化防止剤は、「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」を含むものでもよい。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子を有する化合物」を含む酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤でもあり、硫黄系酸化防止剤でもある。
【0049】
「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子を有する化合物」において、フェノール構造の数は、2以上であれば限定されない。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子を有する化合物」において、フェノール構造の数は、例えば2以上4以下でもよい。フェノール構造は、上述した(1)のフェノール構造と同様である。
【0050】
「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子を有する化合物」において、硫黄原子の数は1以上であれば限定されない。
【0051】
「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」において、少なくとも1つのフェノール構造が硫黄原子に結合されていてもよい。例えば、1つの硫黄原子に1つのフェノール構造が結合されていてもよい。1つの硫黄原子に2つのフェノール構造が結合されていてもよい。硫黄原子にフェノール構造が結合されていなくてもよい。硫黄原子に炭化水素基を介してフェノール構造が結合されていてもよい。この炭化水素基の水素が、例えば、置換基に置換されていてもよい。
【0052】
「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、チオエーテル構造またはチオール構造を有してもよい。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、チオエーテル構造およびチオール構造の両方を有してもよい。
【0053】
「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、1つの硫黄原子に1つのフェノール構造が結合されたチオエーテル構造を有してもよい。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、1つの硫黄原子に2つのフェノール構造が結合されたチオエーテル構造を有してもよい。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、1つの硫黄原子に1つまたは2つのフェノール構造が炭化水素基を介して結合されたチオエーテル構造を有してもよい。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、1つの硫黄原子に1つまたは2つのフェノール構造が炭化水素基以外のヘテロ原子を介して結合されたチオエーテル構造を有してもよい。
【0054】
「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、1つの硫黄原子に1つのフェノール構造と1つの水素原子とが結合されたチオール構造を有してもよい。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、1つの硫黄原子に炭化水素基を介してフェノール構造が結合されたチオール構造を有してもよい。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」は、1つの硫黄原子に炭化水素基以外のヘテロ原子を介してフェノール構造が結合されたチオール構造を有してもよい。
【0055】
酸化防止剤は、1種または2種以上の「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」を含んでいてもよい。
【0056】
上記(1)~(3)を任意に組み合わせてもよい。例えば、酸化防止剤は、上記(1)を満たすものでもよい。酸化防止剤は、上記(2)を満たすものでもよい。酸化防止剤は、上記(3)を満たすものでもよい。酸化防止剤は、上記(1)~(3)の全てを満たすものでもよい。例えば、「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」と硫黄系酸化防止剤とを使用してもよい。「1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄原子とを有する化合物」と硫黄系酸化防止剤と「1つの分子内に2以上のフェノール構造を有する化合物」とを使用してもよい。酸化防止剤の含有量は特に限定されない。また、ポリアルキレングリコールを含む液は、上述したフェノール系酸化防止剤および硫黄系酸化防止剤以外の酸化防止剤を含んでいてもよい。また、ポリアルキレングリコールを含む液は、酸化防止剤以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0057】
上述した電解コンデンサ1は、例えば以下の方法によって作製される。
所定の幅に切断された陽極11および陰極12に、外部引き出し電極用のリードタブを接続する。リードタブが接続された陽極11および陰極12を、セパレータ13を介して巻回することにより、コンデンサ素子5となる本体部を作製する。陽極11は、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属である。
【0058】
次に、本体部の切り口や本体部の作製時に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するため、本体部を化成処理する。化成処理は、化成液中で本体部に電圧を印加することによって行われる。化成処理に使用される化成液として、例えば、アジピン酸およびアジピン酸塩の少なくとも一方を含む水溶液が挙げられる。
【0059】
続いて、導電性高分子層を形成するため、本体部を、導電性高分子を含む液に浸した後、乾燥させる。
導電性高分子を含む液として、例えば、PEDOT/PSSを含むポリマ分散液を使用してもよい。PEDOT/PSSを含むポリマ分散液とは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)からなる複合物を水に分散させたものである。PEDOT/PSSを含むポリマ分散液を使用する場合、本体部を、PEDOT/PSSを含むポリマ分散液に少なくとも1回浸漬させた後、乾燥させることによって溶媒を除去する。これにより、誘電体酸化皮膜の上に導電性高分子層(PEDOT/PSS層)が形成される。
これにより、コンデンサ素子5が得られる。
上記では、本体部をポリマ分散液に浸漬させる場合について例示したが、本体部にポリマ分散液を含浸させてもよい。
【0060】
次に、コンデンサ素子5を、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種と、上述した酸化防止剤とを含む液に浸す。このとき、本体部を液に浸漬させてもよく、本体部に液を含浸させてもよい。その後、コンデンサ素子5を乾燥(吸湿等による水分を除去)させる。
【0061】
乾燥させたコンデンサ素子5を金属ケースに収容する。これにより、電解コンデンサ1が得られる。
【0062】
本発明者らの研究から、以下の知見が得られた。
ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む液を使用することにより、誘電体酸化皮膜の自己修復性能を補助する効果、コンデンサの高容量化、耐電圧向上等の効果が得られる。しかし、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれら誘導体は、熱酸化劣化により分解および/または低分子化し、蒸散することが知られている。ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む液は、コンデンサから早期になくなりやすい。
しかし、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む液に、上述した酸化防止剤が含まれる場合、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体の蒸散を抑制できることがわかった。また、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む液がコンデンサから早期になくなることを抑制できることがわかった。これにより、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制できる。
【実施例
【0063】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0064】
〔実験1〕
下記の条件で作製した溶液500mgを、大気中、180℃で24時間加熱した。大気中では、成分、湿度および温度などが人為的に調整されていない。
【0065】
(比較例a)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%とを含む溶液を作製した。「PEG400」とは、数平均分子量が400のポリエチレングリコールである。この溶液には、酸化防止剤を添加していない。
【0066】
(比較例b)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,4-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを71.9mg(0.033mmol/g)添加した。
【0067】
(比較例c)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリルを177.3mg(0.033mmol/g)添加した。
【0068】
(比較例d)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、カテコールを36.0mg(0.033mmol/g)添加した。
【0069】
(比較例e)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、レゾルシノールを36.0mg(0.033mmol/g)添加した。
【0070】
(比較例f)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、ヒドロキノンを36.0mg(0.033mmol/g)添加した。
【0071】
(比較例g)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、フロログルシノールを41.2mg(0.033mmol/g)添加した。
【0072】
(比較例h)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、ピロガロールを41.2mg(0.033mmol/g)添加した。
【0073】
(比較例i)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、没食子酸を55.5mg(0.033mmol/g)添加した。
【0074】
(実施例j)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、4,4'-ブチリデンビス-(6-tert-ブチル-m-クレゾール)を124.9mg(0.033mmol/g)添加した。
【0075】
(実施例k)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,2'-メチレンビス-(6-tert-ブチル-m-クレゾール)を111.2mg(0.033mmol/g)添加した。
【0076】
(実施例l)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,2'-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-エチルフェノール)を120.3mg(0.033mmol/g)添加した。
【0077】
(実施例m)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,2'-メチレンビス(6-シクロヘキシル-p-クレゾール)を128.2mg(0.033mmol/g)添加した。
【0078】
(実施例n)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノールを113.8mg(0.033mmol/g)添加した。
【0079】
(実施例о)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,4,6-トリス(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシベンジル)メシチレンを253.1mg(0.033mmol/g)添加した。
【0080】
(実施例p)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]を384.5mg(0.033mmol/g)添加した。
【0081】
(実施例q)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、4,4'-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)を117.1mg(0.033mmol/g)添加した。
【0082】
(実施例r)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、4,4'-チオビス(6-tert-ブチル-o-クレゾール)を117.1mg(0.033mmol/g)添加した。
【0083】
(実施例s)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィドを153.7mg(0.033mmol/g)添加した。
【0084】
(実施例t)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,2'-チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]を209.9mg(0.033mmol/g)添加した。
【0085】
(実施例u)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,2'-メチレンビス-(6-tert-ブチル-m-クレゾール) を111.2mg(0.033mmol/g)と2-メルカプトベンゾイミダゾールを49.0mg(0.033mmol/g)添加した。
【0086】
(実施例v)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,2'-メチレンビス-(6-tert-ブチル-m-クレゾール)を111.2mg(0.033mmol/g)と2-メルカプトチアゾリンを38.9mg(0.033mmol/g)添加した。
【0087】
(実施例w)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,2'-メチレンビス-(6-tert-ブチル-m-クレゾール)を111.2mg(0.033mmol/g)と2-メルカプトベンゾチアゾールを54.6mg(0.033mmol/g)添加した。
【0088】
(実施例x)
ポリエチレングリコール(PEG400)90wt%とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)10wt%と含む溶液10gに、酸化防止剤として、2,2'-メチレンビス-(6-tert-ブチル-m-クレゾール)を111.2mg(0.033mmol/g)と3,3'-チオジプロピオン酸ジドデシルを168.1mg(0.033mmol/g)を添加した。
【0089】
表1A、表1B、表1Cおよび表1Dに、実験1の溶液の作製条件と実験結果を示している。
【0090】
【表1A】
【0091】
【表1B】
【0092】
【表1C】
【0093】
【表1D】
【0094】
表1から、以下のことがわかった。
酸化防止剤を添加していない比較例aの重量減少率は99%であった。酸化防止剤を添加していない場合、ポリエチレングリコールを含む液がほぼ全部蒸散した。
比較例b~fでは、ポリエチレングリコールに酸化防止剤を添加したが、重量減少率が大きかった。比較例b~fでも、多くのポリエチレングリコールが蒸散した。
【0095】
一方、比較例g~iおよび実施例j~xの溶液の重量減少率は25%未満であった。比較例g~iおよび実施例j~xでは、酸化防止剤を添加していない比較例aに比べ、ポリエチレングリコールを含む液の蒸散が、7割以上抑えられた。
【0096】
上記より、酸化剤として1のフェノール構造を有する化合物を使用した場合、ヒドロキシ基の数が多いトリヒドロキシベンゼンを使用したとき(比較例g~i)、ポリエチレングリコールを含む溶液の蒸散が抑えられることがわかった。また、酸化防止剤として、2以上のフェノール構造を有するビスフェノール、トリスフェノール、テトラキスフェノール等を使用した場合(実施例j~x)、ポリエチレングリコールを含む溶液の蒸散が抑えられることがわかった。さらに、酸化防止剤として、2以上のフェノール構造と硫黄原子を有する化合物使用した場合にも(実施例q~t)、ポリエチレングリコールを含む溶液の蒸散が抑えられることがわかった。また、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤とを使用した場合にも(実施例u~x)にも、ポリエチレングリコールを含む溶液の蒸散が抑えられることがわかった。
【0097】
〔実験2〕
以下の方法により模擬コンデンサを作製した。得られたコンデンサを、大気中、180℃で24時間加熱した。
【0098】
[比較例1]
所定の幅に切断された陽極箔および陰極箔に外部引き出し電極用のアルミリードタブを接続した。陽極アルミ箔は、弁作用金属であるアルミニウム箔の表面にエッチング処理を施すことよって粗面化した後、化成処理を施すことによって誘電体酸化皮膜が形成されたものである。陰極箔は、カーボンが蒸着されたアルミニウム箔である。陽極アルミ箔および陰極アルミ箔を、セルロースを主体とした電解紙(セパレータ)を介して巻回することにより、コンデンサ素子となる本体部を作製した。
【0099】
陽極箔の切り口およびリードタブの取り付け部に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するため、化成処理を行った。化成処理は、化成液にコンデンサ素子を浸した状態で、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に近似した電圧を印加することにより行った。化成液として、アジピン酸アンモニウム濃度が2wt%のアジピン酸アンモニウム水溶液を使用した。
【0100】
次に、90kPaに減圧した環境下で、本体部を、PEDOT/PSSを2.0wt%含む水分散液(ポリマ分散液)に30分間含浸させた後、恒温槽で、160℃下で30分間乾燥した。この含浸および乾燥を2回繰り返すことにより、導電性高分子層を形成した。これにより、コンデンサ素子を得た。
【0101】
コンデンサ素子をアルミニウム製の外装ケース内に収容した後、外装ケースの開口の周縁をカーリング加工した。150℃に設定された恒温槽内で、外装ケースに収容されたコンデンサ素子に定格電圧20WVを印加し、エージング処理を施すことにより、固体電解コンデンサを作製した。本実験で作成した固体電解コンデンサは、定格電圧20WV、定格静電容量150μFおよび製品サイズφ8×7L(mm)の製品である。
なお、本実験では、コンデンサの加熱温度を180℃とした。150℃を超える温度下では、ケース開口を塞ぐ封口ゴムの耐熱性が足りないため、封口ゴムによるケース開口の封止を安定して行えないおそれがある。そこで、本実験では、封口ゴムによりケース開口を封止しなかった。
【0102】
[比較例2]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例aの溶液を含浸させた後、乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0103】
[比較例3]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例bの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0104】
[比較例4]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例cの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0105】
[比較例5]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例dの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0106】
[比較例6]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例eの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0107】
[比較例7]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例fの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0108】
[比較例8]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例gの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0109】
[比較例9]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例hの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0110】
[比較例10]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の比較例iの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0111】
[実施例1]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例jの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0112】
[実施例2]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例kの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0113】
[実施例3]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例lの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0114】
[実施例4]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例mの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0115】
[実施例5]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例nの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0116】
[実施例6]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例оの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0117】
[実施例7]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例pの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0118】
[実施例8]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例qの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0119】
[実施例9]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例rの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0120】
[実施例10]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例sの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0121】
[実施例11]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例tの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0122】
[実施例12]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例uの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0123】
[実施例13]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例vの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0124】
[実施例14]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例wの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0125】
[実施例15]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例xの溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0126】
[実施例16]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例rと同じ酸化防止剤を添加した溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。この溶液は、ポリエチレングリコール(PEG300)90wt%とエタノール(EtOH)10wt%とを含む。「PEG300」とは、数平均分子量が300のポリエチレングリコールである。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0127】
[実施例17]
導電性高分子層を形成後、コンデンサ素子に実験1の実施例rと同じ酸化防止剤を添加した溶液を含浸させた。その後、コンデンサ素子を乾燥させた。この溶液は、ポリエチレングリコール(PEG400)40wt%とエチレングリコール(EG)50wt%とエタノール(EtOH)10wt%とを含む。上記以外は、比較例1と同様にコンデンサを作製した。
【0128】
表2Aおよび表2Bに、実施例2のコンデンサ作製条件を示している。
【表2A】
【0129】
【表2B】
【0130】
(評価)
初期特性として、20℃の環境下で、各コンデンサの静電容量(Cap.)、損失角の正接(tanδ)および等価直列抵抗(ESR)を測定した。その後、各コンデンサを、大気中、180℃で24時間加熱した後、静電容量(Cap.)、損失角の正接(tanδ)、等価直列抵抗(ESR)およびコンデンサの重量減少量を測定した。これらを加速試験後特性とした。加速試験後の静電容量(Cap.)、損失角の正接(tanδ)および等価直列抵抗(ESR)について、初期特性に対する変化率を算出した。表3Aおよび表3Bに評価結果を示している。
【0131】
【表3A】
【0132】
【表3B】
【0133】
加速試験後の比較例1の静電容量(Cap.)の変化率は大きく、損失角の正接(tanδ)の変化率は大きく、等価直列抵抗(ESR)の変化率は大きかった。加速試験後、比較例1のコンデンサの特性は大きく低下した。比較例1では、外装体にポリアルキレングリコールを含む液が収容されていないため、重量減少量が少ない。
【0134】
比較例2~10および実施例1~15では、外装体に高濃度のポリエチレングリコールを含む液を収容した。
比較例2~9の静電容量(Cap.)の変化率は大きく、損失角の正接(tanδ)の変化率は大きく、等価直列抵抗(ESR)の変化率は大きかった。比較例10の静電容量(Cap.)の変化率は大きかった。すなわち、比較例2~10のコンデンサの特性は大きく低下した。また、比較例2~10の重量減少量は多かった。比較例2のポリエチレングリコールを含む液は酸化防止剤を含まないため、ポリエチレングリコールが多く蒸散したと考えられる。比較例3~10のポリエチレングリコールを含む液は酸化防止剤を含むが、比較例3~10の酸化防止剤(モノヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン)によって、ポリエチレングリコールの蒸散およびコンデンサの特性低下を抑えられないことがわかった。
【0135】
実施例1~17の静電容量(Cap.)の変化率は15%以下と小さく、損失角の正接(tanδ)の変化率は20%以下(-20%~20%)と小さく、かつ、等価直列抵抗(ESR)の変化率は70%未満と小さかった。また、実施例1~17の重量変化量は、30mg以下に抑えられていた。実施例1~17では、実験1の実施例j~xに比べ、ポリエリレングリコールを含む液の使用量が少なく、180℃で24時間加熱する加熱条件では、実験1の実施例j~xより蒸発しやすい。しかし、実施例1~17では、実験1の実施例j~xと同様に、ポリエチレングリコールを含む液の重量変化量が少なかった。
上記結果から、ポリエチレングリコールを含む液の重量変化量の低下が抑えられたことにより、静電容量等のコンデンサの特性低下が抑えられていることがわかる。
また、実施例1~17では、蒸散しやすいポリエチレングリコールを高濃度で含む溶液を使用したにもかかわらず、良好な結果が得られた。
このことから、実施例1~17で使用した酸化防止剤(2以上のフェノール構造を有するビスフェノール、トリスフェノール、テトラキスフェノール等)により、ポリエチレングリコールを含む液の蒸散、およびコンデンサの長期に亘る特性低下を抑えられることがわかった。
【0136】
なお、実施例8~11では、酸化防止剤として、2以上のフェノール構造と硫黄原子を有する化合物(フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の両方の機能を備えたハイブリッド型)を使用した。この酸化防止剤によっても、良好な結果が得られた。
実施例12~15では、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の両方を使用した(非ハイブリッド型)。この場合にも良好な結果が得られた。
上記から、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤を組み合わせても、ポリエチレングリコールを含む溶液の蒸散およびコンデンサの長期に亘る特性低下を抑えられることがわかった。また、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の両方の機能を有する化合物(ハイブリッド型)を使用した場合でも、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の2種類の酸化防止剤を使用した場合でも(非ハイブリッド型)、良好な効果が得られることがわかった。
【0137】
実施例16では、実施例9と同じ酸化防止剤(実験1の実施例r)を使用したが、ポリエチレングリコールとしてPEG300(数平均分子量が300のポリエチレングリコール)を使用した。実施例16で使用したポリエチレングリコール(PEG300)は、実施例9で使用したポリエチレングリコール(PEG400(数平均分子量が400のポリエチレングリコール))に比べ、蒸発しやすい。それにもかかわらず、実施例16の重量変化量は少なかった。また、実施例16の静電容量(Cap.)の変化率、損失角の正接(tanδ)の変化率、および、等価直列抵抗(ESR)の変化率は小さかった。
このことから、より蒸散しやすいポリエチレングリコール(PEG300)を使用した場合でも、上記酸化防止剤により、ポリエチレングリコールを含む液の蒸散およびコンデンサの長期に亘る特性低下を抑えられることがわかった。
【0138】
実施例17でも、実施例9と同じ酸化防止剤(実験1の実施例r)を使用したが、実施例9と比べてポリエチレングリコールの割合(40wt%)が少ない。実施例17の溶液には、ポリエチレングリコール(PEG400)より沸点が低いエチレングリコールが50wt%含まれるため、180℃の加熱条件下では、実施例9の溶液より実施例17の溶液の方が蒸散しやすい。しかし、実施例17の重量変化量は少なかった。また、実施例17の静電容量(Cap.)の変化率、損失角の正接(tanδ)の変化率、および、等価直列抵抗(ESR)の変化率は小さかった。
このことから、ポリエチレングリコールの割合が少ない蒸散しやすい溶液を使用した場合でも、ポリエチレングリコールを含む液の蒸散およびコンデンサの長期に亘る特性低下を抑えられることがわかった。
【0139】
上記実験1および実験2により、ポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体を含む液が、2以上のフェノール構造を有する化合物を含むフェノール系酸化防止剤を含むことにより、ポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体の蒸散を抑制できることができることがわかった。また、ポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体を含む液がコンデンサから早期になくなることを抑制できることがわかった。これにより、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制できることがわかった。
【0140】
さらに、上記フェノール系酸化防止剤とともに硫黄酸化防止剤を使用した場合も、上記効果が得られることがわかった。また、フェノール系酸化防止剤と硫黄酸化防止剤の両方の機能を備える酸化防止剤、具体的には、1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄とを有する化合物を使用した場合にも、上記効果が得られることがわかった。
これらの酸化防止剤を使用した場合、上記効果が高まることがあることもわかった。
【0141】
また、上記実験1および実験2から、酸化防止剤として、(1)2以上のフェノール構造を有する化合物を含むフェノール系酸化防止剤を使用した場合、(2)上記フェノール系酸化防止剤と硫黄酸化防止剤を使用した場合、および、(3)1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄とを有する化合物を使用した場合に、上記効果を得られることがわかった。このことから、上記(2)と(3)を組み合わせた場合にも、上記効果が得られると考えられる。上記(2)と(3)を組み合わせた場合とは、(4)1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄とを有する化合物と、硫黄酸化防止剤とを使用した場合と、(5)1つの分子内に2以上のフェノール構造と硫黄とを有する化合物と、硫黄酸化防止剤と、2以上のフェノール構造を有する化合物とを使用した場合である。
【0142】
本発明の酸化防止剤は、上記実験で使用した化合物に限られない。
例えば、上記実験では、フェノール系酸化防止剤として、2つのフェノール構造を有するビスフェノール、3つのフェノール構造を有するトリスフェノール、または、4つのフェノール構造を有するテトラキスフェノールを使用した(実施例1~17)。しかし、5つ以上のフェノール構造を有する化合物を使用してもよい。5つ以上のフェノール構造を有する化合物を使用した場合でも、上記と同様な効果が得られる。
【0143】
また、上記実験では、2つ以上のフェノール構造と硫黄とを有する化合物として、2つのフェノール構造とチオエーテル構造とを有する化合物を使用した(実施例8~11、16、17)。しかし、本発明の酸化防止剤は、この酸化防止剤に限定されない。例えば、酸化防止剤として、3つ以上のフェノール構造と硫黄とを有する化合物を使用してもよい。また、酸化防止剤として、2つ以上のフェノール構造とチオール構造を有する化合物を使用してもよい。これらの化合物を使用した場合でも、上記と同様な効果が得られる。
【0144】
また、上記実験では、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤を使用した実施例12~15において、フェノール系酸化防止剤として、2つのフェノール構造を有するビスフェノールを使用した。しかし、硫黄系酸化防止剤と一緒に使用するフェノール系酸化防止剤は、3以上のフェノール構造を有する化合物でもよい。また、硫黄系酸化防止剤と一緒に添加するフェノール系酸化防止剤は、2,2'-メチレンビス-(6-tert-ブチル-m-クレゾール)以外のビスフェノールでもよい。これらに加え、1つの分子中に2以上のフェノール構造と硫黄とを有する化合物を使用してもよい。また、硫黄系酸化防止剤と一緒に、1つの分子中に2以上のフェノール構造と硫黄とを有する化合物をフェノール系酸化防止剤として使用してもよい。これらの化合物を使用した場合でも、上記と同様な効果が得られる。
【0145】
また、上記実験では、フェノール系酸化防止剤と一緒に添加する硫黄系酸化防止剤として、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトチアゾリン、2-メルカプトベンゾチアゾールまたは3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシルを使用した(実施例12~15)。しかし、フェノール系酸化防止剤と一緒に添加する硫黄系酸化防止剤は、上記化合物に限定されない。例えば、上記化合物の誘導体を使用してもよい。また、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル以外の3,3’-チオジプロピオン酸ジエステルを使用してもよい。また、メルカプトチアゾールおよび/またはその誘導体を使用してもよい。これらの化合物を使用した場合でも、上記と同様な効果が得られる。
【0146】
また、上記実験では、ポリアルキレングリコールとして、ポリエチレングリコールを使用した場合について説明した。しかし、他のポリアルキレングリコールを使用した場合も、上記と同様な効果が得られる。また、ポリアルキレングリコールの誘導体を使用した場合も、上記と同様な効果が得られる。また、1種または2種以上のポリアルキレングリコールおよび/または1種または2種以上のポリアルキレングリコールの誘導体を使用した場合でも、上記と同様な効果が得られる。また、ポリグリセリンおよび/または1種または2種以上のポリグリセリンの誘導体を使用した場合も、上記と同様な効果が得られる。また、1種または2種以上のポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を使用した場合も、上記と同様な効果が得られる。
【0147】
以上、本発明の実施形態について実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0148】
例えば、上記実験では、定格電圧20WV、定格静電容量150μFおよび製品サイズφ8×7L(mm)の固体電解コンデンサを作製したが、本発明の固体電解コンデンサの定格電圧、定格静電容量および製品サイズは上記に限られない。
【符号の説明】
【0149】
1 電解コンデンサ
2 外装ケース
3 封口体
4 外装体
5 コンデンサ素子
11 陽極
12 陰極
21,22 リード端子
図1
図2