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特許7392225電子線硬化型組成物、食品包装材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】電子線硬化型組成物、食品包装材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20231129BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231129BHJP
   C09D 7/47 20180101ALI20231129BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231129BHJP
【FI】
C09D4/02
C09D7/65
C09D7/47
C09D7/61
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021201034
(22)【出願日】2021-12-10
(65)【公開番号】P2023086484
(43)【公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-05-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武田 政史
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071701(JP,A)
【文献】特開2021-123616(JP,A)
【文献】特開2017-002187(JP,A)
【文献】特開2010-241954(JP,A)
【文献】特開2020-100742(JP,A)
【文献】特開2020-143243(JP,A)
【文献】特開2012-077139(JP,A)
【文献】特開2012-025910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基数3以上のプロピレンオキサイド(PO)変性(メタ)アクリレート(A1)を含有する1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)を含み、下記(1)及び(2)を満たし、光重合開始剤を実質的に含有しない、電子線硬化型組成物。
(1)前記1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)のそれぞれにおいて、分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物の含有量が、組成物の全質量を基準として25質量%未満である。
(2)前記官能基数3以上のプロピレンオキサイド(PO)変性(メタ)アクリレート(A1)の含有量が、組成物の全質量を基準として15質量%以上である。
【請求項2】
さらに、平均粒子径が0.5~6.0μmである樹脂ビーズ(B)を含み、前記樹脂ビーズ(B)の含有量が、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、5.0質量%未満である、請求項1に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項3】
前記官能基数3以上のプロピレンオキサイド(PO)変性(メタ)アクリレート(A1)が、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性グリセリルトリアクリレート、PO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びPO変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリレート化合物(A)が、さらに、官能基数3以上のエチレンオキサイド(EO)変性(メタ)アクリレートを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項5】
さらに、アクリル系レベリング剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項6】
さらに、合成非晶質シリカを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項7】
25℃における粘度が、700mPa・s以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項8】
電子線硬化型オーバーコートニスとして用いられる、請求項1~のいずれか1項に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項9】
食品包装材料の表面層の形成に用いられる、請求項に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項10】
基材と、基材上に設けられた表面層とを含み、前記表面層が請求項1~のいずれか1項に記載の電子線硬化型組成物の硬化塗膜からなる食品包装材料。
【請求項11】
前記表面層が、1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)と樹脂ビーズ(B)とを含む請求項2~のいずれか1項に記載の電子線硬化型組成物の硬化塗膜からなる食品包装材料であって、
前記硬化塗膜における前記樹脂ビーズ(B)の平均粒子径bと、前記硬化塗膜を形成する前記電子線硬化型組成物の塗布量tの比(b/t)が、0.5~2.0である、請求項10に記載の食品包装材料。
【請求項12】
基材の上に、1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)と樹脂ビーズ(B)とを含む請求項2~のいずれか1項に記載の電子線硬化型組成物を塗布して塗膜を形成すること
前記塗膜を電子線によって硬化し、硬化塗膜からなる表面層を形成すること
を含み、
前記表面層の形成において、前記硬化塗膜における前記樹脂ビーズ(B)の平均粒子径bと、前記硬化塗膜を形成する前記電子線硬化型組成物の塗布量tの比(b/t)が0.5~2.0である、食品包装材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は電子線硬化型組成物に関し、より詳細には電子線硬化型オーバーコートニスとして好適に使用できる電子線硬化型組成物に関する。本発明の他の実施形態は、電子線硬化型組成物の硬化塗膜を表面層に有する食品包装材料及び食品包装材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、瞬間乾燥による工程時間の短縮、揮発性成分を含有しないこと(Non-VOC)による環境負荷低減、および架橋反応による強固な塗膜物性の実現が可能となる観点から、印刷産業では活性エネルギー線硬化技術の利用が拡大している。例えば、紫外線硬化又は電子線硬化を利用したインキおよびニスが様々な用途で実用化されている。しかし、食品包装材料等の用途向けたインキ又はニスについては、重合開始剤などの低分子量の成分が内包食品へ移行すること(以下、マイグレーションという)が問題視され、改善が求められている。
【0003】
紫外線硬化型の反応形態では重合開始剤が必要となるが、電子線硬化型の反応形態では高エネルギーの電子線を利用するため光重合開始剤を必要としない。そのため、マイグレーションの問題を改善する観点から、食品包装材料等の用途で使用するインキ又はニスとして電子線硬化型組成物を好ましく利用することができる。しかし、代表的な電子線硬化型組成物は、紫外線硬化型組成物と同様に、主成分として(メタ)アクリレートモノマーを含み、低分子量の(メタ)アクリレートモノマーによるマイグレーションの問題が起こりやすい。そのため、マイグレーション改善に向けたさらなる検討が求められている。
【0004】
一般的に、食品包装材料においてインキ又はニスを印刷した印刷面は、直接食品に接触することのない構成(食品非接触)となっている。上記食品包装材料の構成において主要なマイグレーション機構は、塗膜中の成分が基材を透過するペネトレーションと、塗膜表面が基材の非印刷面(裏面)に接触することによるセットオフであり、両要因の影響を総合的に評価しなければならない。電子線硬化型組成物をインキ又はニスとして使用した場合、塗膜表面の硬化性は良好であるため、前者のペネトレーションが主たる要因となる。
【0005】
ペネトレーションによるマイグレーションの抑制には、基材そのものの膜厚増加、バリア性の高い基材の適用、アルミ箔、シリカ、およびアルミナ蒸着などの完全バリア層の導入などの方法が効果的である。しかし、これらの方法は、近年の環境対策としてのプラスチック使用量削減、およびリサイクル性という観点から実用的ではない。特に、リサイクル性の高いポリオレフィンフィルム(ポリエチレン又はポリプロピレンなど)は、比較的ガラス転移温度が低いため、バリア性が低く、マイグレーション抑制効果も低い。
このようなことから、インキ又はニスを印刷した印刷面からのマイグレーションを抑制する技術として、インキ又はニスとして使用する電子線硬化型組成物それ自体の開発が望まれている。
【0006】
食品包装材料におけるマイグレーションについては、食品包装の安全性を確保するために設けられた様々な規制が知られている。なかでも、スイス連邦の条例(SwissOrdinance RS817.023.21Annex10)では、食品非接触のインキおよびニスを含む包装材料のポジティブリスト(使用可能な原材料の規制)が設けられ、さらに各原材料について許容されるマイグレーション量(SML)について規制している。スイス連邦の条例における規制水準は非常に厳しいが、その規制水準は、消費者の安全志向の高まりから、近年、食品包装材料の世界基準として重要な指標となっている。
【0007】
一方、食品包装材料の分野では、裏刷り印刷のラミネーション構成から表刷りの構成への代替が検討されている。裏刷り印刷のラミネーション構成の包装材料は、複数のフィルムを接着剤で張り合わせフィルム層を形成することによって、内容物が必要とする保護機能を発現させている。このような構成の場合、印刷面はフィルム層に挟まれ、フィルムが最表面となるため、インキ塗膜には強度などの物性が求められない。これに対し、表刷り印刷の包装材料では、インキ塗膜が包装材料の最表面となるため、インキ塗膜の保護を目的として、一般的にオーバーコートニスが塗布される。
【0008】
食品包装材料の用途で使用されるオーバーコートニスとしては、溶剤又は水性タイプの熱乾燥型オーバーコートニスが主流となっている。しかし、上記熱乾燥型オーバーコートニスを使用した場合、様々な印刷システムにインライン又はオフラインで適応可能となる十分な塗膜強度を得ることは難しい。
一方、活性エネルギー線硬化型組成物をオーバーコートニスとして使用した場合、所望とする塗膜強度を容易に得ることはできる。しかし、上述のように従来の活性エネルギー線硬化型オーバーコートニスではマイグレーションの改善が望まれている。また、最表面に従来のオーバーコートニスの塗膜を有する表刷り印刷の包装材料は、最表面がフィルムからなる裏刷り印刷の包装材料と比べて光沢性に劣る傾向がある。そのため、包装材料の外観及び意匠性を高める観点から、弾きが発生し難く、光沢性に優れる塗膜を形成できるオーバーコートニスが求められている。また、後加工適性及び内容物の充填適性の観点から、スリップ性に優れる包装材料が求められている。
【0009】
これに対し、特許文献1は、ポリオールを添加することで、電子線硬化を促進し、低分子量アクリレートモノマーのマイグレーションを抑制する技術を開示している。また、特許文献2は、電子線硬化型オーバーコートニスにジメチルポリシロキサンを添加することで、硬化性、密着性、耐スクラッチ性等の塗膜特性を向上させる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2020/012157号
【文献】特開2020-147730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、いずれの技術も、マイグレーション、弾き及び光沢性の観点では、十分に満足できるレベルではなく、さらなる検討が望まれている。
したがって、上述の状況に鑑み、本発明の一実施形態は、マイグレーションを改善し、かつ、弾きが起こり難く、及び光沢性に優れる塗膜を形成できる、電子線硬化型組成物を提供する。本発明の他の実施形態は、上記電子線硬化型組成物を使用して、スリップ性に優れる食品用包装材料及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、以下に記載の電子線硬化型組成物を構成することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の実施形態は以下に関する。但し、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、様々な実施形態を含む。
【0013】
一実施形態は、官能基数3以上のプロピレンオキサイド(PO)変性(メタ)アクリレート(A1)を含有する1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)を含み、下記(1)及び(2)を満たす電子線硬化型組成物に関する。
(1)前記1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)のそれぞれにおいて、分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物の含有量が、組成物の全質量を基準として25質量%未満である。
(2)前記官能基数3以上のプロピレンオキサイド(PO)変性(メタ)アクリレート(A1)の含有量が、組成物の全質量を基準として15質量%以上である。
一実施形態において、上記電子線硬化型組成物は、25℃における粘度が、700Pa・s以下であることが好ましい。
【0014】
上記実施形態の電子線硬化型組成物は、さらに、平均粒子径が0.5~6.0μmである樹脂ビーズ(B)を含むことが好ましい。上記樹脂ビーズ(B)の含有量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、5.0質量%未満であることが好ましい。
【0015】
上記官能基数3以上のプロピレンオキサイド(PO)変性(メタ)アクリレート(A1)は、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性グリセリルトリアクリレート、PO変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、PO変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、PO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びPO変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、ことが好ましい。
【0016】
上記実施形態の電子線硬化型組成物において、上記(メタ)アクリレート化合物(A)は、さらに、官能基数3以上のエチレンオキサイド(EO)変性(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0017】
上記実施形態の電子線硬化型組成物は、さらに、アクリル系レベリング剤を含むことが好ましい。
【0018】
上記実施形態の電子線硬化型組成物は、さらに、合成非晶質シリカを含むことが好ましい。
【0019】
上記実施形態の電子線硬化型組成物は、光重合開始剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0020】
上記実施形態の電子線硬化型組成物は、電子線硬化型オーバーコートニスとして用いられることが好ましい。
【0021】
上記実施形態の電子線硬化型組成物は、食品包装材料の表面層を形成するために用いられることが好ましい。
【0022】
一実施形態は、基材と、基材上に設けられた表面層とを含み、上記表面層が上記実施形態の電子線硬化型組成物の硬化塗膜からなる食品包装材料に関する。
【0023】
上記実施形態の食品包装材料において、上記表面層は、1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)と樹脂ビーズ(B)とを含む上記実施形態の電子線硬化型組成物の硬化塗膜からなる食品包装材料であって、
上記硬化塗膜における上記樹脂ビーズ(B)の平均粒子径bと、上記硬化塗膜を形成する上記電子線硬化型組成物の塗布量tの比(b/t)は、0.5~2.0であることが好ましい。
【0024】
一実施形態は、基材の上に、1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)と樹脂ビーズ(B)とを含む上記実施形態の電子線硬化型組成物を塗布して塗膜を形成すること
上記塗膜を電子線によって硬化し、硬化塗膜からなる表面層を形成すること
を含み、
上記表面層の形成において、上記硬化塗膜における前記樹脂ビーズ(B)の平均粒子径bと、上記硬化塗膜を形成する上記電子線硬化型組成物の塗布量tの比(b/t)は0.5~2.0である、食品包装材料の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一実施形態によれば、マイグレーションを改善し、弾きが起こり難く、及び光沢性に優れる塗膜を形成できる、電子線硬化型組成物を提供することができる。本発明の他の実施形態は、上記電子線硬化型組成物を使用して、スリップ性に優れる食品用包装材料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、以下に記載する構成要件および条件等は、本発明における実施形態の一例である。したがって、本発明は、以下の説明における趣旨を超えず、また発明の効果が得られる限り、これらの内容に限定されない。また、特にことわりのない限り、「部」とは「質量部」、「%」とは「質量%」を表す。
【0027】
1.電子線硬化型組成物
本発明の一実施形態は、官能基数3以上のプロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレート(A1)を含有する1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)を含み、下記(1)及び(2)を満たす電子線硬化型組成物に関する。
(1)上記1以上の(メタ)アクリレート化合物(A)のそれぞれにおいて、分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物の含有量が、組成物の全質量を基準として25質量%未満である。
(2)上記官能基数3以上のプロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレートの含有量が、組成物の全質量を基準として15質量%以上である。
【0028】
以下、上記電子線硬化型組成物の構成成分について説明する。
<(メタ)アクリレート化合物(A)>
本発明の一実施形態である電子線硬化型組成物は、(メタ)アクリレート化合物(A)を主成分とする。一実施形態において、電子線硬化型組成物の全質量を基準とする、(メタ)アクリレート化合物(A)の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
本明細書において(メタ)アクリレート化合物(A)とは、重合性基である(メタ)アクリロイル基(官能基という場合がある)を1分子中に1つ以上有する化合物である。「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」と「メタクリレート」の併記を表す。電子線硬化型組成物において、(メタ)アクリレート化合物(A)は、少なくとも、官能基数3以上のプロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレート(A1)を含有する。
【0030】
上記(メタ)アクリレート化合物(A)は、官能基数3以上のプロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレート(A1)以外の多官能(メタ)アクリレートモノマー、単官能(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリレートオリゴマー、及び(メタ)アクリレートポリマーからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでもよい。本発明において、「モノマー」とは、オリゴマー又はポリマーを構成するための最小構成単位の化合物を意味し、以下の記載では(メタ)アクリレートとして記載する場合もある。以下、電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物についてより具体的に説明する。
【0031】
電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物(A)は、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)を少なくとも含む。PO変性された(メタ)アクリレートは表面張力が小さいことから、塗工時の弾きを抑制し、光沢性の向上に寄与する。弾きを抑制し、光沢性に優れる塗膜を容易に得る観点から、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)の含有量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、15質量%以上であることが好ましい。上記含有量は、18質量%以上であることがより好ましく、24質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることがよりいっそう好ましい。一方、一実施形態において、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)の含有量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、97質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)は、(メタ)アクリレート官能基数が3~6であることが好ましい。官能基数は3又は4であることがより好ましく、官能基数は4であることがさらに好ましい。
官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)の具体例として、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性グリセリルトリ(メタ)アクリレート、PO変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、PO変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、PO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びPO変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの1種又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0033】
官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)は、プロピレンオキサイド基の付加数が2~20であってよい。プロピレンオキサイド基の付加数は、3~15が好ましく、3~10がより好ましく、4~6がさらに好ましい。
例えば、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート化合物は、PO(3モル)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO(6モル)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートであってよい。PO変性グリセリルトリ(メタ)アクリレート化合物は、PO(3モル)変性グリセリルトリ(メタ)アクリレート、PO(6モル)変性グリセリルトリ(メタ)アクリレート、PO(9モル)変性グリセリルトリ(メタ)アクリレートであってよい。 PO変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート化合物はPO(3モル)変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレートであってよい。PO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート化合物は、PO(4モル)変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、PO(8モル)変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、PO(10モル)変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートであってよい。PO変性ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート化合物は、PO変性(4モル)ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートであってよい。さらに、PO変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート化合物は、PO変性(6モル)ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートであってよい。
【0034】
一実施形態において、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)は、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、PO変性ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、及びPO変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なかでも、硬化性と光沢の観点から、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、又はPO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0035】
官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)は、市販品として入手することができる。例えば、新中村化学工業社製の「ATM-4P」(PO(4モル)変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、「A-DPA-6PA」(PO(6モル)変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)を好適に使用することができる。
【0036】
一実施形態において、電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物は、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)と、これ以外の官能基数3以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーとを含んでよい。
官能基数3以上の(メタ)アクリレートモノマーの具体例として、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレート、
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能(メタ)アクリレート、
ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能(メタ)アクリレート、及び
ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0037】
一実施形態において、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)と併用される多官能(メタ)アクリレートは、官能基数3以上のアルキレンオキサイド変性された(メタ)アクリレート(但し、PO変性の(メタ)アクリレートは除く)を少なくとも含むことがより好ましい。上記官能基数3以上のアルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレートは、アルキレンオキサイド基数が2~20であり、(メタ)アクリレート官能基数が3~6であってよい。
【0038】
官能基数3以上のアルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレートの具体例として、アルキレンオキサイド変性グリセリルトリ(メタ)アクリレート、及びアルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレートなどの、アルキレンオキサイド変性3官能(メタ)アクリレート、
アルキレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びアルキレンオキサイド変性ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの、アルキレンオキサイド変性4官能(メタ)アクリレート、
アルキレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの、アルキレンオキサイド変性5官能(メタ)アクリレート、及び
アルキレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの、アルキレンオキサイド変性6官能(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0039】
例示した上記(メタ)アクリレートにおいて、アルキレンオキサイド基は、エチレンオキサイド基、ブチレンオキサイド基、ペンチレンオキサイド基、及びへキシレンオキサイド基からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。なかでも、入手容易性、及びマイグレーションの抑制の観点から、エチレンオキサイド基が好ましい。したがって、一実施形態において、官能基数3以上のアルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレートのなかでも、官能基数3以上のエチレンオキサイド(EO)変性(メタ)アクリレートを好ましく使用することができる。
【0040】
一実施形態において、電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物は、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)と、官能基数3以上のEO変性(メタ)アクリレートとを含むことが好ましい。
官能基数3以上のEO変性(メタ)アクリレートの具体例として、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性グリセリルトリアクリレート、EO変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、EO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及び、EO変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの1種又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0041】
一実施形態において、上記官能基数3以上のアルキレンオキサイド変性(メタ)アクリレートのなかでも、下記一般式(I)で表されるアルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートを好適に使用することができる。
【化1】
【0042】
一般式(I)中、Rは、アルキレンオキサイド基を表す。アルキレンオキサイド基は、エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ペンチレンオキサイド、及びヘキシレンオキサイドからなる群から選択される1種又は2種以上の基であってよい。Rは、エチレンオキサイドであることが好ましい。
l+m+nは、それぞれ付加しているアルキレンオキサイド基の平均付加数を示す。アルキレンオキサイドの平均付加数は、1分子あたり2~20モルであることが好ましい。
【0043】
アルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートは、アルキレンオキサイド基の種類および付加数によって、塗膜特性を容易に調整することができる。例えば、付加数を上げることによって、ペネトレーションによるマイグレーションを容易に抑制することができる。また、1分子中に反応性のアクリロイル基を3つ有していることから、反応性が高く、強固な塗膜を得ることができる。アルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート化合物の含有量および変性数を調整することによって、硬化塗膜の強度とマイグレーション抑制との良好なバランスを得ることができる。アルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートのなかでも、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレートを好適に使用することができる。
【0044】
市販品として入手可能なEO変性トリメチロールプロパントリアクリレートとして、EO(3モル)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO(6モル)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO(9モル)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO(15モル)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びEO(20モル)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0045】
他の実施形態において、電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物は、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)と、(メタ)アクリレートオリゴマー、又は(メタ)アクリレートポリマーとを含んでもよい。(メタ)アクリレートオリゴマー又は(メタ)アクリレートポリマーは、少なくとも分子内に(メタ)アクリロイル基を有するモノマーから誘導されるオリゴマー又はポリマーを意味する。本発明において、「オリゴマー」とは、比較的重合度の低い、2個~100個のモノマーに基づく構成単位を有する重合体である。(メタ)アクリレートオリゴマーは、(メタ)アクリレートモノマーに比べて分子量が高いことから、マイグレーションのリスクを大きく低減することができる。
【0046】
一実施形態において、(メタ)アクリレート化合物は、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)と、(メタ)アクリレートオリゴマーとを含むことが好ましい。(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。オリゴマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。一実施形態において、ポリエステル(メタ)アクリレートを好適に使用することができる。
【0047】
ポリエステル(メタ)アクリレートは、多塩基酸及び多価アルコールを公知の方法で重縮合して得られる化合物であってよく、カルボキシル基量と水酸基量の配合比によって、分子量、水酸基またはカルボキシル基などの末端基の量を調整することができる。例えば、多塩基酸に含まれるカルボキシル基量が多価アルコールに含まれる水酸基量よりも多い場合、末端官能基はカルボキシル基となる。このカルボキシル基と水酸基含有(メタ)アクリレートの水酸基とを縮合反応させることで、目的とするポリエステル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【0048】
ポリエステル(メタ)アクリレートを使用した場合、強固な硬化皮膜が容易に得られる。また、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)との相溶性が良好で、低粘度であるため、電子線硬化型組成物をインキ又はニスとして使用する際の粘度増加を容易に抑制できる。一実施形態において、電子線硬化型組成物におけるポリエステル(メタ)アクリレートの含有量は、組成物の全質量を基準として、25~85質量%であることが好ましく、45~65質量%であることがより好ましい。
【0049】
ポリエステル(メタ)アクリレートは、市販品として入手することもできる。例えば、ダイセル・オルネクス社製のEBECRYL820、824、837、及び450が挙げられ、これらを好適に使用することができる。
【0050】
一実施形態において、電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物は、必要に応じて、単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでもよい。
単官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例として、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、β-カルボキシルエチル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキノール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、アルコキシ化テトラヒドロフルフリルアクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(オキシエチル)(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノール(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、2-メチル-2-エチル-1、3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、アクリロイルモルフォリンなどが挙げられる。
【0051】
2官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例として、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(ネオペンチルグリコール変性)トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0052】
上述のように、電子線硬化型組成物は、組成物の全質量を基準として官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)を15質量%以上含むことによって、塗工時の弾きの発生を抑制し、かつ光沢性に優れた塗膜を容易に得ることができる。一実施形態において、(メタ)アクリレート化合物(A)の全質量を基準として、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)の含有量は100質量%であってもよい。このような実施形態において、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)の含有量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0053】
また、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)と、その他の(メタ)アクリレート化合物とを併用することによって、マイグレーションの改善、及び塗膜特性の改善が容易となる。例えば、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)と、官能基数3以上のEO変性(メタ)アクリレートとを併用した場合、マイグレーション、弾き、及び光沢性をバランスよく改善することができる。このような実施形態において、(メタ)アクリレート化合物の全質量を基準として、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)、及び官能基数3以上のEO変性(メタ)アクリレートの合計配合量は、100質量%であってもよい。上記実施形態において、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)の含有量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、好ましくは15~70質量%の範囲であってよく、より好ましくは、24~65質量%の範囲であってよく、さらに好ましくは40~60質量の範囲であってよい。
【0054】
官能基数3以上のPO変性又はEO変性(メタ)アクリレートは、市販品として入手でき、各メーカーではPO又はEO付加数を明示している。しかし、実際のところ、付加数には分布があり、あくまで主要な付加数が明示されているに過ぎず、分子量にバラつきがある。そのため、正味の付加数を把握するためには、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)などによる分子量分布の測定が必要である。
【0055】
このような観点から、本発明では、電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物について、それぞれGPCによる分子量分布を測定し、そのグラフから特定範囲の分子量を有する化合物の含有量を規定する。例えば、GPCのグラフにおいて、分子量が500未満の範囲における成分量がX%である場合、PO変性多官能(メタ)アクリレートの含有量Aにおいて、分子量が500未満のPO変性多官能(メタ)アクリレートの含有量はA×X(%)として算出される。オリゴマー及びポリマーについても分子量分布を有するため、一般的に、分子量は重量平均分子量又は数平均分子量として規定されている。しかし、本発明では、上記のようにGPCのグラフから得られる特定範囲の分子量を有する化合物の含有率から、その化合物の含有量を算出する。
【0056】
上記電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物において、分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物は、硬化性が良好なため、強固な塗膜を形成できる。しかし、分子量が低く、未反応成分のペネトレーションによるマイグレーションが発生しやすくなる。そのため、電子線硬化型組成物において、分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物の含有量は可能な限り低減させることが好ましい。したがって、一実施形態において、マイグレーションを抑制する観点から、分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物の含有量は、組成物の全質量を基準として、25質量%未満であることが好ましい。(メタ)アクリレート化合物は、2種以上の(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。例えば、(メタ)アクリレート化合物は、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレートと、官能基数3以上のEO変性(メタ)アクリレート又はポリエステル(メタ)アクリレートとを含んでよい。この場合、それぞれの化合物について分子量が500未満の成分の含有量が25質量%未満であることが好ましい。
【0057】
上記のように分子量が500未満の成分の含有量が25質量%未満である場合、マイグレーションのレベルを許容範囲内に容易に抑制することができる。(メタ)アクリレート化合物における、分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物の含有量は、組成物の全質量を基準として、より好ましくは21質量%未満であり、さらに好ましくは16質量%未満であってよい。一実施形態において、上記含有量は0質量%であってもよい。
【0058】
マイグレーションを抑制する観点から、上記(メタ)アクリレート化合物は、分子量が500以上の(メタ)アクリレート化合物を1種以上含むことが好ましい。一実施形態において、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレートと、官能基数3以上のEO変性(メタ)アクリレート又はポリエステル(メタ)アクリレートとを含んでよく、それぞれの分子量は500以上であることが好ましい。
【0059】
一実施形態において、電子線硬化型組成物の粘度は、700mPa・s未満であることが好ましい。粘度が700mPa・s未満である場合、レベリング性の低下を抑制し、塗膜特性として優れた光沢性を得ることが容易となる。但し、700mPa・s以上の粘度であっても、加温設備を備えた印刷装置を使用することで、優れた光沢性を有する硬化塗膜を得ることはできる。上記粘度は、600mPa・s未満であることが好ましく、500mPa・s未満であることがより好ましく、400mPa・s未満であることが更に好ましい。かかる粘度は、JISZ8803:2011による測定値をいい、25℃におけるE型粘度計による測定値である。電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物として、官能基数3以上のPO変性(メタ)アクリレート(A1)と、その他の(メタ)アクリレート化合物とを併用した場合、粘度を容易に調整することができる。そのため、例えば、粘度が700mPa・s未満の電子線硬化型組成物を容易に得ることができる。
【0060】
(樹脂ビーズ(B))
一実施形態において、電子線硬化型組成物は、樹脂ビーズ(B)をさらに含んでもよい。樹脂ビーズの使用によって、塗膜のスリップ性を改善することができる。樹脂ビーズは、各種樹脂から構成される粒子、又は表面を各種樹脂で被覆した粒子のいずれの形態であってもよい。原料となる樹脂は、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アマイド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、及びウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。特に限定するものではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ビーズを使用した場合、スリップ性を容易に向上できる。
樹脂ビーズは、市販品として入手することができる。例えば、モメンティブ社のトスルパールのシリーズ(シリコーンビーズ)、根上工業社製のアートパールシリーズ(アクリルビーズ)を好適に使用することができる。
【0061】
樹脂ビーズの含有量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、5.0質量%未満であってよい。一実施形態において、樹脂ビーズの含有量は、好ましくは4.5質量%以下であってよく、より好ましくは4.2質量%以下であってよく、さらに好ましくは4.0質量%以下であってよい。樹脂ビーズの含有量を5.0質量%未満に調整することによって、光沢性の低下を容易に抑制することができる。一実施形態において、樹脂ビーズの含有量は0質量%であってもよい。
一実施形態において、スリップ性と光沢性の観点から、樹脂ビーズの含有量は、好ましくは0.15~3.5質量%であってよい。上記含有量は、より好ましくは0.25~3.0質量%であってよく、さらに好ましくは0.5~2.0質量%であってよく、さらにより好ましくは0.5~1.5質量%であってよい。
【0062】
一実施形態において、光沢性の観点から樹脂ビーズの平均粒子径は、好ましくは0.5~6.0μmであってよく、より好ましくは0.5~5.0μmであってよく、さらに好ましくは0.7~4.0μmであってよい。一実施形態において、スリップ性の観点から、樹脂ビーズの平均粒子径は、好ましくは1.3~6.0μmであってよく、より好ましくは1.5~5.0μmであってよく、さらに好ましくは2.0~4.0μmであってよい。樹脂ビーズの平均粒子径を上記範囲内に調整した場合、硬化塗膜のスリップ性と光沢性のバランスが良好となる。上記平均粒子径は、島津製作所株式会社製のレーザー回折粒度分布測定装置SALD-2200を用いて、粒度分布曲線において積算値が50%にあたる粒径(体積基準)を測定することにより得た値である。
【0063】
(レベリング剤)
一実施形態において、電子線硬化型組成物は、さらにレベリング剤を含んでよい。レベリング剤を使用することによって、レベリング性が向上し、弾き、ピンホール性、光沢性などの塗膜特性を容易に向上させることができる。使用できるレベリング剤は特に限定されず、公知の化合物であってよい。特に限定するものではないが、一実施形態において、アクリル系レベリング剤を好適に使用することができる。一般的に、硬化塗膜の表面張力を大きく低下させるレベリング剤を使用した場合、硬化塗膜上に印刷したインキは弾きやすくなるため、印字適性が低下する。これに対し、アクリル系レベリング剤を使用した場合、硬化塗膜に対して上刷りインキを塗布し、賞味期限又はバーコードなどの印字を容易に行うことができる。このように、アクリル系レベリング剤を使用した場合、印字適性を低下させることなく、より優れた光学性を得ることが容易となる。
【0064】
アクリル系レベリング剤としては、ポリ(メタ)アクリレート骨格を有する公知の化合物を使用できる。ポリ(メタ)アクリレート骨格の側鎖のカルボキシル基は、例えば、アルキルエステルのようにエステル化されていてもよく、アミン塩などの有機塩を形成していてもよい。アクリル系レベリング剤は、市販品として入手することもできる。具体例として、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYKシリーズのアクリル系レベリング剤であってよく、BYK-350、BYK-352、BYK-354、BYK-355/356、BYK-358N/361N、BYK-381、BYK-392、BYK-394、BYK-3440、及びBYK-3441など挙げられる。特に限定するものではないが、BYK-361Nを好適に使用することができる。
【0065】
(合成非晶質シリカ)
一実施形態において、電子線硬化型組成物は、さらに合成非晶質シリカを含んでよい。合成非晶質シリカは、湿式法シリカと乾式法シリカに大別されるが、いずれであってもよい。湿式法シリカは、沈降(沈澱)法シリカおよびゲル法シリカのいずれであってもよい。これらシリカは、一般的に、ケイ酸ナトリウムと鉱酸(通常は硫酸)との中和反応によって合成することができる。
一方、乾式法シリカは、原料として四塩化ケイ素を使用し、酸素と水素の火炎中で加水分解することによって得られる。得られたシリカの表面には、親水性のシラノール基と疎水性のシロキサンが存在する。シラノール基は化学的に活性であり、他の物質と化学反応させることができる。例えば、シラノール基を有機処理剤と反応させることで、親水性であるシリカに疎水性を付与することができる。その他、処理剤の官能基(表面修飾基)の種類によって、様々な機能をシリカに付与することができる。主な表面修飾基としては、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、オクチルシリル基、アルキルシリル基、ジメチルポリシロキサン基、アミノアルキルシリル基、メタクリルシリル基などが挙げられる。
【0066】
特に限定するものではないが、光沢および透明性の観点から乾式法シリカが好ましい。また、相溶性および分散安定性の観点からジメチルシリル基を含有する処理剤によって表面修飾されたシリカが好ましい。一実施形態において、合成非晶質シリカは、樹脂ビーズと同じ組成であってもよいが、要求される機能の観点から真比重および比表面積によって区別することができる。例えば、合成非晶質シリカは、25℃における真比重が1.60以上であり、BET法による比表面積が50m/g以上であることが好ましい。
一実施形態において、合成非晶質シリカのBET法による比表面積は、好ましくは50~380m/gであってよく、より好ましくは70~330m/g、さらに好ましくは90~230m/gであってよい。また、合成非晶質シリカの平均一次粒子径は、好ましくは7~40nmであってよく、より好ましくは10~35nm、さらに好ましくは12~30nmであってよい。このような合成非晶質シリカは、市販品として入手することもできる。例えば、日本アエロジル社製のAEROSILR972(平均一次粒子径16nm、比表面積110m/g、乾式法シリカ)を好適に使用することができる。
【0067】
(重合禁止剤)
本発明の一実施形態である電子線硬化型組成物は、保存安定性の向上のため、更に重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤の具体例示として、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-tert-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、およびシクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。重合禁止剤を使用する場合、その含有量は、組成物の全質量を基準として、0.01~1質量%の範囲であってよい。
【0068】
(その他成分)
本発明の一実施形態である電子線硬化型組成物は、必要に応じて、不活性樹脂などの当技術分野で公知の成分をさらに含んでよい。また、一実施形態において、電子線硬化型組成物は、必要に応じて、公知の添加剤をさらに含んでもよい。添加剤として、例えば、硬化剤、可塑剤、湿潤剤、接着補助剤、消泡剤、帯電防止剤、トラッピング剤、ブロッキング防止剤、シリカ粒子、防腐剤などを使用することができる。さらに、油、難燃剤、充填剤、安定剤、補強剤、艶消し剤、研削剤などを使用してもよい。
【0069】
上記実施形態の電子線硬化型組成物を構成するために、カーボンニュートラルの観点などから、各種原材料として、植物などの再生可能な資源を利用したバイオマス由来の原材料を好ましく用いることができる。
【0070】
上記実施形態の電子線硬化型組成物は、光重合開始剤を実質的に含有しない。ここで、「実質的に含有しない」とは、組成物に意図的に添加することなく、かつ、非意図的添加による含有量が1%未満であることを意味する。非意図的添加には、各原料に微量に含まれている場合や、組成物の製造工程、印刷物の作製工程におけるコンタミネーションなどが該当する。電子線硬化型組成物が、光重合開始剤を実質的に含有しないことによって、光重合開始剤を使用した場合に生じる光重合開始剤またはその分解物のマイグレーションの問題を解消することができる。
【0071】
<電子線硬化型組成物の製造方法>
本発明の電子線硬化型組成物の製造方法としては、(メタ)アクリレート化合物(A)と、必要に応じて使用される樹脂ビーズ、レベリング剤、及び重合禁止剤等とをミキサーなどを用いて30分~3時間程度混合攪拌することによって製造することができる。なお、予め2種以上の(メタ)アクリレート化合物(A)を混合攪拌しておき、その後、更に樹脂ビーズ(B)、レベリング剤、合成非晶質シリカ、及び重合禁止剤などを添加して製造してもよい。
【0072】
<印刷方法>
上記実施形態の電子線硬化型組成物を印刷する方法は、特に制限がなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ロールコーター、ロッドコーター、ブレード、ワイヤーバー、ドクターナイフ、スピンコーター、スクリーンコーター、グラビアコーター、オフセットグラビアコーター、フレキソコーターなどが挙げられる。また、インライン印刷およびオフライン印刷において、UV硬化型、電子線硬化型、熱乾燥型、蒸発乾燥型、酸化重合型、浸透乾燥型、熱重合型、2液硬化型、液体トナー型、及び粉体トナー型のインキなどを、必要に応じて組み合わせて使用することもできる。
【0073】
一実施形態において、電子線硬化後の組成物の塗布量は、0.5~10g/mが好ましく、1.0~5.0g/mがより好ましい。上記印刷方式にて印刷層が形成された後、直ちに電子線照射機を通って電子線硬化印刷層が形成される。なお電子線の照射線量としては、加速電圧110kVにおいて10~150kGyであってよい。一実施形態において、電子線の照射は、好ましくは110kVの加速電圧において15~100kGy、より好ましくは110kVの加速電圧において20~45kGyの照射線量で実施できる。電子線の照射後は、必要に応じて加熱を行って硬化の促進を図ることもできる。
【0074】
<電子線硬化型オーバーコートニス>
上記実施形態の電子線硬化型組成物は、電子線硬化型オーバーコートニスとして好適に使用することができる。電子線硬化型オーバーコートニスとは、基材上の印刷面および非印刷面に塗布し、電子線を照射することで硬化塗膜を形成し、基材上の印刷面および非印刷面に必要な表面物性を付与することを目的とした電子線硬化型組成物である。
【0075】
オーバーコートニスの用途で使用する電子線硬化型組成物は、顔料、染料、その他着色成分を含有しない場合が多い。オーバーコートニスの用途で必要とされる表面物性は、その印刷物の最終用途によって異なる。例えば、グロスコートニスの目的は、表面保護と光沢性の付与とを基本としている。その他、オーバーコートニスには、マット性、スリップ性、ノンスリップ性、ソフトフィール性、耐熱性、耐溶剤性、疑似密着性、印字適性、突き刺し性、弾き性、剥離性、及びバリア性、などが要求されることもある。本発明の一実施形態である電子線硬化型組成物は、グロスコートニスに要求される光沢性などの特性に優れる。また、上記実施形態の電子線硬化型組成物は、光沢性に加えて、スリップ性を発現させることもできる。
【0076】
電子線硬化型オーバーコートニスの塗工方式としては、先刷りの印刷面が乾燥しないうちにすぐに続けてオーバーコートニスを塗工するウェット方式と、先刷りの印刷面を乾燥させてからオーバーコートニスを塗工するドライ方式とに分けられるが、いずれの方式であってもよい。一実施形態において、上記電子線硬化型組成物は、食品包装材料の表面層の形成に用いられるオーバーコートニスとして好適に使用することができる。
【0077】
<食品包装材料>
本発明の一実施形態は、基材と、基材上に設けられた表面層とを含み、上記表面層は上記実施形態の電子線硬化型組成物の硬化層である、食品包装材料に関する。
(基材)
基材は、フィルム状の基材が好ましい。一実施形態において、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル基材、ポリカーボネート基材、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系基材、ナイロン基材、ポリアミド基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリ塩化ビニリデン基材、セロハン基材、紙基材、アルミニウム基材など、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状の基材が挙げられる。
また、シリカ、アルミナ、アルミニウムなどの無機化合物を、フィルム基材に蒸着した蒸着基材を用いることもできる。更に、蒸着処理面に対し、ポリビニルアルコールなどによるコート処理を施されていてもよい。基材は、印刷される面(印刷層と接する面)が易接着処理されていることが好ましい。易接着処理の具体例として、コロナ放電処理、紫外線/オゾン処理、プラズマ処理、酸素プラズマ処理、プライマー処理等が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート基材において、十分な密着性が得られない場合は、アクリルコート処理、ポリエステル処理、ポリ塩化ビニリデン処理などの表面処理を施してもよい。
【0078】
基材として、紙基材を用いてもよい。該紙基材としては、通常の紙又は段ボールなどであり、膜厚としては特に指定はない。紙基材の厚さは、例えば、0.2mm~1.0mm、20~150g/mのものを使用でき、印刷表面が易接着処理されていてもよい。紙基材は、意匠性を付与させる目的で表面がアルミなどの金属で蒸着処理されていてもよい。また、紙基材は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂やその他の樹脂などで表面コート処理が施されていてもよく、さらに、コロナ処理などの表面処理が施されていてもよい。例えば、表面処理された紙基材の具体例として、コート紙およびアート紙などが挙げられる。
【0079】
上述した基材(第1の基材)は、印刷する面と反対側の面に、第2の基材をさらに積層させた構造で用いることもできる。この場合、積層される第2の基材としては、上述したフィルム状基材と同様であってよい。第2の基材は、第1の基材と同一でも異なっていてもよい。なかでも、第2の基材としては、未延伸ポリエチレン、未延伸ポリプロピレン、ナイロン基材、アルミニウム箔基材、アルミニウム蒸着基材などが好ましい。この場合、第2の基材は、接着剤層によって第1の基材と貼り合わされることが好ましい。
【0080】
接着剤層は、アンカーコート剤、ウレタン系ラミネート接着剤、溶融樹脂等からなる層が挙げられる。アンカーコート剤(AC剤)としては、イミン系AC剤、イソシアネート系AC剤、ポリブタジエン系AC剤、チタン系AC剤が挙げられ、ウレタン系ラミネート接着剤としてはポリエーテルウレタン系ラミネート接着剤、ポリエステル系ラミネート接着剤などが挙げられる。これらの接着剤は、有機溶剤を含むものと、無溶剤のものとがある。また、溶融樹脂としては、溶融ポリエチレン等が挙げられる。
【0081】
(バリア性)
一実施形態において、上記第2の基材において、ガス(酸素、水蒸気、窒素、炭酸ガス等)に対するバリア性を付与することもできる。バリア性を付与する方法としては、積層体としてバリア性基材を導入する方法と、コーティングによってバリア層を形成する方法とがある。導入できるバリア性材料としては、シリカ、アルミナ、アルミ、塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体、メタキシリレンアジパミド、およびMXD6ナイロンなどが挙げられる。また、上記バリア性材料と基材とを組み合わせた共押し出しフィルムも使用できる。一方、このような技法とは異なり、容器の内部に侵入してくる酸素を積極的に取り除くタイプの技法であるアクティブ・パッケージングも適用できる。アクティブ・パッケージングに適用されるアクティブバリヤー材としては、還元鉄/塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などの酸素と反応する物質を樹脂にブレンドした材料が挙げられる。また、MXD6ナイロン/コバルト塩、二重結合系ポリマー/コバルト塩、シクロヘキセン側鎖含有ポリマー/コバルト塩などのコバルト塩を酸化触媒として樹脂にブレンドし、この酸価触媒によって樹脂を酸化させて酸素を吸収する材料なども挙げられる。
【0082】
(表面層)
表面層は上記実施形態の電子線硬化型組成物の硬化塗膜から構成される。基材上に電子線硬化型組成物を塗布し、電子線を照射して硬化させることによって形成することができる。硬化塗膜を得るための電子線硬化型組成物の塗布量は特に限定されないが、電子線硬化型組成物中の樹脂ビーズの平均粒子径を考慮して調整することが好ましい。
一実施形態において、硬化塗膜における樹脂ビーズ(B)の平均粒子径bと、塗布量tの比(b/t)として調整することが好ましい。上記比(b/t)が小さすぎると高光沢性/低スリップ性となりやすく、大きすぎると低光沢性/高スリップ性となりやすい。
一実施形態において、上記比(b/t)は0.5~2.0であることが好ましく、0.6~1.5であることがより好ましく、0.8~1.2であることがさらに好ましい。上記比(b/t)を上記範囲内になるように調整した場合、スリップ性と光沢性とを両立することが容易となる。
【0083】
(製造方法)
本発明の一実施形態は、食品包装材料の製造方法に関する。上記製造方法は、基材の上に電子線硬化型組成物を塗布して塗膜を形成すること、前記塗膜を電子線によって硬化し、硬化塗膜からなる表面層を形成することを含む。表面層の形成において、上記硬化塗膜における樹脂ビーズ(B)の平均粒子径bと、上記電子線硬化型組成物の塗布量tの比(b/t)が、0.5~2.0となるように、上記実施形態の電子線硬化型組成物を塗布することを含む。このような実施形態によれば、マイグレーション、弾き及び光沢性の改善に加えて、スリップ性に優れる食品包装材料を提供できる。
【実施例
【0084】
以下、実施例として本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。本発明において、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は、「質量%」をそれぞれ表す。
【0085】
(使用原料)
表1および表2に記載した各原料の詳細は以下のとおりである。
<(メタ)アクリレート化合物(A)>
A-TMPT-6PO:新中村化学工業社製、TMP(PO)6TA(PO(6モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
Miramer M3190:MIWON社製、TMP(EO)9TA(EO(9モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
OTA-480:ダイセル・オルネクス社製、Gly(PO)3TA(PO(3モル)変性グリセリルトリアクリレート)
EBECRYL50:ダイセル・オルネクス社製、PETTA(EO)5(EO(5モル)変性ペンタエリスリトールテトラアクリエート)
ATM-4P:新中村化学工業社製、PETTA(PO)4(PO(4モル)変性ペンタエリスリトールテトラアクリエート)
EBECRYL1142:ダイセル・オルネクス社製、DiTMPTA(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)
AD-TMP-4P:新中村化学工業社製、DiTMPTA(PO)4(PO(4モル)変性ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)
Miramer M600:MIWON社製、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)
A-DPH-6PA:新中村化学工業社製、DPHA(PO)6(PO(6モル)変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)
EBECRYL820:ダイセル・オルネクス社製、ポリエステルアクリレート
【0086】
TPGDA:ダイセル・オルネクス社製、TPGDA(トリプロピレングリコールジアクリレート)
Miramer M300:MIWON社製、TMPTA(トリメチルプロパントリアクリレート)
Miramer M3130:MIWON社製、TMP(EO)3TA(EO(3モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
Etermer 2381:長興材料工業社製、TMP(PO)3TA(PO(3モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
Miramer M3160:MIWON社製、TMP(EO)6TA(EO(6モル)変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
【0087】
<樹脂ビーズ(B)>
X-52-85:信越化学工業社製、平均粒子径0.7μm、シリコーンビーズ
SST-1 MG-RC:シャムロック社製、平均粒子径1.0μm、PTEFビーズ
アートパールJ3PY:根上工業社製、平均粒子径1.2μm、アクリルビーズ
トスパール120:モメンティブ社製、平均粒子径2.0μm、シリコーンビーズ
アートパールJ4PY:根上工業社製、平均粒子径2.2μm、アクリルビーズ
トスパール130:モメンティブ社製、平均粒子径2.7μm、シリコーンビーズ
SST 3H-RC:シャムロック社製、平均粒子径4.0μm、PTEFビーズ
トスパール240:モメンティブ社製、平均粒子径4.0μm、シリコーンビーズ
Cerafloure991:ビックケミー社製、平均粒子径5.0μm、ポリエチレンビーズ
トスパール2000B:モメンティブ社製、平均粒子径6.0μm、シリコーンビーズ
【0088】
<レベリング剤(C)>
BYK-361N:ビックケミー社製、アクリル系レベリング剤
<合成非晶質シリカ(D)>
AEROSIL R972:日本アエロジル社製、平均一次粒子径16nm、比表面積110m/g、乾式法シリカ)
<重合禁止剤(E)>
Genorad24:LAHN社製、ジ-t-ブチル-7-フェニルキノンメチド
【0089】
(分子量分布)
以下の実施例および比較例で(メタ)アクリレート成分(A)として使用した化合物の分子量分布は、東ソー株式会社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320)を用いて測定した。検量線は、標準ポリスチレンサンプルにより作成した。溶離液はテトラヒドロフランを、カラムにはTSKgelSuperHM-M(東ソー(株)製)3本を用いた。測定は、流速0.6ml/分、注入量10μl、カラム温度40℃の条件下で行った。
上述の条件下で実施したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定のグラフに基づき、分子量が500未満の範囲の各面積の割合を求めた、また、重量平均分子量についても測定した。これらの結果を表1および表2において(I)分子量500未満の割合(%)として示す。
【0090】
<1>電子線硬化型組成物の調製
(実施例1)
新中村化学工業社製のA-TMPT-6PO(プロパンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート)を78.3部、新中村化学工業社製のATM-4P((PO(4モル)変性ペンタエリスリトールテトラアクリエート)を18.0部、平均粒子径2.0μmのシリコーンビーズ(モメンティブ社製のトスパール120)を1.0部、アクリル系レベリング剤(ビックケミー社製のBTY-361N)を0.5部、合成非晶質シリカ(日本アエロジル社製のAEROSIL R972)を2.0部、重合禁止剤(LAHN社製のGenorad24)を0.2部混合し、バタフライミキサーを用いて攪拌して、実施例1の電子線硬化型組成物を調製した。
【0091】
(実施例2~34)
表1に記載した材料および比率で使用した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2~34の電子線硬化型組成物を調製した。
【0092】
(比較例1~17)
表2に記載した材料および比率で使用した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1~17の電子線硬化型組成物を調製した。
【0093】
<2>電子線硬化型オーバーコートニスの評価
実施例1~34および比較例1~17で調製した各々の電子線硬化型組成物を用いて、印刷物を作製し、電子線硬化型オーバーコートニスとしての評価を行った。
【0094】
<2-1>印刷物の作製方法
(実施例1の印刷物の作製方法)
実施例1で得た電子線硬化型組成物を用いて、フレキソ印刷方式にて基材に印刷を行った。印刷後の塗膜に対して、直ちに電子線を照射することによって硬化塗膜を形成し、印刷物(表面に硬化塗膜を設けた基材)を作製した。より詳細には、以下のとおりである。
上記印刷では、印刷機としてRK社製のフレキシプルーフ100を使用した。印刷条件は、印刷スピード70m/min、アニロックスロール線数100~500Line/inch、アニロックスロールのセル容量8~20cm/mとした。アニロックスロールの彫刻パターンは、ヘキサゴナルとした。版材はKodak社製のFlexcel NXH デジタルフレキソプレートを使用し、版材の面積は157.5cmとした。
電子線硬化型組成物の塗布量は、硬化後の塗布量が2~3g/mとなるように印刷した。
電子線の照射は、岩崎電気社製の電子線照射機EC250/15/180Lを使用し、加速電圧110kV、電子線量30kGyの条件で実施した。
基材としては、二軸延伸ポリプロピレンフィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとのラミネート積層体を用いた。ラミネート積層体の二軸延伸ポリプロピレンフィルム側に電子線硬化型組成物を印刷した。ラミネート積層体は、以下のようにして作製した。(ラミネート積層体の作製方法)
イノビアフィルム製の二軸延伸ポリプロピレンフィルム(製品名:RGN-30、厚さ30μm)に接着剤希釈液を塗布して溶剤を揮散させた。接着剤希釈液は、接着剤(東洋モートン株式会社製のTM-321A/TM-321B=2/1)を有効成分が30%となるように酢酸エチルで希釈して調製した。接着剤希釈液の塗布は、常温において、バーコーターを用いて、溶剤揮発後の固形分塗布量が2.0~2.5g/mとなるように調整して実施した。
次に、上記フィルムの接着剤希釈液の塗布面を、無延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製、FHK2、30μm)と貼り合せた。次いで、35℃、湿度60%RT~80%RTの環境下にて24時間放置し、ラミネート積層体を得た。
【0095】
(実施例2~34の印刷物の作製方法)
実施例1の印刷物と同様の方法で、それぞれ実施例2~34で得た電子線硬化型組成物を使用して印刷物を作製した。
【0096】
(比較例1~17の印刷物の作製方法)
実施例1の印刷物と同様の方法で、それぞれ比較例1~17で得た電子線硬化型組成物を使用して印刷物を作製した。
【0097】
<2-2>各種評価
上記にて得た印刷物を用いて、以下にしたがって各種評価を行った。評価結果を表1に示す。
(マイグレーション耐性評価)
実施例および比較例の電子線硬化型組成物を用いて作製した印刷物について、以下に記載する方法にしたがって、マイグレーションの評価を実施した。
先ず、印刷物を9cm×9cmに切り出したものを3枚作製し、3枚を印刷面と非印刷面が接触するように重ね合わせ、1kg/dmの荷重付加にて25℃、50%環境条件下にて10日間保持した。その後、3枚の内の中央の印刷物を取り出し、その非印刷面の面積0.5dmに対して、50mlの95%エタノールが接触するように、マイグレーションセルにセットした。
その後、攪拌を加えながら、60℃にて10日間かけて残留モノマーの抽出をした。マイグレーションセルは、器具により完全に密閉されており、上記工程において内容物の損失や、内容物(抽出物)へのその他成分の混入は完全に抑制できる。次に、Bruker Daltonics社製の四重極-飛行時間型質量分析計、及び島津製作所製のLC30Aシリーズ液体クロマトグラフを用いて、上記抽出物の分析を行なった。さらに、以下に記載する検出濃度に基づく評価基準にしたがい、エタノール中に存在する(メタ)アクリレート化合物(A)のマイグレーション耐性を評価した。
評価基準は以下のとおりである。
合格:組成物中の全ての成分について、マイグレーション量が50ppb以下である。
不合格:組成物中の1以上の成分について、マイグレーション量が50ppbを超える。
【0098】
(弾きの評価)
実施例及び比較例の電子線硬化型組成物を用いて作製した印刷物の表面における弾きをレーザー顕微鏡(キーエンス社製の製品名「VK-X100」)で観察した画像を得た。次いで、アプリケーション(観察アプリケーション「VX-H1XV」)で画像処理を行い、フィルム上で、弾いている面積を算出した。印刷物の表面に対する弾きの面積割合から、弾きについて評価した。
評価基準は以下のとおりである。
合格:印刷物の表面に対する弾きの面積割合が5%未満である。
不合格:印刷物の表面に対する弾きの面積割合が5%以上である。
【0099】
(光沢性の評価)
実施例及び比較例の電子線硬化型組成物を用いて作製した印刷物について、村上色彩研究所製の光沢計GM-26Dを用いて、印刷物に対して60°の反射角で光沢値(JISZ 8741に準拠)を測定した。光沢値の値から以下の基準にしたがって印刷物の光沢を評価した。なお、弾きの評価で不合格となった印刷物については、評価せず「NA」と記載した。評価3~5が産業上実用可能な範囲である。
(評価基準)
5:光沢値が125以上である
4:光沢値が120以上125未満である
3:光沢値が115以上120未満である
2:光沢値が110以上115未満である
1:光沢値が110未満である
【0100】
(樹脂ビーズ平均粒子径/塗布量の比)
樹脂ビーズの平均粒子径は、ベックマン・コールター社製の製品名「マルチサイザー」を用い、コールターカウンター法により測定した体積基準平均粒径(D50)を表す。
電子線硬化型組成物の塗布量(g/m)は、硬化後の塗膜の重量(g)を塗膜面積(m)で割ることによって算出した値である。実施例及び比較例で調製した電子線硬化型組成物(ニス)の比重がほぼ1.0であることから、塗布量と塗膜厚さとほぼ等しくなる。そのため、本発明では、樹脂ビーズ平均粒子径/塗膜厚さの比に代えて、樹脂ビーズ平均粒子径/塗布量の比を算出した。結果を表1および表2に示す。
一般的に、樹脂ビーズの平均粒子径が塗膜厚よりも小さすぎると、粒子が塗膜内に隠れてしまいスリップ性を発現させることは困難である。一方、樹脂ビーズの平均粒子径が塗膜厚よりも大きすぎると、光沢性が大きく低下する。このような観点から、本発明の一実施形態では、硬化塗膜における樹脂ビーズ(B)の平均粒子径bと、塗布量tの比(b/t)は0.5~2.0であることが好ましく、0.6~1.5であることがより好ましく、0.8~1.2であることがさらに好ましい。
【0101】
(スリップ性)
実施例および比較例の電子線硬化型組成物を使用して得た印刷物について、JIS K7125(プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法)に準じて、塗膜-塗膜間の動摩擦係数を求めた。
得られた値から、以下の基準にしたがいスリップ性を評価した。結果を表に示す。なお、弾きの評価で不合格となった印刷物については、評価せず「NA」と記載した。
5:動摩擦係数が0.45未満である。
4:動摩擦係数が0.45以上0.55未満である。
3:動摩擦係数が0.55以上0.65未満である。
2:動摩擦係数が0.65以上0.75未満である。
1:動摩擦係数が0.75以上である。
【0102】
【表1】
【0103】
【表1-1】
【0104】
【表1-2】
【0105】
【表2】
【0106】
以上のように、本発明の一実施形態である電子線硬化型組成物(実施例)では、優れたマイグレーション耐性を実現できることが分かる。また、電子線硬化型組成物を構成する(メタ)アクリレート化合物の種類及びその配合量を調整することによって、弾きの発生を抑制し、かつ光沢性といった塗膜特性においても良好な結果が得られることが分かる。したがって、本発明の実施形態である電子線硬化型組成物を用いることによって、硬化塗膜中に残存する未反応成分の外部移行を抑制し、かつ、弾き及び光沢性に優れた印刷物を提供することが可能となる。また、一実施形態によれば、印刷面(塗膜表面)が優れたスリップ性を有することにより、食品包装材料の使用時に内容物の充填および搬送工程を効率よく進めることが可能となる。