(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】炭化水素可溶性のハロゲン及びチオレート/マグネシウム交換試薬
(51)【国際特許分類】
C07F 3/02 20060101AFI20231128BHJP
C07F 1/02 20060101ALI20231128BHJP
C07C 41/18 20060101ALI20231128BHJP
C07C 43/20 20060101ALI20231128BHJP
C07C 45/45 20060101ALI20231128BHJP
C07C 49/84 20060101ALI20231128BHJP
C07C 209/68 20060101ALI20231128BHJP
C07C 215/68 20060101ALI20231128BHJP
C07C 253/30 20060101ALI20231128BHJP
C07C 255/54 20060101ALI20231128BHJP
C07C 319/20 20060101ALI20231128BHJP
C07C 321/28 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
C07F3/02 A
C07F1/02
C07C41/18
C07C43/20 A
C07C43/20 Z
C07C45/45
C07C49/84 C
C07C209/68
C07C215/68
C07C253/30
C07C255/54
C07C319/20
C07C321/28
(21)【出願番号】P 2020518510
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2018075506
(87)【国際公開番号】W WO2019063418
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】102017217230.4
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102018200805.1
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517346602
【氏名又は名称】アルベマール・ジャーマニー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(73)【特許権者】
【識別番号】307033855
【氏名又は名称】ルートヴィヒ-マクシミリアンズ-ウニヴェルズィテート ミュンヘン
【氏名又は名称原語表記】LUDWIG-MAXIMILIANS-UNIVERSITAET MUENCHEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノッシェル,パウル
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,ドロテー
(72)【発明者】
【氏名】サイモン,マイク
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特表昭61-500438(JP,A)
【文献】特開2005-290001(JP,A)
【文献】Dalton Transactions,2015年,Vol.44, No.16,p.7258-7267
【文献】Chemistry of Materials,2010年,Vol.22, No.16,p.4563-4571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
R
1MgR
1
1-n(OR
3)
n・LiOR
2・(1-n)LiOR
3・aDonor
(式中、R
1はイソプロピル(i-Pr)、n-ブチル(n-Bu)、sec-ブチル(s-Bu)、tert-ブチル(t-Bu)およびn-ヘキシル(n-Hex)からなる群から選択され、OR
2及びOR
3はそれぞれ独立に:
e)tert-アルコキシ、
f)sec-アルコキシ、
g)4~12個のC原子からなる一級アルコキシOCH
2CHR
4R
5(式中の前記アルコキシ残基は前記O官能基に対して2位に分岐を有し、R
4とR
5は独立に1~8個の炭素原子を有するアルキルラジカルを表す)、または、
h)別のアルコキシ官能基を含む一般式O(CHR
6)
bOR
7のアルコキシ(式中、R
6はHであるか1~6個の炭素原子を有するアルキルラジカルであり、前記アルキルラジカルは直鎖であるか、前記O官能基に対して3位以上の位置に分岐を有し、R
7は2~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキルラジカルであり、bは1~4の整数である)、
からなる群から選択され、aは0~2の値が想定されており、nは0~1の任意の値が想定されており、Donorはジアミンまたはトリアミンである)
の炭化水素可溶性交換試薬。
【請求項2】
aが0.5~1.5の値を表し、nが0または1の値を表す、請求項1に記載の交換試薬。
【請求項3】
炭化水素若しくは炭化水素含有溶媒または溶媒混合物中のMgに関して少なくとも0.5mol/kgの濃度を有する溶液として存在し、前記溶液が1重量%以下のエーテル系溶媒を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の交換試薬。
【請求項4】
前記炭化水素が芳香族及び脂肪族からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の交換試薬。
【請求項5】
ジアルコキシマグネシウム化合物R
2O-Mg-OR
3を、炭化水素含有溶媒または溶媒混合物中で(n+1)当量のアルキルリチウム化合物R
1Liと反応させることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の炭化水素可溶性交換試薬の調製方法であって、
R
1がイソプロピル(i-Pr)、n-ブチル(n-Bu)、sec-ブチル(s-Bu)、tert-ブチル(t-Bu)およびn-ヘキシル(n-Hex)からなる群から選択され、
nは1または0の値が想定されており、
OR
2とOR
3は、それぞれ独立に:
a)tert-アルコキシ、
b)sec-アルコキシ、
c)4~12個のC原子からなる一級アルコキシOCH
2CHR
4R
5(式中の前記アルコキシ残基は前記O官能基に対して2位に分岐を有し、R
4とR
5は独立に1~8個のC原子を有するアルキルラジカルを表す)、または、
d)別のアルコキシ官能基を含む一般式O(CHR
6)
bOR
7のアルコキシ残基(式中、R
6はHであるか1~6個のC原子を有するアルキルラジカルであり、前記アルキルラジカルは直鎖であるか、前記O官能基に対して3位以上の位置に分岐を有し、R
7は2~12個のC原子を有する直鎖または分岐のアルキルラジカルであり、bは1~4の整数である)、
からなる群から選択される、
方法。
【請求項6】
炭化水素含有溶媒または溶媒混合物中で、ジアルキルマグネシウム化合物R
1-Mg-R
9を、n=1については1当量のアルコールR
3OH及び1当量のリチウムアルコキシド化合物R
2OLiと反応させる、あるいはn=0については合計2当量のリチウムアルコキシド化合物R
2OLi及び/またはR
3OLiと反応させることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の炭化水素可溶性交換試薬の調製方法であって、
R
1がイソプロピル(i-Pr)、n-ブチル(n-Bu)、sec-ブチル(s-Bu)、tert-ブチル(t-Bu)およびn-ヘキシル(n-Hex)からなる群から選択され、
OR
2とOR
3が、それぞれ独立に:
a)tert-アルコキシ、
b)sec-アルコキシ、
c)4~12個のC原子からなる一級アルコキシOCH
2CHR
4R
5(式中の前記アルコキシ残基は前記O官能基に対して2位に分岐を有し、R
4とR
5は独立に1~8個のC原子を有するアルキルラジカルを表す)、または、
d)別のアルコキシ官能基を含む一般式O(CHR
6)
bOR
7のアルコキシ残基(式中、R
6はHであるか1~6個のC原子を有するアルキルラジカルであり、前記アルキルラジカルは直鎖であるか、前記O官能基に対して3位以上の位置に分岐を有し、R
7は2~12個のC原子を有する直鎖または分岐のアルキルラジカルであり、bは1~4の整数である)、
からなる群から選択され、
R
9が1~8個のC原子を有する任意のアルキルであり、R
9はR
1と同じであるか異なる、
方法。
【請求項7】
炭化水素含有溶媒または溶媒混合物中で、ジアルキルマグネシウム化合物R
1-Mg-R
9を1当量のジアルコキシマグネシウム化合物R
5O-Mg-OR
3と反応させて反応混合物を形成し、この反応混合物に0.5~1.5当量のリチウムアルコキシド化合物R
2OLiを添加することを特徴とする、一般式R
1MgOR
3・LiOR
2・aDonorの請求項1~4のいずれか1項に記載の炭化水素可溶性交換試薬の調製方法であって、
R
1がイソプロピル(i-Pr)、n-ブチル(n-Bu)、sec-ブチル(s-Bu)、tert-ブチル(t-Bu)およびn-ヘキシル(n-Hex)からなる群から選択され、
OR
2とOR
3が、それぞれ独立に:
a)tert-アルコキシ、
b)sec-アルコキシ、
c)4~12個のC原子からなる一級アルコキシOCH
2CHR
4R
5(式中の前記アルコキシ残基は前記O官能基に対して2位に分岐を有し、R
4とR
5は独立に1~8個のC原子を有するアルキルラジカルを表す)、または、
d)別のアルコキシ官能基を含む一般式O(CHR
6)
bOR
7のアルコキシ残基(式中、R
6はHであるか1~6個のC原子を有するアルキルラジカルであり、前記アルキルラジカルは直鎖であるか、前記O官能基に対して3位以上の位置に分岐を有し、R
7は2~12個のC原子を有する直鎖または分岐のアルキルラジカルであり、bは1~4の整数である)、からなる群から選択される、
方法。
【請求項8】
Mgに対してa当量のDonorを添加することを特徴とする、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
炭化水素含有溶媒または溶媒混合物のみが使用されることを特徴とする、請求項5~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
一般式Hal-Ar、Hal-HetAr、R
9S-Ar、またはR
9S-HetAr(R
9=アルキルまたはアリール)のハロゲン化またはチオレート官能化芳香族またはヘテロ芳香族との交換反応のための、請求項1~4のいずれか1項に記載されているか請求項5~9のいずれか1項により得られる一般式R
1MgR
1
1-n(OR
3)
n・LiOR
2・(1-n)LiOR
3・aDonorの炭化水素可溶性のハロゲンまたはチオレート/マグネシウム交換試薬の使用、並びに
CCまたはCNカップリング反応またはこれらを求電子剤と反応させることによる付加反応のための、メタル化中間体であるAr-Mg-OR
3・LiOR
2・aDonor、HetAr-Mg-OR
3・LiOR
2・aDonor、Ar
2Mg・LiOR
2・LiOR
3・aDonor、及びHetAr
2Mg・LiOR
2・LiOR
3・aDonorの使用。
【請求項11】
それぞれ一般式Hal-ArもしくはHal-HetArのハロゲン
化芳香族もしくはヘテロ芳香族
か、またはそれぞれ一般式R
8S-ArもしくはR
8S-HetArのチオレート官能化芳香族もしくはヘテロ芳香族との
、交換反応のための、請求項10に記載の一般式R
1MgR
1
1-n(OR
3)
n・LiOR
2・(1-n)LiOR
3・aDonorの炭化水素可溶性のハロゲンまたはチオレート/マグネシウム交換試薬の使用であって、前記ハロゲン化もしくはチオレート官能化芳香族もしくはヘテロ芳香族が、F、Cl、Br、CN、CO
2R、OR、OH、NR
2、NHR、NH
2、PR
2、P(O)R
2、CONR
2、CONHR、SR、SH、CF
3、NO
2からなる群から選択される1つ以上の官能基を有
し、Rが、B、O、N、S、Se、P、F、Cl、Br、I、もしくはSiなどの1つ以上のヘテロ原子を含む置換もしくは無置換のC
4
~C
24
アリールもしくはC
3
~C
24
ヘテロアリール;直鎖もしくは分岐鎖の置換もしくは無置換のC
1
~C
20
アルキル、C
2
~C
20
アルケニル、もしくはC
2
~C
20
アルキニル、または置換もしくは無置換のC
3
~C
20
シクロアルキルである、使用。
【請求項12】
電子豊富な芳香族との交換反応のための、請求項11に記載の一般式R
1MgR
1
1-n(OR
3)
n・LiOR
2・(1-n)LiOR
3・aDonorの炭化水素可溶性のハロゲンまたはチオレート/マグネシウム交換試薬の使用。
【請求項13】
ピロール、フラン、チオフェン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、トリアゾール、インダゾール、インドールからなる群から選択される電子豊富なヘテロ芳香族との交換反応のための、請求項11に記載の一般式R
1MgR
1
1-n(OR
3)
n・LiOR
2・(1-n)LiOR
3・aDonorの炭化水素可溶性のハロゲンまたはチオレート/マグネシウム交換試薬の使用。
【請求項14】
(a)ハロゲン化芳香族またはヘテロ芳香族が、ブロモベンゼン、ブロモトルエン、ブロモアニソール、ブロモ-N,N-ジメチルアニリン、1-ブロモ-3,5-ジメトキシベンゼン、ブロモナフタレン、ブロモフェナントレン、ブロモチオフェン、ブロモピリジン、ブロモベンゾチオフェン、ブロモベンゾフラン、1,2-ジブロモシクロペンタ-1-エン、
2-クロロアニソール、1,2-クロロメトキシナフタレン、2,3-クロロメトキシナフタレンおよび1,5-ジクロロ-2-メトキシ-4,6-ジメチルベンゼンからなる群から選択される、それぞれ一般式Hal-ArまたはHal-HetArのハロゲン化芳香族またはヘテロ芳香族か、或いは、(b)tert-ブチル2-(メチルチオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル2-(フェニルチオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル4-メチル-2-(フェニルチオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル2-(2-((4-メトキシフェニル)チオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル2-((4-フルオロフェニル)チオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル2-(フェニルチオ)ピロリジン-1-カルボキシレート、2-(フェニルチオ)ピリジンからなる群から選択される
、硫黄官能基を有する窒素含有ヘテロ芳香族、との交換反応のための、請求項12に記載の一般式R
1
MgR
1
1-n
(OR
3
)
n
・LiOR
2
・(1-n)LiOR
3
・aDonorの炭化水素可溶性のハロゲンまたはチオレート/マグネシウム交換試薬の使用。
【請求項15】
aが0.5~1.5の値を有する、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族またはヘテロ芳香族中のハロゲンまたはチオレート官能基をマグネシウムに交換するための炭化水素可溶性試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化有機マグネシウムは、有機合成における重要中間体として重要な役割を果たしている。Victor Grignardによる発見以来、これらの化合物は現代の有機合成において極めて重要である。これらは、典型的には、マグネシウムチップや活性化されたマグネシウム粉末の形態のマグネシウムを直接挿入することにより、あるいは塩化リチウムの存在下のマグネシウムチップにより調製される。しかしながら、これらの反応の不均一な性質のため、実験室から大規模製造及び産業利用への移行が困難である。ニトリルやエステルなどの官能基は攻撃されて分解されるため、官能基を有するグリニャール化合物はこの方法では調製できないことが多い。アレーン及びヘテロアレーンの直接的マグネシウム化は、TMPMgCl・LiClやTMP2Mg・2LiCl(TMP=2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)などのTHFに非常に溶けやすいヒンダードマグネシウムアミドを使用することにより達成することができる。あるいは、ハロゲン化有機マグネシウムは、アリールまたはヨウ化ヘテロアリールのヨウ化物または臭化物を特定のハロゲン化アルキルマグネシウムと(Rieke,D.R.,Sell,M.S.In Handbook of Grignard reagents(Eds.:G.S.Silvermann,P.E.Rakita)1996)、あるいはそれよりもよいターボグリニャール試薬(i-PrMgCl・LiCl)と(Krasvoskiy,A.;Knochel P.;Angew.Chem.Int.Ed.2004,43,3333)、反応させることによるハロゲン-マグネシウム交換によって調製することができる。ターボグリニャール試薬は、エーテルを含む溶媒(THF等)の溶液として入手することができ、その後の反応もエーテル系溶媒を使用して行われる。
【0003】
非極性溶媒(炭化水素)中での有機マグネシウム化合物の合成方法はわずかしか知られていない(Chtcheglova,L.;Carlotii,S.;Deffieux,A.;Poirier,N.;Barbier,M.;Fr Demanden 2003,FR 2840901A1;20031219,及びBaillie,E.S..;Bluemke,T.D.;Clegg,W.;Kennedy,A.R.;Klett,J.;Russo,L.;de Tullio,M.;Hevia E.Chem.Comm.2014,50,12859)。例えば、ジアルキルマグネシウム化合物(R2Mg)は、アルファ位に分岐を有する長鎖ハロゲン化アルキルのC-ハロゲン結合にマグネシウムを直接挿入することによって調製される。更に、ベンゼン中で調製されたシリル置換基を有する混合カリウム-マグネシウムアート錯体(Me3SiCH2)3MgK)を、ヘキサン中でのアリールマグネシアート生成のための強塩基として使用できることが知られている(Hevia,E.Chem.Commun.2014,50,12859)。RMgHal(R=アルキル、アリール;Hal=Cl、Br、Iから選択されるハロゲン)からなる交換試薬は、ドナー溶媒を含まない炭化水素系溶媒中では知られていない。代わりに、グリニャール化合物は、
2 RMgHal → R2Mg + MgHal2
に従い、不均化生成物であるR2Mg及びMgCl2と平衡状態にある(「シュレンク平衡」)ことが知られており、平衡状態は溶媒のドナー数に依存する。ドナーを含まない溶媒、すなわち炭化水素の中では、解離生成物であるジアルキルマグネシウムとハロゲン化マグネシウムが事実上排他的に存在し、MgHal2がその不溶性のため析出する。
【0004】
無極性溶媒中のハロゲン/マグネシウム交換試薬溶液は、業界で大きな関心を集めるであろう。炭化水素が最も安価な溶媒の1つであるという事実とは別に、炭化水素溶媒を使用すると、生成物の調整が大幅に簡素化され、水性処理の際の非水溶性溶媒のリサイクル性が改善される。例えば、炭化水素(HC)は、テトラヒドロフラン(THF)とは異なり、水に溶けないか水と混和しないため、ほとんどの有機可溶性生成物を簡単に分離することができる。更に、結果として水相は非常に低い濃度の有機化合物を含んでおり、これは環境適合性にプラスの影響を有する。
【0005】
文献EP1582524B1には、一般式R*(MgX)n・LiYの試薬が記載されており、
式中、nは1または2であり;
R*は、B、O、N、S、Se、P、F、Cl、Br、I、若しくはSiなどの1つ以上のヘテロ原子を含む置換若しくは無置換のC4~C24アリール若しくはC3~C24ヘテロアリール;直鎖若しくは分岐の置換若しくは無置換のC1~C20アルキル、C2~C20アルケニル、若しくはC2~C20アルキニル;または置換若しくは無置換のC3~C20シクロアルキルであり;
X及びYは、互いに独立に、あるいはそれぞれ、Cl、Br、またはI(好ましくはCl);HalOn(n=3、4);式RCO2のカルボキシル;式ROのアルコキシドもしくはフェノサイド;式LiO-R-Oのジアルコキシド;式(R3Si)2Nのジシラジド;式SRのチオレート;RP(O)O2;またはSCOR(これらの式中のRは上で定義したR*と同様である);式RNHの直鎖若しくは分岐の置換若しくは無置換のC1~C20アルキルもしくはC3~C20シクロアルキルアミン;式R2Nのジアルキル/アリールアミン(Rは上で定義した通りであるか、R2Nはヘテロ環アルキルアミンを表す);式PR2のホスフィン(Rは上で定義した通りであるか、PR2はヘテロ環ホスフィンである);OnSR(n=2または3であり、Rは上で定義した通りである);またはNOn(n=2または3)である;またはXは上で定義した通りのR*である。
【0006】
この特許文献には、有機マグネシウム化合物とリチウム塩との混合物が有機ドナー溶媒の溶液として記載されている。その中で溶媒として炭化水素も主張されているが、一般式R*(MgX)n・LiYのそのようなHC可溶性生成物をどのように調製することができ、どのような具体的な用途が存在するのか示されていない。
【発明の概要】
【0007】
本発明の課題は、ハロゲンまたはチオレートをマグネシウムと交換するための炭化水素可溶性試薬、それらの製造方法、及びそれらの使用を示すことであり、これらの試薬は、先行技術によればハロゲン/マグネシウム交換原理によってはマグネシウム化できないこのような基質のメタル化に特に利用可能であろう。これらは、まず第一に、電子が豊富な芳香族及びヘテロ芳香族である。更に、炭化水素に可溶性の交換活性な化合物の特別な実施形態は、塩素またはチオレート官能基を交換することにより、クロロアリールまたはチオラトアリールなどのわずかしか反応性を有さない基質をマグネシウム化できなければならない。
【0008】
本発明によれば、この課題は、一般式R
1MgR
1
1-n(OR
3)
n・LiOR
2(1-n)LiOR
3・aDonorの炭化水素可溶性試薬によって解決され、式中、R
1はC
1~C
8アルキルであり、OR
2及びOR
3は同じまたは異なり、3~18個の炭素原子を有する一級、二級、または三級のアルコキシ基を表し、R
2及び/またはR
3はその一部にアルコキシ置換基OR
4を含むことができ;aは0~2の値が想定されており、nは0~1の任意の値が想定されており、Donorは少なくとも2つの窒素原子を含む有機分子である。nは0または1の値を有することが好ましい。これらの化合物は、一般的にハロゲンまたはチオレート官能基をマグネシウムと交換することができる。驚くべきことに、n=1で
ある本発明による交換試薬は、それらのグリニャール類似構造及び組成を維持しながらも炭化水素への良好~優れた溶解性を示し、その結果、
【数1】
に従う不均化を生じないことが見出された。
【0009】
n=0のジアルキルマグネシウム含有試薬は、典型的には、炭化水素への優れた溶解性も示す。
【0010】
R1は、好ましくは1~8個のC原子からなるアルキル基である。OR2とOR3は、独立に:
a)tert-アルコキシ、
b)sec-アルコキシ、
c)3~12個のC原子からなる一級アルコキシOCH2CHR4R5(式中のアルコキシ残基はO官能基に対して2位に分岐を有し、R4とR5は独立に1~8個のC原子を有するアルキルラジカルを表す)、
d)別のアルコキシ官能基を含む一般式O(CHR6)bOR7のアルコキシ(式中、R6はHであるか1~6個のC原子を有するアルキルラジカルであり、このアルキルラジカルは直鎖であるか、O官能基に対して3位以上の位置に分岐を有し、R7は2~12個のC原子を有する直鎖または分岐のアルキルラジカルであり、bは1~4の整数である)、
を表し、
Donorはジアミンまたはトリアミンであり、aは好ましくは0.5~1.5の値を表す。
【0011】
残基R1は、好ましくはイソプロピル(i-Pr)、n-ブチル(n-Bu)、sec-ブチル(s-Bu)、tert-ブチル(t-Bu)、またはn-ヘキシル(n-Hex)である。tert-ブチレート(OtBu)、tert-アミレート(OtAm)、及び2,3-ジメチル-ペンタン-3-オレート(OC(CH3)Et(iPr))がtert-アルコキシドとして特に好ましい。好ましくは、一級アルコキシドOCH2CHR4R8として2-エチルヘキサノレート(OCH2CH(Et)Bu)が使用される。sec-アルコキシドは、例えばOCH(CH3)Hexであってもよい。OCH2CH2OBu、OCH2CH2OCH2CH(Et)Bu、及びOCH(Me)CH2OBuは、別のアルコキシ官能基を含むアルコキシドとして好ましい。ジアミン塩基は、例えばテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)である。例示的なトリアミンは、ビス(2-ジメチルアミノエチル)メチルアミン(PMDETA)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
交換試薬は、炭化水素または炭化水素混合物中のMgに関して少なくとも0.5mol/kgの濃度を有する溶液であって1重量%以下のエーテル系溶媒を含む溶液として存在することが特に好ましい。
【0013】
交換試薬は炭化水素の溶液として存在することが更に好ましく、この炭化水素は、芳香族及び脂肪族からなる群から選択される。本発明による溶液は、好ましくは、0.001~0.5重量%の量の酸素含有ドナー溶媒のみ含む。特に好ましい芳香族溶媒は、トルエン、エチルベンゼン、及びキシロールである。好ましい脂肪族は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、及び市販の石油エーテル混合物である。
【0014】
ハロゲンまたはチオレート官能基を一般式R1MgR1
1-n(OR3)n・LiOR2(1-
n)LiOR3・aDonorのマグネシウムと交換するための本発明による炭化水素可溶性試薬は、以下の反応式に従って、一般式Hal-Ar及びHal-HetArのハロゲン化芳香族またはヘテロ芳香族、並びに一般式R8S-Ar及びR8S-HetArのチオレートを用いた交換反応に使用される:
n=1の場合:
R1MgOR3 . LiOR2 . aDonor + Hal-Ar → R1-Hal + Ar-Mg-OR3 . LiOR2 . aDonor
または
R1MgOR3 . LiOR2 . aDonor + Hal-HetAr → R1-Hal + HetAr-Mg-OR3 . LiOR2 . aDonor
n=0の場合:
R1MgR1 . LiOR2
. LiOR3
. aDonor + 2 Hal-Ar → 2 R1-Hal + Ar2Mg . LiOR2 . LiOR3
. aDonor
または
R1MgR1 . LiOR2
. LiOR3
. aDonor + 2 Hal-HetAr → 2 R1-Hal + HetAr2Mg . LiOR2 . LiOR3
. aDonor
【0015】
チオレート官能基を有する基質にも同じ式が同様に適用される(この場合、HalがSR8に置き換えられる)。
【0016】
ハロゲン化またはチオレート官能化芳香族またはヘテロ芳香族は、F、Cl、Br、CN、CO2R、OR、OH、NR2、NHR、NH2、PR2、P(O)R2、CONR2、CONHR、SR、SH、CF3、NO2からなる群から選択される1つ以上の官能基を有することができる。
【0017】
通常、n=1の交換試薬は、Br、I、またはSR8基の交換に使用されるものの、n=0のより反応性が高いジアルキルマグネシウムを主体とする試薬は、芳香族またはヘテロ芳香族中の塩素官能基のマグネシウム化のためにも使用することができる。マグネシウム化に特に容易に利用可能なクロロ芳香族及びクロロヘテロ芳香族は、塩素に隣接する位置に少なくとも1つのアルコキシ官能基を有する。例としては、2-クロロアニソール;1,2-クロロメトキシナフタレン;2,3-クロロメトキシナフタレン;1,5-ジクロロ-2-メトキシ-4,6-ジメチルベンゼンが挙げられ、マグネシウム化は、ハロゲン化またはチオレート官能化芳香族化合物またはヘテロ芳香族化合物上のハロゲンまたはチオレート置換基の交換である。
【0018】
炭化水素可溶性のハロゲン/マグネシウム交換試薬は、それぞれ一般式Hal-AtまたはHal-HetArの電子豊富なハロゲン化芳香族及びヘテロ芳香族との交換反応のために使用されることが特に好ましい。
【0019】
電子豊富な芳香族及びヘテロ芳香族は、これまでに知られているTHF溶液中の交換試薬によってのみ不完全にまたは非常にゆっくり攻撃される(L.Shi,Y.Chu,P.Knochel,H.Mayr,J.Org.Chem.2009,74,2760;L.Shi,Y.Chu,P.Knochel,H.Mayr,Org.Lett.2009,11,3502):
【化1】
【化2】
【0020】
1時間を超える反応時間は、実用のためは不利であり、コストがかかる。電子豊富な芳香族としては、誘起電子供与性基(例えばアルキル基、フェニル基)またはメソメリー電子供与基(例えば-NR2、-NHR、NH2、-OH、-OR、-NHC(O)-Rなど)を含む化合物が挙げられる。電子豊富なヘテロ芳香族としては、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、インダゾール、インドールなどの五員環化合物が挙げられる。
【0021】
特に好ましい例は、ブロモベンゼン、ブロモトルエン、ブロモアニソール、ブロモ-N,N-ジメチルアニリン、1-ブロモ-3,5-ジメトキシベンゼン、ブロモナフタレン、ブロモフェナントレン、ブロモチオフェン、ブロモピリジン、ブロモベンゾチオフェン、ブロモベンゾフラン、1,2-ジブロモシクロペンタ-1-エン、2-クロロアニソール、1,2-クロロメトキシナフタレン、2,3-クロロメトキシナフタレン、1,5-ジクロロ-2-メトキシ-4,6-ジメチルベンゼンからなる群から選択されるハロゲン化芳香族またはヘテロ芳香族である。
【0022】
本発明による交換試薬は、好ましくは、硫黄官能基を有する窒素含有ヘテロ芳香族のチオレート/マグネシウム交換にも使用される。例としては、tert-ブチル2-(メチルチオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル2-(フェニルチオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル4-メチル-2-(フェニルチオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル2-(2-((4-メトキシフェ
ニル)チオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル2-((4-フルオロフェニル)チオ)ピペリジン-1-カルボキシレート、tert-ブチル2-(フェニルチオ)ピロリジン-1-カルボキシレート、2-(フェニルチオ)ピリジンが挙げられる。
【0023】
驚くべきことに、文献EP1582524B1から公知のTHF中の交換試薬は注目に値する反応を示さなかった一方で、トルエン中に溶解させた本発明の交換試薬、例えば試験系として使用した4-ブロモアニソールは、室温で15分以内に事実上完全なメタル化が可能であることが見出された。GC収率は、求電子剤である水(H
2O)との反応後に決定される:
【表1】
【0024】
様々な炭化水素可溶性交換試薬が調べられた。一級及び二級アルコール残基を有する製品は4-ブロモアニソールと同様の反応を示した一方で、三級アルコールを有する製品はやや遅い反応挙動を示した。例外は5-ノナノレート(-OCHBu
2)であり、これは
立体障害のため穏やかな反応条件下では明らかに反応をもたらさなかった(表2)。
【表2】
【0025】
sec-BuMgOCH
2CH(Et)Bu・LiOCH
2CH(Et)Buは、様々な官能基を有するブロモベンゼンのメタル化について試験され、特に有利な交換試薬であることが証明された(表3)。
【表3-1】
【表3-2】
【0026】
この試薬は、ヘテロアリール化合物上でのMg/Br交換についても試験された(表4):
【表4】
【0027】
下の
図3は、メタル化された芳香族化合物をクロスカップリング反応に使用した結果を示している。
【化3】
【0028】
更に、炭化水素可溶性のハロゲン/マグネシウム交換試薬は、末端アルキンの脱プロトン化のために使用することができる。有機中間体、好ましくはカルビノールは、続いて求電子試薬、例えばカルボニル化合物と反応させることにより得ることができる。脱プロトン化の試験系としてエチニルトルエンを使用した(
図4):
【化4】
【0029】
本発明による交換試薬は、以下の3つの代替方法を使用して得られる:
1)(n+1)当量のジアルコキシマグネシウム化合物R2O-Mg-OR3を、炭化水素含有溶媒または溶媒混合物中でアルキルリチウム化合物R1Liと反応させる方法であって、
式中、
R1は好ましくは1~8個のC原子からなるアルキル基であり、
nは好ましくは0または1の値が想定され、
OR2とOR3は、独立に:
a)tert-アルコキシ、
b)sec-アルコキシ、
c)3~12個のC原子からなる一級アルコキシOCH2CHR4R5(式中のアルコキシ残基はO官能基に対して2位に分岐を有し、R4とR5は独立に1~8個のC原子を有するアルキルラジカルを表す)、
d)別のアルコキシ官能基を含む一般式O(CHR6)bOR7のアルコキシ(式中、R6はHであるか1~6個のC原子を有するアルキルラジカルであり、このアルキルラジカルは直鎖であるか、O官能基に対して3位以上の位置に分岐を有し、R7は2~12個のC原子を有する直鎖または分岐のアルキルラジカルであり、bは1~4の整数である)、
を表していてもよい方法:
R2O-Mg-OR3 + (n+1) R1-Li → R1MgR1
1-n(OR3)n
. LiOR2
. (1-n) LiOR3
または、
2)炭化水素含有溶媒または溶媒混合物中で、ジアルコキシマグネシウム化合物R1-Mg-R9を、n=1については1当量のアルコールR3OH及び1当量のリチウムアルコキシド化合物R2OLiと反応させる、あるいはn=0については合計2当量のリチウムアルコキシド化合物R2OLi及び/またはR3OLiを添加する方法;式中、R9はR1と同じまたは異なる1~8個のC原子からなるアルキルであるか、置換基R1~R8の同じ説明が上述の通りに適用される:
1a. R1-Mg-R9 + R3-OH → R1-Mg-OR3 + HR9
1b. R1-Mg-OR3 + LiOR2 → R1-Mg-OR3
. LiOR2
2. R1-Mg-R9 + LiOR2 + LiOR3 → R1-Mg-R9
. LiOR2
. LiOR3
または、
3)炭化水素含有溶媒または溶媒混合物中で、ジアルコキシマグネシウム化合物R1-Mg-R9を1当量のジアルコキシマグネシウム化合物R5O-Mg-OR3と反応させ、この反応混合物に0.5~1.5当量のリチウムアルコキシド化合物R2OLiを添加する方法;同様に置換基R1~R8の定義は上述した通りである。
1. R1MgR9 + R5O-Mg-OR3 → 2 [(R3O)0,5(R5O)0,5)]Mg[R1
0,5R9
0,5]
2. [(R3O)0,5(R5O)0,5)]Mg[R1
0,5R9
0,5]+ LiOR2 → [(R3O)0,5(R5O)0,5)]Mg[R1
0,5R9
0,5] . LiOR2
【0030】
以下の置換基の定義が適用される:
R及びR*:B、O、N、S、Se、P、F、Cl、Br、I、もしくはSiなどの1つ以上のヘテロ原子を含む置換もしくは無置換のC4~C24アリールもしくはC3~C24ヘテロアリール;直鎖もしくは分岐鎖の置換もしくは無置換のC1~C20アルキル、C2~C20アルケニル、もしくはC2~C20アルキニル;または置換もしくは無置換のC3~C20シクロアルキル
R1、R4、R5、R9:1~8個のC原子からなるアルキル基
R2、R3:アルコキシ置換基OR4を含む
R6:Hであるか1~6個のC原子を有するアルキルラジカルであり、このアルキルラジカルは直鎖であるか、O官能基に対して3位以上に分岐を有する
R7:2~12個のC原子を有する直鎖または分岐のアルキルラジカル
R8:アルキルまたはアリール、好ましくはフェニル
OR2及びOR3:3~18個の炭素原子を含む同じまたは異なる一級、二級、または三級
のアルコキシ基
Hal-Ar:ハロゲン化芳香族
Hal-HetAr:ハロゲン化ヘテロ芳香族
R8S-Ar:アリールチオレート
R8S-HetAr:ヘテロアリールチオレート
【0031】
方法は、合成aからの反応混合物に、Mgに対してa当量のDonorを添加することで改善することができ、このDonorはジアミンまたはトリアミンであり、aは0~2、好ましくは0.5~1.5の値を有する。
【0032】
有利なことには、炭化水素含有溶媒は全ての方法で使用される。
【0033】
メタル化された中間体であるAr-Mg-OR3・LiOR2・aDonor、HetAr-Mg-OR3・LiOR2・aDonor、Ar2Mg・LiOR2・LiOR3・aDonor、及びHetAr2Mg・LiOR2・LiOR3・aDonorは、好ましくはCCもしくはCNカップリング反応(熊田型クロスカップリング、主にPdにより触媒される)または求電子剤との反応による付加反応のために使用される。適切な求電子剤は、カルボアニオン反応中心と反応する全ての化合物、例えばカルボニル化合物(アルデヒド、ケトン、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド)、ニトリル、イミン、ハロゲン、ハロゲン化合物、ジスルフィド、水などである。
【0034】
本発明を、例示的な実施形態を参照しつつ以下でより詳しく説明する。
【実施例】
【0035】
基本情報
全ての反応は、ベークアウトしたガラス製品中でアルゴン雰囲気で行った。無水溶媒または試薬の移動に使用されたシリンジは、最初にアルゴンでフラッシュした。トルエン及びTHFは連続的に還流させ、窒素雰囲気下でナトリウムベンゾフェノンを通して蒸留したてのものを使用した。溶媒は、モレキュラーシーブを使用して乾燥状態で保管した。TMEDA及び2-エチルヘキサノールは、水素化カルシウムを使用して新たに蒸留した。収率は、1H-NMR(25℃)及びガスクロマトグラフィー(GC)により決定した、95%よりも純度が高いと推定される単離された化合物に関するものである。化合物は、シリカゲルを使用したカラムクロマトグラフィー(0.040~0.063mmのSiO2、230~400メッシュASTM)により精製した。NMRスペクトルはCDCl3中で測定し、化合物は100万分の1(ppm)単位で測定した。シグナルカップリングについての略語は次の通りである:s,シングレット;d,ダブレット;t,トリプレット;q,カルテット;m,マルチプレット;br,ブロード。質量スペクトル及び高分解能質量スペクトル(HRMS)は、電子イオン化(EI)を使用して決定した。GCスペクトルは、Hewlett Packardタイプの6890または5890シリーズの装置(Hewlett Packard、5%フェニルメチルポリシロキサン、長さ:10m、直径:0.25mm、膜厚:0.25μm)を使用して測定した。全ての試薬は市販品供給元から購入した。マグネシウム-2-エチルヘキサノエートは、Albemarle(Frankfurt/Hoechst)から入手した。
【0036】
実施例1:マグネシウムビス(2-エチルヘキサノレート)とsec-BuLiからのsec-BuMgOCH2CH(Et)Bu・LiOCH2CH(Et)Buの調製
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥シュレンクフラスコに、Mg[OCH2CH(Et)Bu]2(ヘプタン中0.85M、15.0mL、12.8mmol)を入れ、反応混合物を0℃に冷却した。次いで、s-BuLi(ヘキサン中1.21M、10.6mL、12.8mmol)を1滴ずつ添加した。添加が完了した後
、反応混合物を25℃にし、反応溶液を2時間撹拌した。このプロセスでわずかに黄色がかった溶液が形成された。その後、溶媒を真空下で留去することで淡黄色の泡を得た。0℃で絶えず撹拌しながら蒸留したてのトルエン(約9mL)を添加した。この方法で調製されたsec-BuMgOCH2CH(Et)Bu・LiOCH2CH(Et)Buを、0℃でヨウ素滴定した。得られた透明な溶液の濃度は、0.80~1.3Mのモル濃度に相当した。
【0037】
実施例2:ジブチルマグネシウム、ビス(2-エチルヘキサノール)、及びsec-BuLiからのsec-BuMgOCH2CH(Et)Bu・LiOCH2CH(Et)Buの調製
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥シュレンクフラスコに、n-Bu2Mg(ヘキサン中0.66M、15.0mL、9.9mmol)を入れた。次いで、氷冷下で0℃で滴下することにより、2-エチルヘキサノール(3.1mL、19.8mmol)をゆっくり添加した。熱を放出しながらゼラチン状の化合物が形成された。その後、この化合物を0℃でs-BuLi(ヘキサン中1.21M、8.18mL、9.9mmol)と混合した。添加が完了した後、反応混合物を25℃にし、反応溶液を2時間撹拌した。このプロセスでゼラチン状化合物が溶解し、わずかに黄色がかった溶液が形成された。次いで、溶媒を真空下で留去し、淡黄色の泡を得た。0℃で絶えず撹拌しながら蒸留したてのトルエン(約1mL)を添加した。
【0038】
実施例3:n-BuMgOCH2CH(Et)Bu・LiOCH2CH(Et)Buの調製
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥シュレンクフラスコに、Mg[OCH2CH(Et)Bu]2(ヘプタン中0.85M、15.0mL、12.8mmol)を入れ、反応混合物を0℃に冷却した。次いで、n-BuLi(ヘキサン中2.1M、6.1mL、12.8mmol)を1滴ずつ添加した。添加が完了した後、反応混合物を15℃にし、反応溶液を2時間撹拌した。このプロセスでわずかに黄色がかった溶液が形成された。その後、溶媒を真空で留去することで淡黄色の泡が得られる。0℃で絶えず撹拌しながら蒸留したてのトルエン(約9mL)を添加した。
【0039】
実施例4:トルエン中でのジブチルマグネシウム、ビス(2-エチルヘキサノール)、及びsec-BuLiからのsec-Bu2Mg・2LiOCH2CH(Et)Bu・PMDTAの調製
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥シュレンクフラスコに、n-Bu2Mg(ヘキサン中0.66M、15.0mL、9.9mmol)を入れた。次いで、氷冷下で0℃で滴下することにより、2-エチルヘキサノール(3.1mL、19.8mmol)をゆっくり添加した。熱を放出しながらゼラチン状の化合物が形成された。その後、この化合物を0℃でs-BuLi(ヘキサン中1.21M、16.36mL、19.8mmol)と混合した。添加が完了した後、反応混合物を25℃にし、反応溶液を2時間撹拌した。このプロセスでゼラチン状化合物が溶解し、わずかに黄色がかった溶液が形成された。次いで、溶媒を真空下で留去し、淡黄色の泡を得た。0℃で絶えず撹拌しながら蒸留したてのトルエン(約1mL)を添加した。
【0040】
実施例5:マグネシウムビス(2-エチルヘキサノレート)及びsec-BuLiからのsec-Bu2Mg・2LiOCH2CH(Et)Buの調製
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥シュレンクフラスコに、Mg[OCH2CH(Et)Bu]2(ヘプタン中0.85M、15.0mL、12.8mmol)を入れ、反応混合物を0℃に冷却した。次いで、sec-BuLi(ヘキサン中1.21M、21.2mL、25.6mmol)を1滴ずつ添加した。添加が完了した後、反応混合物を25℃にし、反応溶液を2時間撹拌した。このプロセスでわずかに黄色がかった溶液が形成された。その後、溶媒を真空下で留去することで淡黄色の泡を得た
。0℃で絶えず撹拌しながら蒸留したてのトルエン(約9mL)を添加した。その後、s-BuMg2・2LiOCH2CH(Et)Buを0℃でヨウ素滴定した。得られた透明な溶液の濃度は、0.60~0.85Mのモル濃度に相当した。
【0041】
実施例6:臭素-マグネシウム交換によるアリール及びヘテロアリールマグネシウムアルコキシド化合物の調製のための典型的な手順
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥フラスコに、それぞれのアリールまたはヘテロアリールブロミド(1.0当量)を入れ、乾燥トルエン(0.5M溶液)及びTMEDA(1.2当量)中に溶解させる。得られた溶液をそれぞれの指定温度で撹拌し、sec-BuMgOCH2CH(Et)Bu・LiOCH2CH(Et)Bu(1.2当量)を滴下により加える。臭素-マグネシウム交換の終了は、水でクエンチしたアリコートのGC分析(内部標準としてテトラデカンを使用)によって確認する。次いで、アリールまたはヘテロアリールマグネシウムアルコキシド化合物を、指定の条件下で求電子剤と反応させる。反応が完了した後、反応混合物を飽和NH4Cl水溶液でクエンチし、EtOAc(3×20mL)で抽出する。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、濃縮する。
【0042】
実施例7:塩素-マグネシウム交換によるジアリール及びジヘテロアリールマグネシウムアルコキシド化合物の調製のための典型的な手順
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥フラスコに、それぞれのアリールまたはヘテロアリールハロゲン(1.0当量)を入れ、乾燥トルエン中に溶解させ(約0.5M溶液)、PMDTA(0.6当量)と混合する。得られた溶液をそれぞれの指定温度で撹拌し、sec-Bu2Mg・2LiOCH2CH(Et)Bu(0.6当量)を滴下により加える。臭素-マグネシウム交換の終了は、水でクエンチしたアリコートのGC分析(内部標準としてテトラデカンを使用)によって確認する。次いで、アリールまたはヘテロアリールマグネシウムアルコキシド化合物を、指定の条件下で求電子剤と反応させる。反応が完了した後、反応混合物を飽和NH4Cl水溶液でクエンチし、EtOAc(3×20mL)で抽出する。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、濃縮する。
【0043】
実施例8:(2,5-ジメトキシフェニル)(フェニル)メタノールの調製
2-クロロ-1,4-ジメトキシベンゼン(0.14mL、1.00mmol)と、PMDTA(0.12mL、0.6mmol)と、トルエン(1mL)との混合物に、実施例7で規定した手順に従って25℃でsec-BuMg2・2LiOCH2CH(Et)Bu(トルエン中0.76M、0.79mL、0.6mmol、0.6当量)を滴下することにより加えた。45分後、ベンズアルデヒド(0.1mL、1.0mmol、1.2当量)を添加し、反応混合物を25℃で更に60分間撹拌した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、i-ヘキサン/酢酸エチル9:1)を使用して精製することで、表題の化合物を無色オイルとして得た(149mg、0.61mmol、61%)。
【0044】
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3): δ / ppm = 7.47 - 7.40
(m, 2H), 7.35 (t, J = 7.4, 2H), 7.30 - 7.25 (m, 1H), 6.89 (d, J = 2.9, 1H), 6.87 - 6.78 (m, 2H), 6.04 (d, J = 4.1, 1H), 3.77 (d, J = 3.6, 6H), 3.12 (d, J = 4.8, 1H)。
13C-NMR (101 MHz, CDCl
3): δ / ppm = 153.8, 151.0, 143.2, 133.2, 128.2, 127.3, 126.6, 114.1, 112.8, 111.9, 72.3, 56.0, 55.7。
MS (EI, 70 eV): m/z (%) = 244 (100), 226 (11), 167 (13), 165 (15), 139 (45), 105 (30), 91
(14), 79 (12), 77 (28), 43 (37)。
HRMS (EI): m/z [C
15H
16O
3]に対する計算値: 244.1099;実測値: 244.1095。
IR (ダイアモンド-ATR, 無希釈):
【化5】
= 2938, 2834, 1591, 1492, 1452, 1276, 1212, 1177, 1037, 831。
【0045】
実施例9:チオレート-マグネシウム交換によるヘテロアリールマグネシウムアルコキシド化合物の調製のための典型的な手順:
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥フラスコに、それぞれのチオレート官能化ヘテロアレーン(1.0当量)を入れ、乾燥トルエン(0.5M溶液)中に溶解させ、約3当量のTMEDAと混合する。得られた溶液を室温で撹拌し、sec-BuMgOCH2CH(Et)Bu・LiOCH2CH(Et)Bu(3.0当量)を滴下により加える(0.05mL/分)。チオレート-マグネシウム交換の終了は、水でクエンチしたアリコートのGC分析(内部標準としてテトラデカンを使用)によって確認する。次いで、ヘテロアリールマグネシウムアルコキシド化合物を、指定の条件下で求電子剤と反応させる。反応が完了した後、反応混合物を飽和NH4Cl水溶液でクエンチし、Et2O(3×20mL)で抽出する。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、濃縮する。
【0046】
実施例10:tert-ブチル2-アリル-4-メチルピペリジン-1-カルボキシレートの調製
tert-ブチル2-(メチルチオ)ピペリジン-1-カルボキシレート(92mg、0.30mmol)と、TMEDA(0.134mL、0.9mmol)と、トルエン(0.6mL)との混合物に、実施例9で規定した手順に従って25℃でsec-BuMgOCH2CH(Et)Bu・LiOCH2CH(Et)Bu(トルエン中1.10M、0.82mL、0.9mmol 3.0当量)を滴下することにより加えた(0.05mL/分)。4時間後、臭化アリル(78μL、0.9mmol、3.0当量)を0℃で添加し、反応混合物を-40℃まで冷却し、CuCN・2LiCl溶液(THF中1.0M、0.09mL、0.09mmol、0.3当量)と混合し、その後、混合物を25℃で更に14時間撹拌した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、i-ヘキサン/ジエチルエーテル95:5)を使用して精製し、表題の化合物を無色オイルとして得た(59mg、0.25mmol、83%)。
【0047】
1H-NMR (599 MHz, CDCl
3): δ / ppm = 5.77 (ddt, J = 17.2, 10.2, 7.2 Hz, 1H), 5.08 - 4.97 (m, 2H), 3.85 (tt, J = 8.3, 6.3 Hz, 1H), 3.73 (ddd, J = 13.9, 7.3, 3.2 Hz, 1H), 3.01 (ddd, J = 13.9, 10.3, 5.9 Hz, 1H), 2.40 (dddt, J = 14.2, 7.1, 5.9, 1.4 Hz, 1H), 2.24 (dtt, J = 13.5, 7.6, 1.1 Hz, 1H), 1.87 (ddtd, J = 13.3, 10.3, 7.2, 1.2 Hz, 1H), 1.73 - 1.68 (m, 1H), 1.68 - 1.62 (m, 1H), 1.45 (s, 8H), 1.20 - 1.12 (m, 1H), 1.12 - 1.06 (m, 1H), 0.98 (d, J = 6.8 Hz, 3H)。
13C-NMR (101 MHz, CDCl
3): δ / ppm = 155.4, 135.4, 116.7, 79.0, 53.0, 39.0, 37.4, 34.9, 31.1, 28.4, 26.1, 21.5。
MS (EI, 70 eV): m/z (%) = 166 (3), 143 (8), 142 (100), 98 (46), 57 (3), 56 (5)。
HRMS (EI): m/z [C
10H
16ON]に対する計算値: 166.1232;実測値: 166.1225。
IR (ダイアモンド-ATR, 無希釈):
【化6】
= 2976, 2928, 2872, 1688, 1642, 1478, 1456, 1408, 1392, 1364, 1350, 1332, 1304, 1278, 1246, 1178, 1148, 1094, 1070, 992, 912, 866, 770。
【0048】
実施例11:脱プロトン化によるアルキニルマグネシウムアルコキシド化合物の調製のための典型的な手順:
磁気撹拌子とセプタムを備えておりアルゴンで満たされている乾燥フラスコに、それぞれのアルキン(1.0当量)を入れ、乾燥トルエン(0.5M溶液)及びTMEDA(1.2当量)中に溶解させる。得られた溶液をそれぞれの指定温度で撹拌し、sec-BuMgOCH
2CH(Et)Bu・LiOCH
2CH(Et)Bu(1.2当量)を滴下により添加する。脱プロトン化の終了は、水でクエンチしたアリコートのGC分析(内部標準としてテトラデカンを使用)によって確認する。次いで、アルキニルマグネシウムアルコキシド化合物を指定の条件下で求電子剤と反応させる(
図4参照)。反応が完了した後、反応混合物を飽和NH
4Cl水溶液でクエンチし、EtOAc(3×20mL)で抽出する。合わせた有機相をNa
2SO
4で乾燥し、濾過し、濃縮する。
【0049】
実施例12:4-ヨードアニソールの調製
4-ブロモアニソール(0.06mL、0.50mmol)と、TMEDA(0.09mL、0.6mmol)と、トルエン(1mL)との混合物に、実施例7で規定した手順に従って25℃でsec-BuMgOCH2CH(Et)Bu・LiOCH2CH(Et)Bu(トルエン中0.80M、0.75mL、0.6mmol、1.2当量)を滴下することにより加えた。15分後、ヨウ素(1mLのTHF中に152mg、0.6mmol、1.2当量)を添加し、反応混合物を25℃で更に30分間撹拌した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、i-ヘキサン/酢酸エチル9:1)を使用して精製し、表題の化合物を白色固体物質として得た(81mg、0.35mmol、70%)。
【0050】
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3): δ / ppm = 7.63 - 7.49
(d, 2H), 6.76 - 6.61 (d, 2H), 3.78 (s, 3H)。
13C-NMR (101 MHz, CDCl
3): δ / ppm = 159.6, 138.3, 116.5, 82.8, 55.5。
MS (EI, 70 eV): m/z (%) = 234 (100), 191 (15), 92 (64)。
HRMS (EI): m/z [C
7H
7IO]に対する計算値: 233.9542;実測値: 233.9540。
IR (ダイアモンド-ATR, 無希釈):
【化7】
= 3006, 2966, 2938, 2837, 1586, 1569, 1486, 1456, 1444, 1436, 1397, 1287, 1248, 1179, 1175, 1102, 1028, 999, 833, 829, 813. 8。