(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】レーザロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/00 20060101AFI20231128BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20231128BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20231128BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20231128BHJP
【FI】
B25J19/00 J
B23K26/08 H
B23K26/00 Q
(21)【出願番号】P 2022531972
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2021023387
(87)【国際公開番号】W WO2021261439
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020110129
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】本田 昌洋
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-167974(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051504(WO,A1)
【文献】特開平8-141957(JP,A)
【文献】特開2007-30031(JP,A)
【文献】特開2016-162205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ照射装置を有する複数のロボットセルと、前記ロボットセルとは別体に設けられたレーザ発振器を備えたレーザロボットシステムであって、
複数の前記ロボットセルは、それぞれが個別に対応し、対応する前記ロボットセルの監視及びその動作の制御をするロボットコントローラを備え、
前記ロボットコントローラがマスターとなり、前記レーザ発振器がスレーブとなり、前記ロボットセルの信号を前記ロボットコントローラから前記レーザ発振器に通信することを特徴とするレーザロボットシステム。
【請求項2】
1台の前記レーザ発振器を複数の前記ロボットセルで共有する、
請求項1に記載のレーザロボットシステム。
【請求項3】
前記ロボットコントローラは、マスターとなる制御権の有無を切り替えて選択することができる、
請求項1又は2に記載のレーザロボットシステム。
【請求項4】
前記ロボットコントローラから前記レーザ発振器に通信される信号が安全信号である、
請求項1~3のいずれかに記載のレーザロボットシステム。
【請求項5】
前記ロボットコントローラが対応する前記ロボットセルに異常を検知した場合に、前記ロボットコントローラは当該対応する前記ロボットセルのレーザ照射を停止するとともに、前記ロボットセルの安全信号を前記ロボットコントローラから前記レーザ発振器に通信することによって前記レーザ発振器の出力を停止する、
請求項4に記載のレーザロボットシステム。
【請求項6】
マスターとなる制御権を有する前記ロボットコントローラから発信された安全信号のみを有効とする、
請求項5に記載のレーザロボットシステム。
【請求項7】
前記ロボットコントローラから前記レーザ発振器に通信される信号が、前記ロボットコントローラに対応する前記ロボットセルへのレーザ発振の出力指令信号である、
請求項1~3のいずれかに記載のレーザロボットシステム。
【請求項8】
前記ロボットコントローラは、マスターとなる制御権の有無を時間で切り替えることにより、前記レーザ発振器のレーザ発振の出力を、複数の前記ロボットセルの間で、時間で区切って使い分けることができる、
請求項7に記載のレーザロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザロボットシステムに関し、特に、1台のレーザ発信器を複数のロボットセルで共有するレーザロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のロボットセルの安全制御システムにおいて、単一の監視装置で複数のデバイスを監視し、異常を検知したデバイスの作動を停止させる安全制御システムが知られている。特許文献1には、ネットワークを介して接続された安全制御機器を有する複数のユニットデバイスを備え、安全制御機器は、状態データと判断基準とに基づいて、ユニットデバイスの動作状態が異常か否かの判断を行い、異常と判断された場合には安全制御機器は、ユニットデバイスの動作を停止させ、且つ、当該判断結果を示す監視データを、指定された他のユニットデバイスにネットワークを介して直接送信する安全制御システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、複数のロボットセルなどのユニットデバイスのみを安全制御装置で監視するものであるが、レーザ照射を行う複数のロボットセルが、ロボットセルとは別体のレーザ発振器の出力を受けてレーザビームを照射して加工作業を行うシステムにおいては、安全制御装置がロボットセルに関して何らかの異常を検知したときにロボットセルのレーザ照射を安全に停止させるためには、ロボットセルの動作と、レーザ発振器のロボットセルへの出力の両方を停止する必要があり、安全システムは複雑となる。そして、安全システムの構築のため、ハードワイヤでIO信号をレーザ発振器とロボットコントローラの双方に入力する必要があり、多くの配線を必要として配線が複雑になる。
【0005】
特に、1台のレーザ発信器を複数台のロボットセルで共有するシステムでは、ロボットセルの台数に応じて安全信号の配線が多くなり、レーザ発振器とロボットセルが1対1の関係の場合に比べて、配線がさらに複雑になる。
【0006】
なお、セフティーネットワーク(PROFIsafe、CIP Safetyなどの安全通信規格)を利用して、省配線することも可能であるが、安全PLCなどの安全サポートシステムの導入が必要となり、コストとメンテナンスの面でデメリットがある。
【0007】
したがって、ロボットセルが、ロボットセルとは別体のレーザ発振器からの出力を受けてレーザビーム照射を行うシステムにおいて、安全PLCなどの安全サポートシステムを導入することなく、煩雑な配線を必要としないシステムの構築が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本開示のレーザロボットシステムにおいては、レーザ照射装置を有する複数のロボットセルと、ロボットセルとは別体に設けられたレーザ発振器を備えたレーザロボットシステムであって、各ロボットセルは、それぞれが個別に対応し、対応するロボットセルの監視及びその動作の制御をするロボットコントローラを備え、ロボットコントローラがマスターとなり、レーザ発振機がスレーブとなり、ロボットセルの信号をロボットコントローラからレーザ発振器に通信する。
【発明の効果】
【0009】
本開示のレーザロボットシステムによれば、ロボットコントローラがマスターとなり、レーザ発振機がスレーブとなり、ロボットセルの安全信号をロボットコントローラからレーザ発振器に通信することから、多数の配線を必要とせず、配線が複雑になることがない。そして、安全PLCなどの安全サポートシステムの導入も不要となり、コストとメンテナンスの面で有利な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】従来のレーザロボットシステムの構成図である。
【
図2】レーザ発振器から光ファイバケーブルを介してレーザがロボットセルに伝送されることを示す図である。
【
図3】従来のレーザロボットシステムでEthernetケーブルで接続し省配線した構成の構成図である。
【
図4】本開示のレーザロボットシステムの構成図を示す図である。
【
図5】本開示のレーザロボットシステムの動作のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して、詳細に説明する。
【0012】
図1に、従来のレーザロボットシステムを示す。ロボットセル11,12は、6軸垂直多関節又は4軸垂直多関節などの多関節のアームを有する多関節型ロボットで、多関節アームの先端にレーザ照射装置が取り付けられ、
図2に示すように、レーザ発振器20から、高出力レーザ伝送用の光ファイバケーブルを介して、ロボットセル11,12にレーザが伝送される。レーザ発振器20と、ロボットセル11,12は、設置場所の制限や保守性を考慮して別体で設置される。ロボットセル11,12においては、加工ヘッドの先端からレーザが出射されレーザ加工を行う。ロボットセル11,12には、ロボットセル安全デバイス111,121が内蔵されたデバイス、又は、作業者がロボットセル11,12内に侵入したことを検出するセーフティライトカーテンなどの機器などが含まれ、ロボットコントローラ112,122やレーザ発振器20と通信している。ロボットコントローラ112,122は、ロボットセル11,12と動力ケーブルで接続されているとともに、ロボットセル11,12のロボットセル安全デバイス111,121と安全信号ケーブルで接続されている。この安全信号ケーブルは、さらにロボットセル安全デバイス111,121とレーザ発振器20との間を接続し、ロボットセル安全デバイス111,121、ロボットコントローラ112,122、及び、レーザ発振器20は、安全信号ケーブルで接続され、(1)非常停止、(2)ドアスイッチ、(3)ライトカーテンの各信号を相互に送受信している。(1)非常停止の信号は、システム全体を緊急に停止させるための信号で、ロボット動作もレーザ出力も停止させる。(2)ドアスイッチの信号は、ロボットセルのドアの開閉状態の信号である。ドアが開状態の場合はレーザを出力することができない。(3)ライトカーテンの信号は、作業者が危険区域に侵入したこと(存在していること)を検知した場合に、システムを停止させるための信号で、ロボット動作もレーザ出力も停止させる。
【0013】
ロボットコントローラ112,122は、マイクロプロセッサからなる処理装置(CPU)及びRAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリなどのメモリ部材を含む。ロボットコントローラ112,122は、ロボットセル11,12に異常を検知した際に、安全信号ケーブルを介して、ロボットセル安全デバイス111,121及びレーザ発振器20に非常停止信号を送信し、ロボットセル11,12のレーザ照射及びレーザ発振器の発振動作の双方を停止、安全を図る。ロボットコントローラ112,122とレーザ発振器20の間は、ハブを介してEthernetケーブルで接続され、I/O通信、データ通信を行っている。
【0014】
このように、従来のレーザロボットシステムにおいては、動力ケーブルやEthernetケーブルの他に、ロボットセル安全デバイス111,121、ロボットコントローラ112,122、及び、レーザ発振器20の間は安全信号ケーブルを必要とし、特に、複数のロボットセル11,12が1台のレーザ発振器20を共有している場合などにおいては、多数の配線を必要とし、従来においては配線が複雑となり使い勝手が悪く、非効率であった。
【0015】
図3は、従来のレーザロボットシステムにおいて、ロボットセル安全デバイス111,121、ロボットコントローラ112,122、及び、レーザ発振器20の間は安全信号ケーブルを排して、代わりにEthernetケーブルで接続し、省配線したレーザロボットシステムを示す。
図1との違いは、ロボットセル安全デバイス111,121、ロボットコントローラ112,122、及び、レーザ発振器20の間の接続を、安全信号ケーブルに換えて、Ethernetケーブルを利用したことにあり、Ethernetケーブルを利用したことから、安全PLCの導入が必要になった。安全PLCを導入することで、安全リレーなどが安全PLCに置き換わるため、シンプルな回路構成となり省配線が可能となる、リレーなどの機器から電子機器に置き換わるため、部品が長寿命になり信頼性が向上する。制御盤を小さくできる、構成部品が少ないため、パフォーマンスレベル(PL)の計算が容易になる、レーザロボットシステムの安全規格対応の設計が容易になるなど多く面でメリットが生じる。しかしながら、一方で、安全PLCを必要としたことで、コストとメンテナンスの面でのデメリットが生じていた。
【0016】
次に、
図4に本開示のレーザロボットシステムを示す。
図4のレーザロボットシステムにおいて、
図1又は
図3のレーザロボットシステムと最も違うところは、ロボットコントローラ112とレーザ発振器20の間の通信において、ロボットコントローラ112安全信号の通信のマスターとなり、レーザ発振器20がスレーブとなることにより、
図1のレーザロボットシステムにおいてロボットセル安全デバイス111,121、ロボットコントローラ112,122、及び、レーザ発振器20の間を接続していた安全信号ケーブルを排することができたとともに、
図3のレーザロボットシステムの安全PLCは不要となったことである。
【0017】
図4の本開示のレーザロボットシステムについて、具体的に説明する。ロボットセル11,12の異常時にロボットセル安全デバイス111,121から発生した安全信号(非常停止信号等)は、ロボットセル安全デバイス111,121からロボットコントローラ112,122に入力し、ロボットコントローラ112,122が安全信号通信のマスターとなり、レーザ発振器20がスレーブとなるため、ロボットコントローラ112,122からEthernetケーブルを介してレーザ発振器20に送信される。これによって、安全信号ケーブルや安全PLCを排除することができ、複雑な配線を不要として使い勝手をよくすることができるとともに、安全PLCのコストやメンテナンスの面でのデメリットも解消することができた。
【0018】
ロボットコントローラ112,122は、マスターとなってレーザ発振器20をコントロールする制御権を有するか否かを切り替えて選択することができる。レーザ発振器20をコントロールする制御権を有するロボットコントローラ112,122のみがマスターとなり、マスターとなったロボットコントローラ112,122の安全信号のみが有効とされ、マスターとならずレーザ発振器20をコントロールする制御権を持たないロボットコントローラ112,122の安全信号は無効とされる。
【0019】
図4のレーザロボットシステムにおいては、ロボットコントローラ122は、レーザ発振器20をコントロールする制御権を有しないように切り替えて選択され、マスターとならない。そのため、ロボットセル12において異常が生じて、ロボットコントローラ122から安全信号がレーザ発振器に送られた場合においても、レーザ発振器20のレーザ発振動作は止まらない。この場合には、ロボットコントローラ122の信号によってロボットセル12のレーザ照射動作は停止するものの、レーザ発振器20が停止することはなく、ロボットセル11でのレーザ照射動作は継続される。
【0020】
一方で、
図4のレーザロボットシステムにおいてロボットセル11に異常が生じた場合には、ロボットセル11のロボットコントローラ112はレーザ発振器20の制御権(マスター権)を有するため、ロボットコントローラ112からレーザ発振器20へ送信された安全信号によって、レーザ発振器20のレーザ発振動作は停止される。そのため、ロボットセル11のレーザ照射動作が停止されるとともに、例えロボットセル12に異常がなかったとしても、ロボットセル12のレーザ照射動作も停止され、レーザロボットシステム全体が、少なくとも一時的に停止されることになる。
【0021】
複数のロボットセル11,12で1台のレーザ発振器20を共有する場合においても、このようにロボットコントローラ112,122のマスター機能(レーザ発振器20の制御権)を切り替えて選択することができるため、各ロボットセル11,12の特性や使用状況に応じて、システム全体として、システム内の異常状態にも多様に対応することができる安全機能を発揮することができる。
【0022】
また、ロボットコントローラ112,122のマスター機能(レーザ発振器20の制御権)は、上記の実施例のようなロボットセル11,12の異常時の安全機能、すなわち、レーザ発振器20への安全信号送信の制御に発揮されるのみならず、複数のロボットセル11,12においてレーザ発振器20の利用を時間で区切って使い分けるシステムにも活用できる。このシステムにおいては、例えば、2つのロボットコントローラ112,122のマスター権(レーザ発振器20の制御権)を時間によって切り替え、ある時間帯においては、ロボットコントローラ112はマスター権を有し、ロボットコントローラ122はマスター権を有しないように設定し、別の時間帯においては、ロボットコントローラ112はマスター権を有せず、ロボットコントローラ122はマスター権を有するように設定する。そして、レーザ発振器20は、ロボットコントローラ112又は122からレーザ発振の出力指令を受けた場合に、レーザ発振の出力指令を受けたロボットコントローラ112又は122に対応するロボットセル11又は12にのみレーザ発振の出力を行う。そうすると、ロボットコントローラ112がマスター権を有する時間帯においては、ロボットコントローラ112からのレーザ発振器20に対してのレーザ出力指令の信号が有効となり、ロボットセル11のみがレーザ発振器20の出力を利用してレーザ照射を行うことができ、マスター権を有しないロボットコントローラ122からのレーザ発振器20に対してのレーザ出力指令は無効となり、ロボットセル12はレーザ照射を行うことはできない。逆に、ロボットコントローラ122がマスター権を有する時間帯においては、ロボットセル12のみがレーザ発振器20の出力を利用してレーザ照射を行うことができ、ロボットセル11はレーザ照射を行うことはできない。このように、ロボットコントローラ112,122のマスター機能(レーザ発振器20の制御権)は、レーザ発振器20のレーザ出力をロボットセル11,12の間で、時間で区切って使い分けるシステムに活用することもできる。
【0023】
本開示におけるロボットレーザシステムによる安全制御システムの作動について
図5のフロー図で示す。
図5に示すように、まず、ロボットレーザシステムを構築するため、ロボットセル、ロボットコントローラ、レーザ発振器を配設する(ステップST1)。ロボットセルは複数配設され、複数のロボットセルで1台のレーザ発振器が共有される。また、各ロボットセルに1対1で対応して、ロボットコントローラが設けられる。
【0024】
次に、各ロボットコントローラにおいて、レーザ発振器を制御する制御権(マスター権)が設定される(ステップST2)。ロボットコントローラがマスター権を持たない場合には、ロボットコントローラからレーザ発振器へ発信された安全信号は無効となる。その後、ロボットレーザシステムの運転が開始され、また、継続される(ステップST3)。
【0025】
そして、ロボットレーザシステムによるレーザ加工作業が完了したか否かについて判定される(ステップST4)。判定結果がYESの場合、すなわち、ロボットレーザシステムによるレーザ加工作業が完了した場合にはシステムは終了し、このフローは終了する。判定結果がNOの場合、すなわち、ロボットレーザシステムによるレーザ加工作業が完了しておらず、いまだ継続されている場合には、次のステップST5へ進む。
【0026】
ステップST5では、各ロボットセルのいずれかに異常が検知されたか否かが判定される。判定結果がYESの場合、すなわち、各ロボットセルのいずれかに異常が検知された場合には、異常が検知されたロボットセルの照射動作が停止される(ステップST6)ととともに、次のステップST7に進み、異常が検知されたロボットセルのロボットコントローラがレーザ発振器の制御権(マスター権)を有するか否かが判定される。ステップST5での判定結果がNOであった場合、すなわち、各ロボットセルのいずれにおいても異常が検知されなかった場合には、ステップST3へ戻り、ロボットシステムの運転が継続され、完了するのが待たれることになる。
【0027】
各ロボットセルのいずれかに異常が検知された後の、ステップST7では、異常が検知されたロボットセルの、対応するロボットコントローラがレーザ発振器の制御権(マスター権)を有するか否かについて判定される。判定結果がYESの場合、すなわち、異常が検知されたロボットセルの、対応するロボットコントローラが、レーザ発振器に対する制御権(マスター権)を有する場合には、レーザ発振器の発振動作が停止される(ステップST8)。そして、レーザ発振器の発振動作が停止されると、いずれのロボットセルにおいてもレーザ照射ができなくなるから、レーザロボットシステム全体が、少なくとも一時的に終了することとなり、このフローは終了する。
【0028】
ステップST7での判定結果がNOであった場合、すなわち、異常が検知されたロボットセルの、対応するロボットコントローラが、レーザ発振器に対する制御権(マスター権)を有しない場合には、レーザ発振器の発振動作が停止されることはなく、レーザ発振器の発振動作は継続される。そして、次のステップST9へ進む。
【0029】
次のステップST9では、他に稼働中のロボットセルがあるか否かについて判定される。判定結果がYESの場合、すなわち、他に稼働中のロボットセルがある場合には、異常が検知されたロボットセルの照射動作は停止したものの、レーザ発振器は停止しておらず、他の稼働中のロボットセルのレーザ照射動作も継続されるため、ステップ3に戻ってレーザロボットシステム全体としてのシステムの運転状況は継続され、作業の完了が待たれることになる。
【0030】
ステップST9での判定結果がNOであった場合、すなわち、他に稼働中のロボットセルがない場合には、異常が検知されたロボットセルについては、ステップST6で、その照射動作が停止されており、また、他に稼働中のロボットセルもないのだから、レーザロボットシステム全体で、稼働されているロボットがないということになり、レーザロボットシステム全体が、少なくとも一時的に終了することとなり、このフローは終了する。
【0031】
次に、本開示の発明のレーザロボットシステムの効果について説明する。まず、本開示の発明のレーザロボットシステムの中心となる特徴を示す基本的な効果としては、ロボットコントローラがマスターとなり、レーザ発振機がスレーブとなり、ロボットセルの安全信号などの信号をロボットコントローラからレーザ発振器に通信することから、従来においては必要とされていた多数の配線を省くことができ、配線の複雑さにより使い勝手が悪くなっていたという配線設計上の問題を解消することができたことにある。また、それとともに、安全PLCなどの安全サポートシステムの導入も不要となり、コストとメンテナンス面でも従来に比べて改善された。
【0032】
また、本開示の発明のレーザロボットシステムにおいてロボットコントローラが対応するロボットセルに異常を検知した場合には、ロボットコントローラは当該対応するロボットセルのレーザ照射を停止するとともに、ロボットセルの安全信号をロボットコントローラからレーザ発振器に通信することによってレーザ発振器の発振動作を停止する。すなわち、ロボットセルのレーザ照射又はレーザ発振器の発振動作の一方のみを停止して安全を図るのではなく、両者を停止して安全を図るため、とりわけ安全性を高めることができる。
【0033】
また、本開示の発明のレーザロボットシステムにおいては、1台のレーザ発振器を複数のロボットセルで共有する場合には、ロボットセルと発振器とが一対一対応の場合よりも配線の煩雑性が増すため、本開示のレーザロボットシステムを適用すれば、より大きな効果が得られるといえる。
【0034】
さらに、本開示の発明のレーザロボットシステムにおいて、ロボットコントローラは、マスターとなる制御権の有無を切り替えて選択することができ、マスターとなる制御権を有するロボットコントローラから発信された安全信号のみを有効とすることができる。この構成によって、ロボットコントローラがマスターとなる制御権を有しないように切り替えて選択した場合には、ロボットセルに異常を検知した場合においても、ロボットコントローラは、対応する異常の検知されたロボットセルのレーザ照射のみを停止させ、レーザ発振器を停止することがなく、レーザ発振器を共有する他のロボットセルのレーザ照射動作を継続させることができる。複数のロボットセルを含むレーザロボットシステムにおいて、各ロボットセルの特性や使用状況に応じて、システム全体として、システム内の異常状態にも多様に対応することができるという効果を有する。
【0035】
また、本開示の発明のレーザロボットシステムの別の活用として、ロボットコントローラからレーザ発振器に通信される信号を、ロボットコントローラに対応するロボットセルへのレーザ発振の出力指令信号とし、ロボットコントローラの、レーザ発振器に対してのマスターとなる制御権の有無を時間で切り替えることにより、レーザ発振器のレーザ発振の出力を、複数のロボットセルの間で、時間で区切って使い分けるシステムとすることができる。このようなシステムにより、レーザ発振器のレーザ発振出力を、複数のロボットセルによって、より効率的に分けて使用することができるという効果を有する。
【0036】
以上、本発明の実施に関して、実施態様について説明したが、本発明はこうした実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々なる態様で実施できるものであることは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
11,12 ロボットセル
111,121 ロボットセル安全デバイス
112,122 ロボットコントローラ
20 レーザ発振器