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特許7391911発育期神経毒性予測ヒト多能性幹細胞系モデル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】発育期神経毒性予測ヒト多能性幹細胞系モデル
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20231128BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20231128BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20231128BHJP
【FI】
C12N5/0797 ZNA
C12N5/077
C12N5/0786
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021068463
(22)【出願日】2021-04-14
(62)【分割の表示】P 2017534955の分割
【原出願日】2015-12-31
(65)【公開番号】P2021118706
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】62/098,803
(32)【優先日】2014-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591013274
【氏名又は名称】ウィスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】トムソン ジェイムズ エイ
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー ウィリアム エル
(72)【発明者】
【氏名】ペイジ チャールズ ディー
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ マイケル ピー
(72)【発明者】
【氏名】ホウ ジョンナグ
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特許第6967452(JP,B2)
【文献】国際公開第2005/052154(WO,A1)
【文献】PLOS ONE,2014, Vol.9,e106346
【文献】PNAS,2000, Vol.97,pp.262-267
【文献】STEM CELLS,2009, Vol.27,pp.838-846
【文献】PNAS,2006, Vol.103,pp.2512-2517
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0797
C12N 5/077
C12N 5/0786
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元血管新生神経組織構築物を作製する方法であって、以下の工程、
(a)三次元多孔性材料にヒト神経始原細胞を播種する工程、
(b)前記ヒト神経始原細胞の少なくとも一部分の分化を検出するために十分な時間、前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
(c)前記培養されかつ播種された三次元多孔性材料上に又はその内に、ヒト内皮細胞を分散させる工程、及び
(d)細胞分化を促進させる培養条件下で、前記分散されたヒト内皮細胞を含む前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
を含み、それによって、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む三次元血管新生神経組織構築物を作製し、
前記三次元多孔性材料が、化学的に規定されたヒドロゲルであり、そして
前記分散されたヒト内皮細胞が、ヒト多能性幹細胞に由来することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ヒト多能性幹細胞が、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
三次元血管新生神経組織構築物を作製する方法であって、以下の工程、
(a)三次元多孔性材料にヒト神経始原細胞を播種する工程、
(b)前記ヒト神経始原細胞の少なくとも一部分の分化を検出するために十分な時間、前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
(c)前記培養されかつ播種された三次元多孔性材料上に又はその内に、ヒト内皮細胞を分散させる工程、及び
(d)細胞分化を促進させる培養条件下で、前記分散されたヒト内皮細胞を含む前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
を含み、それによって、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む三次元血管新生神経組織構築物を作製し、
前記三次元多孔性材料が、化学的に規定されたヒドロゲルであり、
前記分散されたヒト内皮細胞を含む前記播種された三次元多孔性材料が、更にヒト多能性幹細胞由来原始マクロファージを含み、そして
前記三次元血管新生神経組織構築物が、成熟ミクログリアを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
三次元血管新生神経組織構築物を作製する方法であって、以下の工程、
(a)三次元多孔性材料にヒト神経始原細胞を播種する工程、
(b)前記ヒト神経始原細胞の少なくとも一部分の分化を検出するために十分な時間、前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
(c)前記培養されかつ播種された三次元多孔性材料上に又はその内に、ヒト内皮細胞を分散させる工程、及び
(d)細胞分化を促進させる培養条件下で、前記分散されたヒト内皮細胞を含む前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
を含み、それによって、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む三次元血管新生神経組織構築物を作製し、
前記三次元多孔性材料が、化学的に規定されたヒドロゲルであり、そして
前記三次元多孔性材料に播種する工程が、少なくとも1つのヒト神経始原細胞を前記三次元多孔性材料に接触させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
三次元血管新生神経組織構築物を作製する方法であって、以下の工程、
(a)三次元多孔性材料にヒト神経始原細胞を播種する工程、
(b)前記ヒト神経始原細胞の少なくとも一部分の分化を検出するために十分な時間、前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
(c)前記培養されかつ播種された三次元多孔性材料上に又はその内に、ヒト内皮細胞を分散させる工程、及び
(d)細胞分化を促進させる培養条件下で、前記分散されたヒト内皮細胞を含む前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
を含み、それによって、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む三次元血管新生神経組織構築物を作製し、
前記三次元多孔性材料が、化学的に規定されたヒドロゲルであり、そして
更に、前記三次元多孔性材料内に又はその上に、その中に播種又は分散された細胞の形態学的特色、機能又は分化状態を調整する生物活性作用薬を分散させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記生物活性作用薬が、増殖因子、サイトカイン及び生物活性ペプチド又は前記の組み合わせから成る群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
三次元血管新生神経組織構築物を作製する方法であって、以下の工程、
(a)三次元多孔性材料にヒト神経始原細胞を播種する工程、
(b)前記ヒト神経始原細胞の少なくとも一部分の分化を検出するために十分な時間、前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
(c)前記培養されかつ播種された三次元多孔性材料上に又はその内に、ヒト内皮細胞を分散させる工程、及び
(d)細胞分化を促進させる培養条件下で、前記分散されたヒト内皮細胞を含む前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
を含み、それによって、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む三次元血管新生神経組織構築物を作製し、
前記三次元多孔性材料が、化学的に規定されたヒドロゲルであり、そして
前記三次元血管新生神経組織構築物が、(i)相互に接続された血管構造;(ii)三次元で互いに相互接触する前記三次元血管新生神経組織構築物内の分化細胞;(iii)2層以上の細胞;及び(iv)in vivo又はin situのヒト神経組織に特徴的な機能又は特性から成る群から選択される1つ以上の特性を示すことを特徴とする方法。
【請求項8】
三次元血管新生神経組織構築物を作製する方法であって、以下の工程、
(a)三次元多孔性材料にヒト神経始原細胞を播種する工程、
(b)前記ヒト神経始原細胞の少なくとも一部分の分化を検出するために十分な時間、前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
(c)前記培養されかつ播種された三次元多孔性材料上に又はその内に、ヒト内皮細胞を分散させる工程、及び
(d)細胞分化を促進させる培養条件下で、前記分散されたヒト内皮細胞を含む前記播種された三次元多孔性材料を培養する工程、
を含み、それによって、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む三次元血管新生神経組織構築物を作製し、
前記三次元多孔性材料が、化学的に規定されたヒドロゲルであり、そして
前記ニューロン及びグリア細胞が、GABA作動性ニューロン、グルタミン酸作動性ニューロン、アストロサイト及び希突起神経膠細胞から成る群から選択されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互引用)本出願は、米国出願62/098,803号(2014年12月31日出願)の優先権を主張する(前記出願はその全体が明記されたかのように本明細書に含まれる)。
(連邦政府の研究開発資金援助に関する記述)本発明は、米国立衛生研究所供与のTR000506により政府の補助を受けて達成された。当該政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞は、in vitroモデルの改善並びにヒト神経組織及び神経毒性の発生の基礎メカニズムの解明のために潜在的に強力なツールを提供する。動物モデルは神経発生メカニズムに関する識見を提供してきたが、神経毒性発生の予測については、ヒト脳(例えば拡張大脳皮質)における差異があまり良く分かっていないためにその価値は限定的である。従って、複雑なヒト組織及び生物学的プロセスを概括し、かつ潜在的に危険な化合物のスクリーニングに適切なモデルがなお希求されている。更にまた、当業界では、標準化された定量的定性的評価及び神経毒性候補作用薬の予測分析のために高度な均一性を有する神経組織構築物を含む三次元組織構築物を作製する、効率的で再現性がありかつ異種間作用薬を含まない方法がなお希求されている。
【発明の概要】
【0003】
第一の特徴では、本発明は新生血管を有する神経組織構築物を作製する方法を提供する。当該方法は、(a)三次元多孔性生物材料にヒト神経始原細胞(neuronal progenitor cell)を播種する工程;(b)当該神経始原細胞の少なくとも一部分の分化を検出するために十分な時間当該播種生物材料を培養する工程(culturing);(c)内皮細胞、間葉細胞、原始マクロファージ、及び周皮細胞から成る群から選択される少なくとも1つのヒト細胞タイプを当該培養した播種生物材料上又は生物材料内に分散させる工程;及び(d)細胞分化を促進させる培養条件下で、当該少なくとも1つの分散ヒト細胞タイプを含む当該播種生物材料を培養する工程を含むか又は本質的に前記工程から成り、それによって、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む血管新生神経組織構築物(vascularized neuronal tissue construct)が作製される。当該三次元多孔性生物材料はヒドロゲルであり得る。当該ヒドロゲルは重合ポリ(エチレングリコール)(PEG)又は重合多糖類を含むことができる。当該少なくとも1つの分散ヒト細胞タイプは、ヒト多能性幹細胞に由来し得る。当該ヒト多能性幹細胞は、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)であり得る。いくつかの事例では、当該少なくとも1つの分散ヒト細胞タイプはヒト多能性幹細胞由来原始マクロファージを含み、当該3D血管新生神経組織構築物は更に成熟ミクログリアを含む。多孔性生物材料に播種する工程は、少なくとも1つのヒト神経始原細胞を当該多孔性生物材料に接触させる工程を含むことができる。
【0004】
いくつかの事例では、当該方法は更にまた、当該多孔性生物材料内に又は生物材料上に播種又は分散された細胞の形体学的特色、機能又は分化状態を調整する生物活性作用薬(agent)を当該材料内に分散させる工程を含む。当該生物活性作用薬は、増殖因子、サイトカイン、及び生物活性ペプチド又は前記の組み合わせから成る群から選択できる。当該血管新生神経組織構築物は以下から成る群から選択される1つ以上の特性を示すことができる:(i)相互に接続された血管構造(vasculature);(ii)当該神経組織構築物内の分化細胞は三次元で互に相互接触する;(iii)2層以上の細胞;及び(iv)in vivo又はin situのヒト神経組織に特徴的な機能又は特性。いくつかの事例では、当該ニューロン及びグリア細胞はGABA作動性ニューロン、グルタミン酸作動性ニューロン、アストロサイト及び希突起神経膠細胞から成る群から選択される。当該多孔性生物材料は分解性であり得る。当該分解性ヒドロゲルは、酵素分解性ヒドロゲル、加水分解性ヒドロゲル、又は光分解性ヒドロゲルから成る群から選択され得る。当該酵素分解性ヒドロゲルは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)分解性であり得る。
別の特徴では、本明細書に記載の方法に従って得られる三次元(3D)血管新生神経組織構築物が提供される。当該神経組織構築物は成熟ミクログリアを含むことができる。当該神経組織構築物は階層を形成したニューロン及びグリア層を含むことができる。
【0005】
更に別の特徴では、作用薬をin vitroでスクリーニングする方法が本明細書で提供される。当該方法は、(a)請求項1の方法に従って得られた血管新生神経組織構築物に試験作用薬を接触させる工程;及び(b)当該接触させた神経組織構築物内の1つ以上の細胞タイプに対する当該作用薬の影響を検出する工程を含むか、又は本質的に前記工程から成る。当該作用薬をヒト神経組織に対する毒性についてスクリーニングすることができる。いくつかの事例では、検出工程は、当該接触組織構築物内の細胞若しくは組織の形態又は寿命における当該作用薬の少なくとも1つの影響を検出する工程を含み、それによって当該細胞若しくは組織の寿命を短くするか又は当該細胞若しくは組織の形態に負の影響を有する作用薬をヒト神経組織に対して有害であると識別する。いくつかの事例では、検出工程は、RNAシーケンシング、遺伝子発現プロファイリング、トランスクリプトーム分析、メタボローム分析、レポーター又はセンサー検出、タンパク質発現プロファイリング、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)、代謝プロファイリング、及びマイクロダイアリシスから成る群から選択される方法を実施する工程を含む。遺伝子発現における影響について当該作用薬をスクリーニングでき、検出工程は、非接触組織構築物と対比して弁別的な遺伝子発現についてアッセイする工程を含むことができる。
いくつかの事例では、当該方法は更にまた、予測モデルを用いて、試験化合物接触構築物における一枠のマーカー(a panel of markers)の遺伝子発現レベルと神経毒性作用薬への暴露に特徴的なマーカーの遺伝子発現レベルとの関係を決定する工程を含み、ここで、当該予測モデルは、ヒト神経組織への毒性のマーカーとして既知の神経毒性作用を有する一枠の作用薬の各成分について得られた転写及び代謝プロフィールを用いて構築される。
【0006】
別の特徴では、組織構築物スクリーニング系が本明細書で提供される。当該系は、ヒト血管新生神経組織構築物の測定を含むデータを入手するために構成された分析デバイス;当該分析デバイスからデータを受け取るために構成されたコンピュータ制御装置;及び既知の遺伝子発現データを用いて学習し、更に特色選別アルゴリズムを用いてデータから特色サブセットを選別するように構成されたマシーンベース習熟度対応学習システムを含むか、又は本質的に前記から成り、ここで、当該特色サブセットは、既知又は未知化合物への暴露に続く少なくとも1つの遺伝子の発現レベルの変化に一致する。当該ヒト血管新生神経組織構築物は本明細書に記載の方法に従って入手できる。当該測定はマイクロアレー分析から得られる遺伝子発現データを含むことができる。
更になお別の特徴では、本明細書に記載の方法に従って得られる三次元ヒト血管新生神経組織構築物の薬剤発見又は毒性スクリーニングにおける使用が本明細書で提供される。
本発明のこれら及び他の特色、目的並びに利点は後続の記載からより良好に理解されるであろう。当該記載では添付の図面が説明される。前記図面は本発明の部分を構成し、前記図面には本発明の実施態様が例示として非制限的に示される。当該好ましい実施態様の記載は本発明を制限することを意図せず、全ての改変、等価物及び代替物をカバーする。従って、本発明の範囲の解釈のために、本出願に列挙した特許請求の範囲が説明されるはずである。
参照による引用:本明細書で述べた全ての刊行物、特許及び特許出願は、個々の刊行物、特許及び特許出願の各々があたかも参照により本明細書に含まれることを明確にかつ個々に示されたかのように、同じ程度で参照により本明細書に含まれる。
本出願は、本明細書とともに提出したコンピュータ読み出し可能形式(“txt”ファイル)の配列表を含む。本配列表は参照により本明細書に含まれる。
以下の詳細な説明が勘案されるとき、本発明はよりいっそう理解され、上記の説明以外の特色、特徴及び利点が明白となるであろう。そのような詳細な説明は下記図面を参照し、当該図面は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A図1A-1Bは、(A)ヒドロゲル組織構築物を組み立てるための戦略の模式図を提示する。(A)では、上方の時間割は神経始原細胞(NPC)を多能性幹細胞から得るための分化プロトコルを含み、一方、下方の時間割は組織構築物の初期形成を反映する。(B)では、チオール-エン光重合によるヒドロゲル形成化学反応の模式図が提示される。
図1B図1A-1Bは、(A)ヒドロゲル組織構築物を組み立てるための戦略の模式図を提示する。(A)では、上方の時間割は神経始原細胞(NPC)を多能性幹細胞から得るための分化プロトコルを含み、一方、下方の時間割は組織構築物の初期形成を反映する。(B)では、チオール-エン光重合によるヒドロゲル形成化学反応の模式図が提示される。
図2A図2A-2Dは神経構築物の形態学的特徴を示す画像である。ヒト胚性幹細胞由来前駆細胞を24ウェルのトランスインサート中のポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲル上で共培養した。合成PEGヒドロゲルに神経始原細胞(NPC)を播種し(0日目)、続いて内皮細胞(EC)及び間葉幹細胞を9日目に、ミクログリア/マクロファージ前駆細胞(MG)を13日目に播種した。(A及びB)21日目の神経構築物のβIII-チューブリン(緑色)、GFAP(赤色)及びDAPI(青色)を示す最大投影Zスタック(厚さ525μm)及びスライスビュー(NIS Elements)である。破線によって示した領域のXZ及びYZ断面図が示される。Aで枠に囲まれた領域がBに示されている。(C及びD)Aで示した完全な神経構築物(6,300μmx6,300μmx550μm)(C)及びBで示した領域(1,570μmx2,290μmx300μm)(D)に対応するボリュームビュー画像(NIS Element)である(スケールバーはAで1,000μm、Bで500μm)。
図2B-2D】図2A-2Dは神経構築物の形態学的特徴を示す画像である。ヒト胚性幹細胞由来前駆細胞を24ウェルのトランスインサート中のポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲル上で共培養した。合成PEGヒドロゲルに神経始原細胞(NPC)を播種し(0日目)、続いて内皮細胞(EC)及び間葉幹細胞を9日目に、ミクログリア/マクロファージ前駆細胞(MG)を13日目に播種した。(A及びB)21日目の神経構築物のβIII-チューブリン(緑色)、GFAP(赤色)及びDAPI(青色)を示す最大投影Zスタック(厚さ525μm)及びスライスビュー(NIS Elements)である。破線によって示した領域のXZ及びYZ断面図が示される。Aで枠に囲まれた領域がBに示されている。(C及びD)Aで示した完全な神経構築物(6,300μmx6,300μmx550μm)(C)及びBで示した領域(1,570μmx2,290μmx300μm)(D)に対応するボリュームビュー画像(NIS Element)である(スケールバーはAで1,000μm、Bで500μm)。
図3A-3I】チオール-エンの調節可能な生物物理学的及び生化学的特性が細胞機能を先導することを示す画像(A-H)及びグラフ(I)である。図2A-2Dは、チオール-エンの光重合を介して形成されたPEGヒドロゲルで培養した間葉幹細胞(MSC)の拡散に対するヒドロゲルの特性の影響を示す。図2A-2Dの画像は、細胞接着のためのCRGDS及び天然のコラーゲン配列(ALA)又は分解速度強化のために操作した配列(TRYP及びLEU)に由来する架橋ペプチドを取り込んだPEGヒドロゲルを示す。マトリックスの改造は、当該合成マトリックスの生物学的特性を制御することによって調節することができる。間葉幹細胞の拡散は分解速度及び接着リガンド濃度の関数である。MSCの付着及び拡散は、接着リガンド濃度を変更する(フィブロネクチン模倣CRGDSを使用する)ことによって、又は架橋材のタンパク分解性分解に対する感受性を変更する(当該アミノ酸配列のP’2位を変更する)ことによって調節された。(A)MSC拡散は、当該アミノ酸配列のP’2位のトリプトファン及び1000mMのRGDにより最大化された。(B)MSCは、分解性がもっとも高い架橋剤(P’2位にトリプトファン)の存在下で、ただし活性な接着ペプチドの非存在下で(0 RGD条件(RGDは生物活性のないRGDスクランブルペプチドで置き換えられた))丸い形状を維持した。(C)トリプトファンがAlaで置き換えられたとき、MMP分解への感受性の低下のゆえに限定的な拡散が観察されただけであるが、一方、(D)中間的な拡散がトリプトファンをLeuに置き換えたときに観察された。(E, F)生染色/死後染色は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、3D編成に相違を生じる2つの異なるRGD濃度を用いて3D合成細胞外マトリックスで増殖させたときに生存活性を有することを示す。(G)3D合成マトリックスで増殖させたヒト皮膚線維芽細胞の画像は、コラーゲン(H)と比較して基本的な細胞の形態及び細胞骨格構造がそれらの間で区別できないことを示す(ここでゲルの機械的特性は一致する)。(I)弾性率(剛性)は、モノマー濃度(wt%)、分子量及びPEG骨格分子(4アーム又は8アーム)を選択することによって広範囲の値にわたって変更することができる。
図4A-4E】図4A-4Kは、神経組織構築物は多様な形態及び長距離秩序を有するニューロンを特徴とすることを示す共焦点画像である。免疫蛍光画像はニューロン及びグリアの表現型を示す。(A-E)24ウェルトランスウェルインサート内で形成された完全な血管新生神経構築物のβIIIチューブリン(緑色)及びDAPI(青色)発現を示す(上左)、最大投影免疫蛍光画像。(F-J)別個の神経表現型。(F)カルレチニン(緑色)及びリーリン(赤色)。(G-K)(G)GABA、(H)VGLUT2、(I)FOXG1、(J)Ctip2及び(K)Brn2と同時発現されたβIIIチューブリン(赤色)。スケールバーは100μm(F-K)。
図4F-4K】図4A-4Kは、神経組織構築物は多様な形態及び長距離秩序を有するニューロンを特徴とすることを示す共焦点画像である。免疫蛍光画像はニューロン及びグリアの表現型を示す。(A-E)24ウェルトランスウェルインサート内で形成された完全な血管新生神経構築物のβIIIチューブリン(緑色)及びDAPI(青色)発現を示す(上左)、最大投影免疫蛍光画像。(F-J)別個の神経表現型。(F)カルレチニン(緑色)及びリーリン(赤色)。(G-K)(G)GABA、(H)VGLUT2、(I)FOXG1、(J)Ctip2及び(K)Brn2と同時発現されたβIIIチューブリン(赤色)。スケールバーは100μm(F-K)。
図5A-5D】5A-5Dは、神経構築物内の血管ネットワーク形成を示す。(A及びB)21日目の神経構築物の内皮細胞(CD31、緑色)、グリア細胞(GFAP、赤色)及び核(DAPI、青色)の免疫蛍光。(B)Aの枠で囲った領域のズームで、毛細管と放射状に並んだグリア細胞(矢印)との結合及び連携を示す。Bの細胞は、(C)CD31及び(D)GFAPの単一チャネル黒白諧調画像として示されている。スケールバーはAで250μm、B-Dで10μm(Bに示す)である。
図6A図6A-6Bは神経構築物へのミクログリアの取り込みを示す。(A)ミクログリアの存在下、非存在下における神経構築物の遺伝子発現(品質管理実験;N.D.は検出されないことを示す)。統計分析はスチューデントt検定を用いて実施した(TPM±SD;***P<0.001;各々n=4複製サンプル)。(B)21日目の神経構築物のIba1(ミクログリア、赤色)及びCD31(内皮細胞、緑色)発現を示す免疫蛍光画像。ミクログリアは分岐状形態を採り(閉鎖矢印)、更に毛細管と結合する(開放矢印)。(差込み図)閉鎖矢印(下、右隅)で示した細胞及び周辺の核のIba1(赤色)及びDAPI(青色)発現。画像は明瞭にするために明度が高められている。(スケールバー、100μm)。
図6B図6A-6Bは神経構築物へのミクログリアの取り込みを示す。(A)ミクログリアの存在下、非存在下における神経構築物の遺伝子発現(品質管理実験;N.D.は検出されないことを示す)。統計分析はスチューデントt検定を用いて実施した(TPM±SD;***P<0.001;各々n=4複製サンプル)。(B)21日目の神経構築物のIba1(ミクログリア、赤色)及びCD31(内皮細胞、緑色)発現を示す免疫蛍光画像。ミクログリアは分岐状形態を採り(閉鎖矢印)、更に毛細管と結合する(開放矢印)。(差込み図)閉鎖矢印(下、右隅)で示した細胞及び周辺の核のIba1(赤色)及びDAPI(青色)発現。画像は明瞭にするために明度が高められている。(スケールバー、100μm)。
図7A-7C】図7A-7Cは、神経組織構築物が階層を形成する層及びニューロンとグリア細胞の放射状編成を有することを示す。最大投影Zスタックは、ニューロン(βIIIチューブリン、緑色)、グリア(GFAP、赤色)及び核(DAPI、青色)マーカーの免疫蛍光を示す。(A)NPC後9日目の完全なニューロン構築物をMMP-分解性PEGヒドロゲル上に播種した。内皮細胞及び間葉支持細胞を9日目の完全な組織構築物に添加し、神経管内での神経上皮細胞による補充を模倣した。(B、C)初期ニューロン及びグリア集団の階層形成及び放射状整列を示すより高倍率の画像。スケールバー=250μm。
図8図8は、3D血管新生神経構築物の遺伝子発現データの表である。
図9図9は、ミクログリアの存在下及び非存在下で14日目及び21日目に形成された神経構築物の複製のスペアマン相関データを提供する表である。
図10A-10B】図10A-10Eは機械学習予測を提供する。(A)2D問題のための線形サポートベクターマシーン(SVM)である。ここで、(n-1)次元超平面は、クラス(黒塗り対白塗りの丸)を分離する線にまで減少し、クラス間のもっとも近い点を最大にする(サポートベクター、前記は超平面の位置及び向きを固定する)。xisは例(Aの点)であり、yisはそれらの標識(Aの黒塗り又は白塗り)であり、wは加重ベクトル又は特色(次元)における係数ベクトルである。線形SVMの出力は加重ベクトルw及び他の係数bである。予測のために、SVMは数w’xi-bを計算し、この数が0未満の場合には標識0を出力し(我々の適用では非毒性)、そうでなければ1を出力する。SVMのソフトマージンバージョンのために要求される拡張は等式では桃色で強調されてあり、前記は、マージンへの付加で不正確に分類された学習点(ξi)間の距離の総数を最少化し、データが直線により分離できないときに用いられる(Hall M, et al. (2009) The WEKA data mining software: an update. SIGKDD Explor Newsl. 11(1):10-18)。(B)性能データ(16日目(2日投与)及び21日目(7日投与)から平均した)が受信者動作特性(ROC)曲線の形で示される。ROC曲線は、閾値が変動するとき、x軸上の偽の陽性率に対してy軸上に真の陽性率をプロットする。図10C-10Eは、追加の受信者動作特性(ROC)曲線プロット及び被検毒素(E)を提示する。
図10C-10D】図10A-10Eは機械学習予測を提供する。(A)2D問題のための線形サポートベクターマシーン(SVM)である。ここで、(n-1)次元超平面は、クラス(黒塗り対白塗りの丸)を分離する線にまで減少し、クラス間のもっとも近い点を最大にする(サポートベクター、前記は超平面の位置及び向きを固定する)。xisは例(Aの点)であり、yisはそれらの標識(Aの黒塗り又は白塗り)であり、wは加重ベクトル又は特色(次元)における係数ベクトルである。線形SVMの出力は加重ベクトルw及び他の係数bである。予測のために、SVMは数w’xi-bを計算し、この数が0未満の場合には標識0を出力し(我々の適用では非毒性)、そうでなければ1を出力する。SVMのソフトマージンバージョンのために要求される拡張は等式では桃色で強調されてあり、前記は、マージンへの付加で不正確に分類された学習点(ξi)間の距離の総数を最少化し、データが直線により分離できないときに用いられる(Hall M, et al. (2009) The WEKA data mining software: an update. SIGKDD Explor Newsl. 11(1):10-18)。(B)性能データ(16日目(2日投与)及び21日目(7日投与)から平均した)が受信者動作特性(ROC)曲線の形で示される。ROC曲線は、閾値が変動するとき、x軸上の偽の陽性率に対してy軸上に真の陽性率をプロットする。図10C-10Eは、追加の受信者動作特性(ROC)曲線プロット及び被検毒素(E)を提示する。
図10E図10A-10Eは機械学習予測を提供する。(A)2D問題のための線形サポートベクターマシーン(SVM)である。ここで、(n-1)次元超平面は、クラス(黒塗り対白塗りの丸)を分離する線にまで減少し、クラス間のもっとも近い点を最大にする(サポートベクター、前記は超平面の位置及び向きを固定する)。xisは例(Aの点)であり、yisはそれらの標識(Aの黒塗り又は白塗り)であり、wは加重ベクトル又は特色(次元)における係数ベクトルである。線形SVMの出力は加重ベクトルw及び他の係数bである。予測のために、SVMは数w’xi-bを計算し、この数が0未満の場合には標識0を出力し(我々の適用では非毒性)、そうでなければ1を出力する。SVMのソフトマージンバージョンのために要求される拡張は等式では桃色で強調されてあり、前記は、マージンへの付加で不正確に分類された学習点(ξi)間の距離の総数を最少化し、データが直線により分離できないときに用いられる(Hall M, et al. (2009) The WEKA data mining software: an update. SIGKDD Explor Newsl. 11(1):10-18)。(B)性能データ(16日目(2日投与)及び21日目(7日投与)から平均した)が受信者動作特性(ROC)曲線の形で示される。ROC曲線は、閾値が変動するとき、x軸上の偽の陽性率に対してy軸上に真の陽性率をプロットする。図10C-10Eは、追加の受信者動作特性(ROC)曲線プロット及び被検毒素(E)を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以前のin vitro実験は、ヒト多能性幹細胞由来神経始原細胞の層状ニューロン組織(新皮質に類似する)への自己組み立て能力を示し(Lancaster et al., Nature 501:373, 2013;Kadoshima et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 110:20284, 2013;Mariani et al., Proceedings of the National Academy of Sciences 109:12770, 2012;Eiraku et al., Cell Stem Cell 3:519, 2008)、このことは特に発育期の神経毒性スクリーニングと関係し得る。しかしながら、以前のニューロン組織モデルは、発育中の脳の重大な成分(例えば血管及びミクログリア)を欠いていた。本発明は少なくとも部分的に本発明者らの発見に基づいており、前記発見は、改造に対して許容的な材料中で培養されたヒト多能性幹細胞由来前駆細胞は、ヒト組織の複雑さ及び編成を概括する高度に均一な3D血管新生ニューロン組織を形成するというものである。本発明者らは更にまた、当該3D血管新生組織は化合物のスクリーニングに有用であることを発見し、当該組織の包括的遺伝子発現プロフィールを用いて90%を超える試験化合物を正確に分類する機械学習プロトコルを開発した。ヒト多能性幹細胞由来ニューロン組織は、ヒト脳の発育のモデルとなる動物試験の代替物を提供することが知られていたが、本発明者らは、生理学的に関連するヒト細胞を含み、かつ大規模で定量的な処理能力が強化されたスクリーニングに適用するために要求される高度なサンプル均一性を有する、複雑なヒト組織モデルを作製することが可能であることを見出した。
in vitro“オルガノイド(organoid)”モデルの作製に好結果をもたらす戦略が多様な組織について報告されているが(Ader & Tanaka, Curr. Opin. Cell Biol. 31:23, 2014)、マトリゲル及び/又はこれらの手順のために典型的に用いられる懸濁培養技術は、処理能力が強化された定量分析にとってあまり適切ではない変動性を持ち込む(Singec, Nat. Methods 3:801, 2006)。従って、本発明は三次元組織構築物を含む組成物及びオルガノイドに関し、前記は、化学的に規定される生物活性土台上で前駆細胞を組み立てるために単層培養技術を用いて入手される。本発明はまた、三次元組織構築物及びオルガノイドをヒト組織の高度に均一なモデルとして、及び潜在的に有毒な作用薬のスクリーニングに用いる方法を提供する。本発明によって提供される利点の中で特に、本発明の三次元組織構築物及びオルガノイドは、神経組織の複雑な環境内での多様な神経毒性作用薬の影響について生物学的に関連する情報を提供する。加えて、本発明は、ヒト組織操作のための材料及び組合せ戦略の識別に有用である。
【0009】
組成物
従って、本発明は三次元(3D)組織構築物を含む組成物を提供する。本明細書で用いられるように、“組織構築物”という用語は、複雑な局所解剖学及び幾何学(例えば多層構造、セグメント、シート、管、袋)を含む、in vitroで作製される操作された組織を指す。組織構築物の複雑な局所解剖学及び幾何学は、天然の組織内で見出される細胞対細胞相互作用を概括する。本明細書で用いられるように、“三次元(3D)組織構築物”という用語は細胞及び材料の操作された集合体を指し、前記材料は、in vivoの生理学的状態を模倣するために三次元の相互に接続された複雑な構造を形成する。対照的に、二次元培養は組織培養皿に単層状態で培養された細胞を含む。本発明の操作された組織構築物は、同種又は異種細胞集団を含む少なくとも2つの層を含み、ここで組織構築物の1つの層はもう1つの層と組成的に又は構造的に別個である。いくつかの事例では、組織構築物の層は、互いに対して空間的に規定された配置で複数の細胞タイプを含み、天然の組織内で見出される細胞間相互作用を概括する。例示的実施態様では、組織構築物は3D神経組織構築物であり、前記は、in vitroでの発育を許容する三次元微小環境を提供してin vivoの神経組織を概括する。本発明の3D神経組織構築物は、神経始原細胞を神経細胞及びグリア細胞の集団を含む層状組織に加えることによってin vitroで形成される。例示的実施態様は、図1A-1Bに示される。本実施態様にしたがえば、血管新生神経組織構築物は、ヒトES/iPS細胞由来内皮細胞、周皮細胞及び原始マクロファージ(ミクログリア前駆細胞)を調節可能ヒドロゲル(毛細管ネットワークの形成を促進する特定のペプチドモチーフをディスプレーする)に埋め込むことによって得られる。この間葉細胞層に対して、神経及びアストロサイト前駆細胞が重層される。続いてヒドロゲルを約2週間培養して、in vivoの頭部間葉-神経上皮相互作用を模倣する血管新生神経組織構築物を形成する。神経始原細胞(NPC)及び/又はそのような始原細胞に由来する成分は、三次元組織構築物の上部に当該成分を添加することによって導入される。
【0010】
いくつかの事例では、3D神経組織構築物は、血管構造又はミクログリアを欠く層状神経組織を含む。他の事例では、本発明の3D神経組織構築物は更に血管及び/又はミクログリア成分を含む。例えば、3D神経組織構築物は、階層を形成した血管新生神経上皮をミクログリア存在下又はミクログリア非存在下に含む。好ましくは、本明細書に記載の3D血管新生神経組織構築物は以下の特性の少なくとも1つを含む:(i)相互に接続された血管構造;(ii)当該神経組織構築物内の分化細胞は相互に三次元で接触する;(iii)2層以上の細胞を有する;及び(iv)in vivo又はin situのヒト神経組織に特徴的な機能又は特性を示す。
いくつかの事例では、本発明の組成物は三次元皮質組織構築物を含む。そのような事例では、3D皮質組織構築物は、ヒト大脳皮質の構造的編成及び血管新生を概括する複雑な組織を含む。
三次元培養に用いられる天然由来のECM(例えばマトリゲル(Matrigel(商標), BD Biosciences, Bedford, MA)、コラーゲンゲル)は規定が不明確であり、典型的には細胞を広範囲のシグナリング因子に同時に暴露する。協調的に作用する他の多数のシグナルの影響を受けることなく特定のタイプのシグナルの細胞の行動に対する影響を最適化するために、天然由来ECMに代わるものが好ましい。例示的実施態様では、本発明の3D組織構築物は、多孔性生物材料(例えばヒドロゲル)を含む。“ヒドロゲル”という用語は、合成又は生物学的成分を含む高度に水和された多孔性材料を指し、前記は、有機ポリマー(天然又は合成)が共有結合、イオン結合又は水素結合により架橋されてゲルを形成するために水分子を取り込む3D開放格子を生じるときに形成される。本発明の3D組織構築物の構築に適切なヒドロゲルには以下が含まれるが、ただしこれらに限定されない:合成ヒドロゲル、生物活性ヒドロゲル、生物適合性ヒドロゲル、細胞適合性ヒドロゲル、化学的に規定されたヒドロゲル、化学的に規定された合成ヒドロゲル、及びタンパク分解性ヒドロゲル。
【0011】
本明細書で用いられるように、“生物活性の(bioactive)”とは、細胞応答又は組織応答(例えば、多能性幹細胞の分化、血管形成(vasculogenesis)の誘発、神経幹細胞分化、細胞付着の促進、細胞の自己組み立ての促進、及び細胞対細胞相互作用の促進)を推進する能力を示すことが意図される。
本明細書で用いられるように、“生物適合性の(biocompatible)”という用語は、細胞の活動を支援する土台としてのポリマー又はヒドロゲルの性能を指し、前記性能には分子的又は機械的シグナリング系の促進が含まれ、適切な細胞の自己組み立て又は細胞性機能、例えば組織形成、可溶性生物活性分子(例えば増殖因子)の産生、特異的な細胞行動(例えば遊走及び増殖)を可能にする。いくつかの事例では、“生物適合性”は、細胞又は組織損傷作用を有する成分を含まないことを意味する。本明細書で用いられるように、“化学的に規定された”という用語は、組成物中の各成分(例えばヒドロゲル)の本体及び量が既知であることを意味する。多能性幹細胞培養及び多能性幹細胞の誘導分化の分野における重要な目標は、性能の一貫性及び再現性の改善を提供する培養材料及び培地を開発することである。いくつかの事例では、本明細書で提供する神経組織構築物で使用される化学的に規定されたヒドロゲルは、最小数の規定成分/含有物を含む。
本明細書で用いられるように、“細胞適合性の”という用語は、ヒドロゲル材料が実質的に非細胞毒性であり、細胞毒性分解生成物を全く生じないか又は本質的に生じないことを意味する。
本明細書で用いられるように、“タンパク分解性の”という用語は、架橋された骨格が酵素的又は非酵素的に切断されて足場が破壊され得ることを意味する。
【0012】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載の神経組織構築物に包含される適切なヒドロゲルは、三次元構造枠組み内に少なくとも部分的に収納される。好ましくは、構造枠組みは、1つ以上のポリマー材料(バイオポリマーを含む)から調製された三次元構造を含む。
本発明の神経組織構築物での使用に適切なヒドロゲルは、以下を含む(ただしこれらに限定されない)多様なポリマーを用いて調製できる:ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド、及び多糖類。PEGは水及び多くの有機溶媒で可溶性を有するポリマーであり、一般的には毒性、抗原性又は免疫原性を欠く。PEGは各末端で活性化して二官能性にすることができる。他の事例では、反応性部分をもつように一方の末端を改変することができる。例えば、一方の末端に相対的に不活性なメトキシ部分を有し(例えばメトキシ-PEG-OH)、他方の末端は化学的に容易に改変できるヒドロキシル基であるようにPEGモノマーを改変できる。多糖類ヒドロゲルは、天然又は半合成多糖類(例えばアルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、及びキトサン)を架橋することによって生成される。架橋反応は、ポリマー鎖間で共有結合により生成される三次元ネットワーク(生理学的条件下で安定なネットワーク)の形成を可能にする。
いくつかの実施態様では、本明細書に記載の神経組織構築物に包含される適切なヒドロゲルは、三次元構造枠組み内に少なくとも部分的に収納される。好ましくは、構造枠組みは、1つ以上のポリマー材料(バイオポリマーを含む)から調製された三次元構造を含む。他の実施態様では、生物活性ヒドロゲルマトリックスが枠組み又は付加物の非存在下で付加的構造又は強度を有することは有用であり得る。そのような事例では、生物活性ヒドロゲルマトリックスは安定化され、架橋された形態を有する。
【0013】
例示的実施態様では、本発明の3D組織構築物を作製するためにヒドロゲル(例えばPEGヒドロゲル、多糖類ヒドロゲル)が用いられる。光重合を用いて、細胞をこれらのゲル内に容易に被包化できる(以下を参照されたい:Fairbanks et al., Adv. Mater. 21:5005-5010, 2009)。タンパク質及び細胞は、PEGとの固有の接着又は相互作用をほとんど又は全く示さない(以下を参照されたい:Drury & Mooney, Biomaterials 24(24):4337-51, 2003;Nguyen & West, Biomaterials 23(22):4307-14, 2002;及びHoffman, Adv. Drug Deliv. Rev. 54(1):3-12, 2002)。従って、PEGは、具体的な生物学的分子を制御された態様で細胞に提供できる理想的な“白紙状態”を提供する。
血管新生神経上皮を概括する操作された神経構築物の自己組み立てを促進するために、“チオール-エン”化学反応を用いる光重合戦略を用いることは有利である(以下を参照されたい:Fairbanks et al., Adv. Mater. 21:5005-5010, 2009)。チオール-エンの段階的成長光重合は、光開始剤の存在下のチオールとビニル基との間の反応(均質で細胞適合性ヒドロゲルを生じる反応)に基づく。光重合反応速度は、光開始剤(例えばラジカル)の濃度を変更することによって制御することができる。
いくつかの事例では、本発明の3D神経組織構築物は、ノルボルネンで官能化したPEGモノマーを用いて形成されたヒドロゲルを含む。例えば、本発明の3D神経組織構築物は、ノルボルネン官能化PEG溶液を形成するために5-ノルボルネン-2-カルボン酸と反応させた4-アーム又は8-アームPEGを含むヒドロゲルを用いて調製できる。
【0014】
いくつかの事例では、本明細書に記載の神経組織構築物に適切なヒドロゲルは、生物活性作用薬、例えば増殖因子、サイトカイン、生物活性を有するポリペプチド若しくはペプチド(例えばRGD含有ペプチド)、又は当該ヒドロゲル上で若しくはヒドロゲル内で培養された細胞のバイオ分子と相互作用することができる他の任意の生物活性リガンドを含む。フィブロネクチン由来RGDペプチド配列を含むペプチドには、RGDS(配列番号:7)、CRGDS(配列番号:2)、Ac-CRGDS(配列番号:11)、CRGDS-CONH(2)(配列番号:12)、Ac-CRGDS-CONH(2)(配列番号:13)、RGDSC(配列番号:8)、CCRGDS(配列番号:9)及びCCCRGD(配列番号:10)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。本発明に適切な生物活性作用薬の数及びタイプは、ヒドロゲル上で培養される細胞のタイプに左右されるであろう。適切な生物活性リガンドの例には、カルボキシル、アミン、フェノール、グアニジン、チオール、インドール、イミダゾール、ヒドロキシル、硫酸塩、ノルボルネン、マレイミド、ラミニン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ペプチド配列、又は前記の組み合わせが含まれるが、ただしこれらに限定されない。生物活性リガンドは、チオール-エン系光重合法を用いてPEGヒドロゲルに共有結合で取り込むことができる。
他のPEG処方物も、当該組織構築物を用いる方法、例えばスクリーニング(すなわち当該構築物内の細胞タイプに対しある種の活性又は影響を有する作用薬のスクリーニング)への適用で有用であり得る。いくつかの事例では、非分解性架橋剤を含むPEG処方物が、本明細書に記載の神経構築物を得るために用いられる。他の事例では、PEGモノマーを用いて形成される、多様な濃度の細胞外マトリックス由来ペプチド又は他のペプチド(例えばインテグリン結合配列CRGDS(配列番号:2)を含むペプチド)を含むヒドロゲルを用いることができる。例えば、組織の操作に適切なデキストランヒドロゲルが、細胞外マトリックス由来ペプチドの共有結合固定のために一級アミン基を導入することによって生成されている(Levesque and Shoichet, Biomaterials 27(30):5277-85, 2006)。更になお他の事例では、ヒドロゲルは種々の架橋密度を含むか(すなわち、ヒドロゲルの剛性の変更)、又はいくつかの事例ではMMP分解性架橋剤を含む。
【0015】
本発明の3D神経組織構築物は、単離細胞又は単離細胞集団をヒドロゲル上又はヒドロゲル内に分散させることによって調製できる。本明細書で用いられるように、“単離細胞”は、他の細胞タイプ又は生物学的作用薬から実質的に分離又は精製されてある細胞である。本明細書で用いられるように、“集団”という用語は、細胞収集物、例えば始原細胞及び/又は分化細胞収集物を指す。本明細書で用いられるように、本発明の細胞に関する“分化した”という用語は、それら細胞が特定の細胞タイプ及び/又は細胞系列に発育するようにプログラムされた位置へ発育した細胞を指すことができる。同様に、本発明の細胞に関して“非分化の”又は“未分化の”とは、始原細胞、すなわち特定の系列内の多様なタイプの細胞に発育する能力を有する細胞を指すことができる。例示的実施態様では、本発明の3D神経組織構築物は、1つ以上の規定の始原細胞集団(例えば、神経始原細胞の1つ以上の単離集団)を分散させることによって作製される。好ましくは、初期工程として、ヒドロゲル内又はヒドロゲル上に神経始原細胞を分散させることによって、ヒドロゲルは播種される。いくつかの事例では、神経始原細胞は、ヒト多能性幹細胞(例えばヒト人工多能性幹細胞を含む)に由来する。続いて、分散された神経始原細胞を含むヒドロゲルを、その中に分散されたヒト神経始原細胞の分化を促進する条件下で及び十分な時間の間培養する。前記のように培養したヒドロゲルは更にまた、1つ以上の追加されるヒト細胞タイプを当該培養ヒドロゲル内又はヒドロゲル上に分散させることによって播種される。好ましくは、1つ以上の追加のヒト細胞タイプが分散された後のヒドロゲルは、例えば以下の細胞集団を含む:周皮細胞、微小血管内皮細胞、グリア細胞(例えばアストロサイト及び希突起神経膠細胞)、ニューロン細胞(例えばGABA作動性及びグルタミン酸作動性ニューロン)、間質細胞、シュワン細胞、未分化細胞(例えば胚性細胞、幹細胞、及び始原細胞)、内皮由来細胞、中胚葉由来細胞、外胚葉由来細胞、及び癌由来細胞又は前記の組み合わせ(ヒト内皮細胞、ヒト間葉細胞、ヒト原始マクロファージ、及びヒト周皮細胞が含まれるが、ただしこれらに限定されない)。前記のような分散ヒト細胞を含むヒドロゲルを、細胞分化を促進する条件下で、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む3D血管新生神経組織構築物の形成が観察できるように十分な時間培養することができる。神経始原細胞の分化時及び細胞タイプ(例えば内皮細胞、ヒト間葉細胞、ヒト原始マクロファージ及びヒト周皮細胞)の添加時に、得られた三次元神経組織構築物は1つ以上のヒト脳発育段階を示す。
いくつかの事例では、細胞の機能又は特徴を調整する1つ以上の生物活性作用薬を当該ヒドロゲル内又はヒドロゲル上に分散することによって、ヒドロゲルは更にまた播種される。そのような生物活性作用薬は、本明細書に記載した細胞タイプの分散の前又は分散の後で当該ヒドロゲル内に又はヒドロゲル上に分散され得る。
【0016】
有利には、本発明の3D神経組織構築物は、発育中のヒト脳(血液脳関門の特徴を有する血管ネットワーク及び原始マクロファージの分化に由来するミクログリアを含む)と生理学的に関連するin vitroモデルを提供する。例示的実施態様では、本発明の3D組織構築物は、哺乳動物(例えばヒト、非ヒト霊長類)の脳の発育のため又は前記に関与する重要なエレメントを含む。前記エレメントには、神経始原細胞、内皮細胞(例えばヒト微小血管内皮細胞)、間葉細胞、及び原始マクロファージが含まれるが、ただしこれらに限定されない。構築物内で分化する神経始原細胞はニューロン及びグリア集団を提供する。内皮細胞及び間葉細胞は相互接続血管構造に寄与し、原始マクロファージは分化して構築物をミクログリアで埋める。いくつかの事例では、本発明の組織構築物を埋める細胞は、ヒト多能性幹細胞(例えばヒト胚性幹細胞(hESC)又はヒト人工多能性細胞(iPSC))から化学的に規定され異種間物質を含まない条件下で誘導される。それぞれ米国特許出願~号及び~号(出願番号は後で提供される)として同時に継続している、ドケット番号960296.01747.P140372US01及び960296.01748.P140410US01に記載されているように、例示的な実施態様では、別個の組織構築物成分を別々に誘導するために、化学的に規定され異種間物質を含まない条件下でヒト多能性幹細胞がin vitroで分化させられる。そのような細胞は自己組立てで神経組織構築物を生じることができ、前記構築物は血管構造又はミクログリアを欠くか、又は続いて血管細胞又はミクログリアが播種される。他の事例では、中間段階の細胞(例えばより初期の神経始原細胞)を添加することによって3D神経組織構築物内の分化を強化することが可能である。
【0017】
例示的実施態様では、3D神経組織構築物は、神経始原細胞(例えばヒト多能性幹細胞由来神経始原細胞)を生物活性な合成ヒドロゲル(例えばPEGヒドロゲル)上で培養し、神経集団及びグリア集団の分化並びに自己組立てを促進することによって作製される。そのような神経始原細胞は、約10,000細胞/ウェルから約500,000細胞/ウェルの濃度(例えば約10,000細胞/ウェル、20,000細胞/ウェル,30,000細胞/ウェル,40,000細胞/ウェル,50,000細胞/ウェル、75,000細胞/ウェル、100,000細胞/ウェル、150,000細胞/ウェル、200,000細胞/ウェル、250,000細胞/ウェル、300,000細胞/ウェル、400,000細胞/ウェル、450,000細胞/ウェル、500,000細胞/ウェル)でヒドロゲル上に播種できる。好ましくは、神経始原細胞は、約50,000から約200,000細胞/ウェルの濃度で播種される。
続いて、血管細胞及びミクログリア前駆細胞(原始マクロファージ)が当該ヒドロゲル構築物に添加される。血管細胞及び原始マクロファージの添加は、神経管の形成後の血管及びミクログリアの補充を模倣する。生物活性な合成ヒドロゲル上で培養されるとき、前駆細胞は自己組立てにより複雑な多層状の高度に均一なニューロン組織様構築物を形成し、前記構築物はサンプル間で類似する大雑把な形態学的特色を有する。血管細胞及び/又は原始マクロファージは、約10,000細胞/ウェルから約500,000細胞/ウェルの濃度(例えば約10,000細胞/ウェル、20,000細胞/ウェル、30,000細胞/ウェル、40,000細胞/ウェル、50,000細胞/ウェル、75,000細胞/ウェル、100,000細胞/ウェル、150,000細胞/ウェル、200,000細胞/ウェル、250,000細胞/ウェル、300,000細胞/ウェル、400,000細胞/ウェル、450,000細胞/ウェル、500,000細胞/ウェル)で播種され得る。好ましくは、血管細胞及び/又は原始マクロファージは、約50,000から約200,000細胞/ウェルの濃度で播種される。
【0018】
例示的実施態様では、3D組織構築物は、多能性幹細胞由来血液血管系中胚葉から生じる骨髄系系列(すなわち顆粒球、マクロファージ、赤血球系細胞及び巨核球)の始原細胞を播種される。ヒトでは、骨髄系共通始原細胞(CMP)(骨髄系系列に委ねられた始原細胞)は、CD34及びIL-3Rアルファ(CD123)を発現する。骨髄系系列(すなわち顆粒球、マクロファージ、赤血球系細胞及び巨核球)の始原細胞は、約10,000細胞/ウェルから約500,000細胞/ウェルの濃度(例えば約10,000細胞/ウェル、20,000細胞/ウェル、30,000細胞/ウェル、40,000細胞/ウェル、50,000細胞/ウェル、75,000細胞/ウェル、100,000細胞/ウェル、150,000細胞/ウェル、200,000細胞/ウェル、250,000細胞/ウェル、300,000細胞/ウェル、400,000細胞/ウェル、450,000細胞/ウェル、500,000細胞/ウェル)でヒドロゲルに播種され得る。好ましくは、骨髄系系列(すなわち顆粒球、マクロファージ、赤血球系細胞及び巨核球)の始原細胞は、約50,000から約200,000細胞/ウェルの濃度で播種される。
【0019】
ヒト血液血管系中胚葉細胞は、本明細書で提供する無血清無アルブミンの化学的に規定された培養培地の存在下で、ヒト多能性幹細胞を約2日間培養する工程を含む方法に従って入手できる。前記化学的に規定された培養培地は、Rhoキナーゼ阻害剤(ROCK阻害剤)(例えばY-27632)、骨形成タンパク質4(BMP4)、アクチンA及び塩化リチウム(LiCl)の1つ以上を更に含むように補充される。いくつかの事例では、ヒト多能性幹細胞は低酸素(すなわち大気よりも低レベルの酸素)条件で培養される。例示的実施態様では、細胞は5%のO2の存在下で本明細書の記載のように培養される。それらの方法は更にまた以下の工程によって骨髄系始原細胞を入手する工程を含むことができる:そのような多能性幹細胞由来血液血管系中胚葉細胞を、正常酸素(大気中の酸素レベル、約20%のO2)条件で化学的に規定されたゼノフリー培養培地(FGF2、VEGF、TPO、SCF、IL-6及びIL-3を含むか、又は本質的に前記から成る)で増殖させる工程。当該方法は、そのような細胞を骨髄系分化培養培地中で正常酸素条件下において培養する更なる工程を含むことができる。例示的実施態様では、骨髄系分化培養培地は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含む化学的に規定されたゼノフリー培地である。前記因子はまたコロニー刺激因子2(CSF2)としても知られ、主としてマクロファージ及び活性化T細胞によって生成されるサイトカインである。組換えヒトGM-CSF及び関連生成物は市場で入手できる。
【0020】
本明細書に記載の神経組織構築物は、構築物に大小の神経始原細胞集団を播種し、同時にニューロン及び/又はグリア細胞集団の数、サイズ及び組成(例えば濃度)を変更することによって、種々の立体配置及び形態を有するように改変できる。同様に、本明細書に記載の神経組織構築物を得るために用いられる任意の細胞成分又は細胞材料を改変又は最適化して、例えばヒト神経組織の発育の特徴をアッセイするためにスクリーニング方法又は本明細書で提供される神経組織の他の使用を調整(例えば培養/増殖期間の修正、追加の細胞タイプの添加、ある種の神経組織構築物成分の除去)するか、又は神経組織構築物の材料の特性を変更(例えば接着リガンド、架橋剤の変更など)することができる。
本発明の使用にはヒト細胞が好ましいが、本発明の組織構築物で使用されるべき細胞はヒト起源の細胞に限定されない。他の哺乳動物種(ウマ、イヌ、ブタ、ウシ、ネコ、ヤギ、ネズミ及びヒツジ起源を含むが、ただしこれらに限定されない)由来の細胞も用いることができる。細胞のドナーは発育及び年齢が異なっていてもよい。細胞は、胎児、新生児、又はより高年齢の個体(成人を含む)のドナー組織から誘導できる。
いくつかの事例では、本発明の組織構築物は、非改変又は野生型(“正常”)細胞の代わりに又はそれらに加えて、組換え細胞又は遺伝的に改変した細胞を含むことができる。例えば、いくつかの事例では、組換え細胞及び遺伝的改変細胞を含むことが有利であることがあり、それら細胞は、ある持続時間の間又は培養で提供される条件のために生物学的、化学的又は温度シグナルが与えられたときに必要とされる組換え細胞生成物、増殖因子、ホルモン、ペプチド又はタンパク質を生成する。組換え細胞又は遺伝的改変細胞を入手する手順は当業界で一般的に公知であり、更に以下の文献に記載されている:Sambrook et al, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989(参照により本明細書に含まれる)。
【0021】
別の特徴では、本発明は、特定の対象哺乳動物(例えば特定の対象ヒト)に由来する1つ以上の細胞タイプを含む3D組織構築物を提供する。いくつかの事例では、誘導される1つ以上の細胞タイプは、当該特定の対象哺乳動物の特定の疾患若しくは異常と密接に関係するか又は前記疾患若しくは異常から生じる1つ以上の特異的な表現型を示す。対象動物特異的細胞は、問題の標的組織から生検又は他の組織サンプル抽出方法によって入手又は単離できる。いくつかの事例では、対象動物特異的細胞は、本発明の組織構築物に使用される前にin vitroで操作される。例えば、対象動物特異的細胞は、本発明の組織構築物で使用される前に増殖、分化、遺伝的改変、ポリペプチド、核酸若しくは他の因子との接触、凍結保存に付されるか、又は別の態様で改変され得る。いくつかの事例では、対象動物特異的細胞は、本発明の三次元組織構築物に被包化される前、その最中又はその後で分化に付される。他の事例では、本発明の組織構築物で使用される対象動物特異的細胞は、当業界で公知の方法に従って当該対象動物の体細胞を再プログラミングすることによって誘導される人工多能性幹細胞である。例えば以下を参照されたい:Yu et al., Science 324(5928):797-801, 2009;Chen et al., Nat Methods 8(5):424-9, 2011;Ebert et al., Nature 457(7227):277-80, 2009;Howden et al., Proc Natl Acad Sci U S A 108(16):6537-42, 2011。ヒト人工多能性幹細胞は、遺伝的に多様な個体集団(遺伝疾患を有する個体を含む)における薬剤応答モデルの作製を可能にする。もっとも安全な薬剤ですら、特異的な遺伝的背景又は環境歴を有するある種の個体では有害な反応を引き起こす可能性がある。従って、多様な薬剤に対する既知の感受性若しくは耐性又は疾患を有する個体から得られたiPS細胞から誘導される細胞を含む3D組織構築物は、薬剤応答多様性に寄与する遺伝的因子及び後成的影響の同定に有用であろう。
例示的実施態様では、ヒト多能性幹細胞(例えばヒトESC又はiPS細胞)はフィーダー層(例えば線維芽細胞層)の非存在下及び化学的に規定された無酸素土台の存在下で培養される。例えば、ヒト多能性幹細胞は、ビトロネクチン、ビトロネクチンフラグメント若しくは変種、ビトロネクチンペプチド、自家被覆土台(例えばシンテマクス(Synthemax(商標)(Corning))又は前記の組み合わせを含む土台の存在下で培養され得る。例示的実施態様では、化学的に規定されたゼノフリー土台は、ビトロネクチンペプチド又はポリペプチド(例えば組換えヒトビトロネクチン)で被覆されたプレートである。
【0022】
別の特徴では、本発明はオルガノイド培養系を提供する。本明細書で用いられるように、“オルガノイド”という用語は、組織様構造物(すなわち特定の組織タイプの構造的特性を示す)を指し、前記は、全器官と類似し、かつ別々の添加物及び多様な細胞タイプ(多能性幹細胞、胎児神経幹細胞、及び単離された器官始原細胞を含むが、ただしこれらに限定されない)の自己編成によってin vitroで組み立てられる(例えば以下を参照されたい:Lancaster and Knoblich, Science 345(6194), 2014)。本発明の例示的実施態様では、オルガノイド培養系はヒドロゲル被包化細胞を含む三次元構築物を含み、三次元培養における細胞対細胞相互作用、細胞対マトリックス相互作用及び形態発生の混乱の分析のための生理学的に関連する微小環境を提供する。いくつかの事例では、オルガノイド培養系は、細管形成(例えば毛細管細管形成)及び血管形成(例えば、内皮の特色をもつ毛細管様構造によって取り囲まれる管腔を有する極性をもつ上皮の形成を含む)を少なくとも部分的に概括する微小環境を提供する。例示的実施態様では、本発明の3D組織構築物の毛細管細管形成は、脈管形成、出生後血管新生、及び胚の新生血管形成(neovascularization)に密接に類似する他の発育工程の原理を概括する(Montano et al., Tissue Engineering Part A 16(1):269-82, 2010;Kusuma et al., Proceedings of the National Academy of Sciences 110:12601-12606, 2013)。
いくつかの事例では、本発明の3D組織構築物は単離された生物学的成分を更に含む。本明細書で用いられるように、“単離された”生物学的成分(例えばタンパク質又は細胞小器官)は、当該成分が天然に存在する当該生物の細胞内の他の生物学的成分(例えば他の染色体並びに余分な染色体DNA及びRNA、タンパク質、及び細胞内小器官)から分離又は精製されてある。本明細書で用いられるように、“単離されたタンパク質”という用語には、標準的な精製方法によって精製されたタンパク質が含まれる。当該用語はまた、宿主細胞で組換え発現によって調製されるタンパク質と同様に化学的に合成されたタンパク質又はそのフラグメントも包含する。
【0023】
本発明の操作された三次元組織構築物は、構築物の作製、増殖及び維持を許容する任意の適切な組織培養容器で調製し、増殖させ及び維持することができる。適切な容器には、トランスウェル(TranswellTM)浸透性支持デバイス及びT-75フラスコが含まれる。いくつかの事例では、本発明の3D組織構築物は、マルチウェル組織培養容器で調製及び/又は維持される。マルチウェル容器は、本発明の方法による神経構築物の機械化及び大規模又は高処理スクリーニングの促進に有利である。例えば、問題の化合物と神経構築物とを接触させたときの細胞の相互作用、in vitro発育、毒性及び細胞増殖の高処理査定を促進する本発明の3D組織構築物は、マルチウェル組織培養容器を用いて調製又は提供され得る。いくつかの事例では、細胞増殖及び/又は分化を促進するポリペプチド又はペプチド(例えばビトロネクチン、フィブロネクチン)で組織培養容器を被覆して、細胞を播種する前に37℃のインキュベーターに置く。
任意の適切な方法又は複数の方法を用いて、本明細書で提供する3D組織構築物の均質性及びある種の成分の有無を確認できる。生物学的マーカーの有無を検出する適切な方法は当業界で周知であり、免疫組織化学、qRT-PCR、RNAシーケンシング及びRNAレベルでの遺伝子発現を評価する同様なものが含まれるが、ただしこれらに限定されない。いくつかの事例では、例えば免疫組織化学のような方法を用いて、3D組織構築物内の細胞タイプ又はバイオ分子が検出又は同定される。例えば、全組織構築物又はその部分を特異的な分化マーカーについて免疫組織化学によって染色することができる。いくつかの事例では、二重標識免疫蛍光を実施して個々のマーカータンパク質の相対的発現を査定するか、又は構築物内の複数の始原細胞若しくは分化細胞タイプを検出することは有益であろう。適切な一次及び二次抗体は当業者には公知であり入手可能である。加えて、マイクロアレー技術又は核酸シーケンシング(例えばRNAシーケンシング)を用いて、本発明の3Dの操作組織組成物の遺伝子発現プロフィールを入手できる。骨髄系マーカー及びマクロファージ関連マーカーには、例えばCD14、CD16、CSFR-1、CD11b、CD206(マクロファージマンノース受容体又はMMRとしても知られている)、CD68及びCD163が含まれる。細胞集団でタンパク質レベルのマーカー発現を評価する定量的方法もまた当業界で公知である。例えば、フローサイトメトリーを用いて、ある細胞集団で問題の生物学的マーカーを発現する又は発現しない細胞分画が決定される。血管周囲細胞及びミクログリアのための生物学的マーカーは、CD45、CD68又はHLA-DR複合体に特異性を有する抗体を含む。
【0024】
本発明の3D組織構築物に被包化された始原細胞の分化潜在能力は、例えば、磁性仕分け、フローサイトメトリー、免疫蛍光、明視野顕微鏡法及び電子顕微鏡法を用いて、ある種のタンパク質の表現型、編成及び存在の変化について試験することができる。いくつかの事例では、本発明の組織構築物を組織学又は顕微鏡法のために固定又は凍結することが有利であろう。例えば、本発明の3D組織構築物をプラスチック包埋のためにホルマリン又はパラホルムアルデヒドで固定し日常的方法を用いて切片に分割することができる。走査電子顕微鏡法(SEM)は、本発明の組織構築物での細管構造の形成の検出及び分析のために有用である。特にSEMを用いて横断組織構築物を調べ、血管形成(例えば大きな血管、小さな毛細管)を検出することができる。例示的実施態様では、共焦点顕微鏡法は、本発明の三次元組織構築物全体の細胞タイプ及び血管構造の分布を明らかにすることができる。いくつかの事例では、共焦点顕微鏡法によって得られる画像の三次元組立てを用いて、多様な細胞及び構造の分布並びに編成が分析される。
形態学もまた培養成分の特徴付けのために用いることができるが、種々の起原の細胞が同様な特色を共有することがあり、形態学だけを用いて区別することは困難かもしれない。適切な場合には、例えば細胞外又は細胞内記録技術を用いて興奮性及び抑制性シナプス電位を分析することができる。
【0025】
表1:血管新生神経組織構築物中の分化細胞タイプの生物学的マーカー
【0026】
【0027】
本発明の方法
別の特徴では、本発明は、哺乳動物の脳の発育に重要な又は当該発育に必要な構造エレメントを模倣する不均質で操作された組織構築物を作製及び使用する方法を提供する。特に、候補化合物の高処理スクリーニング及び3D組織構築物の1つ以上の成分の発育に毒性であるか又は発育を妨げる作用薬の同定のために当該組織構築物を用いる方法が、本明細書で提供される。本発明はまた、3D組織構築物を候補治療薬についてスクリーニングする方法、疾患又は病理学的異常のモデルを作製する方法、当該構築物の細胞の生存活性及び増殖能力について3D組織構築物を多様な培養条件下でアッセイする方法、並びに発育期神経毒性を示す化合物について神経オルガノイド組織を用いる方法を提供する。本明細書に記載するように、本発明の方法は、毒素原性試験のための標準的なin vitro及びin vivo方法論(例えば毒素原性試験のためのin vivoマウスバイオアッセイ)よりも有利である。特に、本明細書に記載の方法は、鋭敏で再現性があり、かつ定量可能な神経毒スクリーニング方法を提供する。当該方法は、in vivoマウスバイオアッセイ(MBA)(定量可能であるがエラーが発生しやすいアッセイ)に対するより良好な代替方法である。加えて、MBAは多数の動物を必要とし、実験室間での標準化又は高処理スクリーニングのためのスケールアップは容易ではない。MBA及び他の動物系アッセイの短所は、より生理学的に関連するヒト細胞を含み大規模で定量的なin vitroモデル及びスクリーニングへの適用に必要な均一性を有する細胞系モデルの開発に向けて、規制庁(食品医薬局(FDA)及び米国農務省を含む)の圧力を高めた(National Institutes of Health, 2008)。
【0028】
本発明の例示的実施態様では、本明細書に提供する3D神経組織構築物を用いて、既知及び未知の毒素原性について試験化合物がスクリーニングされる。例えば、3D組織構築物を試験化合物と接触させて、その中に含まれる細胞タイプ(例えばニューロン、グリア細胞、血管細胞、ミクログリア、他の分化細胞サブタイプ)のいずれかにおける任意の影響についてアッセイすることができる。例示的実施態様では、スクリーニング方法は、1つ以上の試験化合物を本発明の3D組織構築物に接触させる工程、及び生物学的特性又は活性(例えば遺伝子発現、タンパク質発現、細胞生存活性及び細胞増殖が含まれるが、ただしこれらに限定されない)における正の又は負の変化を検出する工程を含む。試験化合物が本発明の構築物の特定の生物学的活性に影響を有する態様は、当該試験化合物の性質、当該組織構築物の組成、及びアッセイされる特定の生物学的活性に左右されるであろう。しかしながら、本発明の方法は一般的には以下を含むであろう:(a)本明細書に提供する3D組織構築物を試験化合物とともに培養する工程、(b)当該人工組織構築物の選択した生物学的活性をアッセイする工程、及び(c)当該アッセイで決定された値を、当該試験化合物に接触させた構築物と同じ組成を有するが当該試験化合物の非存在下で(又はコントロールの存在下で)培養された3D組織構築物を用いて実施された同じアッセイの値と比較する工程。組織構築物の細胞の生物学的特性又は活性における正の又は負の変化を検出する工程は、当該接触させた組織構築物内の細胞若しくは組織の形態又は寿命に対する試験化合物の少なくとも1つの影響を検出する工程を含むことができ、それによって、細胞若しくは組織の寿命を短縮するか又は細胞若しくは組織の形態に対し負の影響を有する試験化合物は、ヒト神経組織に毒性を有すると同定される。いくつかの事例では、検出する工程は、例えばRNAシーケンシング、遺伝子発現プロファイリング、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析のような方法を実施する工程、レポーター又はセンサーを検出する工程、タンパク質発現のプロファイリング、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)、代謝プロファイリング、及びマイクロダイアリシスを含む。試験化合物を接触させた組織構築物の遺伝子発現にたいする影響についてスクリーニングすることができ、ここで、非接触組織構築物と比較すると弁別的遺伝子発現が検出される。
【0029】
例示的実施態様では、試験化合物への3D神経構築物の暴露(例えば接触)に続く少なくとも1つの遺伝子の発現レベルにおける正の又は負の変化を検出及び/又は測定する工程は、例えばRNAシーケンシングを用いる全トランスクリプトーム解析を含む。そのような事例では、遺伝子発現は、例えばデータ処理ソフトウェアプログラム(例えばライトサイクル(Light Cycle)、RSEM(期待値最大化によるRNA-seq(RNA-seq by Expectation-Maximization))、エクセル(Excel)、及びプリズム(Prism))を用いて計算される(以下を参照されたい:Stewart et al., PLoS Comput. Biol. 9:e1002936, 2013)。適切な場合には、ANOVA分析、ボンフェローに補正による分散分析、又はスチューデント両側t検定を用いて統計的比較を実施することができる(この場合、値はP<0.05で有意であると決定される)。任意の適切な方法を用いて、神経構築物からRNA又はタンパク質を単離することができる。例えば、全RNAを単離し逆転写して、シーケンシングのためのcDNAを得ることができる。
本明細書で提供する方法に従ってスクリーニングするために適切な試験化合物には、当該化合物が哺乳動物の脳の発育に対して有する影響を決定することが所望される任意の化合物が含まれる。試験化合物には本発明の3D構築物の細胞又は組織に対して1つ以上の有害な作用を有することが疑われる化合物が含まれることは、当業者には極めて明白であろう。理想的には、試験化合物は一連の潜在的細胞毒性をカバーし、重金属(例えば鉛、カドミウム)及びキナーゼ阻害(例えばMEK阻害剤)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。試験化合物は、既知又は未知の毒性プロフィールを有するFDA承認及びFDA非承認薬(後期動物試験又はヒト臨床試験で不成功であったものを含む)を含むことができる。試験化合物は、NIH治験収集物に含まれるものを含むことができる。毒素のいくつか(例えばMEK阻害剤)は3D組織構築物の全ての細胞又は大半の細胞に影響を及ぼし得る。
血管構造、ミクログリア、ニューロン、グリア細胞、及び前記の間の相互作用を含む、いずれの細胞タイプも標的となり得る。血液脳関門接合特性はもう1つの例ではあるが、我々は“脳血液関門”機能を有することを厳密には証明しなかった(ただし適切な結合及び遺伝子の多くが発現されていた)。
【0030】
試験化合物は、本明細書に提供の操作された組織構築物に接触させる前に溶媒(例えばジメチルスルホキシド(DMSO))に溶解できる。いくつかの事例では、作用薬を同定する工程は、生物学的活性(遺伝子発現、タンパク質発現、細胞生存活性及び細胞増殖が含まれるが、ただしこれらに限定されない)における正又は負の変化について接触させた3D組織構築物を分析する工程を含む。複数の試験化合物と当該構築物との接触前、接触中又は接触後に、例えば、マイクロアレー方法を用いて3D組織構築物の遺伝子発現プロフィールを分析することができる。遺伝子発現プロフィールは、複数の時点及び/又は複数の3D組織構築物について入手できる。いくつかの事例では、遺伝子発現プロフィールは、ECMの血管ネットワークの初期形成時の一時的な変化を直接には反映しないが、その代わりに各時点で激しく発現される遺伝子を同定する。いくつかの事例では、本発明の方法は更にまた追加される分析(例えば代謝アッセイ及びタンパク質発現プロファイリング)を含む。
なお別の特徴では、本発明は、既知及び潜在的な環境催奇形成物質を評価する方法を提供する。本明細書で用いられるように、“催奇形成物質(teratogen)”という用語は、胚又は胎児の構造及び機能の永続的異常、成長制限、又は死亡を生じ得る任意の環境因子を指す。本発明の方法は、候補催奇形成物質を本明細書に記載の3D神経組織構築物に接触させる工程、及び当該構築物で発育異常についてスクリーニングする工程を含むことができる。発育異常には血管形成異常、血管起原の他の欠陥、新形成が含まれ得るが、ただしこれらに限定されない。
別の特徴では、本発明は、血管の形態発生異常のin vitroモデルを作製する方法を提供する。特に、本発明は、本明細書で提供する3D神経構築物を用いて、候補作用薬を抗脈管形成、神経毒性及び/又は催奇性作用についてスクリーニングする方法を提供する。より具体的には、当該方法は、既知及び未知作用薬への暴露時における神経毒性作用(例えばニューロン増殖阻害)及び/又は内皮細胞又は血管形成に対する有害作用(例えば血管形態発生異常、脈管側枝形成又は血管の再造形)についてスクリーニングする工程を含む。細胞の生存活性及び増殖能力の変化は、例えば細胞染色及び3H-チミジン取り込みを用いて検出できる。
【0031】
別の特徴では、本発明は、オルガノイド構築物を用いて神経変性のin vitroモデルを作製する方法を提供する。特に、本発明は、神経変性と密接に関係する生物学的現象を研究するために、並びに神経変性疾患(例えばパーキンソン病)と密接に関係する遺伝子及びタンパク質の発現を検出又は測定するためにオルガノイドを提供する。加えて、オルガノイド構築物モデルは、新規な薬剤及び増殖因子のスクリーニングに有用であり、侵襲的な動物実験の必要性を減少させることができる。ある方法は、本明細書に記載の神経構築物を1つ以上の候補作用薬と接触させる工程、及び神経変性表現型(脱髄、軸索損傷、タンパク質凝集及び神経突起消失が含まれるが、ただしこれらに限定されない)と密接に関係する生物学的プロセスについてスクリーニングする工程を含むことができる。
いくつかの事例で、特徴的プロフィールを多様な細胞タイプ及び/又は発育期神経毒性と密接に関係させる工程を含む方法のために機械学習アプローチを利用することは有利であり得る。例えば、いくつかの事例では、1つ以上の機械学習アルゴリズムを本発明の方法と関連して利用し、発育期神経毒性を有する既知作用薬への当該構築物の暴露前、暴露時又は暴露後の3D神経構築物のRNAシーケンシング又は遺伝子発現プロファイリングによって検出及び入手されたデータを分析する。加えて、1つ以上の機械学習アルゴリズムを用いて、既存の毒性情報が存在しないときでも化学物質の神経毒性を予測する遺伝子セットを同定することができる。一般的には、機械学習アルゴリズムを用い、該当例を記述するインプット特色に基づいて複数の例にクラス標識を正確に割り当てるモデルが構築される。いくつかの事例では、機械学習アルゴリズムは、単純な線形セパレーター若しくは個々の特色の(おそらくは加重される)集団票、又は距離ベースの方法に適用される。図5A-5D及び下記実施例のセクションの関連する考察を参照されたい。
【0032】
いくつかの事例では、線形サポートベクターマシーン(SVM)を用いて、発育期神経毒性の予測モデルが構築される。一般的には、SVMは一般化線形モデルのファミリーに属し、SVMは、問題の変数(“当該クラス”)のための予測モデルを、他の変数及び学習データ(当該クラスを含む変数の値は知られている)を用いて構築するために有用である。線形SVMは、n次元の特色空間で2つのクラスの実例を隔てる本質的に(n-1)次元の超平面である。線形SVMは遺伝子発現データで良好な分類性能を示す。本発明に関して、SVMは以下の作業明細を実施することができる:
提供されるもの:多様な薬剤に暴露後の1日又は別々の数日における概ね19K遺伝子に関するRNA-seq遺伝子発現測定と併せて各薬剤の神経毒性標識。
実施されるもの:新規薬剤に関する同じタイプの発現データから、当該薬剤が神経毒性の場合に正確に同定できるモデルの構築。
線形SVMの出力結果は、荷重ベクトルw及び他の係数bである。これらは、他の線形モデル(ロジスティック回帰)の係数と大雑把に類似するが、それらはいくらか異なる態様で用いられ、新規なデータ点での予測を得る。予測を得るために、SVMは数w’xi-bを出力し、この数が0未満の場合には標識0(非毒性)を出力し、そうでない場合には1を出力する。数字での出力はロジスティック回帰のような確率的解釈を示さないが、ロジスティック回帰モデルは、同じ学習セットに由来する1つの入力変数(SVMの出力)で構築され“毒性”の確率を出力できる。
【0033】
例示的実施態様では、SVMが他の化合物の発育期神経毒性を予測する能力が推定される。いくつかの事例では、相対的に高い変動性を提供する非偏向方法が用いられる。他の事例では、より低い変動性を提供する、ほとんど偏向されていない(すなわちわずかにペシミスティックな)方法が用いられる。これらの方法は、強化機械学習及び統計分類では標準である。非偏向方法は、その神経毒性が判明している新規な化合物セット(学習セットには含まれない)を収集する工程、これら化合物のRNA-Seqデータを作成する工程、及びモデルの構築後にそれについての予測モデルを試験する工程を含む。前記は盲検試験と考えられる。なぜならば、SVMを実施している研究者らは、どの化合物が含まれるか又は化合物のどの機能が毒性であるかを知らないからである。この情報は、SVMの予測が得られた後でのみ明らかにされる。
いくつかの事例では、変動性がより低い評価方法(例えば1個抜き交差検証)が用いられる。学習セットにNのデータ点(化合物)が存在する場合、当該方法はN工程を経る。各工程で、学習セットの異なるデータ点が与えられず、SVMは残りのデータ点について学習する。予測は傍らに取りおかれたデータ点について得られる。従って、全てのデータ点が、該当データ点を含まないで学習したモデルについて正確に1回だけの試験事例である。結果は全回数又は試験事例について集められ、全てのデータについて学習したSVMモデルは新規なデータ点(化合物)についていかに良好に性能を発揮するかが推定される。当該方法はより多くの化合物(学習セットの全ての化合物)について試験するので、本方法はより低い変動性を有する(ただし当該方法は、各学習セットが実際の学習セットよりもわずかに小さい(1つ少ない)のでわずかにペシミスティックである)。
【0034】
上記の1個抜き交差検証法を用いて、真の陽性(毒性)(TP)の予測数が、偽陽性(FP)、真の陰性(非毒性、TN)及び偽陰性(FP)の予測数と同様に計算される。これらの数を用いて、正確度(すなわち正しい予測の割合)を計算することができる。加えて、以下を計算することができる:感度又は真の陽性率又は再現率[TP/(TP+FN)];特異性[TN/(TN+FP)];及び精度又は陽性予測値[TP/(TP+FP)];並びに他のメトリクス、例えばF-測定及び陰性予測値。それにもかかわらず、これらメトリクスの全てが、毒性の確率的予測をもたらすモデルだけでなく、我々が正の予測とする確率閾値(例えば0.5)に左右される。従って、機械学習及び統計的分類では、“閾値のない”曲線及び/又はメトリクス(もっとも一般的なものは受信者動作特性(ROC)曲線及びこの曲線下の面積(AUC)である)を報告することが一般的である。ROC曲線は、閾値が変動するとき、x-軸の偽陽性率(1-特異性)に対してy-軸に真の陽性率をプロットする。ランダムで均一な推量は左下方から上方の右隅へ対角線及び0.5のAUCを生じ、一方、完全な予測は上方左隅へ上昇し続いて横断するグラフ及び1.0のAUCを生じる。
【0035】
更に別の特徴では、組織構築物をスクリーニングする系が本明細書で提供される。組織構築物スクリーニング系は、本明細書で提供する3Dヒト血管新生神経組織構築物の測定を含むデータを入手するために構成された分析デバイスを含むことができる。当該系は更にまた、当該分析デバイスのデータを受け取るために構成されたコンピュータ制御装置;及び既知の遺伝子発現データを用いて学習する、特色選別アルゴリズムを用いてデータから特色サブセットを選別するために構成されてあるマシーンベース習熟度対応学習システムを含むことができる。当該特色サブセットは、既知又は未知化合物への暴露に続く少なくとも1つの遺伝子の発現レベルの変化に一致する。いくつかの事例では、当該測定はマイクロアレーから得られる遺伝子発現データを含む。
特段の規定がなければ、本明細書で用いられる全ての技術的及び学術的用語は、本発明が属する業界の業者の1人が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に記載の方法及び材料と類似する方法及び材料はいずれも本発明の実施又は試験に用いることができるが、好ましい方法及び材料を本明細書で述べる。
本明細書で用いられるように、“本質的に~から成る培地”は、指定の成分及び当該培地の基本的特徴に実質的に影響を与えない特定の成分を含む培地を意味する。
本明細書で用いられるように、“無血清”は、培地が血清若しくは血清代替品を含まないこと、又は本質的に血清若しくは血清代替品を含まないことを意味する。例えば、本質的に無血清である培地は、約1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%又は0.1%未満の血清を含むことができる。
本明細書で用いられるように、“有効な量”は、本発明の指定の細胞作用を引き起こすために十分な作用薬の量を意味する。
本明細書で用いられるように、“約”は、記載の濃度範囲、密度、温度又は時間枠の5%以内を意味する。
本発明は、以下の非限定的な実施例を考慮するときより完全に理解されるであろう。開示の方法は多能性幹細胞に概して適切であることが特に意図される。本明細書に開示される全ての論文及び特許は、その全体を示したように参照により本明細書に含まれる。
【実施例1】
【0036】
血管新生神経組織構築物の作製
ヒドロゲル重合:チオール-エン光重合は、アミノ酸配列にシステインを含む任意のペプチドをヒドロゲル中に結合させることができるので、カストマイズヒドロゲルのための混合及び適合順応性を提供する。ポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルを、以前に発表されたプロトコル(Fairbanks et al., Adv Mater 21(48):5005-5010, 2009)から改変を加えてチオール-エン光重合化学反応を用いて形成した。8-アームのPEG-ノルボルネン(20000MW, JenKem USA, 8ARM (TP)-NB-20K)のストック溶液は、固体300mgを0.8mLのPBSに溶解して8-アームPEG-ノルボルネンの固体が占有する体積にし、0.2μmのナイロン注射筒フィルター(Fisher)で滅菌することによって最終濃度300mg/mLで調製し凍結アリコットとして保存した。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)分解性PEGヒドロゲルは、8-アームPEG-ノルボルネン分子を架橋するために両端にシステインを有する、天然のコラーゲン配列から改変した配列を用いて形成した(Nagase et al., Biopolymers 40(4):399-416, 1996)(KCGPQGIWGQCK(配列番号:1);下線部は活性配列、切断部位は(~);Genscript, 純度>90%、C末端はアミド化)。細胞接着は、フィブロネクチンに由来するアミノ酸配列のCRGDSペプチド(配列番号:2)(最終モノマー溶液濃度は2mM;Genscript, 純度>90%、C末端はアミド化)を取り込ませることによって促進した(Pierschbacher et al., Nature 309(5963):30-33, 1984)。MMP-ペプチド(約75mMペプチド/150mM SH)及びCRGDSペプチド(約100mM)のストック溶液を調製し、0.22μmのタンパク質低結合性ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)注射筒フィルター(Millex)でろ過滅菌し、最終濃度はElmanアッセイ(Thermo Scientific;製造業者のプロトコルを改変した(全ての試薬の溶解にPBSを使用))を用いてろ過後に検証した。
【0037】
図2A-2Dに示すように、チオール-エンヒドロゲルの生物物理的及び生化学的特性は調節可能であり、細胞特性に影響を及ぼす。例えば、間葉幹細胞(MSC)の拡散は、分解速度及び接着リガンド濃度の関数である。MSC付着及び拡散は、接着リガンド濃度(フィブロネクチン模倣CRGDSを使用)又は架橋剤のタンパク分解性分解の感受性(アミノ酸配列のP’2位を変更)を変更することによって調節された。MSC拡散は、アミノ酸配列のP’2位のトリプトファン(W)及び1000mMのRGD(図2A)で最大になり、一方、もっとも分解性が高い架橋剤(P’2位にトリプトファン)を有するが活性な接着ペプチドを欠くヒドロゲル内ではMSCは丸いままであった(図2B)。ほんの限定的な拡散が、トリプトファンがAlaで置き換えられときにMMP分解に対する感受性の低下のために観察され、一方、トリプトファンがロイシンに置き換えられたときには中間的な拡散が観察された(図2D)。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、3D合成細胞外マトリックスで増殖したとき生存活性を有するが、種々のRGD濃度は3D編成に影響を及ぼした(図2C-2D)。3D合成マトリックスで増殖させたヒト皮膚線維芽細胞は(コラーゲン上での増殖と対比して)、得られた組織構築物の基本的形態及び細胞骨格構造は天然の細胞外マトリックスと区別できない。三次元におけるヒトMSCの細胞付着及び拡散は、接着リガンド濃度及びタンパク分解性架橋剤の選択によって影響を受けることもまた観察された。
その後のアッセイのために、PEGヒドロゲルの最終モノマー処方は、40mg/mL 8-アームPEG-NB、4.8mM MMP-ペプチド架橋剤(9.6mMシステイン、ノルボルネンアームに対して60%モル比)、2mM CRGDS(配列番号:2)、及び0.05%(wt/wt)Irgacure(商標)2959光開始剤(BASF Schweiz AG, Basel, Switzerland)であった。ヒドロゲルは30μLのモノマーを24ウェルのBDトランスウェルインサート(1μmの孔、Fisher;品質管理実験)に、又は40μLをコーニングHTSトランスウェル浸透性サポート(0.4μの孔、Sigma Aldrich;毒性実験)にピペットで加えることによって形成した。ピペットで加えた後、(表面張力による)PEGモノマー溶液とインサートの端との間の一切のギャップは、インサートプレートを傾け、溶液がトランスウェルインサート膜の底を均一に覆うまで軽く叩くことによって除去した。インサートを含むトランスウェルプレート及びモノマー溶液は、UVP XX-15ランプスタンド(Fisher)の最上段の棚に置き、約365nmの集中UV光(UVP XX-15Lランプ、Fisher)に2.5分間暴露した。重合の後で、ヒドロゲルをDF3S培地中で一晩インキュベートし、膨潤及び平衡化させた(5% CO2、37℃)。
【0038】
多孔性生物材料に多能性幹細胞由来神経始原細胞を播種する:血管新生神経組織構築物は図1Bに概略した戦略に従って入手された。神経及びアストロサイト前駆細胞を細胞包埋PEGヒドロゲルに重層し、約2週間培養した。特に、凍結保存神経始原細胞(NPC)を融解し、マトリゲル(商標)(BD Biosciences)で(プレート当たり0.5mgで少なくとも1時間)被覆した6ウェルプレートで増殖させ、神経増殖培地で培養した。凍結NPC(約1.2x107細胞)の1バイアルを融解し、マトリゲル(商標)被覆6ウェルプレートの3ウェルにプレートし(マトリゲル(商標)被覆10cm皿には2バイアルを融解)、2-3日間培養し(初期コンフルエンスに左右される)、アキュターゼ(AccutaseTM)を用いて1:3で継代した。NPCは追加培養の2日後に1:3で継代し、更に2-3日間増殖させて実験に用いた。NPCは、1mLアキュターゼ/ウェルを用いてプレートから除去し、そこから計測のために一部を取り出した。円錐バイアルに細胞懸濁物の適切な体積を加えた後、NPCを0.2Gで4分間ペレットにした。NPCを再懸濁させ、神経増殖培地に100,000細胞/24ウェルインサートの濃度で播種した。NPCを一晩付着させ、続いて1日目に及び実験の残りの間2日毎に神経増殖培地を交換した。培地交換毎に、インサート下の全培地を吸引し、一方、ウェルの側面にピペットチップをスライドさせ発育中の神経組織構築物の損傷を回避することによって培地の3/4を上部から除去した。
以下のセクションで述べるように、得られた血管新生神経組織構築物は、in vivo頭部間葉-神経上皮相互作用を模倣する。神経始原細胞及び/又はそのような始原細胞に由来する成分は、三次元組織構築物の上部に添加することによって導入される。
【0039】
多能性幹細胞由来内皮細胞(EC)及び間葉幹細胞(MSC)の分化及び増殖:内皮細胞を凍結保存ストックからE7BV培地でフィブロネクチン被覆プレート(Life Technologies(100μg/プレート))で増殖させた。1バイアル(約1x106細胞)を6ウェルプレートの6ウェルに又はシングル10cm皿1枚に用いた。ECはアキュターゼを用い2日後に1:3に分割し、更に3日間培養し、続いて実験に用いた。E8BA培地:BMP4(5μg/L)及びアクチビンA(25μg/L)を補充したE8。E7V培地:E8からTGFβ1を除き、VEGF-A(50μg/L)を補充。E7BVi培地:BMP4(5μg/L)及びSB431542(5μM、TGFβ阻害剤)を補充したE7V(Inman et al., Mol Pharmacol 62(1):65-74, 2002)。
9日目に、分化中のNPC層にEC:MSC比5:1で総濃度100,000細胞/ウェルのEC及びMSC(83.3K:16.7K)を播種した。EC及びMSCはともにアキュターゼを用いて採集し、遠心分離の前に計測した。細胞を計測し適切な比で混合し、遠心分離して播種のために再懸濁した。神経増殖培地を11日目(EC及びMSCの播種後2日)に交換した。13日目に、ミクログリア/マクロファージ前駆細胞を採集し、100,000細胞/インサートの濃度で播種した。神経増殖培地は、14日目に続いて2日毎に、RNA、仕分け、又は免疫蛍光画像のためにサンプルを収集するまで交換された。
【0040】
原始マクロファージの神経構築物への添加:初期血管ネットワーク編成後及び神経始原細胞が初期神経上皮を連想させる放射状に編成された神経及びグリア集団を有する多層構造へと自己組立てを完了した後で、原始マクロファージを添加した(図8参照)。
ニューロン組織構築物は、皮質板の初期発生時のヒト新皮質に類似するいくつかの特色によって特徴づけられた。免疫蛍光画像及びRNAシーケンシングは、介在ニューロン及び投射ニューロンを含む多様なニューロン及びグリア表現型の証拠を提供した(図3A-3I)。放射状配向のGFAP+及びビメチン+細胞は放射状グリアと一致し、更に皮質ニューロンの階層形成を特徴とする密に詰め込まれた細胞層は、例えばヒト多能性幹細胞由来3D in vitroニューロン組織について以前に報告された哺乳動物皮質の特色に類似した(Lancaster et al., Nature 501:373, 2013;Kadoshima et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 110:20284, 2013;Mariani et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 109:12770, 2012;Eiraku et al., Cell Stem Cell 3:519, 2008)。例えば、外側組織端のリーリン+層及びカルレチニン+ニューロンが豊富な隣接層は、辺縁帯のカハール-レチウスニューロン及び約7-9妊娠週齢(GW)に出現するヒト皮質板の介在ニューロンに同様に類似する。
【0041】
要約すれば、我々のニューロン構築物は、in vitroの3Dニューロン組織と一致する皮質編成及び階層形成並びに発生時のヒト新皮質について記載された特色によって特徴づけられた。重要なことに、これらのニューロン組織構築物は合成ヒドロゲル(マトリゲル又は懸濁培養ではない)を用いて形成され、更にいくつかの実施態様ではヒト多能性幹細胞に由来するミクログリアを含む最初のヒト皮質発生のin vitroモデルを提供すると我々は理解している。更にまた、本明細書に記載するニューロン組織構築物は、血管構造を含み、容易に自動化され又は高処理プロトコルのために増減させることができる方法を用いて形成される最初のものであり、更に下記実施例に記載するように、定量的な毒性スクリーニングのために及び首尾よく神経毒性を(盲検試験で)予測するために有用な最初のin vitro三次元神経“オルガノイド”であると考えられる。
ヒト大脳皮質の血管新生のタイミングは皮質板の出現と平行し、このとき軟膜毛細管叢の脈管形成芽は神経管を貫通し始める。内皮細胞は16日目までに広範囲な血管ネットワークを形成し(図4A-4C)、一方、毛細管様構造はより良好に編成され、21日目までにニューロン構築物全体に広がった(図4D-4F)。血管ネットワークは層状領域を貫通し、ニューロン構築物の周囲に広がり(図4E-4F)、間葉細胞(図4G)及びグリア細胞(図4H)の両方が毛細管様細管及びより大きな血管様構造の周囲を包んだ。更にまた、毛細管様細管は放射状グリアと(図4I)、特に拡張血管ネットワークの先端で一列に並んだ(図4K)。グリア細胞は毛細管様細管に軸索終末を介して付着し(図4J-4K)、ニューロン構築物が血液脳関門(BBB)の少なくともいくつかの特徴を模倣することを示唆している。21日目までに、構築物は、広範囲の神経ネットワーク、神経及びグリア表現型を示す細胞、相互接続毛細管ネットワーク、並びにミクログリア様細胞を含んでいた。注目すべきことには、血管ネットワークの形成は、増殖因子(例えばVEGF)の外因性添加を必要とすることなく、ニューロン構築物内で誘導された。更にまた、RNAシーケンシングは、いくつかの血管増殖促進因子の遺伝子が、血管細胞(例えばVEGFA及びPDGFB)の無いコントロールサンプルについてニューロン構築物内で高度に発現されることを示した。従って、ニューロン構築物内の細胞性シグナリングは、血管新生の誘導のために必要な合図を提供し、これは、神経上皮による大脳皮質への初期毛細管補充と一致する。
【0042】
いくつかのミクログリア遺伝子が、原始マクロファージがニューロン構築物に添加された後にだけ発現された(例えばAIF1/IBA1、TREM2)。更にまた、分岐状形態を採るIBA1+(AIF1)細胞が21日目までにニューロン構築物全体に分布し(図5A-5D)、これは、休止状態のミクログリアと一致する。いくつかのIBA1+細胞がまたニューロン構築物内の毛細管様細管と相互作用し(図5B-5C)、これはヒトの発生時に観察され、血管編成を先導するミクログリアの役割を示しているかもしれない。従って、3Dニューロン構築物は、原始マクロファージを誘導していくつかのホールマークによって特徴づけられる表現型を採るために必要な合図を提供した。
RNAシーケンシング(RNA-Seq)を用い、ヒドロゲル上での14日及び21日分化後のニューロン構築物の複製物の弁別的遺伝子発現を比較することによってサンプル均一性を定量的に査定した。加えて、サンプル複製物は、少なくとも21日分化に対してスペアマン相関係数(ρ)が0.99以上と特徴付けられた。RNA-SeqはCD68(ミクログリア細胞マーカー)の発現の増加を明らかにした。RNA-Seqはまた、原始マクロファージ/ミクログリア前駆細胞が神経構築物に加えられた時にのみ検出できるいくつかの特徴的なミクログリア遺伝子を同定した(例えばCD11B(ITGAM)、TREM2及びIBA1(AIF1)(図7A-7C及び表2及び3参照)。RNA-Seqは、H1 ES細胞(正常培養)と比較して21日目の神経構築物で弁別的に発現される遺伝子を同定し、得られた遺伝子セットから、特徴的な遺伝子オントロジー(GO)クラスターがDAVID機能的注釈データベースを用いて同定された(Huang et al., Nat. Protocols 4(1):44-57, 2008;Ashburner et al., Nature Genet. 25:29-29, 2000)。神経構築物は、H1 ES細胞(0.005以下のFDR)と対比して4865のアップレギュレート遺伝子及び4669のダウンレギュレート遺伝子を特徴とした。神経構築物のアップレギュレート遺伝子は以下を含むGOカテゴリー内に多かった:ニューロン分化(GO:0030182、212遺伝子)、前脳発生(GO:0030900、52)、後脳発生(GO:0030902、31)、シナプス伝達(GO:0007268、143)、血管構造発生(GO:0001944、85遺伝子)。神経構築物内の極めて多様な発現遺伝子が、ヒト皮質の重層における役割について以前に同定されている。前記には以下が含まれる:辺縁帯及び層Iニューロン(GAP43、リーリン/RELN及びカルレチニン/CALB2)、上部層ニューロン(例えばCUX1、SATB1)、及び深部層ニューロン(例えばCTIP2/BCL11B、ETV1、FOXP1、SOX5)(Bayatti et al., Cereb. Cortex 18(7):1536-1548, 2008;Meyer et al., J. Neurosci. 20(5):1858-1868, 2000;Zecevic et al., The Journal of Comparative Neurology 412(2):241-254, 1999;Saito et al., Cereb. Cortex 21(3):588-596, 2011;Ip et al., Cereb. Cortex 21(6):1395-1407, 2011)。従って、RNA-Seqは、神経構築物内で多様な細胞表現型を同定し、組織内の複雑性出現における神経発生メカニズムの役割を示唆した。
【0043】
Iba-Iタンパク質発現が蛍光抗体染色によって検出された。Iba1+細胞は21日目までに神経構築物の全体に分布し、分岐状形態を採った(前記は休止状態のミクログリアを識別する特色である)。Iba1+細胞は内皮細管と結合し、前記はヒト発生時に観察され、神経構築物内で血管編成を先導するミクログリアの可能な役割を示唆している。従って、ヒトES細胞由来原始マクロファージは、神経構築物内で観察されるミクログリア様表現型と一致するいくつかの特性を示す。
ヒトES細胞由来神経始原細胞は、生物材料(例えばMMP-分解性PEGヒドロゲル)上で培養されたときに、単独で多層組織様構造物へと自己組立てを生じたが(図6A-6B)、自己編成は非分解性ヒドロゲル上ではあまり顕著ではなく、ヒドロゲル成分の改造は、神経始原細胞の三次元組織への自己組立て及び編成に影響することを示している。分解性及び非分解性ヒドロゲル構築物は両様式ともに、構築物内の細胞及び組織に対する構築物の材料特性変更の影響を調べるために有用であることに留意することは重要である。加えて、2つの様式の物理的及び化学的特性は、特定のスクリーニングへの適用及び本明細書に記載する他の使用で有益であり得る。
総合すれば、これらのデータは、三次元の多層神経組織様構築物は、ES細胞由来前駆細胞が生物活性なヒドロゲル上で培養されるとき、顕著な均一性で作製できることを示している。
【0044】
表2:神経構築物の遺伝子発現
【0045】
標準化発現(TPM;N=4)
【実施例2】
【0046】
方法と材料
ヒト胚性幹(ES)細胞培養:
必須8(E8)(1):DMEM/F12 HEPES(Life Technologies, 11330-032)、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム(64mg/L;Sigma-Aldrich, A8960-5G)、亜セレン酸ナトリウム(14μg/L;Sigma-Aldrich, S5261)、NaHCO3(543mg/L)、ホロ-トランスフェリン(10.7mg/L;Sigma-Aldrich, T0665-1G)、インスリン(20mg/L;Sigma-Aldrich, I9278)、ヒト組換えFGF2(rhFGF2、100μg/L)、及びTGFβ1(2μg/L;R&D Systems, 240-B-001MG/CF)。
H1ヒト胚性幹(ES)細胞はE8培地(1)(Life Technologies)で、マトリゲル(増殖因子削減、Corning 356230)被覆培養プレート上で維持し、以前に記載されたように1xのPBS中の0.5mM EDTAで継代した(2)。細胞の核型を10継代以内に決定し、マイコプラズマ汚染陰性を検査した。
ヒトES細胞の神経始原細胞(NPC)への分化:
DF3S培地:DMEM/F-12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム(64mg/L)、亜セレン酸ナトリウム(14μg/L)、NaHCO3(543mg/L)。
必須6(E6)培地:DMEM/F-12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム(64mg/L)、亜セレン酸ナトリウム(14μg/L)、NaHCO3(543mg/L)、トランスフェリン(10.7mg/L)、及びインスリン(20mg/L)。
神経増殖培地:rhFGF2(5μg/L)、1xN2(Life Technologies, 17502-048)、及び1xB27(Life Technologies, 17504-044)サプリメントを補充したDF3S培地。
神経始原細胞を誘導する手順は、以前に報告されたプロトコルを改変した(3)。1xPBS中に0.5mMのEDTAを用いてH1 ES細胞を分割し、rhFGF2(100μg/L)及びSB431542(TGF-β阻害剤、10μM;Sigma-Aldrich)を補充したE6培地で培養した。2日後、SB431542(10μM)を補充したE6培地に培地を切り替えて7日間培養し、毎日培地を交換して神経ロゼットの形成を誘導した。続いて神経ロゼットを培養皿から機械的に分離し、浮遊凝集物として神経増殖培地で4日間培養した。続いて凝集物をアキュターゼ(Life Technologies)で分離し、マトリゲル(増殖因子削減、Corning 356230)被覆培養プレートに神経増殖培地でプレートした。細胞を更に22日間培養し、コンフルエントになったときに継代し、90%を超えるSOX1+/βIII-チューブリン+神経始原細胞(“NPC”)を得た。NPCは1.2x107細胞/バイアルで凍結保存した。凍結保存神経始原細胞をその後の増殖及び3D神経構築物の形成に用い、全実験の均一な細胞起源を担保した。
【0047】
ヒトES細胞の内皮細胞(EC)への分化:
E8BA培地:BMP4(5μg/L)及びアクチビンA(25μg/L)を補充したE8培地。
E7V培地:VEGF-A(50μg/L)を補充したTGFβ1抜きE8培地。
E7BVi培地:BMP4(50μg/L)及びSB431542(5μM TGFβ阻害剤)を補充したE7V(4)。
TrypLE(Invitrogen)を3分間37℃で用いてH1 ES細胞(80-90%コンフルエント)を分離し、ビトロネクチン被覆プレート(60μg/10cm皿;VTN-N, Life Technologies)に1:3でプレートした(1)。ES細胞をまず初めにE8BA培地で2日間培養した(100%コンフルエンシー)。前記培地は初日に10μMのY-27632を補充され、付着中の細胞生存が改善された。
前記操作は2日目における100%細胞コンフルエンシーの達成に重要で非常に効率的な分化を担保する。続いて細胞をE7BVi培地で更に3日間培養した。続いて、CD34マイクロビーズ(Miltenyi)を用いて内皮細胞をautoMACS(Miltenyi)によって単離し、CD34+/CD31+細胞(“ES”)の精製集団を得た。精製内皮細胞を直ちに凍結保存するか、又はフィブロネクチン被覆プレートで凍結保存前の1回継代のために培養した。
【0048】
ヒトES細胞の間葉幹細胞(MSC)への分化:
間葉無血清増殖培地(M-SFEM):50% StemLineII無血清HSC増殖培地(HSFEM;Sigma-Aldrich)、50%ヒト内皮無血清培地(ESFM;Invitrogen)、GlutaMAX(1/100希釈;Invitrogen)、Ex-Cyteサプリメント(1/2000希釈;Millipore)、100mMモノチオグリセロール(MTG)、及び10μg/L rhFGF2。
間葉幹細胞は以前に発表されたプロトコル(5)を用いて誘導した。増殖のために、組織培養ポリスチレンプレートをリン酸緩衝食塩水(PBS)中のフィブロネクチン(5mg/mL;Invitrogen)及びヒトコラーゲンI(10mg/mL;BD Biosciences)で被覆し、継代にはアキュターゼ(StemPro)を用いた。MSCをM-SFEMで5継代増殖させ(5)、続いて周皮細胞培地(ScienCell)で2継代培養して凍結保存した(PDGFRB+CD13+、“MSC”)。
【0049】
ミクログリア/マクロファージ前駆細胞(MG)へのヒトES細胞の分化:
H1 ES細胞を中内胚葉及び造血内皮系列に分化させるための以前のプロトコルを改変することによって、ミクログリア/マクロファージ前駆細胞を無フィーダー条件で作製した(以下を参照されたい:Uenishi et al. (2014) Stem Cell Rep 3(6):1073-1084)。まず初めに、6ウェルプレートを40μgのテナシンCにより一晩4℃で被覆した。テナシンCプレートをPBSでリンスし、続いて1個ずつにしたH1 ES細胞を62,500細胞/cm2の濃度でE8培地+10μM Y-27632(ROCK阻害剤、R&D Systems)を用い播種した。細胞を正常酸素条件下で24時間培養した。
初期中胚葉分化の開始:H1 ES細胞のプレートから24時間後にE8培地を吸引し、DM1+1μM Y-27632に交換した。続いて細胞を低酸素条件下で(5% O2)2日間培養した(細胞を正常酸素に暴露しない)。この2日間の培養中に、細胞は剥離し再付着する。細胞がプレートの中央に凝集し分化効率に影響を与えるので、培養を揺らさないことが重要である。
血液血管系中胚葉分化の持続:2日目に、十分に再付着しなかった生存細胞凝集塊について培養をチェックした。非接着細胞が存在する場合、10mLピペットの先端を用いて穏やかに培地を抜き取り、非接着細胞及び細胞凝集塊を300xgで5分間遠心分離してペレットにする。ペレットからDM1を吸引し、細胞をDM2に再懸濁する。細胞を同じプレートにプレートバックし、低酸素インキュベーターで培養を継続した。デブリのみが存在する場合には、DM1を吸引し、接着細胞を壊さないようにDM2をゆっくりと添加した。低酸素インキュベーターで培養を継続した。
造血内皮細胞の造血始原細胞(HPC)への分化及び増殖:4日目に、DM2培地を吸引し、DM3培地に交換した。正常酸素条件下で培養を継続した。培養6日目(DM3培地添加から2日後)に、既に存在する培地を吸引することなく、追加のDM3培地を加えた。正常酸素インキュベーターで培養を継続した。DM3で更に3-5日間(血液血管分化後に細胞が十分に接着性でないときはより長時間が必要)細胞培養を増殖させた。培地の色が顕著なpH低下を示したら、培地体積の半分をプレートから取り出し、低結合性培養皿に入れた。DM3の追加の体積(古い培地と新しい培地の1:1混合物)を両培養プレートに添加した。3-5日後、非接着HPCを含む使用済み培地を収集し、300xgで約5分間遠心分離してペレットを得た。
骨髄系始原細胞(MP)分化:骨髄系始原細胞培地DM4で増殖を継続した(1x106 HPC/mLを正常酸素条件下の低付着培養皿に置いた)。この時点で、細胞は正常酸素条件下の10cm皿で増殖させることができた。細胞を2-5日間DM4培地で増殖させた。少なくとも5日間の培養がマクロファージへの適切な遷移に必要であったが、5日を超えることはない。培養のpHが顕著に低下したらDM4を追加した(半々の混合物;細胞は移さない)。2x107までの細胞が10cm皿から得られた。DM4培地での増殖中に(2-5日間)、非接着細胞を仕分けのために収集し、CD34+及びCD45+細胞と同定した。
ミクログリア/マクロファージ前駆細胞(MG)分化:2-5日の骨髄系始原細胞増殖の後で、10cm組織培養処理皿のマクロファージ分化培地DM5に5x105の非接着細胞を添加した。細胞を3日間培養し、続いて培地を吸引しないで等体積のDM5培地を添加した。5日後(DM5で更に2日)、約50-70%の細胞が付着した。細胞が約70-80%のコンフルエンシーに達したとき(接着細胞)、残りの非接着細胞を新しい10cm皿に移し接着を促進した。接着及び非接着集団の両方がCD45+であったが、非接着細胞はCD14が低い/陰性であり、接着細胞はCD11b+/CD14+であろう。5-10日目に非接着細胞は付着を開始し、CD11b+及びCD14+細胞に分化した。DM5培地での培養を継続した。
品質管理アッセイのためには、RNAを14及び21日目に収集した。3D毒性スクリーニング実験のためには、RNAを16及び21日目に収集した(最初の時点の収集の前に2日間の化学物質暴露を可能にする)。
【0050】
免疫蛍光画像化:遮断緩衝液(PBS中に0.25%トリトンX-100及び1% BSA)、インキュベーション緩衝液(PBS中に0.05%トリトンX-100及び1% BSA)、リンス緩衝液(PBS中に0.05%トリトンX-100)。
一次抗体:ウサギ抗β3チューブリン(1:500;Cell Signaling, mAb #5568S)、マウス抗β3チューブリン(1:500;R&D Systems, MAB1195)、ウサギ抗カルレチニン(1:100-1:200;Abcam, ab137878)、ウサギ抗GABA(1:200;Abcam, ab43865)、ウサギポリクローナル抗グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)(1:500;Dako, Z033401-2)、ヤギ抗グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)(1:100-1:200;C-19; sc-6170, Santa Cruz Biotechnology)、マウス抗ホスホビメチン(1:200;S55 [4A4];Abcam, ab22651)、マウス抗CD31(1:200;内皮細胞クローンJC70A;DAKO, M082301-2)、マウス抗O4(1:100-1:200;クローン81;Millipore, MAB345)、ニワトリポリクローナル抗Tbr1(1:100-1:200;Millipore, AB2261)、マウス抗SOX-2(Cell Signaling, mAb#4900S)、ウサギ抗SOX-2(Cell Signaling, mAb#3579S)、マウス抗MAP2(クローンAP20;Millipore, MAB3418)、マウス抗リーリン(1:100;クローンG10, a.a. 164-496;Millipore, MAB5364)、マウス抗Brn-2(POU3F2)(1:200;クローン8C4.2;Millipore, MABD51)、ウサギ抗Brn-2(POU3F2)(1:200;Cell Signaling, mAb #12137S)、ウサギ抗Ctip2(Bcl-11b)(1:200;Cell Signaling, mAb#12120S)、ウサギ抗VGLUT2(1:100;Abcam)、マウス抗MAP2(1:500;クローンAP20;Millipore, MAB3418)、ヤギ抗Iba1(1:100;Abcam, ab5076)、ウサギ抗チロシンヒドロキシラーゼ(Cell Signaling, mAb ##2792S)、ウサギ抗PDGFR-α(1:100;Santa Cruz Biotechnology, sc-338)。
二次抗体:Alexa Fluor二次抗体を全実験で用いた(Life Technologies):ロバ抗ヤギ568(A11057)又は647(A21447);ロバ抗ウサギ488(A21206)、568(A10042)、又は647(A-31573);ロバ抗マウス488(A-21202)、568(A10037)、又は647(A31571);ヤギ抗ニワトリ(A11041)。
完全な神経構築物の免疫染色:免疫染色の全ての工程をトランスウェルインサート内で実施した。2%の緩衝ホルマリンを用いて神経構築物を60分間固定し、続いてPBSでリンスした(或いは免疫染色まで4℃で保存した)。神経構築物を透過性にし、遮断緩衝液で遮断した(少なくとも60分間)。いくつかの実験のためには、最後のリンスまで全ての工程で遮断緩衝液を用い、同様な結果が得られた。一次抗体はインキュベーション緩衝液で調製し、神経構築物に添加し、4℃で一晩インキュベートした。続いて神経構築物をリンスし(リンス緩衝液で2回、各回少なくとも60分)、その後3回目のリンス工程が続いた(遮断緩衝液で少なくとも60分)。二次抗体及び1:1000のDAPI(Sigma)をインキュベーション緩衝液で調製し、神経構築物に添加し、4℃で一晩(或いは室温で少なくとも4時間)インキュベートした。神経構築物をリンス緩衝液で2x60分リンスし、続いてインキュベーション緩衝液により一晩4℃でリンスした。続いて更なる処理まで(典型的には少なくとも24時間)サンプルをPBS中で保存した。
膜の底部端を切断することによって、神経構築物をトランスウェルインサートから取り出し、膜から分離し、ガラス底の35mm皿(MatTek)の底部のアクアポリマウント溶液(Polysciences, Inc.)にマウントした。マウント溶液中の泡の生成を制限するために、まず初めに35mm皿のガラス底に薄い層を加えた。通常、神経構築物はマウント溶液層に表面を下に置かれ(いくつかのサンプルでは表面を上にする)、その後で少量のマウント溶液を加えて構築物を覆う。続いてカバースリップをマウント溶液中の神経構築物に落とし、皿を回転させながら落ち着かせ、カバースリップ下のマウント溶液による均一な被覆を担保した。カバースリップを4℃で一晩落ち着かせ、ネイルシーラントで端部周囲を封印した。サンプルは少なくとも1カ月画像化のために安定であった。
凍結保存切片の免疫染色:2%の緩衝ホルマリンを用いて神経構築物をトランスウェルインサート内で60分間固定し、PBSでリンスした(4℃で一晩)。続いて、サンプルを15%蔗糖/PBS(4℃で少なくとも24時間)、続いて30%蔗糖/PBS(4℃で少なくとも24時間)でリンスした。膜の底部端を切断することによって、神経構築物をトランスウェルインサートから取り出し、膜から分離し、表面を下にクリオゲル(Tissue-Tek包埋培地)中に置き、更なる処理まで-80℃で凍結保存した。凍結サンプルを-20℃で平衡化させ、切片にした(ガラススライド上で20-30μm切片)。切片サンプルを含むガラススライドを脱イオン水に少なくとも1時間浸漬してクリオゲルを除去した。サンプルを透過性にし、遮断緩衝液で60分間遮断し、リンス緩衝液で2x15分間リンスし、更にインキュベーション緩衝液中で少なくとも60分間室温でインキュベートした。続いて、サンプルをインキュベーション緩衝液中の一次抗体により4℃で処理した(或いは室温で少なくとも4時間)。続いて、サンプルを洗浄緩衝液(2x15分)及びインキュベーション緩衝液(室温で少なくとも60分)でリンスした。続いて、インキュベーション緩衝液中の二次抗体及び1:1000のDAPI(Sigma)でサンプルを4℃で一晩(或いは室温で少なくとも2時間)処理した。切片サンプルをアクアポリマウント溶液(Polysciences, Inc.)にマウントし、ガラスのカバースリップを上に乗せて4℃で一晩保存し、更にネイルシーラントで端部周囲を画像化まで封印した。
画像処理:ニコンA1R共焦点顕微鏡を用いて共焦点免疫蛍光画像を収集した。NISエレメント又はImageJ(Rasbabd 1997-2012, Image J, U.S. National Institutes of Health, Bethesda, Marryland, USA(World Wide Webのimagej.nih. gov/ij/で入手できる);Schneider et al., Nat Meth 9(7):671-675, 2012)を用いて、画像を処理した。最大投影画像を得る前に、“Align Current ND Document” (NIS Elements)又はStackRegプラグイン(ImageJ)を用いていくつかのz-スタックのアラインメントを実施した。
ミクログリア/マクロファージ前駆細胞による食作用:ザイモサンA S.セレビシアエバイオパーティクル(商標)(テキサスレッド(商標)結合物;Life Technologies)のアリコットをPBSで調製した。DM5培地に約400-500Kのミクログリア/マクロファージ前駆細胞を含む6ウェルプレートの各ウェルに、500μLのPBS中の約5x106粒子を添加した。ニコンバイオステーションCTを用いて、24時間にわたって食作用を画像化した(10分毎に画像を捕捉)。
【0051】
フローサイトメトリー(FACS)分析
フローサイトメトリー分析は、FACSCanto II細胞アナライザー(BD Biosciences)で実施した。
神経始原細胞(NPC):NPCをアキュターゼで単一細胞に解離し、PBS中の2%パラホルムアルデヒドにより室温で10分間固定した。固定細胞をFACS緩衝液I(PBSに2%のFBS)で1回洗浄し、PBSに90%の氷冷メタノールにより-20℃で一晩透過性にした。固定して透過性にした細胞を続いてFACS緩衝液Iで1回洗浄し、SOX1(1:100ウサギ抗SOX1(Cell Signaling))及びβIII-チューブリン(1:200マウス抗βIII-チューブリン(R&D systems))一次抗体により4℃で一晩、続いて結合二次抗体によりRTで1時間染色した。染色細胞をFACS緩衝液Iで1回洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。
内皮細胞(EC):ECをアキュターゼで単一細胞に解離し、FACS緩衝液I(PBSに2%のFBS)で1回洗浄した。細胞をFACS緩衝液I中のPE-CD31(1:100;BD Biosciences, 555446)及びAPC-CD34(1:100; BD Biosciences, 555824)抗体により4℃で30分間染色した。染色細胞をFACS緩衝液Iで1回洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。
間葉幹細胞(MSC):MSCをアキュターゼで単一細胞に解離し、FACS緩衝液I(PBSに2%のFBS)で1回洗浄した。細胞をFACS緩衝液I中の蛍光結合PE-PDGFR-β及びPE-Cy7-CD13抗体により4℃で30分間染色した。続いて染色細胞をFACS緩衝液Iで1回洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。
ミクログリア/マクロファージ前駆細胞(MG):まず初めに非接着細胞を円錐バイアルのDM5培地に移した。接着MGはアキュターゼ中でインキュベートし、FACS緩衝液II(PBSに0.5%のBSA)を用いて穏やかにプレートから取り出し、非接着細胞を含む当該円錐バイアルに加えた。細胞を遠心分離し(300xgで5分間)、細胞ペレットをFACS緩衝液IIで1回洗浄した。続いて細胞を遠心分離し(300xgで5分間)、FACS緩衝液IIに再懸濁して遮断のために4℃で15分間インキュベートした。細胞を遠心分離し(300xgで5分間)、1:500のPE-CD11b(BD Biosciences, 555388)、Alexa Fluor 488-CD14(BD Biosciences, 562689)及びAPC-CD45(BD Biosciences, 555485)とともにFACS緩衝液IIに再懸濁した(振盪台を用いるか、又はインキュベーション中にチューブを少なくとも3回上下逆さまにする)。続いて細胞をFACS緩衝液IIで2回洗浄し、遠心分離した(300xgで5分間)。最後に、細胞をFACS緩衝液IIに再懸濁しフローサイトメトリーで分析した。
【実施例3】
【0052】
発育期神経毒性予測In vitroスクリーニング
毒性スクリーニング実験のために、上記(実施例1及び2)のように細胞を播種したが、ただしEC+MSCについては65,000細胞/ウェル(同様に5:1)、ミクログリア/マクロファージ前駆細胞については15,000細胞/ウェルであった。神経構築物を14日目から開始して非毒性又は毒性化合物で処理し、培地は2日毎に交換した(図8参照)。Thomson研究室で以下のスクリーニングプロトコルが開発された。神経毒性に関する以前の文献サポートに基づいて、毒性化合物(図10E)を選択した(Adams et al., Neurotoxicol Teratol 15(3):193-202, 1993;Cooper et al., Science 280(5369):1603-1607, 1998;Crofton et al., ALTEX-Altern Anim Exp 28(1):9-15, 2011;Eskes et al., 2003; Grandjean et al., Lancet Neurol. 13:330 (2014); Lidsky (2003); Radio et al., Neurotoxicol Teratol 32(1):25-35 (2010); Zurich (2002))。スクリーニングは以下の実験グループを含んでいた(図8):(1)神経始原細胞(NPC)、内皮細胞(EC)、間葉細胞(MC)及び原始マクロファージ(PM)を有する構築物;(2)原始マクロファージを欠く構築物(品質管理コントロール);(3)神経始原細胞のみ(品質管理コントロール)。
RNA単離、cDNAライブラリー調製及び次世代シーケンシング:RLT溶解緩衝液(Qiagen)を添加することによって3Dニューロン構築物をインサート内で直に溶解し、RNA単離に用いるまで-80℃で保存した。全RNAの抽出の用意ができたとき、サンプルを融解し、RLT緩衝液中の細胞溶解物150μLをS-Block(Qiagen, Cat. No. 19585)に移して再アレーして1容量の70%エタノールと混合した(溶解物の残りは-80℃で保存した)。続いて、キアゲン(Qiagen)RNeasyTM 96キットを用い製造業者のプロトコル(RNeasy 96 Handbook 01/2002, Using Spin Technology)の工程3から開始して全RNAを単離した(オプションのDNase処理を加えた)。
品質管理試験:品質管理に用いたサンプルは、イルミナ(Illumina)TruSeqTM RNAサンプル調製キットv2によるRNAseqのために調製し、インプットとして100ngの全RNAを用いる低処理(LT)プロトコル(TruSeqTM RNA Sample Preparation Guide, Part # 15008136, Rev. A)にしたがった。cDNAライブラリーをプールし、イルミナHiSeqTM 2500で単一読み51bp及びインデックス読み7bpを用いて調べた。FASTQファイルをCASAVA(v1.8.2)によって作成した。2-ミスマッチ及び最大20のマルチヒットを可能にするBowtie(v0.12.8)(Langmead et al., Genome Biol 10(3):R25, 2009)を用いてヒトトランスクリプトーム(RefGene v1.1.17)に対し読みをマッピングした。遺伝子発現値(転写物/百万の読み又はTPM)をRSEM(v1.2.3)によって計算した(Li et al., 2011, BMC Bioinformatics 12:323)。
【0053】
毒性スクリーニング試験:毒性スクリーニング試験用cDNAの調製のために、精製した100ngの全RNAからオリゴdTビーズ(NEB)を用いてmRNAを単離した。単離mRNAを逆転写緩衝液中で85℃7分間断片化し、SmartScribeTM逆転写酵素(Clontech)を23℃で10分間用い、続いてランダムヘキサマーオリゴ(5’-CCTTGGCACCCGAGAATTCCANNNNNN-3’;配列番号:3)とともに42℃で30分間インキュベートすることによって逆転写した。
逆転写後、RAaseA及びRNaseH処理によってRNAを除去した。続いて、RNAリガーゼを一晩22℃で用いて、部分的イルミナ5'アダプター(/5phos/AGATCGGAAGAGCGTCGTGTAGGGAAAGAGTGTddC;配列番号:4)を当該一本鎖cDNAに連結した。精製後、連結済みcDNAを18サイクルのPCRによって増幅した。前記PCRでは、完全なイルミナアダプター(5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT-3’;配列番号:5)及びインデックスプライマー(5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATnnnnnnnnnnGTGACTGGAGTTCCTTGGCACCCGAGAATTCC
A-3’;配列番号:6;nnnnnnnnnnはインデックスヌクレオチドを示す)を用いた。インデックス付きcDNAライブラリーをプールし、51bp単一読み及び10bpインデックス読みを用いイルミナHiSeq2500で配列を決定した。
RNA-Seqデータの分析:中央値正規化によって各遺伝子のRSEMの期待される読み計測を決定した(EB-Seq(バージョン1.5.3)内の中央値正規化関数を用いる)(Leng et al., Bioinformatics 29(8):1035-1043, 2013)。EB-Seq(バージョン1.5.3)を用いて、弁別的に発現される遺伝子のFDRを計算した(Leng et al., Bioinformatics 29(8):1035-1043, 2013)。
遺伝子オントロジー分析:遺伝子オントロジー(GO)タームは、Database for Annotation, Visualization and Integrated Discovery(DAVID)(v6.7)の機能的注釈データベースを用いて同定された(Ashburner et al., Nature Gene 25(1):25-29, 2000;Huang et al., Nat Protocols 4(1):44-57, 2008)。GOタームは、FDRが0.0005以下でかつH1 ES細胞と対比して3D神経構築物で発現が3倍アップレギュレートされる弁別的発現遺伝子を分析することによって同定された(表3参照)。弁別発現遺伝子を用い、DAVID分析のために以下の設定を用いた:遺伝子オントロジーカテゴリーGOTERM_BP_5;ベンジャミニ(Benjamini)修正p値は0.05以下;閾値オプション:計測=10、EASE=0.05。GOタームはまた、平均TPM>16(N=4、毒性実験のコントロール)をもつ同定遺伝子であった(データセットS5)。前記は、DAVIDへの入力のために遺伝子総数を3000未満に減少させるために、神経、血管及びグリアタームの合体リストに対して比較された(合体リスト及び関連GOカテゴリーはデータセットS7に提供)。
アレン脳アトラスデータとの比較:神経構築物(16及び21日目、毒性実験、N=4)、H1 ES細胞(N=4)、及びアレン脳アトラスデータ(RNA-seqデータのみ、サンプル:8pcw-40yrs)について、ペアワイズスペアマン順位相関性を計算した(表3)。それら相関性における平均連結クラスタリングによって階層的クラスタリングを実施し、距離は1-スペアマン相関性である。
マシーンベース学習:我々は、我々の予測モデルの構築のために線形サポートベクターマシーン(SVM)を用いた(Cortes & Vapnik, Mach Learn 20(3):273-297, 1995;Hardin et al., Stat Appl Genet Mol Biol 3(1):e10, 2004;Struyf et al., BMC Genomics 9:531, 2008;Vapnik VN, 1998 Statistical Learning Theory (Wiley, New York)、前記は以前に詳細に記載された(Hardin et al., Stat Appl Genet Mol Biol 3(1):e10, 2004;Struyf et al., BMC Genomics 9:531, 2008)。我々はSVMを以下のタスク明細のために用いた:提供されるもの:多様な薬剤に暴露後の1日又は別々の数日における概ね19K遺伝子に関するRNA-seq遺伝子発現測定と併せて各薬剤の神経毒性標識。実施されるもの:新規薬剤に関する同じタイプの発現データから、当該薬剤が神経毒性の場合に正確に同定できるモデルの構築。
アプローチの評価(正確度の概算及び受信者動作特性(ROC)曲線を含む)は全て、ホールドアウト検定(1個抜き交差検証又は1個保持セットによる盲検試験)によるものであった(Hardin et al., Stat Appl Genet Mol Biol 3(1):e10, 2004;Struyf et al., BMC Genomics 9:531, 2008)。二次元線形サポートベクターマシーン(SVM)は図10Aに示す図で例示され、ここで、超平面は、クラス(丸)を分離する線にまで減少し、クラス間のもっとも近い点を最大にする(超平面の位置及び向きを固定するサポートベクター)。x i sは例(丸;目下の試験のための遺伝子)であり、y i sはそれらの標識(黒塗り又は白塗り;目下の試験で毒性又は非毒性)であり、wは加重ベクトル又は特色(次元)における係数ベクトルである。等式の赤い部分はSVMのソフトマージンバージョンのために為される付加であり(Cortes & Vapnik, Mach Learn 20(3):273-297, 1995)、これはマージン(d i )に加えて間違えて分類されるデータ点を最小限にする。線形SVMの出力は加重ベクトルw及び他の係数bである。予測のために、SVMは数w’x i -bを出力し、この数が0未満の場合には標識0を出力し(我々の適用では非毒性)、そうでなければ1を出力する。数字の出力はロジスティック回帰のような確率的解釈を示さないが、ロジスティック回帰モデルを同じ学習セットに由来する1つの入力変数(SVM出力)で構築し、確率(毒性であることの確率)を出力することは一般的であり、前記を我々はここで達成する。
【0054】
1個抜き交差検証:1個抜き交差検証法を用いて、真の陽性(毒性)(TP)の予測数が、偽陽性(FP)、真の陰性(非毒性、TN)及び偽陰性(FP)の予測数と同様に計算される。これらから、我々は、正確度(正しい予測の割合)を以下と同様に計算することができる:感度(真の陽性率又は再現率;TP/(TP+FN))、特異性(TN/(TN+FP))及び精度(又は陽性予測値;TP/(TP+FP))、並びに他のメトリクス、例えばF-測定及び陰性予測値。それにもかかわらず、これらメトリクスの全てが、毒性の確率的予測をもたらすモデルだけでなく、我々が陽性予測を得る確率閾値(例えば0.5)に左右される。従って、機械学習及び統計的分類では、“閾値のない”曲線及び/又はメトリクス(もっとも一般的なものは受信者動作特性(ROC)曲線及びこの曲線下の面積(AUC)(例えば2日目及び7日目のセットの平均で示される)である)を報告することが一般的である。ROC曲線は、閾値が変動するとき、x-軸の偽陽性率(1-特異性)に対してy-軸に真の陽性率をプロットする(平均学習セットについて示されている)。ランダムで均一な推量は左下方から上方の右隅へ対角線及び0.5のAUCを生じ、一方、完全な予測は上方左隅へ上昇し続いて横断するグラフ及び1.0のAUCを生じる。
1個抜き交差検証のために、学習セットには60の化合物があり、当該方法は60工程を経る(図10E)。各工程で、1つの異なるデータ点が学習セットから差し出され、SVMは残りのデータ点について学習し、続いて前記は傍らに取りおいたデータ点について予測する。従って、全てのデータ点が、当該データ点を除いて学習されるモデルについて正確に1回の試験事例である。結果は全ての回又は試験事例について集められて、全データについて学習したSVMモデルが新規なデータ点(化合物)についてどのように良好に性能を発揮するかを推定する。予測は試験化合物の両方の複製について行われ、一緒に平均して最終的なROCを生じる。学習化合物のAUCは、16日目では0.91、21日目では0.88、両方の日から平均したデータについては0.93であった。従って、16日目及び21日目の平均データのSVMは、0.93の将来のデータの概算をもたらした。
【0055】
盲検試験:SVMモデルの構築に加えて、我々はまた、当該モデルが他の化合物について発育期神経毒性をどのように良好に予測するかを推定することを目的とした。学習セットにおけるその正確度を単に報告するだけでは楽天的すぎであろう。非偏向“ホールドアウト試験”方法を用いて、学習セットに存在しないがその神経毒性は知られている10の盲検化合物(5つの毒素、5つの非毒素コントロール)のRNA-seqデータセットについて毒性を予測した。構築及び学習セットを用いた最適化の後で、続いて当該予測モデルを未知サンプルについて試験した。
盲検試験として、毒素の割り当てはSVMモデルを作製する研究者には予測が行われるまで知らされてなかった。16及び21日目のデータの平均に対してSVMを選択し、予測遺伝子を学習セットから作製した。SVMは、もっとも毒性が高いと思われるものから最も毒性が低いものまで盲検化合物の順位をつけるために用いられる確率を産出し、続いて前記を用いてROC曲線を作成してAUC(“曲線下面積”)を計算した。加えて、我々は、0.5の閾値を用いてもっとも信頼できる予測を実施し、全ての分子で0.5以下の確率を有するものを
“コントロール”及び他のものを“毒性”と割り当てた。盲検セットの順位決定のために作成したAUCは0.92であり、オレイン酸を除くすべての化合物が、0.5の確率カットオフに基づき毒性又は非毒性として適切に割り当てられた。順位決定の唯一の誤りはオレイン酸についてであり、前記は、L-741、626及びウアバインよりも毒性の確率が高いと割り当てられた。盲検予測の正確度は0.9(9/10の化合物が正確に分類された)であり、ただ1つの誤りはオレイン酸(コントロール)の神経毒素としての予測であった(すなわち偽陽性)。
【0056】
参考文献

【0057】
表3

表3(続き)
【0058】
表3(続き)
【0059】
表3(続き)
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕血管新生神経組織構築物を作製する方法であって、以下の工程、
(a)三次元多孔性生物材料にヒト神経始原細胞を播種する工程、
(b)当該神経始原細胞の少なくとも一部分の分化を検出するために十分な時間、当該播種生物材料を培養する工程、
(c)当該培養播種生物材料上に又は該生物材料内に、ヒト内皮細胞、並びに場合によってヒト間葉細胞、原始マクロファージ及び周皮細胞の1つ以上を分散させる工程、及び
(d)細胞分化を促進させる培養条件下で、当該分散ヒト内皮細胞を含む当該播種生物材料を培養する工程、
を含み、それによって、ヒトニューロン及びグリア細胞を含む血管新生神経組織構築物を作製する方法。
〔2〕当該三次元多孔性生物材料が、ヒドロゲルである、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕当該ヒドロゲルが、重合ポリ(エチレングリコール)(PEG)又は重合多糖類を含む、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕当該分散ヒト内皮細胞が、ヒト多能性幹細胞に由来する、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕当該ヒト多能性幹細胞が、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞である、前記〔4〕に記載の方法。
〔6〕当該分散ヒト内皮細胞を含む当該播種生物材料が、更にヒト多能性幹細胞由来原始マクロファージを含み、当該3D血管新生神経組織構築物が成熟ミクログリアを含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕多孔性生物材料に播種する工程が、少なくとも1つのヒト神経始原細胞を当該多孔性生物材料に接触させる工程を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕更にまた、当該多孔性材料内に又は該多孔性材料上に、その中に播種又は分散された細胞の形態学的特色、機能又は分化状態を調整する生物活性作用薬を分散させる工程を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕当該生物活性作用薬が、増殖因子、サイトカイン及び生物活性ペプチド又は前記の組み合わせから成る群から選択される、前記〔8〕に記載の方法。
〔10〕当該血管新生神経組織構築物が、(i)相互に接続された血管構造;(ii)当該神経組織構築物内の分化細胞が三次元で互いに相互接触する;(iii)2層以上の細胞;及び(iv)in vivo又はin situのヒト神経組織に特徴的な機能又は特性から成る群から選択される1つ以上の特性を示す、前記〔1〕に記載の方法。
〔11〕当該ニューロン及びグリア細胞が、GABA作動性ニューロン、グルタミン酸作動性ニューロン、アストロサイト及び希突起神経膠細胞から成る群から選択される、前記〔1〕に記載の方法。
〔12〕当該多孔性生物材料が、分解性である、前記〔1〕に記載の方法。
〔13〕当該分解性多孔性生物材料が、酵素分解性ヒドロゲル、加水分解性ヒドロゲル、又は光分解性ヒドロゲルから成る群から選択される、前記〔12〕に記載の方法。
〔14〕当該酵素分解性ヒドロゲルが、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)分解性である、前記〔13〕に記載の方法。
〔15〕前記〔1〕に記載の方法に従って得られる三次元(3D)血管新生神経組織構築物。
〔16〕成熟ミクログリアを含む、前記〔15〕に記載の神経組織構築物。
〔17〕階層を形成したニューロン及びグリア層を含む、前記〔15〕に記載の神経組織構築物。
〔18〕作用薬をin vitroでスクリーニングする方法であって、以下の工程、
(a)前記〔1〕の方法に従って得られる血管新生神経組織構築物に試験作用薬を接触させる工程;及び
(b)当該接触させた神経組織構築物内の1つ以上の細胞タイプに対する当該作用薬の影響を検出する工程、
を含むことを特徴とする方法。
〔19〕当該作用薬が、ヒト神経組織に対する毒性についてスクリーニングされる、前記〔18〕に記載の方法。
〔20〕検出工程が、当該接触組織構築物内の細胞若しくは組織の形態又は寿命に対する当該作用薬の少なくとも1つの影響を検出する工程を含み、それによって当該細胞若しくは組織の寿命を短くするか又は当該細胞若しくは組織の形態に負の影響を有する作用薬をヒト神経組織に対して有害であると同定する、前記〔18〕に記載の方法。
〔21〕検出工程が、RNAシーケンシング、遺伝子発現プロファイリング、トランスクリプトーム分析、メタボローム分析、レポーター又はセンサー検出、タンパク質発現プロファイリング、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)、代謝プロファイリング、及びマイクロダイアリシスから成る群から選択される方法を実施する工程を含む、前記〔18〕に記載の方法。
〔22〕当該作用薬が、遺伝子発現に対する影響についてスクリーニングされ、検出工程が、非接触組織構築物と対比して弁別的遺伝子発現についてアッセイする工程を含む、前記〔18〕に記載の方法。
〔23〕更にまた、予測モデルを用いて、試験化合物接触構築物における一枠のマーカーの遺伝子発現レベルと神経毒性作用薬への暴露に特徴的なマーカーの遺伝子発現レベルとの関係を決定する工程を含み、当該予測モデルが、ヒト神経組織に対する毒性のマーカーとして既知の神経毒性作用を有する一枠の作用薬の各成分について得られた転写及び代謝プロフィールを用いて構築される、前記〔18〕に記載の方法。
〔24〕組織構築物スクリーニング系であって、ヒト血管新生神経組織構築物の測定を含むデータを入手するために構成された分析デバイス、当該分析デバイスからデータを受け取るために構成されたコンピュータ制御装置、及び既知の遺伝子発現データを用いて学習し、更に特色選別アルゴリズムを用いてデータから特色サブセットを選別するように構成されたマシーンベース習熟度対応学習システムを含み、当該特色サブセットが、既知又は未知化合物への暴露に続く少なくとも1つの遺伝子の発現レベルの変化に一致する、組織構築物スクリーニング系。
〔25〕当該ヒト血管新生神経組織構築物が、前記〔1〕に記載の方法に従って入手される、前記〔24〕に記載の系。
〔26〕当該測定が、マイクロアレー分析から得られる遺伝子発現データを含む、前記〔24〕に記載の系。
〔27〕前記〔1〕に記載の方法に従って得られる三次元ヒト血管新生神経組織構築物の薬剤発見又は毒性スクリーニングにおける使用。
図1A
図1B
図2A
図2B-2D】
図3A-3I】
図4A-4E】
図4F-4K】
図5A-5D】
図6A
図6B
図7A-7C】
図8
図9
図10A-10B】
図10C-10D】
図10E
【配列表】
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