(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】多孔性金属錯体を含有する成形シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/16 20060101AFI20231129BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20231129BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20231129BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20231129BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231129BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231129BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B32B5/16
B01J20/30
B01J20/28 Z
A61L9/01 H
C09D201/00
C09D7/63
B01J20/26 A
(21)【出願番号】P 2021069513
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391034938
【氏名又は名称】大原パラヂウム化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231202
【氏名又は名称】日本黒鉛工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509170224
【氏名又は名称】日本黒鉛商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【氏名又は名称】清水 尚人
(72)【発明者】
【氏名】井手 洋和
(72)【発明者】
【氏名】今井 幸子
(72)【発明者】
【氏名】脇 浩一
(72)【発明者】
【氏名】園田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 淳
(72)【発明者】
【氏名】前田 晃平
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-088499(JP,A)
【文献】特開2017-100992(JP,A)
【文献】特表2016-516677(JP,A)
【文献】特開2013-111563(JP,A)
【文献】Kai YANG et al.,ZIFs-modified GO plates for enhanced CO2 separation performance of ethyl cellulose based mixed matrix membranesf,Separation and Purification Technology,2018年04月30日,Vol.214,p.87-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 201/00,7/63
A61L 9/01
B01J 20/26,20/28,20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性金属錯体およびシート基材を含む成形シートであって、当該多孔性金属錯体は、非水性接着剤としてのポリビニルアセター
ルにより当該シート基材上に固定化されており、かつ0.2~50μmの範囲内の平均粒径を有することを特徴とする、成形シート。
【請求項2】
多孔性金属錯体の金属イオンが、銅イオンまたは鉄イオンである、請求項1に記載の成形シート。
【請求項3】
さらに添加剤を含む、請求項1または2に記載の成形シート。
【請求項4】
添加剤が、吸着剤、導電剤、および/または滑剤である、請求項3に記載の成形シート。
【請求項5】
非水性接着剤に対する多孔性金属錯体の含有比率、または添加剤を含む場合には多孔性金属錯体と添加剤との合計含有比率が、重量比で100:10~100:50(多孔性金属錯体等:非水性接着剤)の範囲内にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の成形シート。
【請求項6】
シート基材が、繊維構造、フィルム構造または多孔構造を有し、不連続なシート形状または連続するロール形状である、請求項1~5のいずれか一項に記載の成形シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の成形シートから製造される、成形品。
【請求項8】
少なくとも多孔性金属錯体、および非水性接着剤としてのポリビニルアセター
ルを含む、組成物。
【請求項9】
少なくとも多孔性金属錯体、非水性接着剤としてのポリビニルアセター
ル、および有機溶剤を含む非水性の溶液である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
多孔性金属錯体の金属イオンが、銅イオンまたは鉄イオンである、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
さらに添加剤を含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
非水性接着剤に対する多孔性金属錯体の含有比率、または添加剤を含む場合には多孔性金属錯体と添加剤との合計含有比率が、重量比で100:10~100:50(多孔性金属錯体等:非水性接着剤)の範囲内にある、請求項8~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
次の工程1~3を含むことを特徴とする、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法:
1.少なくとも多孔性金属錯体、非水性接着剤としてのポリビニルアセター
ル、および有機溶剤を水不含の状態で混合撹拌して非水性の溶液を調製する工程、
2.上記溶液をシート基材上に塗布する工程、
3.上記溶液が塗布されたシート基材を乾燥する工程。
【請求項14】
多孔性金属錯体の金属イオンが、銅イオンまたは鉄イオンである、請求項13に記載の、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法。
【請求項15】
前記混合物に、さらに添加剤を含む、請求項13または14に記載の、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法。
【請求項16】
添加剤が、吸着剤、導電剤、および/または滑剤である、請求項15に記載の、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法。
【請求項17】
非水性接着剤に対する多孔性金属錯体の含有比率、または添加剤を含む場合には多孔性金属錯体と添加剤との合計含有比率が、重量比で100:10~100:50(多孔性金属錯体等:非水性接着剤)の範囲内にある、請求項13~16のいずれか一項に記載の、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性金属錯体の技術分野に属する。本発明は、主として、空気中の有害物質、有機溶剤、または生活臭などに関わる成分を効率的に分離・回収、または吸着・除去することができる、多孔性金属錯体を含有する成形シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔性金属錯体は、Porous Coordination Polymer または Metal-Organic Framework(以下、「PCP/MOF」ともいう。)とも呼ばれる、金属イオンと有機配位子との配位結合を利用して人工的に合成された多孔性物質である。金属イオンが有機配位子と架橋することによって、フレームワークが構築され、このフレームワーク内の空隙が分子を取り込む空間として機能する。
【0003】
従来の多孔性物質としては、例えば、ゼオライト、シリカ、活性炭等の天然の無機的なものを挙げることができる。それぞれ、分離、吸蔵、吸着、排出といった細孔機能を有しているが、微細な細孔の制御が困難であり、細孔機能も影響を受ける。一方、PCP/MOFは、分子設計によって様々な多孔性構造のものを合成することができ、非常に複雑な構造のものや、高機能ないし多機能な多孔性物質を構築することができる。そのため、PCP/MOFは、ガス(水素、メタン、CO2等)の吸蔵、分子やイオンの選択貯蔵、異性体分離等の分離、固体触媒(酸化反応、付加反応、水素化反応等)、除放、隔離、輸送、ナノ容器、センサー等幅広い応用が期待されている。
【0004】
ところで、タバコ臭、動物臭、排泄臭等の生活臭は、家庭内や職場内、公共施設といった生活環境に溢れている。臭いによっては社会問題となることもある。高齢化に伴い排泄物の処理が問題となるが、同時に排泄臭の問題も惹起する。タバコ臭や動物臭についても、ヒトによっては耐え難いものがある。その他の生活臭にしても、生活環境において快適に過ごすためには、できれば除去することが望まれる。
これら生活臭を除去する手段の一つとして、従来からゼオライト、シリカ、活性炭といった多孔性物質が用いられている。しかし、このような天然の多孔性物質では、比表面積はPCP/MOFよりも小さく、十分な消臭効果があるとは言い難い。
【0005】
人工の多孔性物質であるPCP/MOFについても、それを用いて悪臭を閉じ込める方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、多孔性金属錯体の接着剤として水系のエチレン-酢酸ビニル-アクリル共重合体を使用したシート状の成形体が開示されている。特許文献2には、PCP/MOFを金属板に被覆させるため、特定の金属板にPCP/MOFを合成していく手法が開示されている。特許文献3には、PCP/MOFとシート基材との接着に関する記載がある。特許文献4には、PCP/MOFとシート基材との接着に関して、アルコールを使用する記載がある。
【0006】
繊維業界では、シート状の成形体への加工として、特許文献5に代表されるように、有機溶剤で接着剤と薬剤とを混合し、パディング加工やコーティング加工等でシート基材へ塗布し、熱乾燥工程で固着させる製法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6237059号公報
【文献】特許第6629018号公報
【文献】特許第4980918号公報
【文献】特表2005-528204号公報
【文献】特開平02-47058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、PCP/MOFのシート基材への接着には、水系の接着剤が用いられている。しかし、PCP/MOFの一部には、加水分解に弱いものがあり、溶媒に水を使用すると、加水分解で有機配位子が分解してしまうおそれがある。
本発明の課題の一つは、PCP/MOFが加水分解されずにシート基材上に固定されてなる新規な成形シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、PCP/MOFの接着には、従来用いられてこなかった非水系で用いる接着剤を適用することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明としては、例えば、下記のものを挙げることができる。
【0011】
[1]多孔性金属錯体およびシート基材を含む成形シートであって、当該多孔性金属錯体は、非水性接着剤により当該シート基材上に固定化されており、かつ0.2~50μmの範囲内の平均粒径を有することを特徴とする、成形シート。
[2]多孔性金属錯体の金属イオンが、銅イオンまたは鉄イオンである、上記[1]に記載の成形シート。
[3]さらに添加剤を含む、上記[1]または[2]に記載の成形シート。
[4]添加剤が、吸着剤、導電剤、および/または滑剤である、上記[3]に記載の成形シート。
[5]非水性接着剤に対する多孔性金属錯体の含有比率、または添加剤を含む場合には多孔性金属錯体と添加剤との合計含有比率が、重量比で100:10~100:50(多孔性金属錯体等:非水性接着剤)の範囲内にある、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の成形シート。
[6]シート基材が、繊維構造、フィルム構造または多孔構造を有し、不連続なシート形状または連続するロール形状である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の成形シート。
[7]上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の成形シートから製造される、成形品。
【0012】
[8]少なくとも多孔性金属錯体および非水性接着剤を含む固形物、または少なくとも多孔性金属錯体、非水性接着剤および有機溶剤を含む非水性の溶液。
[9]多孔性金属錯体の金属イオンが、銅イオンまたは鉄イオンである、上記[8]に記載の固形物または溶液。
[10]さらに添加剤を含む、上記[8]または[9]に記載の固形物または混合物。
[11]添加剤が、吸着剤、導電剤、および/または滑剤である、上記[10]に記載の固形物または溶液。
[12]非水性接着剤に対する多孔性金属錯体の含有比率、または添加剤を含む場合には多孔性金属錯体と添加剤との合計含有比率が、重量比で100:10~100:50(多孔性金属錯体等:非水性接着剤)の範囲内にある、上記[8]~[11]のいずれか一項に記載の固形物または溶液。
【0013】
[13]次の工程1~3を含むことを特徴とする、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法:
1.少なくとも多孔性金属錯体、非水性接着剤、および有機溶剤を水不含の状態で混合撹拌して非水性の溶液を調製する工程、
2.上記溶液をシート基材上に塗布する工程、
3.上記溶液が塗布されたシート基材を乾燥する工程。
[14]多孔性金属錯体の金属イオンが、銅イオンまたは鉄イオンである、上記[13]に記載の、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法。
[15]前記混合物に、さらに添加剤を含む、上記[13]または[14]に記載の、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法。
[16]添加剤が、吸着剤、導電剤、および/または滑剤である、上記[15]に記載の、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法。
[17]非水性接着剤に対する多孔性金属錯体の含有比率、または添加剤を含む場合には多孔性金属錯体と添加剤との合計含有比率が、重量比で100:10~100:50(多孔性金属錯体等:非水性接着剤)の範囲内にある、上記[13]~[16]のいずれか一項に記載の、多孔性金属錯体を含有する成形シートの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生活臭などを効果的に消臭でき、また菌ないしウイルスを効果的に抑制することができる。加えて、生活資材として形状が安定し、取扱性に優れ、生産性も良く、安定的に供給可能である。したがって、本発明によれば、生活臭の消臭と抗菌性・抗ウイルス性とを兼ね備えた生活資材を安定的に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
1 本発明に係る成形シート
本発明に係る成形シート(以下、「本発明成形シート」という。)は多孔性金属錯体およびシート基材を含み、当該多孔性金属錯体は、非水性接着剤により当該シート基材上に固定化されており、かつ0.2~50μmの範囲内の平均粒径を有することを特徴とする。
【0017】
1.1 多孔性金属錯体(PCP/MOF)について
本発明に係るPCP/MOF(以下、単に「PCP/MOF」ともいう。)は、金属イオンと有機配位子とが交互に配位結合してなり、平均粒径が0.2~50μmの範囲内にある。
PCP/MOFは、上記平均粒径を有すれば特に制限されない。好ましい平均粒径は、0.5~30μmの範囲内であり、さらに好ましくは、0.7~1μmの範囲内である。かかる平均粒径は、レーザー回析式粒度分布測定装置で測定して得られるピーク値である。
【0018】
また、PCP/MOFは、0.6~1.0nmの範囲内の細孔口径を有することが好ましい。
PCP/MOFの細孔口径は、IUPACの定義によるマイクロポアの領域である0.6~1.0nmの範囲内であるが、0.7~0.9nmの範囲内が好ましい。当該細孔口径(直径)は、ガス/蒸気吸着量測定装置より測定される口径値であって、例えば、マイクロトラック・ベル社のBELSORP-maxにより測定することができる。当該細孔口径が0.6nmより小さくても、1.0nmより大きくても十分な瞬間消臭能は得られ難い。
【0019】
1.1.1 金属イオン
PCP/MOFを構成しうる金属イオンとしては、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Sc3+、Y3+、Ti4+、Zr4+、Hf4+、V4+、V3+、V2+、Nb3+、Ta3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Mn3+、Mn2+、Re3+、Re2+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Os3+、Os2+、Co3+、Co2+、Rh2+、Rh+、Ir2+、Ir+、Ni2+、Ni+、Pd2+、Pd+、Pt2+、Pt+、Cu2+、Cu+、Ag+、Au+、Zn2+、Cd2+、Hg2+、Al3+、Ga3+、In3+、Tl3+、Si4+、Si2+、Ge4+、Ge2+、Sn4+、Sn2+、Pb4+、Pb2+、As5+、As3+、As+、Sb5+、Sb3+、Sb+、Bi5+、Bi3+、Bi+が挙げられる。この中、銅イオンまたは鉄イオンが特に好ましい。
【0020】
1.1.2 有機配位子
PCP/MOFを構成しうる有機配位子は、金属イオンと配位可能な複数の官能基を有する芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物を含み、さらに金属イオンと配位可能な1つの官能基を有する芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物を併用してもよい。
【0021】
有機配位子の金属イオンに配位可能な前記官能基は、1つの芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物に対し1~5個、好ましくは2~4個、より好ましくは2~3個含まれる。このような金属イオンに配位可能な官能基としては、グリシジル基、COOH、無水カルボン酸基、CS2H、OH、SH、SO、SO2、SO3H、NO2、-S-、-SS-、Si(OH)3、Ge(OH)3、Sn(OH)3、Si(SH)4、Ge(SH)4、Sn(SH)4、PO3H、AsO3H、AsO4H、P(SH)3、As(SH)3、CH(SH)2、C(SH)3、CH(NH2)2、C(NH2)3、CH(OH)2、C(OH)3、CH(CN)2、C(CN)3、CH(RSH)2、C(RSH)3、CH(RNH2)2、C(RNH2)3、CH(ROH)2、C(ROH)3、CH(RCN)2、C(RCN)3、NH2、NHR、NR2、芳香環を構成する窒素原子、(式中、RはC1~C5アルキル基またはアリール基を示す)が挙げられる。芳香環を構成する窒素原子とは、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジン、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、フェナントロリン、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン、プリン、ビピリジン、テルピリジンなどの環内窒素原子を意味する。
【0022】
芳香族化合物は、5または6員の芳香族炭化水素環からなる単環又は多環系の化合物を意味し、具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、1,4-ジヒドロナフタレン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、ビフェニル、トリフェニル、アセナフチレン、アセナフテン、テトラヒドロナフタレン、クロマン、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレン、ピレン、インダン、インデンおよびフェナントレンが挙げられる。
【0023】
脂肪族化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等の炭素数1~12の脂肪族化合物が挙げられる。
【0024】
脂環式化合物としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンおよびシクロオクタンが挙げられる。
【0025】
ヘテロ芳香族化合物は、N、OおよびSから選択される1~3個のヘテロ原子を含む、5または6員の芳香環からなる単環または多環系の化合物を意味し、多環系の場合には少なくとも1つの環がヘテロ芳香環であればよい。具体例としては、フラン、チオフェン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、インドール、キノリン、イソキノリン、ベンゾ[b]チオフェンおよびベンズイミダゾールが挙げられる。
【0026】
ヘテロ環式化合物としては、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、メチルピペラジン、テトラヒドロフラン、ジオキサンが挙げられる。
【0027】
芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物は、金属イオンと配位可能な官能基の他に1~5個、好ましくは1~3個、特に1~2個の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メトキシ、エトキシ、トリフルオロメチル、メチル、エチル、プロピル、ブチル、シアノ、ニトロ、メチレンジオキシ、アセチルアミノ、カルバモイル、アセチル、ホルミルが挙げられる。
【0028】
PCP/MOFは、金属イオンと有機配位子から構成されるが、カウンターアニオンを含んでいてもよい。金属イオンをカウンターイオンとする場合、かかる金属イオンとしては、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、白金、ルテニウム、モリブデン、ジルコニウム、スカンジウムなどのイオンが好ましく、マグネシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの金属のイオンがより好ましい。当該金属イオンは、単一の金属イオンを使用してもよく、2種以上の金属イオンを併用してもよい。
【0029】
PCP/MOFを構成しうる好ましい有機配位子としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、インダン、インデン、ピレン、1,4-ジヒドロナフタレン、テトラリン、ビフェニレン、トリフェニレン、アセナフチレン、アセナフテンなどの芳香環に2個、3個または4個のカルボキシル基が結合した化合物(前記リガンドは、F,Cl、Br、Iなどのハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、アセチルアミノ基などのアシルアミノ基、シアノ基、水酸基、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、メトキシ、エトキシなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~4のアルコキシ基、メチル、エチル、プロピル、tert-ブチル、イソブチルなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~4のアルキル基、チオール基(SH)、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、カルバモイル基、メチルアミノなどのアルキルアミノ基、ジメチルアミノなどのジアルキルアミノ基などの置換基で1,2または3置換されていてもよい)、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和2価カルボン酸、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、4,4’-ビピリジル、ジアザピレン、ニコチン酸、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、キノリン、イソキノリン、ナフチリジンなどの1または2以上の環内窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子により配位可能な含窒素芳香族化合物(前記置換基により1、2または3置換されていてもよい。)などが挙げられる。配位子が中性の場合、金属イオンを中和するのに必要なカウンターアニオンを有する。このようなカウンターアニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられる。
【0030】
PCP/MOFは、シート状などの二次元細孔または複数のシートがアキシアル位に配位する二座配位子を構成要素として含む三次元細孔を有するPCP/MOFを包含するが、例えば一次元細孔を有するものであってもよい。
また、PCP/MOFとして、国際公開第2015/129685号に開示されている[Zn4(μ4-O)2(BTMB)2] (BTMB= 1,3,5-tris(3-carboxyphenyl)benzene)などの1,3,5-トリス(3-カルボキシフェニル)ベンゼン系のものも使用することができる。
【0031】
本発明で使用しうるPCP/MOFは、例えば以下の文献、総説(Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2334-2375.;Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 2-14.;Chem. Soc. Rev., 2008, 37, 191-214.;PNAS, 2006, 103, 10186-10191.;Chem.Rev.,2011, 111, 688-764.;Nature, 2003, 423, 705-714.)、特許文献(国際公開第2015/129685号)などに記載されているが、これらに限定されず、公知のPCP/MOFあるいは今後製造され得るPCP/MOFを広く使用することができる。
【0032】
1.2 非水性接着剤について
本発明成形シートにおいては、PCP/MOFが非水性接着剤によりシート基材上に固定化されている。
本発明に係る「非水性接着剤」は、水不含の有機溶剤に溶解ないし拡散(分散)して用いるものである。
【0033】
当該非水性接着剤としては、有機溶剤に可溶であり、非水系で用いられるものであって、PCP/MOFをシート基材上に固定化できるものであれば特に制限はなく、例えば、セルロース系、ビニル樹脂系、スチレン樹脂系、エポキシ樹脂系、クロロプレンゴムを始めとするゴム系、シリコン樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、フェノール樹脂系、イミド樹脂系、メラミン樹脂系、ポリエステル樹脂系、シェラックから適宜選択することができる。
【0034】
また、当該非水性接着剤の具体例としては、例えば、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタールやエチルセルロースを挙げることができる。これら非水性接着剤は、所望により、一種または二種以上を任意に併用することができる。
【0035】
有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤などを挙げることができる。これら有機溶剤は、所望により、一種または二種以上を任意に併用することができる。
【0036】
PCP/MOFは、シート基材の片面または両面の表面に上記非水性接着剤を介して接着しており、それぞれの表面に対して全面または一部に接着している。
【0037】
1.3 形体とシート基材について
本発明成形シートは、シート基材上にPCP/MOFが固定化した、シート状物の形体を有する。当該シート基材の構造としては、シート状であれば特に制限されないが、例えば、繊維構造、フィルム構造、多孔構造、発泡体を挙げることができる。また、これらの構造のものが、不連続なシート形状または連続するロール形状であってもよい。
【0038】
シート基材の原料としては、例えば、一般的なポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなど、繊維やフィルムの分野で使用されているものを挙げることができる。これらの合成樹脂原料は、非水性接着剤との接着性や、高い生産性、強度等の機能性等、本発明での使用に際し、好ましい性能を有している。また、繊維等の糸状の素材、抄紙原料であるパルプ等の天然原料、発泡ウレタンフォームも使用することができる。
【0039】
当該糸状の素材に特に制限は無く、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、アクリル、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維、綿糸や麻等の天然繊維、キュープラ等の再生繊維、ガラス繊維等を使用することができる。また、当該糸状の素材は一種または二種以上を任意に混合してもよい。非水性接着剤との接着強度や耐久性の観点からは、これらの中でも合成繊維が好ましい。
【0040】
構造形態としては、例えば、繊維構造であれば、スパンボンドやメルトブローン等の不織布、トリコットやラッシェル等の編物、平織やサテンなどの織物などが挙げられる。同様に抄紙構造も繊維構造の一部であり、使用することができる。フィルム構造であれば、単層や積層等は特に制限されない。織物や編物における糸状形態は、紡績糸、フィラメントのいずれでもよいが、強度が高いフィラメントが好ましい。
【0041】
シート基材の厚さは、いずれの構造のものでも特に制限されないが、ロール形状での生産性を確保する場合には、通常、厚い編物でも5mmを超えない範囲が好ましい。一方、不連続なシート形状であればこの限りでない。
【0042】
1.4 添加剤について
本発明成形シートは、さらに吸着剤、導電剤、滑剤といった添加剤を含むことができる。
当該吸着剤としては、例えば、活性炭、シリカ、ゼオライト等が挙げられる。当該導電剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、黒鉛粉末等が挙げられる。当該滑剤としては、例えば、六方晶窒化ホウ素(hBN)、黒鉛、二硫化モリブデン等が挙げられる。いずれも通常、適当な溶液に拡散させて用いるが、溶液内での拡散の容易性や、溶液内での沈降分離を避けるため、いずれも平均粒径は300μmを超えない範囲が適当であり、50μm以下が好ましく、35μm以下ないし1~35μmの範囲内がより好ましい。
上記活性炭としては、例えば、クラレコール(登録商標、クラレケミカル社製)を挙げることができる。活性炭の比表面積としては、500m2/g以上が好ましく、1500m2/g以上がより好ましい。
【0043】
2 本発明成形シートの製造方法
本発明成形シートを製造する際に用いる原料としては、シート基材以外に、例えば、PCP/MOF、非水性接着剤、各種添加剤、有機溶剤を挙げることができる。この中、少なくともPCP/MOFおよび非水性接着剤を含む固形物や、少なくとも多孔性金属錯体、非水性接着剤および有機溶剤を含む非水性の混合物を原料として用いることができる。
ここで、「非水性接着剤」、「有機溶剤」、「添加剤」、「シート基材」などの用語は前記と同義である。
原料のPCP/MOFは、それ自身公知の化合物であり、公知の製造方法(前記文献等に記載の製造方法)で得ることができ、また常法により前記細孔口径のものを調製することができる。PCP/MOFとポリマーとの複合体は、例えば、国際公開第2015/012373号の記載に準じて製造することができる。また、PCP/MOFを含め各種原料、シート基材などは、所望のものを購入することができる。
【0044】
本発明成形シートの製造方法(以下、「本発明製法」という。)は、次の工程1~3を含むことを特徴とする:
1.少なくともPCP/MOF、非水性接着剤、および有機溶剤を水不含の状態で混合撹拌して非水性の溶液を調製する工程、
2.上記溶液をシート基材上に塗布する工程、
3.上記溶液が塗布されたシート基材を乾燥する工程。
本発明製法においては、まず、PCP/MOF、非水性接着剤、および必要に応じて添加剤を、水を含まない有機溶剤に拡散溶解して混合物溶液を調製する(工程1)。その際、原料と有機溶剤との混合撹拌は、常法により行うことができる。次に該溶液をシート基材に塗布し(工程2)、加熱処理を行って、該溶液が塗布されたシート基材を乾燥し、残留溶液を留去すると共に非水性接着剤の固化ないしPCP/MOFのシート基材への固定を行う(工程3)。
【0045】
上記溶液の塗布方法としては、当該塗布が達成されるならば特に制限されないが、一般的には、例えば、パディング加工やディッピング加工を挙げることができる。その他、スプレー法やコーティング、スクリーン転写なども挙げることができる。特にスクリーン転写では、塗布面に対し、全面だけでなく一部分であっても塗布することができる。いずれの方法でも、塗布後には乾燥と加熱固着させることが必要である。
【0046】
上記溶液中における原料の含有比率としては、例えば、PCP/MOF:非水性接着剤=100:10~100:50(重量比)の範囲内が適当である。特にパディング加工の場合には、その範囲内が好ましい。また、吸着剤や導電材等の添加剤を配合する場合には、PCP/MOFと添加剤とを合わせた比率において、前記と同じく、PCP/MOF+添加剤:非水性接着剤=100:10~100:50(重量比)程度の範囲内とするのが適当である。
非水性接着剤の比率が相対的に高いと、PCP/MOFが非水性接着剤に埋もれてしまうおそれがあり、そうするとPCP/MOFの細孔が空気と接触する機会が減少するおそれがある。一方、非水性接着剤の比率が相対的に低いと、PCP/MOFが十分にシート基材に接着されず脱落するおそれがある。
【0047】
塗布後の加熱処理は、使用するシート基材の特性と、使用する非水性接着剤および有機溶剤の特性を踏まえて適宜選定することができる。一般的には、例えば、80~180℃の温度で1~30分の滞留時間で加熱処理されるが、この限りではない。
【0048】
上記溶液の塗布後、例えば、熱ローラーなどによる加工を加えることができる。その際は、PCP/MOFがシート基材から脱落しないよう、圧力や温度など、加工条件の選定に注意が必要である。特に耐熱温度が300℃のPCP/MOFの場合には300℃を超えないことが必要である。また、加水分解するPCP/MOFの場合は、スチーム加熱等、水分がPCP/MOFと直接接触する加熱方式を採用することは好ましくない。
【0049】
本発明製法では、シート基材の表面に、PCP/MOFと非水性接着剤とを有機溶剤に混合溶解して接着させる。その際、塗布量が多いと、塗布後のシート厚が大きすぎてロール形状に巻くことができないおそれがあり、PCP/MOFが脱落しやすいなどの問題点が生じうる。一方、塗布量が少ないと、PCP/MOFの吸着効果が十分に得られないおそれがある。シート基材の表面に対して一部分しか塗布しない場合でも同様である。通常はシート基材に対して1~50%(重量割合)の範囲内の付着率であることが好ましい。
【0050】
また付着量は、PCP/MOFと非水性接着剤の含有比率にも影響を及ぼす。シート基材に対し、PCP/MOFが多いと、付着量が同一でもシート基材から脱落しやすくなるおそれがある。それ故、生産に際しては、シート基材やその厚み、付着量、PCP/MOFや非水性接着剤等の含有比率や含有濃度等、それぞれの因子を考慮することが必要である。
【0051】
パディング加工やディッピング加工などで、溶液をシート基材に塗布する際、溶液内の分散むらがあると、PCP/MOF等の粒子状物同士が上手く接着されないおそれがある。そのため、溶液の撹拌が重要となる。撹拌方法は特に制限されず、市販のミキサー等を用いて行うことができる。
また、ビーズミルやボールミル等のメディアを使用した手法も有効である。
【0052】
乾燥のための加熱方法も、例えば、輻射(赤外線ヒーター等)、伝熱(タッチヒーター等)、対流(熱風等)が考えられるが、特に制限されない。水分を伴う加熱方法は、加水分解が懸念されるPCP/MOFについては好ましくない。
3 本発明成形シートの用途
本発明成形シートは、例えば、次のような生活臭の消臭性に優れる。
(1)介護・看護臭、病院臭:尿臭、排泄臭
(2)一般生活臭-1:生ごみ臭、更衣室臭・ロッカー臭、フィッティングルーム臭、混雑臭(満員電車内臭)、エアコン臭、畳臭、床臭、台所臭、トイレ臭、風呂場臭、下駄箱臭、排水口臭
(3)一般生活臭-2:体臭、汗臭
(4)一般生活臭-3:タバコ臭、焼肉臭
(5)その他の生活臭:堆肥臭、動物臭、ペットの糞尿臭、自動車内部の臭い
【0053】
また、本発明成形シートは、例えば、次のような菌(真菌も含まれる。)やウイルスに対する抗菌性ないし抗ウイルス性に優れる。
【0054】
<菌>
(1)グラム陰性通性嫌気性桿菌
大腸菌(Eshericha coli)、シゲラ属(Shigella)、サルモネラ属(Salmonella)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、エルシニア属(Yersinia)、コレラ菌(V.cholerae)、腸炎ビブリオ(Vparahaemolyticus)、ヘモフィルス属(Haemophilus)
(2)グラム陰性好気性桿菌
シュードモナス属(Pseudomonas)、レジオネラ属(Legionella)、ボルデテラ属(Bordetella)、ブルセラ属(Brucella)、野兎病菌(Francisella tularensis)
(3)グラム陰性嫌気性桿菌
バクテロイデス属(Bacteroides)
(4)グラム陰性球菌
ナイセリア属(Neisseria)
(5)グラム陽性球菌
ブドウ球菌属(Staphylococcus)、レンサ球菌属(Streptococcus)、腸球菌属(Enterococcus)
(6)グラム陽性有芽胞桿菌
バシラス属(Bacillus)、クロストリジウム属(Clostridium)
(7)放線菌と関連微生物群
コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)
(8)マイコプラズマ
マイコプラズマ(Mycoplasma)
(9)スピロヘータとらせん菌
回帰熱ボレリア(Borrelia recurrentis)、ライム病ボレリア(B.burgdoferi)、 梅毒トレポネーマ(Treponema palidum)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ヘリコバクター属(Helicobacter)
(10)リケッチア
リケッチア(Rickettsia)
(11)クラミジア
クラミジア(Clamydia)
【0055】
(12)真菌
クリプトコッカス症(Cryptococcosis)、カンジダ症(Candiasis)、アスペルギルス症(Aspergilosis)、ニューモシスチス・カリニ肺炎(Pneumocystis carinii)、白癬菌(Trichophyton)、癜風菌(Tinea versicolor)
【0056】
<ウイルス>
伝染性軟属腫ウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ロタウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、麻疹(はしか)ウイルス、インフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、RSウイルス、肝炎ウイルス、HIV
【0057】
4 その他
本発明成形シートは、例えば、樹脂成形品やフィルターなどの成形品に加工することができる。本発明成形シートから製造される成形品も本発明に含めることができる。
上記樹脂成形品とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステル、アミノプラスト樹脂、グリオキザール樹脂、エチレン尿素樹脂およびこれらのブレンド樹脂;天然ゴム、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴムなどからなる、板状物、柱状物、押出成形品などの成形品のことをいう。具体的な樹脂成形品としては、これら樹脂のフィルム、シート、容器を挙げることができる。
フィルム、シート、容器等への成形は、各種のインフレーション装置、プレス、カレンダー、押出成形機、紡糸機、ブロー成形機、射出成形機、真空成形機などにより行うことができる。
【0058】
上記フィルターとしては、例えば、空気清浄機などに用いられる脱臭フィルター、抗菌フィルターを挙げることができる。
本発明成形シートから製造される成形品は、所望の成形品に応じて、本発明成形シートを常法に従って加工することにより製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を掲げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
非水性接着剤として30gのポリビニルブチラール樹脂(積水化学株式会社製、エスレックBL-S)と280gのジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートとを計量して撹拌溶解し、別途、15gのPCP-MOF(AP002:Cu/1,3,5-Benzenetricarboxylic acid、Atomis社製。以下同じ。)を先に溶解した溶液に投入して、ビーズミルにて分散処理を行った。次に85gの活性炭(クラレケミカル社製、YP-50F、以下同じ。)を分散処理したPCP-MOF溶液に投入、プラネタリーミキサーにて混練り分散処理をし、塗料溶液を調製した。当該調製した溶液をシート基材(アンビック社製、ポリエステル、アラミド混合不織布、目付20g/m2)に含浸塗布し、熱風炉乾燥器にて150℃で30分間加熱乾燥処理を行うことにより本発明成形シートを得た。
【0060】
[実施例2]
30gのPCP/MOFと70gの活性炭とを用いた以外は、実施例1と同様にして本発明成形シートを得た。
【0061】
[実施例3]
3gのPCP/MOFと97gの活性炭とを用いた以外は、実施例1と同様にして本発明成形シートを得た。
【0062】
[実施例4]
100gのPCP/MOFと75gの活性炭とを用いた以外は、実施例1と同様にして本発明成形シートを得た。
【0063】
[実施例5]
30gのPCP/MOFと70gの活性炭とを用いた以外は、実施例1と同様にして本発明成形シートを得た。
【0064】
[実施例6]
30gのPCP/MOFと70gの活性炭とを用いた以外は、実施例1と同様にして本発明成形シートを得た。
【0065】
[実施例7]
比表面積が大きい活性炭(クラレケミカル社製、YP-80F)を用いた以外は、実施例5と同様にして本発明成形シートを得た。
【0066】
[実施例8]
非水溶性接着剤としてエチルセルロース系樹脂を用いた以外は、実施例5と同様にして本発明成形シートを得た。
【0067】
[実施例9]
非水溶性樹脂としてSBR系樹脂をキシレンにて溶解させた以外は、実施例5と同様にして本発明成形シートを得た。
【0068】
[実施例10]
プラネタリーミキサーでの分散処理を省略した以外は、実施例5と同様にして本発明成形シートを得た。
【0069】
[比較例1]
PCP/MOFを加えず、100gの活性炭を用いた以外は、実施例1と同様にして比較用成形シートを得た。
【0070】
[比較例2]
シート基材をそのまま使用し、比較用サンプルとした。
【0071】
[試験例1]消臭効果試験
以下の工程を含む検知管法に準じて、本発明成形シート等による、アンモニアおよび硫化水素の消臭率を測定し、本発明成形シート等の消臭効果を検証した。消臭率70%以上を合格とした。
(1)500mL共栓付三角フラスコに本発明成形シート等の試料サンプルを入れ、同時に対象ガス(アンモニアまたは硫化水素)の水溶液を、初発濃度100ppm(アンモニア)または10ppm(硫化水素)になるように入れ密栓した。
(2)上記試料サンプル等が封入された三角フラスコを、恒温槽(60℃)に15分静置し、対象ガスの水溶液を気化させた。
(3)恒温槽(60℃)から取り出し、三角フラスコを左右に振り、中の空気を撹拌した後、1時間静置した。
(4)測定前にフラスコを左右に振り、中の空気を撹拌した後、検知管にて測定し、下式により対象ガスの消臭率を算出した。
【0072】
対象ガス消臭率(%)=(初発濃度-検知管測定濃度)/初発濃度×100
【0073】
その結果を表1に示す。表1に示す通り、本発明成形シートは、アンモニアに対しても、硫化水素に対しても、70%以上の消臭率を有し、優れていた。
【0074】
[試験例2]抗菌性試験
本発明成形シート等について、日本産業規格JIS L1902に準拠して抗菌性試験を行った。具体的には、下記方法にて行った。抗菌活性値2.2以上を合格とした。
【0075】
(1)試験素材作成方法
本発明成形シート等の試料サンプル1gを寒天2.5gと混合し、生地(綿ニット)に塗付けたものを試験素材とした。寒天としては、蒸留水1L当たり、肉エキス3g、ペプトン5g、粉寒天15gに調整したものを使用した。試験菌としては、黄色ブドウ球菌を用いた。
【0076】
(2)試験方法
滅菌した試験素材に試験菌のブイヨン懸濁液を注入し、密閉容器中にて、37℃×18時間培養し、培養後の生菌数を測定した。植菌後、無加工布菌数に対する抗菌活性値により、菌に対する効果を評価した。
【0077】
抗菌活性値 = (Mb-Ma)-(Mc-Mo) (抗菌活性値 ≧ 2.2,合格)
Ma:標準布の試験菌液接触直後の生菌数
Mb:標準布の18時間培養後の生菌数
Mo:抗菌防臭加工布の試験菌液接種直後の生菌数
Mc:抗菌防臭加工布の18時間培養後の生菌数
(3)試験有効性: Mb - Mo > 1.0
【0078】
その結果を表1に示す。表1に示す通り、本発明成形シートは、抗菌活性値が5以上であり、優に2.2以上であったことから、本発明成形シートは抗菌性を有していることが明らかである。
【0079】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明成形シートは、生活臭に対する消臭性に優れ、また細菌やウイルスの増殖を抑える効果を有することから、シート状の消臭物として有用である。