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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】トーションウイングプローブアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/38 20100101AFI20231128BHJP
   G01Q 60/32 20100101ALI20231128BHJP
【FI】
G01Q60/38 101
G01Q60/32
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021564946
(86)(22)【出願日】2020-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-05
(86)【国際出願番号】 US2020031334
(87)【国際公開番号】W WO2020227222
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】62/842,973
(32)【優先日】2019-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512038610
【氏名又は名称】ブルカー ナノ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BRUKER NANO,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】フ、シュイキン
(72)【発明者】
【氏名】ワグナー、マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ウェイジエ
(72)【発明者】
【氏名】ス、シャンミン
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-262403(JP,A)
【文献】特開平10-282130(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0128385(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0052186(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02163907(EP,A2)
【文献】国際公開第2007/094365(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/041585(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0257022(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0249521(US,A1)
【文献】特開平02-284015(JP,A)
【文献】米国特許第05266801(US,A)
【文献】特開平07-270434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q10/00 -90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーションウイングプローブアセンブリであって、
ベースと、
前記ベースから延びるプローブと、
を備え、
前記プローブは、
支持構造と、
チップを支持する第1の自由端、及び前記第1の自由端に対向する第2の自由端を有するカンチレバーと、
前記支持構造に前記カンチレバーを結合する一対のトーションアームを備えるトーションバーと、
を備え、
前記トーションバーは、前記カンチレバーの長手方向軸に直交して前記カンチレバーと結合しており、
前記支持構造、前記カンチレバー、及び前記トーションバーの厚さは同一であり、
前記カンチレバーは、前記トーションアームに対して前記第1の自由端側に第1の部分及び前記トーションアームに対して前記第2の自由端側に第2の部分を備え、前記第1の部分の表面積は、前記第2の部分の表面積に等しく、
前記支持構造全体の曲げ剛性は、前記トーションアーム全体のねじり剛性より少なくとも10倍さらに大きい
トーションウイングプローブアセンブリ。
【請求項2】
前記厚さは、5μm未満である、請求項1に記載のトーションウイングプローブアセンブリ。
【請求項3】
前記プローブのばね定数に対する自然共振周波数の比率(f/k)は、
ダイビングボードベースに固定された1つの端部を有する三角形のダイビングボードカンチレバーの場合のf/kより少なくとも3倍さらに大きい、請求項1に記載のトーションウイングプローブアセンブリ。
【請求項4】
前記プローブ、支持構造及びカンチレバーは、窒化ケイ素である、請求項1に記載のトーションウイングプローブアセンブリ。
【請求項5】
前記窒化ケイ素は、LPCVDを使用して蒸着される、請求項に記載のトーションウイングプローブアセンブリ。
【請求項6】
シリコンウェハである基板上に製造される、請求項1に記載のトーションウイングプローブアセンブリ。
【請求項7】
チップ材料は、シリコンである、請求項1に記載のトーションウイングプローブアセンブリ。
【請求項8】
サンプルの光熱誘起表面変位を測定するためにAFMを動作させる方法であって、
支持構造、第1の自由端にチップを支持するカンチレバー、及び前記カンチレバーを前記支持構造に結合するトーションアームを備えたトーションバーを有するトーションウイングプローブを提供する工程であって、前記カンチレバーは、前記トーションアームに対して前記第1の自由端側に第1の部分及び前記トーションアームに対して第2の自由端側に第2の部分を備え、前記第1の部分の表面積は、前記第2の部分の表面積に等しく、前記支持構造全体の曲げ剛性は、前記トーションアーム全体のねじり剛性より少なくとも10倍さらに大きく、前記トーションバーは、前記カンチレバーの長手方向軸に直交して前記カンチレバーと結合している、工程と、
動作のAFMモードで前記プローブを発振させる工程と、
前記チップの位置で前記サンプルの表面に向かってIR放射線を方向付け、前記表面の変位を誘発して前記トーションバーを共振させる工程と、
前記方向付けの工程に応じた前記プローブの偏向に基づいて前記変位を測定する工程と、
を備える方法。
【請求項9】
前記AFMモードは、PFTモードである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記トーションウイングプローブは、前記支持構造、前記カンチレバー、及び前記トーションバーの厚さが同一である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記IR放射線は、中IR放射線である、請求項に記載の方法。
【請求項12】
サンプルと相互作用するトーションウイングプローブを備えるトーションウイングプローブアセンブリと、
前記プローブの偏向を測定するための光偏向検出装置と、
を備えるAFM装置であって、
前記トーションウイングプローブアセンブリは、
ベースと、
前記ベースから延びる前記プローブと、
を備え、
前記プローブは、
支持構造と、
チップを支持する第1の自由端、及び第2の自由端を有するカンチレバーと、
前記支持構造に前記カンチレバーを結合する一対のトーションアームを備えるトーションバーと、
を備え、
前記カンチレバーは、前記トーションアームに対して前記第1の自由端側に第1の部分及び前記トーションアームに対して前記第2の自由端側に第2の部分を備え、前記第1の部分の表面積は、前記第2の部分の表面積に等しく、
前記支持構造全体の曲げ剛性は、前記トーションアーム全体のねじり剛性より少なくとも10倍さらに大きく、
前記トーションバーは、前記カンチレバーの長手方向軸に直交して前記カンチレバーと結合しており、
前記支持構造、前記カンチレバー、及び前記トーションバーは、同じ厚さを有し、
前記光偏向検出装置は、レーザ及び検出器を備え、前記レーザは、前記プローブに向かって放射線を指向させ、前記プローブは、前記検出器に向かって前記放射線を反射し、偏向測定の感度は、前記放射線が前記プローブに接触する位置には、無関係である、
AFM装置。
【請求項13】
前記チップはシリコンからなり、前記カンチレバーは窒化ケイ素からなる、請求項12に記載のAFM装置。
【請求項14】
前記厚さは、5μm未満である、請求項12に記載のAFM装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
好ましい実施形態は、計測機器用のプローブデバイス及び対応する製造方法を対象とし、より具体的には、例えば、大幅に改善された画像帯域幅を達成し、容易にバッチ製造することができる原子間力顕微鏡(AFM)に使用するためのトーションウイングプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM)などの走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、原子寸法まで低下したサンプル表面を特徴付ける鋭利なチップと低い力を使用するデバイスである。一般に、サンプルの特性の変化を検出するために、SPMプローブのチップがサンプル表面に導入される。チップとサンプルとの間で相対的な走査運動を行うことによって、サンプルの特定の領域にわたって表面特性データを取得することができ、サンプルの対応するマップを生成することができる。
【0003】
AFMとその動作の概要は以下の通りである。図1は、典型的なAFMシステムを示している。カンチレバー15を有するプローブ14を備える、プローブデバイス12を採用するAFM10。スキャナ24は、プローブとサンプルの相互作用が測定される間、プローブ14とサンプル22との間の相対運動を生成する。このようにして、サンプルの画像又は他の測定値を得ることができる。スキャナ24は、典型的には、3つの直交する方向(XYZ)の動きを発生させる1つ以上のアクチュエータを備える。スキャナ24は、多くの場合、3つの軸全てにおいてサンプル又はプローブのいずれかを移動させる1つ以上のアクチュエータ、例えば、圧電管アクチュエータを備える単一の統合ユニットである。代替的には、スキャナは、複数の個別のアクチュエータのアセンブリであってもよい。一部のAFMは、スキャナを複数の構成要素に、例えば、サンプルを移動させるXYスキャナと、プローブを移動させるZアクチュエータとに分離する。従って、この機器は、例えば、ハンスマ(Hansma)らによる特許文献1、エリングス(Elings)らによる特許文献2、及びエリングスらによる特許文献3に記載されているように、プローブとサンプルとの間の相対運動を生成する間、サンプルのトポグラフィ又は他のいくつかの表面特性を測定することができる。
【0004】
一般的な構成では、プローブ14は、カンチレバー15の共振周波数又はその近くでプローブ14を駆動するために使用される振動アクチュエータ又は駆動装置16に結合されることが多い。代替的な構成は、カンチレバー15の偏向、ねじれ、又は他の動きを測定する。プローブ14は、多くの場合、統合チップ17を備えた微細加工されたカンチレバーである。
【0005】
通常、アクチュエータ16(又は代替的には、スキャナ24)によってプローブ14を振動するように駆動させるために、SPMコントローラ20の制御下においてAC信号源18から電子信号が印加される。プローブとサンプルとの相互作用は、典型的には、コントローラ20によるフィードバックによって制御される。特に、アクチュエータ16は、スキャナ24及びプローブ14に連結され得るが、自己作動式のカンチレバー/プローブの一部として、プローブ14のカンチレバー15と一体形成されてもよい。
【0006】
上述のように、プローブ14の振動の1つ以上の特性の変化を検出することによってサンプル特性を監視すると、選択されたプローブ14が振動してサンプル22と接触することが多い。これに関して、偏向検出装置25は、通常ビームをプローブ14の裏側に向けるために使用され、このビームは、次いで検出器26に向かって反射される。ビームが検出器26を横切って平行移動すると、ブロック28において適切な信号が処理され、例えば、RMS偏向を判定して、それをコントローラ20に送信し、コントローラ20は、当該信号を処理して、プローブ14の振動の変化を判定する。一般に、コントローラ20は、チップとサンプルとの間の相対的な一定の相互作用(又はレバー15の偏向)を維持するために、典型的には、プローブ14の振動の設定点(setpoint)特性を維持するために制御信号を生成する。より具体的には、コントローラ20は、チップとサンプルとの相互作用によって引き起こされるプローブの偏向に対応する信号と設定点とを回路30で比較することにより得られる誤差信号を調整する、PI利得(ゲイン)制御ブロック32及び高電圧増幅器34を備えてもよい。例えば、しばしばコントローラ20を使用して、チップとサンプルとの間に概ね一定の力を確保するために、振動振幅が設定点値(AS)に維持される。代替的には、設定点位相又は設定点周波数を使用してもよい。
【0007】
ワークステーション40はまた、コントローラ20及び/又は接続された又はスタンドアロンのコントローラの別途コントローラ又はシステムに提供され、コントローラから収集されたデータを受信し、走査中に取得したデータを操作して、ポイント選択、曲線適合、及び距離決定操作を実行する。
【0008】
プローブチップ(多くのAFMは、高解像度のために鋭利なチップのプローブ(半径10nm未満)を採用)のサンプルとの相互作用に応答するカンチレバーの偏向は、感度が非常に高い偏向検出器を使用し、ほとんどの場合には光てこ方式を用いて測定される。このような光学システムでは、レンズは、典型的にカンチレバーの頭上に置かれた光源から、カンチレバーの裏側へとレーザビームを収束させるために使用される。レバーの裏側(チップの反対側)は反射性であり(例えば、製造時に金属化を使用)、ビームがそこから光検出器に向かって反射され得る。動作中に検出器を横切るビームの平行移動は、レバーの偏向の測定値を提供し、これは、さらに1つ以上のサンプル特性を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国再発行特許発明第34,489号明細書
【文献】米国特許第5,266,801号明細書
【文献】米国特許第5,412,980号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
「ダイビングボード」又は三角形の形態を有する標準プローブでは、収束されたレーザビームがカンチレバーの裏側と接触する地点が回転角を判定し、これは、フォトダイオードの偏向信号及び偏向感度に影響を及ぼす。図2A及び図2Bに概略的に示されるように、反射性の裏側52を有するAFMプローブ50は、チップ53がサンプル(図示せず)に導入されるときに、典型的にその共振周波数で振動するように駆動する。このような相互作用中のプローブ50の偏向を測定するために、前述のような光偏向検出システム54が使用される。偏向検出システム54は、電磁気エネルギー「L」のビームをプローブ50の裏側52に向けるレーザ56を備える。このビーム「L」は、4分割フォトダイオード58などの検出器に向かって再び反射される。図2Aでは、ビーム「L」がプローブ50の固定端60(ほぼ中央)にさらに向かって裏側52に当たるように配置されている場合、回転角はθである。しかし、ビーム「L」がビーム「L」をプローブ50の自由端又はチップ端部に向けるように配置されている場合、回転角はθであり、プローブの偏向が同じであってもさらに大きい角度である。図に示すように、この後者の場合、ビームは、検出器58の中心ではなく、縁に向かってより多く接触する。この違いは感度に大きな影響を与える可能性があり、理想的には一定であって、即ちレーザの位置に依存しないことである。特に、典型的なダイビングボードや三角形のカンチレバーでは、レーザの位置合わせによって感度が変化するため、感度を一定に保つことが本質的に不可能である。
【0011】
標準のダイビングボード又は固定端を有する三角形状のレバーのもう1つの欠点は、チップにかかる力が測定に影響を与える可能性があることである。例えば、ピークフォースタッピングモード(PFT-IR)でIR励起に対するサンプルの応答を測定する場合、接触共振周波数は接触力によって変化する。図3は、チップ76を支持する自由端74を有するカンチレバー72を備えるプローブ70を示している。レバー72は、固定端78でプローブベース(図示せず)から延びる。この境界条件により、接触共振周波数は、サンプル表面に対してほぼ直交する(Z)方向にチップ76とサンプル(図示せず)との間の接触力「F」に依存する。これは、周波数シフトのために接触共振を追跡する必要があるため、サンプル特性の測定を複雑にする。測定された接触共振周波数がチップとサンプルとの間の接触力に実質的に依存しないAFMプローブを有することが望ましい。
【0012】
上記の観点から、計測分野は、PF-IRモードでサンプル特性を測定する際の接触共振周波数の監視を含み、AFM測定上のチップとサンプルの相互作用力の影響、及び、例えば、AFM光偏向検出方式、レーザ位置決めに関連する上記の欠点を克服するプローブを必要とする。
【0013】
本明細書では、「SPM」及び特定タイプのSPMの略語を使用して、顕微鏡装置又は関連技術、例えば、「原子間力顕微鏡」のいずれかを指し得ることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来技術の原子間力顕微鏡の概略図である。
図2A】光ビームがカンチレバーの裏側上の異なる地点に当たったときの偏向の検出に関する問題を示す、プローブ及び偏向検出装置を備える従来技術のAFMの概略的な側面図である。
図2B】光ビームがカンチレバーの裏側上の異なる地点に当たったときの偏向の検出に関する問題を示す、プローブ及び偏向検出装置を備える従来技術のAFMの概略的な側面図である。
図3】固定端を有する、従来技術のダイビングボードタイププローブの概略的な側面図である。
図4】本発明の好ましい実施形態によるトーションウイングプローブの概略的な等角図である。
図5A】偏向が好ましい実施形態の方法による大きな半径のチップ有するAFMプローブの段階的な微細加工の一連の画像であることを示している、図4のプローブを示す。
図5B】偏向が好ましい実施形態の方法による大きな半径のチップ有するAFMプローブの段階的な微細加工の一連の画像であることを示している、図4のプローブを示す。
図6】好ましい実施形態のトーションウイングプローブの低ドリフトを示するグラフである。
図7】従来技術のダイビングボードのAFMプローブに対する図6と同様のグラフである。
図8】偏向で示された好ましい実施形態のトーションウイングプローブの概略的な等角図である。
図9】流体中で動作する従来技術のダイビングボードタイププローブの概略的な側面図である。
図10】流体中で動作する、好ましい実施形態によるトーションウイングプローブの概略的な側面図である。
図11】好ましい実施形態によって製造されたトーションウイングプローブの概略的な平面図である。
図12】従来技術のダイビングボードプローブの概略的な平面図である。
図13A】好ましい実施形態による、トーションウイングプローブの振動の振幅及び位相対周波数をそれぞれ示したグラフである。
図13B】好ましい実施形態による、トーションウイングプローブの振動の振幅及び位相対周波数をそれぞれ示したグラフである。
図14】好ましい実施形態のトーションウイングプローブを使用して画像化されたPMMAサンプルのNanoIRスペクトル(吸収対波長)のグラフである。
図15】好ましい実施形態によるトーションウイングプローブを製造する方法のフローチャートである。
図16A】好ましい実施形態に従って製造されるトーションウイングプローブの一連の概略的な側面図である。
図16B】好ましい実施形態に従って製造されるトーションウイングプローブの一連の概略的な側面図である。
図16C】好ましい実施形態に従って製造されるトーションウイングプローブの一連の概略的な側面図である。
図16D】好ましい実施形態に従って製造されるトーションウイングプローブの一連の概略的な側面図である。
図16E】好ましい実施形態に従って製造されるトーションウイングプローブの一連の概略的な側面図である。
図16F】好ましい実施形態に従って製造されるトーションウイングプローブの一連の概略的な側面図である。
図17図16A図16Fの方法に従って製造されたトーションウイングプローブの概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好ましい実施形態は、従来のダイビングボード又は三角形状のAFMプローブとは異なり、固定端のないカンチレバーを有するトーションウイングプローブ及び対応する製造方法を提供することによって、従来の解決策の欠点を克服する。製造方法は、プローブ自体、トーションバー、及びプローブが延びる基板の両方に対して均一な厚さを有するプローブを提供する。このようにして、プローブは、動作帯域幅、ノイズ、及びドリフトの点で優れた性能特性を備えたバッチ製造を容易に行うことができる。また、プローブとサンプルの力の影響が最小限に抑えられ、感度はレーザの位置決めに依存しない。
【0016】
好ましい実施形態の第1の態様によれば、トーションウイングプローブアセンブリは、ベースとベースから延びるプローブとを備える。この場合、プローブは、支持構造と、対向する端部、チップを支持する第1の自由端、及び第2の自由端を有するカンチレバーとを有する。一対のトーションアームを備えるトーションバーは、カンチレバーを支持構造に結合し、支持構造、カンチレバー、及びトーションバーの厚さは同一である。
【0017】
好ましい実施形態の別の態様によれば、プローブのばね定数(f/k)に対する自然共振周波数の比率は、ダイビングボードベースに固定された1つの端部を有するカンチレバーを備えたダイビングボードプローブのf/kより少なくとも3倍さらに大きい。
【0018】
この実施形態のさらなる態様では、プローブ、支持構造、及びカンチレバーは窒化ケイ素であり、蒸着する工程は、低圧化学蒸着(LPCVD)を使用して実行される。
好ましい実施形態のさらに別の態様によれば、カンチレバーは、トーションアームの反対側に第1及び第2の部分を備え、第1の部分の表面積は、第2の部分の表面積に等しい。
【0019】
好ましい実施形態の別の態様では、サンプルの光熱誘起表面変位を測定するためにAFMを動作させる方法は、支持構造、チップを支持するカンチレバー、及びカンチレバーを支持構造に結合するトーションアームを備えたトーションバーを有するトーションウイングプローブを提供する工程を備える。次に、プローブは、動作モードで振動するように駆動され、IR放射線は、表面の変位を誘発してトーションバーを共振させるチップの概略的な位置でサンプルの表面に方向付ける。次に、方向付けの工程に応じたプローブの偏向に基づく変位が測定される。
【0020】
この実施形態の別の態様では、AFMモードはPFTモードである。
好ましい実施形態のさらに別の態様によれば、トーションウイングプローブは、均一な厚さを有する。
【0021】
好ましい実施形態の別の態様では、AFMは、サンプルと相互作用するトーションウイングプローブ、及びプローブの偏向を測定するための光偏向検出装置を備える。光偏向検出装置は、レーザ及び検出器を備え、レーザは、プローブに向かって放射線を方向付け、プローブは、検出器に向かって放射線を反射し、偏向測定の感度は、放射線がプローブに接触する位置とは無関係である。
【0022】
好ましい実施形態のさらなる態様によれば、トーションウイングプローブは、基板を提供する工程、及び基板上に酸化ケイ素及び窒化ケイ素の層を蒸着させる工程を備えるプロセスによって微細加工される。次に、この方法は、基板の第1側上にプローブアセンブリのベースをフォトリソグラフィ方式で形成する工程を備える。次に、製造方法は、第1側上に窒化ケイ素の別の層を蒸着させる工程、及びプローブアセンブリのプローブをフォトリソグラフィ方式で形成する工程を備える。プローブは、支持構造、対向する端部、チップを支持する第1の自由端、及び第2の自由端を有するカンチレバー、及びカンチレバーを支持構造に結合する一対のトーションアームを備える。支持構造、カンチレバー及びトーションバーは同じ厚さを有する。
【0023】
本発明のこれらの及び他の目的、特徴、及び利点が、以下の詳細な説明及び添付の図面から当業者に明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明及び特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示し、制限ではなく例示として提供されるものであることを理解されたい。本発明の趣旨から逸脱することなく、本発明の範囲内で多くの変更及び修正を行うことができ、本発明は、このような修正を全て含む。
【0024】
先ず図4を参照すると、原子間力顕微鏡に使用するためのトーショナル(又はトーションウイング)プローブ100が、カンチレバー110の少なくとも一部を収容する開口部108によって分離されている支持部材104,106を有する支持構造102を備えることを概略的に示している。カンチレバー110は、レバー110の長手方向軸「A」に実質的に直交するトーションバー112,114を介して、そのほぼ中央地点で部材104,106に結合されている。
【0025】
動作中、プローブ100が振動するように駆動されると、トーションバー112,114が回転し、カンチレバー110全体が軸「B」を中心に自由に回転し、支持部材104,106がそれぞれ固定端116,118を有する。その結果、プローブ110のチップがサンプル(図示せず)と相互作用するとき、接触力は、例えば、必要に応じてPF-IRモードで接触共振周波数に対してはるかに低い影響を及ぼし得る。これは、接触共振周波数がレバー72の固定境界78に与えられた接触力に依存する、図3に示したプローブ70のような標準AFMプローブと直接的な対照をなす。
【0026】
トーションウイングプローブ100のもう1つの重要な利点は、図5A及び図5Bに示されている。プローブ100を用いると、光学検出装置のレーザ「L」がカンチレバー110の裏側122に当たる位置に関係なく、カンチレバー110の中央に向かう位置「P」(図5A)又は位置「Q」(図5B)、ビームが検出器124に向かって再び反射するときの回転角(θ)は同一である。その結果、偏向感度は同一である。図2A及び図2Bに示す典型的なAFMプローブの対照的な場合では、偏向感度が変化し、レーザ光源、検出器の位置によっては、反射ビームが検出器に接触しない可能性がある。
【0027】
特にPF-IRモードと関連して、一端部に固定されたカンチレバーを有する従来のダイビングボードプローブの境界条件は、接触共振測定にさらにまた別の方式で影響を及ぼす。図6及び図7は、約1時間後の接触共振周波数に対する熱ノイズ電力スペクトルのプロットを示す。図6では、トーショナル(TRW)プローブと関連するデータは、ドリフトが0.3kHz未満で維持された状態で、プロット140(測定の開始)及びプロット142(1時間後の測定)で約360kHzの安定した接触共振を示している。標準プローブ(SNL)の場合、ドリフトは、少なくとも1桁大きくなる(図7)。言い換えれば、トーションウイングプローブの場合のように、カンチレバーが自由に回転するように許容すると(図6)、プローブ全体が熱ドリフトを受けるため、プローブへの接触共振ドリフトの影響が大幅に減少する。
【0028】
さらに、TRW設計は、(より広い帯域幅を有するAFM動作の場合)接触剛性及びレバー長が大幅に減少し、感度が3倍以上向上する。レバーアセンブリは、通常の長方形のダイビングボードタイプのレバーと同じ方式で、約2kHzでPFTモードを動作させる。PFTで動作するプローブがサンプル表面に一時的に接触している間(IR放射で励起)、光熱誘起表面変位により、トーションバーがチップを介して共振(設計上約200kHz)して駆動する。感度は、1/k及び1/Lに比例し、ここで、kは約1/10k(トーションバー(カンチレバーを支持構造に結合する2つのトーションアーム)及びカンチレバーのばね定数)であり、LTは約L(それぞれトーションバーとカンチレバーの長さ)の1/3である。感度は、10倍向上する。
【0029】
図13A及び図13Bを参照し、好ましい実施形態による振動TRWプローブの有限要素解析(FEA)を使用して、210kHz(図13Aの振幅プロット、図13Bの位相)付近で調和するトーショナル共振があると判定された。この小さいトーショナルプローブ共振プローブは、より高い「Q」(Q=f/BW)及びより高い接触共振周波数を有し、これは、NanoIRアプリケーションに特に有用である(例えば、現在の譲受人に譲渡された米国公開公報US-2018-0052186-A1を参照)。特に、TRWプローブは、より高い偏向感度を示し、従来のAFMプローブを使用する場合よりも2~3倍高い信号対雑音比(S/N)でNanoIRが表面振動を誘導することを検出できる。
【0030】
次に、図8を参照すると、AFMに使用するために微細加工された例示的なトーショナル(TRW)プローブ150が示されている。プローブ150は、カンチレバー154が構造152に対して自由に回転するための空間を画定する本質的にT字状の開口部153を有する支持構造152を備える。カンチレバー154は、カンチレバー154の長手方向軸に実質的に直交して延びる同一線形のトーションバー156,158を介して支持構造152に結合される。カンチレバー154の自由端160で、プローブは(試験中のサンプル(図示せず)の表面に実質的に直交する)「Z」に移動するチップ162を支持する。以下にさらに説明するように、プローブ150は微細加工され、支持構造152、カンチレバー154、及びトーションバー156,158は全て同じ厚さを有する。
【0031】
プローブ150は、前述のように、様々なモードで振動するように駆動し得る。ピークフォースタッピングモード(例えば、PF-IR分光法を実行するため)では、プローブ150を支持するプローブマウント(図示せず)が取り付けられたZピエゾチューブをZで駆動して、プローブをサンプル表面に対して真っ直ぐ上下に動かす。そのサイズのために、支持構造152は、典型的にはカンチレバーの共振周波数でサンプル表面に直交するようにチップ162を振動させて、「Z」でカンチレバーを移動させるように、捩じる/回転するトーションバー156,158に比べて相対的に剛性である。タッピングモードではプローブを「Z」で振動させるために別のZピエゾが提供され得る。
【0032】
特に、速度及び分解能の改善が続けられているため、AFM性能に対するもう1つの重要な影響は、特にピークフォースタッピングモードを使用して液体で実験を行う場合のプローブの偏向に対する流体力学的バックグラウンドの寄与である。これらは、米国特許第8,739,309号、同第8,646,109号、及び同第8,650,660号でさらに詳しく論じられているように、測定されたプローブ応答の一部となるプローブの偏向に対する寄与であり、取得したデータを汚染する可能性がある。図9及び図10を参照すると、この点に関する本発明のTRWプローブの利点が示されている。図9は、固定端174及びチップ178を支持する自由端176を備えたカンチレバー172を有する従来のAFMプローブ170を概略的に示している。固定端174は、AFM動作中に(サンプル表面に直交する)Zに移動するベース(図示せず)から延びる。一連の下向きの矢印180は、ベースが垂直に上向きに移動するときの水圧又は力を示している。プローブ170に結果として生じるトルクは、プローブの偏向に対する流体力学的バックグラウンドの寄与を生み出す。バックグラウンド偏向が考慮されない限り(通常、複雑なバックグラウンド減算アルゴリズムを介して)測定を汚染する可能性がある。
【0033】
対照的に、好ましい実施形態のTRWプローブ190を示す図10を参照すると、プローブの偏向に対する流体力学的バックグラウンドの効果は、本質的にゼロである。プローブ190は、プローブをZで、又は垂直に(例えば、Zピエゾアクチュエータ又はAFMの走査チューブを使用して)移動させるベース(図示せず)に結合された固定端198,200を有する剛性の第1及び第2部材194,196を有する支持構造192を備える。プローブはまた、トーションバー204,206を介して第1及び第2部材194,196に結合されたカンチレバー202を備える。カンチレバーは、前部208及び後部210を備え、前部は、チップ212を支持する。重要なことに、前部及び後部208,210は、好ましくは実質的に同じ表面積を有する。動作中、プローブ190が駆動すると、トルクがトーションバーを回転させてカンチレバーがトーションバー204,206を中心に回転するようにして、それによりチップ212をサンプル表面(図示せず)に直交して動かす。この場合の水圧は、プローブのベースが上側に移動するとき、カンチレバー202に下向きの力を加える矢印214の配列によって示されている。しかし、プローブ170とは異なり、TRWプローブ190は、前部及び後部208,210の表面積が実質的に同じである限り、ゼロトルクを経験する。その結果、測定データでは、プローブの偏向に対する流体力学的バックグラウンドの影響が効果的に最小限に抑えられる。
【0034】
好ましい実施形態によるTRWプローブアセンブリ250の一実施形態の構造が図11の平面図に示される。プローブアセンブリ250は、プローブ254が延びるベース252を備える。プローブ254は、対向する第1及び第2の部分258,260を有する支持構造256を備える。部分258,260は、トーションバーアームに比べてはるかに剛性が高く、通常は10~20倍さらに剛性がある。プローブ252はまた、前述のように、トーションバーアーム264,266を介して第1及び第2の部分258,260に結合されたカンチレバーアーム262を備える。カンチレバー262は、前部又はチップパッド268と後部又はリフレックスパッド(reflex pad)270とを備える。1つの好ましい実施形態では、トーションアームの幅wta(両側のアーム264,266)は約3.5μmであり、チップパッド268の長さltpは約23.5μmであり、リフレックスパッド270の幅wrpは約12μmである。プローブの共振周波数は約380kHzであり、ばね定数kは約0.3N/mであり、周波数(f)/kは約1267になる。対照的に、同じ厚さを有する標準的な長方形のAFMプローブ280(図12)の場合、カンチレバーは約600nmの厚さ、約77μmの長さ282、及び約12μmの幅284を有し得る。これらのパラメータは、約138kHzの共振周波数、約0.3N/mのばね定数k、及び約260の周波数(f)/kを生成する。しかし、一般に、厚さは約5μmと大きくてもよく、典型的には50nm~5μm、好ましくは約750nmである。
【0035】
結果として、好ましい実施形態のトーションウイングプローブは、標準のダイビングボードカンチレバーよりも約3倍高いf/k(ばね定数に対する自然共振周波数)を示す。比較のために、このトーションウイングプローブアセンブリ250は、長方形のプローブと同じ厚さ及び幅を有するカンチレバーを備え、それが同じレーザスポットを保持することを可能にする。しかし、より高いf/k比率は、同じ画像化力でのタッピングモードで、より高い画像帯域幅を許容する。
【0036】
例えば、図14は、好ましい実施形態のトーションウイングプローブと従来のダイビングボードタイププローブの両方を使用するAFMによって取得されたPMMAサンプルのNanoIRスペクトルを示している。好ましい実施形態のトーションウイングプローブは、挿入図300に見られるように、約1550~1650cm-1の範囲で、最大2倍優れた信号対ノイズ比を有する。
【0037】
図15は、図4図5図8図10、及び図11に示されるものなどの好ましい実施形態によるトーションウイングプローブを製造する方法を示している。方法500は、プローブ構築を説明するための図16A図16Fだけでなく、例示的なTRWプローブの平面図である図17と関連して説明される。方法500は、基板、例えば、シリコンウェハ(図16Aの550)を提供する第1工程であるブロック502を備える。代替基板は、ガラス、石英、GaAs(ガリウム砒素)であってもよい。
【0038】
ウェハは、ブロック504において、ウェハの両側上に酸化ケイ素(SiO)を成長させるための基板として使用される。この酸化物552は、図16Bに示されている。次に、ブロック506において、窒化ケイ素(図16Bの554)が酸化物層552上に蒸着される。好ましくは、これは、低圧化学蒸着(LPCVD)で行われる。次に、ブロック508(図16Cの領域556も参照)でプローブ本体部(カンチレバーのベース固定端)を画定するための裏側の後続のエッチング(例:KOH)用の構造(図示せず)を作成するために適切なマスクが使用される。より具体的には、図17を参照すると、この工程は、プローブアセンブリ600のベース602の少なくとも一部を画定する。次に、ブロック510において、カンチレバー/支持構造材料、好ましくは、図16Dに示されるように窒化ケイ素(Si)558が蒸着される。ブロック512では、シリコンは、図16Eのプローブチップ560(図17のプローブ600のチップ616)を形成するために前方からエッチングされる。
【0039】
次に、ブロック514において、カンチレバー562(図16F)がフォトリソグラフィ方式でパターニングされ、適切なエッチングを介して形成される。図17を参照すると、この工程は、支持構造604及びカンチレバー610を結合するトーションアーム618,620及び支持部材606,608を備える支持構造604を画定する。カンチレバーは、チップ616を支持する後部612及び前部614を備える。図10の概略図と同様に、後部及び前部612,614は、好ましくは同様のサイズを有するため、流体中で動作するときのカンチレバーにかかる流体力(図10の矢印204)は、両方の部分で本質的に同一である。
【0040】
最後に、プローブは、図17に示すようなプローブを形成するために、ブロック516でウェハから剥離(release)されるか、又はダイシング(dice)される。最適な性能を得るための典型的な寸法は、図11に関連して開示された寸法が含まれ得る。
【0041】
本発明を実施する本発明者によって企図される最良の形態が上記に開示されるが、本発明の実施はそれらに限定されるものではない。基礎となる発明の概念の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明の特徴の様々な追加、修正、再構成が行われ得ることが明示される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
図16F
図17