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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】作業支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 16/90 20190101AFI20231129BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20231129BHJP
   G06N 5/00 20230101ALI20231129BHJP
【FI】
G06F16/90 100
G05B19/418 Z
G06N5/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019080665
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020177547
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隼樹
(72)【発明者】
【氏名】東 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄二
(72)【発明者】
【氏名】小島 大
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩史
【審査官】成瀬 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-160232(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/012123(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 16/00-16/958
G05B 19/418
G06N 3/00-99/00
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工装置にて行われる機械加工の機械加工条件の決定を支援する作業支援システムであって、
データベースと、
作業者の入力により、文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された問題であって第一機械加工条件にて前記機械加工を行った際の前記問題を入力情報として取得する入力部と、
前記入力部が取得した前記入力情報としての前記問題及び前記データベースを用いて、プログラムを実行することにより、前記入力情報としての前記問題を解決するための回答を解析する解析部と、
前記解析部により得られた前記回答を出力する出力部と、
を備え、
前記データベースは、
前記機械加工における前記問題と要因との関連性、及び、前記機械加工における前記要因と前記要因との関連性を含む知識データであって、前記第一機械加工条件にて前記機械加工を行った際の前記問題が入力された場合に当該問題を解決するための前記要因を抽出可能に構成された前記知識データと、
所定の機械加工条件にて前記機械加工を行った際に前記作業者が知覚可能な感覚を表す感覚データであって、前記所定の機械加工条件に紐づいて構成された前記感覚データと、を備え、
前記解析部は、
前記入力部が取得した前記入力情報に基づいて前記プログラムを実行して前記知識データを探索することにより、前記入力情報としての前記問題を解決するための前記要因を抽出し、
抽出された前記要因を用いて、前記問題を解決するための推奨加工条件としての第二機械加工条件を解析し、
得られた前記第二機械加工条件に基づいて前記プログラムを実行して前記感覚データを探索することにより、得られた前記第二機械加工条件に関連する前記感覚データを取得し、
前記出力部は、前記回答として、前記解析部により得られた前記第二機械加工条件、及び、前記感覚データを出力する、作業支援システム。
【請求項2】
前記知識データは、前記第一機械加工条件にて前記機械加工を行った際の前記問題が入力された場合に当該問題を解決するための前記要因を抽出可能に構成され、かつ、当該問題と抽出された前記要因との関連性を表す関連性経路を出力可能に構成され、
前記解析部は、
前記入力部が取得した前記入力情報に基づいて前記プログラムを実行して前記知識データを探索することにより、前記入力情報としての前記問題を解決するための前記要因を抽出し、
抽出された前記要因を用いて、前記問題を解決するための推奨加工条件としての前記第二機械加工条件を解析し、
前記入力情報としての前記問題と前記問題を解決するための前記要因との関連性を表す前記関連性経路を解析し、
前記出力部は、前記回答として、前記解析部により得られた前記第二機械加工条件、前記関連性経路、及び、前記感覚データを出力する、請求項1に記載の作業支援システム。
【請求項3】
前記入力部は、前記作業者が前記出力部により出力された前記第二機械加工条件にて前記機械加工を行った際の前記感覚データを取得し、
前記解析部は、さらに、
前記入力部が取得した前記感覚データに前記第二機械加工条件を紐づけたデータを用いて、前記データベースに登録されている前記感覚データを更新する、請求項1又は2に記載の作業支援システム。
【請求項4】
前記知識データは、
前記問題、
前記問題の粒度、
前記要因、
前記要因の粒度、
前記問題と前記要因との関連性、
前記要因と前記要因との関連性、を含む、請求項1~の何れか1項に記載の作業支援システム。
【請求項5】
前記感覚データは、画像データ、振動データ、熱を表すデータ、音を表すデータ、及び、臭いを表すデータの少なくとも1つである、請求項1~の何れか1項に記載の作業支援システム。
【請求項6】
前記出力部は、前記感覚データを実行することにより、前記作業者に対して知覚の付与を可能に構成される、請求項1~の何れか1項に記載の作業支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特開平4-122524号公報に開示された加工条件自動検索制御方式(以下、単に「従来の制御方式」と称呼する。)が知られている。この従来の制御方式は、加工条件データ及びプロダクションルールを含む知識データを、放電加工機を制御する数値制御装置内に格納している。そして、知識データ及びオペレータが設定した設定条件に従って、推論エンジンによって複数の放電加工条件を求めるようになっている。
【0003】
又、従来から、例えば、特開2018-147351号公報に開示された知識モデル構築システム及び知識モデル構築方法(以下、単に「従来のシステム等」と称呼する。)も知られている。この従来のシステム等は、当該分野の技術情報の用語を知識モデル上の因子として抽出する因子抽出手段と、抽出される因子の関係性を抽出する関係性抽出手段と、抽出される因子の関係性を定型化して因子の相互関係の情報を生成する相互関係情報生成手段と、抽出される因子の関係性及び生成される因子の相互関係の情報に基づいて因子の相互関係の強さを示す因子間の寄与度を算出する因子間寄与度算出手段と、を備えている。
【0004】
又、従来のシステムは、抽出される因子、抽出される因子の関係性、抽出される因子の相互関係の情報、及び、算出される因子間の寄与度を所定の形式に従って記述し、知識モデルに格納する知識モデル格納手段を備えている。これにより、従来のシステムは、容易に解釈し得る形態で表現された情報として知識モデルを構築できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-122524号公報
【文献】特開2018-147351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の制御方式及び従来のシステム等は、文字、数値及び記号のみを用いた所定の形式の入力情報を入力し、入力情報に基づいてこれまでに得られた知見や知識、経験、考え方等の情報即ちノウハウを蓄積した知識データや知識モデルを探索する。そして、上記従来の制御方式及び従来のシステム等は、探索によって得られたノウハウを文字、数値及び記号のみを用いた所定の形式の出力情報を提供する。即ち、上記従来の制御方式及び従来のシステム等においては、得られたノウハウは文字、数値及び記号のみを用いた所定の形式で表現される。
【0007】
この場合、作業者が特に所定の分野において知識や経験等が不足している未熟作業者においては、文字、数値及び記号のみを用いてノウハウが提供されても、ノウハウを理解することが困難となる可能性があり、改善する余地がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためのなされたものであり、その目的は、データベースに蓄積されたノウハウ等の情報を、利便性に優れ且つ理解し易くして提供可能な作業支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、機械加工装置にて行われる機械加工の機械加工条件の決定を支援する作業支援システムであって、
データベースと、
作業者の入力により、文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された問題であって第一機械加工条件にて前記機械加工を行った際の前記問題を入力情報として取得する入力部と、
前記入力部が取得した前記入力情報としての前記問題及び前記データベースを用いて、プログラムを実行することにより、前記入力情報としての前記問題を解決するための回答を解析する解析部と、
前記解析部により得られた前記回答を出力する出力部と、
を備え、
前記データベースは、
前記機械加工における前記問題と要因との関連性、及び、前記機械加工における前記要因と前記要因との関連性を含む知識データであって、前記第一機械加工条件にて前記機械加工を行った際の前記問題が入力された場合に当該問題を解決するための前記要因を抽出可能に構成された前記知識データと、
所定の機械加工条件にて前記機械加工を行った際に前記作業者が知覚可能な感覚を表す感覚データであって、前記所定の機械加工条件に紐づいて構成された前記感覚データと、を備え、
前記解析部は、
前記入力部が取得した前記入力情報に基づいて前記プログラムを実行して前記知識データを探索することにより、前記入力情報としての前記問題を解決するための前記要因を抽出し、
抽出された前記要因を用いて、前記問題を解決するための推奨加工条件としての第二機械加工条件を解析し、
得られた前記第二機械加工条件に基づいて前記プログラムを実行して前記感覚データを探索することにより、得られた前記第二機械加工条件に関連する前記感覚データを取得し、
前記出力部は、前記回答として、前記解析部により得られた前記第二機械加工条件、及び、前記感覚データを出力する、作業支援システムにある。
【0010】
これによれば、作業支援システムは、文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された機械加工における問題を入力する。
【0011】
さらに、作業支援システムは、出力情報として、問題を解決するための回答として、解析部により得られた第二機械加工条件、及び、感覚データを出力する。感覚データは、機械加工装置を第二機械加工条件にて動作させた際に作業者が知覚可能な感覚を表すデータであって、第二機械加工条件に紐づいて構成されたデータである。このように、出力情報として、問題を解決することができる第二機械加工条件と、当該第二機械加工条件に紐づけられた感覚データが出力されることによって、未熟作業者であっても、ノウハウを容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る作業支援システムのブロック図である。
図2】切削装置の全体構成を示す平面図である。
図3】切削装置の断面図である。
図4図2及び図3の切削装置に設けられた制御装置のブロック図である。
図5】データベースに更新可能に記憶される各種情報を説明するための図である。
図6図1の制御部が参照するテーブルである。
図7図1の制御部が参照するマップである。
図8図1の制御部によって実行される作業支援ツールプログラムのフローチャートである。
図9図1の制御部による推奨加工条件の設定を説明するための図である。
図10図1の制御部によって設定された推奨加工条件説明するための図である。
図11図1の制御部によって生成される回答に含まれる経緯情報及び確信度(優先順位)を説明するための図である。
図12図1の制御部によって生成される回答に含まれる対策案を説明するための図である。
図13図2及び図3の切削装置により良品の工作物が切削加工された場合の映像を説明するための概略図である。
図14図1の出力部によって出力される振動を説明するための図である。
図15図2及び図3の切削装置により不良品の工作物が切削加工された場合の映像を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.作業支援システム100の構成)
以下、作業支援システム100について図面を参照しながら説明する。一実施形態における作業支援システム100は、生産設備である工作機械(例えば、後述する切削装置200等)を操作する作業者による工作機械を用いた作業である機械加工(生産方法)を支援するものである。特に、作業支援システム100は、工作機械の操作の経験が浅い未熟作業者に対して、工作機械を用いた機械加工(切削加工等)の経験が豊富な熟練作業者の知見(知識)や経験に基づいた機械加工に関するノウハウ及びノウハウに関連して未熟作業者が知覚可能な感覚を提供する。これにより、作業支援システム100は、未熟作業者による工作機械を用いた機械加工を支援することができると共に、未熟作業者に対する教育作業を支援することができる。
【0014】
作業支援システム100は、図1に示すように、パーソナルコンピュータ110と、機械加工において生じた課題(問題)の要因を突き詰めるためのデータベースとしてのデータベース120と、を備えている。又、作業支援システム100は、パーソナルコンピュータ110によって実行される第一解析機能としての駆動解析機能130と、パーソナルコンピュータ110によって実行される第二解析機能としての解決解析機能140と、を備えている。ここで、解析機能は、例えば、目的とする結果を得るために、複数の変数を含む数式において解析により最適な変数の値を求める機能であるソルバ等を用いることができる。
【0015】
パーソナルコンピュータ110は、図1に示すように、CPU、ROM、RAM等を主要構成部品とする制御部111を備えており、制御部111が作業支援システム100の作動を統括的に制御する。このため、制御部111には、入力部112、記憶部113、出力部114、インターフェース115及びデータベース更新部116が通信可能に接続されている。
【0016】
質問入力部としての入力部112は、キーボードやマイク、或いは、静止画や動画等の映像を入力するためのインターフェースを有しており、主として、未熟作業者によって操作されて生産方法(例えば、機械加工方法であって切削加工方法等)及び生産設備である工作機械(切削装置200等)に関する質問を入力する。記憶部113は、後述する作業支援ツールプログラムを含む各種プログラム及び作業支援ツールプログラムの実行によって取得される各種データ(例えば、後述するように推奨される推奨加工条件等)を記憶している。又、記憶部113は、駆動解析機能130と解決解析機能140とをファイルとして記憶しており、制御部111に駆動解析機能130と解決解析機能140とを実行可能なファイルとして出力する。
【0017】
出力部114は、作業支援ツールプログラムの実行により得られた後述する回答を含む処理内容を未熟作業者に出力する。出力部114としては、文字、静止画及び動画等の映像を表示するモニタ装置、音を発生するスピーカ装置、機械加工時に発生する振動を再現する振動装置、機械加工時に発生する熱を再現する加熱装置、及び、機械加工時に発生する匂い(例えば、焼けたオイル臭等)を発生する臭気発生装置から適宜選択される。本実施形態において、出力部114は、文字、静止画及び動画等の映像を表示するように机上に設置された表示器114aと、機械加工時(作業時)に発生する振動を再現する振動器114b(図14を参照)と、から構成されている。
【0018】
尚、振動器114bは、後述する振動データに基づいてスピーカ装置としても作動することができる。又、振動器114bは、図14に示すような箱状に限らず、例えば、未熟作業者が装着する手袋としても良い。更に、振動器114bは、未熟作業者が接触することが可能であるため、振動を発生させることに加えて触覚として未熟作業者に知覚される熱を発生するように構成することも可能である。
【0019】
取得部としてのインターフェース115は、工作機械(切削装置200等)と通信可能に接続されて種々の情報を取得する。更新部としてのデータベース更新部116は、データベース120に蓄積された各種情報即ち後述する知識データ及び感覚データを更新する。
【0020】
データベース120は、パーソナルコンピュータ110(具体的には、制御部111及びデータベース更新部116)と通信可能に接続されている。データベース120は、熟練作業者が有する知見(知識)や経験に基づいて機械加工(切削加工等)に関する各種情報、即ち、ノウハウを表す知識データ121を、所定記憶位置に更新可能に蓄積して記憶している。
【0021】
又、データベース120は、ノウハウである知識データに関連して未熟作業者が知覚し得る感覚である視覚、聴覚、触覚、臭覚等を再現するための電子データである感覚データ122を、所定記憶位置に更新可能に蓄積して記憶している。感覚データは、例えば、視覚として知覚される静止画及び動画等の映像を表す電子データ、触覚や聴覚として知覚される振動や熱又は音を表す電子データ、臭覚として知覚される臭いを表す電子データ等である。本実施形態においては、データベース120は、出力部114の表示器114aに表示される静止画及び動画を表す電子データとしての映像データ、及び、振動器114bによって再現される振動を表す電子データとしての波形データを感覚データ122として記憶している場合を説明する。
【0022】
尚、データベース120は、パーソナルコンピュータ110と接続されると共に、図示しないネットワーク回線を介して他のパーソナルコンピュータと接続されていても良い。この場合には、熟練作業者は、パーソナルコンピュータ110の入力部112又は他のパーソナルコンピュータのキーボード等を用いて、知識データ121及び感覚データ122をデータベース120に入力することができる。
【0023】
第一解析機能としての駆動解析機能130は、制御部111により実行される機能ファイルである。駆動解析機能130は、データベース120に記憶されて蓄積された機械加工(切削加工等)に関する知識データ121を探索し、後述する探索過程及び探索経路を第一解として導くものである。尚、以下の説明において、「探索過程」及び「探索経路」を合わせて「経緯情報」と称呼する場合がある。又、駆動解析機能130は、データベース120に記憶されて蓄積されていて、経路情報が導かれた知識データ121に関連する感覚データ122を探索する。
【0024】
第二解析機能としての解決解析機能140は、制御部111により実行される機能ファイルである。解決解析機能140は、入力情報として未熟作業者によって入力された質問等に基づき探索条件を生成して駆動解析機能130に出力する。又、解決解析機能140は、駆動解析機能130から得られた経緯情報に基づき、未熟作業者によって入力された質問等に対する出力情報としての回答を第二解として出力部114から出力させるものである。
【0025】
(2.切削装置200の構成)
切削装置200は、図2に示すように、旋盤である。切削装置200は、工作物保持装置210と、工作物送り装置220と、工具保持装置230と、工具としてのバイト240と、を備えている。
【0026】
工作物保持装置210は、生産対象物である工作物W(例えば、単純な円柱等)を回転可能に保持する。工作物保持装置210は、主軸台211と、心押台212と、を備えている。主軸台211は、ハウジングとしての主軸台本体213と、主軸台本体213に回転可能に支持されて工作物Wの軸方向における一端側(図2において紙面右側)を回転可能に支持する回転主軸214と、回転主軸214を回転させるための駆動力を付与する回転主軸モータ215(図4を参照)と、を備えている。心押台212は、ハウジングとしての心押台本体216と、工作物Wの軸方向における他端側(図2において紙面左側)を回転可能に支持する心押センタ217と、を備える。
【0027】
工作物保持装置210は、工作物Wの回転軸線AwをX軸方向と平行に向けた状態で、回転軸線Awの方向における両端を回転主軸214と心押センタ217とによって支持する。そして、工作物Wは、回転主軸モータ215が駆動することにより、回転軸線Awの周りに回転する。
【0028】
工作物送り装置220は、工作物Wを所定方向であるX軸方向へ送る。工作物送り装置220は、送り台221と、X軸駆動装置222(図4を参照)と、を備えている。尚、図2及び図3においては、X軸駆動装置222の図示が省略されている。送り台221は、ベッド201の上面をX軸方向へ移動可能に設けられる。具体的に、ベッド201の上面には、図3に示すように、X軸方向に延びる一対のX軸ガイドレール223が設けられ、送り台221は、X軸ガイドレール223に案内されながらX軸方向へ移動可能に設置される。X軸駆動装置222は、ベッド201に対して送り台221をX軸方向(即ち、工作物Wの回転軸線Aw方向)に送るねじ送り装置である。
【0029】
送り台221の上面には、主軸台211及び心押台212が設置される。従って、主軸台211及び心押台212に支持された工作物Wは、X軸駆動装置222を駆動して送り台221をX軸方向に移動させることにより、工作物Wの回転軸線Awの方向に送られる。
【0030】
工具保持装置230は、工具としてのバイト240を回転不能に保持する。工具保持装置230は、コラム231と、工具変位装置としてのZ軸駆動装置232(図4を参照)と、サドル233と、ホルダ234と、を備えている。尚、図2及び図3においては、Z軸駆動装置232の図示が省略されている。
【0031】
コラム231は、ベッド201の上面をZ軸方向に移動可能となるように設けられている。具体的に、ベッド201の上面にはZ軸方向に延びる一対のZ軸ガイドレール235が設けられており、コラム231はZ軸ガイドレール235に案内されながらZ軸方向に移動可能に設置される。Z軸駆動装置232は、ベッド201に対してコラム231をZ軸方向に送るねじ送り装置である。
【0032】
ホルダ234は、サドル233に対して固定されており、バイト240を着脱可能に保持する。これにより、ホルダ234に保持されたバイト240は、コラム231及びサドル233の移動に伴い、ベッド201に対してZ軸方向(送り方向であるX軸方向に直交する方向)に平行移動する。
【0033】
又、切削装置200は、図4に示すように、制御装置250を備えている。制御装置250は、工作物回転制御部251と、送り制御部252と、変位制御部253と、加工条件入力部254と、を含んで構成されている。工作物回転制御部251は、回転主軸モータ215の駆動制御を行い、回転主軸214と心押センタ217とによって支持された工作物Wを回転させる。
【0034】
送り制御部252は、X軸駆動装置222の駆動制御を行い、送り台221をX軸方向に移動させることにより、工作物保持装置210に保持された工作物WをX軸方向に送る。変位制御部253は、Z軸駆動装置232の駆動制御を行い、工具保持装置230に装着されたバイト240をZ軸方向に平行移動させる。
【0035】
加工条件入力部254は、作業者によって操作されるものであり、作業者が生産対象物である工作物Wを切削加工する際の加工条件を入力する。具体的に、加工条件入力部254は、バイト240(即ち、ホルダ234)のZ軸方向への変位量やバイト240に対する工作物WのX軸方向への相対的な送り速度、切削速度、切込量、工作物Wの材質等を含む切削加工に関する各種加工条件が入力される。加工条件入力部254は、工作物回転制御部251、送り制御部252及び変位制御部253と接続され、作業者によって入力された加工条件を工作物回転制御部251、送り制御部252及び変位制御部253に出力する。
【0036】
(3.データベース120に蓄積(登録)される知識データ121及び感覚データ122)
次に、データベース120に蓄積される生産方法であって機械加工方法(切削加工方法等)及び工作機械(切削装置200)に関するノウハウである知識データ121を具体的に例示しておく。ここで、以下に説明する知識データ121は、機械加工における問題を生じさせる複数の要因(要因要素)と、問題及び要因の粒度と、問題と要因との間の接続(関連性)及び要因と要因との間の接続(関連性)と、を言う。尚、「粒度」とは、例えば、単に「1~5」のような段階的数値や「大中小」のような文字によるランク付け、或いは、「大中小」や数値表記によって表されるレンジである。
【0037】
具体的に、熟練作業者が機械加工、例えば、切削装置200を用いた切削加工において発生した問題として、バイト240の摩耗が大きいことに対応する知識データ121をデータベース120に蓄積(登録)する場合を例示する。熟練作業者は、図5に示すように、先ず「問題」として「工具の摩耗」を入力する。
【0038】
そして、熟練作業者は、「工具の摩耗」を引き起こしていると考えられる要因Aとして「切削力」を入力し、要因Bとして「切込量」を入力する。尚、要因については、二つに限られることはなく、三つ以上の要因として、例えば、「切削熱」や「化学摩耗」、「切削速度」、「送り量」、「工具材質」等を入力可能であることは言うまでもない。
【0039】
又、熟練作業者は、図5に示すように、「問題」の「粒度」として、例えば、数値範囲(摩耗量)を入力すると共に、数値範囲(摩耗量)が大きくなるにつれて大きくなるように「1~5」の数字による段階表記で表される「ランク」や「大中小」の文字により表される「ランク」或いは「レンジ」を入力する。又、熟練作業者は、「要因A」の「粒度」として、例えば、数値範囲(切削力)を入力すると共に、数値範囲(切削力)が小さくなることに対応して「大中小」の文字による段階表記や数値による範囲表記で表される「レンジ」を入力する。
【0040】
又、熟練作業者は、「要因B」の「粒度」として、例えば、数値範囲(切込量)を入力すると共に、数値範囲(切込量)が大きくなるにつれて大きくなるように「1~4」の数字の段階表記による「ランク」や「大中小」の文字により表される「ランク」或いは「レンジ」を入力する。ここで、「ランク」及び「レンジ」については、例えば、数値を用いて互いに関連付ける(紐付けする)ことが可能である。これにより、熟練作業者が「ランク」又は「レンジ」或いは「ランク」及び「レンジ」の両方を入力する場合、例えば、入力された「ランク」に対応する「レンジ」も入力されたり、逆に、入力された「レンジ」に対応する「ランク」も入力されたりする、即ち、「ランク」と「レンジ」とを連動させることができる。
【0041】
更に、熟練作業者は、図5にて矢印にて示すように、「問題」と「要因A」との間の接続(関連性)を入力すると共に、「要因A」と「要因B」との間の接続(関連性)を入力する。
具体的に、熟練作業者は、「切削力」が大きく、且つ、「切込量」が大きい状態で切削加工が行われた場合に、「工具の摩耗」が大きくなるという関連性が存在することを、これまでの経験から知っている。
【0042】
従って、熟練作業者は、この経験に基づき、換言すれば、関連性に基づき、図5に示すように、「問題」として「工具の摩耗」が極めて大きい「ランク:5」と「要因A」である「切削力」が大きい「レンジ:大」との接続を入力する。加えて、熟練作業者は、「要因A」である「切削力」の「レンジ:大」と「要因B」である「切込量」が比較的大きい「ランク:2」との接続を入力する。
【0043】
同様に、熟練作業者は、「問題」である「工具の摩耗」の比較的大きな「ランク:4」及び「ランク:3」と「要因A」である「切削力」の比較的大きな「レンジ:中」との接続を入力する。加えて、熟練作業者は、「要因A」である「切削力」の比較的大きな「レンジ:中」と「要因B」である「切込量」が大きい「ランク:3」との接続を入力する。
【0044】
更に、熟練作業者は、「問題」である「工具の摩耗」の比較的小さな「ランク:2」及び「ランク:1」と「要因A」である「切削力」の小さな「レンジ:小」との接続を入力する。加えて、熟練作業者は、「要因A」である「切削力」の「レンジ:小」と「要因B」である「切込量」が極めて大きい「ランク:4」との接続を入力する。このように、熟練作業者は、問題を解決できるように突き詰めた(特定した)複数の要因及びこれらの要因の間の接続(関連性)を、電子データ化(デジタル化)した知識データ121をノウハウとしてデータベース120に記憶(登録)する。
【0045】
又、熟練作業者は、例えば、「問題」である「工具の摩耗」や「振動が大きい」等に関連して加工条件を異ならせた場合の感覚データ122を知識データ121に対応させて(紐付けして)データベース120に記憶(登録)する。感覚データ122は、例えば、切削装置200による加工状態や工作物Wの状態等を撮影した静止画や動画の映像データ、加工状態に応じて変化する切削装置200の音又は振動を表す波形データ、或いは、加工状態に応じて変化する切削油の匂い(オイル焼け等)に対応するサンプルの識別データ等を登録することができる。
【0046】
具体的に、感覚データ122としての映像データは、図6に示すように、工作物Wに加工に伴って発生する異常(状態)や切削装置200に加工に伴って発生する異常(加工状態)を撮影して得られる電子データである。この場合、工作物Wにおいては、「加工面の傷」、「むしれ」、「焼け」、「バリ」等を異常の項目として挙げることができる。
【0047】
熟練作業者は、例えば、後述する実解としての「推奨加工条件」によって加工した状態を基準として、それぞれの項目における程度即ち推奨加工条件とのずれを表し類似解になり得る「大」、「中」、「小」をテーブル形式で記述する。そして、熟練作業者は、それぞれの項目における「大」、「中」、「小」に対応する映像データを感覚データ122として記憶(登録)する。又、熟練作業者は、感覚データ122としての波形データも、映像データと同様に、図6に示すそれぞれの項目における程度即ち推奨加工条件とのずれを表し類似解になり得る「大」、「中」、「小」に対応する波形データを感覚データ122として記憶(登録)する。
【0048】
尚、一つの知識データ121に対して一つの要因(例えば、切削装置200における「切削速度」又は「切込量」)が関係する感覚データ122については、制御部111は、後述する実解としての推奨加工条件と予測解である対策案との差異を用いて図6に示すテーブルを参照する。これにより、制御部111は、「切削速度」又は「切込量」に基づいて変化する「程度」即ち類似解に対応する感覚データ122を選択する。一方、一つの知識データ121に対して二つ以上の要因(例えば、切削装置200における「切削速度」及び「切込量」)が関係する感覚データ122については、制御部111は、推奨加工条件と予測解である対策案との差異を用いて図7に示すマップを参照する。これにより、制御部111は、「切削速度」及び「切込量」に基づいて複合的に変化する「程度」即ち類似解に対応する感覚データ122を選択する。
【0049】
(4.作業支援の詳細)
以下、作業支援の一例を説明する。パーソナルコンピュータ110の制御部111(より詳しくは、制御部111を構成するCPU。以下、同じ。)は、図8に示す作業支援ツールプログラムをステップS10にて開始する。そして、制御部111は、続くステップS11にて、機械加工としての切削加工に関連する初期条件を入力する。
【0050】
初期条件は、入力部112を用いて未熟作業者により入力されるものである。具体的に、初期条件は、図9に示すように、例えば、工作物Wを形成する被削材諸元(被削材熱特性、被削材硬度、被削材伸び)及び工作物Wの加工要件(高品位化、高能率化、工具長寿命化)等、文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された第一情報である。
【0051】
この場合、例えば、被削材諸元としての被削材硬度は、上述した「要因A」及び「要因B」と同様に、「ランク」や「レンジ」を付して、知識データ121としてデータベース120に蓄積(登録)されている。そして、制御部111は、初期条件が入力されるとステップS12に進む。
【0052】
再び、図8に戻り、ステップS12においては、制御部111は記憶部113に記憶されている駆動解析機能130及び解決解析機能140を読み込んで実行する。これにより、駆動解析機能130及び解決解析機能140は協働して実解としての推奨加工条件を生成する。具体的に、駆動解析機能130は、前記ステップS11にて入力された初期条件(入力情報)を探索条件としてデータベース120の内部を探索し、第一解として複数の要因を抽出して解決解析機能140に出力する。
【0053】
解決解析機能140は、出力された複数の要因、即ち、熟練作業者によって登録されたノウハウを用いて第二解(実解)としての推奨加工条件を生成する。制御部111は、駆動解析機能130及び解決解析機能140を実行して推奨加工条件を生成すると、ステップS13に進む。尚、推奨加工条件の生成については、後に詳述する。
【0054】
ステップS13においては、制御部111は、前記ステップS12にて生成した推奨加工条件を出力する。具体的に、制御部111は、取得した推奨加工条件を出力部114に出力する。これにより、出力部114を構成する表示器114aは、図10に示すように、出力された推奨加工条件を文字及び数字により表示し、未熟作業者に対して推奨加工条件を教示する。ここで、制御部111は、生成して教示した推奨加工条件を実解として記憶部113に記憶する。
【0055】
未熟作業者は、出力部114の表示器114aに表示された推奨加工条件を、切削装置200の制御装置250を構成する加工条件入力部254に入力する。これにより、切削装置200においては、制御装置250が、加工条件入力部254に入力された推奨加工条件に基づいて、回転主軸モータ215、X軸駆動装置222及びZ軸駆動装置232を作動させて、工作物Wを切削加工する。
【0056】
ところで、本実施形態においては、推奨加工条件は、データベース120に記憶された知識データ121、即ち、熟練作業者によって入力されたノウハウに基づいて生成されて教示される。この場合、未熟作業者は、自身が入力した「被削材諸元」と「加工要件」とを実現するために、どのように推奨加工条件が設定されたのかについて確認することができる。具体的には、未熟作業者は、データベース120に記憶されている複数の要因とこれらの要因の間の関連性、即ち、探索過程と探索経路とを確認することができる。
【0057】
具体的に説明すると、図9にて太実線により囲んで示すように、未熟作業者が初期条件として入力した「被削材諸元」のうちの「被削材硬度」を選択し、推奨加工条件のうちの「回転送り」を選択すると、「被削材硬度」と「回転送り」とを結びつける要因(探索過程)と要因間の関連性(探索経路)が教示される。尚、図11においては、探索過程を太破線により囲んで示し、探索経路を太実線により示す。
【0058】
このように、作業支援システム100においては、駆動解析機能130が探索した探索過程及び探索過程(要因)間の探索経路(関連性)を提示することができる。これにより、未熟作業者は、「被削材硬度」が大の場合になぜ「回転送り」を小さくする必要があるかということを容易に理解することができる。
【0059】
即ち、図9に示すように、入力因子が「被削材硬度」の場合は、「工具要求性能」のうちの「要求工具刃先強度」を確保する必要がある。そして、この「要求工具刃先強度」を確保するためには、切削加工時において「工具諸元」のうちの「バイトすくい角」、「バイト逃げ角」及び「バイトR」が適切に維持される必要がある。このため、これらの「工具諸元」を維持するためには、「回転送り」を小さくする必要があるという出力因子即ち加工条件が得られることを未熟作業者は理解することができる。
【0060】
又、図9に示すように、入力因子である「高品位化」を実現する場合は、「工具要求性能」のうちの「要求推定面粗さ」を確保する必要がある。そして、この「要求推定面粗さ」を確保するためには、切削加工時において「工具諸元」のうちの「バイトR」が適切に維持される必要がある。
【0061】
このため、「バイトR」を維持するためには、「回転送り」を小さくする必要があるという出力因子即ち加工条件が得られることを未熟作業者は理解することができる。尚、「高品位化」を実現する場合には、直接的に、加工条件として「回転送り」を小さくする必要があることも、未熟作業者は理解することができる。
【0062】
このように、作業支援システム100においては、入力因子と出力因子との間における経路過程である複数の要因とこれら複数の要因の繋がり(関連性)である経路探索を提示(所謂、見える化)することができる。これにより、未熟作業者は、所望の状態となる切削加工を実現するための加工条件を設定する際に、検討すべき要因及び要因間の繋がり(関連性)を容易に習得することができる。
【0063】
そして、未熟作業者に提示される経路過程及び経路探索は、熟練作業者によって入力されたノウハウに基づくものである。このため、未熟作業者は、検討すべき要因及び要因間の繋がり(関連性)を習得することによってノウハウを伝承することになる。
【0064】
更に、作業支援システム100においては、制御部111は、出力部114を介して、推奨加工条件により切削加工された工作物Wの良品の加工状態を感覚データ122に基づいて未熟作業者に提供することができる。具体的に、制御部111は、推奨加工条件に紐付いた感覚データ122の映像データに基づき、図13に示すように、表示器114aに工作物Wの加工状態を表す静止画又は動画を再現させる。尚、良品を加工する際には、図13にて太線により示すように、切りくずが短くなる。又、制御部111は、推奨加工条件に紐付いた感覚データ122の波形データに基づき、図14に示すように、振動器114bに切削装置200の加工状態を表す振動又は加工音を再現させる。
【0065】
これにより、未熟作業者は、静止画又は動画を視覚により知覚すると共に、振動を触覚により知覚し或いは加工音を聴覚により知覚することができる。即ち、作業支援システム100は、出力部114の表示器114a及び振動器114bを介して、未熟作業者に良品を加工する際の加工状態を、感覚を加えて教示することができる。
【0066】
未熟作業者は、推奨加工条件に基づいて切削加工された工作物Wについて、形状や面性状等の仕上がり具合を判断し、自身が望む基準に対する処理結果である加工結果の良否を判断する。未熟作業者は、加工結果の良否を、処理結果情報である加工結果情報として入力部112を介して制御部111に入力する。尚、このように、未熟作業者が加工結果(処理結果)の良否即ち加工結果情報(処理結果情報)を入力することに代えて、パーソナルコンピュータ110のインターフェース115と切削装置200の制御装置250との間に計測装置(図示省略)が接続されている場合には、計測装置から計測情報がインターフェース115を介して入力され、自動的に加工結果情報が制御部111に入力されるように構成することも可能である。
【0067】
制御部111は、図8に示す作業支援ツールプログラムのステップS14において、上述したように入力された加工結果が不良であるか否かを判定する。即ち、制御部111は、未熟作業者によって入力された(判断された)加工結果情報に基づいて加工結果が不良であれば、ステップS14にて「Yes」と判定してステップS15以降の各ステップ処理を実行する。
【0068】
一方、制御部111は、未熟作業者によって入力された(判断された)加工結果情報に基づいて加工結果が良好であれば、ステップS14にて「No」と判定してステップS19に進む。そして、制御部111は、ステップS19にて、後述するようにデータベース120の記憶内容を更新する。
【0069】
前記ステップS14における判定処理により加工結果が不良の場合、制御部111は、ステップS15のステップ処理を実行する。そして、制御部111は、ステップS15にて、未熟作業者に対し、推奨加工条件に基づいて切削加工された工作物Wの加工結果を良好とするために改善すべき問題(課題)或いは切削装置200に生じた問題(課題)について質問を入力するように促す。
【0070】
具体的に、制御部111は、例えば、出力部114の表示器114aに対して、未熟作業者が質問を入力可能な画面表示を表示させる。ここで、例えば、未熟作業者は、推奨加工条件に基づいて実際に切削加工を行った結果、バイト240に生じる摩耗が大きいことが分かった場合や、切削加工において振動が大きく発生する切りくずが多いことが分かった場合を例示する。
【0071】
これらの場合、未熟作業者は、表示器114aに表示された画面表示に従って、「工具の摩耗が大きい」や「切りくずが多く振動が大きい」、或いは、推奨加工条件の一部又は全部を変更した加工条件等を、未熟作業者による質問等即ち入力情報として入力部112を用いて入力する。この場合、未熟作業者は、質問等を、文字、数値及び記号からなる所定の形式で記述された第一情報、又は、未熟作業者が知覚可能な感覚である映像データや波形データを含む第二情報として入力することができる。
【0072】
前記ステップS15にて未熟作業者による質問等が入力情報として入力されると、制御部111は、ステップS16にて入力された未熟作業者による質問等に対する出力情報としての回答を構成する予測解である対策案を生成する。具体的に、制御部111は、記憶部113に記憶されている駆動解析機能130及び解決解析機能140を読み込んで実行する。
【0073】
これにより、駆動解析機能130は、未熟作業者による質問等即ち記述している文字、数値及び記号から抽出した文字列等を探索条件とし、協働する解決解析機能140に出力する。解決解析機能140は、駆動解析機能130からの探索条件に基づき、データベース120の内部を探索する。
【0074】
駆動解析機能130は、探索過程である複数の要因及び要因の間の関連性を表す探索経路を取得すると共に予測解としての対策案を知識データ121として取得し、取得した探索過程、探索経路及び対策案を解決解析機能140に出力する。そして、制御部111は、探索過程、探索経路及び対策案が解決解析機能140に出力されると、ステップS16に進む。
【0075】
ステップS16においては、制御部111は、解決解析機能140が取得した知識データ121、即ち、未熟作業者による質問等(例えば、「工具の摩耗が大きい」や「振動が大きい」等)に対する出力情報である回答として、出力部114の表示器114aに探索過程及び探索経路を表示させると共に、予測解である複数の対策案に対策案の質問の解決への確からしさを表す確信度即ち優先順位を付して表示させる。以下、これらのことを具体的に説明する。
【0076】
図11に示すように、制御部111は、出力部114の表示器114aに対して、未熟作業者による質問等に対する回答として「加工診断(なぜなぜ分析)」を表示させる。この回答においては、未熟作業者による質問等に対応する「問題」と、複数の対策案に確信度が大きい程優先されるように付された優先順位である「対策順位」が表示器114aに表示される。又、回答においては、「問題」を解決するための複数の要因である「要因A」及び「要因B」(探索過程)及びこれら複数の要因の関連性を表す接続(探索経路)からなる「要因分析」が表示器114aに表示される。尚、図11においては、探索過程を太破線により囲んで示し、探索経路を太実線により示す。
【0077】
図11の例示の場合、「問題」である、例えば、「工具の摩耗が大きい」に対して、駆動解析機能130は、データベース120の内部(図1を参照)を探索し、「要因A」である「切削力」と「要因B」である「切込量」を第一解として特定する。又、駆動解析機能130は、「問題」、「要因A」及び「要因B」に付されている「ランク」又は「レンジ」、及び、「ランク」又は「レンジ」に基づく接続(関連性)も第一解として特定する。
【0078】
解決解析機能140は、駆動解析機能130が特定した「要因A」及び「要因B」について、これらの要因に対応して入力されている接続(関連性)に基づいて要因分析を行う。尚、関連性については、例えば、「ランク」又は「レンジ」をスコア化し、スコアを考慮して要因解析を行う周知の方法を採用しても良い。そして、解決解析機能140は、「問題」の解決に対する各要因の間の接続(関連性)の確かさ(大きさ)を表す確信度に基づき、第二解として「対策順位」を決定する。
【0079】
図11の例示の場合、「問題」である「工具の摩耗が大きい」ことを解決するためには、「要因A」として「切削力」の確信度が大きく、「要因A」との関連性が大きい「要因B」として「切込量」の確信度が最も大きく、「送り量」、「工具材質」の順に確信度が小さくなる。従って、「対策順位」としては、「切削力」-「切込量」の確信度が最も大きいため「順位1位」となり、「切削力」-「送り量」が「順位2位」、「切削力」-「工具材質」が「順位3位」となる。
【0080】
そして、制御部111は、解決解析機能140が導いた第二解即ち予測解としての回答(対策案)を、図12に示すように、複数の対策案、具体的には、上述した「対策順位」に沿った対策案を出力部114の表示器114aに表示する。これにより、制御部111は、未熟作業者に予測解として複数の対策案を教示する(推薦する)。具体的に、表示器114aには、回答として「改善提案(対策)」として、図12においては、三つの対策案が提案(推薦)されている。
【0081】
ここで、制御部111は、「問題」例えば「工具の摩耗が大きい」に対して一致する原因が存在する場合には、一致する原因に対する対策案を未熟作業者に教示する。一方、制御部111は、「問題」に対して一致する原因が存在しない場合には、「問題」に近い他の問題の原因を推定し、この推定した原因に対する対策案を未熟作業者に提案(推薦)する。即ち、制御部111は、「推定原因に対する対策案を推薦する推薦部」を実現する。
【0082】
対策案としては、上述した「対策順位」が「順位1位」となった「切削力」-「切込量」に対応する加工条件として、切込量の低減(〇〇%小さくする)が提案(推薦)される。同様に、「対策順位」が「順位2位」となった「切削力」-「送り量」に対応する加工条件として、送り量の低減(△△%小さくする)が提案(推薦)される。又、同様に、「対策順位」が「順位3位」となった「切削力」-「工具材質」に対応する工具条件として、バイト240の材質Aを材質Bに変更することが提案(推薦)される。
【0083】
ここで、対策案として提案される切込量の低減、送り量の低減及び工具材質の変更は、駆動解析機能130がデータベース120を探索して出力した探索過程及び探索経路である経緯情報、即ち、駆動解析機能130が特定した「要因A」及び「要因B」に対応するように記憶部113に記憶されている情報を取得して解決解析機能140が生成するものである。従って、未熟作業者に提案される複数の対策案は、それぞれ、熟練作業者の知見(知識)や経験即ちノウハウ(知識データ121)に基づくものである。尚、図12に示すように、未熟作業者による質問等に対する対策案が教示される際には、未熟作業者に一般的な注意事項も合わせて表示され、未熟作業者に注意を促すようになっている。
【0084】
ところで、制御部111は、未熟作業者による質問等に対する回答として予測される予測解であって文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述されたデータである対策案を出力することに合わせて、対策案即ち知識データ121に関連した感覚データ122を出力部114に再現させて出力させることができる。以下、このことを具体的に説明する。
【0085】
制御部111は、駆動解析機能130及び解決解析機能140を実行して、出力情報である回答として、予測される予測解である対策案に応じた感覚データ122を取得する。この場合、例えば、予測解である対策案と再現すべき感覚に対応する実解である推奨加工条件とが同一である場合には、制御部111は、対策案の場合即ち実解である推奨加工条件による正常な加工状態に応じた映像データに基づいて、図13に示すように、出力部114の表示器114aに表示させる。
【0086】
一方、予測解である対策案と実解である推奨加工条件とが異なる場合、制御部111は、対策案と推奨加工条件との差異(例えば、「切削速度」や「切削量」の差異)を用いて図6のテーブル又は図7のマップを参照する。そして、制御部111は、差異の程度に基づいて、予測解である対策案の「大」、「中」、「小」のうち実解である推奨加工条件に最も近い、換言すれば、実解に最も類似性の高い対策案(対策案の「大」、「中」、「小」の何れか)を類似解として導く。そして、制御部111は、類似解に応じた映像データを選択する。即ち、制御部111は、駆動解析機能130を実行して、予測解と実解との類似性(差異の程度)を比較することにより、類似性の最も高い対策案(差異の程度が最も小さい対策案)を類似解として導き、類似解に応じた映像データを選択する。そして、制御部111は、選択した映像データに基づいて、図13に示すように、出力部114の表示器114aに表示させる。
【0087】
ここで、制御部111は、図6のテーブル又は図7のマップを参照して、対策案以外の場合の異常な加工状態に応じた映像データを選択する。そして、制御部111は、選択した映像データに基づいて、対策案に従って切削加工を行わない場合に発生することが予測される異常な加工状態も、図15に示すように、表示器114aに表示させることができる。
【0088】
更に、制御部111は、予測解である対策案と実解である推奨加工条件とが同一である場合には、対策案の場合即ち実解である推奨加工条件による正常な加工状態に応じた波形データに基づいて、図14に示すように、出力部114の振動器114bを振動させ、又は、加工音を発生させる。又、予測解である対策案と実解である推奨加工条件とが異なる場合、制御部111は、対策案と推奨加工条件との差異(例えば、「切削速度」や「切削量」の差異)を用いて図6のテーブル又は図7のマップを参照する。そして、制御部111は、差異の程度即ち「大」、「中」、「小」に応じた波形データを選択する。即ち、制御部111は、駆動解析機能130を実行して、予測解と実解との類似性(差異の程度)を比較して最も類似性の高い波形データを類似解として導く。そして、制御部111は、選択した波形データに基づいて、図14に示すように、出力部114の振動器114bを振動させ、又は、加工音を発生させる。
【0089】
ここで、制御部111は、図6のテーブル又は図7のマップを参照して、対策案以外の場合の異常な加工状態に応じた波形データを選択する。そして、制御部111は、選択した波形データに基づいて、対策案に従って切削加工を行わない場合に発生することが予測される異常な振動や加工音も振動器114bから発生させることができる。
【0090】
即ち、制御部111は、未熟作業者に対して、対策案を教示すると共に、対策案に関連して知覚可能な感覚を提供することができる。この場合、対策案に一致する感覚データ122がデータベース120に予め記憶されていない場合であっても、制御部111は、対策案に最も類似した(最も近い)類似解である感覚データ122を再現して未熟作業者に提供することができる。これにより、未熟作業者は、感覚を知覚しながら対策案を含むノウハウを取得することができ、例えば、作業支援システム100を教育分野に用いた場合には教育効果を高めることができる。
【0091】
前記ステップS17にて感覚を知覚しながら複数の対策案が教示されると、未熟作業者は、例えば、「順位1位」から順番に対策案に従って推奨加工条件を変更し、変更した推奨加工条件を制御装置250の加工条件入力部254に入力する。そして、未熟作業者は、対策案に従って変更した推奨加工条件により工作物Wを切削加工し、工作物Wの形状や面性状等の仕上がり具合を判断すると共に、バイト240の摩耗状態を判断する。
【0092】
未熟作業者は、バイト240の摩耗状態を含めて加工結果の良否について、入力部112を用いて制御部111に入力する。尚、この場合においても、図示しない計測装置がインターフェース115と切削装置200の制御装置250との間に接続されている場合には、計測装置から自動的に加工結果情報が入力されるように構成することも可能である。
【0093】
制御部111は、作業支援ツールプログラムのステップS18において、未熟作業者によって入力された加工結果が良であるか否かを判定する。即ち、制御部111は、上述した複数の対策案のうちの少なくとも一つ又は全部に従った加工結果が良であれば、ステップS18にて「Yes」と判定してステップS19に進む。尚、未熟作業者は、加工結果が良であることを入力する場合、教示された複数の対策案のうち、「問題」の解決に寄与した対策案又は対策案の寄与順(以下、「寄与情報」と称呼する。)も入力する(例えば、図12に示す「対策案」の番号等)。
【0094】
一方、上述した複数の対策案の全部に従った加工結果が不良であれば、制御部111はステップS18にて「No」と判定して前記ステップS15に戻り、前記ステップS15以降の各ステップ処理を実行する。即ち、未熟作業者は、改めて入力情報として未熟作業者による質問等を第一情報又は第二情報で入力し、対策案の教示及び感覚の提供を受ける。そして、制御部111は、教示された対策案に従った加工結果が未熟作業者によって良と判断されるまで、ステップS18にて判定処理を繰り返す。
【0095】
ステップS19においては、制御部111は、良好な加工結果を反映する加工条件に基づいて、データベース120の記憶内容を更新する。具体的に、制御部111は、前記ステップS14における判定処理により加工結果が良であると判定した場合は、最初に教示した推奨加工条件が良品を切削加工するための良品条件であるとする。そして、制御部111は、データベース更新部116と協働して、データベース120を更新する。
【0096】
この場合、具体的には、制御部111は、次回以降の探索において実解である今回の推奨加工条件を優先的に教示できるように、例えば、今回の推奨加工条件(実解)を設定するために駆動解析機能130が探索する要因(探索過程)の確信度が大きくなるように、「ランク」や「レンジ」を変更して記憶する。尚、制御部111は、データベース更新部116と協働して、更新した推奨加工条件(実解)に対応するように、推奨加工条件(実解)と感覚データ122との紐付けを更新する。
【0097】
又、制御部111は、前記ステップS18における判定処理により加工結果が良であると判定した場合には、データベース更新部116と協働して、「問題」の解決に寄与した対策案を優先的に教示できるように、データベース120を更新する。この場合、制御部111は、例えば、寄与情報に応じて対策案の「優先順位」を変更してデータベース120を更新する。或いは、制御部111は、例えば、対策案を設定するために駆動解析機能130が探索する要因(探索過程)の「確信度」が大きくなるように変更する。これらにより、未熟作業者が実際に加工した際の加工条件がデータベース120の知識データ121即ち熟練作業者によって入力されたノウハウにフィードバックされ、推奨加工条件の精度及び未熟作業者による質問等に応じた対策案の教示精度を高めることができる。
【0098】
又、制御部111は、データベース更新部116と協働して、「優先順位」や「確信度」が更新された対策案に対応するように、推奨加工条件(実解)と感覚データ122との紐付けを更新する。この場合、未熟作業者は、例えば、対策案に従って実施した機械加工(切削加工)において撮影した画像及び動画等の映像データ、或いは、振動を表す波形データを、入力部112を利用して入力することができる。これにより、制御部111は、入力された映像データや波形データ即ち感覚データ122と「優先順位」や「確信度」が更新された対策案とを紐付けしてデータベース120の所定記憶位置に記憶する。従って、制御部111は、他の未熟作業者が作業支援ツールプログラムを実行して対策案を教示する際には、より適切な対策案及び感覚を再現して提供することができる。
【0099】
制御部111は、前記ステップS19にてデータベース120の更新を行うと、ステップS20に進む。ステップS20においては、制御部111は、作業支援ツールプログラムの実行を終了する。そして、制御部111は、所定の期間の経過後、再び前記ステップS10にて作業支援ツールプログラムの実行を開始する。
【0100】
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態の作業支援システム100は、作業に関するノウハウを表す知識データ121及び知識データ121に関連して作業者によって知覚可能な感覚を表す感覚データ122を探索可能且つ更新可能に記憶するデータベース120と、入力情報に基づいて探索条件を設定してデータベース120に記憶された知識データ及び感覚データを探索し、入力情報に対する解を導く解析機能である駆動解析機能130及び解決解析機能140を実行する制御部111と、制御部111による駆動解析機能130及び解決解析機能140の実行によって取得された解を出力情報として出力する出力部114と、を備え、文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された第一情報、及び、文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述されていて作業に用いられる装置である切削装置200の状態及び感覚のうち少なくとも感覚を表す第二情報のうちの一方が入力情報であり、第一情報及び第二情報のうちの他方が出力情報である。
【0101】
即ち、作業支援システム100は、入力情報が第一情報であり、出力情報が感覚を表す第二情報である場合には、制御部111は、駆動解析機能130及び解決解析機能140を実行して、第一情報に対する解を第二情報として導くことができる。
【0102】
これらによれば、作業支援システム100は、入力情報として文字、数値及び記号を用いた所定の形式の第一情報を入力することができる。これにより、作業者は、第一情報を入力することによって、例えば、切削装置200の作動状態を撮影した映像や装置の音、振動等を表す各種データを用意する必要がなく、利便性を高めることができる。
【0103】
一方、作業支援システム100は、出力情報として感覚を表す第二情報を出力することができる。これにより、出力情報として第二情報が出力されることによって、未熟作業者であっても、少なくともノウハウに関連する感覚を知覚することができ、例えば、文字、数値及び記号のみを用いた所定の形式の情報が提供される場合に比べて、ノウハウを容易に理解することができる。又、通常の作業者は、第二情報が出力されることにより、例えば、これまでの経験とノウハウとを比較して作業の改善点等を容易に理解することができる。
【0104】
又、作業支援システム100においては、データベース120は、知識データ121として生産方法である機械加工方法及び生産設備である機械加工設備に関するノウハウを探索可能且つ更新可能に記憶しており、生産対象物である工作物Wに施した処理である加工(切削加工)の加工結果(処理結果)を表す加工結果情報(処理結果情報)を取得する取得部としての入力部112及びインターフェース115と、入力部112及びインターフェース115によって取得された加工結果情報に応じて、機械加工方法及び機械加工設備に関する質問である未熟作業者による質問等であって第一情報及び第二情報のうちの一方である第一情報を入力情報として入力する質問入力部としての入力部112と、を備え、制御部111は、駆動解析機能130及び解決解析機能140を実行して、少なくとも入力部112に入力された未熟作業者による質問等に基づく探索条件を設定してデータベース120を探索し、探索条件に応じた解を質問に対する回答として導くものであり、出力部114は、質問の解決に関連する複数の対策案、及び、それぞれの対策案の質問の解決への確からしさを表す確信度と、視覚的に表示されていて駆動解析機能130及び解決解析機能140がデータベース120を探索して対策案を解として導くための複数の要因からなる探索過程及び探索過程における複数の要因間の関連性を表す探索経路を表す経緯情報と、を含むように、第二情報を出力情報として出力する。
【0105】
ここで、生産設備である切削装置200は、切れ刃を有する工具としてのバイト240を保持する工具保持装置230と、工作物Wを保持する工作物保持装置210と、工作物保持装置210に保持された工作物Wを所定方向であるX軸方向に送る工作物送り装置220と、工作物Wに対するバイト240の相対的な移動を行う工具変位装置であるZ軸駆動装置232と、Z軸駆動装置232の作動を制御する制御装置250と、を備える。
【0106】
又、これらの場合、制御部111によって実行される解析機能は、入力された探索条件に基づいてデータベース120を探索し、探索条件に応じた第一解として探索過程及び探索経路即ち経路情報を導く第一解析機能である駆動解析機能130と、少なくとも、質問(未熟作業者による質問等)及び加工結果情報に基づいて探索条件を設定すると共に駆動解析機能130と協働して、少なくとも推奨加工条件又は経路情報及び予測解である対策案を含む回答を第二解として導く第二解析機能としての解決解析機能140と、から構成される。
【0107】
これらによれば、作業支援システム100においては、制御部111は、入力部112を介して機械加工方法(切削加工方法)及び機械加工設備(切削装置200)に関する質問(未熟作業者による質問等)が入力されると、入力された質問(未熟作業者による質問等)に基づく探索条件を設定してノウハウを表す各種情報を探索可能且つ更新可能に記憶するデータベース120を探索することができる。そして、制御部111は、質問(未熟作業者による質問等)の解決に関連する複数の対策案、それぞれの対策案の確信度(優先順位)、及び、探索過程(複数の要因)及び探索経路(要因間の関連性)を表す経緯情報と、感覚と、表す第二情報を出力情報として出力部114に出力して提示する(教示する)ことができる。
【0108】
これにより、例えば、機械加工(切削加工)の知見(知識)や経験の足りない未熟作業者であっても提示された回答に従って機械加工方法(切削加工方法)及び生産設備(切削装置200)に関する質問(未熟作業者による質問等)を視覚的に確認すると共に感覚を知覚しながら解決することができ、熟練作業者に頼る機会を減少させることができる。従って、熟練作業者は、自身の作業を中断する機会が減少し、その結果、熟練作業者の生産性が低下することを抑制することができる。
【0109】
又、データベース120の知識データ121は、機械加工(切削加工)の知見(知識)や経験の豊富な熟練作業者によって得られたノウハウとして記憶される。従って、仮に熟練作業者が退職した場合であっても、貴重なノウハウを永続的に記憶して利用することができ、その結果、貴重なノウハウを脈々と受け継いでいくことができる。更に、未熟作業者に提示される回答には、経緯情報が含まれる。これにより、未熟作業者は、提示された対策案を得るための要因や要因間の関連性、即ち、要因解析における考え方を習得することができる。
【0110】
又、これらの場合、作業支援システム100は、第二情報に基づいてデータベース120に記憶されている感覚データ122を更新する更新部としてのデータベース更新部116を備えることができる。
【0111】
これによれば、データベース120に記憶されている知識データ121及び感覚データ122を常に更新して記憶しておくことができる。これにより、制御部111は、未熟作業者による質問等に対して常に高い精度で(確信度の高い対策案を含む)適切な回答を提示する(教示)することができる。
【0112】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0113】
例えば、上記実施形態においては、出力部114の表示器114aが机上設置型のモニタ装置とした。これに代えて、未熟作業者の頭部に装着して未熟作業者の眼前に画像等を表示するヘッドアップディスプレイを表示器114aとして採用することも可能である。そして、この場合には、表示器114aは、仮想現実及び拡張現実のうちの少なくとも一方により、出力情報を出力するようにしても良い。仮想現実及び拡張現実のうちの少なくとも一方により出力情報を出力することにより、未熟作業者は、例えば、切削装置200において自身が確認したい部位や状態、或いは、感覚を自由に確認することができる。
【0114】
又、上記実施形態においては、実際に切削装置200を作動させて工作物Wを加工した状態を撮影して得られた映像データ及び波形データを感覚データ122としてデータベース120に更新可能に記憶するようにした。この場合、例えば、図6及び図7に示したように、未熟作業者に提供される感覚は、類似性の高い類似解である感覚データ122が選択されて提供される場合がある。
【0115】
これに代えて、制御部111が、例えば、入力情報として入力される質問等に含まれる切削装置200の作動に関する各種パラメータを抽出し、このパラメータを用いて切削装置200の作動状態を計算によりシミュレーションするように構成することも可能である。この場合、制御部111は、計算した結果であるシミュレーションを感覚として含む第二情報(出力情報)を出力部114に出力させる。これにより、表示器114aはシミュレーションによる静止画又は動画或いは文字、数値及び記号を表示し、振動器114bはシミュレーションによる振動や音を出力する、即ち、より実解に近い感覚を提供することができる。
【0116】
又、上記実施形態においては、入力情報として文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された質問等である第一情報を入力し、出力情報として文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された加工条件及び感覚データ122に基づく感覚である第二情報が出力されるようにした。これに代えて、入力情報として文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された加工条件又は/及び感覚を表す第二情報を入力し、出力情報として文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された質問等である第一情報を出力するようにしても良い。
【0117】
このように、未熟作業者が第二情報を入力情報として入力する場合には、未熟作業者は、例えば、作業に用いる切削装置200の作動状態を撮影した映像データや切削装置200の作動音或いは作動に伴って発生する振動を取得した波形データを用意する。そして、未熟作業者は、作業支援システム100のインターフェース115を介して、映像データや波形データ即ち感覚を入力情報として入力する。
【0118】
そして、この場合には、感覚の一致又は類似の判定について、映像データが第二情報として入力された場合には、データベース120に感覚データ122として記憶されている映像データを基準とし、例えば、画像認識方法を用いて行われる。又、波形データが第二情報として入力された場合には、データベース120に感覚データ122として記憶されている波形データを基準とし、例えば、周波数や振幅の大きさの差異に基づいて行われる。
【0119】
これによれば、例えば、未熟作業者や現場作業者が実際に切削装置200を用いて工作物Wを切削加工した際に異常(不良)が発生した場合の映像や振動を電子データ化して第二情報として入力することにより、回答として文字、数値及び記号を含む所定の形式で記述された加工条件を第一情報として出力することができる。これにより、入力情報として、例えば、切削装置200の作動状態を撮影した映像や音、振動等の感覚を表す第二情報を入力することによって、未熟作業者であっても、適切な第二情報を容易に入力することができ、利便性を高めることができる。従って、未熟作業者や現場作業者は、異常(不良)が発生した原因を解析し易くなる。
【0120】
又、上記実施形態においては、作業支援システム100を、作業者(未熟作業者)が生産設備である切削装置200を用いて作業として機械加工を行う機械加工分野を例示して説明した。これに代えて、作業支援システム100を他の分野、例えば、生産対象物を設計する設計分野や、生産設備を構築する分野等に適用することも可能である。機械加工分野以外の分野に適用された作業支援システム100であっても、例えば、未熟作業者に対してノウハウを感覚と共に教示することができる。
【0121】
尚、作業支援システム100を設計分野に適用する場合には、知識データ121として例えば生産対象物に強度を確保するための設計寸法や形状等が記憶され、感覚データ122として例えば設計形状を実現する加工工程の映像等がデータベース120に記憶される。又、作業支援システム100を、生産設備を構築する分野に適用する場合には、知識データ121として例えば生産設備の配置寸法や配置変更に伴うラインタクト(時間)等が記憶され、感覚データ122としては例えば生産設備を配置した画像や作業者による作業の流れの映像等がデータベース120に記憶される。
【0122】
又、上記実施形態においては、生産設備として機械加工設備である切削装置200が生産対象物としての工作物Wを切削加工することを例示した。これに代えて、研削加工装置等の他の機械加工設備に変更可能であることは言うまでもない。又、生産設備として、機械加工設備以外の設備、例えば、溶融した材料を型に射出して生産対象物を生産する射出成型設備やダイキャスト成型設備等とすることも可能である。
【0123】
又、上記実施形態においては、データベース120の構築に際して、未熟作業者及び熟練作業者の入力作業を必要とするように構成した。しかしながら、例えば、図1にて破線により示すように、周知の機械学習技術を適用した(具体的には、機械学習プログラムを実行する)機械学習部123を設けて、知識データ121として切削装置200の構成及び作動に関する加工条件や、上述した探索過程及び探索経路を含む情報、切削加工前の調整作動に関する情報、又、感覚データ122として映像データや波形データ等を周知の方法に従って解析し、データベース120を構築することも可能である。
【0124】
これにより、機械学習部123は、例えば、工作物Wを加工する際の加工条件(推奨加工条件を含む)、工作物Wの加工状態や切削装置200の動作状態及び加工結果情報を訓練データセットとして学習することにより、データベース120に体系化されて蓄積される知識データ121及び感覚データ122の情報量を増やすことができる。その結果、未熟作業者に教示する推奨加工条件や対策案の精度を向上させることができる。
【0125】
更に、上記実施形態においては、制御部111は、駆動解析機能130及び解決解析機能140を実行することにより、推奨加工条件をデータベース120に蓄積されている知識データ121に基づいて生成するようにした。これに代えて、又は、加えて、例えば、工具メーカ等が開示している加工条件等即ち諸設定情報を予め記憶部113に記憶しておき、制御部111が記憶部113に記憶されている加工条件(諸設定情報)に基づいて推奨加工条件を未熟作業者に教示するようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0126】
100…作業支援システム、110…パーソナルコンピュータ、111…制御部、112…入力部(質問入力部)、113…記憶部、114…出力部、114a…表示器、114b…振動器、115…インターフェース(取得部)、116…データベース更新部(更新部)、120…データベース、121…知識データ、122…感覚データ、123…機械学習部、130…駆動解析機能(第一解析機能(解析機能))、140…解決解析機能(第二解析機能(解析機能))、200…切削装置(生産設備)、201…ベッド、210…工作物保持装置、211…主軸台、212…心押台、213…主軸台本体、214…回転主軸、215…回転主軸モータ、216…心押台本体、217…心押センタ、220…工作物送り装置、221…送り台、222…X軸駆動装置、223…X軸ガイドレール、230…工具保持装置、231…コラム、232…Z軸駆動装置(工作物変位装置)、233…サドル、234…ホルダ、235…Z軸ガイドレール、240…バイト(工具)、250…制御装置、251…工作物回転制御部、252…送り制御部、253…変位制御部、254…加工条件入力部、Aw…回転軸線
図1
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