(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ポリエチレン樹脂組成物および積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20231129BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231129BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L63/00 A
B32B27/32
(21)【出願番号】P 2019063225
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】柳衛 真人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 慎治
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-038485(JP,A)
【文献】特開2001-206996(JP,A)
【文献】特開2000-301678(JP,A)
【文献】特開昭61-206114(JP,A)
【文献】特開2016-022613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
C08L 63/00
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a-1)~(a-4)の特性を有するエチレン・プロピレン共重合体(A)、および、エポキシ化植物油(B)を含有してなるポリエチレン樹脂組成物
であって、前記ポリエチレン樹脂組成物中における、前記エチレン・プロピレン共重合体(A)の含有割合は、10重量%~99.99重量%であり、前記ポリエチレン樹脂組成物中の、樹脂成分合計100重量部に対する、前記エポキシ化植物油(B)の含有量が0.01重量部~5重量部であるポリエチレン樹脂組成物。
(a-1)エチレンに由来する構成単位を主成分として80~98mol%、プロピレンに由来する構成単位を必須の副成分として2~20mol%含み、エチレン及びプロピレン以外の第3のα-オレフィンに由来する構成単位を副成分として5mol%以下含んでいてもよい
(ただし、前記第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、エチレンに由来する構成単位とプロピレンに由来する構成単位と第3のα-オレフィンに由来する構成単位の合計が100mol%を超えない)
(a-2)MFR(190℃、21.18N荷重)が0.1~100g/10分
(a-3)密度が0.88~0.94g/cm
3
(a-4)エチレン・プロピレン共重合体中のビニル、ビニリデンの合計量が0.35(個/total 1000C)以上
(ただし、ビニル、ビニリデンの個数は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である。)
【請求項2】
前記ポリエチレン樹脂組成物が、さらに下記(c-1)~(c-2)の特性を有する高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)を含有することを特徴とする、請求項
1に記載のポリエチレン樹脂組成物。
(c-1)MFR(190℃、21.18N荷重)が0.1~20g/10分
(c-2)密度が0.915~0.930g/cm
3
【請求項3】
前記ポリエチレン樹脂組成物中の、前記エチレン・プロピレン共重合体(A)と前記高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)の含有割合(重量比A:C)が95~5:5~95であることを特徴とする、請求項
2に記載のポリエチレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン・プロピレン共重合体(A)が、さらに下記特性(a-5)を満たすことを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリエチレン樹脂組成物。
(a-5)エチレン・プロピレン共重合体中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が下記式(1)の関係を満たす。
式(1):(Y)≧ -1157×(X)+1080
(ただし、Yは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である。)
【請求項5】
前記エチレン・プロピレン共重合体(A)が、さらに下記特性(a-6)を満たすことを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載のポリエチレン樹脂組成物。
(a-6)エチレン・プロピレン共重合体中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が下記式(2)の関係を満たす。
式(2):(Y)≧ -1157×(X)+1084
(ただし、Yは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である。)
【請求項6】
前記ポリエチレン樹脂組成物が、さらに下記特性(d-1)~(d-2)を満たすことを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載のポリエチレン樹脂組成物。
(d-1)MFR(190℃、21.18N荷重)が1~100g/10分
(d-2)密度が0.88~0.94g/cm
3
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載のポリエチレン樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)および基材層(ロ)の少なくとも2層を有し、
樹脂層(イ)は、前記基材層(ロ)上に直接積層することにより形成されることを特徴とする、積層体。
【請求項8】
前記基材層(ロ)は、少なくとも樹脂層(イ)と接する面がポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分とするフィルムであることを特徴とする、請求項
7記載の積層体。
【請求項9】
前記積層体が押出コーティング法により形成されていることを特徴とする、請求項
7又は
8に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン樹脂組成物および積層体に関し、より詳しくは、基材との接着性が極めて良好なポリエチレン樹脂組成物および、該樹脂組成物を含む樹脂層と基材層を含む積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、包装用基材としては、透明性や機械的強度に優れるポリアミド樹脂、腰があるために、印刷時に張力をかけてもピッチずれが起きないポリエチレンテレフタレート樹脂、防湿性に優れたポリプロピレン樹脂等が使用されている。しかし、ヒートシール温度が高く、包装速度を速く出来ないこと、ヒートシール時にフィルムが収縮して包装外観が悪化すること、ヒートシール強度が低い、単体ではバリア性が低いこと等の問題を有しているため、これらの基材が単独で使用されることは少なく、通常はヒートシール層を設けた複合フィルムが使用されている。ヒートシール層として、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等からなるポリエチレン系樹脂を使用した層が広く用いられている。
【0003】
上記ポリエチレン系樹脂層と基材を接着する方法としては、ドライラミネート法、押出ラミネート法などが適宜選択される。ドライラミネート法においては、イソシアネート系の接着剤を有機溶剤に溶かして溶液状にしたものを一方の基材上に塗工し、乾燥機で溶剤を蒸発させた後に他方の基材をニップロールで貼合する。また、押出ラミネート法においても、イソシアネート系やウレタン系のアンカーコート剤などの接着剤を予めバリア性フィルム上に塗工しておき、その塗工面上にポリエチレン系樹脂を溶融押出する方法が一般的である。特に、ポリエチレンテレフタレート樹脂基材は、耐熱性、耐薬品性、絶縁性などに優れることから、包装用フィルム、磁気テープ用フィルム、光学用フィルム、電子部品用フィルムなど、幅広い分野で利用されている。
接着剤を使用した場合、積層体の層間の接着強度は保持されるものの、接着剤を多量に使用することによる製造コストの増大や、有機溶剤を使用することによる安全性の低下および環境面での問題、最終製品への匂いの残留などの問題がある。一方、接着剤を使用しない場合、積層体の層間の接着強度が弱くなるため、この積層体からなる包装体は破損しやすく、包材としての品質が安定しないという問題を有していた。
【0004】
これらの問題を解決するため、溶剤系の接着剤を用いずに、水溶性接着剤を用いる方法が提案されている。また、接着剤を利用しない方法として、酸無水基、カルボキシル基などの極性基をポリオレフィンに導入する方法(特許文献1、2参照)や、エポキシ化植物油を含むポリオレフィン樹脂組成物を使用する方法(特許文献3、4参照)、特定の物性を示すポリエチレンを使用する方法(特許文献5参照)が提案されている。
しかしながら、水溶性接着剤を用いた場合、一般的に接着剤自身が水溶性であるため耐水性に劣る。また、特許文献1、2、5に開示される方法では接着強度の向上が見られるが、接着剤を使用したときと比較すると不十分であった。さらに、特許文献3、4に開示される方法、すなわち従来の一般的な低密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物においては、実際には大量のエポキシ化植物油を配合しても、十分な接着性を発揮することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭57-157724号公報
【文献】特開昭59-75915号公報
【文献】特開2000-37831号公報
【文献】特開2016-22613号公報
【文献】特開2002-19060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、接着剤を使用せずに基材との良好な接着性に優れた樹脂組成物および該樹脂組成物を用いた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、新たに以下に示す(a-1)~(a-4)の新領域の物性を有するエチレン・プロピレン共重合体を試作するとともに、かかる特定の特性を有する、エチレンである主成分とプロピレンである副成分を所定量含み、密度およびMFRがある一定の範囲であり、共重合体中に含まれる二重結合の量が多く、分岐数が多いエチレン・プロピレン共重合体(A)およびエポキシ化植物油(B)を含有してなり、好ましくは特定の高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)を更に含有するポリエチレン樹脂組成物(D)が、極めて優れた接着性を有し、更に該樹脂組成物(D)を用いた樹脂層(イ)を、直接ポリエチレンテレフタレート等の基材層(ロ)上に形成した積層体は、優れた接着性を有し、内容物の保護性能に優れた積層体になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の第1の発明によれば、下記(a-1)~(a-4)の特性を有するエチレン・プロピレン共重合体(A)、および、エポキシ化植物油(B)を含有してなるポリエチレン樹脂組成物が提供される。
(a-1)エチレンに由来する構成単位を主成分として80~98mol%、プロピレンに由来する構成単位を必須の副成分として2~20mol%含み、エチレン及びプロピレン以外の第3のα-オレフィンに由来する構成単位を副成分として5mol%以下含んでいてもよい
(ただし、前記第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、エチレンに由来する構成単位とプロピレンに由来する構成単位と第3のα-オレフィンに由来する構成単位の合計が100mol%を超えない)
(a-2)MFR(190℃、21.18N荷重)が0.1~100g/10分
(a-3)密度が0.88~0.94g/cm3
(a-4)エチレン・プロピレン共重合体中のビニル、ビニリデンの合計量が0.35(個/total 1000C)以上
(ただし、ビニル、ビニリデンの個数は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である。)
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記ポリエチレン樹脂組成物中の、樹脂成分合計100重量部に対する、前記エポキシ化植物油(B)の含有量が0.01重量部~5重量部であることを特徴とする、ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
【0010】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、前記ポリエチレン樹脂組成物が、されに下記(c-1)~(c-2)の特性を有する高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)を含有することを特徴とする、ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
(c-1)MFR(190℃、21.18N荷重)が0.1~20g/10分
(c-2)密度が0.915~0.930g/cm3
【0011】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記ポリエチレン樹脂組成物中の、前記エチレン・プロピレン共重合体(A)と前記高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)の含有割合(重量比A:C)が95~5:5~95であることを特徴とする、ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第5の発明によれば、第1~第4のいずれかの発明において、前記エチレン・プロピレン共重合体(A)が、さらに下記特性(a-5)を満たすことを特徴とする、ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
(a-5)エチレン・プロピレン共重合体中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が下記式(1)の関係を満たす。
式(1):(Y)≧ -1157×(X)+1080
(ただし、Yは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である。)
【0013】
また、本発明の第6の発明によれば、第1~第5のいずれかの発明において、前記エチレン・プロピレン共重合体(A)が、さらに下記特性(a-6)を満たすことを特徴とする、ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
(a-6)エチレン・プロピレン共重合体中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が下記式(2)の関係を満たす。
式(2):(Y)≧ -1157×(X)+1084
(ただし、Yは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である。)
【0014】
また、本発明の第7の発明によれば、第1~第6のいずれかの発明において、前記ポリエチレン樹脂組成物が、さらに下記特性(d-1)~(d-2)を満たすことを特徴とする、ポリエチレン樹脂組成物が提供される。
(d-1)MFR(190℃、21.18N荷重)が1~100g/10分
(d-2)密度が0.88~0.94g/cm3
【0015】
また、本発明の第8の発明によれば、第1~7のいずれかの発明に記載のポリエチレン樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)および基材層(ロ)の少なくとも2層を有し、
樹脂層(イ)は、前記基材層(ロ)上に直接積層することにより形成されることを特徴とする、積層体が提供される。
【0016】
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、前記基材層(ロ)は、少なくとも樹脂層(イ)と接する面がポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分とするフィルムであることを特徴とする、積層体が提供される。
【0017】
また、本発明の第10の発明によれば、第8又は第9の発明において、前記積層体が押出コーティング法により形成されていることを特徴とする、積層体が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂組成物は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム等の基材との接着性に極めて優れており、該樹脂組成物を含む樹脂層と基材層の積層体は、ポリエチレン樹脂組成物と基材との良好な接着性を示すため、内容物の保護性能に優れた積層体である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、特定のエチレン・プロピレン共重合体、特定のエポキシ化植物油および好ましくは特定の高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンを含むポリエチレン樹脂組成物を含有する樹脂層と、基材層、好ましくは少なくとも該樹脂層と接する面がポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分として必須とするフィルムである基材層とを備えることを特徴とする積層体に係るものである。
以下、本発明において用いられる各成分および、それらを用いた積層体等について詳細に説明する。
【0020】
1.ポリエチレン樹脂組成物(D)
本発明のポリエチレン樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ともいう)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)およびエポキシ化植物油(B)を含有し、更に好ましくは高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)、その他樹脂を含む樹脂組成物である。
【0021】
(1)エチレン・プロピレン共重合体(A)
本発明において用いられるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、下記(a-1)~(a-4)の特性を有する。
(a-1)エチレンに由来する構成単位を主成分として80~98mol%、プロピレンに由来する構成単位を必須の副成分として2~20mol%含み、エチレン及びプロピレン以外の第3のα-オレフィンに由来する構成単位を副成分として5mol%以下含んでいてもよい
(ただし、上記第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、エチレンに由来する構成単位とプロピレンに由来する構成単位と第3のα-オレフィンに由来する構成単位の合計が100mol%を超えない)
(a-2)MFR(190℃、21.18N荷重)が0.1~100g/10分
(a-3)密度が0.88~0.94g/cm3
(a-4)エチレン・プロピレン共重合体中のビニル、ビニリデンの合計量が0.35(個/total 1000C)以上
(ただし、ビニル、ビニリデンの個数は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である。)
【0022】
なお、エチレンとプロピレンを構成成分とする共重合体としては、いわゆるエチレンプロピレンゴム(EPM)と呼ばれる、プロピレン成分を20mol%より多く含み、密度も0.870g/cm3以下の溶液重合法により得られるゴム状重合体が、エラストマーの分野において用いられているが、本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)は、これらエチレンプロピレンゴムとは、密度範囲も、含まれるエチレンやプロピレンの量が異なり、物性等も全く異なる重合体である。
また、プロピレン重合体において、製造過程でエチレン成分を若干量含むプロピレンエチレン共重合体も知られているが、これらもそのプロピレン含有量等の点で本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)と大きく異なり、物性等もまったく異なる重合体である。
また、いわゆる通常の直鎖状の分子構造を有するエチレン・α-オレフィン共重合体(例えばLLDPE)は主にフィルム用途として開発されているために、通常、高強度の共重合体を得るためのC4やC6といったC4以上のα-オレフィンを主のコモノマー成分とするのが常であり、低強度となるC3コモノマーを主の副成分として用いたエチレンとプロピレンからなる共重合体であって、密度が0.88g/cm3以上の共重合体は、今まで殆ど注目されず、少なくとも本出願人からは市販等されていなかった。
今般、新たに、かかる密度領域の、C3コモノマーを主の副成分として用いてエチレン・プロピレン共重合体を試作すると共に、種々検討したところ、特に(a-1)~(a-4)といった新たな領域の物性を有するエチレン・プロピレン共重合体を用いたポリエチレン樹脂組成物を含む積層体において、本発明の効果が得られることを見出した。
【0023】
(i)エチレン・プロピレン共重合体(A)の特性
(a-1)モノマー構成
本発明に用いられるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、エチレンに由来する構成単位を主成分として80~98mol%、プロピレンに由来する構成単位を副成分として2~20mol%含むことを特徴とする、エチレン・プロピレン共重合体であり、具体例としては触媒重合法により重合してなる共重合体であって、実質的に直鎖状にランダムに重合してなる共重合体である。具体例としては、エチレンとプロピレンのランダム共重合体である。好ましくは、エチレンに由来する構成単位が82~97mol%、プロピレンに由来する構成単位が3~18mol%、更に好ましくはエチレンに由来する構成単位が85~95mol%、プロピレンに由来する構成単位が5~15mol%である。ここで、エチレン含有量等のモノマー量は、13C-NMRにより、後述する実施例に記載の条件で測定し、算出した値である。
【0024】
なお、その他のα-オレフィン、特に炭素数4~20のα-オレフィンに由来する構成単位及び他のモノマー成分を全く含まない構成が好ましいが、実質的に微量でかかる構成を含んでいてもよい。本明細書においては、エチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンを第3のα-オレフィンという。本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)は、エチレン及びプロピレン以外の第3のα-オレフィンに由来する構成単位を副成分として例えば5mol%以下、好ましくは2mol%以下、更に好ましくは1.5mol%以下、一層好ましくは1mol%以下、最も好ましくは0.5mol%以下含んでいてもよい。ここで、本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)が第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、エチレンに由来する構成単位とプロピレンに由来する構成単位と第3のα-オレフィンに由来する構成単位の合計が100mol%を超えない。また、この場合、プロピレンに由来する構成単位の含有量は、第3のα-オレフィンに由来する構成単位の含有量より高いことが好ましい。また、本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)が第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、1種又は2種以上の第3のα-オレフィンを使用することができる。
また、エチレン・プロピレン共重合体(A)は、(a-1)~(a-4)、更に好ましくは(a-5)、(a-6)を充足する範囲で、1種または2種以上の組み合わせでもよい。
【0025】
プロピレンを副成分として必須コモノマーとし、特に、後に記載するメタロセン触媒を用いた高圧イオン重合法を採用した場合、特異的にビニル、ビニリデンの合計数が多いエチレン・α-オレフィン共重合体を得ることが可能となる。1-ヘキセン、1-オクテンといったα-オレフィンをコモノマー主成分として重合した場合、この効果は得られにくい。
【0026】
(c-2)MFR
本発明に用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、メルトフローレート(MFR:190℃、21.18N荷重)が0.1~100g/10分であり、好ましくは1~80g/10分であり、より好ましくは5~70g/10分である。MFRが0.1g/10分未満であると成形時の延展性が悪くなり、押出機内のモーター負荷が高くなるため好ましくない。一方、MFRが100g/10分を超えると成形時の溶融膜の状態が不安定になるので好ましくない。
ポリマーのMFRを調節するには、例えば、重合温度、コモノマー量などを適宜調節する方法がとられる。エチレン・プロピレン共重合体のMFRは、JIS-K6922-2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定する。
【0027】
(a-3)密度
本発明に用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、密度が0.88~0.94g/cm3であり、好ましくは0.885~0.94g/cm3であり、より好ましくは0.89~0.93g/cm3である。密度が0.88g/cm3未満であると、ブロッキングが不良になるので好ましくない。一方、密度が0.94g/cm3を超えると、接着性が不良となるので好ましくない。
ポリマーの密度を調節するには、例えばコモノマー含有量、重合温度、触媒量などを適宜調節する方法がとられる。なお、エチレン・プロピレン共重合体の密度は、JIS-K6922-2:1997附属書(低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定する(測定温度23℃)。
【0028】
(a-4)ビニル、ビニリデンの合計数
エチレンとα-オレフィンの1種以上を共重合してなる共重合体においては、積極的なジエンモノマーの添加を行わない場合でも、製造過程のメカニズムの違いに起因して、種々の二重結合(ビニル、ビニリデン、シス-ビニレン、トランス-ビニレン、三置換オレフィン)を生じる場合があり、その量や種類も様々である。
従来、太陽電池封止材として良好な架橋特性を得るためには、エチレン・α-オレフィン共重合体に含まれる二重結合数が多いと架橋特性が良好であることは知られていたが、積層用樹脂組成物分野においては、二重結合の量や種類による違いについては検討されていなかった。
本発明では、エチレン・プロピレン共重合体に含まれる種々の二重結合のうち、特にビニルとビニリデンが接着強度において重要であることを見出し、かつ、ビニルとビニリデンの合計数が、通常のエチレン・α-オレフィン共重合体よりも多いエチレン・プロピレン共重合体を製造し、積層用樹脂組成物用のエチレン・プロピレン共重合体として用いることによって、本発明の効果を達成することを見出し、完成したものである。
【0029】
本発明で用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数当たりのビニル、ビニリデンの二重結合の合計数が0.35(個/total 1000C)以上であり、好ましくは0.40~5.0(個/total 1000C)であり、より好ましくは0.45~4.5(個/total 1000C)であり、更に好ましくは0.50~4.0(個/total 1000C)である。
ビニル、ビニリデンの合計数が上記範囲であると、接着強度に優れた樹脂組成物となり、0.35個未満であると、接着強度が十分なものとならない。ビニル、ビニリデンの合計数は、適当なメタロセン触媒の選択、重合温度、コモノマー種、コモノマー量を適宜調節することにより、上記範囲に制御することができる。
なお、これら二重結合の数は、主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数であり、1H-NMRスペクトルの特性ピークの積算強度を用いて算出した値であり、後述の実施例に記載の条件で測定し、算出した値である。
【0030】
更に本発明においては、エチレン・プロピレン共重合体(A)中のビニルの個数は、0.2(個/total 1000C)以上の範囲を満たすことが好ましい。
また、本発明においては、エチレン・プロピレン共重合体(A)中のビニリデンの個数は、0.12(個/total 1000C)以上の範囲を満たすことが好ましい。
【0031】
(a-5)コモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)との関係
本発明で用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、コモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が、下記式(1)を満たすことが好ましい。
式(1):(Y)≧ -1157×(X)+1080
密度と分岐数が上記式(1)の関係を満たすと、コモノマーによる分岐数が十分に確保され、接着強度に優れた樹脂組成物となる。
ここで、コモノマーによる分岐数(Y)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)をNMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数(個/total 1000C)である。
また、密度(X)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)の密度であり、上記の通り測定される。
【0032】
なお、コモノマーによる分岐数(Y)は、ポリマー中に含まれる三級炭素の量を示し、NMRで測定した、主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数であり、例えばE. W. Hansen, R. Blom, and O. M. Bade, Polymer, 36巻 4295頁(1997年)を参考に13C-NMRスペクトルから算出することができる。
密度と分岐数の関係は、共重合するコモノマーの種類と比率、重合温度等の重合条件により調整することができる。
【0033】
(a-6)コモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)との関係
本発明で用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、コモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が、下記式(2)を満たすことがより好ましい。
式(2):(Y)≧ -1157×(X)+1084
密度と分岐数が上記式(2)の関係を満たすと、モノマーによる分岐数が十分に確保され、接着強度に優れた樹脂組成物となる。
ここで、コモノマーによる分岐数(Y)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)をNMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数(個/total 1000C)である。
また、密度(X)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)の密度であり、上記の通り測定される。
【0034】
(ii)エチレン・プロピレン共重合体(A)の重合触媒および重合方法
本発明で使用されるエチレン・プロピレン共重合体(A)の製造に用いられる触媒としては、特に限定されないが、より好ましくはメタロセン触媒を用いる。
メタロセン触媒としては、特に限定されるわけではないが、シクロペンタジエニル骨格を有する基等が配位したジルコニウム化合物などのメタロセン化合物と助触媒とを触媒成分とする触媒が挙げられる。特に、シクロペンタジエニル骨格を有する基等が配位したジルコニウム化合物などのメタロセン化合物を使用するのが好ましい。
製造法としては、特に限定されず、高圧イオン重合法、気相法、溶液法、スラリー法等を用いることができるが、本発明に係る二重結合を調整したエチレン・プロピレン共重合体(A)を得るためには150~330℃の高温で重合を行うことが望ましいため、高圧イオン重合法を利用するのが好ましい(「ポリエチレン技術読本」第4章、松浦一雄・三上尚孝 編著、2001年)。
【0035】
(2)エポキシ化植物油(B)
エポキシ化植物油とは、天然植物油の不飽和二重結合を過酸などを用いてエポキシ化したものであり、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化オリーブ油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化コーン油などを挙げることができる。これらのエポキシ化植物油は、例えば株式会社ADEKA製、O-130P(エポキシ化大豆油)、O-180A(エポキシ化亜麻仁油)等として市販されている。なお、植物油をエポキシ化する際に若干副生するエポキシ化されていない、またはエポキシ化が不十分な油分の存在は本発明における作用効果を何ら妨げるものではない。
【0036】
ところで本発明において用いられるエポキシ化植物油(B)は、ポリ塩化ビニル等のポリマーの安定剤あるいは可塑剤として用いられ、あるいは、カルボン酸基、カルボン酸誘導体基を分子内に含むような樹脂に添加して架橋剤として用いる技術が開示されている(特開昭60-112815号公報)。また、汎用のポリエチレンに対して添加する技術も開示されている(特許文献3,4)。しかし、本発明者等はこれらの用途で使用されていたエポキシ化植物油を、本願発明の特定のエチレン系重合体にブレンドして組成物化し、成形時において酸化させることにより、基材層(ロ)に対して極めて強力な接着性向上の効果が得られることを見い出したもので、この作用効果は予想もされないことであった。この接着性向上の理由は、必ずしも明らかではないが、ポリエチレン樹脂組成物の溶融成形時に押出機内あるいはTダイ等から押出された際に空気と触れる中で、エチレン系重合体が空気酸化され、この酸化の過程でエポキシ化植物油との反応が起こり、まずエポキシ化植物油がエチレン系重合体にグラフトされ、このグラフトされたエポキシ化植物油の分子内に残っている未反応のエポキシ基が基材層(ロ)表面の官能基と反応するためと推測される。
【0037】
本発明において用いられるエポキシ化植物油(B)は、上述のような接着性の向上効果の観点から、分子内にエポキシ基を2個以上有する。また、エポキシ化植物油(B)は、分子量が3000以下であるものが好ましい。更に好ましくは分子量が2000以下100以上である。
【0038】
(3)高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)
本発明において用いられる高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)(以下、単に低密度ポリエチレン(C)ともいう)は、下記(c-1)~(c-2)の特性を有する高圧ラジカル重合法により得られた低密度ポリエチレン(LDPE)であり、好ましくは長鎖分岐状低密度ポリエチレンである。
(c-1)MFR(190℃、21.18N荷重)が0.1~20g/10分
(c-2)密度が0.915~0.930g/cm3
【0039】
(i)高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)の特性
(c-1)MFR
本発明に用いる低密度ポリエチレン(C)のメルトフローレート(MFR:190℃、21.18N荷重)は、0.1~20g/10分であり、好ましくは0.5~15g/10分であり、より好ましくは1~15g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では延展性が不十分となり高速成形時に膜切れを生じる。一方、MFRが20g/10分を超えると溶融膜が不安定となる。
ここで、MFRは、JIS-K6922-2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定する値である。
【0040】
(c-2)密度
本発明に用いる低密度ポリエチレン(C)の密度は、0.915~0.930g/cm3であり、好ましくは0.916~0.926g/cm3であり、より好ましくは0.917~0.925g/cm3である。密度が0.915g/cm3未満ではベタツキが多くなる。一方、0.93g/cm3を超えると接着性が不良となる。
ここで、密度は、JIS-K6922-2:1997附属書(低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定する(測定温度23℃)。
【0041】
(ii)高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)の重合方法
本発明で使用する低密度ポリエチレン(C)の製造は、一般に槽型反応器または管型反応器を用いて、ラジカル発生剤の存在下、重合圧力1000~3000kg/cm2、重合温度150~300℃の条件下でエチレンを重合することによって行われる。分子量調節剤として水素やメタン、エタンなどの炭化水素を用いることによってMFRを調節することができる。
【0042】
(4)ポリエチレン樹脂組成物(D)
本発明のポリエチレン樹脂組成物(D)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)及びエポキシ化植物油(B)、そして任意に上述した低密度ポリエチレン(C)、後述するその他の任意の樹脂成分や後述する添加剤を含有してなる。
本発明におけるエポキシ化植物油(B)の樹脂組成物への添加量(濃度割合)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)及び、必要に応じて配合される低密度ポリエチレン(C)や後述するその他の樹脂成分の量を合計した樹脂成分合計100重量部に対して、例えば0.01重量部~5重量部(樹脂組成物全体に対して100重量ppm~5万重量ppm)、好ましくは0.01重量部~3重量部(樹脂組成物全体に対して100重量ppm~3万重量ppm)、より好ましくは0.01重量部~1重量部(樹脂組成物全体に対して100重量ppm~1万重量ppm)である。樹脂成分合計100重量部に対するエポキシ化植物油(B)の含有量が0.01重量部未満では基材との接着強度が不十分であり、5重量部を超えると積層体がベタツキによるブロッキングを起こしたり、臭いを発する等の問題が発生するおそれがあるので好ましくない。
本発明では、特定のエチレン・プロピレン共重合体(A)と併用することにより、ポリエチレン樹脂組成物(D)100重量部中のエポキシ化植物油(B)の含有量(割合)が、一般的な低密度ポリエチレンのみとエポキシ化合物とを併用する場合と比べて格段に少ない場合であっても、高い接着性を有することが特徴のひとつとして挙げられる。その場合のエポキシ化植物油(B)の含有量(割合)は、樹脂成分合計100重量部中において、好ましくは0.5重量部(樹脂組成物全体に対して5000重量ppm)以下、特に0.2重量部(樹脂組成物全体に対して2000重量ppm)以下、より好ましくは0.13重量部(樹脂組成物全体に対して1300重量ppm)以下、更に好ましくは0.1重量部(樹脂組成物全体に対して1000重量ppm)以下、一層好ましくは0.08重量部(樹脂組成物全体に対して800重量ppm)以下と、格段に含有量(割合)が少ない場合であっても、非常に高い接着性を有することが特徴のひとつとして挙げられる。更に好ましくは、エポキシ化植物油(B)の含有量(割合)は、樹脂成分合計100重量部中において、0.02重量部(樹脂組成物全体に対して200重量ppm)以上である。
【0043】
本発明のポリエチレン樹脂組成物(D)中における、エチレン・プロピレン共重合体(A)の含有割合は、例えば10重量%~99.9999重量%、好ましくは10重量%~99.99重量%であり、20重量%以上が好ましく、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。
【0044】
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物(D)が、エチレン・プロピレン共重合体(A)及びエポキシ化植物油(B)に加えて低密度ポリエチレン(C)を含有する場合において、エチレン・プロピレン共重合体(A)と高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)との含有比率は、(A):(C)が、例えば5~95重量%:5~95重量%であり、好ましくは10~95重量%:5~90重量%であり、より好ましくは20~95重量%:5~80重量%であり、更に好ましくは30~95重量%:5~70重量%である。より一層好ましくは40~95重量%:5~60重量%である。エチレン・プロピレン共重合体(A)が多すぎると、溶融膜の安定性が低下しやすく、また、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)が多いと接着強度が低下するおそれがある。
特に、エチレン・プロピレン共重合体(A)と高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)との比率(A:C)が、50~95重量%:5~50重量%であると、より接着強度が高くなるため、好ましい。
【0045】
(4)ポリエチレン樹脂組成物(D)の特性
(d-1)MFR
本発明において用いられるポリエチレン樹脂組成物(D)のメルトフローレート(MFR:190℃、21.18N荷重)は、好ましくは1~100g/10分であり、より好ましくは1~80g/10分であり、更に好ましくは2~70g/10分である。MFRが1g/10分未満であると成形時の延展性が悪くなり、押出機内のモーター負荷が高くなるため好ましくない。一方、MFRが100g/10分を超えると成形時の溶融膜の状態が不安定になるので好ましくない。
ここで、MFRは、JIS-K6922-2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定する値である。
【0046】
(d-2)密度
本発明において用いるポリエチレン樹脂組成物(D)の密度は、好ましくは0.88~0.94g/cm3であり、より好ましくは0.885~0.94g/cm3であり、更に好ましくは0.89~0.935g/cm3である。密度が0.88g/cm3未満であると、ブロッキングが不良になるので好ましくない。一方、密度が0.94g/cm3を超えると、接着性が不良となるので好ましくない。
ここで、密度は、JIS-K6922-2:1997附属書(低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定する(測定温度23℃)。
【0047】
(5)その他の成分
本発明において用いられるポリエチレン樹脂組成物(D)またはそれを含有する樹脂層(イ)には、必要に応じて、ポリエチレン系樹脂に通常使用されるフェノール系、リン系等の酸化防止剤、金属石鹸等の安定剤、アンチブロッキング剤、滑剤、分散剤、有機系または無機系の着色剤等の顔料、不飽和脂肪酸エステル等の防曇剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤などの添加剤を配合しても良い。例えば、酸化防止剤の好ましい配合範囲としては、重量割合で、5000ppm以下であり、より好ましくは3000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下が挙げられる。
また、ポリエチレン樹脂組成物層の特性を損ねない範囲で、LDPE、LLDPE(C4-LLDPE、HAO-LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタアクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体(EEA、EMA、EMMA等)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン系樹脂、エチレン-無水マレイン酸共重合体などの接着性樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン樹脂等、他の熱可塑性樹脂を配合しても構わない。
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物(D)は架橋剤を含有しないことが好ましい。
【0048】
2.基材層(ロ)
本発明に用いる基材層(ロ)としては、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート等の単層フィルムまたはこれらの同種若しくは異種材料からなる積層フィルムが例示できる。前記フィルムは延伸フィルムであることが好ましい。また、クラフト紙などの紙、アルミ、銅などの金属の箔、金属または無機物、有機物を蒸着したプラスチック製フィルム等の単層基材またはバリア性コーティングを施したプラスチック製フィルム等の積層基材が挙げられる。
好ましくは、ポリエチレン樹脂以外の基材、特に好ましくは、官能基を有する樹脂素材であるナイロン(ポリアミド)やポリエチレンテレフタレートを基材層(ロ)とする場合に、本発明の優れた接着性を利用することができるため、好ましい。
本発明において用いられる特に好ましい基材層(ロ)としては、少なくとも樹脂層(イ)と接する面がポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分として必須とするフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートの単層フィルムまたは、ポリエチレンテレフタレートと同種もしくは異種材料からなる積層フィルムが例示される。上記フィルムは延伸フィルムであることが好ましい。基材層(ロ)中に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂の量は、例えば50重量%~100重量%である。基材層(ロ)がポリエチレンテレフタレート樹脂以外の樹脂を含む場合、後述の他基材層の例として挙げた樹脂を使用することができる。
基材層には、印刷、蒸着、各種コーティング等が施されていてもよい。
【0049】
3.積層体
本発明の積層体は、上述したポリエチレン樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)及び基材層(ロ)の少なくとも2層を有し、樹脂層(イ)は、基材層(ロ)上に直接接着することにより形成されている積層体である。基材層(ロ)の少なくとも一方の面には、ポリエチレン樹脂組成物(D)を含有する樹脂層(イ)が直接接着することにより形成されている。
積層体の構成についての制約はないが、例えば下記のような構成を含む積層体が例示される。
基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)、樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)/基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)、基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)/基材層(ロ)、樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)/基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)/基材層(ロ)、基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)/基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)/基材層(ロ)、基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)/他基材層、他樹脂層/基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)、他基材層/基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)、基材層(ロ)/樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)/他樹脂層
ここで、他基材層としては、基材層(ロ)とは異なる基材層であり、例としてポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート等のプラスチックフィルムまたはシート、上記フィルムまたはシートの延伸物、印刷物、金属等の蒸着物等の二次加工したフィルムまたはシート、アルミニウム、鉄、銅、これらを主成分とする合金等の金属箔または金属板、セロファン、紙、織布、不織布等が挙げられる。
また、他樹脂層としては、樹脂層(イ)とは異なる樹脂層であり、例としてLDPE、C4-LLDPE、HAO-LLDPE、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタアクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体(EEA、EMA、EMMA等)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン系樹脂、エチレン-無水マレイン酸共重合体などの接着性樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン樹脂等、他の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0050】
積層体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、基材層に、ポリエチレン樹脂組成物を溶融押出しし積層するいわゆる押出コーティング法が好ましい。また、上記押出しコーティングは単層、サンドイッチラミネート、共押出ラミネート、タンデムラミネート等の方法により一層以上積層されることが好ましい。ポリエチレン樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)は、接着層として使用できるうえ、表層のシーラントとしても使用することができる。本発明によれば、基材との接着が良好であるため、高速成形が可能となる。
【0051】
また、基材層との接着性を確保する方法としては特に限定されないが、例えば、基材の表面処理を行ってもよい。表面処理の方法としては、コロナ放電処理法、オゾン処理法、フレーム処理法、低温プラズマ処理法等の各種処理法が挙げられる。また溶融樹脂へオゾンを吹きかける方法も挙げられる。なお、他基材層を備える場合は、必要に応じて、アンカーコート処理することが好ましい。
【0052】
本発明の積層体は、上記のポリエチレン樹脂組成物(D)を含む樹脂層(イ)により形成され、基材層(ロ)との接着強度に優れ、内容物の保護性能に優れた積層体である。
【0053】
本発明の積層体は、基材層(ロ)との接着強度に優れており、接着剤等を不使用とできる。そのため、食品、医療、電子材料等のクリーンな包装フィルム、包装体等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた評価方法および使用樹脂は、以下の通りである。
【0055】
1.樹脂物性の評価方法
(1)メルトフローレート(MFR)
前述の通り、エチレン・プロピレン共重合体、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンまたはポリエチレン樹脂組成物のMFRは、JIS-K6922-2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定した。
(2)密度
前述の通り、エチレン・プロピレン共重合体、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンまたはポリエチレン樹脂組成物の密度は、JIS-K6922-2:1997附属書(23℃、低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定した。
【0056】
(3)コモノマー量、コモノマーによる分岐数および二重結合数
コモノマー量およびコモノマーによる分岐数(Y)は、13C-NMRにより、二重結合数(ビニル、ビニリデン)は、1H-NMRにより、次の条件で測定し、主鎖および側鎖の合計1000個の炭素あたりの個数で求めた。
装置:ブルカー・バイオスピン(株)AVANCE III cryo-400MHz
溶媒:o-ジクロロベンゼン/重化ブロモベンゼン=8/2混合溶液
<試料量>
試料460mg/溶媒2.3ml
<13C-NMR>
・1Hデカップル、NOEあり
・積算回数:256scan
・フリップ角:90°
・パルス間隔20秒・AQ(取り込み時間)=5.45s D1(待ち時間)=14.55s
<1H-NMR>
・積算回数:1400scan
・フリップ角:1.03°
・AQ(取り込み時間)=1.8s D1(待ち時間)=0.01s
【0057】
(4)溶融膜安定性
押出機90mmφ、Tダイス560mm幅、リップ幅0.8mm、エアーギャップ120mm、成形温度325℃、引取速度100m/minにて溶融膜の安定性を目視にて観察した。溶融膜が安定して、加工できる場合を「○」とし、溶融膜が不安定で、均一な厚みに加工できない場合を「×」とした。
(5)接着強度
得られた積層体を、流れ方向に15mm幅の短冊状に切出し、樹脂層(イ)と基材層(ロ)との層間の界面で剥離し、被検体数5、剥離速度300mm/分、T剥離試験での剥離強度をもって接着強度とした。基材層(ロ)に対して樹脂層(イ)を引っ張って剥離しながらこの層が切れた場合にはチャートの最高点の数値をもって接着強度とした。
【0058】
2.材料
(1)基材層(ロ)
少なくとも樹脂層(イ)と接する面がポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分として必須とするフィルムとして、東洋紡社製 東洋紡エステルフィルムE5102(厚さ25μm)を用いた。
【0059】
(2)エチレン・プロピレン共重合体(A)
下記製造方法により得られたPE-1をエチレン・プロピレン共重合体(A)として用いた。その物性値を表1に示す。
【0060】
<PE-1の製造方法>
(i)触媒の調製
特開平10-218921号公報に記載された方法で調製した錯体「rac-ジメチルシリレンビスインデニルハフニウムジメチル」0.05molに、等molの「N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート」を加え、トルエンで50Lに希釈して触媒溶液を調製した。
【0061】
(ii)重合方法
内容積5.0Lの撹拌式オートクレーブ型連続反応器を用い、反応器内の圧力を80MPaに保ち、エチレン、プロピレン、1-ヘキセンを適宜調整しながら、55kg/時の割合で原料ガスを連続的に供給した。また、上記「(i)触媒の調製」の項に記載の触媒溶液を連続的に供給し、重合温度は200~250℃の範囲内で適宜調整することでPE-1のエチレン・プロピレン共重合体を得た。
【0062】
(3)高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)
表1に示す物性値を有する高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(PE-2)~(PE-3)を用いた。
【0063】
(4)エポキシ化植物油(B)
エポキシ化大豆油 アデカサイザーO-130P(株式会社ADEKA製):分子量1000,分子中にエポキシ基を2個以上有する
【0064】
(5)酸化防止剤
フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤の混合物
【0065】
(実施例1)
エチレン・プロピレン共重合体(PE-1)78重量%とエポキシ化植物油700重量ppmおよび高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(PE-2)22重量%を配合した。これを十分に混合し、40mmφ単軸押出機を用いてポリエチレン樹脂組成物(D)のペレットを得た。
上記で得られたペレットを、押出ラミネート成形機を使用し、口径90mmφの押出機に装着したTダイスから押し出される樹脂の温度が325℃になるように設定し、冷却ロール表面温度25℃、ダイス幅560mm、ダイリップ開度0.8mmで引取加工速度が100m/分の場合に被覆厚みが15μmになるように引取速度100m/分、被覆厚み15μmとなるように調整し、幅500mm、厚み25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製 東洋紡エステルフィルムE5102)を基材層(ロ)とし、厚み30μmの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム(フタムラ化学社製 LL-XMTN)をサンド基材層として押出サンドラミネート加工を行い、積層体を製造した。次いで、得られた積層体を用いて、上述の接着強度の評価を行った。また、上記で得られたペレットを用いて、上述の溶融膜安定性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例2)
実施例1において、エポキシ化植物油の配合量を700重量ppmから500重量ppmに減らした以外は、実施例1と同様に積層体を製造した。評価結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例1において、エポキシ化植物油の配合量を700重量ppmから300重量ppmに減らした以外は、実施例1と同様に積層体を製造した。評価結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1において、さらに酸化防止剤を340重量ppm添加した以外は、実施例1と同様に積層体を製造した。評価結果を表1に示す。
(実施例5)
実施例2において、さらに酸化防止剤を340重量ppm添加した以外は、実施例2と同様に積層体を製造した。評価結果を表1に示す。
(実施例6)
実施例3において、さらに酸化防止剤を340重量ppm添加した以外は、実施例3と同様に積層体を製造した。評価結果を表1に示す。
(実施例7)
実施例1において、さらに酸化防止剤を510重量ppm添加した以外は、実施例1と同様に積層体を製造した。評価結果を表2に示す。
(実施例8)
実施例2において、さらに酸化防止剤を重量510ppm添加した以外は、実施例2と同様に積層体を製造した。評価結果を表2に示す。
(実施例9)
実施例3において、さらに酸化防止剤を510重量ppm添加した以外は、実施例3と同様に積層体を製造した。評価結果を表2に示す。
【0067】
(比較例1)
実施例1において、エポキシ化植物油(B)を添加せず、エチレン・プロピレン共重合体(A)を用いずに、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(C)であるPE-3のみからなるポリエチレン樹脂組成物(D)を使用した以外は、実施例1と同様に積層体を製造した。評価結果を表2に示す。
(比較例2)
比較例1において、さらにエポキシ化植物油(B)を1400重量ppm添加した以外は、比較例1と同様に積層体を製造した。評価結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例1において、エポキシ化植物油(B)を添加していないこと以外は、実施例1と同様に積層体を製造した。評価結果を表2に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
(評価)
この表1~2の結果から明らかなように、本発明の実施例による積層体は、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム等の基材との接着強度に優れた積層体である。
一方、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンのみを用いた場合(比較例1、2)や、エポキシ化植物油を用いていない場合(比較例3)は、接着強度が小さい。特に、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンとエポキシ化植物油を用いた場合(比較例2)では、エポキシ化植物油を1400重量ppmと本発明の実施例の含有量(300重量ppm~700重量ppm)よりも多量に含有しているにもかかわらず、本発明の実施例の接着強度よりも接着強度が小さい。このことから本発明の実施例が優れた接着性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリエチレン樹脂組成物を含む樹脂層と基材層の積層体は、食品、医療、電子材料等のクリーンな包装フィルム、包装体等として用いることができる。