IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シーシーアイホールディングス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】燃料電池車用着色冷却液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20231129BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20231129BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20231129BHJP
   F01P 11/14 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C09K5/10 F
C08L71/00 Y
C08K5/053
F01P11/14 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021080207
(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公開番号】P2022089741
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2020202206
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518148478
【氏名又は名称】シーシーアイホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】新川 正志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知宏
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07985349(US,B2)
【文献】特開2009-242663(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1420746(KR,B1)
【文献】米国特許第07901824(US,B2)
【文献】米国特許第07611787(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子染料、及び、酸化防止剤である硫黄原子含有化合物及び/又は窒素原子含有化合物を含有する燃料電池車用着色冷却液組成物。
【請求項2】
水、グリコール類、アルコール類及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種もしくは2種以上を含有する請求項1に記載の燃料電池車用着色冷却液組成物。
【請求項3】
エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールを含有する請求項2に記載の燃料電池車用着色冷却液組成物。
【請求項4】
水溶性高分子染料が、ポリエチレングリコール鎖にトリアリールメタン系染料を反応させてなる染料である請求項1~のいずれかに記載の燃料電池車用着色冷却液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池車用着色冷却液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカーのように、大容量の電池を搭載する燃料電池自動車には、電池を冷却するシステムが搭載され、そのシステム内に冷却液を循環させることにより、電池を冷却させることが必要とされている。(特許文献1、2参照。)
また、特許文献3、4に記載されるように、冷却液組成物に着色剤を配合させることは知られている。そして、染料により着色された冷却液組成物は、スクリーン洗浄液やブレーキ液等の他の自動車の機能的薬剤との混同を回避できるように、目視で確認できるようになっている。
燃料電池車の冷却系には、低導電率を維持するためにイオン交換樹脂を組み込んでおり、冷却液であることを示すために、冷却液を染料により着色しているが、イオン交換樹脂に染料が吸着されることにより、冷却液が脱色する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2006/092857号
【文献】特開2011-8942号公報
【文献】韓国公開特許第10-2019-0140323号公報
【文献】特開2016-35008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、低導電率を維持するためにイオン交換樹脂を組み込んだ燃料電池車の冷却系において、染料がイオン交換樹脂に吸着されて冷却液が脱色すること、及び必要により加熱等の環境下において酸化による劣化を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために本発明は以下の燃料電池車用着色冷却液組成物とした。
1.水溶性高分子染料を含有する燃料電池車用着色冷却液組成物。
2.水、グリコール類、アルコール類及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種もしくは2種以上を含有する1に記載の燃料電池車用着色冷却液組成物。
3.エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールを含有する2に記載の燃料電池車用着色冷却液組成物。
4.酸化防止剤である硫黄原子含有化合物及び/又は窒素原子含有化合物を含有する1~3のいずれかに記載の燃料電池車用着色冷却液組成物。
5.水溶性高分子染料が、ポリエチレングリコール鎖にトリアリールメタン系染料を反応させてなる染料である1~4のいずれかに記載の燃料電池車用着色冷却液組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、長期の使用によっても脱色されない燃料電池車用着色冷却液組成物を得ることができる。また、本発明の冷却液組成物は、長期の使用によっても冷却液組成物の基材の酸化による導電率の上昇が小さく、低導電率を維持することができる。そのため、導電率の変動幅が0~10μS/cmの範囲に維持される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、具体的に本発明について述べる。本明細書において、燃料電池車用着色冷却液組成物を、単に「冷却液組成物」と記載することがある。
(基材)
本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物の基材としては、低導電率であって、不凍性を有するものが望ましい。具体的には、水、グリコール類、アルコール類及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種もしくは2種以上の混合物からなるものが好ましい。中でも、グリコール類、アルコール類及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種もしくは2種以上と、水を含有する基材が好ましい。
【0008】
グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等から1種以上が挙げられる。
【0009】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールの中から選ばれる1種もしくは2種以上の混合物からなるものを挙げることができる。
【0010】
グリコールエーテル類としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルの中から選ばれる1種もしくは2種以上の混合物からなるものを挙げることができる。
上記基材の中でも、エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールが、取り扱い性、価格、入手容易性の点から好ましい。
【0011】
上記基材は、燃料電池車用着色冷却液組成物の融点を考慮して、冷却液組成物中80~99重量%、好ましくは90~98重量%となるように使用されることが好ましい、
【0012】
(着色剤)
本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物に含有される着色剤は、水溶性高分子鎖に染料を反応し結合させてなる、水溶性の高分子染料である。水溶性高分子鎖としてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリグリコール鎖、ポリビニルアルコールなどのポリアルコール、ポリアクリル酸などのポリカルボン酸、セルロースなどの糖類またはタンパク質などの中から1種また2種以上がグラフト重合したものから選択される。なかでも、ポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖が好ましい。
染料としては、アクリジン、アントラキノン、アジン、アゾ、ベンゾジフラン、ベンゾジフラノン、カロテノイド、クマリン、シアニン、ジアザヘミシアニン、ジフェニルメタン、ホルマザン、ヘミシアニン、インジゴイド、メタン、ナフタルイミド、ナフトキノン、ニトロ、ニトロソ、オキサジン、フタロシアニン、ピラゾール、スチルベン、スチリル、トリアリールメタン、トリフェニルメタン、キサンテン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。なかでも、トリアリールメタン系染料やキノン系染料を採用することが好ましい。
このような高分子染料としては重量平均分子量が1000以上のものが使用できる。
これらの高分子染料として、水溶性高分子鎖にトリアリールメタン系染料やキノン系染料が結合したEVERTINT BLUE R-01、EVERTINT VIOLET R-01、(Everlight Chemical社製)、やLIQUITINT BLUE MC(ミリケンジャパン製)、EXP BLUE B2035(ミリケンジャパン製)を採用できる。
【0013】
本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物において、着色剤の含有量としては、燃料電池車用着色冷却液組成物の基材100重量%に対して、0.0005~0.2重量%であることが好ましく、0.001~0.1重量%であることがより好ましく、0.003~0.02重量部であることがさらに好ましい。
0.0005重量%未満であると、目視にて着色を確認しづらくなり視認性が悪化する。
【0014】
(酸化防止剤)
本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物に含有しても良い酸化防止剤としては、硫黄原子含有化合物及び/又は窒素原子含有化合物を使用する。それらの中でも、チオエーテル、水酸基含有チオエーテル化合物、チオアルコール、チオ尿素、及びその誘導体等の硫黄含有化合物、シクロアルキルアミン及びその誘導体、ポリアミン及びその誘導体、ピぺリジンやキノリン等の窒素を含有する環を有する化合物、及びその誘導体、アミノアルコール類及びアミノフェノール類等、及びトレハロースを使用することができる。なかでも、チオジグリコールやキノリンが好ましい。これらの酸化防止剤は優れた抗酸化性を有し、本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物中に含有させることができる。但し3,5-ジメチルピラゾールは使用しても良く、しなくても良い。
これら酸化防止剤を含有する場合、その燃料電池車用着色冷却液組成物中の含有量としては10.0重量%以下であり、5.0重量%以下がより好ましく、3.0重量%以下がさらに好ましい。10.0重量%を超えて含有させてもさらに酸化防止性が向上することはない。
【0015】
(その他の添加剤)
その他の添加剤としては、本発明による効果を毀損しない範囲において、消泡剤、苦味剤、着色剤等の他に、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、トリアゾール類、チアゾール類、ケイ素化合物等の腐食抑制剤を採用することができる。なお、本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物には消泡剤を添加することができる。
【0016】
(本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物の性質(下記実施例に記載の条件での測定による))
・イオン交換樹脂適合性
本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物の中でも、燃料電池車用着色冷却液組成物100mlに陽陰イオン交換樹脂5gを加えて室温で24時間撹拌後の吸光度が、試験開始前の吸光度に対して50%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。
・耐酸化劣化性(導電率)
また、製造後使用前における導電率が5.0μS/cm以下が好ましく、1.0μS/cm以下がより好ましく、0.5μS/cm以下がさらに好ましい。
100℃で72時間の連続加熱後における導電率が、1.00~10.00μS/cmが好ましく、6.00μS/cm以下がより好ましい。
100℃で504時間の連続加熱後における導電率が、1.00~50.00μS/cmが好ましく、30.00μS/cm以下がより好ましく、20.00μS/cm以下がさらに好ましく、10.00μS/cm以下が最も好ましい。
・耐酸化劣化性(劣化生成物量)
100℃で72時間の連続加熱後における劣化生成物量が、1.00mM以下が好ましく、0.50mM以下がより好ましく、0.30mM以下がさらに好ましく、0.10mM未満が最も好ましい。
100℃で504時間の連続加熱後における劣化生成物量が、10.00mM以下が好ましく、5.00mM以下がより好ましく、1.00mM以下がさらに好ましく、0.10mM未満が最も好ましい。
・耐酸化劣化性(最大吸収波長の吸光度)
100℃で72時間の連続加熱後における吸光度が、試験開始前に比べて50.0%以上が好ましく、80.0%以上がより好ましく、95.0%以上がさらに好ましく、98.0%以上が最も好ましい。
100℃で504時間の連続加熱後における吸光度が、試験開始前に比べて50.0%以上が好ましく、80.0%以上がより好ましく、95.0%以上がさらに好ましく、98.0%以上が最も好ましい。
【0017】
(実施例)
以下、本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物の好ましい実施例を挙げ、比較例と対比しつつ、その性能を評価する。
表1~4に示される組成の燃料電池車用着色冷却液組成物(実施例1~14、比較例1~6)を作製し、その各々についてイオン交換樹脂適合性と耐酸化劣化性を評価した。
【0018】
各性能の評価方法は以下の通りである。
<イオン交換樹脂適合性>
各組成物100mlに陽陰イオン交換樹脂5gを加え、試験開始前の吸光度、室温で24時間撹拌し、試験開始後24時間経過後の吸光度を測定した。吸光度は分光光度計(島津製作所UV-1800)を用いて、使用した染料の最大吸収波長で測定して算出した。
試験開始後24時間経過後の吸光度の値を試験開始前の吸光度の値で除して吸光度残存率求めた。
【0019】
<耐酸化劣化性>
各組成物の試験開始前と100℃で72時間及び504時間加熱後の、それぞれの室温での導電率、劣化生成物量(酸性物質)、及び吸光度を測定し、上記の吸光度残存率と同様の求め方で吸光度残存率を求めた。導電率は導電率計を用いて測定した。劣化生成物量はイオンクロマトグラフィーを用いて測定した。ここでの劣化生成物は基材であるエチレングリコールの酸化劣化生成物であるギ酸及びグリコール酸とする。
その結果を表1~4に示す。表中「-」は配合しなかったか、測定しなかったことを示す。
【0020】
(染料)
EVERTINT BLUE R-01:高分子染料(トリアリールメタン染料にポリエチレングリコール鎖が結合したもの)
EVERTINT VIOLET R-01:(ポリエチレングリコール鎖の付いた水溶性高分子染料)
LIQUITINT BLUE MC:アルコキシル化高分子染料
EXP BLUE B2035:水溶性高分子染料
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
【表4】
【0025】
上記の実施例1~6によれば、染料として水溶性高分子染料を採用し、かつ特定の酸化
防止剤を含有させることにより、長期でのイオン交換樹脂適合性、耐酸化劣化性に優れた
燃料電池車用着色冷却液組成物とすることができた。中でも、酸化防止剤としてチオジグ
リコールを採用した実施例1~5は全ての結果が優れていた。酸化防止剤としてキノリン
を採用した実施例6はイオン交換樹脂適合性、耐酸化劣化性の劣化生成物量と吸光度残存
率の結果は優れるものの、導電率の結果は実施例1~5より劣っていた。これは酸化防止
剤であるキノリンが基材と染料の酸化劣化を抑制した影響で生成したキノリンの分解物が
原因で導電率が上昇したと考えられる。
また、染料として水溶性高分子染料を採用するものの、酸化防止剤を含有させない実施
例7及び9~11、及び酸化防止剤としてトレハロースを添加した実施例8によれば、イ
オン交換樹脂適合性は優れ、短期での耐酸化劣化性も良好であった。
実施例7における高分子染料をEVERTINT VIOLET R-01に変更し、その添加量を0.001gにした他は実施例7と同じ実施例の実施例12、実施例1における高分子染料をEVERTINT VIOLET R-01に変更し、その添加量を0.001gにした他は実施例1と同じ実施例の実施例13、及び実施例4における高分子染料をEVERTINT VIOLET R-01に変更し、その添加量を0.001gにした他は実施例4と同じ実施例の実施例14によれば、いずれも、他の実施例ほどではないが十分なイオン交換樹脂適合性を有し、特に実施例13によれば、導電率でみた耐酸化劣化性は実施例2、3及び5よりも優れていた。
これに対して、高分子染料ではない従来の染料を用いた比較例1及び2によれば、イオン交換樹脂適合性に劣っていた。染料と酸化防止剤を共に含有しない比較例3及び6によれば耐酸化劣化性に劣り、着色されていないため視認性に問題があった。染料を含有せず、酸化防止剤を含有した比較例4及び5によれば、耐酸化劣化性には優れていたが、着色はされていないため視認性に問題があった。
本発明の着色剤を使用した燃料電池車用着色冷却液組成物は、実施例7~11において比較例の組成物に比べて、イオン交換樹脂適合性に優れる。また、100℃で72時間という短期間の負荷をかけた際に染料の脱色は認められたが、視認性に問題がない範囲であり実環境で十分に使用できる性能であった。実施例1~6および13、14では、比較例の組成物に比べてイオン交換樹脂適合性に優れる。また、特定の酸化防止剤を使用することにより、100℃で504時間という長期間の負荷をかけた後にも着色剤が残存し導電率の変化、劣化生成物量も少なく抑えられており、耐酸化劣化性にも優れ、より好ましい。