(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】無機フィラー及び放熱部材
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20231128BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20231128BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231128BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
C09C3/10
C08K9/04
C08L63/00 C
C08L83/04
(21)【出願番号】P 2023530061
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2022041856
(87)【国際公開番号】W WO2023090241
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021186964
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】深尾 健司
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 正雄
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-502058(JP,A)
【文献】特開昭62-011731(JP,A)
【文献】特開2018-154181(JP,A)
【文献】国際公開第2021/070690(WO,A1)
【文献】特開2012-241039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00- 3/12
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが7のときのゼータ電位が-15mV以下であり、
アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Aと、
カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Bと、
前記(メタ)アクリル系単量体単位A及び前記(メタ)アクリル系単量体単位B以外の(メタ)アクリル系単量体単位Cとを有する重合体を含み、
酸化アルミニウム及び窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の無機フィラーをさらに含み、
前記重合体の含有量が0.01~10質量%であ
り、
前記(メタ)アクリル系単量体単位Aが、アクリル酸、メタクリル酸、アシッドフォスフォキシプロピルメタクリレート、アシッドフォスフォキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドフォスフォキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート、リン酸変性エポキシアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、4-ヒドロキシフェニルアクリレート、4-ヒドロキシフェニルメクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種の単量体由来の(メタ)アクリル系単量体単位であり、
前記(メタ)アクリル系単量体単位Bが、1-アミノエチルアクリレート、1-アミノプロピルアクリレート、1-アミノエチルメタクリレート、1-アミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、及びジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩からなる群から選択される少なくとも1種の単量体由来の(メタ)アクリル系単量体単位であり、
前記(メタ)アクリル系単量体単位Cが、シロキサン骨格を有し、
前記(メタ)アクリル系単量体単位Cの重量平均分子量が2000~9000である無機フィラー。
【請求項2】
比表面積が0.1~20m
2/gである請求項1に記載の無機フィラー。
【請求項3】
平均粒子径が0.1~150μmである請求項1に記載の無機フィラー。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の無機フィラーと樹脂とを含
み、
前記樹脂は、シリコーン樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である放熱部材。
【請求項5】
放熱シートである請求項
4に記載の放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機フィラー及びその無機フィラーを含む放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車などの電動車両の普及が進んでいる。電動車両の車載電源システムに用いられるような回路基板では、一般的に電圧・電流が大きくなるため、発熱量が大きくなる。発熱量が増加すると、回路の不具合や故障の原因となる。また、電動車両の電動モーターに電力供給を行う電池パックは、充放電を繰り返すことで発熱する。高温のまま使用を続けると、電池パックの性能や寿命が低下する原因となる。
【0003】
また、このような発熱に関する問題は、電動車両に限られず、電子機器においても生じている。高性能化及び小型化が進む電子機器内部の発熱密度は年々増加しており、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するかが課題となっている。
【0004】
発熱部に応じて冷却機構の細部は異なるものの、基本的には、発熱部と冷却部材を接触させて、除熱する方法がとられる。この際、発熱部材と冷却部材との間に隙間があると除熱効率が低下するため、一般的には、放熱部材を介して発熱部と冷却部材を間接的に接触させて、除熱をおこなう。
【0005】
このような放熱部材は一般に樹脂中に無機フィラーを含む。このとき、樹脂中に無機フィラーを均一に分散させる必要がある。しかし、無機フィラーは、無機フィラーの表面間に働く引力(例えば、van der Waals力)により凝集しやすい。このため、樹脂中に無機フィラーを分散させるためには、例えば、引力に対抗する斥力を粒子間に導入する必要がある。斥力には、例えば、静電反発力及び立体障害反発力が挙げられる。無機フィラーの粒子間に斥力を導入する方法には、例えば、シランカップリング剤により無機フィラーを表面処理する方法がある(例えば、特許文献1参照)。シランカップリング剤により、無機フィラーの表面に特定の官能基が導入され、無機フィラー間の斥力を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、窒化ホウ素のような表面が安定な無機フィラーの場合、表面に存在するOH基のような官能基が少ない。このため、窒化ホウ素のような表面が安定な無機フィラーの場合、シランカップリング剤の無機フィラーの表面への修飾が不十分になり、樹脂中に無機フィラーを十分に分散させることができない場合があった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、樹脂中の分散性が良好な無機フィラー、及びその無機フィラーを含む放熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、無機フィラーのゼータ電位をマイナス側に大きくすることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]pHが7のときのゼータ電位が-15mV以下である無機フィラー。
[2]比表面積が0.1~20m2/gである上記[1]に記載の無機フィラー。
[3]平均粒子径が0.1~150μmである上記[1]又は[2]に記載の無機フィラー。
[4]アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Aと、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Bと、前記(メタ)アクリル系単量体単位A及び前記(メタ)アクリル系単量体単位B以外の(メタ)アクリル系単量体単位Cとを有する重合体を含み、前記重合体の含有量が0.01~10質量%である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の無機フィラー。
[5]酸化アルミニウム及び窒化ホウ素からなる群から選択される少なくとも1種の無機フィラーを含む上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の無機フィラー。
[6]上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の無機フィラーと樹脂とを含む放熱部材。
[7]前記樹脂は、シリコーン樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である上記[6]に記載の放熱部材。
[8]放熱シートである上記[6]又は[7]に記載の放熱部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂中の分散性が良好な無機フィラー、及びその無機フィラーを含む放熱部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
[無機フィラー]
(ゼータ電位)
本実施形態の無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位は、-15mV以下である。無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位が-15mVよりも大きいと、無機フィラーの表面間に働く静電反発力が弱くなり、その結果、無機フィラーが凝集しやすくなるので、無機フィラーを樹脂中に均一に分散させることが難しい場合がある。このような観点から、無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位は、好ましくは-18mV以下であり、より好ましくは-20mV以下である。本実施形態の無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位の範囲の下限値は、特に限定されないが、通常-50mV以上である。無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
(比表面積)
本実施形態の無機フィラーの比表面積は、0.1~20m2/gであることが好ましく、0.2~15m2/gであることがより好ましく、0.3~12m2/gであることがさらに好ましい。無機フィラーの比表面積が0.1m2/g以上であると、無機フィラーの表面間に働く静電反発力が強くなり、無機フィラーはさらに凝集しにくくなる。無機フィラーの比表面積が20m2/g以下であると、無機フィラーの表面間に働く引力(例えば、van der Waals力)が弱くなり、無機フィラーはさらに凝集しにくくなる。無機フィラーの比表面積は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0013】
(平均粒子径)
本実施形態の無機フィラーの平均粒子径は、0.1~150μmであることが好ましく、0.5~125μmであることがより好ましく、1.0~100μmであることがさらに好ましい。無機フィラーの平均粒子径を0.1μm以上とすることで、熱伝導性および耐オイルブリード性が良好となる。また、150μm以下とすることで、無機フィラーを充填した組成物の成形性が良好となる。無機フィラーの平均粒子径は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
また、無機フィラー全体の平均粒子径が上記範囲内であれば、本実施形態の無機フィラーは、複数の平均粒子径を有する無機フィラーの混合物であってもよい。単一の平均粒子径を有する無機フィラーのみを含有する場合に比べて、これよりも小さい平均粒子径を有する無機フィラーを併用することにより、大径の無機フィラーの間隙を小径の無機フィラーにより埋めることができる。そのため、複数の平均粒子径を有する無機フィラーを混合して用いることにより、樹脂組成物に対して無機フィラーをより高充填することが可能となる。通常は、このように無機フィラーを高充填させた場合、粘度が著しく向上し、取り扱いに耐えなくなったり、無機フィラーが均一分散しなくなったりするという問題が生じうる。これに対して、無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位を-15mV以下にすることにより、高充填に伴うこのような問題を抑制することができる。そして、これにより、無機フィラーの充填量に応じて向上する熱伝導性をより向上させることが可能となる。
【0015】
(無機フィラーの種類)
本実施形態の無機フィラーとしては、特に制限されないが、例えば、高い熱伝導性を有する無機フィラーが挙げられる。このような無機フィラーとしては、例えば、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末、酸化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末、酸化ケイ素粉末、酸化マグネシウム粉末、金属アルミニウム粉末、及び酸化亜鉛粉末等から選択される1種以上が挙げられる。これらのなかでも、窒化ホウ素粉末及び酸化アルミニウム粉末が好ましく、窒化ホウ素粉末がより好ましい。このような無機フィラーを用いることにより、放熱部材の熱伝導性がより向上する傾向にある。また、このような無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位を-15mV以下とすることにより、放熱部材に対して無機フィラーをより高充填することが可能となる。これにより、無機フィラーの充填量に応じて向上する熱伝導性をより向上させることが可能となる。
【0016】
(共重合体)
本実施形態の無機フィラーは、例えば、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Aと、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位Bと、(メタ)アクリル系単量体単位A及び(メタ)アクリル系単量体単位B以外の(メタ)アクリル系単量体単位Cとを有する重合体を含み、重合体の含有量を0.01~10質量%とすることで、pHが7のときのゼータ電位を-15mV以下の値にすることが容易になる。上記共重合体は、無機フィラーに吸着し、無機フィラーに吸着した共重合体のアニオン性基により、無機フィラーのゼータ電位は-15mV以下になると考えられる。
【0017】
本実施形態において、(メタ)アクリル系単量体単位とは、メタクリル酸系単量体単位およびアクリル系単量体単位の双方を意味する。また、「単量体」とは、重合前の重合性不飽和結合を有するモノマーをいい、「単量体単位」とは、重合後に共重合体の一部を構成する繰り返し単位であって、所定の単量体に由来する単位をいう。また、以下において、「(メタ)アクリル系単量体単位A」を、単に「単位A」ともいい、「(メタ)アクリル系単量体単位B」を、単に「単位B」ともいい、「(メタ)アクリル系単量体単位C」を、単に「単位C」ともいう。
【0018】
(アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位A)
(メタ)アクリル系単量体単位Aは、アニオン性基を有する繰り返し単位である。アニオン性基としては、特に制限されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、フェノール性ヒドロキシ基、スルホン酸基が挙げられる。このなかでも、カルボキシ基、リン酸基、及びフェノール性ヒドロキシ基からなる群より選ばれる一種以上であることが好ましく、カルボキシ基であることがより好ましい。このような基を有することにより、無機フィラーのゼータ電位はマイナス側に大きくなり、無機フィラーの静電反発力が大きくなるので、無機フィラーの分散性がさらに向上する。
【0019】
また、単位Aは、アニオン性基に結合した電子吸引性基をさらに有することが好ましい。このような電子吸引性基としては、アニオン性基のアニオンを安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、カルボキシ基のα位の炭素原子にハロゲン元素等の電子吸引性の置換基を含むアクリル系単量体を用いてもよい。このような基を有することにより、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。
【0020】
単位Aは、アニオン性基に結合した電子供与性基を有しないあるいは、電子供与性の低い基を有することが好ましい。このような電子供与性基としては、アニオン性基のアニオンを不安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、カルボキシ基のα位の炭素原子にメチル基等の電子供与性基の置換基を含まないアクリル系単量体を用いてもよい。このような構造とすることにより、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。
【0021】
このような(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アシッドフォスフォキシプロピルメタクリレート、アシッドフォスフォキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドフォスフォキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート、リン酸変性エポキシアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、4-ヒドロキシフェニルアクリレート、4-ヒドロキシフェニルメクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。このなかでも、アクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、4-ヒドロキシフェニルメクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。このような単量体に由来する単位を含むことにより、無機フィラーに対する共重合体の親和性がより向上し、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。単位Aは、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0022】
(カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体単位B)
(メタ)アクリル系単量体単位Bは、カチオン性基を有する繰り返し単位である。カチオン性基としては、特に制限されないが、例えば、カチオン性基が、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれる一種以上であることが好ましい。このなかでも、第三級アミノ基がより好ましい。このような基を有することにより、共重合体は無機フィラーに吸着しやすくなり、無機フィラーの分散性がより向上する。
【0023】
また、単位Bは、カチオン性基に結合した電子供与性基をさらに有することが好ましい。このような電子供与性基としては、カチオン性基のカチオンを安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、アミノ基のα位の炭素原子にメチル基等の電子供与性の置換基を含むアクリル系単量体を用いてもよい。このような基を有することにより、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。
【0024】
単位Bは、カチオン性基に結合した電子吸引性基を有しないあるいは、電子吸引性の低い基を有することが好ましい。このような電子吸引性基としては、カチオン性基のカチオンを不安定化させる作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、アミノ基のα位の炭素原子にカルボキシル基等の電子吸引性基の置換基を含まないアクリル系単量体を用いてもよい。このような構造とすることにより、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。
【0025】
このような(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されないが、例えば、1-アミノエチルアクリレート、1-アミノプロピルアクリレート、1-アミノエチルメタクリレート、1-アミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩等が挙げられる。これらのなかでも、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート及び2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレートが好ましく、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートがより好ましい。このような単量体に由来する単位を含むことにより、無機フィラーに対する共重合体の親和性がより向上し、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。単位Bは、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0026】
((メタ)アクリル系単量体単位C)
(メタ)アクリル系単量体単位Cは、単位A及び単位B以外の(メタ)アクリル系単量体単位であり、分子中にカチオン性基およびアニオン性基を含まない(メタ)アクリル系単量体である。共重合体が(メタ)アクリル系単量体単位Cを含むことにより、無機フィラーの立体障害反発力が大きくなり、無機フィラーの分散性が改善される。
【0027】
本実施形態の共重合体を熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物に混合することを想定した場合、(メタ)アクリル系単量体Cは、その樹脂組成物に用いられる樹脂との親和性又は相溶性の高い骨格を有することが好ましい。このような骨格としては、特に制限されないが、例えば、オキシアルキレン骨格等の両親媒性骨格、ジメチルシロキサンなどのシロキサン骨格、アルキルやアリール等の炭化水素骨格等の疎水性骨格、又はリン酸ジエステル骨格等の親水性骨格が挙げられる。このなかでも、オキシアルキレン骨格、シロキサン骨格、炭化水素骨格が好ましく、シロキサン骨格及び炭化水素骨格がより好ましく、シロキサン骨格がさらに好ましい。このような骨格を有することにより、本実施形態の共重合体と樹脂との間の相溶性がより向上し、樹脂組成物中における無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。
【0028】
このような(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されないが、例えば、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、フェノール(エチレンオキサイド2モル変性)(メタ)アクリレート、フェノール(エチレンオキサイド4モル変性)(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(エチレンオキサイド4モル変性)(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(エチレンオキサイド8モル変性)(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(プロピレンオキサイド2.5モル変性)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性フタル酸(メタ)アクリレ-ト、エチレンオキシド変性コハク酸(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、等のオキシアルキレン骨格を有する(メタ)アクリル系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート等のエステル部が炭化水素骨格を有する(メタ)アクリル系単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、又はアクリロイルモルホリン等のアミド結合を有する(メタ)アクリル系単量体;α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン等のシロキサン骨格を有する(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリロイルオキエチルジアルキルホスフェート等のリン酸ジエステル骨格を有する(メタ)アクリル系単量体;1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、2-エチル-2-ブチル-プロパンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル系単量体等が挙げられる。単位Cは、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。これらのなかで、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン等のシロキサン骨格を有する(メタ)アクリル系単量体が好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル系単量体Cの重量平均分子量は、2,000~9,000であることが好ましい。(メタ)アクリル系単量体Cの重量平均分子量が2,000以上であると、樹脂に対する共重合体の親和性がさらに良好となるとともに無機フィラーの立体障害反発力が大きくなり、無機フィラーの分散性が改善される。また、(メタ)アクリル系単量体Cの重量平均分子量が9,000以下であると、共重合体を樹脂や溶媒にさらに溶解しやすくなる。このような観点から、(メタ)アクリル系単量体Cの重量平均分子量は、より好ましくは2500~7000であり、さらに好ましくは3000~6000であり、よりさらに好ましくは3500~5500である。なお、(メタ)アクリル系単量体Cの重量平均分子量は、(メタ)アクリル系単量体単位Cの重量平均分子量である。
【0030】
単位Aの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、30~80モル%であることが好ましく、40~65モル%であることがより好ましい。単位Aの含有量が30モル%以上であることにより、無機フィラーのゼータ電位がマイナス側に大きくなり、無機フィラーの分散性がより向上する。また、単位Aの含有量が80モル%以下であることにより、十分な含有量で単位B及び単位Cを共重合体に含有させることができる。
【0031】
単位Bの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、0.1~5モル%であることが好ましく、0.5~3モル%であることがより好ましい。単位Bの含有量を0.1モル%以上とすることで、共重合体の無機フィラーへの吸着性が改善され、無機フィラーの分散性がより向上する。また、5モル%以下とすることで、十分な含有量で単位A及び単位Cを共重合体に含有させることができる。
【0032】
単位A及び単位Bの総含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、30.1~85モル%であることが好ましく、35~75モル%であることがより好ましい。単位A及び単位Bの総含有量が30.1モル%以上であることにより、無機フィラーの分散性がさらに向上する。また、単位A及び単位Bの総含有量が85モル%以下であることにより、十分な含有量で単位Cを共重合体に含有させることができる。
【0033】
単位Bに対する単位Aのモル比は、6~800であることが好ましく、20~400であることがより好ましい。単位Bに対する単位Aのモル比が上記範囲内であることにより、無機フィラーの分散性がより向上する傾向にある。
【0034】
単位Cの含有量は、単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して、20~70モル%であることが好ましく、30~55モル%であることがより好ましい。単位Cの含有量を20モル%以上とすることで、共重合体の粘性に由来するハンドリング性が良好となる。また、70モル%以下とすることで、十分な含有量で単位A及び単位Bを共重合体に含有させることができる。
【0035】
共重合体の重量平均分子量は、40,000~80,000であることが好ましく、50,000~70,000であることがより好ましい。共重合体の重量平均分子量が40,000以上であることにより、共重合体による立体障害反発力により無機フィラーはより凝集しにくくなり、樹脂組成物中の無機フィラーの分散性はさらに改善される。また、共重合体の重量平均分子量が80,000以下であることにより、共重合体を樹脂や溶媒に溶解させることがより容易になる。重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)により求めることができる。
【0036】
共重合体は、次の一般式(1)で表される共重合体であることが好ましい。一般式(1)で表される共重合体はランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。なお、次の一般式(1)で表される共重合体の単位Aはアクリル酸に由来し、アニオン性基はカルボキシ基である。また、次の一般式(1)で表される共重合体の単位Bは1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートに由来し、カチオン性基は第三級アミノ基である。さらに、次の一般式(1)で表される共重合体の単位Cはα-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンに由来し、シロキサン骨格を有する。
【0037】
【化1】
式中、sは、共重合体の重量平均分子量が40,000~80,000である場合、単位Aの含有量が単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して30~80モル%となるような整数であり、tは、共重合体の重量平均分子量が40,000~80,000である場合、単位Cの含有量が単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して20~70モル%となるような整数であり、uは、共重合体の重量平均分子量が40,000~80,000である場合、単位Bの含有量が単位A、単位B、及び単位Cの合計100モル%に対して0.1~5.0モル%となるような整数である。また、vは、単位Cの重量平均分子量が2,000~9,000となるような整数である。
【0038】
上記共重合体は、重量平均分子量が比較的大きいので無機フィラーと吸着するアンカー部が多く、このため、窒化ホウ素のような表面が安定で反応性が乏しい無機フィラーに対しても良好な吸着性を有する。したがって、上記共重合体は、窒化ホウ素のような表面が安定な無機フィラーの分散性を十分に改善することができるので、窒化ホウ素のような表面が安定な無機フィラーの表面処理にさらに好適に用いられる。
【0039】
(共重合体の製造方法)
上記共重合体の製造方法は、特に制限されず、(メタ)アクリル系単量体の公知の重合方法を用いることができる。重合方法としては、ラジカル重合、アニオン重合などが挙げられる。この中でも、ラジカル重合が好ましい。
【0040】
ラジカル重合に用いる熱重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロペルオキシドやジ-tert-ブチルペルオキシドなどの有機過酸化物などが挙げられる。また、ラジカル重合に用いる光重合開始剤としては、特に制限されないが、ベンゾイン誘導体が挙げられる。また、そのほかATRPやRAFTなどのリビングラジカル重合に用いる公知の重合開始剤を用いることもできる。
【0041】
重合条件は、特に制限されず、用いる開始剤や溶剤の沸点、そのほか単量体の種類により適宜調整することができる。
【0042】
単量体の添加順序は、特に制限されないが、例えば、ランダム共重合体を合成する観点から単量体を混合して重合を開始してもよいし、ブロック共重合体を合成する観点から単量体を重合系に順次添加してもよい。
【0043】
無機フィラーのおける共重合体の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~8質量%であることがより好ましく、0.10~6質量%であることがさらに好ましい。無機フィラーのおける共重合体の含有量は、0.01質量%以上であると、無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位を-15mV以下とすることが容易になる。また、共重合体の含有量が10質量%以下であることにより、共重合体の含有量増加に伴う無機フィラーの熱伝導率低下を抑制することができる。
【0044】
[放熱部材]
本実施形態の放熱部材は、本実施形態の無機フィラー及び樹脂を含み、必要に応じて、任意の添加剤を含んでいてもよい。本実施形態の放熱部材は、本実施形態の無機フィラーを用いることにより、樹脂中に均一に無機フィラーを分散させることができ、その結果、無機フィラーを高充填で放熱部材に含有させることができ、放熱部材の熱伝導率をさらに向上させることができる。
【0045】
無機フィラーの含有量は、無機フィラー及び樹脂の含有量の合計100体積%に対して、45~90体積%であることが好ましく、55~85体積%であることがより好ましい。無機フィラーの含有量が45体積%以上であることにより、放熱部材の熱伝導性がより向上する傾向にある。また、無機フィラーの含有量が90体積%以下であることにより、放熱部材中の無機フィラーの分散性が良好となる。
【0046】
樹脂としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミド、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂;アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。このなかでも、シリコーン系樹脂及びエポキシ系樹脂からなる群より選ばれる一種以上の樹脂であることが好ましい。
【0047】
任意の添加剤としては、特に制限されないが、例えば、シランカップリング剤、酸化防止剤、金属腐食防止剤などが挙げられる。
【0048】
本実施形態の放熱部材は、例えば、遊星攪拌機、万能混合攪拌機、ニーダー、ハイブリッドミキサー等を使用して無機フィラー及び樹脂を混練りすることによって得られた樹脂組成物を成形することにより製造することができる。
【0049】
本実施形態の放熱部材は、例えば、電子部品とヒートシンクとの間に配置される。これにより、電子部品とヒートシンクとの間の空隙の発生を抑制することができる。その結果、電子部品によって発生した熱をヒートシンクに、効率よく伝導させることができる。
【0050】
ここで、電子部品としては、特に制限されないが、例えば、モーター、電池パック、車載電源システムに用いられる回路基板、パワートランジスタ、マイクロプロセッサ等の発熱する電子部品等が挙げられる。このなかでも、車載用の車載電源システムに用いられる電子部品が好ましい。また、ヒートシンクとしては、放熱や吸熱を目的として構成された部品であれば特に制限されない。
【0051】
(放熱シート)
本実施形態の放熱部材は、本実施形態の無機フィラー及び樹脂を含むものであれば、特に限定されないが、放熱シートであることが好ましい。本実施形態の無機フィラーを用いることにより、放熱シートの熱伝導率を高くすることができる。放熱シートは、例えば、本実施形態の無機フィラー、樹脂及び溶媒を含む樹脂組成物スラリーをドクターブレード法によりシート成形することによって製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
<共重合体調製用単量体>
実施例の共重合体の重合には以下の原料を用いた。
(アニオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体A)
(A-1)アクリル酸、東亞合成株式会社製
(カチオン性基を有する(メタ)アクリル系単量体B)
(B-1)1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、ADEKA株式会社製「アデカスタブLA-82」
((メタ)アクリル系単量体C)
(C-1)α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、JNC株式会社製「サイラプレーンFM-0721」重量平均分子量5,000
(C-2)α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、JNC株式会社製「サイラプレーンFM-0725」重量平均分子量10,000
【0054】
<共重合体の調製>
(共重合体1)
共重合体の調製は次の方法で行った。まず、撹拌機付のオートクレーブ内にアクリル酸:48.4モル%、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート:1.6モル%、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン(重量平均分子量5,000):50.0モル%からなる(メタ)アクリル系単量体100質量部を添加した。次いで、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(東京化成工業株式会社製)を、(メタ)アクリル系単量体の総和100質量部に対して0.05質量部、溶媒としてトルエン(試薬特級)、および2-プロパノール(試薬特級)の体積比=7:3の混合溶液を1000質量部加え、オートクレーブ内を窒素により置換した。その後、オートクレーブをオイルバス中で65℃にて20時間加熱し、ラジカル重合を行った。重合終了後、減圧下に120℃で1時間脱気し、共重合体1を得た。なお、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンの重量平均分子量は5,000であったので、単位Cの重量平均分子量は5,000となる。
【0055】
単量体の仕込み量100%に対する重合率は、ガスクロマトグラフィ分析により分析したところ、98%以上であった。このことから、共重合体が有する各単量体単位の比率は、単量体の仕込み比と同程度と推定された。
【0056】
また、得られた共重合体1の重量平均分子量を、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)法を用いて、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めた。なお、測定条件は以下のとおりである。
高速GPC装置:東ソー株式会社製「HLC-8020」
カラム :東ソー株式会社製「TSK guardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、及び東ソー株式会社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
展開溶媒 :テトラヒドロフラン
ディテクター :RI(示差屈折率計)
【0057】
(共重合体2)
(メタ)アクリル系単量体中のアクリル酸の割合を48.4モル%から67.7モル%に、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートの重量平均分子量を5,000から10,000に、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレートの割合を1.6モル%から2.3モル%に、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンの割合を50.0モル%から30.0モル%に変更した以外は、共重合体1と同様の方法により、ラジカル重合を行い、共重合体2を得た。得られた共重合体2における重合率は98%以上であり、共重合体が有する各単量体単位の比率は、単量体の仕込み比と同程度と推定された。また、重量平均分子量についても上記と同様に求めた。なお、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンの重量平均分子量は10,000であったので、単位Cの重量平均分子量は10,000となる。
【0058】
(共重合体3)
共重合体3は、高分子アミン化合物(日油株式会社製「エスリームAD-374M」)である。
【0059】
なお、表1に記した単量体の組成はモル比(%)で記した。モル比は各単量体の添加量と分子量より算出した。また、α-ブチル-ω-(3-メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンのモル比は、重量平均分子量を基に算出した。
【0060】
上記のように合成した共重合体1及び2の組成及び重量平均分子量を下記表1に示す。
【0061】
<表面処理した無機フィラーの作製>
(無機フィラー1)
2質量部の窒化ホウ素(デンカ株式会社製、「FP40」、平均粒子径40μm)、40質量部のシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製、「KF-96L-0.65CS」、沸点100℃)、及び2質量部の共重合体1をスターラーチップの入ったビーカーに投入し、30分攪拌した。その後、コーヒーフィルターを使用して、窒化ホウ素をろ過した。そして、乾燥機の中で、窒化ホウ素を、80℃の温度で18時間乾燥して、無機フィラー1を得た。
【0062】
(無機フィラー2)
共重合体1の配合量を2質量部から5質量部に変更した以外は無機フィラー1と同様の方法で、無機フィラー2を得た。
【0063】
(無機フィラー3)
共重合体1を共重合体2に変更した以外は無機フィラー1と同様の方法で、無機フィラー3を得た。
【0064】
(無機フィラー4)
共重合体1を共重合体3に変更した以外は無機フィラー1と同様の方法で、無機フィラー3を得た。
【0065】
(無機フィラー5)
上述の表面処理を実施しなかった窒化ホウ素を無機フィラー5とした。
【0066】
無機フィラーの物性は、以下の方法により測定した。
(ゼータ電位)
電気泳動法により無機フィラーのゼータ電位を測定した。なお、電気泳動速度はレーザードプラー法により測定した。
(1)測定用サンプルの調製
0.005質量部の無機フィラー、25質量部のイオン交換水及び0.015質量部のNaClを混合してpHが7(6.98~7.02)である測定用サンプルを調製した。なお、測定用サンプルのpHは、pH計(株式会社堀場製作所製「pHメーターD-51」)を用いて測定した。
(2)ゼータ電位の測定
ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、「ELS-Z2」)を使用して以下の手順で無機フィラーのゼータ電位を測定した。
(i)測定装置の光量をチェックした後、光量のピークの位置が、ゼータ電位が0mVの位置になるように測定装置を調節した。
(ii)測定用サンプルを電気泳動セルに注入した。
(iii)測定パラメーター(水の屈折率、粘性率及び誘電率)を測定装置に入力した。
(iv)印加電圧を設定した後、測定を開始した。
なお、測定条件は以下の通りである。
・測定温度:25℃
・印加電圧:60V
・積算回数:5回
【0067】
(比表面積)
無機フィラーの比表面積は、比表面積測定装置(カンターソーブ、ユアサアイオニクス社製)を用いて、BET1点法により測定した。なお測定に際しては、試料1gを300℃、15分間乾燥脱気してから測定に供した。
【0068】
(平均粒子径)
無機フィラーの平均粒子径は、島津製作所製「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-20」を用いて測定を行った。評価サンプルは、ガラスビーカーに50mlの純水と測定する無機フィラーを5g添加して、スパチュラを用いて撹拌し、その後超音波洗浄機で10分間、分散処理を行った。分散処理を行った無機フィラーの分散液を、スポイトを用いて、装置のサンプラ部に一滴ずつ添加して、吸光度が安定したところで測定を行った。平均粒径は、D50(メジアン径)を採用した。
【0069】
<放熱シートの作製>
(放熱シート1)
無機フィラー1及びシリコーン樹脂(主剤(Momentive社製、商品名「TSE3033(A)」)及び硬化剤(Momentive社製、商品名「TSE3033(B)」)を1:1(質量比)で混合)の合計100体積%に対して、50体積%の無機フィラー及び50体積%のシリコーン樹脂、及び上述の原料の合計100質量部に対して50質量部のトルエンを攪拌機(HEIDON社製、商品名「スリーワンモーター」)に投入し、タービン型撹拌翼を用いて15時間混合して樹脂組成物のスラリーを作製した。
そして、ドクターブレード法により、上記スラリーを厚さ0.05mmのペットフィルム(キャリアフィルム)上に厚さ0.5mmで塗工し、75℃で5分乾燥させて、ペットフィルム付きのシート状成形体を作製した。ペットフィルム付きのシート状成形体の樹脂組成物面にペットフィルムを積層し、積層体を作製した。次いで、得られた積層体に対して、真空下(圧力3.5kPa)、温度150℃、圧力15MPaの条件で1時間の加熱プレスを行い、両面のペットフィルムを剥離して厚さ0.3mmのシートとした。次いで、それを常圧、150℃で4時間の2次加熱を行い、放熱シート1を得た。
【0070】
(放熱シート2)
無機フィラー1の代わりに無機フィラー2を使用した以外は、放熱シート1と同様な方法で、放熱シート2を作製した。
【0071】
(放熱シート3)
無機フィラー1の代わりに無機フィラー3を使用した以外は、放熱シート1と同様な方法で、放熱シート3を作製した。
【0072】
(放熱シート4)
無機フィラー1の代わりに無機フィラー4を使用した以外は、放熱シート1と同様な方法で、放熱シート4を作製した。
【0073】
(放熱シート5)
無機フィラー1の代わりに無機フィラー5を使用した以外は、放熱シート1と同様な方法で、放熱シート5を作製した。
【0074】
放熱シートの物性は、以下の方法により測定した。
(無機フィラーの分散性)
無機フィラーの分散性は、放熱シートの相対密度により評価した。なお、無機フィラーの分散性が悪いと、無機フィラー同士が凝集しているため粒子間に樹脂が濡れ広がらず、空隙が残るため相対密度が低くなる。そして、放熱シートの相対密度が95%以上の場合、無機フィラーの分散性は良好(○)と評価し、熱シートの相対密度が95%未満の場合、無機フィラーの分散性は悪い(×)と評価した。
【0075】
なお、放熱シートの相対密度は、以下の式で算出される。
相対密度 = 放熱シートの密度/放熱シートの理論密度
放熱シートの密度はアルキメデス法により測定した。具体的には、電子天秤を用いて、空気中での放熱シートの重量及び水中での放熱シートの重量を測定した。そして、下記の計算式で密度を算出した。
放熱シートの比重=(空気中での放熱シートの重量)÷[(空気中での放熱シートの重量)-(水中での放熱シートの重量)]×(重量測定時の温度における水の密度)
また放熱シートの理論密度は、窒化ホウ素の密度を2.28g/cm3とし、シリコーン樹脂の密度0.98g/cm3として、窒化ホウ素及びシリコーン樹脂の配合比に基づいて計算した。
【0076】
【0077】
【0078】
実施例より、無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位をが-15mV以下にすることにより、放熱シート中の無機フィラーの分散性を改善できることがわかった。一方、比較例より、無機フィラーのpHが7のときのゼータ電位をが-15mVよりも大きいと、放熱シート中の無機フィラーの分散性が悪化することがわかった。