(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】コンクリート部材の継手構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/32 20060101AFI20231128BHJP
【FI】
E04B1/32 101C
(21)【出願番号】P 2023129740
(22)【出願日】2023-08-09
【審査請求日】2023-08-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯▲崎▼ 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】藤田 優真
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-017208(JP,A)
【文献】特開2001-020915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04B 1/38-1/61
F16B 5/00-5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合されるコンクリート部材の接合端面の一方に配置される雄側継手と、コンクリート部材の接合端面の他方に配置され、雄側継手が結合される雌側継手とを備えたコンクリート部材の継手構造において、
前記雄側継手は
、雌側継手側に挿入される継手部材
と、一方の接合端面に埋設される継手板とを有し、
前記雌側継手は雌側継手に挿入された継手部材に係合することにより継手部材の反挿入方向への移動を規制する係合部材を有し、
継手板は継手部材に設けた雄ねじ部を挿通する挿通孔を有するとともに、挿通孔を挿通する継手部材の雄ねじ部に螺合するナットによって継手部材が継手板に締結され、
継手板の背面側には、コンクリート部材の外面に開口し、継手部材へのナットの着脱を行うための凹状空間が設けられ、
前記雄側継手は、継手部材が雌側継手に挿入されている結合状態で継手部材を雌側継手内に残したまま分離可能に構成されている
ことを特徴とするコンクリート部材の継手構造。
【請求項2】
前記雄側継手は、雄側継手から分離され且つ雌側継手に挿入されている既存の継手部材を雄側継手に新たに取り付けられた継手部材によって雌側継手内の奥に押し込みながら新たな継手部材を雌側継手内に挿入して係合部材に係合可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1記載のコンクリート部材の継手構造。
【請求項3】
前記雌側継手は、雌側継手に挿入された継手部材を受容するハウジングを有し、
ハウジングは、前記既存の継手部材と新たな継手部材とを受容可能な長さに形成されている
ことを特徴とする請求項2記載のコンクリート部材の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば仮設住宅、多目的シェルター、バンガロー、倉庫、商業施設、簡易住居、学校、病院、オフィスビルなど、主にコンクリート建物に用いられるコンクリート部材の継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自然災害(地震、津波、洪水、台風等)による緊急事態が発生した場合、被災者のために仮設住宅を設置することにより、避難所として一時的な住居を提供する対策がとられる。しかしながら、仮設住宅は一戸建やマンション等の一般住宅と比べて構造が簡素であるため、耐久性、耐火性、遮音性、断熱性に劣るという欠点がある。このため、居住者にとって仮設住宅は必ずしも快適とはいえず、特に長期間居住する被災者にとっては生活面で支障を来すことも少なくない。
【0003】
そこで、コンクリート建築による仮設住宅を設置すれば、耐久性、耐火性、遮音性を向上させることができるが、コンクリート建築は基礎工事、型枠工事、コンクリート打設等の大掛かりな施工が必要になるとともに、建築コストも高くなることから、仮設住宅として用いることは現実的ではない。
【0004】
また、建物本体を複数のコンクリート部材に分割し、各コンクリート部材を工場等で製作するとともに、設置場所に運搬して現場で組み立てることにより、一般のコンクリート建築の工法よりも容易且つ安価に小規模住居を構築するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述のように工場等で製作したコンクリート部材を用いて建物本体を現場で組み立てるようにしたものでは、各コンクリート部材をボルト及びナットにより接合するようにしているが、各コンクリート部材の接合端面は数多くの接合箇所を有するため、これらの接合箇所をボルト及びナットにより接合するのでは、ボルト及びナットの締結作業が煩雑となり、建物本体の組立作業を効率よく行うことができないという問題点があった。
また、建物本体が不要になった場合や、建物本体を他の場所に移設する場合など、各コンクリート部材の接合を解除して建物本体を解体する場合には、解体作業が煩雑になるという問題点もあった。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コンクリート部材の接合作業を容易且つ迅速に行うことができるとともに、コンクリート部材の接合解除も容易に行うことのできるコンクリート部材の継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記目的を達成するために、互いに接合されるコンクリート部材の接合端面の一方に配置される雄側継手と、コンクリート部材の接合端面の他方に配置され、雄側継手が結合される雌側継手とを備えたコンクリート部材の継手構造において、前記雄側継手は、雌側継手側に挿入される継手部材と、一方の接合端面に埋設される継手板とを有し、前記雌側継手は雌側継手に挿入された継手部材に係合することにより継手部材の反挿入方向への移動を規制する係合部材を有し、継手板は継手部材に設けた雄ねじ部を挿通する挿通孔を有するとともに、挿通孔を挿通する継手部材の雄ねじ部に螺合するナットによって継手部材が継手板に締結され、継手板の背面側には、コンクリート部材の外面に開口し、継手部材へのナットの着脱を行うための凹状空間が設けられ、前記雄側継手は、継手部材が雌側継手に挿入されている結合状態で継手部材を雌側継手内に残したまま分離可能に構成されている。
【0009】
これにより、雄側継手の継手部材を雌側継手側に挿入するだけで接合が完了することから、雄側継手と雌側継手とを結合する際、人手によるボルトやナットの締結作業等を必要としない。また、継手部材が雌側継手に挿入されている結合状態で、凹状空間内で継手部材の雄ネジ部からナットを取り外して継手部材を雄側継手から分離することにより、雄側継手と雌側継手との結合が解除され、継手部材を雌側継手内に残したまま一方の接合端面と他方の接合端面とが分離する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、雄側継手と雌側継手とを結合する際、人手によるボルトやナットの締結作業等を必要としないので、コンクリート部材の接合作業を容易且つ迅速に行うことができる。また、コンクリート部材同士の接合を解除する場合には、ナットの取り外しのみによって雄側継手の継手部材を雌側継手内に残したまま一方の接合端面と他方の接合端面とを分離することができるので、コンクリート部材同士の接合解除を極めて容易に行うことができる。これにより、コンクリート部材を接合してなる建物等を解体する場合、解体作業を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る継手構造を用いた組立式コンクリート建物の斜視図
【
図12】雄側継手及び雌側継手の結合工程を示す平面断面図
【
図13】雄側継手及び雌側継手の結合状態を示す平面断面図
【
図14】雄側継手及び雌側継手の結合解除工程を示す平面断面図
【
図15】雄側継手及び雌側継手の結合解除工程を示す平面断面図
【
図16】第1の本体側コンクリート部材の運搬状態を示す平面図
【
図17】第2の本体側コンクリート部材の運搬状態を示す平面図
【
図28】本発明の第2の実施形態を示す雄側継手及び雌側継手の結合工程を示す平面断面図
【
図29】雄側継手及び雌側継手の結合状態を示す平面断面図
【
図30】雄側継手及び雌側継手の結合解除工程を示す平面断面図
【
図31】雄側継手及び雌側継手の結合解除工程を示す平面断面図
【
図32】雄側継手及び雌側継手の再結合工程を示す平面断面図
【
図33】雄側継手及び雌側継手の再結合状態を示す平面断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至
図27は本発明の第1の実施形態を示すもので、例えば仮設住宅として用いられる組立式コンクリート建物に用いるコンクリート部材の継手構造を示すものである。
【0013】
本実施形態の組立式コンクリート建物は、建物本体1の前後方向中間部に配置される少なくとも一つの本体ユニット10と、建物本体1の前後方向の一端側または両端側に配置される端部ユニット20とを用いて形成される。
【0014】
本体ユニット10は、上面部10a、底面部10b、上側側面部10c及び下側側面部10dを有し、前後方向両端面を開口している。本体ユニット10は、上面部10a及び幅方向両側の上側側面部10cが一体に形成された第1の本体側コンクリート部材11と、底面部10b及び幅方向両側の下側側面部10dが一体に形成された第2の本体側コンクリート部材12とからなり、第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12は、それぞれプレキャストコンクリートによって形成されている。第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12は、上側及び下側側面部10c,10dが本体ユニット10の上下方向略中央位置で分割されるように形成されており、互いに上側及び下側側面部10c,10dの上下方向の端面を突き合わせることにより接合されるようになっている。
【0015】
第1の本体側コンクリート部材11は、上面部10aが上方に向かって凸状をなすアーチ状に形成され、上面部10aの幅方向両側にはそれぞれ直壁状の上側側面部10cが下方に延びるように形成されている。また、第1の本体側コンクリート部材11の上面の幅方向両端には上側側面部10cの上端に沿って前後方向に延びる平面部11aがそれぞれ設けられている。
【0016】
第2の本体側コンクリート部材12は、底面部10bが平坦状に形成され、底面部10bの幅方向両側にはそれぞれ直壁状の下側側面部10dが上方に延びるように形成されている。また、第2の端部側コンクリート部材11の下面の幅方向両端には前後方向に延びる架台13がそれぞれ取り付けられている。
【0017】
端部ユニット20は、上面部20a、底面部20b、上側側面部20c、下側側面部20d、上側端面部20e及び下側端面部20fを有し、前後方向一方の端面を開口している。端部ユニット20は、上面部20a、幅方向両側の上側側面部20c及び上側端面部20eが一体に形成された第1の端部側コンクリート部材21と、底面部20b、幅方向両側の下側側面部20d及び下側端面部20fが一体に形成された第2の端部側コンクリート部材22とからなり、第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22は、それぞれプレキャストコンクリートによって形成されている。第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22は、上側及び下側側面部20c,20dと上側及び下側端面部20e,20fが端部ユニット20の上下方向略中央位置で分割されるように形成されており、互いに上側及び下側側面部20c,20dと上側及び下側端面部20e,20fの上下方向の端面を突き合わせることにより接合されるようになっている。
【0018】
第1の端部側コンクリート部材21は、上面部20aが上方に向かって凸状をなすアーチ状に形成され、上面部20aの幅方向両側及び端部側にはそれぞれ直壁状の上側側面部20c及び上側端面部20eが下方に延びるように形成されている。また、第1の端部側コンクリート部材21の上面の幅方向両端には上側側面部20cの上端に沿って前後方向に延びる平面部21aがそれぞれ設けられている。
【0019】
第2の端部側コンクリート部材22は、底面部20bが平坦状に形成され、底面部20bの幅方向両側及び端部側にはそれぞれ直壁状の下側側面部20d及び下側端面部20fが上方に延びるように形成されている。また、第2の端部側コンクリート部材21の下面の幅方向両端には前後方向に延びる架台23がそれぞれ取り付けられている。
【0020】
また、第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12と第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22は、一方の接合端面に配置される雄側継手30と他方の接合端面に配置される雌側継手40とを結合することによって接合されるようになっている。以下、
図12乃至
図15では、第1の本体側コンクリート部材11の接合端面に設けられた雄側継手30及び雌側継手40を示す。
【0021】
雄側継手30は、一方の接合端面に埋設される継手板31と、継手板31の外面側から突出する棒状の継手部材32と、継手板31の背面側に設けられた一対のアンカープレート33と、各アンカープレート33に接合されたアンカー部材34とからなり、継手板31の前面(外面側)を除く部分が第1の本体側コンクリート部材11に埋設されている。
【0022】
継手板31は、前面が第1の本体側コンクリート部材11の接合端面と面一になるように設けられ、その中央には継手部材32の基端側を挿通する挿通孔31aが設けられている。
【0023】
継手部材32は、長手方向先端側に形成された第1の大径部32aと、長手方向中央側に形成された第2の大径部32bと、第1の大径部32aと第2の大径部32cとの間に形成された小径部32cと、長手方向先端側に形成された雄ネジ部32dとを有し、第1及び第2の大径部32a,32bはそれぞれ先端側に向かって徐々に縮径するようにテーパ状に形成されている。継手部材32は、雄ネジ部32dを継手板31の挿通孔31aに挿通され、雄ネジ部32dに螺合するナット32eによって継手板31に締結されるようになっている。
【0024】
各アンカープレート33は、継手板31の背面側に互いに上下方向に間隔をおいて配置された板状の鋼材からなり、継手板31の背面と垂直になるように継手板31の背面に溶接等により接合されている。
【0025】
各アンカー部材34は、継手板31の背面と直交する方向に延びる異形棒鋼等の鉄筋からなり、一端側をアンカープレート33に溶接等により接合されている。
【0026】
また、継手板31の背面側には継手部材32へのナット32eの着脱を行うためのボルトボックス35が設けられている。ボルトボックス35は一側面を第1の本体側コンクリート部材11の外面に開口した四角形の凹状空間からなり、コンクリートの型抜きによって形成されている。尚、ボルトボックス35は、例えばアンカー部材34と近接している場合や、水の侵入が懸念される場合、或いはコンクリート型抜きの脱型勾配用スペースを確保することができない場合には、コンクリートに埋設される箱状の鋼材によって形成するようにしてもよい。
【0027】
雌側継手40は、他方の接合端面に配置される継手板41と、雄側継手30の継手部材31を受容するハウジング42と、雄側継手30の継手部材31に係合する係合部材43と、継手板41の背面側に設けられた一対のアンカープレート44と、各アンカープレート44に接合されたアンカー部材45とからなり、継手板41の前面(外面側)を除く部分が第1の本体側コンクリート部材11に埋設されている。
【0028】
継手板41は、前面が接合端面と面一になるように設けられ、その中央には継手部材31を挿通する挿通孔41aが設けられている。
【0029】
ハウジング42は、一端側が挿通孔41aを含む継手板41の背面の一部を覆うように形成され、その他端側は一端側よりも径が小さく、継手部材32の挿入方向に延びるように形成されている。
【0030】
係合部材43は、径方向に拡径及び縮径可能なリング状の部材からなり、バネ材等により縮径方向に付勢されている。係合部材43は、縮径状態で継手部材31の第1の大径部31aよりも小さく開口しており、第1の大径部31aの圧入によって開口部が径方向に拡大し、第1の大径部31aが挿通されるようになっている。
【0031】
各アンカープレート44は、継手板41の背面側に互いに上下方向に間隔をおいて配置された板状の鋼材からなり、継手板41の背面と垂直になるように継手板41の背面に溶接等により接合されている。
【0032】
各アンカー部材45は、継手板41の背面と直交する方向に延びる異形棒鋼等の鉄筋からなり、一端側をアンカープレート44に溶接等により接合されている。
【0033】
前記構成からなる雄側継手30及び雌側継手40においては、
図12に示すように雄側継手30の継手部材31を雌側継手40に挿入すると、
図13に示すように継手部材31の第1の大径部31aが係合部材43の開口部に圧入される。その際、第1の大径部31aが先端側のテーパ部で係合部材43を押し広げながら係合部材43を乗り越え、係合部材43が継手部材31の小径部31cに係合する。これにより、継手部材31の反挿入方向への移動が第1の大径部31aと係合部材43との係止によって規制され、雄側継手30と雌側継手40とが互いに結合する。
【0034】
また、前記構成からなる建物本体1を組み立てる場合には、
図20及び
図21に示す組立装置50が用いられる。尚、同図では二つの本体ユニット10を接合する場合を示す。
【0035】
組立装置50は、接合しようとする各本体ユニット10の前後方向一端側に配置される第1の押圧部材51と、各本体ユニット10の前後方向他端側に配置される第2の押圧部材52と、第1及び第2の押圧部材51,52を連結する幅方向一対の連結部材53と、各連結部材53を介して第1及び第2の押圧部材51,52を互いに接近する方向に移動させる押圧装置としての一対の油圧シリンダ54と、各油圧シリンダ54の荷重を検出する一対のロードセル55とから構成されている。
【0036】
第1及び第2の押圧部材51,52は、各本体ユニット10の幅方向に延びる鋼材からなり、各本体ユニット10の幅寸法よりも長く形成されている。
【0037】
各連結部材53は、第1及び第2の押圧部材51,52の長手方向両端側に配置された棒状の鋼材からなり、一端側が第1の押圧部材51を摺動自在に貫通するとともに、他端側が第2の押圧部材51に連結されている。この場合、各連結部材53と第2の押圧部材51との連結位置は連結部材53の長手方向任意の位置に移動可能になっている。
【0038】
各油圧シリンダ54は、第1の押圧部材51の背面(第2の押圧部材52に対して反対側の面)に連結部材53と同軸状に固定され、連結部材53が油圧シリンダ54及び油圧シリンダ54の駆動ロッド54aを貫通するように設けられている。
【0039】
各ロードセル55は、一端側が油圧シリンダ54の駆動ロッド54aに固定され、その他端側にはロードセル55を貫通する連結部材53の他端側が固定されている。
【0040】
以上のように構成された組立装置50では、各油圧シリンダ54によって第1の押圧部材51を第2の押圧部材52に向かって移動させることにより、
図21に示すように各本体ユニット10が第1及び第2の押圧部材51,52に押圧されながら互いに接近する方向に移動して接合されるようになっている。その際、各ロードセル55によって油圧シリンダ54の荷重が検出されることから、各本体ユニット10同士の接触を各ロードセル55によって検知することができるとともに、各本体ユニット10への押圧力が過剰にならないように管理することができる。
【0041】
尚、本実施形態では、押圧装置として油圧シリンダ54を用いているが、油圧シリンダ以外の駆動機器によって押圧装置を構成することもできる。例えば、周知のチェーンブロックによって第1の押圧部材51と第2の押圧部材52とを連結し、チェーンブロックで第1及び第2の押圧部材51,52を互いに接近する方向に引き寄せることにより、第1及び第2の押圧部材51,52で各本体ユニット10を押圧するようにしてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、ロードセル55によって油圧シリンダ54の荷重を検出するようにしているが、ロードセル55を設けずに、各本体ユニット10同士の接触を目視で確認するようにしてもよい。
【0043】
ここで、
図18乃至
図27を参照し、前記建物本体1の組立工程について説明する。ここでは、二つの本体ユニット10と、その前後方向両端にそれぞれ配置される二つの端部ユニット20を用いて建物本体1を組み立てる場合を示す。
【0044】
まず、予め工場等で製作された第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12と第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22をそれぞれトラック等の運搬車両Sによって設置場所に搬入する。その際、第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12と第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22は、
図16及び
図17に示すように運搬車両Sに積載された状態での路面からの高さHが道路法による高さ制限(例えば、3.8m)を超えない高さになる寸法に形成される。尚、
図16では第1の本体側コンクリート部材11を積載した例を示し、
図17では第2の本体側コンクリート部材12を積載した例を示す。尚、雄側継手30の継手部材31は現場で取り付けられる。
【0045】
次に、
図18に示すようにワイヤWで吊り下げられた第1の本体側コンクリート部材11を図示しないクレーン等によって第2の本体側コンクリート部材12に上方から吊り降ろし、
図19に示すように第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12の接合端面同士を突き合わせる。その際、第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12の一方の接合端面に設けられた雄側継手30の継手部材31が他方の接合端面に設けられた雌側継手40に圧入され、雄側継手30と雌側継手40とが結合して第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12の接合端面同士が接合される。これにより、本体ユニット10が組み立てられる。
【0046】
続いて、前述のようにして二つの本体ユニット10を組み立てた後、
図20及び
図22に示すように各本体ユニット10を互いに前後方向に間隔をおいて配置するとともに、組立装置50の第1及び第2の押圧部材51,52を各本体ユニット10の前後方向両側に配置し、
図21及び
図23に示すように第1及び第2の押圧部材51,52によって各本体ユニット10を互いに接近する方向に押圧しながら移動させて各本体ユニット10の接合端面同士を突き合わせる。その際、各本体ユニット10の一方の接合端面に設けられた雄側継手30の継手部材31が他方の接合端面に設けられた雌側継手40に圧入され、雄側継手30と雌側継手40とが結合して各本体ユニット10の接合端面同士が接合される。この場合、第1の押圧部材51が接触する端面に配置される雄側継手30の継手部材31は、押圧時に第1の押圧部材51と干渉しないように押圧後に取り付けられる。
【0047】
次に、本体ユニット10と同様にして第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22を上下方向に接合することにより一方の端部ユニット20を組み立てた後、
図24に示すように一方の端部ユニット20を一方の本体ユニット10の一端側と間隔をおいて配置するとともに、組立装置50の第1及び第2の押圧部材51,52を端部ユニット20の前後方向一端側及び他方の本体ユニット10の前後方向他端側に配置する。その際、各連結部材53と第2の押圧部材51との連結位置を端部ユニット20及び各本体ユニット10の位置に応じて調整する。次に、
図25に示すように第1及び第2の押圧部材51,52によって一方の端部ユニット20を一方の本体ユニット10に接近する方向に押圧しながら移動させて一方の端部ユニット20と一方の本体ユニット10の接合端面同士を突き合わせる。その際、一方の端部ユニット20に設けられた雄側継手30の継手部材31が一方の本体ユニット10に設けられた雌側継手40に圧入され、雄側継手30と雌側継手40とが結合して一方の端部ユニット20と一方の本体ユニット10の接合端面同士が接合される。
【0048】
続いて、一方の端部ユニット20と同様にして第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22を接合することにより他方の端部ユニット20を組み立てた後、
図26に示すように他方の端部ユニット20を他方の本体ユニット10の他端側と間隔をおいて配置するとともに、組立装置50の第1及び第2の押圧部材51,52を一方の端部ユニット20の前後方向一端側及び他方の端部ユニット20の前後方向他端側に配置する。その際、各連結部材53と第2の押圧部材51との連結位置を端部ユニット20及び各本体ユニット10の位置に応じて調整する。次に、
図27に示すように第1及び第2の押圧部材51,52によって他方の端部ユニット20を他方の本体ユニット10に接近する方向に押圧しながら移動させて他方の端部ユニット20と他方の本体ユニット10の接合端面同士を突き合わせる。その際、他方の本体ユニット10に設けられた雄側継手30の継手部材31が他方の端部ユニット20に設けられた雌側継手40に圧入され、雄側継手30と雌側継手40とが結合して他方の端部ユニット20と他方の本体ユニット10の接合端面同士が接合される。
【0049】
以上のようにして組み立てられた建物本体1は、例えば仮設住宅として使用される。この場合、図示していないが、建物本体1には扉や窓が設けられ、扉や窓はプレキャストコンクリートを製作する際に組み込まれる。
【0050】
本実施形態によれば、建物本体1の前後方向中間部に配置される本体ユニット10と、建物本体1の前後方向の端部に配置される端部ユニット20とを備え、本体ユニット10の上部側を形成する第1の本体側コンクリート部材11と、本体ユニット10の下部側を形成する第2の本体側コンクリート部材12とを互いに接合することにより本体ユニット10を形成するとともに、端部ユニット20の上部側を形成する第1の端部側コンクリート部材21と、端部ユニット20の下部側を形成する第2の端部側コンクリート部材22とを互いに接合することにより端部ユニット20を形成し、本体ユニット10と端部ユニット20とを互いに接合することにより建物本体1を形成するようにしたので、予め工場等で製作された第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12と第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22を設置場所に搬入し、現場で建物本体1を組み立てることができ、コンクリート構造の建物本体1を設置場所に容易且つ迅速に設置することができる。これにより、例えば建物本体1を仮設住宅として用いる場合には、耐久性、耐火性、遮音性、断熱性に優れた居住空間を居住者に提供することができ、特に長期間居住する居住者にとっては生活面での支障を少なくすることができる。
【0051】
また、本体ユニット10及び端部ユニット20は、互いに建物本体1の上下方向略中央で分割された第1及び第2の本体側コンクリート部材11,12と第1及び第2の端部側コンクリート部材21,22からなるので、トラック等の運搬車両Sによって設置場所まで運搬する際、積荷の高さ制限を超えなければ、これらのコンクリート部材一つ当たりの高さ寸法を十分に大きくすることができる。これにより、現場で組み立てられる建物本体1を車両で運搬可能なコンクリート部材の約2倍の高さ寸法にすることができ、十分な広さの居住空間を有する建物本体1を形成することができる。
【0052】
更に、接合端面の一方に配置される雄側継手30と、接合端面の他方に配置される雌側継手40とを備え、雄側継手30は雌側継手40側に挿入される継手部材32を有し、雌側継手40は、雌側継手40に挿入された継手部材32に係合することにより継手部材32の反挿入方向への移動を規制する係合部材43を有しているので、雄側継手30の継手部材32を雌側継手40側に挿入するだけで接合を完了することができる。これにより、人手によるボルトやナットの締結作業等を必要とせず、接合作業を極めて容易に行うことができる。
【0053】
また、建物本体1が不要になった場合には、各コンクリート部材11,12,21,22の接合を解除して建物本体1を解体することにより、搬入時と同様、コンクリート部材ごとに運搬車両Sで設置場所から搬出することができる。
【0054】
その際、
図14に示すように雄側継手30のボルトボックス35内で継手部材32の雄ネジ部32dからナット32eを取り外すことにより、雄側継手30と雌側継手40との結合が解除され、
図15に示すように継手部材32を雌側継手40内に残したまま一方の接合端面と他方の接合端面とを分離することができる。
【0055】
これにより、建物本体1の解体作業をナット32eの取り外しのみによって行うことができるので、解体作業を極めて容易に行うことができる。尚、建物本体1を他の場所に移設する場合など、各コンクリート部材11,12,21,22を再利用する場合は、例えば専用の治具等を用いて雌側継手40の係合部材43を径方向に広げて継手部材32を取り出し、継手部材32を雄側継手30に再度取り付けることにより、雄側継手30及び雌側継手40を再利用することができる。
【0056】
尚、前記実施形態の建物本体1は、居室以外にもトイレ、倉庫、機械室、電源室、サウナ室、食堂など、多種多様な目的に使用することができ、これらを任意に組み合わせることにより、必要な機能を備えた施設を構成することができる。また、建物本体1の上面に太陽光パネルを設置すれば、太陽光発電による電力の供給も可能となる。
【0057】
図28乃至
図33は本発明の第2の実施形態を示すものであり、前記雌側継手40に代わる他の構成の雌側継手を用いたものである。尚、第1の実施形態と同等の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0058】
本実施形態の雌側継手70は、第1の実施形態の雌側継手40と同様、他方の接合端面に配置される継手板71と、雄側継手30の継手部材32を受容するハウジング72と、雄側継手30の継手部材32に係合する係合部材73と、継手板71の背面側に設けられた一対のアンカープレート74と、各アンカープレート74に接合されたアンカー部材75とからなり、継手板71の前面(外面側)を除く部分が第1の本体側コンクリート部材11に埋設されている。尚、これら各部材のうち、ハウジング72以外の構成は第2の実施形態の雌側継手40と同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0059】
ハウジング72は、継手部材32を受容する部分が第1の実施形態のハウジング42よりも軸方向に長く形成され、係合部材73に係合する継手部材32に加え、他の係合部材73の継手部材72を受容可能な長さを有している。
【0060】
本実施形態においては、
図28に示すように雄側継手30の継手部材32を雌側継手70に挿入すると、
図29に示すように継手部材32の第1の大径部32aが係合部材73の開口部に圧入される。その際、第1の大径部32aが先端側のテーパ部で係合部材73を押し広げながら係合部材73を乗り越え、係合部材73が継手部材32の小径部32cに係合する。これにより、継手部材32の反挿入方向への移動が第1の大径部32aと係合部材73との係止によって規制され、雄側継手30と雌側継手40とが互いに結合する。これにより、第1の実施形態と同様、雄側継手30を雌側継手70に挿入するだけで接合が完了するので、接合端面の接合を容易に行うことができる。
【0061】
また、建物本体1の解体時に各コンクリート部材(
図28乃至
図33では第1の本体側コンクリート部材11)同士の接合を解除する場合は、
図30に示すように雄側継手30のボルトボックス33f内で継手部材32の雄ネジ部32dからナット32eを取り外すことにより、雄側継手30と雌側継手70との結合が解除され、
図31に示すように継手部材32を雌側継手40内に残したまま一方の接合端面と他方の接合端面とを分離することができる。
【0062】
更に、各コンクリート部材を再利用して建物本体1を組み立てる場合は、
図32に示すように第1の本体側コンクリート部材11の一方の接合端面の雄側継手30に新たな継手部材32を取り付け、雄側継手30の継手部材62を雌側継手70に挿入する。その際、
図32に示すように雌側継手70には既存の継手部材32が挿入されたままになっているが、既存の継手部材32の基端を新たな継手部材32の先端で押圧すると、既存の継手部材32の第2の大径部32bが先端側のテーパ部で係合部材73を押し広げながら係合部材73を乗り越え、
図33に示すように新たな継手部材32が既存の継手部材32をハウジング72内の奥に押し込みながら係合部材73に係合する。これにより、既存の継手部材32を雌側継手70から取り出すことなく、雄側継手30を雌側継手70に再度結合することができ、再利用先での建物本体1の組立作業を効率よく行うことができる。
【0063】
尚、前記各実施形態は本発明の一実施例であり、本発明は前記各実施形態に記載されたものに限定されない。
また、本発明は、仮設住宅以外にも、多目的シェルター、バンガロー、倉庫、商業施設、簡易住居、学校、病院、オフィスビルなど、各種の建物に用いられるコンクリート部材の接合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…建物本体、10…本体ユニット、11…第1の本体側コンクリート部材、12…第2の本体側コンクリート部材、20…端部ユニット、21…第1の端部側コンクリート部材、22…第2の本体側コンクリート部材、30…雄側継手、32…継手部材、32d…雄ネジ部、32e…ナット、35…ボルトボックス、40…雌側継手、43…係合部材、50…組立装置、70…雌側継手、72…ハウジング、73…係合部材。
【要約】
【課題】コンクリート部材の接合作業を容易且つ迅速に行うことができるとともに、コンクリート部材の接合解除も容易に行うことのできるコンクリート部材の継手構造を提供する。
【解決手段】雄側継手30は雌側継手40側に挿入される継手部材32を有し、雌側継手40は、雌側継手40に挿入された継手部材32に係合することにより継手部材32の反挿入方向への移動を規制する係合部材43を有しているので、雄側継手30の継手部材32を雌側継手40側に挿入するだけで接合を完了することができる。また、コンクリート部材11,12,21,22の接合を解除する場合は、継手部材32の雄ネジ部32dからナット32eを取り外すことにより、雄側継手30と雌側継手40との結合が解除され、継手部材32を雌側継手40内に残したまま一方の接合端面と他方の接合端面とを分離することができるので、建物本体1の解体作業をナット32eの取り外しのみによって行うことができる。
【選択図】
図14