(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】複数の伝動用Vベルトのセット、およびその製造方法、ならびに使用方法
(51)【国際特許分類】
F16G 5/06 20060101AFI20231128BHJP
F16G 5/00 20060101ALI20231128BHJP
F16G 5/20 20060101ALI20231128BHJP
F16H 7/02 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
F16G5/06 A
F16G5/00 C
F16G5/06 D
F16G5/20 B
F16H7/02 Z
(21)【出願番号】P 2020181159
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019213985
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄司
(72)【発明者】
【氏名】徳田 明彦
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-251655(JP,A)
【文献】特開2017-223361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/06
F16G 5/00
F16G 5/20
F16H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリの外周に形成されたV形状の溝に重ねて巻き掛けられる、複数の伝動用Vベルトのセットであって、
前記溝に巻き掛けられた前記伝動用Vベルト同士の関係性において、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1以下であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1以下であ
り、
前記各伝動用Vベルトは、ゴム製であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側のゴム硬度は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側のゴム硬度よりも低いことを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセット。
【請求項2】
プーリの外周に形成されたV形状の溝に重ねて巻き掛けられる、複数の伝動用Vベルトのセットであって、
前記溝に巻き掛けられた前記伝動用Vベルト同士の関係性において、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1以下であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1以下であ
り、
前記複数の伝動用Vベルトは、まとめて布帛で被覆されていることを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセット。
【請求項3】
プーリの外周に形成されたV形状の溝に重ねて巻き掛けられる、複数の伝動用Vベルトのセットであって、
前記溝に巻き掛けられた前記伝動用Vベルト同士の関係性において、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1以下であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1以下であ
り、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトと、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトとの間に、当該伝動用Vベルトの状態を検知するセンサを配置したことを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセット。
【請求項4】
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1よりも短く、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1よりも短いことを特徴とする、
請求項1~3の何れか1項に記載の複数の伝動用Vベルトのセット。
【請求項5】
前記各伝動用Vベルトは、幅方向断面視でV形状をしており、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの両側面のなす角A2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの両側面のなす角A1よりも大きいことを特徴とする、
請求項1~4の何れか1項に記載の複数の伝動用Vベルトのセット。
【請求項6】
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの厚みは、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの厚みよりも薄いことを特徴とする、
請求項1~5の何れか1項に記載の複数の伝動用Vベルトのセット。
【請求項7】
前記各伝動用Vベルトには、ベルト長手方向に沿って抗張体が埋設されており、
前記抗張体は、前記各伝動用Vベルトの厚み方向中央部分に配置されていることを特徴とする、
請求項1~6の何れか1項に記載の複数の伝動用Vベルトのセット。
【請求項8】
前記各伝動用Vベルトは、外周側の上幅Wоと厚みTとの関係性が、4<(上幅Wо/厚みT)<8の条件を満たすことを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の複数の伝動用Vベルトのセット。
【請求項9】
外周にV形状の溝が形成された、複数のプーリを備えた伝動装置において、
前記各プーリの前記溝に複数の伝動用Vベルトを重ねて巻き掛けて使用する
、複数の伝動用Vベルトのセットの使用方法であって、
前記各伝動用Vベルトは、
前記溝に巻き掛けられた前記伝動用Vベルト同士の関係性において、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1以下であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1以下であり、
前記各伝動用Vベルトは、ゴム製であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側のゴム硬度は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側のゴム硬度よりも低いことを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセットの使用方法。
【請求項10】
外周にV形状の溝が形成された、複数のプーリを備えた伝動装置において、
前記各プーリの前記溝に複数の伝動用Vベルトを重ねて巻き掛けて使用する
、複数の伝動用Vベルトのセットの使用方法であって、
前記各伝動用Vベルトは、
前記溝に巻き掛けられた前記伝動用Vベルト同士の関係性において、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1以下であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1以下であり、
前記複数の伝動用Vベルトは、まとめて布帛で被覆されていることを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセットの使用方法。
【請求項11】
外周にV形状の溝が形成された、複数のプーリを備えた伝動装置において、
前記各プーリの前記溝に複数の伝動用Vベルトを重ねて巻き掛けて使用する
、複数の伝動用Vベルトのセットの使用方法であって、
前記各伝動用Vベルトは、
前記溝に巻き掛けられた前記伝動用Vベルト同士の関係性において、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1以下であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1以下であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトと、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトとの間に、当該伝動用Vベルトの状態を検知するセンサを配置したことを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセットの使用方法。
【請求項12】
円筒状のドラムの外周上に、圧縮層用シートと抗張体と伸張層用シートとを含む、複数のベルトシート、及び、各ベルトシートの間に配置される、剥離層用シートを積層した後、加硫して、ベルトスリーブを得る工程、
前記ベルトスリーブを所定幅間隔でカットして、複数のベルト原型を得る工程、
前記ベルト原型を、幅方向断面視でV形状にカットした後、前記剥離層用シートを取り除くことによって、複数の伝動用Vベルトを得る工程、を含むことを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセットの製造方法。
【請求項13】
プーリの外周に形成されたV形状の溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの両側面のなす角A2が、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの両側面のなす角A1よりも大きくなるように、前記伝動用Vベルトの両側面をカット又は研磨する工程を含むことを特徴とする、
請求項12に記載の、複数の伝動用Vベルトのセットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリの外周に形成された溝に巻き掛けられる、複数の伝動用Vベルトのセット、およびその製造方法、ならびにその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、動力伝達の手段として、ギア、チェーンなどと並んで、伝動用Vベルトが汎用されている。伝動用VベルトはV字状(くさび形)側面を有し、これと相対する溝を有するプーリとの間で摩擦力を介して動力伝達を行う。伝動用Vベルトとしては、V字状側面が露出したゴム層であるローエッジ(Raw-Edge)タイプ(ローエッジVベルト)や、V字状側面がカバー布で覆われたラップド(Wrapped)タイプ(ラップドVベルト)などが挙げられる。
【0003】
ローエッジVベルトとラップドVベルトは、プーリとの間の摩擦係数の違いなどによって、用途に応じて使い分けられている。また、ローエッジタイプのベルトには、ベルトの下面(内周面)のみ、又はベルトの下面および上面(外周面)の両方に、コグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルトがある。
【0004】
これらの伝動用Vベルトは、一般産業機械、農業機械の駆動、自動車エンジンでの補機駆動などに用いられている。また、伝動用Vベルトの一部は変速ベルトと呼ばれ、自動二輪車などのベルト式無段変速装置に用いられている。
【0005】
無段変速装置(CVT)は、変速比を連続的に変化させることのできる動力伝達機構であり、二輪車、自動車、工作機械など、多くの分野で使用されている。CVTは、動力伝達方式の違いによって、ベルト式CVT、チェーン式CVT、トロイダルCVTなどに分類される。
【0006】
これらのうち、ベルト式CVTに用いられるベルトとしては、ブロックベルト(特に金属ベルト(スチールベルト))とゴムベルト(ゴム製伝動用Vベルト)が挙げられる。ゴムベルトには、前記のローエッジVベルト、およびラップドVベルトが含まれる。
【0007】
ブロックベルトは、金属製の積層リングなどからなる無終端可撓体に、樹脂製や金属製のブロック(コマ)をはめ込んだ構造である。駆動プーリからの駆動力は摩擦力を介してブロックへと伝わり、隣り合ったブロック間で圧力として伝達され、従動プーリへと伝えられる。無終端可撓体はブロックの位置決めの役割を果たすが、動力の伝達には直接関与しない。
【0008】
一方、ゴムベルトは、撚りコードなどからなる抗張体と、ゴム組成物の硬化物などからなる圧縮層および伸張層の積層体である。駆動プーリからの駆動力は摩擦力を介して、圧縮層および伸張層を経て抗張体へと伝わり、抗張体の張力として伝達され、従動プーリへと伝えられる。つまり、抗張体は動力伝達の主要素として働く。ブロックベルトと比較して、ゴムベルトは静粛性に優れ、軽量、潤滑が不要といったメリットがあり、さらには逆曲げも可能であることからレイアウトの自由度にも優れている。
【0009】
ブロックベルトとゴムベルトは、ともに無終端環状体であって、外観上はよく似た部分も存在する。しかしながら、前記の通り、動力伝達機構やベルトに要求される特性は大きく異なっている。そのため、ブロックベルトとゴムベルトとは異なる技術分野に属するものとして、それぞれ特異な設計がなされている。
【0010】
ブロックベルトは、摩擦伝動面を形成するブロックの強度に優れるため、高負荷への適用が比較的容易である。しかしながら、硬質素材同士の接触やブロックの周期性に起因する騒音が発生しやすい。さらに、潤滑のための注油機構が必要となるため、装置の複雑化が避けられない。
【0011】
一方、ゴムベルトはベルト本体が柔軟性に優れるゴム組成物の硬化物で形成されるため、静粛性に優れる。また、ベルト自体が軽量であることや、潤滑が不要であることから、CVTの軽量化、簡素化、コンパクト化が可能となる。また、いわゆる「逆曲げ」(例えばベルトの上面に平プーリを接触させることによって、ベルトの伸張層が屈曲の内側となるような使用方法)も可能であり、レイアウトの自由度が高い。しかしながら、高負荷への適用が難しく、プーリから受ける側圧によって、ベルトが皿のような形状に反る現象(いわゆるディッシング)が発生しやすい。ディッシングが発生すると、伝達効率が低下したり、ベルト寿命が低下したりする虞がある。
【0012】
ゴムベルトを使用したCVTにおいて、伝動容量を高めるためには、ベルト幅を広くする必要がある。ベルト幅を広くすることで抗張体の数を増やすことができ、より高い張力で使用することが可能となる。また、耐側圧性を高めるためには、ベルト厚みを厚くする必要がある。
【0013】
しかしながら、ベルト幅を広くしたり、ベルト厚みを厚くしたりすると、CVTが大型化してしまうと共に、ベルトの屈曲性が低下することによって伝達効率やベルトの寿命が低下する虞がある。そのため、ベルト幅とベルト厚みとの比を一定の範囲に制御することが提案されている。
【0014】
例えば、特許文献1には、伝動用Vベルトのアスペクト比(ベルト厚みに対するベルト上幅の比)を2~4とすることが開示されている。また、ベルトの屈曲性を良好に保ったまま、耐側圧性を高める方策として、ベルトの内周面および外周面にコグ(歯、切欠きまたは波形)を設けることも記載されている。
【0015】
しかしながら、コグを設けたベルト(ローエッジコグドVベルト)はコグの周期性に起因する騒音が発生しやすいという欠点がある。また、コグとコグの谷間(コグ谷)部分では、ベルトの屈曲時に応力が集中するために亀裂が発生しやすくなり、寿命の低下につながる虞がある。このように、これまでのゴムベルトでは、高負荷での使用における耐側圧性、屈曲性、静粛性、耐久性といった要求を、十分なレベルで満足することはできていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】実開昭63-66649号公報
【文献】特開昭63-251655号公報
【文献】特開2019-108979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、ベルト幅を広くしたり、ベルト厚みを厚くしたりする代わりに、複数本のベルトをプーリの共通なV溝に巻きかける試みも行われている。例えば、特許文献2には、無終端可撓体にその長手方向へ順次多数のV形ブロックを取付けてなるVベルトを複数本、共通なV溝プーリ間に多重に掛け渡した無段変速機が開示されている。しかしながら、該無段変速機に用いられているVベルトは、前記のブロックベルトに相当するため、ゴムベルトとは技術分野が異なる。そのため、ベルトに要求される機能や形状が異なり、ゴムベルトにそのまま展開するのは困難である。また、特許文献2ではブロックベルトを多重に掛け渡すことに起因するCVTの大型化が懸念され、騒音や装置の複雑化といった問題は十分には解決されていない。
【0018】
また、近年、圧力や温度といった伝動ベルトの状態を検知・観測したいという要望が拡大している。例えば、特許文献3には、伝動ベルトの状態を検知するセンサを有する伝動ベルトが開示されている。特許文献3では、ゴム付き帆布や未加硫ゴムシートの積層体の間に圧力センサを嵌め込んだ後に、温度179℃の条件で加硫を行うことで、圧力センサがベルトの一部として一体化した歯付ベルトの製造方法が例示されている。しかしながら、上記の製造方法によると、センサに高い耐熱性やベルト部材との接着性が要求されるために、使用できるセンサに制限があった。
【0019】
上記検討課題を踏まえ、本発明の目的は、耐側圧性、屈曲性、静粛性、耐久性、伝動容量を同時に高めることのできる複数の伝動用Vベルトのセット、およびその製造方法、ならびに使用方法を提供し、更に、センサを有するベルトに関し、使用できるセンサの制限をゆるくできる伝動用Vベルトを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は、プーリの外周に形成されたV形状の溝に重ねて巻き掛けられる、複数の伝動用Vベルトのセットであって、
前記溝に巻き掛けられた前記伝動用Vベルト同士の関係性において、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1以下であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1以下であることを特徴としている。
【0021】
上記構成によれば、プーリの外周に形成されたV形状の溝に、複数の伝動用Vベルトを重ねて巻き掛けた際に、溝の内周側に巻き掛けられた伝動用Vベルトの上面と、溝の外周側に巻き掛けられた伝動用Vベルトの下面とが過度に干渉しないようにすることができる。
これにより、伝動用Vベルトの耐側圧性、屈曲性、静粛性、耐久性、伝動容量を高めることができる。
【0022】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットにおいて、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周長Lо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周長Li1よりも短く、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの外周側の上幅Wо2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側の下幅Wi1よりも短いことを特徴としてもよい。
【0023】
上記構成によれば、プーリの外周に形成されたV形状の溝に、複数の伝動用Vベルトを重ねて巻き掛けた際に、溝の内周側に巻き掛けられた伝動用Vベルトの上面と、溝の外周側に巻き掛けられた伝動用Vベルトの下面との間に、隙間を設けることができ、伝動用Vベルト同士が干渉しないようにすることができる。
これにより、伝動用Vベルトの耐側圧性、屈曲性、静粛性、耐久性、伝動容量をより高めることができる。
【0024】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットにおいて、
前記各伝動用Vベルトは、幅方向断面視でV形状をしており、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの両側面のなす角A2は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの両側面のなす角A1よりも大きいことを特徴としてもよい。
【0025】
一般に、伝動用Vベルトをプーリに巻きかけると、圧縮層(内周側)はベルト長手方向には圧縮される一方でベルト幅方向には膨張し、伸張層(外周側)はベルト長手方向には伸張される一方でベルト幅方向には収縮する。そのため、伝動用Vベルトの両側面のなす角(V角度)は、プーリに巻きかける前よりも小さくなる。このV角度が小さくなる程度は、プーリへの巻き掛け半径と相関があり、巻きかけ半径が小さい程、V角度はより小さくなる。つまり、プーリの溝の内周側に巻き掛けられる伝動用VベルトのV角度は、プーリの溝の外周側に巻き掛けられる伝動用VベルトのV角度よりも小さくなる傾向が強くなる。
そこで、予め上記構成にすることにより、プーリの溝に複数の伝動用Vベルトを重ねて巻きかけた際のV角度を均等にすることができる。
【0026】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットにおいて、
前記各伝動用Vベルトは、ゴム製であり、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側のゴム硬度は、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの内周側のゴム硬度よりも低いことを特徴としてもよい。
【0027】
プーリの溝の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトは、プーリの溝の外周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトよりも巻きかけ半径が小さいために、より高い屈曲性が求められる。そこで、上記構成にすることにより、プーリの溝の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトの相対的な屈曲性を確保することができる。
【0028】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットにおいて、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの厚みは、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの厚みよりも薄いことを特徴としてもよい。
【0029】
プーリの溝の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトは、プーリの溝の外周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトよりも巻きかけ半径が小さいために、より高い屈曲性が求められる。そこで、上記構成にすることにより、プーリの溝の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトの相対的な屈曲性を確保することができる。
【0030】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットにおいて、
前記各伝動用Vベルトには、ベルト長手方向に沿って抗張体が埋設されており、
前記抗張体は、前記各伝動用Vベルトの厚み方向中央部分に配置されていることを特徴としてもよい。
【0031】
抗張体が埋設された伝動用Vベルトを屈曲させると、抗張体を中心として屈曲する。抗張体がベルト厚み方向の中心よりも外周側にある場合、伝動用Vベルトの内周側を屈曲するための抵抗が大きくなり、屈曲性が低下する。同様に、抗張体がベルト厚み方向の中心よりも内周側にある場合、伝動用Vベルトの外周側を屈曲するための抵抗が大きくなり、屈曲性が低下する。そのため、上記構成にすることにより、伝動用Vベルトの屈曲性をバランスよく高めることができる。
【0032】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットにおいて、
前記複数の伝動用Vベルトは、まとめて布帛で被覆されていることを特徴としてもよい。
【0033】
上記構成によれば、プーリの溝の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトと、プーリの溝の外周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトとが、振動によって干渉することを防ぐことができる。
【0034】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットにおいて、
前記各伝動用Vベルトは、外周側の上幅Wоと厚みTとの関係性が、4<(上幅Wо/厚みT)<8の条件を満たすことを特徴としてもよい。
【0035】
従来の伝動用Vベルトは、伝動用Vベルト1本で十分な耐側圧性を確保する必要があり、ベルト厚みをあまり薄くすることができず、Wo/Tの値は比較的小さくなっていた(特許文献1では2~4を規定)。これに対して、本発明では、複数本の伝動用Vベルトを使用して耐側圧性を高めることができるので、それぞれのベルト厚みを相対的に薄くすることができ、Wo/Tの値を従来よりも大きくすることができる。そして、Wo/Tの値が4以下では屈曲性が低下する。Wo/Tの値が8以上では耐側圧性が低下する。そこで、Wo/Tの値が上記条件を満たすようにすることにより、屈曲性及び耐側圧性をバランスよく高めることができる。
【0036】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットにおいて、
前記溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトと、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトとの間に、当該伝動用Vベルトの状態を検知するセンサを配置したことを特徴としてもよい。
【0037】
従来、センサを伝動用Vベルトに取り付けようとする場合、伝動用Vベルトの中に埋設していたが、伝動用Vベルトの製造工程で加硫工程を経る必要があるため、使用できるセンサに制限(耐熱性や耐圧性など)があった。しかし、上記構成によれば、すでに完成した伝動用Vベルトと伝動用Vベルトとの間にセンサを設置することができるので、使用できるセンサの種類が増え、汎用性が向上する。また、従来のように、センサを伝動用Vベルトの中に埋設する場合には、センサが異物として働き、亀裂の起点になってベルトの寿命が低下する懸念があったが、上記構成によれば、その懸念を低減することができる。
【0038】
また、本発明の1つは、外周にV形状の溝が形成された、複数のプーリを備えた伝動装置において、
前記各プーリの前記溝に複数の伝動用Vベルトを重ねて巻き掛けて使用することを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセットの使用方法である。
【0039】
上記使用方法によれば、伝動用Vベルトの耐側圧性、屈曲性、静粛性、耐久性、伝動容量を高めることができる。
【0040】
また、本発明の1つは、円筒状のドラムの外周上に、圧縮層用シートと抗張体と伸張層用シートとを含む、複数のベルトシート、及び、各ベルトシートの間に配置される、剥離層用シートを積層した後、加硫して、ベルトスリーブを得る工程、
前記ベルトスリーブを所定幅間隔でカットして、複数のベルト原型を得る工程、
前記ベルト原型を、幅方向断面視でV形状にカットした後、前記剥離層用シートを取り除くことによって、複数の伝動用Vベルトを得る工程、を含むことを特徴とする、複数の伝動用Vベルトのセットの製造方法である。
【0041】
上記製造方法によれば、複数の伝動用Vベルトを別々のベルトスリーブから製造する場合に比べて、各伝動用Vベルトにおける、ベルト長さ(外周長、内周長)、幅(上幅、下幅)、V角度などを精度良く整合させることができる。
【0042】
また、本発明は、上記複数の伝動用Vベルトのセットの製造方法において、
プーリの外周に形成されたV形状の溝の内周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの両側面のなす角A2が、前記溝の外周側に巻き掛けられる、前記伝動用Vベルトの両側面のなす角A1よりも大きくなるように、前記伝動用Vベルトの両側面をカット又は研磨する工程を含むことを特徴としてもよい。
【0043】
一般に、伝動用Vベルトをプーリに巻きかけると、圧縮層(内周側)はベルト長手方向には圧縮される一方でベルト幅方向には膨張し、伸張層(外周側)はベルト長手方向には伸張される一方でベルト幅方向には収縮する。そのため、伝動用Vベルトの両側面のなす角(V角度)は、プーリに巻きかける前よりも小さくなる。このV角度が小さくなる程度は、プーリへの巻き掛け半径と相関があり、巻きかけ半径が小さい程、V角度はより小さくなる。つまり、プーリの溝の内周側に巻き掛けられる伝動用VベルトのV角度は、プーリの溝の外周側に巻き掛けられる伝動用VベルトのV角度よりも小さくなる傾向が強くなる。
そこで、上記工程を経ることにより、プーリの溝に複数の伝動用Vベルトを重ねて巻きかけた際のV角度を均等にすることができる。
【発明の効果】
【0044】
耐側圧性、屈曲性、静粛性、耐久性、伝動容量を同時に高めることのできる複数の伝動用Vベルトのセット、およびその製造方法、ならびに使用方法を提供し、更に、センサを有するベルトに関し、使用できるセンサの制限をゆるくできる伝動用Vベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】実施形態1に係る、2本の伝動用Vベルトを用いた補機駆動用のベルト伝動装置の断面図である。
【
図2】実施形態1に係る、2本の伝動用Vベルトの側面図及び幅方向断面図である。
【
図3】実施形態1に係る、伝動用Vベルト1の内周面と伝動用Vベルト2の外周面との関係性を示す説明図である。
【
図4】実施形態1に係る、伝動用Vベルトの両側面のなす角の説明図である。
【
図5】伝動用VベルトをプーリのV字状溝に巻き掛けた際に、伝動用Vベルトに作用する伸縮態様の説明図である。
【
図6】実施形態2に係る、布帛で被覆された、2本の伝動用Vベルトの説明図である。
【
図7】実施形態3に係る、センサを備えた、2本の伝動用Vベルトの説明図である。
【
図8】伝動用Vベルトの上幅及び下幅の測定方法の説明図である。
【
図9】伝動用Vベルトの両側面のなす角(V角度)の測定方法の説明図である。
【
図10】実施形態1に係る、2本の伝動用Vベルトの製造方法の説明図である。
【
図11】ローエッジコグドVベルトの内周長の測定態様の説明図である。
【
図12】実施例で比較した、ローエッジコグドVベルト、及び、2本のローエッジVベルトの斜視図である。
【
図13】実施例で比較した、ローエッジコグドVベルト、及び、2本のローエッジVベルトの幾何データの説明図である。
【
図14】実施例で比較した、ローエッジコグドVベルト、及び、2本のローエッジVベルトの、応力分布の様子とMises応力最大値の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
(実施形態1)
以下、図面に基づき、本発明の実施形態1を説明する。
図1は、本発明の一例として、2本の伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2を用いた補機駆動用のベルト伝動装置100の断面図を示す。このベルト伝動装置100は、駆動プーリ3と従動プーリ4を備え、これらの駆動プーリ3と従動プーリ4との間に、2本の伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2を巻き掛けた最も簡単な例である。伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2は、それぞれ幅方向断面視でV形状をした側面(V字状(くさび形)側面)を有しており、駆動プーリ3、及び、従動プーリ4の外周面には、伝動用Vベルト1の両側面及び伝動用Vベルト2の両側面に相対する、V字状溝31、41が設けられている。伝動用Vベルト2の両側面は、駆動プーリ3、及び、従動プーリ4のV字状溝31、41に対して、その全面が接触している。伝動用Vベルト2の両側面の全面が接触することにより、伝動用Vベルト2の伝動容量と耐側圧性とを高めることができる。
【0047】
(伝動用Vベルト1の構成)
本発明の実施形態の一例に係る伝動用Vベルト1は、
図1に示すように、駆動プーリ3のV字状溝31及び従動プーリ4のV字状溝41に、伝動用Vベルト2よりも外周側に巻き掛けられる。この伝動用Vベルト1は、外周側から内周側に向かって、伸張ゴム層11、接着ゴム層12及び圧縮ゴム層13が順次積層された構造をしている。そして、接着ゴム層12内には、ベルト長手方向に沿って延在する心線14(抗張体に相当)が埋設されている。
【0048】
心線14は、
図2に示すように、伝動用Vベルト1の厚み方向中央部分に配置されている。心線14が埋設された伝動用Vベルト1を屈曲させると、心線14を中心として屈曲する。心線14がベルトの厚み方向の中心よりも外周側にある場合、伝動用Vベルト1の内周側を屈曲するための抵抗が大きくなり、屈曲性が低下する。同様に、心線14がベルトの厚み方向の中心よりも内周側にある場合、伝動用Vベルト1の外周側を屈曲するための抵抗が大きくなり、屈曲性が低下する。そのため、心線14を、伝動用Vベルト1の厚み方向中央部分に配置することにより、伝動用Vベルト1の屈曲性をバランスよく高めている。なお、製造効率等の視点から、心線14を、伝動用Vベルト1の厚み方向中央部分に配置しなくてもよい。即ち、本実施形態において、「心線14(抗張体)が伝動用Vベルト1の厚み方向中央部分に配置されている」とは、真に中央部分に配置されていることに限定されず、伝動用Vベルト1の厚みの1/10の長さ分だけ真の中央部分から上下方向にずれている場合も含む。
【0049】
伸張ゴム層11、接着ゴム層12及び圧縮ゴム層13は、ゴム成分を含むゴム組成物で形成されている(即ち、伝動用Vベルト1は、ゴム製である)。さらに、伸張ゴム層11及び圧縮ゴム層13を構成するゴム組成物は、短繊維を含んでいる。
【0050】
ゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴムを用いてよく、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム等)、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、のうちの1種又は2種以上を組み合わせたものを用いてよい。好ましいゴム成分は、エチレン-α-オレフィンエラストマー(エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)等)、及び、クロロプレンゴムである。特に好ましいゴム成分は、クロロプレンゴムである。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプ及び非硫黄変性タイプのいずれでもよい。
【0051】
ゴム組成物に、添加剤を追加してもよい。添加剤としては、例えば、加硫剤又は架橋剤(又は架橋剤系)(硫黄系加硫剤等)、共架橋剤(ビスマレイミド類等)、加硫助剤又は加硫促進剤(チウラム系促進剤等)、加硫遅延剤、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウム等)、補強剤(例えば、カーボンブラックや、含水シリカ等の酸化ケイ素)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等)、軟化剤(例えば、パラフィンオイルや、ナフテン系オイル等のオイル類)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイド等)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤等)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤等)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、帯電防止剤、のうちの1種又は2種以上を組み合わせたものを用いてよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。また、特に接着ゴム層12を構成するゴム組成物は、接着性改善剤(レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂等)を含んでよい。
【0052】
短繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維等)、ポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維等の、C2-4アルキレンC6-14アリレート系繊維)、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維等の合成繊維;綿、麻、羊毛等の天然繊維;炭素繊維等の無機繊維、のうちの1種又は2種以上を組み合わせたものを用いてよい。ゴム組成物中での分散性や接着性を向上させるため、短繊維に、慣用の接着処理(又は表面処理)を施してよく、例えば、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL)液等で短繊維を処理してよい。
【0053】
伸張ゴム層11、接着ゴム層12及び圧縮ゴム層13を構成するゴム組成物は、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。同様に、伸張ゴム層11及び圧縮ゴム層13に含まれる短繊維は、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。
【0054】
接着ゴム層12内には、心線14が、ベルト長手方向に螺旋状に延在し、かつ、ベルト幅方向に所定のピッチで互いに離隔して配置されている。
【0055】
心線14は、例えば、マルチフィラメント糸を使用した撚り(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚り)コードからなる。心線14の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5~3mm、好ましくは0.6~2.0mm、さらに好ましくは0.7~1.5mm程度であってよい。
【0056】
心線14を構成する繊維としては、短繊維として例示した繊維を用いてよい。高モジュラスの点から、心線14を構成する繊維として、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維等)、ポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維等の、C2-4アルキレンC6-14アリレート系繊維)等の合成繊維;炭素繊維等の無機繊維を用いてよく、特に、ポリアミド繊維、ポリアルキレンアリレート系繊維を用いることが好ましい。心線14を構成する繊維は、マルチフィラメント糸であってよい。マルチフィラメント糸で構成される心線14の繊度は、例えば、2000~10000デニール(特に4000~8000デニール)程度であってもよい。マルチフィラメント糸は、例えば100~5000本、好ましくは500~4000本、さらに好ましくは1000~3000本程度のモノフィラメント糸を含んでよい。心線14に、短繊維と同様、慣用の接着処理(又は表面処理)を施してよい。
【0057】
(伝動用Vベルト2の構成)
本発明の実施形態の一例に係る伝動用Vベルト2は、
図1に示すように、駆動プーリ3のV字状溝31及び従動プーリ4のV字状溝41に、伝動用Vベルト1よりも内周側に巻き掛けられる。この伝動用Vベルト2は、伝動用Vベルト1同様に、外周側から内周側に向かって、伸張ゴム層21、接着ゴム層22及び圧縮ゴム層23が順次積層された構造をしている。そして、接着ゴム層22内には、ベルト長手方向に沿って延在する心線24が埋設されている。この心線24は、伝動用Vベルト1同様に、
図2に示すように、伝動用Vベルト2の厚み方向中央部分に配置されている。なお、製造効率等の視点から、心線24を、伝動用Vベルト2の厚み方向中央部分に配置しなくてもよい。
【0058】
伝動用Vベルト2における、伸張ゴム層21、接着ゴム層22、圧縮ゴム層23及び心線24の各構成材料は、伝動用Vベルト1と同様である。ただし、伝動用Vベルト2の圧縮ゴム層23のゴム硬度は、伝動用Vベルト1の圧縮ゴム層13のゴム硬度よりも低くなるように調製されている。V字状溝31やV字状溝41の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルト2は、外周側に巻き掛けられる伝動用Vベルト1よりも巻きかけ半径が小さくなるため、より高い屈曲性が求められることから、伝動用Vベルト2の内周側(圧縮ゴム層23)のゴム硬度は、伝動用Vベルト1の内周側(圧縮ゴム層13)のゴム硬度よりも低くしている。これにより、V字状溝31やV字状溝41の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルト2の相対的な屈曲性を確保することができる。なお、製造効率(材料の共通化)の視点から、伝動用Vベルト2の圧縮ゴム層23のゴム硬度と、伝動用Vベルト1の圧縮ゴム層13のゴム硬度を同じにしてもよい。
【0059】
(伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2の寸法条件)
次に、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との寸法条件(関係性)を説明する。
【0060】
(伝動用Vベルト1の内周面と伝動用Vベルト2の外周面との関係)
図2に示すように、伝動用Vベルト2の外周長Lо2は、伝動用Vベルト1の内周長Li1以下になるように設計されている。また、
図2に示すように、伝動用Vベルト2の外周側の上幅Wо2は、伝動用Vベルト1の内周側の下幅Wi1以下になるように設計されている。これにより、V字状溝31及びV字状溝41の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルト2の外周面と、V字状溝31及びV字状溝41の外周側に巻き掛けられる伝動用Vベルト1の内周面とが干渉しないようにすることができる。仮に、伝動用Vベルト2の外周側の上幅Wо2が伝動用Vベルト1の内周側の下幅Wi1よいも大きい場合、
図3(a)に示すように、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2とが干渉し、伝動用Vベルト1がV字状溝31及びV字状溝41に接触することができないため、動力を伝達することができなくなるためである。
【0061】
また、伝動用Vベルト2の外周長Lо2と、伝動用Vベルト1の内周長Li1を同じ長さに設計し、伝動用Vベルト2の外周側の上幅Wо2と、伝動用Vベルト1の内周側の下幅Wi1を同じ長さに設計した場合、
図3(b)に示すように、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間は隙間なく重なり合う。この場合、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2とが干渉するのを防ぎつつ、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2にかかる力の差を最小限にすることができる。具体的には、2本の伝動用Vベルトを駆動プーリ3等に巻き掛ける場合、外周側の伝動用Vベルト1と内周側の伝動用Vベルト2に力が均等にかからずに、どちらかの伝動用Vベルトの痛みが早くなる場合があるが、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間の隙間をできるだけ小さく(隙間が無いことが好ましい)することにより、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2にかかる力の差を最小限にして、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の寿命を長くすることができる。
【0062】
また、伝動用Vベルト2の外周長Lо2を、伝動用Vベルト1の内周長Li1よりも短く設計し、伝動用Vベルト2の外周側の上幅Wо2を、伝動用Vベルト1の内周側の下幅Wi1よりも短く設計した場合、
図3(c)に示すように、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間に隙間Zが形成される。このため、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2とが干渉しないようにすることができる。これにより、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の耐側圧性、屈曲性、静粛性、耐久性、伝動容量をより高めることができる。また、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間に隙間Zを形成することにより、放熱性を向上させることができ、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の寿命を長くすることができる。
【0063】
なお、伝動用Vベルト1(伝動用Vベルト2)の外周長及び内周長の測定には、JISB7512(2018)に規定の鋼製巻尺を沿わせて測定する方法が例示できる。
【0064】
また、伝動用Vベルト1(伝動用Vベルト2)の上幅及び下幅の測定方法としては、まず、伝動用Vベルト1(伝動用Vベルト2)の幅方向断面視した断面形状を輪郭形状測定機((株)ミツトヨ製「CBH-1」)で測定した後、
図8に示すように、V形状をした両側面、上面、下面の形状を直線近似する。なお、V形状をした両側面の近似直線を求める際に、トリムカット部分のように、一見して角度が異なる部分は含まれないようにする。上面が描く近似直線と、V形状をした両側面が描く近似直線の交点間の距離を上幅とする。同様に、下面が描く近似直線と、V形状をした両側面が描く近似直線の交点間の距離を下幅とする。
【0065】
伝動用Vベルトの外周面の幅を測定した場合、トリムカットの有無およびトリムカットの大きさの影響が大きくなり、「実効幅」としては不適当である。そこで、上記の上幅の測定方法によると、トリムカットの有無や、トリムカットの大きさに左右されない、伝動用Vベルトが本来有している「実効幅」を測定することができる。また、後述する伝動用Vベルトの上幅と厚みとの関係(比)を比較するのに有用な値として利用することができる。
【0066】
(伝動用Vベルト1の両側面のなす角と伝動用Vベルト2の両側面のなす角との関係)
前述したように、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2は、幅方向断面視でV形状をした側面を有している。そして、
図4に示すように、伝動用Vベルト2の両側面のなす角A2は、伝動用Vベルト1の両側面のなす角A1よりも大きくなるように設計されている。
【0067】
一般に、伝動用VベルトをプーリのV字状溝に巻きかけると、圧縮ゴム層(内周側)はベルト長手方向には圧縮される一方でベルト幅方向には膨張し(
図5参照)、伸張ゴム層(外周側)はベルト長手方向には伸張される一方でベルト幅方向には収縮する(
図5参照)。そのため、伝動用Vベルトの両側面のなす角(V角度)は、プーリに巻きかける前よりも小さくなる。このなす角(V角度)が小さくなる程度は、プーリへの巻き掛け半径と相関があり、巻きかけ半径が小さい程、なす角(V角度)はより小さくなる。つまり、プーリのV字状溝の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトのなす角(V角度)は、プーリのV字状溝31の外周側に巻き掛けられる伝動用Vベルトのなす角(V角度)よりも小さくなる傾向が強くなる。
【0068】
そこで、伝動用Vベルト2の両側面のなす角A2を、伝動用Vベルト1の両側面のなす角A1よりも大きくなるように予め設計することにより、駆動プーリ3のV字状溝31及び従動プーリ4のV字状溝41に、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2を重ねて巻きかけた際の、伝動用Vベルト2の両側面のなす角A2と、伝動用Vベルト1の両側面のなす角A1とを均等にしている。
【0069】
なお、製造効率の視点から、伝動用Vベルト2の両側面のなす角A2を、伝動用Vベルト1の両側面のなす角A1と同じにしてもよい。
【0070】
また、伝動用Vベルト1(伝動用Vベルト2)の両側面のなす角(V角度)の測定方法としては、まず、伝動用Vベルト1(伝動用Vベルト2)の幅方向断面視した断面形状を輪郭形状測定機((株)ミツトヨ製「CBH-1」)で測定した後、
図9に示すように、V形状をした両側面を直線近似する。そして、得られたこれら2つの近似直線がなす角(鋭角)をV角度として測定する。なお、近似直線を求める際に、トリムカット部分のように、一見して角度が異なる部分は含まれないようにする(
図9参照)。
【0071】
(伝動用Vベルト1の厚みと伝動用Vベルト2の厚みとの関係)
伝動用Vベルト2の厚みは、伝動用Vベルト1の厚みよりも薄くなるように設計されている。V字状溝31やV字状溝41の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルト2は、外周側に巻き掛けられる伝動用Vベルト1よりも巻きかけ半径が小さくなるため、より高い屈曲性が求められることから、伝動用Vベルト2の厚みを、伝動用Vベルト1の厚みよりも薄くしている。これにより、V字状溝31やV字状溝41の内周側に巻き掛けられる伝動用Vベルト2の相対的な屈曲性を確保することができる。なお、製造効率の視点から、伝動用Vベルト2の厚みと、伝動用Vベルト1の厚みとを同じ厚みにしてもよい。
【0072】
なお、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の厚みは、JISB7507(2016)に規定のノギスで測定する方法が例示できる。
【0073】
(伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の、上幅と厚みとの関係)
伝動用Vベルト1は、外周側の上幅Wо1と厚みT1との関係性が、4<上幅Wо1/厚みT1<8の条件を満たすように設計されている。また、伝動用Vベルト2も、外周側の上幅Wо2と厚みT2との関係性が、4<上幅Wо2/厚みT2<8の条件を満たすように設計されている。
【0074】
本実施形態では、2本の伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2を使用して耐側圧性を高めることができるので、それぞれのベルト厚みを相対的に薄くすることができ、上幅/厚み、の値を従来(伝動用Vベルト1本の場合)よりも大きくすることができる。そして、上幅/厚み、の値が4以下では屈曲性が低下する。一方、上幅/厚み、の値が8以上では耐側圧性が低下する。そこで、上幅/厚み、の値が上記条件を満たすようにすることにより、屈曲性及び耐側圧性をバランスよく高めることができる。特に、屈曲性を向上できる点から、上幅/厚みの値は4.5以上であるのが好ましく、耐側圧性を向上できる点から、上幅/厚みの値は6以下(特に、5.5以下)であるのが好ましい。
【0075】
上記構成の伝動用Vベルト2を、ベルト伝動装置100の、駆動プーリ3のV字状溝31及び従動プーリ4のV字状溝41に巻き掛け、更に、伝動用Vベルト1を、伝動用Vベルト2の上側に重ねて巻き掛けて走行させた際に(複数の伝動用Vベルトのセットの使用方法、
図1参照)、V字状溝31及びV字状溝41の内周側に巻き掛けられた伝動用Vベルト2の上面と、外周側に巻き掛けられた伝動用Vベルト1の下面とが過度に干渉しないようにすることができる。
これにより、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の耐側圧性、屈曲性、静粛性、耐久性、伝動容量を高めることができる。
【0076】
特許文献2に記載された、ブロックベルトはブロック間で圧力を伝達しながら動力を伝達する。そのため、伝動容量を決めるのはブロックの強度や大きさであり、薄形のベルトを複数本巻きかけたとしても伝動容量を高めることはできない。仮に、薄形ではないベルトを複数本巻きかけることで伝動容量を高めることができたとしても、そのためには大きなスペースが必要となるので好ましくない。これに対して、心線(抗張体)を有する伝動用Vベルトは、心線にかかる張力として動力を伝達する。そのため、薄形の伝動用Vベルトを複数本巻きかけて、単位断面積あたりに含まれる心線の割合(例えば撚りコードの本数)を多くすることで、伝動容量を高めることができる。
【0077】
(伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の製造方法)
次いで、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の製造方法について説明する。
【0078】
本実施形態に係る伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の製造方法は、未加硫スリーブ形成工程S1、加硫工程S2、ベルト原型形成工程S3、Vカット工程S4、剥離工程S5、及び、研磨工程S6を含む。
【0079】
未加硫スリーブ形成工程S1は、環状の未加硫スリーブを形成する工程である。未加硫スリーブ形成工程S1では、円筒状のドラムを用い、当該ドラムの外周面上に、
図10に示すように、圧縮ゴム層23になる圧縮ゴム層用第2未加硫ゴムシート、心線24、接着ゴム層22になる接着ゴム層用第2未加硫ゴムシート、伸張ゴム層21になる伸張ゴム層用第2未加硫ゴムシートを含む第2ベルトシートと、剥離層用シートと、圧縮ゴム層13になる圧縮ゴム層用第1未加硫ゴムシート、心線14、接着ゴム層12になる接着ゴム層用第1未加硫ゴムシート、伸張ゴム層11になる伸張ゴム層用第1未加硫ゴムシートを含む第1ベルトシートとを、順に積層する。即ち、剥離層用シートが、第1ベルトシートと第2ベルトシートとの間に挟まれて積層される。
【0080】
剥離層用シートは、圧縮ゴム層用第1未加硫ゴムシートおよび伸張ゴム層用第2未加硫ゴムシートとの剥離性に優れるものが好ましい。具体的には樹脂フィルムであってもよく、ポリエステルフィルムである東レ(株)製「ルミラー(登録商標)」を用いることができる。
【0081】
具体的には、先ず、短繊維を含むと共に互いに積層された複数のシート部材を、圧縮ゴム層用第2未加硫ゴムシートとして、各シート部材の短繊維をベルト幅方向に配向させて、円筒状のドラム上に巻き付ける。その後、圧縮ゴム層用第2未加硫ゴムシートの上に、心線24を螺旋状にスピニングする。その後、心線24の上に、接着ゴム層用第2未加硫ゴムシートを積層する。その後、接着ゴム層用第2未加硫ゴムシートの上に、伸張ゴム層用第2未加硫ゴムシートを積層する。その後、伸張ゴム層用第2未加硫ゴムシートの上に、剥離層用シートを積層する。その後、剥離層用シートの上に、短繊維を含むと共に互いに積層された複数のシート部材を、圧縮ゴム層用第1未加硫ゴムシートとして、各シート部材の短繊維をベルト幅方向に配向させて積層する。その後、圧縮ゴム層用第1未加硫ゴムシートの上に、心線14を螺旋状にスピニングする。その後、心線14の上に、接着ゴム層用第1未加硫ゴムシートを積層する。その後、接着ゴム層用第1未加硫ゴムシートの上に、伸張ゴム層用第1未加硫ゴムシートを積層する。
【0082】
次に、加硫工程S2は、未加硫スリーブ形成工程S1の後、得られた未加硫スリーブを加硫して環状の加硫スリーブを形成する工程である。加硫工程S2では、公知の手法を採用してよく、例えば、未加硫スリーブの外側に加硫ジャケットを被せて金型を加硫缶に設置し、温度120~200℃(特に150~180℃)程度で未加硫スリーブを加硫してよい。
【0083】
次のベルト原型形成工程S3では、加硫ジャケット及び加硫スリーブを加硫缶から抜き取った後、加硫スリーブを所定幅間隔でカットし、複数のベルト原型を得る。
【0084】
次のVカット工程S4では、得られたベルト原型を、
図10に示すように、幅方向断面視で所定のV角度が得られるようにカッター等でV形状にカットする。なお、ベルト原型形成工程S3及びVカット工程S4は、同じ工程で行ってもよい。また、ベルト原型形成工程S3において所定幅でカットすることなく、Vカット工程S4において加硫スリーブをV形状にカットすることで所定幅及び所定のV角度を有するベルト原型を得てもよい。
【0085】
続いて、剥離工程S5では、
図10に示すように、V形状にカットされたベルト原型の剥離層用シートを剥離して取り除く。これにより、加硫された第1ベルトシート部分から伝動用Vベルト1が得られ、加硫された第2ベルトシート部分から伝動用Vベルト2が得られる。
【0086】
更に、研磨工程S6では、伝動用Vベルト2の両側面のなす角A2が、伝動用Vベルト1の両側面のなす角A1よりも大きくなるように、伝動用Vベルト1の両側面及び伝動用Vベルト2の両側面を、カット又は研磨する。
【0087】
上記製造方法により、本実施形態に係る、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2を同時に得ることができる。なお、製造効率等の視点から、研磨工程S6を省略してもよい。この場合、伝動用Vベルト2の両側面のなす角A2と、伝動用Vベルト1の両側面のなす角A1とが同じである伝動用Vベルトのセットが得られる。
【0088】
なお、上記未加硫スリーブ形成工程S1では、積層する順番を上記の順番とは全く逆にして、いわゆる逆成形により製造してもよい(この場合、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の外周側と内周側とを反転させる工程を入れる)。
【0089】
上記製造方法によれば、2本の伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2を別々のベルトスリーブから製造する場合に比べて、2本の伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2における、ベルト長さ(外周長、内周長)、幅(上幅、下幅)、V角度(両側面のなす角)などを精度良く整合させることができる。
【0090】
上記のように、本実施形態に係る伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2は、2本セットで扱われることが好ましい。
【0091】
(実施形態2)
実施形態2では、
図6に示すように、実施形態1に係る、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2が、まとめて布帛6で被覆されている。布帛6は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布等(好ましくは織布)の布材からなる。
【0092】
実施形態1のように、2本の伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2とが独立している場合、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の振動によって互いに干渉する虞がある。しかし、2本の伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2とをまとめて布帛6で被覆することにより、振動によって互いに干渉することを防ぐことができる。なお、外観上は1本の伝動ベルトのように見えるが、中身は2本の伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2とに独立して分かれているので、厚みの厚い1本の伝動用Vベルトを用いた場合のように屈曲性が低下することはない。
【0093】
(実施形態3)
実施形態3では、
図7に示すように、実施形態2に係る、布帛6で被覆された、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間に、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2の少なくとも一方の状態を検知するセンサ7が配置されている。
【0094】
センサ7としては、圧力を受けると電荷を発生する圧電素子を利用した圧力センサが挙げられる。伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間に配置された圧力センサによって、伝動用Vベルト1や伝動用Vベルト2に加わる圧力を検知・観測することができる。そして、検知・観測した圧力の値により、伝動用Vベルト1や伝動用Vベルト2の劣化・損傷具合や、伝動用Vベルト1や伝動用Vベルト2が巻き掛けられた駆動プーリ3や従動プーリ4等の異常を把握することができる。
【0095】
また、センサ7としては、温度センサであってもよい。伝動用Vベルト1や伝動用Vベルト2にかかる様々な外圧・内圧の下で伝動用Vベルト1や伝動用Vベルト2を使用し続ければ、圧力に伴う内部温度の上昇や、更には摩擦熱等の影響により、伝動用Vベルト1や伝動用Vベルト2の内部温度が上昇する。そこで、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間に配置された温度センサにより、伝動用Vベルト1や伝動用Vベルト2の内部温度を検知・観測することで、伝動用Vベルト1や伝動用Vベルト2の劣化や損傷を把握することができる。
【0096】
ここで、センサ7を、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間に配置する態様としては、センサ7を伝動用Vベルト1の内周面、又は、伝動用Vベルト2の外周面に、粘着テープで貼り付けたり、接着剤で貼り付けたり、単に伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間に挟み込んだりする態様が挙げられ、伝動用Vベルト1の内周面や伝動用Vベルト2の外周面にセンサ7を接触させて使用される。
【0097】
従来、伝動用Vベルトの状態を検知するセンサを伝動用Vベルトに取り付けようとする場合、伝動用Vベルトの中に埋設していたが、伝動用Vベルトの製造工程で加硫工程を経る必要があるため、使用できるセンサの種類に制限(耐熱性や耐圧性など)があった。しかし、上記構成によれば、すでに完成した伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間にセンサ7を設置することができるので、使用できるセンサ7の種類が増え、汎用性が向上する。また、従来のように、センサを伝動用Vベルトの中に埋設する場合には、センサが異物として働き、亀裂の起点になってベルトの寿命が低下する懸念があったが、上記構成によれば、その懸念を低減することができる。
【0098】
なお、実施形態3では、布帛6で被覆された、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間にセンサ7を配置した構成について説明したが、布帛6は無くてもよく、単に、伝動用Vベルト1と伝動用Vベルト2との間にセンサ7を配置した構成であってもよい。
【0099】
(その他の実施形態)
・上記実施形態1~3では、駆動プーリ3のV字状溝31及び従動プーリ4のV字状溝41に巻き掛ける伝動用Vベルトの本数が2本の場合について説明したが、3本以上巻き掛けてもよい。
【0100】
3本以上の伝動用Vベルトのセットの製造方法では、未加硫スリーブ形成工程S1において、増えた本数分に対応するベルトシートと剥離層用シートを積層することにより、3本以上の伝動用Vベルトを同時に製造することができる。例えば、3本の伝動用Vベルトのセットの製造方法では、第1ベルトシート、剥離層用シート、第2ベルトシート、剥離層用シート、第3ベルトシートの順に積層される。
【0101】
・実施形態1では、伸張ゴム層、心線が埋設された接着ゴム層、及び、圧縮ゴム層が順次積層された構造の、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2について説明したが、接着ゴム層を設けず、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との間に心線を配置した構成でもよい。また、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2は、伸張ゴム層と心線との間、および/または、圧縮ゴム層と心線との間に接着ゴム層を設けた構成でもよい。
【0102】
また、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2は、伸張ゴム層の外周面および/または圧縮ゴム層の内周面に補強布を設けた構成でもよい。
【0103】
・上記実施形態1では、摩擦伝動面(V字状側面)が露出したゴム層であるローエッジ(Raw-Edge)タイプ(ローエッジVベルト)の、伝動用Vベルト1及び伝動用Vベルト2を例示して説明したが、V字状の摩擦伝動面を有する伝動用Vベルトであればよく、摩擦伝動面がカバー布で覆われたラップド(Wrapped)タイプ(ラップドVベルト)の伝動用Vベルトを使用してもよい。ただし、摩擦係数が大きく、伝動容量を向上できる点からは、ローエッジタイプのベルトが好ましい。ローエッジタイプのベルトとしては、コグを設けないローエッジVベルトであってもよく、屈曲性を改善するために、ベルトの下面(内周面)のみコグを設けたローエッジコグドVベルト、又は、ベルトの下面および上面(外周面)の両方にコグを設けたローエッジダブルコグドVベルトであってもよい。
【0104】
なお、ローエッジコグドVベルトの内周長を測定するには、JISB7512(2018)に規定の鋼製巻尺を、内周側のコグの頂部に沿わせて長さを測定する(
図11参照)。同様に、ローエッジダブルコグドVベルトの外周長を測定するには、JISB7512(2018)に規定の鋼製巻尺を、外周側のコグの頂部に沿わせて長さを測定する。また、ローエッジコグドVベルトやローエッジダブルコグドVベルトのような、コグ付きVベルトの厚みを測定する場合は、コグの頂部での厚みを測定する。例えば、ローエッジダブルコグドVベルトの場合は、内周側のコグの頂部と外周側のコグの頂部との間の距離を厚みとして測定する。
【0105】
ローエッジコグドVベルトやローエッジダブルコグドVベルトのような、コグ付きVベルトは、屈曲性を向上できる一方で、コグの周期性に起因する異音が発生しやすい。また、プーリとの接触面積が減少するために耐側圧性が低下する問題や、コグ谷に応力が集中して亀裂が発生しやすいといった問題がある。これに対し、コグを設けないローエッジVベルトは、プーリとの接触面積が増加し、耐側圧性が向上する。そして、屈曲による応力をベルト長手方向で均一に分散できるため、亀裂の発生を抑制することができ、ベルト寿命が向上する。また、コグの周期性に起因する異音が発生することがなく、静粛性に優れる。上記観点から、ローエッジタイプのベルトが好ましく、特に、コグを設けないローエッジVベルトが好ましい。
【実施例】
【0106】
次に、ローエッジコグドVベルト1本をプーリに巻き掛けた場合と、厚みが薄くコグを有しないローエッジVベルト2本を重ねてプーリに巻き掛けた場合とで、その際の応力分布の様子とMises応力最大値を有限要素法(FEM)により比較した。解析プログラムは、米国MSC社製汎用非線形FEMプログラム"Marc"を使用した。幾何データ(表1)および物性データは以下の通りとし、ベルトをプーリに巻きかける力として、軸荷重800Nを付与した。比較結果を
図14に示す。
【0107】
・ローエッジコグドVベルト(
図12参照)
ローエッジコグドVベルトは、伸張ゴム層、接着ゴム層、心線、および圧縮ゴム層からなる積層体である。圧縮ゴム層は、コグを有している。
・ローエッジVベルト1(
図12参照)(伝動用Vベルト1に相当)
伸張ゴム層、接着ゴム層、心線、および圧縮ゴム層からなる積層体である。伸張ゴム層および圧縮ゴム層は、コグを有していない。
・ローエッジVベルト2(
図12参照)(伝動用Vベルト2に相当)
伸張ゴム層、接着ゴム層、心線、および圧縮ゴム層からなる積層体である。伸張ゴム層および圧縮ゴム層は、コグを有していない。
ローエッジVベルト1は、プーリのV字状溝に、ローエッジVベルト2よりも外周側に巻き掛けた(ローエッジVベルト2は、プーリのV字状溝に、ローエッジVベルト1よりも内周側に巻き掛けた)。この際、ローエッジVベルト1は、ローエッジVベルト2と接触する形で重ね合わせた。ローエッジVベルト1とローエッジVベルト2は、それぞれ独立しており、接着などはされていない。
・プーリ
プーリは、プーリの外周に設けられたV字状溝の溝角度が28°であり、ピッチ径が95.5mmである。
【0108】
【0109】
(物性データ)
伸張ゴム層および圧縮ゴム層(ソリッド要素、超弾性材料:Mooney-Rivlin)
C10=3.72MPa、C01=0.93MPa
接着ゴム層(ソリッド要素、超弾性材料:Mooney-Rivlin)
C10=1.58MPa、C01=0.39MPa
心線外層(ソリッド要素、超弾性材料:Mooney-Rivlin)
C10=6.67MPa、C01=1.67MPa
心線内層(トラス要素、引張方向線形材料)
ヤング率E=28929MPa、ポアソン比=0.3
【0110】
図14の比較結果より、厚みが薄くコグを有しないローエッジVベルト2本を重ねてプーリに巻き掛けた場合は、厚みが厚いローエッジコグドVベルト1本をプーリに巻き掛けた場合と比較して、応力が分散して、応力最大値が低下していることが確認できた。ローエッジVベルト2本を重ねてプーリに巻き掛けた場合、屈曲性および耐久性の向上が期待できることが確認できた。
【符号の説明】
【0111】
1 伝動用Vベルト(外周側)
11 伸張ゴム層
12 接着ゴム層
13 圧縮ゴム層
14 心線
2 伝動用Vベルト(内周側)
21 伸張ゴム層
22 接着ゴム層
23 圧縮ゴム層
24 心線
3 駆動プーリ
31 V字状溝
4 従動プーリ
41 V字状溝
100 ベルト伝動装置
Li1 伝動用Vベルト1の内周長
Lо2 伝動用Vベルト2の外周長
Wо1 伝動用Vベルト1の上幅
Wi1 伝動用Vベルト1の下幅
Wо2 伝動用Vベルト2の上幅