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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】凝集物の除去
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/00 20200101AFI20231128BHJP
   A61K 39/145 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K39/145
A61P37/04
A61P31/16
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021524077
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 AU2019050721
(87)【国際公開番号】W WO2020010394
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】2018902497
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】521011352
【氏名又は名称】セキラス ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ロックマン, スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ボードル, ジェシー
(72)【発明者】
【氏名】グッゾ-パーネル, ナンシー
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-525830(JP,A)
【文献】特表2017-522287(JP,A)
【文献】特表平08-506592(JP,A)
【文献】国際公開第2007/018152(WO,A1)
【文献】特表2016-540050(JP,A)
【文献】特表2013-540797(JP,A)
【文献】国際公開第2008/040060(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101024081(CN,A)
【文献】特表2014-508734(JP,A)
【文献】特表2009-511080(JP,A)
【文献】国際公開第2009/143524(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/097174(WO,A1)
【文献】米国特許第03989818(US,A)
【文献】Vaccine,1985年,Vol.3, Supplement,p.235-240
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスタンパク質を含む調製物中の凝集した材料を分散させる方法であって、前記方法は、前記調製物を超音波処理に供する工程を包含し、前記超音波処理は、少なくとも90ジュール/mLのエネルギーを伝達させるように行われ、前記エネルギーは0.7s/mlの速度で伝えられ、前記超音波処理は少なくとも40%の振幅の速度で行われる、方法。
【請求項2】
前記調製物は、前記インフルエンザウイルスタンパク質であるヘマグルチニンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調製物は、スプリットインフルエンザビリオンを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記調製物は、0.02%未満のレベルの界面活性剤を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記超音波処理は、前記調製物に存在する凝集物のうちの少なくとも50%が分散されるように、ある時間にわたっておよびある強度で行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記超音波処理は、80%振幅の速度において行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記調製物は、推定HAグリコシル化部位確率スコア(pGlyスコア)≧16を有するH3N2株のインフルエンザタンパク質を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記調製物は、推定HAグリコシル化部位確率スコア(pGlyスコア)≧11を有するH1N1株のインフルエンザタンパク質を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
インフルエンザワクチンを生成する方法であって、前記方法は、不活性化またはスプリットインフルエンザビリオンを含む調製物を生成する工程および前記調製物を超音波処理する工程を包含し、前記超音波処理は、少なくとも90ジュール/mLのエネルギーを伝達させるように行われ、前記エネルギーは0.7s/mlの速度で伝えられ、前記超音波処理は少なくとも40%の振幅の速度で行われる、方法。
【請求項10】
前記ワクチンは、少なくとも3つの異なるインフルエンザ株を含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記ワクチンは、一価ワクチンである、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記ワクチンは、四価ワクチンである、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記ワクチンは、インフルエンザAおよびインフルエンザBを含む、請求項9、11または12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記調製物における凝集物のうちの少なくとも50%が分散される、請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記超音波処理は、80%振幅の速度において行われる、請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年7月10日出願の標題「Removal of agglomerates」のオーストラリア出願第2018902497号からの優先権を主張する。その出願の全内容は、本明細書に参考として援用される。
【0002】
分野
本開示は、インフルエンザ抗原を含む調製物中で凝集物を分散させる方法、および特に、インフルエンザワクチンの生成におけるこの方法の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
インフルエンザワクチンは、感染を防止する最も有効な方法と考えられる。最初のインフルエンザワクチンは、全ウイルス調製物であった[1]。不活性化三価および四価インフルエンザワクチン(それぞれ、TIVおよびQIV)の現在の製造プロセスは、インフルエンザウイルスの化学的破壊または1960年代に導入された「スプリット」に基づく[2]。化学的破壊(界面活性剤または溶媒による)は、多くの場合、免疫原性を損なうことなしに、ワクチンの反応原性を低減することが見出された。溶媒の高い揮発性に起因して、全ての市販のインフルエンザワクチンは、界面活性剤で破壊またはスプリットされる。しかし、全ビリオンを破壊するために利用される界面活性剤の濃度は、ワクチン内での受容可能な限界を超え、従って、許容可能なレベルへと除去されなければならない。
【0004】
界面活性剤の除去の帰結は、得られたスプリットビリオンが凝集物または凝集した材料を発生させるということである。凝集物の発生は、株およびスプリットプロセスにおいて利用される界面活性剤のレベル/タイプに関連する。多くの場合、ワクチンおよび他の薬学的製品は、ワクチンの適切な品質属性を維持するために、残留界面活性剤またはさらなる界面活性剤/化学材料のいずれかを含む。しかし、界面活性剤の存在は、特に、ワウチン接種の文脈において、抗原をより可溶性にし、免疫原性および従ってワクチンの有効性の減少を増強することが長年にわたって確立されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要旨
本開示は、インフルエンザタンパク質またはウイルスを含む調製物中で凝集した材料を分散させる方法であって、上記方法は、上記調製物を超音波処理に供する工程を包含する方法を提供する。
【0006】
本開示はまた、インフルエンザワクチンを生成する方法であって、上記方法は、不活性化またはスプリットインフルエンザビリオンを含む調製物を生成する工程および上記調製物を超音波処理する工程を包含する方法を提供する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
インフルエンザタンパク質を含む調製物中の凝集した材料を分散させる方法であって、前記方法は、前記調製物を超音波処理に供する工程を包含する方法。
(項目2)
前記調製物は、インフルエンザヘマグルチニンを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記調製物は、スプリットインフルエンザビリオンを含む、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記調製物は、界面活性剤を実質的に含まない、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記超音波処理は、前記調製物に存在する凝集物のうちの少なくとも50%が分散されるように、ある時間にわたっておよびある強度で行われる、項目1~4のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記超音波処理は、80%振幅の速度において行われる、項目1~5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
前記超音波処理は、少なくとも90ジュール/mLのエネルギーを伝達させるように行われる、項目1~6のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
推定HAグリコシル化部位確率スコア(pGlyスコア)≧16を有するH3N2株は、≧90ジュール/mLの超音波処理を必要とし、pGlyスコア≧11を有するH1N1株は、≧90ジュール/mLの超音波処理を必要とする、項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
インフルエンザワクチンを生成する方法であって、前記方法は、不活性化またはスプリットインフルエンザビリオンを含む調製物を生成する工程および前記調製物を超音波処理する工程を包含する方法。
(項目10)
前記ワクチンは、少なくとも3つの異なるインフルエンザ株を含む、項目8に記載の方法。
(項目11)
前記ワクチンは、一価ワクチンである、項目8に記載の方法。
(項目12)
前記ワクチンは、四価ワクチンである、項目8に記載の方法。
(項目13)
前記ワクチンは、インフルエンザAおよびインフルエンザBを含む、項目8、9および11のいずれか1項に記載の方法。
(項目14)
前記ワクチンは、凝集した材料を実質的に含まない、項目8~12のいずれか1項に記載の方法。
(項目15)
前記超音波処理は、80%振幅の速度において行われる、項目8~12のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】A/Victoria/361/2011(H3N2)、A/California/07/2009(H1N1)およびB/Hubei-Wujiagang/158/158/2009(B Yamagata)の株のインフルエンザウイルスワクチン(IVV) IVV Drug Matrixに関する光学密度濁度(ODT)アッセイの反復性。
【0008】
図2】ODT分析による、H3N2 A/Victoria/361/2011 IVV Drug Matrixの分散に対する送達エネルギーの量(ジュール/mL)および熱(37℃、30分間)に関する超音波処理の影響。
【0009】
図3】ODT分析による、H3N2 A/Victoria/361/2011 IVV Drug Matrixの分散に対する投入エネルギー(振幅)の強度に関する超音波処理の影響。
【0010】
図4】超音波処理が、非処理サンプルおよびPS80処理サンプルと比較して、凝集物を効果的に分散させ、H3N2 A/Victoria/210/2009 IVV Drug Matrixの分散状態を時間を経て維持することを示すODT結果。
【0011】
図5】24週間にわたってDLSによって分析した、A/Victoria/210/2009の(A)非処理、(B)PS80処理および(C)超音波処理H3N2 IVV Drug Matrixの平均強度粒度分布(PSD)(n=5)。
【0012】
図6】24週間にわたる、非処理、界面活性剤(PS80)処理および超音波処理したIVV Drug Matrix(H3N2; A/Victoria/210/2009)の単一放射免疫拡散(SRID)分析。
【0013】
図7】IVV Drug Matrix(MPH)、超音波処理後IVV Drug Matrix(超音波処理MPH)およびポリソルベート80の存在下のIVV Drug Matrix(MPH+PS80)を表すEM顕微鏡写真。全てのサンプルを、0ヶ月、1ヶ月、2ヶ月および6ヶ月の時点でEMによって分析した。
【0014】
図8】0ヶ月、3ヶ月および6ヶ月の時点での超音波処理(Son)前および超音波処理後のインフルエンザの4つの季節性株(A/Victoria/361/2011(H3N2)、A/California/7/2009(H1N1)、B/Hubei-Wujiagang/158/2009(B Yamagata)およびB/Brisbane/60/2008(B Victoria))についてのODT結果。
【0015】
図9】6ヶ月間にわたってDLSによって分析した、A/Victoria/361/2011(A、B)、A/California/7/2009(C、D)、B/Hubei-Wujiagang/158/2009(E、F)およびB/Brisbane/60/2008(G、H)に関する非処理(左)および超音波処理(右)IVV Drug Matrix材料の平均粒度分布(PSD)(n=5)。
【0016】
図10】60ml、500mlおよび1000mlの種々のIVV Drug Matrixバッチ体積に関する、ODT≧80%に相当するIVV Drug Matrixバッチ体積(MPH体積mL)にわたる超音波処理曝露時間(分)。
【0017】
図11】60ml、500mlおよび1000mlの種々のIVV Drug Matrixバッチ体積に関する、ODT≧80%に相当する処理時間にわたる超音波処理投入エネルギー。
【0018】
図12】IVV Drug Matrixのバッチ体積(60ml、500mlおよび1000ml)に対してフロースルーデバイスを使用する、ODT≧80%を達成するために必要とされる超音波処理投入エネルギー。
【0019】
図13】IVV Drug Matrixにおける凝集の量(%ODTとして示される)と、HA分子上に存在するグリコシル化部位の推定数との間の線形的関係性。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本開示は、IVV Drug Matrixとして本明細書で以降言及されるインフルエンザウイルスワクチン(IVV)薬物物質またはIVV薬物製品中で凝集した材料を効果的に分散させる超音波処理方法の使用を記載する。超音波処理の実行可能性を、インフルエンザウイルスのH3N2株に対して評価した。なぜならこのインフルエンザA亜株は、非H3N2株およびBインフルエンザと比較して、最高の凝集レベルを示すからである。
【0021】
本開示の一例は、タンパク質凝集の阻害は一般に、製剤への適合性の賦形剤の添加によって達成されるため以前に認められていなかったアプローチを提供する。例えば、賦形剤(例えば、糖、ポリオール、アミノ酸、塩、ポリマーおよび界面活性剤)は、優先的な相互作用[(Arakawaら(1991); Timasheff (1998)]、タンパク質折りたたみの速度の増大[Wangら(1995); Frye and Royer (1997)]、溶媒接近性およびコンホメーション可動性の低減[Kendrickら(1997)]、ならびに溶媒粘性の増大[Jacob and Schmid (1999)]により凝集物を安定化させることが見出されている。
【0022】
本開示は、ワクチンの免疫原性に有害に影響を及ぼし得、ワクチンを受容する個体において望ましくない副作用を引き起こし得る、これらの添加剤の必要性を回避する。
【0023】
1つの例において、本開示は、インフルエンザタンパク質を含む調製物中で凝集した材料を分散させる方法であって、上記方法は、上記調製物を超音波処理に供する工程を包含する方法を提供する。
【0024】
別の例において、本開示は、インフルエンザワクチンを生成する方法であって、上記方法は、不活性化またはスプリットインフルエンザビリオンを含む調製物を生成する工程および上記調製物を超音波処理する工程を包含する方法を提供する。
【0025】
超音波処理のための調製物は、全ビリオン、スプリットビリオン、サブユニットワクチンまたは組換えワクチンであり得る。上記調製物の無菌性のための濾過を容易にするために、凝集物のパーセンテージが最終調製物中で10%未満であることが好ましい。
【0026】
一例において、上記調製物は、インフルエンザヘマグルチニンを含み、例えば、上記調製物は、スプリットインフルエンザビリオンを含む。1つの例において、上記調製物は、界面活性剤を実質的に含まない。本明細書で使用される場合、語句「界面活性剤を実質的に含まない」とは、0.02%未満のレベルを有することを意味する。例えば、界面活性剤のレベルは、200ppm未満である。さらなる例において、界面活性剤のレベルは、50ppm未満である。
【0027】
代表的には、上記超音波処理は、上記調製物に存在する凝集物のうちの少なくとも50%が分散されるように、ある時間にわたってある強度で行われる。凝集物の分散のために生成される超音波処理エネルギーは、3つの方法のうちの1つによって標的IVV Drug Matrixへと送達されうる:(1)エネルギーがIVV Drug Matrix中に懸濁されたソニケータープローブを介して直接伝達される、(2)IVV Drug Matrixがフロースルーデバイスの中に取り囲まれたソニケーターのプローブ先端の振動先端を通過する、または(3)金属またはガラス管を経た、IVV Drug Matrixが通過する場所への間接的エネルギー伝達。全ての超音波処理方法は、少なくとも89ジュール/mLのエネルギーの伝達を、IVV Drug Matrix内の凝集物のうちの少なくとも50%を分散させるために必要とする。
【0028】
本開示の方法によって生成されるワクチンは、一価季節性ワクチンまたは一価パンデミックワクチンであり得る。別の例において、本開示のワクチンは、三価および四価ワクチンのような多価ワクチンである。
【0029】
本開示の方法によって生成されるワクチンは、代表的には、インフルエンザAおよびインフルエンザB抗原を含み、例えば、凝集した材料を実質的に含まない。1つの例において、語句「凝集した材料を実質的に含まない」とは、材料のうちの50%超(約90ジュール/mL超音波処理)が集塊化されていないことを意味する。さらなる例において、材料のうちの少なくとも60%(約134ジュール/mL超音波処理)、70%(約178ジュール/mL超音波処理)または80%(約223ジュール/mL超音波処理)が、集塊化されていない。別の例において、材料のうちの少なくとも90%(約267ジュール/mL超音波処理)が、集塊化されていない。
【0030】
以下で記載されるように、本開示の方法は、多くの予測外の利益を提供する。第1に、上記方法は、インフルエンザ抗原調製物に存在する凝集物を分散させるにあたって高度に効率的である。驚くべきことに、これらの分散した凝集物は、長期間の貯蔵(4℃)にもかかわらず、再集塊化しない。さらに、本開示の方法を使用して生成したワクチンは、同じ抗原を含むが、処理しなかったかまたは凝集物を分散させるために添加剤で処理したワクチンより、フェレットモデルにおいてより強い免疫応答を誘発し得ることが示された。
【0031】
本明細書全体を通じて、別段文脈が要求しなければ、文言「含む(comprise)」またはバリエーション(例えば、「含む(comprises)」または「含むこと(comprising)」は、述べられた要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群の包含を意味し、いかなる他の要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群の排除も意味しないことが理解される。
【0032】
任意の先行する刊行物(またはそこから得られる情報)への、または公知の任意の事項への本明細書中での言及は、先行する刊行物(またはそこから得られる情報)または公知の事項が、本明細書が関連する注力分野における技術常識の一部を形成するという承認もしくは自認または何らかの形態の示唆として解釈されず、解釈されるべきではない。
【0033】
本明細書中で言及される全ての刊行物は、それらの全体において本明細書に参考として援用される。
【0034】
本明細書で使用される場合、単数形「ある(a)」、「ある(an)」、および「上記(the)」は、文脈が別段明示的に規定しなければ、複数形をも含むことが注記されなければならない。従って、例えば、「ある薬剤(an agent)への言及は、単一の薬剤、および2つまたはこれより多くの薬剤も含む;「ある分子(a molecule)」への言及は、単一の分子、および2つまたはこれより多くの分子も含む;など。
【実施例
【0035】
方法
IVV Drug Matrixの超音波処理
直接プローブ超音波処理方法
IVV Drug Matrixを、ソニケーターホーン/プローブをビーカー内に含まれるサンプルへと直接浸けることによって、「直接」超音波処理方法を使用して処理した。
【0036】
Branson Model 450 Sonifier(登録商標)(Branson Ultrasonics)を使用して、超音波処理を行い、これは4つの構成要素(電源装置、モデル102Cコンバーターおよび0.5インチタップ付きホーンを含む)から構成された。
【0037】
超音波処理プロセスの効率を評価するために、Bandelin SONOPULS Sonicator(Bandelin Electronic GmbH & Co. KG)を使用した。その構成は、GM3200 Sonifier電源装置、UW3200コンバーター、SH213GブースターおよびTT13 13mm チタン先端からなった。IVV薬物物質材料の超音波処理を、Branson Sonicatorに関して記載される方法に従って、ビーカーの中で行った。
【0038】
IVV Drug Matrixサンプルを、10mlバッチにおいて調製し、清浄な30mlビーカーの中に入れ、これを、ソニケータープローブがサンプル溶液の中に十分に浸かる状態にして(すなわち、ソニケーター先端とビーカーの基部との間の距離は、およそ1mmであった)、クランプスタンド上に固定した。次いで、超音波処理を、エネルギー伝達の速度(振幅)を変動させながら、ある範囲の投入エネルギーを送達して行った:
【0039】
送達した超音波処理エネルギーの範囲を、IVV Drug Matrixの1ミリリットルあたりのジュール(エネルギー)として測定したところ、0ジュール/mL、83ジュール/mL、165ジュール/mL、259ジュール/mL、345ジュール/mLを含んだ。
【0040】
上記サンプルの過熱を回避するために、超音波処理を少なくとも2回に分けて行い、処理間では上記ビーカーを、氷上で短時間静置して冷却した。最後の超音波処理したIVV薬物物質サンプルを、プラスチックチューブへと移し、さらなる分析の前に2~8℃において貯蔵した。
【0041】
フロースルー超音波処理方法
超音波処理プロセスの拡張性を評価するために、フロースルーデバイスを取り付けたBandelin SONOPULS Sonicator(Bandelin Electronic GmbH & Co. KG)を、使用した。その構成は、GM3200 Sonifier電源装置、UW3200コンバーター、SH213Gブースター、TT13 13mmチタン先端およびDG 4 G フロースルー処理容器からなった。IVV薬物物質材料の超音波処理を、ソニケーターのフロースルーデバイスを通して、520U蠕動ポンプ(Watson & Marlow, Australia)によって循環させた。
【0042】
凝集した材料の測定
光学密度濁度(ODT)アッセイ
ワクチン中間生成物IVV薬物物質中の凝集していない材料の程度を評価するために、回収したタンパク質のレベルを、軽度の遠心力の適用後に上清のA280nmでの光学密度(OD)を利用して、決定した(Tayら: Investigation into alternate testing methodologies for characterization of influenza vaccine. Human Vaccine Immunotherapy 2015 11 (7) 1673-84)。遠心分離後のペレット中のタンパク質の割合は、サンプル内の凝集した材料の程度に直接相関するので、上清中のより高い回収率は、分散したタンパク質のより大きな割合に相当する。このアッセイを、光学密度濁度(ODT)法と称した;タンパク質回収値は、0~100%の範囲であり(ここでは% ODTとして示した)、サンプル中の分散タンパク質の量に伴って増大する。
【0043】
上記アッセイのいくつかの属性を、3つのインフルエンザ株(H1N1;A/California/07/2009、H3N2;A/Victoria/361/2011およびB;B/Hubei Wujiagang/158/158/2009を含む)に関して評価した。検証結果は、反復性(%CV)が2.9%、3.1%および3.1%(それぞれ)、精度のロット間変動性(%CV)が8.8%、6.5%および3.4%(それぞれ)、室内再現精度が0.4%、6.3%および0.2%(それぞれ)、実施者間の統計的に有意でない差がp=0.81、0.13および0.78(それぞれ)であり、期待される結果と観察された結果との間の予測可能な線形性は(R=0.9685)を示した。季節性ワクチンサブタイプ:H1N1、H3N2およびインフルエンザBを表すIVV薬物物質のレプリケートロットに関する代表的%ODTプロフィールを、図1に詳述する。
【0044】
さらにこのアッセイは、動的光散乱(DLS)および非対称フィールドフロー分画(A4F)を含む、凝集特徴付けの代替法と相関した。ODT分析からの低レベルの変動は、このアッセイが、中間ワクチン材料における凝集の評価に非常に適していることを示した。
【0045】
動的光散乱(DLS)
DLSによる粒度分析を、サンプル内の凝集特徴をさらに理解するためのODTアッセイの補完的方法として使用した。DLS技術は、粒子のその周りの溶媒分子との衝突に起因するランダムな運動である、溶液中のタンパク質のブラウン運動の測定に基づく。ブラウン運動は、DLSによって測定される散乱光の強度において時間依存性の揺動を誘導し、サンプルの粒度分布(PSD)を生じる。
【0046】
DLS測定を、Malvern Zetasizer Nano Series ZS(Malvern Instruments Ltd)を使用して行った。分析した各サンプルの密度(DA-100M Density Meter, Mettler Toledo)、粘性(Lovis 2000M Microviscometer, Anton Paar)および屈折率(30GS Refractometer, Mettler Toledo)を含む、溶液中の粒子のブラウン運動に影響を及ぼすいくつかの特性を予め決定した。サンプルの事前処理は、不安定でありかつ後で分析に干渉する大きな粒子を含む任意の外来の材料または沈殿を除去するために、1分間、8000rpmでの遠心分離を含んだ。次いで、各サンプルの得られた上清成分を引抜き、DLSによって評価した;各サンプル測定は、後方散乱角度173°で行い、温度25℃で3分間平衡化した5個のレプリケート(n=5)に基づいた。
【0047】
インフルエンザ抗原性評価
単一放射免疫拡散(SRID)
SRIDアッセイを、以前に記載されるように行った[Williams et al, 1980]。簡潔には、参照および試験抗原材料を、1% Zwittergent溶液(Calbiochem, Darmstadt, Germany)を含むPBS-中で1:1、2:3および1:3希釈し、ポリクローナル抗血清を含むアガロースゲルの2反復のウェルに添加した。ゲルを、加湿チャンバの中で72時間インキュベートし、ガラスプレート上で乾燥させ、クーマシーブリリアントブルーR-250(Sigma, California, USA)で染色した。抗原-抗体沈殿物の円形のゾーンを測定し、HA濃度を、IZP標準と比較して、平行線バイオアッセイ法によって計算し(15)、試験の有効性を、「g」検定を使用して確認した(g≦0.061)(16)。
電子顕微鏡法(EM)による画像化
【0048】
陰性染色EMを、Hayat and Miller(1990)が採用したアガー重層濾過法(agar diffusion filtration method)によって行った。各サンプルの3個のグリッドを準備した;IVV薬物物質を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS;pH7.2)で1/50に希釈して、不連続単層を提供した。サンプル(1μL)を、formvarコーティングした銅電子顕微鏡グリッドに塗布し、次いで、これを2%w/v アガープレート上に裏返しにして載せた。上記アガープレートにグリッドを据えると(すなわち、液体がアガーによって吸収される)、上記グリッドは、陰性染色液の液滴(pH7.0の2%w/v リンタングステン酸ナトリウム)上に浮いた。次いで、20秒後に、上記グリッドを持ち上げ、過剰な染色液を、グリッドの縁に破ったWhatman No. 1濾紙の小片を接触させることによって除去した。染色液の残った薄い膜を、電子顕微鏡による検鏡前に風乾するまで放置した。
【0049】
結果
超音波処理による凝集したIVV Drug Matrixの破壊
凝集した材料を分散させるために最も有効な方法を、界面活性剤による破壊後に最高のレベルの凝集した材料を形成する傾向があることから、インフルエンザのH3N2亜株を使用して決定した。いくつかの方法を評価して、界面活性剤による破壊後の凝集した材料が分散し得るか否かを立証した。
【0050】
第1のアプローチは、超音波処理による高周波数音波を使用して、A/Victoria/361/2011、亜株H3N2のIVV薬物物質材料内で凝集物を分散させることを含んだ(図2)。直接超音波処理方法を使用し、この方法において、限局的かつ高強度の超音波エネルギーを、プローブからサンプルを含むビーカーへと直接伝えることができた。サンプル(10mlバッチにおいて調製)を、83ジュール/mL~345ジュール/mLの範囲に及ぶ超音波処理投入エネルギー範囲に供し、分散の程度を、ODTアッセイによって評価した。その結果は、投入エネルギーの量と脱会合した凝集物のレベルとの間で線形的関係性を示す。すなわち、%ODT値は、非処理の場合の40%と比較して、超音波処理後に50%~80%の範囲に及んだ(図2)。興味深いのは、分散のレベルが259ジュール/mLで最大に達し、そこから分散のさらなる増大は観察されなかったことであった。対照的に、IVV薬物物質の軽度の加熱および撹拌(600rpmで撹拌しながら37℃で30分)は、分散した材料のレベルを変化させなかった。
【0051】
エネルギーがIVV薬物物質に伝えられる強度を、曝露時間を全てのサンプルに関して0.70s/mlで一定にしたまま、超音波処理振幅(0~100%)を調節することによって探った。ODT結果は、伝達されるエネルギー量に関して以前に認められたとおりの予測可能な傾向を示し、IVV薬物物質における分散の程度は、曝露時間を一定に維持した場合、超音波処理振幅とともに増大した(図3)。超音波処理エネルギー伝達の最適速度は、80%振幅で達成された。それを超えても、凝集物の脱会合のレベルにさらなる上昇は認められない。これらの結果は、80%が凝集物を脱会合するための最適振幅(すなわち、エネルギー伝達速度)であることを示唆する。
【0052】
IVV Drug Matrix材料を分散させるための超音波処理の実行可能性
受容可能となるために、不活性化ワクチンは、一定の品質属性を必要とする。すなわち、ある方法が、凝集した材料を分散させることが示されている場合、その材料がこの特徴を維持することが重要である。
【0053】
界面活性剤であるポリソルベート80(PS80)の存在下および非存在下の両方で、H3N2 A/Victoria/210/2009のIVV Drug Matrix中で凝集した材料を分散させる方法として、超音波処理の実行可能性を評価するために、24週間にわたる試験を行った。サンプルの種々の特徴をモニターするために、多数の試験を使用した(凝集評価に関してのODTおよびDLS、抗原性に関しての単一放射免疫拡散(SRID)、および形態的画像化に関しての電子顕微鏡法(EM)を含む)。
【0054】
ODTおよびDLSによる凝集挙動
非処理、超音波処理およびPS80処理したIVV Drug Matrixの凝集特徴を、ODTアッセイおよびDLSによって評価した。ODT分析は、超音波処理(少なくとも200ジュール/mL)後に、IVV Drug Matrix中の分散した材料のレベルが、非超音波処理材料に関する40%(時間0で)と比較して、80%に達することを示した(図4)。この分散レベルは、4℃で24週間経過しても一定のままであった。これは、不可逆的な分散状態を示す(図4)。さらに、コントロール(非処理)材料の分散またはさらなる凝集は、この時間を経ても増大しなかった。界面活性剤(0.1% PS80)を添加しても、最初のレベルと比較して、この材料における凝集物のレベルに対して特筆すべき影響はなかった。よって、このことは、IVV Drug Matrix材料の凝集のレベルは、界面活性剤での破壊後に設定されることを示した。
【0055】
ODTアッセイとともに、サンプルをDLSによって分析して、凝集をさらに特徴づけた。各サンプルに関して、DLS測定(n=5)により、粒度分布(PSD)の強度を生成したが、これは、種々のサイズ集団の粒子によって分散した光の相対的強度を示す。DLSの結果は、全3つのサンプルに関してODTの結果との密接な相関を明らかにした(図5)。例えば、非処理およびPS80処理IVV Drug Matrixサンプルは、ピークが60nm、400nmおよび7000nmに存在する多峰性のPSDを示し、従って、内部の凝集物を示した(図5AおよびB)。しかし、超音波処理は、単一の明瞭なピークが300nmに存在する単峰性の分布を生じた。これは、凝集物を欠く、均一かつ十分に分散したサンプルを示唆する(図5C)。各分析時点で、全てのサンプルは、再現性のあるPSDを生じ、さらに24週間の期間を経ても変化しないままであった。
【0056】
SRIDおよびEIAによる抗原性
抗原性材料のレベルをSRIDによって評価して、超音波処理または界面活性剤の添加が、インフルエンザ抗原に影響するか否かを決定した。SRID分析は、上記材料が超音波処理されているか、界面活性剤の存在下で処理されているかにかかわらず、抗原性材料のレベルが、非処理サンプルと同じ効力で残っており、時間を経ても一定であることを示した(表1、図6)。
【表1】
【0057】
EMによる形態的画像化
EMによる画像化を使用して、0ヶ月、1ヶ月、2ヶ月および6ヶ月の時点でのサンプルの形態的外観を調べた(図7)。顕著な差異が、超音波処理およびコントロールのIVV Drug Matrixサンプル間で観察された。コントロール/非処理のIVV Drug Matrix(PS80ありおよびなし)は、顕微鏡写真においてより暗い領域によって表されるように、全6ヶ月の時間経過の間中、顕著な量の凝集物を含んだ。対照的に、超音波処理したIVV Drug Matrixは、サイズが低減したより少ない凝集物を含み、上記材料の外観は、試験した期間にわたって一定のままであった。これらの観察は、ODT分析およびDLS分析の両方から得られた結果を反映したが、その両方の分析において、超音波処理した材料は、非処理または界面活性剤(PS80)を組み込んだIVV Drug Matrixより明らかに分散していた。
【0058】
インフルエンザの全ての季節性株への超音波処理の適用可能性
H3N2は、他の季節性株と比較して、最高の凝集レベルを示す(図1)が、この方法が全ての株の凝集物を破壊できることを示すことは、必須である。4つの季節性株を、超音波処理(少なくとも200ジュール/mL)前および処理後、6ヶ月間の期間にわたって分散した凝集物レベルに関して試験した(図8)。試験した全てのウイルス調製物において、超音波処理の適用は分散した材料のレベルを増大させ、この材料は、6ヶ月間の期間にわたって分散したままであった。超音波処理した際の凝集物分散の上昇は、Yamagata系統およびVictoria系統から派生した2つのインフルエンザBウイルスとの比較において、インフルエンザA、H3N2およびH1N1の2つの亜株に対してより顕著であると思われた。例えば、分散した材料のレベルは、B株に関しての3~10%増大と比較して、2つのA株に関してはおよそ60~100%増大した。
【0059】
ODT結果を、全4つのインフルエンザ株のDLS分析から得たデータによってさらに確証した。0ヶ月、3ヶ月および6ヶ月において各サンプルについて5つのレプリケート測定から得られた強度PSDを、図8に示す。A/Victoria/361/2011の非処理サンプルは、その多峰性のプロフィールから種々のサイズの集団の凝集物の存在を示した(図9A)。それに対して、A/California/7/2009、B/Hubei-Wujiagang/158/2009およびB/Brisbane/60/2008のPSDは、より単峰性の構造を有し、従って、より均一な粒子集団を示唆した(それぞれ、図9C、E、G)。超音波処理後に、全4株は、いかなる凝集物をも含まない充分に分散したIVV Drug Matrixに特徴的である分布を示した(図9B、D、F、H)。
【0060】
超音波処理したIVV Drug Matrixの安定性およびバッチの一貫性
4つのワクチン候補タイプ/サブタイプを代表するIVV Drug Matrixを超音波処理して、目標の凝集物分散レベルを達成するために制御されたエネルギーレベル(ジュール/ml)を適用することの一貫性および安定性の両方を決定した(表2、図8)。各代表株に関するIVV薬物材料を、6つの部分アリコートに分けた。その6つのアリコートのうちの3つを、独立して、少なくとも200ジュール/mLの超音波処理に曝露し、それらの非超音波処理コントロール群とともに、2~8℃において6ヶ月まで貯蔵した。0ヶ月、1ヶ月、3ヶ月および6ヶ月において全ての群からサンプルを採取し、存在する凝集物のレベルに関してODTによって分析した。インフルエンザA株サブタイプ:A/California/07/2009およびA/Victoria/361/2011内の全ての下位ロットに関して、非超音波処理コントロールと比較した場合に、超音波処理サンプルにおいて分散した凝集物のレベルの有意な変化を観察した。両方の代表的インフルエンザA株に関して独立して超音波処理した下位ロットの間で優れた一貫性が存在した。時間0では、上記H1N1およびH3N2株の全3つの下位ロットが、超音波処理後に目標%ODT(>80%)を満たした(それぞれ、%CVは2.1%および1.1%であり、十分に10%限界の範囲内)。凝集物分散のレベルにおけるより少ない変化が、コントロール群に存在する凝集物の低含有量に起因して、B株を代表するロットにおいて観察された。超音波処理後に、上記B株下位ロットは、A株を代表するロットと同じレベルのバッチ間一貫性を示した(時間0でのB/Hubei Wujiagang/158/2009およびB/Brisbane/60/2008に関する%CVは、それぞれ、1.2%および0.7%)。重要なことには、全4つの季節性インフルエンザ株を代表する下位ロットは、全6ヶ月間の時間経過にわたってそれらの上昇した%ODTレベルおよびバッチ間一貫性を維持した。これは、超音波処理による凝集物破壊が恒久的であることを示唆する。
【表2】
【0061】
HA上の推定グリコシル化部位の数と必要とされる超音波処理の量に関する線形的関係性
エンベロープの糖タンパク質;ヘマグルチニン(HA)は、インフルエンザウイルスが宿主細胞と結合し、一旦エンドソームに飲み込まれても消化から逃れることを可能にする、インフルエンザウイルスのシアル酸レセプター結合タンパク質である。HA分子の球状の頭部領域は、抗原性部位と重なり合い、これらの抗原性部位が抗体および主要組織適合遺伝子複合体により結合されるのを覆い隠すのに関与すると考えられるN結合型グリコシル化部位を含む(Skehelら, 1984; Jacksonら, 1994)。さらに、N-グリカンの構造上の複雑さは、HA-レセプター結合特異性と正に相関する(Tsuchiaら, 2002)。HAの球状頭部領域におけるN結合型グリコシル化部位の数は、H1N1およびH3N2ヒトインフルエンザAウイルスが進化する間に増大してきた(Suzuki. 2011)。本発明者らは、インフルエンザAのHA分子上の推定グリコシル化部位の数と存在する凝集のレベルとの間の関係性を決定した。グリコシル化部位の数を、NetNGlyc 1.0 Server (http://www.cbs.dtu.dk/services/NetNGlyc/)上で入手可能なアルゴリズムを使用して、確率スコアを計算することによって推定した。確率スコアを生成するために、問題の株のHAタンパク質配列をアルゴリズム提出パネルへと入力し、分析用に提出した。上記ソフトウェアは、確率の強度に応じて、1~3のプラス(+)記号でスコア付けされる、入力配列内の推定グリコシル化部位の表を生成する。推定HAグリコシル化部位確率スコア(pGlyスコア)は、所与の出力配列に関するプラス記号の合計として定義される。本発明者らは、≧16のpGlyスコアを有するH3N2株が≧90ジュール/mLの超音波処理を必要とし、≧11のpGlyスコアを有するH1N1が、≧90ジュール/mLの超音波処理を必要とすることを提唱する(ここで材料のうちの50%超は、集塊化されない)。
【表3】
IVV薬物物質を分散させるための代替の物理的破壊方法
IVV Drug Matrixを分散させる超音波処理の特有の能力を評価するために、他の物理的破壊法を試験した。これは、局所加熱(1秒および10秒間のマイクロ波)および剪断力(25往復および100往復を使用するダウンス型ホモジナイゼーション)を含んだ。いずれの例でも、非処理材料と比較して、分散に顕著な差異はなかった(表4)。
【表4】
【0062】
結論
直接超音波処理方法の使用は、IVV Drug Matrix内の凝集物を効果的に分散させることが見出された。サブタイプ:H3N2内のインフルエンザ株は、最高の凝集レベルを示す。プロセスの最適化は、IVV Drug Matrixに伝達されたエネルギー量および伝達が起こった速度が、凝集物分散のレベルの制御において必須であることを示した。超音波処理の速度(振幅)および/または曝露時間(秒)の増大は、線形的傾向で相関する凝集物脱会合のレベルの増大を生じた。分散レベルのプラトーが、ODTが97%に達した後に観察され、その後、凝集物はほとんどまたはそれ以上分散しなかった(ODTによって測定した場合)。IVV薬物物質において凝集物を分散させるための方法としての超音波処理の使用を、界面活性剤(PS80)の存在下および非存在下の両方で、24週間(6ヶ月間)という時間経過にわたって評価した。ODT、DLSおよびEMを含むいくつかの特徴付け分析は、超音波処理したIVV Drug Matrixが、非処理および界面活性剤処理サンプルと比較して、顕著に増大した量の分散した材料を含むことを明らかにした。凝集物分散の目標レベルに達するために必要とされる超音波処理の量は、推定可能であり、バッチ間で一致した。さらに、分散のレベルは、実行可能性試験の継続時間全体にわたって一貫したままであったので、安定なかつ恒久的に凝集物が分散した状態を示す。SRIDによる免疫学的評価によって、超音波処理も界面活性剤処理も、IVV Drug Matrixの抗原性を損なわないことが確認された。
【0063】
この研究は、高度に凝集したIVV Drug Matrixを含むインフルエンザワクチンの品質属性を改善するために、単純で、実務的かつ有効なアプローチとして超音波処理の価値を強く例証した。さらに、この方法は、インフルエンザの全季節性株に適用可能であることも示された。超音波処理の後に、増大したレベルの分散した材料が、H3N2、H1N1、ならびにYamagata系統およびVictoria系統の2つのインフルエンザB株のIVV Drug Matrixにおいて観察された。これは、6ヶ月間にわたって十分に維持された。
【0064】
研究室スケールの調査のために設計した直接超音波処理方法に対する代替として、連続流超音波処理構成を、IVV Drug Matrixの商業的体積を処理するために調査した。簡潔には、ソニケーターユニットを、20kHzのコンバーターと組み合わせた高周波数発電機によって電力供給する;接続ブースターホーンを、指定した流速において定常的に再循環されるサンプルを含むフロースルー処理容器に入れる。
【0065】
システムの拡張性を評価するために、超音波処理強度(振幅)および生成物再循環流速を含む種々の処理パラメーターの影響を調査して、IVV薬物物質内の凝集物分散の効率に対する影響を決定した。120ml/分というソニケーターを通る一定の再循環流速および80%という固定振幅を使用すると、バッチ体積(60ml、500mlおよび1000ml)と80%というODT閾値に達するために必要とされる超音波処理時間(60分超)との間で強い線形的な相関関係が示された(R=0.989)。この傾向は、超音波処理エネルギー(ジュール)と時間との間でも(R≧0.998)、よって、超音波処理エネルギーとIVV Drug Matrixのバッチ体積との間でも(R=0.981、表5および図10~12)観察された。このデータは、概説した超音波処理プロセスが、IVV薬物物質バッチサイズに関して拡張可能であることを示唆する。さらに、上記データは、少なくとも300ジュール/mLという固定投入エネルギーが、このシステムにおける体積にかかわらず、凝集物を≧80%のODTレベルに脱会合させるのに十分であることを示唆する。
【0066】
【表5】
【0067】
本発明者らは、インフルエンザA HA分子上の推定グリコシル化部位の数とその株のIVV Drug Matrix中で見出される凝集の程度との間に線形的関係性があることを決定した(図13)。相関係数の値(r値)を、2005~2017年の間に製造された12のH3N2株の推定グリコシル化部位とIVV Drug Matrixに関する凝集の程度との間の関係について計算した。そのr値は0.74であった。これは、これら2つの属性に関する中程度の強さの相関関係を示唆する。本発明者らは、≧16のpGlyスコアを有するH3N2株が、≧90ジュール/mLの超音波処理を必要とし、≧11のpGlyスコアを有するH1N1株が、≧90ジュール/mLの超音波処理を必要とすることを提唱する。
参考文献
【表6-1】
【表6-2】



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13