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特許7392134焼ならしUOE溶接管およびその製造方法
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  • 特許-焼ならしUOE溶接管およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】焼ならしUOE溶接管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231128BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20231128BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20231128BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/54
C21D8/10 B
C21D9/08 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022523238
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 CN2020122336
(87)【国際公開番号】W WO2021078131
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】201910998448.X
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512171021
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BAOSHAN IRON & STEEL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.885,Fujin Road,Baoshan District Shanghai,201900,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【弁理士】
【氏名又は名称】池本 理絵
(72)【発明者】
【氏名】スゥン,レイレイ
(72)【発明者】
【氏名】シィエ,シーチァン
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン,チゥアングオ
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン,レェイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ポォー
(72)【発明者】
【氏名】シェン,イェン
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101798654(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106567001(CN,A)
【文献】特開2014-031546(JP,A)
【文献】特開2012-102393(JP,A)
【文献】特開2011-246971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00-8/10
C21D 9/00-9/44、9/50
B21C 37/00-43/04,99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学元素を質量パーセントで含む焼ならしUOE溶接管であって、
C:0.14~0.18%、Si:0.15~0.30%、Mn:1.20~1.50%、Cu≦0.15%、Ni≦0.15%、Cr≦0.15%、Nb:0.010~0.030%、Ti:0.005~0.020%、Ca:0.001~0.005%、Al:0.020~0.050%、B≦0.0005%、残りがFeおよび不可避不純物であり、前記不可避不純物において、P≦0.018%、S≦0.003%、N≦0.006%、およびO≦0.005%である、焼ならしUOE溶接管。
【請求項2】
ポリゴナルフェライト+パーライトの微細構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の焼きならしUOE溶接管。
【請求項3】
前記フェライトの相割合が、50~90%であることを特徴とする、請求項2に記載の焼きならしUOE溶接管。
【請求項4】
711~1016mmの外径を有することを特徴とする、請求項1に記載の焼ならしUOE溶接管。
【請求項5】
290~450MPaの降伏強度、415~655MPaの引張強度、および≦0.80の降伏比を有することを特徴とする、請求項1に記載の焼ならしUOE溶接管。
【請求項6】
管体、溶接線、および熱影響部が、-10℃における衝撃エネルギーが≧100Jを満たす衝撃靭性を有することを特徴とする、請求項1またはに記載の焼ならしUOE溶接管。
【請求項7】
(1)製鋼し、連続鋳造するステップと、
(2)鋼板を圧延するステップと、
(3)UOE管を製造するステップと、
(4)前記UOE管全体を焼ならしするステップ、すなわち、焼ならし温度を860~920℃、保持時間を1.0~3.0分/mm×壁厚に制御するステップと、
(5)サイジングするステップ、すなわち、直径拡大率を0.6~2%に制御するステップと、
を含む、請求項1に記載の焼ならしUOE溶接管の製造方法。
【請求項8】
ステップ(2)において、スラブの加熱温度を1110~1180℃、粗圧延温度を960~1080℃、仕上げ圧延温度を770~850℃に制御し、総仕上げ圧延縮小率を70~80%に制御することを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
ステップ(2)において、圧延後に制御冷却を15~40℃/秒の冷却速度で行い、前記冷却を400~550℃で停止することを特徴とする、請求項7または8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管およびその製造方法に関し、特に、溶接管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製業界で使用される高温蒸気輸送パイプラインは、高温で長期間使用する必要があるため、材料の微細構造均一性が強く求められている。一般に、焼ならし、調質、およびその他の熱処理を施したシームレス鋼管は、微細構造均一性が良いことから採用されているが、シームレス鋼管は直径に制限があり、いくつかの工学プロジェクトの大容量蒸気輸送のニーズに対応することができない。その結果、これはパイプラインの数を増やすことでしか実現することができず、コストの増加をまねいている。
【0003】
例えば、2016年8月3日に公開された公開番号がCN105821335Aの、「パイプライン用の優れた溶接性を有する低コストの超低温焼ならし鋼およびその製造方法」という名称の中国特許は、パイプライン用の超低温焼ならし鋼を開示している。この特許に開示された技術的解決法では、Cの含有量をより低くすることが採用されており、Vが添加されている。
【0004】
別の例では、2015年8月26日に公開された公開番号がCN104862612Aの、「460MPaグレードの耐低温焼ならし鋼、鋼管、および鋼管の製造方法」という名称の中国特許は、460MPaグレードの耐低温焼ならし鋼を開示している。この特許文書に開示されている技術的解決法では、実際に製造される製品は溶接管ではなくシームレス鋼管であり、Cu、Ni、Cr、Mo、およびVなどの複数の合金元素が、この特許に開示されている技術的解決法の組成設計に加えられている。
【0005】
別の例では、2012年10月10日に公開された公開番号がCN102719737Aの、「460MPaの降伏強度を有する高靭性焼ならし薄鋼板およびその製造方法」という名称の中国特許は、460MPaの降伏強度を有する高靭性焼ならし薄鋼板を開示している。この特許に開示されている技術的解決法では、化学組成が高含有量のVおよびNを含有することから、VN微結晶および析出強化の設計概念を採用している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに基づいて、高温蒸気輸送のための微細構造均一性の要件を満たすことができ、かつ直径が増大した、低降伏比を有する焼ならし溶接管を得、それによって、輸送効率が向上し、シームレス鋼管と比べてコストが著しく削減され、経済的利益が増加することが期待される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様の1つは、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管を提供することである。低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、主にCおよびMn、ならびに少量のCu、Ni、Cr、およびNbの合金元素からできており、その結果、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、より良い経済的効率を有し、強度に対する要求を満たしながらより良い溶接性を提供することができるようになる。
【0008】
上記の態様を達成するために、本発明は、低降伏比を有し、以下の化学元素を質量パーセントで含む焼ならしUOE溶接管であって、
C:0.14~0.18%、Si:0.15~0.30%、Mn:1.20~1.50%、Cu≦0.15%、Ni≦0.15%、Cr≦0.15%、Nb:0.010~0.030%、Ti:0.005~0.020%、Ca:0.001~0.005%、Al:0.020~0.050%、B≦0.0005%、残りがFeおよび不可避不純物である、焼ならしUOE溶接管を提供する。
【0009】
本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、各化学元素の設計原理は以下の通りである。
【0010】
C:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Cは、最も基本的な強化元素である。鋼に溶解したCは、一方では固溶強化の役割を果たし、他方では、C元素は、焼ならし鋼中のパーライト形成に必須の元素であり、引張強度を高め、低降伏比を得ることができる。しかし、Cの質量パーセントが高すぎる場合、溶接加工中に大きなサイズの炭化物が形成され、これは好ましくない。これに基づいて、Cの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管において0.14~0.18%に制御される。
【0011】
Si:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Siは、固溶強化元素であり、同時に鋼中の脱酸元素でもあるが、Siの質量パーセントが高すぎる場合、鋼の溶接特性は低下し、鋼板面に赤鉄クラッディングの形成もまねく。これに基づいて、Siの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管において0.15~0.30%に制御される。
【0012】
Mn:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Mnは、最も有効かつ経済的な固溶強化元素の1つであり、焼ならし鋼の強度を効果的に向上させることができるが、Mnは容易に偏析する元素であり、それによって、鋼板中央部に靭性の低い硬質相構造が生成されて、靭性が低下する。これに基づいて、Mnの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管において1.20~1.50%に制御される。
【0013】
Cu:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Cuは、溶接熱影響部の軟化抵抗に役立ち、また、鋼の耐食性を増大させる固溶強化元素であるが、Cuは、融点がやや低く、Cuの質量パーセントが高すぎる場合、熱延鋼板の面に脆性亀裂が生じやすくなる。これに基づいて、Cuの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管においてCu≦0.15%に制御される。
【0014】
Ni:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Niは、固溶強化元素であり、「銅割れ」の発生を回避するためにCu元素との粒子複合相の形成に主要な役割を果たす。しかし、Ni元素は高価であり、したがって、Niの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管においてNi≦0.15%に制御される。
【0015】
Cr:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Crは、鋼の焼入れ性を向上させる重要な元素であり、強度を向上させながら厚鋼板の厚さ方向の微細構造均一性の向上に寄与するが、Crの質量パーセントが高すぎると、過度の高強度および靭性の低下を引き起こすことになる。これに基づいて、Crの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管においてCr≦0.15%に制御される。
【0016】
Nb:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Nbは、粗圧延中にオーステナイト結晶粒界を引きずるように作用し、それによって、再結晶オーステナイトの成長が抑制され、元のオーステナイトの微細化に役立つ。さらに、仕上げ圧延中のNb(N、C)粒子の歪-誘起析出は、析出強化効果を有し、また、多角形のフェライトの核形成を促進して、結晶粒微細化の効果を実現することができる。Nbの質量パーセントが高すぎる場合、CおよびNbの溶解度積が制限されるため、スラブ加熱中にNbを完全に溶解することはできない。これに基づいて、Nbの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管において0.010~0.030%に制御される。
【0017】
Ti:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Tiは、強力な炭窒化物形成元素であり、侵入型N原子を固定する役割を果たすことができる。TiNは、高い熱安定性を有し、スラブ加熱中および粗圧延再結晶化プロセス中にオーステナイト結晶粒の成長を抑制することができる。さらに、TiNはまた、溶接中に熱影響部での結晶粒の成長を抑制して、鋼の溶接性能を向上させることができる。少量のTiで効果が得られるため、Tiの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管において0.005~0.020%に制御される。
【0018】
Ca:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、硫化物の形態を制御して、長帯状MnSの形成を回避するために、少量のCaが添加されるが、Caの質量パーセントが高すぎる場合、CaSおよびCaOの凝集も生じる。これに基づいて、Caの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管において0.001~0.005%に制御される。
【0019】
Al:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Alは、脱酸のために鋼に添加される元素である。適切な量のAlの添加は、結晶粒の微細化ならびに鋼の強度および靭性の向上に有益である。これに基づいて、Alの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管において0.020~0.050%に制御される。
【0020】
B:本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、Bは、強力な焼入れ性を有する元素であり、強度を増大させることができるが、結晶粒界に析出しやすく、それによって、材料の塑性および靭性の低下がもたらされる。これに基づいて、Bの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管においてB≦0.0005%に制御される。
【0021】
好ましくは、本発明の焼ならしUOE溶接管では、不可避不純物において、P≦0.018%、S≦0.003%、N≦0.006%、およびO≦0.005%である。
【0022】
上記の技術的解決法では、少量のNはTiとともに高融点を有するTiN粒子を形成して、再加熱中のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する効果を実現することができるが、Nの質量パーセントが高すぎる場合、侵入型N原子が転位をピン止めして、降伏強度および降伏比を著しく高め、塑性および靭性を害すると考えられる。これに基づいて、Nの質量パーセントは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管においてN≦0.0060%に制御される。
【0023】
さらに、Oが鋼中に酸化物系介在物を形成することを考えると、Oの質量パーセントは、好ましくは、O≦0.0050%に制御することができる。
【0024】
さらに、SおよびPも鋼中の不可避不純物である。Sは、MnS介在物を形成しやすく、圧延後に細長い構造を有し、一方、Pは、偏析しやすい元素であり、両方の元素が鋼の靭性を低下させる。したがって、本発明の技術的解決法では、SおよびPの質量パーセントは、それぞれS≦0.003%およびP≦0.018%に制御される。
【0025】
好ましくは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、焼ならしUOE溶接管は、均一なサイズを有する多角形のフェライト+パーライトの微細構造を有する。
【0026】
好ましくは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、フェライトの相割合は、50~90%、好ましくは50~80%である。
【0027】
好ましくは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、焼ならしUOE溶接管は、711~1016mmの外径を有する。
【0028】
好ましくは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、290~450MPaの降伏強度、415~655MPaの引張強度、および≦0.80の降伏比を有する。
【0029】
好ましくは、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管では、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の管体、溶接線、および熱影響部は、-10℃における衝撃エネルギーが≧100Jを満たす衝撃靭性を有する。
【0030】
同様に、本発明の別の一態様は、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の製造方法を提供することである。この製造方法によれば、降伏比が低くかつ靭性が高い、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管を得ることができ、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の外径は、711~1016mmという大きな直径に到達することができる。
【0031】
上記の態様を達成するために、本発明は、以下のステップを含む、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の製造方法を提供する:
(1)製鋼し、連続鋳造するステップ、
(2)鋼板を圧延するステップ、
(3)UOE管を製造するステップ、
(4)UOE管全体を焼ならしするステップ、すなわち、焼ならし温度を860~920℃、保持時間を1.0~3.0分/mm×壁厚に制御するステップ、および
(5)サイジングするステップ、すなわち、直径拡大率を0.6~2%に制御するステップ。
【0032】
本発明の技術的解決法では、本発明者らは、研究を通じて、従来技術における原材料としてのTMCP鋼鈑からできているUOE溶接管が、以下の2つの難点に直面することに気づいた。第1に、焼ならし後、溶接管の強度は、TMCP鋼板の強度より著しく低くなり、Cまたは合金元素の含有量を増加させることによって強度を保証しなければならないが、これは鋼板の溶接性に影響を及ぼすことになる。第2に、大きな直径を有する溶接管を製造する場合、自重の影響のために、管形状が焼ならしプロセス中に変化し、特に楕円率が増加し、それによって、その後のサイジングが必要となり、このプロセスは大きな冷間変形を生じさせ、結果として管により低い降伏比が求められることになる。
【0033】
対照的に、本発明による製造方法は、鋼板を溶接管に製造する際に合金組成を合理的に制御することによって管全体を直接焼ならしすることを可能にし、サイジング後に低降伏比を有する所望の焼ならしUOE溶接管が得られる。詳細には、十分なオーステナイト化を保証し、かつ過度の結晶粒径を回避するために、焼ならし温度を860~920℃に制御し、管形状の変化を軽減するために、クロス支持枠を管の端に配置することができる。保持時間は実際の壁厚に応じて決定することができ、それは1.0~3.0分/mm×壁厚になるように制御される。管全体を焼ならした後に溶接管のサイズが大きく変化し、真直度および楕円率が寸法精度の要件を満たすことができないことを考えると、全長の直径を拡大するためにサイジングが必要である。直径拡大率を0.6~2%に制御する理由は、直径拡大率が0.6%未満の場合、拡大後のスプリングバックが増大し、得られたサイズが要件を満たすことが困難になり、直径拡大率が2%超である場合、過度の冷間変形により、降伏強度および降伏比が増加し、塑性許容量が減少するからである。
【0034】
直径拡大率=(直径拡大後の溶接管の外径-直径拡大前の溶接管の外径)/直径拡大前の溶接管の外径×100%であることに留意されたい。
【0035】
好ましくは、本発明による製造方法では、スラブは、ステップ(1)における製鋼および連続鋳造の後に得られ、ステップ(2)において、スラブは、鋼板に圧延され、圧延は、粗圧延および仕上げ圧延を含み、スラブの加熱温度は1110~1180℃、粗圧延温度は960~1080℃、仕上げ圧延温度は770~850℃に制御され、総仕上げ圧延縮小率は70~80%に制御される。
【0036】
上記の解決法では、加熱温度がスラブ加熱プロセス中の元のオーステナイトの粒径に影響を及ぼす重要な要因であるため、加熱温度を1110~1180℃に制御して、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の最終特性をより良いものにする。
【0037】
さらに、仕上げ圧延が非再結晶領域で行われることを考えると、圧延変形は、オーステナイトに歪エネルギー蓄積および変形帯を蓄えることができ、それは相変態および核形成の助けになる。仕上げ圧延温度が低いほど、歪蓄積は回復しにくいが、仕上げ圧延温度はAr3点以上であるべきである。したがって、本発明の技術的解決法では、仕上げ圧延温度範囲は770~850℃であり、総仕上げ圧延縮小率を≧70%に制御して、十分な歪蓄積が得られるようにする。一方、オーステナイト結晶粒の再結晶化および微細化の効果を実現する粗圧延縮小率に配慮するために、総仕上げ圧延縮小率は、大きくしすぎないようにし、70~80%の範囲に制御するべきである。
【0038】
好ましくは、本発明による製造方法では、ステップ(2)において、圧延後に制御冷却を15~40℃/秒の冷却速度で行い、冷却を400~550℃で停止する。
【0039】
上記の解決法において、冷却を制御する理由は、圧延後の冷却が、変形したオーステナイトの相変態プロセスであり、適切な冷却速度および冷却の停止温度が、フェライト核形成を促して、微細な構造が得られるからである。したがって、好ましくは、冷却速度は、15~40℃/秒の範囲に制御することができ、冷却の停止温度は、400~550℃の範囲に制御することができる。
【0040】
従来技術と比較して、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、以下の利点および有益な効果を有する。
【0041】
本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、主にCおよびMn、ならびにMoを含まないごく少量のCu、Ni、Cr、およびNbの合金元素からできており、その結果、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、より良い経済的利益を有するようになる。
【0042】
また、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、均一な構造を有し、強度に対する要求を満たしながら低降伏比を有する。さらに、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、より高い衝撃靱性を有し、例えば、外径711~1016mmの大きな直径を有する大径焼ならし溶接管を製造するのに非常に適している。
【0043】
上記の利点および達成された有益な効果に加えて、本発明の製造方法は、最終的に得られるUOE溶接管に、管全体の焼ならし後により良い特性、特に、強度に対する要求を満たしながら低降伏比を持たせることができ、これは、大径溶接管の製造の大きな助けになる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】実施形態2における低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の典型的な金属組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の焼ならし低降伏比UOE溶接管およびその製造方法を、添付の図面および特定の諸実施形態を参照して以下でさらに説明して記載する。しかし、その説明および記載は、本発明の技術的解決法を不当に限定するものではない。
【0046】
[実施形態1~6および比較例1~2]
実施形態1~6における焼ならしUOE溶接管は、以下のステップを使用することによって製造する。
【0047】
(1)製鋼および連続鋳造ステップ:製鋼は、転炉製鋼およびLF+RH精錬を使用することができ、各化学元素の含有量を、本発明の成分設計に従って制御し、続いて、連続鋳造におけるスラブ厚/完成品厚が≧10を満たすように連続鋳造する。
【0048】
(2)鋼板の圧延ステップ:スラブの加熱温度を1110~1180℃、粗圧延温度範囲を960~1080℃、仕上げ圧延温度範囲を770~850℃に制御し、総仕上げ圧延縮小率を70~80%に制御し、次いで、圧延後に制御冷却を15~40℃/秒の冷却速度で行い、冷却を400~550℃で停止する。
【0049】
(3)UOE管の製造ステップ。
【0050】
(4)UOE管全体の焼ならしステップ:焼ならし温度を860~920℃に制御し、保持時間を1.0~3.0分/mm×壁厚に制御する。
【0051】
(5)サイジングステップ:直径拡大率を0.6~2%に制御する。
【0052】
いくつかの実施形態において、UOE管の製造は、以下のステップを含む。
(3a)アークガイド板溶接ステップ:鋼板の四隅に、溶接中にアークガイドの役割を果たすアークガイド板を溶接する。
【0053】
(3b)エッジおよびベベル寸法のミリング加工ステップ:溶接品質を確保するために、合理的なベベル寸法設計によって良好な溶接形態となる32~42°の上側ベベル勾配および32~47°の下側ベベル勾配を得る。
【0054】
(3c)C成形ステップ:すなわち、エッジの事前曲げステップであり、鋼板のエッジを、後続のO成形の曲率要件を満たすために、曲げ装置によって所望の形状に曲げる。
【0055】
(3d)U成形ステップ:予め曲げられた鋼板を、所望の溶接管の直径に基づいてU字型にプレス成形する。
【0056】
(3e)O成形ステップ:U成形後の鋼板を、所望の溶接管と直径が一致している金型によってO型にプレス成形する。O成形の圧縮率を0.16~0.22%に制御するが、これは、O成形の圧縮率が0.16%未満の場合、溶接管の圧縮変形が小さすぎ、成形後のスプリングバックのために開口が大きくなり、一方、O成形の圧縮率が0.22%超の場合、板端のベベルの接触部が変形損傷を引き起こしやすくなり、その後の溶接に影響を及ぼすからである。詳細には、O成形の圧縮率=(π×(予備溶接後の外径-壁厚)-エッジミリング後の幅)/エッジミリング後の幅×100%。
【0057】
(3f)高圧水洗浄および乾燥ステップ:O成形後のスロット溶接管の内面および外面を高圧水洗浄して、酸化鉄クラッディング、グリース、ほこりなどの汚染物を除去し、次いで、溶接管を100℃~300℃の乾燥温度で乾燥オーブンに入れる。
【0058】
(3g)予備溶接ステップ:O成形後のスロット溶接管を、その後の内側溶接および外側溶接中のアーク安定性を確保するために、COまたはAr+COガスシールド溶接によって予備溶接する。
【0059】
(3h)内側溶接ステップ:内側溶接は、壁厚に基づいて3本または4本ワイヤのサブマージアーク溶接プロセスによって溶接管に施され、第1のワイヤはマイナスの直流電極を採用し、第2、第3、および第4のワイヤは交流を採用し、すべてが4mmの溶接ワイヤ直径を有する。第1のワイヤでは、電流は1100~1300A、電圧は30~35Vであり;第2のワイヤでは、電流は600~950A、電圧は31~37Vであり;第3のワイヤでは、電流は500~700A、電圧は33~39Vであり;第4のワイヤでは、電流は400~600A、電圧は35~41Vである。溶接速度は1.3~1.9m/分である。内側溶接フラックスは、250~450℃の範囲で2時間以上乾燥させる必要がある。
【0060】
(3i)外側溶接ステップ:外側溶接は、壁厚に応じて3本または4本ワイヤのサブマージアーク溶接プロセスによって溶接管に施され、第1のワイヤはマイナスの直流電極を採用し、第2、第3、および第4のワイヤは交流を採用し、すべてが4mmの溶接ワイヤ直径を有する。第1のワイヤでは、電流は1150~1350A、電圧は31~367Vであり;第2のワイヤでは、電流は650~1000A、電圧は33~39Vであり;第3のワイヤでは、電流は550~750A、電圧は35~41Vであり;第4のワイヤでは、電流は400~600A、電圧は36~42Vである。溶接速度は1.2~1.8m/分である。外側溶接フラックスは、250~450℃の範囲で2時間以上乾燥させる必要がある。
【0061】
(3j)直径拡大ステップ:直径拡大率の範囲が0.7~1.1%である特定の溶接管のサイズ要件を満たすために、溶接管の全長に直径拡大を施す。
【0062】
比較例1~2における焼ならしUOE溶接管は、表1および表2に具体的に示すように、化学組成、鋼鈑圧延プロセスパラメータ、および管全体の焼ならしプロセスを除いて、実施形態1~6と同じプロセスを採用する。
【0063】
表1は、実施形態1~6および比較例1~2における焼ならしUOE溶接管の各化学元素の質量パーセントを示している。特に、実施形態1~6における各元素の含有量は、本発明のために設計した組成の範囲内であり、一方、比較例1~2におけるいくつかの元素の含有量は、本発明のものと異なる。
【0064】
【表1】
【0065】
表2は、実施形態1~6および比較例1~2における焼ならしUOE溶接管のための特定のプロセスパラメータを示している。特に、実施形態1~6におけるプロセスパラメータは、本発明の範囲内であり、一方、比較例1における鋼鈑仕上げ圧延温度、冷却の停止温度、および管全体の焼ならしプロセスは本発明のものと異なり、比較例2における管全体の焼ならしプロセスは本発明のものと異なる。
【0066】
【表2】
【0067】
本発明の実施形態1~6および比較例1~2における焼ならしUOE溶接管の機械的特性を試験し、相割合を計算するが、ここでは、引張試験は、ASTM A370規格に準拠した丸棒試験片を使用することによってZwick Z330引張試験装置で実施し、衝撃試験は、ASTM A370規格に準拠したフルサイズのシャルピー衝撃試験片(10×10×55mm)を使用することによってZwick PSW750衝撃試験装置で実施し、相割合は、二相体積分率を計算することによってASTM E562規格に従って計算する。
【0068】
表3は、実施形態1~6および比較例1~2における焼ならしUOE溶接管の試験結果を示している。
【0069】
【表3】
【0070】
表3から、本発明の諸実施形態における低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、290~450MPaの降伏強度、415~655MPaの引張強度、および≦0.80の降伏比を有し、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の管体、溶接線、および熱影響部の衝撃靱性は、-10℃における衝撃エネルギーが≧100Jの要件を満たすことが分かる。比較例における強度と靭性の両方が実施形態のものより低い。
【0071】
さらに、表2から、本発明の諸実施形態における低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管が、より大きな直径、具体的には、711~1016mmの範囲の外径を有することが分かる。
【0072】
図1は、実施形態2における低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の典型的な金属組織である。
【0073】
図1に示すように、実施形態2における低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管の微細構造は、均一なサイズを有する多角形のフェライト+パーライトであり、二相体積分率は、ASTM E562規格に従って計算され、ここでは、フェライト相割合は80%である。
【0074】
結論として、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管に関してより良い経済的利益を実現するために、主にCおよびMn、ならびにMoを含まないごく少量のCu、Ni、Cr、およびNbの合金元素からできていることが分かる。
【0075】
また、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、均一な構造を有し、強度に対する要求を満たしながら低降伏比を有する。さらに、本発明の低降伏比を有する焼ならしUOE溶接管は、より高い衝撃靱性を有し、例えば、外径711~1016mmの大きな直径を有する大径焼ならし溶接管を製造するのに非常に適している。
【0076】
上記の利点および達成された有益な効果に加えて、本発明の製造方法は、最終的に得られるUOE溶接管に、管全体の焼ならし後により良い特性、特に、強度に対する要求を満たしながら低降伏比を持たせることができ、これは、大径溶接管の製造の大きな助けになる。
【0077】
本発明の保護範囲内の従来技術部分は、本出願に示した諸実施形態に限定されるものではなく、従来特許、従来刊行物、従来公用などを含むが、これらに限定されない本発明の技術的解決法と矛盾しないすべての従来技術が本発明の保護範囲内に含まれ得ることに留意されたい。
【0078】
さらに、本開示における技術的特徴の組合せは、特許請求の範囲に記載した組合せまたは具体例に記載した組合せに限定されるものではない。本明細書に記載した技術的特徴はすべて、互いに矛盾しない限り、どのような方法でも自由に組み合わせることができる。
【0079】
また、上述した実施例は、本発明の具体的な実施例に過ぎないことに留意されたい。当然、本発明は、そのような具体例に過度に制限されるべきではない。当業者が本開示から直接または容易に導き出すことができる変更または修正は、本発明の保護範囲内にあることを意図している。
図1