(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】高強度および高成形性を有する鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231128BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20231128BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/14
C21D9/46 G
C21D9/46 J
(21)【出願番号】P 2021560014
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 KR2020006384
(87)【国際公開番号】W WO2021100995
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】10-2019-0149189
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100210790
【氏名又は名称】石川 大策
(72)【発明者】
【氏名】オ、ギュジン
(72)【発明者】
【氏名】グ、ナムフン
(72)【発明者】
【氏名】シン、キョンシク
(72)【発明者】
【氏名】ウム、ホヨン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034327(JP,A)
【文献】特開2013-227654(JP,A)
【文献】特表2019-505691(JP,A)
【文献】特開2015-025208(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0123551(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.12~0.22%、シリコン(Si):1.6~2.4%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)
の合計:0超過0.05%以下、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.003%以下、窒素(N):0.006%以下、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物からなる鋼板であって、
前記鋼板の最終微細組織は、フェライト、テンパードマルテンサイトおよび残留オーステナイトからなり、
前記最終微細組織内の前記フェライトの体積分率は11~20%であり、前記テンパードマルテンサイトの体積分率は65%以上であり、前記残留オーステナイトの体積分率は10~20%であり、
前記鋼板の前記微細組織は、Ti系析出物、Nb系析出物、V系析出物の少なくとも1つ以上を含み
、
降伏強度(YS):850MPa以上、引張強度(TS):1180MPa以上、延伸率(EL):14%以上、ホール広げ性(HER):30%以上である
高強度および高成形性を有する鋼板。
【請求項2】
前記引張強度(TS)と前記延伸率(EL)との積が20,000以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の高強度および高成形性を有する鋼板。
【請求項3】
(a)重量%で、炭素(C):0.12~0.22%、シリコン(Si):1.6~2.4%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)
の合計:0超過0.05%以下、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.003%以下、窒素(N):0.006%以下、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物からなる鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップと、
(b)前記熱延板材を冷間圧延して、冷延板材を製造するステップと、
(c)前記冷延板材を、
(AC3-20)~AC3℃の温度で1次熱処理を行うステップと、
(d)前記1次熱処理した冷延板材を順次に徐冷および急冷するステップと、
(e)前記急冷した冷延板材を再加熱して2次熱処理を行うステップと、を含み、
前記(d)ステップにおいて、前記徐冷は、前記1次熱処理した冷延板材を5~10℃/sの冷却速度で700~800℃まで冷却するステップを含み、
前記(d)ステップにおいて、前記急冷は、前記徐冷した冷延板材を50℃/s以上の冷却速度で200~300℃まで冷却し、5~20秒間維持するステップを含み、
前記(e)ステップにおいて、前記2次熱処理は、前記急冷した冷延板材を10~20℃/sの昇温速度で400~460℃の温度まで昇温し、10~300秒間維持するステップを含み、
前記(e)ステップの後に、前記冷延板材は、フェライト、テンパードマルテンサイトおよび残留オーステナイトからなる最終微細組織を有し、
前記最終微細組織内の前記フェライトの体積分率は11~20%であり、前記テンパードマルテンサイトの体積分率は65%以上であり、前記残留オーステナイトの体積分率は10~20%である、鋼板の製造方法であって、
前記鋼板の前記微細組織は、Ti系析出物、Nb系析出物、V系析出物の少なくとも1つ以上を含み
、
高強度および高成形性を有する鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記(a)ステップにおいて、前記熱延板材を製造するステップは、再加熱温度:1150~1250℃、仕上げ圧延温度:900~950℃、巻取温度:550~650℃の条件で行い、
前記(b)ステップにおいて、前記冷延板材を製造するステップは、冷間圧延の圧下率:40~60%の条件で行うことを特徴とする、
請求項3に記載の高強度および高成形性を有する鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記(e)ステップの後に、前記冷延板材を430~470℃のめっき浴に浸漬してめっき層を形成するステップをさらに含むことを特徴とする、
請求項3に記載の高強度および高成形性を有する鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記めっき層を490~530℃の温度で合金化するステップをさらに含むことを特徴とする、
請求項5に記載の高強度および高成形性を有する鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板およびその製造方法に関し、より詳しくは、高強度および高成形性を有する鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性、軽量化の観点から自動車用鋼板の高強度化がより速やかに進められている。搭乗者の安全を確保するために自動車の構造部材として用いられる鋼板は、強度を高めたり厚さを増加させて十分な衝撃靭性を確保しなければならない。また、自動車用部品に適用されるためには十分な成形性が要求され、自動車の燃費向上のためには車体の軽量化が必須であることから、自動車用鋼板を持続的に高強度化し、成形性を高めるための研究が行われている。
【0003】
現在、上述した特性を有する自動車用高強度鋼板としては、フェライトおよびマルテンサイトの2つの相で強度および延伸率を確保する二相鋼(Dual-phase steel)、および塑性変形時に最終組織内の残留オーステナイトの相変態により強度および延伸率を確保する変態誘起塑性鋼(Transformation induced plasticity steel)が提案されている。
【0004】
これに関連する技術としては、大韓民国特許出願第10-2016-0077463号(発明の名称:降伏強度に優れた超高強度高延性鋼板およびその製造方法)がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高成形性および高強度を有する鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面による高強度および高成形性を有する鋼板は、重量%で、炭素(C):0.12~0.22%、シリコン(Si):1.6~2.4%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0超過0.05%以下、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.003%以下、窒素(N):0.006%以下、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含み、降伏強度(YS):850MPa以上、引張強度(TS):1180MPa以上、延伸率(EL):14%以上、ホール広げ性(HER):30%以上である。
【0007】
一実施例において、鋼板の最終微細組織は、フェライト、テンパードマルテンサイトおよび残留オーステナイトからなってもよい。
【0008】
一実施例において、前記最終微細組織内の前記フェライトの体積分率は11~20%であり、前記テンパードマルテンサイトの体積分率は65%以上であり、前記残留オーステナイトの体積分率は10~20%であってもよい。
【0009】
一実施例において、前記最終微細組織の結晶粒の大きさは5μm未満であってもよい。
【0010】
一実施例において、前記引張強度(TS)と前記延伸率(EL)との積が20,000以上であってもよい。
【0011】
本発明の一側面による高強度および高成形性を有する鋼板の製造方法は、(a)重量%で、炭素(C):0.12~0.22%、シリコン(Si):1.6~2.4%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0超過0.05%以下、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.003%以下、窒素(N):0.006%以下、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含む鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップと、(b)前記熱延板材を冷間圧延して、冷延板材を製造するステップと、(c)前記冷延板材を(AC3-20)~AC3℃の温度で1次熱処理を行うステップと、(d)前記1次熱処理した冷延板材を順次に徐冷および急冷するステップと、(e)前記急冷した冷延板材を再加熱して2次熱処理を行うステップと、を含み、前記(e)段階の後に、前記冷延板材は、フェライト、テンパードマルテンサイトおよび残留オーステナイトからなる最終微細組織を有する。
【0012】
一実施例において、前記最終微細組織内の前記フェライトの体積分率は11~20%であり、前記テンパードマルテンサイトの体積分率は65%以上であり、前記残留オーステナイトの体積分率は10~20%であってもよい。
【0013】
一実施例において、前記(c)ステップにおいて、前記1次熱処理は、826~846℃で行われる。
【0014】
一実施例において、前記(d)ステップにおいて、前記徐冷は、前記1次熱処理した冷延板材を5~10℃/sの冷却速度で700~800℃まで冷却するステップを含むことができる。
【0015】
一実施例において、前記(d)ステップにおいて、前記急冷は、前記徐冷した冷延板材を50℃/s以上の冷却速度で200~300℃まで冷却し、5~20秒間維持するステップを含むことができる。
【0016】
一実施例において、前記(e)ステップにおいて、前記2次熱処理は、前記急冷した冷延板材を10~20℃/sの昇温速度で400~460℃の温度まで昇温し、10~300秒間維持するステップを含むことができる。
【0017】
一実施例において、前記(a)ステップにおいて、前記熱延板材を製造するステップは、再加熱温度:1150~1250℃、仕上げ圧延温度:900~950℃、巻取温度:550~650℃の条件で行い、前記(b)ステップにおいて、前記冷延板材を製造するステップは、冷間圧延の圧下率:40~60%の条件で行うことができる。
【0018】
一実施例において、前記(e)ステップの後に、前記冷延板材を430~470℃のめっき浴に浸漬してめっき層を形成するステップをさらに含むことができる。
【0019】
一実施例において、前記めっき層を490~530℃の温度で合金化するステップをさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、量産可能な工程条件により最終微細組織を制御して安定的に高い引張強度および適切な延伸率、穴広げ性(Hole expansion ratio;HER)が確保され、高い強度にもかかわらず成形性に優れた超高強度鋼板およびその製造方法を実現することができる。本発明の一実施例によれば、フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの分率を理想的に調節して、高強度および成形性に優れた鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一具体例による高強度および高成形性を有する鋼板の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施例による高強度および高成形性を有する鋼板の微細組織を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付した図面を参照して、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明を詳細に説明する。本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、本明細書で説明する実施例に限定されない。本明細書全体にわたって同一または類似の構成要素については同一の図面符号を付した。また、本発明の要旨を不必要にあいまいにしうる公知の機能および構成に関する詳細な説明は省略する。
【0023】
自動車用鋼板は、衝突などの事故に際して使用者の安全性確保および燃費規制による車体の軽量化を目的として、より高強度でかつ、同時に高延性の高張力鋼材の使用を増加させている。自動車用途に用いられる部品のうち衝突安全性を左右するメンバ類、フィラー類は、複雑な形状のため、既存のフェライトおよびマルテンサイトの2つの相で延伸率を確保するDP鋼(Dual-phase steel)の機械的特性(例えば、引張強度(TS):980MPa、伸び率(EL):15%、TS×EL=14700MPa・%)では適切な成形性を確保することができない。したがって、DP鋼より優れた延性を示す高強度鋼板として、TRIP鋼板が注目されており、このようなTRIP鋼は、ポリゴナルフェライトを主相(main phase)として残留オーステナイトを含むTRIP型複合組織鋼(TPF鋼)と、ベイニティックフェライトを母相(mother phase)として残留オーステナイトを含むTRIP型ベイナイト鋼(TBF鋼)などの様々な種類に分類される。しかし、現在用いられている一般的なTRIP鋼は、混合法則(Rule of mixture;ROM)の限界を克服できないポリゴナルフェライトと残留オーステナイトの二相組織、または主基地がベイナイト(Bainite)からなる組織によって限界に達している状態である。
【0024】
超高強度自動車鋼板の開発方向に各製鋼メーカーの注目が集まっている。一例として、フェライト、焼鈍マルテンサイトおよび残留オーステナイトの複合組織で高強度および高延伸率を確保したものの、低いフェライトの分率によって降伏強度YSとTSとの比である降伏比YR(=YS/TS)が高くて加工性が低下する問題がある。また、他の例として、高強度および適切な高成形、加工性を確保したものの、炭素含有量が高くて溶接性に劣るというデメリットを有する。さらに他の例として、フェライト、焼鈍マルテンサイト、残留オーステナイトおよびベイナイトの複合組織でバーリング性に優れた高強度冷延鋼板を得たが、熱処理条件の制約によって一般のCGLで生産しにくいというデメリットがある(例えば、過時効区間の時間が一般のCGLに比べて長い時間を要する)。
【0025】
本発明では、量産可能な工程条件により最終微細組織を制御して安定的に高い引張強度および適切な延伸率、穴広げ性(Hole expansion ratio;HER)が確保され、高い強度にもかかわらず成形性に優れた超高強度鋼板およびその製造方法について述べる。鋼板の最終微細組織は、超微細フェライト11~20%からなり、テンパードマルテンサイト65%以上、および残留オーステナイト10~20%からなり、各相の結晶粒の大きさは5μm未満であってもよい。鋼板の降伏強度は800MPa以上、引張強度は1180MPa以上、延伸率は14%以上、最終材質の引張強度×総延伸率の値が約20,000以上、および穴広げ性が30%以上であることが好ましい。
【0026】
また、Ti、Nb、Vのような合金元素を添加することで適切な量の炭化物を形成して、成形性および延伸率の大きな低下なく残留オーステナイトの結晶粒を微細化させることができ、これは、残留オーステナイトの安定度を適切に確保することにより、変態誘起塑性機構の強度および延伸率、成形性確保能を向上させて材質の補償に有利な面がある。また、フェライト結晶粒の微細化およびフェライト中の析出物の存在による析出硬化によりフェライト分率の増加による降伏強度および引張強度の減少を低減させる。よって、成分系内(Ti+Nb+V)の量を0.05重量%以下に調節した。
【0027】
以下、上述した特性を有する本発明の実施例の高成形性および高強度を有する鋼板をより詳しく説明する。
【0028】
高強度および高成形性を有する鋼板
本発明の一実施例による高強度鋼板は、重量%で、炭素(C):0.12~0.22%、シリコン(Si):1.6~2.4%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0超過0.05%以下、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.003%以下、窒素(N):0.006%以下、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含む。
【0029】
以下、本発明の一具体例による高成形性および高強度を有する鋼板に含まれる各成分の役割および含有量について詳しく説明する(各成分の含有量は全体鋼板に対する重量%であって、以下、%で表示する)。
【0030】
炭素(C):0.12~0.22%
炭素(C)は、製鋼において最も重要な合金元素であり、本発明では、基本的な強化の役割およびオーステナイト安定化を主な目的とする。オーステナイト中の高い炭素(C)濃度は、オーステナイト安定度を向上させて材質向上のための適切なオーステナイトの確保を容易とする。しかし、過度に高い炭素(C)含有量は、炭素当量の増加による溶接性の低下をもたらし、冷却中にパーライトなどのセメンタイト析出組織が多数生成されることがあるため、炭素(C)は、鋼板全重量の0.12~0.22%添加することが好ましい。前記炭素を0.12%未満で含む時、鋼板の強度確保が難しく、0.22%超過で含む時、炭素当量の増加による溶接性の低下をもたらすことがあり、靭性および延性が劣化する恐れがある。
【0031】
シリコン(Si):1.6~2.4%
シリコン(Si)は、フェライト中の炭化物形成を抑制する元素であり、特に、Fe3Cの形成による材質の低下を防止する元素である。また、シリコン(Si)は、炭素(C)の活動度を高めてオーステナイトの拡散速度を高める。シリコン(Si)はさらに、フェライト安定化元素としてよく知られていて、冷却中にフェライト分率を高めて延性を増加させる元素として知られている。また、炭化物の形成抑制力が非常に大きいため、ベイナイト形成時、残留オーステナイト中の炭素濃度の増加によるTRIP効果を確保するために必要な元素である。シリコン(Si)1.6%未満で添加される場合、上記の効果を確保しにくい。これに対し、シリコン(Si)が2.4%超過で添加される場合、工程時に鋼板表面に酸化物(SiO2)が形成され、熱間圧延時に圧延負荷を高め、赤スケールを多量発生させる可能性がある。したがって、シリコン(Si)は、鋼板全重量の1.6%~2.4%添加することが好ましい。
【0032】
マンガン(Mn):2.0~3.0%
マンガン(Mn)は、オーステナイト安定化元素であって、マンガン(Mn)が添加されることにより、マルテンサイト形成開始温度であるMsが次第に低くなって、連続アニーリング工程の進行時に残留オーステナイト分率を増加させる効果をもたらすことができる。
【0033】
マンガンは、鋼板全重量の2.0~3.0%含まれる。マンガンを2.0%未満で添加する時には、上述した効果を十分に確保することができない。逆に、マンガンを3.0%超過で添加する時、炭素当量の増加による溶接性の低下および工程時に鋼板表面に酸化物(MnO)が形成されて、当該部分の濡れ性の劣位によるめっき性の低下をもたらすことがある。
【0034】
アルミニウム(Al):0.01~0.05%
アルミニウム(Al)は、シリコン(Si)と同様に、フェライト安定化および炭化物の形成を抑制する元素として知られている。また、平衡温度を高める効果があり、アルミニウム(Al)の添加時、適正な熱処理温度区間が広くなるというメリットがある。ただし、アルミニウムが0.01%未満の場合、上述した効果を実現することができず、アルミニウムが0.05%超過で過度に添加される場合、AlNの析出によって連鋳に問題が発生しうる。したがって、アルミニウムは、鋼板全重量の0.01~0.05%添加される。
【0035】
チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)の少なくとも1つ以上の合計:0超過0.05%以下
チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)は、鋼中に少なくとも1つ以上含まれる。まず、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、およびバナジウム(V)は、鋼中にて炭化物の形態で析出する元素であり、本発明では、析出物の形成による初期オーステナイト結晶粒の微細化による残留オーステナイト安定度の確保および強度向上、フェライト結晶粒の微細化およびフェライト中の析出物の存在による析出硬化にその目的がある。チタン(Ti)の場合、AlNの形成を抑制して連鋳中にクラックの形成を抑制する機能を行うことができる。しかし、過度に多く添加する場合、粗大な析出物を形成することにより、鋼中の炭素量を低減させて材質を劣化させ、材質の低下および製造コストの上昇などのデメリットが存在するので、その量は3つの合金元素の総計0超過0.05重量%以下に調節する必要がある。
【0036】
その他の元素
リン(P)、硫黄(S)および窒素(N)は、製鋼過程で鋼中に不可避に添加される。すなわち、理想的には含まないことが好ましいが、工程技術上完全な除去が難しくて一定少量含まれる。
【0037】
リン(P)は、鋼中にてシリコンと類似の役割を果たすことができる。ただし、リンが鋼板全重量の0.015%超過で添加される場合、鋼板の溶接性を低下させ、脆性を増加させて材質の低下を発生させることがある。したがって、リンは、鋼板全重量の0.015%以下で添加されるように制御される。
【0038】
硫黄(S)は、鋼中にて、靭性および溶接性を阻害しうるので、鋼板全重量の0.003%以下で含まれるように制御される。
【0039】
窒素(N)は、鋼中に過剰存在すれば、窒化物が多量析出して延性を劣化させることがある。したがって、窒素(N)は、鋼板全重量の0.006%以下で含まれるように制御される。
【0040】
上記の合金成分を有する本発明の高強度鋼板は、フェライト、テンパードマルテンサイトおよび残留オーステナイトからなる微細組織を有する。この時、前記微細組織内の前記残留オーステナイトの体積分率は10~20体積%であってもよい。前記高強度鋼板の結晶粒は、5μm以下の大きさを有する微細結晶粒であってもよい。
【0041】
本発明で製作した鋼板の最終微細組織において、フェライト分率は全体的な材質に大きな影響を及ぼすため、11~20%確保されなければならず、好ましくは13~18%が適切である。フェライトが11%未満の場合、降伏比が高くて加工性が低下し、延伸率の確保に不利である。これに対し、フェライト20%以上の場合、基地組織であるテンパードの分率が減少して十分な強度を確保しにくい。残留オーステナイトは、鋼板の強度および延伸率をすべて確保できる核心的な組織であるので、10~20%存在していることが好ましい。テンパードマルテンサイトは、強度確保のために65%以上生成できる。
【0042】
一方、前記合金成分を有する本発明の高強度鋼板の微細組織は、Ti系析出物、Nb系析出物、V系析出物の少なくとも1つ以上を含むことができ、前記析出物は、TiC、NbC乃至VCであってもよい。前記鋼板中の任意の地点における単位面積(1μm2=1μm×1μm)内に存在する前記析出物中の大きさ100nm以下の析出物と、前記析出物中の大きさ100nm超過の析出物との比率が4:1以上であってもよいし、好ましくは9:1以上であってもよい。前記比率より低い場合、結晶粒の微細化が十分でなくて鋼板の強度が低下する。
【0043】
また、前記単位面積に存在する大きさ100nm以下の前記析出物の個数は、50個以上100個以下であってもよい。前記大きさ100nm以下の析出物が100個を超える場合、最終微細組織のうち残留オーステナイト中の炭素含有量が減少し、TRIP効果が阻害されて強度と延伸率が減少し、50個未満の場合、焼鈍時の結晶粒の微細化が十分でない。
【0044】
もちろん、前記合金成分を有する本発明の高強度鋼板は、上述した単位面積内における析出物の比率が4:1~9:1以上でかつ、同時に、100nm以下の析出物が50~100個である微細組織を有することができる。
【0045】
前記析出物は、後述のように、冷延鋼板の連続焼鈍過程で主に析出し、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)の少なくともいずれか1つ以上を含み、総含有量が0超過0.05wt%である冷延鋼板の連続過程で昇温速度を3~10℃/sに制御することにより、任意の単位面積内における前記100nm以下の析出物と前記100nm超過の析出物との比率が4:1または9:1以上となるように調節し、大きさ100nm以下の析出物が50~100個となるように制御して、強度、延伸率およびホール広げ性に優れた鋼板を得ることができる。
【0046】
前記高強度鋼板は、降伏強度(YS):850MPa以上、引張強度(TS):1180MPa以上、延伸率(EL):14%以上、ホール広げ性(HER):30%以上の材質特性を有することができる。これにより、本発明の実施例による高強度鋼板は、高強度と高成形性を要求する分野に適用可能である。
【0047】
以上説明した本発明の実施例による高強度鋼板は、次のような一実施例の方法で製造できる。本発明は、適切に制御された組成比の合金成分と熱延工程および冷延工程を進行させた後に連続アニーリング工程を実施することにより、延伸率、ホール広げ性および強度に優れた鋼板およびその製造方法を提示しようとする。
【0048】
高強度および高成形性を有する鋼板の製造方法
図1は、本発明の一具体例による高強度および高成形性を有する鋼板の製造方法を概略的に示す工程フロー図である。
【0049】
図1を参照すれば、前記鋼板の製造方法は、鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップS100と、前記熱延板材を冷間圧延して、冷延板材を製造するステップS200と、前記冷延板材に対して1次熱処理を行うステップS300と、前記1次熱処理した冷延板材を順次に徐冷および急冷するステップS400と、前記急冷した冷延板材を再加熱して2次熱処理を行うステップS500とを含む。
【0050】
まず、鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップS100において、鋼スラブは、炭素(C):0.12~0.22%、シリコン(Si):1.6~2.4%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0超過0.05%以下、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.003%以下、窒素(N):0.006%以下、残部の鉄(Fe)およびその他の不可避不純物を含む。特に、Ti、Nb、Vのような合金元素を添加することにより、フェライト結晶粒の微細化およびフェライト中の析出物の存在による析出硬化によりフェライト分率の増加による降伏強度および引張強度の減少を低減させる。
【0051】
さらに、鋼スラブを用いて熱延板材を製造するステップS100は、再加熱温度:1150~1250℃、仕上げ圧延温度:900~950℃、巻取温度:550~650℃の条件で行われる。
【0052】
再加熱工程は、前記鋼スラブを再加熱して鋳造時に偏析した成分を再固溶させ、鋳造当時の成分を均質化するステップである。前記鋼スラブの再加熱温度は、通常の熱間圧延温度を確保できるように1150~1250℃程度とすることが好ましい。前記再加熱温度が1150℃未満であれば、熱間圧延荷重が急激に増加する問題が発生することがあり、1250℃を超える場合、初期オーステナイト結晶粒の粗大化によって最終生産鋼板の強度確保が困難になりうる。続いて、前記鋼スラブを、前記スラブ再加熱後、通常の方法で熱間圧延を行い、900~950℃の温度で仕上げ圧延を行って熱延板材を形成することができる。前記仕上げ圧延後、前記熱延板材を10~30℃/sの冷却速度で550~650℃に冷却した後に巻取る。
【0053】
次に、前記熱延板材を冷間圧延して、冷延板材を製造するステップS200は、前記熱延板材を酸洗後に冷間圧延するステップである。冷間圧延の場合、熱間圧延材を用いて最終生産鋼板の厚さを合わせるために行い、圧延前に熱間圧延材の酸洗を進行させる。冷延最終組織の後に行われる連続アニーリング工程で最終生産鋼板の微細組織が決定されるので、熱間圧延材組織が延伸された形状の組織を形成する。圧下率は40~60%で行う。
【0054】
続いて、前記冷延板材に対して1次熱処理を行うステップS300は、昇温速度:3~10℃/s、開始温度:(AC3-20)~AC3℃、維持時間:60秒以上の条件で行われる。前記1次熱処理ステップにおける(AC3-20)~AC3℃の温度は、一例として、826~846℃の温度であってもよい。
【0055】
1次熱処理(アニーリング)を行うステップS300は、オーステナイトおよびフェライトの二相域の条件で行われる。本発明では、(AC3-20)~AC3℃の区間で熱処理を進行させ、これは、適切な分率のフェライトを確保して、最終微細組織内の理想的なフェライト、テンパードマルテンサイトおよび残留オーステナイトの確保により当該鋼板の目標とする最終材質を得るためである。
【0056】
前記1次熱処理した冷延板材を順次に徐冷および急冷するステップS400において、前記徐冷は、前記1次熱処理した冷延板材を5~10℃/sの冷却速度で700~800℃まで冷却するステップを含む。すなわち、1次熱処理(アニーリング)を行うステップS300の後、700~800℃まで5~10℃/sの冷却速度でゆっくり冷却を進行させ、これは、熱処理工程の進行中に最終微細組織内に一定量のフェライトの確保を試みることにより、最終微細組織の塑性を確保するためである。徐冷工程条件によってフェライトが存在しない微細組織も形成可能である。
【0057】
前記急冷は、前記徐冷した冷延板材を50℃/s以上の冷却速度で200~300℃まで冷却し、5~20秒間維持するステップを含むことができる。すなわち、徐冷後、急冷終了温度200~300℃まで50℃/s以上の冷却速度で速やかに冷却させなければならないが、これは、急冷終了温度の制御により徐冷後の微細組織内のオーステナイトをマルテンサイトに変態させて最終材質の確保を容易にするためであり、当該急冷工程中に発生しうる相変態を抑制するために、50℃/s以上の冷却速度を必要とする。
【0058】
前記急冷した冷延板材を再加熱して2次熱処理を行うステップS500において、前記2次熱処理は、前記急冷した冷延板材を10~20℃/sの昇温速度で400~460℃の温度まで昇温し、10~300秒間維持するステップを含むことができる。すなわち、前記1次熱処理した冷延板材を順次に徐冷および急冷するステップS400の後、400~460℃の再加熱区間で10~300秒維持させ、当該工程中に残留オーステナイト中の炭素の濃縮およびマルテンサイトのテンパリングによる強度および延伸率の確保を進行させて冷延鋼板を製作する。
【0059】
前記冷延鋼板の少なくとも一面にめっき層を具備した冷延めっき鋼板を製造する時には、前記2次熱処理を行うステップの後、ガルバナイジングステップを追加することができ、前記ガルバナイジングステップは、前記冷延鋼板を430~470℃のめっき浴に浸漬するステップを含み、30~100秒間行われる。前記ガルバナイジングステップの後、ガルバニーリングステップを追加して前記めっき層を合金化することができ、前記合金化は490~530℃の温度で行われる。
【0060】
上述した方法により、本発明の一実施例による高強度と高成形性を有する鋼板を製造することができる。
【0061】
上記の過程で製造された本発明の鋼板の最終微細組織は、体積分率として、超微細フェライト11~20%、テンパードマルテンサイト65%以上および残留オーステナイト10~20%からなる。
図2を参照すれば、前記高強度鋼板の結晶粒は、5μm以下の大きさを有する微細結晶粒であってもよい。本発明の一実施例による高強度と高成形性を有する鋼板において、フェライト分率は全体的な材質に大きな影響を及ぼすため、11~20%確保されなければならず、好ましくは13~18%が適切である。フェライトが11%未満の場合、降伏比が高くて加工性が低下し、延伸率の確保に不利である。これに対し、フェライト20%以上の場合、基地組織であるテンパードの分率が減少して十分な強度を確保しにくい。残留オーステナイトは、鋼板の強度および延伸率をすべて確保できる核心的な組織であるため、10~20%存在していることが好ましい。一方、テンパードマルテンサイトは、強度確保のために65%以上含まれる。
【0062】
本発明の一実施例による高強度と高成形性を有する鋼板の材質は、降伏強度は850MPa以上、引張強度は1180MPa以上、延伸率は14%以上、最終材質の引張強度×総延伸率の値が約20,000以上、および穴広げ性は30%以上であってもよいし、好ましくは850~1080MPaの降伏強度、1180~1300MPaの引張強度、14~20%の延伸率、最終材質の引張強度×総延伸率の値が約20,000以上、および穴広げ性は30%以上であってもよい。最終生産鋼板の材質に影響を与える要因としては、結晶粒の微細化による強度増加および残留オーステナイト安定度の確保、析出硬化による強度増加、変態誘起塑性現象による残留オーステナイトの相変態による強度および延伸率の確保および基本基地マルテンサイト自体による強度増加、フェライトによる延伸率の確保などの要因がある。最終材質の場合、引張強度×総延伸率の値が20,000以上と一般的に当該超高強度レベルで提案する値を満足し、穴広げ性と一緒に調べた時、同一強度の比較材に比べて成形性が類似、あるいは優位にあることを推定することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の構成および作用をより詳細に示す好ましい実験例を開示する。ただし、これは本発明の好ましい一つの例として提示されたものであり、本発明の思想が下記の実験例によって制限されるとは解釈されない。
【0064】
表1は、本発明の実験例による鋼板の組成(単位:重量%)を示す。
【0065】
【0066】
表1を参照すれば、本発明の実験例による鋼板の組成は、重量%で、炭素(C):0.18%、シリコン(Si):1.8%、マンガン(Mn):2.8%、アルミニウム(Al):0.03%、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.02%、リン(P):0.012%、硫黄(S):0.002%、窒素(N):0.0038%、残部の鉄(Fe)からなる。前記組成は、重量%で、炭素(C):0.12~0.22%、シリコン(Si):1.6~2.4%、マンガン(Mn):2.0~3.0%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0超過0.05%以下、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.003%以下、窒素(N):0.006%以下、残部の鉄(Fe)である組成範囲を満足する。表1の合金成分を有するスラブに対して、本発明の実施例の条件による熱延工程と冷延工程を同一に進行させて、冷延鋼板の試験片を製造する。
【0067】
表2は、本発明の実験例による連続アニーリング工程条件を示す。前記冷延鋼板の試験片を表2の工程条件によって進行させて、比較例1および2、実施例1の試験片を製造した。
【0068】
【0069】
表2を参照すれば、項目I~IIIは、
図1に示された1次熱処理ステップS300に相当し、項目IV~VIIは、
図1に示された徐冷および急冷ステップS400に相当し、項目VIII~IXは、
図1に示された2次熱処理ステップS500に相当する。
【0070】
表2の実施例1において、冷延板材に対して1次熱処理を行うステップS300を行う工程条件は、開始温度:826~846℃、維持時間:60秒以上の範囲を満足し、前記1次熱処理した冷延板材を順次に徐冷および急冷するステップS400を行う工程条件は、冷却速度:5~10℃/s、徐冷終了温度:700~800℃、急冷速度:50℃/s以上、急冷終了温度:200~300℃の範囲を満足し、前記急冷した冷延板材を再加熱して2次熱処理を行うステップS500を行う工程条件は、再加熱温度:400~460℃、再加熱維持時間:10~300秒の範囲を満足する。
【0071】
これに対し、比較例1および比較例2において、冷延板材に対して1次熱処理を行うステップS300を行う工程条件は、開始温度:826~846℃の範囲を満足することができない。すなわち、比較例1は、1次熱処理開始温度が826℃より低く、比較例2は、1次熱処理開始温度が846℃より高い。
【0072】
表3は、本発明の実験例による鋼板の最終微細組織と材質を示す。
【0073】
【0074】
表3を参照すれば、実施例1の鋼板は、最終微細組織内の前記フェライト(Ferrite α)の体積分率が11~20%であり、前記テンパードマルテンサイト(Tampered martensite)の体積分率は65%以上であり、前記残留オーステナイト(Retained γ)の体積分率は10~20%の範囲を満足し、降伏強度(YS):850MPa以上、引張強度(TS):1180MPa以上、延伸率(T.EL):14%以上、ホール広げ性(HER):30%以上、引張強度(TS)と延伸率(T.EL)との積:20,000以上の範囲を満足する。
【0075】
これに対し、比較例1は、最終微細組織内のテンパードマルテンサイト(Tampered martensite)の体積分率が65%以上、降伏強度(YS):850MPa以上、引張強度(TS):1180MPa以上、ホール広げ性(HER):30%以上の範囲をそれぞれ満足することができない。そして、比較例2は、最終微細組織内の前記フェライト(Ferrite α)の体積分率:11~20%、引張強度(TS)と延伸率(T.EL)との積:20,000以上の範囲をそれぞれ満足することができない。
【0076】
すなわち、二相域焼鈍であるアニーリング温度825℃の工程を経た比較例1の鋼板は、相対的に高い延伸率を示すが、低い降伏強度(YS)と穴広げ性(HER)により目標の材質に到達できなかった。高いフェライトの分率によって高い延伸率が確保されたが、テンパードマルテンサイトを十分に確保できず強度が低下した。また、相間の硬度差が大きいフェライトとテンパードマルテンサイトとの境界面が増加して穴広げ性が低下したと判断される。
【0077】
単相域焼鈍であるアニーリング温度855℃の工程区間を経た比較例2の鋼板の場合、降伏強度は850MPa以上、引張強度は1180MPa以上、延伸率は14%以上、穴広げ性は30%以上の値を有するが、最終材質の引張強度×総延伸率の値が約20,000以上を満足することができなかった。これは、十分な分率のフェライトを確保できなかったことに起因すると判断される。
【0078】
これに対し、Ac3直下の温度であるアニーリング温度840℃の工程区間を経た実施例1の鋼板の場合、優れた降伏、引張強度および延伸率、穴広げ性を有していることを確認することができる。また、降伏比が低くて加工性に優れている。これは、適切な工程条件で発現する理想的なフェライト、テンパードマルテンサイトおよび残留オーステナイト微細組織の形成に起因すると判断される。
【0079】
以上、本発明の実施例を中心に説明したが、当業者のレベルで多様な変更や変形を加えることができる。このような変更と変形が本発明の範囲を逸脱しない限り本発明に属するといえる。したがって、本発明の権利範囲は以下に記載される特許請求の範囲によって判断されなければならない。