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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20231128BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20231128BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20231128BHJP
   H01M 10/643 20140101ALI20231128BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20231128BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20231128BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/625
H01M10/6555
H01M10/643
H01M10/647
H01M10/651
F16L59/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022103045
(22)【出願日】2022-06-27
【審査請求日】2023-09-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直己
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-86028(JP,A)
【文献】特開2012-81701(JP,A)
【文献】国際公開第2021/149249(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/658
H01M 10/625
H01M 10/6555
H01M 10/643
H01M 10/647
H01M 10/651
F16L 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、
無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、
水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質と、を含み、
前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいことを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
無機粒子を含み、前記無機粒子の少なくとも一部が前記撥液性物質である、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記撥液性物質は、疎水性シリカであることを特徴とする、請求項2に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
無機粒子を含み、
前記撥液性物質は、熱伝達抑制シートの表面、熱伝達抑制シートの内部における前記無機粒子の表面、及び熱伝達抑制シートの内部における前記繊維の表面の少なくとも一部に付着していることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記撥液性物質は、パラフィン基油類、ナフテン基油類、炭化水素系合成油、エステル系合成油、動植物油脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ロジン系サイズ剤及びアルキルケテンダイマーサイズ剤から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子であることを特徴とする、請求項4に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項6に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項7に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
前記撥液性物質の表面張力は、45mN/m以下であることを特徴とする、請求項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項10】
前記撥液性物質は、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項11】
複数の三次元的に連結した空孔を有し、
前記空孔は、熱伝達抑制シートの表面に向けて開口していることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項12】
複数の電池セルと、請求項1~11のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達抑制シート及び該熱伝達抑制シートを有する組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車等の開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車等には、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
また、この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池等に比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。そして、電池の内部短絡や過充電等が原因で、ある電池セルが急激に昇温し、その後も発熱を継続するような熱暴走を起こした場合、熱暴走を起こした電池セルからの熱が、隣接する他の電池セルに伝播することで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走を起こした電池セルからの類焼を抑制する方法として、電池セル間に断熱材を配置する方法が一般的に行われている。
例えば、特許文献1には、繊維シートとシリカエアロゲルを含む複合層を有し、繊維シートは折り返されて積層されている断熱材が開示されている。上記特許文献1には、断熱シートを、電池セルの膨張、収縮による電池セル間の隙間変化に追従させることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-34278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の組電池(電池ユニット)においては、電池セルの充放電時等に、電池セルの膨張、収縮に伴って、発熱及び冷却が繰り返されるため、電池ケースの内部で結露水が発生することがある。そして、発生した結露水が断熱材に浸入すると、断熱材の絶縁性が低下して隣接する電池セル同士が短絡し、発火するおそれがある。また、電池セルが熱暴走により破損した場合に、電池セルの内部の電解液が高温の状態で断熱材に浸入すると、断熱材の断熱性が著しく低下し、熱暴走の連鎖を引き起こす原因となる。
上記特許文献1に記載の断熱材においては、結露水の浸入による絶縁性の低下、及び電解液の浸入による断熱性の低下を防止することはできない。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、優れた断熱性を有するとともに、水分の浸入を防止し、これにより、電池セル同士が短絡することによる発火等を防止することができ、好ましくは電解液の浸入による断熱性の低下を防止することができる熱伝達抑制シート及びこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] 複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、
無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、
水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質と、を含むことを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【0010】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[12]に関する。
【0011】
[2] 無機粒子を含み、前記無機粒子の少なくとも一部が前記撥液性物質である、[1]に記載の熱伝達抑制シート。
【0012】
[3] 前記撥液性物質は、疎水性シリカであることを特徴とする、[2]に記載の熱伝達抑制シート。
【0013】
[4] 無機粒子を含み、
前記撥液性物質は、熱伝達抑制シートの表面、熱伝達抑制シートの内部における前記無機粒子の表面、及び熱伝達抑制シートの内部における前記繊維の表面の少なくとも一部に付着していることを特徴とする、[1]に記載の熱伝達抑制シート。
【0014】
[5] 前記撥液性物質は、パラフィン基油類、ナフテン基油類、炭化水素系合成油、エステル系合成油、動植物油脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂、ロジン系サイズ剤及びアルキルケテンダイマーサイズ剤から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、[4]に記載の熱伝達抑制シート。
【0015】
[6] 前記無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子であることを特徴とする、[4]又は[5]に記載の熱伝達抑制シート。
【0016】
[7] 前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、[6]に記載の熱伝達抑制シート。
【0017】
[8] 前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、[7]に記載の熱伝達抑制シート。
【0018】
[9] 前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいことを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0019】
[10] 前記撥液性物質の表面張力は、45mN/m以下であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0020】
[11] 前記撥液性物質は、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、[10]に記載の熱伝達抑制シート。
【0021】
[12] 複数の三次元的に連結した空孔を有し、
前記空孔は、熱伝達抑制シートの表面に向けて開口していることを特徴とする、[1]~[11]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0022】
また、本発明の上記目的は、組電池に係る下記[13]の構成により達成される。
【0023】
[12] 複数の電池セルと、[1]~[12]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱伝達抑制シートは、表面及び内部の少なくとも一部に撥液性物質を有し、この撥液性物質の表面張力は水の表面張力よりも小さいため、熱伝達抑制シートの外部に生成された結露水等が熱伝達抑制シートの内部に浸入することを抑制できる。したがって、熱伝達抑制シートの絶縁性が低下して隣接する電池セル同士が短絡し、発火することを防止することができる。また、撥液性物質の表面張力が、電池セルに使用されている電解液の表面張力よりも小さいと、電解液の熱伝達抑制シートの内部への浸入をも抑制することができ、断熱性の低下を防止することができる。
【0025】
本発明の組電池は、上記のように優れた断熱性を有し、結露水や電解液の浸入が抑制された熱伝達抑制シートを有するため、組電池における電池セル同士の短絡を防止できるとともに、電池セルの熱暴走や、電池ケースの外側への炎の拡大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る熱伝達抑制シートの構造を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る熱伝達抑制シートを有する組電池を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートの構造を示す模式的断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用することができる断熱材の断面を示す図面代用写真である。
図5図5は、第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートが三次元的に連結した空孔を有する場合の構造を示す模式的断面図である。
図6図6は、第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートが電池セルに隣接して配置されている様子を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者は、上記課題を解決することができる熱伝達抑制シートについて、鋭意検討を行った。
その結果、熱伝達抑制シートの表面に撥液性物質を外添するか、又は内部に撥液性物質を内添し、撥液性物質として、水よりも小さい表面張力を有するものを使用することにより、熱伝達シートの外部で生成された結露水が、シート内部に浸入することを防止することができることを見出した。また、例えば熱伝達シートを電池セルの近傍に配置させる場合に、撥液性物質として、電池セルの内部に充填されている電解液よりも小さい表面張力を有するものを使用すると、電池セルから漏れ出た電解液が熱伝達抑制シートの内部に浸入することを抑制でき、断熱性の低下を防止することができることを見出した。
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート、その製造方法及び組電池について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0029】
[熱伝達抑制シート]
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る熱伝達抑制シートの構造を示す模式的断面図である。また、図2は、本発明の第1の実施形態に係る熱伝達抑制シートを有する組電池を模式的に示す断面図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、断熱材9の表面に撥液性物質2を付着させたものである。断熱材9は、無機粒子として、ナノシリカ4とチタニア3とを有するとともに、繊維として、ガラス繊維1を有する。なお、撥液性物質2は、水の表面張力よりも小さい表面張力を有するものであり、例えばロジン系サイズ剤である。
【0031】
この熱伝達抑制シート10の具体的な使用形態としては、図2に示すように、複数の電池セル20a,20b,20cの間に、熱伝達抑制シート10を介在させるように使用することができる。そして、複数の電池セル20a,20b,20cが直列又は並列に接続された状態(接続された状態は図示を省略)で、電池ケース30に格納されて組電池100が構成される。なお、電池セル20a,20b,20cは、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されず、その他の二次電池にも適用され得る。
【0032】
上記のように構成された組電池100において、稼働時(充放電時)には、電池セル20a,20b,20cの温度が上昇し、電池ケース30内の温度も上昇する。その後、組電池100の稼働が停止され、電池ケース30内の空気が冷却されると、電池セル20a,20b,20cや電池ケース30の内面に結露水が付着する。
このとき、第1の実施形態に係る熱伝達抑制シート10においては、その表面に水よりも表面張力が小さい撥液性物質2が付着しており、この撥液性物質2は水をはじく性質を有するため、結露水5が熱伝達抑制シート10の内部に浸入することを抑制することができる。したがって、熱伝達抑制シートの絶縁性が低下することを抑制することができ、隣接する電池セル、例えば電池セル20aと電池セル20bとが短絡し、発火することを防止することができる。
【0033】
また、上記組電池100において、例えば電池セル20cが熱暴走により膨張し、破損して電池セル20c内に充填されている電解液が流出した場合に、この電解液が高温の状態で断熱材に浸入すると、断熱材の断熱性が著しく低下し、熱暴走の連鎖を引き起こす原因となる。このような場合に、撥液性物質2として例えばフッ素樹脂を使用すると、フッ素樹脂は、電池セル20a,20b,20cの内部に充填されている電解液、例えばジメチルカーボネート(DMC)の表面張力よりも小さい表面張力を有する。したがって、結露水5のみでなく電解液に対しても撥液性を発揮し、電解液が熱伝達抑制シート10の内部に浸入することを抑制することができ、熱暴走の連鎖を防止することができる。
【0034】
第1の実施形態において、熱伝達抑制シート10が、その表面10a,10bに撥液性物質2を有する場合に、表面10a,10bの少なくとも一部に撥液性物質2が付着していれば、撥液性物質2が付着していない場合と比較して、結露水や電解液の熱伝達抑制シート10の内部への浸入を防止する効果を得ることができる。ただし、表面10a,10bの全面を完全に被覆するように撥液性物質2が付着していることが好ましい。このように、熱伝達抑制シート10の表面10a,10bの全面に撥液性物質2が付着していると、結露水や電解液の熱伝達抑制シート10の内部への浸入を確実に防止することができる。第1の実施形態に係る熱伝達抑制シート10の製造方法については、後述する。
【0035】
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、繊維として、無機繊維であるガラス繊維1を有するため、ガラス繊維1が熱伝達抑制シート10の骨材として作用し、高い圧縮強度を得ることができる。図2に示すように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、複数の電池セル20a,20b,20cの間に介在されるが、熱伝達抑制シート10に隣接して配置されている電池セル20a,20b,20cは、充放電等により膨張又は収縮する。このとき、熱伝達抑制シート10が高い圧縮強度を有するため、電池セル20a,20b,20cに押圧されても大きく変形することなく、その形状を保持することができる。したがって、圧縮されて熱伝達抑制シート10の厚さが薄くなったり、無機粒子等が熱伝達抑制シート10から脱落することによる断熱性の低下を防止することができる。さらに、無機繊維は高い高温強度を有するため、熱伝達抑制シート10が高温に晒された場合であっても、その形状を維持することができる。
【0036】
さらにまた、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、無機粒子としてナノシリカ4及びチタニア3を含んでおり、これらの無機粒子は幅広い温度領域で断熱性を発揮するため、優れた断熱性を得ることができる。
【0037】
<第2の実施形態>
図3は、本発明の第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートの構造を示す模式的断面図である。上記第1の実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、断熱材9の表面に撥液性物質2を付着させたものであったが、第2の実施形態では、撥液性物質2が付着している領域が、第1の実施形態と異なっている。ただし、その他の材料等に関して、第2の実施形態は第1の実施形態と同様であるため、図3において、図1と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0038】
図3に示すように、第2の実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、断熱材9の内部における繊維(ガラス繊維1)や、無機粒子(ナノシリカ4及びチタニア3)の表面の少なくとも一部に撥液性物質2が付着した、所謂内添型の構造を有する。
【0039】
上述のように構成された第2の実施形態に係る熱伝達抑制シート10においては、撥液性物質2が内添されているため、表面10a,10bから、ある程度の深さまで結露水5や電解液が浸入することがあるが、完全に浸透することを防止することができる。したがって、熱伝達抑制シートの絶縁性の低下を抑制することができ、隣接する電池セル同士の短絡による発火を防止することができるとともに、高温の電解液の浸入による断熱性の低下を防止することができる。
【0040】
また、第2の実施形態に示すように、熱伝達抑制シート10に撥液性物質2が内添されていると、仮に、熱伝達抑制シート10の表面10a,10bが破損した場合であっても、結露水5の浸入を途中で阻止することができる。
【0041】
なお、第2の実施形態に示すように、断熱材9の内部における繊維(ガラス繊維1)や、無機粒子(ナノシリカ4及びチタニア3)の表面の少なくとも一部に撥液性物質2を付着させるとともに、第1の実施形態に示すように、断熱材9の表面に撥液性物質2を付着させることにより、両者の優れた効果をともに有する熱伝達抑制シートを得ることができる。
【0042】
<第3の実施形態>
第3の実施形態については図示を省略するが、図1を参照して説明する。第3の実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、図1に示すように撥液性物質2を表面に付着させたものではなく、撥液性を有する無機粒子を使用したものである。すなわち、断熱材9における無機粒子の少なくとも一部が撥液性物質となっている。このような無機粒子としては、例えば、疎水性シリカ(ヒュームドシリカ)が挙げられる。
【0043】
このように構成された第3の実施形態においても、表面に撥液性を有する無機粒子が存在するため、熱伝達抑制シート10の表面に撥液性物質2を付着させる工程を実施することなく、容易に内部への結露水5の浸入を防止することができる。
なお、無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維を含まず、撥液性物質2からなる無機粒子のみを使用して熱伝達抑制シート10を製造した場合に、仮に、結露水5が熱伝達抑制シート10の内部に浸入すると、無機粒子同士が互いに凝集してしまい、クラックが発生しやすくなる。本実施形態においては、繊維(ガラス繊維1)を含んでいるため、無機粒子同士の凝集が抑制され、クラックの発生を防止することができる。
【0044】
次に、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用することができる断熱材について、より詳細に説明する。図4は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートに使用することができる断熱材の断面を示す図面代用写真である。図4に示す断熱材19は、無機粒子14と有機繊維6とを含んでいる。無機粒子14としては、上記第1及び第2の実施形態に示すように、ナノシリカ、チタニア等を使用することができる。また、有機繊維6としては、ポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethyleneterephthalate)繊維等を使用することができる。さらに、上記第1及び第2の実施形態に示すように、ガラス繊維1等の無機繊維が含まれていてもよい。
【0045】
また、断熱材19は、無機粒子14同士、無機粒子14と有機繊維6との間等に、複数の三次元的に連結した空孔7を有する。なお、空孔7の少なくとも一部は、断熱材19の表面19aに連通し、外方に開口する開口部7aを有している。
【0046】
図4に示すように、本実施形態において使用される断熱材19の表面19aには無機粒子14が露出しており、極めて微細な凹凸が形成されているため、断熱材19はもともと撥水性を有する構造となっている。これに加えて、第1及び第2の実施形態では、断熱材19の表面19aに撥液性物質を付着させるか、又は断熱材の内部における無機粒子14や有機繊維6の表面に撥液性物質を付着させており、第3の実施形態では、撥液性物質からなる無機粒子を使用している。したがって、所定量の無機粒子を含まず、表面に微細な凹凸が形成されていない断熱材に撥液性物質を付与する場合と比較して、結露水や電解液の浸入を防止する効果を著しく高めることができる。
【0047】
なお、図4に示すように、断熱材19が三次元的に連結した空孔7を有し、空孔7が開口部7aを有していると、断熱材19の表面側から撥液性物質を付与する場合に、開口部7aを介して断熱材19の内部に撥液性物質が浸入しやすくなる。特に、無機粒子14として疎水性のシリカを使用した場合に、さらに撥液性物質を断熱材19の表面から付着させようとすると、無機粒子14が撥液性を発揮し、付着が困難になることがある。これに対して、図4に示すように、断熱材19に開口部7aを有する空孔7が存在すると、断熱材19の内部に撥液性物質を浸入させやすくなり、撥液性を向上させることができる。
【0048】
図5は、上記第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートが三次元的に連結した空孔を有する場合の構造を示す模式的断面図である。また、図6は、上記第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートが電池セルに隣接して配置されている様子を示す模式的断面図である。
図5に示すように、熱伝達抑制シート10が三次元的に連結した空孔7を有し、空孔7が開口部7aを有していると、開口部7aと空孔7とを連通する入排水パス8が形成される。したがって、仮に、空孔7の開口部7aや、その他の部分から熱伝達抑制シート10の内部に結露水5が浸入した場合であっても、入排水パス8を介して結露水5を外部に排出することができる。
【0049】
また、図6に示すように、稼働時に電池セル20cの温度が上昇し、熱伝達抑制シート10の温度もある程度上昇すると、熱伝達抑制シート10の内部に存在する水分が蒸発して水蒸気となり、入排水パス8を介して外部に排出させることができる。さらに、稼働時に電池セル20cが膨張した場合に、電池セル20cと、図6では不図示の電池セル20bとの間隔が狭くなり、熱伝達抑制シート10が押圧される。このとき、熱伝達抑制シート10に水分が浸入していると、入排水パス8を介して結露水5が排出されやすくなる。
【0050】
以下、本実施形態に係る熱伝達抑制シートを構成する材料について、詳細に説明する。
【0051】
<撥液性物質>
撥液性物質2は、熱伝達抑制シート10の内部への結露水5の浸入を防止する効果を有する重要な成分である。結露水5の浸入を防止するためには、撥液性物質2の表面張力は、水の表面張力よりも小さいものであることが必要である。また、熱伝達抑制シート10の近傍に配置されている電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいものとすると、電解液の浸入をも防止することができる。
【0052】
25℃における水の表面張力は、約72.0(mN/m)であるため、撥液性物質の表面張力の具体的な値としては、例えば70.0(mN/m)以下とし、65(mN/m)以下であることが好ましい。また、電解液の浸入を抑制するためには、撥液性物質の表面張力は45(mN/m)以下であることがより好ましく、25(mN/m)以下であることがさらに好ましい。
【0053】
撥液性物質としては、一般的に使用されている撥水剤、撥油剤、サイズ剤が挙げられる。
撥水剤の具体的な例としては、パラフィン基油類、ナフテン基油類、炭化水素系合成油、エステル系合成油、動植物油脂等の撥水剤が挙げられる。また、撥油剤の具体的な例としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。さらに、サイズ剤の具体的な例としては、ロジン系(松脂)、アルキルケテンダイマー(AKD:Alkyl Ketene Dimer)等が挙げられる。
これらの撥液性物質のうち、電解液よりも小さい表面張力を有する撥液性物質としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。なお、シリコーン樹脂の表面張力は、16~30(mN/m)であり、フッ素樹脂の表面張力は、10~25(mN/m)である。
【0054】
なお、上記第3の実施形態に示すように、無機粒子を撥液性物質として使用することができる。この場合に、撥液性物質として、疎水性シリカ(ヒュームドシリカ)等が挙げられる。
【0055】
(撥液性物質の含有量)
本実施形態において、熱伝達抑制シート全質量に対する撥液性物質2の含有量が適切に制御されていると、結露水5や電解液に対して十分な撥液性を得ることができる。
撥液性物質2の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、撥液性物質2の含有量が多くなりすぎると、無機粒子や繊維の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、撥液性物質2の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して35質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
<無機粒子>
無機粒子として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子を組み合わせて使用してもよい。無機粒子の種類としては、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子を使用することが好ましく、酸化物粒子を使用することがより好ましい。また、形状についても特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、具体的には、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することもできる。
【0057】
無機粒子の平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、無機粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0058】
なお、2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、発熱体を多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。具体的には、大径粒子と小径粒子とを混合使用することが好ましい。例えば、第1及び第2の実施形態において示すように、一方の無機粒子として、ナノ粒子(ナノシリカ4)を使用する場合に、他方の無機粒子として、金属酸化物からなる無機粒子(チタニア3)を含むことが好ましい。以下、小径の無機粒子を第1の無機粒子、大径の無機粒子を第2の無機粒子として、無機粒子についてさらに詳細に説明する。
【0059】
<第1の無機粒子>
(酸化物粒子)
酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、第1の無機粒子として酸化物粒子を使用すると、特に異常発熱などの高温度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用することができる。すなわち、無機粒子として使用することができる上記酸化物粒子のうち、1種のみを使用してもよいし、2種以上の酸化物粒子を使用してもよい。特に、シリカは断熱性が高い成分であり、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、酸化物粒子としてシリカ及びチタニアを用いることが最も好ましい。
【0060】
(酸化物粒子の平均一次粒子径:0.001μm以上50μm以下)
酸化物粒子の粒子径は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがあるため、平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、酸化物粒子の平均一次粒子径が0.001μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高温度領域において熱伝達抑制シート内における熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。
一方、酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
【0061】
なお、本発明において平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均をとることにより求めることができる。
【0062】
(ナノ粒子)
本発明において、ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用すると、更に三次元的に連結した空孔7が微細化し、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域の電池使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる点で、ナノ粒子を使用することが好ましい。
さらに、酸化物粒子として、平均一次粒子径が小さいナノ粒子を使用すると、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって熱伝達抑制シートが圧縮され、内部の密度が上がった場合であっても、熱伝達抑制シートの伝導伝熱の上昇を抑制することができる。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0063】
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10の断熱材にナノ粒子が含まれていると、断熱材の表面に微細な凹凸が形成されるため、上述のとおり、撥液性物質2を付与することにより得られる撥液性をより一層向上させることができる。
【0064】
なお、本発明において、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用する場合に、上記ナノ粒子の定義に沿ったものであれば、材質について特に限定されない。例えば、シリカナノ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、シリカナノ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるシリカナノ粒子は、かさ密度が0.1(g/cm)程度であるため、例えば、熱伝達抑制シートの両側に配置された電池セルが熱膨張し、熱伝達抑制シートに対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、シリカナノ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、ナノ粒子としてはシリカナノ粒子を使用することが好ましい。シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等が挙げられるが、本実施形態に特に好適であるシリカナノ粒子について、以下に説明する。
【0065】
一般的に、湿式シリカは粒子が凝集しているのに対し、乾式シリカは粒子を分散させることができる。300℃以下の温度範囲において、熱の伝導は伝導伝熱が支配的であるため、粒子を分散させることができる乾式シリカの方が、湿式シリカと比較して、優れた断熱性能を得ることができる。
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、材料を含む混合物を、乾式法によりシート状に加工する製造方法を用いることが好ましい。したがって、無機粒子としては、熱伝導率が低い乾式シリカ、シリカエアロゲル等を使用することが好ましい。また、第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートに示すように、疎水性シリカを使用することも好ましい。
【0066】
(ナノ粒子の平均一次粒子径:1nm以上100nm以下)
ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、熱伝達抑制シート内における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、熱伝達抑制シートの断熱性を維持することができる。
なお、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0067】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。
【0068】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)→Al+3H
【0069】
なお、後述するように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、例えば、電池セル間に介在されることが好適であるが、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、無機粒子としては熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなることが好ましい。
上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0070】
(無機水和物粒子の平均二次粒子径:0.01μm以上200μm以下)
また、第1の無機粒子として、無機水和物粒子を使用した場合に、その平均粒子径が大きすぎると、熱伝達抑制シート10の中心付近にある第1の無機粒子(無機水和物)が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、シート中心付近の第1の無機粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0071】
(熱膨張性無機材料からなる粒子)
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
【0072】
(含水多孔質体からなる粒子)
含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0073】
(無機バルーン)
本発明に用いる断熱材は、第1の無機粒子として無機バルーンを含んでいてもよい。
無機バルーンが含まれると、500℃未満の温度領域において、断熱材内における熱の対流伝熱または伝導伝熱を抑制することができ、断熱材の断熱性をより一層向上させることができる。
無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーン、およびガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0074】
(無機バルーンの含有量)
無機バルーンの含有量としては、熱伝達抑制シート全質量に対し、60質量%以下が好ましい。
【0075】
(無機バルーンの平均粒子径:1μm以上100μm以下)
無機バルーンの平均粒子径としては、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0076】
<第2の無機粒子>
熱伝達抑制シートに2種の無機粒子が含有されている場合に、第2の無機粒子は、第1の無機粒子と材質や粒子径等が異なっていれば特に限定されない。第2の無機粒子としては、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子、無機水和物粒子、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することができ、これらの詳細については、上述のとおりである。
【0077】
なお、ナノ粒子は伝導伝熱が極めて小さいとともに、熱伝達抑制シートに圧縮応力が加わった場合であっても、優れた断熱性を維持することができる。また、チタニア等の金属酸化物粒子は、輻射熱を遮る効果が高い。さらに、大径の無機粒子と小径の無機粒子とを使用すると、大径の無機粒子同士の隙間に小径の無機粒子が入り込むことにより、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。したがって、上記第1の無機粒子として、例えばナノ粒子を使用した場合に、さらに、第2の無機粒子として、第1の無機粒子よりも大径である金属酸化物からなる粒子を、熱伝達抑制シートに含有させることが好ましい。
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ジルコン、酸化ジルコニウム等を挙げることがでる。特に、酸化チタン(チタニア)は他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であり、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、チタニアを用いることが最も好ましい。
【0078】
第1の無機粒子として、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を使用し、第2の無機粒子として、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用する場合に、300℃以下の温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0079】
一方、300℃を超える温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0080】
(第2の無機粒子の平均一次粒子径)
金属酸化物からなる第2の無機粒子を熱伝達抑制シートに含有させる場合に、第2の無機粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であると、500℃以上の高温度領域で効率よく輻射伝熱を抑制することができる。第2の無機粒子の平均一次粒子径は、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0081】
(無機粒子の含有量)
本実施形態において、熱伝達抑制シート10中の無機粒子の合計の含有量が適切に制御されていると、熱伝達抑制シート10の断熱性を十分に確保することができる。
無機粒子の合計の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。また、無機粒子の合計の含有量が多くなりすぎると、繊維の含有量が相対的に減少するため、熱伝達抑制シート10の適切な強度を得るためには、無機粒子の合計の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0082】
<繊維>
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維を有する。
【0083】
<有機繊維>
有機繊維は、熱伝達抑制シート10に柔軟性を与えるとともに、無機粒子を保持し、シートの強度及び形状を保持する効果を高める効果を有する。熱伝達抑制シート10における有機繊維の材料として、単成分の有機繊維の他に、芯鞘構造のバインダ繊維を使用することもできる。芯鞘構造のバインダ繊維は、繊維の長手方向に延びる芯部と、芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有するものである。
【0084】
有機繊維の材料として、単成分の有機繊維を使用した場合であっても、芯鞘構造のバインダ繊維を使用した場合であっても、熱伝達抑制シート10の製造時に加熱されることにより繊維の表面の一部が溶融して、その後の冷却により、有機繊維の周囲に無機粒子や他の繊維が溶着される。したがって、優れたシート強度を得ることができる。
【0085】
有機繊維の材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、芯部を構成する第1の有機材料及び鞘部を構成する第2の有機材料について、以下に説明する。
【0086】
(第1の有機材料)
繊維として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、芯部を構成する第1の有機材料は、芯部の外周面に存在する鞘部、すなわち第2の有機材料の融点よりも高いものであれば、特に限定されない。第1の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0087】
(第2の有機材料)
有機繊維として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、鞘部を構成する第2の有機材料は、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、特に限定されない。第2の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
なお、第2の有機材料の融点は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、第2の有機材料の融点は、150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。
【0088】
(有機繊維の含有量)
本実施形態において、熱伝達抑制シート10が有機繊維を含む場合に、熱伝達抑制シート10における有機繊維の含有量が適切に制御されていると、熱伝達抑制シート10の強度を向上させる効果を十分に得ることができる。
有機繊維の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましい。また、有機繊維の含有量が多くなりすぎると、無機粒子の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、有機繊維の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。
【0089】
(有機繊維の繊維長)
有機繊維の繊維長については特に限定されないが、成形性や加工性を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は10mm以下とすることが好ましい。
一方、熱伝達抑制シート10の強度を向上させる観点から、有機繊維の平均繊維長は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0090】
<無機繊維>
無機繊維は、優れた強度を有するため、熱伝達抑制シート10の骨材として作用し、高い圧縮強度を得ることができる。したがって、熱伝達抑制シート10が電池セル20a,20b,20cの間に介在され、これらの電池セルに押圧されても大きく変形することなく、その形状を保持することができる。また、無機繊維は高い高温強度を有するため、熱伝達抑制シート10が高温に晒された場合であっても、その形状を維持することができる。
【0091】
無機繊維として、単一の無機繊維を使用してもよいし、2種以上の無機繊維を組み合わせて使用してもよい。無機繊維としては、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維、カーボンファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミック繊維、エアロゲル複合材、マグネシウムシリケート繊維、アルカリアースシリケート繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカ繊維等のセラミックス系繊維、ガラス繊維、グラスウール、スラグウール等のガラス系繊維、ロックウール、バサルトファイバ、ウォラストナイト、ムライト繊維等の鉱物系繊維等が挙げられる。
これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0092】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、平断面、中空断面、多角断面、芯断面などが挙げられる。中でも、中空断面、平断面または多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0093】
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、熱伝達抑制シートの機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの、無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0094】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は15μmであり、より好ましい上限は10μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であることが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が15μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、熱伝達抑制シートの成形性及び強度が悪化するおそれがある。
【0095】
(無機繊維の含有量)
本実施形態において、熱伝達抑制シート10が無機繊維を含む場合に、無機繊維の含有量は、熱伝達抑制シートの全質量に対して3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0096】
また、無機繊維の含有量は、熱伝達抑制シートの全質量に対して、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。このような含有量にすることにより、無機繊維による保形性や押圧力耐性、抗風圧性や、無機粒子の保持能力がバランスよく発現される。また、熱伝達抑制シート10が、繊維として有機繊維及び無機繊維を含有する場合に、無機繊維の含有量を適切に制御することにより、有機繊維及び無機繊維が互いに絡み合って3次元ネットワークを形成するため、無機粒子等を保持する効果をより一層向上させることができる。
【0097】
<他の配合材料>
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、さらに、必要に応じて、結合剤、着色剤等を含有させることができる。これらはいずれも熱伝達抑制シートの補強や成形性の向上等を目的とする上で有用であり、熱伝達抑制シートの全質量に対して合計量で、10質量%以下とすることが好ましい。
【0098】
(ホットメルトパウダー)
結合剤として、例えばホットメルトパウダーを使用することができる。ホットメルトパウダーは、加熱により溶融する性質を有する粉体である。材料を混合した混合物中にホットメルトパウダーを含有させ、加熱することにより、ホットメルトパウダーは溶融し、その後冷却すると、材料である繊維や無機粒子を含んだ状態で硬化する。したがって、熱伝達抑制シートの形状保持性を向上させることができる。ホットメルトパウダーとしては、種々の融点を有するものが挙げられるため、熱伝達抑制シートの製造条件に応じて、適切な融点を有するホットメルトパウダーを選択すればよい。
【0099】
(ホットメルトパウダーの含有量)
材料を混合した混合物中にホットメルトパウダーを含有させる場合に、その含有量は微量でも熱伝達抑制シートの形状保持性を向上させることができる。したがって、ホットメルトパウダーの含有量は、混合物全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。
一方、ホットメルトパウダーの含有量を増加させると、無機粒子や繊維の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、ホットメルトパウダーの含有量は、混合物の全質量に対して5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0100】
[熱伝達抑制シートの製造方法]
<第1の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法>
第1の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法の例について、図1を参照して以下に説明する。
例えば、繊維(ガラス繊維1)、無機粒子(チタニア3、ナノシリカ4)及び不図示のバインダ等を所定の割合でV型混合機などの混合機に投入し、混合物を作製する。その後、得られた混合物を所定の型内に投入し、プレス機等により加圧して、得られた成形体を加熱した後、これを冷却することにより、シート状に加工された断熱材9が得られる。
【0101】
その後、断熱材9を、撥液性物質2が含まれた溶液に浸漬した後、乾燥させることにより、シート表面に撥液性物質2が付着した熱伝達抑制シート10を製造することができる。
【0102】
上記第1の実施形態に係る製造方法においては、断熱材9を撥液性物質2が含まれた溶液に浸漬した後に乾燥させるため、シート表面における微細な無機粒子間に撥液性物質2が入り込み、シート表面に隙間なく撥液性物質2を付着させることができ、優れた撥液性を得ることができる。
【0103】
また、図4に示すように、断熱材9に開口部7aを有する空孔7が形成されている場合に、開口部7aを介して断熱材9の内部まで撥液性物質2が入り込み、三次元的に連結した空孔7の内壁部分にも撥液性が付与される。したがって、シート表面の撥液性物質2が付着した領域に亀裂が発生し、内部に結露水5等が浸入した場合であっても、三次元的に連結した空孔7により、それ以上の結露水5の浸入を抑制することができる。また、電池の使用時に、開口部7aを介して熱伝達抑制シート10の内部に結露水5等が浸入した場合であっても、空孔7の内壁部分が撥液性を有することにより、他の部分に浸透せず、開口部7aから結露水5等が排出されやすくなる。
【0104】
<第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法>
第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法の例について、図3を参照して以下に説明する。
まず、繊維(ガラス繊維1)、無機粒子(チタニア3、ナノシリカ4)等と、撥液性物質2が含まれた溶液とを所定の割合で混合し、撹拌機で撹拌した後、得られた混合液を乾燥させる。これにより、繊維及び無機粒子の表面の少なくとも一部に撥液性物質2が付着された混合物が得られる。その後、得られた混合物と不図示のバインダ等とを所定の型内に投入し、プレス機等により加圧して、得られた成形体を加熱した後、冷却することにより、シート状に加工された熱伝達抑制シート10が得られる。
【0105】
第2の実施形態に係る製造方法においては、材料とする繊維及び無機粒子の表面に撥液性物質が付着するため、表面からある程度結露水5等が浸入しても、完全に浸透せず、表面に撥液性物質2が付着した繊維及び無機粒子によって、それ以上の浸入を阻止することができる。したがって、結露水5の浸入による絶縁性の低下を防止することができ、撥液性物質2を適切に選択することにより、電解液の浸入による断熱性の低下を防止することができる。
【0106】
なお、第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法に示すように、予め材料の表面に撥液性物質2を付着させ、これをシート状に加工した後に、第1の実施形態に係る製造方法に倣って、シート表面にさらに撥液性物質2を付着させると、より一層撥液性を向上させることができる。
【0107】
上述のとおり、第1及び第2の実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、乾式法により製造されることが好ましい。乾式法を使用する場合、無機粒子として、乾式法に適した乾式シリカ及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0108】
<第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法>
第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法の例について、以下に説明する。
繊維(ガラス繊維1)、撥液性を有する無機粒子(疎水性シリカ)及び不図示のバインダ等を所定の割合でV型混合機などの混合機に投入し、混合物を作製する。その後、得られた混合物を所定の型内に投入し、プレス機等により加圧して、得られた成形体を加熱した後、これを冷却することにより、シート状に加工された熱伝達抑制シートが得られる。
【0109】
第3の実施形態に係る製造方法においては、材料とする無機粒子が撥液性の効果を有しているため、シート状に加工した後に、材料の段階又はシート状に加工した断熱材に撥液処理をする必要がなく、容易に製造することができる。なお、材料とする無機粒子のうち、一部のみを疎水性シリカとし、残部を他の無機粒子としてもよく、このような構成であっても、撥水効果を得ることができる。
【0110】
なお、第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法に示すように、撥液性を有する無機粒子を撥液性物質2として使用した場合においても、これをシート状に加工した後に、第1の実施形態に係る製造方法に倣って、シート表面にさらに撥液性物質2を付着させると、より一層撥液性を向上させることができる。
【0111】
<その他の製造方法>
本発明の製造方法については、本発明の要件を満たす熱伝達抑制シートを製造することができれば、特に限定されない。上記第1~第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法の他に、例えば、無機粒子として、酸化物粒子の表面にシリコーン、合成樹脂等を付着させて撥液処理を施したものを使用する方法が挙げられる。そして、第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法と同様の方法により、撥液性を有する熱伝達抑制シートを製造することができる。
【0112】
(加熱温度)
繊維として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用した場合には、芯部を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも高いため、混合物を加熱する際に、芯部を残して鞘部を溶融させるような加熱温度を選択する。このように、加熱温度を適切に調整すると、冷却後に、芯部の外周面に他の繊維や無機粒子を被着させることができ、無機粒子を保持することができるとともに、立体的で強固な骨格が形成される。その結果、熱伝達抑制シート全体の形状をより一層高強度に保持することができる。
【0113】
(熱伝達抑制シートの厚さ)
本実施形態に係る熱伝達抑制シートの厚さは特に限定されないが、0.05mm以上10mm以下であることが好ましい。厚さが0.05mm以上であると、断熱性を確保しつつ、充分な圧縮強度を得ることができる。一方、厚さが10mm以下であると、組電池としての所望のサイズを実現することができる。
【0114】
[組電池]
本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート10を適用した組電池の例は、上記図2に例示したとおりである。ここで、組電池の構成及び効果について、図2を用いて具体的に説明する。なお、上述のとおり、図2に示す熱伝達抑制シート10は、本発明の範囲内で、他の熱伝達抑制シートに代えることもできる。
【0115】
図2に示すように、組電池100は、複数の電池セル20a、20b、20cと、本実施形態に係る熱伝達抑制シートと、を有し、該複数の電池セルが直列又は並列に接続されたものである。
例えば、図2に示すように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間に介在されている。さらに、電池セル20a、20b、20c及び熱伝達抑制シート10は、電池ケース30に収容されている。
なお、熱伝達抑制シート10については、上述したとおりである。
【0116】
このように構成された組電池100においては、ある電池セルの温度の上昇及び冷却が繰り返され、電池セルの表面に結露水5が発生した場合に、電池セルと電池セルとの間には、水分の浸入を防止することができる熱伝達抑制シート10が存在しているため、電池セル同士の短絡を防止することができる。
また、ある電池セルの温度が著しく上昇し、膨張等により破損した場合に、熱伝達抑制シート10に付着されている撥液性物質が適切に選択されていると、流出した電解液の浸入を抑制することができるため、高温の電解液の浸入により熱暴走の連鎖が発生することを防止することができる。
【0117】
本実施形態の組電池において、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置された熱伝達抑制シート10と、電池セルとは、接触していても、隙間を有していてもよい。ただし、熱伝達抑制シート10と電池セル20a、20b、20cとの間に隙間を有していると、複数ある電池セルのうち、いずれかの電池セルの温度が上昇し、体積が膨張した場合であっても、電池セルの変形の許容量を大きくすることができる。
【0118】
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、その製造方法によって、種々の形状に作製することができる。したがって、電池セル20a、20b、20c及び電池ケース30の形状に影響されず、どのような形状のものにも対応させることができる。具体的には、角型電池の他、円筒型電池、平板型電池等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 ガラス繊維
2 撥液性物質
3 チタニア
4 ナノシリカ
5 結露水
6 有機繊維
7 空孔
7a 開口部
8 入排水パス
9,19 断熱材
10 熱伝達抑制シート
14 無機粒子
20a,20b,20c 電池セル
30 電池ケース
100 組電池
【要約】
【課題】優れた断熱性を有するとともに、水分の浸入を防止し、これにより、電池セル同士が短絡することによる発火等を防止することができ、好ましくは電解液の浸入による断熱性の低下を防止することができる熱伝達抑制シート及びこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供する。
【解決手段】複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シート10は、無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維(ガラス繊維1)と、水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質2と、を含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6