(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】外用製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4184 20060101AFI20231128BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20231128BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20231128BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20231128BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20231128BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20231128BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20231128BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231128BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20231128BHJP
A61P 25/04 20060101ALN20231128BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61P29/02
A61K9/06
A61K9/70 401
A61K9/12
A61K47/06
A61K47/44
A61K47/10
A61K47/34
A61P25/04
(21)【出願番号】P 2020531362
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2019028251
(87)【国際公開番号】W WO2020017585
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2018136147
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅康
(72)【発明者】
【氏名】小山田 義博
(72)【発明者】
【氏名】高田 宜則
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特許第5667934(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K31/00-33/40
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N
2-{[1-エチル-6-(4-メチルフェノキシ)-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル]メチル}-L-アラニンアミドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する外用医薬組成物。
【請求項2】
前記外用医薬組成物中の水の含有量が組成物全質量に対し5%以下である、請求項
1の外用医薬組成物。
【請求項3】
ワセリン(白色、黄色)、ゲル化炭化水素、パラフィン類、ラノリン、加水ラノリン、ラノリンアルコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ロウ類、植物油、豚脂、スクワラン、及び単軟膏からなる群より少なくとも1つを含む外用基剤を更に含む、請求項1
または2の外用医薬組成物。
【請求項4】
有効成分が0.01%(w/v)~10%(w/v)で含有する、請求項1~
3のいずれかの外用医薬組成物。
【請求項5】
水を含有しない請求項1~
4のいずれかの外用医薬組成物。
【請求項6】
外用医薬組成物の製剤形が塗布剤、貼付剤またはスプレー剤(エアゾール剤)である、請求項1~
5のいずれかの医薬組成物。
【請求項7】
塗布剤が軟膏剤である、請求項
6の外用医薬組成物。
【請求項8】
疼痛の治療および/または予防用の請求項1~
7のいずれかの外用医薬組成物。
【請求項9】
疼痛が末梢性神経障害性疼痛である、請求項
8の外用医薬組成物。
【請求項10】
局所への外用投与において、有効成分の量が1回あたり0.1mg以上投与可能な、請求項1~
9のいずれかの外用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛の治療および/または予防薬、さらに詳しくは、N2-{[1-エチル-6-(4-メチルフェノキシ)-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル]メチル}-L-アラニンアミドを有効成分とする末梢性神経障害性疼痛を治療および/または予防するための外用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経での疼痛は、多くの病状において重大な症状であり、その程度にもよるが、ヒトのQOLにも大きな影響を及ぼし、また種々のヒトの一般的機能を妨げ得るものである。
末梢神経での疼痛を感じるメカニズムは、末梢の感覚神経から脊髄を経由して脳へと痛みのシグナルが伝達することで痛いと感じることが知られており、その経路における各作用点においてはナトリウムチャネルが関与しており、またその各作用点におけるナトリウムチャネルはそれぞれ異なるタイプのチャネルであることがわかっている。
この場合、脳におけるナトリウムチャネルはNav1.1~Nav1.4、Nav1.6であり、末梢感覚神経におけるナトリウムチャネルはNav1.7~Nav1.9ある。また別のナトリウムチャネルとして心臓においてはNav1.5が存在する。
【0003】
ナトリウムチャネルに作用する外用疼痛剤としては、リドカイン製剤が市販されており、その高い経皮吸収性や、その有効な疼痛への治療効果は既に実証済みであるが、一方で心毒性の副作用も報告されているため、医療現場ではその使用にあたって厳しい制限が課せられている。すなわち、リドカインにおいては、有効に末梢神経のナトリウムチャネルに作用するだけでなく、心臓へ影響するNav1.5への作用もあると考えられ、しかも外用による局所投与にもかかわらず、体内の奥深く心臓のチャネルに作用していると考えられることから、一般的にナトリウムチャネルを利用した疼痛治療剤の開発は副作用の点で必ずしも容易ではなく、特にチャネルの選択性を獲得する点が大きな課題といえた。
【0004】
本発明者らの研究チームは、既に所定の構造を有する二環性複素環化合物において、疼痛作用があり、その作用が末梢の知覚神経特異的Naチャネル(SNS)を阻害することを明らかにしている(特許文献1)。
しかしながら、特許文献1でのNaチャネルを指標とした作用の確認はin vitro試験による評価にとどまっており、経皮吸収性など薬物動態的な検討は一切行っておらず、末梢部位で局所投与による適用を実際実現するためには、経皮吸収の効率や代謝を考慮した薬物動態的影響を検討する必要があり、また局所投与に適した製剤への適用性や製剤の安定性なども検討する必要があった。更に、上記のリドカインでの副作用の懸念を考慮すれば、ナトリウムチャネルの選択性の検討も必須課題であった。しかしながら、それらを検討するとしても、特許文献1の中で検討された多くの化合物の中から実用可能なものを選び出した上で、ナトリウムチャネルの選択性を考慮した上での副作用低減の検討を行うことは容易なことではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、末梢性神経障害性疼痛を治療するための、外用製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特許文献1で挙げられた数多くの化合物の中で、N2-{[1-エチル-6-(4-メチルフェノキシ)-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル]メチル}-L-アラニンアミドが経皮吸収性の点で外用製剤にするのに適しており、その製剤が保存安定性においても良好な特性を有し、また既存の疼痛治療薬であるリドカインの軟膏製剤と同程度の疼痛効果があり、且つ驚くべきは心臓血管系の副作用低減の点で、リドカインを大きく凌ぐ卓越した安全性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の通りである。
〔項1〕N2-{[1-エチル-6-(4-メチルフェノキシ)-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル]メチル}-L-アラニンアミドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する外用医薬組成物。
【0009】
〔項2〕ワセリン(白色、黄色)、ゲル化炭化水素(プラスチベース(登録商標))、パラフィン類(流動パラフィン)、ラノリン、加水ラノリン、ラノリンアルコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ロウ類(ミツロウ)、植物油、豚脂、スクワラン、及び単軟膏からなる群より少なくとも1つを含む外用基剤を更に含む、項1の外用医薬組成物。
【0010】
〔項3〕有効成分が0.01%(w/v)~10%(w/v)で含有する、項1または項2の外用医薬組成物。
【0011】
〔項4〕実質的に水を含有しない項1~項3のいずれかの外用医薬組成物。
【0012】
〔項5〕外用医薬組成物の製剤形が塗布剤、貼付剤またはスプレー剤(エアゾール剤)である、項1~4のいずれかの医薬組成物。
【0013】
〔項6〕塗布剤が軟膏剤である、項5の外用医薬組成物。
【0014】
〔項7〕疼痛の治療および/または予防用の項1~項6のいずれかの外用医薬組成物。
【0015】
〔項8〕疼痛が末梢性神経障害性疼痛である、項7の外用医薬組成物。
【0016】
〔項9〕局所への外用投与において、有効成分の量が1回あたり0.1mg以上投与可能な、項1~8のいずれかの外用医薬組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の外用医薬組成物は、経皮吸収性に優れ、保存安定性に優れ、疼痛作用に関しても局所投与により既存のリドカイン外用薬と同程度の優れた作用を示し、且つ心臓への作用が少ないことから、リドカイン外用薬よりも疼痛作用と心臓への副作用の乖離度が大きく、使いやすい疼痛治療薬として期待される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のN2-{[1-エチル-6-(4-メチルフェノキシ)-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル]メチル}-L-アラニンアミド(以下、「本発明化合物」ともいう)とは、特許文献1で開示される化合物である。
【0019】
本発明において医薬的に許容される塩とは、上記の本発明化合物中にある塩基性官能基と塩を形成する酸との塩が挙げられ、具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、クエン酸塩等が挙げられる。
【0020】
本発明において「疼痛」とは、末梢神経で感じる疼痛を意図し、C繊維やAδ繊維等の末梢神経が関与する痛み;しびれ感、灼熱感、鈍痛、刺痛、電撃痛等の自発痛;機械刺激や冷熱刺激に対する痛覚過敏あるいはアロディニアを伴う神経障害性疼痛;侵害受容性疼痛;炎症性疼痛;小径線維ニューロパチー;肢端紅痛症;発作性激痛症等に対する治療剤または予防剤として使用できる。ここでいう神経障害性疼痛としては、例えば糖尿病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、化学療法による神経障害、癌性疼痛、ヒト免疫不全症候群ウイルス感染性感覚神経障害、三叉神経痛、複合性局所疼痛症候群、反射性交感神経性ジストロフィー、腰部術後神経痛、幻肢痛、脊髄損傷後疼痛、遷延性術後疼痛、炎症性の脱髄性多発神経根障害、アルコール性神経障害、絞扼性末梢神経障害、医原性神経障害、突発性感覚神経障害、栄養障害による神経障害、放射線照射後神経障害、神経根障害、有毒性末梢神経障害、外傷性末梢性神経障害、腕神経叢引き抜き損傷、舌因神経痛、自己免疫性神経障害、慢性馬尾障害、四肢疼痛、肢端紅痛等が挙げられる。侵害受容性疼痛ないしは炎症性疼痛としては、腰痛、背部痛、腹痛、慢性関節リウマチ、変形性関節症による疼痛、筋肉痛、急性術後痛、骨折痛、熱傷性疼痛等が挙げられる。また、本発明の化合物またはその製薬学的に許容される塩は、排尿障害に対する治療剤または予防剤としても使用できる。ここでいう排尿障害としては、頻尿、前立腺肥大による膀胱痛等が挙げられる。
【0021】
本発明化合物は、その作用の増強目的として、例えば、セレコキシブ、イブプロフェン、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン、ジクロフェナク等の非ステロイド系抗炎症薬、デキサメサゾンやプレドニゾロン等のステロイド系抗炎症薬、トラマドール、モルヒネ、オキシコドン等のオピオイド系鎮痛薬とも組み合わせて用いることができる。また、プレガバリン、カルバマゼピン等の抗てんかん薬、エパルレスタット等のアルドース還元酵素阻害剤、リマプロスト アルファデクス等のプロスタグランジン誘導体製剤、アミトリプチリン、デュロキセチン等の抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不安薬、ドーパミン受容体作動薬、パーキンソン病治療薬、ホルモン製剤、偏頭痛治療薬、アドレナリンβ受容体拮抗薬、認知症治療薬、気分障害治療薬等の薬剤とも組み合わせて用いることができる。本発明の化合物およびその製薬学的に許容される塩と組み合わせて用いる薬剤として好ましくは、プレガバリン、カルバマゼピン等の抗てんかん薬、アミトリプチリン、デュロキセチン等の抗うつ薬、モルヒネ、オキシコドン、トラマドール等の麻薬性鎮痛薬、アセトアミノフェン、ジクロフェナク、デキサメサゾン等の抗炎症薬、エパルレスタット等のアルドース還元酵素阻害剤、リマプロスト アルファデクス等のプロスタグランジン誘導体が挙げられる。また、その副作用抑制を目的として、制吐剤、睡眠導入剤等の薬剤と組み合わせて用いることができる。本発明の化合物及び併用薬剤の投与時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、適当な間隔をおいて投与してもよい。また、本発明の化合物と併用薬剤の合剤としてもよく、また本発明の化合物と別の製剤として投与してもよく、更には別の投与ルートで投与してもよい。併用薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、本発明化合物と併用薬剤との配合比は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、組み合わせ等により適宜選択することができる。例えば投与対象がヒトである場合、本発明化合物1重量部に対し、併用薬剤を0.01~1000重量部用いればよい。
【0022】
本発明において「外用医薬組成物」とは、経皮または経粘膜に投与することによって疼痛の患部に医薬成分を直接作用させるための組成物であり、その製剤形が塗布剤、貼付剤、スプレー剤(エアゾール剤)であるものをいう。具体的には塗布剤としては硬膏剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤などが、貼付剤としてはパップ剤、テープ剤、パッチ剤、プラスター剤などが挙げられる。好ましくは水の含量が低い塗布剤、貼付剤、スプレー剤(エアゾール剤)が挙げられる。
【0023】
本発明の組成物は、塗布剤として液状又は半固形状の組成物であるか、貼付剤として半固形状または固形状の組成物であるか、スプレー剤(エアゾール剤)として霧状、粉末状、泡沫状またはペースト状の組成物であるが、本発明化合物の保存安定性の観点から、水含量は低い方が好ましい。ここで、組成物中の水の含有量は、特に限定されないが、組成物全質量に対し5%以下であるのが好ましく、3%以下であるのがより好ましく、1%以下であるのがさらに好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。なお、本発明において「実質的に水を含有しない」とは、本発明化合物の保存安定性に大きな影響を及ぼさない程度の水含量以下をいい、具体的には、組成物全質量に対し5%以下であるのが好ましく、3%以下であるのがより好ましく、1%以下であるのがさらに好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明における外用医薬組成物における塗布剤は、具体的には硬膏剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤などの液状または半固形状の組成物が挙げられるが、水含量が低い軟膏剤が好ましい。軟膏剤には、口腔用軟膏剤や眼軟膏剤が含まれる。
本発明において組成物に含まれる溶媒あるいは基剤の種類・性質等は特に限定されず、親水性であっても油性等の疎水性であってもよく、さらには異なる複数種の溶媒・基剤を適宜混合・乳化等して用いてもよい。こうした溶媒・基剤としては、具体的には例えば、油性成分としてはワセリン(白色、黄色)、ゲル化炭化水素(プラスチベース(登録商標))、パラフィン類(流動パラフィン)、ラノリン、加水ラノリン、ラノリンアルコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ロウ類(ミツロウ)、植物油、豚脂、スクワラン、単軟膏などが挙げられ、水性成分として水、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。本発明における溶媒・基剤としては油性のものが好ましい。
【0025】
塗布剤中の本発明の化合物またはその医薬的に許容される塩の含有量は、特に限定されないが、0.01~10重量%含有するのが好ましく、0.1~6重量%含有するのがより好ましく、0.3~3重量%含有するのが特に好ましい。
【0026】
本発明の塗布剤の組成物には、上記溶媒・基剤以外に、医薬製剤の剤形、投与方法等に応じて医薬品分野、化粧品分野等において用いられる添加物を配合してもよい。こうした添加物としては、例えば、ゲル化剤、アルコール、多価アルコール、油脂類、ロウ類、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、乳化剤、可溶化剤、pH調整剤、抗酸化剤、軟化剤、増粘剤、保湿剤、防腐剤、安定化剤、着香剤、経皮吸収促進剤等が挙げられる。具体的には、アルコールとして、例えば、ベンジルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、デカノール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、オクチルアルコールなどが挙げられる。多価アルコールとして、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコールなどが挙げられる。油脂類としては、例えば、ゴマ油、大豆油、ヒマシ油、オリーブ油などが挙げられる。ロウ類としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビットミツロウ、マイクロクリスタリンワックス、セタノール・モノステアリン酸ポリエチレングリコール混合ワックスなどが挙げられる。炭化水素としては、例えば、スクワラン、スクワレン、流動パラフィンなどが挙げられる。脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、ミリスチン酸オクチルドデシルなどが挙げられる。乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリセリルエーテルなどが挙げられる。可溶化剤としては、例えば、イソプロパノール、オレイン酸、オレイン酸エチル、ポリソルベート80、無水エタノール、ニコチン酸アミドなどが挙げられる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、メグルミン、リン酸、コハク酸、マレイン酸、トリイソプロパノールアミン、モノエタノールアミンなどが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、2-メルカプトベンズイミダゾール、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、3(2)-t-ブチル-4-メチルフェノール、没食子酸プロピル、α-トコフェノール、1,3-ブチレングリコール、ベンゾトリアゾール、L-アスコルビン酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどが挙げられる。軟化剤として、例えば、流動パラフィン、精製ラノリン、スクワラン、スクワレン、オリーブ油、ゴマ油、ツバキ油、パーシック油及びラッカセイ油、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸オレイル、アジピン酸ジイソプロピル、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどが挙げられる。防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸アルキル類、安息香酸、安息香酸ナトリウムなどが挙げられる。増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ニトロセルロース、カチオン化セルロースなどのセルロース類、キサンタンガム、グアガム、カチオン化グアガム、デンプン、カチオン化デンプン、ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸、カラギーナン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。安定化剤としては、例えば、L-アスパラギン酸、L-アルギニン、L-ロイシン、L-メチオニン、安息香酸ナトリウム、エタノール、エテド酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリシン、ゴマ油、酢酸ナトリウム、酸化亜鉛、ジエタノールアミン、酒石酸、ステアリン酸、D-ソルビトール、D-マンニトール、炭酸水素ナトリウム、尿素、グリセリン、白糖、ブドウ糖、プロピレングリコール、ポリソルベート80、マクロゴール400などが挙げられる。着香剤としては、例えば、l-メントール、dl-メントール、ハッカ油、ユーカリ油、ラベンダー油、ローズ油、オレンジ油などが挙げられる。経皮吸収促進剤としては、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸セチル、炭酸プロピレン、クロタミトン、N-メチル-2-ピロリドン、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸ジグリセリド、中鎖脂肪酸モノグリセリド、メチルイソブチルケトン、トリエタノールアミン、レシチン、ポリブチレンなどが挙げられる。
【0027】
本発明のスプレー剤(エアゾール剤)の組成物には、薬物を溶解させる溶剤、薬物を噴射した際に経皮や経粘膜からの吸収作用を向上させ、溶解補助の働きもあるアルコール類、噴射した際の粒子径を保つための増粘剤、薬物が入った液体を噴射するための噴射剤等の製剤成分が含まれる。
【0028】
前記噴射剤の代表例としては、たとえばLPG(プロパン、i-ブタンおよびn-ブタンを主成分とする液化石油ガス)、n-ペンタン、i-ペンタン、ジメチルエーテル、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロエタンの代替フロンガスなどの液化ガスが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、前記液化ガスに、たとえば空気、窒素、酸素、二酸化炭素、一酸化窒素などの圧縮ガスを配合することができる。
【0029】
前記増粘剤の代表例としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ニトロセルロース、カチオン化セルロースなどのセルロース類、キサンタンガム、グアガム、カチオン化グアガム、デンプン、カチオン化デンプン、ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸、カラギーナン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
前記アルコール類の代表例としては、1価の低級アルコールや多価アルコールが好ましい。1価の低級アルコールの代表例としては、エタノール、変性エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノールなどの炭素数2~4のアルコールが挙げられる。多価アルコールの代表例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコールなどが挙げられる。
【0031】
本発明の貼付剤は、支持体と、該支持体の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層とを備える貼付剤であって、粘着剤層には、本発明化合物またはその医薬的に許容される塩と、軟化剤、粘着付与剤、吸収促進剤等の製剤成分が含まれる。
【0032】
本発明の貼付剤として粘着剤層に含まれる化合物またはその医薬的に許容される塩の含有量は、特に限定されないが、本発明の貼付剤の粘着剤層の全質量を基準として30~80重量%、好ましくは40~70重量%であることが好ましい。
【0033】
軟化剤として、流動パラフィン、スクワラン、ミリスチン酸イソプロピル、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油及びラッカセイ油からなる群から選択される少なくとも一種を更に含有していることが好ましく、その場合、前記軟化剤の配合量が前記粘着剤層の全質量を基準として1~70質量%であることが好ましい。
【0034】
粘着付与剤としては、特に限定されないが、好ましい例として、脂環族飽和炭化水素樹脂(石油樹脂)、テルペン樹脂、ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、油溶性フェノ-ル樹脂等が挙げられる。
【0035】
吸収促進剤としては、皮膚での吸収促進作用が認められている化合物であればよく、特に限定されないが、好ましい例として、脂肪酸、脂肪族アルコ-ル、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳香族系有機酸、芳香族系アルコ-ル、芳香族系有機酸エステル、芳香族系有機酸エ-テル等が挙げられる。
【0036】
本発明の貼付剤においては、所望により架橋剤、防腐剤、充填剤等のその他の添加成分を配合することもできる。
【0037】
支持体は一般に貼付剤に用いられる支持体であればよく、特に限定されないが、材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ナイロン;ポリカーボネート;アルミニウム等の金属が好適に使用される。前記支持体は、フィルム状、布帛状、箔状、多孔質シート状等の形態、又はこれらを積層した形態のものが好適に使用される。
【0038】
また、本発明の貼付剤においては、前記粘着剤層の支持体と反対側の面が剥離ライナーにより被覆されてもよい。このような剥離ライナーは、粘着剤層を被覆して保護するための剥離フィルムであり、一般的に貼付剤に用いられる剥離ライナーであればよく、特に限定はされない。このような剥離ライナーとしては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等の樹脂フィルム、紙、セルロース誘導体、等の材質が例示され、粘着剤層に当接する面をシリコーン、テフロン(登録商標)等をコーティングして離型処理を施したものが好ましく、特にシリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。
【0039】
本発明の貼付剤における前記粘着剤層の厚みは特に限定はされないが、一般的には30~500μmであることが好ましく、40~300μmであることがより好ましく、50~200μmであることがさらに好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例、比較例、種々の試験例等により説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、本発明化合物のN2-{[1-エチル-6-(4-メチルフェノキシ)-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル]メチル}-L-アラニンアミドは、「化合物A」と略す。
【0041】
以下の実施例1~6および比較例1にて軟膏製剤、実施例7および8にて貼付剤、実施例9にてゲル剤を調製した。
実施例1
化合物Aを1質量%にオレイン酸7質量%を添加して混合溶解し、白色ワセリン92質量%を添加して、均一になるように混和練合して軟膏製剤を製造した。
【0042】
実施例2
化合物Aを1質量%にオレイン酸7質量%を添加して混合溶解し、白色ワセリン91質量%、注射用水1質量%を添加して、均一になるように混和練合して軟膏製剤を製造した。
【0043】
実施例3
化合物Aを1質量%にオレイン酸7質量%を添加して混合溶解し、白色ワセリン89質量%、注射用水3質量%を添加して、均一になるように混和連合して軟膏製剤を製造した。
【0044】
実施例4
化合物A1質量%にオレイン酸7質量%を添加して混合溶解し、白色ワセリン87質量%、注射用水5質量%を添加して、均一になるように混和連合して軟膏製剤を製造した。
【0045】
比較例1
化合物A1質量%にオレイン酸7質量%を添加して混合溶解し、白色ワセリン82質量%、注射用水10質量%を添加して、均一になるように混和連合して軟膏製剤を製造した。
【0046】
実施例5
化合物Aを1質量%にオレイン酸7質量%を添加して混合溶解し、ゲル化炭化水素92質量%を添加して、均一になるように混和連合して軟膏製剤を製造した。
【0047】
実施例6
化合物Aを6質量%にオレイン酸44質量%を添加して混合溶解し、ゲル化炭化水素50質量%を添加して、均一になるように混和連合して軟膏製剤を製造した。
【0048】
実施例7.貼付剤の製造例(ゴム系粘着剤の製造例)
ポリイソブチレン(Oppanol N-100:BASF(株))0.5g、流動パラフィン(ハイコールM-352;カネダ(株))0.24g、ポリブデン(日石ポリブデンHV-300F;JXTGエネルギー(株))0.3g、脂環族飽和炭化水素樹脂(アルコン P-100;荒川化学工業(株))0.6gをテトラヒドロフラン6mLに溶解し、粘着剤層を得た。
化合物A0.02gをオレイン酸0.14gに添加して、溶解を確認後にミリスチン酸イソプロピル0.2gを添加し、先に調製した粘着剤層を加えて十分に撹拌して混合液を得た。得られた混合液を乾燥後の粘着剤層の厚さが約60μmとなるように支持体の上に延展し、室温で1日乾燥した。その後、剥離ライナーを貼り合わせてテープ製剤を製造した。この製剤中の化合物A含有量は1質量%である。
【0049】
支持体には、スリーエムヘルスケア株式会社製の50.8μmポリエチレンテレフタレート、および/またはエチレン酢酸ビニル共重合体ラミネートフィルム(Scotchpak#9732)を使用した。剥離ライナーには、藤森工業株式会社製のバイナシート64S-018Bを使用した。
【0050】
実施例8.貼付剤の製造例(アクリル系粘着剤の製造例)
アクリル系粘着剤(DURO-TAK 387-2287、ヘンケル社製、固形分51質量%)0.854g、酢酸エチル0.3mL、および粘着剤層中の含有率が10%となるようにオレイン酸を混合した。この混合液に、粘着剤層中の含有量が3%になるように、メタノール0.4mLに溶解した化合物Aを添加し、十分に撹拌して混合液を得た。得られた混合液を、乾燥後の厚さが約60μmとなるように支持体の上に延展し、室温で1日乾燥した。その後剥離ライナーを貼り合わせてテープ製剤を製造した。
【0051】
実施例9.ゲル剤の製造例
化合物Aを1質量%にオレイン酸7質量%を添加して混合溶解した。この溶解液に、水素添加大豆リン脂質(レシノールS-10;日光ケミカルズ(株))6.4質量%、中鎖脂肪酸トリグリセリド(トリエスターF-810;日光ケミカルズ(株))27.6質量%、トリイソオクタン酸グリセリン(Trifat S-308;日光ケミカルズ(株))4.6質量%、ミリスチン酸オクチルドデシル(ODM-100;日光ケミカルズ(株))12.9質量%、マイクロクリスタリンワックス(精製マイクロクリスタリンワックス;日興リカ(株))5.5質量%、パルミチン酸デキストリン(デキストリンパルミテートN;日光ケミカルズ(株))3.0質量%、モノステアリルグリセリルエーテル(バチルアルコールEX;日光ケミカルズ(株))2.0質量%、白色ワセリン25.0質量%、流動パラフィン8.0質量%を添加し、常温で均一分散した後、90℃に加温して撹拌し溶解した。その後、容器に充填して冷却し、ゲル製剤を得た。
【0052】
対照例1
オレイン酸7質量%に白色ワセリン93質量%を添加して、均一になるように混和連合して軟膏製剤を製造した。
【0053】
試験例1.軟膏製剤の保存安定性試験
実施例1~4および比較例1から得られた軟膏製剤について加速安定性試験を実施した。容量6mL用のポリプロピレン製の軟膏壺に製造直後の各軟膏製剤約5gを充填して、60℃条件下で保存した。保存後の薬物含量は、軟膏壺から軟膏製剤を量り取り、テトラヒドロフランを2mL加えて撹拌し、さらに50%メタノール溶液を2mL加えて撹拌し、遠心分離後の水層をHPLC法にて測定した。
(HPLC条件)
カラム:Gemini/NX-C18 3μm(4.6φ×100mm)
移動相A:10mMリン酸緩衝液(pH7.4)
移動相B:アセトニトリル
カラム温度:30℃
流速:2.0mL/分
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm)
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御する。
【0054】
【0055】
試験例2.第5腰神経結紮モデルにおける鎮痛作用の測定
化合物Aおよびリドカインの神経障害性疼痛の抑制効果は、第5腰神経結紮(SNL)モデルにおける鎮痛作用の評価により確認した。
SNLモデルの作成は、KimとChungの方法(Pain 50, 355-363, 1992)を一部改変して行った。すなわち、雄性5週齢Wistarラットをペントバルビタールおよびイソフルラン吸入による麻酔下にて片側の第5腰神経を露出させ、絹製の縫合糸で第5腰神経を結紮してSNLモデルを作成した。
鎮痛作用の評価方法は、von Frey testを採用した。すなわち、動物の手術側の後肢足蹠を毛髪(von Frey hair)でつつき、Chaplanらの方法(Journal of Neuroscience Methods 53, 55-63, 1994)に則った数式を用いることで、機械刺激に対する反応閾値(50% paw withdrawal thresholds)を算出した。
SNLモデル作成後7日目以降においては、動物の手術側の後肢の反応閾値は顕著に低下していることが予備検討により確認できたため、試験化合物の鎮痛作用は、SNL手術後7日目から10日目の何れかの日に評価した。試験化合物を評価する前日および前々日に反応閾値を測定し、平均した値を試験化合物投与前の反応閾値とした。
試験化合物投与前の反応閾値を平均した値の差が群間で小さくなるよう、および群内のばらつきが小さくなるよう、動物を3群(n=9)に分けた。群分け1日後、試験化合物の投与を行った。化合物A投与群には実施例1の軟膏製剤を、リドカイン投与群には米国でTaro Pharmaceuticals U.S.A., Inc.から販売されているリドカイン軟膏5%(米国薬局方)を、溶媒投与群には対照例1の軟膏製剤を使用した。試験化合物の投与は、医療用粘着フィルムに各種製剤約10mgを塗布し、イソフルラン吸入による麻酔下にてSNLラットの手術側足蹠に貼付することで行った。貼付1時間後にフィルムを剥離し、その1時間後に試験化合物投与後の反応閾値を評価した。評価後、速やかに頸静脈より採血を行い、試験化合物の血漿中濃度を測定した。
試験化合物の鎮痛作用の効力は、
(試験化合物投与後の反応閾値)-(試験化合物投与前の反応閾値)
の計算式によって反応閾値の延長幅±標準誤差(g)として表す。
【0056】
(試験結果)
溶媒投与群、化合物A投与群およびリドカイン投与群の反応閾値の延長幅は、それぞれ0.0±0.37g、2.2±0.56gおよび4.1±0.62gであった。化合物A投与群およびリドカイン投与群の反応閾値の延長幅は、溶媒投与群に比べそれぞれ統計学的有意に増加したが、化合物A投与群とリドカイン投与群の反応閾値の延長幅の間に統計学的有意な差は認められなかった。なお、化合物Aおよびリドカインの血漿中濃度は、それぞれ25.2ng/mLおよび132.6ng/mLであった。
以上の結果から、実施例1の軟膏製剤により化合物Aは経皮的に吸収され、病態動物モデルであるSNLモデルラットにおいて、良好な鎮痛作用を示すことが確認された。また、その鎮痛作用はリドカインと同等であった。
【0057】
試験例3.心臓血管系安全性薬理試験
化合物Aあるいはリドカインの心臓血管系への作用は、麻酔下モルモットにおけるECG(Electrocardiogram)パラメータへの影響により確認した。モルモットにおける心電図の評価は、ウレタンおよびα-クロラロース混合液の腹腔内投与による麻酔下にて実施した。麻酔下のモルモットを仰臥位に保定し、右頸静脈を露出させてカニューレを留置した。試験化合物を溶解させる溶媒は20%のポリエチレングリコール400、10%のジメチルホルムアミド、10%のエタノール、0.6%の乳酸で調製された溶媒を使用した。溶媒で30mg/kgの投与量で溶解させた化合物A、溶媒で15mg/kgの投与量で溶解させたリドカイン、あるいは溶媒を、カニューレを介して一定速度で30分間持続静脈投与した。リドカインの心電図への作用の効力は、PR時間については、
{(投与後30分後のPR時間)-(投与前のPR時間)}/(投与前のPR時間)×100
の計算式によって変化率(%)として表す。QRS時間、QTc時間についても同様の計算式によって変化率(%)として表す。
投与開始から10分、20分、30分の時点で左頸静脈から採血を行い、化合物Aあるいはリドカインの血漿中濃度を測定した。
【0058】
(試験結果)
溶媒は投与30分後において、PR時間を15.2%、QRS時間を8.4%、QTc時間を6.0%延長させた。
リドカインは投与30分後において、PR時間を35.1%、QRS時間を44.5%、QTc時間を15.8%延長させた。リドカインの各種パラメータの変化率は溶媒投与後の各種パラメータと統計学的有意な差が認められた。15mg/kg投与時のリドカインの最高血漿中濃度は3.57μg/mLであった。
化合物Aは投与30分後において、PR時間を22.3%、QRS時間を10.3%、QTc時間を9.0%延長させた。化合物Aの各種パラメータの変化率は溶媒投与後の各種パラメータと統計学的有意な差は認められなかった。30mg/kg投与時の化合物Aの最高血漿中濃度は16.9μg/mLであった。
【0059】
以上の結果から、化合物Aは、心臓血管系への作用は30mg/kgの投与まで認められなかった。一方、リドカインは15mg/kgの投与でECGパラメータへの影響が確認された。
薬効モデルの結果と合わせると、化合物Aは鎮痛作用を示した時の血漿中濃度から約670倍高い血漿中濃度でも心臓血管系への作用は認められなかった。一方、リドカインは鎮痛作用を示した時の血漿中濃度から約27倍高い血漿中濃度でECGパラメータへの影響が認められた。よって、化合物Aはリドカインに比べ、より安全性の高い薬剤であることが判明した。