(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】リチウムゲル電池における添加剤としての塩混合物の使用
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20231128BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231128BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231128BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231128BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20231128BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231128BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/136
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2020528031
(86)(22)【出願日】2018-11-19
(86)【国際出願番号】 FR2018052896
(87)【国際公開番号】W WO2019097189
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-27
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513306615
【氏名又は名称】ブルー ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】デシャン,マルク
(72)【発明者】
【氏名】ルキュイエ,マルゴー
(72)【発明者】
【氏名】ブシュ,ルノー
(72)【発明者】
【氏名】ロラン,ジュリアン
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/083655(WO,A1)
【文献】特表2013-525958(JP,A)
【文献】特開2005-197175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01M 10/052
H01M 4/13-4/1399
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの正極、少なくとも1つの非水電解質、及び、リチウム金属又はリチウム合金ベースの少なくとも1つの負極を備えたリチウム金属ゲル二次電池におけるイオン伝導促進剤としての下記i)、ii)の同時の使用であって:
i)モル数n1の式M
α(NO
3)
βの第1の塩S1
ii)モル数n2の式M’
γA
δの第2の塩S2
[式中、
- M及びM’は有機又は無機カチオンであり、M及びM’の少なくとも1つはリチウムカチオンであると理解され;
- Aはアニオンであり;
- α、β、γ及びδは、式M
α(NO
3)
β及びM’
γA
δの化合物の電気的中性が尊重されるものである。]
下記式(1):
【数1】
で定義される塩S1と塩S2のモル比(RM
S1/S2)が1.5より大きいことが理解され;
前記正極及び前記電解質は、一方又は両方がゲルであり、{電解質+正極}複合体を形成し、且つ、
前記電池が多硫化物イオンを含まず、
前記塩S1及び前記塩S2は前記電解質中及び/又は前記正極中に存在し、
前記塩S1と前記塩S2の合計濃度が1mol/L以上である、使用。
【請求項2】
以下を特徴とする請求項1に記載の使用:
1)電解質が、少なくとも1つの塩S1及び少なくとも1つの塩S2を含み、正極が塩S1及び塩S2のいずれも含まない;又は、
2)電解質が塩S1及び塩S2のいずれも含まず、正極が少なくとも1つの塩S1及び少なくとも1つの塩S2を含む;又は、
3)電解質が1つの塩S1のみを含み、正極が1つの塩S2のみを含む;又は、
4)電解質が1つの塩S2のみを含み、正極が1つの塩S1のみを含む;又は、
5)電解質及び正極が、それぞれ少なくとも1つの塩S1及び少なくとも1つの塩S2を含み、電池内のモル比RM
S1/S2が1.5より大きいことを条件に、塩S1と塩S2のモル比が電解質中(RM
S1/S2電解質)及び正極中(RM
S1/S2正極)で互いに同一であっても異なっていてもよい;又は、
6)電解質が塩S1と塩S2の1つのみを含み、正極が少なくとも1つの塩S1と少なくとも1つの塩S2を含む;又は、
7)電解質が少なくとも1つの塩S1と少なくとも1つの塩S2を含み、正極が塩S1と塩S2の1つのみを含む。
【請求項3】
モル比RM
S1/S2が10以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
塩S1及び塩S2の合計含有量が、前記{電解質+正極}複合体の質量に基づいて、0.5~30質量%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
塩S1及び塩S2のカチオンM及びM’が、アルカリ金属から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムから選択されることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
M及びM’が、共にリチウムカチオンであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
塩S1が、硝酸リチウムであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
アニオンAが、トリフラート、パークロレート、パーフルオレート、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、テトラフルオロボレート及びビス(オキサラト)ボレートから選択されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
塩S2が、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドから選択されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
混合物が、塩S1として硝酸リチウム、塩S2としてリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド又はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
少なくとも1つの正極、少なくとも1つの非水電解質、及び、リチウム金属又はリチウム合金ベースの少なくとも1つの負極を備えたリチウム金属ゲル二次電池用の非水ゲル電解質であって、
前記電池が多硫化物イオンを含まず、
前記電解質が、少なくとも1つの溶媒と、少なくとも1つのゲルポリマーと、少なくとも1つの下記i)、ii)の混合物を含み:
i)モル濃度C1、且つ、モル数n1の式M
α(NO
3)
βの第1の塩S1、及び、
ii)モル濃度C2、且つ、モル数n2の式M’
γA
δの第2の塩S2
[式中、
- M及びM’は有機又は無機カチオンであり、M及びM’の少なくとも1つはリチウムカチオンであると理解され;
- Aはアニオンであり;
- α、β、γ及びδは、式M
α(NO
3)
β及びM’
γA
δの化合物の電気的中性が尊重されるものである。];
塩S1及び塩S2の合計モル濃度[C1+C2]が、
1~10mol/Lの範囲内にあり;
下記式(1):
【数2】
で定義される塩S1と塩S2のモル比(RM
S1/S2)が1.5より大きく;
前記電解質中の塩S1の濃度C1は1mol/L以上であることを特徴とする、電解質。
【請求項13】
1つ以上の溶媒が、直鎖状又は環状のエーテル、カーボネイト、含硫黄溶媒、直鎖状又は環状のエステル及びニトリルから選択されることを特徴とする、請求項12に記載の電解質。
【請求項14】
1つ以上のゲルポリマーが、ポリオレフィン;エチレンオキサイドのホモポリマー及びコポリマー並びにそれらの混合物;ハロゲン化ポリマー;スチレンのホモポリマー及びコポリマー並びにそれらの混合物;ビニルポリマー;アニオン性非電子伝導性ポリマー;ポリアクリレート;酢酸セルロース;ポリアミド;ポリエステル;ポリウレタン;ポリビニルアルコール並びにそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項12又は13に記載の電解質。
【請求項15】
1つ以上のゲルポリマーが、前記電解
質の総質量に基づいて、10~60質量%であることを特徴とする、請求項12~14のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項16】
少なくとも1つの正極、少なくとも1つの非水電解質、及び、リチウム金属又はリチウム合金ベースの少なくとも1つの負極を備えたリチウム金属ゲル二次電池用のゲル状の複合正極であって、
前記電池が多硫化物イオンを含まず、
前記複合正極は、リチウムイオンを可逆的に挿入することが可能な少なくとも1つの正極活物質と、少なくとも1つのポリマーバインダーと、少なくとも1つの溶媒と、少なくとも1つのゲルポリマーと、少なくとも1つの下記i)、ii)の混合物を含み:
i)モル濃度C1、且つ、モル数n1の式M
α(NO
3)
βの第1の塩S1;及び、
ii)モル濃度C2、且つ、モル数n2の式M’
γA
δの第2の塩S2
[式中、
- M及びM’は有機又は無機カチオンであり、M及びM’の少なくとも1つはリチウムカチオンであると理解され;
- Aはアニオンであり;
- α、β、γ及びδは、式M
α(NO
3)
β及びM’
γA
δの化合物の電気的中性が尊重されるものである。];
前記混合物は、
- 塩S1及び塩S2の合計モル濃度[C1+C2]が、
1~10mol/Lの範囲内にあり;
下記式(1):
【数3】
で定義される塩S1と塩S2のモル比(RM
S1/S2)が1.5より大き
い、
正極。
【請求項17】
塩S1及び塩S2の混合物が、前記正極の総質量に基づいて0.5~10質量%であることを特徴とする、請求項16に記載の正極。
【請求項18】
正極活物質が、正極材料の総質量に対して55~90質量%であることを特徴とする請求項16又は17に記載の正極。
【請求項19】
集電体上に堆積されていることを特徴とする、請求項16~18のいずれか一項に記載の正極。
【請求項20】
正極活物質が、リン酸鉄リチウムから選択されることを特徴とする、請求項16~19のいずれか一項に記載の正極。
【請求項21】
正極、リチウム金属又はリチウム合金をベースとする負極、及び、前記正極と前記負極の間に配置された電解質を備えるリチウムゲル電池であって、以下の特徴を有する電池: 多硫化物イオンを含まない;そして、
i)モル数n1の式M
α(NO
3)
βの第1の塩S1、及び、ii)モル数n2の式M’
γA
δの第2の塩S2を含む
[式中、
- M及びM’は有機又は無機カチオンであり、M及びM’の少なくとも1つはリチウムカチオンであると理解され;そして、
- Aはアニオンであり;
- α、β、γ及びδは、式M
α(NO
3)
β及びM’
γA
δの化合物の電気的中性が尊重されるものである。];
下記式(1):
【数4】
で定義される塩S1と塩S2のモル比(RM
S1/S2)が1.5より大きい;
前記塩S1及び塩S2は、互いに独立して、前記電池の最初の充放電サイクルの前に、電解質中及び/又は正極中に無関係な状態で存在する;
前記塩S1と前記塩S2の合計濃度が1mol/L以上である;
前記正極及び前記電解質の一方及び/又は他方はゲルである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の一般的な技術分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、多硫化物イオンを含まないリチウム金属ゲル二次電池における、共アニオンとしての硝酸イオンの使用に関する。特に、本発明は、リチウム金属ゲル二次電池における、硝酸アニオン(NO3
-)を含む第1の塩と、硝酸以外のアニオンを含む第2の塩(第1の塩及び第2の塩の少なくとも1つがリチウム塩である)の、イオン伝導促進剤としての同時の使用に関する。また本発明は、前記第1の塩と前記第2の塩の混合物を含むリチウムゲル電池、該混合物を含む非水ゲル電解質、及び、前記混合物を含むリチウム電池の正極に関する。
【0003】
リチウム電池は、特に自動車における使用、及び、定置型電力貯蔵(stationary storage of electrical energy)用に適している。
【0004】
リチウム電池の中でも、リチウム金属ポリマー(LMP)電池は、通常、薄膜を重ね合わせた集合体の形態の「全固体」電池である。それらは4つの機能性フィルムで構成されている:i)電池の放電中にリチウムイオンを供給する、リチウム金属製又はリチウム合金製の負極(アノード);ii)リチウムイオンを伝導する固体高分子電解質;iii)リチウムイオンが挿入されたレセプタクルとして機能する電極活物質からなる正極(カソード);及び、iv)正極と接触して電気的接続を提供する集電体。
【0005】
固体高分子電解質は、通常、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)ベースのポリマーと、少なくとも1つのリチウム塩で構成される;正極は、通常、その作動電位がLi+/Liに対して4V未満の材料、例えば、金属酸化物[例えば、V2O5,LiV3O8,LiCoO2,LiNiyMnxCozO2(x+y+z=1)(例えば、1/3,1/3,1/3、及び、0.6,0.2,0.2の化合物),LiNiO2,LiMn2O4及びLiNi0.5Mn0.5O2等]又はLiMPO4型のリン酸塩(式中、Mは、Fe、Mn、Co、Ni及びTiの群から選択される金属カチオン又はこれらのカチオンの組み合わせ)、例えばLiFePO4であり、さらに炭素とポリマーを含む;そして、集電体は、通常、金属箔からなる。イオン伝導性は、固体電解質に使用されるポリマーにリチウム塩を溶解することによって確保される。
【0006】
リチウム電池、特にLMP電池は多くの利点を有する。
【0007】
第一に、LMP電池の質量エネルギー密度は120~180Wh/kg程度であり、すなわち車用の鉛蓄電池(30~50Wh/kg)の2.5倍以上のエネルギー密度である。LMP電池はメモリー効果を有さないため、他の技術(Ni-Cd)の場合のように、充電する前に完全に放電させる必要はない。最後に、LMP電池はリチウムイオン電池と同じ電圧(約3.4V)で、メンテナンス不要で、寿命は約10年である。これは商業的に興味深く、電気牽引を必要とする用途に適している。
【0008】
しかしながら、LMP電池は大きな欠点を有する。それらを使用するためには、約60~80℃の温度で保つ必要がある。これは、車両が動いていないときには車両を電源に接続したままにすることで、それらの充電を保つことがほぼ必要であることを意味する。そうしないと、LMP電池は温度管理のために数日で消耗する。
【0009】
この問題を克服するための解決策の1つは、LMP電池と同様に、リチウム金属箔又はリチウム合金で作られた負極と、リチウムイオンを挿入可能な材料で作られた正極とを備えたリチウム電池を使用することであるが、この電池では、高分子電解質はゲル電解質に置き換えられる(リチウム金属ゲル電池)。実際、これらの電池の動作温度はLMP電池に比べて低く、特に0~60℃程度である。しかし、これらの電池の動作中には、負極の表面にリチウムの泡(lithium foam)が形成される。このリチウムの泡は、負極の電着の質の悪さに起因し、その電池の寿命に影響を与える。特に、リチウム電極表面のパッシベーション層の堅牢性の欠如が原因である。
【0010】
実際、電池が動作しているときには、固体電解質界面「Solid Electrolyte Interface(SEI)」と呼ばれるパッシベーション層が負極上に形成される。このパッシベーション層は、電池の第1サイクル目で負極表面の電解質が還元され、電解質中に存在するリチウムイオンの一部が消費されることによって生成される。このパッシベーション層は、負極の適切な機能に必要不可欠であり、その特性は負極の将来の性能やそれを含む電池の性能を決定する要因となる。それは一定の特性を有する必要がある:i)リチウムイオンを十分に伝導すること;ii)電子が伝導しないこと;及びiii)機械抵抗が良好であること。パッシベーション層の特性が低すぎる場合、電池の容量及び/又はクーロン効率の低下が進み、その寿命が短くなる。
【0011】
リチウム金属の負極を備えたリチウム電池におけるパッシベーション層の特性を改善するための様々な解決策が既に提案されており、特に電解質組成物に添加剤を添加することが特に提案されている。
【0012】
特定の例としては、例えば、H.Otaら(非特許文献1)に記載されるように、炭酸ビニレンの添加である。
【0013】
しかしながら、これらの解決策は完全に満足できるものではない。特に、リチウム電池に通常使用されるリチウム塩は依然として高価であり、当該添加剤の存在下であっても、サイクル数が100サイクル未満に制限されているためである。
【0014】
またリチウム・硫黄電池の電解質には添加剤として硝酸リチウムを使用することも知られている。リチウム・硫黄電池は、リチウム金属又はリチウム系の合金をベースとする負極と、一般的に多孔質炭素から作られた正極とを備え、硫黄又は硫黄含有有機化合物をベースとする正極活物質を含む。前記電極は、溶媒中の溶液中にリチウムイオンを含む電解質を含浸させたセパレータによって分離されている。リチウム・硫黄電池は、最も有望な電気化学的エネルギー貯蔵システムの1つであり、その電池は、理論的には、それぞれ1675mAh/gsulfurと、2600Wh/kgsulfurという高い質量比容量と、高い質量エネルギー密度を達成することが可能である。しかし、リチウム・硫黄電池への関心は、正極内の硫黄の還元により発生する多硫化物イオンの存在に起因するレドックスシャトルの問題を含む多くの問題によって抑制されている。正極で形成された多硫化物イオンは、大部分の液体電解質に可溶である。そのため、これらは負極に向かって移動し、そこで再び還元される。この現象は、レドックスシャトルに電力を供給するために電流の一部を消費することにより、このタイプの電池の充電を大幅に遅くする。この現象に対抗するために、特にLi.W.ら(非特許文献2)によって、リチウム塩と多硫化物イオンを含むリチウム・硫黄電池の電解質中に添加剤として硝酸リチウムを少量(約0.15M又は0.75M程度)添加することが既に提案されている。前記多硫化物イオンと硝酸リチウムとの間に相乗効果を生じさせて、安定なパッシベーション層を形成するためであり、これはレドックスシャトル現象を低減すると思われる。しかしながら、この解決策では、硫黄ベースの正極を有さない電池、すなわち電解質中に多硫化物イオンが存在しない電池に置き換えることはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】H.Ota et al.(Electrochimica Acta,2004,49,565-572)
【文献】Li W.et al.(Nature Communications,DOI:10,1038/ncomms8436,2015,pp.1-8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明者らは、リチウムゲル電池において遭遇する問題の解決策を提案するという目標を設定した。特に、本発明者らは、リチウムゲル電池の寿命を改善するための解決策を提案するという目標を設定した。
【0017】
全く直観に反した方法で、本発明者らは、多硫化物イオンを含まないリチウム金属ゲル二次電池の添加剤として、少なくとも2つの塩を含む混合物の使用を発見した。混合物は、第1の塩が硝酸アニオン(NO3
-)を含み、第2の塩が硝酸以外のアニオンを含み、第1の塩及び第2の塩の少なくとも1つがリチウム塩であり、そして特定の割合において、特に負極上のリチウム堆積物の特性の改善によって、パッシベーション層の特性、すなわち前記電池の寿命を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1のサイクル試験の結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2のサイクル試験の結果を電池の放電容量の関数として示すグラフである。
【
図3】実施例2のサイクル試験の結果をサイクル数の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
したがって、本発明の第1の対象は、
少なくとも1つの正極、少なくとも1つの非水電解質、及び、リチウム金属又はリチウム合金ベースの少なくとも1つの負極を備えたリチウム金属ゲル二次電池におけるイオン伝導促進剤としての、
i)モル数n1の式Mα(NO3)βの第1の塩S1;及び、
ii)モル数n2の式M’γAδの第2の塩S2
[式中、
- M及びM’は有機又は無機カチオンであり、M及びM’の少なくとも1つはリチウムカチオンであると理解され;
- Aはアニオンであり;
- α、β、γ及びδは、式Mα(NO3)β及びM’γAδの化合物の電気的中性が尊重されるものである。]
の同時の使用であって:
下記式(1):
【0020】
【0021】
で定義される塩S1と塩S2のモル比(MRS1/S2)が1.5より大きいことが理解され;
前記正極及び前記電解質は、一方又は両方がゲル化し、且つ、{電解質+正極}複合体を形成し、
前記電池が多硫化物イオンを含まない、使用である。
【0022】
前記電池における上に定義された塩S1及び塩S2の存在は、有利には電池の寿命を改善する。
【0023】
本発明の目的のために、{電解質+正極}複合体は、電解質及び正極を構成する全ての要素を意味すると理解される。
【0024】
当該使用によれば、塩S1及び塩S2は、前記電池の最初の充放電サイクルの前に、上に定義されたモル比RMS1/S2が尊重されることを条件に、電解質中及び/又は正極中に無関係な状態で存在することができる。
【0025】
したがって、以下の変形例は、前記使用の実施形態を構成する:
1)電解質が、少なくとも1つの塩S1及び少なくとも1つの塩S2を含み、正極が塩S1及び塩S2のいずれも含まない;又は、
2)電解質が塩S1及び塩S2のいずれも含まず、正極が少なくとも1つの塩S1及び少なくとも1つの塩S2を含む;又は、
3)電解質が1つの塩S1のみを含み、正極が1つの塩S2のみを含む;又は、
4)電解質が1つの塩S2のみを含み、正極が1つの塩S1のみを含む;又は、
5)電解質及び正極が、それぞれ少なくとも1つの塩S1及び少なくとも1つの塩S2を含み、上に定義されたモル比RMS1/S2(すなわち、1.5より大きい)が電池内で尊重されることを条件に、塩S1と塩S2のモル比が電解質中(RMS1/S2電解質)及び正極中(RMS1/S2正極)で互いに同一であっても異なっていてもよい;又は、
6)電解質が塩S1と塩S2の1つのみを含み、正極が少なくとも1つの塩S1と少なくとも1つの塩S2を含む;又は、
7)電解質が少なくとも1つの塩S1と少なくとも1つの塩S2を含み、正極が塩S1と塩S2の1つのみを含む。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、モル比RMS1/S2は10以上であり、より好ましくは10~30の範囲で変化する。
【0027】
また、前記電池中に存在する塩S1及び塩S2の総量は、質量%で規定することができる。この場合、塩S1及び塩S2の総量は、電解質及び正極を含む複合体({電解質+正極}複合体)の総質量に対して相対的に表されるが、前記電池の総質量に対して相対的に表されるものではない。
【0028】
すなわち、本発明の好ましい実施形態によれば、前記電池内の塩S1及び塩S2の合計質量は、前記{電解質+正極}複合体の合計質量に対して、0.5~30質量%、さらに好ましくは0.5~15質量%の範囲で変化する。
【0029】
塩S1及び塩S2のカチオンM及びM’は、特にアルカリ金属、特にリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムから選択することができる。当然に上述のように、カチオンM及びM’の少なくとも1つは、リチウムカチオンである。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、M及びM’は共にリチウムカチオンである。
【0031】
すなわち、本発明の好ましい実施形態によれば、塩S1は硝酸リチウム(LiNO3)である。
【0032】
アニオンAは、特に、トリフラート、パークロレート、パーフルオレート、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI-)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI-)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(BETI-)、テトラフルオロボレート(BF4
-)及びビス(オキサラト)ボレートから選択することができる。
【0033】
塩S2の中でも、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)について特に言及することができる。本発明によれば、これらの2つの塩S2が特に好ましい。
【0034】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、混合物は、塩S1として硝酸リチウム、塩S2としてLiTFSI又はLiFSIを含む。
【0035】
本発明の第1の対象について上述の通り、使用の実施形態の変形例1)によれば、電解質は、少なくとも1つの塩S1と少なくとも1つの塩S2を含む。
【0036】
したがって、また本発明は、第2の対象としてリチウムゲル電池用の非水ゲル電解質を有する。前記電解質は、少なくとも1つの溶媒と、少なくとも1つのゲルポリマーと、少なくとも1つの下記の混合物を含み:
i)モル濃度C1、且つ、モル数n1の式Mα(NO3)βの第1の塩S1;及び、
ii)モル濃度C2、且つ、モル数n2の式M’γAδの第2の塩S2
[式中、
- M及びM’は有機又は無機カチオンであり、M及びM’の少なくとも1つはリチウムカチオンであると理解され;
- Aはアニオンであり;
- α、β、γ及びδは、式Mα(NO3)β及びM’γAδの化合物の電気的中性が尊重されるものである。];
塩S1及び塩S2の合計モル濃度[C1+C2]が、0.5~10mol/Lの範囲で変化し;そして、
下記式(1):
【0037】
【0038】
で定義される塩S1と塩S2のモル比(RMS1/S2)が1.5より大きいことを特徴とする。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記電解質中の塩S1のモル濃度C1は1mol/L以上であり、さらに好ましくは、前記モル濃度C1は1.5~5mol/Lの範囲で変化する。
【0040】
非水ゲル電解質の溶媒は、直鎖状又は環状のエーテル、カーボネイト、スルホラン及びジメチルスルホキシド等の含硫黄溶媒、直鎖状又は環状のエステル(ラクトン)、ニトリル等から選択することができる。
【0041】
これらの溶媒としては、ジメチルエーテル、テトラ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(TEGDME)等のポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジオキソラン、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸メチルイソプロピル(MiPC)、酢酸エチル、酪酸エチル(EB)及びそれらの混合物に特に言及することができる。
【0042】
好ましくは、1つ以上の溶媒は、非水ゲル電解質の総質量に対して20~89.5質量%、さらに好ましくは35~75質量%を示す。
【0043】
非水ゲル電解質の1つ以上のゲルポリマーは、エチレン及びプロピレンのホモポリマーもしくはコポリマー、又はこれらのポリマーの少なくとも2つの混合物等のポリオレフィン;エチレンオキサイドのホモポリマー及びコポリマー(例えば、PEO、PEOのコポリマー)、メチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロロヒドリン又はアリルグリシジルエーテル並びにそれらの混合物;塩化ビニル、フッ化ビニリデン(PVdF)、塩化ビニリデン、四フッ化エチレン又はクロロトリフルオロエチレンのホモポリマー及びコポリマー、フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンのコポリマー(PVdF-co-HFP)及びそれらの混合物等のハロゲン化ポリマー;スチレンのホモポリマー及びコポリマー並びにそれらの混合物;ビニルポリマー;ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(グルタミン酸)、アルギン酸、ペクチン、カラギーナン及びそれらの混合物等のアニオン性非電子伝導性ポリマー;ポリアクリレート;酢酸セルロース;ポリアミド;ポリエステル;ポリウレタン;ポリビニルアルコール並びにそれらの混合物から選択することができる。
【0044】
本発明によれば、1つ以上のポリマーは、非水ゲル電解質溶液の総質量に対して、好ましくは10~60質量%、さらに好ましくは15~50質量%を示す。
【0045】
上述の通り、そして変形例2)によれば、正極は、少なくとも1つの塩S1と少なくとも1つの塩S2を含むことができる。すなわち、塩S1と塩S2の混合物は、その最初の充放電サイクルの前に電池の正極を構成する材料の原料である。
【0046】
したがって、本発明は、第3の対象としてリチウムゲル電池用のゲル状の複合正極を有する。前記複合正極は、リチウムイオンを可逆的に挿入することが可能な少なくとも1つの正極活物質と、少なくとも1つのポリマーバインダーと、少なくとも1つの溶媒と、少なくとも1つのゲルポリマーと、少なくとも1つの下記の混合物を含み:
i)モル濃度C1、且つ、モル数n1の式Mα(NO3)βの第1の塩S1;及び、
ii)モル濃度C2、且つ、モル数n2の式M’γAδの第2の塩S2
[式中、
- M及びM’は有機又は無機カチオンであり、M及びM’の少なくとも1つはリチウムカチオンであると理解され;
- Aはアニオンであり;
- α、β、γ及びδは、式Mα(NO3)β及びM’γAδの化合物の電気的中性が尊重されるものである。];
前記混合物は、
- 塩S1及び塩S2の合計モル濃度[C1+C2]が、0.5~10mol/Lの範囲で変化し;そして、
下記式(1):
【0047】
【0048】
で定義される塩S1と塩S2のモル比(RMS1/S2)が1.5より大きいことを特徴とする。
【0049】
1つ以上の溶媒及びゲルポリマー又はポリマーは、本発明の第2の対象に従って定義される通りである。
【0050】
本発明の第3の対象によれば、前記塩S1及び塩S2の混合物は、前記正極の総質量に対して、好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは2~6質量%を示す。
【0051】
正極活物質は、特に、リン酸鉄リチウム、酸化バナジウムVOx(2≦x≦2.5),LiV3O8,LiyNi1-xCoxO2(0≦x≦1;0≦y≦1)、LiNiyMnxCozO2(x+y+z=1)(例えば、x=1/3,y=1/3,z=1/3、又は、x=0.6,y=0.2,z=0.2である化合物)、マンガンスピネルLiyMn1-xMxO4(M=Cr,Al,V,Ni,0≦x≦0.5;0≦y≦1)から選択することができ、単独で又は混合物で使用される。
【0052】
本発明の好ましい実施形態によれば、正極活物質は、リン酸鉄リチウム(特に、LiFePO4等)から選択される。
【0053】
電極活物質は、好ましくは、正極材料の総質量に対して約55~90質量%、さらに好ましくは約70~90質量%を示す。
【0054】
ポリマーバインダーは、PVdF、PVdFのコポリマー、ポリオキシエチレン(PEO)、PEOのコポリマー、カチオン導電性ポリマー、特にポリエチレン等のポリオレフィン、特にポリエチレンコポリマー等のポリオレフィンコポリマー、ポリウレタン、ポリアミド、セルロースアセテート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、及び、それらの混合物から選択できる。
【0055】
ポリマーバインダーは、正極材料の総質量に対して、好ましくは約2~20質量%、より好ましくは、約3~15質量%を示す。
【0056】
複合正極は、少なくとも1つの電子伝導添加剤をさらに含むことができる。この場合、この添加剤は、特に、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー及びナノファイバー、カーボンナノチューブ及びグラフェン等の炭素系フィラー;アルミニウム、白金、鉄、コバルト及びニッケル等の少なくとも1つの導電性金属の粒子;及びそれらの混合物から選択することができる。
【0057】
電子伝導添加剤は、正極材料の総質量に対して、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~3質量%を示す。
【0058】
本発明の好ましい実施形態によれば、正極は集電体上に堆積されている。また正極の集電体は、好ましくはアルミニウム製であり、任意に炭素層で被覆されている。
【0059】
最後に、本発明の第4の対象は、正極、リチウム金属又はリチウム合金をベースとする負極、及び、前記正極と前記負極の間に配置された電解質を備えるリチウムゲル電池である。前記電池は、以下の特徴を有する:
多硫化物イオンを含まない;そして、
i)モル数n1の式Mα(NO3)βの第1の塩S1、及び、ii)モル数n2の式M’γAδの第2の塩S2を含む
[式中、
- M及びM’は有機又は無機カチオンであり、M及びM’の少なくとも1つはリチウムカチオンであると理解され;
- Aはアニオンであり;
- α、β、γ及びδは、式Mα(NO3)β及びM’γAδの化合物の電気的中性が尊重されるものである。];
下記式(1):
【0060】
【0061】
で定義される塩S1と塩S2のモル比(RMS1/S2)が1.5より大きい;
前記塩S1及び塩S2は、互いに独立して、前記電池の最初の充放電サイクルの前に、電解質中及び/又は正極中に無関係な状態で存在する;
前記正極と前記電解質は共にゲル化している。
【0062】
このように、本発明によれば、電池の最初の充電前に、塩S1及び塩S2は、電解質及び/又は正極に混合物として導入されるか、又は、各塩が電池の電解質又は正極に別々に導入される。
【0063】
本発明の好ましい実施形態によれば、{電解質+正極}複合体を構成する全構成要素中の塩S1及び塩S2の混合物の総量は、前記電池の総質量に対して、0.5~30質量%、より好ましくは0.5~15質量%の範囲で変化する。
【0064】
本発明に従うリチウム電池において、電池の様々な構成要素の厚さは、通常、1~約100マイクロメートル程度である。
【0065】
以下の実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
本発明に従って定義された塩S1及び塩S2の混合物を電解質及び/又は正極の組成物中で使用することの利点は、対称的なリチウム/電解質/リチウムセルにおけるリチウム電着体の特性評価、及び、完全なセルのサイクルのモニタリングによって評価することができる。
【0067】
実施例1:リチウム電着体の特性に及ぼす塩S1及び塩S2の混合物の影響の実証
リチウム電着体の特性は、対称的なリチウム/電解質/リチウムセルのサイクルによって評価することができた。これらの試験により、本発明の一部を形成しない非水ゲル電解質と比較して、本発明に従った非水ゲル電解質の安定性の特性評価が可能となった。
【0068】
評価は、金属リチウムを用いて行った。電解質溶液のみを、Bollore社が「BPF Bollore Porouse Film」の商品名で販売するポリオレフィンセパレータに含浸させて評価した。
【0069】
電解質溶液は、塩S2としてLiTFSI(3M社が販売)、塩S1としてLiNO3(Alfa Aesar社が販売)、及びポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME 250g/mol、Sigma Aldrich社が販売)を用いて調製した。リチウム塩を室温で磁気攪拌下でPEGDMEに溶解させることにより電解質溶液を調製した。
【0070】
下記表1に示す組成を有する3種類の電解質溶液A、B及びCの評価を行った:
【0071】
【0072】
本発明に従った溶液は、溶液B及びCのみである。特に、比較の溶液Aは、本発明に従う溶液Bと同じモル比[NO3
-]/[TFSI-]であるが、全塩濃度が1mol/L未満である。
【0073】
次いで、上記の通り準備した電解質溶液A、B、Cの1つをそれぞれ用いて、3つの完全なセルを作製した。
【0074】
セパレータを電解質溶液に浸漬し、余分な溶液を吸収紙で除去した後、厚さ50μmの2枚のリチウム金属シートの間に挟んだ。これにより3つのセルが得られ、各々を、セルA、セルB、セルCと称した。
【0075】
これらのセルを40℃で300μA/cm2で4時間、ガルバノスタット・サイクル(定電流)で試験し、その後、電流方向を逆にして4時間試験した。
【0076】
得られた結果を別記
図1に示す。
図1中、電圧の変化(V)は時間の関数である。この図において、黒の曲線は電解質溶液Aを含むセルA(本発明に従わないセル)に対応し、濃い灰色の曲線は電解質溶液Bを含むセルBに対応し、薄い灰色の曲線は電解質溶液Cを含むセルCに対応する。
【0077】
これらの結果は、本発明によるセルB及びCがサイクル分極の良好な安定性を示すのに対し、本発明に従わないセルAは非常に安定性が悪いことを示す。また、これらの結果は、NO3
-のモル濃度が高いほど、サイクル毎の分極の安定性が高いことを示す。
【0078】
実施例2:本発明に従ったリチウムゲル電池の調製
以下の構成で完全なセルを調製した:
【0079】
ゲル電解質(本発明の第2の対象による):
- ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(Aldrich社が販売するPEGDME 250g/mol)中に13.75質量%(又は2.45mol/L)のLiNO3(Alfa Aesar)及び13.75質量%(又は0.59mol/L)のLiTFSI(3M)を含む溶液を20g又は40質量%;
- 20g又は40質量%のPVdF Solef 21510(Solvay);
- 10g又は20質量%のポリオキシエチレン(住友精化社が販売するPEO 1L)。
【0080】
ゲル電解質の種々の成分を、Brabender(商標)社がPlastograph(商標)の商品名で販売するミキサー内で、110℃の温度で混合した。そして、得られた混合物を110℃で積層し、厚さ約20μmのゲル電解質膜を形成した。
【0081】
このようにして調製したゲル電解質は、以下の表2に要約する特性を有していた:
【0082】
【0083】
ゲル正極(本発明の第3の対象に従うLiNO3とLiTFSIの混合物を含むゲル正極):
- Pulead社がLFP P600Aの商品名で販売するLiFePO4を74質量%;
- ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(Aldrich社が販売するPEGDME 250g/mol)中に13.75質量%(又は2.45mol/L)のLiNO3(Alfa Aesar)及び13.75質量%(又は0.49mol/L)のLiTFSI(3M)を含む溶液を16質量%;
- 8質量%のポリ(エチレンオキサイド)(住友社が販売するPEO 1L)
- Akzo Nobel社がKetjenblack(商標)EC600JDの商品名で販売するカーボンブラックを2質量%。
【0084】
正極の種々の成分を、Brabender(商標)社がPlastograph(商標)の商品名で販売するミキサー内で、110℃の温度で混合した。そして、得られた混合物を80℃で積層し、厚さ約30μmのゲル正極膜を形成した。
【0085】
セルの組み立て
負極として、厚さ50μmのリチウム金属の帯板(strip)を用いた。
【0086】
正極の集電体として、炭素系コーティングを有するアルミニウム集電体(Armor)を用いた。個々のリチウム/ゲル電解質/ゲル正極/集電体の層を、80℃の温度で5バールの圧力下で積層し、電池を製造した。積層は、制御された雰囲気(露点-40℃)で行った。
【0087】
このようにして作製したセルを、湿気から保護するために、ヒートシール可能な密封されたパッケージに封入した。
【0088】
このようにして調製した電池を40℃でガルバノスタット・サイクル(定電流)で試験した。最初のサイクルはC/10(10時間で充電)とD/10(10時間で放電)で行い、次のサイクルはC/4(4時間で充電)とD/2(2時間で放電)で行った。
【0089】
電池の放電容量(mA.h/g)の関数としての電圧プロファイル(V)を別記
図2に示す。
図2中、実線の曲線はサイクル1(C/10;D/10)に対応し、点線の曲線はサイクル2(C/4;D/2)に対応する。
【0090】
サイクル数の関数としての電池の放電容量(mAh/g)とクーロン効率(%)の変化を別記
図3に示す。
図3中、丸と実線の曲線は放電容量に対応し、空丸と破線の曲線はクーロン効率に対応する。
【0091】
これらの結果から明らかになったことは、電圧プロファイルが電池内での良好な動作(kinetics)を反映した低いサイクル分極を示すことである。さらに、容量と効率は安定しており、電気化学プロセスの優れた可逆性を反映する。