(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】ナノ構造フィルム、ペリクル、及びEUVリソグラフィを行う方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20231128BHJP
【FI】
G03F1/62
(21)【出願番号】P 2022580172
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 US2021050519
(87)【国際公開番号】W WO2022060877
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-02-06
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516124627
【氏名又は名称】リンテック オブ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】LINTEC OF AMERICA, INC.
【住所又は居所原語表記】15930 S. 48th Street, Suite 110, Phoenix, Arizona 85048, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】リマ マルシオ ディー
(72)【発明者】
【氏名】植田 貴洋
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-194838(JP,A)
【文献】特開2020-101788(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0191255(US,A1)
【文献】特開2018-194840(JP,A)
【文献】特開2018-194841(JP,A)
【文献】国際公開第2019/092318(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0284599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ構造フィルムであって、
相互接続されたネットワーク構造を平面配向で形成するためにランダムに交差する複数のカーボンナノファイバであって、前記相互接続されたネットワーク構造は、厚さが3nmの下限から100nmの上限であり、最小EUV透過率が92%である、前記複数のカーボンナノファイバを含み、
前記複数のカーボンナノファイバは
、単一壁カーボンナノチューブ、多壁カーボンナノチューブ、及び少なくとも50%の二重壁カーボンナノ
チューブを含
み、
前記単一壁カーボンナノチューブの壁の数は1であり、前記二重壁カーボンナノチューブの壁の数は2であり、前記多壁カーボンナノチューブの壁の数は3以上である、ナノ構造フィルム。
【請求項2】
前記厚さが前記3nmの下限から40nmの上限である、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項3】
前記厚さが前記3nmの下限から20nmの上限である、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項4】
前記相互接続されたネットワーク構造の平均厚さが11nmである、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項5】
EUV透過率が95%超に上昇する、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項6】
EUV透過率が98%超に上昇する、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項7】
前記単一壁カーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの20~40%の割合を占め、
前記二重壁カーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの50%以上の割合を占め、残りのカーボンナノチューブは
前記多壁カーボンナノチューブである、請求項
1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項8】
前記単一壁カーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの20%超を占め、
前記二重壁カーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの75%超を占め、残りのカーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの残りの割合を占める
前記多壁カーボンナノチューブである、請求項
1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項9】
任意の
EUV透過測定領域における同じナノ構造フィルムからの任意の2つのEUV透過率測定値の差は5%未満である、請求項
7に記載のナノ構造フィルム。
【請求項10】
任意の
EUV透過測定領域における同じナノ構造フィルムからの任意の2つのEUV透過率測定値の差は2%未満である、請求項
9に記載のナノ構造フィルム。
【請求項11】
任意の
EUV透過測定領域における同じナノ構造フィルムからの任意の2つのEUV透過率測定値の差は0.4%未満である、請求項
10に記載のナノ構造フィルム。
【請求項12】
前記相互接続されたネットワーク構造
が少なくとも140mmx110mmのフルサイズである場合、前記相互接続されたネットワーク構造は、歪みが10sccmの
不活性ガスの流量下で3.5mm未満である、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項13】
前記歪みは10sccmの
不活性ガスの流量下で0.6mm未満である、請求項
12に記載のナノ構造フィルム。
【請求項14】
前記相互接続されたネットワーク構造
が少なくとも140mmx110mmのフルサイズである場合、3.5mbar/秒の
不活性ガスの流量下で
、前記相互接続されたネットワーク構造の歪みが0.1mm未満である、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項15】
前記相互接続されたネットワーク構造は、EUV照射下で0.3%未満の散乱を起こす、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項16】
前記ナノ構造フィルムは、金属、金属酸化物、または窒化物によってコンフォーマルにコーティングされ、前記金属は、ホウ素、ルテニウム、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデン、ルビジウム、イットリウム、ストロンチウム、またはロジウムから選択される、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項17】
前記ナノ構造フィルムは、面密度
が0.2μg/cm
2
~6.0μg/cm
2である、請求項5に記載のナノ構造フィルム。
【請求項18】
140mmx110
mmサイズの前記相互接続されたネットワーク構造は、歪みが3.5mbar/秒の
不活性ガスの流量下で
3.5mm未満である、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項19】
前記相互接続されたネットワーク構造が少なくとも140mmx110mmのフルサイズである場合、2Pa圧力下で、前記相互接続されたネットワーク構造の歪みが
4.0mm未満である、請求項
1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項20】
EUV透過率は、最小透過率92%以上最大透過率99%以下である、請求項1に記載のナノ構造フィルム。
【請求項21】
ペリクルであって、
開口部を規定するペリクル境界と、
前記ペリクル境界に取り付けられて、前記開口部を覆う少なくとも1つのナノ構造フィルムと、を含み
前記少なくとも1つのナノ構造フィルムは、
相互接続されたネットワーク構造を平面配向で形成するためにランダムに交差する複数のカーボンナノファイバであって、前記相互接続されたネットワーク構造は、厚さが3nmの下限から100nmの上限であり、最小EUV透過率が92%である、前記複数のカーボンナノファイバを含み、
前記複数のカーボンナノファイバは
、単一壁カーボンナノチューブ、多壁カーボンナノチューブ、及び少なくとも50%の二重壁カーボンナノ
チューブを含
み、
前記単一壁カーボンナノチューブの壁の数は1であり、前記二重壁カーボンナノチューブの壁の数は2であり、前記多壁カーボンナノチューブの壁の数は3以上である、前記ペリクル。
【請求項22】
前記ペリクル境界の前記開口部が140mmx110mmであり、前記少なくとも1つのナノ構造フィルムは、歪みが3.5mbar/秒の
不活性ガスの流量下で
3.5mm未満である、請求項
21に記載のペリクル。
【請求項23】
前記ペリクル境界の前記開口部が140mmx110mmである場合、2Pa圧力下で、前記
少なくとも1つのナノ構造フィルムは、歪みが
4.0mm未満である、請求項
22に記載のペリクル。
【請求項24】
ペリクルを通してEUV照射を伝達することを含むEUVリソグラフィを行う方法であって、
前記ペリクルは、開口部を規定するペリクル境界と、前記ペリクル境界に取り付けられて、前記開口部を覆う少なくとも1つのナノ構造フィルムとを含み、
前記少なくとも1つのナノ構造フィルムは、
相互接続されたネットワーク構造を平面配向で形成するためにランダムに交差する複数のカーボンナノファイバであって、前記相互接続されたネットワーク構造は、厚さが3nmの下限から100nmの上限であり、最小EUV透過率が92%である、前記複数のカーボンナノファイバを含み、
前記複数のカーボンナノファイバは
、単一壁カーボンナノチューブ、多壁カーボンナノチューブ、及び少なくとも50%の二重壁カーボンナノ
チューブを含
み、
前記単一壁カーボンナノチューブの壁の数は1であり、前記二重壁カーボンナノチューブの壁の数は2であり、前記多壁カーボンナノチューブの壁の数は3以上である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は全般的に、半導体マイクロチップ製造において用いる薄膜及び薄膜デバイスに関し、より詳細には、極端紫外線(EUV)リソグラフィ用の極薄超低密度ナノ構造の自立型ペリクルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ペリクルは、フォトマスクを覆う保護カバーであり、半導体マイクロチップ製造において用いられる。フォトマスクは、規定したパターンを通って光が透き通れるようにする孔または透明度を伴う不透明なプレートを指す場合がある。このようなフォトマスクは、フォトリソグラフィ及び集積回路の製造において広く用いられている場合がある。マスターテンプレートとして、フォトマスクを用いて基板(通常は、半導体チップ製造の場合にウェハーとして知られるシリコンの薄いスライス)上にパターンを生成する。
【0003】
粒子汚染は半導体製造において重大な問題となる可能性がある。フォトマスクは、ペリクル(フォトマスクのパターニングされた側面を覆って取り付けられたフレーム上で伸ばされる薄い透明フィルム)によって粒子から保護される。ペリクルはマスクに近いが十分に離れているため、ペリクル上に着陸する中~小サイズの粒子は焦点が外れすぎて印刷されない。近年、マイクロチップ製造業界は、ペリクルが、粒子及び汚染物質以外の原因から生ずる損傷からフォトマスクを保護し得ることに気付いた。
【0004】
極端紫外線リソグラフィは、EUV波長の範囲(より具体的には、13.5nm波長)を用いる高度な光リソグラフィ技術である。これにより、半導体マイクロチップ製造業者は、7nm以下の解像度でほとんどの精巧な特徴部をパターニングして、必要なスペースのサイズを増加させることなくさらに多くのトランジスタを配置することができる。EUVフォトマスクは光を反射させることによって機能する。光の反射は、モリブデン及びシリコンの複数の交互層を用いることによって実現される。EUV光源がターンオンすると、EUV光は最初にペリクルに衝突してそれを通過し、そしてフォトマスクの真下から反射して戻り、もう一度ペリクルに衝突することを、その経路を続けてマイクロチップを印刷する前に行う。このプロセスの間にエネルギーの一部が吸収され、その結果、熱が生成され、吸収され、蓄積され得る。ペリクルの温度は、600~1000℃以上にまで上がる場合がある。
【0005】
耐熱性は重要ではあるが、ペリクルはまた、フォトマスクからの反射光及び光パターンの通過を確実にするために、EUVに対して非常に透明でなくてはならない。
【0006】
2016年に、ポリシリコンベースのEUVペリクルが数10年の研究及び取り組みの後に開発されたが、シミュレートした比較的低出力の175ワットEUV源に対してEUV透過率はわずか78%であった。トランジスタ密度増加の要望により、厳しい要件が、EUVペリクル開発者に、より高い透過率、より低い透過率変動、より高い温度許容度、及び強い機械的強度に対するさらなる技術的課題を示している。
【0007】
カーボンナノチューブシート内に高い単一壁カーボンナノチューブ含有量(たとえば、98質量%もの高さ)を配置することによって、より高い光透過率を目標とすることが試みられているが、このような試みによって得られた製品は構造的に低品質であり、機械的強度及び/または耐久性の低下を引き起こした。したがって、このようなカーボンナノチューブベースの薄膜は、その構造的完全性をサポートするためにあるレベルの厚さを設ける必要がある。その結果、このようなカーボンナノチューブベース薄膜のEUV透過率は、依然として業界標準を満たしていなかった。したがって、従来の技術では、EUV光の透過率及びペリクルフィルムの厚さはさらなる進歩から制限されていた。
【発明の概要】
【0008】
本開示の態様により、特異的に構造化されたナノ構造フィルムが開示される。ナノ構造フィルムは、相互接続されたネットワーク構造を平面配向で形成するためにランダムに交差する複数のカーボンナノファイバであって、相互接続されたネットワーク構造は、厚さが3nmの下限から100nmの上限であり、最小EUV透過率が92%以上である、複数のカーボンナノファイバを含み、複数のカーボンナノファイバは少なくとも50%の二重壁カーボンナノファイバを含む。
【0009】
本開示の別の態様により、いくつかの実施形態では、厚さは3nmの下限~40nmの上限である。
【0010】
本開示の別の態様により、いくつかの実施形態では、厚さは3nmの下限~20nmの上限である。
【0011】
本開示のさらに別の態様により、いくつかの実施形態では、相互接続されたネットワーク構造の平均厚さは11nmである。
【0012】
本開示のさらなる態様により、いくつかの実施形態では、EUV透過率は95%超に上昇する。
【0013】
本開示のさらに別の態様により、いくつかの実施形態では、EUV透過率98%超に上昇する。
【0014】
本開示のさらなる態様により、複数のカーボンナノファイバはさらに単一壁カーボンナノチューブ及び多壁カーボンナノチューブを含み、単一壁カーボンナノチューブの壁の数は1であり、二重壁カーボンナノチューブの壁の数は2であり、多壁カーボンナノチューブの壁の数は3以上である。
【0015】
本開示の別の態様により、単一壁カーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの20~40%の割合を占め、二重壁カーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの50%以上の割合を占め、残りのカーボンナノチューブは多壁カーボンナノチューブである。
【0016】
本開示のさらなる態様により、単一壁カーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの20%超だが50%未満を占め、二重壁カーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの75%超を占め、残りのカーボンナノチューブは、すべてのカーボンナノチューブの残りの割合を占める多壁カーボンナノチューブである。
【0017】
本開示の別の態様により、任意の焦点領域における同じナノ構造フィルムからの任意の2つのEUV透過率測定値の差は5%未満である。
【0018】
本開示の別の態様により、任意の焦点領域における同じナノ構造フィルムからの任意の2つのEUV透過率測定値の差は2%未満である。
【0019】
本開示の別の態様により、任意の焦点領域における同じナノ構造フィルムからの任意の2つのEUV透過率測定値の差は0.4%未満である。
【0020】
本開示の別の態様により、ネットワーク(特に、EUVリソグラフィ用途またはリソグラフィスキャナに対する)は、歪みが一定の2Pa圧力下、10sccmの流量下、8sccmの流量下、3.5mbar/秒の下、または任意のスキャナ条件の下で3.5mm未満である。
【0021】
本開示の別の態様により、歪みは、一定の2Pa圧力下、10sccmの流量下、8sccmの流量下、3.5mbar/秒の下、または任意のスキャナ条件の下で0.6mm未満である。
【0022】
本開示の別の態様により、ネットワーク(特に、EUVリソグラフィ用途またはリソグラフィスキャナに対する)は、3.5mbar/秒のポンピングダウンスピードを受けるときに、フルサイズのEUVペリクル(約110x144mm、スキャナ内のレチクルからギャップ2.5mm)に対して、歪みが01mm未満である。
【0023】
本開示の別の態様により、ネットワークは、歪みが3.5mbar/秒の流量下で0.1mm未満である。
【0024】
本開示の別の態様により、ネットワークは、EUV照射下で0.3%未満の散乱を起こす。
【0025】
本開示の別の態様により、ナノファイバは金属、金属酸化物、または窒化物によってコンフォーマルにコーティングされ、金属は、ホウ素、ルテニウム、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデン、ルビジウム、イットリウム、ストロンチウム、またはロジウムから選択される。
【0026】
本開示の別の態様により、ナノ構造フィルムは、面密度が約0.2μg/cm2~約6.0μg/cm2である。
【0027】
本開示の態様により、ペリクルが開示される。ペリクルは、開口部を規定するペリクル境界、ペリクル境界に取り付けられて、開口部を覆う少なくとも1つのナノ構造フィルムと、を含む。
【0028】
本開示の別の態様により、EUリソグラフィを行う方法が開示される。本方法は、ペリクルを通してEUV照射を伝達することを含む。
【0029】
本開示を、以下の詳細な説明において、本開示の好ましい実施形態の非限定的な例として言及した複数の図面を参照して、さらに説明する。図面の複数の図の全体にわたって同様の文字は同様の構成要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】典型的な実施形態によるペリクルフィルムを形成するための濾過方法を例示する図である。
【
図2】典型的な実施形態によるサンプルA~サンプルIにおける異なる種類のCNT組成とそれらの機械的特性とを例示する図である。
【
図3A】典型的な実施形態によるDWCNTフィルムのミクロ構造の走査型電子顕微鏡(SEM)像を例示する図である。
【
図3B】典型的な実施形態による面密度を例示する図である。
【
図4A】典型的な実施形態による異なる面密度に対する550nmにおけるDWCNTフィルムの透明度及び吸光度を例示する図である。
【
図4B】典型的な実施形態による25x25mmサイズのDWCNTフィルムの2Paならびに破裂及び透過度における歪みに対する面密度の影響を例示する図である。
【
図4C】フィルム25x25mm及び2.9~3.0μg/cm
2の面密度に対して2Pa及び破裂におけるCNTフィルム歪みに対するDWCNT/MWCNT比の影響を例示する図である。
【
図4D】典型的な実施形態による最高率3.5mbar/秒におけるポンピングダウン中のフィルム110x140mm及び0.65μg/cm
2の面密度の歪みを例示する図である。
【
図4E】種々のDWCNT/MWCNT比によるCNTフィルムの破裂圧力に対する影響を例示する図である。
【
図5A】典型的な実施形態による2つの0.6μg/cm
2フィルム1x1cm
2サイズのEUV透明度の線形マップを例示する図である。
【
図5B】典型的な実施形態による2つの0.6μg/cm
2フィルム1x1cm
2サイズのEUV反射率の線形マップを例示する図である。
【
図6A】典型的な実施形態によるDWCNT多数組成フィルムの異なるサンプルのCNT束径を示す棒グラフの組を例示する図である。
【
図6B】典型的な実施形態によるDWCNT多数組成フィルムの異なるサンプルの主要な細孔軸を示す棒グラフの組を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
その種々の態様のうちの1つ以上を通して、本開示の実施形態及び/または具体的な特徴またはサブコンポーネントは、具体的に前述して以下に言及する利点のうちの1つ以上を明らかにすることが意図されている。
【0032】
ペリクルとは、半導体マイクロチップ製造の間にフォトマスクを保護する薄い透明な膜を指す場合がある。ペリクルは、製造中に粒子及び汚染物質がフォトマスク上に落ちないようにするダストカバーとして機能する場合がある。しかし、ペリクルは、リソグラフィを行うために光が透過できるように十分に透明でなければならない。より効果的なリソグラフィを行うためには、より高レベルの光透過が要求される。
【0033】
さらに、EUVリソグラフィ用のペリクルは、極端で固有の特性をともなう大きな(たとえば、110x140mmを上回る)自立型薄膜材料を必要とする。EUV照射の高い透明度に加えて、600℃を超える温度に対して耐性があり、機械的に頑強で、フォトリソグラフィプロセスの間の取り扱い、輸送、ポンピングダウン、及びベンティング動作に耐える必要がある。ガス透過度があるが、マイクロメートルサイズ粒子を保持する能力も望まれる。要求される高レベルの特性の数を考えると、効果的なEUVペリクルは従来、製造が難しかった。
【0034】
この態様では、このEUVペリクル用途に対するペリクルを形成するための可能な出発材料として、カーボンナノチューブを、その優れた熱及び機械的特性と多孔質フィルムを形成する能力とにより提案している。
【0035】
カーボンナノチューブ及びカーボンナノチューブフィルム
カーボンナノチューブ(CNT)には通常、複数の異なる種類がある。たとえば、限定することなく、単一壁CNT(SWCNT)、二重壁CNT(DWCNT)、多壁CNT(MWCNT)、及び同軸ナノチューブである。それらは、1つの種類で実質的に純粋に存在する場合もあるし、他の種類と組み合わせて存在する場合も多い。個々のCNTはいくつかの他と交差する場合がある。全体として、多くのCNTがメッシュ状の自立型ミクロ構造薄膜を形成することができる。このような形成は可能であるが、特にEUV透明度の高い極薄フィルムを作る場合、すべての試みにおいて保証とはならない場合がある。名前が示唆するように、SWCNTは1つのまたは単一壁を有し、DWCNTは2つの壁を有し、MWCNTは3つ以上の壁を有する。
【0036】
さらに、自立型フィルムを製造するいくつかの可能な方法の中で、濾過ベースのアプローチを用いて、小サイズのフィルムからEUVペリクル用の十分に大きくて均一なフィルムまでのフィルムを製造した。この濾過ベースの方法によって、CNTのフィルムだけでなく、他の高アスペクト比のナノ粒子及びナノファイバ(たとえば、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)または銀ナノワイヤ(AgNW))のフィルムの迅速な製造が可能になる。このアプローチでは、ナノ粒子合成方法とフィルム製造方法とを分けているため、実質的に任意の方法によって作成される異なる種類のナノチューブを用いてもよい。異なる種類のナノチューブを任意の所望の比率で混合することができる。濾過は、濾過プロセス中のフィルム厚の不均一性が局所的な透過度の変動によって自己補正されるという意味でセルフレベリングプロセスであり、したがって、非常に望ましいフィルム形成プロセスであり、また非常に均一なフィルムの製造に対する有望な候補でもある。
【0037】
図1に、典型的な実施形態によるペリクルフィルムを形成するための濾過方法を例示する。
【0038】
図1に例示するように、自立型カーボンナノチューブベースのペリクルフィルムを、濾過ベースの方法によって作成してもよい。動作101において、水性懸濁液を形成するために用いるべきカーボンナノチューブ(CNT)から触媒を取り除く。例では、懸濁液内に分散する前に、CNTを化学的に精製して、触媒粒子の濃度を、熱重量分析によって測定した1重量%未満または好ましくは0.5重量%未満に下げてもよい。触媒の除去は何らかの特定のプロセスまたは手順に限定されず、所望の結果を実現するために任意の好適なプロセスを用いてもよい。
【0039】
動作102において、精製したCNTが水性懸濁液内に均一に分散されように、水性懸濁液を精製したCNTを用いて調製する。1つ以上のCNT懸濁液を調製するときに、カーボンナノチューブ材料を選択した溶媒と混合して、懸濁液としての最終溶液内にナノチューブを均一に分散させることができる。混合としては、機械的混合(たとえば、電磁攪拌棒及び攪拌プレートを用いる)、超音波撹拌(たとえば、浸漬超音波プローブを用いる)、または他の方法を挙げることができる。いくつかの例では、溶媒は、プロトン性または非プロトン性極性溶媒、たとえば、水、イソプロピルアルコール(IPA)及び水性アルコール混合物、たとえば、60、70、80、90、95%IPA、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチル硫化物(DMS)、及びそれらの組み合わせとすることができる。例では、溶媒内でのカーボンナノファイバの均一分散を助けるために、界面活性剤を含めることもできる。界面活性剤の例としては、アニオン性界面活性剤が挙げられるが、これに限定されない。
【0040】
カーボンナノファイバフィルムは通常、MWCNT、DWCNT、またはSWCNTのうちの1つから形成される。カーボンナノファイバフィルムはまた、異なる種類のCNT(すなわち、SWCNT、DWCNT、及び/またはMWCNT)の混合物を、異なる種類のCNT間の比率を変えて含んでいてもよい。
【0041】
これらの3つの異なる種類のカーボンナノチューブ(MWCNT、DWCNT及びSWCNT)はそれぞれ、特性が異なる。一例では、単一壁カーボンナノチューブは、ランダム配向されたカーボンナノチューブのシートへの以後の形成に対して、溶媒内により好都合に分散させることができる(すなわち、ナノチューブの大部分が別個に懸濁されて、他のナノチューブ上に吸着されない)。このように個々のナノチューブを溶媒内に均一に分散できる結果、懸濁されたナノファイバから溶媒を取り除くことによって形成されるより平面的に均一なナノチューブフィルムを製造することができる。この物理的均一性によって、フィルムにわたる特性(たとえば、照射に対する透明度)の均一性を改善することもできる。
【0042】
本明細書で用いる場合、用語「ナノファイバ」は直径が1μm未満のファイバを意味する。本明細書で用いる場合、用語「ナノファイバ」及び「ナノチューブ」は交換可能に使用され、両方とも、単一壁カーボンナノチューブ、二重壁カーボンナノチューブ、及び/または多壁カーボンナノチューブ(炭素原子が互いにリンクされて円筒形構造を形成する)を包含する。
【0043】
例では、動作102において最初に形成した水性CNT懸濁液は、少なくとも85%を超える純度のSWCNTを有していてもよい。残りは、DWCNT、MWCNT、及び/または触媒の混合物であり得る。他の例では、異なる種類のCNTを種々の比率で伴う分散されたCNT懸濁液を調製してもよい。たとえば、約20%/75%DWCNT/SWCNT、約50%/45%DWCNT/SWCNT、約70%/20%DWCNT/SWCNT(残りはMWCNTが占める)である。例では、アニオン性界面活性剤を懸濁液内での触媒として用いてもよい。
【0044】
動作103において、CNT懸濁液を次に、さらに精製して、最初の混合物から凝集または膠着したCNTを取り除く。例では、異なる形態のCNT(非分散または凝集対十分に分散)を、遠心分離によって懸濁液から分離してもよい。次の濾過ステップに進む前に、界面活性剤懸濁されたカーボンナノチューブの遠心分離が、懸濁液溶液の濁度を減らして、最終的な懸濁液溶液内でのカーボンナノチューブの全分散を確実にすることを助けてもよい。しかし、本開示の態様はこれに限定されず、他の分離方法またはプロセスを用いてもよい。
【0045】
動作104において、動作103からのCNT上澄みを次に、濾過膜を通して濾過して、CNTウェブ(交差するCNTのフィルムの連続シート)を形成する。
【0046】
例では、CNTフィルムを作るための1つの手法は、水または他の流体を用いて、濾過器上にナノチューブをランダムパターンで堆積させる。均一に分散したCNT含有混合物を濾過器に通らせてまたは強制的に通して、濾過器の表面上にナノチューブ構造層を残す。結果として生じる膜のサイズ及び形状は、濾過器の所望の濾過面積のサイズ及び形状によって決定され、一方で、膜の厚さ及び密度は、プロセス中に用いるナノチューブ材料の数量と入力材料の成分に対する濾過膜の透過度とによって決定される。なぜならば、透過成分は濾過器の表面上に捕捉されるからである。流体中に分散したナノチューブの濃度が分かっている場合、濾過器上に堆積されるナノチューブの質量は、濾過器を通過する流体の量から決定することができ、フィルムの面密度は、ナノチューブ質量を総濾過面積で割って決定することができる。選択した濾過器は通常、どんなCNTに対しても透過性ではない。
【0047】
濾過形成されたCNTフィルムは、SWCNT、DWCNT、及び/またはMWCNTを異なる組成で組み合わせたものであり得る。
【0048】
動作105において、CNTフィルムを次に、濾過膜から取り外す。より具体的には、カーボンナノファイバはランダムに交差されて、相互接続されたネットワーク構造を平面配向で形成し、薄いCNTフィルムを形成し得る。
【0049】
動作106において、持ち上げたCNTフィルムを次に、回収器フレームを用いて回収し、そして、実質的に任意の固体基板(たとえば、開口部が規定されたペリクル境界)上に直接移して取り付ける。CNTフィルムをペリクル境界に取り付け、開口部を覆ってペリクルを形成する。移したフィルムを、1x1cmほどの小さい開口部を伴う金属フレームまたはシリコンフレーム上に取り付けたものが、有用であり得る。実際のEUVスキャナに対しては、はるかに大きいサイズのフィルムの需要が高い。CNTフィルム特徴付け(たとえば、その機械的強度、歪み試験、透過度試験、定圧におけるまたはポンピングダウン状態中の歪み)を、行ってもよい。EUVリソグラフィスキャニングに対するフルサイズのペリクルは、現在の業界標準に基づいて、極薄の自立型フィルム(通常は110x140mmよりも大きい)を必要とし得る。
【0050】
本開示の典型的な実施形態は、既知の先行技術とは異なる構造を有する一方で、EUVリソグラフィ要件を満足するかまたは超える特性を示す濾過されたCNTペリクルフィルムを扱う。EUVリソグラフィ要件としては、限定することなく、EUV透過率(EUVT)、EUVT均一性、低歪み、及び機械的強度(圧力変化下で)が挙げられる。
【0051】
このペリクルフィルムの構造によって、極薄ペリクルフィルムが得られる。これは、非常に高いEUVT(たとえば、92%、95%、または98%でさえも上回る)を可能にする一方で、極めて温度耐性があり(たとえば、600℃を超える温度に対して耐性がある)、また機械的に頑強である。例では、最小EUVTは92%以上の値であり得る。
【0052】
前述した開示内容はCNT及び水溶液に対して示したが、本開示の態様はこれに限定されず、異なるナノチューブ(たとえば、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT))を同じ原理によって用いてもよい。
【0053】
前述の薄膜は種々の方法によってコンフォーマルにコーティングしてもよい。たとえば、限定することなく、電子ビーム、化学気相成長法、原子層堆積、スピンコーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スパッタリング、DCスパッタリング、及びRFスパッタリングである。材料は、以下のうちのいずれか1つを含む金属元素であってもよい。シリコン、SiO2、SiON、ホウ素、ルテニウム、ホウ素、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデン、ルビジウム、イットリウム、YN、Y2O3、ストロンチウム、及び/またはロジウム。材料は金属、金属酸化物、または窒化物のうちのいずれか1つであってもよい。しかし、本開示の態様はこれに限定されず、コーティングにおいて材料の組み合わせを用いてもよい。
【0054】
CNTペリクルミクロ構造
CNTペリクルフィルムミクロ構造を分析するために、カーボンナノチューブフィルムサンプルを、標準的な透過電子顕微鏡サンプル調製ガイドに従って調製した。結果として生じる高解像度の透過型電子顕微鏡(HRTEM)を分析した。700K倍率の典型的な画像に、1つのCNT~8つのCNTが示され得る。DiameterJプラグインツール(米国標準技術局)または類似の分析ツールを適用して、HRTEM画像を検討した。各CNTに対する壁の数をカウントした。典型的な結果を、他の測定とともに、下表1に示す。
【0055】
【0056】
上で示したように、CNTペリクルフィルムサンプルはそれぞれ、約51%以上のDWCNT組成を示し、残りはSWCNT及びMWCNTの組み合わせで構成されていた。4つすべてのサンプル間でのDWCNTの平均割合は、60%を超える値に等しい。
【0057】
別の試験では、CNTペリクルフィルムは、20%超のSWCNT、75%超のDWCNTを示し、残りはMWCNTで構成されていた。
【0058】
上述に加えて、SWCNTは、CNTペリクルフィルムに含まれるすべてのCNTの20~40%の割合を占め得ること、またDWCNT及びMWCNTは、すべてのカーボンナノチューブの50%超の割合及び10%未満の割合をそれぞれ占め得ることが示された。
【0059】
サンプルA~サンプルGの典型的な分析結果(
図2より)は、DWCNTが、CNT総含有量の50%超を占めたときに、最良の機械的強度をもたらすことを示している。より具体的には、
図2のサンプルA~サンプルGは、DWCNT優勢なCNTペリクルフィルムに対する機械属性値を例示している。
【0060】
図2に例示するように、DWCNT優勢なCNTペリクルフィルムは、SWCNTペリクルフィルム(サンプルH参照)と比べて著しく高い破裂圧力値をもたらす。より具体的には、DWCNT優勢なCNTペリクルフィルムはほぼ136.0Pa~203.6Paの破裂圧力値を含み、一方でSWCNTペリクルフィルムは破裂圧力が66.6Paであり、DWCNT優勢なCNTペリクルフィルムの最も低い破裂圧力値の半分未満である。
【0061】
さらに、
図2では、DWCNT優勢なCNTペリクルフィルムが、2Paの圧力において顕著により低い歪み値を示すことも見られる。1つのケースでは、DWCNT優勢なCNTペリクルフィルムサンプルの歪み値(0.047mm)は、SWCNTペリクルフィルムの歪み値(0.097mm)のほぼ半分である。歪み値がより低いことによって、CNTペリクルフィルムはEUVリソグラフスキャナ内の許されるスペース内に留まることができる。
【0062】
最後に、
図6A(200K倍率)に、典型的な実施形態によるDWCNT多数組成フィルムの異なるサンプルの直径を示す棒グラフの組を例示する。
図6B(100K倍率)に、典型的な実施形態によるDWCNT多数組成フィルムの異なるサンプルの主要な細孔軸を示す棒グラフの組を例示する。
【0063】
図6A及び
図6Bは、SEM像分析に基づいて種々のDWCNT多数組成フィルムサンプルの種々のCNT束径及び孔径の典型的な分布を例示している。
図6Aに例示するように、3つの別個のサンプルに対する平均束径はそれぞれ、18.7±10.5nm、12.8±6.9nm、及び12.1±7.5nmである。さらに、
図6Bに例示するように、3つの別個のサンプルに対する平均孔径はそれぞれ、38.911±35.011nm、42.286±36.826nm、及び40.535±35.906nmである。
【0064】
薄膜厚
本開示の典型的な実施形態をさらに、高いEUVTを決定して確実にするのに重要なその厚さに対して分析する。より具体的には、ディメンションアイコンAFMインスルメントを最初に、米国標準技術局(NIST)追跡可能標準に対して較正した。面積がほぼ90μmx90μmのCNTペリクルフィルムを、AFM2D及び3D高さイメージングに対して選択した。ステップ高さ分析を行ってフィルム厚を測定した。3つのカーボンナノチューブフィルムサンプルから3回の測定を行って、読み取り値はそれぞれ11.8nm、10.6nm、及び11.4nmであった。試験対象物の平均厚さは約11.3±0.6nmであった。
【0065】
さらに、さらなる測定セットに基づいて、厚さ値として3nm~100nm、3nm~40nm、及び3nm~20nmが得られた。
【0066】
加えて、他のサンプルでは、厚さ値は3nm~100nm、3nm~40nm、及び3nm~20nmでもあり得る。しかし、本出願の態様はこれに限定されず、範囲は下端値が3nm~5nm、上端値が20nm~100nmであってもよい。
【0067】
DWCNT優勢なCNTペリクルフィルムが示すはるかに高い機械的強度を考えると、DWCNT優勢なCNTペリクルフィルムを極めて薄く構成して、より高いEUVT値を得ることが、EUVスキャナにおいて用いる機械的強度または完全性を犠牲にすることなくでき得る。
【0068】
可視光線及びEUV透過率
サンプルのEUV透過率を現在の業界標準の13.5nm波長を用いて測定した。EUVTマップをEUVスキャニング結果に基づいて形成して、透過率の変動及び/または均一性を実証及び測定した。
【0069】
サンプルに対する高強度EUV照射下でのEUV透過率測定及びペリクル寿命試験を行った。EUV照射を、照射強度5.1w/cm2(250W光源を用いたときのEUVマスク上での強度に相当する)により、また5Paの水素ガスを導入して行った。この試験における総EUVドーズは73kJ/cm2であり、これはほぼ14,000枚のウェハー処理に相当する。
【0070】
濾過形成されたCNTペリクルフィルムは、全般的に92%を超える高いEUV透過率を示し、場合によっては95%超または98%未満の結果であった。たとえば、
図5Aを参照のこと。たとえば、フルサイズのペリクルフィルム(約110mmx144mm)のサンプル全体スキャンによって、平均96.69±0.15%透過率が示され、1.5mmx1.5mm中心領域のスキャンによって、平均96.75±0.03%透過率が得られる。EUVT均一性を評価するための非常に厳しい基準を用いて、任意の焦点領域における同じナノ構造フィルムからの任意の2つのEUVT測定値の差を計算する。この要件は、5%未満、2%未満、さらには1.0%未満またはそれ以下となる可能性がある。この典型的な実施形態のフルサイズのペリクルの場合、マルチポイントEUVT均一性試験結果(サンプルあたり100ポイント測定)は、1.5%未満、0.9%未満、0.6%、または0.4%未満の何らかの極めて小さい変動を示す。
【0071】
図5に、典型的な実施形態による濾過形成されたCNTペリクルフィルムのEUV透明度、反射率、及び散乱を例示する。より具体的には、
図5Aは、典型的な実施形態による1x1cm
2サイズの2つの0.6μg/cm
2フィルムのEUV透明度の線形マップを例示する。
図5Bは、典型的な実施形態による、1x1cm
2サイズの2つの0.6μg/cm
2フィルムのEUV反射率の線形マップを例示する。
【0072】
図5に例示するように、濾過形成されたCNTペリクルフィルムはEUV透明度が97%を超えており、並外れて低い反射率及び散乱レベル0.21%である。より具体的には、
図5Aは、サンプルA及びBの両方に対して97%~99%のEUVT値を例示しており、EUVT値の大部分は98%~99%である。
図5Aに例示するように、本開示において提供されるCNTペリクルフィルムは、これまで実現できなかった非常に高いEUVT値をもたらす。高いEUVT値を考えると、
図5Bに見られるように、CNTペリクルフィルムは反射率値が非常に低く、値の大部分は0.00005mm未満に存在し、値のほとんどすべては0.00010mm未満である。前述に基づいて、非常に高いEUVT値及び非常に低い反射率値を考えると、大部分の構造(少なくとも50%)がDWCNTであるCNTペリクルフィルムは、EUV照射のほとんどすべてを透過させることが分かる。
【0073】
さらに、CNTペリクルフィルムの面密度は可視光線透過率及び可視光線吸光度に影響を及ぼす。これに関連して、
図4Aに、典型的な実施形態による、異なる面密度に対する550nm(たとえば、可視光線)におけるDWCNTフィルムの透明度及び吸光度を例示する。
【0074】
図4A(I)に典型的に例示するように、面密度と550nm波長透過率との間の反比例関係が存在する。反比例関係を
図4A(II)に典型的に例示する。一端において、面密度0.62μg/cm
2は、平均550nm波長における透過率値93.833%となる。反対端において、面密度3.11μg/cm
2は、平均550nm波長における透過率値72.900%となる。
【0075】
他方では、面密度と吸光度との間の直接的関係が存在する。直接的関係を
図4A(III)に典型的に例示する。一端において、面密度0.62μg/cm
2は平均吸光度値0.028となる。反対端において、面密度3.11μg/cm
2は吸光度値0.137となる。
【0076】
EUVに対するCNTペリクルの機械的特性
本出願の典型的な実施形態によって、製品輸送及び取り扱いに対する十分で満足のいく機械的強度を伴うCNTペリクルが提供される。ペリクルは、その環境(たとえば、限定することなく、EUVリソグラフィスキャナ環境)を囲む任意の所望の圧力変化を維持し得る。
【0077】
広く適用される機械的な特徴付けはバルジ試験であった。たとえば、試験用の膜を境界の平坦面上に取り付けてもよく、膜のベースラインを設定してもよい。そして、不活性ガスの最初の流れを、低い安定した圧力で、膜の中心領域を目指して垂直に加えて局所表面を高くしてもよい。ガス圧力は徐々に増え続けて膜をさらに変形させ、これを圧力が所定の値(2Pa歪み試験の場合に2パスカル)に達するまで続ける。またこの値は、約10sccmの流量下、3.5mbar/秒の下、または任意のスキャナポンプダウン条件の下であってもよい。変形した膜の最も高い先端とそのベースラインとの間の距離を測定してもよい。結果を2Paにおける歪みとして記録してもよい。歪み試験を2Pa以外の種々の圧力で行ってもよい。
【0078】
このガス流圧力を増加させると、最終的に膜を破裂させ得る。この圧力を破裂圧力として記録してもよく、その破裂直前の膜歪みを破裂歪みと言う場合がある。
【0079】
さらに、薄膜歪みを、方法(たとえば、物理的手段または化学的手段による張力調整が挙げられるが、これに限定されない)によって故意に調整してもよい。
【0080】
図4Bに、典型的な実施形態による10x10mmのサイズのDWCNT優勢なフィルムの2Pa定圧及び破裂における歪みに対する面密度の影響を例示する。
図4Cに、フィルム10x10mm及び2.9~3.0μg/cm
2面密度に対する2Pa及び破裂におけるDWCNTフィルム歪みへのMWCNT濃度の影響を例示する。
図4Dに、典型的な実施形態による最高率3.5mbar/秒におけるポンピングダウン中のフィルム110x140mm及び0.65μg/cm
2面密度の歪みを例示する。
図4Eに、現実施形態をサポートする根拠を示す、種々のDWCNT/MWCNT比に対するフィルムの破裂圧力を例示する。
【0081】
フィルムの構造は高多孔性であってもよい。たとえば、
図3A及び
図3Bを参照のこと。また面密度に非常に依存し得る。より具体的には、フィルムは非常に多孔性であり得るため、フィルム厚の代わりに面密度(μg/cm
2)を用いてもよい。またミクロ構造のこの変化がフィルムの機械的特性に非常に影響する(
図4B)。加えて、可視光線吸収も影響を受ける。これらのフィルムは、範囲測定においてランベルトベールの法則をかなり良く観察していると思われる。たとえば、
図4Aを参照のこと。例では、CNTペリクルフィルム(フルサイズフィルムを含む)は、面密度が約0.2μg/cm
2~約6.0μg/cm
2であり得る。
【0082】
典型的な実施形態のフルサイズCNTペリクルの歪み試験に基づいて、CNTフィルムを構成するネットワークCNTは、歪みが、一定の2Pa圧力下において、4.0mm未満、3.0mm、1.5mm、または0.6mm未満であり得る。
【0083】
種々のサイズの膜(1cmx1cmから最大で12cmx15cm)を試験した。しかし、本開示の態様はこれに限定されず、本明細書で指定しない他のサイズの試験も可能であり得る。
【0084】
BNNTフィルムのミクロ構造は、CNTフィルムにやや類似しているが、アスペクト比がより低く、利用できる原材料の性質及び低純度に起因してより多くの不純物を含んでいる。
【0085】
低面密度CNTフィルムは、高いEUV透過率を目指して製造でき得るが、フィルムがその外圧変化の影響を非常に受けやすくなる場合がある。CNTフィルムの面密度を増加させることによって、定圧におけるフィルムの歪みが非常に小さくなる場合があり、また破裂点における伸びがわずかに増える場合がある。たとえば、
図4Bを参照のこと。
【0086】
図4B(I)に典型的に例示するように、低面密度側の0.62μg/2は、2Paの圧力における平均歪み値0.098mmとなる。一方で、高面密度側の3.11μg/2は、2Paの圧力における平均歪み値0.012mmとなる。2Paにおける面密度と歪み値との間の反比例関係を、
図4B(II)に典型的に例示する。
【0087】
図4B(I)ではまた、CNTフィルムの破裂点における面密度値と歪み値との間の略直接的関係を明示している。たとえば、低面密度側の0.62μg/2は、破裂における平均歪み値0.289mmとなる。一方、高面密度側の3.11μg/2は、破裂における平均歪み値0.380mmとなる。破裂における面密度及び歪み値との間の関係を、
図4B(III)に典型的に例示する。
【0088】
しかし、基本的なEUV透明度能力に影響する場合があり、最終的には、このような高面密度フィルムをEUVリソグラフィに対して適用できなくなる場合がある。
【0089】
使用するCNTの種類(すなわち、MWCNT)の影響を
図4Cに示す。MWCNTフィルムは、同じ圧力においてDWCNTフィルムよりも高い歪みを示し、フィルムの材料のより低いヤング率(より柔らかい)と、破裂におけるより低い伸び(より脆い)を示す破裂におけるより低い歪みとを示す。これに対する説明は、同じ面密度において、MWCNTで形成されるフィルムはDWNCTで形成されるフィルムよりも、面積あたりのナノチューブ全長が短いということであり得る。それは、ナノチューブ間の接点がより少ないことを意味し、より弱い材料につながり得る。
【0090】
より具体的には、
図4C(I)に、異なる組成比のDWCNT及びMWCNTを有する種々のCNTフィルムサンプルに対する2Paの圧力における平均歪み値及び最大歪み値を例示する。
図4C(I)に示すように、100%DWCNTからなるCNTフィルムは、2Paの圧力における平均歪み値0.030mm、及び最大歪み値0.379mmとなる。さらに、75%DWCNT及び25%MWCNTからなるCNTフィルムは、2Paの圧力における平均歪み値0.029mm、及び最大歪み値0.345mmとなる。50%DWCNT及び50%MWCNTからなるCNTフィルムは、2Paの圧力における平均歪み値0.052mm、及び最大歪み値0.336mmとなる。25%DWCNT及び75%MWCNTからなるCNTフィルムは、2Paの圧力における平均歪み値0.072mm、及び最大歪み値0.307mmとなる。最後に、100%MWCNTからなるCNTフィルムは、2Paの圧力における平均歪み値0.066mm、及び最大歪み値0.300mmとなる。
図4C(I)に例示するように、100%MWCNTが生成する2Pa圧力における歪み値(すなわち、0.066mm)は、100%DWCNTに対する2Pa圧力における歪み値(すなわち、0.030mm)の2倍を上回っている。2Pa圧力における歪み値とMWCNT組成比との間の直接的関係を、
図4C(II)に例示する。最大歪み値とMWCNT組成比との間の反比例関係を、
図4C(III)に例示する。
【0091】
実質的に、純粋なDWCNTフィルムは、より高い機械的強度を示す。
図4Eに、DWCNT~MWCNTの種々の比率に対する(Pa)破裂圧力を示す。すべてのフィルムは類似の面密度及び透明度を有していた。DWCNTはMWCNTよりも著しく強い。
【0092】
図2に、主として単一壁カーボンナノチューブからなるCNTフィルムは、大部分の組成が二重壁カーボンナノチューブであるCNTフィルムとは大きく異なる値を有することを例示する。
図2はさらに、DWCNT優勢なCNTフィルムに対して2Paにおいて測定した平均歪み値0.0967mmは、SWCNTフィルムに対する下限範囲値0.0473mmのほぼ2倍であることを例示する。さらに、SWCNTフィルムは、はるかに低い平均破裂圧力66.61Paを示す。最後に、平均破裂歪み0.498mmがDWCNT優勢なCNTフィルムに対して得られ、これに対して、0.097mmがSWCNTフィルムに対して得られている。また、
図2において、同程度のサイズの複合MWCNTフィルムも、DWCNT優勢なCNTフィルムと比べて破裂圧力及び歪みにおけるその弱さを示している。
【0093】
図2に典型的に例示するように、大部分がDWCNT(たとえば、少なくとも50%)からなるCNTフィルムは、より高い透過率を伴う顕著により低い歪み、より高い構造強度を示す顕著により高い破裂抵抗を有する。
【0094】
寿命試験
典型的な実施形態による濾過形成されたCNTペリクルフィルムの典型的な寿命試験。1x1cm2CNTペリクルは、EVU照射後も損なわれないままである。それは、パワー5.1w/cm2においてドーズ73kJ/cm2にさらされた。
【0095】
さらに、パワー20w/cm2を4時間施した90kJ/cm2に相当するドーズ(600ワットエネルギー源に相当する)を用いたフルサイズCNTペリクルのEUV照射試験によって、破壊されていないCNTフィルムが実証された。この試験ドーズは、ほぼ32,000ウェハーを処理するのに必要な総照射量に相当し得る。
【0096】
前述で示したように、発明者らは、EUVスキャナ環境におけるEUVペリクルとして用いるべき適切な次元を伴う自立型のナノ粒子フィルムを製造できる可能性を実証した。CNT材料の十分に薄い単一壁で形成されると、これらのフィルムは、高いEUV透明度(たとえば、92%を上回る)、低い散乱(たとえば、0.3%未満)を有し、フルサイズEVUペリクルに対して輸送、取り扱い、及びポンピングダウン動作に耐える十分な機械的に安定性及び多孔性(たとえば、3.5mbar/秒のポンピングダウンにおいて0.1mm未満の歪み)を保持する。
【0097】
さらに、フィルムは、250W~600WのEUVスキャナに相当するドーズ及びパワーにおけるEUV照射に耐える。
【0098】
本明細書で説明した実施形態の例示は、種々の実施形態の一般的な理解を与えることを意図している。例示は、本明細書に記載の生成物または方法を構成する生成物及び方法の要素及び特徴部のすべてを完全に説明するものとして機能することは意図していない。本開示を検討すれば、他の多くの実施形態が当業者には明らかとなり得る。他の実施形態が本開示から利用及び導出され得るため、本開示の範囲から逸脱することなく構造的及び論理的な置換及び変更が行われ得る。さらに、例示は単に代表であり、一定の比率で描かれてはいない場合がある。例示内でのある割合は誇張されている場合があり、一方で他の割合は最小限にされている場合がある。したがって、本開示及び図は限定ではなくて例示的であると考えるべきである。
【0099】
本明細書では、本開示の1つ以上の実施形態に、単に便宜上及び本出願の範囲を何らかの特定の発明または発明概念に自発的に限定することを意図することなく、用語「発明」によって個別に及び/または一括して言及している場合がある。また、本明細書では特定の実施形態について例示及び説明してきたが、当然のことながら、同じまたは類似の目的を実現するようにデザインされた任意の後続の配置を、示した特定の実施形態の代わりに用いてもよい。本開示は、種々の実施形態のありとあらゆる後続の適応または変化に及ぶことを意図している。本説明を検討すれば、前述の実施形態の組み合わせ及び本明細書では具体的に記載していない他の実施形態が当業者には明らかである。
【0100】
本開示の要約は、特許請求の範囲の範囲または意味を解釈または限定するために使用されないことを理解して提出される。加えて、前述の詳細な説明では、本開示を簡素化する目的で、単一の実施形態において種々の特徴部を一緒にグループにするかまたは説明している場合がある。本開示は、請求に係る実施形態が、各請求項において明確に説明したものよりも多い特徴部を必要とするという意図を反映していると解釈してはならない。むしろ、以下の請求項が反映するように、本発明の主題は、開示した実施形態のうちのいずれかの特徴部の全部未満に向けられている場合がある。したがって、以下の請求項は詳細な説明に組み込まれており、各請求項は、個別に請求された主題を規定するものとして独立している。
【0101】
前述で開示した主題は例示的であって限定ではないと考えるべきであり、添付の請求項は、すべてのこのような変更、拡張、及び他の実施形態であって本開示の真の趣旨及び範囲に含まれるものを対象として含むことが意図されている。したがって、法律によって許容される最大程度まで、本開示の範囲は、以下の請求項及びそれらの均等物の最も広い許容される解釈によって決定されるべきであり、前述の詳細な説明によって制限も限定もしてはならない。