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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20231129BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021568457
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045421
(87)【国際公開番号】W WO2021137279
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019240040
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】加賀見 鷹也
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168963(JP,A)
【文献】特開2001-330111(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158059(WO,A1)
【文献】実開平05-083526(JP,U)
【文献】特開2019-152243(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108194625(CN,A)
【文献】特開平06-058391(JP,A)
【文献】特表2018-535364(JP,A)
【文献】特開平08-240254(JP,A)
【文献】特開2003-074667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0320849(US,A1)
【文献】特開2018-100718(JP,A)
【文献】米国特許第04095675(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動機構と、
遊星歯車機構と、
前記遊星歯車機構のピニオン軸の一方側を支持し、前記差動機構の一方側に設けられた第1ケース部と、前記ピニオン軸の他方側を支持し、前記差動機構の他方側に設けられた第2ケース部と、から成るケースと、を有し、
前記第2ケースは、他方側の側面に環状のガイド部と、前記他方側の側面と一方側の側面とを貫通する油孔である開口と、を有し、
軸方向から見て、前記開口は前記環状のガイド部の内周に位置し、
前記ガイド部は、前記ケースの回転によって前記第2ケース部の他方側のオイルを捕捉し、前記開口へ導き、前記開口を通過したオイルが前記ピニオン軸に誘導されるように構成された、動力伝達装置。
【請求項2】
差動機構と、
前記差動機構を収容するケースと、を有し、
前記ケースは、開口と環状のガイド部と、を有し、
軸方向から見て、前記開口は前記環状のガイド部の内周に位置し、
前記ケースには遊星歯車機構のピニオン軸が支持されており、
前記開口を通過したオイルが前記ピニオン軸に誘導されるように構成され、
前記開口は、前記ピニオン軸と径方向でオーバラップし、
前記ケースは、リブを有し、
軸方向から見て、前記リブは前記環状のガイド部の内周において径方向に延びる形状を有し、
前記環状のガイド部の内周における前記リブの軸方向高さは、前記環状のガイド部の軸方向高さよりも低い、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記リブの外周側の端部は前記環状のガイド部の内周に位置する、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、
前記ガイド部は、内径側に突出する突出部を有しており、
前記ガイド部の内周は、前記突出部と前記開口との間が油溝となっている、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3において、
前記ケースの回転軸方向から見て、前記リブは、前記ガイド部の内周から内径側に延びており、
前記回転軸回りの周方向における前記リブの側縁には油溝が設けられている、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記ガイド部の内周の前記油溝は、前記リブの前記油溝と連絡している、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記差動機構の上流に配置されるモータを有し、
前記差動機構は、前記モータと軸方向にオーバラップする、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、傘歯車式の差動機構と、遊星歯車機構を有する電気自動車用の動力伝達装置が開示されている。
この遊星歯車機構は、ラージピニオンギアとスモールピニオンギアとを有するステップドピニオンギアを、備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-240254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動力伝達装置では、当該動力伝達装置の構成部品が密集して配置されている。密集して配置された構成部品各々を適切に潤滑するためには、様々な工夫が必要である。動力伝達装置において、潤滑量効率を向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様における動力伝達装置は、
差動機構と、
遊星歯車機構と、
前記遊星歯車機構のピニオン軸の一方側を支持し、前記差動機構の一方側に設けられた第1ケース部と、前記ピニオン軸の他方側を支持し、前記差動機構の他方側に設けられた第2ケース部と、から成るケースと、を有し、
前記第2ケースは、他方側の側面に環状のガイド部と、前記他方側の側面と一方側の側面とを貫通する油孔である開口と、を有し、
軸方向から見て、前記開口は前記環状のガイド部の内周に位置し、
前記ガイド部は、前記ケースの回転によって前記第2ケース部の他方側のオイルを捕捉し、前記開口へ導き、前記開口を通過したオイルが前記ピニオン軸に誘導される

【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、潤滑量効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】動力伝達装置のスケルトン図である。
図2】動力伝達装置の断面の模式図である。
図3】動力伝達装置の遊星減速ギア周りの拡大図である。
図4】動力伝達装置の差動機構周りの拡大図である。
図5】動力伝達装置の差動機構の斜視図である。
図6】動力伝達装置の差動機構の分解斜視図である。
図7】差動機構の第1ケース部を説明する図である。
図8】差動機構の第1ケース部を説明する図である。
図9】差動機構の第1ケース部を説明する図である。
図10】差動機構の第1ケース部を説明する図である。
図11】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図12】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図13】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図14】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図15】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図16】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図17】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図18】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図19】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図20】差動機構の第2ケース部を説明する図である。
図21】オイルキャッチ部を説明する図である。
図22】オイルキャッチ部を説明する図である。
図23】オイルキャッチ部を説明する図である。
図24】オイルキャッチ部を説明する図である。
図25】オイルキャッチ部を説明する図である。
図26】オイルキャッチ部を説明する図である。
図27】ケース内油路の変形例を説明する図である。
図28】ケース内油路の変形例を説明する図である。
図29】ケース内油路の変形例を説明する図である。
図30】ケース内油路の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる動力伝達装置1を説明するスケルトン図である。
図2は、本実施形態にかかる動力伝達装置1を説明する断面の模式図である。
図3は、動力伝達装置1の遊星減速ギア4周りの拡大図である。
図4は、動力伝達装置1の差動機構5周りの拡大図である。
【0009】
図1に示すように、動力伝達装置1は、モータ2と、モータ2の出力回転を減速して差動機構5に入力する遊星減速ギア4(減速機構)と、有する。動力伝達装置1は、また、ドライブシャフト9(9A、9B)と、パークロック機構3と、を有する。
動力伝達装置1では、モータ2の回転軸X回りの出力回転の伝達経路に沿って、パークロック機構3と、遊星減速ギア4と、差動機構5と、ドライブシャフト9(9A、9B)と、が設けられている。ドライブシャフト9(9A、9B)の軸線は、モータ2の回転軸Xと同軸である。
【0010】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転が、遊星減速ギア4で減速されて差動機構5に入力された後、ドライブシャフト9(9A、9B)を介して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪W、Wに伝達される。
ここで、遊星減速ギア4は、モータ2の下流に接続されている。差動機構5は、遊星減速ギア4の下流に接続されている。ドライブシャフト9(9A、9B)は、差動機構5の下流に接続されている。
【0011】
図2に示すように、動力伝達装置1の本体ボックス10は、モータ2を収容する第1ボックス11と、第1ボックス11に外挿される第2ボックス12と、を有する。本体ボックス10は、第1ボックス11に組み付けられる第3ボックス13と、第2ボックス12に組み付けられる第4ボックス14と、を有する。
【0012】
第1ボックス11は、円筒状の支持壁部111と、支持壁部111の一端111aに設けられたフランジ状の接合部112と、を有している。
第1ボックス11は、支持壁部111をモータ2の回転軸Xに沿わせた向きで設けられている。支持壁部111の内側には、モータ2が収容される。
【0013】
接合部112は、回転軸Xに直交する向きで設けられている。接合部112は、支持壁部111よりも大きい外径で形成されている。
【0014】
第2ボックス12は、円筒状の周壁部121と、周壁部121の一端121aに設けられたフランジ状の接合部122と、周壁部121の他端121bに設けられたフランジ状の接合部123と、を有している。
周壁部121は、第1ボックス11の支持壁部111に外挿可能な内径で形成されている。
第1ボックス11と第2ボックス12は、第1ボックス11の支持壁部111に、第2ボックス12の周壁部121を外挿して互いに組み付けられている。
【0015】
周壁部121の一端121a側の接合部122は、回転軸X方向から、第1ボックス11の接合部112に当接している。これら接合部122、112は、ボルト(図示せず)で互いに連結されている。
第1ボックス11では、支持壁部111の外周に複数の凹溝111bが設けられている。複数の凹溝111bは、回転軸X方向に間隔をあけて複数設けられている。凹溝111bの各々は、回転軸X周りの周方向の全周に亘って設けられている。
第1ボックス11の支持壁部111に、第2ボックス12の周壁部121が外挿される。凹溝111bの開口が周壁部121で閉じられている。支持壁部111と周壁部121との間に、冷却水が通流する複数の冷却路CPが形成される。
【0016】
第1ボックス11の支持壁部111の外周では、凹溝111bが設けられた領域の両側に、リング溝111c、111cが形成されている。リング溝111c、111cには、シールリング113、113が外嵌して取り付けられている。
これらシールリング113は、支持壁部111に外挿された周壁部121の内周に圧接して、支持壁部111の外周と、周壁部121の内周との間の隙間を封止する。
【0017】
第2ボックス12の他端121bには、内径側に延びる壁部120が設けられている。壁部120は、回転軸Xに直交する向きで設けられている。壁部120の回転軸Xと交差する領域に、ドライブシャフト9Aが挿通する開口120aが設けられている。
壁部120では、モータ2側(図中、右側)の面に、開口120aを囲む筒状のモータ支持部125が設けられている。
モータ支持部125は、後記するコイルエンド253bの内側に挿入されている。モータ支持部125は、ロータコア21の端部21bに回転軸X方向の隙間をあけて対向している。
【0018】
第2ボックス12の周壁部121は、動力伝達装置1の車両への搭載状態を基準とした鉛直線方向において、下側の領域の径方向の厚みが、上側の領域よりも厚くなっている。
この径方向の厚みが厚い領域には、回転軸X方向に貫通してオイル溜り部128が設けられている。
オイル溜り部128は、連通孔112aを介して、第3ボックス13の接合部132に設けた軸方向油路138に連絡している。連通孔112aは、第1ボックス11の接合部112に設けられている。
【0019】
第3ボックス13は、回転軸Xに直交する壁部130を有している。壁部130の外周部には、回転軸X方向から見てリング状を成す接合部132が設けられている。
第1ボックス11から見て第3ボックス13は、差動機構5とは反対側(図中、右側)に位置している。第3ボックス13の接合部132は、第1ボックス11の接合部112に回転軸X方向から接合されている。第3ボックス13と第1ボックス11は、ボルト(図示せず)で互いに連結されている。この状態において第1ボックス11は、支持壁部111の接合部122側(図中、右側)の開口が、第3ボックス13で塞がれている。
【0020】
第3ボックス13では、壁部130の中央部に、ドライブシャフト9Aの挿通孔130aが設けられている。
挿通孔130aの内周には、リップシールRSが設けられている。リップシールRSは、図示しないリップ部をドライブシャフト9Aの外周に弾発的に接触させている。挿通孔130aの内周と、ドライブシャフト9Aの外周との隙間が、リップシールRSにより封止されている。
壁部130における第1ボックス11側(図中、左側)の面には、挿通孔130aを囲む周壁部131が設けられている。周壁部131の内周には、ドライブシャフト9AがベアリングB4を介して支持されている。
【0021】
周壁部131から見てモータ2側(図中、左側)には、モータ支持部135が設けられている。モータ支持部135は、回転軸Xの外周を間隔を空けて囲む筒状を成している。
モータ支持部135の外周には、円筒状の接続壁136が接続されている。接続壁136は、壁部130側(図中、右側)の周壁部131よりも大きい外径で形成されている。接続壁136は、回転軸Xに沿う向きで設けられており、モータ2から離れる方向に延びている。接続壁136は、モータ支持部135と第3ボックス13の壁部130とを接続している。
【0022】
モータ支持部135は、接続壁136を介して第3ボックス13で支持されている。モータ支持部135の内側を、モータシャフト20の一端20a側が、モータ2側から周壁部131側に貫通している。
モータ支持部135の内周には、ベアリングB1が支持されている。モータシャフト20の外周が、ベアリングB1を介してモータ支持部135で支持されている。
ベアリングB1と隣り合う位置には、リップシールRSが設けられている。
【0023】
第3ボックス13では、接続壁136の内周に、後記する油孔136aが開口している。接続壁136で囲まれた空間(内部空間Sc)に、油孔136aからオイルOLが流入するようになっている。リップシールRSは、接続壁136内のオイルOLのモータ2側への流入を阻止するために設けられている。
【0024】
第4ボックス14は、遊星減速ギア4と差動機構5の外周を囲む周壁部141と、周壁部141における第2ボックス12側の端部に設けられたフランジ状の接合部142と、を有している。
第4ボックス14は、第2ボックス12から見て差動機構5側(図中、左側)に位置している。第4ボックス14の接合部142は、第2ボックス12の接合部123に回転軸X方向から接合されている。第4ボックス14と第2ボックス12は、ボルト(図示せず)で互いに連結されている。
【0025】
動力伝達装置1の本体ボックス10の内部には、モータ2を収容するモータ室Saと、遊星減速ギア4と差動機構5を収容するギア室Sbとが形成されている。
モータ室Saは、第1ボックス11の内側で、第2ボックス12の壁部120と、第3ボックス13の壁部130との間に形成されている。
ギア室Sbは、第4ボックス14の内径側で、第2ボックス12の壁部120と、第4ボックス14の周壁部141との間に形成されている。
【0026】
ギア室Sbの内部には、プレート部材8が設けられている。
プレート部材8は、第4ボックス14に固定されている。
プレート部材8は、ギア室Sbを、遊星減速ギア4と差動機構5を収容する第1ギア室Sb1と、パークロック機構3を収容する第2ギア室Sb2とに区画している。
回転軸X方向において第2ギア室Sb2は、第1ギア室Sb1と、モータ室Saとの間に位置している。
【0027】
モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を間隔を空けて囲むステータコア25とを、有する。
【0028】
モータシャフト20では、ロータコア21の両側に、ベアリングB1、B1が外挿されて固定されている。
ロータコア21から見てモータシャフト20の一端20a側(図中、右側)に位置するベアリングB1は、第3ボックス13のモータ支持部135の内周に支持されている。他端20b側に位置するベアリングB1は、第2ボックス12の円筒状のモータ支持部125の内周に支持されている。
【0029】
モータ支持部135、125は、後記するコイルエンド253a、253bの内径側で、ロータコア21の一方の端部21aと他方の端部21bに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置されている。
【0030】
ロータコア21は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものである。珪素鋼板の各々は、モータシャフト20との相対回転が規制された状態で、モータシャフト20に外挿されている。
モータシャフト20の回転軸X方向から見て、珪素鋼板はリング状を成している。珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X周りの周方向に交互に設けられている。
【0031】
ロータコア21の外周を囲むステータコア25は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものである。ステータコア25は、第1ボックス11の円筒状の支持壁部111の内周に固定されている。
電磁鋼板の各々は、支持壁部111の内周に固定されたリング状のヨーク部251と、ヨーク部251の内周からロータコア21側に突出するティース部252と、を有している。
【0032】
本実施形態では、巻線253を、複数のティース部252に跨がって分布巻きした構成のステータコア25を採用している。ステータコア25は、回転軸X方向に突出するコイルエンド253a、253bの分だけ、ロータコア21よりも回転軸X方向の長さが長くなっている。
【0033】
なお、ロータコア21側に突出する複数のティース部252の各々に、巻線を集中巻きした構成のステータコアを採用しても良い。
【0034】
第2ボックス12の壁部120(モータ支持部125)には、開口120aが設けられている。モータシャフト20の他端20b側は、開口120aを差動機構5側(図中、左側)に貫通して、第4ボックス14内に位置している。
モータシャフト20の他端20bは、第4ボックス14の内側で、後記するサイドギア54Aに、回転軸X方向の隙間をあけて対向している。
【0035】
図3に示すように、モータシャフト20では、第4ボックス14内に位置する領域に、段部201が設けられている。段部201は、モータ支持部125の近傍に位置している。段部201とベアリングB1との間の領域の外周には、モータ支持部125の内周に支持されたリップシールRSが当接している。
リップシールRSは、モータ2を収容するモータ室Saと、第4ボックス14内のギア室Sbとを区画している。
【0036】
第4ボックス14の内径側には、遊星減速ギア4と差動機構5を潤滑するためのオイルOLが封入されている(図2参照)。
リップシールRSは、モータ室SaへのオイルOLの流入を阻止するために設けられている。
【0037】
図3に示すように、モータシャフト20では、段部201から他端20bの近傍までの領域が、外周にスプラインが設けられた嵌合部202となっている。
嵌合部202の外周には、パークギア30とサンギア41がスプライン嵌合している。
【0038】
パークギア30は、回転軸X方向におけるパークギア30の一方の側面が、段部201に当接している(図中、右側)。パークギア30の他方の側面に、サンギア41の円筒状の基部410の一端410aが当接している(図中、左側)。
基部410の他端410bには、モータシャフト20の他端20bに螺合したナットNが、回転軸X方向から圧接している。
サンギア41とパークギア30は、ナットNと段部201との間に挟み込まれた状態で、モータシャフト20に対して相対回転不能に設けられている。
【0039】
サンギア41は、モータシャフト20の他端20b側の外周に、歯部411を有している。歯部411の外周には、段付きピニオンギア43の大径歯車部431が噛合している。
【0040】
段付きピニオンギア43は、サンギア41に噛合する大径歯車部431と、大径歯車部431よりも小径の小径歯車部432とを有している。
段付きピニオンギア43は、大径歯車部431と小径歯車部432が、回転軸Xに平行な軸線X1方向で並んで、一体に設けられたギア部品である。
大径歯車部431は、小径歯車部432の外径R2よりも大きい外径R1で形成されている。
段付きピニオンギア43は、軸線X1に沿う向きで設けられている。この状態において。大径歯車部431はモータ2側(図中、右側)に位置している。
【0041】
小径歯車部432の外周は、リングギア42の内周に噛合している。リングギア42は、回転軸Xを所定間隔で囲むリング状を成している。リングギア42の外周には、径方向外側に突出する複数の係合歯421が設けられている。複数の係合歯421は、回転軸X周りの周方向に間隔を空けて設けられている。
リングギア42は、外周に設けた係合歯421を、第4ボックス14の支持壁部146に設けた歯部146aにスプライン嵌合している。リングギア42は、回転軸X回りの回転が規制されている。
【0042】
段付きピニオンギア43は、大径歯車部431と小径歯車部432の内径側を軸線X1方向に貫通した貫通孔430を有している。
段付きピニオンギア43は、貫通孔430を貫通したピニオン軸44の外周で、ニードルベアリングNB、NBを介して回転可能に支持されている。
【0043】
ピニオン軸44の外周では、大径歯車部431の内周を支持するニードルベアリングNBと、小径歯車部432の内周を支持するニードルベアリングNBとの間に、中間スペーサMSが介在している。
【0044】
図4に示すように、ピニオン軸44の内部には、軸内油路440が設けられている。軸内油路440は、軸線X1に沿ってピニオン軸44の一端44aから、他端44bまで貫通している。
ピニオン軸44には、軸内油路440とピニオン軸44の外周とを連通させる油孔442、443が設けられている。
【0045】
油孔443は、大径歯車部431の内周を支持するニードルベアリングNBが設けられた領域に開口している。
油孔442は、小径歯車部432の内周を支持するニードルベアリングNBが設けられた領域に開口している。
ピニオン軸44において油孔443、442は、段付きピニオンギア43が外挿された領域内に開口している。
【0046】
さらに、ピニオン軸44には、オイルOLを軸内油路440に導入するための導入路441が設けられている。
ピニオン軸44の外周において導入路441は、後記する第2ケース部7の支持孔71a内に位置する領域に開口している。導入路441は、軸内油路440とピニオン軸44の外周とを連通させている。
【0047】
支持孔71aの内周には、ケース内油路781が開口している。ケース内油路781は、第2ケース部7の基部71から突出するガイド部78の回転軸X側の外周と、支持孔71aの内周とを連通させている。
軸線X1に沿う断面視においてケース内油路781は、軸線X1に対して傾斜している。ケース内油路781は、回転軸X側に向かうにつれて、基部71に設けたスリット状の油孔710に近づく向きで傾斜している。
【0048】
ケース内油路781には、後記するデフケース50が掻き上げたオイルOLが流入する。ケース内油路781には、デフケース50の回転による遠心力で外径側に移動するオイルOLが流入する。
ケース内油路781から導入路441に流入したオイルOLは、ピニオン軸44の軸内油路440に流入する。軸内油路440に流入したオイルOLは、油孔442、443から径方向外側に排出される。油孔442、443から排出されたオイルOLは、ピニオン軸44に外挿されたニードルベアリングNBを潤滑する。
【0049】
ピニオン軸44では、導入路441が設けられた領域よりも他端44b側に、貫通孔444が設けられている。貫通孔444は、ピニオン軸44を直径線方向に貫通している。
ピニオン軸44は、貫通孔444と、後記する第2ケース部7側の挿入穴782との軸線X1回りの位相を合わせて設けられている。挿入穴782に挿入された位置決めピンPが、ピニオン軸44の貫通孔444を貫通する。これによって、ピニオン軸44は、軸線X1回りの回転が規制された状態で、第2ケース部7側で支持される。
【0050】
図4に示すように、ピニオン軸44の長手方向の一端44a側では、段付きピニオンギア43から突出した領域が第1軸部445となっている。第1軸部445は、デフケース50の第1ケース部6に設けた支持孔61aで支持されている。
ピニオン軸44の長手方向の他端44b側では、段付きピニオンギア43から突出した領域が第2軸部446となっている。第2軸部446は、デフケース50の第2ケース部7に設けた支持孔71aで支持されている。
【0051】
ここで、第1軸部445は、ピニオン軸44における段付きピニオンギア43が外挿されていない一端44a側の領域を意味する。第2軸部446は、ピニオン軸44における段付きピニオンギア43が外挿されていない他端44b側の領域を意味する。
ピニオン軸44では、第1軸部445よりも第2軸部446のほうが、軸線X1方向の長さが長くなっている。
【0052】
以下、差動機構5の主要構成を説明する。
図5は、差動機構5のデフケース50周りの斜視図である。
図6は、差動機構5のデフケース50周りの分解斜視図である。
図4から図6に示すように、デフケース50は、差動機構5を収容するケースである。デフケース50は、第1ケース部6と第2ケース部7を回転軸X方向で組み付けて形成される。本実施形態では、デフケース50の第1ケース部6と第2ケース部7が、遊星減速ギア4のピニオン軸44を支持するキャリアとしての機能を有している。
【0053】
図6に示すように、デフケース50の、第1ケース部6と第2ケース部7との間には、3つのピニオンメートギア52と、3つのピニオンメートシャフト51と、が設けられている。
ピニオンメートシャフト51は、回転軸X周りの周方向に等間隔で設けられている(図6参照)。
ピニオンメートシャフト51の各々の内径側の端部は、共通の連結部510に連結されている。
【0054】
ピニオンメートギア52は、ピニオンメートシャフト51の各々に1つずつ外挿されている。ピニオンメートギア52の各々は、回転軸Xの径方向外側から、連結部510に接触している。
この状態においてピニオンメートギア52の各々は、ピニオンメートシャフト51で回転可能に支持されている。
【0055】
図4に示すように、ピニオンメートシャフト51には、球面状ワッシャ53が外挿されている。球面状ワッシャ53は、ピニオンメートギア52の球面状の外周に接触している。
【0056】
デフケース50では、回転軸X方向における連結部510の一方側にサイドギア54Aが位置し、他方側にサイドギア54Bが位置する。サイドギア54Aは第1ケース部6で回転可能に支持される。サイドギア54Bは、第2ケース部7で回転可能に支持される。
サイドギア54Aは、回転軸X方向における一方側から、3つのピニオンメートギア52に噛合している。サイドギア54Bは、回転軸X方向における他方側から、3つのピニオンメートギア52に噛合している。
【0057】
図7から図10は、第1ケース部6を説明する図である。
図7は、第1ケース部6を第2ケース部7側から見た斜視図である。
図8は、第1ケース部6を第2ケース部7側から見た平面図である。
図9は、図8におけるA-A断面の模式図である。図9は、ピニオンメートシャフト51とピニオンメートギア52の配置を仮想線で示している。
図10は、図8におけるA-A断面の模式図である。図10は、紙面奥側の連結梁62の図示を省略しつつ、サイドギア54Aと段付きピニオンギア43とドライブシャフト9Aの配置を仮想線で示している。
【0058】
図7および図8に示すように、第1ケース部6は、リング状の基部61を有している。基部61は、回転軸X方向に厚みW61を有する板状部材である。
図9および図10に示すように、基部61の中央部には、開口60が設けられている。基部61における第2ケース部7とは反対側(図中、右側)の面には、開口60を囲む筒壁部611が設けられている。筒壁部611の外周は、ベアリングB3を介して、プレート部材8で支持されている(図3参照)。
【0059】
基部61における第2ケース部7側(図中、左側)の面には、第2ケース部7側に延びる3つの連結梁62が設けられている。
連結梁62は、回転軸X周りの周方向に、等間隔で設けられている(図7および図8参照)。
連結梁62は、基部61に対して直交する基部63と、基部63よりも幅広の連結部64と、を有している。
【0060】
図9に示すように、連結部64の先端面64aは、回転軸Xに直交する平坦面であり、先端面64aには、ピニオンメートシャフト51を支持するための支持溝65が設けられている。
【0061】
図8に示すように、回転軸X方向から見て支持溝65は、リング状の基部61の半径線Lに沿って、直線状に形成されている。支持溝65は、回転軸X周りの周方向における連結部64の中央部を、内径側から外径側に横断している。
図9および図10に示すように、支持溝65は、ピニオンメートシャフト51の外径に沿う半円形を成している。支持溝65は、円柱状のピニオンメートシャフト51の半分を収容可能な深さで形成されている。すなわち、支持溝65は、ピニオンメートシャフト51の直径Daの半分(=Da/2)に相当する深さで形成されている。
【0062】
連結部64の内径側(回転軸X側)には、ピニオンメートギア52の外周に沿う形状で円弧部641が形成されている。
円弧部641では、ピニオンメートギア52の外周が、球面状ワッシャ53を介して支持される。
円弧部641では、前記した半径線Lに沿う向きで油溝642が設けられている。油溝642は、ピニオンメートシャフト51の支持溝65から、連結部64の内周に固定されたギア支持部66までの範囲に設けられている。
【0063】
ギア支持部66は、基部63と連結部64との境界部に接続されている。ギア支持部66は、回転軸Xに直交する向きで設けられている。ギア支持部66は、中央部に貫通孔660を有している。
図8に示すように、ギア支持部66の外周は、3つの連結部64の内周に接続されている。この状態において貫通孔660の中心は、回転軸X上に位置している。
【0064】
図9および図10に示すように、ギア支持部66では、基部61とは反対側(図中、左側)の面に、貫通孔660を囲む凹部661が設けられている。凹部661には、サイドギア54Aの裏面を支持するリング状のワッシャ55が収容される。
サイドギア54Aの裏面には、円筒状の筒壁部541が設けられている。ワッシャ55は筒壁部541に外挿されている。
【0065】
回転軸X方向から見て、ギア支持部66における凹部661側の面には、3つの油溝662が設けられている。油溝662は、回転軸X周りの周方向に間隔を空けて設けられている。
油溝662は、前記した半径線Lに沿って、ギア支持部66の内周から外周まで及んでいる。油溝662は、前記した円弧部641側の油溝642に連絡している。
【0066】
図7および図8に示すように、基部61には、ピニオン軸44の支持孔61aが開口している。支持孔61aは、回転軸X周りの周方向で間隔をあけて配置された連結梁62、62の間の領域に開口している。
基部61には、支持孔61aを囲むボス部616が設けられている。ボス部616には、ピニオン軸44に外挿されたワッシャWc(図10参照)が、回転軸X方向から接触する。
【0067】
基部61では、中央の開口60からボス部616までの範囲に、油溝617が設けられている。
図8に示すように、油溝617は、ボス部616に近づくにつれて、回転軸X周りの周方向の幅が狭くなる先細り形状で形成されている。油溝617は、ボス部616に設けた油溝618に連絡している。
【0068】
連結部64では、支持溝65の両側に、ボルト穴67、67が設けられている。
第1ケース部6の連結部64には、第2ケース部7側の連結部74が回転軸X方向から接合される。第1ケース部6と第2ケース部7は、第2ケース部7側の連結部74を貫通したボルトBが、ボルト穴67、67に螺入されて、互いに接合される。
【0069】
図11から図16は、第2ケース部7を説明する図である。
図11は、第2ケース部7を第1ケース部6側から見た斜視図である。
図12は、第2ケース部7を第1ケース部6側から見た平面図である。
図13は、図12におけるA-A断面の模式図である。図13は、ピニオンメートシャフト51とピニオンメートギア52の配置を仮想線で示している。
図14は、図12におけるA-A断面の模式図である。図14は、紙面奥側の連結部74の図示を省略しつつ、サイドギア54Bと段付きピニオンギア43とドライブシャフト9Bの配置を仮想線で示している。
図15は、第2ケース部7を第1ケース部6とは反対側から見た斜視図である。
図16は、第2ケース部7を第1ケース部6とは反対側から見た平面図である。
図17は、図16におけるA-A断面の模式図である。
図18は、図16におけるB-B断面の模式図である。
図19は、図16におけるC-C断面の模式図である。
図20は、リブ711の作用を説明する図である。
【0070】
図13および図14に示すように、第2ケース部7は、リング状の基部71を有している。
基部71は、回転軸X方向に厚みW71を有する板状部材である。
基部71の中央部には、基部71を厚み方向に貫通する貫通孔70が設けられている。
基部71における第1ケース部6とは反対側(図中、左側)の面には、貫通孔70を囲む筒壁部72と、筒壁部72を所定間隔で囲む円筒状のガイド部73が設けられている。
【0071】
図17に示すように、筒壁部72の外周には、段部722が設けられている。筒壁部72は、基部71側のほうが先端側よりも外径が大きくなっている。基部71から段部722までの高さh72は、基部71からガイド部73までの高さh73よりも高くなっている(h73<h72)。
ガイド部73の先端には、回転軸X側に突出する突出部73aが設けられている。突出部73aは、回転軸X周りの周方向の全周に亘って設けられている。
【0072】
図16に示すようにガイド部73の外径側には、ピニオン軸44の3つの支持孔71aが開口している。
支持孔71aは、回転軸X周りの周方向に間隔を空けて設けられている。
ガイド部73の内径側には、基部71を厚み方向に貫通する3つの油孔710が設けられている。油孔710は、回転軸X方向においてデフケース50の外側に向かって開口している。
回転軸X方向から見て油孔710は、ガイド部73の内周に沿う弧状を成している。油孔710は、回転軸X周りの周方向に所定の角度範囲で形成されている。
図13に示すように、油孔710の外周縁は、ガイド部73の内周面731と面一となっている。
【0073】
図16に示すように、第2ケース部7において油孔710は、回転軸X周りの周方向に間隔を空けて設けられている。油孔710の各々は、支持孔71aの内径側を、回転軸X周りの周方向に横切って設けられている。
【0074】
回転軸X周りの周方向で隣り合う油孔710、710の間には、紙面手前側に突出したリブ711が設けられている。リブ711は、回転軸Xの径方向に直線状に延びている。リブ711は、外径側のガイド部73と内径側の筒壁部72とに跨がって設けられている。
図19および図20に示すように、回転軸X回りの周方向におけるリブ711の一方側と他方側には、凹溝711a、711bが形成されている。
これら凹溝711a、711bは、内径側の筒壁部72から、ガイド部73の突出部73aまでの範囲に形成されている。
【0075】
図16に示すように、3つのリブ711は、回転軸X周りの周方向に間隔を空けて設けられている。3つのリブ711は、油孔710に対して、回転軸X周りの周方向に大凡45度位相をずらして設けられている。
【0076】
ガイド部73の外径側では、回転軸X周りの周方向で隣り合う支持孔71a、71aの間に、紙面奥側に窪んだボルト収容部76、76が設けられている。これらボルト収容部76、76は、半径線Lを間に挟んで対称となる位置関係で設けられている。ボルト収容部76は、基部71の外周71cに開口している。
ボルト収容部76の内側には、ボルトの挿通孔77が開口している。挿通孔77は、基部71を厚み方向(回転軸X方向)に貫通している。
【0077】
図11および図12に示すように、基部71における第1ケース部6側(図中、右側)の面には、第1ケース部6側に突出する3つの連結部74が設けられている。
連結部74は、回転軸X周りの周方向に、等間隔で設けられている。連結部74は、第1ケース部6側の連結部64と同じ周方向の幅W7で形成されている。
【0078】
図13に示すように、連結部74の先端面74aは、回転軸Xに直交する平坦面である。先端面74aには、ピニオンメートシャフト51を支持するための支持溝75が設けられている。
【0079】
図12に示すように、回転軸X方向から見て支持溝75は、基部71の半径線Lに沿って直線状に形成されている。支持溝75は、連結部74を内径側から外径側に横断して形成されている。
図5に示すように、支持溝75は、ピニオンメートシャフト51の外径に沿う半円形を成している。
図13に示すように、支持溝75は、円柱状のピニオンメートシャフト51の半分を収容可能な深さで形成されている。すなわち、支持溝75は、ピニオンメートシャフト51の直径Daの半分(=Da/2)に相当する深さで形成されている。
【0080】
連結部74の内径側(回転軸X側)には、ピニオンメートギア52の外周に沿う円弧部741が設けられている。
円弧部741では、ピニオンメートギア52の外周が、球面状ワッシャ53を介して支持される(図13および図14参照)。
円弧部741では、前記した半径線Lに沿う向きで油溝742が設けられている。油溝742は、ピニオンメートシャフト51の支持溝75から、連結部74の内周に位置する基部71までの範囲に設けられている。
【0081】
油溝742は、基部71の表面71bに設けた油溝712に連絡している。回転軸X方向から見て油溝712は、半径線Lに沿って設けられており、基部71に設けた貫通孔70まで形成されている。
基部71の表面71bには、サイドギア54Bの裏面を支持するリング状のワッシャ55が載置される。サイドギア54Bの裏面には、円筒状の筒壁部540が設けられている。ワッシャ55は筒壁部540に外挿されている。
【0082】
貫通孔70を囲む筒壁部72の内周には、油溝712と交差する位置に油溝721が形成されている。筒壁部72の内周では、油溝721が、回転軸Xに沿う向きで、筒壁部72の回転軸X方向の全長に亘って設けられている。
【0083】
図11および図12に示すように、第2ケース部7の基部71では、回転軸X周りの周方向で隣り合う連結部74、74の間に、ガイド部78が設けられている。ガイド部78は、第1ケース部6側(紙面手前側)に突出している。
回転軸X方向から見て、ガイド部78は筒状を成している。ガイド部78は、基部71に設けた支持孔71aを囲んでいる。ガイド部78の外周部は、基部71の外周71cに沿って切除されている。
【0084】
図13および図14に示すように、軸線X1に沿う断面視において、ガイド部78の支持孔71aには、第1ケース部6側からピニオン軸44が挿入される。ピニオン軸44は、位置決めピンPにより、軸線X1回りの回転が規制された状態で位置決めされている。
この状態において、ピニオン軸44に外挿された段付きピニオンギア43の小径歯車部432が、ワッシャWcを間に挟んで、軸線X1方向からガイド部78に当接している。
【0085】
図4に示すように、デフケース50では、第2ケース部7の筒壁部72に、ベアリングB2が外挿されている。ベアリングB2は、筒壁部72の外周に設けた段部722に、インナレースを回転軸X方向から当接させている。筒壁部72に外挿されたベアリングB2は、第4ボックス14の支持部145で保持されている。デフケース50の筒壁部72は、ベアリングB2を介して、第4ボックス14で回転可能に支持されている。
【0086】
支持部145には、第4ボックス14の開口部145aを貫通したドライブシャフト9Bが、回転軸X方向から挿入されている。ドライブシャフト9Bは、支持部145で回転可能に支持されている。
開口部145aの内周には、リップシールRSが固定されている。リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト9Bに外挿されたサイドギア54Bの筒壁部540の外周に弾発的に接触している。
これにより、サイドギア54Bの筒壁部540の外周と開口部145aの内周との隙間が封止されている。
【0087】
デフケース50の第1ケース部6は、筒壁部611に外挿されたベアリングB3を介して、プレート部材8で支持されている(図2参照)。
【0088】
第1ケース部6の内部には、第3ボックス13の挿通孔130aを貫通したドライブシャフト9Aが、回転軸方向から挿入されている。
ドライブシャフト9Aは、モータ2のモータシャフト20と、遊星減速ギア4のサンギア41の内径側を回転軸X方向に横切って設けられている。
【0089】
図4に示すように、デフケース50の内部では、ドライブシャフト9(9A、9B)の先端部の外周に、サイドギア54A、54Bがスプライン嵌合している。サイドギア54A、54Bとドライブシャフト9(9A、9B)とが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0090】
この状態においてサイドギア54A、54Bは、回転軸X方向で間隔をあけて、対向配置されている。サイドギア54A、54Bの間に、ピニオンメートシャフト51の連結部510が位置している。
本実施形態では、合計3つのピニオンメートシャフト51が、連結部510から径方向外側に延びている。ピニオンメートシャフト51の各々に、ピニオンメートギア52が支持されている。ピニオンメートギア52は、回転軸X方向の一方側に位置するサイドギア54Aおよび他方側に位置するサイドギア54Bに、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0091】
図2に示すように、第4ボックス14の内部には、潤滑用のオイルOLが貯留されている。デフケース50の下部側は、貯留されたオイルOL内に位置している。
本実施形態では、連結梁62が最も下部側に位置した際に、連結梁62がオイルOL内に位置する高さまで、オイルOLが貯留されている。
貯留されたオイルOLは、モータ2の出力回転の伝達時に、回転軸X回りに回転するデフケース50により掻き上げられる。
【0092】
図21から図26は、オイルキャッチ部15を説明する図である。
図21は、第4ボックス14を第3ボックス13側から見た平面図である。
図22は、図21に示したオイルキャッチ部15を斜め上方から見た斜視図である。
図23は、第4ボックス14を第3ボックス13側から見た平面図であって、デフケース50を配置した状態を示した図である。
図24は、図23に示したオイルキャッチ部15を斜め上方から見た斜視図である。
図25は、図23におけるA-A断面の模式図である。
図26は、動力伝達装置1を上方から見た場合におけるオイルキャッチ部15と、デフケース50(第1ケース部6、第2ケース部7)との位置関係を説明する模式図である。
尚、図21および図23では、第4ボックス14の接合部142と、支持壁部146の位置を明確にするために、ハッチングを付して示している。
【0093】
図21に示すように、回転軸X方向から見て第4ボックス14には、中央の開口部145aを所定間隔で囲む支持壁部146が設けられている。支持壁部146の内側(回転軸X)側が、デフケース50の収容部140となっている。
第4ボックス14内の上部には、オイルキャッチ部15の空間と、ブリーザ室16の空間が形成されている。
【0094】
第4ボックス14の支持壁部146では、鉛直線VLと交差する領域に、オイルキャッチ部15と、デフケース50の収容部140とを連通させる連通口147が設けられている。
【0095】
オイルキャッチ部15とブリーザ室16は、回転軸Xと直交する鉛直線VLを挟んだ一方側(図中、左側)と他方側(図中、右側)に、それぞれ位置している。
オイルキャッチ部15は、デフケース50の回転中心(回転軸X)を通る鉛直線VLからオフセットした位置に配置されている。図26に示すように、上方からオイルキャッチ部15を見ると、オイルキャッチ部15は、デフケース50の真上からオフセットした位置に配置されている。
ここで、鉛直線VLは、動力伝達装置1の車両での設置状態を基準とした鉛直線VLである。回転軸X方向から見て鉛直線VLは、回転軸Xと直交している。
【0096】
図22に示すように、オイルキャッチ部15は、支持壁部146よりも紙面奥側まで及んで形成されている。オイルキャッチ部15の下縁には、紙面手前側に突出して支持台部151が設けられている。支持台部151は、支持壁部146よりも紙面手前側であって、第4ボックス14の接合部142よりも紙面奥側までの範囲に設けられている。
【0097】
図21に示すように、回転軸X方向から見て、オイルキャッチ部15の鉛直線VL側(図中、右側)には、連通口147が、支持壁部146の一部を切り欠いて形成されている。連通口147は、オイルキャッチ部15と、デフケース50の収容部140とを連通させる。
回転軸X方向から見て連通口147は、鉛直線VLをブリーザ室16側(図中、右側)から、オイルキャッチ部15側(図中、左側)に横切る範囲に設けられている。
【0098】
図23に示すように、本実施形態では、動力伝達装置1を搭載した車両の前進走行時に、第3ボックス13側から見てデフケース50は、回転軸X周りの反時計回り方向CCWに回転する。
そのため、オイルキャッチ部15は、デフケース50の回転方向における下流側に位置している。そして、連通口147の周方向の幅は、鉛直線VLを挟んだ左側のほうが、右側よりも広くなっている。鉛直線VLを挟んだ左側は、デフケース50の回転方向における下流側であり、右側は上流側である。これにより、回転軸X回りに回転するデフケース50で掻き上げられたオイルOLの多くが、オイルキャッチ部15内に流入できるようになっている。
【0099】
さらに、図26に示すように、第2軸部446の回転軌道の外周位置と、大径歯車部431の回転軌道の外周位置は、回転軸Xの径方向でオフセットしている。第2軸部446の回転軌道の外周位置のほうが、大径歯車部431の回転軌道の外周位置よりも内径側に位置している。
そのため、第2軸部446の外径側に空間的な余裕がある。この空間を利用して、オイルキャッチ部15を設けることで、本体ボックス10内の空間スペースの有効利用が可能となっている。
【0100】
そして、第2軸部446は、モータ2から見て小径歯車部432の奥側に突出している。第2軸部446の周辺部材(例えば、第2軸部446を支持するデフケース50のガイド部73)が、オイルキャッチ部15に近接した位置になる。
よって、当該周辺部材からオイルキャッチ部15へのオイルOL(潤滑油)の供給をスムーズに行うことができる。
【0101】
また、図26に示すように、第2軸部446と回転軸Xとの間では、第2軸部446の内径側(回転軸X側)にガイド部73と油孔710が位置している。そのため、第2軸部446の内径側(内周)に、ドライブシャフト9Bが位置することになる。
さらに、第1軸部445および段付きピニオンギア43の内径側(内周)に、ドライブシャフト9Aが位置することになる。
【0102】
図22に示すように、支持台部151の奥側には、油路151aの外径側の端部が開口している。油路151aは、第4ボックス14内を内径側に延びている。油路151aの内径側の端部は、支持部145の内周に開口している。
図2に示すように、支持部145において油路151aの内径側の端部は、リップシールRSとベアリングB2との間に開口している。
【0103】
図24および図26に示すように、支持台部151には、オイルガイド152が載置されている。
オイルガイド152は、キャッチ部153と、キャッチ部153から第1ボックス11側(図24における紙面手前側)に延びるガイド部154とを有している。
【0104】
図26に示すように、上方から見て支持台部151は、回転軸Xの径方向外側で、デフケース50(第1ケース部6、第2ケース部7)の一部に重なる位置に、段付きピニオンギア43(大径歯車部431)との干渉を避けて設けられている。
回転軸Xの径方向から見て、キャッチ部153は、ピニオン軸44の第2軸部446と重なる位置に設けられている。さらにガイド部154は、ピニオン軸44の第1軸部445と大径歯車部431と重なる位置に設けられている。
【0105】
そのため、デフケース50が回転軸X回りに回転する際に、デフケース50で掻き上げられたオイルOLが、キャッチ部153とガイド部154側に向けて移動する。
【0106】
図24に示すように、キャッチ部153の外周縁には、支持台部151から離れる方向(上方向)に延びる壁部153aが設けられている。壁部153aによって、回転軸X回りに回転するデフケース50で掻き上げられたオイルOLの一部が、オイルガイド152に貯留される。
【0107】
キャッチ部153の奥側(図24における紙面奥側)では、壁部153aに切欠部155が設けられている。
切欠部155は、油路151aに対向する領域に設けられている。キャッチ部153に貯留されたオイルOLの一部が、切欠部155の部分から油路151aに向けて排出される。
【0108】
ガイド部154は、キャッチ部153から離れるにつれて下方に傾斜している。ガイド部154の幅方向の両側には、壁部154a、154aが設けられている。壁部154a、154aは、ガイド部154の長手方向の全長に亘って設けられている。壁部154a、154aは、キャッチ部153の外周を囲む壁部153aに接続する。
キャッチ部153に貯留されたオイルOLの一部は、ガイド部154側にも排出される。
【0109】
図25および図26に示すように、ガイド部154は、デフケース50との干渉を避けた位置を、第2ボックス12側に延びている。ガイド部154の先端154bは、第2ボックス12の壁部120に設けた貫通孔126aに、回転軸X方向の隙間を空けて対向している。
図25に示すように、壁部120の外周には、貫通孔126aを囲むボス部126が設けられている。ボス部126には、回転軸X方向から配管127の一端が嵌入している。
【0110】
配管127は、第2ボックス12の外側を通って第3ボックス13まで及んでいる。配管127の他端は、第3ボックスの円筒状の接続壁136に設けた油孔136a(図2参照)に連通している。
【0111】
回転軸X回りに回転するデフケース50で掻き上げられて、オイルキャッチ部15に到達したオイルOLの一部が、ガイド部154と配管127を通って、接続壁136の内部空間Scに供給される。
【0112】
第3ボックス13には、内部空間Scに連通する径方向油路137が設けられている。
径方向油路137は、内部空間Scから径方向下側に延びる。径方向油路137は、接合部132内に設けた軸方向油路138に連通する。
【0113】
軸方向油路138は、第1ボックス11の接合部112に設けた連通孔112aを介して、第2ボックス12の下部に設けたオイル溜り部128に連絡している。
オイル溜り部128は、周壁部121内を回転軸X方向に貫通している。オイル溜り部128は、第4ボックス14に設けた第2ギア室Sb2に連絡している。
【0114】
かかる構成の動力伝達装置1の作用を説明する。
図1に示すように、動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、遊星減速ギア4と、差動機構5と、ドライブシャフト9(9A、9B)と、が設けられている。
【0115】
図2に示すように、モータ2の駆動により、ロータコア21が回転軸X回りに回転すると、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20を介して、遊星減速ギア4のサンギア41に回転が入力される。
【0116】
図3に示すように、遊星減速ギア4では、サンギア41が、モータ2の出力回転の入力部となっている。段付きピニオンギア43を支持するデフケース50が、入力された回転の出力部となっている。
【0117】
サンギア41が入力された回転で回転軸X回りに回転すると、段付きピニオンギア43(大径歯車部431、小径歯車部432)が、サンギア41側から入力される回転で、軸線X1回りに回転する。
ここで、段付きピニオンギア43の小径歯車部432は、第4ボックス14の内周に固定されたリングギア42に噛合している。そのため、段付きピニオンギア43は、軸線X1回りに自転しながら、回転軸X周りに公転する。
【0118】
ここで、段付きピニオンギア43の小径歯車部432の外径R2は、大径歯車部431の外径R1よりも小さくなっている(図3参照)。
これにより、段付きピニオンギア43を支持するデフケース50(第1ケース部6、第2ケース部7)が、モータ2側から入力された回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。
そのため、遊星減速ギア4のサンギア41に入力された回転は、段付きピニオンギア43により、大きく減速される。減速された回転は、デフケース50(差動機構5)に出力される。
【0119】
そして、デフケース50が、入力された回転で回転軸X回りに回転することにより、デフケース50内で、ピニオンメートギア52と噛合するドライブシャフト9(9A、9B)が回転軸X回りに回転する。これにより動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪W、W(図1参照)が、伝達された回転駆動力で回転する。
【0120】
図2に示すように、第4ボックス14の内部には、潤滑用のオイルOLが貯留されている。そのため、貯留されたオイルOLは、モータ2の出力回転の伝達時に、回転軸X回りに回転するデフケース50により掻き上げられる。
掻き上げられたオイルOLにより、サンギア41と大径歯車部431との噛合部と、小径歯車部432とリングギア42との噛合部と、ピニオンメートギア52とサイドギア54A、54Bとの噛合部とが潤滑される。
【0121】
図23に示すように、第3ボックス13側から見てデフケース50は、回転軸X周りの反時計回り方向CCWに回転する。
第4ボックス14の上部には、オイルキャッチ部15が設けられている。オイルキャッチ部15は、デフケース50の回転方向における下流側に位置している。デフケース50で掻き上げられたオイルOLの多くが、オイルキャッチ部15内に流入する。
【0122】
図26に示すように、オイルキャッチ部15内には、支持台部151に載置されたオイルガイド152が設けられている。
デフケース50の第1ケース部6の径方向外側と、デフケース50の第2ケース部7の径方向外側に、オイルガイド152のガイド部154とキャッチ部153が位置している。
そのため、デフケース50で掻き上げられてオイルキャッチ部15内に流入したオイルの多くが、オイルガイド152に捕捉される。
オイルガイド152に捕捉されたオイルOLの一部は、壁部153aに設けた切欠部155から排出される。排出されたオイルOLは、支持台部151の上面に一端が開口した油路151aに流入する。
【0123】
油路151aの内径側の端部は、支持部145の内周に開口している(図2参照)。そのため、油路151aに流入したオイルOLは、第4ボックス14の支持部145の内周と、サイドギア54Bの筒壁部540との間の隙間Rxに排出される。
【0124】
隙間Rxに排出されたオイルOLの一部は、支持部145で支持されたベアリングB2を潤滑する。ベアリングB2を潤滑したオイルOLは、デフケース50の外側(ベアリングB2側)を、デフケース50の回転による遠心力で外径側に移動する(図17図18参照)。
デフケース50の外径側には、回転軸X方向から見て環状を成すガイド部73が設けられている。そのため、外径側に移動したオイルOLは、ガイド部73の部分で捕捉される。
図13に示すように、第2ケース部7の基部71では、ガイド部73の内周面731に沿って油孔710が設けられている。オイルOLは、ガイド部73によって更なる外径側への移動が妨げられる。移動が妨げられたオイルOLは、ガイド部73の内周に開口する油孔710を、第1ケース部6側に通過する。
【0125】
ここで、第2ケース部7におけるベアリングB2側の面では、回転軸X周りの周方向で隣接する油孔710、710の間にリブ711が設けられている(図16参照)。
図16および図20に示すように、動力伝達装置1を搭載した車両の前進走行時には、デフケース50(第2ケース部7)は、図中時計回り方向に回転する。
【0126】
オイルOLは、デフケース50の回転による遠心力で外径側に移動する。油孔710に直接流入しなかったオイルOLは、図20の破線の矢印で示すように、外径側に移動しながら、デフケース50の回転方向における下流側に移動する。
デフケース50の回転方向における下流側には、リブ711が位置している。下流側に移動したオイルOLの流れは、リブ711によってせき止められる。
【0127】
リブ711でせき止められ滞留したオイルOLの領域は、デフケース50の回転方向における上流側に向けて広がる。上流側に向けて広がったオイルOLは油孔710に到達して、油孔710に流入する。
【0128】
本実施形態では、図19に示すように、リブ711の側面に凹溝711a、711bが設けられている。そのため、リブ711に到達したオイルOLの多くが、リブ711を乗り越えずにリブ711で滞留する。
なお、凹溝711aは、動力伝達装置1を搭載した車両の前進走行時にオイルOLの滞留に寄与する部位である。凹溝711bは、動力伝達装置1を搭載した車両の後進走行時にオイルOLの滞留に寄与する部位である。
【0129】
さらに、図19および図20に示すように、ガイド部73に突出部73aが設けられている。突出部73aにおける第2ケース部7の基部71との間の内周面731が、油溝として機能する。
オイルOLは、デフケース50の回転による遠心力でガイド部73まで到達する。ガイド部73に到達したオイルOLの多くが、ガイド部73を乗り越えずに、内周面731の側方で、回転軸X方向に開口する油孔710に流入する。
【0130】
図4に示すように、油孔710の第1ケース部6側で、ガイド部78の内周において、ケース内油路781が開口している。油孔710を通過したオイルOLの一部は、デフケースの回転による遠心力によりケース内油路781内に流入する。
ケース内油路781に流入したオイルOLは、導入路441を通ってピニオン軸44の軸内油路440に流入する。軸内油路440に流入したオイルOLは、油孔442、443から径方向外側に排出される。排出されたオイルOLは、ピニオン軸44に外挿されたニードルベアリングNBを潤滑する。
【0131】
ここで、図13に示すように、ケース内油路781は、回転軸X側(内径側)に向かうにつれて、油孔710との離間距離Dcが短くなる向きで、軸線X1に対して傾斜している。
そのため、油孔710を通ってデフケース50の内部に流入したオイルOLの多くが、デフケース50の回転による遠心力で拡散する前に、ケース内油路781に流入する。
【0132】
なお、ケース内油路781の回転軸X側の開口781aと油孔710との離間距離Dcが大きくなると、開口781aに到達する前に、デフケース50の回転による遠心力で拡散するオイルOLの量が増える。その結果、ケース内油路781に流入するオイルOLの総量が減少する。
【0133】
さらに、油孔710を第1ケース部6側に通過したオイルOLのうち、ケース内油路781に流入しなかったオイルOLの多くは、段付きピニオンギア43の内径側に位置するピニオンメートギア52と、ピニオンメートギア52とサイドギア54A、54Bとの噛合部を潤滑する。
【0134】
さらに、隙間Rxに排出されたオイルOLの一部は、図14に示すように、第2ケース部7の筒壁部72の内周に設けた油溝721を通る。油溝721を通ったオイルOLは、サイドギア54Bの裏面を支持するワッシャ55に供給されて、ワッシャ55を潤滑する。
さらに、オイルOLは、第2ケース部7の基部71に設けた油溝712と、円弧部741に設けた油溝742を通る。油溝742を通ったオイルOLは、ピニオンメートギア52の裏面を支持する球面状ワッシャ53に供給されて、球面状ワッシャ53を潤滑する。
【0135】
また、オイルキャッチ部15のオイルガイド152に捕捉されたオイルOLの一部は、ガイド部154側に排出される(図24参照)。ガイド部154の先端154bは、第2ボックス12の壁部120に設けた貫通孔126aに、回転軸X方向の隙間を空けて対向している(図25参照)。
そのため、ガイド部154側に排出されたオイルOLの多くが、第2ボックス12の貫通孔126aに流入する。
【0136】
壁部120の外周には、貫通孔126aを囲むボス部126が設けられている。ボス部126には、回転軸X方向から配管127の一端が嵌入している。
配管127は、第2ボックス12の外側を通って第3ボックス13まで及んでいる。配管127の他端は、第3ボックスの円筒状の接続壁136に設けた油孔136a(図2参照)に連通している。
【0137】
そのため、本実施形態では、オイルキャッチ部15に到達したオイルOLの一部が、ガイド部154と配管127を通って、接続壁136の内部空間Scに供給される。
油孔136aから内部空間Scに排出されたオイルOLは、内部空間Scに貯留される。オイルOLは、また、第3ボックス13の周壁部131で支持されたベアリングB4を潤滑する。
【0138】
内部空間Scに排出されたオイルOLの一部は、ドライブシャフト9Aの外周とモータシャフト20の内周との隙間を通って、モータシャフト20の他端20b側まで移動する。
図10に示すように、モータシャフト20の他端20bは、サイドギア54Aの筒壁部541の内側に挿入されている。筒壁部541の内周には、サイドギア54Aの裏面に連通する連絡路542が設けられている。
そのため、モータシャフト20の他端20b側まで移動して、筒壁部541の内側に排出されたオイルOLの一部は、連絡路542を通る。連絡路542を通ったオイルOLは、サイドギア54Aの裏面のワッシャ55に供給されて、ワッシャ55を潤滑する。
【0139】
さらに、サイドギア54Aの裏面のワッシャ55を潤滑したオイルOLは、第1ケース部6のギア支持部66に設けた油溝662と、円弧部641に設けた油溝642を通る。油溝642を通ったオイルOLは、ピニオンメートギア52の裏面を支持する球面状ワッシャ53に供給されて、球面状ワッシャ53を潤滑する。
【0140】
また、図2に示すように、第3ボックス13の内部空間Scは、径方向油路137と、軸方向油路138と、連通孔112aと、第2ボックス12の下部に設けたオイル溜り部128と、を介して、第4ボックス14に設けた第2ギア室Sb2に連絡している。
そのため、内部空間Sc内のオイルOLは、第4ボックス14内に貯留されたオイルOLと同じ高さ位置に保持される。
【0141】
このように、回転軸X回りに回転するデフケース50で掻き上げられたオイルOLの多くが、オイルキャッチ部15内に流入する。オイルOLは、オイルキャッチ部15から、第4ボックス14の支持部145内に供給されてベアリングB2を潤滑する。オイルOLは、また、第3ボックス13内の内部空間Scに供給されてベアリングB4を潤滑する。
そして、これらベアリングB2、B4を潤滑したオイルOLは、最終的に第4ボックス14内に戻されて、回転するデフケース50により掻き上げられる。
【0142】
よって、動力伝達装置1では、駆動輪W、Wの回転時に第4ボックス14内のオイルOLが掻き上げられて、ベアリングや、ギア同士の噛合部の潤滑に用いられる。潤滑に用いられたオイルOLは、第4ボックス14内に戻されて、再び掻き上げられるようになっている。
【0143】
以上の通り、本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(1)動力伝達装置1は、
差動機構5と、
差動機構5を収容し、ガイド部73を有するデフケース50(ケース)と、を有する。
デフケース50は、回転軸X方向(軸方向)に突出するガイド部73の内周面731を経由してオイルOL(潤滑油)が導入されるケース内油路781を有する。
【0144】
デフケース50の回転による遠心力と、第2ケース部7のガイド部73を利用して、デフケース50の外側のオイルOL(潤滑油)を、油孔710に向けて移動させる。これによって、油孔710内にオイルOLをスムーズに導入することができるので、潤滑効率を向上させることができる。
【0145】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(2)回転軸X方向から見てガイド部73は環状である。
【0146】
回転軸X方向から見てガイド部73は、環状でも非環状でもよい。ガイド部73を環状とした場合、非環状とした場合と比較してデフケース50の回転抵抗を低減できる。
また、ガイド部73を非環状とした場合には、油孔710に向けて移動させるオイルOLの量が減少する。ガイド部73を環状とすることで、油孔710に向けて移動するオイルOLの量を確保できる。
これにより、ケース内油路781を介してピニオン軸44や、ピニオンメートギア52およびサイドギア54A、54Bに供給するオイルOLの量を確保できる。動力伝達装置1の潤滑効率を向上させることができる。
【0147】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(3)デフケース50は、ガイド部73の内周に、外側に向かって開口する油孔710を有している。
ガイド部73は、内径側に突出する突出部73aを有している。
ガイド部73の内周は、突出部73aと油孔710との間が油溝となっている。
【0148】
デフケース50の回転による遠心力で外径側に移動するオイルОLを、突出部73aと油孔710との間の油溝の部分で捕捉して、油孔710に誘導できる。
【0149】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(4)デフケース50は、ガイド部73の内周に位置し、回転軸X方向外側に突出するリブ711を有する。
【0150】
オイルOLは、リブ711の側面の凹溝711a、711bを伝って、ガイド部73の内周面731に導かれる。オイルOLは内周面731を伝ってケース内油路781まで導入されるので、潤滑効率を向上させることができる。
ここで、本明細書における用語「外周に位置」とは、外側において径方向に重なることと同義である。「内周に位置」とは内側において径方向に重なることと同義である。
【0151】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(5)リブ711の軸方向高さ(転軸X方向の高さh711、図12の(b)参照)は、ガイド部73の軸方向高さ(回転軸方向の高さh73、図12の(a)参照)よりも低い。
【0152】
回転軸X方向から見てリブ711は、回転軸Xの径方向に直線状に延びる帯状の部位であり、非環状である。そのため、回転軸X回りに回転するデフケース50がオイルOLを掻き上げる際に、リブ711の部分が、デフケース50の回転抵抗になる。
リブ711の部分の回転軸X方向の高さh711を、回転軸X方向から見て環状成すガイド部73の回転軸X方向の高さh73よりも低くすることにより、デフケース50が受ける回転抵抗を低減できる。
【0153】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(6)デフケース50の回転軸X方向から見て、リブ711は、ガイド部73の内周から内径側に延びている。
回転軸X回りの周方向におけるリブ711の側縁には凹溝711a(油溝)、771bが設けられている。
【0154】
デフケース50の回転による遠心力で外径側に移動するオイルOLの一部を、リブ711の部分で滞留させることができる。リブ711の部分に滞留したオイルOLの領域が、デフケース50の回転方向における上流側に向けて広がり、オイルOLが油孔710に流入する。
これにより、ピニオン軸44や、ピニオンメートギア52およびサイドギア54A、54Bに供給するオイルOLの量を確保できるので、潤滑効率を向上させることができる。
【0155】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(7)ガイド部73の内周の油溝(突出部73aと油孔710との間の内周面731の部分)は、リブ711の凹溝711a、711b(油溝)と連絡している。
【0156】
リブ711の部分に滞留したオイルOLを、リブ711の凹溝711a、711bからガイド部73の内周の油溝に誘導できる。ガイド部73の内周に沿って油孔710が形成できるので、リブ711の部分に滞留したオイルOLを油孔710に向けて誘導できる。
【0157】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(8)ケース内油路781は、デフケース50の外側のオイルOL(潤滑油)を、差動機構5へ供給する油路である。
【0158】
差動機構5の潤滑効率を高めることができる。
【0159】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(9)ケース内油路781は、デフケース50の外側のオイルOL(潤滑油)を、差動機構5以外の回転要素へ供給する油路である。
【0160】
差動機構5以外の回転要素、例えば、段付きピニオンギア43を支持するニードルベアリングNB(軸受)などの潤滑効率を高めることができる。
【0161】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有する。
(10)動力伝達装置1における動力伝達経路上で、差動機構5の上流側にモータ2が位置している。
差動機構5は、モータ2と回転軸X方向でオーバラップしている
【0162】
1軸の電気自動車用の動力伝達装置であり、コンパクトな動力伝達装置を提供することができる。
【0163】
図17は、ケース内油路781の変形例を説明する図である。
前記した実施形態では、図17の(a)に示すように、ケース内油路781の内径側の開口781aが、油孔710を有する基部71よりもデフケース50内側(図中、右側)に開口している場合を例示した。
図17の(b)に示すように、ケース内油路781Aの内径側の開口781aが、油孔710の部分で開口している構成としても良い。図17の(c)に示すように、ケース内油路781Bの内径側の開口781aが、油孔710よりも外側(デフケース50の外側)で開口している構成としても良い。
【0164】
また、図17の(d)に示すように、ケース内油路781Cの内径側の開口781aが、基部71における油孔710が設けられていない領域であって、デフケース50の外側に開口している構成としても良い。
何れの構成においても、デフケース50の回転による遠心力により外径側に向けて移動したオイルOLのうち、ガイド部73で捕捉されたオイルOLを、ケース内油路781A~781Cから、ピニオン軸44側に誘導することがきる。
【0165】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0166】
1 動力伝達装置
2 モータ
4 遊星減速ギア
43 段付きピニオンギア
5 差動機構
50 デフケース
710 油孔
711 リブ
711a、711b 凹溝
73 ガイド部
73a 突出部
731 内周面
742 油溝
781 ケース内油路
X 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30