(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】電気モータ、伝動機構、及びスピンドルを備えた自動車用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20231128BHJP
【FI】
B60N2/90
(21)【出願番号】P 2020555856
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2019055860
(87)【国際公開番号】W WO2019201509
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-12-09
(31)【優先権主張番号】102018109351.9
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520355286
【氏名又は名称】フィッシャー ダイナミクス ジャーマニー ゲーエムベーハ―
【氏名又は名称原語表記】FISHER DYNAMICS GERMANY GMBH
【住所又は居所原語表記】Heinz-Fangmann-Strasse 2,42287 Wuppertal(DE)
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ハンス,ブルクハルト
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/019609(WO,A1)
【文献】特開2012-251601(JP,A)
【文献】特開2012-016217(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010028(WO,A1)
【文献】特表2008-512287(JP,A)
【文献】特表2017-507060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の駆動装置であって、
駆動軸(22)を駆動する電気モータ(20)と、
伝動機構(26)であって、
a)ハウジング、
b)前記駆動軸(22)と係合し、回転中心軸線(44)を有する伝動歯車(32)、
及び
c)前記伝動歯車(32)と前記ハウジングとの間に配置された軸受部
を有する伝動機構(26)と、
前記回転中心軸線(44)に平行に延びるスピンドル軸線を有し、前記伝動歯車(32)の雌ねじ部(46)及び前記ハウジングの開口(61)を通って延び、前記雌ねじ部(46)と係合するスピンドル(60)とを備え、
前記ハウジングは、前記軸受部を収容してシリンダ軸線(40)を画定するシリンダボア(38)を有し、
前記軸受部は、3次元曲面によって境界が定められ、前記3次元曲面は、前記シリンダ軸線(40)の方向に見るとき、前記シリンダ軸線(40)と前記回転中心軸線(44)との交点において、前記シリンダ軸線(40)に直角な最大の断面領域を有し、当該最大の断面領域は円形領域であり、前記軸受部は、2つの軸受シェル(36)を有し、前記軸受シェル(36)のそれぞれは、前記回転中心軸線(44)を中心とする軸受開口(62)を有し、前記軸受開口(62)は、前記スピンドル(60)が貫通し、前記伝動歯車(32)が回転可能に取り付けられる駆動装置において、
前記シリンダ軸線(40)に沿う両方向における前記交点(54)からの距離が増加するにつれて、前記断面領域の大きさが減少していき、前記ハウジングは、前記電気モータ(20)
に結合される
ことを特徴とする、駆動装置。
【請求項2】
前記最大の断面領域は、正確に合致した状態で前記シリンダボア(38)内にあることを特徴とする、請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記シリンダ軸線(40)、前記回転中心軸線(44)、及び第3の軸線(56)が、前記交点(54)において直交座標系を形成し、前記シリンダ軸線(40)及び前記第3の軸線(56)による平面において、前記第3の軸線(56)の方向に定まる前記3次元曲面の直径は、前記交点(54)からの距離が増加するにつれて、一定のままであるか、または減少することを特徴とする、請求項1または2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記シリンダ軸線(40)、前記回転中心軸線(44)、及び第3の軸線(56)が直交座標系を形成し、前記シリンダ軸線(40)及び前記回転中心軸線(44)による平面において、前記回転中心軸線(44)の方向に定まる前記3次元曲面の大きさは、前記交点(54)からの距離が増加するにつれて減少することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記3次元曲面(52)は、回転楕円体によって形成され、前記回転楕円体は、当該回転楕円体を生成する楕円形を有し、前記楕円形は、前記楕円形が回転する中心となって前記シリンダ軸
線(40)に一致する半長軸と、半短軸とを有し、前記半短軸の長さは、
i)前記シリンダボア(38)の半径に適合し、
ii)前記半長軸の長さの20%以下である
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項6】
2つの前記軸受シェル(36)は、構成が同一であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記軸受開口(62)のそれぞれは、前記回転中心軸線(44)の方向に見て、前記ハウジングのそれぞれの開口(61)の後方に位置することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記軸受開口(62)のそれぞれと前記伝動歯車(32)との間には、軸受手段(34)が設けられることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記伝動歯車(32)は、2つのスタブ軸(48)を有し、前記スタブ軸(48)のそれぞれは、前記回転中心軸線(44)の方向に突出し、前記軸受開口(62)内に位置することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記駆動軸(22)は、ウォーム(24)を有し、前記伝動歯車(32)は、ウォームホイール(50)を有し、前記ウォームホイール(50)は、前記ウォームホイール(50)の歯は、前記ウォーム(24)と噛合することを特徴とする、前記請求項1~9のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項11】
前記ハウジングは、前記シリンダボア(38)を形成する本体(28)と、蓋部材(30)とを有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項12】
前記ハウジングの前記開口(61)は、前記シリンダ軸線(40)の周りに周方向に延びる長い間隙と、前記シリンダ軸線(40)に平行に延びる短い間隙とを有した長孔であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項13】
前記3次元曲面(52)は、
切断平面(58)からなる鏡映面、
前記シリンダ軸線(40)と前記回転中心軸線(44)とによる平面からなる鏡映面、
及び
前記シリンダ軸線(40)と前記第3の軸線とによる平面からなる鏡映面
の少なくとも1つに対して鏡面対称であることを特徴とする、請求項3または4に記載の駆動装置。
【請求項14】
前記軸受シェル(36)は、円筒の一部の形態を有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の、特に自動車シートの調整用の駆動装置に関するものであり、この駆動装置は、電気モータ、伝動機構、及びスピンドルを有する。このうち、電気モータは、ウォームが配置された駆動軸を駆動する。このウォームは、伝動歯車に噛合し、伝動歯車は、ハウジング内に配置され、軸受部に回転可能に保持されている。軸受部は、伝動歯車とハウジングとの間に配置される。スピンドルは、回転軸に平行に延びるスピンドル軸線を有し、伝動歯車の連続する雌ねじ部と係合しており、ハウジングの開口を通って延びている。
【背景技術】
【0002】
このようなスピンドルの駆動機構は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6により公知である。これらの駆動機構は、互いに対して調節可能な2つの部品、例えば、関節を介して互いに連結された2つの部品を調節するのに使用される。調整動作の間、正確で幾何学的に一定となる調整経路は、通常、個々のケースにおいて存在しない。従って、補償可能とすることなく、調整しようとする2つの部品のうちの一方に電気モータを、また他方にスピンドルを、それぞれ固定的に、または関節により、結合することは不可能である。例えば、特許文献5は、アウターホルダと、当該アウターホルダ内で駆動軸の軸線に平行に支持されて旋回可能な内部伝動機構とを開示する。特許文献1及び特許文献3による駆動機構は、同様に構成されている。特許文献2及び特許文献6による駆動機構は、補償がなされない。
特許文献7は、本発明が基とする従来技術に基づき、自動車の快適な駆動を行うための駆動装置を記載しており、この駆動装置は、駆動軸を有する電気モータと、駆動軸に配置され、インナーハウジング内に位置する伝動要素と相互作用する伝動歯車とを備え、伝動要素は、長手方向軸線を有した駆動要素と相互作用し、伝動要素は、当該伝動要素の回転運動を駆動要素の直線運動に変換するように構成されており、インナーハウジングは、アウターハウジングの受容部内に配置され、アウターハウジングは、駆動装置を自動車の支持構造と結合するためのインターフェースを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第86/06036号明細書
【文献】国際公開第99/51456号明細書
【文献】国際公開第01/60656号明細書
【文献】国際公開第03/068551号明細書
【文献】独国特許出願公開第102006005499号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1645458号明細書
【文献】国際公開第2018/019609号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、伝動機構または電気モータに対し、駆動軸の軸線に平行な軸線を中心としてスピンドルを旋回運動させるだけでは、補償が十分ではないことが分かっている。対応する補償の成分が最も重要であることは事実であるが、それ以外の成分を見落とすべきではない。即ち、上述の軸線に対して横切る方向であると共にスピンドルの軸線に対して横切る方向に延びる旋回中心軸線を中心として、スピンドルのある程度の旋回運動が可能となるような方法で補償を行うことが望ましい。
【0005】
本発明が重要となる点は、ここにある。本発明の目的は、単一の軸線に関する補償だけでなく、少なくとも2つの軸線に関して補償を可能として、前述の形式の公知の駆動装置を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、自動車用、特に自動車シート用の駆動装置によって達成され、当該駆動装置は、駆動軸を駆動する電気モータと、伝動機構であって、a)ハウジング、b)前記駆動軸と係合し、回転中心軸線を有する伝動歯車、及びc)前記伝動歯車と前記ハウジングとの間に配置された軸受部を有する伝動機構と、前記回転中心軸線と平行に延びるスピンドル軸線を有し、前記伝動歯車の雌ねじ部及び前記ハウジングの開口を通って延び、前記雌ねじ部と係合するスピンドルとを備え、前記ハウジングは、前記軸受部を収容してシリンダ軸線を画定するシリンダボアを有し、前記軸受部は、3次元曲面によって境界が定められ、前記3次元曲面は、前記シリンダ軸線の方向に見て、前記シリンダ軸線と前記回転中心軸線との交点において最大の断面領域を有し、当該最大の断面領域は円形領域であり、前記シリンダ軸線に沿う両方向における前記交点からの距離が増大するにつれて、前記断面領域の大きさが減少していき、特に連続して減少し、前記軸受部は、2つの軸受シェルを有し、前記軸受シェルのそれぞれは、前記回転中心軸線を中心とする軸受開口を有し、前記軸受開口は、前記スピンドルが貫通し、前記伝動歯車が回転可能に取り付けられる。
【0007】
この駆動装置において、伝動歯車は、2つの軸受シェルの間に位置する。伝動歯車と2つの軸受シェルとは、一体で移動するユニットを形成する。このユニットはシリンダボア内に保持されており、シリンダボアのシリンダ軸線を中心に旋回可能である。また、このユニットは、シリンダボアのシリンダ軸線に直交する少なくとも1つの別の軸線を中心に旋回可能である。このとき、ユニットは、第1の角度範囲で、シリンダボアのシリンダ軸線を中心に旋回可能であり、第2の角度範囲で、前記少なくとも1つの別の軸線を中心に旋回可能である。第2の角度範囲は、第1の角度範囲の30%以下、特に15%以下である。これにより、2つまたは3つの直交する旋回中心軸線周りの補償動作が可能となる。補償動作は、直交するこれら2つまたは3つの旋回中心軸線周りの成分によって同時に行うことができる。空間における任意の方向の旋回中心軸線周りの補償動作を行うことが可能である。
【0008】
このように、本発明に係る駆動装置は、互いに対して調整される2つの部品への取り付けが、以下のようにして可能となる。即ち、伝動機構のハウジングに強固に結合されるのが好ましい電気モータを、その一方の部品に固定する。他方の部品には、スピンドルの自由端が関節状に接続される。必要な全ての補償動作が駆動装置内で行われる。本発明による駆動装置は、別個のホルダを必要としない。スピンドルは、その自由端に、ジョイントピンを受容可能な孔を有するのが好ましい。
【0009】
第1の角度範囲は、対応する旋回中心軸線の方向で計測した場合、ハウジングの開口の大きさのみによって制限される。第1の旋回角度は、例えば、±15°までとすることが可能であり、好ましくは、±10°までとすることができる。第2の旋回角度は、±3°、好ましくは±1.5°の範囲内とすることができる。また、第2の旋回角度は、3次元曲面によっても定まる。この3次元曲面は、シリンダボアのシリンダ軸線に対し、ある角度でユニットを配置可能な角度範囲を定める。第2の旋回角度には小さな角度範囲しか必要としないので、シリンダ軸線の両方向における交点からの距離の増加に伴う断面領域の大きさの減少度合いが小さくなるように選定することができる。シリンダ軸線に平行に延びる平面における3次元曲面を含む円形の線の半径に対するシリンダボアの半径の比を、3より大きく、特に8より大きくすることは有利である。このような比率により、シリンダボア内の軸受部の良好な支持が得られる。
【0010】
軸受部は2つの軸受シェルから形成される。これらは、構成を同一とすることが可能である。それぞれの軸受開口は、ハウジングのそれぞれの開口の下方に位置するのが好ましい。このとき、伝動歯車には、両側方に突出して軸受開口内に延びるスタブ軸を設けることが有効である。これらスタブ軸と軸受開口との間には、伝動歯車が可能な限り少ない摩擦での軸受シェル内における回転を確保する軸受手段を設けてもよい。従って、2つの軸受シェル、これら軸受シェルの間に配置された伝動歯車、及びそれぞれの軸受手段は、予め組み立てたユニットを形成することが可能であり、このユニットは、シリンダボア内に挿入される。
【0011】
3次元曲面は球面ではない。好ましくは、駆動軸がウォームを有し、当該ウォームは伝動歯車のウォームホイールと相互に作用する。好ましくは、ウォームホイールは、球面歯車として形成されるのが好ましい。これは、第1の旋回角度にわたる補償動作の際に、回転中心軸線に平行に延びるフランクを有した歯車よりも、より効果的にウォームとの係合を維持することを意味する。なお、特に、より小さい範囲の第1の旋回角度、及び十分な深さの歯の噛合の少なくとも一方と共に、直線で終わる歯をウォームホイールに設けることが可能である。
【0012】
ハウジングは、シリンダボアを形成する本体と、蓋部材とを有するのが好ましい。この場合、蓋部材は、本体を外部に対して閉鎖するだけであり、実質的に平坦である。本発明によれば、ハウジングは、電気モータに強固に結合される。
【0013】
3次元曲面は、回転楕円体によって形成され、当該回転楕円体は、これを生成する楕円形を有し、当該楕円形は、当該楕円形の回転中心軸線に一致する半長軸と、半短軸とを有し、当該半短軸の長さは、i)シリンダボアの半径に適合し、ii)半長軸の長さの20%以下であるのが好ましい。回転楕円体の半長軸が、シリンダ軸線に対して3°の偏差をもって配置されたときに、第2の角度範囲における3°の補償が達成される。
【0014】
ハウジングの開口は、シリンダ軸線の周りに周方向に、従って、第1の角度範囲の方向に延びる長い間隙と、シリンダ軸線に平行に延びる短い間隙とを有した長孔であるのが好ましい。このような寸法、即ち開口の形状により、補償動作が行われ得る角度範囲を制限することが可能となる。
【0015】
本発明の更なる利点及び特徴は、残りの請求項のほか、本発明の2つの例示的な実施形態についての以下の説明から明らかとなり、これら実施形態は、限定的であると見なされるべきではなく、図面を参照し、以下において、より詳細に説明する。図面が示すのは、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】例示的な第1の実施形態の組立斜視図である。
【
図2】
図1に従って組み立てられた装置の斜視断面図である。
【
図3】
図2に係る装置の駆動軸に対して横切る方向に延びる断面での平面図である。
【
図4】3次元曲面を説明するために、回転中心軸線及びシリンダ軸線によって定まる断面において、シリンダボア及び当該シリンダボア内に配置された伝動歯車の原理を示す図である。
【
図5】
図4と同様の原理を示すが、ここでは、シリンダ軸線周りに90°回転した断面を用いている図である。
【
図6】例示的な第2の実施形態についての、
図1に類似する組立斜視図である。
【
図7】
図6に従って組み立てられた装置の斜視断面図であって、断面は、基本的に、回転中心軸線及び第3の軸線によって形成される平面にある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
駆動装置は、駆動軸22に作用可能に接続された電気モータ20を有し、駆動軸22には、ウォーム24が配置されている。電気モータ20は、3つの固定手段によって伝動機構26に結合されている(
図1及び
図6参照)。この伝動機構26は、本体28と蓋部材30とからなるハウジングを有する。また、この伝動機構26は、伝動歯車32と、2つの軸受手段34と、2つの別個の軸受シェル36からなる軸受部とを有する。
【0018】
本体28は、シリンダボア38を画定し、当該シリンダボア38は、シリンダ軸線40を有し、片側が開口しており、この開口を、蓋部材30が着脱可能に閉じている。シリンダボア38は、その直径の70~130%の範囲の、空洞の奥行きを有する。本体28は更に、ウォーム24の大部分を収容する溝42を有する。溝42は、シリンダ軸線40に平行に延び、シリンダボア38の軸線方向全長にわたり、妨げなくシリンダボア38内に連通している。蓋部材30には、ウォーム24、即ち、当該ウォーム24に結合されたシャフトが、ベアリングを介して回転可能に取り付けられており、本体28は、対応する開口を有する。
【0019】
伝動歯車32は、回転中心軸線44と、この回転中心軸線44に中心を合致させた雌ねじ部46と、2つのスタブ軸48と、ウォーム24に係合するウォームホイール50とを有する。ウォームホイール50は、球面歯車である。ウォームホイール50は、シリンダボア38の直径の70~90%の範囲の外径を有する。
【0020】
本体28、伝動歯車32、及び軸受シェル36は、プラスチック、特に強化プラスチックで形成される。
【0021】
2つの軸受シェル36は、構成が同一である。これらは本質的には円筒の一部である。2つの軸受シェル36は、それぞれ、仮想の3次元曲面52の内側に位置する(
図4及び
図5参照)。この3次元曲面52は、シリンダ軸線40と回転中心軸線44とが交差する点で見たときに、シリンダ軸線40を横切る方向における断面領域が最大の大きさを有する。このいわゆる交点54は、伝動歯車32の幾何学的中心に位置する。更なる説明のため、第3の軸線56が追加されており、この第3の軸線56は、シリンダ軸線40及び回転中心軸線44の両方に直交して延び、これらの軸線と共に、交点54に原点を有した直交座標系を形成する。ウォームホイール50の外径は、第3の軸線56の方向に定まる軸受シェル36の寸法の70~90%である。この外径は、シリンダ軸線40の方向に定まる軸受シェル36の寸法の80~120%である。
【0022】
2つの軸受シェル36は、シリンダ軸線40に対して直角な方向で測定したときの3次元曲面52の断面領域が最大の大きさを有する点で、最も径方向外方に突出する。これら軸受シェル36は、シリンダボア38に当接するまで突出している。これら軸受シェル36が最も径方向外方に突出する箇所、即ち回転中心軸線44及び第3の軸線56の平面において径方向外方に突出する箇所では、シリンダボア38の半径に適合する半径の円形線によって、これら軸受シェル36の突出範囲が制限されることにより、これら軸受シェル36が正確に合致した状態で、シリンダボア38内に収容される。
【0023】
回転中心軸線44及び第3の軸線56によって画定される平面は、切断平面58とも称する。シリンダ軸線40の方向に見るとき、この切断平面58に平行な平面において定まる3次元曲面52の直径は、切断平面58からの距離が増加するにつれて減少する。従って、少なくとも回転中心軸線44に平行な方向に定まる直径は、このようにして減少していくことになる。換言すれば、2つの軸受シェル36は、切断平面58からの距離が増加するにつれて、回転中心軸線44の方向に見たときの、外方への突出の程度が小さくなっていく。この結果、2つの軸受シェル36は、第3の軸56を中心としてわずかに旋回することが可能となる。この旋回角度は、いわゆる第2の旋回角度範囲にあって小さく、第2の旋回角度範囲は±1.5°以下である。従って、シリンダ軸線40と回転中心軸線44とによる平面において定まる、シリンダ軸線40に平行に延長した場合の3次元曲面との差は小さい。
【0024】
シリンダ軸線40及び第3の軸線56による平面で見ると、この平面で定まり、第3の軸線56に平行な方向の3次元曲面の直径の大きさも、切断平面58からの距離が増加するにつれて小さくなるようにすることが可能である一方、この直径の大きさを一定のままとすることも可能である。第2の場合である後者の場合には、3次元曲面52が、シリンダボア38に対して連続的に接した状態となり、第1の場合には、回転中心軸線44の方向において切断平面58に平行な平面で定まる直径に関して上述したように、第3の軸線56に平行な方向で見たとき、切断平面58からの距離が増加するにつれて、3次元曲面52とシリンダボア38との間の距離が増加する。第1の場合は、補償動作が、回転中心軸線44を中心に旋回することによってもなされる。第2の場合には、このような付加的な補償動作が行われない。
【0025】
上述したような幾何学的関係について、
図4及び
図5に基づき再度説明する。これらの図面には、3次元曲面52が示されている。更に、伝動歯車32と、開口61を有するシリンダボア38とが、より良好に配置を示すと共に、より良好な理解を得るべく、図面に示されている。これらの図面には、上述した座標系が示されている。x軸はシリンダ軸線40により形成され、y軸は回転中心軸線44により形成され、z軸は第3の軸線56である。3次元曲面52は、軸受部の範囲を外部に対して定める。3次元曲面52は、交点54、即ち、切断平面58で見たとき、シリンダ軸線40を横切る方向の断面領域が最大の大きさを有する。3次元曲面52は、この切断平面58に対し、また、x-y平面及びx-z平面に対し、鏡面対称となっている。それぞれの軸受シェル36は、x-y平面及びy-z平面(切断平面58)に対して鏡面対称であるのが好ましい。第2の旋回角度範囲68は、
図4に示されている。第1の旋回角度範囲は、
図4の紙面に対して直角な方向に沿っており、切断平面58において、y軸がその中央にある。第3の旋回角度範囲は、
図4の図示に従って
図5に示すことができる。この旋回動作は、y軸を中心に行われる。
【0026】
3次元曲面52は、
図5に示すものとは異なって延在するのが好ましく、即ち、
図5に示す3次元曲面52の一点鎖線が、切断平面58からの距離の増加に伴って、シリンダボア38を示す線から離間するのではなく、シリンダボア38を示す線の一方と一致するように延びるのが好ましい。この場合、y軸を中心とする旋回動作による補償動作はできない。
【0027】
駆動装置は、回転中心軸線44に一致するスピンドル軸線を有したスピンドル60を有する。このスピンドル60は、雌ねじ部46と噛合する雄ねじ部を有する。スピンドル60は、本体28に形成された開口61を通って延びる。これら開口61は、シリンダ軸線40の周りに周方向に延びる大きな間隙と、シリンダ軸線40に平行に延びる小さな間隙とを有した長孔であり、小さい方の間隙は、大きい方の間隙より、少なくとも50%小さい。大きい方の間隙により、第1の旋回角度範囲が制限される。第2の旋回角度範囲は、軸受シェル36の特定の形状及び小さい方の間隙の寸法によって定まる。
【0028】
更に、スピンドル60は、軸受手段34及び伝動歯車32を貫通して延びており、この伝動歯車32は、全体にわたって雌ねじ部46が設けられている。軸受手段34は、突出するタブにより回転不能に固定される。例示的な第2の実施形態では、軸受手段34が、平坦な金属ワッシャで構成される。このワッシャは、ウォームホイール50の側面と軸受シェル36との間に配置される。例示的な第1の実施形態では、軸受手段34が、より複雑な構成となっており、この場合、ウォームホイール50の側面と軸受シェル36との間だけでなく、スタブ軸48と軸受シェル36の軸受開口62との間にも位置する。中間に位置する遷移領域64において、軸受手段34は、ウォームホイール50の側壁及びスタブ軸48に対して斜めに延びる。この遷移領域64には空隙66が配設されている。この空隙66は、遷移領域64と伝動歯車32の傾斜した肩部との間に存在する。空隙66の反対側の部分では、軸受手段34が、隣接する軸受シェル36に当接しており、この位置においても傾斜して延びている。
【0029】
自動車用の駆動装置は、ハウジング、駆動軸22と係合する伝動歯車32、軸受部、及び回転中心軸線44を有する伝動機構26と、伝動歯車32の雌ねじ部46及びハウジングの開口61を通って延びるスピンドル60とを備える。ハウジングは、軸受部を収容してシリンダ軸線40を画定するシリンダボア38を有する。軸受部は、3次元曲面52によって境界が定められ、当該3次元曲面52は、シリンダ軸線40の方向に見るとき、回転中心軸線44とシリンダ軸線40との交点54において、シリンダ軸40に直角な最大の断面領域を有する。当該最大の断面領域は、円形領域である。シリンダ軸線40に沿う両方向における交点54からの距離が増加するにつれて、断面領域の大きさが減少していき、好ましくは、もはや円形領域ではなくなる。軸受部は、2つの軸受シェル36を有し、これら軸受シェル36のそれぞれは、回転中心軸線44を中心とする軸受開口62を有し、この軸受開口62は、スピンドル60が貫通し、伝動歯車32が回転可能に取り付けられる。
【0030】
本質的に、及び好ましくはなどの用語のほか、曖昧であると認識される可能性のある記述は、正規の値から±5%、好ましくは±2%、特に±1%の偏差が可能であると理解するべきである。出願人は、請求項によるいずれかの特徴及び副次的特徴、並びに明細書の記載によるいずれかの特徴及び副次的特徴の少なくとも一方を、独立請求項の範囲外を含む別の特徴、副次的特徴、または部分的特徴と、なんらかの方法で組み合わせる権利を留保するものである。
【0031】
様々な図面において、機能に関して均等な部材は、常に同一の参照番号を与えられ、従って、それらの部材は、通常、一度だけ説明を行う。
【符号の説明】
【0032】
20 電気モータ
22 駆動軸
24 ウォーム
26 伝動機構
28 本体
30 蓋部材
32 伝動歯車
34 軸受手段
36 軸受シェル
38 シリンダボア
40 シリンダ軸線
42 溝
44 回転中心軸線
46 雌ねじ部
48 スタブ軸
50 ウォームホイール
52 3次元曲面
54 交点
56 第3の軸線
58 切断平面
60 スピンドル
61 開口
62 軸受開口
64 遷移領域
66 空隙
68 第2の旋回角度範囲