(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】IDH-1遺伝子多型の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6858 20180101AFI20231129BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20231129BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20231129BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
C12Q1/6858 Z ZNA
C12Q1/6883 Z
C12Q1/6827 Z
C12N15/53
(21)【出願番号】P 2019052995
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】曽家 義博
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-128399(JP,A)
【文献】Cancer Invest.,2016年,vol.34, p.12-15
【文献】Brain Tumor Pathol.,2017年,vol.34, p.91-97
【文献】J. Mol. Diagn.,2011年,vol.13, p.678-686
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のIDH-1遺伝子多型を検出する方法であって、以下の工程:
(1)以下の(I)及び(II)を含む一対のプライマーセット
又は以下の(I’)及び(II’)を含む一対のプライマーセットを用意する工程:
(I)配列番号2で示される塩基配
列からなる核酸プライマー、
(II)配列番号3で示される塩基配
列からなる核酸プライマー
(I’)配列番号2で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸プライマー、
(II’)配列番号3で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸プライマー;
(2)試料中の被検核酸および前記プライマーセットを含む反応液において、被検核酸を増幅する工程;
(3)工程(2)によって得られた核酸増幅産物と、配列番号4に示される塩基配列又はその相補的な塩基配列からなる核酸プローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成せしめる工程;及び
(4)工程(3)で得られた複合体を検出する工程、
を包含する方法。
【請求項2】
前記工程(1)で用いる一対のプライマーセットが、フォワードプライマーとして前記(I)で示される核酸プライマー、及び、リバースプライマーとして前記(II)で示される核酸プライマーを含む、請求項1に記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
【請求項3】
前記工程(2)において、配列番号1と95%以上相同な塩基配列で示される核酸配列の一部領域を増幅する、請求項1又は2に記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
【請求項4】
前記工程(3)で用いるプローブにおいて末端のシトシンが蛍光色素で標識されている、請求項1~3のいずれかに記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
【請求項5】
前記工程(2)における核酸増幅を、α型DNAポリメラーゼ及びその変異体からなる群より選択される少なくとも1つのDNAポリメラーゼを含む反応液中で行う、請求項1~4のいずれかに記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
【請求項6】
試料として、血液から抽出したDNAを含む試料又は血液希釈試料を使用する、請求項1~5のいずれかに記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
【請求項7】
配列番号2で示される塩基配
列からなる核酸プライマー及び配列番号3で示される塩基配
列からなる核酸プライマーを含む一対のプライマーセット
、又は、配列番号2で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸プライマー及び配列番号3で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸プライマーを含む一対のプライマーセットと、配列番号4で示される塩基配列又はその相補的な塩基配列からなる核酸プローブとを含む、IDH-1遺伝子多型を検出するためのプライマー・プローブのセット。
【請求項8】
請求項7に記載のプライマー・プローブのセットを含む、遺伝子多型検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IDH-1遺伝子上の一塩基多型(single nucleotide polymorphism:以下、略して「SNP」という場合がある)を検出する方法、並びにこの方法に用いるためのプライマー、プローブ、又はそれらのセット、及びそれらを含む遺伝子多型検査キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
IDH-1(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ-1)は、クエン酸回路にてイソクエン酸とα-ケトグルタル酸を相互変換する酸化還元酵素として知られている。IDH-1遺伝子に突然変異(例えば、IDH-1遺伝子のコドン132におけるSNP変異)が起こると、α-ケトグルタル酸がD-2-ヒドロキシグルタル酸に変換され、これにより生じたD-2-ヒドロキシグルタル酸が、神経膠腫、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍等のがん化(癌化)を引き起こすといわれている。
神経膠腫(グリオーマ)は、脳の神経細胞を支える神経膠細胞から生じる悪性腫瘍の総称である。そして、この神経膠腫のうち、特に星細胞腫、乏突起神経膠腫では、IDH-1遺伝子の点突然変異が高頻度に認められることが知られている。
2016年にWHOの脳腫瘍診断体系が改訂され、神経膠腫に関しては従来の組織学(形態学)的分類(第4版,2007年)中心から、遺伝子異常に基づいた分類(改訂第4版,2016年)へと変遷してきた。日本でも2018年に改訂された脳腫瘍取扱い規約(第4版)に、IDH1/2遺伝子解析を含む診断アルゴリズムが掲載され、遺伝子多型の検出が神経膠腫の診断において有用な検査とされている。このように、IDH-1の一塩基多型の検出が、神経膠腫を診断する上で臨床的に非常に重要な意義を持っている。
【0003】
これまでに、IDH-1酵素の遺伝子上の一塩基多型(SNP)が報告されている。そして、GenBank アクセッション番号KM366108の塩基配列(即ち、上記IDH-1のゲノムDNA配列)上の199番目に存在するコドン132の一塩基多型として、この塩基がA(アデニン)のアレルと、T(チミン)のアレルとが存在することが知られている。
【0004】
従来、これらの遺伝子多型を検出する手段としてはシークエンス法が知られている。しかし、シークエンス法では、特殊な装置が必要であること、手技が煩雑であること、時間を要することから一般的にはあまり実施されていない。また、IDH-1遺伝子多型を検出し、ヒトにおける多型性神経膠芽腫(GBM腫瘍)を特徴決定する検査方法等が知られている(特許文献1)。しかし、簡便で信頼性の高い判定を可能にする、更なる有用なIDH-1遺伝子多型の検出方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2010/028099号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、IDH-1遺伝子多型を検出できる、更なる有用な新規手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、IDH-1遺伝子の多型部位を含む領域を特異的に増幅し得るように設計された一対の特定のプライマーセットを用いることにより、IDH-1の遺伝多型を検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の方法では、上記特定のプライマーセットに、特定の塩基配列を有するプローブを組み合わせて用いることにより更に高感度にIDH-1遺伝子多型を検出することが可能である。すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
【0008】
[項1] 試料中のIDH-1遺伝子多型を検出する方法であって、以下の工程:
(1)以下の(I)または(II)のいずれか1つ以上の核酸プライマーを含む一対のプライマーセットを用意する工程:
(I)配列番号2で示される塩基配列若しくはその相補的な塩基配列からなる核酸プライマー、
(II)配列番号3で示される塩基配列若しくはその相補的な塩基配列からなる核酸プライマー;
(2)試料中の被検核酸および前記プライマーセットを含む反応液において、被検核酸を増幅する工程;
(3)工程(2)によって得られた核酸増幅産物と、該核酸増幅産物の一部と複合体を形成せしめるように設計されたプローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成せしめる工程;及び
(4)工程(3)で得られた複合体を検出する工程、
を包含する方法。
[項2] 前記工程(3)で用いるプローブが、配列番号4に示される塩基配列又はその相補的な塩基配列からなる核酸プローブである、項1に記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
[項3] 前記工程(1)で用いる一対のプライマーセットが、フォワードプライマーとして前記(I)で示される核酸プライマー、及び、リバースプライマーとして前記(II)で示される核酸プライマーを含む、項1又は2に記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
[項4] 前記工程(2)において、配列番号1と95%以上相同な塩基配列で示される核酸配列の一部領域を増幅する、項1~3のいずれかに記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
[項5] 前記工程(3)で用いるプローブにおいて末端のシトシンが蛍光色素で標識されている、項1~4のいずれかに記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
[項6] 前記工程(2)における核酸増幅を、α型DNAポリメラーゼ及びその変異体からなる群より選択される少なくとも1つのDNAポリメラーゼを含む反応液中で行う、項1~5のいずれかに記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
[項7] 試料として、血液から抽出したDNAを含む試料又は血液希釈試料を使用する、項1~6のいずれかに記載のIDH-1遺伝子多型の検出方法。
[項8] 配列番号2で示される塩基配列又はその相補的な塩基配列からなるプライマーと、配列番号3で示される塩基配列又はその相補的な塩基配列からなるプライマーとからなる、IDH-1遺伝子多型を検出するためのプライマーセット。
[項9] 配列番号4で示される塩基配列又はその相補的な塩基配列からなる、IDH-1遺伝子多型を検出するためのプローブ。
[項10] 項8に記載のプライマーセットと、項9に記載のプローブとを含む、IDH-1遺伝子多型を検出するためのプライマー・プローブのセット。
[項11] 項8に記載のプライマーセット、項9に記載のプローブ、又は項10に記載のプライマー・プローブのセットのいずれかを含む、遺伝子多型検出キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便にIDH-1遺伝子多型を特異的に検出することが可能となる。更に、本発明の検出方法では、野生型と変異型を識別して検出することが可能であるため、信頼性の高い判定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1における融解曲線分析時の蛍光強度変化量を示す(IDH-1の遺伝子型が野生型である場合)。グラフ縦軸は蛍光強度変化量、横軸は温度を示す。
【
図2】実施例1における融解曲線分析時の蛍光強度変化量を示す(IDH-1の遺伝子型が変異型である場合)。グラフ縦軸は蛍光強度変化量、横軸は温度を示す。
【
図3】実施例2における融解曲線分析時の蛍光強度変化量を示す(ヒト血液希釈試料を用いた場合)。グラフ縦軸は蛍光強度変化量、横軸は温度を示す。
【
図4】実施例3における融解曲線分析時の蛍光強度変化量を示す(IDH-1遺伝子のコドン132における変異バリアントの評価結果)。グラフ縦軸は蛍光強度変化量、横軸は温度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.IDH-1遺伝子多型を検出する方法)
特定の実施形態において、本発明は、試料中のIDH-1遺伝子多型を検出する方法に関する。より詳細には、本発明の方法は、少なくとも以下の(1)~(4)の工程:
(1)以下の(I)または(II)のいずれか1つ以上の核酸プライマーを含む一対のプライマーセットを用意する工程:
(I)配列番号2で示される塩基配列若しくはその相補的な塩基配列からなる核酸プライマー、
(II)配列番号3で示される塩基配列若しくはその相補的な塩基配列からなる核酸プライマー;
(2)試料中の被検核酸および前記プライマーセットを含む反応液において、被検核酸を増幅する工程;
(3)工程(2)によって得られた核酸増幅産物と、該核酸増幅産物の一部と複合体を形成せしめるように設計されたプローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成せしめる工程;及び
(4)工程(3)で得られた複合体を検出する工程、
を包含することを特徴とする。即ち本発明はIDH-1酵素の遺伝子多型の検出において、より信頼性の高い判定結果を得るために、標的とする多型部位の核酸増幅に特定塩基配列の核酸プライマーを含むプライマーセットを用いることを大きな特徴の一つとする。
【0012】
[プライマーセット]
本発明のIDH-1の遺伝子多型検出方法で用いる、前記(1)に記載のプライマーセットとしては、以下の(I)または(II)のいずれか1つ以上の核酸プライマーを含むプライマーセットを用いる。
(I)CGGTCTTCAGAGAAGCCATTATCTGで示される塩基配列(配列番号2)若しくはこれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー。
(II)CACATTATTGCCAACATGACTTACで示される塩基配列(配列番号3)若しくはこれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー。
【0013】
上記(I)において規定した配列番号2は、ヒトIDH-1遺伝子のゲノム配列の例である配列番号1の塩基配列の一部に相当する。また、上記(II)において規定した配列番号3は、上記配列番号1の塩基配列に対して相補的な塩基配列の一部に相当する。本発明では、フォワードプライマー又はリバースプライマーとして、配列番号2又は配列番号3の塩基配列に相補的な塩基配列から構成されるプライマーを用いることもできる。より高感度にIDH-1遺伝子多型を検出することが可能であるという観点から、好ましくは、フォワードプライマーとして、上記(I)で示される核酸プライマーを用い、リバースプライマーとして上記(II)で示される核酸プライマーを用いるのがよく、フォワードプライマーとして配列番号2の塩基配列から構成されるプライマーを用い、リバースプライマーとして配列番号3の塩基配列から構成されるプライマーを用いるのが更に好ましく、これらの配列番号2及び3の塩基配列から構成されるプライマーを組み合わせたプライマーセットとして用いることがとりわけ好ましい。
【0014】
本発明のプライマーセットは、融解曲線解析で信頼性の高い判定結果を得ることができるように、IDH-1遺伝子上の多型部位を含む領域を特異的に増幅し得るように設計されている。ここで、上記「多型部位」とは、上述のように、GenBankアクセッション番号KM366108の塩基配列上の199番目に存在する多型部位(即ち、IDH-1のコドン132における遺伝子多型のゲノムDNA配列部位)を意味する。具体的に、IDH-1遺伝子のコドン132における変異バリアントとしては、例えば、R132H、R132L、R132G、R132S、R132C等が挙げられる。本発明によれば、高感度にIDH-1遺伝子多型を検出できるので、これらの各種の変異バリアントを鑑別することができる。つまり、上記本発明のプライマーセットを用いることによって多型を含む領域を特異的に増幅させることが可能である。
【0015】
より具体的には、本発明のプライマーセットを用いることにより、例えば、配列番号1と95%以上相同な塩基配列で示される核酸配列の一部領域を増幅することができる。好ましい実施形態では、本発明のプライマーセットは、好ましくは配列番号1と97%以上相同な塩基配列で示される核酸配列の一部領域、より好ましくは配列番号1と98%以上相同な塩基配列で示される核酸配列の一部領域、更に好ましくは配列番号1と99%以上相同な塩基配列で示される核酸配列の一部領域を増幅するために用いられる。
【0016】
[被検核酸]
本発明のIDH-1の遺伝子多型検出方法に用いられる、被検核酸を含みうる試料は特に制限されない。例えば、ヒトを始めとする哺乳動物から採取した血液、口腔粘膜擦過物などのゲノムDNAを含む生体試料が挙げられる。試料の採取方法、DNAやRNA等の核酸の調製方法等は、制限されず、従来公知の方法が採用できる。血液の場合、pH7.5以上の溶液に1~10%程度に希釈することで本発明の検出法に供することが可能である。後述の実施例にも示されるように、本発明の方法によれば、このような血液希釈試料から直接的に融解曲線解析により簡便にIDH-1遺伝子多型を検出することができる。
【0017】
[核酸増幅法]
続いて、試薬に混合されたゲノムDNAを鋳型として、上述のプライマーセットを用いて、PCR等の核酸増幅法によって、検出目的の多型部位を含む塩基配列を増幅させる。なお、PCR等の条件は、特に制限されず、従来公知の方法により行うことができる。
【0018】
本発明のIDH-1の遺伝子多型の検出方法において、核酸の増幅工程に用いられる具体的な核酸増幅方法は特に限定されず、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法があげられる。なお、増幅反応の条件は特に制限されず、従来公知の方法により行うことができる。
【0019】
PCR法は、試料核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のプライマー及び耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返すことにより、上記一対のプライマーで挟まれる試料核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である。すなわち、変性工程で試料の核酸を変性し、続くアニーリング工程において各プライマーと、それぞれに相補的な一本鎖試料核酸上の領域とをハイブリダイズさせ、続く伸長工程で、各プライマーを起点としてDNAポリメラーゼの働きにより鋳型となる各一本鎖試料核酸に相補的なDNA鎖を伸長させ、二本鎖DNAとする。この1サイクルにより、1本の二本鎖DNAが2本の二本鎖DNAに増幅される。従って、このサイクルをn回繰り返せば、理論上上記一対のプライマーで挟まれた試料DNAの領域は2n倍に増幅される。増幅されたDNA領域は大量に存在するので、電気泳動等の方法により容易に検出できる。よって、遺伝子増幅法を用いれば、従来では検出不可能であった、極めて微量(1分子でも可)の試料核酸をも検出することが可能であり、非常に広く用いられている技術である。
【0020】
増幅反応としては、最初の熱変形工程が80~100℃で10秒~15分、繰り返しの熱変形工程が80~100℃で0.5~300秒、アニーリンクが40~80℃で1~300秒、伸長反応工程が60~85℃で1~300秒程度行い、この繰り返しを30~70回繰り返すことが好ましい。
【0021】
核酸増幅にPCR法を用いる場合、DNAポリメラーゼには、α型DNAポリメラーゼを用いることが好ましい。その理由を以下に説明する。
【0022】
本発明のIDH-1遺伝子多型検出方法において、プローブを含む反応系でIDH-1の核酸配列を増幅する場合、核酸増幅工程中に該核酸プローブが試料のIDH-1核酸配列またはそれらの増幅産物と結合しうる。核酸増幅工程中にIDH-1の核酸配列と結合した該核酸プローブは、核酸プライマーとDNAポリメラーゼによる核酸増幅反応を阻害する。
【0023】
Taq DNA PolymeraseなどPolI型のDNAポリメラーゼは5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を持つことが知られている。この活性のため、核酸増幅反応中に鋳型となるIDH-1核酸配列と結合した核酸がある場合、該結合核酸はエキソヌクレアーゼ活性によって分解されてしまう。このため、反応系中の該核酸プローブが減少し核酸検出工程に問題が生じる可能性がある。従って、PolI型DNAポリメラーゼを用いて本発明を実施することは好ましくない。
【0024】
他方、KOD DNA polymerase(超好熱始原菌Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)、Pfu DNA polymeraseなどα型のDNAポリメラーゼは5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を持たず、3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を持つ。従って、α型DNAポリメラーゼを用いれば上記問題を解決できるのみならず、3’-5’エキソヌクレアーゼ活性により核酸増幅工程において高い正確性が発揮される。
【0025】
通常、α型DNAポリメラーゼは3’→5’エキソヌクレアーゼ活性のため、核酸増幅速度はPolI型酵素と比較して低い傾向がある。しかし、KOD DNA Polymeraseはα型DNAポリメラーゼでありながらDNA合成活性が高く100塩基/秒以上のDNA合成速度を有し伸長効率が優れている。従って、本発明の実施にはα型DNAポリメラーゼの中でも、KOD DNA Polymerase(東洋紡製、商標)を用いることが好ましい。
【0026】
さらに、α型DNAポリメラーゼを変異させて100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を達成させた変異型、ウラシルやイノシン等の塩基類縁体に対して耐性を持つように改変された変異型(例えば、WO2014/051031等を参照)、あるいは、野生型および/または変異型の組み合わせにより当該性能を達成させたDNAポリメラーゼ組成物も、α型DNAポリメラーゼとしてのDNA合成活性及び/又は3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を失っていない限り、本発明の実施に適したDNAポリメラーゼとして用いることができる。
【0027】
例えば、α型DNAポリメラーゼとして、KOD DNA Polymerase(東洋紡製、商標)、KOD-Plus-(東洋紡製、商標)、KOD-plus-Ver.2(東洋紡製、商標)、KOD-Plus-Neo(東洋紡製、商標)、KOD FX(東洋紡製、商標)、KOD FX Neo(東洋紡製、商標)、KOD-Multi&Epi-(東洋紡製、商標)、KOD Dash(東洋紡製、商標:KOD Exo(-))、PrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ製、商標)、PfuTurbo DNAポリメラーゼ(アジレント・テクノロジー)などの市販のDNAポリメラーゼも好適に利用できる。
【0028】
また、さらに好適には、増幅反応における非特異的な反応を低減するためα型ポリメラーゼに対する抗体を用いること、または化学修飾により低温におけるポリメラーゼの活性をブロックさせることが望ましい。
【0029】
[プローブと増幅産物との複合体形成]
本発明のIDH-1遺伝子多型検出法においては、工程(3)として、工程(2)で得られた核酸増幅産物の一部と複合体を形成せしめるように設計されたプローブを用いることを一つの特徴とする。増幅された領域内の多型領域を含む配列に相補的な塩基配列から構成される蛍光標識オリゴヌクレオチドをプローブとして用いることによって、多型部位の塩基に応じた融解曲線解析で特徴的な波形を得ることが可能となるので好ましい。このような蛍光標識オリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いることによって、正確な識別判定が困難な一塩基多型のIDH-1遺伝子多型を簡便かつ信頼性高く検出することができる。
【0030】
上記蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いる方法は、Qプローブ法として報告されており一塩基多型の解析にも応用されている。しかし、IDH-1の遺伝子多型(なかでも、IDH-1のコドン132における一塩基多型)を検出する場合、「検出目的の多型部位を含み、且つIDH-1を特異的に増幅させることが可能であり、しかも、Qプローブ法が応用可能な増幅長を与えるプライマー」を設計することが非常に困難であった。
【0031】
本発明のIDH-1遺伝子多型検出方法で用いる、前記(3)に記載のプローブとしては、CATAAGCATGACGACCTATGATGで示される塩基配列(配列番号4)又はこれに相補的な塩基配列から構成される核酸プローブが例示される。より高感度に検出可能という観点から、配列番号4に示される塩基配列から構成される核酸プローブを用いることが好ましい。このプローブ内のシトシンに蛍光色素を標識することにより(例えば、末端のシトシンを蛍光色素で標識することにより)、Qプローブ法に使用することができる。
【0032】
本発明では、工程(2)で得られる核酸増幅産物の塩基配列の一部と相補的な塩基配列から構成される核酸プローブを用いるため、アニーリングが可能となる適切な条件下で工程(2)の核酸増幅産物と上記核酸プローブを共存させることで、両成分の複合体を形成させることができる。相補的な塩基配列を有する増幅産物と核酸プローブをアニーリングさせるために適切な温度や時間等の条件は、当業者により適宜設定され得る。ここで、核酸増幅産物を含む試料に核酸プローブを添加して複合体形成を可能とするタイミングは、特に制限されず、例えば、前述の核酸増幅反応前、核酸増幅反応途中および核酸増幅反応後のいずれであってもよい。中でも、増幅反応と、後述の検出反応とを連続的に行うことができるため、増幅反応前に添加することが好ましい。このように核酸増幅反応の前に前記プローブを添加する場合は、例えば、後述のように、その3’末端に、蛍光色素を付加したり、リン酸基を付加したりすることが好ましい。
【0033】
本発明において用いられる標識としては磁性体、電子伝達体、酵素、ビオチン、蛍光物質、ハプテン、抗原、抗体、放射性物質および発光団などがある。磁性体としては、酸化鉄、二酸化クロム、コバルト、フェライトなどが挙げられる。電子伝達体としては、フェロセン、PQQ、レドックス化合物が挙げられる。酵素としては、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、例えば,Cy5(登録商標),Cy3(登録商標),FITC,ローダミン,ランタニド蛍光体,テキサスレッド,FAM,JOE,Cal Fluor Red 610(登録商標),Quasar 670(登録商標)、放射性同位体(例えば,32P,35S,3H,14C,125I,131I),高電子密度試薬(例えば金),酵素(例えば,西洋ワサビペルオキシダーゼ,ベータ-ガラクトシダーゼ,ルシフェラーゼ,アルカリホスファターゼ),比色標識(例えば金コロイド),磁気標識(例えば,Dynabeads(商標)),ビオチン,ジゴキシゲニン,または抗血清またはモノクローナル抗体が利用可能なハプテンおよび蛋白質が挙げられる。他の標識としては,それぞれ対応するレセプターまたはオリゴヌクレオチド相補体と複合体を形成しうるリガンドまたはオリゴヌクレオチドが挙げられる。標識は,検出すべき核酸中に直接取り込ませてもよく,または検出すべき核酸にハイブリダイズまたは結合するプローブ(例えばオリゴヌクレオチド)または抗体に結合させてもよい。
好ましい検出可能な標識は蛍光標識である。本明細書において用いる場合,“蛍光標識”とは,特定の波長(励起周波数)の光を吸収し,次により長い波長(放射周波数)の光を放出する分子を表す。本明細書において用いる場合,“ドナー蛍光団”との用語は,消光剤成分と近接している場合に,放出エネルギーを消光剤に供与ないし移動させる蛍光団を意味する。消光剤成分にエネルギーを供与した結果,ドナー蛍光団それ自体は,近接して配置された消光剤成分が存在しない場合よりも少ない特定の放出周波数の光を放出する。
【0034】
本明細書において用いる場合,“消光剤成分”との用語は,ドナー蛍光団の近傍に位置して,ドナーにより生成された放出エネルギーを取り込み,エネルギーを熱またはドナーの放出波長より長い波長の光として消散させる分子を意味する。後者の場合,消光剤はアクセプター蛍光団であると考えられる。消光成分は,近接(すなわち衝突)クエンチングにより,または蛍光共鳴エネルギー移動(“FRET”)により作用する。
【0035】
好適な蛍光成分としては,当該技術分野において知られる下記の蛍光団が挙げられる:4-アセトアミド-4’-イソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸,アクリジンおよび誘導体(アクリジン,アクリジンイソチオシアネート),Alexa Fluor(登録商標)350,Alexa Fluor(登録商標)488,Alexa Fluor(登録商標)546,Alexa Fluor(登録商標)555,Alexa Fluor(登録商標)568,Alexa Fluor(登録商標)594,Alexa Fluor(登録商標)647(Molecular Probe),5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS),4-アミノ-N-[3-ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド-3,5ジスルホネート(Lucifer Yellow VS),N-(4-アニリノ-1-ナフチル)マレイミド,アントラニルアミド,BODIPY(登録商標)CR-6G,BOPIPY(登録商標)530/550,BODIPY(登録商標)FL,ブリリアントイエロー,クマリンおよび誘導体(クマリン,7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC,クマリン120),7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン(クマリン151)),Cy2(登録商標),Cy3(登録商標),Cy3.5(登録商標),Cy5(登録商標),Cy5.5(登録商標),シアノシン,4’,6-ジアミニジノ-2-フェニルインドール(DAPI),5’,5”-ジブロモピロガロール-スルホネフタレイン(Bromopyrogallol Red),7-ジエチルアミノ-3-(4’-イソシアナトフェニル)-4-メチルクマリン,ジエチレントリアミン四酢酸,4,4’-ジイソチオシアナトジヒドロ-スチルベン-2,2’-ジスルホン酸,4,4’-ジイソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸,塩化5-[ジメチルアミノ]ナフタレン-1-スルホニル(DNS,塩化ダンシル),4-(4’-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL),4-ジメチルアミノフェニルアゾフェニル-4’-イソチオシアネート(DABITC),Eclipse(商標)(Epoch Biosciences Inc.),エオシンおよび誘導体(エオシン,エオシンイソチオシアネート),エリスロシンおよび誘導体(エリスロシンB,エリスロシンイソチオシアネート),エチジウム,フルオレセインおよび誘導体(5-カルボキシフルオレセイン(FAM),5-(4,6-ジクロロトリアジン-2-イル)アミノフルオレセイン(DTAF),2’,7’-ジメトキシ-4’5’-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE),フルオレセイン,フルオレセインイソチオシアネート(FITC),ヘキサクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(HEX),QFITC(XRITC),テトラクロロフルオレセイン(TET)),フルオレスカミン,IR144,IR1446,マラカイトグリーンイソチオシアネート,4-メチルウンベリフェロン,オルトクレゾールフタレイン,ニトロチロシン,パラローザニリン,フェノールレッド,B-フィコエリスリン,R-フィコエリスリン,o-フタルジアルデヒド,Oregon Green(登録商標),ヨウ化プロピジウム,ピレンおよび誘導体(ピレン,酪酸ピレン,酪酸スクシンイミジル1-ピレン),QSY(登録商標)7,QSY(登録商標)9,QSY(登録商標)21,QSY(登録商標)35(Molecular Probe),リアクティブレッド4(Cibacron(登録商標)ブリリアントレッド3B-A),ローダミンおよび誘導体(6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX),6-カルボキシローダミン(R6G),リサミンローダミンB塩化スルホニル,ローダミン(Rhod),ローダミンB,ローダミン123,ローダミングリーン,ローダミンXイソチオシアネート,スルホローダミンB,スルホローダミン101,スルホローダミン101の塩化スルホニル誘導体(テキサスレッド)),N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA),テトラメチルローダミン,テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC),リボフラビン,ロゾール酸,テルビウムキレート誘導体。
【0036】
適当な消光剤は,特定の蛍光団の蛍光スペクトルに基づいて選択する。有用な消光剤としては,例えば,the Black Hole(商標)消光剤であるBHQ-1,BHQ-2,およびBHQ-3(Biosearch Technologies,Inc.),およびATTOシリーズの消光剤(ATTO540Q,ATTO580Q,およびATTO612Q;Atto-TecGmbH)が挙げられる。
【0037】
検出可能な標識は,核酸中に取り込ませるか,会合させるか,またはコンジュゲートさせることができる。標識は,種々の長さのスペーサーアームにより結合させて,立体障害または他の有用なまたは望ましい特性に与える影響を低減させることができる(例えば,Mansfield,9 Mol.Cell.Probes 145-156(1995)を参照。)。ハプテンとしては、ビオチン、ジゴキシゲニンなどが挙げられる。放射性物質としては、32P、35Sなどが挙げられる。発光団としては、ルテニウム、エクオリンなどが挙げられる。該標識は、核酸検出反応に影響を与えることがなければなにを用いても良い。また反応に影響がなければオリゴヌクレオチドのどの位置に結合させてもよい。好ましくは、3’末端、5’末端部位である。
【0038】
前記プローブは、核酸増幅産物を含む液体試料に添加してもよいし、溶媒中で核酸増幅産物と混合してもよい。前記溶媒としては、特に制限されず、例えば、Tris-HCl等の緩衝液、KCl、MgCl2、MgSO4、グリセロール、有機溶媒等、従来公知のものがあげられる。反応液の調整の方法としては、具体的には、反応液25μlあたり、オリゴヌクレオチドが0.5~50pmol、×10の緩衝液が0.5~50μl、2mMのdNTPで0.5~50μl、塩類が25mM濃度液で0.1~30μl、DNAポリメラーゼが0.1~30ng程度であることが好ましい。
【0039】
[検出方法]
本発明の方法では、工程(4)として、工程(3)で得られた核酸増幅産物の一部と核酸プローブとの複合体を検出する工程を包含する。ここで、検出方法としては、当該分野で公知の任意の手段で実施することができるが、一例として、単独でシグナルを示し且つハイブリッド形成によりシグナルを示さない標識化プローブ(例えば、グアニン消光プローブ)を使用することができる。このようなハイブリッド形成によりシグナルを消光する標識化プローブを使用した場合、一本鎖DNAとプローブとが解離している状態では蛍光を発しているが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、前記蛍光が減少(または消光)する。したがって、例えば、前記反応液の温度を徐々に降下させて、温度下降に伴う蛍光強度の減少を測定すればよい。他方、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示す標識化プローブを使用した場合、一本鎖DNAとプローブとが解離している状態では蛍光を発していないが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光を発するようになる。したがって、例えば、前記反応液の温度を徐々に降下させて、温度下降に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0040】
前記解離工程における加熱温度は、前記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されないが、例えば、85~100℃である。加熱時間も特に制限されないが、通常、0.5秒~20分であり、好ましくは1秒~10分である。
【0041】
また、解離した一本鎖DNAと前記標識化プローブとのハイブリダイズは、例えば、前記解離工程の後、前記解離工程における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件としては、例えば、35~50℃であるが、限定されない。
【0042】
ハイブリダイズ工程の反応系(反応液)における各組成の体積や濃度は、特に制限されない。具体例としては、前記反応液の全量において、核酸増幅産物であるDNAの濃度は、例えば、0.01~100μmol/Lであり、好ましくは0.1~10μmol/Lである。前記標識化プローブの濃度は、前記核酸増幅産物であるDNAの添加量に応じて常法に従い適宜変動され得るが、例えば、前記反応液の全量において、0.01~100μmol/Lであり、好ましくは0.01~10μmol/Lである。
【0043】
蛍光強度の変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温~85℃であり、好ましくは25~70℃であり、終了温度は、例えば、40~105℃である。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば、0.05~20℃/秒であり、好ましくは0.08~10℃/秒である。
【0044】
また、本発明においては、目的の塩基部位における遺伝子型の決定のために、前記シグナルの変動を解析してTm(melting temperature)値として決定してもよい。
【0045】
[プライマー、プローブ、検出キット]
別の実施形態として、本発明は、上記で説明したIDH-1の遺伝子多型を検出し得るプライマーセット、プローブ、または、該プライマーセットと該プローブとを組合せたセットを提供する。これらのプライマーセット、プローブ、プライマー・プローブのセットは、上記で説明したようなIDH-1遺伝子多型(特に、IDH-1遺伝子のコドン132における一塩基多型)を検出するために好適に用いることができる。
【0046】
更なる実施形態として、本発明は、これらのプライマーセット、プローブ、または、該プライマーセットと該プローブとを組合せたセットを少なくとも含む遺伝子多型検出キットを提供する。本発明のキットは、その構成において、プライマーセット、プローブ、または、該プライマーセットと該プローブとを組合せたセットを備えていること以外については特に限定されず、例えば、IDH-1のコドン132における一塩基多型以外の遺伝子多型(例えば、IDH-2のコドン172及び/又はコドン140における遺伝子多型等)を検出するためのプライマーセットやプローブを更に含んでもよいし、核酸の抽出・精製のための試薬、使用説明書等を更に含んでいてもよい。また、本発明の遺伝子多型検出キットは、IDH-1のコドン132における一塩基多型以外の遺伝子多型(例えば、IDH-2のコドン172及び/又はコドン140における遺伝子多型等)を検出するためのプライマーセットやプローブ等を含む他の遺伝子多型検出キットと一緒に用いられるものであってもよい。上記のような本発明の遺伝子多型検出キットは、当該キットに含まれるプライマー及び/又はプローブを、例えば当該分野で公知のPCR法に適用するようにして使用され得る。
【0047】
また、上記のような本発明の検出キットが、IDH-1遺伝子多型以外の遺伝子多型を検出するためのプローブ(例えば、IDH-2遺伝子多型の検出プローブ)を備える場合、IDH-1遺伝子多型を検出するためのプローブの蛍光標識と、その他の遺伝子多型を検出するためのプローブ(例えば、IDH-2遺伝子多型の検出プローブ)の蛍光標識とが異なる蛍光波長を示すものにしておくことが好ましい。このように蛍光波長の異なる標識を用いることによって、発光する色の違いにより両方の遺伝子多型を同時に測定することが可能となる。
【0048】
本明細書で用いられる酵素(例えば、DNAポリメラーゼ)の活性測定方法について、以下に説明する。例えば、本発明に用いられるDNAポリメラーゼが、α型DNAポリメラーゼとしての活性を失っていないものか否かは、下記の活性測定方法を参照して当業者により適宜確認され得る。
【0049】
[DNA合成活性]
本発明において、DNA合成活性とは鋳型DNAにアニールされたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの3’-ヒドロキシル基にデオキシリボヌクレオシド5’-トリホスフェートのα-ホスフェートを共有結合せしめることにより、デオキシリボ核酸にデオキシリボヌクレオシド5’-モノホスフェートを鋳型依存的に導入する反応を触媒する活性をいう。
【0050】
その活性測定法は、酵素活性が高い場合には、保存緩衝液でサンプルを希釈して測定を行う。本発明では、下記A液25μl、B液およびC液各5μlおよび滅菌水10μlをエッペンドルフチューブに加えて攪拌混合した後、上記酵素液5μlを加えて75℃で10分間反応する。その後、氷冷し、E液50μl、D液100μlを加えて、攪拌後、さらに10分間氷冷する。この液をガラスフィルター(ワットマンGF/Cフィルター)で濾過し、D液及びエタノールで充分洗浄し、フィルターの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード社製)で計測し、鋳型DNAへのヌクレオチドの取り込みを測定する。酵素活性の1単位はこの条件下で30分あたり10nモルのヌクレオチドを酸不溶性画分に取り込む酵素量とする。
A: 40mM Tris-HCl(pH7.5)
16mM 塩化マグネシウム
15mM ジチオスレイトール
100μg/ml BSA
B: 2μg/μl 活性化仔牛胸腺DNA
C: 1.5mM dNTP(250cpm/pmol〔3H〕dTTP)
D: 20% トリクロロ酢酸(2mMピロリン酸ナトリウム)
E: 1μg/μl キャリアーDNA
【0051】
[3’→5’エキソヌクレアーゼ活性]
本発明において、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性とは、DNAの3’末端領域を切除し、5’-モノヌクレオチドを遊離する活性をいう。
その活性測定法は以下のとおりである。50μlの反応液(120mM Tris-HCl(pH8.8(25℃)),10mM KCl,6mM硫酸アンモニウム,1mM MgCl2,0.1%TritonX-100,0.001%BSA,5μgトリチウムラベルされた大腸菌DNA)を1.5mlのエッペンドルフチューブに分注し、DNAポリメラーゼを加える。75℃で10分間反応させた後、氷冷によって反応を停止し、次にキャリアーとして、0.1%のBSAを50μl加え、さらに10%のトリクロロ酢酸、2%ピロリン酸ナトリウム溶液を100μl加え混合する。氷上で15分放置した後、12,000回転で10分間遠心し沈殿を分離する。上清100μlの放射活性を液体シンチレーションカウンター(パッカード社製)で計測し、酸可溶性画分に遊離したヌクレオチド量を測定する。
【実施例】
【0052】
以下実施例をもって本発明を具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1 IDH-1遺伝子多型の検出
[IDH-1 一塩基多型の検出に用いるオリゴヌクレオチドの合成]
配列番号2,3,4に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ2、3、4と示す)を常法に従い合成したものを用意した。
オリゴ2は、配列番号1に示されるヒトゲノムIDH-1遺伝子のセンス鎖に対応するフォワードプライマーであり、オリゴ3はこのアンチセンス鎖に対応するリバースプライマーであり、これらのプライマーを組み合わせて増幅反応ためのオリゴヌクレオチドとして使用した。オリゴ4は、IDH-1遺伝子のコドン132における一塩基多型を検出するための核酸プローブとして使用され、3’末端を蛍光標識してグアニン消光プローブとした。
【0054】
[IDH-1の遺伝子多型検出]
ヒト血液より抽出したDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件のPCR法での核酸増幅反応によりIDH-1遺伝子多型を検出した。
【0055】
[試薬]
以下の試薬を含む10μl溶液を調製した。
KODplus DNAポリメラーゼ 0.5U
オリゴ2 20pmol、
オリゴ3 6.25 pmol、
オリゴ4(3’末端をFITCにより標識) 6.25pmol、
×10緩衝液 1μl、
2mM dNTP 1μl、
25mM MgSO4 2μl、
DNA溶液 100ng
【0056】
[増幅条件]
94℃・30秒、
97℃・1秒、
58℃・3秒、
63℃・5秒(60サイクル)
35℃で反応停止
35℃から75℃に温度上昇させながら蛍光検出した。温度上昇速度は0.09℃/秒とした。
【0057】
[融解曲線解析による検出]
融解曲線解析の結果、-dF(蛍光強度変化量)/dT(温度変化量)の最も大きな値を示す温度(Tm)は、51℃および61℃付近を示し、その時の蛍光強度変化量は下記の通りであった。結果を
図1および
図2に示す。
【0058】
図1および
図2のグラフから、IDH-1が存在する場合には、明らかなピークが得られることが確認された。
図1で用いた試料と
図2で用いた試料とは異なる遺伝子型を有しており、IDH-1の野生型(
図1)と変異型(
図2)のピーク温度が大きく異なるため、遺伝子多型の識別も容易に可能であった。従って、本発明により、簡便でありながら、信頼性の高い識別が可能になることが明らかとなった。
【0059】
実施例2 ヒト血液希釈試料を用いたIDH-1遺伝子多型検出
[PCR法による増幅反応]
ヒト血液を試料溶解液(東洋紡製)の緩衝液で50倍に希釈した試料液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件のPCR法での核酸増幅反応によりIDH-1遺伝子多型を検出した。
【0060】
[試薬]
以下の試薬を含む10μl溶液を調製した。
KODplus DNAポリメラーゼ 0.5U
オリゴ2 20pmol、
オリゴ3 6.25 pmol、
オリゴ4(3’末端をFITCにより標識) 6.25pmol、
×10緩衝液 1μl、
2mM dNTP 1μl、
25mM MgSO4 2μl、
ヒト血液50倍希釈試料液 2μL
【0061】
[増幅条件]
94℃・30秒、
97℃・1秒、
58℃・3秒、
63℃・5秒(60サイクル)
35℃で反応停止
35℃から75℃に温度上昇させながら蛍光検出した。温度上昇速度は0.09℃/秒とした。
【0062】
[融解曲線解析による検出]
融解曲線解析の結果、-dF(蛍光強度変化量)/dT(温度変化量)の最も大きな値を示す温度(Tm)は、60℃付近を示し、その時の蛍光強度変化量は下記の通りであった。この結果を
図3に示す。この結果から、ヒト血液希釈液から直接的にIDH-1遺伝子多型を検出することも可能であることが確認された。
【0063】
実施例3 IDH-1遺伝子多型(変異のバリアント)における変化
[PCR法による増幅反応]
シークエンス法によりIDH-1遺伝子のコドン132における変異バリアント(R132H、R132L、R132G、R132S、R132C)が判明している各種DNAを含む溶液及び野生型DNA(WT)を含む溶液をサンプルとして使用し、以下の評価を行った。具体的には、各々のDNA溶液に下記試薬を添加して、下記条件のPCR法での核酸増幅反応により融解曲線分析により評価を行った。
【0064】
[試薬]
以下の試薬を含む10μl溶液を調製した。
KODplus DNAポリメラーゼ 0.5U
オリゴ2 20pmol、
オリゴ3 6.25 pmol、
オリゴ4(3’末端をFITCにより標識) 6.25pmol、
×10緩衝液 1μl、
2mM dNTP 1μl、
25mM MgSO4 2μl、
ヒト血液50倍希釈試料液 2μL
【0065】
[増幅条件]
94℃・30秒、
97℃・1秒、
58℃・3秒、
63℃・5秒(60サイクル)
35℃で反応停止
35℃から75℃に温度上昇させながら蛍光検出した。温度上昇速度は0.09℃/秒とした。
【0066】
[融解曲線解析による検出]
融解曲線解析の結果を
図4に示す。
図4に示される結果から明らかなように、本発明によれば、-dF(蛍光強度変化量)/dT(温度変化量)の最も大きな値を示す温度(Tm)はIDH-1のコドン132における各種変異バリアントで異なり、各種変異を鑑別可能であることが分かる。従って、本発明により、高感度にIDH-1遺伝子多型を検出できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により、IDH-1の一塩基多型を簡便に検出でき、臨床的にも信頼性が高いIDH-1遺伝子多型検出を行うことが可能となる。
【配列表】