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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20231128BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20231128BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20231128BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20231128BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
F01N3/20 K
B01D53/94 220
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 300
B01J32/00
B01J35/04 301F
C04B37/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022509235
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040306
(87)【国際公開番号】W WO2021192383
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2020051443
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野嵜 聖晃
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172258(JP,A)
【文献】特開2019-171345(JP,A)
【文献】特開2015-085313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
B01D 53/94
B01J 32/00
B01J 35/04
C04B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有するセラミックス製の柱状ハニカム構造体と、
前記柱状ハニカム構造体の表面に、複数の溶接スポットからなる溶接部位を介して接合されている金属電極と、
を備え、
前記柱状ハニカム構造体は、前記外周壁上に、電極層、及び前記電極層上に設けられた導電性の下地層、を備え、
前記金属電極は、前記下地層の表面に、前記溶接部位を介して接合されており、
前記金属電極は、Cr、Fe、Co、Ni及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金で形成されており、
前記下地層は、金属及び導電性セラミックスで形成されており、
前記複数の溶接スポットが、それぞれ、20~100μmの深さ、且つ、10~150μmのピッチで配置されている電気加熱式担体。
【請求項2】
前記金属電極が、2つ以上の前記溶接部位により接合されている請求項1に記載の電気加熱式担体。
【請求項3】
前記下地層の厚みが、20~100μmである請求項1または2に記載の電気加熱式担体。
【請求項4】
前記柱状ハニカム構造体は、前記外周壁上に、電極層を備え、
前記金属電極は、前記電極層の表面に、前記溶接部位を介して接合されている請求項1~3のいずれか一項に記載の電気加熱式担体。
【請求項5】
前記電極層の厚みが、20~100μmである請求項1~4のいずれか一項に記載の電気加熱式担体。
【請求項6】
前記電極層が、前記柱状ハニカム構造体の中心軸を挟んで対向するように一対配設されている請求項1~5のいずれか一項に記載の電気加熱式担体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の電気加熱式担体と、
前記電気加熱式担体を保持する缶体と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジンから排出される排気ガス中に含まれるHC、CO、NOx等の有害物質の浄化処理のため、一方の底面から他方の底面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する複数の隔壁を有する柱状のハニカム構造体に触媒を担持したものが使用されている。このように、ハニカム構造体に担持した触媒によって排気ガスを処理する場合、触媒をその活性温度まで昇温する必要があるが、エンジン始動時には、触媒が活性温度に達していないため、排気ガスが十分に浄化されないという問題があった。特に、プラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HV)は、その走行に、モーターのみによる走行を含むことから、エンジン始動頻度が少なく、エンジン始動時の触媒温度が低いため、エンジン始動直後の排気ガス浄化性能が悪化し易い。
【0003】
この問題を解決するため、導電性セラミックスからなる柱状のハニカム構造体に一対の端子を接続し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることで、触媒をエンジン始動前に活性温度まで昇温できるようにした電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCにおいては、触媒効果を十分に得られるようにするために、ハニカム構造体内での温度ムラを少なくして均一な温度分布にすることが望まれている。
【0004】
端子は金属製であることが一般的であるところ、セラミックス製のハニカム構造体とは材質が異なる。このため、自動車の排気管内等のように高温酸化雰囲気で使用される用途においては、高温環境下でのハニカム構造体と金属端子の機械的及び電気的接合信頼性の確保が要求される。
【0005】
このような問題に対し、特許文献1には、金属端子(金属電極)側から熱エネルギーを加えて、ハニカム構造体の電極層上に、溶接によって金属端子を接合する技術が開示されている。そして、このような構成によれば、金属端子との接合信頼性を向上させた導電性ハニカム構造体を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-172258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セラミックス製のハニカム構造体と、金属電極とをレーザー溶接によって接合する際、接合強度を向上させるために、溶接深さを大きくする方法が考えられる。このように、溶接深さを大きくするためには、レーザー溶接で使用するレーザーのエネルギーを高くする必要がある。しかしながら、本発明者らの検討の結果、レーザーエネルギーを高くすると、ハニカム構造体側にセラミックスの凝集が生じやすくなり、その結果、クラックが発生してしまう課題があることが明らかとなった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、ハニカム構造体におけるクラックの発生を抑制することができ、ハニカム構造体と金属電極との接合信頼性が良好な電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明によって解決されるものである。本発明は以下のように特定される。
(1)外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有するセラミックス製の柱状ハニカム構造体と、
前記柱状ハニカム構造体の表面に、複数の溶接スポットからなる溶接部位を介して接合されている金属電極と、
を備え、
前記複数の溶接スポットが、それぞれ、20~100μmの深さ、且つ、10~200μmのピッチで配置されている電気加熱式担体。
(2)(1)に記載の電気加熱式担体と、
前記電気加熱式担体を保持する缶体と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハニカム構造体におけるクラックの発生を抑制することができ、ハニカム構造体と金属電極との接合信頼性が良好な電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1における電気加熱式担体のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。
図2】本発明の実施形態1におけるハニカム構造体の外観模式図である。
図3】電気加熱式担体の複数の溶接スポットの配置例を示す平面模式図である。
図4】電気加熱式担体の複数の溶接スポットの配置例を示す平面模式図である。
図5】本発明の実施形態1における電気加熱式担体のセルの延伸方向に平行な断面模式図である。
図6】本発明の実施形態2における電気加熱式担体のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。
図7】本発明の実施形態3における電気加熱式担体のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。
図8】本発明の実施形態4における電気加熱式担体のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。
図9】(A)は実施例に係るハニカム構造体及び金属電極の断面模式図、(B)は実施例に係るハニカム構造体及び金属電極の上面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<実施形態1>
(1.電気加熱式担体)
図1は、本発明の実施形態1における電気加熱式担体20のセル15の延伸方向に垂直な断面模式図である。電気加熱式担体20は、セラミックス製のハニカム構造体10と、一対の金属電極21a、21bとを備える。
【0014】
(1-1.ハニカム構造体)
図2は本発明の実施形態1におけるハニカム構造体10の外観模式図を示すものである。ハニカム構造体10は、外周壁12と、外周壁12の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセル15を区画形成する隔壁13とを有するセラミックス製の柱状ハニカム構造部11を備えている。
【0015】
柱状ハニカム構造部11の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、底面が円形の柱状(円柱形状)、底面がオーバル形状の柱状、底面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、柱状ハニカム構造部11の大きさは、耐熱性を高める(外周壁の周方向に入るクラックを抑制する)という理由により、底面の面積が2000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0016】
柱状ハニカム構造部11は、導電性を有するセラミックスで構成されている。ハニカム構造体10が通電してジュール熱により発熱可能である限り、当該セラミックスの電気抵抗率については特に制限はないが、0.1~200Ωcmであることが好ましく、1~200Ωcmがより好ましく、10~100Ωcmであることが更に好ましい。本発明において、柱状ハニカム構造部11の電気抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0017】
柱状ハニカム構造部11を構成するセラミックスとしては、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックス等を挙げることができる。また、炭化珪素-金属珪素複合材や炭化珪素/グラファイト複合材等を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性と導電性の両立の観点から、柱状ハニカム構造部11の材質は、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするセラミックスであることが好ましく、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素であることが更に好ましい。柱状ハニカム構造部11の材質が、珪素-炭化珪素複合材を主成分とするものであるというときは、柱状ハニカム構造部11が、珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。ハニカム構造体10の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造体10が、炭化珪素(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0018】
柱状ハニカム構造部11の材質が、珪素-炭化珪素複合材である場合、柱状ハニカム構造部11に含有される「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、柱状ハニカム構造部11に含有される「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、柱状ハニカム構造部11に含有される「結合材としての珪素の質量」の比率が、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることが更に好ましい。
【0019】
セル15の延伸方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これ等のなかでも、四角形及び六角形が好ましい。構造強度及び加熱均一性を両立させやすいという観点からは、四角形が特に好ましい。
【0020】
セル15を区画形成する隔壁13の厚みは、0.1~0.35mmであることが好ましく、0.15~0.25mmであることがより好ましい。本発明において、隔壁13の厚みは、セル15の延伸方向に垂直な断面において、隣接するセル15の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁13を通過する部分の長さとして定義される。
【0021】
柱状ハニカム構造部11は、セル15の流路方向に垂直な断面において、セル密度が40~150セル/cm2であることが好ましく、70~100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排気ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度は、外側壁12部分を除く柱状ハニカム構造部11の一つの底面部分の面積でセル数を除して得られる値である。
【0022】
柱状ハニカム構造部11に外周壁12を設けることは、柱状ハニカム構造部11の構造強度を確保し、また、セル15を流れる流体が外周壁12から漏洩するのを防止する観点で有用である。具体的には、外周壁12の厚みは好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.15mm以上、更により好ましくは0.2mm以上である。但し、外周壁12を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁13との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下することから、外周壁12の厚みは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周壁12の厚みは、厚みを測定しようとする外周壁12の箇所をセルの延伸方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周壁12の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0023】
隔壁13は多孔質とすることができる。隔壁13の気孔率は、35~60%であることが好ましく、35~45%であることが更に好ましい。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0024】
柱状ハニカム構造部11の隔壁13の平均細孔径は、2~15μmであることが好ましく、4~8μmであることが更に好ましい。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0025】
ハニカム構造体10は、柱状ハニカム構造部11の外周壁12の表面に、柱状ハニカム構造部11の中心軸を挟んで対向するように配設された一対の導電性セラミックスを含む電極層14a、14bを有している。
【0026】
電極層14a、14bの形成領域に特段の制約はないが、柱状ハニカム構造部11の均一発熱性を高めるという観点からは、各電極層14a、14bは外周壁12の外面上で外周壁12の周方向及びセル15の延伸方向に帯状に延設することが好ましい。具体的には、各電極層14a、14bは、柱状ハニカム構造部11の両底面間の80%以上の長さに亘って、好ましくは90%以上の長さに亘って、より好ましくは全長に亘って延びていることが、電極層14a、14bの軸方向へ電流が広がりやすいという観点から望ましい。
【0027】
各電極層14a、14bの厚みは、0.01~5mmであることが好ましく、0.01~3mmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより均一発熱性を高めることができる。各電極層14a、14bの厚みが0.01mm以上であると、電気抵抗が適切に制御され、より均一に発熱することができる。各電極層14a、14bの厚みが5mm以下であると、キャニング時に破損する恐れが低減される。各電極層14a、14bの厚みは、厚みを測定しようとする電極層の箇所をセルの延伸方向に垂直な断面で観察したときに、各電極層14a、14bの外面の当該測定箇所における接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0028】
各電極層14a、14bの電気抵抗率を柱状ハニカム構造部11の電気抵抗率より低くすることにより、電極層に優先的に電気が流れやすくなり、通電時に電気がセルの流路方向及び周方向に広がりやすくなる。電極層14a、14bの電気抵抗率は、柱状ハニカム構造部11の電気抵抗率の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましく、1/30以下であることが更により好ましい。但し、両者の電気抵抗率の差が大きくなりすぎると対向する電極層の端部間に電流が集中して柱状ハニカム構造部の発熱が偏ることから、電極層14a、14bの電気抵抗率は、柱状ハニカム構造部11の電気抵抗率の1/200以上であることが好ましく、1/150以上であることがより好ましく、1/100以上であることが更により好ましい。本発明において、電極層14a、14bの電気抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0029】
各電極層14a、14bの材質は、金属及び導電性セラミックスを使用可能である。金属としては、例えばCr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属よりなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。導電性セラミックスとしては、限定的ではないが、炭化珪素(SiC)が挙げられ、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物等の金属化合物が挙げられ、更には、上記導電性セラミックスの一種以上と上記金属の一種以上の組み合わせからなる複合材(サーメット)を挙げることができる。サーメットの具体例としては、金属珪素と炭化珪素の複合材、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、更には上記の一種又は二種以上の金属に熱膨張低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素及び窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを一種又は二種以上添加した複合材が挙げられる。電極層14a、14bの材質としては、上記の各種金属及び導電性セラミックスの中でも、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材との組合せとすることが、柱状ハニカム構造部と同時に焼成できるので製造工程の簡素化に資するという理由により好ましい。
【0030】
電極層14a、14b上には、導電性の下地層16a、16bが設けられていてもよい。
【0031】
下地層16a、16bは、金属電極21a、21bとの接合の際のレーザー溶接の下地となるものであるが、応力緩和層としての機能を有することが好ましい。すなわち、電極層14a、14bと金属電極21a、21bとの間の線膨張率の差が大きい場合には、熱応力によって電極層14a、14bにクラックが入る可能性がある。そこで、下地層16a、16bが、電極層14a、14bと金属電極21a、21bとの線膨張率の違いにより生じる熱応力を緩和する機能を有していることが好ましい。これにより、金属電極21a、21bを電極層14a、14bに溶接する際や、熱サイクルの繰り返し疲労による電極層14a、14bへのクラック発生を抑制することが可能となる。
【0032】
下地層16a、16bの材質は、金属及び導電性セラミックスを使用することができる。金属及び導電性セラミックスとして用いられる材料としては、上記電極層14a、14bで挙げた材質と同様の材質を用いることができる。
【0033】
(1-2.金属電極)
一対の金属電極21a、21bは、それぞれ、下地層16a、16bの表面に、溶接部位17a、17bを介して接合されている。一対の金属電極21a、21bは、ハニカム構造体10の柱状ハニカム構造部11の中心軸を挟んで対向するように配設され、それぞれ一対の電極層14a、14bと電気的に接合されている。このため、金属電極21a、21bに電圧を印加すると、通電してジュール熱によりハニカム構造体10を発熱させることが可能である。従って、ハニカム構造体10はヒーターとしても好適に用いることができる。印加する電圧は12~900Vが好ましく、48~600Vが更に好ましいが、印加する電圧は適宜変更可能である。
【0034】
ハニカム構造体10と金属電極21a、21bとの剪断応力は、20N以上である。このような構成によれば、金属電極21a、21bとハニカム構造体10との接合信頼性が良好となる。ハニカム構造体10と金属電極21a、21bとの剪断応力は、20~150Nであるのが好ましく、50~130Nであるのがより好ましい。なお、ハニカム構造体10と金属電極21a、21bとの剪断応力は、万能材料試験器3300(Instron社製)等を用いて、JIS Z2241の方法を参照して測定することができる。
【0035】
金属電極21a、21bの材質としては、金属であれば特段の制約はなく、単体金属及び合金等を採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から例えば、Cr、Fe、Co、Ni及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金がより好ましい。金属電極21a、21bの形状及び大きさは、特に限定されず、電気加熱式担体20の大きさや通電性能等に応じて、適宜設計することができる。
【0036】
溶接部位17a、17bは、複数の溶接スポット18からなる。溶接部位17a、17bは、上述のように複数の溶接スポット18が集合したものであるが、全体として、略矩形状であってもよく、略円形状、略楕円形状等であってもよい。溶接部位17a、17bの形状の例として、図3には、複数の溶接スポット18を、螺旋状に、等間隔に配置した溶接部位17a、17bの平面模式図が示されている。また、図4(A)には、複数の溶接スポット18が、縦横に、等間隔に配置され、全体として略矩形状となる溶接部位17a、17bの平面模式図が示されている。また、図4(B)には、複数の溶接スポット18が、中心から同心円状に、等間隔に配置され、全体として略円形状となる溶接部位17a、17bの平面模式図が示されている。
【0037】
複数の溶接スポット18は、それぞれ、20~100μmの深さに形成されている。複数の溶接スポット18を、それぞれ、100μm以下の深さに形成することで、製造工程において、レーザー溶接のレーザーエネルギーを高くする必要がなくなる。当該溶接スポット18の深さは、溶接スポット18のSEMの断面画像から、13個の溶接スポットの最大深さを測定して得られた数値の平均値とする。また、当該測定対象となる13個の溶接スポット18は、溶接部位において1か所に集中させるのではなく、できるだけ溶接部位全体に亘って測定できるように、互いに同程度離間した位置のものを選択する。その結果、下地層16a、16b内の金属とセラミックスの分離の進行によって生じるセラミックス層の凝集を、抑制して、凝集するセラミック層を薄膜化することができる。従って、凝集したセラミックス層でクラックが発生することを良好に抑制することができる。また、従来、溶接深さを大きくすると、下地層を厚くする必要があるが、下地層を厚くすると、製造工程における焼成時や溶接時の膨張収縮の影響が大きくなってしまい、ハニカム構造体を破壊してしまうおそれがあった。これに対し、本発明の実施形態では、複数の溶接スポット18を、それぞれ、100μm以下の深さで形成しているため、下地層16a、16bを厚く形成する必要がなく、上述のようなハニカム構造体の破壊を抑制することができる。また、複数の溶接スポット18を、それぞれ、20μm以上の深さに形成することで、金属電極21a、21bとハニカム構造体10との接合強度を向上させることができる。複数の溶接スポット18は、それぞれ、30~80μmの深さに形成されているのが好ましく、50~70μmの深さに形成されているのがより好ましい。なお、溶接スポット18の深さは、溶接スポット18の大きさ(スポット径)に比例する。このため、製造工程において、レーザースポットのスポット径を小さくすることで、下地層16a、16bの深さも小さく形成することができる。
【0038】
複数の溶接スポット18は、それぞれ、10~200μmのピッチで配置されている。なお、本発明におけるピッチとは、隣接する溶接スポット同士の中心間距離を意味する。さらに、当該ピッチは、溶接スポット18のSEMの断面画像から、隣接する溶接スポット同士の中心間距離を13個測定して得られた数値の平均値とする。また、当該測定対象となる13個の溶接スポット18は、溶接部位において1か所に集中させるのではなく、できるだけ溶接部位全体に亘って測定できるように、互いに同程度離間した位置のものを選択する。本発明の実施形態では、上述のように、複数の溶接スポット18の深さが小さいため、隣接する溶接スポット18の間隔が大きいと、金属電極21a、21bとハニカム構造体10との接合強度が不十分となるおそれがある。そのため、複数の溶接スポット18を、それぞれ、200μm以下のピッチで配置することで、金属電極21a、21bとハニカム構造体10との良好な接合強度を確保することができる。また、複数の溶接スポット18を、それぞれ、10μm以上のピッチで配置することで、溶接スポットが重なることを抑制し、安定した溶接深さを確保することができる。複数の溶接スポット18は、それぞれ、10~150μmであることが好ましく、10~100μmであることが好ましく、更には20~80μmのピッチで配置されているのが好ましい。
【0039】
金属電極21a、21bは、2つ以上の溶接部位17a、17bにより接合されていることが好ましい。このような構成によれば、金属電極21a、21bとハニカム構造体10との接合強度がより向上する。また、複数の溶接部位17a、17bで金属電極21a、21bとハニカム構造体10とを接合することで、溶接部位17a、17bを構成する複数の溶接スポット18の深さを、より小さくすることできる。このため、下地層16a、16b内の金属とセラミックスの分離の進行によって生じるセラミックス層の凝集を、より抑制して、凝集するセラミック層をより薄膜化することができる。溶接部位17a、17bの数は特に限定されず、溶接部位17a、17bのサイズ、溶接スポット18のサイズ及び数、所望の接合強度等によって、適宜設計することができる。
【0040】
本発明の実施形態によれば、溶接スポット18の深さが小さいため、下地層16a、16bの厚みを大きくする必要がなく、溶接下地層として最低限の下地機能を有していればよいため、20~100μmに形成することができる。下地層16a、16bの厚みは、30~80μmであるのが好ましく、50~70μmであるのがより好ましい。
【0041】
溶接部位17a、17bを構成している溶接スポット18の形状は、特に限定されないが、例えば、図5に示すように、溶接部位17a、17b内において、深さ方向に、くさび形に食い込んだ形状に形成されていてもよい。なお、図5で示すくさび形に食い込んだ形状は、溶接スポット18をパルスレーザー等で形成する場合に生じる。
【0042】
(2.触媒体)
電気加熱式担体20に触媒を担持することにより、電気加熱式担体20を触媒体として使用することができる。複数のセル15の流路には、例えば、自動車排気ガス等の流体を流すことができる。触媒としては、例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒からなる群から選択される2種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0043】
(3.電気加熱式担体の製造方法)
次に、本発明に係る電気加熱式担体20を製造する方法について例示的に説明する。本発明の電気加熱式担体20の製造方法は一実施形態において、下地層形成ペースト及び電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造部を得る工程A1と、下地層形成ペースト及び電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造部を焼成してハニカム構造体を得る工程A2と、ハニカム構造体に金属電極を溶接する工程A3とを含む。
【0044】
工程A1は、ハニカム構造部の前駆体であるハニカム成形体を作製し、ハニカム成形体の側面に電極層形成ペーストを塗布して、電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造部を得る工程である。ハニカム成形体の作製は、公知のハニカム構造体の製造方法におけるハニカム成形体の作製方法に準じて行うことができる。例えば、まず、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素の質量との合計に対して、金属珪素の質量が10~40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3~50μmが好ましく、3~40μmが更に好ましい。金属珪素(金属珪素粉末)の平均粒子径は、2~35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素(金属珪素粒子)の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。なお、これは、ハニカム構造部の材質を、珪素-炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、ハニカム構造部の材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0045】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0~10.0質量部であることが好ましい。
【0046】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0047】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0048】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5~10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10~30μmであることが好ましい。10μmより小さいと、気孔を十分形成できないことがある。30μmより大きいと、成形時に口金に詰まることがある。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径のことである。
【0049】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。次に、得られたハニカム成形体について、乾燥を行うことが好ましい。ハニカム成形体の中心軸方向長さが、所望の長さではない場合は、ハニカム成形体の両底部を切断して所望の長さとすることができる。乾燥後のハニカム成形体をハニカム乾燥体と呼ぶ。
【0050】
次に、電極層を形成するための電極層形成ペースト、及び、下地層を形成するための下地層形成ペーストを調合する。電極層形成ペースト、及び、下地層形成ペーストは、電極層及び下地層の要求特性に応じて配合した原料粉(金属粉末、及び、セラミックス粉末等)に各種添加剤を適宜添加して混練することで形成することができる。電極層を積層構造とする場合、第一の電極層用のペースト中の金属粉末の平均粒子径に比べて、第二の電極層用のペースト中の金属粉末の平均粒子径を大きくすることにより、金属電極と電極層の接合強度が向上する傾向にある。金属粉末の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0051】
次に、得られた電極層形成ペースト及び下地層形成ペーストを、順に、ハニカム成形体(典型的にはハニカム乾燥体)の側面に塗布し、下地層形成ペースト及び電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造部を得る。電極層形成ペースト及び下地層形成ペーストを調合する方法、電極層形成ペースト及び下地層形成ペーストをハニカム成形体に塗布する方法については、それぞれ、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができるが、電極層をハニカム構造部に比べて低い電気抵抗率にするために、ハニカム構造部よりも金属の含有比率を高めたり、金属粒子の粒径を小さくしたりすることができる。
【0052】
ハニカム構造体の製造方法の変更例として、工程A1において、電極層形成ペースト及び下地層形成ペーストを塗布する前に、ハニカム成形体を一旦焼成してもよい。すなわち、この変更例では、ハニカム成形体を焼成してハニカム焼成体を作製し、当該ハニカム焼成体に、電極層形成ペースト及び下地層形成ペーストを塗布する。
【0053】
工程A2では、下地層形成ペースト及び電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造部を焼成して、ハニカム構造体を得る。焼成を行う前に、下地層形成ペースト及び電極層形成ペースト付き未焼成ハニカム構造部を乾燥してもよい。また、焼成の前に、バインダ等を除去するため、脱脂を行ってもよい。焼成条件としては、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200~1350℃で、1~10時間、酸化処理を行うことが好ましい。脱脂及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
【0054】
工程A3では、ハニカム構造体の下地層の表面に一対の金属電極を溶接する。溶接方法としては、金属電極側からレーザー溶接する方法が溶接面積の制御及び生産効率の観点から好ましい。このとき、複数の溶接スポットを形成することで、溶接部位とする。複数の溶接スポットを形成するために、例えば、パルスレーザーを用いることができる。パルスレーザーは、所定のパルス幅で、レーザーを断続照射するため、パルスごとに適度に熱引きが生じることで、1つ1つの溶接スポット径が大きくなり過ぎず、所望の小さな溶接スポットに調整することが容易である。パルスレーザーのレーザー出力は、金属電極の材質や厚みにもよるが、例えば150~400W/mm2とすることができる。
【0055】
<実施形態2>
図6は、本発明の実施形態2における電気加熱式担体30のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。図6に示すように、本発明の実施形態2における電気加熱式担体30は、実施形態1で示した電気加熱式担体20に対し、電極層14a、14bを備えていない構成となっている。すなわち、一対の下地層16a、16bが、柱状ハニカム構造部11の外周壁12の表面に設けられている。
【0056】
本発明の実施形態2における電気加熱式担体30においても、実施形態1における電気加熱式担体20と同様に、ハニカム構造体10の下地層16a、16bの表面に、金属電極21a、21bが、複数の溶接スポット18からなる溶接部位17a、17bを介して接合されている。従って、ハニカム構造体10におけるクラックの発生を抑制することができ、ハニカム構造体10と金属電極21a、21bとの接合信頼性が良好な電気加熱式担体30を提供することができる。
【0057】
<実施形態3>
図7は、本発明の実施形態3における電気加熱式担体40のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。図7に示すように、本発明の実施形態3における電気加熱式担体40は、実施形態1で示した電気加熱式担体20に対し、下地層16a、16bを備えていない構成となっている。すなわち、金属電極21a、21bが、電極層14a、14bの表面に、複数の溶接スポット18からなる溶接部位17a、17bを介して接合されている。
【0058】
本発明の実施形態3における電気加熱式担体40では、金属電極21a、21bが、電極層14a、14bの表面に、複数の溶接スポット18からなる溶接部位17a、17bを介して接合されている。複数の溶接スポット18は、それぞれ、20~100μmの深さに形成されている。複数の溶接スポット18を、それぞれ、100μm以下の深さに形成することで、製造工程において、レーザー溶接のレーザーエネルギーを高くする必要がなくなる。その結果、電極層14a、14b内の金属とセラミックスの分離の進行によって生じるセラミックス層の凝集を、抑制して、凝集するセラミック層を薄膜化することができる。従って、凝集したセラミックス層でクラックが発生することを良好に抑制することができる。また、複数の溶接スポット18を、それぞれ、100μm以下の深さで形成しているため、電極層14a、14bを厚く形成する必要がなく、製造工程における焼成時や溶接時の膨張収縮の影響に起因して生じるハニカム構造体の破壊を抑制することができる。また、複数の溶接スポット18は、それぞれ、10~200μmのピッチで配置されているため、ハニカム構造体10と金属電極21a、21bとの接合信頼性が良好な電気加熱式担体40を提供することができる。
【0059】
また、本発明の実施形態3によれば、溶接スポット18の深さが小さいため、電極層14a、14bの厚みを大きくする必要がなく、電極層として最低限の機能を有していればよいため、20~100μmに形成することができる。電極層14a、14bの厚みは、30~80μmであるのが好ましく、50~70μmであるのがより好ましい。
【0060】
<実施形態4>
図8は、本発明の実施形態4における電気加熱式担体50のセル15の延伸方向に垂直な断面模式図である。図8に示すように、本発明の実施形態4における電気加熱式担体50は、実施形態2で示した電気加熱式担体30に対し、下地層16a、16bを備えていない構成となっている。すなわち、金属電極21a、21bが、柱状ハニカム構造部11の外周壁12の表面に、複数の溶接スポット18からなる溶接部位17a、17bを介して接合されている。
【0061】
実施形態4における電気加熱式担体50では、金属電極21a、21bが、柱状ハニカム構造部11の外周壁12の表面に、複数の溶接スポット18からなる溶接部位17a、17bを介して接合されている。複数の溶接スポット18は、それぞれ、20~100μmの深さに形成されている。複数の溶接スポット18を、それぞれ、100μm以下の深さに形成することで、製造工程において、レーザー溶接のレーザーエネルギーを高くする必要がなくなる。その結果、柱状ハニカム構造部11内の金属とセラミックスの分離の進行によって生じるセラミックス層の凝集を、抑制して、凝集するセラミック層を薄膜化することができる。従って、凝集したセラミックス層でクラックが発生することを良好に抑制することができる。また、複数の溶接スポット18は、それぞれ、10~200μmのピッチで配置されているため、ハニカム構造体10と金属電極21a、21bとの接合信頼性が良好な電気加熱式担体50を提供することができる。
【0062】
(4.排気ガス浄化装置)
上述した本発明の各実施形態に係る電気加熱式担体は、それぞれ排気ガス浄化装置に用いることができる。当該排気ガス浄化装置は、電気加熱式担体と、当該電気加熱式担体を保持する缶体とを有する。排気ガス浄化装置において、電気加熱式担体は、エンジンからの排気ガスを流すための排気ガス流路の途中に設置される。缶体としては、電気加熱式担体を収容する金属製の筒状部材等を用いることができる。
【実施例
【0063】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0064】
<実施例1>
(1.円柱状の坏土の作製)
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを80:20の質量割合で混合してセラミックス原料を調製した。そして、セラミックス原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに7質量部とした。造孔材の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに3質量部とした。水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素粉末、金属珪素粉末及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0065】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
得られた円柱状の坏土を碁盤目状の口金構造を有する押出成形機を用いて成形し、セルの流路方向に垂直な断面における各セル形状が正方形である円柱状ハニカム成形体を得た。このハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両底面を所定量切断して、ハニカム乾燥体を作製した。
【0066】
(3.電極層形成ペーストの調製)
金属珪素(Si)粉末、炭化珪素(SiC)粉末、メチルセルロース、グリセリン、及び水を、自転公転攪拌機で混合して、電極層形成ペーストを調製した。Si粉末、及びSiC粉末は体積比で、Si粉末:SiC粉末=40:60となるように配合した。また、Si粉末、及びSiC粉末の合計を100質量部としたときに、メチルセルロースは0.5質量部であり、グリセリンは10質量部であり、水は38質量部であった。金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。炭化珪素粉末の平均粒子径は35μmであった。これらの平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0067】
(4.下地層形成ペーストの調製)
SUS430の金属粉を、体積割合で金属比率40%となるように、ガラス材料に混合し、セラミック原料を作製した。このセラミック原料に対してバインダを1質量%、界面活性剤を1質量%、水を20~40質量%加えて、下地層を形成するためのペースト原料を作製した。下地層を形成するためのペースト原料において、レーザー回折法で測定した金属粉の平均粒子径は10μmであった。
【0068】
(5.電極層形成ペースト及び下地層形成ペーストの塗布及び焼成)
次に、電極層形成ペースト及び下地層形成ペーストを曲面印刷機によって、ハニカム乾燥体に対して適切な面積及び膜厚で塗布し、さらに熱風乾燥機で120℃、30分乾燥した後、ハニカム乾燥体と共にAr雰囲気にて1400℃で3時間焼成し、ハニカム構造体とした。
【0069】
図9(A)に、当該ハニカム構造体及び後述の金属電極の断面模式図を示す。図9(B)に当該ハニカム構造体及び後述の金属電極の上面模式図を示す。得られたハニカム構造体の柱状ハニカム構造部61は、底面が直径100mmの円形であり、高さ(セルの流路方向における長さ)が100mmであった。セル密度は93セル/cm2であり、隔壁の厚みは101.6μmであり、隔壁の気孔率は45%であり、隔壁の平均細孔径は8.6μmであった。電極層64の厚みは0.1mmであり、下地層66の厚みは0.2mmであった。
【0070】
(6.金属電極の溶接)
次に、ハニカム構造体の下地層66の表面に、縦×横=2mm×2mmで、厚みが0.1mmの矩形部を有する金属電極62を溶接した。溶接方法としては、金属電極62側からパルスレーザーにてレーザー溶接した。このとき、パルスレーザーのレーザー出力は150W/点とした。また、パルスレーザーにより生じた複数の溶接スポットは、図3に示すように、螺旋状に、50μmのピッチで等間隔となるように配置した。また、溶接スポットのSEMの断面画像から、13個の溶接スポットの最大深さを測定して得られた数値の平均値を算出したところ、20μmであった。また、溶接スポットのSEMの断面画像から、隣接する溶接スポット同士の中心間距離を13個測定し、得られた数値の平均値を算出したところ、50μmであった。なお、当該13個の溶接スポットは、溶接部位67全体に亘って測定できるように、互いに同程度離間した位置のものを選択した。また、これら複数の溶接スポットからなる溶接部位67は、全体として直径0.1mmの円形状であった。
【0071】
(7.引張試験)
金属電極62を溶接したハニカム構造体に対し、図9(A)に示すように、金属電極62を、インストロン社製引張試験機(5569)にて、金属電極62と下地層66との接合面に平行な方向に引っ張り、サンプルに破壊が生じたときの荷重を測定し、剪断強度とした。当該試験を20回行い、平均値を求め、これを平均剪断強度とした。
【0072】
<実施例2>
パルスレーザーの出力を実施例1より強くして、各溶接スポットの深さを40μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0073】
<実施例3>
パルスレーザーの出力を実施例1より強くして、各溶接スポットの深さを60μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0074】
<実施例4>
パルスレーザーの出力を実施例1より強くして、各溶接スポットの深さを100μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0075】
<実施例5>
パルスレーザーの出力を実施例1より強くして、各溶接スポットの深さを60μmとし、ピッチを10μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0076】
<実施例6>
パルスレーザーの出力を実施例1より強くして、各溶接スポットの深さを60μmとし、ピッチを100μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0077】
<実施例7>
パルスレーザーの出力を実施例1より強くして、各溶接スポットの深さを60μmとし、ピッチを15μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0078】
<比較例1>
パルスレーザーの出力を実施例1より強くして1点だけ照射し、130μmの深さの溶接スポットによって金属電極を溶接した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0079】
<比較例2>
パルスレーザーの出力を実施例1より弱くして、各溶接スポットの深さを15μmとし、ピッチを60μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0080】
<比較例3>
パルスレーザーの出力を実施例1より強くして、各溶接スポットの深さを60μmとし、ピッチを300μmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
試験条件及び評価結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
(8.考察)
実施例1~7は、いずれも複数の溶接スポットが、それぞれ、20~100μmの深さ、且つ、10~200μmのピッチで配置されていたため、比較例1~3と比べて高い剪断強度を有していた。
比較例1は、溶接スポットを1点のみとし、溶接深さを130μmとして溶接していたため、下地層内部のセラミックスが凝集し、剪断強度が低かった。
比較例2は、溶接深さが15μmであったため、溶接強度が確保できず、剪断強度が低かった。
比較例3は、溶接ピッチが300μmであったため、溶接強度が確保できず、剪断強度が低かった。
【符号の説明】
【0083】
10 ハニカム構造体
11、61 柱状ハニカム構造部
12 外周壁
13 隔壁
14a、14b、64 電極層
15 セル
16a、16b、66 下地層
17a、17b、67 溶接部位
18 溶接スポット
20、30、40、50 電気加熱式担体
21a、21b、62 金属電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9